流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第97話「遠き胡蝶のカダスⅡ」

 

―――ノクロシア中央域セーフティーゾーン。

 

「本当にウチのアルティエは人の事をほったらかしにするのが好きですよね」

 

「今度は何処に行っちゃったんだろ……もう三週間だよ?」

 

「今、蜘蛛の方達が全力で探しているそうですし、お二人も取り合えずお休みになられてはどうでしょうか? 少し敵の消化速度が早くて疲れているのでは?」

 

「う~ん。そう言われても今の遠征隊はガタガタだしねー。ボクらがガシンが復帰するまでに何とか進めておかないと」

 

 フィーゼ、レザリア、ヒオネ。

 

 遠征隊内の女性陣がそうしてお話をしているとノクロシアの外延にある邪神牢獄(仮)から戻って来る姿が複数在った。

 

「お綺麗でしたよ。アヴィラーシュさん」

 

「うわキモ近寄らないでよ。金ぴか」

 

「お労しや兄上……」

 

 ヴァルハイル2人にヴァフクが1人。

 

 アヴィラーシュ、ヴァメル、聖姫エレオールの三人がイソイソ戻って来る。

 

「本日のお勤めは終わりました。お嬢さん方」

 

 キラッ☆と星でも出ていそうなナイスガイな笑顔(金属製)がやたら愛嬌がありそうな感じに三人に向けられた。

 

「「「………」」」

 

 それにジト目になった彼女達が再び三人で僅か会議を行う。

 

「(ね、ねぇ……本当にどうしてこうなったの? あのヴァメルってヴァルハイルの人、情報だと傲慢が服を着てる癖にやたらしぶとくて強いってあったはずなんだけど)」

 

「(どうしてかはさておき。蜘蛛達の情報によると彼らの聖王は死亡していて、その力を受け継いだ為、色々特殊な存在になっているという話ですし)」

 

「(今のところ悪意は見えません。色々隠していることはあるでしょうが、セブンス・ヤーンのお墨付きならば、問題はないでしょう。本当に今のところは……)」

 

 三人がササッと余所行きの笑顔で出迎える。

 

 その時、反対側の通路。

 

 通路上に陣地を設営していた三人が部屋にも入らずにお茶会をしていた場所はノクロシアの先住民と言っていいだろう食っちゃ寝と観察が趣味の男の研究室前であった。

 

 そこにまた別のグループがやってくる。

 

「おぉ、兄上か。こちらは片付いたぞ」

 

「ザンネスか。ご苦労だった」

 

 弟を労う兄の図。

 

 しかしながら、嘗ての我儘放題で実力もあった二人の王子。

 

 皇太子達を知っている者が見たならば、驚愕を禁じえなかっただろう。

 

 彼らは仲が悪い事で有名だったからだ。

 

 傲慢なヴァメルに王位を狙っていた嫉妬心の強いザンネス。

 

 他の兄弟の方が人格的に明らかに良かった為、ヴァルハイル内では他2人のどちらかが王位を継いで欲しいものだと言われていたのだ。

 

 そんな二人のやり取りの最中。

 

 ザンネスの背後からは遠征隊第三部隊の面々がやってくる。

 

 蒼い鎧の竜騎士。

 

 角の騎士と元生徒会長。

 

 何故いるのか分からない少女に期待の新進気鋭の青年。

 

 彼らはザンネスと違って泥だらけであり、ずぶ濡れであった。

 

「あ、濡れちゃってる。今施設を開放するから、そっちで体を洗いながら蜘蛛達に検査して貰ってね。邪神の影響や侵食、精神汚染が無いかどうか見て貰うから」

 

 イソイソと立ち上がったレザリアがザンネス達を研究室内に置かれた洗浄検査室へと連れて行く。

 

 誰も彼も普通の学生である少女以外が超人的な存在でありながら、疲れているのは間違いなく。

 

 ゲッソリしているのは見れば分かった。

 

 余程に強敵だったのだろうと彼女達は激戦お疲れ様と労ったのだが、何か肉体よりも別の意味で疲れているように見える面々は無言でイソイソと身体と装備を洗って検査を受けに研究室内の一角へと向かっていく。

 

「どうしたんだろ?」

 

 レザリアが首を傾げているとヴァメルが傍までやってくる。

 

「ああ、レザリア嬢。気にしないでくれ。どうせ、ウチの愚弟が迷惑を掛けたのだろう」

 

「迷惑?」

 

「近頃、あいつの中では誰かに献身するのが流行りなのだ。ヴェルギートのヤツは何も言わずに黙って受け入れていたが、ヤツの献身を受けるのはまったく疲れるだろうな」

 

「そのぉ……ヴァメルさん。どういう事?」

 

「ああ、うざったらしく毎日毎日聞いて来るのだ。何かやるべき事はあるか? お茶はいるか? 体は大丈夫か? 用事があるなら言ってくれ。出来る事ならオレがやってこよう。とな」

 

「それって単なる良い人なんじゃ?」

 

「猜疑心に凝り固まっていた頃のヤツを知っている連中からすれば、中身がすっかり入れ替わった偽物にしか見えまい。ソレが本物でニコニコと近付いてきたら、気が休まると思うか?」

 

「お、おぅ……そ、それは……何か緊張しそう」

 

「昔はヤツも素直な性格だったが、色々有ってからは性格に難在りの傲慢皇太子と言われるようになっていたのだ。昔から縁のある角の騎士以外は子供の頃を知るのは我と妹殿くらいだからな」

 

 その言葉に他の聞いていた女性陣は「それは貴方も同じなんですけどね」というツッコミを顔にも出さず。

 

 自分も検査を受けに行くと、また笑顔をキラッ☆とさせた黄金機械竜を見送った。

 

「……ねぇ、あいつどうにかならない?」

 

「あはは……何かやたら友好的というか。蜘蛛達の評価も『(´・ω・`)どうしてこうなった?』みたいな情報しかありませんでしたしね」

 

 アヴィラーシュが三人の下へと歩いて来て、ジト目でフィーゼに尋ねる。

 

「それにしても意外でした。遠征隊は彼らを受けれないと思っていたのですが」

 

 そこでヒオネがそう本音をぶっちゃける。

 

「ああ、オネイロスを筆頭にして検査を受けましたし、頭の中も覗かれたそうですし、同意済みでの話なので今のところは問題ないという事でした」

 

「それでも前はかなり問題のある人物達だったと報告にはあったような? それに彼らの下には複製済みのドラグリアが数体いるのに蜘蛛達はそちらにも手を付けなかったとか」

 

「蜘蛛達と何か取引したそうです」

 

「取引?」

 

「前回の神々からの襲撃時に一部、蟲達の越境攻撃が成功しそうになってたのを部隊を破壊して食い止めたのは彼らだそうで」

 

「そういう……でも、それだけで?」

 

「他にも色々技術的な面での情報提供とヴァルハイルの再興に関して帝国の復活ではなく。民主的な亜人連合体としての融和路線に同意。妹であるエレオールさんの復興計画も頷いたし、蜘蛛達が秘匿する一部の情報の取り扱いに対しても同意して情報統制の為に頭部に制約も受け入れたとか」

 

「滅茶苦茶何か割り切った感が凄いですね……それにしてもアレが器廃卿を除けば、最強の戦略兵器を持っていたとされる人物……戦場からの話ではルーベルシアだけで一戦線をほぼ支えたと言う話でしたが……よく種族連合の上層部が同意しましたね?」

