流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第91話「暮れなずむノクロシアⅩ」

 

―――ノクロシア軍商業施設。

 

「おいふぃでふ」

 

「そーふぁね」

 

「うむ。ふわぃのう」

 

「確かに……」

 

 あちこちの大陸で蜘蛛達が好き放題している頃。

 

 仮眠を取った第一遠征隊はもっふもっふと何年前に作られたかも定かではない一口サイズのカップケーキを包装から取り出して齧っていた。

 

 全て少年が持ってきた戦利品である。

 

 現在、大休止の後の食事時。

 

 腹に入れられる内は何でも入れておくように訓練された女性陣は持ってきた食料でお茶の時間にしていた。

 

 その横では少年があちこちに目をやって、壁に手を付いてノクロシアの構造の把握に努めている。

 

「………」

 

 少年の目が細められると同時に違和感をざっと計算した当人が自分のこめかみに消していた妖精剣を突き立てる―――同時に世界が暗転し、講堂内部の何もいなかったはずの中央地点に人影が現れた。

 

 巨大な吹奏楽で使うにしても大き過ぎるホルンの如き管楽器。

 

 禍々しい程に歪みながらもまるで女の悲し気な声の如き音色が零れ出し、いつでも逃げられる体勢でいたはずの少女達も蜘蛛達もスヤスヤと寝入っている。

 

 人影は歪な体表構造のまま。

 

 乾き切った肌の蒼白い外套を纏う存在。

 

 その外套と思えるモノは湿っており、少年にはそれが人の皮を鞣して加工し、魔力を流しているようなものだと分かった。

 

「夢中夢……この状況で蜘蛛が起きないって事は……起きるのに時間が掛かる入れ子構造? 同じようなのはアルマーニアと戦争してた時に2000回は見た」

 

 少年の言葉に顔を上げた黒髪の誰かはその骸骨染みた骨と皮だけの表情に憎悪とも呼べぬだろう仄暗いものを宿して楽器の演奏へと熱を入れた。

 

 途端、少年の左手が崩れ落ちそうな程に萎びていく。

 

「精神構造の一部脱落? 夢の階層の深い所に引き込んで封印するような……この系統への備えが足りなかった……肉体も精神も頑丈さは増しても、穴は必ず何処かにある……そういう……」

 

 少年は落ち着いているというよりは此処までしてもやはり自分に足りないものは存在するという事実に息を吐く。

 

「持ってる人間は持ってる。持ってない人間は持ってない……なら、持ってる方から借りて来る」

 

 少年が妖精剣を遥か天目掛けて掲げた。

 

 その剣は一本の糸となり、遥か天を貫いて、ノクロシアの幻想……夢幻の構造体の果て先……現実までも飛び出していく。

 

 そして、繋がった途端。

 

 糸が一人の男をまるで糸で出来た人形のように縫い上げて3Dプリンターの如く夢の中へと出力した。

 

「あら? 此処は……」

 

「ヨハンナさん」

 

「アルティエ様。どうかなされたのですか?」

 

「此処は夢なのでそろそろ起きて貰えますか? 子供達が待ってます」

 

「まぁまぁ? それは大変ね。うたた寝していたのかしら……近頃、子供達が増えているものだから、夜更かしばかりしてしまって、ありがとう。そろそろ起きるわ」

 

「一緒に寝てる全員を起こしてあげて下さい。これを」

 

 少年が小さなベルを差し出し、戦う力無き子供達の母。

 

 修道女ヨハンナ。

 

 今はニアステラの聖母と名高い女性が頷いてベルを手にすると盛大に鳴らした。

 

「皆さ~ん。ごはんの時間ですよ~~今日はお肉入りのシチューですよ~~」

 

 ガバッと思わず前後不覚で起き出した少女達がいた地点から世界に罅割れと罅割れの先から光が射した。

 

 寝ぼけ眼の少女達がまだぼんやりしているのをささっと回収したヨハンナが細身には見えない腕力を発揮して、馬車を牽いていたエムルトさえも片腕で持ち上げ、そのまま全員を紐で縛って忙しそうに罅割れへ飛び込んでいく。

 

 全ては夢の中。

 

 しかし、現実にしか興味が無く。

 

 全ての現実を完全に理解して尚、夢に興味が無い。

 

 本当の覚者というのは現実にいる。

 

 それが何処にでも居そうな修道女である事も在り得るだろう。

 

 そう、蜘蛛だろうとエルコードだろうと夢に期待する事はある。

 

 しかし、この島でたった一人、現実しか見ていない女性には夢は夢でしかない。

 

 それを見ていた管楽器を吹いていたソレが怒りの声を上げると同時に周囲が無数の暗い色合いの影で出来た人型に制圧され、少年を取り囲もうとした。

 

「お前は夢だ。大人しく夢のまま消えていけ」

 

【――――――!!!】

 

 少年の周囲に大量の人型の影が殺到する。

 

