流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

121 / 135
第108話「遠き胡蝶のカダスⅩⅢ」

 

【   】

 

「?」

 

【   だ】

 

「………」

 

【   だ。―――君】

 

「?」

 

【帝国陸軍発表。本日帝国陸軍総司令部より大陸全土に向けての発表が行われました。各報道従事者からの一切の質問を厳粛に慎むようお願い致します】

 

【本日、午後6時32分。帝国陸軍総司令部総意として“あのお方”のご帰還を確認したとの事です。緑炎の空が消え、神話に語られるモノを屠り、大陸に再び……“あのお方”が戻ったと……そう……っ……っ……そう……っ】

 

【しばらく、放送の再開をお待ち下さい】

 

【……失礼致しました。放送が一部乱れた事をお詫び申し上げます。本日午後6時32分。帝国陸軍総司令部より大公竜姫殿下のご帰還が確認されたと発表がございました。現在、詳細な正式発表の日付は未定となっておりますが、帝国議会関係者からの匿名の情報に依りますと一月以内には帝国議会より正式な声明が出される予定であると―――】

 

「………」

 

【―――君。先日、君に言っていた通り、今日の正午には生徒を送る予定だ。君以外に頼める人間がいない案件だと思って欲しい。ああ、新式の薬剤一式は既に発送しておいた。それと……】

 

「………」

 

【そう言わないでくれ。これは君にとっても悪い話ではない。あのお方ならば、君の状態を恐らくだが、根本的な詳細まで解き明かせる可能性がある】

 

「?」

 

【もう知っているのだろう?】

 

「………」

 

【我々が分からないのに分かるのかだって? ははは、あのお方も全知全能ではないよ。でも、きっと我らより遥か果てを歩き続けている。その一欠けらの叡智が我らの分からぬ未知を解き明かす事もあるだろう】

 

「………」

 

【了解した。最新のパッチは受領している。量子OSデカトロン……君の傑作は今や帝国のあらゆる分野に応用された。君の功績は人類史においても大だろう。だが、あのお方の目指すものは更にその先にあるとの事だ。新たなデバイスを用いた計画を立ち上げられた。君も詳細を後で聞くといい】

 

「?」

 

【今の我らには未だ殆ど解析出来ぬ代物だ。あの方と同時に帰って来られた開祖たるゼド教授もまた共に次なる時代の力を示した】

 

「………」

 

【はは、は、HAHA、クロノダ・イブ……く、K、Cろろrrノオ、オ。オオ、た、ダダダ、クロノ・ダイブ・システムだ】

 

「?」

 

【忘れるな。き、き、Mの量子こ、こうぞ―――】

 

 キラキラと虚空に光る板切れが堕ちていく。

 

 煌々と輝きを煌めきを零しながら、無限の闇の底へ、ゆっくりとゆっくりと……。

 

―――カダス東邦域【白金の封剣カダス】上空。

 

「………」

 

 少年が目を開ける。

 

 現在地はカダス中央域に程近い大陸の大破片の墳墓に入る地域の上空。

 

 今も姿を消して気配を遮断し、移動を続けている巨大客船の如き構造物は後2時間せずに停止するだろう。

 

「んぅ~~んにゅ~~~」

 

 カダスに来てから邪神達の力を制御する為に脳の疲労を回復させる目的で定期的な睡眠を取っていた少年であるが、常人に近い休止によって何とか諸々の制御を維持する事が出来ていた。

 

 豪華客船どころか。

 

 空飛ぶ島染みている真菌を凍らせた船である。

 

「ぁらまひぁふぅ………」

 

 内部構造からして少年が諸々組み替えて最適化し、各区画を隔てて、あまり内部の人員に摩擦が起きないように計らい、諸々の指示出しやら規則やら規律やらを守らせる為に内部法規を定め、内部問題を自分達で処理出来るように指導層を構築し……数千人を食わせつつ、数千人に仕事を与えて船内運営するというのは明らかに1月目安でやるには無理があった。

 

【………オレは別に所有者のあれこれに口出しする気は無いんだけどよ。こいつの剣として一ついいか?】

 

 少年が扱う懸案事項への諸々の脳内での処理は呪紋、呪具、武装の再設計、製造から始まって船内の人員の選別と最適な仕事現場への配置や当事者への教育も含めて生活の指導にまで及んでいる。

 

 これをほぼ船内の全員分を緻密に行いながら最適解で最適化を続けているのだ。

 

 ぶっちゃけ、一番面倒なのはオーガを筆頭にした使徒達だ。

 

「んぐぅ~~~」

 

「はひぇんひゃまぁ~」

 

「ぎゅごぉ~~ぎゅごぉ~」

 

「ひぇんな~~にぇへへ~~」

 

【オーガ多過ぎだろ……】

 

 大破片の使徒クラスの能力を秘めた部族。

 

 事実上は主神の神聖騎士相手であれば、能力であれば、5人で互角。

 

 神器在りならば、装備次第で互角。

 

 こういうノウキンな知性はあれど、品性が左程でもない層を教化するのは時間が掛かるのである。

 

 無理やり知性を底上げして頭の中身を真菌で改良しても良いが、そういう層がいきなり知恵を持つと面倒な事件が起こりまくりである。

 

 というのは……随分と昔から少年を悩ませていた問題でもあった。

 

