3月14日…。
本来、理が迎えるはずがなかった日。
その日を理は愛するゆかりと二人で、学校の屋上で過ごしている。
日曜で、本来は学校が閉まっている日であるものの、ゆかりの頼みを聞いた美鶴によってこっそりと開けてもらっている。
もっとも、許されたのは夕方からで、門限までには帰る約束だ。
「あのさ…ゆかり」
「何?」
「こんなんで、いいの?ホワイトデーのお返し」
「いいの、こうしていたいから」
今の理はゆかりに膝枕をされている状態だ。
あの時、アイギスにされたようなことをゆかりにされている。
死が近づき、疲れ果てた体だったあの時とは違い、今はいつもの眠る前のけだるさで、それは確かに今ここで生きている証拠だ。
「もっと、他にもあったと思うけど。ゆかりのお母さんに会うとか、デスティニーランドに行くとか」
「それもそうだけど、けど…最近になって、アイギスがずるいって思ったの」
「え…?」
「確かに…あの時はどうしようもなかったけど、けど…理君に膝枕なんかして!恋人の私を差し置いて、ひどい!」
あくまでもアイギスを怒りのターゲットにしているという言い草だが、怒っているのは理に対してもだ。
記憶をなくしていたとはいえ、あの日まで死ぬことなどおくびも見せないように過ごしていたのも気に入らない。
せめて、何かしらを自分に言ってくれてもよかったのに。
確かに生き返ってくれたのは良かったが、もしあのまま死んでいたら、ゆかりはずっと後悔していた。
そして、本来は自分がいるべき場所を奪ったアイギスを恨んだかもしれない。
わずかに頬を膨らませるゆかりの顔を見る理の表情が緩む。
「…何、笑ってるのよ」
「いつもの、ゆかりだなって」
どういう意味なのか、そう問いかけようとするゆかりをいきなり起き上がった理が抱きしめる。
急に抱きしめられ、驚くゆかりの顔が真っ赤に染まる。
「ずっとさ…いつ、死んでもいいやってそればかり考えてた」
「え…?」
また唐突にそんなことを言われたゆかりだが、なぜかそれに納得する自分も感じた。
伊達にこの1年をともに戦い続けてきたわけではないのだから。
「両親を亡くして、家族と一緒に過ごした記憶もなくして…ずっと、自分に生きる意味はないって思ってた…。けど、ゆかりと出会って、みんなと一緒に戦って…荒垣先輩のこともあって…それから、だんだん死ぬのが怖くなった。僕だけじゃない、ゆかりやみんなが死ぬのも、嫌だから…」
きっとそれは誰もが当たり前に抱く感情。
死に触れたいという意思があるなら、それと相反するように抱く生きたいという意思。
綾時をその身に宿したからというわけではない、命のよりどころを無くした空虚もまた、かつての理の意識を死へ近づけていた。
だが、今の彼が生きる意味を抱きしめている彼女が教えてくれる。
彼女だけでなく、絆を深めた仲間たちも。
それが0だった理の心を満たしていく。
「死なないわよ、私は。そばにいてくれるんでしょ?生きて、これからも、ずっと…」
「うん…」
「だから、ずっとそばで、教えてあげる。誠君には生きる意味があるって。生きてほしいって。何度だって」
「ゆかり…」
温かな感覚が胸いっぱいに広がっていくのを感じる。
これからどのような未来が待っているかは誠にはわからない。
本来なら来るはずのない未来を既に歩いているのだから。
だが、今はわからなくていい。
少なくとも、これからは一人じゃない。
ずっとそばにいてくれる人がいることを実感できるから。
「ゆかり…暖かくて、気持ちいい…」
「…バカ」