 神の力によって現実で一掃されていたソレらが入り込もうとして、少年の見えざる圏域、いや剣域と言うべきだろう妖精剣の攻撃射程内にて砂の如く崩れ落ちた。

 

 そのまま罅割れへと飛び込もうとした少年の背後から遂に楽器を投げ捨てた怪物が巨大化しながら齧り付き、掴もうと追ってくる。

 

 その姿は既にボロボロに崩れ落ち始めていたが、妖精剣による攻撃にすらも夢という己の領域内での事であり、完全に殺し切るには干渉力と呼ぶべきものが足りないのか。

 

 未だ、形を保っていた。

 

 しかし、罅割れの先に一足先に入った少年に向けて手を伸ばした時。

 

 その頭部の中から腕先が貫通して飛び出す。

 

 貫通したのは少年の腕。

 

 そう、夢の奥に仕舞い込まれたはずの精神の一部であった。

 

 遥か奥底から単体で帰還したソレは少年の意志の通りに動いている。

 

 それが軽く弾くようにして相手の頭部を消し飛ばし、未だ萎びていた少年の腕に吸い付くようにして同化する。

 

「生憎ともう夢は見ない……起きて見る夢しか見られない……後は全て記憶だ」

 

 少年の呟きを残して完全に罅割れが世界を覆い尽くし、少年が起きる。

 

 すると、そこはもう巨大な酒保では無かった。

 

 しかし、現実に起き出した蜘蛛達が「( ゜д゜)(ハッ!!?という顔)」で警戒態勢を取りながら、全力戦闘モードへと入る。

 

 彼らがいたのは巨大な墓標の前であった。

 

 凡そ半径1kmの石製の円形闘技台。

 

 巨大な平面の中心には崩れたホルンのようなものを吹いていたらしい像があり、楽器以外は殆どが砕け散っていた。

 

 少年がその像の前まで行くと。

 

「?」

 

 その背後からパチパチと拍手をした背の高い細身の長髪の男が一人。

 

 髪が酷く跳ね乱れている事を覗けば、美形と言えるだろう優男は眼鏡姿で少年を何処か珍しそうに見ていた。

 

「誰?」

 

「尤もな意見だ。君からすれば、この真っ暗な空の下。円形の浮いた石製の足場の中央で像の後ろにいた怪しいヤツだものな」

 

「……ノクロシアの人間?」

 

「生憎と人間じゃぁない。君にも分かるように言えば、僕らの種族は【ノクロシアル・コード】と言えるかもね」

 

 男の姿は何処か縫製の跡が見られないスラックスとワイシャツ。

 

 しかし、その背後から白衣が現れて男が着てもいないのに着込まれる。

 

 そうとしか言えないだろう。

 

 白衣は来ていなくても男に装着、本来袖を通すべきところがそうするまでもなく、まるで透過でもしているかのように合体したのだ。

 

 男は笑みの優しい人間に見えたが、その顔が片手で“外される”。

 

 その中には無数の魔力で紡いだような文字列が奔っていた。

 

「ようこそ……到達せし者エルコード……僕の名はラクサディア・マライズ。君達に分かり易く言えば、神を造った者達の1人だ」

 

 男が指を弾いた途端。

 

 少年達の居場所はノクロシアの最奥にあるブロックへと移っていた。

 

 巨大な七角形の巨大な“何か”をガラス越しに見下ろす場所。

 

 エントランスのような複数のソファーが置かれた領域だった。

 

「歓迎するよ。最後に残った旧き者達の遺物としてね」

 

 そこでようやく少女達がむっくりと馬車の中で起き出して、見知らぬ人影と傍にいる少年と更に蜘蛛達が厳戒態勢を敷いているのを確認して、思わず馬車の外に得物を持って飛び出した。

 

 ついでにエムルト等はいつでも引き金が引けるよう男の眉間に照準する。

 

 それを見て肩を竦めたラクサディアと名乗った男は優男の顔を元に戻す。

 

「いやはや、勇ましいお嬢さん達だ。ちょっと付いて来てくれ。生憎と罠も危険もない研究室にご案内しよう。ああ、勝手に触らない限りって但し書きは付けておく。生憎と出せるお茶は時間停止されたインスタントしか無いけれど」

 

 肩を竦めて、彼らに背中を見せて歩き出す青年を前にして少年が蜘蛛達待機状態を指示し、エムルトに馬車を牽くよう伝えて、その背後に付いていく。

 

 こうして、初めてノクロシアに住まう者に彼らは接触したのだった。

 

 *

 

「いやぁ~~君達みたいな生物がまさかノクロシア内部に入り込むなんて。まったく、時間の効用ってヤツはこれだから面白い」

 

 男がインスタント・コーヒーをポットのお湯でカップに入れて、全員の前に出しつつ、ボリボリと小さな小麦菓子、クッキーを齧る。

 