「15人くらい、いる?」

 

【お前とこいつらが寝静まった後にやってきて、何か自分も眠くなって床で寝始めたんだが……つーか、オーガの癖にやたらお淑やかだな。寝顔やら寝相やら……こいつら本当にあのオーガか?】

 

 基本的に使える手札で極力消耗させずに使うのならば、少年一人で良いところが無限大に労力が掛かって、尚且つ基本的に一番重要な詰めの段階で使えない。

 

 という事も多い。

 

 結果として単騎掛けによる大破片一点狙いをするのが最も確率も効率も高いのだが、少年に力を貸す大破片の意志達はそれで納得しない為にやたら制御能力やら時間が食われる工程が大破片討伐までに掛かる事態となっている。

 

「ウードに聞いてる。光塵の大主が抱えてた種族はオーガというよりは破片の製造装置に近かったらしい」

 

【製造装置? 生身だろ。こいつら……】

 

「大主当人がそう言ってたとか。男は使い捨ての駒にしか過ぎない。小破片の下。極小破片程度の力を持ったモノを乱造する為に種族を創造したから、女は強さよりも良い直系子孫を多数残す為の能力にだけ長けてるっぽい。体の頑強さはそれに耐える為に付与されてるとか」

 

【つまり?】

 

「普通のオーガに見えるのは単純な雑兵でオーガっぽい乱造された使徒。人数で小破片を圧し潰す為の武器。種族本体は女。ついでに自分を生み直させる為の手札としても繁殖させてたらしい」

 

【さすが邪神ってところか】

 

「でも、戦後に他勢力と相打ちになった際に女が最後の1人まで死亡。やる気を無くして有象無象の亜人に1000年くらい掛けて埋葬させたとか何とか」

 

【あの墳墓の周囲に人気が無かったのは……】

 

「埋葬させた後、開放された種族が恐れて逃げ出したからっぽい」

 

【オイオイ。それで墓もほったらかしとか。大主とやらはそれで良かったのか?】

 

「大抵の超越者は自分の命よりも娯楽が好き。娯楽が無いなら死んでおくのも嗜みの一つ。大神には滅ぶ概念があっても自殺する心理が殆ど働かないから、勢力的に知らない生態かもしれない」

 

【で? この全裸でスヤスヤな女オーガ共どうするんだ? ここで朝から一発しけこまれてもウチのユイの教育に悪そうなんだが?】

 

「今、ウードに引き取るように言っておいた。それとどうして此処に寝てる?」

 

【お前の話が聞きたかったんだとよ。寝る前に強さの秘密を教えてもらう!!とか言って来たんだが、此処がやたらポカポカ温かいせいですぐに眠くなっちまって、起こすのも可哀そうとか言い出したわけだ】

 

「兎月は?」

 

【寝てたぞ?】

 

「名目上護衛って言って此処に押し掛けて来てる……」

 

【生憎と番犬ならぬ番兎にはならなかったようだな。つーか、何で全裸なんだよ。その兎エルフ……】

 

「エルフは寝る時、掛布はしても全裸が基本って言ってた。本当かどうかは知らない……」

 

『はぁぁ(*´Д`)』

 

 今まで鞘に収まっていた意志ある剣。

 

 アダマシアスがスルンと寝床から抜けると虚空で浮遊し、その剣を背骨にして魔力で出来たマネキンのような蒼白い肉体を形成するとネコミミ少女を起こさぬように掛布で巻いて部屋を出ていく。

 

『後で時間があったら、コイツに教えてやってくれ』

 

 イソイソと一抜けたアダマシアスとユイが消えた船長室内。

 

 全裸睡眠中のウサミミ・エルフと女オーガ達の肉でギッシリ埋まったせいで足の踏み場もない状況。

 

 少年が一瞥してからジト目で片手の指を弾いて船室を広くしつつ、床に沈み込んでいく女オーガ達はウードが歩いて来る通路へと真菌製の薄いドレスを纏わせて並べられた。

 

「今日も時間が無い……」

 

 起き出した少年が着替えを済ませて、すぐに部屋から出ていく。

 

「………んぅ……」

 

 残されたウサミミ・エルフの長は本日は眠っており、朝食に寝坊する事になったのだった。

 

 *

 

【それで方々は何と?】

 

 幽霊な老婆がそう切り出したのは朝食後のテーブルでの事だった。

 

 現在、巨大客船と化した船には5派閥の人員が乗り込んでいる。

 

 ウサミミなアーク・エルフ。

 

 流離っていた雑多な難民。

 

 方々大好きなアルマカーズ。

 

 ノウキンなオーガ。

 

 そして、少年を筆頭にした大陸に帰りたい組である。

 

 その代表者として兎月、ユイ、おばば(ユイ談)、ウードがランドやメイジェーンと一緒に朝食を取って、定例報告する流れになっている。

 

 少年は船内の事ならば、何でも一応は把握している為、いない事もある。

 

 が、今日に限っては始めから半霊の老婆。

 

 おばばとユイに呼ばれ始めている彼女の言葉に返す事となっていた。

 

「此処の大破片は魂魄まで消滅してるって」

 

【左様か。ならば、すぐに始めるか?】

 

「そうしたいのは山々。でも、さすがに今までが上手く行き過ぎてた」

 

 円卓のテーブルの頭上に映像が映し出される。

 