 

「そちらはお兄さんから聞いていませんか?」

 

「ええ、まったく。兄は基本的に妹には心配を掛けたくないというあからさまに過保護な人なので」

 

 小さくヒオネが溜息を吐いた。

 

「ああ、イーレイさんて、そうなんですか」

 

「妹としてはもう少し……こちらを信じて任せて欲しい事は多いのですが、兄が頑張っているのが分かっている手前、水を差すのもどうかと思い自重しています」

 

「ヒオネさんもですけど、エレオールさんも何か苦労人そうですね」

 

「まったく同意です」

 

 彼女達が姦しくお喋りしている合間にも第二部隊の面々がやってくる。

 

「あ、フィーゼさん、レザリアさん、ヒオネさん。只今、第二部隊戻りました」

 

 戦争中、ずっとノクロシアの占領を蜘蛛達と維持していた第二部隊は戦力外通告染みて外の巨大な力が渦巻く大戦争を見守っていたのだ。

 

 歯噛みして悔しく思った彼女達第二部隊の亜人組。

 

 クーラル、エネミネ、メイに世話役のアミアルを加えた四人であった。

 

 メイは小さくなる呪紋を使った状態で殆どクーラル達と同じ位まで身長というか縮尺が縮まっており、誰もが遠征隊の標準装備と専用装備を身に纏っている。

 

 唯一の例外は彼女達を後方からサポートする役割を与えられたアミアルだろう。

 

「ぁ~~疲れた……これ本当に重量100分の1になってんの?」

 

 彼女は遠征隊の標準装備の中でも後方支援要員として呪紋を用いる上、後方拠点を支える為の総合支援装備として巨大なバックパックのような金属塊を背負っており、全ての魔力と防衛力を機械に依存して操る立場になっていた。

 

 しかし、その姿は完全にメイドさんだ。

 

 機械の箱を背負う浮かんだメイドさんだ。

 

 だが、メイド服と呼ぶべきだろうソレは全て生体モルド用の素材をバカスカと惜しげもなく大量投入し蜘蛛達が霊力掌握した代物だ。

 

 ドラク用資材……ビーメとほぼ同等のものが使われている。

 

 小型ドラク数百機分程度のお値段が妥当な衣装は半有機半無機、有機物と鉱物の融合素材で設計されており、やたらこの3週間で時間を持て余している天才。

 

 いや、鬼才と呼ぶべきだろうエル卿……今も多くの研究者から畏れられる男の“息抜き分の仕事”が詰まっている。

 

「お疲れ様でした。皆さん。これで上層域の監獄の半数は終わりましたね」

 

「そうですね~私達ってあんまり強く無いので今回もアミアルさんに助けられちゃいましたし、本当に助かってます」

 

「疲れたけど、アミアルがいなきゃ、もっと疲れてるだろうし。ありがとーアミアル~」

 

「ありがとーあみあるー♪」

 

「な、何よ。そんなに褒めてもおやつがちょっと豪華になるくらいよ?」

 

 思わずクーラルやエネミネ、メイのお世辞にアミアルがちょっと頬を赤くして顔を横に向ける。

 

「「(おやつちょっと豪華にしてくれるんだ……)」」

 

 レザリアとフィーゼがこのちょろ……とても素直なアミアルの様子にちょっと微笑ましい笑顔になる。

 

「どうやら全員戻ったようですね」

 

 そこにやって来たのは人馬の革命者エムルトだった。

 

 現在、人間形態で神の遺骸を用いた神器使いとなった彼女は遊撃戦力兼探索者としてノクロシア内部の構造や諸々の地図を制作し、調査する役目を担っていた。

 

 先住民曰く。

 

『こちらがアクセス出来る区画なんて、そんな多くないから、是非探索して欲しい。中にあるモノは何でも持って行って構わないよ。どうせ、世界が滅びるまで置いておかれるものだしね。あ、これ大まかな地図だけど、どうぞ』

 

 こうして邪神の破片を封印した牢獄を踏破中の遠征隊とは違って内部構造を調べ尽くす為に蜘蛛達と共に本来的な遠征隊の仕事を引き継いだエムルトは祖国を未だ六眼王に任せて、あちこちの内部構造に詳しくなりつつ、そのノクロシアの全貌を解き明かそうとしていた。

 

「エムルトさん。お疲れ様です。成果は?」

 

 フィーゼがそう訊ねる。

 

「やはり、この本体となる中央域周辺は構造的にも特別堅牢に出来ているようです。蜘蛛達が一部解体して進路を確保しようとすると未だに大量の影が襲って来る上に邪神の牢獄に何度か飛ばされました」

 

「え!? だ、大丈夫でしたか!?」

 

「さすがにこの下半身を使っていて負ける事はありませんでしたが、牢獄は恐らく侵入者処分用の設備でもあるのでしょう。ノクロシア内部は常に30人規模の部隊で徘徊させていますが、内部空間が恐らく拡張されている上に進路が物理的に塞がっている事も多く。ここ数日は先に四つあるらしい周辺区画に跳べる場所と安全なルートの確保。それと研究資料と旧き者達の記録の収集をしています」

 

「本当は私達がしないといけない事なのに……済みません」

 

「いえ、彼が戻って来るまでに救世神とやらを倒す武器が出来ていなければ、我らも詰みでしょう。救世神の攻撃とやらが蜘蛛達から公開されても俄かには信じられませんでしたし」

 

「そう、ですね……在った事を無かった事にして、無かった事を有った事にする。全てを自由自在に変更する力……因果律制御……女神と戦う前からアルティエはあんな事があっても、戦ってくれてたんですよね……」

 

 彼女達は蜘蛛達に重要機密として教えられた救世神の攻撃。

 

 少年の記憶を覗かせて貰った。

 

 それだけで彼女達は自分達がまったく今のままでは救世神には勝てないと理解する以外無かった。

 

 だって、そうだろう。

 

 いなかった事にされてしまったのだ。

 

 それで全てお終いだったのだ。

 

 少年の機転を利かせた即決と速攻が無ければ、その事実のまま……今の野営地もニアステラも無くなっていただろう。

 

「取り合えず、今のところ3割程はノクロシア内部を制圧し終えました。蜘蛛達の拠点化、陣地化も順調です。問題はやはり内部に機構的に無限湧きする影でしょう。悪辣な定理異常兵器による防衛設備の殆どは彼が最初にほぼ全て解体用の手順を策定していたおかげで問題なく対処出来ています。機構の復元及び別の場所での再生なども制圧下の場所では問題なく処理出来ていますが、やはり中枢区画への侵攻と内部の保安機構の停止は必須でしょう」

 

「しばらく、お願いします」

 

「はい。お任せを……彼が戻って来るまでには全て片付けておけるよう鋭意努力しましょう。洗浄に行って来ます」

 

 エムルトが研究室に入っていく。

 

 すると、今度はまた別の方角の通路から蜘蛛達が数十名やって来た。

 

「あれ? 何かの補給でしょうか?」

 

 彼女達が首を傾げていると蜘蛛達の集団からオズオズとメイド服に執事服姿の兄妹がやってくる。

 

「あ、シーシャくんにリーシャちゃんですか。どうしたんですか?」

 

 テテテッと2人がフィーゼの元に駆けてくる。

 

「お使いを頼まれました!! 遠征隊第一部隊に伝令!! 第一部隊隊長ガシン・タラテント様がお目覚めになられ、午後にはノクロシア内の職務に復帰するとの事です」

 

