コレで、全部終わる。
決戦の準備中にヒトミとアマツ、ネムリが訪ねてきた。
「せーんせ、今大丈夫?」
「ん? ……あぁ、大丈夫だ」
それぞれの表情が険しくなっている。
何やら只事ではない様子だ。
「…どうしたよ」
「先生、僕達も一緒に戦わせて欲しい」
「そうだよ、私だって戦えるし!」
「先生…私共も無力ではございません、ですから……」
「……ありがと、そう言ってくれるのは凄く嬉しい」
「なら――」
「でもダメだ」
「―――」
それだけはダメだ。
この戦いに3人を、ホシノを、ユメを…
そして何より…ツミちゃんを。
絶対に巻き込む訳にはいかない。
「お前達では足手纏いだ。
……引っ込んでろ。
そもそも戦力の差を考えたのか?
相手は『俺』だ、前回俺と模擬戦した際にコテンパンにやられたのを忘れたか?」
「…うそつき」
「………嘘、だと?
何を根拠にそう言ってるんだ?」
「だって、足手纏いなんて言葉を口から出す時…
――凄く、辛そうだもん」
「――――っ」
「あのさ、僕達の事を舐めてる?
僕達を救ってくれた貴方の力になりたいのは本当だ。
第一、先生は僕達を危険な事から遠ざけようとしている。
犠牲になるのは、自分だけで十分だと」
「……」
「先生、私共を想う気持ち…とても嬉しく感じます。
ですがただただ庇護されたまま生きるのは間違いです。
――どうか、私共を信じてくれませんか?」
「お前達…
――わかった、正直に話す。
これは先生やユメ達には話していない、本音だ。
……此度の戦闘、俺が生きて帰れる確率はほぼ0に等しい」
「そもそも相手は未来の自分自身。
自分の手の内を全て知っていて、回避する方法も全て知っている。
言うなれば、1周目のプレイヤーと10週目のプレイヤーとの格差とも言える。
まぁ、避けられない死…とも言えようか」
「そんな……」
「でも、お前達は生きている。
3人ともホシノと出会い、ユメと出会い…そしてツミちゃん…先生とも出会えた。
あの三人はお前達の事を生者として扱った。
お前達の存在証明は此処に示されている訳だから、未来に飛んだとしても生きて元々の場所に転移されるハズだ」
「――待ってよ、先生。
そんな!そんな自分が死ぬ前提で話すなんて…っ!」
「ヒトミ、先生を困らせるな。
それ以上…困らせてはいけない」
「なんで…なんでよアマツちゃん!
ネムリっちも!」
「……覚悟を決めた者を止めるのは、その方に対しての侮蔑に値します。
私は、先生の意志を尊重します」
「……ありがとうな、本当に。
そんな風に言ってくれるのは、あのバカ共以外にはいなかった。
――うん。そうだな、俺は怖いよ…死ぬのが、戦うのが…。
でもそうだな…もし未来に…俺がいた《現在》に飛べたのなら…
――おれは、お前達の好きなように生きて欲しい。
生徒を持つ喜びを…俺の大切な生徒が思い思いの場所に…進路を行って欲しいからさ。
うん…こんなのは柄じゃない。
俺が死んだら、好きに生きろよ…愛する俺の生徒達」
「…先生」「―先生」「先生」
「なんだ、ヒトミ、アマツ、ネムリ」
「負けないでね」「勝ってきてよ」「―ご無事で」
「あぁ、当たり前だ。
――勝つさ」
――地平線まで続く砂漠、途方もなく砂景色が広がる。
今日は晴れの日、散歩するにはもってこいだろう。