 それは地図であったが、その地図内部を赤い光点が複数移動し、蒼い光点に近付いているという状況であった。

 

「主殿。これはまさか?」

 

 ウードが目を細める。

 

「邪眼神殿の部隊だと思う。まだ、こっちに気付いてない。でも、さすがに近付かれたらバレる。強奪中に襲われたら困るから、船から遠めの場所で落とす必要がある」

 

『オイオイ。邪眼神殿の船って漏れなく完全武装の軍艦だぞ?』

 

 ユイの横でテーブルに立て掛けられていたアダマシアスが告げる。

 

「戦う? 戦う?」

 

 使用者が目をキラキラさせているものだから、保護者な剣は待て待てと邪眼神殿の怖ろしさを当人に何やら教え込み始めた。

 

【で、一体どうするんだい?】

 

 おばばの言葉に少年へ視線が集まる。

 

「気配を感じる限り、何か破片が載ってる。恐らく2人くらい」

 

「では、さっそく兵共に戦闘準備をさせましょう。白兵戦は?」

 

 ウードが口元をチリ紙で拭って立ち上がる。

 

「オーガは遠距離戦になる。船体横にこの間、あの墳墓から持ち込んだアーティファクトを備えてある。魔力を込めて銛を発射するヤツ」

 

「兵にはソレで迎撃を?」

 

「相手が破片なら攻撃が大規模になる可能性がある。相手の攻撃を相殺する為に使って欲しい。命中させられるように色々仕込んである。兵が打てば当たる仕様。ただし、防御だけに使う事。船にいない間に落とされても困る。とにかく船体の防護を最優先に……オーガと違って此処には脆い種族が大勢いるのを忘れずに」

 

「分かりました。さっそく兵達を配備させます」

 

 ウードが少年に頭を下げて、さっそく部屋から出ていった。

 

『それで? オレとコイツは?』

 

 アダマシアスが訊ねる。

 

「破片を相手にしてる最中に船体内部の兵から横やりが入らないように船内を混乱させながら注目を集めて時間稼ぎしておいて欲しい。出来れば、破片が載ってない船を何隻か落としてくれれば、もし出来そうにないなら、航行が一時不能になるだけでも構わない」

 

『そんな上手く行くか?』

 

「破片を引きずり出して、上空で一戦やる予定。出て来なかったら、船を叩き折る。勿論、そうさせまいと出て来るはず」

 

『最低一人以上だろ? 大丈夫か?』

 

「問題ない。一人苦戦させて落とし掛ければ、多分出て来る」

 

『いや、そうじゃないんだが……分かった。装備は?』

 

「防御重視と機動力重視。船内戦闘に合わせて長物じゃなくて短剣や短距離近接戦闘特化で好きなアーティファクトを持てるだけ持って行っていい。刀剣類は基本的に使い捨てて構わない。どの道、この船が堕ちればお終い」

 

『豪勢だな。ユイ。やれるか?』

 

「勿論!!」

 

『じゃ、保管庫に行って来る』

 

 ユイとアダマシアスがイソイソと現場から捌けていく。

 

【我らアルマカーズはどうしようかね?】

 

『船体が破砕された時や攻撃着弾時の怪我人の救護と治療を。その為のアーティファクトとスキル系統を持ってるヤツを集めてオーガを盾にする位置の部屋に分散させて待機』

 

【了解したよ。あの頭の弱い連中に長距離用の武器なんて使わせて大丈夫なものか……さてはて……】

 

 おばばもまた壁を抜けて消えていく。

 

 兎月は食後のお茶を啜っており、ランドとメイジェーンは戦闘には出られないので聞いているだけだったのだが、それにしても何か言いたそうに少年を見ていた。

 

「何かアタシらに出来る事はあるかい? 坊や」

 

「難民、オーガ、アルマカーズの女性陣と一緒に 戦闘中の食事を作ってて欲しい。出来れば、汁気が無いものを……水分は水筒で渡す」

 

「了解したよ。じゃ、そうしましょうか。ほら、ランド」

 

「え?」

 

「アンタも来るんだよ!! 数千人分だよ? 食事の準備くらい出来るだろ?」

 

「お、おう。それは……そうなんだが、オレも一応は戦闘の心得が」

 

「この間の墳墓の略奪で十分働いて貰った。必要な知識がある人間は後方待機。どの道、前に出たら即死」

 

「う……ハッキリ言われなくても分かってるってーの……はぁぁ、だが、男としてやっぱこうモヤモヤするもんが……」

 

「ああ、いいから行くよ!! よわっちいアンタが前に出て何になるのさ!! アタシは肥料にする為にアンタの面倒を見てたわけじゃないんだから、ほらほら」

 

「お、おう!? アネさん!? ひ、引っ張るなって!? 耳が?! ちょ、耳は止め―――」

 

 2人がそうして部屋から捌けていく。

 

「で? 我だけ残したようじゃが、使徒様は何の用かのう?」

 

 兎月がお茶も啜り終えた様子で少年に向き直る。

 

「ちょっと毛が欲しい」

 

「け?」

 

 兎月が首を傾げる。

 

「アーク・エルフが脆過ぎる。難民より脆いのはちょっと……」

 

「脆いと言われても、この間の強化でかなり強くなったと民には好評だったのじゃが……」

 