 緊張しながらもシーシャがそう敬礼して告げる。

 

「ああ、そうですか。教えに来てくれたんですね。研究室の方でお茶を出しますから、中に入っていて下さい」

 

「は、はい。フィーゼ様」

 

「ふふ、様は要りませんよ。貴方も立派な遠征隊の一員です。あ、さっきアミアルさんが帰って来てましたから、情報共有しておいて下さい」

 

「はい!!」

 

 シーシャが緊張しながらも喜色満面で研究室に入っていく。

 

「あ、お兄ちゃんが失礼を……申し訳ありませんでした」

 

「いえ、失礼だなんて」

 

「エルミ様から初めて重要な任務を承って、浮かれているみたいで」

 

「そうですか。赤ちゃんの方は大丈夫そうでしたか?」

 

「はい。メレディーナ様とアマンザ様がしっかりとお世話されています。ご主人様が返ってくるまで名付けずにいるのもどうかと迷っているみたいです。ただ、きっとこの子を名付けるのはご主人様の役目のはずだともうしばらく……歳を重ねるまでは待とうと言っておられました」

 

「そうですか……報告ありがとうございました。お兄さんを大切にしてあげて下さいね?」

 

「はい。では、失礼します」

 

 対照的な兄と妹を前にしてレザリアが顔を僅かに綻ばせた。

 

「何だかリーシャちゃん苦労しそう」

 

「それは実体験ですか?」

 

「ふふ、ウチは兄弟みたいに育てられたし……あ、でも、近頃は背も伸びたし、カラコムさん達に扱かれて騎士見習いだーってやってるみたい」

 

「そうですか。お兄さん大切にしてあげて下さいね?」

 

「うん♪」

 

 ノクロシアでは緩やかな時間が流れる。

 

 その日常に恐ろしき怪物達の囚われた牢獄で戦い続けるという過酷さがあろうとも……そこには確かに平和が広がっていた。

 

 少なからず。

 

『(>_<)(これこれこーいうのでいいんだよーちちもこれを見てたらおおよろこびまちがいなしーという顔)』

 

 蜘蛛達は周囲に駐屯しながら、ノクロシアの制圧を続けつつ、無限湧きする影やゴーレムを相手に練度を上げる訓練中ながらも平和な遠征隊の日常を見て頷いていた。

 

 彼らの仕事はただ強くなるだけではない。

 

 少年の大切な人々の日常を見守るのも立派な仕事だ。

 

 勿論、本業である戦闘の為の戦力としての研鑽にも余念が無い。

 

 次は神々すらも屠れるように。

 

 次は真正神すらも破壊出来るように。

 

 次は惑星すらも軽く動かせるように。

 

 一度でも経験したならば、二度三度は軽くやれてしまうように。

 

 少年に何もかもを背負わせている彼らは未だ背負われている方であって、背負っている方ではないと理解する故に。

 

『(;^ω^)/(あ、せんじゅーみんのひとーという顔)』

 

『ん? どうしたんだい?』

 

『(。-∀-)(“因果律結晶”作ってみたんだけど、コレって使える?という顔)』

 

『―――気軽に特異点を造らないで欲しい気はするな。一応、研究職だったから、ソレが本物なのは分かるけども、どうやって?』

 

『(・ω・)ノ(金ぴかりゅーのぎじゅつてーきょーで出来た完全版。脚一本圧縮してみたーという顔)』

 

『君……それってもう生やせなくなったんじゃないかい?』

 

『(^◇^)(……ほんとだーという顔)』

 

『ご愁傷様。特異点化した物質は基本的に因果律の凝集が解消されない限り、ソレが行うはずだった全てに対して影響する。君の脚一本の働きがこれからはこの世界から失われるって事だね。気を付けた方がいいよ』

 

『(・ω・)ノ(治ったーという顔)』

 

『治ったの?!! ほ、本当に治ってる……どうして……』

 

『(;・∀・)(存在じゃなくて道具に置き換えて、義手で動かせばもーまんたい!!という顔)』

 

『な、なるほど……脚の働きの因果を今度は別の因果で補強して代用するのか。義手、義脚かな? この場合は……呪紋式の自分の脚とほぼ同等で原理的に接続して呪紋無しでも動く有機構造体? 君達の肉体変形技術と肉体や霊体の置換技術は正しくノクロシア並みって事か。こりゃ参ったな。研究者肌でも此処まで上手く作れるのは昔はいなかったんだが……軍用レベルじゃないか』

 

 ノクロシアの一角ではこうして次なる戦闘に備えた蜘蛛達の1人が新たな段階へと蜘蛛達を誘う研究開発に成功していた。

 

 ソレは巨大隕石に比べれば、小さな小さな波紋にしか過ぎない。

 

 しかし、ソレは確かに新たな時代の革新へと向かう。

 

 次は滅びない。

 

 次は死んだままになったりしない。

 

 少年を再び一人で戦わせてしまった蜘蛛達の怨嗟にも等しい無力への慟哭はこうしてあの女神がやろうとしていた事を少しずつ少しずつ実現し始める。

 

 ソレはまったく以て度し難い程に完璧な忠誠。

 

 あるいは自らの主と共に戦う矜持を傷付けられた者達の復讐の狼煙であった。

 

 今、遂にあらゆる万能に最も近しい神へ反逆する蟲畜の波が熾ろうとしていた。

 

 蟻などに置き換えられぬ程、強大になる為の一歩。

 

 それが踏み出されつつあったのである。

 

 *

 

―――【永遠の氷床カダス】最果ての港街アザミナス。

 

「た、大変だー!!?」

 

「何だ!? どうした!!?」

 

 港街では今、特大の異変が起きつつあった。

 

 寄港予定の海賊船が何故かやって来ない。

 

 ついでに彼らの街に海賊連合の本隊が到着する予定である旨が【黒魔式カーズ】で送られて来たからだ。

 

 街長は街の公式の連絡先である水晶球に情報だけが送られて来て卒倒。

 

 今は4本脚をブルブル震わせて魘されている始末。

 

 人型の体形に獣とは違う四つ足の人々はその怖ろしき報に思わず恐慌を来し、あちこちに酒場で次々に噂が流れていた。

 

「もう終わりじゃ。この街は終わりじゃ……海賊連合の首魁ビルグッドは残忍な男だと評判……こんな小さな街をどうして……逃げねば、どうなるか!? ま、街の住人達を全て集めよ!! 街長が起きるより先に行動する!! 持てる荷物は全て持て!! “黒街洞”を通り、別の街に避難する!!」

 

 次々に慌てた様子でお触れが街の役所から出され、大勢の住人がこれから【大氷雪】が始まる時に来なくてもいいだろうという顔になった。

 

 後、数日で始まる大陸を覆う大寒波の到来。

 

 その前に彼らは準備を終えて、街の地下道から別の地中の街へと移動する予定だったのだ。

 

 しかし、その前に傍若無人の海賊達の連合がやってくる。

 

 陸海空を征く船。

 

 海賊船の群れがやって来る。

 

 となれば、彼らには逃げる事しか出来ない。

 

「全ての住人が通過した後!! 洞を爆破する!! 避難を急げぇええええ!!!」

 

 そんな大慌ての亜人……それにしても見た事の無い四本足の人間のような何か達が逃げていく様子を二人の旅人は何が何やらという顔で船の上で見ていた。

 

