流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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間章「蜘蛛、勇者になる 後編」

 

―――とある大陸南部神聖国家デリア跡地。

 

「王国連合軍、消滅との報を皆さんにお伝えせねばなりません」

 

 その短い文面を読み上げたのみで人の国々の王侯貴族及び政治将校、軍のお偉いさんと呼べるだろう関係者の全てが絶望の前に打ち拉がれ、顔を俯けた。

 

 中には思わず吐いた者もおり、背中を撫でられ、医務室となる幕屋に消えていく者まで出る始末であったが、現状を聞く為に残った国の重鎮達が頷く事で議事は続行された。

 

 巨大な円卓の最中。

 

 王家や国家を束ねる位置に付き。

 

 大陸でも有数の人口を誇る大国。

 

 アルムシア大公国の国王が部下からの報告を読み上げる。

 

「送った軍の総員が全滅。また、魔王城の奪還及び、北部域における魔王軍の再編成が確認されました。いえ、事実上はそうであろうという推測ですが、ほぼ間違いないでしょう」

 

 各国の軍事関係者からしてみれば、信じられない話であった。

 

「四天王は倒され、魔王も討ち果たされました。しかし、此処で調査の結果をご報告せねばなりません。魔王軍残存部隊……いえ、新編されたと思しき魔王軍の最新鋭部隊を現地の最後の生き残りであるゼース将軍とダリル千人長及び勇者一向が確認しております」

 

 ざわめく烏合の衆。

 

 そう、そうとしか言えないだろう人々が喉を干上がらせる。

 

 白髪交じりの50代の男。

 

 少し腹の出た程度で今も軽装鎧を着込んでいた厳つい顔に金髪をオールバックにし、眼鏡を掛けた彼は報告書を読み上げる。

 

「報告では軍への奇襲攻撃によって、人員が糸のようなものに絡め取られて全滅し、付近の村に勇者一向と共に退避したとの事。その数日後……突如として空に光に光の雨らしきものを確認したと。その方角から恐らくは魔王軍への攻撃であったと思われるとの話です」

 

 メガネが直される。

 

「その後、南方の遥か奥側において巨大な空に浮かぶ輪を見たと報告にはあります。その輪からは天使らしき影が無数に溢れ出し、恐らくは神殿の増援。天使長様の軍であったのではないかとの事ですが、その輪そのものが遥か頭上に延びる巨大な甲殻の塔のようなものに食われ、伸び上がる天の果てまで続く巨大な……巨大な……ぅ……」

 

 バタリと男があまりの事に胸を抑える。

 

「王よ!? 誰か!! 誰か!? 医者を呼べぇ!? 早く!!?」

 

 倒れ伏した大公国の主はあっという間に顔色を冷たくしていき。

 

 それを見ていた王女が思わず卒倒。

 

 残された者達は議事を一端中止にしようかと思われたが、その報告書を思わず震える手で手に持ってしまった王が出た。

 

 その表情は恐怖と絶望に焼け付き。

 

 ガタガタと歯の根も合わない様子になって、真っ青の顔もそのままに1人慌てた様子でその議場を後にした。

 

 それに続いた者達もまた報告書を見てしまった。

 

『……何だ。コレは……何なんだ!!?』

 

 報告書にはこう書かれていた。

 

―――天使は次々に蟲となって地に堕ち。

 

―――謳いながら世界を絶望を染め上げる賛歌を響かせ。

 

―――甲殻は天の輪を破壊する巨大な蜘蛛の華を咲かせて、剣となりて、天の軍勢を呑み込んだ。

 

 遥か天を衝く塔の巨大さはもはや人の手にて破壊する事は不可能。

 

 どうか軍だけは送らないで欲しい。

 

 同じ蜘蛛と化して消える定めに人を放り込むべからず。

 

 堕ち来る天使の蜘蛛はその数恐らくは数億を下らず。

 

 眼下を埋め尽くす彼奴らに村は包囲され、余命幾何もないだろう。

 

 魔王が最後の瞬間に召喚したと思われる存在は蜘蛛であったと推測される。

 

 もし、その力が旧き魔王を超える存在だったならば、直ちに国家は亜人へのあらゆる干渉を停止し、全ての亜人に対して一切の加害を避けるべきである。

 

 もしも、蜘蛛の全てが南下し始めれば……人は滅び、亜人の世界となるであろう。

 

 講和を模索するべき事態であり、絶滅を避けるならば、亜人への謝罪と今までしてきた数多くの罪への賠償、罪に対する刑罰の実施は必須である。

 

 もし、これを受け入れられない場合……その国家における趨勢はともかく。

 

 地域毎に人そのものが消え去るのは確定であると心得て頂きたい。

 

 これは冗談でも嘘でもない。

 

 ゼース・アスラスク・ビオドの名において、この最後の報告を完了す。

 

 諸国には懸命なる行動を期待したい。

 

「……もしもまだ神殿へ亜人奴隷を引き渡しているならば、王家と国民の大半の首が落ちるのを覚悟するか。もしくは即時講和の使者を魔王軍に送り、亜人への干渉を止める旨を宣言し、実行する以外に生き残る術は無いだろう……」

 

 ペタンと思わず尻もちを着いた王侯貴族百数十名。

 

 気絶した女系王族や高位貴族の系譜の者が数十名。

 

 そして、発狂したように笑い出す者が数名。

 

 もはや、議事どころではない。

 

 急いで本国へと帰り、魔導による通信を用いて、遠方の祖国へとにかく情報を渡そうと奔り出す者が大量に出て、押し合い圧し合い貶し合いで周囲はしっちゃかめっちゃかになった。

 

 そうして、それらを見ていた神殿の者達は顔色を悪くしたものの。

 

 何とも醜い争いに終始する腐った王家や国家上層部の醜態を横目に早足で現場を去り、次々に各地の神殿へと指示を出した。

 

 魔王軍との決戦の為、今こそ神殿の最後の力を用い。

 

 天使様をお救いするのだ、と。

 

 その為に亜人を使い潰し、その肉体と魂までも用いて敵を撃滅する兵器を起動せよ、と。

 

 生憎と狂人と服を着た傲慢な豚くらいしかいない場所では狂人達の方が幾らか理性的に見えるという皮肉な結果となったのである。

 

 *

 

―――黒蜘蛛の巣【夜華の都】。

 

 天使の軍勢を退けて数時間後。

 

 黒蜘蛛の巣は溢れんばかりの蜘蛛達が周囲に集合しており、押し合い圧し合い、人口密度ならぬ蜘蛛密度が急上昇。

 

 巣の中も外もギュウギュウになっていた。

 

 結果として、ちょっと多過ぎぃという顔になった蜘蛛達は通常の黒蜘蛛の巣の万倍以上の大きさとなった蜘蛛脚の剣で出来た塔に一端帰ってと天使蜘蛛達に伝達。

 

 彼らも塔に住まう事を承諾。

 

『(^○^)(此処が黒蜘蛛の巣か~~という顔)』

 

『(。-∀-)(あの塔も巣にしちゃえばいいんじゃねという顔)』

 

『(゜∀゜)(ぼーくらはみんな~くものこだ~くものこだから~つくるんだ~とさっそく帰って新しい巣の造営に取り掛かろうという顔)』

 

 結果として、生まれたばかりの天使蜘蛛達は蜘蛛脚のせいで人は住めない塔を改装する事にして、天を突いて成層圏を突破する真空の領域にまで食み出す住居の機密性やら諸々の質量の計算やらをし始めた。

 

 自分達の住まう細長い大陸とも言えるだろう剣内部を探索する者もいれば、黒蜘蛛の巣をモデルにした街区の整備へと取り掛かった者もいる。

 

 何せ億人単位の居住スペースが確保出来る場所である。

 

 100km単位で蜘蛛達が大量の街区を整備するのは確定事項。

 

『(>_<)(ひゃっはー生きのいい【狼蜘蛛】をはけーんという顔)』

 

『Uつつつ(/^・Д・^)/(はろーせんぱい。われわれは嘗て単なる獣でしたが、今日からは序列に煩い系蜘蛛として統率に参加致しますという顔)』

 

『(゜∀゜)(ひーはー今度は生きのいい【鳥蜘蛛】をはけーんという顔)』

 

『艸(*´口`)艸(初めまして先輩。我ら空のお困り事を解決する為にやってきた完全無欠の運び屋、峠や大空を越えるならお任せあれという顔)』

 

 竜骨で隙間を埋め、階層を造り、上り下りの為の道を敷いて、あらゆる物資の生産を始めたのも正しく彼らにとっては半ば生態みたいなものであった。

 

 その最中に剣に巻き込まれて蜘蛛化した生物群が犇めていて、さっそく蜘蛛としての行動を始めているのを発見し、これから大蜘蛛さん時代が到来するらしいと天使蜘蛛達は大喜び。

 

 新しい仲間達の自活能力を得るのは巨大構造物内部では必須だと迎え入れ、共に塔の開発を加速させた。

 

 別にそうしなくても生きては行けるが、何もしないでいるのは死んでいるのと同じという事で他の蜘蛛達と同様に働き者な天使蜘蛛達はイソイソと自分達を生み出した蜘蛛と仲間達の為に働き出したのである。

 

 召喚ペカトゥミア。

 

 もしくはもはや魔王蜘蛛と呼んでもいいかもしれない神格位レベルの能力を手に入れてしまった個体の今後の行動の為にも大規模な生産能力の取得は彼らにとって必須項目だったのだ。

 

「あれ……大蜘蛛様?」

 

「(/・ω・)/おきたー」

 

「へ?」

 

「(・ω・)?」

 

「ど、どうやらまだ眠っているみたいです。大蜘蛛様が喋ったような?」

 

「(´・ω・`)しゃべるくもですが何か?」

 

「ひぅ!? しゃ、しゃしゃしゃ、喋ってるぅううううう!!? きゅぅ……」

 

 再び気絶した姫の頬をペチペチ前脚で張って起こした召喚ペカトゥミアであった。

 

「はう!? 夢、じゃない。で、でも、何か形がいつもと違うような?」

 

 思わず起き出した彼女が首を傾げて、蜘蛛の背中に小さな翼が7対も生えている事に気付く。

 

「そのぅ。その翼はどうしたのですか?」

 

「(´ー`)はえたー」

 

「は、はえ? 生えるもの、ですか? 翼って……」

 

「(-ω-)/ひめもはやすー?」

 

 ブンブンと思わず首を横に振る姫である。

 

 瀕死の重傷を負ってから数時間。

 

 彼女の部屋の奥では大隊長達が揃って涙を流しており、漫才を聞いていたが、それだけでも十分だと言わんばかりに召喚ペカトゥミアに後は任せると言い置いて、すぐ現場の指揮へと戻っていった。

 

「そ、そんな事が……天界の門があちらから開くなんて……もう神の目覚めに猶予は無いのですね……」

 

 天使達の襲来。

 

 巨大な天の輪の出現。

 

 それを乗り切ったとの話を召喚ペカトゥミアからされて、彼女が何とか現状を呑み込んで事態を整理する。

 

 だが、どう考えても問題は山積みである。

 

 姫が起き出したのはどうやら召喚ペカトゥミアの力が関係しているらしいと言われていたが、まだ絶対安静なのは変わらない為、周囲には看護系技能に秀でた蜘蛛がお医者さんセット……救急箱にこの大陸でも製造出来る秘薬の小瓶がギッシリ詰まった箱を備えて、白衣姿で佇んでいた。

 

「そのう……実際、外はどうなってるのでしょうか?」

 

 ざっくりと蜘蛛達が複眼で撮っていた録画映像が虚空に垂れ流される。

 

 そして、現在までの事を確認したアシエル姫が再び気絶しそうになったが、とにかく何か丸く収まったらしいので自分を騙し騙し落ち着ける。

 

「大蜘蛛様。天使達を退けたという事は……」

 

「(´▽`)しんこーするー?」

 

「……あ、あはは、ですよね……でも、多くの民、亜人達が心配です。この情報が伝わってしまったら、神殿が無茶な事に亜人の民を使い出しかねません」

 

「(・∀・)はいこれ」

 

 召喚ペカトゥミアが蜘蛛形態のままに前脚で姫に差し出したのはしおりであった。

 

 九十九折りの長方形。

 

 そこには旅のしおりと書かれている。

 

 今後の為にと彼女の傍でイソイソと彼が紙に書いて作っていた代物である。

 

「た、旅の……しおり?」

 

「(>_<)うんうん」

 

 内部をペラッと開いた彼女が大陸の地図と現在地からスタートして大陸各地をグルッと一周するスタンプラリー的な何かにも見える可愛い図……にも見えなくもない血生臭い感じの戦争プランに目を通していく。

 

「ええと、各地に転移で部隊を送り込んで最初期攻勢を開始。神殿勢力を大陸全土で一斉に幼女か蜘蛛にして壊滅。それに後方から大軍で押し寄せて恐怖を演出。勢いで政府首班を脅して恐喝。亜人を開放して権力を強奪。今まで亜人にしてきた事を白状させて、報道で告発。他国に恐怖を押し付けて内乱で全滅。残った国民を懐柔して権力者を殲滅。後は適当に統治して完結……」

 

 正しく子供の書いた絵空事に見えたが、召喚ペカトゥミアが胸を張るものだから、彼女も釣られて「そ、そうですか。頑張ってください」と思わずお墨付きを与えてしまうのだった。

 

「(。-∀-)さっそくいこー。ひめもいっしょーに行く―?」

 

「へ? え、遠慮しておきます……そのぅ。大隊長達が心配なので!?」

 

 思わずそう大隊長達を出汁に使ったアシエルである。

 

 善は急げと言わんばかりに病み上がりの姫を寝台に寝かしつけて、布団をポンポンした彼が「(T_T)/じゃ、いってきまー」と部屋の外に消えていくのを思わず止めなかった彼女は手を伸ばし掛け。

 

「ぁ……行ってしまわれました……」

 

 扉がパタンと締まるのを見ながら、手を下した。

 

 大丈夫だろうかと思いつつも自分に出来る事はもうないのだろうと天井を見上げるしかなく。

 

「……わたくしの為に……大勢の者達の為に怒って、くれたのでしょうか……」

 

 そう考えるとあまりにも今まで冷えていたはずの胸の底が熱くて。

 

 少しだけ彼女は父を失って以来、心に開いていた穴が埋まったような気がした。

 

「……っ……っ……ありがとぅ……」

 

 その様子を見ていた医療系蜘蛛が白衣姿のまま思う。

 

「(。-ω-)(まおーぐも……つみつくりなやつという顔)」

 

 こうして蜘蛛の勇者の旅はざっくりダイジェスト版で音速の10倍程度の速度によって始まる。

 

 それこそが蜘蛛達の最たる能力。

 

 早すぎる、であるが故に。

 

 彼の翼が天使達のものと同じ。

 

 定理を超えて加減速し、慣性を無視するヤバい機動力を生み出す事なんて本人すら知らないが、すぐに使いこなせる程度のもの。

 

 黒蜘蛛の巣内部で次々に神殿のある地域を制圧する為の部隊が組まれ、残っていた数万単位の天使蜘蛛達があっという間に転送されて、地域の上空に現れた時、誰一人として人類はそれに気づく事もなく。

 

 新たなる魔王軍と呼んでも良さげな部隊の奇襲を受ける事となるのだった。

 

 *

 

―――大陸南部地下神殿機密区画。

 

「くくく、遂に亜人共を撃滅するゴーレムが出来たぞ!! 亜人共の脳髄をニ十個も消費してしまったわ。まぁ、まだまだいる。神敵を滅殺し、全ての民に安ね―――」

 

『(゜∀゜)(滅殺という顔)』

 

 その時、起こった事は単純である。

 

 とある地下神殿内の機密区画内部。

 

 勇者達が起動したゴーレムの制御中枢を亜人の脳みそで再現に成功した神敵殺すべし、慈悲は無い系技術神官の頭部がポポポポンしたのだ。

 

 別に脳髄は要らないので首を切り落とした蜘蛛がサクサク進行で蜘蛛脚によって死体を蜘蛛化し、魂が初期化される絶叫を上げる暇も無く絶命した者達の内部を食い破って出て来たペカトゥミア達にヨッと挨拶する。

 

『(T_T)(ほんとーに生前の自分が申し訳ない。こっちでゴーレムから摘出した脳髄は再生させとくんで、後は行っていいですよという顔)』

 

 ペコペコ頭を下げながら、亜人の怨嗟で出来てそうなゴーレムとその背部に使われた現代製の真っ黒な制御装置を前にして生前罪深かった系ペカトゥミア達はさっそく作業に取り掛かった。

 

 神殿を急襲した天使蜘蛛達がシャカシャカと地表に出る通路へと向かい。

 

 外に飛び出す。

 

『( ̄ー ̄)(順調……という顔)』

 

 街は白い糸だらけ。

 

 あちこちで神殿関係者の悲鳴が上がり、今にも殺されそうな亜人達が保護され、今まで亜人達を虐げまくっていた者達が悲鳴を上げながら次々に人格や精神を覗かれ、蜘蛛化に値する者達から容赦なく魂の中身を消されて断末魔より恐ろしい絶叫を響かせていた。

 

 人間の道徳と倫理を司る宗教が亜人蔑むべしと言っていたのだから、そういう蜘蛛にされる人間はそれなりに大量であったが、まだ芽のある子供達や一応そういうのを自制していた大人達はその狂気の光景にお漏らししながら気を失うばかり。

 

 西回りで魔王軍が攻めてきた。

 

 という事すらも殆どの国が気付かぬ間に村々は蜘蛛達によって蹂躙され、次々に亜人の開放と同時に神殿の真っ黒な連中を排除していた。

 

『くくく、亜人の肉体を用いたキマイラだ!! これを量産すれば、魔王軍なんて幾らでも圧殺出来る物量となるはず!! さぁ、ゆけキマイラよ!! まぉ―――』

 

『(・∀・)(圧殺という顔)』

 

 グチャァッと正しく魔力の圧で壁際にプレスされて煎餅みたいに水分を蒸発させられて平べったくなった邪悪な技術系神官が一人。

 

 他の者達も次々悲鳴を上げ、自分にはどうしようもない命の終わりに絶望の怨嗟を奏でていく。

 

 あっちこっちで倫理観どうなってんの系な計画を遂行中だった者達がやたら多いのも全て神殿の亜人差別の増長が招いた事に違いなく。

 

 まぁったく、度し難い事に神殿一つに付き亜人研究で真っ黒な計画が一つという具合に人の国ではロクな亜人政策が執られていなかった。

 

『ふははは!! 亜人共を生贄にした魔導儀式術の完成だ!! 従来の4倍もの出力を可能にする魔導さえあれば……この勇者殿達が発見した神器製造の秘儀によって生み出した技術で……全て、そう全て上手くいく!! この亜人共を純化精錬した【賢者結晶】にて生まれ変わる最強の軍隊に魔王は抹殺され―――』

 

『( ̄д ̄)(抹殺という顔)』

 

 あちこちの神殿の地下を家宅捜索した蜘蛛達が見るのは出るわ出るわの倫理観ガン無視計画の最終段階であった。

 

 神殿が迅速に魔王軍の異変を察知して動いた結果は更に迅速なる蜘蛛達の襲撃によって計画発動寸前に全てが叩き潰されたのである。

 

『さぁ、これで準備は整った!! 魔導屍兵六千人!!! 勝てる!! 勝てるぞ!! 亜人共を処理し、同時に戦力を得るこの技術さえあれば、無尽蔵の兵力を供給可能!! 往くぞクズ共!! 魔王軍を牽き潰し、轢殺しながら行軍するの―――』

 

『(゜Д゜)ノ(轢殺という顔)』

 

 蜘蛛達も一々対処していては面倒そうなのが山となった神殿。

 

 正に内実が真っ黒以外ではなく。

 

 しかも、殆どの研究系神官達は“真っ当な聖人”として名を馳せるような人には優しさMAXな連中という事もあり、如何に亜人を人間扱いして来なかった神殿が罪深いか分かろうというものだった。

 

 人間は人間以外にはまったく優しくない生物なのだ。

 

『ひ、ひぃいいいい!? 来るな!? 来るなぁ!?』

 

『(;´Д`)(う~ん。その言葉は君達がやたら無駄に積み上げた犠牲者が言ってたものなんだよなーという顔)』

 

『な、何が目的だ!? あのエサの為にワタシを化け物にするだと!? 許されない!? ワタシは人間だ!? 人間なんだぞ!?』

 

『(´ー`)(人間がそんな高尚な生き物かね? 基本、人間かどうかより、その知性の人柄が重要だと思うんだけどなーと剣を振り下ろす顔)』

 

 亜人が人間扱いされない状況では正しく家畜以下と思う聖人なんて大量である。

 

 こんな調子なので本当は幾らか報道で情報工作の時に事件をでっち上げようとか思っていた蜘蛛達はその必要がない事に微妙な表情となりつつも、神殿の真っ黒な内実を全て詳細に記録。

 

 後で人類を絶望しながら降伏させる為の手札として完備して、犠牲者達を埋葬するやら回復させるやら転生させるやらと忙しく侵略に勤しんでいた。

 

 この間、たった3時間の出来事である。

 

『ガハ!? 亜人共の薄汚い体を人間様が使ってやってるだけじゃねぇか!? 何でオレ達がこんな目に合わなきゃならねぇんだよぉ!?』

 

『( ^^) _U(ホント、人間てピンキリだよな~あ、このお茶どぞーというか飲めと亜人達にしていたように毒薬を口に流し込んでみる顔)』

 

『あが、ごぼ、ごがばヴ―――』

 

『(・∀・)(君達みたいなごーかんまーは蜘蛛にするのも気持ち悪い。大人しく自国の肥料に成りたまえとクズ系不良を細切れにして土に混ぜる顔)』

 

 黒い神殿を20個程潰しつつ、西部の国を一つ掌握している合間にも更に進んだ超音速で飛行する天使蜘蛛達は次の国、次の国と夜間に襲来。

 

 最初期の神殿襲撃には転移を用いた蜘蛛達であるが、後は出来るだけ人側や亜人の被害が出ないように穏便に戦力を移動させ、逐一その国家の様子に合わせて侵攻を開始していた。

 

 国境では人間に化けて国境警備隊となり、通行と情報を遮断し、昼間は何事も無かったかのように偽装。

 

 国家全域で魔導による通信を断絶させて、一晩で7つの国々を掌握。

 

 浸透していく蜘蛛達は夜になるまでは村や町々の傍の山林に潜伏し、次なる夜を待ちつつ、糸蜘蛛で死にそうな亜人達をひっそり、こっそりと助けて現状維持に腐心した。

 

『(。-∀-)(う~ん。人類の愚かさに絶望して、魔王になりたい人間の気持ちが分かるようなラインナップだなーという顔)』

 

 亜人を滅ぼしながら利益を得る構造は蜘蛛達が綺麗サッパリ敵を利用するのに似ていたが、悲鳴とか怨嗟とかを長引かせる程に悪趣味ではない。

 

 自分達も蜘蛛脚でもっと魂を瞬間的に変質させられるよう改良せねばという螺子が抜けた倫理観を発揮した蜘蛛達は黙々と国々を蹂躙しながら歩を進め。

 

 ありがたく倫理観ガン無視技術を収集し、それの“全うな利用方法”を模索する事として、研究資料は記憶に焼き付けて消却。

 

 ササッと現在魔王軍対処の為に連合軍を組織していた国家のあちこちを虫食いにしてバレぬようにこっそりと通信手段の乏しい大陸を平らげていく。

 

『ひ、な、う、ぁああああああああああ!!!?』

 

『た、たひけ、たひけへぇ……』

 

『ひ、ひ、ひぎぃいいいいいいい?!!?』

 

 兵士、魔導師、人間側に着いた亜人。

 

 彼らがどれだけの威力を発揮しようが、個人で大陸を吹き飛ばすような実力や兵器でも持っていない限り、数の暴力の前に沈む以外無かった。

 

『まさかまさかまさか!? 本国と連絡が取れない!?』

 

『こ、こちらもだ!? 何故だ!? 誰でもいい!!? 誰でもいいから応答しろ!? 応答してくれぇえええええ!!?』

 

『魔王は最後に何を召喚したのだ!? 何をっ―――』

 

『馬車を牽けぇええ!! 本国に帰還する!!』

 

『転移方陣を敷ける者達を集めよ!!』

 

『祖国を護るのだ!! 祖国を!!』

 

 こんな事を言っていた大陸の指導層の一部。

 

 逸早く本国に帰還する方法を持っていた者達は地獄を見る事となる。

 

 燃やされた神殿。

 

 劫火に沈む王城。

 

 蜘蛛達によって繭にされた者達が荷馬車に積まれ。

 

 各地の貴族階級達の全てが一斉に襲撃を受け。

 

 崩壊した国家の治安を束ねるのは蜘蛛達であった。

 

 崩れ落ちた者達は多数。

 

 家族や親族は恋人は……一族は……無事なのか?

 

 そう思う彼らの前に現場の貴族階級、商業階級の中でも亜人利権に手を染めていた者達を手錠で列に繋いだ蜘蛛達がやって来れば、彼らの答えは一つだ。

 

 己の全てを掛けて死を厭う事無く懇願し、嘆願し、首を落とされる覚悟。

 

 それが出来た者は多くなく。

 

 それが出来て尚、終焉の軍隊を前にして威勢を張れた者は無い。

 

 懺悔、後悔、全ては遅い。

 

 だからこそ、蜘蛛達は彼らに看板を押し付ける。

 

 何もかもを投げ出してお前達を止めようとした亜人を前にしてお前達は一体どんな答えを返していたんだ?と。

 

 だが、蜘蛛達に理性があると彼らも知る。

 

 連行される列に子供や家族の中でも関係ない者が混じっていなかったからだ。

 

『(^-^)/(天使蜘蛛は天使の出来る事は大体出来るから、嘘は無駄だよ。心を読めば、一発だしねと看板に書く顔)』

 

『………縛に付こう』

 

 こうして、各国は瓦解していった。

 

 地域を護ろうとしようとした兵達の多くは遂に威容を露わにした蜘蛛の軍勢が空を地を正しく埋め尽くすように進軍する様子に戦意を喪失。

 

 城塞都市や要塞都市の類の大半が蜘蛛達による合理的で理知的で無慈悲な要求を受け入れる以外に無かった。

 

 都市の壁が1日も持たずに蜘蛛達に解体され、それでも要求に対する答えが返って来るまで蜘蛛達はまったく都市に入って来なかったからだ。

 

『……ッ……ッ……うけ、入れよう……だが、民への略奪は……』

 

 言われなくてもそんなのする必要もない蜘蛛達は民間人も軍人も無く。

 

 次々に心の底まで彼らの精神を解析しながら、記憶を覗いて、必要なだけの罰を課していく。

 

 開放された亜人達にしても、憎悪で誰かを殺そうとすれば、蜘蛛達に諌められ、自分を直接加害した者達以外への復讐は厳禁と戒められた。

 

 それは為政者の仕事でお前らの仕事じゃない。

 

 もしもやりたければ、魔王軍の部署に入れるように努力してねと言われては頷くしかなかったのである。

 

 嘘は意味を成さない。

 

 元々持っている呪紋でも精神や記憶を見られるし、魔力や他の技能にも心理状態を覗く技能は山程在るし、天使の能力を受け継ぐ天使蜘蛛はそもそも人間の心をナチュラルに読めてしまう能力があった。

 

 元々蜘蛛達が持っている精神窃視系呪紋は本来がアルマーニアの拷問官とか上層部の一部の顧問が持っていた代物だ。

 

 それらも合わせて相手の心理状況を確認出来る天使蜘蛛達は正しく人に嘘を許さない最強の調査者であった。

 

『(´▽`)(はーい。身分別に列へ並んでねーという顔))

 

 優しく糸で操り人形にして身動き出来ないようにした戦闘系人材達を壁に立たせている館の一室。

 

 次々に無力化された者達が運ばれてくる。

 

 民間人までもが亜人へしてきた事に対しての罰として記憶を覗かれながら精査されていく政庁の一角では彼ら天使蜘蛛の選別が行われている。

 

 人格矯正が必要無い個体は他の部屋で即時殲滅。

 

 もしくは蜘蛛化、幼女化された。

 

 それ以外は一律に罪に応じて相応の罰が下され、国民の公的なプロフィール情報として保管される事になった。

 

 罰は元々現地にある法律で裁けなければ、今後魔王軍が統治した際の法で裁く為に執行猶予で保留される。

 

 その光景は正しく悪夢以外の何物でもない。

 

 事実上、何処の国も割合的には国民の5割は放置。

 

 2割は蜘蛛化。

 

 1割は幼女化。

 

 1割は即殺処分。

 

 残る1割は政治犯として投獄という事になった。

 

『こ、こんなことをして許されると思うなよぉ!? 私はこの国の大臣なのだぞ!? あらゆる国民は私の―――ゴゲ?!』

 

『(´▽`)(すげーよアンタ……この国で一番の権力者が一番亜人を差別せず、国民を全部自分の奴隷って一括りにするとか。悪党程、区別はしないのねと口に剣をねじ込んで蜘蛛にしてみる顔)』

 

『ひゃははっ!!? これが滅びかよぉ!? 馬鹿みてぇだなぁ!? 今までオレ達はここ等じゃ負け無しの山賊だったんだぜぇ? 蜘蛛さんよぉ♪』

 

『(^-^)(ヨシキタ!! 誰も彼も区別せず鏖にして来た君達は亜人差別とは無縁の戦闘狂だ。蜘蛛にしたら、真っ先に人助けしか出来ない地位に置いてあげようと首を蜘蛛脚で飛ばす顔)』

 

 制圧された国家では次々に黒蜘蛛の巣が立ち上がり、監獄もしっかり完備され、変貌した“まだ蜘蛛にしていい層”から引き抜いた者達が看守となった。

 

 凡そ3日で大陸の半分の国家が落ちた事を国の長ばかりが知らないという事実を以て大陸の制圧はほぼ完了。

 

 ドラマなんてまったく無く。

 

 見所なんて在りもせず。

 

 只管に各国の守備隊や軍隊が何も出来ずに何が有ったかも分からず、糸で蹂躙され、目の前で頭を覗かれて蜘蛛化していく様子だけが各地では展開された。

 

『へ、へへ、全部蜘蛛になっちまった……何だよ……オレ達が何したってんだよ……ただ、亜人共を国境に入れなかっただけじゃねぇか!? 何―――』

 

『(T_T)(今みたいに他国の軍隊に亜人が鏖にされるの見てたでしょ。君は見てたけど、助けようとはした。だから、蜘蛛にもせず人間のまま終わりを見届ける係だよという顔)』

 

『う、ぁ、ぁああ、ぅあああああああああああああああああ!!!?』

 

 ナチュラルに蜘蛛絶対殺すマンを「クモコワクモコワ」としか言えない廃人にしてしまう彼らにしてみれば、精神薄弱系人類なんて敵ですらない。

 

 だが、反抗者は後を絶たず。

 

 人類ってホント勘違いする人が多いなーと彼我の実力差が分からない連中に“優しく”蜘蛛達は各地で付き合っている。

 

『今、我が魔力を全て開放した。もはや我れの前に敵は―――』

 

『(。-∀-)(きょーしゃかん“しか”ねぇなと普通に殴って沈黙させる顔)』

 

 魔力が人の百倍あります→ソレ蜘蛛の何%なの?とか。

 

『オレにこの技を使わせるな……これだけは使わぬと決めていたというのに……いいだろう……後悔するがいい。オレを敵にした事を―――』

 

『(^-^)(その音速の7倍程度の剣技で蜘蛛にどうやって当てるんです?と普通に殴って沈黙させる顔)』

 

 オレの剣技は最強過ぎてツレェわ→当たらないんですけど……とか。

 

『私は閃光のザイファー……大陸最速の男……貴様に我れを捕らえ―――』

 

『( 一一)(マジで二つ名を名乗るだけの一般人が多過ぎる。そういうのは手柄を立てて他の連中から言われてから名乗らないと恥ずかしくない?と普通殴って(略)』

 

 私は光速を超える男だぜ!!→いや、おっそ……何でもありません、とか。

 

『ふはははは!! 我が最強の魔導方陣を喰らうがいい!! おお、暗黒よ!! おお、太陽よ!! 我が手に宿りて混沌を成せ!! 【混沌創生カオス・フォース】!!』

 