「寿命と肉体の問題を一部解決しただけ。筋力が平均で難民の3分の1。知能はほぼ8割増し。細工や工芸は独断上。そういう評価だと思って欲しい」

 

「腕力が無いのはダメか?」

 

「腕力よりも物理強度が無いのがダメ」

 

 少年の即答に兎月がポリポリ頬を掻く。

 

「魔力で強化しても?」

 

「素のステ……能力が低過ぎる。戦闘時に“うっかり”で死に兼ねない。特にオーガの戦闘に巻き込まれたら、少し体が当たっただけで死ぬかも……」

 

「お、おぅ。そういう事か。ふむ……で、どれくらい強くするんじゃ?」

 

「肉体の脆弱性を改善して、しばらく戦闘に巻き込まれても死なない程度まで肉体の強度を強くする。腕力は一定値。筋力はそこそこ。出来れば、魔力運用体系に戦闘技能を使ってくれる戦士職になって欲しい。最低限、自分達の一族を護れるように成人男性の2割くらいは……」

 

「ふむふむ。まぁ、良いが? 今からか?」

 

「今から……毛を一房」

 

「何で我の毛なんじゃ?」

 

「一番強度が高いから」

 

「何かいきなりお前はゴツイやつとか言われた気分なのじゃ……」

 

 少年が兎月の髪の毛を端からサラッと一瞬撫でた瞬間には少し短くなっており、確かに手には幾らかの髪が握られていた。

 

 ソレが手から落とされて真下に展開していた黒い真菌に飲み込まれて、それもまた船体へと浸透して消えていく。

 

「ふぅむ。我らに出来る事は何かを細工する事くらいなわけじゃが、仕事はあるかや?」

 

「無い。大人しく船内の中央側の部屋で全部終わるまで隠れてくれてれば、それ以上の貢献は今のところない」

 

「複雑というか。何というか」

 

「適材適所。もし何かしたいなら、これから造る予定の刃の柄諸々でも作ってて欲しい。設計図はさっき食事時に出来た」

 

 さも当然のように少年が虚空に呼び出した設計図を魔力で薄い板のように固定化して、兎月に持たせる。

 

「分かったわい。お手並み拝見お手並み拝見」

 

 肩を竦めた兎月が部屋から捌けていく。

 

 その行く先は一族のいる区画。

 

 しばらく、大人しくしてくれるだろうエルフ達への指示を終えて、少年が歩き出す。

 

 部屋から甲板までの通路は一直線だ。

 

 丁度、巨大な船舶の中央甲板に開放された扉から階段で出ると巨大な小破片らしき気配が今も近付いて来るのが確認出来た。

 

 オーガ達の慌ただしい配置へ着く音や気配までも遮断するのは防音性の高い真菌被膜が多重に船体内部の外壁や内壁内部を空気の層で包んでいるからだ。

 

 気配の類も遮断して、光学的な迷彩は透明化する為の呪紋をコンバートスキルで再現している。

 

 呪紋を発動させる為の定理が邪神の魔力だと上手く発動出来ないのならば、疑似的なスキルとして偽装するという……本来は高位の呪紋再現を目指していた頃とは違う形でコンバートスキルは運用されていた。

 

 ギリギリ発動出来る大技の類として手札に加えられたのだ。

 

 事実上、このコンバートスキルというのは本来呪紋を用いる為に使っている譜律でスキルの情報を真似て発動する事で原理的な神格勢力圏の魔力大系を不発にする法則をスレスレで迂回している。

 

 これが破れた瞬間に少年はあっさり敗北する事も考えられる為、スキルの実体と収集、情報の回収は必須項目となっていた。

 

(此処に蜘蛛が居れば、神の魔力に定理が過剰反応するのか。それとも神格勢力圏の魔力運用体系の情報や魔力に反応するのか。詳細の大半が分かったはず……出力で無理やり突破出来るものなのか。もしくは魔力で強引に出力や空間創生の形で定理を安定化して運用可能なのか。それも検証出来た……)

 

 少年は久しぶりに高い壁となる未知にぶつかりながら、その解決法を模索しつつ、そのまま船隊の方へと飛び出していく。

 

 それから数分後、ユイもまた少年に与えらえた諸々の装備を着込んで、浮遊する為のアーティファクト……指輪を幾つか嵌めて、剣を両手に握り締めて空に飛び出し、風系のスキルで背後に運動エネルギーを放出しながら、滑空弾のように弓なりの軌道で後を追うのだった。

 

 *

 

―――とある小破片の日誌。

 

 ボクが破片になったと言われてから幾分かの時間が経った。

 

 エルタイナーが破片の骸によって生み出されたゴーレムだったなんて、まったく驚くしかない。

 

 ジャニルのヤツは腕っぷし一つまともに無いボクが小破片だなんて、まったく馬鹿げた話だと笑っていたけど、それは今でもゲンコツで敵わないボクの不徳だろう。

 

 結局、エーセスさんが小破片としての生き方を教えてくれてはいるけれど、まったく付いていけそうにないのも困りものだ。

 

 彼女は正しく破片であろうとしている事に囚われているような気がする。

 

 でも、それはこの世界では正しい事だ。

 

 ボクがとやかく言う事じゃない。

 

 でも、エルタイナーの中で響いて来る何処か悲し気な声は否応無く。

 