「なぁ、何か街の連中慌ててねぇか?」

 

「そうだねぇ……此処に辿り着いて数時間だってのに色々と情報を共有したり、持ってる食料やら資材の話をしてたら……ねぇ、何か知らないかい? アルティエの坊や」

 

「そろそろ海賊連合の話が来て逃げ出してるんだと思う」

 

 甲板から船内に戻った二人が内部に灯された魔力式の暖房効果のある明かりの玉の下で様々な刃物や道具を整備していた少年の元へと戻って来る。

 

 船体中央は少し広い球場の部屋になっており、備え付けの家具には備品や諸々の道具が詰まっている。

 

 少年は使って良いと言われたものから必要な道具を取り出して、装具……特に防寒用の道具の修繕を行っていた。

 

 靴や外套は言うに及ばず。

 

 手袋、ズボンにフックを引っ掛ける取っ掛かりのようなものを幾つか丈夫な糸で縫い付けて、縫い付けた部分にコールタールのような黒いものを指先から零して沁み込ませていた。

 

「オレらもヤバいじゃないのか?」

 

「まだ、問題ない。先遣隊はどんなに早くても後10時間は来ない計算」

 

「それどうやって計算してるんだ?」

 

「秘密……」

 

 少年が造り終わった衣服や装具の確認を終えて、そのまま現場で羽織っていたランドの上着を脱いで着替え始める。

 

「オイ……此処で着替えるな。ご婦人がいるんだぞ?」

 

「あはは、アンタが言うんじゃないよ。アンタの下の世話をしてたのは誰だと思ってるんだい」

 

「ぅ……アネさん。その話は今はいいだろ。今は……」

 

 騒がしいランドとメイジェーンを他所に再びガッチリと着込んだ少年は手に入れていた倒した怪物の一部。

 

 表皮の加工へと取り掛かる。

 

 その黒い皮膚を指先から零した黒い液体を入れた皿に浸して数秒後。

 

 ペラペラの革になったのを確認し、引き上げてからナイフで型も取らずに切り分けて、手際よく紋章……呪紋へと仕立てた後。

 

 ソレを腹部にペタリと張った。

 

 途端、ジュッという音と共に皮膚が焼け付いて黒い表皮が滲むようにして融解しながら肌に沁み込んで刻印というよりは入れ墨が刻まれる。

 

「オイ。何してる? 今、悍ましい事してなかったか?」

 

「魔力運用体系で情報を刻印してる。次の戦闘で必要になる」

 

「オイオイオイ!? 戦う気か!? お前言ってただろ!!? 四万攻めて来るとか!? さすがにオレ達を巻き込むなよ!?」

 

「問題ない。攻められる前に先遣隊を滅ぼしてくる」

 

「ほ……四万てどうすれば倒せるって言うんだよ? お前が強いのは分かる。だが、幾ら強くても限度があるだろ?」

 

「相手の本隊の情報は掴んでる。予定航路も全て調査済み。この大陸に来てから色々と情報を集めつつ、必要なものは全て得て来た。本隊の一部は先行してくるかもしれないけど、実際に四万が来るのはこの大陸が凍り付く寸前くらいだと思う。先遣隊をこの街に攻め込ませなければ、事実上は撃退したのと同義。その後、此処から別のカダスへと転移で逃げて、そこから帰るのが一番堅実」

 

「堅実って此処から直接帰れないのか?」

 

「さっき話した通り。後、数日でこの大陸は極低温の季節が数年続く状況になる。そうなれば、何処にも逃げられない。数年此処に足止めされる」

 

「う……」

 

「ただ、此処から逃げられるかもしれないカダス方面へと向かう空間の歪みがある航路は確認してる。其処を通れば、このカダスに閉じ込められずに活動しつつ、帰る算段も付くはず」

 

「ちょっといいか? 何で海賊と戦う必要がある?」

 

「海賊は複数のカダスを行き来する商船の航路情報を持ってる。そして、海賊に短期間で取り入るのは不可能。末端海賊相手に持ってるかも分からない情報を探して盗みを働いてる暇は無い」

 

「つまり?」

 

「相手を本気にさせて、大物を釣った。わざわざ自分からやって来てくれるのは助かる。撃滅して、一番重要な情報を持ってる海賊から情報を吐かせるか。もしくは部屋を漁って逃げるのが最短最速」

 

 思わずランドが溜息を吐いた。

 

「勝てるかどうか分からない戦いに行って勝利して来るとかいう無理難題を除けば可能だろうよ」

 

「可能」

 

 頭痛を抑えるように片手が頭部に当てられる。

 

「あのなぁ? 話じゃ、海賊は海どころか。陸や空にもいるんだろ? 飛んでたらどうする?」

 

「問題ない。この大陸の上空は滅茶苦茶な寒気で凍り付くような温度。飛空艇の類は高度300……山一つ分より上は飛ばない。つまり、そこまで辿り着ければ問題ない事になる」

 

「………それってまさか。さっきの戦闘でやってたみたいな事をするつもりか?」

 

 少年がチラリと横に立て掛けてある漆黒の剣を見やる。

 

「上空に自分を放り投げさせて空飛ぶ船に飛び乗る? ははは、勇者だって、そこまでしねぇぞ」

 

「勇者?」

 

「ああ、ウチの大陸には勇者がいたんでな。お前の大陸にはいないのか?」

 

「生憎、神様と蟲と竜と亜人くらいしかいない」

 

「ああ、そうかい。で? オレらはどうすればいいって?」

 

「此処で待ってて欲しい。数時間から数日で帰ってくる。但し、凍り付くギリギリまで待っててくれれば、次の大陸から元の大陸までは必ず送り届ける努力を約束する。もし戻って来なくても情報を開示するように船に細工をしておいた。航路は此処から2時間で他大陸へと通じる」

 

「つまり、オレ達がお前のお目当ての情報を手に入れて戻って来るまで待ってれば、その強さを提供してくれる。お前が戻って来なくてもギリギリでオレ達は別大陸に逃げられるって事か?」

 

「そう。悪い話じゃないはず」

 

 ランドがボリボリと頭を掻いた。

 

 強いとは思っているが、頭の螺子が数本以上というか。

 

 全部抜けていそうな青年の御伽噺である。

 

 しかし、ソレが可能と思えるだけの強さを見せた事も確かだった。

 

「ちょいといいかい? 坊や」

 

「?」

 

「もし間に合わなかったらどうするんだい?」

 

「その時は数か月掛けてもこの大陸の邪神を討伐する」

 

「何だって?」

 

 思わずメイジェーンが訊ねる。

 

「カダスの大陸は恐らく邪神の破片と呼ばれるモノのせいで地獄のような極限環境になってる。つまり、邪神の破片を消せば、この大地も溶ける」

 

「なるほど、そうやって逃げ出すわけね……って、神すら倒すって言うのは冗談かい?」

 

「冗談じゃない。実績もある」

 

「実績って……神殺し? はは……噂じゃ、他大陸にはそういうのもいるそうだけども、アンタさすがにソレはフカシじゃ……」

 

「ない。神みたいなのは数体倒してる」

 

 さすがに弱体化したとはいえ、真正神と真正面から殴り合って、本体を撃滅。

 

 大勝利したけど、呪われたとか言わないだけ少年は大人であった。

 

「「………」」

 

 良い大人である2人は青年が軽く言った事を本来ならば、冗談だと笑い飛ばしているはずの立場である。

 

