流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第105話「遠き胡蝶のカダスⅩ」

 

―――???

 

「旧き時代の事よ。この星に我々の大本となる始祖破片……旧き者達の言葉でプライマルと呼ばれる破片が到来したわ。ソレは現地の自然発生種であるドラゴンと戦う事で星の管理権を得て停戦。以降、この星で邪神として君臨していた」

 

 一軒家の最中。

 

 お茶が出されて、少年が大人しく呑みつつ、娘役の苦界の千壁の話を聞いていた。

 

「でも、後からやってきた宿敵たる旧き者達との戦いで痛み分け。始祖破片は罅割れて分割された。旧き者達はその後、破片から進化する生物達に対抗し、神々を造り、多くの種族をこの星に生み出して、我々と戦い始めたわ」

 

「神世よりも前の話?」

 

「ええ、そうよ。神代の初期の初期よりも前の話……そして、彼らが生み出した複数の神格と戦いながら我らも彼らも勢力を拡大し、遂には神世が到来した」

 

「敗北した?」

 

「いいえ、幾つかの新大陸を旧き者達は創造したわ。勢力図は五分五分よ。多くの破片が封印され、その力を奪われて大陸の糧にされた」

 

「糧……」

 

「この星を覆っていた邪神の力を中和し、同時に力そのものを新たな種族が生きる環境を造る為の動力源としたのよ」

 

 少年がそこはやはり技術面で旧き者達が強かったのだろうと脳裏で思考する。

 

「貴方と一つになっている彼女の表層を読み取って見ても分かる通り。旧き者達は次々に新たな兵器を、新たな概念を、新たな技術を、開発しながら投入していった……ゴーレム、神々の製造の副産物として得られたプラチナル、そこから複製したノクロシアの材料となるアダマシア」

 

「アダマシア? 黒曜石のような黒いヤツ?」

 

「ええ、アレは元々がプラチナルを人工的に生み出した代物。しかし、本家には及ばなかった。無論、今の貴方が持っているソレも同様のものよ」

 

 少年が首から下げた船の中核を意識する。

 

「幾つもの高次元の利用方法。高次元と現次元を繋ぐ技術。概念域と呼ばれる領域から引き出した定理性魔力処理方式……つまり、魔力運用体系……全ては“あの方”とやらから聞いていたモノを再現したのでしょうね」

 

 少女がお茶を嗜む。

 

「そうして、私達と彼らは戦い続けた先。互いに疲弊し、自分達が創造したモノ達が次の世代を担うようになった」

 

「神々の新種族、邪神の破片の分散した後に発生した種族?」

 

「大まかにはそれよ。神々は人と亜人を主軸とした旧き者達の似姿。我らは元々が人ではなく獣や旧き者達が忌避する強大な邪神の姿を模した似姿達。どちらも強かったわ。そして、同時に決定的な差を我らは知った」

 

「敗北した?」

 

「ええ、負けたわ。そして、この姿形を取るに至ったわけよ。我らは第三世代。プライマルから派生した第一世代、そこから派生した第二世代、神世の到来前に敗北した第二世代は我ら第三世代を人に似せて失地回復を図ったわ」

 

「鹵獲兵器を使うのは常套手段。新しい概念や技術も」

 

「ええ、そうね。そして、永い永い神世の果てに我らは大破壊と呼ばれる旧き者達の攻撃で壊滅的被害を受けた。そして、最後の力で旧き者達の子孫しかいなくなっていた頃にやり返してやったわ」

 

「神世の終盤?」

 

「そうね。神と神々の大陸を幾つも落とし、彼らの宇の拠点も落とした。けれど、そこで打ち止めよ。あの太陽の女神とは……痛み分けというには失うものが大き過ぎたかもしれないわね。相打ちに近かったでしょう」

 

「相打ち? あの女神、滅茶苦茶完全体だった……」

 

「でも、精神的にボロボロだったでしょう?」

 

「確かに……」

 

 少年があの女神が心も完全体だったら、確実に一回は転生しなければならなかっただろうと戦闘を思い返す。

 

「あの女神の大陸を滅ぼしてやったのよ。我らの大陸が滅ぼされ、多くの同胞たる欠片が失われたのと引き換えにね」

 

「消耗戦末期?」

 

「そういう事になるのかしら。我らも影響力だけはある程度は残したのよ。そして、それに釣られて神々の多くは時代の中で次々に廃滅していった。衰滅という形ならば、我らは本当に相打ちと言えるでしょう。そして、その争いは今、新たな時代の命に引き継がれ始めている」

 

「………」

 

「神々の同士討ち。仲間割れ。貴方はその被害者という所かしら?」

 

「そんなところ」

 

「でも、力が無くて困ってる。“今の大破片”共と戦う力が無ければ、帰れない」

 

「その通り」

 

「我らに乗っ取られる気はある?」

 

「無い」

 

「でしょうね」

 

 少女が肩を竦める。

 

「実際、貴方の心は見事なものよ。あまりにも深過ぎて、少しでも深入りしたら、我らは一瞬で貴方に同化されてしまうでしょう」

 

「じゃあ、同化されて力を使わせて貰えれば解決」

 

 物凄く端的に少女がコイツ……みたいな顔になる。

 

「少しは我らに協力してくれてもいいんじゃないの?」

 

「少しが少しで済むなら邪神を信用してもいい。でも、それは在り得ないから、邪神は信用しなくていい」

 

「まったくご立派過ぎる回答ね。なら、何処までならやってくれるのかしら?」

 

「神を滅ぼすのはやってもいい。どの道、逃げ出す前にまたちょっかいを掛けて来る勢力はいそう。ソレなら処分しても構わない」

 

「来るモノは滅ぼし、他は放置、と」

 

「そう」

 

「神々を滅ぼせと言っても、貴方にとっての本命とは関係ないわけね」

 

「そう」

 

「なら、我らを滅ぼす最終兵器がソレだったと言うのならば、興味は?」

 

「妖精神は邪神を滅ぼす兵器……確かに……それなら……」

 

「我らは旧き者達と違って一つだけは得意よ」

 

「………」

 

 少女が自分の額の瞳を見せる。

 

 ソレは邪眼と多くがカダスで呼ぶ瞳であった。

 

 神格勢力圏はこれを第三神眼と呼んでいる。

 

「情報を読み取る限り、放逐された妖精神とやらは我らの力や能力を基礎として生み出された怪物。でも、本来の大本は我らよ。因果を操る術は元々こちらが元祖という事ね」

 