 彼らが通された研究施設内部にある一室は手狭だったが、少女達が一列に座れる程度の長いソファーは用意されており、テーブルは黒曜石のような何かで構成されていて、それの上に白い陶器製の食器が並べられていた。

 

「改めまして。ラクサディア・マライズだ」

 

「アルティエ」

 

「レザリアだよ」

 

「フィーゼです」

 

「リテリウムじゃ」

 

「エムルトだ」

 

 その言葉に頷いて、一人立ったままのエムルトを見たラクサディアが指を弾くと人馬用らしい上に載るタイプのソファーが出て来た。

 

 太陽が見える窓の外。

 

 海が見える室内の明るさでも分かるくらいに彼らの影は濃いように見える。

 

 それは戦闘用の装いとラフな男の対比から来るものかもしれない。

 

「君達、僕を何かの怪物だと思ってるだろ? 生憎と力はあっても直接戦闘力は君達よりずっと下さ。何なら君達の素手で殴られたら死ぬような脆さだよ」

 

「……安心出来ない安心材料をどうも。それで何の用か聞いても?」

 

「ははは」

 

 少年の単刀直入過ぎる言葉に男が肩を竦める。

 

「此処は僕の家だよ? よそ様の土地と家に入ってるのは君達なんだけどな」

 

「旧き者から管理を任された存在?」

 

「いや、実際のそれではない。僕はシステムじゃないんだ。単純なにぎやかし? いや、違うな……分かり易く言えば、人員不足だったノクロシアで研究職の人材の補填に使われた人造生命体だね」

 

「人造生命……それを言うなら、この世界の大半の存在はそう」

 

「うん。君はそういうのは分かるのか。なら、僕がどうして此処にいるのか意味を求めて然るべきだ。しかし、そうじゃないんだ。君の予想するような馬鹿馬鹿しい陰謀には使われてない。少なからず自分で認識する限りは……」

 

「なら、どうして此処にいる?」

 

「偶然。いや、どちらかと言えば、残るとは思ってなかったんじゃないかな」

 

「誰が?」

 

「勿論、僕の創造主たる旧き者達がさ」

 

「……ずっと此処に意識を凍結せずに存在していた?」

 

「少し違う。僕が定期的に起きて此処の管理人みたいな事をしているのは最後の1人として義務とか責務みたいなもんじゃない。趣味だよ趣味」

 

「趣味……」

 

「起きたら、最後の知り合いすらいないまま人気が無くなって。後は封印されたノクロシアで悠々自適に眠って起きて、しばらくこの世界の行く末を見守ろうってな野次馬根性に溢れる人格者だ」

 

「……人格者?」

 

「そんな胡散臭いヤツを見るような目で見なくても……別にノクロシアの仕様やシステムにやたら詳しいわけじゃないし、弄れない部分の方が多い。それにしても君達のやらかしっぷりには笑わせて貰ったけどね」

 

「やらかし?」

 

 少年に苦笑気味にラクサディアが虚空に映像を出す。

 

 それは正しく武器庫で少年達がゴーレムみたいな人造神相手に戦いを挑んでいる時の代物であった。

 

「ぃやぁ~~本当に笑わせて貰った。君達は正気か? 本当にさぁ……あんなの倒せると思ってなきゃ、戦わないわけで……殆ど見てる時、勝てるとまったく思ってなかったんだよなぁ」

 

「そっちが動かした?」

 

「いいや、自動防衛だよ。別に何かする必要もなく。此処の大半のゴーレムも多くのシステムも自動化されてるからね」

 

「……あの夢に介入して来たヤツも?」

 

「いや、アレは違う。そもそもさっきの場所に閉じ込められてたので察して欲しいな。アレはこの世界の元々の派閥連中の一体を封じ込めてた牢獄だよ」

 

「牢獄?」

 

 思わず似付かわしくない単語にレザリアが首を傾げた。

 

「ねぇ、おにーさん。ノクロシアって楽園じゃないの?」

 

「ん? ああ、旧き者の都。そりゃ、牢獄なんて似付かわしくないかもしれないが、彼らも生物だったからね。戦う必要もあれば、殺せない存在とも戦っていたのさ」

 

「へぇ~~」

 

 少年が目を薄く細めた。

 

「旧き者はもういないはず。なのに、牢獄の中身は生かされてた?」

 

「そこに気付くのか。本音で言うとアレらはこのノクロシアにとっては異物でね。紐付けられてて、中身を殺さないとあの牢獄自体抹消出来ないから、ほったらかしにされてたんだよ」

 

「ノクロシアの技術でも殺せなかった?」

 

「君達みたいな超武闘派生物とか。普通にいると思わないで欲しいな。旧き者も生物だって言ったろ? 技術は極まってても、さっきの君みたいに穴はあるし、万能でも無かった」

 

「………」

 

 珈琲が角砂糖二個とミルクを注がれ、一気飲みされた。

 

