流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第109話「遠き胡蝶のカダスⅩⅣ」

 

「どうしてボクがこんな……はぁ」

 

 ジロリと船長室でアルティエを睨んだのは眼鏡姿の中肉中背な黒髪の少年だった。

 

 顔が三枚目程度。

 

 器量が良いとは言えないが、実践で磨かれた顔付は精悍さもある。

 

 だが、どちらかと言えば、先進大陸当たりならば、学業やゲームで優秀さを発揮しそうな今時のインテリな学生、普通の少年という印象が強いだろう。

 

 他者の殺害そのもので磨かれた感性よりもまた別の決意のようなものが表情には何処か愛嬌を生んでいる。

 

 ただ、現在はその顔も明らかな敵を前にして何処か困ったような怒りたくても怒れないようなものとなっていた。

 

「じゃあ、尋問を始める」

 

 シレッと船長室の主である少年。

 

 今は小さな少女に言われて、相手の顔がムスッとしたものになる。

 

「名前は?」

 

「シオズ・グラット」

 

「あの女破片の名前は?」

 

「エーセスさんだ。エーセス・カルゴダ」

 

「船長の名前は?」

 

「ラダマンテ。ラダマンテ・ナッチャー」

 

「あのゴーレムの名前は?」

 

「エルタイナー。ボクの半身だ」

 

 少年がサラサラと病床で調書に何事かを書き込んでいく。

 

「……そんな事を訊くのに意味なんてあるのか?」

 

「ある」

 

「ボクらはカダスの脱出の為に逃げてる最中で何も悪い事なんて……いや、海賊なんだから、そこは邪眼神殿から略奪したりはしたけども」

 

「そこは別にいい」

 

「ッ、よくはないだろ? 結局、君達は誰で? 何の為にボクらを襲ったんだ?」

 

「邪眼神殿くらいしか持ってないはずの船で破片が二人も気配を抑えて接近して来たら、どう思う?」

 

「そりゃ、敵襲だと思うけど!! それと君達の状況は別じゃないかな!!?」

 

 シオズと名乗った少年は顔を怒らせてジロリと病床の少女を睨む。

 

 だが、やはり怒っているアピール以上ではなく。

 

 片手で額を解すような所作で溜息を吐いた。

 

「敵襲だと思ったら先手を打たない?」

 

「……状況に依る」

 

「その状況だったら、疑問に思って手を止めたりする?」

 

「それは……状況次第だ」

 

「なら、問題ない」

 

「いや、問題しかないだろ?!! ボクらの船は今やしっちゃかめっちゃかだって、船員の人達が言ってたぞ!? 何でも女の子と喋る剣に艦内保安隊が全滅させられて、殺されもせずに縛り上げられた挙句……醜態を晒して艦内の皆からの信頼はガタ落ちだって!!?」

 

「それはそっちの問題。取り合えず、お互いに不幸な事故だったと思っておくといい。それとエルタイナーとやらは持っていく」

 

「だから、半身だって言ってるだろ!? 持ってかれたら、ボクが死ぬ!!」

 

「じゃあ、そっちの身柄も一緒に持っていく」

 

「どうして!!?」

 

「アレが始祖破片の3割以上完全未満もしくは完全体の封印個体の可能性が高いから」

 

「は、はぁ?! 始祖破片だって!? 一体、何を―――」

 

「アレの入手経路は?」

 

「あ、あれはエーセスさんが元々邪眼神殿の本殿から持ち出したものなんだ。その時のゴタゴタで殺されたはずのボクを憐れんだ彼女がエルタイナーで蘇らせてくれた」

 

「……聞きたい事はあっちに聞く事にする。取り合えず、他の相手からの聴取もほぼ終わってる。食い違う点は無し。エルタイナーを使ってもエルタイナーそのものがカダスの外には出られない事だけは今現在の解析結果から分かった」

 

「な、どういう事さ!? エーセスさんはエルタイナーがあれば、カダス領域の果てにある大結界を超えられるって?!!」

 

「超える方法が恐らくエルタイナーとやらを使って結界を一時解除する方法なのは間違いない。でも、始祖破片そのものはこのカダスの土地に制約されてるはず」

 