「それで?」

 

「どの道、我らが神々の遺物を滅ぼそうとしているのは分かっているのでしょう」

 

「勿論」

 

「なら、妖精神は我らにとっても敵。先に相対する妖精神を屠るのに我らの助力を約束しましょう。その代わり……」

 

「却下」

 

「何故?」

 

「そんな事しなくても、もうすぐアレと戦う術は完成する」

 

「………」

 

 今度は少女が押し黙る番だった。

 

「どの道、最も巨大な因果の操作先が消えれば、邪神が圧倒的有利に傾く。神格勢力圏を因果律的に自滅へ誘導して、漁夫の利。なら、約束をする事自体無駄」

 

「なら、一人で此処を切り抜けられると?」

 

「此処以外にも目当てになるモノは幾らでも存在する。こちらを利する事はあっても、破滅もついでに送ろうとする輩相手に約束する必要は無い。力を強奪、魂を消却、要らない情報は消去、問題在る?」

 

 平然と邪神の手には乗らないし、主導権は無いと言い切る少年である。

 

「ッッッ、問題しかないわ!!?」

 

 思わず少女がキレた。

 

「クソゥ!? 人が下手に出てれば、つけ上がって!?」

 

「力が無い邪神はただの堕神。破滅が基本構成の精神相手に油断とかする理由も無い。これ以上、無駄に時間を使わせるなら、今言った通りになる」

 

「~~~~ッ、分かった!!? 分かったわよ!? 持ってけ!! この野郎!!?」

 

 キレた少女が自分の額の瞳を引き抜いて少年の額に投げ付ける。

 

「あぁ、もう!? コレが果てに至った命だって言うの!? こんなのを旧き者達は求めてたって!? 頭どうかしてるんじゃない!!?」

 

 涙目な少女がそう喚いた。

 

「人の破滅で笑顔になれる邪神と比べられても……」

 

「くぅぅ~~~コイツ嫌い!!? うわぁ~~~ん!!?」

 

 思わず逃げ出した少女が近くにいて話し込んでいた夫婦と女の元に向かう。

 

「あらあら。そうね~~こっちの目的も見透かされているし、芽は無いんじゃない? どの道、同化してやろうとして同化されつつあるのは事実だし、久しぶりにあった友人はあっち側に付いてるし、力の総量だけで言えば、彼女と階の朴念仁、そっちに付いた方が多いわ」

 

「うぅ~~~もうお終いだぁ~~~邪神滅ぶべし慈悲は無いとかぁ~~」

 

「お~~よしよし。貴様も久しぶりに無力を感じるようになったか。だから、止めておけと言ったのに……」

 

 少年が仲良しな邪神達を前にして大きく溜息を吐いた。

 

「契約内容を全てこっちが書いていいなら、契約してもいい」

 

 その言葉に思わず少年側である女が大笑いし始めた。

 

【破戒の蒼穹】

 

 嘗て、太陽の女神に一矢報いた大破片が少年の前に立つ。

 

「条件は?」

 

「人の進歩と進化。そして、繁栄と破滅しない程度の衰退と勃興。これに寄与する限りにおいて、この条件を呑むなら……」

 

 少年が脳裏で書いていた膨大な呪紋の譜律を三人の前に提示する。

 

 少年の背後に広がる無数の文字列は正しく契約書そのものであった。

 

「―――我らを飼い殺す気か? 人でなしか? 人でなしなのか?」

 

 思わず、お前邪神より邪神だろという顔になる邪神の残渣である。

 

 しかし、少年はまったく堪えた様子も無くシレッと返す事にした。

 

「人でなしは誉め言葉。特に敵になりそうなのに言われる限りは……」

 

「……邪神勢力は壊滅させない。もしも妖精神相手に生き残れたら、勢力同士の戦争や融和は予定調和。互いに全滅しないよう取り計らう、と」

 

「グダグダ戦争はしてもいい。でも、一々破滅を持ち込ませないで欲しい。生憎と面倒事は嫌い」

 

 少年の言葉に農夫が溜息一つ。

 

「落とし処か。いいだろう」

 

「ッ、いいの!? ソレで!!? この星、奪い返せないわよ!?」

 

 千壁が蒼穹に突っかかる。

 

「構わん。どれだけ始祖の時代から経っていると思う。それに破滅とは繁栄無しには成り立たない。そして、生きていなければ殺せない。神々にはそういった感覚は薄いのだろうがな。だから、使い捨てる。だから、種族の繁栄に尽力していてすら“次”の話が出来る」

 

「………」

 

 少年が今まで出会ってきた神の中で最もまともな神を思い浮かべて、ソレが近頃一番面倒な障害だった太陽神である事を確認した。

 

「神に使い捨てにされないどころか。神を弑逆し、あろう事か。神すら超えるモノを破壊する。何と壮大で我らの力向きの使命か。いいだろう……乗ってやろう。ただし、我らの力を戦いのみでは使わせんぞ」

 

「?」

 

「増やせ。貴様の子孫を……神と邪神、人と魔、あるいは妖精と呪霊、あらゆる者達を貴様は配下に置いている。次なる世代を創れ」

 

「理由は?」

 

「繁栄は我らの特権の一つだ。我らの力は単なる破壊のみにあらず。悪意とは向ける相手無き事程に脆弱で物悲しい」

 

「相手が欲しい?」

 

「力の信奉者は多かれ少なかれ。最大の敵を“退屈”と定めている。悪意に負けぬと豪語する一族を創れ。我らの末達と戦い。悲劇も喜劇も踊れるようにな」

 

「……それが望み?」

 

「ああ、未来を掛けぬ者に我らは決して道を拓かない。力とは継がれゆく先で交わるからこそ進歩し、時代を超えて謳われるのだ」

 

 男が背後の伴侶を見やる。

 

「いいか?」

 

「構いませんよ。久方ぶりに友と会えて、心残りは無くなりました」

 

 少年がチラリと自分に憑りつく女を見やる。

 

 女は肩を竦めて、いいんじゃないという顔になった。

 

「……分かった。努力義務条項」

 

 少年が頷いた。

 

 それと同時に契約に一文が追加、譜律が次々に思紋機関によって駆動され、農民一家を取り巻き、ゆっくりと分解しながら輝きを帯びていく。

 

【契約は成立だ。我らの力を受け取るがいい。好きに使って見せろ。末永く、な】

 