『(=_=)(核融合すら起こせない炎と真空領域を生成するだけなのね。つーか、真空じゃ威力範囲からして熱量通らないから直撃させないとダメってやたら当てる難易度高くない?という顔)』

 

『ば、馬鹿な!? 我がカオス・フォースは大陸最強の魔導だぞ!? 何故だ!? 何故直撃して貴様は―――』

 

『(・ω・)ノ(あ、5000度くらいは許容範囲だよ。今の二倍からが避ける基準だから……現在の蜘蛛の耐熱限界温度は直撃させてもこの温度だと体内機能で普通に対処出来るから意味ないよという顔)』

 

『う、嘘だぁああああああああ!!? 我が200年の研鑽がぁあああああ!!?』

 

『(=゜ω゜)ノ(後200年頑張れという顔)』

 

 我が最強の魔導を喰らうがいい!!→食らったけど、その……何処が最強なのかお聞きしても?とか。

 

『( |ω| )(この大陸の人類ダメ過ぎる……先進大陸はまともに戦争しても不確定要素が多過ぎるから経済攻撃とかに切り替えてたみたいだけど、彼らって本当は強敵だったんだなーと先進大陸が何故先進大陸と呼ばれていたのかをしみじみ実感しつつ、悪党を撫で切りにしていく顔)』

 

 各地の癖強戦闘系人材の大半が一般的蜘蛛に何一つ性能でも技能でも魔力でも資質でも勝てない時点で勝敗なんて語るまでも無かった。

 

 マンガにしてみれば、蜘蛛が最強になってしまった世界とか。

 

 そんな題名が付いてしまいそうなくらいに詰らないチート無双蜘蛛列伝である。

 

 彼らと蜘蛛達の間には次元、桁の違う格差があったのだ。

 

 途中、自称勇者の仲間とか。

 

 勇者を知ってる結構強い人材とか。

 

 地域くらいなら吹き飛ばせる系実力者とか。

 

 そういうのがいたのはいたのだ。

 

 しかし、彼らに神殿や民間人のやっていた事を映像や音声、その他……大量の状況証拠を脳内に叩き込んだら、護るべき人々が亜人差別どころか、虐殺どころか、同じ言葉を話す生命体にするとは思えない所業に沈んでいた事が発覚して発狂。

 

『嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だぁああああああああ!!?』

 

『(´・ω・`)(でも、君が助けた亜人幼女達、神殿の保護施設から加工場に一直線で今や物言わぬ“意識だけしかない肉の塊”にされて魔力生産用プラントの部品として生かされてたんだよねと映像を無理やり相手の脳に波動で送り付ける顔)』

 

『うぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ―――』

 

 とある島の少年の1%にも満たないだろう絶望に沈んだ。

 

 多くの良心有ります系人材は自分がやってきた“護る”が、誰の何を護って来たのかを悟ってしまい。

 

 最後には物言わぬ廃人と化したのである。

 

『ぁ、ぅ……ぁ……』

 

『(^-^)(君達が護って来た邦は亜人の幼女達を部品にして得た魔力で君達を補給してたんだよ。君達は幼女達を救ったという快感を得て、あの子達が涙を零してタスケテって言ってる間も『あの子達は幸せに生きていますよ!!』とか“立派な祖国”の戯言を信じて何一つ疑わずに犠牲者の列に君達を信頼して笑顔を向けていた子供達を送り込んでたのさ。まったく、君達は悪魔より悪魔的な人の希望を踏み躙る性質の悪い笑顔の偽善者さ♪と脳裏に致命傷を叩き込む顔)』

 

『―――ッ―――ッ』

 

『(;^ω^)(後で蜘蛛になるか幼女になるか選ばせてあげるねと優しさを発揮する天使のような悪魔的蜘蛛の顔)』

 

 ある意味、良心があるだけマシなので、彼らはしばらく大陸の制圧が終るまで絶望しててねと民間人の群れに放り込んで放置された。

 

 こうして蜘蛛の大陸制圧劇はナンヤカンヤ在りながらも、結局は人類ちょっと調子乗り過ぎじゃね?という蜘蛛達のドデカ掣肘によって今までの常識と倫理を吹き飛ばされ、7日を待たずして完了した。

 

 魔王軍が可愛く思えるような絶望を大陸の人類に植え付けたのである。

 

 分断され、情報が入らない各国は一週間を待たずして大陸制圧の報道を世界のあらゆる地域の空に展開された巨大な映像によって知る事となった。

 

 それを見た亜人曰く。

 

『何という事だ!! 神殿は亜人の孤児を肉塊にしてまで魔力が欲しいのかぁ!?』

 

 曰く。

 

『王国は亜人工場と称して女達を孕ませ、赤子を加工して魔導の、儀式の材料にしたというのか!! 何だソレは!? 何なんだよぉおおおおおおおお!!?』

 

 曰く。

 

『王侯貴族の女共の為に幼い赤子の血で風呂を沸かすのか!? 外道めぇええええ!! 殺してやる!! 殺してやるぞ!! ニンゲン!!!?』

 

 曰く。

 

『亜人も人も無い!! この恐ろしき怪物共を殺さねば!! 我らに未来は無い!!』

 

 何も知らない民間人も何か知ってる公僕も人間の醜さ一杯悍ましさ一杯のパンドラの箱を世界規模でブチ撒けられては堪らない。

 

 人という分類で生きているだけで恥ずかしい世の中の到来である。

 

 こうして今まで亜人差別で悠々自適生活を送って来た人々は亜人達の憎悪が自分達をどれだけ焼くものか想像し、あまりの衝撃に誰も彼も今までの亜人差別全開の思想を垂れ流せなくなった。

 

 それがどれだけの亜人達の怒りを買い。

 

 己の命を、家族を、親族を、仲間を、恋人を、殺し尽くして止まらぬものか。

 

 理解出来てしまったからだ。

 

 亜人を殺しても何とも思わぬ者すらも悍ましいと感じる程の行為が平然と隠蔽されて大規模に各国でやられていた。

 

『う、うそだろ。なんだよ……なんだよ……これ……しんかんさまが……こんなあじんをごうもんしてたのしんでたなんて……嘘だよ……こんなの……』

 

『ひ……あ、亜人とはいえ、こ、こんな……頭の中身だけで生かされて、体を怪物の材料にされるなんて……こ、これが……神殿のやる事なの?』

 

 証拠付きの映像が空の大画面一杯……大量に公開され、大陸人類の罪が明るみにされた以上、倫理も道徳も叫ぶ厚かましい“全うさ”は一部の者にしかなかった。

 

 それこそが神殿の熱心な狂信者層であると知れ渡れば、神殿の周辺人物達から次々に人が離れていくのも無理からぬ話だろう。

 

 昨日、愛を囁いた相手だろうとも、神殿関係者ならば別れを告げて逃げられるのが人間というものである。

 

 彼ら神殿関係者が社会から孤立化し、幼女にも蜘蛛にもされず、放っておかれたのはこうなるのを蜘蛛達が予想していたからだ。

 

 見て見ぬふりは大罪ではないが、罪なのだと彼らはようやく蜘蛛達が自分達に何もしなかった理由を悟る。

 

 つまり、蜘蛛が裁くまでもなく。

 

 社会に裁かれる彼らに罰を下す手間も暇も惜しい蜘蛛達が手を下す必要は無かったという事であった。

 

 神殿で孤児達を何とか養育していた心有る教育者達すらも子供達に怯えた瞳で見られ―――。

 

『……シスター……シスターも僕達を……』

 

 そう言われて、心が折れた。

 

 亜人の友達が……差別などまだ分からないという頃から自分の傍にいて、消えてしまった亜人の誰かが……そうなったのではないかと。

 

 自分もそうなるのではないかと疑う眼差しはもはや神殿の権威が地の底に落ちた事を露わにして、完全に神殿を形成する人材達の信念と信仰を砕いた。

 

 神への帰依と人々の不信。

 

 天秤に掛けたら重いのはどちらか?

 

 9割と1割で割れた。

 

 どちらが重かったのは言う必要も無いだろう。

 

『信仰を捨てる以外に……人々と共に生きる道は……』

 

 そんな事は知らなかった神殿の信者達も神殿の真っ黒な情報を延々と垂れ流されては気が滅入る以上に開き直れなくなった。

 

 何処かで思っていたのだ。

 

 魔王が統治していた時代のように自分達は戦争とは無縁で居られる。

 

 それが間違いである事は世界規模での報道で誰もが自覚するに至った。

 

 そもそも魔王が神殿の悪事を公表しなかったのは単純に社会的なインパクトがでか過ぎて、社会の崩壊や不用意な騒乱で人死にが出るのを懸念したからだ。

 

 今やそんな事を気にする魔王軍関係者は上層部が壊滅したので一人もなく。

 

 知ってすら蜘蛛達には『(・∀・)(ホント調子に乗った人類て醜いよなーという顔)』になるくらいの感覚でしかなかった。

 

 彼らは魔王達と違って割り切りの良過ぎる面がある合理主義者兼現実主義者であって、人社会の葛藤に面倒な調整を入れてやる程、優しくない。

 

 そういうのはスッパリ自分で精算してね。

 

 というのが彼らのスタンスであった。

 

 問題が人々の間で社会的に解決されれば、その合間にある他人の地獄に興味何て無いというのはまったく“人間似の精神構造”に違いないだろう。

 

『神殿関係者を殺せ!!』

 

『王侯貴族を吊るせ!!』

 

『奴らに与した者達を一人残らず狩り出して、地獄の鍋に投げ込んでやれ!!!』

 

 亜人達の憎悪を一身に受けた神殿や社会上位層の者達の大半……殺される事もなく、幼女にも蜘蛛にされなかった者達は最後に残った良心で自殺を選ぶか。

 

 あるいは逃げ出すか。

 

 もしくは自分が神殿関係者や当人である事を隠し、夜逃げした。

 

『貴方、神殿長ですよね!? 神殿長!?』

 

『違います!? 違います!!? 私は関係ありません!!? 助けて蜘蛛の衛兵さん!!?』

 

『あ、お前は国王の側近の!!?』

 

『違う!? 人違いだ!? わたしはただの坊主だぞ!? 見ろ!! 死んでも剃らんと公言していた髭も髪も無いじゃないか!?』

 

 終始こんな感じで神殿から人は次々に離れていった。

 

 残存部隊、逃走者、反抗戦力。

 

 そんなものは無かった。

 

 何故かと問う必要もない。

 

 制圧された地域に蜘蛛がカバーしていない、蜘蛛があらゆる方法で認識していない領域は存在せず。

 

 逃げ場所なんて何処にも無かったのだ。

 

 此処一週間ほどで大陸行脚を終えた召喚ペカトゥミアが北部に戻って来ると殆ど何も知らない魔王軍がこれから大陸を魔王軍の手で取り戻すぞーとか気炎を上げており、訓練にも身が入っているようだった。

 

 さすがに水を差すのは気が引けたものの。

 

 事実を話さないわけにもいかず。

 

「(´・ω・`)その……それもう終わったよ?」

 

「「「「え!?」」」」

 

 四人の大隊長達はそう呆けて、慌てて姫の所へと走っていくのだった。

 

 *

 

「……大蜘蛛様達は本当に凄いですね」

 

 戻って来た召喚ペカトゥミアを私室に呼んだ姫の第一声は何処か悲し気であった。

 

 黒蜘蛛の巣の街並みが見える中央塔。

 

 その一室で真っ直ぐに街並みを行き交う人々を見ていた彼女の瞳に映るのは何か。

 

 神ならぬ蜘蛛には分からない。

 

「父は言っていました。世の中に絶対も完璧もありはしない。神すらそうだと」

 

 大陸は混沌に沈み。

 

 今、新たな秩序に向けて歩み始めようとしている。

 

「でも、一つだけは否定しませんでした」

 

「(´・ω・`)(なんだろという顔)」

 

「愛だけは絶対にも完璧にも値する。それを生み出した人という種族から分かたれた亜人もまた次なる時代に向かう人の一系統だからこそ、それが理解出来るのだと」

 

「(´▽`)(案外、あのおじさんもロマンチストだったのねという顔)」

 

「ふふ、そうですね。父は長い事、神話の時代から生きていた一族最後の神の時代を知る人でした。大昔、我らの一族はこの大陸の神の下、慎ましくも穏やかな日々を生きていたそうです」

 

「(・∀・)(その頃はどんなだったの?と尋ねる顔)」

 

「何てことない風に吹かれて、何もない野山の長閑さに目を閉じるだけの日々。亜人も人もその頃は共に手を取り合い生きていた。不便はあったし、今よりも多くの物事が遅かったような気がすると言っていました。でも、幸せな日々だったとも」

 

 振り返る少女が大蜘蛛を見やる。

 

「大神達は人々の進歩こそが、世界を豊かに良きものにすると考えていた。でも、その頃の父には納得出来なかったそうです」

 

「(・ω・)(ま、だろうねという顔)」

 

「父は加速する時代に否を唱えた。仕えるべき神が滅ぼされつつあった時代。大神に対抗せんと魔王になった。堕ちた天使の力は神に太刀打ち出来ぬ程に弱まり、それでも……戦う事を選んだ」

 

 少女が部屋の片隅に立て掛けてあった父の遺品。

 

 その鞘に収まった剣を腕に抱く。

 

「楽園は無かった。造るしかなかった。それも不完全にしか過ぎない。終わりは見えていた。一族の者達の力は次世代になる程に失せていき。最後には亜人にも近しくなり、父が最高齢となった頃……父はようやく悟ったのです」

 

「(・ω・)………」

 

「人と共に生きねばならないのならば、人と共に滅ばねばならない。でも、それでいいのだと。神々の戯れに造られ、時代を築いた幾多の種族。魔導を発明した者達も今はいません。それは父が滅ぼしたから……神々の力を合理化する極致の力。それが暴走した時、大陸が滅びそうになったのだと言っていました。生命そのものを砕いて精錬し使う魔導の技……それは知性ある命の断末魔を根源にして、更なる力を得ようとする禁忌にまでも到達したと」

 

 それは在り得そうな出来事に蜘蛛には思えた。

 

「父は一族が、亜人が滅びるのもまた受け入れていました。でも、同時にまた超えられない破滅を超えて生きようとする命の力も信じていた。今回だけではないのです。神聖国家を滅ぼしたように多くの種族が神の命により、進み過ぎた技術と文明の力を高め……その力そのもので己の滅びに圧し潰され、何もかもを巻き込もうとする度に消さざるを得なくなった」

 

 剣がゆっくりと蜘蛛に差し出される。

 

 その前で姿を少年のように変えた彼が真っ直ぐに少女を見やる。

 

「わたくしはそれを聞く度に思っていました。自分達もいつか……と。次は我々の番だとしても構わなかった。けれど、父が最後に貴方を召喚した。それはきっと命の可能性を信じていたから……神の頚城を脱し、世界の破滅を超えて、生きていける生命を……」

 

 彼女の瞳が閉じられる。

 

「お名前をお聞きしてもよろしいですか?」

 

「(/・ω・)/つーけーてー」

 

 そう楽し気に蜘蛛は言う。

 

「分かりました。命継征く者……騒がしくも妖しき傾奇なる貴方。古の旧き者達の言葉にて……貴方は……シェナニガン。シェナニガンです」

 

 21角の中心に刻まれた印が、呪紋が消えていく。

 

 いや、沈み込んでいく。

 

 それと同時に蜘蛛なる少年は自分の額の枷が消えるのを確認する。

 

「……シャナニガン様。お受け取り下さい。父の剣は神世の鍵……この大陸と天の領域を繋ぐ鍵……この大陸に封じられし、今は朽ちたままの神が安置された場所への標となるもの」

 

 召喚ペカトゥミア。

 

 否、シェナニガンと命名された少年が剣を執る。

 

「もはや、嘗て仕えていた神は意識すら保てない程に消え掛かっており、事実上は大陸の封鎖以外の事は出来ません。ですが、天の領域に父が封じた大神は本体が消滅して以降も分体として死体のままに活動を続け、今や領域内部に己の眷属を無限にも等しく内包している事でしょう」

 

「(・ω・)ノ(この間、あっちからの“門”は破壊したから、後はこれだけ?)」

 

「ええ、恐らく同じ天の門を創るには時間が掛かる……」

 

 沈黙した少女に少年が首を傾げる。

 

「………全てを承知で、全てを理解した上でお願い申し上げます……嫌な女と謗って下さって構いません。貴方達の強さが神に未だ及ばぬと理解しながら言うわたくしの……残酷さをどうか非難して下さい……っ」

 

 涙一粒。

 

「復活せし、大神の残渣……【大天侠】オールッドを討伐して下さい……先日の天使の到来……恐らく神の目覚めまで後僅か……そうなれば、今この大陸の亜人も人も全ての命が……神の企みによって、いい様に使われる駒となってしまうでしょう。父の話では……封じられた神の最たる力はどんな命をも戦に駆り立てるもの……」

 

 彼女の瞳には意志の炎が灯る。

 

「先兵として大陸の全生命を己の享楽の為に使い潰さんとする狂える戦の神を討って下さい!!」

 

「(/・ω・)/こころえたー」

 

「ッ……ごめんなさい……ごめんなさい……貴方達には関係の無い大陸の為に……こんな事……」

 

 少女の頭が片手でポンポンされる。

 

「(・ω・)ノちちがいってた。すきなおんなのねがいひとつかなえられないおとこになにもまもれなんてしないって」

 

「―――」

 

「(。・ω<。) かえってきたら、えんかい……よろしく、ね?」

 

「ッ……はい。はい!!」

 

 クシャクシャな顔の少女に抱き着かれて、ヨシヨシした蜘蛛である。

 

「「「「~~~~っっっっ」」」

 

 それを扉の背後で涙を零しながら歯を食い縛り、拳を震わせ、聞き入る大隊長が四人……彼らにも分かっていた。

 

 どれだけ強くなっても、蜘蛛一人にも敵わない自分達に出来る事は……この地で姫を死守する事だけであると。

 

 その日、正当なる継承者は魔王の証を受け取った。

 

 蜘蛛が世に地獄を齎し、新たな時代へと向かう大陸。

 

 人々は天使蜘蛛達が空に映し出す世紀のラブコメを閲覧し、自分達がどうなるか。

 

 未来は一人の蜘蛛……否、新しい魔王にして蜘蛛の勇者に託された事を知る。

 

 神殿、貴族、王家、商人……今や身を隠し、死を選び、絶望の淵に沈んでいた全ての者達が天に映し出された現実を前にして、怒れもしなくなった。

 

 自分達は不幸なんだとそう叫び続けるのは簡単だ。

 

 そして、それを叫んだところで誰も助けてはくれない。

 

 でも、それでも、これ以上の絶望が等しく全ての命を降り掛かる。

 

 それを破滅だと言うのならば、破滅してしまえと叫ぼうとして……嘗て、自分に優しかった誰かを思い出し、その誰かだけは生き残る、なんて……あるわけもないと気付き。

 

 あまりにも理不尽に全てを奪われた者達は亜人達のように消え入りそうな姿で必死に声とする。

 

 まだ、残っていた良心によってか。

 

 あるいはただの本心か。

 

「たすけて……くれ……」

 

 その叫びは天に届かない。

 

 けれど、確かに蜘蛛達は認識していた。

 

 大陸に彼らが知らない場所も見ていない所も聞いていない領域もありはしない。

 

 だからこそ、届くのだ。

 

 その人の心の底からの願いは―――。

 

『だれか……あの人を……』

 

『あの子を……』

 

『彼を……』

 

『彼女を……』

 

 誰もが一生懸命に喉の奥から呻くように呟く。

 

 それは誰かの為だった。

 

 自分の事よりもただ自分の大切な誰かの為に呟く。

 

 誰でもいいから、あの人をタスケテクレ、と。

 

『(^ω^)(何だ。分かってるじゃない人類という顔)』

 

 それを聞いた蜘蛛は思う。

 

 今こそ謳おうと。

 

 蜘蛛達の口から紡がれる音色が世界を覆う。

 

 終焉に向かう大陸に響くのは魔王が少女に笑顔を取り戻して欲しくて謳う何処か物悲しくも希望に向けて歩く人の賛歌。

 

 とある少年が自分を受け入れてくれた人達の為に無限の旅をして、無限の絶望に出会い、それでも諦めず、誰かの為に戦い続ける話。

 

 それは祈りでは届かず、ただ力のみよって届くと知って、己の全てを削り、命と魂を捧げ……一塊の鉄の如く己の幸福と未来を焼べて鍛えた剣となる話。

 

 だから、その“父”は尊いのだと。

 

 その子である自分達が無様を晒せはしないのだと彼らは悟り尽くした人の果ての一端として、世の絶望と希望を謳い誰もに教える。

 

 醜悪なる運命。

 

 失望と後悔。

 

 汚物のような人生に塗れても尚、此処に希望だけは置いておく。

 

 その先は手に取る者次第だと。

 

 大陸に響いた唄は確かに全ての命に届き。

 

 胸に何かを刻んで残した。

 

 凡そ、7割の人々が涙を零し、蜘蛛達はまだ大陸の人類は見捨てる程に酷くないらしいと知る。

 

「(;´・ω・)(……おかーみがつくってくれてたごはんつくってくるかなーという顔)」

 

 当事者の姫には一切許可なんて取らないプライバシー0放送の事が本人に伝わるのはまだまだ先の話に違いない。

 

 それも伝える人々がいればこそ可能な出来事だ。

 

 故に蜘蛛達は一人の少女が恥ずかしさで寝込んでしまうような優しい未来が来るように次なる戦場に向かう準備を始めたのだった。

 

 無論、比喩であって、別に姫に“まだ”特別な感情を抱いていたりしないシェナニガンはそんなに抱き着かれる程、喜んでくれるとは思わなかったという感想を抱いただけなのを蜘蛛達以外は知らない……。

 

 *

 

「………勇者、か」

 

 空に浮かんだ新たなる魔王。

 

 あるいは亜人の勇者の恋物語。

 

 それを見終えた少年は今正に周囲で村々の人々と新しい商売をしている蜘蛛達を見やる。

 

 逃げ込んでから随分と経った気もする。

 

 それ程に長いはずはないのに逃げ込んだ村は蜘蛛達に襲われるでもなく。

 

 代表者に対して蜘蛛達は亜人奴隷の開放と今後扱いを平等にしない場合、魔王軍の名の下に庇護しない旨を宣言し、次々に村長以下多くの者達がその言葉に頷かざるを得なくなった。

 

 村にいた亜人奴隷の多くが歓びに沸き。

 

 共に新たな魔王のお膝元へと消えた後。

 

 人間の敗北と悍ましき事実を空に見た人々は絶望し、神殿の祠が打ち壊されるまでになり、追い打ちのよう降って湧いた魔王の姫と亜人の勇者の光景は正しく何かを背負っている者の姿だと誰にも見えたのだろう。

 

 勇者一向である彼らを蜘蛛達は確認したが見向きもせず。

 

 適当に放置しているのを考えても何一つ彼らに出来る事は無かった。

 

「勇者殿……」

 

「止めて下さい。将軍……今や空に浮かんでいた相手の方が勇者ですよ。きっと……」

 

「それは……」

 

 命を賭して最後の報告を祖国にした男にしても、神殿と多くの者達が亜人にしていた悍ましい行為を白日の下に晒され、次々にその人間達の末路を見せられては憔悴する以外無く。

 

 勇者一向の誰もが自分達の今までして来た事を己に問い直さざるを得なくなっていた。

 

「オレ……蜘蛛にされてないとオカシイ立場なんです」

 

「それはどういう?」

 

「あの幾つかの神殿で見た技術には覚えがあります。オレ達が各地で発掘して、神殿に齎した知識や技術、道具……その……結果が……っ」

 

 彼が片手で顔を覆う。

 

「ずっと、オレは何も考えてなかった。ただ、神殿に褒められて……ただ、新しい冒険の先で自分がスゴイんだって思ってた……でも、実際にはオレのせいで大勢の亜人達が死んでいた。大勢の子供も赤子も……全部……オレが……何もしなければ、生きていたはずの……っ」

 

「勇者殿……」

 

 彼の背後。

 

 空を共に見ていた一向もまた暗い顔となっていた。

 

 世界に響く蜘蛛の賛歌。

 

 誰かに助けてと言わせてしまった彼らは罪人以外ではない。

 

「魔王が大勢を殺したのは事実です。オレはどうしても許せなかった。あの子の父親と母親を奪った魔王が、故郷の大地から作物が取れなくて嘆いていた両親の顔を曇らせたアイツが……空を隠してしまった事が……でも、蓋を開けてみれば……アイツは全てを知っていて尚人を殺し、滅びを回避しようと戦っていた。オレに付き合わせた仲間や大勢の人達……その行いの結果が……あんな……あんな悍ましいものとして……誰かの命を奪っていた!!」

 

 声を掛ける者は無い。

 

 それは勇者一向も将軍も同じだった。

 

 彼らが今までしてきた事で祖国の裏側で行われていた事は正しく吐き気を催す邪悪だった。

 

 彼らに少なくとも正義は無かった。

 

 彼らが自分に誇れるだけの正義は見せ掛けにしか過ぎなかった。

 

 ソレは事実でしかない。

 

「オレは確かに何も知らない子供だった。力があるだけの子供が魔王を倒した……倒した結果として大勢の仇は取れたかもしれない。でも、オレのせいで死んでいった、酷い目にあった亜人達の仇は……あの蜘蛛の勇者がきっと取るんです……」

 

「………」

 

 泣きじゃくる事も出来ず。

 

 落ちる雫を止められもせず。

 

 少年は独白する。

 

「魔王は言ってた。オレには何も変えられないと。その通りだった……オレには天使の軍勢を倒す術も無ければ、神に喧嘩を売る力もない。自分より大きな力を持つ相手に立ち向かっていく勇気だけはあると思ってた。でも、勇気だけじゃ変えられない事を……あの蜘蛛達は変えていた。オレの罪を止めて、大勢の命を救ってくれていた……」

 

 膝を折った少年が拳を地面に打ち下ろす。

 

「何が勇者だよ!? 馬鹿馬鹿しい!!?」

 

 何度も何度も拳が打ち下ろされる。

 

「オレ、亜人の子ににーちゃんて呼ばれてたのに!! あの子達だって救えると思ってたのに!! でも、実際は―――救ってたんじゃない!? 助けてたんじゃない!?」

 

「勇者殿。止めよ……」

 

「殺してたんだッッ!!?」

 

 ドワーフの老人がその腕を背後から抑える。

 

「オレは、オレは……大馬鹿野郎だ!? 四天王の連中がオレと戦っていた時、何で……何であんな表情だったのか!? ようやく分かった!! アイツらはオレを敵として見てたんじゃない!! 神殿に操られた可哀そうな人形を憐れんでたんだ!!」

 

 もう拳を振り下ろす気力も無く。

 

 項垂れた少年は気付いてしまっていた。

 

 魔王が自分に向けていた表情もまた同じだったのだから。

 

「大陸を、世界を護る……出来ると思ってた……思ってたんだ……でも、本当に守ろうとしていたのは……護る為なら非道な手段も人殺しも厭わないアイツらの方で……オレはそんな人殺しを殺す為に選ばれただけの……お人形だった……魔王の言う通りの……」

 

「勇者……」

 

 エルフの女も。

 

「勇者殿……」

 

 魔法使いの男も。

 

 誰もが項垂れるしかなかった。

 

「マスターが言ってた事は正しかった……オレがもっと慎重で物事を考えるヤツだったら、もっと自分のする事の意味を理解しようとしてたら……こうはならなかったかもしれない……」

 

 腕を解かれた少年がクシャクシャの顔で大地を掴む。

 

「何だよオレ……カッコ悪いクズじゃねぇかよ……自分のせいで亜人の子達が死んでる間も勇者勇者って持ち上げられてっ……みんなから褒められるのが嬉しいってだけの……馬鹿なガキで……何も知らないまま戦って……仲間も死なせて……何も……何も……まもれてねぇ……んだよ……」

 

 初めて現実と事実を前にして砕かれた心。

 

 それを前にして一人。

 

 将軍もまた自分の人生を、今までの行いを振り返れば、全てが納得出来てしまった。

 

「勇者殿……何も貴方ばかりが絶望する必要は無いですな」

 

「え?」

 

「私は……大勢の自分より年若い命をこの戦争で殺してきた。亜人も人も無く。大勢です……きっと、王都に帰れば、断頭台に処せられるか。あるいは蜘蛛達の手前、牢屋に入れられるまでもなく亜人達の私刑に合うでしょうな」

 

「……将軍」

 

「勇者。みんな同じだよ。勇者一人の罪じゃない。死んでいったみんなだってそうだ。誰も知らなかった。でも、知らなかったじゃ済まされないよね?」

 

「ネーシア……」

 

 エルフの女がそう勇者の肩に手を置いた。

 

「八人の仲間達。だが、もうマスターも生きているのかどうか。残る我ら三人とお主で奴らの不名誉を、知らなかったで済まされぬ罪を晴らさねばならん。いや、ならぬだろう? 勇者よ」

 

「ゲンゼ……」

 

 ドワーフの老人が背中に手を置いた。

 

「勇者殿……冴えない魔法使いも償いくらいには同行致しますよ。出来る事をして、自分の為に罪を正すのです。誰かに殺されるまで。あるいは己に己でケジメを付けるまで。まだ、我らにはやれる事も成すべき事もあるでしょう」

 

「ウェスタ……」

 

 魔法使いの男が少年の前に立ち、手を差し出した。

 

「我らが罪人だと言うのならば、世界の終焉とやらの前にまずは己のしてきた事に対する責任は取るべきだろう。それが正義だったのか、正義を称した別の何かだったのか……それが人々にどう受け取られているとしても……その責任の取り方ならば、迷える我らに教えてくれそうなのがあそこにいるしな」

 

 将軍が皮肉げに街を警備する蜘蛛達を見やる。

 

「将軍……」

 

「我らに出来る事をするのだ。死ぬのも謝るのもまずは行動の後だろう。話をして来よう。それを見てから色々と判断するといい」

 

「あ……」

 

 村の護衛をしていた蜘蛛達に無造作に近付いていく男に手を伸ばし掛けて……少年が立ち上がった。

 

「……行こう。将軍を一人には出来ない」

 

 涙を拭った少年はただまずは脱出させた相手への責任を取るべきだろうと思い出し、そう顔を上げて鼻を啜る。

 

「それでこそ勇者だよ!!」

 

「そうじゃな」

 

「ええ、その方が貴方らしい。まずは……ですよ」

 

 こうして勇者一向が立ち上がる。

 

 それを全部知らないフリをしつつ聞いていた蜘蛛達は「(・ω・)ノ(ゆーしゃーもそのなかーまも中々やるじゃないという顔)」を隠しつつ、厳めしい感じに彼らへ受け答えする事とした。

 

 今、勇者一向に出来る事。

 

 それは………。

 

―――数時間後

 

「お、おまえらぁ~~た、助けてくれぇ~~」

 

『びぇええええええ!!? ましゅたぁ~~おしっこぉおおおおおお!!?』

 

『ましゅたー!? あっちでまたおもらしがゆーはつされているぞ!? かけつけなければー!?』

 

『ましゅたーごはんごはんごはん。おなかすいたのらぁああ!!?』

 

「マ、マスター?」

 

 天の助けとばかりにやってくる自分の剣の師匠に良く似た髪の美人な幼女が一人。

 

 泣きべそを掻きそうな顔で目をキラキラさせているのを見て、彼らは何か思ってたのと違うという言葉を喉の奥に飲み込んだ。

 

「しょーぐん!? アンタの部下なんだからなぁ!? オレの隠し子じゃねぇんだぞぉおお!? とにかく、てつだ―――」

 

『まじゅたぁあああああ、こぼしちゃったぁああああああ』

 

 引き攣った顔の将軍は大きく息を吐いた。

 

「これでも育児の経験はある。我が兵の成れの果て……やってやろうではないか!! 託児所だろうと我が兵ならば、統率してみせるとも!? はは、ははははは!!」

 

 カラ元気の初老の前に広がるのは人の軍の兵士達二十万人以上がいる黒蜘蛛の巣、居住区画内の託児所……いや、幼稚園であった。

 

 そうとしか言えるものではないだろう。

 

 蜘蛛達が最終的にはお世話もしているようだったが、幼女化した兵達は正しく小さな怪物としてあちこちで泣き喚き……マスターの統率力もそろそろ限界に近付きつつあるようであった。