そんな晴れの砂漠の真ん中に二人の男が互いに睨み合い、そこに立っている。
その服装は些かこの景色には合っていない。
―方や礼服。
―方やダボッとした白いズボンに黒いインナー。
統一感もクソも無い、バラバラな衣装。
そんな異質な空気の中、礼装の『俺』はボソリと呟く。
『
「学校に居るよ、三馬鹿を託したからな」
その質問に、さも『当然だろ?』と言う様に肩を竦めて吐き出した。
その刹那――
――刹那『俺』目掛けて巨大な砂岩の塊が飛来し、押し潰した。
轟音と共に砕ける……が、男は先程と変わらずの姿でそこに立っている。
ギリ…と睨みが強くなる。 それは、向こうも同じらしい。
何も言わず、互いに構える。
……まだ動かない。
すかさず両手の指を組み、『蒼』の応用で背後に回る。
しかし、待っていたかのように裏拳が顔面に迫ってきた。
身体を後ろに反り、避ける。
反った勢いで後ろの地面に両手を着き、宙返りする。
もちろん、宙返りする際に足で相手の顎を搗ち上げるのを忘れずに。
すぐに体勢を立て直し、隙だらけの胴体に拳を叩き込む。
場所は心臓の上。 反転術式が使えるのを想定しての行動。
どんな獣でも、それが外宇宙や外の世界線の化け物だとしても、その肉体を動かす核となる心臓を潰されれば
吹っ飛ばされた『俺』は転がりながらも器用に立ち上がる。
心臓は潰した、しかし何故まだ動くのか。
「反転術式…」
『正解、潰されたのなら治すまでだ』
「…化け物め」
『お互い様だろう?』
ドゥッ!!と、砂煙が発生するのと同時に『男』の姿が大きくブレた。
その瞬間、風を切り裂く程のスピードで下から抉り込むような拳が迫る。
急いで躱し、その反動を使いぐるりと下がる。
ふと視線を先程の場所に向けると、地面が抉れて下の砂岩が晒されている。
つつ…と嫌な汗が流れる。
当たってはならない…そう気を引き締め直した瞬間――
――景色が急に加速した。
突如感じた引力、自分の意思とは関係なく移動している。
……何故、
そう感じた瞬間、稲妻のような痛みと共に肩から足にかけて摩擦が生じた。
炙られたような熱を感じる。
景色が回転する。 そこで理解した。
「(殴り飛ばされた……!?
――あの一瞬で!?)」
ゴロゴロと地面を転がる。
再び姿が消え…つぎの瞬間――
宙に浮く感覚と、メキメキと何かが軋む音と痛み。
今度は蹴り上げられた。
「がぉあ――ッア゛!!!」
『落ちろ』
そして地面目掛けて引っ張られ、地面に叩き落とされた。
叩き落とされた際に肋骨が数本イカれたが、反転術式ですぐ治す。
今のはすぐに分かった。
「(今のは偽造術式順転・青かっ!)
がァ…ペッ!術式反転・赫ッ!るァアアぶっ飛べェ!」
『俺』を狙い赫を連射する。
原作程の威力は無いが、射程と精度は原作以上だが…
見てから回避なぞ余裕というように、ドウン!と更に加速して避けていく。
だとしても物体を引き寄せる力――神秘で構成された無下限の力。
【術式順転・蒼】なら――
「(軌道をズラして命中させられる!)」
『!』
右手の蒼の力で軌道をズラす。
ドドドドド!と連射した赫が全て襲いかかる。
その間に左手に練り上げた蒼の力をフルパワーに。
地面から響く振動、持ち上げるのは地中の砂岩。
ある程度引っ張った後は――
「術式順転・蒼!