 一家の姿が途絶え、一軒家だったはずの場所には大きな人が一人入れそうな石製の台座だけが白い空白に浮かんでいた。

 

 少年が其処に歩いていくと確かに亡霊種族達に聞いた通りのものが一通り人体のあるべき場所に該当する所へ納められている。

 

「じゃあ、やりましょうか」

 

「何を?」

 

「移植よ?」

 

 女の言葉に少年が……いや、今は少女がちょっと渋い顔になる。

 

「仕方ないでしょう。食べるのは効率が悪いもの」

 

「……任せる……」

 

 その言葉に満面の笑みになった女が少年を台座に寝かせて衣服を剥いでいく。

 

「ふふ、こんなナリになっても変わらないのね。貴方は……」

 

「変われなくなっただけかもしれない」

 

「そう……お休みなさい。次に起きたら、貴方はこの星の歴史上唯一のモノになっているわ。きっと……」

 

 少年が破滅の未来も新しき時代も何もかも一緒くたになる世界を予想しながら、瞳を閉じ―――意識を落とした。

 

 空白にはいつの間にか。

 

 ただ、沼地だけが広がり、台座に横たわる少女を前にして黒く滑った何かが頭をもたげて……その姿をうっとりしているかのように見つめていた。

 

 そうして―――そうして―――ゆっくりと少年の肉体へと台座から取り出されたモノが臓腑や骨を開くようにして切り分けながら差し込まれていく。

 

 その悍ましい肉を別ける音を聴けば、ソレがどれだけの難事かが分かるだろう。

 

 しかし、まるで愛しい人の肌を愛撫するかのような正確無比の手付きは誤らない。

 

 ギチギチと喰らい合う細胞が癒着し、馴染み、己の手で一体化していく様子を愛おしそうに黒い何かは眺め続けていた。

 

 ずっとずっと、ずっとずっと………。

 

 *

 

―――数日後、大陸東部邪眼神殿【分殿】破戒大公領。

 

「え~~他大陸からお越しの破片の使徒様達は別命あるまで大公領の規約に従って待って頂きます。部屋割りは―――」

 

 ガヤガヤと使徒クラスの人物達が犇めく巨大な城塞都市の大門付近。

 

 140mを超える巨大壁に囲まれた円形状の都市はあまりにも大きく。

 

 同時にその先には広大な大麦畑が広がっていた。

 

 大街道と称される巨大な道は遥か果ての中央部付近の邦で分岐し、大陸各地に向かって6つに分裂するのだが、現在東部に向かう道は大公領と呼ばれる分殿を要する小破片達の勢力によって封鎖されている。

 

 カダス各地からとにかく先手先手で送り込まれてくるのが下っ端ばかりかと思えば、中堅以上の使徒達も大勢詰め寄せており、現在の勢力図がほぼ固まり始めていた戦国乱世の一大イベント。

 

 チキチキ!!

 

 大神をぶっ殺したヤツが一番覇権に近いよレース!!

 

 に出場参加し始めていた。

 

 事実、彼らの大半は急いでいたとはいえ完全武装。

 

 動かすのに書類やら諸々の準備がいる戦力はあちこちから集められつつはあるが、今後の事を考えて小出しにして様子見とされていた。

 

『え~~皆様にご報告します』

 

 彼ら使徒達を受け入れる大公領の遣いがスキルを用いて声を伝播させる。

 

『数日前に子殿から神殿長によって警告が発された後。未だ神格勢力の大規模揚陸という話は未確認となっており、偵察で飛ばした殆どの使い魔は地域一帯に到達直後に消滅した為、何も現在状況で確定した事は申し上げられません。ただ、巨大な魔力源となる何かがいるのは確かなようです』

 

 幾つかのグループとして纏まっていた使徒達が大公領の戦力編成を行っている部署の監督官達を前に話を聞く姿勢となる。

 

『南方都市国家ソダシア港湾街は元々重要立地の一部ではありましたが、この数千年はほぼ単なる地方都市に過ぎませんでした。ですが……』

 

 少し間が置かれた。

 

 それに何かあるのだろうかと使徒達が声を待つ。

 

『あの地には嘗ての神世の終わりを導いた大破片の方々の遺物を祭る神殿が置かれているという事を小破片様達よりお聞きしました』

 

 周囲がざわめき始めた。

 

『始祖破片に連なる第三世代。我らの実際の始祖となる方々の遺産ですが、当時の残された大破片の方々は大神勢力が忌地とされる太陽神の大陸、色々と名前は在りますが、我らの大陸では【炎獄】と呼ばれる方面を警戒し、もしもの時の為に遺産を封印したままに遺していたとの事です』

 

 此処で幾つかのグループからすぐに使徒達の一部が消えた。

 

 瞬時に向かう斥候部隊が情報の確認に走ったのである。

 

『もし仮に大神勢力の先兵もしくは先鋒集団が陣取っていた場合、既に遺産は奪取されたものとして仮定するべき状況であり、事実上は遺産そのものがどれだけの威力を持つものかも明らかではありません』

 

 声の主はまだ若い邪眼神殿の女神官のようであったが、声には張りが無かった。

 

 顔色が悪い。

 

 多くの使徒達が今の自分のいる場所が死地に近い場所である事を明らかにされて、僅かに顔を引き締める。

 

『現在、集結中の戦力は通常戦力を大陸中から集めた傭兵21万が各地の招集地より地域封鎖の為に要塞線へと投入が開始されました』

 

 虚空に地図が映し出される。

 

 東部全域に繋がる重要拠点や関所、要塞線に複数の矢印が向かっている図だ。

 

『これの完全集結まで凡そ半月。再編成に7日。使徒は皆様も含めて10302名。続々と後続の方々がいらっしゃっていますが、大規模戦闘が発生する際の4倍の人員投入という事で事実上、この大陸最大の戦力が皆さまである事をお伝えしておきます』

 

 声は続ける。

 

『小破片の方々は現在邪眼神殿にて調整中ではありますが、凡そ6柱がこの戦いに参戦を希望されており、この大陸の小破片【綺羅の甲殻】様、【終の射手】様を含めて8柱全員が到達するご予定です。凡そ1月後に全柱ご出陣となっており、それまでに皆様が地方を包囲を維持する事が最低限の仕事として課されます』

 

 使徒達の大半はこれが厳しい戦いになると邪眼神殿が読んでいると知って、僅かに今後の予定を上と相談せねばという顔になる。

 