 

 実際、我儘放題の兵士達は蜘蛛達すらも困らせていた。

 

『( |ω| )(“たいちょー”とか“へんきょーはく”……それにあいつらの部下ってスゲー奴らだったんだなーという顔)』に島の記憶を覗く蜘蛛達はなるしかなかった。

 

 如何に二大幼女が偉大な統率者だったのか、彼らの部下が良い子だったのか。

 

 それを噛み締めつつ、子供達に群がられて遊び相手になるやら食事の世話をするやらしていた。

 

 その大変さは戦闘どころの話では無かったのである。

 

 *

 

 数日後、多くの開放された亜人国では神殿関係者の摘発によって罪人が確保され、魔王軍の軍事裁判に掛けられるという事で北部の黒蜘蛛の巣。

 

 否、蜘蛛脚の巣と呼ぶべきだろう天使蜘蛛達の本拠地周囲に建造された軍事施設へと移送される事が決定し、次々に馬車で送り出されていた。

 

『これで人の歴史もお終いか……』

 

『我らの神が戦にあらゆる生命を駆り出すとは……』

 

『全て魔王軍の嘘に決まっているでしょう!!』

 

『そうだ。何を弱気になっている!! まだ、勇者様達がいるとも』

 

『次の魔王もきっと……我らが神を討ち取ろうなどと……魔王め……』

 

『だが、あの空の絵は……恐らく、本当だろう……』

 

『『『『『………』』』』』

 

 蜘蛛達が後は面倒を見るという事で決着が付いていた為、これで多くの亜人の国では人間の入植者をどうするかという話になっていたが、その多くは魔王軍の要請によって、人間の国々との今後の協定及び賠償と条約諸々の取引材料にするから、私刑は禁止、勝手に殺したり、傷つけたりするのも禁止、現状維持するようにと各国にお達しが出ていた。

 

 そのおかげで無暗に私刑にしようとする者は出ず。

 

 魔王軍に人間達の事は一任するという事でしばらくの間は人々は相互不信状態ではあっても殺し合いには発展しなかった。

 

『もはや、これまでか……』

 

『あの子達は……大丈夫でしょうか……』

 

『魔王軍に任せるしか、無いだろう……』

 

『神の名の下に人は……ああまでも醜く……』

 

『我らにも罰は下る、か……』

 

 蜘蛛達から『(・ω・)ノ(魔王軍です。しばらく天使の襲撃がある可能性を考えて駐留し、治安維持します)』という話も持って来られたので亜人国家側も理性をかなぐり捨てて人間を虐殺しようというところは出なかった。

 

 新しい魔王軍を名乗る天使蜘蛛達の軍隊は正しく亜人達にとって見れば、神話の世界の能力を備えた存在であり、逆らおうという気力などあるはずもない。

 

 まずは立て直しをせねばと魔王軍のトップとして現在内政を行っている魔王の姫からの書状も出ていた為、彼らは人間に構っている暇は無いというのが正しい現状でもあり、各地に建てられた黒蜘蛛の巣から搬出され始めた物資によって再建中。

 

 しかし、人間側の国々ではそう上手くはいかない。

 

『これからどうなるんだ……』

 

『魔王軍にみんな殺されるんじゃないのか?』

 

『滅多な事を言うな!? アレは……アレは……』

 

『神殿の奴らが悪いに決まってる!?』

 

『オレ達は関係ねぇ!?』

 

 蜘蛛達が治安維持活動をしている合間も亜人からの人間への暴行事件が多発しそうになっており、彼らを諌める蜘蛛達が威圧してようやく事が収まるという事が繰り返された。

 

 実際の被害にあった亜人達の憎悪は尋常ではなく。

 

 特に家族恋人親族友人を奪われた者達の多くはソレを行った者達の処刑を魔王軍に嘆願する始末であったが、その者達の大半が蜘蛛にされて人格を消滅させられたとか、普通に襲撃時に処分されたとか、あるいは幼女にされて各地から集められ、情報を吐かせる為の拷問に掛けられている為、手を出せないと知って、やり場の無い怒りに叫ぶ者が続出。

 

『クソゥ……あの子の仇すらオレは取れないのかっ』

 

『でも、あの子の仇は蜘蛛の方が……』

 

『人間共は生きてるじゃないかぁ!?』

 

『………』

 

 結果として人間がいない国に移住しないかという魔王軍からの誘いに乗る者が殆どとなり、彼らの多くは蜘蛛達に危険分子と見なされつつ、開放された亜人国の一部、人間達が居住していた空き家や空の街に移り住む事となった。

 

 彼らが教職や社会的に高位の立場に付けないよう裏から魔王軍が亜人国の上層部を動かし、難民として受け入れた後、多くが魔王軍発注の力仕事やサーヴィス業に従事する事となった為、今後は労働者階級としてしばらく固定し、現地民に溶け込めるように配慮されたりもした。

 

『此処が新しい家か。立派なもんだ……』

 

『人間共が追い出された家なんて……』

 

『だが、何もない木の下で寝てるよりはマシだ』

 

『……そうかもな』

 

『オレ達が奪ったと考えればいいさ。な?』

 

 無論、彼らを組織化し、それを監督下に置くのは魔王軍なので憎悪塗れ系亜人達の多くは問題なく暴走を防がれるだろう。

 

 特に天使蜘蛛も労働力として各国の復興で陣頭指揮を執り、現場で働く事にしたのが大きかった。

 

 労働者達の中から指導者層が出て、人間殺すべし慈悲は無い的な思想が蔓延する芽は事前に詰まれた。

 

『親方ぁ!! あっちの柱はどうしやしょうか!!』

 

『(-ω-)/(あっちの方に置いといてと看板で指し示す顔)』

 

『了解しやしたぁ!!』

 

『( ̄ー ̄)(人間見る目は殺意に溢れてるけど、ちゃんと仕事してれば、寿命まで大人しくしてくれそう……仕事を沢山割り振らないと、という顔)』

 

 善き労働者の父とは蜘蛛の事であり、善き労働者の上司とは蜘蛛の事である。

 

 島の蜘蛛達や他の大陸の蜘蛛達が築き上げたお仕事マニュアルさえあれば、初心者蜘蛛も熟練労働者兼労働者を束ねる指導者に早変わり。

 

 彼ら亜人の被害者が憎悪を忘れられないとしても楽しく職場で働き寿命を終えて、その憎悪が拡散するのを防ぐ。

 

 情報操作系にして社会的な調整労働者系なお仕事蜘蛛達の爆誕であった。

 

『(・ω・)(……亜人の行政従事者が全然足りない部分をこっちで埋めれば、しばらく危険思想を持ってる連中は抑止出来そうという顔)』

 

『(|ω|)ノ(本当は自分達でやらせるべきだけど、感情的な理論派独裁者みたいなのが出て来ても困るしね。ま、100年も骨抜きにすれば、亜人の憎悪も歴史になるでしょという顔)』

 

 揺り籠から墓場まで面倒を見れば、問題は無いだろう。

 

 そのせいで約1000万人強の蜘蛛達が大陸で本来する必要のないお仕事に付き。

 

 残った者達はシェナニガンの指揮の下、蜘蛛脚の塔を一大拠点として軍事要塞化しつつ、黒蜘蛛の巣も一緒に大陸各地で建てて、戦争で荒廃した国々を立て直しつつ、神殺しへと向けて準備を整えていた。

 

『(-ω-)(元生物系蜘蛛が多過ぎる。名前付けるのにも数日掛かりそうなくらいの数がいるとは……という顔)』

 

『Uつつつ(^・Д・^)/(鹿蜘蛛さん達は壁の隙間埋めるとび職役ね。あ、牛蜘蛛さんは水平かどうか各階層の計測お願いね。お仕事取り掛かるぞーという顔)』

 

 現在、数億人が塔内で活動する蜘蛛脚の塔(仮)は軍事防衛拠点として神と戦う為に島の産品が無い分を現地で精製出来る物資を用いて埋め合わせ、次々と階層の改築が進んでいた。

 

 一番統率力のある狼蜘蛛達が内部の取り纏め役となり、あちこちで蜘蛛達を指揮し、全200階層の超高層建築の床と壁をまずは生成させていて、その階層の中心部。

 

 シェナニガンが発射した剣の塔の中心に位置する巨大な心棒となる蜘蛛脚の周囲に街が出来ている。

 

 何れ、この塔が機能し始めれば、大陸全土に影響を及ぼせる手筈であった。

 

『(;´Д`)(やっぱ、島って資材だけには恵まれてたんだなーという顔)』

 

 彼らが用いる事が出来た島由来の資材は現在までに真菌と竜骨、ナクアの書に記載された遺伝資源の一部のみである。

 

 後は少年が使っている呪紋情報と知識くらいなものだ。

 

 しかし、それでも巨大な蜘蛛の遺伝子で造られた有機構造物である蜘蛛脚の巣はとにかく強度よりも自己保存、自己補完という有機生物のような側面が強く。

 

 真空にも適応しているのを確認していた為、彼らは内部を造るというよりは育てているというのが表現としては正しかった。

 

『(・∀・)(階層間の質量の移動を楽に出来ないかねという顔)』

 

『( ̄ー ̄)(毛細管現象とか使ってパイプであちこちに真菌送ってるけど、やっぱり動かすだけでかなり無駄に真菌がお腹空かせちゃうからなぁという顔)』

 

『(;^ω^)(大陸100km以下の大深度にある超高熱源層で真菌を熱々にしつつ、ヴァルハイルの機械で電力を供給。ポンプ代わりに竜の心臓でも使ったら?という顔)』

 

 全ての蜘蛛達は自分の肉体を増殖させる【飽殖神の礼賛】による呪紋での質量補填とそれを用いて共存している真菌の増殖と竜骨の成長を加速、各階層の壁や隙間を埋めつつ、真菌で密封。

 

 内部の広大な領域の開発を加速させていた。

 

 特に各層の造りが、真菌溜まり、貯水槽、居住区画、資源貯蔵庫と重ねられ、縦長の外部壁を全て防衛施設とする事で密閉式の街区をウェハー状に敷き詰めて防衛設備を入れない効率的な配置を実現。

 

 物資移動用のパイプラインを不可糸や他の様々な呪紋、物資で構築し、それを各施設と接続し、滅茶苦茶多重化、複々線化する事で何処にいても大量の真菌と水を確保する事が出来るようになったのは大きいだろう。

 

 まるで生き物の血管である。

 

『(|ω|)(……竜の心臓は遺伝形質から再現可能。竜蜘蛛の遺伝子を使って一体構造として形成……質量そのものが天使蜘蛛の移動方法と同じく慣性制御で構造を保ってるから、耐久度を上げれば、パイプライン内から真菌が溢れても周辺に真菌溜まりが出来るだけで他は問題無さそう……という顔)』

 

『(^ー^)(構造上は溢れた真菌付近の竜骨や蜘蛛脚が活性化して伸び放題になるから、資材の産出地点にしたらいいんじゃね?という顔)』

 

『(/・ω・)/(良いはつあーん!! その付近に土砂を入れて改造した苔や樹木、植物の類を繁茂させて遺伝資源の生産場にしようという顔)』

 

『(^u^)(地表っぽくすれば、内部だけで生態系も循環させられて、人も住めるようになって、採掘や採取系お仕事の現場に出来るかもという顔)』

 

『(゜Д゜)(内部の生態系を全部真菌を土台にして、水分や有機物を全て循環させるのは可能そう。水と質量はあるから、空気の循環は真菌層と外壁内部の真菌の代謝時に少し熱量を多めに放出させれば……自給自活出来たら、この星から逃げ出す時にも良さそう?という顔)』

 

『( |ω|)(問題はこれの内部にまともな重力を働かせる方法が回転させる以外無い事なんだよなー……重力環境再現用の超低出力恒常型の呪紋でも開発する?という顔)』

 

 分配された資源が蜘蛛脚の塔そのものを活性化し、この数日でスカスカだった外壁部分が大半埋まり始めており、気密性が高くなった高々度階層では無重力や低重力環境を利用した産品や資源、技術知識の開発が進められていた。

 

 元々、それらの知識の記憶は先達の蜘蛛達のものであったが、最新のものを知識の形でやり取り出来るようになっていた事は大きく。

 

 アレキサンドとは別の方向性で蜘蛛となった天使蜘蛛達は己の能力を用いた神殺せます系兵器を急ピッチで建造していた。

 

『(^○^)(比重の違う金属を楽々混ぜられる無重力合金てところか……という顔)』

 

『(>_<)(いや~神の被造物って一次品は品質と純度が高いみたいな感じだから、素材としては便利よねという顔)』

 

『(T_T)(アレキサンドにならない理由は恐らく、天使共が神と繋がってたからだと思う。地表に落としてた天使が遠隔で使う戦略兵器だとすれば、天使蜘蛛になったのは指揮する為の戦術兵器の師団って感じに見えるし……恐らく通信可能な端末だったんだろーな……という顔)』

 

 高度500km付近の最終層。

 

 研究系蜘蛛達が集まる街区の最中が。

 

 ガンゴンガンゴンと無数の鍛造されているのは巨大なパーツであった。

 

 鎧と言ってもいいだろう。

 

 無論、ゴーレムのものだ。

 

 あちこちの神殿から接収した大量の“人の心が無い技術”は今や蜘蛛達に吸い上げられ、この星で最も高いかもしれない塔の最上層で色々と確かめられていたのだ。

 

『(=_=)(ゴーレムの制御装置は要らんな。ぶっちゃけ、思紋機関が便利過ぎる。脳に情報奔らせて処理するなんて時代遅れな気もするし、高圧縮状態の竜の心臓を霊力掌握して結晶化。一緒に制御系のコマンドを刻んで思紋機関入れて処理したら、魔力の入出力だけで大抵のものは永続的に使えるし、情報処理自体が物質限界に囚われないから、限界処理量は魔力量依存でイケそうという顔)』

 

 彼らは亜人を磨り潰した原液で造られていたらしき危ない結晶やら、魔導式の情報処理システムの解析やら、過去の大陸の遺産を取捨選択しつつ、必要なものは役立てられそうな分野への転用に忙しい。

 

 だが、とにかくまず真っ先に重要な中核技術の大半が島の技術の方が優れているという事実に気付いて、頬を掻いてもいた。

 

 ヴァルハイルの天才は本当に天才だったんだなーと呪霊機狂いのおっさん、胡散臭い笑みの眼鏡を思い浮かべた。

 

 彼が少年と共に共同開発していた諸々の叡智は重要な物資が無くても、別の資材で再現可能なものが多く。

 

 それをあらゆる技術面で分野ごとに導入したら、ノクロシアにも届きそうな具合の道具が出来ていたのである。

 

『(・∀・)(そー言えば、そろそろちちの搭乗機が出来る頃合いのはずという顔)』

 

 唯一、その大陸で蜘蛛達が有用だと認めた技術は魔導の洗練されたプログラム。

 

 つまりはソフト面であった。

 

 島で少年達が使い出した情報処理システムとしての思紋機関は様々な物質に入れ込んで使い勝手よくそれなりの能力を示しくれるが、自己組織化する為にプログラム的な情報処理用のプロトコルまでもが独自に進化というべきだろう程に変質し、ブラックボックス化し易く。

 

 解析も大変という欠点があったりもして、性能を揃えるのが実は難しい。

 

 だが、魔導は常に一定の能力を発揮出来るプログラムとしてはかなり優秀であり、ハード面がかなり現代では雑なものしかない事を覗けば、基本となっている構成情報の構築論は極めて洗練されていた。

 

 これによって思紋機関を洗練させれば、更なる発展を遂げるのは間違いなく。

 

 多くの蜘蛛達は自分達の脳裏の思考を呪紋で共有し、演算能力を高めながら、新たな思紋機関の開発へと多くのリソースを割いていた。

 

『(・∀・)(ま、後はシェナニガン次第でしょという顔)』

 

 こうして、神をさっくり殺す為の兵装が造られている大陸では魔王軍の統治が順調に進行。

 

 次々に人種族は己の傲慢さと悍ましさに圧し潰されるような重苦しい威圧感によって萎縮。

 

 結果として魔王軍による降伏勧告が全ての国に受け入れられたのであった。

 

 *

 

 天使蜘蛛達が島の蜘蛛らしく全てを平らげ切った大陸。

 

 今や人は風前の灯火。

 

 魔王軍に蹂躙され、世界は暗黒に包まれた……的な詩吟が酒場で持て囃される時代。

 

 しかし、何故か全うな生活環境が再現され始めた国々では思っていたのと何か違う現実が出現しつつあった。

 

 蜘蛛の時代と呼ばれ始めた統治によって、市場は活況を博し、唯一蜘蛛相手に人間らしい強欲さを発揮した商人達は蜘蛛達が齎す莫大な資源と労働力を背景とした物資の充足によって、大陸全土で欠乏していたあらゆる数値が見る見る右肩上がりになっているのを理解する唯一の人種となっていた。

 

『そ、それで……シェナニガン様。大陸商業同盟にどのようなご要望でしょうか』

 

 蜘蛛脚の巣の傍にある大陸の中心地となった荒野。

 

 夜華の都と呼ばれ始めた大陸黒蜘蛛の巣第一号基。

 

 その中枢では各国から呼び付けられた商業組合の大陸版である商業同盟の幹部達が謁見の間とかやっつけ仕事極まるプレートが張られた館の中央ラウンジに集まっていた。

 

 椅子がポツンと置かれており、そこに座るメッキ処理した王冠を被っている蜘蛛。

 

 シェナニガンがイソイソと看板で数十名の商人達とコミュニケーションを取っていた。

 

『(/・ω・)/(きんゆーせーさくをはっぴょーしますと看板に書く顔)』

 

―――!!!

 

 一気に商人達に緊張が奔った。

 

 まぁ、それもそうだろう。

 

 これから自分達の未来を告げられるのだ。

 

『(>_<)(ろーどーきせーとかんきょーきせーとさいていちんぎん、あとしょーにんさんとこくみんのぜーきんをいちぶぜろにしますと看板に書いてみる顔)』

 

「は?」

 

 商人達が真顔になって顔を固まらせると複眼にモノクルを掛けた秘書系蜘蛛達がやって来て、次々に資料を配布していく。

 

「え、えぇと……今までの税制制度のほぼ全てを撤廃。商業政策上の税制は変更して維持。労働市場から奴隷制を禁止。奴隷は魔王軍が一括で引き受け、各地での労働力としての参入もしくは故郷への帰還と最初期の生活扶助を行う。中小個人での市場参入障壁を撤廃。ただし、現地の習慣に合わない参入が相次ぐと予想される場合は10年の猶予期間を設けて、法規制上の参入障壁の段階的な撤廃を行う。完全撤廃後に10年間は現地で10年以上登録されている中小個人への制度上の補助が入る。問題が起きた場合、労働規制と環境規制の再見直しを1年以内に実施し、順次市場参入者全体で利益が確保出来るよう国民への賃金の還元と環境の保全を両立させる妥協案の提出を義務化する。各大規模投資元と投資先は純利益の4割を賃金として労働者へ分配する事を義務化し、残りの2割を環境保全、1割を投資元の利益、1割を雇用者の労働災害や労務保険に割り当て、2割を運転資金とする。割合を超える運転資金が必要になる場合、または設備、人員拡充の為の投資に関しては魔王軍が保証人となり、各地で債権を発行し、一括して市場から資金を調達し、返済は魔王軍からの評価貢献度に対して猶予期間が延長される。債権の金利は年率0.0001%固定であるが、魔王軍との規制有りの現物交換、労働対価として活用しても良い。その場合の算定額が市場価格に沿うように行われる。各地の商業組合を魔王軍傘下とした後、現物での設備拡充に関しては全て各地に置いた魔王軍建設大隊が建築に関する労務を行い。その傘下として各地域の建設組合及び建設業従事者は個人、組織問わず、参入する事が可能。必要労働者、技能者数の割り振りは別途資料を参照―――」

 

 延々と男達は大量に用意された経済プランを糸のように目を細めて見逃しが無いように逐一読み込んでいく。

 

 そうして、彼らが実質的に気付いたのは蜘蛛達が理性と知性を兼ね備えた存在であるという事であった。

 

『(この内容……魔王軍そのものが人間や亜人で構成されていない上に殆ど生活や生存に金の掛からない軍隊でなければ、不可能なのだろうな)』

 

 やたら、まともな部分があるかと思えば、一気に変えられたものもあるが、全体的に見て、金融政策というよりは社会制度に近しいものがお出しされたのだ。

 

 隅々に至るまで見て分かるのは彼らが亜人も人間も区別していないという事。

 

 その上で奴隷なんて要らないし、何なら労働するのは自分達の方が優秀だから、君達は補助お願いするよと事実を述べている事。

 

 結果として、最後に彼らの目を引いたのは全ての政策の結果として庶民から税金を取らないが、高額所得者から税金はそれなりに絞る。

 

 後、税金を収めた高額所得者達には魔王軍からハイリスクハイリターンの職種や振興分野の様々な制度上の優遇を受けられるという事であった。

 

 要は働いて税金を収めたら、更に働ける、儲けられる場所を増やしてやると経営者に言っているのである。

 

 儲け優先というよりは規模拡大に対しては前向きというのが蜘蛛達の政策であった。

 

 とにかく市場の創出、市場の規模拡大、市場の掘り起こし、新規参入分野の開拓、優秀なヤツは儲けたら、もっと儲けられるようにしてやるが、税金は取るが、庶民は庶民らしく慎ましく暮らせば、喰いっぱぐれ無いぞ、と言われたのである。

 

「………魔王軍の儲けがかなり無いように思われますが?」

 

 彼らの実感はほぼソレであった。

 

 とにかく裕福なところから必要なだけ搾り取るだけで、過剰な税額も掛からず。

 

 しかし、規制の内容は厳しかったり、緩かったりと良く分からないところが多い。

 

 ただ、実務として現実論的に造られたように見られる政策の多くは国民……大陸の民を豊にしようという点では一致していた。

 

「ですな。薄く広く税金を取って来た今までとは違い。一部の高額な所得を得る者達のみに税率が高い以外は労働環境規制がかなり強くなっただけで……制度も税金を取らない代わりに強くしたような……」

 

「その割には新規の参入や市場の拡大は大規模に行う。規制と税金。市場の開放と規制。相互によく天秤が釣り合っているようにも見える……」

 

「ただ……これは……」

 

 男達が資料の最後ら辺をよく見て、気付いた。

 

「神殿組織の完全解体。解体後の神殿関係者の登録の義務化。神殿組織の持っていた資産の接収後に売却。宗教施設を魔王軍の指揮下において、蜘蛛の司祭によって再稼働。神殿の権威を完全に消し去った後は神殿でやられていた事への教育の義務化……」

 

 完全無欠に神殿勢力を破壊し、その信仰までも廃滅させ、後に神殿の悪逆非道に対する教育を義務化して、神殿勢力の悪を誇張し、国民の神への帰依を破棄させる。

 

 正しく、既存宗教の撃滅と蜘蛛の信仰政策と呼べるものが軒を連ねている。

 

「(・ω・)(みんなさんせーしてくれるよね?と真顔で看板を突き付けて見る顔)」

 

「は、はい。それは勿論……」

 

「そ、その割には……そのぅ……逮捕などは為されないのですね?」

 

「お前!?」

 

 思わず一人が呟いた言葉に新たなる魔王を前にして言葉を選べと睨む者が多数。

 

「い、いえ!? 決して、その、神殿の者達を捕まえるなと言っているわけではなく」

 

「(・ω・)(たいーほする人はそもそも蜘蛛になったからもういないよと看板に書く顔)」

 

 それでようやく商人達の顔も青褪めた。

 

 そうだ。

 

 蜘蛛の侵攻の最初期にあちこちで目撃された神殿襲撃。

 

 他にも亜人を食い物にしていた連中への調査後に蜘蛛にされたというのも彼らは見ていたり、聞いていたりした。

 

 倫理的にクズな殆どの存在が消されたのだ。

 

 残っているのはそこまでするほどでもない人間という事である。

 

 それで大量に蜘蛛が増えていたらしい話からして、彼らは今更に自分達が怪物にされてもおかしくないような場所にいると実感した。

 

 そして、もう神殿には逮捕するべき者が存在しないという事は正しく蜘蛛達の仕事はまったく完璧に行われた事を示しているとも理解する。

 

『と、とにかく、まずこの案は我々としても色々と詰めたいところはありますが、かなり良く見えます。今後の会合の時に我が方から幾らかのご要望や問題点の指摘をしてもよろしいでしょうか?』

 

 秘書系蜘蛛達がウンウンと頷く。

 

 ぶっちゃけ、先進大陸のものを現地用に調整した代物であり、そこに魔王軍をデンと据えて、生産力を背景にした現物を資金の代わりとして運用する事で社会に物資を充足させて安定化する方策なのである。

 

 そうして、その後は詳細を詰めた商人達によって原案は煮詰められていく事になる。

 

 後の事をある程度終えたシェナニガンは秘書蜘蛛達に後は任せるとイソイソと黒蜘蛛の巣の中央塔上層階へと虚空の糸を歩いて戻っていく。

 

 ヒョイッと入った通路から戦闘時の指令所となる場所へと向かった彼が呪紋式の自動扉を開いて内部に入ったら、虚空に映像が映し出されて浮かんでおり、蜘蛛達のオペレーターが大陸各地での現状報告をしつつ、準備の進捗率を確認し、指示出ししていた。

 

「(・ω・)/(ヨッ、じょーきょーどう?という顔)」

 

「(´・ω・`)(予定の5割くらいしか進んでない。島から届いた例の試験体も簡易の次元領域を発生させてからは接続して増殖させてる途中という顔)」

 

「(-ω-)(まぁ、未だに混乱してる国を纏めるのに時間が掛かるのは想定内だけど、防衛設備は早めにねという顔)」

 

「(・∀・)(各地の神殿の技術は集め終わって、蜘蛛脚の巣での兵器転用が終れば、最低限度の支度は完了だねという顔)」

 

「(・ω・)(マスターとゆーしゃいっこーは?という顔)」

 

 シェナニガンの周囲に幼女達を統率する勇者とマスターが映し出される。

 

 嘗ての部下達を集めた将軍が幼女相手に厳めしい顔を止めて、引き攣ったニコニコ笑顔で指示出しする様子は好々爺的な感じかもしれない。

 

 というか、やっぱり多過ぎる捕虜に対していつまでも返還要請が各国からされないので置いておかれている。

 

 しばらくは内政で忙しいだろう各国である。

 

 壊滅した元指導者層の立て直しはまったく進んでいない。

 

 辛うじて有識者や各地の有力者の中でも亜人に融和的な層を取りまとめた魔王軍が議会を発足させて、問題を調査させている最中であったが、先んじて色々としている蜘蛛達のおかげで物資不足の類で危機的状況にある地域はほぼ無くなっており、現在は魔王軍からの全面的な物資の無償供与の前に大陸国家の殆どは恭順の意を示していた。

 

「(・ω・)(そう言えば、残り物が来てるとか聞いたような?)」

 

 シェナニガンが虚空の映像を幾つか確認し、その一つの下にいるペカトゥミアの傍までやってくる。

 

 そこでは次々に現れる自称勇者のなかーまと自称四天王と同格の実力者と自称世界を救う暗殺者と自称時空間を操作出来る最強の能力者と自称オレの前に蜘蛛は無力と嘯くカッコイイ若者と自称蜘蛛なんてオレの前には即死と説明してくれる易しい少年と自称次元を超える能力を持つ魔導師と自称魔力と筋力を鍛え上げた最後の聖戦士と自称全知の女と自称―――まぁ、とにかく何かスゴそうな奴ら?がいた。

 

 その一部始終をシェナニガンと監督役であるペカトゥミアがじ~~っと観察する。

 

『ふはははは!!! オレは勇者達を導いて来た最大の親友にして四天王と相打ちとなった仲間を救い!! 今は匿う男!! 勇者を助けに来たぜ!!?』

 

『( 一一)(ペチーンと前脚で殴り、常人なら気絶する程度の衝撃を頭部に与えて意識を刈り取った後、不可糸で亀甲縛りにして本人確認しに勇者のいる場所に向かう顔)』

 

「(・ω・)(何故、自己紹介する必要があったんだろう……という顔)」

 

 そもそもが蜘蛛達の誰何に対して誰も彼もがお話してくれるので物凄く大陸の変人達は親切なんだなとシェナニガンは脳裏で書き留めておく。

 

『今一度言おう!! 我が名は魔族の王ガリゴリ!! この大陸最後の魔族にして四天王に匹敵せし、実力者である!! さぁ、新しい魔王に合わせろ!! オレが次の四天王に昇り詰める日がや―――』

 

『(=_=)(蜘蛛式居合抜き手で相手の鳩尾を貫通させ、魔力を限界まで吸収し、抜き去る時に再生させて、カラカラに干乾びた干物系魔族を研究開発部門に一応持っていき、必要無かったら適当に幼女にしておくかという顔)』

 

「(・ω・)(本当に自己紹介好きなんだなーという顔)」

 

 実際、近頃魔王軍の本拠地にやってくるのは変人ばかりだ。

 

 何故か?

