流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第111話「遠き胡蝶のカダスⅩⅥ」

 

―――???

 

 世界が滅んでいた。

 

『エルタイナァアアアアアアアアアアア!!!』

 

 全てが溶岩に没していた。

 

 遥か蒸発した無数の地表だったモノが渦巻きながら微細な空気中の粉塵と化し、暗黒を形成し、照り返す地表の紅蓮の光を照り返している

 

『そんな……カダスが消えていく……』

 

 光だ。

 

 光が全てを消し去った。

 

 魔力の圧縮限界。

 

 定理域……概念上の限界が顕現したのだ。

 

 有情なのは大陸の形が残っている事だろう。

 

 もしも、一体のゴーレムが防いでいなければ、その大陸に形は残っていなかったはずなのだから。

 

『う、く、かは!? ごほっ』

 

 赤熱化したゴーレムの背後がバックリと割れて、罅割れながら全てが砕けて地表に落下していく。

 

 女破片が一人。

 

 気を失った少年を慌てて救出した時。

 

 ゴーレムの胸部中央のクリスタル状の部分のみが浮遊し、ビシビシと亀裂を入れて、ガラガラと細かく崩れて内部に留められていたモノが露わとなっていく。

 

『………』

 

 白金のような質感に虹色を秘めたような……そんな長髪が炎獄の熱波に靡いて浮かび上がる。

 

『その片腕―――』

 

 

 

 ………此度もご苦労だった。お前達の役目は終わりとしよう。

 

 

 

 女破片がハッと気付いた時には全てが遅かった。

 

 彼女は砂のように己が崩れていくのを一瞬だけ見て……最後に少年を抱き締めて、共に消え去っていく。

 

 

 

 ―――幾度やろうと結末は見えているというのに妖精神とやらも存外しつこい。

 

 

 

 世界に再度、光が降り注ぐ。

 

 その光に呑まれた大陸が今度こそ跡形も無く地殻を剥き出しにして蒸発した。

 

 それと同時に全てが元に戻り、邪神大陸の生物以外の何もかも……邪神の影響下にあったはずの全ての物質が消え失せて……ただ、のんびりと動植物だけが住まう世界が、風景だけをエルタイナーから出て来た者の背景として顕現させる。

 

 

 

 ………いや、お前達もだったな……此度は何を持ってきた双子共。

 

 

 

 虚空には二人。

 

 柔和な笑顔の亜麻色の髪の青年と黒髪の……無貌の漆黒に白い線だけで形勢した顔が浮かんだような少年が自分達の“敵”を見つめていた。

 

『貴方を滅ぼさねば、“彼女”が因果を紡げない。それは毎回毎回困る。こちらとしても』

 

『………』

 

 シャクリと黒髪の少年が何かを齧るような仕草をするとソレの左腕が確定で消え去る。

 

 

 

 ―――フン……本当に連中の残り滓が創ったにしては……良い性能だ……我が本体と別れてもう随分になるが、いつもと同じことを言わせて貰おう。

 

 

 

『貴方を此処で滅ぼしておかねば、歌が止まります。同じ攻撃が効かないというのは何度やっても困りものだ。そろそろ我らの底も見えて来たと言うのに……』

 

『………』

 

 シャクリと黒髪の少年がまた何かを齧るような仕草をしようとして、その左半身がパァンと血の染みになって吹き飛んだ瞬間には逆戻しとなって形を取り戻し……白金ような、虹色のような、漆黒に滲む星空を黒曜石に落とし込んだような……金属質の罅割れが侵食する。

 

 

 

 ………見事だ……故に惜しいな……この宇宙が先に進まぬ限り、貴様らの成長は此処まで……そして……貴様らの限界もそろそろだ……“時間の効用”が使えぬ貴様らは有限から無限を見出す事は出来なかった……どれ程に見事でも貴様らは“真なる神”ではないのだ……。

 

 

 

『ははは、ヤハおじさんに聞かせてやりたい話だね。僕らの方が圧倒的に邪神に劣るなんて、嫌な結末だ。ああ、これ何回目だったかな?』

 

『………』

 

 ソレの頭部がいきなり破砕した。

 

 

 

 ―――此度は神格を消却した際の力か……悪くない……残った大神の何割を魂まで砕いた?