『ちなみに最初期報告において我らの大陸の使徒執政であったアスラ様が偶然にも直系氏族との会合において仕事に同行した際、恐らくは大神側の使徒であろう者達との接触によって死亡した事が確認されました』

 

 周囲が僅かにどよめく。

 

『皆様も知る通り。アスラ様は使徒として現役の第一線を退かれてはおりましたが、この大陸で下された小破片の首を献上した事もある大使徒様であられ、【綺羅の甲殻】様の筆頭侍従でもありました。そのお力は精神系のスキルにおいては並ぶ者無き手管を持っていた事もご承知の事でしょう』

 

 相手が少なくとも先兵でも並みではない事を使徒達がさすがに理解する。

 

『直系氏族の方々もかなりの実力者ばかりであり、使徒階梯の者も何人か混じっていた事を考えると精神干渉を行う術者の方は今回参戦を見送られた方がよろしいかと思われます』

 

 その言葉で数名の者達が何やら難しい顔でその場から消えていく。

 

『現在、街から逃げ出してきた者達からの話を聞く限り、最初の異変は流民、難民達がその朝に移動を開始した事だそうで。その後、街中で街長が狂気に陥った様子で街から半数の住民を誘って逃げ出したらしいのですが、途中で心臓発作を起こしたらしく。住民達は立ち往生。その後、家々に一度帰ろうした時には既に街中で悲鳴が上がっているのを聞いて、多くが逃げ出したのだとか』

 

 情報が書かれた紙がペラペラと捲られていく。

 

『その時の情報によると河の如き黒きものが街中をいつの間にかひっそりと流れていて、気付いた者が周囲にそれを伝えると混乱が広がり、家々から人々が持つモノを持ってすぐに外へ退避したと。女子供は見捨てられたようですが、まぁ……いつもの事です。懸命な判断と言えるでしょう』

 

 そうして女神官が報告書を更に読み進める。

 

『恐らくですが、神殿長の話からして、その黒いものが魔力源の可能性があります。その後、街の外に逃げた者達は難民として近隣の都市へと逃れたようですが、それ以降の情報はありません』

 

 難民化した民衆が周辺都市へと逃れていく矢印が地図に追加された。

 

『使徒アスラ様の死亡時、彼の御付きの者達が巨大な飛行艇を遠目で確認しており、海賊連合の船舶に似ていたとの証言があります。恐らくは偽装された大神側の戦力運搬用の代物と見られ、現在行方を追っている最中ですが―――』

 

 その時、女神官の後ろから慌てた様子の者達がやって来て、何やら緊急の要件を耳にゴニョゴニョと伝え始めた。

 

『どうやら、我らに時間は無さそうですね』

 

 女神官が汗を一筋流して大きく息を吐いた。

 

『―――東部全域への広域封鎖の維持が厳命されました。要塞線にて戦闘行動を確認。現在……東部沿岸域にて超ド級の……【飛行大陸】らしきものが迫っていると報告がありました』

 

【ッッ!!?】

 

 地図の東部全域に接する場所に何やら細長い……海岸線沿いをほぼ覆い尽くすように突き抜けそうな巨大な“陸地”が追加される。

 

『内部から溢れ出した天使及び蟲の天使に見える輪を頭上に頂く者達が次々に襲来し、“邪神の一部でもいいから探せ”という類の発言をしていたと要塞線で精神干渉による探索を行っていた神殿の者達が聞いたようです』

 

 怖ろしい話が次々に飛び込んで来るに当たって、彼ら使徒の額から汗がダラダラと流れ落ちていく。

 

『この報によって、現在の大公領及び各地の勢力に東部地方の完全封鎖が諮問機関から提案されました。また、本殿所属の大破片の方々から直々の話が届いており、魔力の形質から、大戦時に幾度か戦った事のある戦が得意な大神の手先だろうと』

 

 女神官が汗をハンカチで拭く。

 

『現時点を持って、大公領は総動員令を発令。対大神勢力用の法令があり、現地の使徒及び小破片の全てはこの戦に参戦し、外大陸大神勢力軍との全面戦争に備える事とする、との事です……』

 

 彼らがこうして数千年来の再戦という神代の戦争の継続に向かって歩み出した頃。

 

 神樹船【セフィロト】で大陸に乗り付けた二人の蜘蛛達。

 

 偽神ノクロシアンとシェナニガンは現地のガクガクプルプルしている女子供の保護を部下達に銘じつつ、ようやく見つけた少年の足跡を前にして肩を組みながら、小躍りしていた。

 

「\(≧◇≦)(^◇^)/(ちちのせーぞんかくにんヨシ!!!という顔)」

 

 街中に流れていた黒い河。

 

 真菌の一部を見付けた蜘蛛達は大喜びである。

 

 その報は即座に蜘蛛達全体に伝わり、「(´;ω;`)ブワッと泣き出す顔」になる蜘蛛達が多数。

 

 正しく、全蜘蛛が泣いた映画よりは泣けそうな事実にお祭り騒ぎとなっていた。

 

 真菌をさっそく回収して解析。

 

 少年が何とか生きている上に新しい力を身に着けて、結界を破る為にカダスの奥へと向かったという事が分かった蜘蛛達はまったくいつも通りの少年の行動にウンウン頷いて、自分達もまたそちらに向かおうとしたが………。

 

『こ、此処は一歩も通さんぞぉおおおおおおおお!!?』

 

『神の先兵めぇええええええええええええ!!?』

 

『く、死して尚、我らの邪神に栄光あれぇえええええええええ!!!』

 

『突撃ぃいいいいいいいい!! 突撃ぃいいいいい!!!』

 

『一歩も入れるなぁああああああ!!! 他の地域に家族がいる者はその顔を思い浮かべろ!! 勇気を振り絞れ!! 今はいがみ合う時ではないぞぉおおおおおお!!!』

 

『我ら邪神の申し子!! 必ずや!! 貴様らを食い止めてみせる!!?』

 

『使徒様達が来るまで持ち堪えるんだぁあああああああああああ!!!?』

 

 何だか死力を尽くして地上の移動を足止めして来ようとする現地の邪神勢力があまりにも懸命だったので足止めを余儀なくされていた。

 

 その上、小破片と呼ばれる邪神が大陸に集結するという話を読心能力で得た為、少年を追う者達をまた別に編成、各地のカダスへ派遣するのも決定したりした。

 

『まさか、大破片様の結界を超えて来るとは!!?』

 

『一体、神格勢力圏で何が起こっているんだ!!?』

 

