……ちゃうねん。
エタったわけやないねん。
疲れてただけやねん。
許してヒヤシンス♡
…遅れてすみません、いやマジで。
ガタン…!ガタンガタン…!ガタン…!ガタンガタン…!
電車の中、意識は朧気で、誰かが正面に座っている。
その男…?は座りながら少し俯いており、指と指を合わせたりして手遊びをしている。
「やぁ███、調子はどうだい?
君がこの世界に転生…いや、憑依と言うべきかな?
まぁそれは置いておいて…調子はどうだい?
それとーー
ーー『記念すべき始発点』へ向かうこの電車の乗り心地はどうかな?」
「…」
「…さて、ではまず…これからの話をしようか。
…███ …君はその選択をするべきじゃなかった。
君は彼女を救う為に、彼女の
その結果、大きな代償をその身に担う事になり…
ーー君が代わりに『あの子の死』を担う
でも、それは始まりに過ぎない。
君は家族と故郷を捨て、友を捨て、あるべき自分を見失い、やがて『
精算の時は間近だーー
突然、その男はそう話し出し…そして、口を閉じた。
昇る太陽の逆光を浴びており、顔がまったく見えない。
しかし、何処か既視感のある雰囲気をしている。
ただ、言わなければならない事があるのは確かだ。
「俺の名前は『███』じゃない
俺は『箭田空澄』だ』
「そうか…最後にコレを覚えておいてくれ。
『たとえ目の前の闇が消えた所で…次に見えるのは新たな闇だ。 希望なんて、ない』」
「……厨二病拗らせて許されるのは、中学生までだぞ」
「はっ倒すぞお前」
とある日のアビドス…
先生達にシバかれ、お菓子を貪られたあの忌まわしき日から、気が付けば1週間が経とうとしていた…。
「…」
その日、朝起きて生徒会室に行くと…
机の上に手紙が2枚、置かれていた。
真っ白なよくあるメモ帳の紙が1枚。
質が良く、なんか高そうな紙が1枚置かれていた。
なんか高そうな紙の傍には、大きいアタッシュケース…?が置いてあった。
まずはメモ帳のソレを拾い上げ、読む。
明日の昼12時
『あの場所』でよろ
短過ぎない?もうちょっとなんか無かったの?舐めてる?
『よろ』ってなんだよぶっ殺すぞ
次になんか高そうな紙を拾い上げて読む。
箭田先生へ
お久しぶりです。
あの時依頼頂いた品物が完成いたしましたので
そちらにお届けさせて頂きました。
さて、神秘と恐怖の要素を付与し造り上げたこの『衣服』と『武器』の説明の方を早速させて頂ければと。
まず『衣服』の方ですが、貴方の神秘の要素には『
ですので、無理な動きをしても破損しないように丈夫に、強力な神秘にも適応できるように繊維1本1本、キメ細かな糸全てに『負荷』を軽減させる力を仕組んでおきました。
とはいえ、コレも結局は試作品。
急ピッチで造り上げた未完成品に過ぎませんので、あしからず。
その次に『武器』に関してですが
『馴染み深い形』で造らせて頂きました。
それで、 あの時お話をさせて頂いた『馴染み深い形』になのですが…
その形とは『銃』なのです。
キヴォトス人にとって銃とは自らの半身となるモノ。
無くてはならないモノだからこそ、神秘が一番良く馴染む。
使う銃に担い手の神秘が完全に馴染む事により、その担い手の神秘の素質に応じた特殊能力が使えるようになるのです。
…そして神秘に対しての貫通特効と神秘の馴染みしやすさ。
恐らく、この拳銃が一番適任でしょう。
それと…
攻撃に一辺倒になるのではなく、防御もとても大切です。
ですので、神秘に対して優位に立てるように『特殊シールド』もついでに制作しておきました。
私としても、実験体である貴方には死んで欲しくはありません。
これからの人生を謳歌しつつ、私共…『ゲマトリア』を宜しくお願いします。
あぁ、そうでした。
『報酬』に関しては既に受け取っておりますので、お気になさらず。
めっちゃ丁寧に色々書くじゃん黒服…。
てか『報酬』って…俺、まだ
どういうことなの…(レ)
取り敢えず中身確認しないと…。
カチャリと近くに置いてあるアタッシュケースを開けて中身を見てみる。
まずは1つ目
グリップから銃身の先まで黒く塗装されている『トンプソン・コンテンダー』
やっぱり『コンテンダー』はカッコイイなぁ…。
それと『対人間用神秘分解弾』…なんか凄く真っ黒な弾丸が3発。
うーん…なんだろう、アレかな。
『
2つ目
『なんか既視感のある3つに折り畳まれたシールド』
そのシールドには鳥のマークが描かれている。
既視感あると思ったらやっぱりコレ『Iron Horus』…ユメ先輩が持ってる盾にそっくりなのだわ。
持ってみると、そこまで重くは無いみたいだ。
早速広げてみる、するとガタガタガタン!と三つ折りから綺麗に真っ直ぐトランスフォームした。
……かっこよ。
そして…『黒いシャツと白くゆったりとしたズボン』
…いやコレ『決戦時の五条悟』と『伏黒甚爾』が着ていた服にそっくり!?