「制約って何さ?!」

 

「あの大結界は誰が維持してたのか。ようやく本当のところが分かった。そして、この広大なカダス領域を囲い込む程の力を今の大破壊で弱体化した破片達が維持出来てる理由も……」

 

「そ、それって、つまり……」

 

「始祖破片。邪神の大本がまだ滅んでないから、あの結界は維持されてる。そして、その邪神の力を以てしても、超規模で恒常的に大神の干渉を防ぐ大結界を張り続けるにはある程度の儀式や機構が必要。一番結界にとって単純無比の強化維持方法は結界内部から術者が出ない事」

 

「それって……このままだとカダスからエルタイナーは出られない、って事?」

 

 コクリと少年が頷く。

 

「そ、そんな―――」

 

 シオズが思わず後ろに下がる。

 

「取り合えず、そっちの事情は理解した。エルタイナーはしっかり利用させて貰う」

 

「だから、ボクの半身だぞ!? 勝手するな!!?」

 

「そちらが条件付き降伏に応じた以上はある程度の自由と裁量を付与する。ただ、此処から東部に抜けるのは止めた方が良い」

 

「どうしてさ!?」

 

 思わずシオズが食いつく。

 

「さっき広域探査したら、あちこちの大陸に残してきた通信用のアーティファクトからの連絡が途絶えた」

 

「それって……」

 

「各大陸で小破片による通信や遠方からの情報を得られなくなる封鎖が掛かった可能性が高い」

 

「各大陸の情報が得られない?」

 

「それどころじゃない。確認したら、大陸を空から脱出するにもかなりの魔力を食う計算になった。薄く魔力を吸引する結界みたいなのが大陸の沿岸部付近にやたら設置されたアーティファクトで始まってる」

 

「邪眼神殿の封鎖が開始されたのか?!」

 

「そう。空飛ぶ物体の監視網の強化も魔力波動で確認された。引っ掛かったら、恐らく全力で邪眼神殿の飛行部隊が急行して来る」

 

「つまり、逃げようと大結界の方へ向かえば、すぐに捕捉される?」

 

「大結界の力の供給がどんな方法でやられているのかを今エルタイナーを解析して探ってる。でも、恐らく力の供給を止められない。もしくは止めたとしてもロクな事にならない」

 

「何でさ!?」

 

「大規模で複雑な結界を維持する時には力の供給源からある程度の力を引き抜いて溜めておく事は常識。力の供給を止めてもすぐに結界が消えない。そして、大結界は恐らくカダス全域の気象制御や諸々の環境保護にも使われてる」

 

「それって、エルタイナーが力の供給を止めたら……」

 

「環境の変化に強くない種族や適応出来ない種族が滅びる可能性がある」

 

「―――」

 

「その上でこの手の結界は力の供給源と結界を維持する機構は別々に置かれている場合が殆どだと思っていい。結界を停止する以外で操作するには結界の維持機構が置かれている場所を制圧して、一時的に制御するのが恐らく必須」

 

「それって……」

 

「カダスの制圧者を斃すか。もしくは黙らせて結界の制御を奪わない限り、安全に抜けられないし、更に多くの命に係わる」

 

「ッ」

 

「【共楽の蔡者】がいるパンデなんたらとか言う都市に行って、致命傷もしくは意思決定不能状態まで持って行って、結界中枢を確保する以外にそっちがカダスの外に出る方法は無い。勿論、その時にエルタイナーから分離もしくは離れても生きていけるようにしないと辿り着く事も出来ない」

 

「ッッ―――」

 

「はい。これ」

 

 シオズに少年が腕に付けるミスライトのリングを渡す。

 

「……コレは?」

 

「許可証。この船の内部の区画は出入り出来る人数を限ってる。自由に行動は出来ない。でも、ソレが在れば、あちこちの区画に行ける。重要人物にしか渡してない。区画を遮る壁に翳せば、通路が開く仕様」

 

「まだ、君達相手に何をどうするかもこっちでは決めてないんだけど?」

 