『(´・ω・`)(その大神の領域は殆ど制圧し終えたんだよなーと相手の得物を適当にノクロシア系発掘ソード(仮)で受ける顔)』

 

『ぐ、この魔剣が押し負ける?!! こんな化け物を大神共は創っていたのか!!? 邪悪!! 我らが大陸を侵略する怪物めぇえええ!!?』

 

 本来、結界によって阻まれていたはずの航路には一つ問題があった事を多くの者達は知らない。

 

 横方向はともかく。

 

 大気圏外からの直接落下は防がない仕様だったのだ。。

 

 その幅が400km程とかなり高かったが、逆に言えば、大気圏外から直接突入してしまえば、問題ないという事。

 

 人類の住まう神格勢力圏の3倍以上広い領域となる広大なカダスの僻地。

 

 大陸を端から攻め落とし、とりあえず邪神の肉体を確保しつつ、少年を保護する為に蜘蛛達は張り切って外交と侵攻を進める事となる。

 

『(/・ω・)/(えーと、カダス?のみなさん、こんにちわーじゃしんおくれーと蜘蛛の商会を宣伝して回るビラ配りの顔)』

 

『(;^ω^)(保護したら、人生終わりまで面倒見るから蜘蛛印の生活扶助をしんせーしてみては?という顔)』

 

『何だこいつらぁああああああ!!? 何で宣伝のチラシ持って押し付けて来るんだぁあああああああ!!? 後、何も効かねぇええええええええええ!!!?』

 

 多くの蜘蛛のいる地域の人々は知らないし、忘れがちだが、普通の蜘蛛ですら通常の使徒よりも余程に強い。

 

 遠征に送り出される蜘蛛は更にシェナニガンの部下であるが、対天使での実戦を経験し、誕生した後も次々に訓練と自己研鑽と建造技術に磨きを掛けた天使蜘蛛エンジェラが大多数を占めている。

 

 事実上の読心能力を持った最強に近い対人能力と実力を兼ね備える他の蜘蛛達からしても戦ったら必ず五分以上の武闘派ばかりであり、彼らに対して対抗する戦力は地方には皆無であった。

 

『(・ω・)(神は敵なんだけどなー。何か神の戦力には絶対屈さないとか。くっ、ころせ!!みたいな事しか言わないなー?という顔)』

 

『(-ω-)/(取り合えず、あのやたら馬鹿デカイ魔力の砲撃弾体どうする?)』

 

『(;^□^)(今日のお昼ご飯まだ何だよねーと戦略級らしい遠方から弓なりに落下してくる兵器弾体をノクロシア系カノンで照準して吹き飛ばし、大爆発する魔力を転化前に4km四方の空間歪曲吸収領域を展開して食してみる顔)』

 

『ア、アレは!? う、うぁああああああああああああ!!? 嘘だ嘘だ嘘だ!!? もしもの時の為の城塞都市破壊用の代物だぞ!!? アレを防ぎ切るというのか!!?』

 

『( ̄д ̄)!(こいつら自己犠牲覚悟で足止めしてたのか。なるほど、覚悟決まってんな邪神せーりょく……という顔)』

 

 ただ、思ってたよりも邪神大陸の戦力が強力である事に気付いたので一般人に死人が出ないように戦うのに骨を折る事となる。

 

 カダスはやたら一般人を見捨てるのがデフォな価値観が横行しており、彼らの襲来と情報提供してという話に耳を傾ける者よりもすぐに襲い掛かって来る兵隊が殆どで神格が擁していた大陸とは違って、交渉よりも先にあちこちで市街戦になった。

 

 今回の目標は邪神標本の確保と少年の探索である。

 

 邪神の肉体の一部でもいいよ!!

 

 もしも、何か知ってたら教えてくれるだけで後は商売の話くらいしか君達に興味ないよ!!

 

 という事を何度も何度も伝えた。

 

 しかし、何度も何度もやってくるのは「こんにちわ!! 死ね!!」という類の躊躇なき攻撃ばかり。

 

 使徒や一般兵に看板でアピールしているのだが、その度に同じ反応が返って来て、邪神はこの大陸だと崇められているらしいと彼らは気付いた。

 

『(´・ω・)(おーさまというよりは絶対強者的な信仰対象なのねという顔)』

 

 現地の戦闘可能な人材を千切っては投げ、千切っては投げ、殺す程じゃないだろう真っ当な人材は幼女化、精神的に明らかに人類とか島にも有害そうなのは蜘蛛化して再利用。

 

 戦闘継続が可能な人員を次々に無力化する作業は死力を尽くす者達の手によって遅滞を余儀なくされる事となった。

 

 自滅、自爆覚悟の覚悟ガン決まり兵隊相手に一般人を保護しながら相手も死なせずに無力化するという明らかに実力差が天地程も無ければ不可能だろう事をしているのだ。

 

 如何に蜘蛛達が強いとはいえ、強いからこそ出来てしまう……時間を取られるのは仕方ない話であった。

 

 特に邪眼神殿の勢力及び小破片の勢力は悪魔の如き翼や屈強な体躯。

 

 更には膨大な魔力と魔力運用体系による技能が加味されており、1対1ならばノクロシアンやエンジェラ、一部の理不尽な特化能力を持っていない蜘蛛達なら油断出来ないような個体が多数存在していた。

 

 まぁ、個体性能と合わせて集団戦術と連携戦術を可能な限り強化してきた蜘蛛達相手では数の差も相まって無しの礫ではあったが……。

 

『この最強にして最大出力の魔砲を喰らって無傷だと!!? 城塞都市一つを滅ぼす我が力を!!? 何故だ!!? 何故―――ハッ!!? その盾はまさか?!!』

 

『(*´ω`)(あ、これ? ノクロシアでひろった盾ですが何か? と背中に浮かび上がらせたチャームポイントを見せてみるノクロシアン顔)』

 

『馬鹿な!? そ、それは伝説の都の―――』

 

『(´・ω・`)(知ってるんだ? あ、攻撃お返ししときますねーと超兵器系吸収反射シールドバッシュで相手を襤褸クズにしてみる顔)』

 

『ぐぁあああああああああああああああ!!!!?』

 

 邪神の肉体をくれれば、『人探しする以外は何もせずに帰ってもいいよ!!』とか『商売の話以外は別にしなくてもいいよ!!』と言う文言はどうやら『トップを差し出せ。差し出せば命は助けてやるぞ?』的な脅し文句に聞こえたらしい。

 