うーんなるほど、おぬし…わしにしねというんじゃな?
にしても、ハンドガンとシールドかぁ…。
ははは…まさかね。
「おはよー」
「…ん? あぁ、おはよう先生」
そこでガチャリと生徒会室の扉が開き、先生が入ってきた。
机の上に置いてあるケースを見て、「ふーん」と興味深そうにしている。
「そのケース何?」
「コレ? この前ちょろっと話した武具だよ」
「へぇ〜、ゲマトリアのくせにしっかりとした物を作るねぇ」
「ゲマトリアの技術力を舐めてはいけない(戒め)」
「あ、そっかぁ…」
そのままアタッシュケースを窓際の机へ放り投げる。
そして先生の方へ向き、ふと今思いついた事を言葉でぶつけてみた。
「なんかさ、青春したくね?」
「は?」
「という訳で…アロナ、量子保存した『アレ』を出してくれ」
『はい!お任せ下さい!』
『本当にするんですか?空澄先生……』
「…ゑ?」
「なんで…なんでアロナ達がコレを持っているのよぉぉ!!」
「捨てたと思ったか?
―残念、トリックだよ」
場面は変わり屋上。
俺と先生は学生時代の制服を着用して、ベンチで菓子パンを齧っている。
そしていきなり、メロンパン片手に先生は赤面しながらそう叫んだ。
「てか着てからそれ言う?」
「だって……!だって捨てたのに…!
もしかして!見てたの!? 私が夜中に昔の制服を着てポージングしてた所を!」
「ポージングって…んまぁ、最初から見てたな。
制服の他にナース服やメイド服、眼帯付けて『くっ!私の右手に宿る第3の…
『やぁぁめてぇぇぇ!!』
とまぁ、一通りやった後に先生が爆睡し始めたんで…そのままアロプラにコスプレ衣装とか、量子保存して貰ってたって訳」
「最っ悪…人の尊厳破壊して楽しい?」
「楽しい」
「ほんと、良い性格しているよキミ…」
「お前よかマシだろうよ」
「あ゛?」
「スンマセン」
ふと上を向く。
雲一つない快晴、パタパタと鳥が空を飛び…地面に着陸してはまた飛んで…
「ところでさ、箭田くんって
…私の名前、わかる?」
「……?
当たり前だろ?」
《██くん!》
《なんだよ
《私、先生になるっ
ってまたフルネームで呼んでるぅ!仮にも私達██同士なんだよ?!》
《…別にいいじゃん》
《よくないっ!
全くもって宜しくないっ!》
《はぁ……
で、いきなりなんだよ先生になるって…》
《…なりたいモノはふとした時に思いつくモンだし?
先生になりたいなーって思ってさ》
《ほーん、なるほどね
…あんな目があったのに?》
《それでもだよ。
…それで話は変わるけど》
《ん?》
《██くんは将来…何になりたいの?》
《何にって…俺は██家の当主となって力の継承と…》
《違うよ、それは勝手に
《…?》
《キミ自身がなりたいモノを、私だけに教えて欲しいんだ》
《俺自身がなりたいモノ、か…
――俺は…》
《…?》
《んにゃ、何でもねぇよ》
ふと、昔の事を思い出す。
「…『亡草ツミ』だろ?」
「はあ…良かった〜覚えてくれてたぁ〜…」
「じゃあ俺の名前は?」
「…えっと、今は違うんだよね。
…『箭田空澄』でしょ?」
「そ。当たり〜」
ホッと一息、安堵の息をツミが吐く。
その姿は朧気に見え、表情には『不安』が張り付いていた。
いつも明るく振る舞う彼女の姿に、少しキョトンとしてしまった。
「てか、自分の名前を俺から聞いてどうすんだよ…
それに…なんでそんな顔をするんだ? …何かあったのか?」
「…皆、生徒達はみんな私を『先生』って呼ぶじゃない?