――最大出力ッ!」
巨大な蒼が周りの砂を巻き込み、最初に砕け散った砂岩の欠片を吸い込みながら円形に周りを削り取っていく。
そして、目の前にいるのは軌道修正した赫により動けない『俺』の姿。
『そう来るか』
「(にしても……)」
ゴリゴリと大雑把に広範囲で削り取った蒼が炸裂し、周囲に砂煙が蔓延する。
「ぶっつけ本番で……
無下限はフィーリングで――ッ!!!」
ぶわり――と砂煙に大穴が生まれ赤い閃光が飛来する。
無下限の力を拳に纏わせ赫を弾く。
それと同時に腕もメギョリと反対方向に折れる。
「―――ッァア!」
反転術式で無理矢理治す。
身体中の痛みが引いてない状態での反転術式。
ぐらつく視界。
歯を食いしばり意識を戻す。
しかし、予想は出来る。
「次は――」
正面、飛び込むかのように跳んでくる。
あの手に持っているナイフが気になるが…
蒼の応用で引き寄せ、赫を至近距離で放ち『俺』を大きく奥へ奥へと吹っ飛ばす。
――やがて、地面に墜落して砂塵を作りながら地面を滑り跳んでいく。
…いつの間に取り出したんだ、あの変な形のナイフ。
「――ッ」
そんな事を考えている間でも、
あまりの速さに『バヒュン』『ドヒュンッ!』と凄まじい音が響く。
再び神秘を収束させ、何処から再び来るのか構える。
――その瞬間、足が深く
「――!?」
すぐ視線を向けると、黒い泥のような、墨汁のような液体が見えた。
ゴポゴポと気泡が浮かんでは弾けている。
粘度はそこまでない、しかし――
液体から人型のナニカが作り上げられていく。
「十種影法術じゃあねぇんだぞ……っ!」
人型から獣型。
更には大蛇など…何百匹という数…いや…それ以上に今も尚生まれ続け、自らを取り囲むように現れていく。
領域展開とは違う、現実を侵食するような光景。
地面の黒液は更に広範囲に広がっていく。
《GYAAAA―――》
「ッッらア!!」
《OOOOAAAA―――》
「ゼェい!!」
ドパン!と蹴り殺しては、殴り殺しては液体に戻り地面へ吸収されていく。
《GURAAAAA――》
「――はァア!!」
地面に飛び散っては、新しい奴が産まれる。
こんなモノ、イタチごっこ以外の何物でもない。
何よりも――
「邪魔ァ!!」
《RUUUAAA!!》
「――ぐッ!ヅぁアアア!!」
ガギャギャギン!!と盾と飛んでくるナニカが衝突し、火花を散らす。
盾を振り抜いた隙に人型に腹を抉られる。
――カウンターで撃破。
…こんな風に、いやらしいタイミングで襲い来る攻撃の所為でこちらの動きが制限される。
されど総大将はこの先にいる、しかし進む事すら叶わない状況。
《SYUUUAAARAA!!》
「大蛇型かよ!!」
目の前にいる同じ黒液の同族ごと挽き潰しながら突進してくる大蛇型。
盾を構える、全力で受け止める。
ズン!とまるで戦艦に体当たりされたかのような、大砲の反動をモロに受けたような衝撃が腕を突き抜ける。
――その時、右腕からバキリと音がした。
その音を待ち望んでいたかのように再び、あのナイフのようなものが飛んでくる。
「(……利き手である右手は盾を抑えるのに必要、でも下手に動けば轢き殺される…!)」
「(なら、扱い慣れていない無下限バリアを左手に纏わせて弾くか?
――でも、それで失敗したら?)」
――ナイフが更に近付いてくる。
「(いいや、何を恐れている箭田 空澄ッ!
失敗しない、成功させるだけだろうっ!!)」
そして、無下限で左腕全体を覆う。
弾き返す為に腕を全力で振るった――
――視線をナイフに向けたことでその姿がハッキリ見えた。
アレはナイフではなく『鉾』であり、鎖に繋がれている事を。
(まさか)と思う、しかし遅すぎた。
―無下限は沈み込むように入り込んでくる『鉾』を受け止めるハズだった。
だが、受け止める事無くその左腕は切り飛ばされ、空高く吹き飛んだ。
「――――は?」
バランスが崩れる。
「ごっ――」
大蛇の勢いは増し、そのまま俺を巻き込みながら地面を抉り突き進む。
あまりの衝撃に意識が遠のく。
そのまま黒液を撒き散らしながら進む大蛇と共に地面に叩き付けられた。
――衝撃の所為か、はたまた原型を留めていられなかったのか、大蛇は液状となり四散した。
しかし運が良かった。
最初に蒼で地中から持ち上げていた砂岩がクッションなってくれていたおかげで、受けたダメージはそこそこ軽くなっていた。
――ちゃぶ台返しのように、仕切り直す装置として使う計画がおじゃんになってしまったが。
切り飛ばされた左腕の止血をしようとした時、右手の指が三本ポトリと落ちた。
「指を指す事も、約束する事も…
これじゃあできないじゃないか…」
痛覚はもう働いていない。
左腕は無くなり、右腕も思うように動かせなくなってきている。
…神秘が枯渇仕掛けている。
でもあの約束が、ツミとの約束がある。
―まだ、答えを伝えていないじゃあないか。
諦めるな、まだ立てるだろう。
━
━
━
『……ッ!