「このノクロシアは大地母神に引き渡された後も一部の旧き者。いや、旧き者達の子孫によって運営されてたんだ。だが、外部環境の激変や神々の戦いや諸々の状況で子孫達は外部の大陸へと移民してね」

 

「旧き者にとって此処は棄てた場所って事?」

 

「捨てたと言うよりは棄てざるを得なかったが正解だね。特に妖精神の死体を素体に用いた人造神。救世神の開発は主に此処で行われたんだ。逃げ出したくもなるだろう」

 

「―――」

 

 少年が特大のネタにようやく此処まで漕ぎ着けたという実感を得て、何処か安堵とも悲哀とも付かない感情を押し殺す。

 

「君達にしてみれば、どうして救世神とやらのせいで世界が滅びるのかとか。それを阻止する為に大神連中が攻めて来てるのかとか。色々、推察は出来てただろう?」

 

「此処で色々聞いていく事は確定した」

 

「分かった。後で書類でも渡そう。ま、あの女神以外見てないけど。取り合えずだ。この島の極大の異変の内実は此処から始まった。でも、今はもう此処にどうにかするような手札は殆ど無い」

 

「少しはある?」

 

「あるとも。ノクロシアの動力源。さっき君達も見ただろ? あの巨大な見下ろしたデカイ何か。アレだよアレ。アレは……このノクロシアのメイン動力炉。つまり、心臓部だ。アレを自爆させれば、さすがに救世神も死ぬ。勿論、同時にこの島どころか星、星々、世界の全てが崩壊するかもね」

 

 フィーゼが滅茶苦茶渋い顔で男を胡散臭そうに見た。

 

「そんな顔されても……ちなみに旧き者達がこのノクロシアを建造したのは神々を造って随分後になってからなんだ。彼らの時間感覚で言えば、つい最近て事になる。つまり、最新技術の塊だったりする」

 

「最新技術……」

 

 少年が目を細めた。

 

「千年や万年が昨日や数日前程度の認識な生物にとっては先日くらいの話さ。旧き者が子孫を残して消えた後、あっという間に残されたノクロシアは子孫達の家になったが、それも数百年前までの話。結局、彼らが外大陸に移住せざるを得なくなった後、残されたシステムは全て都市を閉鎖した。あの女神の為に……」

 

「ウェラクリア……」

 

 少年に頷きが返される。

 

「そうして君達の知る島になったわけだ。だが、妖精神を核とした救世神は最初こそちゃんと機能していたが、流刑者達のせいで機能は狂い。島の生態系を生かす為の全ての能力が世界の救済の為、試行されてる」

 

「救済……破滅が救済だと?」

 

「ああ、そこはまだ分からないのか。君達にも分かり易く教えるのも滅茶苦茶時間が掛かりそうだ。内実やら過去の出来事やらは掻い摘んで話すが……救世神とは元々がこの島の管理システムなんだよ。彼女は人類を救済しようとしているが、その救済手段が世界を破滅させる」

 

「管理システム? 救済手段が破滅を……」

 

 少年が僅かに思案してから青年を見やる。

 

「君達も今までそこの妖精達に助けて貰ったろ?」

 

『………』

 

 少年の懐でその妖精がちょっとギクリとした。

 

「高次元領域からの一方的な攻撃も受けたはずだ。人が見る世界は実際には数多くの領域を色眼鏡で見た際の一区切りに過ぎない。物理法則の類も世界から抽出された一要素だ」

 

 他の少女達がよく分かりませんという顔になるが、少年だけは違った。

 

「因果律。あるいは今の時代だと運命かな。それを制御するシステムだったんだよ。この島内に限った代物だ。そして、時空間の秘密を解き明かした旧き者達の力を得たソレは時間を超える力でもあった」

 

「時間を超える……神刻呪紋のような?」

 

 僅かに青年が微笑んだように少年には見えた。

 

「この島のノクロシアは間違わない場所だ。何故なら回答を持ったまま過去に情報を送れたからね」

 

「―――」

 

 少年がようやく核心へと迫っている事を理解する。

 

「でも、それは同時に時間の変動を齎す諸刃の剣でもあった」

 

「変動?」

 

「そうだ。時空間の歪みは因果律の歪みでもある。しかし、因果律は時空間よりも一段高い次元の話になるんだ。で、因果律を無理やりに歪め続けると時空間の干渉が限界を迎えて破綻する」

 

 虚空に一本の紐がまるで最初から有ったかのように現れると次々に丸を描いて一方向に流れる様子となる。

 

「本来は問題なかったんだ。特異点を置いてたからね。でも、この紐に出来た丸のせいで僕らは恐ろしい現実に向き合う必要が出て来た」

 

 そこで少女達が首を傾げ。

 

「転生……」

 

「その通り!!」

 

 ラクサディアが何処か子供に教える教師のような教える歓びにか。

 

 少しだけ笑みを零した。

 