いや、まぁアロナやプラナは生徒達が周りにいない時限定『ツミ先生』って呼んでくれるんだけど…時折、自分が何者なのかわからなくなるんだ。
それに、箭田くんがどこかへ行ってしまうんじゃないかって思うようになっちゃって…」
「…」
疑心暗鬼、一時的に陥る負の思考―
正直、自分が何者なのかなんて知ったこっちゃない。
今は今、転生者だからこそ分かる。
それに過去は過去、だが…簡単に過去を切り捨てられるほど人間は出来ちゃいない。
「難しい事は言えねぇけどよ、
『お前はお前だから、何者でも良い』なんて無責任な事は俺は言わない。
自分のなりたいようになれ、別に『決められたモノ』じゃねぇんだからさ。
それに、俺は何処にも行かんよ」
「そっかな…そうかも……
…昔と比べて別人みたいに変わったね、ソラくん」
「お互い様だろ?
…にしてもなんでお前の事忘れてたんだろ、今までずっと…」
「……確かに、私も今の今までずっとわからなかった。
…どうして?」
初めて先生と出会ったあの時…何故『亡草ツミ』と認識できなかったんだろうか。
お互いわからなかったとしても、ふとした拍子に思い出す筈だ。
それに…
忘れるはずがない、だって俺達は―
突然、ガチャリと屋上の扉が開かれた。
ヌッと顔だけ出したホシノとユメがジッとコチラを見ている。
「凄いなぁ、制服姿の2人ってなんだか凄く新鮮だねっ。凄く似合ってる!
でも…あれ?確か先生達の歳って……」
「そういうプレイですか?」
「「…ちゃうねん」」
スタスタと、2人が歩いて寄ってきた。
トスッとユメは空いていた俺の右側に、ホシノは黙って膝の上に乗った。
「…ところであの3人組はどうした?」
「柴関ラーメン食べに行きましたよ、スタコラサッサと大切な返済分のお金を持ち出して…!」
「ほーん…後で叱っとくわ」
「…(結構前からあったんだ、柴関ラーメン…)」
「それにしても…なんでいい歳した大人が学校の制服を着てるんですか。
…しかも似合ってるのが妙に癪にさわりますね…」
「…ま、何となく着てみたかったとか、そんな感じだな」
「何となくで着ちゃうんだ…ていうか先生の制服、すごいギッチギチだね。
何処が…とは言わないけども、ね?」
「………いっそ殺して…」
チュンチュン…チチチ……
鳥が鳴き、そして飛んでいく。
木の葉が風に乗り、フラフラと地面を這う。
―そして無言。
空間がシンと静かになる。
喋る内容が浮かばない、そもそも無い現状…こうなることは必然である。
トン…ポス…スリ…と全員の体重が俺に集中し、あっちこっちで負荷が掛かる。
しかし、その重みが何故か…心地好く感じる。
命の重み…いや、生きている人でしか感じられない感覚だからだろうか。
何とも不思議なひと時を過ごせた。
「箭田くんってさ」
「おん?」
「戦闘する時って、基本的にその…ジュツシキ?ってヤツを上手く使って戦ってるよね」
「…んまぁ、そうだな」
「言い方を変えれば、そのジュツシキってヤツに戦闘時は依存してるよね。
これから箭田くんが戦う相手は他ならぬ『自分自身』な訳でしょ?