シッ――!!』
鎖に繋がれた『鉾』が上から振り下ろされる。
そしてそのまま、左眼を切り裂かれた。
「―ぐァっ…ふぅ…
―――術式順転・蒼」
創り出した極大の蒼を上空へ飛ばす。
俺がやろうとしている事に気付いた『俺』は、蒼を破壊する為に全力の赤を放つ。
━
━
━
「術式反転・赫」
しかし『俺』が放った赤は呪詞を重ねた赫に掻き消され、そのまま蒼へと突き進む。
『正気かお前はッ!』
「正気だよ、俺はまだ、死ねない」
人型のナニカに脇腹を貫かれる。
獣型のナニカに肩を食い千切られる。
それでも、もう止まれない、止まることは許されない。
――これで、最後。
━
━
━
━
そして掌印を刻み、準備は完了。
全てを巻き込み、素粒子へと還す一手。
蒼と赫が混ざり合い、あの色へと変わる。
円と円がピッタリと、寸分違わず重なる。
――極光が辺りを包む。
これこそが――
――そうして、茈は全てを包み破壊していく。
放った自分も例外ではないとしても――。
――過去
『……箭田君…っ……ぐすっ…うぐぅ……』
『フゥー…フゥー…』
誰もいない教室、2人の子どもがそこにいた。
その子ども達の前に転がる太った成人男性の姿。
ただ、おかしな所が3点ある。
―1つ目、少女は尋常ではない程怯え、涙を零している事。
―2つ目、少年の手にはハンマーが握られている事。
―そして、3つ目。
頭から大量に出血して倒れている教師と思わしき男の姿。
何度も殴られたのか、頭の一部分は陥没して凹んでいる。
『大丈夫、大丈夫だよツミちゃん。
もうコイツは動かない。
――だからもう、泣かないで』
『……っ……箭田君……箭田君…っ!』
そっと、男の子が女の子を抱き寄せた。
ある日、女の子……ツミが教師にセクハラを受けている事を教えてくれた。
だからこそ、最初は真っ当に証拠を集め校長に提示した。
――しかし、学校は一切動く事無く見て見ぬふりをした。
何故だと、どうして動かないのだと少年は再び校長に強く言った。
……聞けば、あの男は権力者の息子だと言う。
だから下手に動く事が出来ないのだと。
―呆れた、もう
少年はそう感じた、自分で解決すれば良いのだと。
―準備を進めていたある日。
誰もいない教室で、教師がツミの腕を引っ張りどこかへ連れていく。
―嫌な予感がしたのだろう、少年はこっそり後を付けた。
その場所は空き教室だった。
誰も使っていないその場所に入っていった。
じわじわと焦燥感に駆られていく。
鍵をかけられ、見るしか出来なくなった…その瞬間。
教師がツミの制服を引き裂いた。
―ツミの悲鳴が響く、教師の怒号とガタガタと空き教室の机が動く音。
ついに少年はキレた。
ハンマーで扉の窓をかち割り、飛び散るガラス片や縁に残ったガラスで手が切れるが、構わずそこから入る。
衝撃に耐えられなかったのか、呆然とコチラを見ている教師を傍にあった椅子で殴り飛ばした。
よろめき、倒れる男。
少年は咄嗟に
『目と耳を塞げ!』と叫んだ。
少女はその声に従った。
少年は倒れた男の首を彫刻刀で切り裂いた。
グリグリと傷口が深くなるように、力一杯抉り込む。
血が飛び散り、付着する。
その後、ハンマーに持ち替えて頭を殴る。
今度は男の薄汚い悲鳴が教室に響く。
―殴る。
―殴る。
―殴る。
何度も殴る。
男がゴロリとうつ伏せになり、頭を守る。
それでも殴る。
何度も。
何度も。
何度も何度も何度も何度も。