 ボクを戦場に駆り立てていくのかもしれない。

 

 アレはカダスに残る大破片3柱の一角。

 

 邪眼神殿盟主の声だと彼女は言った。

 

 継承者たる小破片の中でも特に小さな力しか持たないボクでも気が滅入るような感情の波に襲われるのだ。

 

 完全な小破片であるエーセスさんはそれ以上に気が滅入っているだろう。

 

 でも、彼女はボクと同様に従わない選択をした。

 

 このカダスの先へと向かい。

 

 彼女の母親に当たる大破片を捜索する。

 

 遺物もしくは遺体や最後の地を探す事とソレは同義であると知りながらもこの海賊団はまったく気にする様子は無い。

 

 憧れは止められない。

 

 カダスに居場所の無いボクらのような連中の集まりが外に向かおうというのはまったく道理のはずだ。

 

 邪眼神殿の小破片への集結要請は大神勢力圏からの侵略に対抗する為の大義あるものだと連中は語っていたけれど、エーセスさんが言うにはもうカダスに残されている破片達の力では大神を倒せる見込みは無いというのも本当なのだろう。

 

 嘗て、大破壊が起きて以降の小破片や大破片達の戦いは前とは違って局地戦が多かったのだと彼女は教えてくれた。

 

 それは溢れるばかりの力を持って“いた”者達が自分達の力を効率的に使うようになったからなのだと。

 

 炎獄の大天神アマテラス。

 

 四大旧神の一角。

 

 その一角にすら世界の半分を分捕られて、邪神の半数が殲滅された。

 

 旧き者達の大破壊によって弱体化した今の破片達は嘗てのような力の使い方が出来なくなった結果として、最弱の大破片にすら勝てなくなった。

 

 それが現在のカダスなのだ、と。

 

 そう、ボクらは今や滅びる寸前なのに協力し合う事すら無く。

 

 今も文化も文明も遅れているような地域が殆どで大破壊より昔の時代から変化していない中、嘗てですら先進的と言われていた大神勢力と戦わねばならないのだ。

 

 絶望……それが唯一の答えだと、抗うしかないと人々は分かっているのかもしれない……でも、ボクらは今もカダスの外を目指している。

 

 彼女にはその方法があるというのは嘘ではないと思える。

 

 ボクらが目指す世界が大神勢力の蔓延る世界だとしても、此処に残るよりはマシだと考える船団長はきっとそれが身に染みてよく分かっているのだろう。

 

 ようやく中央大陸域から東部に抜けようという頃合い。

 

 此処からは大神勢力の侵攻軍。

 

 どうやら天使と蟲の軍勢らしい者達に見つからぬように行かないといけない。

 

 今のボクらに飛行大陸とやらで乗り付けて来るような存在を倒す事など出来ないし、逃げ出せるとも限らない。

 

 此処からは静かに―――。

 

―――名無しの海賊団旗艦【マートワース】甲板。

 

「何か来る……総員!!? 衝撃に備えて!!? 面舵一杯!! 船長ぉ!!?」

 

 甲板で盾と剣を持ち。

 

 型の鍛錬をしていた女が一人。

 

 まだ十代程に見えるが、黄金と黒と白の煌めく斑模様の長髪を後ろに撫で付けたオールバックの彼女がその冴えた美貌を歪めて叫んだ時。

 

 反応出来たのは凡そ半数。

 

 そして、いきなりの事に操舵が行われたのは巨大な衝撃が甲板を突き抜けて2秒後の事であった。

 

 トレンチコートのような茶色い外套に貴族の狩猟者が使うような動き易いブーツに手袋という出で立ち。

 

 大の大人と比べても150cm程度しかない年齢不詳の彼女の顔が歪む。

 

 彼女の盾が拉げ、ギリギリで破壊されず。

 

 しかし、その下の片腕は完全に麻痺していた。

 

 彼女のいる大型の飛行帆船の真下。

 

 突き抜けていく衝撃がブチ当たった何もない山岳部がいきなり爆砕し、猛烈な土煙が艦隊の真下から吹き上がり、巨大なキノコ雲の中で何もかもが見えなくなる。

 

(マズイ?! 連携を絶たれた!? 小破片どころじゃない!? コイツ!!?)

 

 彼女が視界を一瞬で自分の防御方法によって遮らされたと気付いた時には襲撃者が瞬時に彼女の麻痺した腕を直剣が切り払う。

 

「っ」

 

 瞬時にがら空きとなった彼女が飛び退がる寸前に剣を捨てた襲撃者の両手が甲板に脚を付いたままにドンッと高速で彼女の胴体を全力で殴打した。

 

 ギリギリで剣の腹で衝撃を剣と腕に逃がしながらも超速で叩き付けられた巨大な衝撃をいなし切れずに彼女が船のマストを圧し折って噴煙の上がる後方へと飲み込まれていく。

 

 同時に黒鉄の甲板。

 

 旧き時代の船。

 

 そう、ランド達の船と同じ材質のアダマシアス製の装甲が罅割れてクレーターと化し……襲撃者である少年は邪眼を展開し、周辺艦隊内部に捕捉する全てのアーティファクトを捕捉。

 

 ソレが自分に向けられる前に確保する為、両手から真菌の玉を大量にボボボボボンッと吐き出して、各船の船底へと張りつけ、浸透させる。

 