 

 答えは簡単である。

 

 もうまともな真面目に地獄を造る事しか出来ない系人材が大陸から消滅しており、神殿の者達は大半が蜘蛛化、幼女化、抹殺済み。

 

 残ったのはそういう神殿が抑圧して地下に隠れ住む系人材ばかりだったからだ。

 

『悪いが、お前達には従えない!! あの子達の未来の為にも死んでもらうぞ!! 魔王!!』

 

『(´・ω・`)(滅茶苦茶人違いならぬ蜘蛛違いをされた翼が他より多い大天使蜘蛛の顔)』

 

『これがオレの最後の技だ!!』

 

『(・∀・)(滅茶苦茶ワクワクした顔)』

 

『【開闢終焉砲ラスト・カノーネ】ェエエエエエエエエエ!!!』

 

『(>_<)/(カッコイイけど、別に喰らってあげる理由もないので避けつつ、糸で迎撃して後方にいる6人の仲間達の四肢を細切れにしつつ、治癒呪紋でサックリ達磨にし、威力集中した魔導を黒蜘蛛の巣の粘液障壁で吸収。衝撃と熱量を全て奪い取って消し去る普通の蜘蛛の顔)』

 

『ハッ!!? み、みんなぁああああああああああああ!!!?』

 

『(・∀・)/(あ、そういう危険な魔導は使えないようにちょっと幼女にしときますね~という顔)』

 

 それなりに実力者が混じり始めた襲撃者達である。

 

 ちなみに威力は山だって消し飛ばせるかもしれないくらいにはあった。

 

 が、現在の黒蜘蛛の巣に充填された真菌には先日の神の力による奇襲で貫通されたという事実を元にして悍ましい強化が施されている。

 

 具体的には竜骨と本大陸で産出される最も優れた金属資源を全て真菌に投入。

 

 天使蜘蛛達の肉体から産出される神の力を充填しており、威力集中されていようと一部でも相手の攻撃が物理的な衝撃や光、熱を伴っている場合、防ぎながら拡散吸収、伝導する壁を連続無限生成しながら、吸収した力を増殖に回している。

 

 更に少年が追い詰められないと使わないような防御技。

 

 真菌を流動させて、あらゆる攻撃に対して自動防御させる技能。

 

【三次元超速粒体障壁】

 

 そんなものまでもが使われており、単なる英雄クラスの人間が極めた程度では蜘蛛達の防御はどうにもならなくなっていた。

 

 これがどんな蜘蛛にも巣の内部ならば使える為、神の使徒たる天使が大軍勢で市街戦を仕掛けて来たってちょっとやそっとではどうにもならないのだ。

 

 黒蜘蛛の巣からの支援を受ける蜘蛛達は事実上、黒蜘蛛の巣本体の全てを相手にするような実力に下駄が履ける状態で活動しているのだ。

 

 ちなみにこの防御を取り入れた黒蜘蛛の巣と蜘蛛脚の巣では現在、神の攻撃であろうとも同質で同量以上、具体的には真菌に込められた神の力の20倍以上の威力が無ければ、威力の貫通は不可能であった。

 

 襲撃者がやっていた事は数億人単位の天使蜘蛛達が産出する莫大な神の力を常時補填され続ける真菌の海というエネルギーの塊に対して一滴水を垂らすような行為でしかない。

 

「(-ω-)(……今の性能なら脚先からのチョン突きで相殺出来そうという顔)」

 

 シェナニガン。

 

 天使蜘蛛達の能力を全て注ぎ込んだ炉心の如く変貌したウル・セラフ内部で莫大な出力を封入され、同時に練り上げられた彼の力は事実上は大神以外の受肉神ならば、勝てると思われる程度のものとなっている。

 

 今更、山を吹き飛ばそうが、川を干上がらせようが、海を割ろうが、彼にダメージを与えられるのは本当に受肉神でも上位勢だろう。

 

『我は時空を制する者……有限なる破滅の使徒達よ。人の世の理を超える我が力によりて、己の果てを見るがいい!!』

 

『(;^ω^)(お~時間が加速してるぅ~~超絶早く動けるけど、元々が相手を風化させるものなのかなーと天使蜘蛛なので寿命が無い為、無限大に溢れる力を爆増させて、ソレを真菌に流し込みつつ、超速連続突きで相手を粉々にしてみる顔)』

 

『ば、馬鹿な―――こんな生物在り得ない!? 何年だ!? 何年貴様はそうやって攻撃し続けているのだ!? この害虫がぁあああああああああああ!!?』

 

『(^ω^)/(高速復元しても無駄だよ。だって、君の能力のせいで神の力が爆増した分だけ全能力が強化されるからね。体感時間を圧縮する呪紋を使えば、死なない生物をお手軽に強く出来そうだから、生きたまま捕獲決定という顔)』

 

『馬鹿な馬鹿な馬鹿な!!? 加速した貴様はもう30万年以上は……長大な体感時間を超えてくるというのか!? 精神の磨滅すらも!!? それに我が肉体の復元を上回る攻撃速度など在り得るはずが―――』

 

『( ^ω^ )(数億人の蜘蛛のバックアップが常時、呪紋の通信で割り振れるから、ぶっちゃけ制御能力は余裕なんだよね。今なら大神も粉々に出来そう……と、相手の頭部に復元する度に激痛が奔るように脳髄の破片へ呪紋を転写定着、無限増殖するように設定しておく顔)』

 

『ぁ―――ぁ゛ぁあああああ゛あ゛あああ゛―――ピギュアァプクフラヴァアガ―――』

 

 完全に復元された超人っぽい上半身半裸の美丈夫が穴という穴から血を噴出して、人が捩じれてはイケない角度でホラー風味に捩じれながら不可糸で繭にされ敗北していた。

 

「(>_<)(これは良さげな実験材料が手に入ったみたい。後で力の爆増試してみよーという顔)」

 

 今更なのだ。

 

 蜘蛛達にとって時間系能力者みたいなのは時を戻す感じのものでなければ、ほぼ意味が無い。

 

 体感時間だの、経過時間だので攻撃する系統の能力があっても魔力を自己生成し、神の力のように己の魂魄から発生し、自己完結した生命活動が可能な蜘蛛に関しては生命活動が力の余剰分だけ強くなるので力や肉体の衰弱や枯渇は無い。

 

 その“敵”の不運は事実上、外部からの力の吸収が必要無い寿命無限の天使蜘蛛に対して喧嘩を売ったという一点に尽きる。

 

『(>_<)(時間加速する道具として一杯使ってあげるからねとサイコパス味のある事を考えつつ、繭をイソイソと運び出す天使蜘蛛の顔)』

 

 実際の攻撃時間に対しての遅延や加速の類は既に冥領の蜘蛛達が魔王襲来時に取り入れた能力から天上蜘蛛達による蜘蛛全体への対処方法が伝達済み。

 

 時間関連の精神系統呪紋は開発済みであった。

 

『くく、オレの能力の前に平伏せ。蜘蛛を殺す程度の能力を喰らうがいい!!』

 

『(;゜Д゜)(蜘蛛として死んで自動の超速転生呪紋を連続多重待機状態にしたまま、生と死の狭間を行ったり来たりしつつ、普通に超速で動いて相手の青年の頭部をパーンする顔)』

 

 蜘蛛という自分達のカテゴリに対して滅茶苦茶してくる敵というのは最初期の初期より考えられていた話である。

 

 しかし、死んでも蘇るこの世界。

 

 転生呪紋が少年によって取得されてからと言うもの。

 

 蜘蛛達は次々に押し寄せる無理難題に対して対処する傍ら、絶対自分を殺す敵に対して絶対死んでも生き返って反撃する技を磨いた。

 

『(;^ω^)(超速転生複合呪紋の試験完了!! これでちちの手札がまた増えるよヤッタね!!と踊る顔)』

 

 結果として実際に肉体の細胞が全て即死したとしても、超速で自己への再転生を果たす呪紋を開発するに至っていた。

 

 肉体が残るけど、即死する技を喰らった場合の準備である。

 

 常時自分の意志とは関係ない思紋機関を体内に複数生成しておく事で呪紋が随時、発動条件が満たされるのを待っているのだ。

 

 結果として死んでも死んでも生き返った傍から死んだとて復活して魔力が尽きるまで一瞬でも動けるのならば、死ぬまでのタイムラグを利用して、戦闘は続行可能。

 

 相手の生命活動を停止する系統の能力は大抵、物理的な破損を伴わないので魂が破損してすら蜘蛛達は転生可能。

 

 魂魄の完全消滅を彼らの知らない方法で叩き込まれてすら、肉体が残っていれば、その肉体そのものから魂魄が復元出来るのであり、もはや不老不死に最も近い生物を相手に即死チート能力は意味を成さない。

 

 肉体と魂魄を瞬時に消滅させる事が可能ならば、そもそもの話、そんな存在は神の上位陣であって人間や亜人の類ではほぼ存在しない。

 

 霊力補給さえあれば、不完全に転生してもすぐに短時間で魂魄の再生まで可能である事も相まって、蜘蛛達の不死身さは今や神が全力を出してすら手を焼く段階へと到達していた。

 

「(・∀・)!(蜘蛛にして、能力を回収しといてねという顔)」

 

『(^ー^)/(りょーかいボスという顔)』

 

 その後、蜘蛛を殺す程度の能力と同じように蜘蛛を即死させたり、蜘蛛を無力化する能力が他の関係無い襲撃者達に披露され、あちこちで戦闘が始まったりもしたが、自動転生の呪紋一つで完封勝ちとなった蜘蛛が自分達の弱点を的確に付いて来る敵の能力を解析したので全て問題なく対処可能となった。

 

『オレの攻撃は次元を貫通する!! 大陸は護って見せる!!!』

 

『(´ω`*)(超速で高次元領域からの攻撃をバシバシ受けながら、念動で相殺しつつ、適当に死なない程度に相手の肺と内臓を打撃して、ショック死しないよう気絶させる若者に優しい蜘蛛の顔)』

 

 生憎と神がそもそも高次元領域から物質への干渉を行う存在である。

 

 そして、天使蜘蛛達はその干渉力をちゃんと利用出来る。

 

「(・∀・)(貴重な自前で次元干渉理論に辿り着いた天才だったら、神を精神的に叩く時の理論補強材料になりそうだから、捕獲したら脳裏に服従の呪紋でも刻んどいてという顔)」

 

 神や新人類アークが使える【念動】の類を他の生物が持っていたとしてもまるで驚かないし、それが自然発生的な能力や技能として定着した相手と敵対してもちゃんと勝てる程度の準備がある彼らにしてみれば、神を殺せる能力があっても、物理的に自分達を超える能力値が無い存在に一欠けらも負ける要素は無かった。

 

『どうやら、我が眠りに付いている間に世界は滅びの危機に瀕しているようだ。あの魔王め……遂に逝きおったか。だが……あの時代の最後の生き残りとして、聖戦士として……神が滅びようとも大陸の為に戦い続けると誓った。蜘蛛共よ……いざ、尋常に勝負!!』

 

 古代の聖戦士キック、古代の聖戦士パンチ、古代の聖戦士能力。

 

 やたら、多彩な距離から繰り出される技は見所満載、夢一杯、ロマン溢れる古代闘技らしいので蜘蛛達はヒョイヒョイ避けながら、その上半身裸の剣闘士っぽい男が剣と小さな盾一つで自分達と渡り合う様子に良い戦士だなーという顔になった。

 

 今まで超速戦闘に付いて来られない能力や魔力頼みの連中が多かった中。

 

 古代の戦士サンはやたら鋭い当て勘と避け勘で未来予測しながらの攻防を繰り出してくれるのだ。

 

 限界を超えて駆動する肉体は彼らの肉体の加減速にも劣らない。

 

 神の力を用いた肉体の補強があって尚、彼らとは違って限界や消耗で速度も威力も落ちていくにも関わらず。

 

 技のキレは増すし、攻撃を避けられても、当てられてもまったく動じない姿は彼らのちちと同じく。

 

 歴戦の猛者が戦い続けた末に手に入れる精神に違いなく。

 

『……まったく、時代が進み過ぎたか。勇者もこの分ではロクに勝負とはならぬだろうな』

 

『( ̄▽ ̄)(良く分かってらっしゃるという顔)』

 

『認めよう。我が限界では貴様らには勝てぬな。だが、最後まで付き合え。それくらいの度量はあるだろう?』

 

 決して相手を下に見ず。

 

 その上で勝てないとしても衰えない闘志。

 

 正しく、戦士として完成された姿に蜘蛛達もちゃんと向き合う事とする。

 

 最後の一撃が真正面から蜘蛛の顔面を捕らえ、頭部に角を生やして剣をいなした蜘蛛のカウンター、前脚の突きが男の胴体を貫通した。

 

『見事だ。大陸も遂に……神の頚城から解き放たれるのか。滅びるのか。消え去るのか……どちらだとしても、戦士にして賢者たる貴様らに任せよう』

 

 倒れ伏して気絶する男の肉体が瞬時に衰え。

 

 枯渇していく力と摩耗する魂が消耗の果てに消滅する寸前。

 

 サクッと蜘蛛が幼女化短剣を相手に突き刺して、ついでに刃を通して霊力を自前で相手に供給し、罅割れていた魂が摩耗し切る前に再生を開始。

 

 決闘を見ていた周囲の蜘蛛達もすぐに集まって来て、同じように戦士を讃えて、その体を繭にしていく。

 

 こうして応急処置を完了した相手を優しく幼稚園方面へと運んでいく。

 

 そこには既に医療系蜘蛛が待っている手筈だ。

 

「(・ω・)(……この大陸で一番の強敵だったなという顔)」

 

 アレなら、今度魔王軍に取り立てとこうとシェナニガンが頷いて、本日気になる最後の対戦カードを見やる。

 

『ふふふ、わたくしは全てを見通す神眼を持っています。つまり、未来が見えるのよ。貴方達の攻撃は一切当たらないわ。未来を見てから動くわたくしを超える事なんて出来な―――』

 

 額に瞳がある女が途中で沈黙して、チラリと第三神眼を複眼に複数開眼させている天使蜘蛛の一体を見やる。

 

 そして、プルプル震えた後。

 

『きょ、今日の所は帰りましょう。わたくしの力が貴方達と戦う日取りが今日ではないと伝えているから……』

 

 トボトボと背を向けた女が最後には猛ダッシュで逃げていく。

 

 きっと、自分が無限即死地獄に嵌るのを確認したのだろう。

 

 神眼に到達する生命体は多くないがそれなりにいる。

 

 そして、そういう類が未来を見て、攻撃を避けるのは普通だ。

 

 ついでに言えば、予測合戦しても彼らは構わなかったが、相手の未来を予測して動く予測合戦をするまでもなく。

 

 自分の身体能力でどれだけ強化しようが、全ての攻撃を防げないし、必ず何処かで詰むし、下手な予測で戦うと必ず即死すると理解したら、絶望である。

 

 唯一の未来に逃走を選んだ女は賢かったと言えるだろう。

 

 しかし、残念ながら、未来を見るまでも無く遠方から幼女化短剣を槍化した物が相手の反射速度以上で投げられ、サクッと避けられない未来を予測したのだろう女が立ち尽くした。

 

「(・ω・)(潔いな……今日の連中、良さそうなのは新しい四天王……いや、“円卓”に採用しとこうかなという顔)」

 

 こうして本日分の変人達を収容し終えた黒蜘蛛の巣はさっそく新しい魔王四天王(仮)の衣装やら装具やら新たな魔王軍の屋台骨になれそうな人材の為の今後の教育や総合育成プランを話し合うのだった。

 

 蜘蛛達のやっている事をちょっと遠目から見ていた姫は思う。

 

 どうして、彼らが変人達を大抵殺しもせずに収容しているのか。

 

 その理由こそが少し悲しくて、彼女はキュッと両手を握りしめた。

 

 要は自分達がいなくなっても大陸の様々な面で支えられる人材を彼ら自身が生み出し、教育する事で破滅する大陸を救おうとしている。

 

 そう、彼女には理解出来たのである。

 

 *

 

―――数日後。

 

 勇者一向はようやく幼女達の世話から開放されていた。

 

 理由は単純である。

 

 マスターが訓練した幼女を世話する幼女達が次々に中間管理職として職務へと就き、先頭に立って自分達の面倒を見始めたからだ。

 

 だが、地獄の子育てを経験した彼らはちょっとやつれている。

 

 でも、それでも瞳に光が宿っているのは自分達の知り合いから仲間の1人が生きていると知らされ、今は療養中だと知らされたからだ。

 

 そして、良い出来事は続くもので蜘蛛達が探していた勇者の幼馴染が発見され、保護された。

 

 神殿の地下で最終兵器っぽく製造された人造天使らしきものの中枢制御ユニットとして頭だけ融合されてたのを発見した蜘蛛達が精神構造を復元しつつ、脳構造を天使を動かす為に最適化されていたものを元の状態へと再生。

 

 ついでに本人遺伝子から作ったクローニング素体に頭部をくっ付けて、安定化。

 

 こうして、勇者の下まで連れて来たのである。

 

「ぁ、あ……勇者君?」

 

「勇者なんてとっくに止めたさ……昔みたいに名前で呼んでくれるか?」

 

「……ディート君」

 

 思わず泣き出して抱き合う少年少女。

 

 その図を思わず勇者一向が涙駄々洩れで良かった良かったと見守る最中。

 

 蜘蛛達もこれで勇者も取り込み完了と良い仕事の後に気分を味わい。

 

 チョンチョンとマスターの肩を突いた。

 

「っ、な、何だ? 蜘蛛ども……オレに何の用だ?」

 

「(;^ω^)(君達の勇者は勇者止めたみたいだし、新しい就職先欲しくない?という魔王蜘蛛の顔)」

 

 シェナニガン直々のお誘いである。

 

 何が何だか分からない勇者一向であったが、勇者だった少年と天使だった少女のラブ・ストーリーを邪魔するのも悪いとイソイソ彼に連れられて中央塔の最上階へとやって来る。

 

 彼らがシェナニガンの案内で内部に入ると数名の幼女とか蜘蛛とか普通の青年や女性達が待っていた。

 

 全員が先日、蜘蛛達に敗北した変人達である。

 

 彼らにしてみれば、自分達が呼ばれた理由が分からず。

 

 しかし、敗北者には敗北者の流儀があるとばかりに太々しい様子で額に汗を浮かべながらも沈黙を保っていたが……その中でも額に瞳を持つ女がダラダラと滝のような量の汗を流しており、プルプルしながら頭を抱えていた。

 

「?」

 

 不審そうな元勇者一向が全員椅子に座る。

 

 すると、完全に席が埋まった円卓を見る位置にある一段高い場所の椅子にヒョイッとシェナニガンが人間形態に早変わりすると行儀よく座る。

 

「え、え~本日はお集まり頂き、誠にありがとうございます。司会を務めさせて頂きます……うぅぅぅぅぅ、どぉおおおしてこーなるのょおぉおおおお!?」

 

 今まで滝汗していた女が涙をダバダバ垂れ流しながら、司会役をいきなり放り投げたが、ふぐぅという顔でシェナニガンを見やると顔をサァアァアッと青褪めさせてブンブンと顔から涙を弾き飛ばすと司会を続行する。

 

「………」

 

 一体、何があったんだよアンタという顔になる人々を前にして引き攣った笑顔の司会役の第三神眼の女が議事を進行した。

 

「え、えぇと……そのぉ……此処に集まって頂いた方々は蜘蛛の方々に負けた敗北者であり、幾らかの制約を課されているのですが、本日シェナニガン様から魔王軍の最高幹部として登用する旨を伝えるよう言われており―――」

 

「ちょっと待て!? どーいう事だ!?」

 

 思わずマスターが喚く。

 

「それが……わたくしも脅されている立場でして……嫌なら幼女型の生命体になるか。蜘蛛になるか選ばせてあげると言われていて……分からない事は分からないので資料に沿ってお伝えする事しか出来ない事は先に伝えておきます」

 

「く、新たな魔王……亜人の勇者シェナニガン。貴様は我々を魔王軍に取り込もうと言うのか!?」

 

 マスターの言葉に周囲の者達が脂汗を浮かべながら人型形態になったシェナニガンを見やる。

 

 しかし、本人はのほほんとしており、神眼女に説明を促すのみ。

 

「取り合えず、続けますね。これより蜘蛛の方々は対神格戦で天界と呼ばれる領域に殴り込みを掛けるのでかなり数が少なくなり、死ぬ可能性もあるとの話なのです。それで魔王軍をしばらく支える屋台骨として敗北者達を登用するとの事です」

 

「勝手過ぎるだろう……」

 

 思わずマスターが愚痴った。

 

「ちなみに拒否権は無いとの事です。但し、一定以上の功績を積んで、魔王軍に犯意無しと精神分析に掛けられて白になれば、開放されるとの事です」

 

「つまり、魔王軍で労働刑か……」

 

「実際には蜘蛛以外の人々や亜人を率いて得意分野で貢献するようにと。具体的には技術開発、戦闘要員の育成や教育内容の策定、各種技能の訓練担当教官の元締めのような事をさせられるみたい、です……」

 

 半分くらいの者達が少しだけ意外そうな顔になった。

 

「蜘蛛の方々の目的は大神の集団。この大陸にいる神格の数万倍の威力を誇る大神格の連合を打倒する事。その為には今の戦力ではまったく足りず。この世界にあるあらゆる大陸で力を付け、反抗勢力として独立させる事が求められるのだとか」

 

「……つまり、我らはその壮大な神殺しの先兵という事か」

 

「神の力に辿り着きし者」

 

「っ」

 

「神の力を得て、人を護らんとする勇士」

 

「っ」

 

「神すら殺す可能性を秘めた暗殺者」

 

「っ」

 

「蜘蛛を殺せる能力を持つ、彼らが神の操り人形にされた場合の保険」

 

「「「っ」」」

 

「未来を見る予言者……」

 

 女自身が渋い顔になる。

 

「そして、勇者一向……これを円卓会議として称して大陸の最高意思決定機関とし、各々の得意分野の研究開発、技能の指導を行う規範として魔王軍を再編成。大陸へ侵攻する神格戦力達を迎え撃ち。永続的に生存保証と神からの独立を勝ち取る事。それがシェナニガン様を筆頭にする蜘蛛の方々の【ワールド・ボイド・タクティクス】……大陸開放戦略だそうです」

 

 女が大きく息を吐いた。

 

「ちなみにこれに参加しないというのはつまり大陸が神格勢力による消費に晒される事となり、神の力で無理やりに勝てない敵と戦わせられる未来が待っていると……」

 

「それが事実だとして、我らは己の開放の為だけに戦うべきだと?」

 

 マスターの言う事は最もであった。

 

 その姿が幼女でなければ、サマになっていたかもしれない。

 

「この戦略の一端として魔王軍として働く場合に限っては倫理や道徳による規制は掛かるものの、自身の研究開発や自己鍛錬への投資、己を鍛える為に必要なものなら、ほぼどんなものでも蜘蛛の方々の許可が有れば、活用して良いそうです。勿論、祖国の立て直しや各地での個人的な活動に対する資金提供も一定額までは行い。過大な場合は現物で蜘蛛の方々が生産したものを活用して良いと……」

 

 その言葉に殆どの者達が押し黙った。

 

「……つまり、我らに神と戦う術を任せる代わりに我らの理想や夢をある程度は実現してくれる手助けをしてくれるわけか?」

 

「(・ω・)(ウンウンと頷く顔)」

 

 マスターが非常に渋い顔ながらも、蜘蛛達からの最大級の譲歩に溜息を吐いた。

 

「結局、我らが我らの為に戦い続けようとするならば、避けては通れない道か。蜘蛛が幾ら少なくなっても全員いなくなるのでもなければ、そういう事なのだろう……」

 

 マスターがジト目でシェナニガンを見つめる。

 

「役職はともかく。序列は?」

 

 椅子の後ろから少女が一人現れる。

 

「―――魔王の一人娘か」

 

 マスターの驚きの言葉に少女が、姫が頷く。

 

「アシエル・レノメノンと申します。我が父、貴方達には魔王と言う呼び名で知られる者の一人娘です。シェナニガン様の留守の間はわたくしが臨時での魔王軍総司令官として就任し、勇者様にわたくしの片腕となって貰い。この円卓会議を統率するようにと言われております」

 

「魔王軍の姫が遂に魔王軍の総司令か……」

 

「我々の大陸の真実を貴方達はもう知っている。そして、それは変えられない事実であり、また神殿勢力の廃滅によって、国々の亜人差別も恐れと共に消えていく事でしょう。百年先か。二百年先か分かりませんが、その頃には亜人も人も無く単なる神の脅威に晒される事となる。それを良しとせぬのならば、どうか我らにお力添え下さい。大陸において貴方達以上の能力者や技能者、研究開発が可能な人材は恐らくいないでしょう。今後の技術的進展がすぐに神々を退ける程になるとも思えない……つまり、最後は生きる者達の意志次第です」

 

 真っ直ぐにマスターを見やる少女が揺るがぬ瞳で相手に告げる。

 

「魔王……我が父は非道非情の男でした。ですが、わたくしには優しかった。人と同じく優しさと残酷さは合わせ鏡……それも我が父に力が無かったからだと思います。無論、蜘蛛の方々とて敵を殺さずに生かす事は難しく。大勢を犠牲にした。しかし、大陸全体で見ても……その成果はもう出てしまっている」

 

 姫の言葉と共に数値が次々に彼らのいる部屋の虚空に出る。

 

 その数値の多くは犯罪発生率や各種の犯罪の統計。

 

 更には様々な事件事故の発生率。

 

 他にも生産物の生産量やら物資の流通量やら経済指標の数々であった。

 

 全てが改善傾向であり、良くなっている事は間違いない。

 

「蜘蛛の方々と大陸経済に詳しい方々。他にも各地の犯罪を取り締まる方々からの情報を統計したものです。今の大陸は混乱期にありますが、その混乱も蜘蛛の方々の統治が始まるに連れて確実に改善されている」

 

「それが成果だと?」

 

「成果ですよ。マスター……マスター・ブレード。伝説の傭兵にして魔王軍の最高幹部の座を蹴ったお方」

 

「え!?」

 

 思わず後ろからエルフの女が声を上げた。

 

「貴方が魔王軍に招聘された時、父は言っていました。時代が人を動かすのではない。人が時代を動かすのだと。そして、その力を持った一部の者達に責任感と己の傍にある小さな世界だろうとも護ろうとする気概さえあれば、もっと死者は少なかったかもしれないと」

 

「……昔の話だ」

 

「此処にいる方々もそうです。今更に魔王軍へ喧嘩を売ったのは何故ですか? 世界を変えられると思ったからなのでは?」

 

『………………』

 

 アシエルがそう彼らの痛いところを突いた。

 

「神殿は恐ろしかった。神殿がいては活動出来なかった。でも、自分の力ならば、蜘蛛の方々に勝るかもしれない。少しでもどうにかなるかもしれない。そう思ったから、此処に来たのでは?」

 

 それは確実に真実に違いなく。

 

 同時に誰もが考え込んだ様子になる。

 

「堕天使族最後の長として皆さんに提案があります。魔王軍というのが世界を破壊した破壊者だと思うのなら、新たな名前を名乗りましょう。体面の悪さは何れ消えていくもの……此処に新たな者として立つのです」

 

「新たな名前だと?」

 

「ええ、もはや人類にも亜人にも残された時間は少ない。そして、今大陸は統一されている。新たな時代には人も亜人も、他のあらゆる種族も等しく幸せな時代であって欲しい。そう願うからこそ、この大陸内では全ての者達が共に戦う軍隊を目指したい。統一大陸軍として魔王軍を再編成したいと思っております」

 

「統一大陸軍……」

 

「外では旧き者達の言語の文字数だけ大陸があると言われています。他にもこの世界には未知の大陸……神々の勢力が及ばない場所も多くあると父は言っていました。そして、此処もまたその言語の名前を与えられなかった場所の一つ。我々には名乗る権利がある」

 

「権利、ね……」

 

「いつか、魔王も勇者も神もいない世界で人々が良い時代を過ごし、その果てに幸せに生きて死ねる日々を……そう願った父は冷酷非道を魔王の名によって貫きました。故にわたくしもその願いに届く者の1人として大陸に新たな名前を送りたい。傲慢でも高慢でも、そうしたいのです!!」

 

「何と?」

 

「ソリトゥード……孤独という意味です。ですが、独立、僻地、寄る辺なきという意味合いもある。我らは新たな独立大陸。拠って、ソリトゥード大陸。魔王軍はソリトゥード大陸軍として再編成し、此処に大陸統一政体を樹立したいと思います」

 

 その宣言にその場の誰もが息を飲んだ。

 

「その最初の有識者として貴方達を迎えます。皆さん……どうかお力を貸して下さい。自分の為に、誰かの為に、己の親しき人々の為に……」

 

 その時、最上階の扉が開いた。

 

「勇者殿……」

 

 一番後ろにいた魔法使いの男が退いた。

 

「話は聞かせて貰った。マスターから声を届けて貰ってたんだ……魔王、アイツの一人娘、なんだよな。アンタ……」

 

「ええ」

 

「オレを片腕にって話。いいのか? オレはアンタの父親を……魔王を殺した……それは……」

 

「許すつもりはありませんし、許されるとも思わなくて構いません。ですが、許す許さないと今まで多くの人間が、亜人が感情に任せて来た結果が今のような事態に繋がりました」

 

「そう、だな……」

 

「父もその頚城からは逃れられなかった。四天王は父の無二の親友達でした。それを殺されて父が嘆いていたのも事実なら、貴方の大切な人達が魔王軍によって殺されたのも事実。でも、此処で忘れられなくても、互いに手を取り合って次の時代に進む事は出来る。納得も同意も出来ない事は放っておきましょう。父はきっと……笑って許してくれると思います。わたくしには甘い人だったので」

 

 そう強い笑顔で近付いて来る勇者に手を差し出す。

 

「いいんだな? オレ達一生分かり合えないぞ? たぶん」

 

「構いません。前に進む事以上に大事な事は愛する人との一時か。我が子を産まれて初めて取り上げる時だけだと父も言っていました」

 

「そうか。アイツ……そんな事を言うヤツだったんだな……」

 

「水には流しません。忘れもしません。でも、今は手を取り合い、共に進みましょう。それが魔王と勇者の後世に残す最後の姿でいいとわたくしは思います」

 

 その真っ直ぐ過ぎて眩し過ぎる。

 

 そんな少女の様子に少年は……手を取らずに拳を差し出す。

 

「これがオレの精一杯だ。勇者を止めた馬鹿な小僧の精一杯だと……思って欲しい……」

 

「……分かりました。これから戦友となる人。魔王を倒した馬鹿な小僧。貴方と共に大陸に新たな時代を……わたくしは亜人と人の争い合う最後の時代の覇者として立ちましょう」

 

 少女の瞳が真っ直ぐに円卓を見やる。

 

「シェナニガン様へ一礼を!! 此処から去りたい者は背を向けよ!! 追いもしなければ、刃も向けぬ!! 人と亜人の戦争の終わりに……新たな時代に先駆けとならん者だけが此処に立ち、先頭を走る者へ敬意を示せ!!」

 

「「「「~~~~っっっっ」」」」

 

 その堂々とした様子に部屋の片隅で全てを聞いていた四人の大隊長達が涙をブワッと溢れさせたのはその堂々とした姿が正しく魔王に似ていたからだ。

 

 こうして、円卓にいた誰一人として背を向けた者は無く。

 

 確かに誰もが一人の蜘蛛に頭を垂れたのである。

 

 後にこの時の事を人々はこう呼ぶ事となる。

 

「人と亜人の始まりの日。あるいは新時代の幕開け、か」

 

 ドワーフの呟きは円卓に溶け。

 

 そうして、独立大陸ソリトゥードは出航した。

 

 その先に何が待つのか。

 

 何一つ知らずとも多くの人々は仰ぎ見たのである。

 

 また、プライバシー0な放送で勇者と魔王の一人娘が拳を突き合わせ、一人の相手に膝を折った光景を……何かを話し合う円卓に集まる者達の顔を。

 

 時代の終焉と栄光の没落。

 

 そして、厳しくも清々しい新たな風が吹く荒野に向かう者達の姿を……。

 

 *

 

 

 大陸各地で勇者とその一向が魔王に膝を折った様子が報道され、正しく最後の砦を失った人類の反抗の機運は完全に消え失せた。

 

 特に逃げ出していた神殿勢力の大半の心が折れたのでもはや彼らに出来る事は野良仕事でもして日々の糧を造る事くらいのものである。

 

 勇者の事を人類の裏切者と呼ぶ者もあれば、魔王の力を前にして現実的に人々を導く為、膝を折った様子は勇敢であると言う者もあった。

 

 意見は割れていたが、それこそが蜘蛛達の狙いであり、細分化された意見では魔王軍を動かせないという事実を以て、大陸の反抗の芽を摘んだのである。

 

『魔王軍は嘗てよりも精強だ。もはや人が大陸の上に立つ事は無いだろうな……』

 

『知ってっか? 魔王軍が何でも人間からも将兵を取り立てるって噂』

 

『え? ほ、本当か?』

 

『ああ、魔王軍は今後名前を改めるんだとよ。大陸の名前まで付けてよ』

 

『そうなのか?』

 

『で、だ。人や亜人以外の知性のある者達ならば、誰だろうと登用するし、過去に犯罪を犯してなけりゃ、元神殿の人間だろうと元王族だろうと試験を突破すれば、取り立てるんだと』

 

『それは幾ら何でもフカシだろう?』

 

『いや、それがそうでもねぇ。大陸の酒場へ大量に降ろされた募集の張り紙が明日には此処にも届くって話だぜ』

 

 魔王軍改め、ソリトゥード統一大陸軍の人材募集は大々的に取り行われ、各地で神殿勢力や元王族からも年齢制限や過去の犯罪歴を調べた上で試験に合格すれば、迎え入れる旨が通達された。

 

 結果として一部の元貴族や王族の子弟達が厚かましいくらいに厚かましく送り込まれたが、多くは亜人を奴隷扱いしていたせいで面接で落ち。

 

 それでも一割程は受かったという話も出ていた。

 

 勿論、人々には言われていないが心理的な敵性や人格を覗かれたので危険な思想や思考を持つ相手はブラックリストに入れられて現場で働く蜘蛛達の監視対象にもなった。

 

『どうして、この僕が不合格なんだ!? やっぱり取り立てるなんて嘘じゃないか!?』

 

『(;^ω^)(そこの亜人の子供を狩りの得物にしてた王子は危険分子だから、後で精神崩壊させる悪夢でも見せといてという顔)』

 

『( `ー´)ノ(了解。呪霊属性精神呪紋【ヴェルナティアの悪夢】一人前入りました~という顔)』

 

『あ、オレ受かってる……王侯貴族出身でも、受かるって本当だったんだ……』

 

 しかし、これを明るい兆しだと感じた知識層は多く。

 

 最初期の侵攻時以外はほぼ殺生もされておらず。

 

 亜人達を逆に諌める蜘蛛達のおかげもあって、殆どの国では蜘蛛の評判は上々。

 

 何なら魔王の治世下でも嘗て穏やかに暮らせていた事から、多くは安堵し、非常識な程に傲慢過ぎた人種族の王家や貴族、豪商の類への不満の方が大きかった。

 

『こ、この配給が本当に村全体のものなのですか!? 村二つ分以上はあると思うのですが!? というか!? どれもこれも配給とは思えぬような品質に見えるのですが……っ』

