僕らは花を燃やす   作:東海林 圭

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享子との関係①

「……あぁ、うぜぇ」

 

携帯のアラーム独特のピピピ、ピピピという音がスヌーズし、起きた僕自身の目で見た画面は七時を過ぎていた。

LINEの通知が七件、SNSのニュース通知が束になり、ゲームアプリのログイン催促(さいそく)が二,三件溜まっている。

 

僕が寝ている場所はロフトだ。

大学生活とともに一人暮らしを始める人間が多いが、僕の通う大学近くには父親が単身赴任をしていた。

田舎だから家賃も安いしバイトしたいのもあったが、金銭的に迷惑を掛けず且つロフトが空いているとのことで、転がり込むという選択を取った。

 

どうせ二年後には東京の大学へ編入しているのだから、まあ父親との親交を深めるのも有りだと考えていた。

布団から這い出て、枕の奥側にある座り机から眼鏡を取って掛ける。

 

座机の横にある本棚から大学へ持っていく教科書をバッグに詰め込み、中腰になって起き上がる。

ロフトから顔を出し、リビングを見るとカーテンは開けられ、窓の外は日明かりと黒く光るコンクリートの光景が見えた。

そして差し込む光と同時に、机の上には紙とお札が置いてあるのを見つけた。

「……お父さん、ありがと。」

 

ロフトの階段をリビングへ出し、着替えとバッグを掴んで降りる。

机の上の紙を手に取り読み上げる。

 

「『華子へ、今日は札幌に戻った後、そのまま飲み会へ行きます。明日が土日になるので、そのまま実家でお母さんとコンサートに行くので帰ってくるのは日曜日の夜になります。お金置いておくので、食費にして下さい。PS:鍋にカレー作ってあるので食べ切って置いてください。』え、またカレー?」

 

手紙を読み終えた僕はキッチンに向かいコンロ上にある寸胴鍋の蓋を開けると、そこにはこの金土日で食べなければいけない大量のカレーが入っていた。

 

「もう毎度毎度カレーは飽きるって……腐る前に食べないといけないから量も馬鹿にならないし……僕が料理を作れるの知ってるでしょ、お父さん……」

 

コップ半分の水を鍋に入れ、火をつけお玉で掻き混ぜる。

机に戻り食費として渡された二千円を財布に入れ、携帯の画面を開き、LINEのお父さんとのテキスト部屋を出す。

 

「『お父さん、ありがとうございます。頂いたお金は無駄にしないよう使います。それとありがたいのですが、カレーは作るにしてももう少し量が少ないと嬉しいです。行ってらっしゃい』と。いや、カレーは四日前も食べたよ……週四で三食カレーは流石に飽きるよ……」

 

スタンプとともにそれを送り、他の溜まっていたLINEが無いか確認する。

まず享子、家族グループ、ネット友達何人かに連絡を返していく。

 

「享子はそういや、モニコ(モーニングコール)しないとだったか。電話しよっと」

 

電話を掛けると激しいギターとドラム音が鳴るハードロックが保留音になっていた。

スピーカーにして机に置き、食器棚から皿を取り出して炊飯器からライスを盛る。

ぶくぶくと熱々になったカレー鍋を数度掻き混ぜ、ライスに掛ける。湯気が出ていて大きなじゃがいもと人参がゴロゴロとしている。

スプーンを取り出し、ソファーに座ると保留音が消え、一気に静かな生活音が流れていた。

 

「……なんですか」

「享子が起こせって言ってたんでしょや」

「もうちょっと寝てたいよ……」

「甘いこと言うな、春から休んでいたら後半戦休めなくなるぞ」

「あんねぇ……前半戦だって休みたいでしょ!」

「はいはい、なら今日は一緒に行かないでいいかな」

「それは無理! 華子は私と東京行きたくないの!?」

「なら起きなよ。八時半くらいに大学前のセコマで待ち合わせね」

「分かった。三十分過ぎてたら起こして。おやすみー!」

「また寝る気なのか」

 

そんなやり取りで通話は終わりテレビを付けてニュースを見ながらカレーを食べる。

美味しい。この世で食べるご飯の中で一番は何かと問われれば僕はカレーと答えるくらいにカレーが好きだ。

拘りの強い父がスパイスからカレーを作っているのもあり、香辛料の香りが強く、シャバシャバとドロドロの中間にあるトロッとしたカレーになっている。

辛すぎるけれども。

 

ニュースでは黄色の化け物がスタジオで踊っており、日中で雪解けするが、太陽が落ちた夕方からは、急激に気温が下がるため路面凍結に注意とのことだった。

そんなニュースを見終え、左手に着替えを持ち、右手に空になった皿を手に取ってシンクに置き水を掛けてうかせる(※水を容器の中に溜めるという方言)

 

キッチンの奥にある脱衣室に入り、カラーボックスを開けてバスタオルを取り出し、着替えと一緒に洗濯機の上に置き、パジャマと下着を脱いで洗濯機を開けて、脱ぎ殻をぶち込む。

眼鏡を洗面化粧台に置き歯ブラシを取り出し、歯ブラシに歯磨き粉を乗っけ、蛇口を捻って出た水にサッとつけて口の中に放り込んだ。

 

「ねむへぇ……」

 

がらがらと歯磨きをしながら浴室に入ってシャワーを浴びる。

それからはシャワーの音が断続的に音を出しながら時間が過ぎていく。

三十分程時間が経った時、浴室内からはタイマーの音が鳴り響いた。

音はすぐ鳴り止むと、それから数分して扉が少し開き、間から伸びた手がバスタオルを引き込んでいく。

 

また少し時間が経ち、バスタオルを纏って浴室から完全に出る。

 

右手に持った歯ブラシを洗面化粧台に戻し、眼鏡を掛けて居室へ戻る。

ソファーに座り、コンセント近くに纏めたドライヤーと鏡を手に取り、髪を乾かす準備をする。

 

鏡に映った僕の髪の毛は肩よりは短く、耳よりは長い少し栗色をした黒髪だった。

目が死んでいて、なんというか大して見たくもない顔を見ないといけないこの髪乾かしの時間は気怠いものだ。

髪をしっかりと乾かし、櫛を通して梳かす。

 

耳に挟むタイプのイヤリングとピアス二つを付け、脱衣室に戻り下着を着け、用意していた着替えを履く。

長袖の白シャツとスパッツを履き、口元まで襟が立つ灰色のタートルネックのニット、大き目の濃い青色をしたジーンズ、黒いソックス、それらを身に着けてコンタクトを入れる。

 

壁掛けの時計を見ると八時一〇分過ぎた頃だった。

 

もうそろそろ家を出ないと享子との時間に遅れてしまう。

ドライヤーや眼鏡をコンセント近くに戻し、ロフトから伸びている階段を壁に立て掛け直し、黒のオーバーコートを羽織る。

暖房の温度を下げ、テレビなどの電気関係、レンジフードなどの消灯を確認し、バッグを肩に掛け、部屋から玄関へ出ていく。

 

「全体的に準備よし……っと。享子起きてるかなぁ」

冬靴仕様の黒を基調として紐が赤のスニーカーを履き外へ出ると、後ろからはドアが閉まる音ともにオートロックが掛かった。

 

「今日はゆっくり、何も起こりませんように」

 

自転車ととともに外へ出、ママチャリのカゴにバッグを入れると、サドルに跨って徐々に加速していった。

 

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