 

 

 

『ざっと、12柱程……全員、30兆回程度は使い潰しているので2秒も掛かりませんでした』

 

『………』

 

 ギギギッと自分の罅割れに少年が手を突っ込み。

 

 ゴリッと肉体から侵食したソレそのものを引き抜いて、大量の血潮と臓腑に塗れながら、ソレに向かって獣ように飛び掛かり、齧り始めた。

 

 ソレはその様子を構いもしない。

 

 

 

 ………いいだろう……次も期待しているぞ……お前達が我が認知の外でどれ程に繰り返しているかは知らんがな……だが、限界はもうすぐ来る……後、何兆回だろうが、終わりまでは付き合おう……あの哀れな羽虫女共を精々長持ちさせる事だ……“見えているぞ”……因果の終わりは近い……この【ノード】が消失する時、我が本体もまた役目を終えるだろう。

 

 

 

『ッ』

 

 柔和だった青年の瞳が僅かに細められる。

 

 そして、ソレの体が完全に消え去った後。

 

 黒髪の少年が何も言わずに体を砂にされて消失する。

 

『今回もご苦労様。兄さん……それにしても……そうか……さすがにもうこの宇宙そのものが耐え切れなくなって来てる、か……困ったな……彼女達を止める者もあの始祖を止める者もまだ……』

 

 青年が大きく溜息を吐く。

 

『カルトレルム……彼が裏切らなければ、もう少しだけ……いや、止そう……ニィアの暴走を止められるのは結局……はぁぁ~~~本当に……あの人間をあの時……殺しておけば……カルトレルムのお気に入りも恐らく失敗する……後はニィアの……いや、全知を修めると言われた僕もこの程度か……ウェラクリア……君の計画のせいでこの世界はまったく困りまくりだよ……』

 

 ふと、青年が自分を見やる“瞳”に気付く。

 

『……へぇ……そうか? “君”は……あははは!!! ウェラクリア!! いいだろう……君の計画に乗ろう……このバラバラでモドキな神々と全ての邪神と宇宙の命運を掛けて……マーナム!!」

 

 青年の背後に天秤のような錫杖を持った白い一枚布を纏った金髪の女が現れる。

 

「面白い事を考え付いたよ。ハシマスとミートス先生に連絡を取ってくれ。それとカルトレルムを……350年前時点で殺して来てくれ!! 済まないが急ぎで頼むよ!! 僕と君の仲だろう?!」

 

 女が青年を呆れた視線で見つめる。

 

「そんな風に見られても困るな。可能性を見付けた」

 

「………ソレは?」

 

「未来が微笑んでいるんだ!! 役者はもうすぐ来る!! そう……きっと、すぐに……数千年前に僕は跳ぶ。あの頃に滅ぼした邪神達がいるだろう? “彼ら”を使う事にしよう……ああ、創作意欲が湧いて来たよ!! こんなの本当に久方ぶりだ……宇宙を遣り直し続けて来たけれど、どれくらいぶりだろう……」

 

 青年がはしゃいでいる様子に女神が肩を竦める。

 

「獣はドラゴンに滅ぼされていたヴォートセーム種の一番弱いのを!! 王はアマテラス様のお気に入りで確か旅ですぐに死んだ王子がいたはず? アレを仕立て直して来るよ!! 近場の時代から適当な緋霊も持ってこよう!!」

 

 青年の子供ような無邪気な笑みに女神は黙って話を聞いていた。

 

「確か人間の女で世を恨まずに死んだ緋霊の素質があるのがエル大陸にいるはずだ。役者の味付けになる邪神も添えよう。破片なら……ああ、彼女がいい!! ほら、この世で最も滅ぼし難いと結論されていた彼女だよ。兄さんに鏖にされた破片共で唯一神性を落とす事しか出来なかったアレは力さえ取り戻せば、前より良い駒になりそうだ。ああ、いいぞいいぞ……これで……」

 

「ロクデナシですね。イエアド……」

 

「困ったな。これでも僕は世界を救う為に最善策を模索して戦い続けて来たんだけどな」

 

 青年がはしゃぎ過ぎた自分を少し恥ずかしく思ってか。

 

 あるいは少しだけ己の高ぶりようを見られてか。

 

 頬を掻いた

 

「………ハウエスは僕の肩は持たないだろう。だが、中庸ではあるはずだ。兄さんはどの道、僕とは相成れない。けれど、必要ならば協力するところはしてくれる。ああ、そう言えば、兄さんが殺したあの人……いや、神だけれども、あの人の一族は受肉神を造る際に唯一、こちら側の大陸で邪神の系譜の能力が獲得出来る資質があるんだ。そっちは適当なヤツを見繕って恨み骨髄に出来そうな個体を厳選しておいてくれるかい? 殺されないように後でもう一度書き換えて来るから」

 

「……やはり、ロクデナシですね。全知全能の方は……」

 

 やはり、女神は肩を竦めていた。

 