 しかし、淡々としていながら、嘘すら付いている様子が無いという事実とその実力から、神のような何かを倒してきたというのは本当だろうと無茶な事をしでかそうとしている相手の話に嘘はないと感じていた。

 

「ああ、分かったよ。お前の強さは見てる。オレ達は戦闘自体素人同然だ。此処から逃げ出したい。元々の大陸に帰りたいヤツが早々いるとも思えねぇ。待つさ。だが、ギリギリまでだ。そこからはすぐに別大陸へ向かわせて貰うぜ?」

 

「問題ない。相手の先遣隊が早く来る事はあっても遅くなる事は無いはず」

 

「何でだ?」

 

「沈めた船には海賊連合の船長の息子が乗ってたっぽい」

 

「オイオイオイ。身内がやられてたのか!? そりゃ、黙ってないだろうが……海賊って……ここら辺は商船とか通るのか?」

 

「空を飛ぶ船がある。此処の大陸は巨大な船が街を巡回してる。海賊はそこからみかじめ料を取って生計を立ててる。実際には略奪を正当化する言い訳で怪物に襲われるのを助けてもくれない」

 

「……つまり、海賊連中は大陸にとっては目の上のたんこぶなわけかい」

 

 メイジェーンに頷きが返った。

 

「そろそろ出発する。街の人間はこっちには関わって来ようとしないはず。甲板の傷は塞いで置いた。外から容易には見つけられないように魔力を使って細工もしてある。街に行っても問題ないように幻影も付けておいた。何か買いたいものがあるなら、人がいなくなる前に出て来るといい。じゃ」

 

 少年が言いたい事は言い終えたとばかりに甲板へと向かった。

 

 ハッチが閉まる。

 

「何かスゴイ子を拾っちまったね。私達……」

 

「アネさん。ハッキリ言うが、疫病神だぞアレ」

 

「アンタが言うな!! と言いたいところだが、確かにあの子は色々大変そうだね。でも、ちょっとアンタに似てる」

 

「オイオイ。勘弁してくれよ。冗談にしてもよ」

 

「冗談なもんかい。あの子は自暴自棄だった頃のアンタによく似てるよ。でも、真逆だ」

 

「真逆?」

 

「何もかもを捨て去ってアンタは死にたかった。あの子は何もかもを捨て去っても、為すべき事がある。そういう顔に見えるよ」

 

「為すべき事……帰りたい理由でもあるのかもな……」

 

「分かってるんじゃないかい」

 

「フン……あの若さであの強さ。一人で海賊相手に命のやり取り。その上、何事も無かったみたいに命を張った後の安堵すらしねぇ……戦場帰りの人間だってあそこまでじゃねぇさ。何かの道を究めてるヤツだってな」

 

「そういうのは分かるのかい?」

 

「はは、マスター・ブレード。伝説の傭兵ってのをオレの友達がやってるもんでな。ホント……どうして、戦場に立ち続ける連中ってのは多かれ少なかれ……覚悟が決まり過ぎてるんだろうな……」

 

 己の不甲斐なさへか。

 

 あるいは青年へのしたくもない賞賛の為か。

 

 男が溜息を吐いた。

 

 それは少なからず疲れたというよりは感嘆もしくは何処か羨望混じりのものに違いなかった。

 

 こうして二人の放浪者は一人の狂人らしい青年を拾った。

 

 もしくは拾われたのである。

 

 *

 

 永遠の氷床カダス。

 

 この大陸において最大勢力は間違いなく海賊艦隊。

 

 海賊連合本隊に属する者達である。

 

 凡そ29隻の戦艦を持ち。

 

 290隻の小型船を持ち。

 

 4200人の人員を持ち。

 

 給料は出ないが、略奪品で食い扶持は最低限在る。

 

 この巨大組織が最果ての大陸において最強の名を欲しいままにしていたのは間違いなく単純に大陸の生産性が低いからであった。

 

 猛烈な寒波が定期的に襲来する大陸は極めて貧困だ。

 

 殆どの食糧は地下熱を使った岩窟や洞窟内に自制出来る光を必要としない野菜。

 

 苔類に等しいソレと海辺の魚だけである。

 

 この大地に人類が根付いてから数千年は経っているとされているが、嘗て邪神勢力に敗北した神々の撤退後。

 

 カダスと呼ばれるようになった大陸では多くの人々が取り残された。

 

 その後、人々は邪神の欠片によって変質し、獣とも違う亜人。

 

 奇形の人間が多数を占めるようになり、今では誰もソレに疑問を持たない。

 

 そして、邪神崇拝や邪神との融和を説く者が現れ、現在の主要な信仰対象の神々の多くは邪神とその眷属達という事になっている。

 

 複数の遺跡を踏破した少年はあちこちの氷の下に眠る情報を掘り起こし、ようやく自分がこの大地へと放り込まれた意味を理解し始めていた。

 

 何の関係もない場所に出るとは思えなかった為である。

 

 幸いにして地下遺跡に全裸で到達した少年は運よくミイラ化した嘗ての人々から衣服や諸々の遺跡の品を頂いて、地下をうろつく今や理性も記憶も無い人間だったモノを駆逐、それなりの装備で脱出。

 

 外が極寒だと気付いてからはすぐ人里を探して探索範囲を伸ばした。

 

 そうして、幾つかの古代遺跡を踏破して乗り継ぐように拠点を変え数日。

 

 ようやく彼は人がいる港町を見付けたのである。

 

 そこでは邪神の子を自称する影響を受けた人間の亜種が大量にいたのだ。

 

(最短ルートで来たとはいえ、ここの情報が少な過ぎる。街の人間との交渉でもロクな情報が無い。常識や通常の知識も左程無いとなれば、後は海賊がターゲットとしては一番上等と考えるべき……)

 

 彼が最初に出た遺跡は氷に閉ざされた内陸にあった。

 

 そして、各地の遺跡は多くが地熱によって保たれ、暗いながらも肌寒い程度で止まっていたのも幸運であった。

 

 食料が無くても肉体の能力が無くても人間は水さえあれば、1週間は余裕。

 

 少年にしてみれば、自分の内臓に溜め込んでいた大量のグリコーゲン及び脂肪などを“己の意志で”用いる事が出来る技能があった為、4か月は水さえあれば、生存可能であった。

 

 戦闘で逐次、その栄養は消費されるわけだが、最も栄養と水分を取られるのは真菌であり、自分の能力ではない真菌そのものの能力を技能として、己の意志で扱う事が出来た事は正しく大きな助けとなった。

 

 真菌の操作は莫大なカロリーを消費するが、最強の汎用な手札でもある。

 

 故に少年は近頃は真菌を限界まで用いて、魚を大量に摂取。

 

 直接増殖と同時に体内にカロリーを貯め込む事に専念した。

 

 結果として、少年の技能で用いる事が可能な手札は少しずつ幾つか復活。

 

 例え、能力が全て無くなったとしても、1から能力を開発もしくは代替能力を得る事は技能や叡智を用いれば可能であった。

 

 呪紋は正しくその一端だ。

 

 例え、凡人並みにまで魔力が落ちていようとも呪紋は刻印すれば、呪具として運用出来るし、脳裏で処理しなくても思紋機関の簡易版を組み上げて、呪具化した道具を自動化する事も出来た。

 