「この丸は人の一生。因果律が転生で歪んだ場合の簡易モデルだ。君達にも分かり易くしてみたんだけどね。でも、この歪みが元々一本なら問題ない。でも、これが2本なら? それも丸の中に通っていたら?」

 

 新しい紐が現れ、丸の中を蛇のように曲がりくねって通る。

 

「こうして因果律が収束すると結節点と呼ばれるものが出来るんだ。この結節点が大量に一か所に集中してしまうとこの因果律のある次元からこの現実へと紐の長さが表す時間の軌跡が単なるダマになって落下する」

 

「……因果律の破綻?」

 

「実際には破綻してからまた元に戻るかもしれないけど、それって少なくともこの星の寿命なんて軽く超える遠い遠い先の話さ。因果律に重さは無いんだけど、因果律の下位次元が干渉を受けて、丸々法則性を保てなくなって消滅する」

 

「因果律の破綻を回避する方法は?」

 

「転生を止める。もしくは転生しても因果律が歪まなければどうにかなるだろうけど、そんなの旧き者にも出来なかったし。結局は二つの因果を解かなきゃならないのが問題だ」

 

「……二つの因果?」

 

「妖精神の事は知ってるかい?」

 

「聞いてる」

 

「妖精神はたった一人の男を愛し、その男の為に転生というシステムを考え、その為に幽世を生み出した。幽世はこの世界の次元ではあっても、現実と極めて密接してるだけで別の次元階層にある。そして、幽世の出現によって各階層が神の力で拡張され、多くの死後の国が出来た」

 

「国?」

 

「神が君達に教えていない事の一つはソレだ。大神の連合体の本隊は其処にいる。そして、君達の島にやってくる神の下僕共もね」

 

「妖精神はどうして幽世にいない?」

 

「………」

 

 少女達が首を傾げた。

 

「君達はこう思わなかったかい? 死んでも魂は一緒に居られるなら、転生させなくてもいいんじゃないか、とか」

 

「………」

 

「君達は妖精神が男を無限に転生させて出会い続けるようにしたと思ってるんじゃないかな? それは半分正解だけど、答えの全てじゃない」

 

「もう半分は?」

 

 肩が竦められた。

 

「妖精神はね。この宇宙が終ってすら終わらない世界を望んだんだ。彼と一緒に何処までも何処までも無限に続く世界を、宇宙を、時間を、空間を……この世の真理を……求めた」

 

「まさか……」

 

 少年がようやくどうして妖精神の願いが世界の崩壊という大事になっているのか分かり掛けていた。

 

「彼女は世界そのものを輪にしたんだ。転生どころの話じゃない。宇宙の始まりから終わりまでを括り付ける巨大な螺旋構造さ。因果律は終焉と始原が結ばれ、宇宙は何度でも男を生み出すだろう」

 

 他の少女達はさっぱりだという顔である。

 

 そんな事言われても時間の話に付いていけるのは少年だけだった。

 

「救世神ヴァナドゥも妖精神と同じ道を辿った。本来、世界が許容出来る二重螺旋の因果は四重螺旋となって、因果の破綻の原因となった」

 

 少女達が首を傾げる。

 

「救世神がまた幽世のように世界を創ってまで誰かと一緒にいようとした……妖精神と救世神が別々の男を転生させ続けてる……違う?」

 

 ラクサディアがパチパチと拍手する。

 

 受け答えが完璧な生徒に対する賞賛のように。

 

「正解だ」

 

「え? 浮気?」

 

 身も蓋もない事がレザリアの言葉となって女性陣に共有される。

 

「それとも少し違うな。救世神は嘗て愛した男を愛した、ように見えたんだが、魂が分裂した男はもう嘗ての魂とは別の存在になっていた、という事らしい」

 

「あ~~それって転生前と転生後は別人、みたいな?」

 

 青年が肩を竦める。

 

「ま、そんなところだ。具体的には色々と複雑なんだが、とにかく別人となった男を愛してしまったってところかな」

 

「何か妖精神て未来が見えるはずなのにおっちょこちょいですね……」

 

 思わずラクサディアが吹き出して、大きく頷く。

 

「話を戻すよ。別々の男を無限に転生させるという因果が紡がれると交差した因果律の結び目は強固に他の因果を引き込んで最終的に全てが形を保てなくなって、この現実が消える……簡単だろ?」

 

 少女達が何とか呑み込もうとする。

 

「ええと……つまり、浮気の結果として世界が滅ぶ、って事?」

 

 レザリアの言葉は端的だった。

 

「あはははは!!! いや、救世神は妖精神とは別人格なんだけどね。でも、存在としては同じなんだよ。運命で見れば、一本の線だったんだが、一つの因果が分岐する極めて珍しい形を持っていた。男もそうだと思ったんじゃないかな。でも、そうはならなかった。そして、此処に一人だったはずの男の運命が双つとなり、この紐のように絡まって交差したら、他の因果も巻き込まれたわけだ……」