 と、彼らが理解したのは戦闘が始まって数日後。

 

 大破片の力とやらでセフィロトが大陸に固定化された後の出来事であった。

 

 いきなり、セフィロトの大陸に突っ込む手前の艦首がガッチリと半透明な結界でホールドされて、動かなくなったのだ。

 

『(`・ω・´)(お、これは強力なだいしゅきほーるどだなー……どれどれ……蜘蛛が触ると捕らえて離さない機能とか愛されてるわ。でも、これ維持するだけで随分、魔力と高次元からの干渉力を消耗しそうという顔)』

 

『(|ω|)ノ|(複数干渉を確認。破片とやらが連携して移動制限してるっぽいと結界を一部ノクロシア系ソードで叩いて破砕可能か確認してみる顔)』

 

『(^◇^)(でも、この結界……旧い方式……これ魔力転化系に高次元干渉の重ね掛け方式だから……吸えるんじゃね?という顔)』

 

『(>□<)(―――っ、邪神の魔力おいちぃいいいいいいいと魔力精製能力を持っているからと後方要員していたが、結界傍で白いプラチナルのストローを突き刺しで昼飯を始める後詰蜘蛛の顔)』×一杯。

 

 以降、『蜘蛛は敵ぃいいいいいいいいいい!!!?』みたいな勢いの使徒や勢力の兵達が海千山千の戦術で毎日襲い掛かって来る事になった。

 

 しかし、ダラダラと殺しもせず。

 

 相手の被害も考慮して本気も出さず。

 

 人類相手にしていたように制圧しようとする蜘蛛達がそれなりに手こずるのも無理は無かった。

 

 とにかく蜘蛛の理不尽さを前に彼らのいつもの戦い方では戦意が衰えないのだ。

 

 心が折れない相手を殺さずに制圧するのは骨というのは何処も変わらない。

 

『( 一一)(相変わらず、無茶苦茶な連中だと邪神の魔力を吸ってもまるで影響が無い様子に関心する今はシェナニガンの部下である天使の顔)』

 

 これなら新人類アークの方が懐柔出来そうな辺り、社会的に未発達ながらも純粋な闘争と意志の力を重んじるカダスの勢力は蜘蛛達とは相性が悪かった。

 

『( ^ω^ )(あれ? この大陸の戦力、案外強くねという顔)』

 

『(´▽`)(でも、新種蜘蛛出ない辺り、特殊な系統の生物はいないっぽいという顔)』

 

『(=_=)(けんきゅー系くもは笑顔だけど、こっちは毎日毎日、やたら強力な使徒クラス相手に幼女化作業なんだよなーと殺さなくても良さそうな使徒を幼女化投擲槍で牽制する蜘蛛の顔)』

 

 無理やり船を剥して出航する事は出来たが、無理やり剥すと同時に大陸が天変地異で崩壊してしまうので不用意に動かせず。

 

 かと言って、大神レベルの敵である邪神がわざわざ彼らを釘付けにする為に莫大な消耗を余儀なくされて身動き出来ないという悩ましい状況。

 

『(^u^)(取り合えず、邪神の魔力は標本が採れたし、遺伝資源と文化、文明の情報も取得していくかという顔)』

 

『( ゜Д゜)(各地に潜入して情報取得するヤツはならべーと大陸各地に潜入する情報工作部隊を選出する監督官の顔)』

 

『(ゞ=◇=)ゞ(カダス観光愉しみだなーとぴょんぴょん跳ねながら各地で使う偽装用の肉体を不可糸で構成していく芸術系情報工作蜘蛛の顔)』

 

『□□□□□(|◎ω◎|)(カダス名物とかお土産沢山買わなきゃと気合を入れて、不可糸で透明化したバックパックを背負う旅行大好き系蜘蛛の顔)』

 

 次々に送り込まれてくる小破片の勢力が抱える軍団と傭兵が邪神勢力のサンプルとしてあまりに完璧だった事も相まって蜘蛛達は仕方なく現地で破片相手の戦争へと洒落込んでいくのだった。

 

 彼らの背後からは続々と各カダスへと連携が取れる隣の大陸、隣の大陸という具合に天界からセフィロト級が順次出航。

 

 内部に蜘蛛と天使を満載して、少年を追う事となる。

 

『あ、あれは何だっぺー!!?』

 

『ひ、し、島が浮いてるだー!!?』

 

『神殿!!? 神殿に報告せにゃー!!?』

 

『神官様ぁあああ!!? 神官様ぁああああ!!?』

 

 大神勢力、揚陸すの報が流れるカダス全域。

 

 しかしながら、情報統制する邪眼神殿は混乱を恐れて、それを一般には流さず。

 

 神殿関係者だけが顔面蒼白で大陸封鎖や情報封鎖の為に奔走し、侵略に備えた大規模な軍の編成へと直走っていく。

 

『大神勢力のだ、第二揚陸部隊を確認!! 例の艦の同種と思われるモノが近隣大陸に続々と近付いています!! こ、こんな!!? こんなぁ!!?』

 

『お、落ち着けぇ!!? 我ら本殿の参謀が狼狽えてどうする!! 絶望するにはまだ早い!!? 情報封鎖と通信封鎖を急げ!! 各大陸の勢力を連携させるな!! あの数と規模で連携されたら、我らに勝ち目はないぞ!!』

 

『は、はい!! ですが、こんな量の敵を倒せる戦力は我々に!!? 大破片の方々と小破片の方々が総員で掛かっても―――』

 

『そんな事は分かっている!! 各大陸の分殿に戦力を送り、遅滞させるのだ!! 本殿での戦力再編が終了するまで必ず持ち堪えさせろ!!』

 

『クソゥ!? こんな時に海賊連合と連絡が取れん!? 奴ら、何処で油を売っている!!? もしもの時の為に空を任せていたというのに!!?』

 

『本殿守備隊は厳戒態勢に!! 直接乗り付けて来る前に各大陸での迎撃態勢を取らせるぞ!! 本殿より―――』

 

 一つ確かなのは……最初に揚陸したセフィロトがいる地域にかなりの戦力が集中したせいで他大陸はがら空きであった事だ。

 

【週刊カダスの危機!!】

 

 と言っても過言ではない増産出来るセフィロトが揚陸した他の大陸では次々に遅滞戦術が取られた。

 

 足りない戦力を幾ら掻き集めても間に合わず。

 

 どれだけ強い使徒を宛がっても少数では次々に撃破されていった。

 