「問題ない。今、ほぼ全ての重要な人員に関しては同時並行で話をしてる。確定事項だけ言う。こっちに付いてパンデなんたらに向かって落とす手伝いをするなら、命は取らない。衣食住も保証する。それから大神勢力圏での安全と諸々の生活する為の情報も提供していい」

 

「それって……君達は……」

 

「カダスから逃げる為に大破片のいる場所に向かってた。大神勢力圏から来た人間が二人。事故で来たのが一人」

 

「その内の1人が君って事?」

 

「そう」

 

 シオズが少女を見定めるように真剣な視線となる。

 

「嘘は吐いてないみたいだ」

 

「嘘を吐く理由が無い」

 

「カダスの外ってどんなとこなのさ」

 

「カダスよりは文明も技術も進歩してる。でも、根本は変わらない。戦争、飢餓、貧困、人が人である限り変わらない。破片がいなくても為政者はいるし、神々は大陸毎民を見捨てる事もある。それと天気は晴れる日も多い」

 

「……そうか。楽園じゃないんだな……御伽噺みたいにはいかないや……」

 

 何処か落胆したような。

 

 あるいはホッとしているような顔になったシオズが瞳を俯ける。

 

「カダスの外は楽園なんて物語がある?」

 

「ああ、御伽噺さ。カダスよりも良いところがカダスの外には広がっているって」

 

「なら、それは本当」

 

「どういう事さ? 君の言う外は明らかにボクらには生き難いと思うけど」

 

「少なくともカダスよりは人為的な理不尽は少ないし、文明的な大陸なら、異物でさえなければ、自由や自己裁量はカダスの地域より多い。理不尽に殺されたり、理不尽に制限される事は勿論ある。でも、文明が進歩してるところほどにそういうのは低減してる。統計や数字は嘘を吐かない」

 

「そっか……」

 

「今回の激突での死傷者はゼロ。重軽傷者924名。既に回復は済ませてある。破損した物損は可能な限り補填する。それと船はカダス脱出まで全て接収させて貰う。今、回収固定用の係留施設と船の補修用のドックを艦内に増設した」

 

「へ?」

 

 少年が虚空に艦内の3Dマップを構築。

 

 船の変容をリアルタイムでシオズに見せた。

 

 次々に巨大客船が太く広くなり、翼のようなものが側面から生えて複葉機の翼のようなものが曳いていた大型艦を次々に上下から二列ずつ取り込んでいく。

 

 艦と繋がる翼はかなり巨大でめり込んだような状況で推進機関のようにも見えるが、その外部ハッチから直通で艦内へと向かう通路と周辺のラウンジやら移動経路そのものが怖ろしく広く。

 

 艦後方のハッチまで物資を移動出来る直通の搬入路まで整備されていて、巨大客船は今や空飛ぶ艦を翼に飼う巨大な鳥型の移動基地の様相を呈し始めていた。

 

「こ、こんな……これが破片の力!?」

 

「12隻全て収容完了」

 

 少年の顔色が悪くなったのを見て、思わずシオズが手を出し掛けた。

 

「問題ない。破片にはこの船の制御も手伝ってもらう。エルタイナーからの魔力の供給が在れば、しばらく維持は可能」

 

「……どうして此処までするんだ? 君にとってボクらは昨日今日会ったばかりの存在のはずじゃないか。誰かの為にそこまで労力を割くなんて普通じゃない」

 

「全部、自分の為に過ぎない。利益を供せない者に誰も付いては来ない。生憎と金は無い。なら、他に与えるモノが必要」

 

「それにしても全て自分で決めるのか……他の君の仲間達は知ってるの?」

 

「後で事後報告する。どの道、時間は掛けていられない」

 

 その真っ直ぐな瞳に今まで怒っていますよアピールをしていたシオズが何処か納得いかなそうな雰囲気は出していたが、溜息一つでボリボリと頭を掻いた。

 

「分かった。分かったよ……こっちはこっちで船長やエーセスさんと今後の方針を取り纏めておく。どの道、敗北したんだ。後でまた来るよ……納得は出来ないけど、現実と戦わなきゃ死ぬのは目に見えてる。しばらく、お世話になろう」