 

 無数の紐が虚空で雁字搦めになってテーブルにドサッと落ちて消え失せる。

 

「もう分かったかな?」

 

 エムルトが手を挙げる。

 

「一つお聞きしたい。事前にアルティエ殿から聞いていた限り、救世神と妖精神の関係は幾らか存じています。つまり、二人の男の為に力を使ったという事でいいならば、救世神はその第二の男にどんな事をしたのです?」

 

「世界を創ったのさ。前と同じようにね」

 

「世界……」

 

「そう、幽世に続く二つ目の世界だ」

 

「幽世……つまり、死後の世界のようなものではないのですか?」

 

「それは何処の事か? もう答えは出てるんだけどな」

 

「……楽園」

 

 フィーゼがポツリと呟く。

 

「どうしたのじゃ、フィーゼ?」

 

 リリムが俯き加減の少女を心配そうに横から覗く。

 

「この島ですよ。恐らく……この島でもう一人の男を小規模に転生させる。そういう世界を創ったんじゃありませんか?」

 

 フィーゼがラクサディアに視線をやる。

 

「正解……妖精神は元々が力の源となる三つの瞳を持っていたんだ。そして、三つの瞳の一つ目を愛する男の為に使った。二つ目は死んだ後、救世神が愛する男の為に使った。残る一つは何に使ったんだか不明だが、使用されたという事だけは分かってる」

 

「(島……島の制御装置……この島に想定外に力を使用した……この島の神々もそれを知ってた?)」

 

 少年が内心でパズルのピースを組み合わせる。

 

 妖精神と救世神が元は一人だった男を別々に愛し、力を使った。

 

 最初は宇宙の構造を変化させた。

 

 次はこの島で男を転生させる因果律を紡いだ。

 

 世界が崩壊すると知って、神々は【神刻呪紋】を創り、少年のように無限に繰り返す存在を用いて救世神を殲滅しようとしている。

 

 全てが明らかに互いに関連していそうではあった。

 

「……こうして三つの因果律を操る力の源がバラバラの事に使われた結果、幽世と現実とこの島は全てが重なり隣接していながら、別の世界となった」

 

「それは……随分と複雑な……」

 

 エムルトにも分かる。

 

 世界を三つも重ねて何か不具合が無い方がオカシイだろう。

 

「時間変動というのは正しくこの島の成り立ちそのものなのさ」

 

「各地域との時間が違うのも世界が多重に重なってるせいだと?」

 

 少年に頷きが返される。

 

「今頃、島の外じゃ、あちこち時間が変動して、エライ時間差が発生してるんじゃないかな。ただ、覚えておいて欲しいのは時間の変動って言うのは文字通りの意味じゃないんだ。どちらかと言うと世界の変化に対しての定理が変動してると言った方が正しい」

 

「定理?」

 

「受肉神の反応が近頃はとても減ってる。様々な時間への影響を軽減していた神々の衰退……それが更に時間変動を加速させ、自身という定理で固定化、安定化させていた大陸群を一気に地獄へと変えているはずだ」

 

「地獄か。ふぅむ……知性ある者ならば、何処でも地獄は創り出せそうじゃがな」

 

 リリムがその一つで育った存在としての意見を述べる。

 

「因果律の歪みも自身という強固な定理で固定化していた神々にとって、自身の受肉体の消失は神々の使命、人を導くという任務にとっても致命的だと悟ってるだろう」

 

「そして、救世神ヴァナドゥが目覚めようとしている、と」

 

 フィーゼが僅かに疼く額の瞳のある部分をなぞる。

 

「目覚める前に倒せない?」

 

 少年がそう呟き。

 

「無理だろうな。今の君達の力ですら、ヴァナドゥの前では単なる案山子だよ。アレは因果律そのものを操る怪物だ。存在の根源となる因果律そのものを消されて、存在していたはずの情報が世界から、宇宙の歴史から削除されたら、一瞬でいなかった事にされるだろう」

 

 少女達は思う。

 

 そんなのに勝てるわけないんじゃ……と。

 

「でも、此処に残されてる化け物は旧き者にも殺せなかった。救世神の力でも手こずるような力はある存在だと考えていい?」

 

「おぉ、本当に君は察しがいいな」

 

 腰を上げたラクサディアが全員の前で鍵を懐から取り出す。

 

「あ、銀の鍵だ」

 

 レザリアが自分の腕と同化した諸々の材料に声を上げる。

 

「君の持ってるマスターキーと同じやつだ。君達に幾つか頼みがある」

 

「頼み?」

 

「僕は僕で救世神やあの怪物を何とかしようとは思ってたんだ。でも、さっき言った通り、僕はこのノクロシアの事を大体は知ってるけれど、全てじゃない。ついでに言えば、僕はこのノクロシアを動かす権利も持ってない」

 

「動かす……」

 