 蜘蛛達の数の暴力の前に屈しない使徒は殆ど居らず。

 

 それでも別に占領地域を広げるでもなく、策源地を得るでもなく。

 

 自分が死にそうになるとすぐに撤退する蜘蛛達は使徒の大群を相手にしても一体も駆除出来ないという有様。

 

 集団戦術、連携戦術による相互に防御を行う蜘蛛達の防衛機能を誰も抜けなかったのは間違いなく蜘蛛達の続けて来た訓練の賜物だろう。

 

 それこそ神を殺す為に耐え抜く対神格戦術の精粋であった。

 

 そうして一方的に邪神勢力側は損耗するのだ。

 

 一部幼女にしたり、何か悪辣と評判な部隊や人員が蜘蛛にされたりする以外では適当に生かされて戦場から退却させられる。

 

 という事例が相次いだ事もあり、邪眼神殿と破片の勢力は相手の意図が読めず。

 

『や、奴らの目的は本当に破片の方々だけなのか? 何故、攻撃して来ない!!? 何故、力押しで倒せる相手の撤退を黙って見ている!!? 何故、兵の傷を癒して捕虜にしている!!? あの胡乱な目標……探し人の捜索とやらを優先している、のか?』

 

『( ̄▽ ̄)(このお菓子旨いなー……後でレシピだけ貰って船のちゅーぼーに送っておこうという潜入者の顔)』

 

『(゜0 ゜)(ほーこれはなかなかのものですねーと料理人もしてる潜入者の顔)』

 

 現地の最前線指揮官が苦悩しながら、相手の解析に四苦八苦している野戦テント前をカダス名物らしいオカシをモシャりながら歩く見知らぬ兵が増えている。

 

 なんて事を誰もまともに認識していなかった。

 

 軍は脱落者を出しながらも、蜘蛛と幼女にされて無力化される部隊以外は割と人的被害を出していないという事も相まって最前線での迎撃任務を解かれず。

 

 次々に後続から送られてくる戦力を入れ替わり立ち代わり補充しているせいで人事と統制はガバガバを通り越して大穴が開いていた。

 

『(;^ω^)(ちちの行方も順調に追えてるみたいだし、こっちはこっちでお仕事頑張らないと、という潜入工作員の顔)』

 

『マズイ……マズイぞ。天使共の航空支援と爆撃で部隊が次々に潰走している……殺しもせずに怪我人を戦力や奴隷にして取り込むのか。くっ』

 

『奴らの幾らが本来は別の生き物だったものか。大神共め。あのような種族を密に増殖させていたか……』

 

『しかも、連中……殺さぬように手加減した“死なない重症患者”をこちらに回収させている……処理能力を飽和させて、身動き出来ぬように固定化、消耗させる気か……』

 

『な、何と狡猾な!!? 今後来る新しい戦力の身動きを制限し、負傷者を前線に背負わせて有利に戦を進めるつもりなのか!?』

 

『この段に至っては……使徒の逐次投入や小規模投入はどう考えても意味が無い。このままでは……戦力差で戦えなくなるまで磨り潰されるかもしれん』

 

『っ、先日も小破片の残党軍が盛大に吹き飛ばされて、あの蟲と天使共に回収されていた。連中は我ら大陸そのものを奴隷化、化け物化する気なのでは?』

 

『あ、在り得る……知恵者である君に聞きたいのだが、このままの規模で相手に戦力を削られ続けるとどれくらいで部隊が機能しなくなる?』

 

『昨日の統計で前線での損耗が日に3000人を超えました。後方部隊が編制されて続々と到着しておりますが、大陸全体の戦闘可能な成人年齢人口が9000万人……全て叩き付けた場合、戦えはします。戦えは……』

 

『大陸数千年の歴史と人口を全て投げ捨てても勝てぬか……』

 

『それですら、1年以上は持たぬかと。どう見ても蜘蛛は使徒階梯と同程度以上。天使階級も熾天使が各師団級戦力で1個体以上確認されております。単なる一般人を使徒に叩き付けて勝てると思いますか? それもこの数日で蜘蛛を一匹足りとも撃破出来ていない状態で……』

 

『我らの兵が全て蜘蛛となれば……もはや……』

 

 指揮官が絶望している横でロクに確認なんてあったもんじゃないし、事実上蜘蛛達が工作員として大陸各地に大量に入り込んでいる事も殆どの者達は知らなかった。

 

『……上は使徒や次期使徒、使徒階梯の出し惜しみや小規模投入は意味が無い事には気付いたとは思うが……そもそもの話、あの天使と蜘蛛の数は未だ……』

 

『ええ、奴らが大攻勢を仕掛けて来たら、やはり一瞬です。現在、年代物のゴーレムを各地から大量に配備して後続部隊を編成しておりますが、それも数合わせで300万は超えません……連中の推計が凡そ160万から540万……それすらあの大陸から出て来ている個体のみに絞っています』

 

 意思決定機関の上位層だけが大分入り込まれている事を承知はしていたが、それにしても蜘蛛達の偽装を見破れるのはかなり上位の者だけに限られたせいでロクに確認が出来ておらず。

 

 規則の徹底や確認の徹底のような単純な方法が統率の取れない傭兵や諸々いがみ合う小破片の要する軍団にさせられない。

 

 という……邪神由来の性質から規律が護れない類の戦力しかいなかった事で炙り出す事は邪眼神殿内以外は不可能であった。

 

『戦略級の兵器類は初手で意味が無い事は確認済みな以上……大陸を墜とすしかないのか……』

 

『今、破片の方々も含めた大陸墜としの決死隊が結成されているとの噂です。本拠地が堕ちれば、恐らくは一時的な混乱で部隊が引いていく事や一時的に停滞する事は考えられますが……数の問題は解決しないでしょうな……』

 

 こうして戦線が膠着し、投げ入れられる者達の1割は幼女、2割は蜘蛛、後は精神的に消耗させて現地軍は疲弊を余儀なくされていた。

 

 殆ど傷が無くても蜘蛛達との戦闘で精神を消耗させる手管を持って、無力感と諦観を植え付けた兵達は戦力としての質を低下させていく。

 

『(>_<)(ゆーもーかかんなせんしたち~♪ あきらめてらくになろ~よ~♪ と相手を何度でも何度でも立ち上がる先から圧し折り続けるサド気質蜘蛛の顔)』

 

『(^o^)(………幾らでも戦場で兵器片手に向かって来る兵隊を無手で投げ飛ばし続けて心を折る無口系武闘家蜘蛛の顔)』

 