 土煙の中では何をしているのか誰も分からないだろう。

 

 相手が戻って来るまで凡そ7秒。

 

 吹き飛ばされた時以上の速度で不思議な髪の女が少年の未だいる甲板で真正面から激突した。

 

 黒き大剣と白銀の直剣が切り結んだ瞬間、キノコ雲そのものが内部から吹き飛び、再び艦隊の姿が露わになる。

 

「どちらっ、様だ!!!」

 

 小破片の腕力を腕の自壊寸前まで用いた両手で押し込む相手に対し、少年は片手で受けて、もう片方の手を甲板に向け―――彼女の第三神眼が開放され、その手を縫い留めるようにギョロリと見つめた。

 

 途端、その腕が動かなくなる。

 

「ッ、私の邪眼で硬質化すらしないだと? 留められているだけ……大破片クラスか!? 誰だ!? あの男の配下か!!?」

 

「………蒼穹。しばらく任せる。この階梯の相手に時間を掛けてる暇がない。本命はあっち」

 

【お嬢さんを痛め付けるのは気が進まんな】

 

「(蒼穹―――まさか?!!)」

 

 彼女が驚いた刹那。

 

 少年の肉体がヌッと分裂するように後ろに下がりながらも魔力の結晶のようなものが残され、人の形を象って色合いを変貌させながら、農夫の姿へと変化した。

 

 少年の持っていた剣の位置はそのまま。

 

 手ぶらになった少年が瞬時にその場から消えて何処かへと向かう。

 

「っっ、ま―――」

 

【おっと、悪いな。これも契約だ。お嬢さん】

 

「―――破戒の蒼穹ッ?!! 在り得ない!? 五千年以上前に死んだカダスの大英雄がこんなところにいるはずは―――」

 

【乙女の涙はそれはそれで旨いが、生憎と褥で流されている方が好みだ。此処はじっくり技量で語らおうか】

 

 破戒の蒼穹が剣を一振りする。

 

 それに慌てて全力で防御した彼女の剣に罅が入った。

 

 3m程下がった彼女が絶望的な表情で歯を軋ませる。

 

【まずは船を護れるか? そこからだな】

 

「ッ」

 

 瞬時に接敵した彼女が全力で相手の剣を休ませぬよう受けに回らせる。

 

 もしも、一太刀でも自由にさせようものならば、旧き者達の船とて一瞬で輪切りにされて墜とされるのは間違いなかった。

 

【嘗ては剛剣で小物を均したものだが、今やこの程度。時の巡りはまったく度し難い程に残酷だ。しかし、だからこそ、愉しむ事も出来るというのが皮肉か】

 

「独り言を呟いている暇があるなら、此処で―――」

 

【落とせんな。その流派……ドラゴンのものだろう?】

 

「―――?!!」

 

【当たりか。連中、面白いものには目が無いからな。さぞかし、面白い出自や出生をしていると見た。見せてくれ。お前は面白いのか? 小さき小さき我らの末よ】

 

 ゾワリと鳥肌を立てた彼女が剣から伝わって来る興味と冷徹さに僅か手を震わせながらも、グッと力を込めた。

 

『生憎と可愛げは母の胎に置き忘れていてなッ!!』

 

 邪眼の内部の硬膜が開く。

 

 ソレは通常の邪眼ではなく。

 

 縦に割れた虹彩の奥にはゆっくりと流れる星屑のような、夜空のような、あるいは深淵に沈む輝きを無数鏤めたような……“世界”が広がっていた。

 

【奴らの目か。なるほど、面白い。あらゆる時空を見通す目を単なる小破片が使えばどうなるか。一度も試してみた事は無かったな】

 

 こうして男と女が絡み合うように超接近戦で刃を交えながらほぼ0距離で何合になるかも分からない程に打ち合う。

 

 剣の交わる虚空からの衝撃で次々に船体を軋ませた艦隊の高度は下がっていた。

 

 その猛烈な高周波すら奏でる秒間数百回の打ち合いに彼女の剣が崩壊していく。

 

 魔力と肉体。

 

 それだけを使う程度ならば、破片の力は正しく通常の神の使徒と比べてもかなり優位であり、能力の資質は桁が違うものと言っていい。

 

 しかし、破戒の蒼穹を留める事以外は出来なかった。

 

 相手の剣は折れていない。

 

 どころか。

 

 消耗させている様子すら無かった。

 

『―――(未来を読む事に意味が無い?!! 敗北まで只管延長する以外の事を許されない!!? こんなッ!!? 破片どころか使徒にすら劣る魔力で押されている!!? これが古の三大神!!? 本当の大破片か!!? そんなものがどうして此処に?!!)』

 

 こうしてガンガン打ち合いが続いていく甲板を後にしていた少年は船体に浸透させた真菌を高速で薄く薄く蠢かせながら、アーティファクトと足しになりそうな物資を脳裏で仕訳けて物色。

 

 そして、20機近い空戦型らしいゴーレムが格納庫内にあるのを確認し、さっそく乗っ取りが可能かを浸透させて確認し、動かそうとして。

 

「(4機がもう出た……迅速……あの海賊っぽい装備ではある。でも、微妙に違う? 操舵室内に例のレリーフは確認出来ず。破片の気配が―――)」

 