「この鍵は現在のところ2本だけのものだ。そこの君の腕のが一本。もう一つがコレなんだけど、これ……あの怪物を閉じ込めてた牢獄の鍵でもあるんだよね」

 

「そうなの?」

 

 レザリアが己の腕を見やると腕がガントレットに覆われる。

 

「君達にあの怪物達を斃して、救世神を殺せる能力や情報の収集に参加して貰いたいんだ」

 

「それって戦って勝てばいいのかな?」

 

 レザリアに頷きが返される。

 

「あの怪物達は元々がこの世界に眠っていた神を破壊して、各地に置いた時の余り物でね」

 

「神様?」

 

「ああ、旧き者達はこの世界の外からやって来た来訪者だったから、余所者なんだよ。それで危ないヤツをバラバラにして封印した過去がある。その時にバラバラにしても封印し切れない数になっちゃって、ああして牢獄に繋いでるんだ」

 

「それって物凄く恨まれてない?」

 

 レザリアの言う事は最もだった。

 

「ははは、だから、滅茶苦茶憎まれてるわけだよ。旧き者達の遺物たるこの世界の全ての生物達はさ……」

 

 少年がまた新しい情報が出て来たようだと目を細める。

 

「つまり、元々いた神の破片を斃して、その力を手に入れて、救世神を殺せるだけの手札を造るのが目的?」

 

「その通り。この鍵は複製は出来るけど、簡単には創れない。でも、僕が持ってるよりも君の方が有効活用してくれそうだ」

 

 少年に鍵が手渡される。

 

「今の君達なら恐らく倒せる相手だ。数は数十くらいあるけど、ピンキリだからね。君達がさっき倒した夢を操るヤツは上位勢。アレらを斃せば、自動でシステムが解析を開始する。能力や力の器となる武器の素材も回収されるから、君達は本当に倒すだけでいい」

 

「全部倒したら?」

 

「君達に救世神を殺せる……かもしれない武器を渡そう。この世界が滅んでも困る僕の、旧き者達の最後の遺物としての仕事だ」

 

 少年が手を差し出す。

 

 それを青年が取った。

 

「よろしく。危ない神殺し君」

 

「ちなみにノクロシアは動かせる?」

 

「ま、今は無理だね。何せ動力炉が有っても火が入ってない。ついでに操縦する為の部屋には入れない。旧き者専用だからね」

 

「入れ物として牽く事は?」

 

「ははは、神でもなきゃ不可能……と言いたいところだが、どうやらソレが可能な人材が此処にはいるようだ」

 

 少年がエムルトを見やる。

 

「そういう事ですか。人馬の大神ペガソスなら牽けるのですか? この島を……」

 

「まぁ、君が神様に成っちゃってもいいならだけどね」

 

「……覚悟は当の昔に出来ています」

 

「そっか。じゃ、その方法も教えよう」

 

 ラクサディアがエムルトの額に人差し指を向ける。

 

 すると、すぐにエムルトの脳裏には方法が流れ込んで来た。

 

「ああ、このフロアは安全地帯だから、好きに使っていいよ。はいコレ」

 

 ラクサディアが少年の手にジャラジャラと指輪を幾つか落とした。

 

「コレは?」

 

 同じものを付けていたラクサディアが指輪を手前に見せる。

 

「このフロアのパスだよ。これを身に着けていれば、ノクロシアのどんな場所にいても、一瞬で此処に戻って来れる」

 

「便利道具」

 

「そんなもんだ。緊急時には是非使ってくれ。それと外との時間差だけは解消しておいた方がいいな。ここの時間はゆっくり流れ過ぎる」

 

「どれくらい?」

 

「そろそろ【大天神】アマテラスが墜ちて来る。早く戻らないと今度はノクロシアは大丈夫でも君達の島が無くなるね」

 

 思わず少女達が立ち上がった。

 

「その指輪に念じれば、島の何処からでもこの場所に来れる。ノクロシアとニアステラの時間差は僕が解消しておくから、早めに一度戻った方がいい」

 

「アルティエ。戻りましょう」

 

 フィーゼの言葉に少年が頷く。

 

「これで失礼させて貰う。最後に一つ」

 

「何だい?」

 

「お前は誰だ? ラクサディアという“個体”じゃないはずだ」

 

「―――くくく、そこまで分かるのか。どうして分かったんだい?」

 

「お前の中のコードとお前の言動が一致しない」

 

「ああ、中身を見せたのは失敗だったか。アレを読めるってどんな知識量なんだ。正しく人類の果てという事か」

 

 ラクサディアが自分の指先を変質させて、黒く滲ませる。

 

 それに少年以外が警戒態勢を取った。

 

「さっき言った封じられているモノの一つが私だ。ただ、連中と違うのは僕がこの世界に蔓延る者達に興味があるという事かな」

 

「興味?」

 