 

『(・∀・)(備蓄食料は食べずに取って置いてね。また、数日は続けて来るよ。必要備蓄量に到達するまで備蓄食料と生食材1月分は持ってくるから、小麦の収穫とかはよろしくと看板に書く顔)』

 

『う、うぅぅぅぅ……宴だぁ!? 宴を催すぞぉ!? 村の女達を集めよぉ!!』

 

『(=_=)(いや、だから、備蓄を増や―――)』

 

『ありがどうございまずぅううううううう!!? 大蜘蛛ざまぁああああああ!!? ふぐぅうぅぅぅぅぅ』

 

『(T_T)(ま、いっか……ここら辺は飢饉も酷くて国も助けてくれなかったって話だし、後4割増しくらいに備蓄も届けとくよう申請しとこうという顔)』

 

 まともな政治をしていなかった地域では魔王軍を歓迎ムードな場所も出始めており、物資の配給から始まって、様々な仕事の斡旋やその賃金の支払いが良いという事から、民間の評判は日に日に高まりつつあった。

 

『わ、わしの動かんかった脚が……う、動くぞ?』

 

『オレの手……戦で無くなっちまったのに……何だよ。奇跡、なのか?』

 

『ありがとうございます!? ありがとうございます!? この子を助けて頂いて!? お乳も飲めぬ程、後は死にゆくだけだったのに……うぅ、ぅぅぅぅうぅうぅ……』

 

『(´・ω・)(まおーぐんをこれからもよろしくと病と飢餓で死ぬ寸前の赤子や病人を治癒呪紋でさっさと治して、必要分の麦粥に野菜と肉を細切れにして薄く煮込み始める医療系蜘蛛の顔)』

 

 ちなみに最下層民……被差別階級者や最貧困層からはもはや魔王時代よりも熱い視線が送られており、食料の配給のみならず、病を癒して回る蜘蛛達や働く場を提供しつつ、技能を教える事も始めた蜘蛛達がいる事で殆ど神様扱いであった。

 

『ああ、大蜘蛛様がお見えですよ。皆さん』

 

『わーい。蜘蛛様だ~~今日も遊んで~』

 

『オレ達みたいなコジにも優しいなんて、お前らイイやつだよなー』

 

『(*´ω`)(子供は純粋だな~早く大きくなって納税して子供作って立派なお家とかに住んでしっかりおじーちゃんになって幸せに死ぬんだよと揺り籠から棺桶まで面倒を見ようと思ってる蜘蛛の顔)』

 

 元神殿付きの孤児院でも魔王軍が後を引き継いで有志の人間に面倒を見させ、戦争で出た孤児達を完全収容する事を政策として掲げた事で浮浪児は大陸全土で0人を記録。

 

 大量の戦災孤児達は人間や亜人の下ではなく。

 

 多くは黒蜘蛛の巣に移送されて、蜘蛛達によって養育される事となった。

 

 元々、島で元大人な幼女達を面倒見て来た養育系蜘蛛達の記憶とノウハウが活用され、子供達は最初こそ怖がっていたが、今や蜘蛛にぶら下がったり、乗ったりして遊ぶわんぱくさを発揮しており、亜人も人間もなく過ごしている。

 

『くもー!!』

 

『(;^ω^)(はいはい。おしっこねという顔)』

 

『くもくもー!? うぇええぇ……』

 

『(;^ω^)(はいはい。膝を擦りむいたのねと治療する顔)』

 

『くもくもくーも?』

 

『(;^ω^)(はいはい。もっと遊んで欲しいのねと遊ぶ顔)』

 

 歴戦の保育者でも無理そうな数の子供達を少数精鋭で一切合切面倒を見ている蜘蛛達の超人ならぬ超蜘蛛ぶりは建築現場で働く者達よりも凄まじいだろう。

 

 休みなく働き。

 

 疾風の如く駆け付け。

 

 颯のように子供達の要望に応えている彼らは正しく善き子供の擁護者であった。

 

『まおーさまにけーれー』

 

『あれ? しぇにゃにゃがん? だったよーな?』

 

『え、えーと、ひめさまにけーれー?』

 

『あ、あたしおひめさまやくね~♪』

 

『( ^ω^ )(整列してご飯の列にならんでねーと絵文字の看板に書く顔)』

 

『はーい!!』×一杯の孤児達。

 

 彼らが子供達を集団行動させ、規律をそれとなく叩き込み、亜人も人間も無く接しながらも、男性や女性と同じような尺度で配慮する様子は大陸には無い光景だ。

 

『ぇえと~~この文字が炎? この文字が氷?』

 

『( ^ω^ )(早く大きく成って山くらいは抉れるようになろーねーと資質のある子供に呪紋や魔導の英才教育を施してみる顔)』

 

『えへへ~~すごい? すごい?』

 

『(|ー|)(スゴイスゴイ。後は海を割ったり、大気圏をぶっ飛ばすヤツも覚えないとね~という顔)』

 

 子供達の資質に合った一般技能として魔力大系の一つである呪紋や彼らが更に再開発中の魔導を教えるやら、一般的な科学知識や生物学や諸々の植物学を教えるやらしている様子は子供に易しい知識を教えているようにしか見えない。

 

 運動をしている子供達に遊びと称して対抗戦をやらせたり、遊戯を通じて自尊心を育んだり、資質によっては体育会系の子に戦闘技術の初歩を教えたりしている。

 

 しかし、12歳以下の子供達に最も人気なのはお話の時間だ。

 

『(-ω-)/□(こーして、少年は命を削って放つ最強の剣技を会得し、残った命で少女と共に生きていくのでした。おしまいと紙芝居を終える顔)』

 

『ふぇぇぇ……かわいそーだよぉー!? もとにもどらないのー?!』

 

『ぐず……で、でも、いっしょにおうちにかえれてよかったよぉ……』

 

『びぇええええぇ!? ひっぐ、ひっぐ、かたほーのおめめみえなくなっちゃったなんて、やっぱりだめぇ……』

 

 蜘蛛達がお手製の紙芝居を造って、多くの子供達に教える話はとある少年と少女達の物語だ。

 

 最後はいつもハッピーエンドで終わるお話。

 

 時々、恐ろしい敵がやって来て、窮地に陥りながらも最後には勝つ少年と仲間達。

 

 そう在れば良かった。

 

 そうなれば良かった。

 

 そんな……蜘蛛達が望んだ御伽噺。

 

 何処から読んでもいいように一話完結方式にされたお話は子供達に大人気だ。

 

 ついでに年齢別に物語にもレパートリーが増やされ、聞いている年齢層向けにシチュエーションが増加したり、恋物語要素がプラスされたり、少年向けに冒険活劇風にされたりしている。

 

 知識量や資質的な面で優れた子供達には科学的な話や蜘蛛達が教えている知識ならば分かるような話も増やされ、興味を惹くようにも作ってあった。

 

 たっぷり、1時間の話を子供が何もせずに聞き入るくらいの仕上がり具合だ。

 

 蜘蛛達の作画した絵を不可糸に色を付けて動かしたり、役者に声を付けさせたり、演技指導までしている為、抜かりは一切なく妥協も無い。

 

 これで子供達の心が動かないはずもないだろう。

 

『(゜Д゜)ノ(鋼の動く城が迫る。城を前にして怯える背後の仲間達。しかし、少年はここで……真面目にストーリーテリングしてる顔)』

 

 演出を入れつつも、基本的には悲劇風味なのはご愛敬。

 

 絵本にして孤児達がいつでも見られるように図書館も作ったので彼らの教育という名の布教は他人から酷い目に合わされてばかりだった孤児達の心を掴んだ。

 

 ついでに幼女化した数百万単位の者達にも自分達が仕えるべき存在のペンダントが配られ、多くの幼女達が一瞬で呪紋効果によって少年へ一目惚れ。

 

 蜘蛛の父としてひっそり人気を博していた。

 

『(^ω^)(外大陸にも幼女が一杯……本来の呪紋の能力から色々と付けたし付けたしやって来たから、神の力もほぼ減衰……霊薬が無くても寿命縮まなくなったのはやっぱり大きいよねという顔)』

 

 また一つ大陸が陥落したが、蜘蛛達には今後の見通せない世界情勢に向けて準備しか出来る事は無かった。

 

 各国では蜘蛛達が派遣された村単位で新たな事態に備えた非難訓練が日常生活に組み込まれ、暗い見通しの元で衣食住に関する自活用の教育プランが推し進められ、民は知識の伝達が何を意味しているのかも知らず。

 

 次々に新しい政策が行われる中に蜘蛛達が絶滅しても生きていけるようにと忍び込ませられた“自分で生き残る為の技能”を習得していく。

 

「う……女性としてちょっとだけ嫉妬深くなりそうです。シェナニガン様……」

 

 その技能の中には当然のように料理があった。

 

 黒蜘蛛の巣の中層階。

 

 蜘蛛達のご飯を一括で調理している調理場が丸々入った階層内。

 

 莫大な量の食材が常時何かの調理器具で調理されており、その隅にはこじんまりとした調理場がある。

 

 黒蜘蛛の巣の中央塔に住む事になった魔王軍の者達の数は多くないので数十人分くらいは調理出来る台所である。

 

 巨大な調理場の隅で魔王蜘蛛自らがイソイソと塔の新規居住者達に振舞う料理を作っていたのだが、味見するアシエルはそのあまりの旨さに最初絶句し、途中からはもう半眼で「何だかなー」とジト目になっていた。

 

 料理は女の領分だと今まで彼女を養育してきた魔王城の女達は教えて来た。

 

 しかし、一番料理とは程遠そうな蜘蛛達が作る料理がこれまた美味しい。

 

 美味しいだけでのみならず。

 

 味、形、匂い、温度、出されて口に運ばれてから、これ以外無いというくらいの完璧さでいっそ危ない薬が入っていると言われた方が納得出来る心地にされてしまうのだ。

 

 蜘蛛によって多少の違いはあれど。

 

 それでもほぼ同じような完璧に近い料理が季節や食材の量も違う場所で延々と生産され、大陸の腹を過剰なくらいに満たしている。

 

 これもまた魔王軍の功績の一つであり、各地の料理人と女性達の大半は戦意喪失。

 

 最終的には蜘蛛のお料理教室に通い始める者や蜘蛛が配布した料理本を真面目に見やる者が大多数となった。

 

「(^ω^)(どう?という顔)」

 

「問題ありません。いえ、問題があったら、こんな顔していません。悔しいですが、将来はシェナニガン様に料理を教えてもらう事になりそうです」

 

「(・ω・)?(何で自分に料理を教えて貰おうと思ったんだろ?と未だに恋愛弱者を抜け出せない蜘蛛の顔)」

 

「とにかく、持っていきましょう」

 

 特大のカートに大皿料理を大量に並べたアシエルとシェナニガンがイソイソと最上階に向かう。

 

 昇降機から降りてすぐの部屋に入ると集まっていた円卓の面々が何やら談笑するやら、幾らかのグループで固まっていた。

 

「持ってきましたよ~皆さん」

 

 昼飯である。

 

 合理的ではない。

 

 しかし、酒の席と同じく。

 

 同じ釜の飯を食う事でコミュニケーションを取るのも仕事と言われた者達は最終的には同意し、初めて食事を此処で取ってからと言うもの、一度も欠ける事無く昼食時は集まる事が出来ていた。

 

 蜘蛛、幼女、おっさん、老人、少年と女性と幅広いラインナップの円卓である。

 

 ついでにいつもの大隊長達も日に日にデカくなったような錯覚を覚えるくらいには筋骨隆々とした偉丈夫に育っており、蜘蛛達の教育と教練と魔王軍幹部の為の最初期型の遺伝子導入による強化は間違いなく効果が出ていた。

 

 胡散臭いコレで貴方も〇〇に成れますみたいな商品を軽く超える強化度合いから、蜘蛛にこそ及ばないものの、現在の大陸でも肉体的には上位勢となった大隊長達は行儀の良い犬のように揃って卓の端に詰めて座っていた。

 

「姫。お待ちしておりました。今日の料理は何でしょうか?」

 

 次々にカートから出された皿が円卓の回るようになったテーブルに並べられ、緩く回転させられていく様子は回る寿司ならぬ回る大皿。

 

 幼女もおっさんも蜘蛛も無く。

 

 全員がその時になるとピタリとお喋りを止めて、自分の席に着くのだから、彼らも大概が蜘蛛の料理に餌付けされていると言っても過言では無いだろう。

 

「今日はお魚の煮込みと肉の揚げ物にソースを絡めたものがメインです。前菜に海産物でも貝を用いたスープもありますし、湯で麦を香辛料で炊いた主食付きです。南部の料理だとか。葉野菜の和え物や魚の骨を揚げたものに香辛料を掛けた肴もありますから、お酒もいいですよ」

 

「おぉ、正しく今日も美しいですな!! 夫婦で料理とはまったく羨ましいものだ」

 

「左様ですな!!」

 

「うむ。まったく以て」

 

「今後が楽しみだ」

 

「ふふ……とにかく、まずは食事にしましょう。食べながら仕事の話です」

 

 大隊長達が茶化すものだから、姫の顔もちょっと綻ぶ。

 

 しかし、肝心の魔王蜘蛛は次々に小皿に料理を取り分けて、個人毎に最も好む味付けとして持ってきた香辛料を振り掛けたり、量を調節して配膳していたので聞いていなかった。

 

 それを補佐しているのはアシエルの侍女達である。

 

 全員が席に着いて食事を始める。

 

 誰も彼も料理を食べ始めると無言。

 

 最初は泣いている者すらいたが、さすがに慣れた今では泣く者もない。

 

 泣かないだけで物凄くワナワナ震えている者ばかりであったが、その大半の内心はこうだ。

 

『(こ、こんなもんを食っちまったら、オレはもう魔王軍から離れられない気がする)』

 

 実際、今まで食べていたものが不味くなったわけではないのに美味しいとは感じられなくなりつつある彼らはコレはヤバいとばかりに昼食時以外は自分で各自食事を摂るようになっていた。

 

 アシエルが食べ始めたのを確認したシェナニガンが食べている全員の前の虚空に映像を投影する。

 

「現在の大陸の現状です。皆さんには最初期の訓練が終った者から各地域での課題の解決に取り組んで頂きます。具体的には戦闘能力の高い方には地域の取り纏め役として未だに戦力を維持している魔王軍に組み入れられていない組織への査察調査と法執行です。お膳立てはされているので難しい事は何もありません。蜘蛛の方々に従って書類に手続きし、現地の組織の解体や統合を行うだけですので」

 

 基本的には数値がグラフ化されたものが地図上に表示された。

 

 映像内では未だ各地で恭順の意を示しながらも組織化された軍隊を解散させていない勢力の図があちこちに現れる。

 

 それと同時に各地での黒蜘蛛の巣の造営と大規模な居住区画の造営の様子も映し出されていた。

 

 姫が円卓に集まった者達に次々と現状の報告を行っていく。

 

「今後、開発した地帯に建てる工場群及び配置する国々の人員の受け入れ開始は目の前まで迫っています。技術職の方はこちらで技術開発を主導して頂き、今後の大陸で必要となるあらゆる分野での技術を持った集団を形成、各地に魔王軍直営の企業体としてギルドや組合の類を現地の人々と協力して立ち上げて頂きます」

 

 切り替わると今度は今まで運用されてこなかった土地を蜘蛛達が一括して開発している様子が浮かび上がる。

 

 開発後に永続的に魔力や地熱を地下から生み出し、温水による地下農耕や屋内農業、魔力の固定化による流通網を通したエネルギー革命前夜の状況は誰もが理解出来る偉業であった。

 

 ついでのように蜘蛛達が休む脚湯やプールのような温水を使う遊興施設が備わっている様子はもはや別世界のようだろう。

 

「これが本当にオレ達の大陸、なのか……」

 

 思わず勇者も呟くような開発度合い。

 

 先進大陸で培われた工業系団地の開発が急ピッチで進められ、これらから派生、連鎖する分野の研究開発機関が置かれる地域は既に姿を露わにしており、そこに詰める人員だけが足りていないという状況であった。

 

 工場群は既に稼働を始めており、蜘蛛達が詰めてゴーレムならぬ家電を量産。

 

 特に基盤要らず回路要らずの呪紋式の魔力駆動な呪具。

 

 便利道具の数々が大規模生産でコストを下げられつつ、魔王印で最初期分が各地の商会に卸される様子まで見れば、もう蜘蛛達の経済的な優位性が覆らない事は誰もが理解するだろう。

 

「(アレは……携帯式の野外活動用の設備一式に馬車に代わる車両、か? まさか、外大陸から時折流れ着く現物を作り出せるとは……)」

 

 マスターが蜘蛛達が本当に外大陸における技術すら再現している様子にまた怖ろしい生物だなと言う感想を抱く。

 

 その瞳の先では映像が切り替わり、巨大な鋳造所で多数の工業製品、部品が造られていた。

 

 それを用いた工業の基礎となる加工用の道具の数々が次々に大陸の工業に技術革新を齎すだろう事は疑いない。

 

 金属加工用の旋盤から始まり、精密工作用の機器が魔力式にされたものがあちこちに納品されれば、ベアリングから螺子から釘からナットから何でも大陸では揃うようになるだろう。

 

 それは既存の道具を大きく改良し、移動用の車両や船舶の発展、道の舗装用の各種の工事機材や重機にまでもが現れる事を意味する。

 

 商業組合や鍛冶ギルドを筆頭にした技能、技術者集団、魔導師を排出する学校やら、その組合が同時に関わる事で更に大陸の文明の発展は加速し、嘗ての魔導を勃興した文明へと近付いていく事は間違いないだろう。

 

「最終的には大陸単位での技術革新と商業の大規模化、流通網の整備によって物流を活性化。今後の大陸の生活を便利で豊なものにするでしょう。その結果として民間に資本を蓄積し、貧困を縮小化し、それでも抜け出せない場合は蜘蛛の方々がいる場所で養う事になるでしょう。各種落ちぶれたものの殺す程でもないとされた隠れている王侯貴族や商人、神殿の者達も最下層に落ちてくれば、我々に頼らざるを得なくなり、最終的には嘗ての権威は消滅。そこでようやく真に大陸は統一されるでしょうが、それは後の話です。今は……」

 

 姫の言葉で各地の黒蜘蛛の巣で無数にウルが製造されている様子が映し出される。

 

 一般人立ち入り禁止の区画内で建造されたウルは次々に大陸全土の野外に配備されており、人のいない地域や人がいる地域でも天界からの警備という名目で一定間隔でウロウロし始めており、彼らが地下埋蔵資源や各地の地域の産物を調査しながら、造った詳細な地図が大陸のディティールを、魔王軍の理解度を上げてくれる。

 

 地質や水質、空気に内方される各種の物質の分布や年間の気候までもが情報として取り入れられ、各地のウルから集約されて、今や魔王軍は大陸を丸裸にしようとしていた。

 

「現在、ウルが総数で6万機。更に日産4000機以上が順次大陸各地に派遣され、一定領域に配備され続けていますが、天界からの莫大な天使達の流入から見て、あの数百倍から数千倍までを想定して戦力の増強を行うべきだと蜘蛛の方々は判断されています」

 

「数千倍って……あの時、数億も来たんじゃないのか?」

 

 思わず勇者が円卓の声を代弁する。

 

「ええ、そうです。ですが、我が父の残した情報やあの時の門から繋がった領域を観測した結果を解析したら、観測可能な限りの領域が天使で埋め尽くされていた事は間違いなく。輪を破壊していなければ、大陸は天使による大攻勢によって制圧されていた事が分かっています。アレは単なる先遣隊だった可能性が高い。本隊はあのような数ではないという事です」

 

「億でも届かない? それって……勝てるのか?」

 

「普通にやったら、数の暴力でどう頑張っても大陸は神の制圧下でしょう。今、増産しているウルにしても大陸各地の資源を必要以上に枯渇させないよう気を使って量産しています」

 

「戦力が足りない、か」

 

「恐らく、天使の大軍団は数千億単位であり、先日の事は驚きながらも更に数を増やして対抗してくるでしょう。勿論、相手に戦力を奪い取られない為に自爆させる可能性も高い」

 

「自爆って……そんな事を天使が仕掛けて来るって言うのか?」

 

「ええ、合理的な判断をするならば、ですが……」

 

「大陸にもう一度、あの輪が現れるより先に殴り込むしかないのか……」

 

「はい。相手に先手を取られた場合、確実に負けます。敗北を回避したとしても、不利な状況は変わらない。つまり、我らに必要なのは敵天使を明確に打ち負かす戦略です」

 

「……マスター」

 

「オレに聞くな。一介の剣士には返答しかねる問題だ。だが、要は天使の数を減らす戦略という事だろう。ならば、答えは簡単だ。各個撃破……分断するのだろう?」

 

 嘗て、魔王軍の四天王に招集されながらも、それを蹴った男。

 

 否、今は幼女が溜息を吐きながら、姫を見やる。

 

「その通りです。この為に蜘蛛の方々は大陸そのものを用いた大魔導方陣の建設を提案されました。簡単に言えば、大陸規模で敷設した魔導方陣を用いて、天使の軍勢と全力で戦えて、尚且つ相手に大陸への被害を出させず、数を減らして小分けに戦えるようにする為のものです」

 

「都合が良過ぎないか?」

 

 元勇者の少年の言葉は最もだった。

 

「都合が良い魔導。いえ、蜘蛛の方々のいた外界の魔導があるそうです。呪紋と言うそうですが……それを用いれば、巨大な戦場を用意出来ると」

 

「戦場?」

 

「はい。大陸全土を写し取る巨大な箱庭です。空間そのものを生み出し、大陸に重ね合わせた世界に箱庭を設置。敵に大陸だと思わせて侵攻させ、内部で逐一殲滅し、敵の漸減を計ります。その為に必要な仮想大陸の数は12個と推定され、その製造の為に現在ウルによる大陸の情報の写し取りが開始されているわけです」

 

 大陸の地図の頭上に円環状に並べられた十二の大陸。

 

 否、戦場が現れる。

 

 そこには複製率と呼ばれる値が示されており、何処も現在30%弱であった。

 

「現在、この仮想大陸は各地の黒蜘蛛の巣を通して別の次元に造営中だそうです。この複製された大陸には更に外界の大陸において蜘蛛の方々が倒したとされる怪物を導入し、更に戦力を増強します」

 

「怪物?」

 

「本来、蜘蛛の方々が使う事を許された能力には御父様からの制限があるとの話なのですが、それを超えるものを持ち出す許可を得られた為、この大陸に持ち込んだ代物だとお聞きしました」

 

「な、なぁ……そう言えば、前々から思ってたんだけどさ。シェナニガンや他の蜘蛛達が時々、チチとか何とか言ってるんだが、こいつらには父親がいるのか?」

 

 チラリと勇者が「(*´ω`*)?(モックモックと鶏肉のからあげを口に放り込みながら首を傾げる顔)」をしているシェナニガンを見やる。

 

「そのぅ。あまり、聞いては来なかったのですが、お答え可能な事でしょうか?」

 

 その言葉にシェナニガンを脳裏に色々と思い浮かべた後。

 

 口を開いた。

 

「(/・ω・)/ハハはまちゅーウルガンダ。チチはアルティエ・ソーシャ……」

 

 虚空に両者の顔がお出しされる。

 

 そして、多くの者達はその少年と怪物な母蜘蛛を見てあらぬ誤解を呑み下した。

 

「そ、そうなのですか? これがシェナニガン様の……」

 

「(・∀・)蜘蛛にするのは母の能力。強くなったのは父のおかげ。でも、今は討伐された母はイエデチュー」

 

「討伐? い、家出?」

 

「( `ー´)ノ父に本体を倒されて、眷属けーやくで力を与えた後、人間嫌いだから島の何処かに家出してるー」

 

「な、何だか複雑なご家庭事情なのですね。申し訳ありません」

 

「いや、今のはアレだろ!? 蜘蛛の怪物を倒して、配下にしたって聞こえたぞ!?」

 

 姫が謝り、思わず勇者が突っ込む。

 

「(>_<)ちちはさいきょーだからー」

 

「最強ね……このオレより年下そうなのが蜘蛛の親分なのか……」

 

 勇者の言葉にちょっとカチンと来たシェナニガンである。

 

 生憎と近頃は感情豊かな彼は……過去、少年が辿って来た道中でもハイライトの一つを記憶から呼び起こして、俯瞰する3次元映像として投影する。

 

「!!?」

 

 彼らの前に魔導によって映像が呼び出される。

 

 巨大な円筒形の動く城。

 

 山脈を超えて現れた恐怖の具現。

 

 火の海になる街を背景にして、無数の逃げ惑う人影。

 

 1人半身を砕かれた少年が砕けた岩の切っ先に脚を載せ、片腕で近付く城を睨む。

 

 そうして、彼と城が激突した時、敗者は割砕かれて、中心となる施設も何もかも真っ二つ。

 

 そして、少年は全身を砕け散らせて虚空に散逸していく。

 

「(;^ω^)いつ見てもりふじーん」

 

「いや、理不尽て言うか。その……死んだんじゃ?」

 

「(・∀・)今はノクロシアにもぐってるとちゅー」

 

「あ、あれで生きてるのか。というか……城……動く城とか……」

 

 勇者があまりの光景に顔を何とも言えないものにさせていた。

 

「……確かに最強だな。この映像が真実ならば」

 

「マスター?」

 

「今見ている限り、魔力の類を外部に使っていない」

 

「え!?」

 

 その言葉に円卓が思わずざわめく。

 

「あの動く城……建材からして鉄などよりも余程に頑丈に見える。だが、それを魔力無しで両断し、肉体が反動で四散したという事は剣技だろう。己の肉体を滅ぼして使う破滅の剣……大陸にも幾つか奥義はあるが……ああまでも両断するとは……オレには到底出来ないし、そこの聖戦士殿にも魔力無しでは不可能なのでは?」

 

 古代の聖戦士。

 

 今は幼女の男が芽を細める。

 

「まさか、献身の剣の使い手が未だにいるとはな……」

 

「知っているのですか? 聖戦士殿」

 

「嘗て、天使達が大陸にて多数活動していた際には肉体を天使に近付ける事で力を得る者達がいた。我れもまたその一人。だが、剣のみで戦う者達もいた。肉体は人のままに……抗い続ける者達……その一派には命を賭した剣技がある。どの剣技もまた人の体では耐えられぬものばかり。しかし、命を賭して磨き上げれた剣技は天使すらも絶ち。魔力が無くとも山を割り、大地を割く」

 

 その言葉にマスターが確かにそういう伝承が大陸にも伝わっていたと思い出した。

 

 眉唾ではあったが、伝承の剣士達は命を賭して天変地異すらも切り伏せたと言われている。

 

「そして、嘗て降臨した神に対してもまた致命傷を与える事が出来たと記憶している。魔王の配下には本体が消滅した神を封印する際に同じような剣を使う者がいたはずだ」

 

「そうなのですか。父から聞いた事はありませんが……神の封印はとても難事だったと聞いてはいます。シェナニガン様のお父上もまた他者の為に命を掛ける方だったのですね……」

 

 姫がそう締め括ると映像が途切れた。

 

「それにしてもシェナニガン様のお父上は何処かの迷宮に潜っているのでしょうか? 一度、お会いしたらご挨拶したいものです」

 

「ノクロシア……ノクロシア、か?」

 

 聖戦士幼女が目を細めてシェナニガンを見やる。

 

「蜘蛛達の最終目標は大神の連合を打倒する事。そして、嘗ての時代には聞いた旧き者達の伝説の都、ノクロシア……彼……いや、貴殿の父上殿は……その資格を得ているのか?」

 

 シェナニガンがウンウンと頷く。

 

「聖戦士のおっさん。何か知ってるのか?」

 

「……ノクロシアは旧き者達の都。伝説では万能無限に至るだろうあらゆる叡智と技術があると言う。不老不死は言うまでもなく。他にも世界を滅ぼす兵器。如何なる病も治す万能薬。星々を渡る船。不滅の兵隊……数え上げればキリが無い」

 

「そ、そんな場所があるのか……」

 

「(・∀・)(殆ど収集済みだけど黙っておこうという顔)」

 

「その方がいい。何も知らぬが人は幸せであろうとも。だが、我らに齎す怪物の力とは何かくらいは教えて欲しいものだ」

 

 聖戦士系幼女の言葉に蜘蛛がポリポリと頬を掻く。

 

「(・ω・)ノ(心読まれてーら……ま、いいかと神樹……冥界の怖ろしき人造神。冥領の蜘蛛達が崩壊した神の領域へ悪魔の能力で探索に向かい持ち帰った破片より再生させたソレを彼らの前にお出しする顔)」

 

 その場の全員が凍り付いた。

 

 ソレは巨大に過ぎる大樹だった。

 

 だが、それよりも問題はその頭上に輝く幾多の複眼を集積した代物だ。

 

 無数の瞳が天に向けてギョロリとしている上、周囲には大量の触手のような樹木の根がうねっており、複製中と言われた別領域の大陸の上に100km単位で連なるようにして屹立していた。

 

「―――怪物。樹木の? いや、あの黄金の魔力……神の類か?」

 

「(/・ω・)/ちちがたおしたやつ。のこりものー」

 

「残り物……増やしたわけか。あの黒い神の力を溢れさせた沼で……」

 

 実際、それは事実であった。

 

 大量に働いている蜘蛛達の内、蜘蛛脚の巣の昼夜無き改装は終わっていないが、その大半で大掛かりな数が必要な作業は終わりつつあり、その分を別領域の大陸の整備に費やしている。

 

 蜘蛛は言わなかったが、大陸の複製は正しく神樹によって行われていた。

 

 元々が人造神であり、亡王エンシャクが育てていた切り札の一つ。

 

 しかし、それが一つだったのはハッキリ言えば、資源や力が足りなかったからだ。

 

 だが、此処には無限に神の力を産出する天使蜘蛛達がいる。彼らの莫大な力を常に補給する先として神樹が複製大陸を生み出し、それを調整しながら、蜘蛛達は戦場を造っていたのである。

 

 これもまた島から唯一開放された他大陸での運用情報が欲しい品であり、現在の蜘蛛達の大きな仕事の一つはこの神樹を用いた神との戦闘データの収集。

 

 つまり、三千大千世界……フォルトゥナータを名乗る大神の連合との全面戦争に向けた戦闘領域の構築とそれを用いた戦略戦術の現場での構築であった。

 

「その~聞いていいか? この樹のお化けは何が出来るんだ?」

 

「( ̄ー ̄)殺されたら元に戻らなくなる」

 

「は?」

 

「( ̄▽ ̄)不死殺し。相手は復活しない。自身に備わる肉体的な能力以外では傷も再生しない。大神でも攻撃を受けたら、直撃時には傷をしばらくは治せないし、致命傷を受けたら死んだまま復活も不可能になる」

 

 また周囲が黙っていた。

 

 神殺し専用の怪物を複数の複製大陸で養殖し、天使の大軍勢を殺し尽くすつもりなのだと彼らはようやく理解した。

 

 そう、護るのではない。

 

 相手に攻めさせて狩り尽くす為の複製大陸。

 

 殺し間、なのである。

 

 正しく規格外の罠。

 

 相手に防御させていると思わせて、実際には絶対不利の必死圏に誘導されるのだ。

 

 天使の群れがこれに対して有効打を持たなければ、戦闘は間違いなく蜘蛛達の有利になる。

 

「……はは、お前らって本当に……」

 

 顔の引き攣った勇者が溜息を吐く。

 

 その時だった。

 

 旧き者達の言葉で危険を知らせる『わーにんぐ』という赤い文字手が点滅する。

 

「な、何だ!?」

 

「(;^ω^)お客さんがさっそく連れたー300m級の天使の輪が複数、複製大陸NO.04に到達。小規模の偵察小隊と認識……数は約……9000千万くらい?」

 

「な!?」

 

 先日、大陸に広がろうとしていた輪の小規模のものが複数広がった複製大陸。

 

 その先から猛烈な速度で天使達が音速を超えて飛び出してくる。

 

 その殆どが超加速と機動力を充填したらしき小さな翼を複数枚体のあちこちに付けており、天使の輪が神樹の瞳に見られた瞬間、崩壊し、光の煌めきと化して消え失せた。

 

 途中で通路が切断された後。

 

 しかし、天使達は怯まない。

 

 最初の得物として分かり易い標的。

 