やがて虫の息となった。
トドメを誘うとした時、そっと手を握られた。
咄嗟に振り向くと、そこにはツミの姿があった。
目を閉じず、耳も塞がず…じっとこちらを見ている。
そして――
『私にも殺らせてよ』
――ニコリと笑って、ツミはそう答えた。
そっとハンマーを手渡すと、力一杯殴り始めた。
罵詈雑言、今までの恨み辛みを言葉にして自分以上の力で何度も殴り続ける。
――やがて、男は完全に息の根を止めた。
そして、ポロポロと泣き出したツミを抱き締めた。
――その後は、
……まぁ、少年法が適応されたのかお咎めなしに終わったのだが。
何故今になって、そんな記憶を思い出したのだろうか。
自分にも、わからない。
それが何を意味するのかも。
意識が浮上する。
地に両膝をつき、力なく顔を下に向けていた。
さながら処刑を待つ死刑囚のように。
「――――」
声を出す力すら無い。
腕も動かない、足も同じように動かせない。
砂を踏み締めて歩く音が聞こえた。
『初めてだ、俺をここまで追い詰められたのは』
「―――」
『お前は強い、誇れ。
偽物の力を昇華させ、本物の力として振るったのだから』
立ち上がろうとする、しかし立てない。
膝が…否、足が折れている。
激痛と共に呻く。
「――……っ」
覚悟は決めていたけれど…
『だが、お前の敗因はこの『鉾』だ。
『天逆鉾』『万里ノ鎖』……
この時間軸のお前とゲマトリアでは作れなかった物を、俺が作れないと考えていたと思うが――
こちとら
お前が思いついた武具を、持っていない訳が無いだろ』
「………」
『殺す前に聞いておきたい事がある』
「な…んだ…よ」
『あの時…
その質問に、息が詰まった。
『あの時…電車の中で誰と会った』
目の前にいる瀕死の男…「俺」にそう問いかける。
コイツの頭に浮かんでいる2つのヘイロー。
『八咫烏』を彷彿とさせる碧いヘイローと『時計を彷彿とさせる』朱いヘイロー。
自分には無い、2つのヘイロー。
八咫烏なら分かる、だが『時計』は一切分からない。
『(まぁ、そんな事考えても仕方がないか…)』
俺が確認する事、それは『セト』と邂逅していないかの確認だ。
何故確認するのか…それは『箭田 空澄』という存在は『セト神』との親和性があまりにも高すぎるからだ。
神との親和性が高くなる程、その肉体もその器として成長する。
これは「俺」に限った話じゃない、『俺』にだって言える事だ。
――もし器として完成し『セト』が誕生してしまえば、キヴォトスは終わる。 ――器として定められた時点で半分詰んでいるようなものだ。
それに、原作に現れる『セト』なんかよりももっと異質で恐ろしい獣が生まれたら、どう足掻いても俺達じゃ勝てない。
数多の時間軸を旅してきて知ったからこそ、恐ろしく感じるものだ。
…だからこそ聞いておかなくてはならない。
「……男に出会った」
『……なんだと?』
「表情が読めない、軽薄そうな男だった」
――嫌な予感がする。
「責任を負い、
『既に……』
出会っていた、ずっと前から面識があった。
――不味い方向に運命が向かっている。
早めに芽を積んでおくに越したことはない――
天逆鉾を構える、そこで「俺」は名残惜しそうにこう口にする。
「――俺達の生徒を宜しく頼む」
『私達の生徒を、お願いね』
先生の姿が重なって見えた。
天逆鉾を握る力が増す。
『……わかっている。
俺がしっかり見守ろう、もう休め』