 

 手が差し出され、握手が結ばれた。

 

「それでこっちからの質問いいかな?」

 

 そのシオズの言葉に少年が頷く。

 

「答えられる事であれば」

 

「名前は?」

 

「アルティエ。アルティエ・ソーシャ……」

 

「……分かった。お大事にアルティエ」

 

 シオズが船長室から踵を返して出ていく。

 

 そして、少年がボフリと枕に向けて倒れ込んだ。

 

【あらあら……大人げない】

 

 苦笑する真菌の邪神女が脳裏で肩を竦めていた。

 

「一つ訊く。始祖破片は大戦終了前はどうなってた?」

 

 その問いに破戒の蒼穹が思考の奥から浮かび上がる。

 

【一部の大破片が守護し、神聖不可侵としてカダス中心の大陸地下に封印されていた。そもそもは第一世代の祖先達が生まれ出ずる場所だったが、その頃は己の祖であり、人間の概念で言う親のようなものと思われていた。しかし……】

 

 そこに苦界の千壁が引き継ぐ。

 

【第二世代頃に独占しようする者達の間で争いが頻発した。以後、最も強き第二世代の棟梁だった破片が封印し、墓守となって隔絶、破片勢力の存亡に関する事柄に関してだけ使用する事になってたのよ】

 

「つまり、その墓守が倒れた後に?」

 

【恐らくね。当時の第二世代最後の生き残りにして最大級の破片は当時はまだ残存していた。意思疎通は出来なくなっていたはずだけど、大破壊の頃は各地の破片達の混乱を治めるのに何処も手一杯。ソレがどうなってたのか誰も知らない】

 

「邪眼神殿の盟主が大戦終了後に掌握して大神から干渉を弾く為に神々の結界に隣接させて大結界を敷いた、と」

 

【そもそも何故あの連中の時空間変動結界が消えていたのだ?】

 

 破戒の蒼穹に少年が記憶を一部開放して、それを閲覧した邪神が渋い顔になる。

 

【つまり、貴様と眷属共が内輪もめしている神々の勢力圏を荒らして、弱体化させた挙句にアマテラスを討った事が引き金になった、と】

 

「そんなところ」

 

【それでそのザマか。今まで溜め込んで来た知識と技能以外はあの女の刻印で使用不能。ふ……中々に面白そうだ】

 

「面白いで済まないから、こうやって帰る準備をしてる」

 

【ならば、いいか。始祖破片に付いて二つ教えてやろう】

 

【ちょ、蒼穹!?】

 

 苦界が思わず止めようとしたが、もう一人の神歌に止められた。

 

【始祖破片は確かに破損している。だがな。その破損は本当は軽微なものに過ぎない。嘗て、一度だけ目にしたが、爪の先が欠けていた】

 

「爪?」

 

【ああ、爪だけだ。人差し指の先に罅が入って欠けていた。だが、それだけだ】

 

「………………」

 

【くくく、貴様でもそういう顔はするのか】

 

「もう一つは?」

 

【始祖破片は破片と呼ばれているが、破片という事は大本があるはずだな】

 

「それはそう」

 

【これは大破片でも力の強い者達が受け継ぐ記憶だが、我らの始祖は“複数体の邪神”の一体から派生した欠片に過ぎない】

 

「……旧き者達はかなり勢力的に巨大だった?」

 

【そういう事だ。この星に流れ着いた我らの始祖は大本の一部。そして、その大本となる存在はまた別の邪神とも争っていた。旧き者達はその連中とこの大宇で今も戦い続けている。と、考えるのが妥当だな。どちらが滅んでいるか。もしくはどちらも存命か。どの道、この世界を超えて宇の先に向かう者だけが知るだろう】

 

「それは良い事を聞いた」

 

【どうすると言うのだ? アルティエ・ソーシャ……果てに至っただけの凡人よ】

 

 少年が己の中の者達への問い掛けを終えてアーク・エルフ達が設えてくれた遠征隊の服のレプリカに袖を通していく。

 

 未だ、武装の類が揃わぬ中。

 