 神樹を討つべく。

 

 蜘蛛達にも迫りそうな速度で空を飛翔し、複製大陸の空を走破した。

 

 したのだが、彼らはふっと気付いた時には自分の肉体が細切れになって空に散っていく事を悟った。

 

 特に音速を遥かに超えて機動する機動力重視の天使達が空で細切れとなって、血の雨として大地に吸収されていく。

 

「な―――何だよ!? 何でいきなり……」

 

「糸か。お前達の糸を空のあちこちに伸ばして張り巡らせていたな。必要無い時は糸には何も流しておかず。見えないし感じられないが、一度糸に力を流せば、相手を切断するわけだ」

 

 マスターがシェナニガンに「(・∀・)(せーかいという顔)」で見られる。

 

 だが、そんな応答をしている合間にも天使達が猛烈な勢いで黄金の魔力を零しながら、莫大な熱量を光を放つ光弾を大陸中に乱射し、次々に荒野を密林を更地にしていく。

 

 蜘蛛の糸の出所を地表と定めての事だ。

 

 しかし、此処でも更に大量の天使達が細切れとなっていった。

 

「な、何でだよ!? 糸を張ってなければ、傷つけようが無いだろ!?」

 

 勇者の反応は逐一最もだ。

 

「……糸の鋭さだけで切断しているのか。切断された糸そのものがあまりにも薄く風に載っているのだろう」

 

「はぁぁ!?」

 

 思わず聖戦士幼女の言葉に勇者が瞠目する。

 

「幾ら千切れても切断出来る糸に残った神の力はそのまま。爆風で舞い上がって千切れた糸は塵のような形になっても周囲に漂って相手を細切れにする」

 

「吹き飛ばされるんじゃないのか?」

 

「雨を遮れないのと同じだ。爆風で吹き飛ばしても、その先にいる大半の生命体は天使……複製された大陸が閉じられた領域ならば、循環する空間内から糸は出ていく事が無い」

 

「そ、それって……」

 

「締め切った埃塗れの室内で幾ら風を起こしても埃の総量は変わらんだろう?」

 

「ッ―――」

 

「領域内で増え続ける熱や光、衝撃で糸は細分化されて、更に逃げるのが困難になる。更には糸に力を吸収する仕掛けでもされていたら、もはや息を吸う。その場に存在し続けるというような程度の行動だけで肉体の内部に潜り込んだ糸を破壊する以外に生き残る道は無いが……」

 

 映像の最中。

 

 大量の天使達が叫びながら、自分の肉体を燃やし始めた。

 

「あ、あいつら!? まさか!!?」

 

「肉体そのものと周辺を全て燃やし尽くして対処する。正しい方法だ。気付いたら、対処法を実践出来るのは強いな。しかし、それを考えていない蜘蛛達でも無いだろう?」

 

「(・ω・)(あ、はい。その通りっすね……この聖戦士怖い……こっちの戦術全部言い当てるとか。敵に回ってなくて良かった……という顔)」

 

「……は?」

 

 勇者が思わずそう言ったのも無理は無い。

 

 天使達が己を焼いた瞬間だった。

 

 次々に天使達が燃え尽きていく。

 

「な、ふ、普通自分を燃やし尽くさないだろ!!?」

 

「違う。燃やし尽くす気は無かったが、結果的にそうなった。全て蜘蛛達の作戦勝ちだな。自分を燃やさなかった天使が殆どいないようだ。空気に何を混ぜていた?」

 

「(・∀・)こーのーどさんそだよー。くーきちゅーのしつどはぜろー」

 

 ちなみに複製された大陸の殆どの植物は擬態の形で新樹の枝が変形していたものであり、神樹にの成長や体積を増やすのに水や栄養は要らない。

 

 基本的に必要なのは神の力のみである為、可能な環境操作であった。

 

「奴らが気付かぬはずだ。天使は外環境に強いせいでそういう変化に気づき難い。従来の環境では問題無かった方法も一見して分からない環境要因が複合すれば、あっという間に命を奪うだろう。耐熱温度はそれなりに高いはずだが、糸そのものにも特定の環境で燃やした場合に威力を底上げする仕掛けをしていただろう?」

 

「(`・ω・´)(ホントにこいつ今敵じゃなくて良かったという顔)」

 

「糸に込められた神の力が体内で急激に燃やされる際、条件付けされた魔力運用体系の仕掛けで一気に牙を剥いたな。天使共は黙っていても内部からズタボロにされて死ぬし、肉体を燃やしても死ぬ。極端な防衛手段を取らされた時点で負けていたという事だ……」

 

 彼らの前では凡そ3分で天使達の大半が燃え尽き。

 

 それにも増して絶叫を上げて恐怖に駆られた天使達が大樹の化け物に戦いを挑むも地表から伸びる万では足りない触手に絡め取られ、次々に四肢を砕かれ、そのまま樹木に取り込まれ、侵食されながら別の生物へと変貌していく。

 

「な、何だよアレ。天使を一体何にしてるんだ? 蜘蛛か? 幼女か?」

 

「(;^ω^)天使素体のたねー」

 

「種?」

 

 聖戦士幼女が溜息を吐く。

 

 最終的に天使達は実際、種のような形の樹皮に覆われていったからだ。

 

「無限にも等しい敵を相手にまともな戦力確保は不可能。ならば、天の領域そのものにアレを持ち込んで戦力源を現地に造る方が輸送も無くて楽だろうとも……」

 

「ま、まさか、あの樹木の化け物を天界とやらに植えるつもりなのか!?」

 

「(・ω・)……ごーりてきはんだん」

 

 聖戦士幼女に最後の作戦まで言い当てられて、シェナニガンがそう白状ゲロした。

 

「怖いわ!? お前ら、本当に危ない生き物なんだな!? つーか、本当にアレ大丈夫なのか!? こっちに牙とか向かれても倒せないぞあんなの!?」

 

 勇者の声は円卓の青い顔の面々の代弁に違いなかった。

 

「(・ω・)ノそのばーい、またたおせばいー」

 

「……はぁ、何か全部、可能な気がして来た。分かった。分かったよ。任せるから、せめて必要そうな情報は教えてくれよ。いや、ホントに……」

 

「(>_<)りょーかーい」

 

 こうして神の偵察部隊を丸々破壊した複製大陸では焼き尽くした天使達の力と質量、燃やした際に放出された熱量の全てを取り込んだ神樹が増殖。

 

 複製大陸の生成速度は大きく上がったのだった。

 

 *

 

 大神の先兵を倒す為の罠を蜘蛛達が揃え初めて一月が経とうとしていた。

 

 各国では遂に混乱の収束と同時に新しい政治大系として民主主義が導入。

 

 魔王軍配下となった大陸の商業組合を主軸とした王侯貴族の中でも国民からの人気と有能で合理的判断を下せる者達が纏められた議会がしばらく独裁を敷く事が決定したのは良い知らせだっただろう。

 

『何で我々がこの地区の代表に選ばれたんだろう……分かるかい? 秘書君……』

 

『さぁ? 偽善者みたいな事してたからじゃ?』

 

『おいおい。勘弁してくれよ……本当は奴隷商売する前に利権で雁字搦めだった孤児院を独自にやり始めただけなんだぞ?』

 

『全うに子供達へ教育していたからでは?』

 

『だって、最初期の計画では奴隷売買組織の屋台骨にする部下を育てる計画だったから……』

 

『もう、遅いので偽善者の皮を被り続けましょう』

 

『……はぁぁ、蜘蛛のせいで人生設計狂いまくりだよ。ぼかぁ……』

 

 現在、憲法及び各種の新法規が丸々準備されている状況であり、先進大陸の法規をそのまま現地に適した形にする作業が蜘蛛と法学者達の間で進められていた。

 

 新憲法と法規の発布は3か月後。

 

 現行法規は5年で全て入れ替えるが、それまでの猶予期間に新法規に即した形に各種の分野での規制や規制撤廃が行われる事となった。

 

 民法もそれに倣い。

 

 各種の新法規導入の為に関連諸法の段階的な切り替えが開始される旨が告知。

 

 いよいよ大陸統一の実作業に移る段階となり、億単位の天使蜘蛛達が大陸全土に主要幹線道路を整備し切るまで秒読みとなっていた。

 

『何かよぉ。村の端に道が出来てねぇか?』

 

『ああ、アレね。何か出来たよな。蜘蛛様達の仕業らしい』

 

『道って1日で地平の果てまで出来るもんか? あのデッケェ河に橋まで掛かってたんだが?』

 

『ああ、何か村長が橋は無料で通っていいってお達しがあったって言ってたぞ』

 

『そ、そうか……今度行ってみるか……あ、それと何か旅人多くねぇ?』

 

『オイ!? 何かやたらと宿の前に人がいるぞ!? 何だあの数!?』

 

『うぉ!? 都会の方ばっかりだよ!? あ、村長が呼んでる……』

 

『何の話だろうな? お、蜘蛛様がいらっしゃるようだが……』

 

『アレでねぇか? 道の近くにある村に旅人を止める旅籠を完備するとか何とか。この間の村長会合で話に出てたらしいぞ』

 

『……この村にも遂に酒場が出来るかもしれんなぁ……』

 

 牛馬などの規制と新規の道路整備、専用道路整備による新型の魔力式の車両開発も佳境に入っており、大々的に物流が変革されるまで時間が無く。

 

 最初期に今まで使っていた物流に使っていた馬達は山岳部での農耕馬として転用。

 

 初めての車両導入は全て魔王軍から一括して新型車両の調査という名目で物流業者に馬を農耕馬として転用した分だけ引き渡す事となった。

 

 これで一気に物流による値段が下がった事、各地で魔王軍の黒蜘蛛の巣から大量の食糧の放出が一端絞られ、肥料や諸々の農耕器具などが大量にほぼタダ値同然で貧困層を最も多く形成する地方の貧農層に拠出、魔王軍からの技術指導と共に農耕知識の向上を図る農村学校が開設された。

 

『先生!! つまり、土中の窒素やリンと言った栄養素の偏りが土壌の持ち味であり、内部の微生物群によっても食物の育成速度は左右され、更には“うぃるす”とやらが関わっており、育成に必要なのは単純な肥料だけではないという事でしょうか!?』

 

『(/・ω・)/(そのとーり。頭の良い生徒が出来て嬉しーなーという顔)』

 

『では、つまり先生達の使うあの黒い“シンキン”というのも“うぃるす”とやらに左右された場合、育成が遅く成ったり、速く成ったりするんでしょうか?』

 

『(・ω・)(今まで考えて来なかったけど、遺伝子並みの微細加工が呪紋でも可能な今なら遺伝子導入手段を真菌からウィルスの方で行えるかも? 神の力を膜にして保護しつつ、分子間力による他細胞への挿入で増殖させつつ、各遺伝子の座位群を連続導入し続ければ、生物細胞の遺伝子の連続書き換えと細胞増殖で短時間で作用機序から変異させられそう。寿命の問題さえ解決すれば、後は……現物の書き換え用ウィルスの素体を作成して……呪紋が要らなくなる気も……ちょっと作ってみるかという顔)』

 

『先生?』

 

『(・∀・)(君は将来、教科書に載るかもねという顔)』

 

 都市部での貧困層もまた蜘蛛達が彼らの治癒と共に働く場を儲ける事で健康的な生活が送れるようになり、寿命も底上げされたし、死ぬまで家で生きられるようにも計らったので事実上は老人も労働力としてカウントされるようになった。

 

 これに輪を掛けて魔王軍は持続的な働きかけを行う保健福祉局を開設。

 

 治癒呪紋によって病や持病を退散させ、老衰で死ぬまではピンピンしているように図られた為、これが蜘蛛の奇跡と称されて、蜘蛛達は正しく神の御使いならぬ魔王の御使いとして崇められ始めた。

 

『大蜘蛛様じゃぁ!? おお、これを……お供えものですじゃ!? ははぁあああ!!!?』

 

『(´ρ`)(あ、崇められてる……取り合えず、お供えはみんなで食べるように言って、治療を開始しようかなという顔)』

 

『ふ、ふぉおおおお!? 病を治したら、宴に御供え物を使えと!? な、何と寛大な!? おぉ、これぞ魔王の奇跡!!? あんなチンケなお布施しか取らん神殿のクソ坊主共とは大違いじゃ!!?』

 

『(`・ω・´)(ま、いっか……喜んでるみたいだしという顔)』

 

 治癒呪紋以外にも島で用いられていた秘薬の超絶劣化互換版となる各種の薬品が次々に現地の資材で製造されて、格安で市場に投入された事も相まってクソ高かった医療の相場は暴落。

 

 ついでに今まで医者をしていた詐欺師と医者という名の祈祷師の類が絶滅し、魔王軍医療学校とやらが新設され、現行の医者達には大量の専門書(天使蜘蛛著)の暗記と実践と新免許制が交付され、国家財政に占める医療費用は激減。

 

 いつの時代も人々の関心事は食料、住居、病気のような生活に密接した事柄であり、戦乱で荒んだ心にはコレら蜘蛛達のオモテナシ政策がすぅ~っと聞いて、最初の『蜘蛛は恐ろしい魔獣!! 早く駆除しなくちゃ!!?』みたいな言動が『く、蜘蛛様? おお、蜘蛛様が来て下さったぞ!?』くらいの掌ドリル状態で評価が振り切れた。

 

 結果として普通の民間人にしてみれば、蜘蛛は何だか良く分からないけど、新しい魔王の配下で自分達に食料を提供し、医療を提供し、気に食わない王侯貴族をぶっ飛ばし、戦乱で困窮していた自分達を救う救世主に見えたのである。

 

 その愛され具合は尋常ではなく。

 

 今や島のアルマーニアがそうであったように蜘蛛系商品が陳列棚から消える事は無い様子で民間市場では今や蜘蛛アイテムがブレイク中である。

 

『見て見て!! これ蜘蛛様ぬいぐるみ!! おとーさんが買って来てくれたのー!!』

 

『いいな~。あ、でもウチはおかーさんが蜘蛛様の刺繍を入れたハンカチをくれたんだ~ちょっと、蜘蛛というよりは黒いアイツに似てるような気もするけど……』

 

『仕方ないよ~~まだ病み上がりなんでしょ?』

 

『うん……もう治らないって言われてたから……あたし、将来魔王軍に入るんだ。そうして、助けてくれた魔王様の為に働くの♪』

 

 蜘蛛型の食糧から始まって、蜘蛛の玩具やら蜘蛛のぬいぐるみやら何なら蜘蛛系のものじゃないものがあるのかという具合。

 

 特にそういった魔王軍の熱心なのは商人だけではなく。

 

 軍人の一部も同じであった。

 

 傷病者、重傷者を含む戦乱で出た傷病兵達はもはや手足を生やされた辺りから蜘蛛信仰に目覚めており、『今までの神はクソ!! 蜘蛛様達と魔王陛下こそ正義!!』と放っておかれた戦時の恨みも相まって新興宗教になりそうなくらい魔王軍にフレンドリーな先兵と化した。

 

『ああ、蜘蛛の方々。これから我らが部隊の部下となる者です。よろしくお願い致します』

 

『(。-∀-)(あ、よろしくねーという顔)』

 

『では、今後は我々の事は手足だと思って存分にお使い下さい。何年も兵隊業からは遠ざかっていましたが、後方支援業務ならお手の物です』

 

『(`・ω・´)(そうなん? という首を傾げる顔)』

 

『蜘蛛の方々に助けて頂かなければ、今も蛆の湧いた寝台の上で寝た切りにされ、粗末なパンと泥水を出されて死ぬまで沈黙していたでしょう。魔王軍とは嘗て死闘を演じもしましたが、我らの人生を放っておいた神殿や国家なんてものにはもう愛想も尽きました。これからは魔王軍の1人としてお仕えしたく存じまず』

 

 今や蜘蛛を隊長とした人や亜人で構成される元傷病兵達の兵団があちこちで組織され、農耕や建築、野外でのサバイバル技能というような蜘蛛の基本能力を備えさせる為の訓練が行われ、そのついでで各地で農業や土建業、料理の分野に進出。

 

 次々に現場の即戦力として重用。

 

 魔王軍の一角として日に日に組織は大きく強く……今後の蜘蛛がいない場合でも頼れる戦力となるよう、人々を護れるよう育てられていたのだった。

 

「(゜∀゜)……」

 

 蜘蛛脚の巣。

 

 円周を回るだけで数十キロ単位というウル・セラフの変異強化体。

 

 蜘蛛脚そのものを連続多重生成する事で形作られたソリトゥード大陸最大の建造物にして生物である。

 

 今や、大陸の何処からでも見えるという事で魔王軍の象徴とも言われるようになったソレは大陸全土に黒蜘蛛の巣と同じように真菌の幕と竜骨を伸ばし始めた。

 

 要は大陸そのものを巣とする事を開始していた。

 

 巨大な日時計染みたソレが日の光を未だに零す空をある程度覆いながら、夜の間に真菌を遥か天から投げ掛けている様子は正しく巨大な傘のようにも見えるだろう。

 

「(・ω・)………」

 

 膨れ上がった天使蜘蛛達からの神の力と魔力の供給によって、成長し続けるソレの放出する傘の如き真菌の糸は膜となって大陸を覆い尽くし始めており、大陸そのものを管理する巨大な中央施設としての役割を担い。

 

 昼間は見えないが、夜には薄っすらと空に確認出来る大陸を覆う天幕として気象すらも制御し始めていた。

 

 可能な限り、植生を維持しつつ、各地での農耕と人々の日光による成長を遮らないよう配慮し、同時に雨の少ない人のいる地域には雨を程々に降らせて水源や農耕を加速させている。

 

『とーちゃん!! お空に幕が見えるだよ!!』

 

『おぉ、そうかそうか。大蜘蛛様の巣が膜を掛けていなさるんだよ』

 

『まく~?』

 

『ああ、何でも雨を降らしたい時に降らせられるらしい』

 

『す、すげー!? 大蜘蛛様ってそんな事も出来るだかー!?』

 

 大陸の現生動物達の多くには過度な影響が出ないよう巣の形成では干渉の調整がなされていた。

 

 農耕地帯では雑草の類を真菌で融解し、有機物と栄養素として回収。

 

 鉱山では露天掘りならぬ真菌掘りで鉱脈を融解させて回収し、精錬用の金属流体を吐き出す最強の採掘道具として用いられ、鉱脈そのものに真菌を充填して、大陸の山脈を真菌溜まりとして開発中だ。

 

『もう鉱山掘る事はねぇかもしれんなぁ。あのドロドロが全部鉱脈を喰らっちまってるって話だよ』

 

『でも、大蜘蛛の方が言うには色々とまだドワーフには掘って欲しい山があるんだと。鉱脈以外にも山へ避難場所を掘ったり、山の中に保管所みたいなのを必要だから、頑張ってくれって村長が言ってただ』

 

『本当かぁ~? じゃあ、オレ達ドワーフもまだ喰いっぱぐれないって事かいな?』

 

『後、技術協力とか言うので一緒に神の軍隊から民を護る為に色々考えて欲しいって話でよ。ほら、神世の時代のゴーレムとか。星剣や神剣の作り方も聞きてぇんだとよ』

 

『そうか……村長が良いって言うならいいんでねーか? でも、村長も大昔の御伽噺とおかしな剣の作り方くらいしか知らねぇしなぁ。実際にそんな方法で打った事はねぇって酒の席で言ってたし……』

 

 危ない植物類は一部の地域以外からは回収し、野生化させる目的で食料となる遺伝改良済みの果実や薬効効果のある薬草、樹木が大々的にばら蒔かれ、元々の現生していた植物を過剰に駆逐しないよう図られつつも共存するように定期的な採取による間引きも含めて真菌による自動化が成された。

 

 新規に大陸へと植えられた遺伝導入済みの植物の大半は果実や本体を刈り取られなければ、それらを地表に落とし、肥料や薬効を凝集した地質を形成して、動物や植物、微生物達を豊かにするし、採取して用いられれば、カロリーや薬効の高い食材として人の口に昇る。

 

『へ?! あ、あの魔の森がもう危険じゃねぇって!? 嘘だぁ!?』

 

『それがよ。アンタ!! 村長のとこの坊が若いのと一緒にいったら、魔獣もいねぇし、危ねぇ樹も草も茸も無くなってるって言ってたのよ!!』

 

『本当かぁ!? じゃあ、あそこで色々取れるんか?』

 

『えぇ!! 何か食べられる高級そうな果実が色々生ってるらしいわよ!! 大蜘蛛様が程々に取って、食べ切れないのはそのまま土に還しといてくれって言ってたとか何とか。アンタ、明日にでも行ってきてよ!!』

 

『お、おぅ。そ、そうかぁ~~先祖伝来の入っちゃいけねぇ森も遂に無くなっちまったのか。悲しいような嬉しいような……複雑な気分だべ……』

 

 人の住まう村々、街、都市の多くでは真菌を用いた巨大な排水設備が整えられ、トイレは真っ黒な便器が主流となった。

 

 人の排泄物が次々に真菌によって回収され、必要な場所に土地の肥料として充填され、今まで活用出来なかった汚れた水なども活用出来るようになった。

 

 水質汚染の酷い河川は黒く染まった後には元の清らかさを取り戻し、今まで活用されて来なかった大陸の土地の多くも肥沃な土壌に早変わり。

 

 本来、人が開拓して数百年は掛かるだろう大陸の農耕地帯の開発は恐ろしい速度で進展し、人々の事なんてお構いなしに現れ、魔王軍によって活用されている。

 

『あの黒い便所だけはなぁ……』

 

『お客さん。アレが流行ってヤツですよ』

 

『尻を洗う水も紙も無料っておかしくないか?』

 

『それが全部一式魔王軍から降ろされたもんでして、水回りの改装も無料。紙もタダで客に使わせてやってくれって話です』

 

『はぁ~~太っ腹だな』

 

『他のあらゆる大小の街、村々でも公衆の便所はみんなアレになったらしいですよ。おかげで臭くないってんで女子供には大好評だとか』

 

『で、でも、大丈夫か? 肥料にしなくていいのか? 尻とか黒くならない?』

 

『肥料にしなくても魔王軍のおかげで今年は豊作らしいですよ? ついでに尻が黒く成るどころか白くなるそうです。お客さんも試してみては……ひひ♪』

 

『お、おぉう。魔王軍畏るべし、だな……』

 

 様々な制度改革、技術革新、人材教育によって、大陸全土で人々は生活の向上に直面し、それが蜘蛛達の力だと実感し始めていた。

 

 現在、黒蜘蛛の巣で生産されているのは食料だけではない。

 

 特に竜骨が莫大な量が大陸全土に蜘蛛達の特産品としてほぼ無料に近い値段で各国家に卸され、既存の建築物を黒蜘蛛の巣の内部の建築物のように補強されたり強化されたりもした。

 

 この巨大な不動産そのものへの投資が活況であり、超格安で貧農層すらも朽ちた家屋を新品同然にして竜骨製のものにする事で定住化を促進。

 

 魔王軍による建て替えまでもが軍の亜人部隊を主軸とした者達の経験の為に無料で施され、多くの農村が蜘蛛達に足を向けて寝られない有様で堕ちたのである。

 

『あ、あばら屋一間の家が……ウチが……』

 

『かーちゃん!? 庭!! 庭と柵があるよ!! 畑付きの庭と白い柵!!』

 

『かーちゃん?! も、門まであるよ。す、すげー!!? 家の中見てよ!? 広くて滅茶苦茶デッケェ!?』

 

『かーちゃん!!? 二階があるよ!!? 部屋が5つもある!? 下も風呂場まである!? えぇ!? 台所に床があるよ!? 他にも黒い便所まで!?』

 

『かーちゃん?! 地下室だ!? お屋敷みたいな地下室に立派な樽が沢山あるぅ!!? な、なな、何か高そうな瓶が一杯入ってる棚まであるぅうぅぅぅぅ!!?』

 

『かーちゃぁあああああん!? 屋根裏ぁあああ!!? 屋根裏からお空が見える!!? は!? 納屋が何か滅茶苦茶ドデかくなってるぅううううううう!!?』

 

『か、かぁ、うぇぇぇええぇええぇ―――』

 

『どどどど、どうしたんだい!? 金額かい!? 金額が書いてあったのかい!?』

 

『おと、おど~ちゃんがかえ゛っでぐるっでぇええ……今日帰ってくるってぇええぇ!! 紙がぁあぁ!!?』

 

『ああ!? アンタだけには文字教えてたものね!? えぇ!? あの人帰って来るの!?』

 

『おう、お前ら!!? 今、戻ったぞ!!』

 

『『『『『と、とーちゃ―――』』』』』

 

『そのぉ……お嬢ちゃん。どこの子だい?』

 

『かーちゃぁああああああん!? 幼女になったオレを許してくれぇええええええええええ!!?』

 

『あ、アンタァアアアアアアアアアアアアアアアアアア!!!?』

 

 嘗ての農村部が暗い雰囲気の錆びれた世界であったのに対し、今は何処かの絵画に出て来そうな田園風景が彼らの故郷には広がっている。

 

 都市部で貧困に陥っていた多くの人々を農村部に誘致し、喰うに困らないようにしつつ、娯楽も提供するのは蜘蛛達である。

 

 酒場から始まって、劇場などを建て、役者や芸術家の類の中でも売れない連中を誘致しては定期的に催しものをやれば食えるように組合まで造らせて、生活補助まで出る始末。

 

 彼らに雑貨や農具他様々な物資のデザインまでさせれば、蜘蛛達の悠々自適ライフを演出する農村部への回帰政策は大当たり。

 

『食えない三流役者……』

 

『食えない三流画家……』

 

『食えない三流彫刻家……』

 

『おい……せめて、二流だろ?』

 

『テメェが二流ならオレは一流だろ……』

 

『クソゥ……何かやれってやらないとマズイってどーすんだよ……』

 

『このお仕事表なる大蜘蛛の方々が持ってきた紙に書いてある事をどれくらいしかたかで生活補助が幾ら出るか決まるらしい』

 

『く、背に腹は代えられないか……はぁ、こいつらと一緒じゃなけりゃな』

 

『『それはオレ達のセリフだ。三流』』

 

『『『―――芸術ってヤツを教えてやる!!? このドサンピンがぁあああああ!!!?』』』

 

 都市部の過剰人口の是正と貧困層の解消は大きく進んだ。

 

 開拓団と称して着の身着のままに大陸各地で自分で耕せる範囲の新規開拓の農地は貰えるという政策で人々を誘致もしたので生まれ故郷よりも幸せな生活を求める貧困層はこぞって大陸僻地……嘗ては人の手も入らなかった場所で街を形成し、新たな生活へと舵を切ったのである。

 

『人間共のやった事に対する罰は甘いようにも思えるが、当事者を全て殺害、もしくは蜘蛛か幼女にしてしまったのではどうにもな』

 

『ですが、正直食えない事の方が困ります。実際、評判の悪い亜人を見下していた連中が一層されたのは清々しくもある。文句を言う程ではありますまい』

 

『……あの次なる魔王様は亜人も人も無く。登用を始めているそうだ』

 

『戦乱を抑止するのならば、良い方法では?』

 

『人と亜人の競争が魔王軍とどう付き合うのかで明暗が分かれそうだが、どちらも答えは分かり切っている。此処は亜人が言いたい事は飲み込んでおくという状況だろう』

 

『……では、賠償請求の方は?』

 

『過大にならぬ程度に事実だけを陳列して、妥当な額を吹っ掛けてやれ。遣り過ぎるな? 妥協させろ。人の国もまた立て直しの最中。だが、もう統一された大陸に魔王軍へ逆らおうとする者はいないだろう。実際、全ての国家戦力は一度解体し、魔王軍……いや、統一大陸軍に再編成されるとの事だ。精々、良い位置に付けようではないか。我が国も……』

 

『了解致しました。では、文官達にはそのように……』

 

 亜人国の殆どは新たな魔王の政策には人相手に譲歩し過ぎでは?という空気もあったが、結局のところは魔王軍から支援の前に押し黙ったし、魔王の一人娘たる少女からの飢えて貧する獣のような兵隊が攻めて来るよりは話の分かる蛮族の方が百倍増しだろうと言われて仕方ないという顔にもなった。

 

 生存闘争は常に苛烈で過酷で亜人にしても尋常ではない覚悟がいる。

 

 だが、単純な利害による戦い。

 

 それも宗教狂いが消えた世の中での争いとなれば、種族が滅びる心配はほぼ無く。

 

 故にこそ彼らは嘗ての血で血を洗う闘争に疲れていた手前、頷く以外無かった。

 

 大陸百年の計である。

 

 亜人と人の妥協が遂に為されたのだ。

 

 どちらも憎いのは同じだが、時間の効用が何れはそれも解決する。

 

『なぁ、お前……』

 

『はい? どうかしましたか? あなた』

 

『この煮込み。旨くないか?』

 

『ほほほ、今まで不味かったとでも?』

 

『いや!? そ、そそそ、そうじゃなくてだな!? 何かこう!? 肉が柔らかかったり、香辛料が変わったのかな? 何かスゴく香り高いというか。今までも美味しかったが、更に美味しくなったというか』

 

『蜘蛛の方々からの配給品です。お肉がとても柔らかくて、香辛料が増えたのよ……』

 

『そ、そうか。まだ肉が残ってたら、明日は焼き物にしてくれないか?』

 

『ふふ、分かっていますよ。今、漬け込んでいます。明日には丁度良い具合でしょうし、何なら後数日分ありますから』

 

『お、おお……蜘蛛の方々に感謝します……』

 

『本当に……貴方の病まで治して下さって……家まで……全部、夢みたいね……』

 

『そうかもしれん。そうなのかも……しれないなぁ……』

 

 問題は一度でも豊かな生活を味わった者にはその豊かさを捨てる事が難しいという事であり、人も亜人も魔王軍……蜘蛛達無しには生活が立ち行かなくなった事を実感しつつも、自分達の生活が全うならば、他の不満の大半は呑み込めたのである。

 

 人員の大陸規模での再分配による均一な大陸の開発。

 

 それに伴うあらゆる不満を豊かな生活実感で叩き潰す為の配給物資である。

 

 新規の開拓された土地に誘致されたのは人でも亜人でも社会の最下層に位置する者達ばかりだ。

 

 つまりは亜人だろうと人だろうとその最大の敵は環境であって、種族や宗教ではなかった。

 

 貧した者達にすれば、貴族は貴族、商人は商人、兵隊は兵隊、豊かな奴らは自分達を見下してくる連中なのであり、そこに亜人も人も無かったのである。

 

 正しくソレは途中で蜘蛛達が蜘蛛化したりした悪党達と本質的には同じ理屈だ。

 

 自分達の下にいるか上にいるのかの差しかない。

 

 こうして社会から見捨てられた者達は自分達には互いの差なんて殆ど無い事を知って、互いに利用するなり、支えるなりして生きていく事は面倒ではあっても、豊かさを建てにした蜘蛛達の合理化を理由も無く拒否する事は無かったのである。

 

「(`・ω・´)………?」

 

 山脈を背景として亜人達で賑わう黒蜘蛛の巣。

 

 夜華の都。

 

 その頂点に座って世界を見ていた蜘蛛は自分の前へ不意に現れた神の力を前にしても自然体で姿が現れるのを待った。

 

『………よくもまぁ、此処まで人も亜人も誘惑したもんだ。魔族の連中が形無しじゃないか』

 

 そう鼻を鳴らしたのは20代前半くらいだろう目付きの鋭い刺々しい銀髪を後ろにオールバックとした青年だった。

 

 その上半身には貴族の礼服らしきものが着込まれているが、下半身は千切れたような様子であり、右半身に残る巨大な刀傷らしきものが目元から喉を通って胸元に続いている。

 

『オレの名は【大天侠】オールッド……お前の倒すべき敵というヤツだ。あのイケすかねぇババアの害蟲好きも困ったもんだぜ』

 

 正しく、この大陸の神を叩き潰し、今は死んで封印されている大神の一柱がシェナニガンの前に進んで来る。

 

『テメェ……これで世界を救ったつもりか?』

 

「(/・ω・)/せかいをすくうのはかみのちからじゃなくてひとのいし」

 

 そう蜘蛛の勇者は主張してみる。

 

『フン。あの妖精神を止められるもんかよ。オレの本体が死んだのは何故だと思う? このオレ様が……三千大千世界で最前線を張ってたオレ様がだ……お前らの島に眠らされてる妖精神と殴り合った時の傷が限界を超えたんだよ。今じゃこのザマだ』