「要は何も無くなったら詰らないんだよ。愛も憎悪も悲喜も喜劇も何も無かったら、物語は面白くないだろう?」

 

「封印されて娯楽に飢えてる?」

 

「その通りさ。だが、今までの話は何も嘘じゃない。このラクサディアは随分前から僕と話し相手になってくれてる共生相手でね。今回はこういう形で君達に接触させて貰った。彼と僕に殆ど差はない。ある種の同一人格の別のペルソナ……仮面の一つとも言える」

 

 ゆっくりとラクサディアから滲んだ黒い影がギョロリと二つの瞳を少年に向ける。

 

「さてと、必要な事は伝えたし、ラクサディア君に体は返しておこう。ああ、僕と殆ど人格は変わらないよ。情報を外部挿入してただけだからね。じゃあ、ご機嫌諸君。君達の面白い話を是非とも見せてくれ。また会おう」

 

 ラクサディアを名乗る何かの体から黒い靄のようなものがスゥッと離れると天井を透過して消えていった。

 

 残された体がクタッと前のめりになった後、ゆっくりと立ち上がる。

 

「悪いね。“彼”が……本当はもう少ししてから教えようと思っていたんだが、君達はどうやら本当に特別なようだ」

 

 ラクサディアが先程と変わらぬ表情で彼らにあははとちょっと罰が悪そうにする。

 

「アレは危険じゃない?」

 

 少年の言葉は端的だった。

 

「危険だよ。滅茶苦茶危険だ。でも、まぁ……娯楽には飢えているし、君達の物語を楽し気に見ているのも間違いないだろうね。だから、先程の話には嘘が無い。言わない事、言えない事はあるんだけろうけどね」

 

 少女達が胡散臭さ10割増しの男の笑みにジト目になったが、少年は今はそれどころではないと手で制した。

 

「ノクロシアの探索は一端切り上げる。外に出る方法は?」

 

「マスターキーに念じて外に出たいと言えば、外部に出られるよ。同じ方法で島内なら何処からでもマスターキーでノクロシアの中央ターミナルに入れる。ただ、時間差だけではどうしようもないから、あまり時間変動が大きい場所から転移してくるのはお勧めしないかな」

 

「了解した。指輪は全員に分割。蜘蛛達は常駐組にも指輪を渡す。ノクロシアの完全制圧と例の封印されてる怪物の場所を確認して纏めておくように」

 

『(^o^)丿(はーいという顔)』

 

「遠征隊第二部隊に伝達。ノクロシア内部で制圧を続行。第一部隊は一時帰還し、外部からの大神を退けに向かう!!」

 

 第一部隊全員が頷いた。

 

 全員が外の通路に待機させていた馬車の周囲に戻り、一応はレザリアの方のマスターキーが使用された。

 

「みんなで外へ!!」

 

 現れたガントレットを掲げた瞬間。

 

 全員の姿が消える。

 

 残された蜘蛛達がキロリと青年ラクサディアを見やった。

 

「あ、あはは……お、お構いなく……実は蟲、苦手なんだよね。ちょっと……」

 

 青年がそう言うと左右からポンポンと蜘蛛達が肩を叩く。

 

「(>_<)/(ま、気にすんなってという顔)」

 

「でも、まぁ……彼らが生きて戻る事を祈る事くらいしかやれる事は無いし、外の状況を教えて説明を蔑ろにするのも良く無かったし、後で殴られよう」

 

「(T_T)?」

 

「ああ、外は今大変な事になってるって事さ」

 

 肩を竦める青年が自分のデスクに腰を下ろす。

 

「さぁ、君達も見ていくといい。ニアステラが此処からどうなるか。それは全て彼ら次第だ……」

 

「(´ω`*)」

 

「何だか信じている顔をしているな。でも、結構厳しいと思うよ? ノクロシアで悠々自適に過ごしてる僕が言うのも何だけどさ」

 

「(;^ω^)」

 

「……そうか。彼を、彼が積み上げて来たものを、君達は信じているのか。なら、言う事は無いかな。さぁ、この島の転換点、ハイライトだ……」

 

 虚空に映像が映し出される。

 

 世界は劫火に沈んでいた。

 

 黒い無数の塔以外、何もかもが明らかにオカシイだろう煙すら上げない炎獄として何もかもを焼き尽くしていた。

 

 嘗てあった文明の名残も見えず。

 

 終焉を思わせて山すらも溶け出していた。

 

 ニアステラとフェクラール。

 

 その巨大な岩盤に阻まれていたはずの天井は両地域の中間点から大穴を開けられ、その外延が白いプラチナルによって辛うじて溶け出さずにいたが、大地は大穴の下で燃え盛り、歪み始めた黒い塔だけが世界に屹立している。

 

 黄昏時の紅蓮を思わせて、郷愁すら掻き立てそうな夕景を思わせて、暮れなずむノクロシアの天井に立った遠征隊が見たのは……生命の姿の無い終末の光景であった。

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