 今の自分が真正神相手に戦った時の数億分の1の強さだったとしても、少年には左程問題視するものでは無かったのである。

 

「……外気温-23度……標高179m……船団捕捉」

 

 巨大な氷床の上にある大陸。

 

 この大地の上にある殆どの無人の荒野。

 

 その山脈は港町から凡そ12km地点にあった。

 

 登るというよりは跳ね登るというような感じにヒョイヒョイとあらゆる場所を足場にして跳躍を続けて数分で頂上に達した少年は半日も経たずにやってきた巨大船団……少なからず30m級の船81隻の先遣艦隊を捕捉し、周囲に自分を投げ飛ばす際の取っ掛かりを探して、頂上に剣が一本突き刺さっているのを確認する。

 

 冷たい風が吹く最中。

 

 ソレを真菌を伸ばして確認し、目が細められた。

 

「……あの遺跡群にあったのと同じ。ウェラクリアの信徒の?」

 

 少年が幾つか遺跡で見つけた異物には必ずウェラクリアの文字があった。

 

 そうして少年はようやくウェラクリアが島の受肉神とは違って、別大陸に本拠点……つまり、別の顔を持っていた事を確信した。

 

「(幽世にしか霊殿が無かった理由は単純。あそこはウェラクリアにとって、本拠地じゃなかった。邪神大陸や幽世の何処かにウェラクリア本体もしくは分体がいて、幽世や島に干渉してる可能性も高い)」

 

 少年が剣が完全に錆び付いて、ちょっとはそっとでは岩から抜けないようになっているのを確認後、その場所に真菌の剣を伸ばして接着。

 

 真菌に振り回されるようにしてグルグルと回転しながら横向きに加速し、最後には真菌のムチによって放り投げられるようにして上空へと飛び出し、最終加速に魔力の転化による運動エネルギーを自分の腰辺りから放出し、回転する。

 

 最先頭を征く船へと飛び出す姿は正しく人間砲弾であった。

 

 恐らくは最も豪華な装飾が施された紅の帆船の穂先を擦り抜けて、同時にロープとして真菌に相手のマストを掴ませて回転しながら巻き取り周囲を一周して情報を確認。

 

 誰も外に出ていないのを見て、航行中は外に出ないらしいと理解し、あまりにも絶好の機会を逃さずに着地。

 

 船の動力機関である魔力運用体系の道具が詰まれているらしき後部甲板のハッチを探して、即座に発見。

 

 一瞬でハッチを真菌を糸鋸のように高速回転させて、木製の部分に突き刺し、チェーンソウ染みてギザギザの硬質化部分を高速振動させ、複数地点を切削。

 

 木屑を零しながら踏み抜いた。

 

 ドガァアアアアアアアンと船が揺れたと同時に魔力を発する遺物らしい機関の真上に出た少年が真菌によって魔力を収奪。

 

 ついでに魔力を積層化したと思われる燃料らしき棒を多数発見し、ソレを真菌で一気に包んで消化しつつ、機関室に入って来ようとする者達が来る前にドアを真菌で密閉。

 

 20秒程で機関から魔力を喰らい尽くし、内燃機関の効果や内部構造を脳裏に写し取って保存。

 

 そこから船内に伸ばした真菌の糸で周囲を探らせて、食料庫を発見。

 

 全てを真菌の高速増殖の餌にしつつ、船室を捜索。

 

 あちこちにある紙を真菌で直接写し取って情報を取得しながら、ドアを真菌で施錠。

 

 身動きが取れなくなった三本腕の海賊達が声を荒げている合間にも一番豪奢な船室まで侵入を果たし、慌てふためいている部下と共に部屋を船長らしき男が後にしたのを確認し、内部で増殖させていた真菌をフル投入して、内部のあらゆる情報を真菌で写し取って後で確認する事として全ての真菌を機関部へと撤収。

 

 最後のドアが吹き飛ばされる前に巨大な5メートル程までに成長した真菌の山を背景にして霊力掌握を僅かに用いて、下位互換版の黒霊菌。

 

 蜘蛛達の体内に巣くう物よりもかなり純度が低いソレで全身を包み込み。

 

 機関部をぶち抜くような跳躍で現場から飛び出した。

 

 ドアがようやく開かれた時には何もかもが遅い。

 

「あ、あ……あ……ぁああああああああああああああああああああ!!!?」

 

 絶叫が響いた時には船体は急速落下中であり、機関部の底には大穴。

 

 ついでに魔力が尽きた浮遊させていた機関すら無く。

 

 落下していく船体が地表で粉々になるのを見届ける事もなく。

 

 重量を落とした黒霊菌を用いた変態によって、嘗ての強敵。

 

 ドラグリアを模倣した少年は翼をはためかせ。

 

 悠々と空を出来る限り、魔力を使わずに滑空しながら船の機関部に狙いを定めて襲い始めた。

 

 ドラグリア化した為、機関部を一撃で粉砕しながら、動力源を真菌の糸で収奪。

 

 ついでに食料も美味しく頂いて同じ手順で船内の情報を片っ端から写し取り、次々に墜落させていく。

 

 1隻30秒。

 

 さすがに甲板に出て来た海賊達が見たのは巨大な黒き竜が仲間の船を襲い。

 

 次々に機関部を破壊して巨大化しながら、自分達の船を攻撃し始めた場面。

 

 慌てて、彼らが砲門を格納していた壁を開き。

 

 魔力と火薬を用いた砲撃を開始したのは凡そ3分32秒後。

 

 数隻が落ちたとはいえ。

 

 まだ数十隻はいる彼ら海賊が負ける要素は無い、かに思われた。

 

 しかし、ソレは正しく思われただけである。

 

 海賊達の砲撃が開始された同時に船を漁っていた少年は遥か1000m上空へと飛翔し、収奪した魔力で真菌の熱量を保ちつつ、遥か上空からの奇襲を掛ける。

 

 海賊達の船は基本的に射角が取れるような火砲は積んでいない。

 

 真下に打ち下ろしたり、横に打ったりという想定しかしていないのだ。

 

 あまりの寒波に一定以上の高度だと凍り付くせいである。

 

 だが、ソレを克服して見せた少年は糸を繋げたままに数十倍まで増殖した真菌で複製したドラグリアの分身を次々に上空から機関部に突っ込ませ。

 

 船をゆっくり落としながら漁りつつ、その真菌の駆動処理のみに意識を割く。

 

 掛かり切りで3隻、8隻と同時に複数体のドラグリアを上空から延ばした糸で操りながら落としていった。

 

 真上からの攻撃と直撃した艦が味方からの攻撃で沈められていく。

 

 化け物本体が実際には姿を消して上空に待機したままだなんて、海賊達は考えもしないし、巨大な黒い竜の群れに襲われたとしか思っていない。

 

 遂に艦隊の一部が反転。

 

 半数程が取って返し、残った数隻が恐らくは殿として残されたが、獣を相手にしているのではないのだ。

 

 少年がソレを逃すわけもなく。

 

 船が次々に最先頭から襲われて、逃げ惑う船が散り散りとなっていく。

 

「見つけた……」

 

 少年が目を細める。

 

 重要な情報が載っているのは一番後方で一番先に逃げ出した船の船内。

 

 船長らしきモノの船室は他の船と同じ位置だった為、真っ先に調べられていたのだが、軽く確認した途端に先遣艦隊への指令書が見つかった。

 

「この大陸の商船航路。他大陸との航路も……他にも地図も大量……これなら」

 