 

 男が皮肉げに自分の傷を指でなぞる。

 

『なぁ、害蟲……人も亜人も何か変わりがあったか? 無かったよな? でも、オレは別に神殿の連中に亜人を殺して何かしろなんて一言も言ってねぇんだぜ?』

 

「(・ω・)そーなん?」

 

『全部、この数百年で勝手に人がやった事だ。あの魔王……オレがぶっ飛ばしたヤツの子分なんだがよぉ。やれ人には権利があるだの、やれ亜人も人もなく上手くやれるはずだの……馬鹿馬鹿しいくらいにあの程度の命にご執心だったんだよ』

 

「(´・ω・`)あのてーど?」

 

『お前らみたいな、あの女神の造りもんには分かり難いかもしれねぇがな。大神の中じゃ、人間を見限る奴らの方が多い。嘗て、旧き者達がいた頃は人も亜人にも差なんて無く。有能だから取り立てたってだけの連中が多かった。でも、弱い故に人は嫉妬する。その結果、多くの大陸で戦が起った』

 

 何処か疲れたようにオールットが溜息を吐いた。

 

『差が無い種族に統一しようって意見も出てたんだ。だが、オレは差がある方が面白れぇと思って反対に投じた。あのお前らの女神や小神共もそうだった』

 

「(・ω・)………」

 

『オレはこの大陸に来て、幾らかの種族を造った。合理的で論理的で闘争心に溢れた連中をな。だが、その頃からあの魔王を名乗った腰巾着は自分の創造主の為にオレに渋々仕えてたってのに、それすらかなぐり捨てて、オレと戦い始めた』

 

 大神を名乗る青年が苦虫噛み潰したような顔となる。

 

『オレはな? 自分の造った種族共にこう命令したんだ。“人を超え、人よりも優れた者となって、人を支配し、人を導け”とな』

 

「(^ω^)あ、そーいうことね」

 

『そうだよ。あいつはな。人間を護る為にオレに反旗を翻した。馬鹿馬鹿しいだろ? その頃の人間共も見てられるようなもんじゃなかったぜ? 悪徳の限りを尽くしましたみたいな連中ばっかりが目に付いたからな』

 

 シェナニガンが肩を竦める。

 

『だが、どうだ? お題目を付けてはいたが、結局……あの魔王を名乗った被造物は悪徳塗れの人間共を贔屓してやがった。そして、オレの本体が倒れた後、ぶっ飛ばしたはずの神の残渣と一緒にオレを封印した……』

 

 オールッドが理解出来ねぇという顔で蜘蛛を見やる。

 

『なぁ? お前があの馬鹿げた理想を掲げた女神の子供なら教えてくれよ。オレは多くの種族がより栄える事を願った。なのに、どうして人だけが滅びるのをあいつは拒んだ? 数の問題か? 質の問題か? 愚かな方が好みだったのか?』

 

「(>_<)かんたーん」

 

『言ってみろ。神として聞いてやる』

 

「( ̄ー ̄)みらいにぜんぶつれていきたかったから」

 

『は?』

 

 オールッドの顔が本当に理解不能という顔になったところでシェナニガンが虚空に情報を呼び出し、次々に公開する。

 

『こいつは……人間の遺伝情報? は? 今更、こんなのが何に―――』

 

「(;^ω^)人の中に滅びたはずの種族はみんな生きてる……遺伝子は嘘を付かない」

 

『………はは、つまり、アレか? 愛を教えた種族をあいつは……箱舟にしたのか?』

 

 シェナニガンが見せたのはこの大陸に住まう全ての人間の遺伝情報を精査した蜘蛛達がナクアの書で研究した結果であった。

 

 その結果として、この大陸にある特異な血統の謎が一つ浮かび上がっていた。

 

 それは普通の人間であるはずの者達の中に数%程度の確率で明らかに人間とは違う生命体の遺伝子が混じっているという事だった。

 

 表面上は分からないが、確かにその血は確実に引かれていた。

 

『こいつは……この情報……魔王の血族……何だよ。今まで滅ぼしてきた種族の痕跡だらけだと? 四天王、娘、大隊長以下、殆どが遺伝的には別種族? あの鳥頭……今まで騙してやがったな……』

 

「(´・ω・`)これでも全部、よーせーしんにぶつける?」

 

 オールッドが苦虫を噛み潰したような、あるいは何かを後悔しているような、そんな風に歪んだ。

 

 風が吹く。

 

 夕暮れ時の颯は小舟のような葉を空に舞い上げる。

 

『………クソが……仲良しこよしの未来を信じてましたって言うのか? 自分が勇者に殺されるって知ってて尚、あの忌々しい四天王共と一緒に……未来は滅ばないと本気で信じてたって? 待て待て待て……どこにその理由がある? 合理性がある? 裏付けがある? 馬鹿にするのも大概にしろ。あいつにはあのクソ女神と違って未来なんぞ見る能力は―――』

 

「( ̄д ̄)それは誰にでもある能力」

 

『何だと?』

 

「( ^ω^ )夢は起きて見るものだって父が言ってた」

 

『………………』

 

 それは未来に見た夢。

 

 魔王が目指した理想。

 

 今はまだ無理でもいつか全ての種族が平和に暮らせる世界を。

 

 その為に滅びを滅ぼし、世界の未来に、若者達に期待した。

 

 少しでも長く。

 

 少しでも遠く。

 

 可能性を紡ぎ。

 

 信じた事の為に行動する。

 

 たった、それだけの―――。

 

『ふ、ふふ、ふは、はは……随分と長く生きて来たが、本体が滅んでるのが残念でしょうがねぇな。こんな賭けに勝つ奴がいるのか? こんな御大層な夢を叶えちまう可能性があるのか? 妖精神の力ですらないんだぞ……』

 

 シェナニガンがフッと人の姿となる。

 

「(・ω・)大天侠オールッド。お前を滅ぼし、この大陸を未来に連れて行く」

 

『……フン。宣戦布告か。オレの天使共は精強だぞ?』

 

「(≧▽≦)もんだいなし」

 

 堂々と胸を張る蜘蛛の勇者を前にして神はまた溜息を吐いた。

 

『妖精神を斃せるか? あの大岩を……【大天神】を倒せるか?』

 

「(≧◇≦)よゆー。だって、ちちとみんなが、たくさんのだれかがてつだってくれるし、かみさまとちがってしんじてるから」

 

『ははは、はははははは!!! いいなソレ!! あの程よく万能無限に近しいアレを相手にして絶望してくれよ。まぁ、オレに勝ったらでいい。その時はよくよく思い出せ。アレには絶対勝てない。もはや神や存在の枠を超えてる。運命……因果……アレはそういうもんなんだよ』

 

「(;・∀・)うんめー? なにそれおいしーの? いつもちちはそれたいらげてるよ?」

 

『くくく……久しぶりに愉快だったぜ。名前を聞こう。蜘蛛の勇者よ』

 

「(●´ω`●)シャナニガン……全てを謀るもの……」

 

『了解だ。シェナニガン。精々、頑張って此処まで来い。お前らが滅びなかったら、お前らが正しい。負けたらオレが正しい。単純明快だろう?』

 

 そう言って、大笑いしながら、上半身しかない神は光の粒子となって消えていった。

 

 その二十日後、大規模な大陸への転移現象を無数に確認。

 

 しかし、その全てが複製大陸へと次元の壁を繋げられ、此処にソリトゥード大陸最大にして最後の決戦が始まる。

 

 相手への攻勢は全て反撃の形で用意されていた。

 

 こちらからの攻撃ではリスクが高過ぎる故に敵の大攻勢に対して逆撃を掛けて殲滅する。

 

 その為に全ての準備は整えられ、数億もの蜘蛛達が準備した戦場は火を上げて燃え始める。

 

―――3242億人の天使を前にして今、蜘蛛の勇者の戦いは始まる。

 

 *

 

 天使の雪崩。

 

 それはそうとしか言えなかった。

 

 無数の天の輪が、100m級の天の輪が無数に複製大陸に現れた時、天使蜘蛛達の9割は現在の作業を全て停止し、各地の黒蜘蛛の巣へと音速を超えて結集。

 

 終末の喇叭の如く。

 

 世界に響いた蜘蛛脚の塔からの放送に従った。

 

 大神の欠片がこの数百年で揃えた最終決戦用の戦力の全てが投射された。

 

 無限に続く輪の群れより無限にも等しく天使達が降って来る。

 

 その威容は正しく世界に振り落ちる鉄槌。

 

 天使の群れではない。

 

 “濁流”なのだ。

 

 雪崩て来る肉体には構えなど無い。

 

 吐き出され、肉壁となって後続の者達を更に吐き出させる為、膨大な神の力を発散する天使達が輪の周囲を保持し、戦力源を維持して、数で圧し潰す。

 

 まったく以て力の爆発だけならば、蜘蛛達にすら抗う術は無い。

 

 そう、その規定量までも天使達が増えられたならば……。

 

『―――天使様が消えていく』

 

 全ての映像が呪紋で送信された大陸全土の空には正しく世の終わりにも等しい光景が大量に広げられていた。

 

 その映像は12の複製大陸からのものだ。

 

 全ての大陸の地表には増殖させられた神樹が合計で97302本。

 

 嘗て、少年を斃した冥領の人造神は今や無限にも見える天使達を瞳を瞬かせるだけで全て消し去っていた。

 

 超速で展開し続ける天使達が力を使う間もなく。

 

 否、力を使ってすら原型を留めない。

 

 瞬きと共に視界にある全ての生命を消し去る怖ろしき威力はもはや天使の輪すらも破壊出来るものだったが、それをする事もなく。

 

 吐き出される天使達を次々に消し去り続けていた。

 

 たった1分にも満たない内に消化された百億の天使達は跡形もなく。

 

 しかし、力で消されてはいても、存在の残渣は降り積もり、灰がゆっくりと地表に漂い始める。

 

 エンジェル・ダスト。

 

 白い灰。

 

 聖遺物。

 

 神の力を持つ灰は存在ではあっても生命ではない。

 

 その視界を遮るという効果は12の複製大陸の全てで唯一の攻撃の欠点である神樹の視界を遮られると効果が薄れるという事実に基づいて、天使達を穴だらけにしても消し去れなくなっていく。

 

『(/・ω・)/(各大陸の調整役は準備に掛かれーという顔)』

 

『(^O^)(合点承知という顔)』

 

『(゜Д゜)ノ(は、はじまた……じっせんだーと超速で地底深くの持ち場に付き始める顔)』

 

 膨大な灰が空気中で漂っているかと思われたのも束の間。

 

 周辺の重力が変動した。

 

 無茶苦茶な量の光の弾が上空から降り注ぎ始めた大地はクレーターと化しつつも灰そのものが猛烈な勢いで積もりつつ、地表から吸収されていく。

 

 その大陸全土に掛かるGは恐ろしく高く。

 

 一瞬で地表に強制的に落とされた灰が真菌の沼に吸収。

 

 更に神樹へと体積と力を還元し、増殖させ、更に巨大な物体へと成長させていく。

 

『(-"-)(神樹の増殖率調整を呪紋式にしたのは正解だったなという顔)』

 

『(*´ω`)(戦域の微細な調整が明暗を分けるって言われてるし、環境操作は実際大事という顔)』

 

『(; ・`д・´)(吸収した真菌の過剰な力を増殖に回せーという顔)』

 

 上層に開眼する瞳の数が増え、天使達を猛烈な勢いで消し去り、天の輪もそのままに天使達がコンマ1秒すらも存在を許されず、再び灰が短時間で虚空に漂い始めた。

 

 蜘蛛達による重力操作系の呪紋。

 

 それも超低出力恒常用の代物である。

 

 蜘蛛脚の巣で開発されたソレは本来の島の重力操作系の呪紋を解体し、複合樹紋として真菌に練り込まれ、本来は巣の内部に一定の重力を掛ける為に使われていたが、もしもの時の為に複製大陸では上空に神樹の視界を遮るものが現れた場合に地表へと落とす為の防衛用の呪紋として使用されていた。

 

 破壊する→灰を落とすという二段階の迎撃によって天使達の“消費量”はまったく落ちる事無く。

 

 同時に相手の作戦変更を誘発させる。

 

 此処で唐突に天の輪からの天使の流入が止まった。

 

 凡そ300億近い天使達が無数の神樹の必殺圏を抜けられないと判断した神の手際は正しい。

 

 結局のところ処理が追い付いてしまうのならば、戦力を無駄に投入せず。

 

 次の段階へと移るのはまったく良い判断と言えるだろう。

 

『(。-∀-)(大別した場合のパターンC。大規模攻勢来るぞープランDで対応急げーという顔)』

 

『(-ω-)y-゜゜゜(想定通り……広域展開の次は物量頼みの大攻勢……相手の人格から想定出来るパターンに嵌ったら、後は戦場の制御さえ誤らなきゃ流れで行けるなという顔)』

 

『(一一")(自分から情報を与えてくれる神格の鑑。何も分からなかったら、対応練り上げる時間無かったし、神格は神格って事よねという顔)』

 

 しかし、本来のソリトゥード大陸は蜘蛛脚の影響下に入ってからと言うもの、その領域そのものに真菌の幕を用いた呪紋を掛け続ける事が可能となっている。

 

 大陸の地脈を用いた魔力源と天使蜘蛛達の力を用いた外界からの遮断。

 

 これによって、天の領域、天界とやらから直接繋げなくなっていた。

 

 複製大陸から更にソリトゥード大陸へと繋げる為には大陸を一つでも落としてしまう必要がある為、分散しての侵攻は不可能と悟れば、どうすればいいのかは簡単に分かるだろう。

 

 複製大陸NO.12。

 

 その大陸の上空に恐ろしく巨大な400km程度の硬質な光の輪が出現した。

 

 一瞬で天使達が猛烈な勢いで雪崩れ込んで来る。

 

 さすがに小分けとしない数の暴力は神樹の破壊を瞬時に上回る灰の濁流と化し、それを以てして天使達が大陸を灰塗れになって制圧しようと―――。

 

 巨大な天の輪に取り付く者達が六千機。

 

 無数のウルが巨大な空間を繋げる輪に瞬時に取り付き、その全身を蜘蛛脚にするウル・セラフがやっていた事の小規模版。

 

 あらゆる生物を蜘蛛とする外殻を用いて輪の全周に着地。

 

 天の輪がやはり神の生成する力の塊。

 

 つまり、天使の肉体の変形である事を確信する。

 

『(>_<)(真菌侵食開始。蜘蛛脚に神の力ジャブジャブで対侵食機能圧し切れぇ~という顔)』

 

 まるで悲鳴。

 

 ギチギチと高周波を放つ輪が絶叫した。

 

 巨大な数百kmの直径を持つ輪が“神の肉体の一部”と見なされて瞬時に蜘蛛脚を迫り出させ色合いを変質させて乗っ取られていく。

 

 それに気付いた天使達がさせるものかとウルに群がろうとして、天の輪とウル達の猛烈な蜘蛛脚の射爆に晒され、次々に変貌しながら、後続が来ないという事実を前にして変化した味方を葬り去ろうとしたが、天の輪から射出され続ける莫大な蜘蛛脚の物量に負けて、下の神樹、上は蜘蛛達というどちらも地獄の圧力に諸共圧し潰されていく。

 

『ヾ(≧▽≦)ノ(見ろ!! 天使がゴミのようだ。ふぅ~はははっと悪役の高笑いをしてみる顔)』

 

『(^o^)丿(射爆量そこだけ薄いよ何やってんの? 後で報告案件だよという顔)』

 

『(´・ω・)(あ、はい。ごめんなさい。もうしません。真面目に職務を実行しますと真顔で全力を発揮してみる顔)』

 

 莫大な量の蜘蛛脚と灰を量産する瞳の中間点まで天使の軍団が平らげた。

 

 今や薄いパイ生地並みにヒラヒラな彼らが攻撃されないのは上下にフレンドリーファイアしない為である。

 

 瞬間的に神樹の即死攻撃は終了。

 

 だが、天使蜘蛛がまるでオブジェのように積み重なり、大量の蜘蛛脚によって貫かれた山となって大地に落着する事もなく浮遊する。

 

 蜘蛛は死なない。

 

 何故なら、蜘蛛脚は蜘蛛達の肉体の甲殻と同質であり、貫かれた程度では致命傷ではないし、そもそもの話として蜘蛛になった瞬間には必要な呪紋も対処法も彼らには馴染んだ手練手管であって、生存能力特化で自身を運用すれば、神樹のような魂と肉体の完全消失を超速で仕掛けて来る相手以外にはほぼ不死身。

 

『(´Д`)(生まれて五分な蜘蛛生ですが、体が完全に雁字搦めになって他の蜘蛛と離れません。どうしたらいいですか?という顔)』

 

『(^O^)(外殻からパズル大好き系蜘蛛が自分の脚と蜘蛛脚を全部解けるまでがんばろっかと諦めの境地に達した不動系蜘蛛の顔)』

 

『( ̄д ̄)(……もういっそ、ほぐれるまでしりとりでもする?という顔)』

 

 自身もまた全身を蜘蛛脚で覆い、蜘蛛脚に貫かれた蜘蛛達のオブジェは連帯。

 

 天地の狭間に薄く残る天使達を次々に天の輪から降り注ぐ蜘蛛脚よりも小さな針の如き蜘蛛脚で攻撃し、全てを蜘蛛にしていく。

 

 その悍ましい産声の連鎖に感情なんて殆ど無いはずの天使達が絶望と狂気に呑まれ、変質する自分の終わりに神よと叫びながら喉の奥から光る複眼によって内部から割かれ、血と肉と灰に塗れたオブジェは剣の塔と変貌。

 

 もはや、その勢いは止まらず。

 

 40秒程で700億の天使達は0人を記録した。

 

 複製大陸の上に立つ蠢く天使蜘蛛達で構成された塔が次々に落着し、大地を打ち崩していく。

 

 まだ、外部の蜘蛛達の連結は解けない。

 

 蜘蛛脚で貫き連結された外部から複雑怪奇のパズルみたいになった肉体を解く必要があるからだ。

 

 だが、それで蜘蛛として生を受けた存在達はこの天使達の大規模攻勢を凌ぎ切った事に沸いていた。

 

『(^_^)/(戦闘中に生まれるのは蜘蛛の悲しいとこだよなーと蜘蛛脚に4本くらい貫かれたまま串焼きみたいに固められて微動だに出来ない蜘蛛の顔)』

 

『(`・ω・´)(ま、仕方ないね。僕らそういう星の元に生まれた蜘蛛だしねという顔)』

 

『(´-ω-`)(ま、幼女の串焼きにならないだけマシでしょと連結が解除されるまで寝て体力でも回復しとこうと目を閉じる顔)』

 

『(´ρ`)(呪紋で外殻になってる個体が全部解けるまで流動化しないようにしないと内部の圧力だけで僕ら風船みたいに弾けちゃうし、あ……これも呪紋の弱点欄に加えとこうという顔)』

 

 これだけでは終わらない。

 

 ウル達は複製大陸の最上層の空辺りに潜んでいたわけだが、全ては複数予測された侵攻方法に対しての事前準備で賄われた迎撃に過ぎない。

 

 少数の部隊を大量に用意する侵攻が無駄だと分かれば、巨大な輪を出現させるに違いないとの読みは極単純なものだろう。

 

 それは同時に彼らにとっての逆撃の始まりを意味する。

 

 ソリトゥード大陸にある蜘蛛脚の巣。

 

 その表面装甲が猛烈な勢いで赤く輝き。

 

 燐光のようなものを零しながら、周囲に押しやり、膜の終点を剥離させて塔の皮だけを地表に残した。

 

『(;´Д`)(外殻剥離来るぞー!! 竜核機関出力定常2%に上昇という顔)』

 

『( ゜Д゜)(全線接続バルブ4000番から20万番まで開放という顔)』

 

『(´・ω・)(低圧流動開始。あの~2%でもう末端から真菌溢れてるんですけどという顔)』

 

『(=゜ω゜)ノ(接続外殻に浸潤させて通路再構築するから問題ないんだよという顔)』

 

『(`・ω・´)(慣性制御にみんな連携開始してねーと時計で音頭を取る顔)』

 

 そして、遥か地底にまでも延ばされた巨大な構造を上空へと向かって天使蜘蛛達の慣性制御によって動かし始めた。

 

 巨大な塔が動く。

 

 そのダイナミックな様子は正しく世界最後の日に相応しいだろう光景。

 

 莫大な質量が何処に向かうのか?

 

 分かり切っている。

 

 ソリトゥード大陸に蜘蛛の輪としか呼べぬだろうものが出現する。

 

 それは神が用いた天の輪を逆に天界へと繋ぐ門とする計画。

 

 蜘蛛達の戦力を天界に一瞬にして展開する為の方法は正しく神の力を逆利用する。

 

 だが、それだけでは恐らく天界で入った瞬間に地獄絵図。

 

 待ち構えた天使達の一斉攻撃で阿鼻叫喚になる。

 

 此処で一計を案じるのがシャナニガンである。

 

 蜘蛛脚の巣の先の輪を先端が突き抜けていく。

 

 その行き先は正しく複製大陸であった。

 

『(;´Д`)(乗っ取った“門”の出力安定化させろー!! 連続転移途切れると途中でぶった切れるぞぉ!!という顔)』

 

『(/・ω・)/(常設転移魔力出力34万代で安定!! 魔力消費速度秒速0.003%という顔)』

 

『(´▽`)(外殻変性展開!! 相対時速300kmで安定!! 20倍速で加速開始!! 接続衝撃来るぞぉーという顔)』

 

『(∩´∀`)(蜘蛛じゃなかったら絶対内部の振動だけで普通の生物全滅だよなーと揺れる蜘蛛脚の巣内部であちこちに糸を張って肉体を安定化させる顔)』

 

 大量の天の輪が今や殆ど消え去った複製大陸は現れていた天使達の灰によって増殖する樹木が次々に天に向けて伸び上がり、何かを形成していく。

 

 それが何かをすっぽりと覆うような巨大な円錐形のカバーだと気付いた者は蜘蛛以外に無い。

 

 遥か大地の底より現れる蜘蛛脚の巣が、大陸全土の神樹達によって作られたカバーの内部を突き抜けるようにして外壁を擦り合わせながら猛烈な火花を散らして加速していく。

 

 樹皮とでも言うべき外壁には捩じれながら一つになっていく全ての神樹達が巻き付き。

 

 蜘蛛脚の巣の往く手には更なる蜘蛛の輪が広がり、次の大陸、次の大陸、次の大陸と連続で転移する為のお膳立ては出来ていた。

 

『(>_<)(座標軸合わせヨシ!! 加速開始ぃいいいいいいいいいという顔)』

 

『(^_^)/(どーなってもしーらね……ま、数億人で予測演算したし、たぶんダイジョブでしょという顔)』

 

『(; ・`д・´)(一度でいいから言ってみたかったんだよね!! 合体!! 準大陸星間巡行船【アルゴノォト】!!!と勝手に艦長席も無いのに格好を付けて自前で名付けて見る顔)』

 

『(;・∀・)(う~ん。船というよりはあの隕石のせいで使い捨ての槍になりそうなんだよなーという顔)』

 

 最初に入った神樹のカバーが完全に密着し、蜘蛛脚の巣に巻き取られながら、複製大陸を崩壊させていく。

 

 一緒に巻き取られた大陸全土の真菌が黒い尾を引いた。

 

 そのまま加速された蜘蛛脚の巣が同じように次なる大陸を破壊しながら、巻き取りながら、全ての質量を、神樹を、真菌を層として形成し、肥大化、肥大化、肥大化―――12層からなる怖ろしき黒き尾を引く異形の瞳に覆われた木造の槍の如き船と化した。

 

『……神様をほろぼすおふね……』

 

 世界は席巻されている。

 

 蜘蛛達によって席巻されている。

 

 今、ようやく大陸に生きる全ての知性ある者が、全ての動物達が天に開いた12層の大陸を突き抜けて進む大陸の命運を決める船の出向を理解した。

 

 人智及ばぬモノ。

 

 神すら滅ぼすモノ。

 

 あるいはモチャモチャと饅頭を食いながら、彼らにその光景をお見せする為に呪具のレンズを拭く何処か狂った愛嬌のある生物。

 

『ははは……もう何も言えねぇ……』

 

『そうだな……我らに出番は無い、か』

 

『神話の時代にも無かった。ああ、無かったぞ!! 終末を滅ぼせし、魔蟲よ!!』

 

『これが新たな神話の始まり、なのか……』

 

 勇者が、マスターが、聖戦士が、将軍が世界の終わりよりも終わってしまいそうな大陸の頭上に開く大穴に出航していく船を見やりながら、自分達に出来る事がもう無い事を悟った。

 

『シェナニガン様!! 皆様!! どうかご武運を―――』

 

 姫の祈りだけが黒蜘蛛の巣の中央塔から響き。

 

 もはや動く大陸の如きものとして自己を形成しながら、加速を続ける船が最後の輪を潜った瞬間には天使達の一斉攻撃が開始され、天界へ……神が生み出した領域へ時速6000kmで突入した。

 

 その衝撃に天界の大気が吹き飛び、荒れ狂う世界に断熱圧縮で燃え尽きぬ船体が露出し、遥か大陸の如き塔と化して天を衝いた。

 

 その衝撃に全ての周辺にいた天使達が200億人以上、物理的な衝撃と熱量と光によって吹き飛んで消し炭すら残らずに蒸発していく。

 

 神の力による防御は働いていた。

 

 しかし、同じ神の力を持つ船の到着には応対出来るものではなかった。

 

『( ゜Д゜)(諸撃来るぞぉおおおお!! 方陣防御展開!! 運動エネルギー、光、熱量の拡散被膜展開!! 魔力転化式の空転拡散呪紋行くぞぉ!!)』

 

『(*´ω`*)(あ、あれ名前付いたよ。【空間歪曲式拡散空転―――)』

 

『(・ω・)(【魔導呪紋:空間防御nM】でという顔)』

 

『(。-∀-)(何でもいいから、全力で防御してよという顔)』

 

 これで屈する天使達でもなく。

 

 大陸を完全に消し飛ばすだろう量の光弾が遥か遠方より乱舞し、同時に二千億近い天使の総力がぶつけられた。

 

 領域内部は燐光に満たされ、太陽は無くとも光に溢れている。

 

 その光に溢れた世界そのものが光芒によって貫かれ、正しく大陸規模にまで膨れ上がった蜘蛛脚の巣を直撃した。

 

 だが、その直撃部位から伝導した熱量が、光が、衝撃が、神の力によって齎される物理量の大半が巨大な―――只管に巨大となっていく船の全外装へと分散し、沈み込んでいく。

 

 数層を熱で変形させて崩壊させながらも、蜘蛛達が敷いた魔導系呪紋による方陣防御は完全に機能し、殆ど威力を無限に歪曲する空間に閉じ込めて散逸させながら、距離によって減衰していく力を船体の各部の成長用の基点となる地点にブチ込んで破壊された船体の修復を加速させた。

 

 天使達の攻勢は先端方面の区画を折る事も出来ず。

 

 その光の最中からギョロリと外装に格納されていた瞳の瞼が開いた瞬間には次撃を叩き込む事も出来ずご破算となる。

 

天の軍勢(ツェバオート)

 

 そう呼ぶべき軍団の最前層は漏れなく神樹の逆撃で吹き飛ばされた。

 

 猛烈な灰に覆われていく軍勢は怯まず。

 

 最速で次層からの突撃を敢行。

 

 しかし、瞬く瞳の光の速さで紡がれる攻撃が、全てを消し飛ばす不死殺しの一撃が、無限に連打され天使達を消し去っていく。

 

 両軍の攻撃と激突地点に灰の嵐が吹き荒れた。

 

 灰によって視界が覆われれば、此処から先は白兵戦。

 

 未だ7分の1を消し去られただけに過ぎない天使の軍勢が一斉に大陸の如き外装に襲い掛かる。

 

 普通に考えれば、この巨体を初手で吹き飛ばせなかった時点で内部から破壊する以外に道は無い……道は無いのだが、内部に向かうという事がどういう事なのかは言うまでもない。

 

 蜘蛛達にも劣らぬ音速の数十倍で虚空を駆け抜ける天使の彗星群。

 

 瞳の攻撃に臆さぬ者達の4割は味方の灰の煙を浴びながら表面装甲に到達。

 

『(^◇^)(次来るよーと先端部に大量の糸を張った大天使蜘蛛の顔)』

 

『\(|▽|;)(白兵戦用意!! 中層部に到達する天使をなかーまにする係の人~と雄志を募る顔)』

 

『(´|ω|`)(う~ん。どう考えても無謀な内部突撃……天使も黒い職場で大変だなと相手に同情してみる顔)』

 

『(^_^)/(内部の破壊は悪手って気付いたら破壊も控えるんじゃね? という顔)』

 

 外装に取り付き、瞳を剣や弓、光弾で破壊し、破壊した外壁の隙間から次々に内部へと侵入して破壊活動を開始した天使達はセオリーに従った。

 

 それが全てであり、それが敗因である事は間違いなく。

 

 膨大な億単位の天使達が次々に内部に入り込んで設備を破壊しようとするが、全方位……正しく何処にも逃げ場の無い蜘蛛脚の射爆、射爆で破壊された蜘蛛脚の欠片、空気中に漂う蜘蛛脚の残滓が彼らの肉体を僅かでも傷つけた途端に黒と白が塗り替わるゲームの如く。

 

 天使が蜘蛛へと次々に入れ替わりながら塗り替えられていく。

 

 その勢力が激突し、更に周辺から集まって来る蜘蛛達による袋小路に追い詰めての殲滅や真菌防御による攻撃の無力化が大多数の天使達の圧倒的アドバンテージ……即ち、数の利点を殺して、小規模な包囲撃滅を船内で多数発生させた。

 

 環境の一切を用いて戦闘を優位に進められる天使蜘蛛達による反撃によって見る見る破壊速度が落ちていく上に仲間の個体数も殲滅されるより早く消えていく。

 

 相手は増える一方で防御が完全に抜けない威力不足に陥った天使達は自分達単体では船にも船の内部の自分達と拮抗する戦力である蜘蛛にも勝てないという事実を前にして絶望する以外に出来る事は無かった。

 

『こ、こいつらの防御は我が神と同―――(/・ω・)/(キシャーと初キシャーを決めて見る顔)』

 

 例え、外部と自身を完全遮断する結界を常時展開していようと蜘蛛達がそんなのを許すはずもないわけで……接敵した途端に防御を固めて動きの鈍い天使達を高速処理していくホームでの超音速三次元機動は芸術的なまでの戦力比の覆し方を発揮。

 

 正しく白を黒にしながら、通路で隊列が伸び切り、破壊に気を取られて防御が遅れ、如何なる障害物も走破する蜘蛛達の機動力に対応出来ずに天使達は蜘蛛に堕して、その行軍へと加わっていく。

 

 この状況が分かるまで凡そ20分。

 

 300億近い天使達が侵入した内部では大勢が決していた。

 

 その状況を観測した天使達は仕方ないと外壁破壊と行い続ける事を決定。

 

 灰の煙に紛れて姿を隠しながら、外壁を破壊し尽くし、船を砕こうと散開した時だった。

 

 灰の最中。

 

 猛烈な加重が天使達を襲った。

 

『ま、マズイ!? た、退避しろ!? 後退!! 灰の煙る場所まで後退し―――』

 

 真菌が発動させた周辺の重力を10G程度まで増加させる一撃は天使達にとってみれば、微風に吹かれた程度の代物だ。

 

 しかし、ハッと天使達が音速以上で離脱して尚。

 

 彼らの2割程が外壁に残っていた無数の瞳によって灰と化した。

 

 灰の煙があまりの重力に負けて下に落ちたのである。

 

 再び視界を取り戻せば、近接していた天使達の部隊は一溜まりもない。

 

 問題はそれだけではなく。

 

 重力が発生した事によって灰の視界を奪うという効力が近場では半減。

 

 遠距離攻撃では破壊しても破壊しても完全な層の破壊までには至らない程に敵の船は大きく。

 

 結局は近付かねばダメージが出ない。

 

 この二律背反をどうにかするには近付いて消耗覚悟で破壊を続行するか。

 