だとしたら自分の手札は読まれてる訳だから…」
「完封された際の対抗策を考えないと…って事だろ?」
「そーいうこと、というわけでぇ…
今から模擬戦、しよっか!」
「は?」
「言っとくけど、ジュツシキは使っちゃダメだよ?」
「…………わかった、手加減無しでおk?」
「全然okだよ」
――――…
―――…
連れられるがまま校庭へと引っ張られる。
どうやら、ユメ達は既にそこに居るようだ。
…そして暫くして、校庭のど真ん中に到着した。
目の前には『フルアーマー・ホシノ』と『気合十分なユメ』が立っている。
「何気に箭田君と戦うのは初めてだよね、私達」
「確かにそうですけど…なんでわざわざ授業の時間を割いてまでやらなくちゃならないんですか…」
「模擬訓練も立派な授業の一環だよホシノ。
怠ると後で痛い目に遭うからね?」
「わ、わかってますよ先生、それくらいは流石に…」
パンパン!!と先生が強く手を叩く。
そしてニッコリと笑い、コチラを見る。
「さぁお喋りはここまで!!」
その声に、サッと構える。
ユメもホシノも同じように、武器を構える。
「2人は私の言った通りに動いてね?
それじゃあ…始め!」
パンッ!と先生が手を叩くのと同時に2人が突っ込んでくる。
ツミの事だ、まず最初の指令はユメに俺の行動を阻害、下手に動かれないよう牽制目的の射撃をさせるはず。
―そして指令が出された。
「ホシノは旋回、ユメはアレをやって!」
「了解っ!」
「うんッ!
どりゃあぁぁぁあ!!」
ブォンッ…!
その声と共に、ユメが手に持っているシールドを真っ直ぐ此方へ投擲してきた。
ハッキリ言う、予想外だった。
「――マジか」
最前線のラインを維持しながら後続を支えるタンカー。
その生命線となるシールドを自ら放棄する行為は想像していなかった。
ミネ団長や現代のホシノ然り、盾を武器として扱いはするがぶん投げるなんて事はしなかった。
「ぬ゛ぅん!!」
ガギャン!!と飛んできたシールドを上にかち上げる。
しかし、後に思えばそれは悪手だった。
「(そうだっ!ホシノは何処にッ)」
ドムッ!と腹に見覚えのある白黒のバレルがめり込む
「ヴっ」
「
ズダンッ!ズダンッ!ズダンッ!と3発そのままゼロ距離で撃たれる。
意識が飛びかける、が持ち堪える。
「…スラグか…やるなァ!(蒼で威力弱らせてなかったら死んでた…)」
「コレで倒れないなんてっえ゛ヴっ!?」
ズガァンッ!
そのままホシノの後頭部目掛け拳を振り下ろし、地面に沈める。
――殺気!
「上か!?」
「そいやぁ!!」
咄嗟に後ろへ下がる。
その刹那、轟音と砂煙が大きく上がる。
そしてその砂煙から切り裂くような蹴りが飛んでくる。
「あぶなっ!」
蹴りを躱して距離を取る、しかし砂煙が邪魔だ。
腕を力いっぱい振り抜き、その衝撃波で辺りの砂煙を一気に吹き飛ばす。
視界が大分スッキリした。
しかし、そこには倒れていたホシノも、ユメもいない。
「何処に…」
「そこっ!」
ズダン!
「くっ!?
立ち直り早いなお前!?」
身体を捻って回避する…が、相手が使う弾丸が散弾である為、数発避けきれずに被弾する。
「もういっぱーつ!!」
「はごぁ!??」
ガンッ!とシールドの薙ぎ払いを受け、吹っ飛ぶ。
すぐさま体をグンと回転させ、足からしっかりと着地する。
「(今まで懐に入られる事が無かった所為か、なかなか対応出来ないぞ…!)」
「はァ!!」
顔を下から正面に戻した途端、次はホシノの蹴りが迫る。
ヒラリと躱して、そのまま足を掴む。
「ひゃ!?」
「オラァァァ!!」
くるりと一回転、そして力一杯に投げ飛ばす。
バァァン!!
と、大きい音を立てて壁に衝突する。
そしてそのままぽてりと、地面に伏した。
―アレならもう動かないだろう。
「(だが、もう読んだし…どう行動すれば良いかも全て―)」
「――当たれッ!!」
パンパンパン!とユメがハンドガンを撃つ。
飛んできた弾丸は3発、全て掴んで捨てる。
「掴めたッ!」
「ゑ」
バンッ!と足に力を入れ、最初の一歩で距離を詰めて拳わ相手の心臓めがけて突き出す。
ガァン!!