 それでも装具とアーティファクトに関しては旧い墳墓から見つかったものを次々に少年が収集し、倉庫内に保管しているおかげでスキルやカダスでの魔力運用体系の研究は脳裏で進んでいた。

 

「救世神の倒し方が増えただけで十分。取り合えず、片腕を粉砕したくらいの甲斐はあった……墳墓の収集を始める。それが終ったら、すぐに中央にパンデなんたらまで向かう」

 

【あの都市を落とすのは骨だぞ?】

 

「問題ない。追撃者を振り切る為の手も相手の制圧の手札も考えてある」

 

【ほう?】

 

 外套を羽織って、スタスタ歩き出した背中は小さくなっても遠征隊が見間違える事は無いだろう。

 

 正確な歩幅、正確な姿勢、正確で合理的な所作、動作。

 

 全てが寸分違わず嘗てと同じ。

 

 いや、その体にとっての最適な運動としてデザインされた行動なのだから。

 

 ようやく女の体に慣れて来た少年は片腕がちゃんと再生しているのを細胞レベルで確認し、老廃物を体内で代謝させて真菌に食わせながら、後部ハッチへ向かう。

 

 その横からはゾロゾロと現地集合としていた略奪戦力。

 

 ウードとユイとアダマシアス。

 

 それから兎月が集っていた。

 

「あの連中、使わなくて良いのかや?」

 

 ウサミミがそう海賊達の事で揺れる。

 

「次は参加して貰う」

 

「主殿。どの程度の戦力を送ればよろしいでしょうか?」

 

「800人程、荷物持ちにハッチへ集めて来て欲しい。他の作業者の護衛任務」

 

 すぐにウードが一礼してその場から離脱していく。

 

『昨日の今日で仕事か。コイツはまだ寝かせときたいんだが……』

 

「行く!! 今度こそ強敵と戦う!!」

 

『昨日、散々戦ったんだが、数で攻められたせいでまだまだ足りないらしい。お手柔らかに頼むぜ?』

 

「後ろから付いて来られるなら問題ない」

 

 少年がそう言いながら行く手の扉が開き続け、難民達の区画に入ると既に海賊団の人間達と難民達とアーク・エルフの年嵩の者達が何やらあちこちで話し合う姿が散見された。

 

「オーガ以外の艦内の取り纏めはこちらで受け持っておこう」

 

「頼む」

 

 兎月が告げて少年が頷いた。

 

 難民もエルフも海賊である手足が幾つか多い者達も無く。

 

 少年に気付いて、道を開けていく。

 

【良い知らせを持って来てやったぞ。小僧】

 

 そこに床を擦り抜けて来たのはおばばであった。

 

「これから墳墓だから、手短に」

 

【ゴーレムが山程有る。どれもこれもあの大戦で出たガラクタ。破片の勢力には使えん。神の力が残存していたせいで廃棄されたものが地下の霊廟で封印代わりに山積みされておる】

 

「どうやって知った?」

 

【名前を確認しただけの事。当時、方々の遺物と共に埋葬されようとした頃にな。海を越えて正しく巨大な山脈程もあろうゴーレムが無数戦域の大陸から運ばれていったのよ。大破片達の率いる軍団が空に船と共に浮かばせ曳いていった。行き先を知り合いに訪ねた時には墳墓になるとは思っていなかったが……】

 

「魂が感じられないのは……そういう……」

 

【使うものは使うだろう?】

 

「使う。回収して来る。船の強化材が欲しかったところ。アダマシアなら問題なく使える」

 

【そうかい。そうかい。でも、気を付けるんだね。殺された大神勢力の連中の思念が残っているかもしれない】

 

「問題ない。必要な部品以外のガラクタは鋳溶かして全部装甲にすれば解決」

 

【くくく……まったく、方々よりも邪神のようだね。アンタは……】

 

「死んでるのは黙って死んでていい。生きて何かをしたいのでなければ」

 

 少年が動じる事なく進み続け、おばばが再び自分達の階層へと戻っていこうとして、再び少年の傍に寄って来た。

 

【一つ訊きたいんだが……】

 