『無理だ。不可能だ!? 何なら効くんだ!? 何故、やつらはオレらを殺さない!?』

 

『う、ぁ、ああぁ、オレはもう抜ける!!? やってられるか!? 奴ら遊んでやがるんだぞ!? この歴戦の傭兵であるオレらを、玩具にして遊んでやがる?!!』

 

 生きている以上、数合わせは成立する。

 

 戦力が足りないから、何処の戦線も延々と兵達を使い潰す事になる為、急速な戦力の精神消耗……つまりは士気統制が下がり、兵の統率は乱れていく。

 

 それに対して指揮官クラスが次々に手を打っていても、後手後手である。

 

 死んでいない以上は戦力は必要以上に回せない。

 

 しかし、生き残っている兵の殆どは繰り返される“殺されない戦い”で“良い上官や同僚”が幼女になって連れ去られ、“嫌なヤツ”が蜘蛛になっていく光景を延々に見せ続けられるせいでノイローゼ状態であった。

 

 更に上からの『休養は無理!!? 不可能!! 他の場所の状況とか分かってんの?!!』という現地の事が分かっていない者達からの死守命令のせいで現地の邪眼神殿及び小破片勢力は事実上の撤退を考えるべき状況となっていた。

 

 これ以上戦えば、兵隊そのものが役立たずになる。

 

 そうなれば、勢力が他の勢力に壊滅させられる。

 

 蜘蛛達の話こそ真に受けていない彼らだったが、実際に手加減されている事が分かる以上は相手の言葉を流されるままに受け入れるというのも手かもしれないという“交渉”の席を設ける話もちらほらと指揮官クラスの者達の間で話されていた。

 

『これ以上は無理だ。指揮統制はガタガタ……もはや、手加減されている内に相手との交渉を……』

 

『小破片様を差し出せと?』

 

『肉体の一部だけでいいとの話だ。ソレ自体は勢力同士のいざこざで相手に取られる事も多々あった。問題は相手がその後どう出て来るかであって、時間稼ぎは絶対に必要だ』

 

『ぐぬ……他の勢力もそう思っているだろうな……』

 

『となれば、一体どこの勢力が肉体の一部を出すかだが……』

 

『聞いているか!!? 新しい蜘蛛達の情報が出回っているぞ!! 小破片の肉体は一通り揃えたいとか抜かしているらしい!!?』

 

『『………一律なら、まぁ』』

 

 彼らの野営地では蜘蛛の悪夢に魘され、無気力と諦観、精神障害に苛まれて仕事をサボタージュ、つまりは生命として真っ当な類の信号が上官に発される事になるが、悲しいかな……ソレが取り上げられる事は無かった。

 

 肉体がまったく健全ならば、戦えるだろうと彼らに戦いを無理強いする司令官達は現地戦力との意思疎通が不全化、信用と信頼を失っていったのだ。

 

 正しく蜘蛛達の“倒せないなら、相手の心を折ればいいじゃない戦略(Ver02)”が次々に前線指揮官を襲っていた。

 

 性質が悪いのは蜘蛛達が自分達を傷付けられない“有象無象”だけを残しているという所にある。

 

『強い使徒様達は殆どやられちまったな。この短期間で良いのも悪いのも……』

 

『残ってるのは使徒階梯や使徒見習い連中の中でも平凡なのしかいねぇな』

 

『強い連中を軒並みやられて、使徒様の前線部隊も大幅に再編されるらしい』

 

『天使共は上から爆撃。蜘蛛共は地表から迎撃。あの戦線を突破するなんて無理だろ……昨日の一斉突撃は陽動だって話だが、あれに参加した勢力は戦線を離れると指揮官が叫んでたらしいぜ……地獄を見たんだろうさ……』

 

 精神的な遊兵を溢れ返らせれば、大局を動かす人材がゼロな軍隊なんて軍隊として蜘蛛達を前にして戦えはしないのである。

 

 しかも、下は上に不満しかないので他の一致団結するべき別部隊、別勢力の者達といざこざが絶えない。

 

 こうして指揮統制と上官下士官、他部隊あらゆる相手との連携不全、信頼の欠如に陥った軍隊がどれだけ無力であるか。

 

 蜘蛛達は更に助長するように見せ付ける“勝てたかもしれない戦闘”を演出までして彼らの心を折り続ける事にしていた。

 

『後、もう少しで蜘蛛共の戦線を抜ける!! 使徒様を最先方にして後方部隊は掩護しろ!! 迎撃してくる相手の火点を潰せ!! 砲撃用意!!』

 

『ゴーレムを前面に押し立てろ!! 魔力を弾けるモノはゴーレムの後ろから更に壁となって強化せよ!! 後方部隊からの魔力を受け取れ!! 奴らの後方に抜けて包囲するのだ!!』

 

『うぉおおおおおおおおお!!! 全魔力を障壁に!! 蜘蛛を蹴散らせぇええええええええええええ!!!』

 

『おぉ!? おぉおぉっ、ぉお!!!? 蜘蛛共のがら空きの後方が見えたぞぉおおおおおお!!! 分断し、各個撃破出来るかもしれん!! この混戦では天使共の爆撃も左程ではないはずだ!! 勝てる!! 勝てるぞぉ!!』

 

『最前列―――と、到達しま―――』

 

『ヾ(≧▽≦)ノ(お客さんいらっしゃーい♪ ゆっくり“死ねない地雷原”で踊って行ってね♪と蜘蛛には無力な地雷原の上で一人クルクル踊りながら突撃してくるゴーレムと使徒達の大軍団相手に挑発役を買って出たノリノリな踊り子系蜘蛛の顔)』

 

『うぁあああああああああああああああああああああああああ―――』

 

 これにて殆どの邪神勢力の前線戦力は同胞相手に非難合戦を開始。

 

 その後には蜘蛛達が危うげなく勝てるボロボロな連携不足の指揮統制の取れない戦力から更に延々とやる気を奪っていた。

 

 こんな状態で殆どの部隊が長期拘束される事態となったのだ。

 

 後方から厚みを増していく増援はそのゴタゴタで本来の威力を発揮出来るわけもなく。

 

 一月と言わずとも半月を過ぎる頃には最前線の邪神勢力の大半は無力化。

 

 事実上、戦略的敗北によって大規模戦力を長期拘束され、他大陸に回せる戦力が無くなり、身動きの出来ない東部戦線という事実のみが残る事となったのだった。

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