 そこまで考えた時。

 

 グシャッと真菌の一部を浸透させたコウモリの翼のようなものを背中に畳んだゴーレムが乗っ取った操縦室内毎拉げて虚空に放り出された。

 

「破片じゃない。遺物化した破片?」

 

 少年が瞬時にその少年の目になっていた真菌で室内の暗い場所から今浸透させていたゴーレムのコックピットを殴り壊して開いたハッチから棄てた機影を確認する。

 

 ゴーレムにも色々とあるのは少年にも理解出来るところであったが……ソレを見た時、少年が思わず目を細めた。

 

「擬態? いや、封印もしくは……」

 

 少しだけ思考を沈めて感覚を研ぎ澄ませた少年がギョロリと今は邪眼な第三の瞳で相手の正体を見定めようとした途端。

 

 ベキリと邪眼の一部に亀裂が奔る。

 

「修復を開始。見られるのは嫌、と。観測そのものを排除してる理由が最も問題になる。これがもしも……」

 

 ブツブツ呟きながら相手最先頭の艦から後方の中央に位置する艦へ向かおうとした時には少年の周囲に高速で展開した数機のゴーレムが虚空を回避軌道を取りながら獲物を取り囲む鳥の如く舞い始めていた。

 

「動きは迅速……海賊なら及第点」

 

 通常の人が載るゴーレムよりも細い肢体はどちらかと言えば、新人類アークが使うパワードスーツにも近しい。

 

 高度な機構こそ備えていないが、とにかく頑強さと軽量化を達成する為に正面装甲以外は内部がスカスカな骨組みな上、背部は小型魔力炉らしきものが装着されていて、アーティファクトとスキルらしき事象を組み合わせて浮遊と加速を行う。

 

 コウモリのような翼は広げて見れば、ゴーレム本体よりも大きいという事も無く。

 

 骨組みから魔力を常時物質化させて維持しているような代物。

 

 浮力が重力操作の類ではなく。

 

 浮かぶスキルを用いているというような状況であり、それに魔力による運動エネルギーの出力で移動するソレはかなりの速度が出るようであった。

 

 後方の倉庫内で真菌に蝕まれた機体を次々に艦から落として逃がし、真菌を被膜して、適当に透明化させて消した後、そのまま遠巻きに退避させた少年がすぐに自分の邪眼に罅を入れた機体が出張って来るのに目を細める。

 

 通常の金属である鉄や銅の類ではない。

 

 ミスライト。

 

 正しく少年が剣を打とうとしていた金属でミッチリと内部構造を構築されているソレは島のシュヴァリアにも似たように見えたが、全高が12mと他のコウモリ機体から一回り大きく。

 

 背部には翼が無い。

 

 顔からしてフォルムが騎士鎧のディティールをモチーフにしている代物だが、少年はその輝く胸部装甲のクリスタル状のパーツに目を凝らした。

 

 少なからず“中身”は騎士なんて可愛いものでは有り得ない。

 

「やっぱり……こんなものが此処に来る? いや、なら、偶然……なわけもない……とすれば……フェムの……」

 

 溜息一つ。

 

 周囲の機体と同じく遠距離武器。

 

 コウモリ機体が使っているボウガンとも違う。

 

 明らかにノクロシアのゴーレムが使っていた自動小銃(弾数無限版)に似たものを向ける機体と内部の搭乗者が恐らくは制御系なのだろうと当たりを付ける。

 

『お前!! 何のつもりだ!!? さっき、あの人に!!?』

 

 騎士型のゴーレムの内部からの声が10代の少年のものだと気付いて、チラリと今は少女の姿のままの元探索者がクリスタル状のパーツを見やる。

 

「……その機体を破壊もしくは封印あるいは消滅させていいなら、今から引き揚げてもいい」

 

『エルタイナーだぞ!? ボクの半身だ!!』

 

「エル……エル……此処でエル……」

 

 少年が何かに気付いて僅かに考え込み。

 

「まぁ、いい。取り合えず制圧させて貰う。制圧が終った後に話を聞かせて貰う。少なくとも大破片の使いじゃないなら構わない」

 

『何が何だか分からないけど、生憎と喧嘩を売られてタダで済ます程、お人よしじゃないさ。ボクだってぇ!!』

 

 瞬時に間合いを詰めに来たエルタイナーが少年の力を見誤らず。

 

 腰に下げた直剣を引き抜き切り掛かる。

 

 その無防備にすら見える斬り掛かりのモーションが普通なのに少しだけ時間は掛からなそうだと質量差があり過ぎるゴーレムの剣を漆黒の大剣が受け止めて、虚空で切り払いながら片腕を上空に切り上げて吹き飛ばす。

 

 剣を弾き飛ばされた相手が瞬時に高速で引いていくが、その背後に回って取り付いた少年は瞬時に内部構造を邪眼で確認し、外部からの緊急ハッチの類を即座に特定……“最短距離”で止める為に装甲の一部に手刀を叩き込んだ。

 

 猛烈な金属の歪み破壊される音と共に片腕を犠牲にした少年の腕先の指一本が本来装甲の裏側からしか開かないはずの抓みを捻って内部を開放。

 

 複雑骨折な上に開放骨折で指が折れ曲がり、殆どの関節部分が粉砕されるのも構わなかったが、黒い真菌がそれを包み込み再生させていく。

 