「教えられる事なら」

 

【あの盗賊? いや、海賊だったかい。連中の中にいた小破片は小娘だったって話じゃなかったかい?】

 

「エーセス・カルゴダって名乗ってる」

 

【カルゴダ……随分と旧い大破片の名だ】

 

「それはおかしい。大破片が全盛期の時代は旧き者からの名称以外に名前の文化が無かったと聞いてる」

 

【大破片にも色々いるのさ。正しく神世より前の時代に旧き者達と戦う為に大遠征に出た大破片達も多い。そして、多くは帰らなかった。だが、人になって戻って来た者達もいた】

 

「人に?」

 

【ああ、そうさ。第三期……正しく人型の大破片が全盛期であった頃、戻って来た大破片は何名かいた。今は恐らく廃滅したか。もしくは邪眼神殿に吸収されただろうが、小破片の発端となったのは大破片が更に人の肉体を得て子を儲けた事に始まるのさ。故に大戦後の大破片達は“腑分け”されながらも血筋……己の子として破片を残す事が出来た者もいたはず】

 

「その遠征から戻った大破片がカルゴダ?」

 

【ああ、名も無き大破片達の遠征が失敗し、戻って来なかったというのが表向き。しかし、本当に旧い時代の一部の大破片達だけは知っていたのさ。人の身に堕ちながらも戻って来た者達がひっそりと姿を変えて生きている、なんて事もあったと】

 

 少年が脳裏で三人に訊ねようとした時だった。

 

【へぇ……あの大遠征で戻って来た連中なんかいたんだ。あーしは寡聞にして知らずだったけど】

 

 光塵の大主の思念が少年の中で響く。

 

 それはお前が超好戦的思考形態のバトルマニアで他の破片とまともに情報交換していなかったからだという事実は指摘されなかった。

 

 その言葉に自分を大海とか名乗っていた真菌の邪神(仮)に訪ねようとするも、そこで少年の脚は正確に荷揚げ用の船底下部のハッチに到達。

 

 既に到着していたオーガ達もウードが率いる事で軍隊としての統率は問題なく行われているようであり、その横ではエルフに難民達が隊列を組んで待っていた。

 

 軍の規律に近いモノを略奪部隊には求めていた少年が色々と教化したおかげで形だけは出来ているという程度であるが、今はまだ問題とはならないだろう。

 

『これから墳墓の大規模な略奪に入る。オーガは最前列にて盾となり、後方の者達の安全を確保せよ。他はオーガ達の制圧後、大規模に封印されているゴーレム以外のアーティファクト及び宝物の収集を行う事。オーガは収集に加わる事を許可しない。道具を破壊または盗んだ場合、今後のオーガの強化案をその者だけ保留する』

 

 頭が弱いオーガ達にとって複雑な命令は欠伸が出るものだが、主が力を与えてくれるのを自分だけ保留されるとなれば、さすがに顔付が引き締まるのも当然。

 

 彼らにとって強さとは何よりも求めるモノであり、ウードが今一規律が浸透していないオーガ達の統率をやってのける少年に大きく頷いた。

 

『オーガはこちらの落下後、30秒後に降下開始。他の者はオーガの制圧後、2分後に降下を開始せよ。これより【罪為る晩夏】の大墳墓を攻略する。総員降下用意!!』

 

 少年の言葉は誰の耳にもハッキリと聞こえていた。

 

 魔力を使わずとも肉体の制御を完璧に熟す少年が指揮官として指示役に立てば、正しく纏めただけの雑兵もある程度は統率出来る。

 

 嘗て、野営地で戦略的に戦っていた頃に覚えた統率方法は今も健在。

 

 ただ、軍事力の底上げがあまりにも時間が掛かる関係で自分と遠征隊だけを強化する方針にした為、随分と久方ぶりに使う知識ばかりであった。

 

 指揮官に求められるのは色々とあるが、雑兵を束ねるのに必要なのは安心感を相手に抱かせる事であり、その点で少年の背後を見やる者には確かに不安の一欠けらも見えない。

 