「っ!? あ゛ぅう!!」
しかしその打撃はガン!という音と共に盾で防がれる。
無意識のうちに構えていたのだろう。
だがそれで終わりではない。
「そしてもう1発!」
そのまま伝わる威力にぐらりとユメがよろける。
さらにもう一発拳を叩き込む。
そしてユメが盾ごと大きく吹っ飛び、地面に後頭部から倒れた。
「―――ァッ!?!?」
ゴッ……!
ユメが蚊の鳴くような、小さな悲鳴を出して仰向けのまま動かなくなる。
沈黙を確認、俺の勝ち。
なんで負けたか、明日までに考えといてください。
「――っふぅ…案外できるもんなんだな、コレ」
「なんで途中から対応出来たのさ…」
「2人が『先生の干渉による強化』を受けているのであれば…それを踏まえて行動すれば良い、簡単な話だろう?」
「キッショ…なんでソレで間に合うのかな……てかあの二人大丈夫なの??」
「まぁ、さっき放った拳が心臓捉えててもキヴォトス人なら大丈夫でしょ。
だってほら、呼吸してるしね」
「ひとでなし…」
「ひどい、そっちが模擬戦やろう言うたのに…」
「手加減無しでokとは言ったが、ここまでヤれとは言ってない」
―――……
―アビドス高校、保健室内
「いてて…やっぱり強いなぁ箭田君は…」
「化物じゃないですかあの強さ…漫画だったら2ページで戦闘シーン終わってますって…」
「最初こそ上手くいったけど…途中で適応されちゃうなんてね」
「……あの適応速度、はっきり言って異常です。
あれは恐らく『
私達のような凡愚では到底辿り着けない領域です。
どんなに頑張っても勝てませんよ」
「でもさ、私思うんだ」
「……何を?」
「『ギフテッド』は確かに凄いよ、ホシノちゃんの言う通り私達なんかじゃ辿り着けない場所にいる。
――でも…『辿り着いたその場所に、自分と同じ人がいるのかな』って」
「……天才故の疎外感…『孤独』」
「うん、それって…寂しいから。
だからさ、
―みんなで彼の隣を目指そうよ。
寂しくならないように…そばにいれるように」
「……ハァ、そう言うと思いましたよ。
でも、それじゃあダメですよ先輩」
「えぇー?
何がダメなの?」
「追い越してやるんですよ。
逆にあの人が走ってついてこようとする領域まで。
そして言ってやるんです、
『貴方の方こそ――ついてきやがれ』って」
「――。
いいかも、ソレ!
採用! ねね、それってどんなやり方があるかな?」
「他に?
んーと、そうですね…例えば――」
―――……
―保健室前、廊下
「…ボコボコにされたってのに、元気なこって」
―笑える話だ。
完膚無きまで叩きのめされたと言うのに、その相手の内情に踏み込んで解った気になっている。
人間、他人の事などわかりゃしない。
大切だからと言って、100%知る事は不可能だ。
なのに――
『孤独ってどうやったら癒せるかな…?
やっぱり結婚とか?』
『け、けけけ結婚!?
急すぎません!?』
『でも好きな人とそういう関係になりたいって思うのは当然じゃない?
あ、そういえばホシノちゃんってどういう所が好きになったの?』
『ヴぁ!?えっ、えっとそれは…その……ふと見せる弱さにキュンとしたから…とか、なんと言っても自分から共犯者になってくれた所にやられたっていうか…』
『共犯者……?』
『そ、それはともかくっ!
ユメ先輩はどうなんですか!?』
『私は…ーーーーかな』
こんな暴力クソバカ野郎を好いてくれている。
1人にさせまいと傍に寄ろうとする。
それだけで十分、俺は――
『…なるほど、ユメ先輩らしいっちゃらしいですけど』
『ええ!!