 もしくは消耗を嫌って後退し、仲間の灰に紛れて遠距離からチマチマ削るか。

 

 天使達が選ぶのが後者ならば、長期戦。

 

 前者ならば短期戦だが、短期戦が不可能だと船の内部に突入した部隊の全滅が教えている以上、後退の二文字しか彼らには無かった。

 

『後退!! 後退!! 灰の奥から出て来るなぁあああああ!!!』

 

 仲間の灰に紛れながら、重力の届かない地域へと加速して逃げていく合間にも灰の煙によって隠し切れなかった部位を次々に喪失し、消滅させられた天使達はバタバタと地表に落下し、灰の海に沈んでいく。

 

 そう……全ては蜘蛛達の策略。

 

 天使を一度後退させる事。

 

 そして、天使達を灰に沈めて大地は安全だと思わせる事。

 

 その条件が揃ってしまった。

 

『はぁはぁはぁ……くっ、だが、この濃密な灰の中ならば……ッッッ?!!』

 

 地表で灰の海に溺れながらも再生し、何とか相手の瞳の攻撃を避けて合流しようとした者達は自分の肉体に巻き付く巨大な樹木の触手に気付いた時には貫かれ、引き込まれていた。

 

 天使の灰は力を宿した養分そのもの。

 

 そして、戦闘の最中。

 

 灰の煙の中でまるで迎撃用の武装の如く砲弾のようなものが大量に周辺へ打ち込まれていたが、殆どは当たる事も無かった。

 

 そう……当たる事もなく落ちたソレは嘗て天使だったものであった。

 

―――種。

 

 神樹を再生させ、増殖させる傍ら、蜘蛛に使い易い戦略兵器としてナクアの書を用いて数億の蜘蛛達の一部が共同開発した新たなる神樹Ver0.2とでも言うべきソレが蠢きながら、灰の海にのたうちながら、根を伸ばし、灰が途切れる寸前の所にまで侵食し、同時に灰が増え始める周辺へと膨大な量の呪紋を連続発動させ始めた。

 

 重力増加用の超省力系複合呪紋。

 

【魔導呪紋:重力制御nG】

 

 大陸の魔導を用いて呪紋を整理し、省力化と恒常性に極振りした超長期運用を前提とするソレは初めて呪紋を別の魔力大系の方法論で記述した代物だ。

 

 nは数量を表し、七倍なら7Gのように記述されるソレは今まで使用者に委ねられていた調整の大半すらも汎用性に極振りして簡単な操作や指示のみで必要な事象を発現させられるようになった事で使用者の運用効率を高める。

 

 いきなり重力変動領域が数倍にまで拡大。

 

 灰の煙に紛れていた全ての天使が露わになり、瞳による攻撃で一斉に灰と化した。

 

 灰の海に隠れようと急速下降する軍団であるが、その煙が晴れつつある地表にあるのは神樹の槍衾だ。

 

『きゅ、急速回避いぃいいいいい!!?』

 

『(このまま貫かれる寸前に合間を抜けて低空を―――)』

 

『ガハッ?!』

 

 なまじ音速の数十倍での戦闘に成れていた彼らは急激な方向転換も可能な慣性制御を用いている為、速度最大で自分を加減速している。

 

 しかし、慣性制御が重力変動領域では不完全になっていると多くが気付く事無く。

 

 いつも通りの回避を選択して、地表の無限の槍地獄に突っ込んだ。

 

 神の力と神の力を比べれば、軍団単位の者達の威力は押して知るべきだろう。

 

 でも、それは十全であったればこそだ。

 

 灰の海で大量の天使の残骸で質量と力を補填した種から発芽した神樹達は大森林を形成し、高重力場を発生させながら、落ちて来る餌に食らい付く獣となった。

 

 天使達の肉体を突き刺した内部と接する面から潜り込むように茨状の根で天使を侵食し、内部から栄養素を、血肉を、神の力を急速に吸収し、干乾びさせていく。

 

『あ―――が―――ご……ぉ………』

 

 密林がその分だけ広がり、広がった場所から逃げ出した天使達を追うように根を高速で這わせ、支配領域が延々と拡大していった。

 

 この状況に至ってようやく天使達は何もかもが周到に用意された相手のシナリオ通りに進んでいる事を自覚していたが、だからと言って対抗策が無い。

 

 残った全軍による一斉攻撃を繰り返す以外では有効な打撃力が存在せぬ事を認めるしか無かったのである。

 

 残った天使達の力で更に個体を増殖させる事は出来たが、それはつまり相手に時間を与えるという事。

 

 相手が時間経過で更に侵食領域を広げるのは目に見えており、端から削ろうにも灰が無ければ、視界を遮れない。

 

 後、新樹が蠢きながら移動しているのは彼らにしてみれば、蠅が止まっているように遅いとは思うものの……その射程距離は明らかに彼らを遥かに凌駕している以上、移動する巨大な殺し間が拡散し、軍の広域展開や広域包囲を不可能にする可能性があった。

 

『……引くぞ!! ケルビム、ソロネは後方へ下がれ!! 下級のドミニヲン、ヴァーチャーは盾となって視界を遮るのだ!!』

 

 天使の灰は無機物であり、その上で相手の神樹の視界を神の力でも遮る天然の視覚防壁であり、仲間の犠牲の上でしか生産出来ない。

 

 だが、それは相手への増殖の養分として使われる。

 

 つまり、この状況になってしまった時点で天使達は蜘蛛を斃す為の圧倒的な数も、圧倒的なアドバンテージも喪失していた。

 

 天使の灰を左右にして睨み合うならば、灰そのものを消費して活動出来る神樹の方が圧倒的に制圧力は優位だ。

 

 絶対の防御圏を大量の天使の灰で犯し、視界を防ぐのは一瞬が限度。

 

 対抗して重力を展開してすらも攻撃に対して蜘蛛達の増援や巨大な船体からの後方支援が着実にあると踏んだ場合、天使達にも数頼み前提でしか攻略出来ず。

 

 難攻不落の領域と化してしまう。

 

『我らが神に繋がらぬ……此処までの……此処までのものか……あの島の力は!!』

 

 領域そのものを破壊する程の攻撃は可能だったが、それを大規模に行うには直接の上司である神の命令を破らねばならない。

 

 現在の事をある程度予測していた彼らの神からの命令はシンプルだ。

 

 敵が乗り込んできたら叩き潰せ。

 

 しかし、長期戦―――それしか彼らにはもう選択肢が残っておらず。

 

 新たな状況に神との連絡を取ろうとした個体達は連絡が付かない事に気付いて、神そのものへの攻撃が始まっている事を察知したが、命令を受け取れないのでは自動で大目標に対しての大幅な変更は命令違反で不可能。

 

 天界のほぼ全軍は巨大な蜘蛛脚の巣が変貌した異形の船を前にして釘付けとなり、その間隙を縫うようにねじ込まれた小さな襲撃を阻止する事は出来なかった。

 

 そう……全ては単なる囮。

 

 極大の戦船も数億人の蜘蛛達も12の複製大陸も何もかもが単なる神から戦力を引き離す為のものでしかなかった。

 

 天界が広大な事は最初の襲撃時には分かっていた事であり、そこで延々と天使を造られつつ引き籠られた方が蜘蛛達にとっては厄介だったのだ。

 

 しかし、シェナニガンへの神の接触。

 

 更に神の人格を知った蜘蛛達は数億通り戦闘のシミュレーションを実行。

 

 結果として、相手は戦力の一極集中で来ると読んで敵軍を誘引しながら撃滅しつつ漸減。

 

 敵本体そのものに等しい神の消滅で天使達を遊兵化。

 

 命令の戦術変更を許さずに緩やかに殲滅するという方針を取った。

 

 もはや天使達には命令変更を待ちながら軍団を維持し、蜘蛛相手に延々と個体の増殖と削り合いをして情報を収集し、新たな戦術を行使する以外の道は無く。

 

 そのような柔軟な戦術パターンの開発と行使速度においてはまったく蜘蛛達に勝てる要素はまるで無かった。

 

 残る戦力が1千数百億に対して、更に増えた蜘蛛達はアルゴノォト内部に数百億。

 

 戦力差は数倍にまで縮まっていた。

 

 それが何を意味するか。

 

 賢い上級天使達は理解し……神にも近しい能力のままに命令を待ったのだった。

 

 *

 

 神が生み出す領域というのは島の例を見るまでも無く空間や次元を造り、固定化させるというものであり、一種の世界の創造に分類される。

 

 神そのものが定理側の存在。

 

 不滅にして無限の力を持つ生きた法則であり、その無限の力を現実世界に放出する事は法則を一部、自分に都合よく変更する事で可能となっている。

 

 結果として、神は時間さえ掛けたならば、現実世界にどんな規模のものでも生成可能だ。

 

 それが惑星であれ、海や山であれ、命であれ、構築する為の時間、構築する元素が有れば、容易に可能なのである。

 

 そして、天界と呼ばれたソリトゥード大陸と繋がる次元領域には広大な世界が広がっている。

 

 そこは小さな宇宙とも呼べる340万km四方の平たい世界だ。

 

 世界の端には時間も空間も無い“()”が広がっている。

 

 そして、その広大な領域の端が戦場となり、蜘蛛達のいる場所の逆方向の終点に神の御座所は聳えていた。

 

 石の都と呼ぶべきだろう。

 

 天使達が済んでいた場所も今は数億どころか。

 

 数百万にも満たない高位天使達による陣が敷かれており、攻め込まれる前に新たな戦力を創造するべく。

 

 多くの者達が巨大な円筒形の寺院内部で曼荼羅の如く座り、祈りを捧げながら、己の中から汲み上げる莫大な神の力を延々と新たな天使の創造へと割いていた。

 

 造られた天使達は神が現世から戻ってから、すぐに高位天使のみを造るようにとのお達しで行われており、数は殆ど用意出来ない。

 

 しかし、受肉神にも近しい現世でならば、ほぼ最強の高次存在であり、一体一体が正しく島に現れた全身鎧の巨人の天使に匹敵する怪物だ。

 

 しかし、そんな石の都をスニーキング・ミッションする蜘蛛が一人。

 

「(>_<)/(ちちじきでん!! じぐざぐばしり!! という顔)」

 

 嘗て、とある島の少年が拾い食いを極めたり、力も技能もあまり無い頃、敵陣地に潜り込んで一切見つからずに敵軍の将を暗殺したりする時に磨いた高速移動術は現在のシェナニガンにしてみれば、まったく色褪せない技能であった。

 

 一切の魔力を用いず。

 

 脚部の一切の細胞の力加減を制御する事で生み出される最速最短の隠密移動。

 

 天使達に隠れて移動するシェナニガンは天使の背後を通ってすら風すら吹かず。

 

 彼らが何かあるかと振り返った時には通り過ぎている。

 

 相手の視線、気配感知、音、匂い、あらゆる感知方式の導線を切って、追えないままに無意識化で何もないと確認する作業に自身の情報を溶け込ませる。

 

 それはつまり環境になるという事だ。

 

 風があるなら、彼らの周囲に移動して起きる風はその風そのものでなければならない。

 

 岩の匂いや草の匂いがするなら、自分の匂いはその匂いが漂ってくる方角から匂うものでなければならない。

 

 そんな具合に移動した後の情報を偽装するのだ。

 

 その為の低姿勢であり、匂いも殆ど無ければ、超音速上等で建築だってしている蜘蛛の身には低姿勢で慎重に歩くというだけで、少年の技能が実用可能だ。

 

 人間を遥かに超える隠密能力。

 

 気配を完全に絶ち、物質的な証拠を何も残さない彼らが本気で隠れたら、かくれんぼの相手は泣いてしまうに違いない。

 

「(・∀・)(シュシュシュシュ……シュシュッとさんじょー!!! シュシュッとかみのま~~ぁ~~、カクゴカクゴカクゴしろよ~~~かみさ~ま~~♪)」

 

 脳裏で謳いながら、石製の都市の最も高い塔の内部を天使達にも見つからずに駆け上がり、シュタッと封印された霊廟らしき扉の前に来ると。

 

 分かっていたとばかりに扉が消え失せて内部への道が開かれる。

 

 内部の最奥。

 

 玉座に座っていたソレは下半身が無いミイラの如き何か。

 

 今も莫大な出力を要する大神の欠片は都市全土の結界の要となっている。

 

 ゆっくりと瞼を開いたソレが衣もボロボロのままに光で下腹部から下を再現し、立ち上がり……乾いたままにクツクツと笑い始めた。

 

『来たな。見てみろ。これが妖精神と戦った者の末路だ。あいつに封印される前の時点で死に体だったせいで、ロクに抵抗も出来ず……この有様だ』

 

 ミイラがもはや肉も無いカサ付いた肌と筋肉だったモノを纏った骨と言うべきだろう状態で片手を横に付き出すと壁に掛かっていた宝剣が瞬時に飛んできて、手にガッシリと収まる。

 

『ま、それでもこの大陸の元の持主よりは強かったが……一つ訊ねていいか?』

 

「(・ω・)?」

 

『お前らは女神の遣いか?』

 

 シェナニガンがブンブンと顔を横に振る。

 

「なら、この大陸に封印されてるモンの事は知らないわけか」

 

「(T_T)ふういん?」

 

『この大陸は嘗て【生命神ダスクライナ】の領域だった】

 

「(・ω・)それが魔王の元々の主?」

 

『ああ、そうだ。ダスクライナは生命を封印する神……生命という事柄に関しては恐らく旧き者達にとっても有用な存在だった。命である限り、ほぼ全ての存在に高精度、広範囲に影響を及ぼせたからだ』

 

「(・ω・´)種族の創作や危険な種族の封印、制御に長けてた?」

 

『そうだ。大神が三千大千世界を組織するよりも昔……旧き者達がこの星で新たな種族を創作していた頃にはもういた旧い神でもある。ヤツは数多くの種族、生命を封印し、多くの種族の絶滅や興亡を担う者だった』

 

「(;´|ω|)つまり?」

 

『この大陸には嘗て、旧き者達が神々を生み出した理由が眠ってる』

 

「( 一一)なにかのあぶないせーぶつでもいる?」

 

『正解……邪神だ』

 

「(◎_◎;)じゃしーん?」

 

『それも旧き者が造ったわけじゃねぇ。あいつらと同等以上に旧い時代から、この世界の始まりから、この宇宙が開始された時からいるとされていた高次元存在。宇宙を生み出したとされる旧き者達の言う“あの方”とやらが付き合ってた連中だって事だ』

 

「(´・ω・)それで?」

 

『創造主と仮に呼ぶが、そいつが遺した宿題が邪神なんだよ』

 

「(;´・ω・)しゅくだい……」

 

『このあまりにも異常な星で連中はその一体を見付けた。それは休眠状態だったらしくてな。そいつを蘇生させぬように分割して巨大な重石を乗っけて、上から押し付けて、最後に蓋として神ってヤツを載せたんだ』

 

 その話に思わず蜘蛛が今まで蜘蛛が知る情報を時系列順に並べて、各種の歴史的な史実と照らし合わせてみる。

 

「(´-ω|`)………妖精神は………」

 

 蜘蛛が考え込んでから閃いた様子で目の前のミイラ的な神を見やる。

 

『妖精神は本来、そいつに対抗する為に旧き者達が生み出した因果律、運命と近頃は言うヤツを制御する為の存在、有体に言えば、対抗用の兵器だったのさ』

 

「(・ω・)神が消えた大陸が滅び掛けるのって……」

 

『ほう? もう見つけたか? 神に見放された世界、神が消えた大陸を……そもそも神がいない世界……ソレは不幸になって当たり前だ……邪神の欠片の力は正しく運命を操る程度の能力だからな』

 

「(|∀|)神を破壊したら、神になるのも……」

 

『くくく、そうだよ。神が減ったら困るんだよ。だから、総量は変わらないようにしたわけだ』

 

「(´・ω・`)……神が世界を見限ったら、この星が地獄になる?」

 

『だから、オレを含めた大神連中は第二の邪神そのものみてーに妖精神がなっちまった時点で詰んでるんだよ。輪廻転生のせいだぜ? 全部』

 

「(。-ω-)……転生、魂の循環、因果律、運命、妖精、元々魂そのものが散逸する世界だったのに魂が永続化された場合の……」

 

 蜘蛛が僅かに沈黙した後。

 

 パチリと目を開いた。

 

「(◎∀◎)……魂に邪神の影響が出てる?」

 

 パチパチと剣を持った手で拍手が成された。

 

『ああ、そうだよ。この星に本来存在しなかった生命が“お前ら”なわけだ』

 

 そこでようやくシェナニガンが真顔になった。

 

「(・ω・)大地母神は蟲に愛される神……蟲は邪神の系譜を受け継ぐ魂……つまり、大地母神は……」

 

『呪霊だの、魂の世界だの……アレも本来は存在しなかったんだ。だが、そうなっちまった……魂の強化、神の力を得た魂の現世への回帰……分かるか? どんな神の力を得たのか? そういう事だよ。オレ達も肉体を持つ多くの受肉神も……呪霊を、魂を現世に還す幽世の神も……定理に還らない限り、この星の“歪み”から逃れられない定めなのさ』

 

 ブンッと剣が横に降られた途端。

 

 その肉体に鋼の軽装の鎧が纏われ、普通の長剣が砕けながら、光の粒子と化して、ミイラ化した肉体へと補填され、僅かに肉体へ血の気が戻って膨らんでいく。

 

『さぁ、講義はお終いだ。あのクソババアの眷属……お前が本当に人の子の為に戦うと言うのならば、人の敵の悉くを討ち滅ぼしてみろ』

 

 ダンッとオールッドが脚を床に打ち付けた瞬間。

 

 石の都市の全ての構造物が崩れ去っていく。

 

 それに当惑した天使達だったが、すぐに神の座があった場所に浮かぶ二つの影を見て―――。

 

『これより我が名によって命ずる!! この戦いの勝者に従い!! この世界を救済せよ!!』

 

 燃え上がる黄金の髪の毛が背後へとオーロラの如く棚引いていく。

 

 獣の如き形相の男が崩された都市の虚空で一人の蟲を相手にニヤリとする。

 

『往くぞ。新たなる人の隣人よ!! 人に愛想を尽かした神の手を貴様は超えられるか?!』

 

 蜘蛛の姿のまま。

 

 虚空で瞬時に互いが激突する。

 

 両手両足を踏ん張ってのぶつかり合い。

 

 両手と両前脚が組み合う。

 

 だが、互いの指が内部から血潮を噴き上げ、罅割れる。

 

『おらぁああああああああああ!!!』

 

 引き剥がした指を思い切り握っての強打。

 

 それがシェナニガンの右半身を血の染みに変える。

 

 しかし、オールッドの半身もまた二本の蜘蛛脚に貫かれ、抉り取られていた。

 

『いい拳。おっと、打撃だ、な!!』

 

 今度は頭突き。

 

 互いの頭蓋が罅割れるも瞬時に復元。

 

 ここでようやく蜘蛛側から脚が関節部分からパージされて距離が取られる。

 

『そんなんで人の守護が務まるか、よッッ!!』

 

 両腕を組んでの振り下ろし。

 

 再生した前脚をクロスさせて受け止めたシャナニガンだったが、前脚が悉く威力に破砕されて、胴体部を抉り飛ばされる。

 

『この世界の蟲の定義を教えて、やるッッ!!』

 

 オールッドの右ストレートがシェナニガンの顔面を捕らえようとした。

 

「(/・ω・)/こーぎおわったから、けっ、こーっ、ですっ!!」

 

 グシャァッと蜘蛛脚のカウンター右ストレートが至近距離で相手の左頬を吹き飛ばした。

 

『聞いて、イケ、よッッ!!!?』

 

「\(|o|)/いけま~~~センッッッ!!!」

 

 互いに絡み合いながら、組手染みて相手の四肢を捕らえようとするも千日手。

 

 しかし、地表に堕ちた両者が距離を取って、再び構えを取る。

 

『蟲とはこの世界にいつの間にか現れた生命。邪神の欠片からの干渉を受けた生物の総称だ!!』

 

 互いの拳がぶつかり合うと同時に周辺の天使達以外の全ての建材が吹き飛んでいく。

 

 都市だった残骸すらも2人の存在が打ち合うだけの衝撃で粉々になって世界の彼方に消えていく。

 

『あのババアはなぁ!! 邪神が組み込まれたこの世界の理に干渉出来る唯一の定理を保持してやがるのさ!! それは同時に干渉されるって事だとオレ達はあの大戦で嫌になるほど知ったわけだ』

 

「( ̄д ̄)いーこときーた!!」

 

 互いの肘がぶつかり合い破壊され、瞬時に復元され、同時に全身に波及した罅から噴き出す血潮も構わず。

 

 蟲と神が殴り合う。

 

『結果を見て見ろ。正しくご覧の有様だ。あのババアの申し子が今じゃこんな辺境にまで顔を出して来てる。この妖精神が復活するってご時世に何でこんな神が保持出来た境界ギリギリにある名前すら与えられなかった大陸にやってくる?』

 

「(^◇^)よばれたからー」

 

『どいつもこいつも人間がそんなに好きか!? 貴様らが単なる人を滅ぼすだけの魔物なら、まったく問題無かっただろうにややこしい事してんじゃねぇ!!』

 

 アッパーが蜘蛛の頭蓋を下から揺らす。

 

 しかし、蜘蛛の前脚も相手の鳩尾に突き刺さって吹き飛ばす。

 

『がは?!』

 

「()^o^()かおがふくらむぅ~」

 

『あの妖精神もそうだ!! こうなる事は見えてただろうに!! 何故、破滅すると知ってあんな事をした!! 愛か? 愛なのかやっぱ!!』

 

 オールッドのストレートが蜘蛛の前脚を割砕いてガードを吹き飛ばし、もう一撃が仰け反った胴体部分に突き刺さって半ばから血の染みにした。

 

『邪神に人が勝てるわけねぇだろ!! あの妖精神!! あのクソババア!! 大神連中すらも無理な事だぞ!! 奴らは何もかもを知りながら、人の生み出した愛とやらの為に第二の邪神に成り果てた!!』

 

 蜘蛛の顔に拳が突き刺さる。

 

 破壊された顔面毎吹き飛ばされてグギャンッと折れ曲がった脚や体をまだある脚で元の位置に戻して復元させながら、シェナニガンは息を吐いて苦し気に震える男を見やる。

 

『もういいだろ。人の血統や文化を学んだ別の種族に全部明け渡しておけよ。それとも邪神も人間が大好きだとでもいうのか?! 愛されているとでも!? 欠片の掃滅だけで大神の半数は行動不能!! この数百年で受肉も出来ない有様だ!! 今や残ってる大神なんぞ片手の数だ!! あの追放者共のいない大陸を治めて来たのは誰だと思ってやがる!!』

 

「(T_T)(あ、小神がいない大陸も大神が担ってたのね、と黒い職場に仕えてる神を不憫に見る顔)」

 

『復活する妖精神は爆発寸前……次の復活と同時にこの星の因果律は終点に辿り着いちまう。この世の終わりだ……宇宙の終焉だ……この世界の定理全てが奈落の底に落下して、全部無かった事になる!!』

 

「(´・ω・`)そーなん?」

 

『ヤハのジジイは宇宙が終るまでの時間を伸ばして、この領域から逃げれば、数億年は稼げるとほざいていたが、どうなんだかな。どの道……この星はお終いだ……全部、無くなっちまうだろう』

 

 神と呼ばれた男は肌からゆっくりと風化して塵になっていく己の体を見やる。

 

『挙句に人に現れた最後の救世主が邪神の手先だと!? 馬鹿にするなよ……だから、言ったんだ。あの双子が生まれた時、殺しておけと……邪神の系譜に可能性を見たなんてあのジジイが馬鹿げた事を言い出さなきゃ、大戦も無かった。小神共もきっとあんな事を言い出さなかった。変質だってしなかった。もっと、多くの生命がこの星で穏やかに暮らせてたはずだ……欲望の神め……あのキザ野郎……あいつさえ反対に回ってれば………クソが………』

 

 ゆっくりと崩壊していく神だったモノから何もかもが失せようとして、瞳だけがシェナニガンを見た。

 

『邪悪なる存在よ。何故、お前は人を助ける……』

 

「((。|`ω<)☆そのほーが、たのしーからさ♪」

 

 ウィンク一つ。

 

 決めポーズを取る蜘蛛の言葉に今にも崩れ落ちそうな神はクツクツと笑った。

 

『いいだろう。お前が人の守護者である事を認めよう。精々、馬鹿で間抜けで愚かな人間共を救ってやれ。滅びる際には精々死ぬまで愚痴られて絶望しろ。オレ達がそうだったように……あの……馬鹿天使みたいに信じて見ればいいさ。裏切られるその時まで……な……』

 

「(・ω・)裏切られても、絶望しても、ちゃんと最後まで貫いたから、あの魔王は尊敬に値する。貴方も……」

 

『……フン……馬鹿な、話だ……ぜ………………』

 

 ようやく動きを止めた神が完全に崩れ去った。

 

 定理に還ったのだろう。

 

 それと同時に蜘蛛が傷付いた体を推して堂々と自分を囲む天使を見やる。

 

 しかし、その主を討ったはずの相手に対して天使達の顔には憎悪も無かった。

 

 何処か哀惜の念が一摘み。

 

「我ら天使一同……貴方の配下となりましょう。新たなる主よ」

 

 何とも寂寥と哀愁の漂う苦労人が一人消えたのでシェナニガンは肩を竦める。

 

 神も一皮剝けば、裏切られて悲しく、世を儚んで自暴自棄、それでもやっぱり最後まで誰かの願いを放ってはおけない……そんな何処にでもある知性の一つであった。

 

 もはや、限界を超えて戦力を揃える為だけに全ての力を増殖に費やして、自らの終わりを先延ばしにしながら、人間の愚かさを歯痒く思っていたのだろう神の敗北が……今まで神の都の傍で待機していたウルの妨害が途絶えた事で……天使達の脳裏に響き渡る。

 

 天使と蜘蛛の戦争の終わりに常世の争いの終わりにまだ傷を復元もせずに恰好を付けた蜘蛛が前脚を高く掲げて、部屋の横に隠して置いといた魔王剣を地表から念動で拾い上げて掲げ、大陸全土に映像を送る。

 

『 (。+・`ω・´)シャキーン』

 

 ちゃんと、自分でカッコイイ・ポーズを取って擬音まで付ける魔王蜘蛛。

 

 あるいは蜘蛛の勇者の姿は【そして、伝説へ……】みたいな御伽噺になるだろう。

 

 エンターテインメント性の高いシャナニガンによるプロパガンダは神話となり、人々は蜘蛛の勇者が砕け散った神の残渣が散逸していく虚空で哀悼の意を表し、一礼したのを見て……時代が先に進んだ事を実感として得たのだった。

 

 最後の希望を持っていた神殿勢力の残滓。

 

 神に帰依した者達もまた旧き時代の希望を打ち砕かれ、新たな時代に放り込まれた事で完全なる思想的終焉を迎えた。

 

 もはや、神の時代ではない。

 

 そして、人の時代でもない。

 

 まさか、亜人の時代でもあるまい。

 

 そう、時は大蜘蛛さん時代であった。

 

 誰が言わずとも、何を叫ばずとも、それは人々の認識であり、共通の常識となったのである。

 

 *

 

 結局、今回も死人が出なかった外大陸での蜘蛛達の活躍。

 

 その最後の仕事は巨大に成り過ぎたアルゴノォト……誰かが勝手に名前を付けた船を何処に置いておくか考えるという事であった。

 

 ぶっちゃけ、普通の空間に戻したら、あまりの自重から重力源として動かすだけで惑星上の大陸を蹂躙する天変地異を頻発させてしまうだろう。

 

 かと言って、巨大過ぎて隕石に衝突させたら、恐らく破壊しても至近距離にある惑星が壊滅的被害を受ける。

 

 という、何とも困る状況になっていた。

 

 仕方なく崩壊した複製大陸に幾らかの神樹を戻して、一つの大陸として再形成。

 

 ついでに神の領域たる天界そのものにポツンと置いて、大陸の蜘蛛達と連携を取りつつ、莫大な質量を生み出す生産装置として運用。

 

 蜘蛛と天使の住まう【天界(仮)】として地表の別の大陸にいる蜘蛛達の一大支援地域として活用する事が決定された。

 

 もしもの時は適当に神樹と竜骨、真菌で造った小型の船を派遣して、大陸を股に掛けて避難させたり、大陸そのものから避難民を受け入れる手筈である。

 

 一つとなった複製大陸は神の領域に至る中間地点として使われ、パンゲアとまた誰かが勝手に名付けた名前のままに再開発。

 

 増えに増えた蜘蛛達の労働力と神の力を必要な物資や生産現場の開発に充填し、神々との一大決戦に向けた最前線として基地化する案が起用された。

 

 これに伴ってソリトゥード大陸には再び同じ質量で同じ方法を用いて造った神樹合体前のアルゴノォトの二号機が下ろされたりもしたが、それが二号機だと知る者は蜘蛛と天使位だろう。

 

 ぶっちゃけ、天使達もまた配下に加わった事でシェナニガンの号令で同じ船を何隻も建造し、天界において予備が大量に作られている最中であった。

 

「シェナニガン様。お帰りなさいませ」

 

 ズラリと円卓に並ぶ者達が頭を下げる。

 

 天界で数日間、延々と蜘蛛達と共に今後の予定を決めて、天使達を統率して、複製大陸を一つにしてと昼夜なく仕事をして帰って来た彼の前には円卓の者達の部下となったのだろう人員が人も蜘蛛も無く大勢いた。

 

「神の討伐……ご苦労様でした。天使達の事は聞いております。あの神が最後に貴方様へ託したのだと……でも、未だ天の大岩はそのままですし、多くの問題も解決を開始したばかり……どうか、これからも我らが大陸をよろしくお願い致します」

 

 畏まった魔王の一人娘。

 

 アシエルが自分の為に用意してくれたらしい大仰な椅子の横で頭を下げるものだから、傍に座った一匹の蜘蛛はその頭をポンポンする。

 

「( ^ω^ )えんかいはー?」

 

「っ、はい!! ご用意しております。新たな時代の門出として、三日三晩の催しも……どうか、しばらくゆっくりしていって下さい」

 

「(/・ω・)/よし、うたげだ。うたげをひらけー」

 

「はい!!」

 

 さっそく、楽器を持ち出したシェナニガンに笑みを零す少女に円卓の者達も何処か安堵した様子となる。

 

 今や明らかに3mくらいに肥大化した大隊長達が滂沱の涙を流しつつ、大きく『良かった?! よがっだよぉ~~!!?』と互いの肩を抱き合っており、宴はこうして始まる事となる。

 

 こうして、その都には祝日が出来た。

 

 来年もまた共に……。

 

 そう願うのならば、蜘蛛達の仕事が終わる事は無いだろう。

 

 独立大陸の空には音色が響く。

 

 何処か気の抜けたメロディーから勇壮なる調べ。

 

 はたまた悲劇に抗う物語に人々の健やかさを願う祈りの唄。

 

 1人の蜘蛛が奏でる蒼穹にして悠久の物語はこの世で最も有名な音楽となるだろう。

 

 たった一人の少年が紡ぎ上げた終わり無き日々に僅か彩りを添えて……蜘蛛はこう思う。

 

『(;´・ω・)(いんせきどーにかしたら、おかーみのごはんたべにいこー)』

 

 魔王にして勇者にして工場労働者系蜘蛛はこうして帰還するべく。

 

 宴会で派手にギターを掻き鳴らしつつ、小さな目標に邁進する事にしたのだった。

 

「ふふ……おかーみって誰です?」

 

「((((;゜Д゜))))―――」

 

 いつの間にか。

 

 蜘蛛の心を読む程度の能力を得た魔王の一人娘に笑顔で背後に立たれたシェナニガンは未だ未来に自分が到達出来るのかどうか不確定であるらしいと気付く。

 

『お、お水のお店のママ?! ば、ばかぁあああああああああ!!!? シェナニガン様の浮気者ぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!?』

 

 魔王、初めて浮気がバレる。

 

「勇者……蜘蛛の勇者、か。オレには到底真似出来そうにないな。はは……」

 

 翌日、蜘蛛達が発行する新聞の第一号に掲載された大スキャンダルもまた破滅の迫る大陸に刻まれる記念するべき一頁に違いなかった。

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