 それは少年の話術というよりは声の抑揚の付け方や話し方から所作仕草が指揮者として認められるだけの力が技術として取り入れられているからだ。

 

 そして、何よりも最前線で率先して向かう姿は規範足り得る。

 

 本来、指揮者は後方からの指示役である。

 

 しかし、兵が最も好むのは物語であり、指揮者が最前線で働く姿こそが何よりも効果的に統率するに効果的だと少年は知っていた。

 

 空の中に吸い込まれるように落下していく背中。

 

 外套をはためかせ。

 

 黒き大剣を片手に地表の巨大な寺院のようなモノの上空から飛び込んでいく様子は正しく統率される者達にとって頼もしい以上に“任せられる背中”であった。

 

 前回の略奪とは違い。

 

 率いる集団の規模が上がった事でオーガ達の手前、ちゃんとした指揮者では無いにしても強さを見せつけておく事は統率上重要な出来事であった。

 

「総員降下用意!!」

 

『ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 オーガ達がウードの命に少し声を低めた雄叫びを響かせる。

 

 艦内の者達の耳を震わせたが、鼓膜が痛む程ではない。

 

 そのまま彼ら船員達は見る。

 

 海賊船の者達も2人の破片も同様だった。

 

「アレが……あの子なのか……何て背中……」

「大破片を取り込んだ者の力か……」

 

 巨大な古びれた遺跡が砂となって崩れ拡散し、今まで地表を覆っていた土砂の全てがクレーターになるかのように円を描いて押しやられていく。

 

 光塵の大主の主能力の一部は全てを粒子化する結合の解除、分解にある。

 

 それは殆ど魔力も使わぬ能力であるが、同じ事を魔力運用体系でやるより、余程に高効率で低魔力という力であった。

 

 地下のゴーレムで築かれた巨大な霊廟。

 

 半球状のソレの姿を露わにしていく。

 

 中心に黒き大剣を突き刺した少年の腕が振り切られた時、上にあった遺跡よりも十倍以上は広がっただろうゴーレム製のドームは経ち割られ、無数のミスライトで埋められた霊廟の中央にある棺が、巨人のものかと思われる50mはあるだろう棺までもが、絶ち割れて―――。

 

 その日、その大陸の天に立ち昇るのは無尽蔵に凝集された恨みの根源。

 

 そして、その明らかに大神に匹敵するだろう魔力だけが、その残渣が放射した猛烈な神の魔力によって周辺大陸8つのほぼ全てのアーティファクトが使用不能となって全滅した。

 

 一握りの高位の代物。

 

 つまり、破片の霊廟などに納められているような古のものと軍用の一部高位なもの以外。

 

「邪神に死を? なら、とっとと蒸発して力を寄越せば解決。これから大破片討伐に行くから、死んでるなら死んでて欲しい」

 

【【【【【………………】】】】】

 

 少年の内部で大神勢力の残留思念をそう切って捨てた少年の言葉に邪神の残留思念達は思う。

 

 やっぱ、コイツの方が邪神なんじゃねぇかな、と。

 

 そうして、少年に反発しながらも微妙に期待もしているような思念の残渣達は邪神達と同じような心地になりながら消え失せていくのだった。

 

 5時間後、その大陸に急行した邪眼神殿の2艦隊153隻の大型船が見たのは空っぽになった墳墓だった場所のみ。

 

 棺桶の欠片一つ残っていない巨大なクレーターだけが其処にはあった。

 

 そう、大破片の死骸で封印されていた全てのゴーレムと大神勢力の死骸の全てが無くなっていたのである。

 

―――大神勢力、中央域に浸透す!!

 

―――防衛用アーティファクトの9割が全損!!

 

―――防衛部隊は一時当該地域大陸より撤退し、中央域の防衛に当たられたし!!!