ホシノちゃん私を惚れっぽい尻軽女みたいな、そんな風に見てたの!?』
『まぁ、そりゃそんな性格ですし』
『酷い!?』
「――救われてんだぜ、2人共」
「なーにセンチメンタリズム感じてるのさ、ソラくん」
ぽんっと先生が肩を叩く。
ニカリと笑った顔でぷにぷにと指で頬っぺをつついてくる。
昔から変わらないそのやり方に、思わずふっ…と笑った。
「……?なんか付いてる?」
「いや、やっぱお前は変わらないなぁ…って思っただけだ」
「なにそれ、バカにしてる?」
「いんや、全然」
いきなりの転移から始まった過去のアビドスでの暮らし。
遭難しかけて、ホシノと出会って、ユメと出会って、がっこうぐらしを初めて…
ヘルメット団と戦って…倒れては怒られて…
黒服との契約も久しぶりにして、ホシノに泣かれて…
そして、ふと始めた学生ごっこ。
そこからいきなり始まる模擬戦。
目まぐるしく廻る日常。
凄く楽しかった。
――なによりも
「……?」
それが何よりも幸福だった。
そろそろ学校が終わる。
それは……その幸福の終わりを意味する。
「なぁ、ツミちゃん」
「……!
…なぁに?ソラくん」
「――ありがとう。
俺は、凄く幸せだった。
はぁあ…ホシノとユメ、ツミちゃんと重婚できたらなぁ…」
「言ってる事だいぶ最低なんだけど?
目の前で浮気したいです〜なんて、馬鹿じゃないの?」
「それくらい良い女って事だよ、デカ女」
「誰がデカ女じゃい!
てか何よ『幸せだった』って、今世の別れみたいな言い方…
先に言っとくけど、未来の自分なんかに負けないでよ?」
「誰が負けるかよ、ダァホ」
「…これからユメちゃんとホシノをお見送りするの?」
「そうだな、だいぶボコしちゃったし…そのお詫びも込めて…な?」
「じゃあ私もついて行こーっと」
「休めばいいのに…まぁ、好きにしろよ」
「はーい」
夕暮れの陽の光が俺達を照らす。
太陽が沈み、空が暗くなる。
「ねぇ」
ツミが俺の手をしっかり握る。
絶対に離さないと、伝えるように、しっかりと。
顔をツミの方へ向けると、真剣な眼差しで俺を見ていた。
その表情はまるで――
「あのね、ソラくん。
私…ずっと前から貴方が好き」
「……」
「チョロい所も、カッコイイ所も、意外と情けない所も、誰かの為に戦う――優しい所、全部好き」
告白、まぁ…そんな気はしてた。
小さい頃からの付き合い、共に笑い、共に泣き、共に恐怖し、共に隠蔽した者同士。
友愛を貫けるとは限らない。
そんな中、回答を迷っているとツミが唇に人差し指を添えて言う。
「答えはまだ、聞かない。
無事に帰ってきたその時に、答えを聞かせて欲しいな」
「……わかった、期待はするなよ?」
「するに決まってるじゃん、ばか
この私に言わせたんだから、しっかり答えてよね?」
「はいよ、じゃあ…行くか」
「うん」
ガラッと思いっ切り保健室のドアを開け、ユメ達に帰りの支度をするように促した。
こんな事言う道理は俺には無いかもしれないが、子どもをサッサと無事に返すのも…大人の責務というものだ。
――……
―アビドス高校、正面口前
「じゃあ、ここでお別れだな」
「ばいびー先生!!」
「では先生、また明日」
「気を付けてね〜!」
「前向いて歩けよ〜」
そして、少しずつ小さくなっていく2人。
ユメがホシノに抱きつき、ホシノはにへらと笑みを零す。
そこには『親友同士の青春』があった。
ホルスとオシリス。
━━刹那、じくりと首と心臓が痛み始める。
すり…と首を軽く撫でた。
じくり、じくりと痛む首と心臓に顔を顰めた。
「……?」
「どうしたの?」
ツミ……先生がこちらを見て心配する。
「いいや、なんでもない」
心配する先生を他所に、俺は静かにそう言った。
どうしようも無いほどの『恐怖』を、その身に感じながら━━
遅れたのに言う事じゃないけど…
良かったら評価や感想を気軽に残していってね!
因みに、例の3人は箭田の視覚を通じてラーメンとコーラを啜りながら映画感覚で一部始終を見ていました。
それと、箭田と亡草は過去に共謀して人を殺したことがあります。
あと次の話で箭田を殺します。
そもそもコイツ死ぬのかな、どうやって殺したら良いかよく分からないけど…
まぁそれだけの話ですよ、うん。