 そう、何とか船団を崩壊させた時だった。

 

 ドラグリアの一体が猛烈な慣性の掛かった“何か”によって貫かれ―――貫かれた先から、心臓付近を修復。

 

 そのまま内部の真菌に複眼が形成され、攻撃された方角を観測する。

 

「―――先遣艦隊の本隊?」

 

 数隻の大型艦。

 

 凡そ200m級が7隻。

 

 この大陸では恐らく超弩級であろう船が艦首に備えられた火砲らしきものを光らせた途端、未だ3km程在るドラグリアのいる艦が吹き飛んだ。

 

「大質量の高速射出兵器? 魔力による運動エネルギーの収束……推定で仮想ドラグリアの質量を1割持っていく威力……」

 

 少年がさすがに楽には行かなそうだと襲撃中の艦船からドラグリアを移動させ、上空へと退避させながら高速巡行形態へと変質させて、群れを装いつつ、火砲のターゲットを分散させた。

 

 途端、アルティエ本体がいるドラグリアを狙い打ちしたように複数の船が船体を大幅に傾けて上空を狙い打とうとするのを確認し、咄嗟に急速落下しながら飛翔。

 

 仮想ドラグリアを予めプログラムした航路で高速飛翔させながら再接続するまでは自動化し、間一髪で攻撃を回避した。

 

「ッ、第三神眼の類。でも、妖精瞳程の精度じゃない。これなら“どうにもならなくなればいい”程度の攻撃で落とせる」

 

 少年が一切の躊躇なく相手の艦隊の真下に潜り込むように地表スレスレを高速移動し始めた。

 

 無論、大型艦は地表を叩く為の武装を持っている。

 

 船底付近から船首よりは小型の砲らしきものが銛のような弾体を連続射出して本体を狙うが、ソレを余裕を持って回避する芸当は可能。

 

 少なからず、紙一重で避けて銛に仕掛けられた罠の類を踏む事も無く。

 

 少年がドラグリア内部で片手を砲身に見立てて、今までの船で収奪した魔力を急速充填し、掌を一部艦隊に向けて開いた。

 

 その動作に被せて艦隊が一斉に離散する。

 

 さすがに本隊だけあって、その動きは迅速。

 

 しかし、一部先行したのだろう相手は数が無い。

 

 中小規模の船体であったならば、避けられたかもしれないが、小回りの利かない船であった事が致命的であったのは間違いない事だろう。

 

「コンバート・スキル【精神属性重力呪紋“マントラ”】」

 

 少年が呟いた次の刹那。

 

 その喉から波動が周囲に拡散する。

 

 ソレは空間を揺らすようにして猛烈な衝撃を齎すでもなく。

 

 しかし、確かに激烈な効果を発揮した。

 

 一瞬にして広がった重力の異常とも少年の喉が発する波とも思えたソレが瞬時に広がった空域で船団が急速落下していく。

 

 逃げ散って周囲からドラグリアの囲い込みで逃げ切る事が出来なかった全ての艦艇が急速落下し、船首から地面へと激突。

 

 無論、言うまでも無く爆発。

 

 粉微塵となってキノコ雲を複数立ち昇らせ。

 

 同じように大型艦も殆どが同じ運命を辿った。

 

 次々に立ち昇るキノコ雲の正体は爆裂した魔力が転化したエネルギーによって舞い上がらせた氷と粉塵である。

 

 やがて、極低温の低気圧による風雪によって全て地表に堕ちるだろう。

 

 腕を砲身のように伸ばした先にいた一隻だけは落下が遅く。

 

 ギリギリで船体を破損させながら着地したようであった。

 

 少年が腕を伸ばしたのは特定の敵。

 

 つまり、艦隊の中枢のある船への影響を弱める為に広範囲を精密制御する為の動作に過ぎない。

 

 うっかり、火砲のような遠距離攻撃を想定した中枢艦は防御用の魔力を用いた半透明の障壁を張っていたが、ソレ自体に意味は無かった。

 

 少年が使った力は本質的に波動によって周辺空間の定理に働き掛ける定理干渉系の呪紋だからだ。

 

 魔力を用いて浮いている作用。

 

 浮力、揚力を生み出していた原理そのものが薄弱化した。

 

 精神属性なのは人間の五感の先。

 

 第六感。

 

 つまり、神の力を筆頭にする高次元領域を観測強化する為だからであり、重力呪紋によって、喉から発した波動が定理干渉し、周辺領域の一部の定理の動きを鈍らせたせいで浮かぶという最強の能力を空飛ぶ船が失って墜落したのである。

 

 本来、呪紋には“呪紋としての能力”が刻まれているものであるが、少年は現在、呪紋を創造する力……封印された三神の印が使えない。

 

 リケイから齎された印は呪紋行使の際にかなり補助を入れる上にソレ自体が呪紋を創造し、同時に高度な呪紋そのものを駆動する鍵であり、大幅な強化もしていた。

 

 だが、ソレを現在運用出来ず。

 

 物体への刻印や単純な定型での発動という形でしか使えない少年は嘗てと同じだけの力を得ようとするならば、呪紋そのものを印から引き出した後に編纂能力や強化、調整、自動化、諸々の便利機能を自力で処理して使うしかない。

 

 なので、呪紋の力を高度に運用する場合、呪紋を組み合わせるような事をすると途端に三神の印が行っていた情報処理が襲い掛かり、脳の処理量が跳ね上がる。

 

 結果として行き付いたのは定理そのものを介さない通常法則上の事象を魔力で用いるという大半の魔力運用体系が行っている事を自力でやるという手法。

 

 それも脳裏の処理と魔力も馬鹿喰いするわけだが、収奪した魔力は足りており、複数の単純な呪紋自体を肉体に刻印して、単純処理を呪紋の一部に代替、効果を紡ぎ上げるのに必要な高度な計算の必要な処理だけを脳で行う方式を取り入れた。

 

 コンバート・スキルはノクロシアで戦って手に入れられなかった定理処理大系。

 

 呪紋や現在人のいる大陸で使われている魔力運用体系とは別系統となる法則下で動く術式、プログラムを叩き台として模倣。

 

 思紋機関の簡易版を搭載した呪具化した刻印を用いて、少年単独で高度な呪紋を印無しで駆動する方式であった。

 

 本来、呪紋には必要無いような手間が莫大に掛かる割に模倣した呪紋の出力は3割にも届かないという事実上の下位互換。

 

 しかし、模倣呪紋とでも言うべき力はそれでも少年が刻印した化け物の革で造った入れ墨を肌の上で消滅させ、皮膚の下の筋肉が剥き出しになる怪我と引き換えに成功させる。

 

「(定理干渉系はさすがに高度処理の負担が高い。コード化して脳裏に保存しておいた殆どの手札は再現不能。島の内部でやり直す時に常に刻印便りだった事も災いしてる。神の力の類には恐らく僅かに抗える程度……単純処理の増大で高火力の呪紋を連打する方式は魔力依存になりがちで隙だらけ。敵によって使い分ける際の見極めをもっと確実にしておく必要がありそう……)」

 

 全身の刻印が同じ状態で消失したのを真菌で再生させながら、魔力の半分近くが持っていかれた呪紋の成果を横にして彼が地表に降りたつ。

 

 喉はしばらく使い物にならないだけの重力異常で発音不能。

 