 

 という、カダス大陸群の防衛線内部に突如として戦力が現れ、大破片の墳墓を略奪されて突破を許したという事実を前にして大混乱が生じた。

 

 これによって周辺大陸の防衛戦力は一次的に麻痺状態へと突入。

 

 パンデモニア及び周辺大陸は非常厳戒態勢へと移行し、即日戦闘中以外の全ての破片達がパンデモニアへの集結を余儀なくされる事となる。

 

『(;゜Д゜)(ちちっぽい反応はけーん!!と電波塔の中枢区画で機械のコードから伸びた電極を自分に繋いで情報解析していた電子技師系蜘蛛の顔)』

 

『艸(|ω|)艸(どうやら、我らの出番が来たようだなと、今日のお任せ定食を大口で食べ切って重い腰を上げた魔王蜘蛛の顔)』

 

『(/ω・\)(チラッと雲が少しだけ晴れたカダス領域を天空から見下ろしている真空で作業中の衛星の代役中な惑星周回系蜘蛛の顔)』

 

『ヾ(≧▽≦)ノ(はーい。セフィロト艦隊艤装かんりょーだよーと天界で大規模船団を見送る蜘蛛の顔)』

 

『(´ω`*)(主機関定常出力へ。セフィロト級強襲揚陸艦1番艦フィーゼ微速前進。前方次元接続域より“地獄門”を経由地点に跳躍開始。反応地点及び反応地域より父の航跡を辿る追跡部隊の発艦を承認。後続艦隊の艦主砲により、大結界の破砕を開始すると告げる艦長蜘蛛の顔)』

 

 遂に蜘蛛達が彼らのちちを見つけてしまったせいでカダス東部域は正しく新たな脅威に晒される事となる。

 

 次々に大神勢力圏に出現した巨大艦が艦首の砲門らしい大穴を開口。

 

 大結界そのものに掛かる膨大な魔力を限界を超えて吸い上げる為の巨大な全長10kmの銛を打ち込んでいく。

 

 その怖ろしい杭がカダス全域を覆う結界の一部に突き刺さり……後方へと繋がった不可糸で編まれた巨大な綱を通じて魔力を吸引。

 

 結界は維持機能の一部を停止に追い込まれた結果。

 

 遂には破砕に成功。

 

『(>_<)/(これで更に戦力を送り込めるねと破砕された結界を超えて続々と億単位の蜘蛛達が雲霞の如く押し寄せる東部域の空を飛行する雷速系蜘蛛の顔)』

 

 悠々と十隻以上のセフィロトが東部へと随伴部隊と共に突入。

 

 それとほぼ同時に高高度から大陸へと落下した強襲揚陸艦とその艦から発艦した小型艦と蜘蛛の軍勢は未だ150隻程度にしか満たない邪眼神殿二個艦隊を捕捉。

 

 情報収集の為、命知らずの突撃部隊が強襲を決行。

 

 蜘蛛と破片と艦隊の大激戦が起こる最中。

 

 その大陸が突如としてセフィロトを囲い込むように巨大な結界を形成。

 

 檻のように中央域への侵攻を押し留め。

 

 一部の早過ぎる追跡者達はその隙間を縫って父を追うべく各大陸へと散っていくのだった。

 

『―――終わりだ……もう』

 

 その大神勢力?の圧倒的戦力の東部揚陸によって集っていた小破片達は突如として蜘蛛達の雲霞に呑まれ。

 

 大陸墜としの決死隊は遂に日の目を見る事無く。

 

 蜘蛛達の捕虜として“お・も・て・な・し”される事となる。

 

 大量に多種類の邪神の血肉と魂を確保、サンプリングに成功した蜘蛛達は各地で怯えるカダス人達に対してこう告げるのだった。

 

『(^◇^)/(こんにちわ。お隣に引っ越して来た蜘蛛です。あ、これ引っ越し祝いですとカダス人用に生産した食料と医薬品と日用雑貨の詰め合わせセットを押し付ける礼儀正しい蜘蛛の顔)』

 

 ノシッと一人にコンテナ一つ分の“お気持ち”を受け取らされた人々は思う。

 

(あれ? こいつら……オレ達を取って食う化け物じゃないの?)と。

 

 こうして制圧完了した地域で困惑する一般人達は次々に蜘蛛による文化的大攻勢によって否応なく“新しい隣人”を受け入れざるを得なくなっていくのだった。

 

 それが蜘蛛達の超絶フレンドリー侵略行為だとも知らずに………。

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