苦しみを与えないように、一撃で首を切り落とす。
スパ…と簡単に切れた。
―切った頭が砂に沈む。
―残った肉体の力が抜け、うつ伏せに倒れる。
―断面からとめどなく血液が流れる。
コレで終わり。
後はシロコに連絡してこの遺体を処理すれば、後は流れで全て解決する。
そう思い、後ろを向いた時――
「全く、可哀想に。
アレだけ努力したのに、あの約束があったのにねぇ…」
ゾッとした。
すぐ振り返り、後ろへ大きく跳ぶ。
そこには白銀の髪/朱い目/浅黒い肌。
「俺」と瓜二つの姿をした『ナニカ』…いや、この際こう呼ぶとしよう――
「――セトォァッ!」
「そんなデカイ声出さないでくれよ。
ちゃんと聞こえてるさ、ちゃんとね。
…にしても予想外だったなぁ、『導き』がここまで強力だったなんて…人生わからないものだわサ」
天逆鉾を構え直し、セト神を切り刻もうと駆け出した……
――瞬間、青色の閃光が走った。
「――ゴポッ…!」
咄嗟に回避したつもりが、避けられず腹部に命中した。
その刹那、ボッ!という音と共に大きく弾け、空いた穴から臓物が零れて散らばる。
片手で溢れた臓物を掴んで『大人のカード』を使い、
そのまま肉体を修復する。
しかし、あの一瞬で蓄積されたダメージとカードの反動で動く事が出来ない。
無様に四肢を地面につく。
「神秘がカスほどしかない君に、コレを避ける程の力も…防ぐ力も無い。
――君じゃあ僕には勝てないよ」
『セト』は「俺」の遺体を背負い、宝物を抱えるかのように…地面に転がる頭を両手で抱えた。
「そうそう、彼の遺体は触媒として最高なんだ。
この僕が僕である為の…『セト神』として成る為の大切なピースだからね。
故に――君には感謝しているんだよ?」
『セト』が光に包まれ始める。
《過去》から《現在》へ向かう際の光だ。
――持ってかれたら全てが台無しになる。
…しかし、身体は意思に反して動くことは無い。
「それじゃ、また《未来》で会おう。
君に、僕を殺せる自信があるのなら…だけどね」
「ふざけんじゃねぇッ!
――待て!待ちやがれェェェ!!!」
「心から感謝するよ。
【役目】を無事に終えてくれた彼に。
そして、それを手伝ってくれた君に。
今はただ、全てに感謝を――」
そうして、『セト』は姿を消した。
……終わった、全てが。
ギリ…と拳を握り締める。
「ソラくん」
「…シロコ、か。
……悪い、持ってかれた…」
ダンっ、と地面に拳をぶつける。
全てがおじゃんになった、結局こうなった。
ぽん、と頭に暖かいものが乗っかる。
「まだ終わってないよ、ソラくん」
「……?」
「奪われてすぐ、はい終わりなんてなる訳ない。
まだ希望はあるよ」
「……そうだな」
そっと頭を撫でていたシロコの手を退かし、立ち上がる。
「『セト』を止める。
次の目的はソレで行こう」
「ん」
――
自分達も光に包まれ、引っ張られる感覚と共に《現在》の時間軸に戻った――
久しぶりです。
クッッッッソ難作でした。
正直、何回も作ってはボツにしてを繰り返して…
箭田君を殺すとしても、これは違う…これは箭田君の心情と矛盾しているし…ほんと難しかった〜…半年以上かかるとは…
さて…箭田君の出番はこれでおしまい。
次は箭田君が愛した人達が主人公となり、時間軸は《現在》に巻き戻ります。
……お楽しみに。
〜追記〜
話の最後らへんの表記が間違っていたので修正しました。