「な―――強制開放!!? 何で!!? どうしてさ!!? エルタイナー!!?」

 

 内部のコックピット内が背部から開いたのを確認した少年が残った片腕で眼鏡を掛けた15程度だろう少年を座席から引っこ抜いて空に捨てる。

 

「うああああああああああああああああああああ―――」

 

 堕ちていく相手を見る事すらしない。

 

 墜とした相手の背中には真菌が張り付けられており、ソレがパラシュートのように広がった。

 

「な、ま、情けを掛けたのか!? 破片同士の戦いで!!? ク、クソォ!? それが良い歳した大人のする事か!!?」

 

 喚き出した相手が堕ちていくのをさすがに放っておかなかったコウモリ機体達が未だ浮かんだままのエルタイナーと言うらしい機体内部に入りもせず。

 

 ただ、開放した背後の背骨部分の出入口付近に剣を突っ込んだまま動かない少年を遠巻きにする。

 

 少年は内部構造に目を向けて、機体に組み込まれているシステムからソレが何なのかをほぼ理解した。

 

 少なくともゴーレムというよりもエルタイナーとやらはあらゆる方法で何かを封印する事、低減させる事だけに特化した棺桶や棺の類に等しいものだった。

 

「苦界。どういう事か説明を」

 

【………説明する義理とか有った?】

 

「“コレ”は見過ごせない。此処で一度死ぬとしても破壊して欲しいなら、何も言わなくてもいい」

 

【―――本当に知らない。けど、盗み出したヤツがいるんでしょ。カダスを制した者が持ってるはずのモノが其処に無いとすれば……よっぽど間抜けな盗まれ方してるか。もしくは……】

 

【これも策の内か。だとすれば、明らかに愚策ですが……】

 

『華楼の神歌』

 

 大破片の残留思念の嫋やかな顔が少年の脳裏で苦笑に染まっていた。

 

「だ、誰だ!? 何でボクの頭に響いて―――」

 

 下方で喚く操縦者の少年がどうやら聞こえているらしい大破片達の声に戸惑っている様子で一端コウモリ機体に収容されて遠ざかっていく。

 

【これが偽物だとしても、本物の一部を用いているという事には相違ないでしょう。大破片の階梯を大幅に超えている……】

 

 少年が脳裏で会話している間にも一際大きな激音が空に響いた後。

 

 折れた剣がエルタイナーというらしい騎士ゴーレムの兜に突き刺さった。

 

 その後を追うようにして吹っ飛んできた先程、蒼穹に任せていた小破片の女が正面からゴーレムにブチ当たって機体に衣服が引っ掛かる。

 

【終わったぞ。大したものだ。これほどの小ささで我が技量の7割……お前程ではなくても、楽しめたな。また、楽し気な戦場には呼ぶといい。この程度の遊びには付き合おう】

 

『破戒の蒼穹』

 

 一時、全盛期の姿だけを取り戻した大破片の残留思念がゴーレムに着地した後、薄っすらと消えていく。

 

「一つ訊く。コレが消えたら、大破片は全部消え失せる?」

 

【【【………それは無しの方向で(T_T)】】】

 

 大破片達がジト目になり、少年の内部で『コイツ……』みたいな顔になっていた。

 

 それに大幅に渋々という顔で譲歩して、一番簡単な案を破棄した少年がエルタイナーとやらの胸のクリスタルの方に回って剣でカンカンと叩き……破壊は困難そうだと判断して更なる案を提示する。

 

「………太陽もしくは宇の何処かに飛ば―――」

 

【【【それも無しで(;"^ω;^;)】】】

 

『コイツ……いい加減にしろよ?』みたいな笑顔で拒否された少年が第二案も破棄して仕方なく第三案を選択する。

 

「しばらく、こっちで預かる……もし、面倒が起きたら働いてもらう」

 

 少年が三邪神に言い聞かせた後。真菌の糸で機体を内部から外から縛り上げて、浮遊しながら元来た船に戻っていく。

 

 その背後にはズラリと海賊船が真菌で連なって連行されていた。

 

 先頭の艦では『ムフー(>_<)』という顔になったユイが額や全身の切り傷からダラダラと血を流しながら、ボロボロになった姿でドヤっていた。

 

 殆どの武装を使い切ったらしく。

 

 残存する武器はアダマシアス一本のみ。

 

 少年が強化した戦闘用の遠征隊の制服のカダス版もあちこちが切り裂かれて襤褸っとしている。

 

 数珠繋ぎされた全ての艦の甲板には真菌の糸で縛り上げられた船員らしい者達が転がされていた。

 

 殆どが骨折と死なない程度の切り傷ばかりで治癒させれば、すぐに動けるようになるだろう。

 

『ユイさ~ん。結構、攻撃喰らった事覚えてるよね!? アイツの真似しなくてもいいんですよ~戻って来て~~(泣!!?)』

 

 保護者役であるアダマシアスがスキルによる治癒をユイに施しながら、一番の大戦果を挙げて誇らしげな少女の戦闘スタイルが少年に似て来た事に危機感を覚えるのだった。

 

「始祖破片……コレが……」

 

 少年がクリスタル部分を見やる。

 

 その鈍い輝きの中には確かに邪眼でしか確認出来ないが、何かがいたのである。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。