 呪紋を直接何かに描き込んで単純処理する方式を多用する以外無いかと少年は体を回復させつつ、複数の呪紋を最適な触媒ではないが最低限は出来る真菌によって肉体に再び刻み込んで歩き出す。

 

 行き先は最後に堕ちた艦の傍。

 

 砕け散りながらもまだ原型を留めている中枢艦に近寄っていけば、相手が完全に戦闘不能なのが分かった。

 

 もうまともに反撃する能力は皆無。

 

 乗員もほぼ死亡。

 

 残る魔力が誘爆する前にドラグリア分体が近場に戻って来て融解し、すぐに沼地の如く船体と周囲を侵食、次々に遺された“有機物”と魔力の結晶を取り込んで少年へと活力として流し込んでいく。

 

「(筋繊維の再生は問題ない。脳の処理不可による摩耗は1%未満。真菌の細胞増殖と再生力は適応可能。思考速度に問題は無し……連続で使えない事を除けば、効率化優先で行けるはず)」

 

 少年が今扱える能力は基本的には真菌と呪紋のみである。

 

 単純な呪紋ならば問題ないが、大規模戦闘はさすがに荷が重く。

 

 この数十倍の戦力が数日内にやってくる状況で相手の観測能力が高い事が判明した少年はどうしたものかと艦内部に脚を踏み入れる。

 

 生存者は無かった。

 

 しかし、砕け散った船体内部。

 

 操舵室が在ったと思われる場所は完全の崩壊しており、その操舵輪のある開放された室内の一角。

 

 巨大なレリーフが飾られてある。

 

 多碗の女神。

 

 蟲の手を無数に合わせた慈悲深き女神。

 

 そんなのはこの現状では一つしか思い浮かばない。

 

「ウェラクリア……今まで一度も見た事の無い姿……これが……」

 

 少年が神の力に警戒しながら、一瞬でも女神のレリーフから視線を逸らさず。

 

 瞬時に両断し―――。

 

 ガチンッと黒い真菌の刃が止められた。

 

 その蟲の腕にだ。

 

【―――】

 

 ゆっくりと安らかなレリーフの女神の瞳が開かれていく。

 

 瞬時に相手に何もさせぬ速攻。

 

 少年の現在の限界速度での容赦のない斬撃が跳んだと同時に高速で後方へと下がったのは正しい判断だった。

 

 斬撃を受け切ったレリーフからパラパラと周囲の石板状の部分を剥落させながらヌッと“ソレ”が出て来た。

 

 そして、複眼を通常の眼球の虹彩内部に多数鏤めたような虹色の瞳が少年を見据えようとして、その姿が無いと知って、周囲を一瞬で薙ぎ払い。

 

 同時に少年の刃が背後から、そのレリーフの頭部に突き刺さっていた。

 

【―――!!!】

 

 蟲の音を数万数億重ね合わせたような大絶叫。

 

 正しく瞬間の暗殺。

 

 相手に隠れた、逃げたと思わせてからの即死攻撃は完全に意表を突いた。

 

 しかし、その刃の主を相打ちで葬ろうとしたレリーフの女神の怪物が蟲の多碗で背後の少年を串刺しにしたかと思われた時。

 

 其処に少年の姿は無く。

 

 ゴッと遥か50m上空から紅蓮の閃光が大陸の小盆地だった場所に奔った。

 

 その猛烈な火力は明らかに単純処理による超火力。

 

 熱量そのものを吸収置換して放電するように予め指示されていた真菌が突き刺さった内部から攻撃を続行。

 

 熱量対策を瞬時に施した女神のレリーフの化け物が硬質化した時にはソレを割る雷撃へと熱量を変換し、魔力を吸収しながら、割砕いた相手を溶解しつつ、地表に接続した真菌と共に増殖を開始。

 

 あの太陽の女神の超規模核融合に比べれば、正しく児戯に等しいだろう少年の火力を転換し、己の細胞を活性化させながら、雷撃と熱量を取り込んだ巨大なスライムへと変貌しつつ、レリーフの怪物を内部から喰らい溶かしていく。

 

 そうして分子単位で溶解されたレリーフが最後の抵抗とばかりに少年に向けて超火力の中、腕を高速射出。

 

 少年が捻った頭部の真横を抜ける際に刃を開いて、頭部を両断しようとし、その腕自体が横合いから吹き飛ばされた。

 

 予め仕込んでおいた真菌の一部が少年に向かう射撃兵器の類を撃ち落とすようにと地表に置かれていたのだ。

 

 真菌の使い方においては今まで使われなかった伏兵や諸々の罠としても運用していた為、正しく少年の読みと備え勝ちというところであった。

 

 無論、その腕の一部もまた真菌に喰らい融かされていく。

 

「………帰ろう」

 

 少年が必要な情報は大体揃っていた為、危ない女神のレリーフが大量に周囲を徘徊し始めたら大変とばかりに真菌を周囲に集めて、高速で回るスライム状の車輪の如く形成。

 

 港街へと何の憂いもなく高速で遠ざかっていく。

 

 結局、今の実力では上級天使クラスの戦力相手に真菌を多少使える少年が連続戦闘をするのは厳しかった。

 

 それに目的は達したし、実際に最先方でやってくる先遣艦隊は潰した上に本隊が来る頃には街も避難済みで爆破された洞窟を掘り返したり、再爆破したところで地下深くに消えた住民達を追えるわけでもない。

 

 数年はまた閉ざされる氷の大陸相手に戦力を摺り減らした海賊が更なる損を惜しむならば、やるべき事は一つ。

 

 撤退だけである。

 

 少年は相手が合理的ならばそう考えるだろうとの算段であった。

 

 勿論、感情論で叩き潰しに来るとしても問題なんて無い。

 

 数年後とは少年が全てにケリを付けていなければおかしい時間であり、その頃まで生き残っていたならば、全て終わった後。

 

 大陸の邪神を狩れる程度には回復している見込みでもあった。

 

 再び、海賊とカチ合う事となれば、生き残っている少年に負ける要素は0である。

 

 こうして氷の大陸において、海賊艦隊の先遣隊が一日も経たずに全滅。

 

 急行中の他大陸の本隊が到着したのはそれから5日後の事であった。

 

 しかし、それとほぼ同時に大寒波が発生。

 

 海賊艦隊は全て大陸外へと退避する事を余儀なくされる事となる。

 

 永久凍土の小さな盆地の最中。

 

 誰も知らないままに女神のレリーフが数十体も徘徊している事なんて誰も知らないし、その後も知る者は無いだろう。

 

 少年の想定外があるとすれば、それは一つ。

 

 街の人間が要らぬ善意で二人の同行者を地下に連れ去ったという事だけであった。

 

「………」

 

 外に買い物に出たらしい二人が戻っていない事を確認した少年は速やかに爆破されたらしい洞窟の跡と残された船を見やり……もしもの時の為に付けていたマーカー……追跡用の呪具化しておいた2人の衣服へ仕込んだ発信呪紋が地下深くに向かっているのを脳裏で確認。

 

 仕方なく船を20m近くまで増えた真菌に包んで陸上に上げて指定位置まで自動で運んでから準備をさせて隠蔽。

 

 近場の地下遺跡から大陸の地下世界へと侵入する事となった。

 

 生憎と船は旧き者達が使っていた仕様であり、登録した運用者が死亡しなければ、起動すら出来ないという防犯機能付き。

 

 もうしばらく、氷の大陸で少年は活動する事になるらしかった。

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