「ふふ、あの兄さんの弟がまともなら、こうして宇宙なんて救っていないさ。さぁ、仕事だ……惜しむらくはニィアとカルトレルムの相性が最悪な事だけれど、そこは仕方ない。ああ、“役者”を仕立てる者が必要だな……兄さんの管轄するエル大陸に何人か用意しておかないと。兄さんの苛烈な洗礼を受けても死なないような者が必要だ……使徒を創るのは久しぶりだけれど……さて、どんなのがいいだろうか……生存性よりは実力が欲しいところだな……」

 

 愉しそうに虚空に無数の映像を浮かべた青年を見つめながら、女神はもう自分の計画以外に何も目に入っていない青年の背後からそっと姿を消したのだった。

 

『………………………』

 

 こうして……“少年は瞳を閉じる”……。

 

 ゆっくりと翡翠のような輝きを零して、板切れは虚空を墜ちていった。

 

 全ての映像を映し終えて、ゆっくりと……ゆっくりと……ただ、その最中にも瞳だけは確かに……全てを見通して……一人の神の背中を見ていた。

 

 ずっとずっと……ずっとずっと……。

 

 *

 

―――早朝。

 

「……何だよ。アレ」

 

 シオズ。

 

 そう呼ばれる眼鏡の少年がゆっくりとカダスならば欠片由来の貴族の類にしか許されないだろう柔らかな寝具から身を起こす。

 

 その瞳には涙が伝っていた。

 

「どうして、戦えてるんだ……あんな……あんなの……っ」

 

 思わずゴシゴシと目元を拭った彼が片手で顔を覆って自分を落ち着ける。

 

「邪眼が見たのか。アレ……」

 

 彼の額に普段は閉じられている第三の目。

 

 カダスにおける邪眼がゆっくりと閉じられていき。

 

 額には跡も残らない。

 

「研鑽の桁が文字通り違うって事か……」

 

 彼は破片になってからと言うもの。

 

 破片……邪神が如何に理不尽であり、同時に多くの柵によって雁字搦めにされているかを身を以て知って来た。

 

 パンデモニア。

 

 大陸群の中心域に存在する巨大都市の住人という……破片を除けば、一般人としては最上級格の出生である彼にとって、破片は正しく物語に語られる英雄の類であった。

 

 しかし、蓋を開けてみれば、今のカダスに残っているのは理念も思想も左程にあるわけでもない力を持っただけの者がとても多く。

 

 同時にソレを統括する邪眼神殿は規律と法の担い手でありながらも、何処か破片勢力の糾合に投げやりな様子であり、自立した勢力の多くが引き起こす騒乱は余程に地域を壊滅させるような戦いにならなければ、手出しせず。

 

 破片達を率いて戦乱の往き過ぎを監督する以外は口出しもしない。

 

 そういう様子は見ていて何処か歯痒く。

 

 同時に悪徳をほぼ制止しない邪眼神殿を彼は懐疑的な瞳で見ていた。

 

(………力が無ければ、何も貫き通す事すら出来ない。僕は……エルタイナーの使い方ばかりに感けて……自分を鍛えていなかった……いつか、死ぬとしても……自分の死に方を選べる程に強くなれないなら、あの頃と一緒じゃないかッ!!)

 

 彼がグッと拳を握り締める。

 

 その力はゴーレム由来の力であり、彼そのものが強く成れるわけではない。

 

 同時にまた人の弱さを知りながら、ゴーレムを上手く乗りこなせれば生き残れるという現実的な妥協は……破片の因果を相手に通じるものでもない。

 

 それは彼は見てしまっていた。

 

 見間違えもしない。

 

 性別が変わろうと年齢が変わろうと分かる。

 

 その立ち姿……あらゆる悲劇を前に膝を折り、あらゆる悲劇の前で嘆きに暮れ、あらゆる物事の終わりにまた己を磨き直す為に魂を削る事を決意し続ける背中。

 

 ソレは大破片の墳墓に落下していく時と何も変わらず。

 

 ただ、追い付けず、何かを思わせて物悲しく、雄々しいわけでもないのに安堵出来る。

 

 背後の誰かを安心させられる背中であった。

 

 その重み。

 

 自分が遥か追い付けるわけもない程の、背負える事など無い想いを、背負い戦う。

 

 その背中に載っている全てこそが……どんな力にも、どんな能力にも勝る。

 

(エーセスさんに戦い方の基礎を学ぼう。破片の力の直接的な使い方を……死ぬ気で学んですらエルタイナーに出来る事が出来ないなんて分かってる。でも、必要なものを全て持っているから、“彼”はああして立っていられる……そんなのは……ああ、馬鹿みたいに……“理想”じゃないか)

 

 1人の破片が決意を新たに僅かな時間であろうとも次の戦いの為に己を鍛え直す決意をした頃。

 

 少年は薄っすらと瞳を開けて、キロリと横を見やる。

 

「……んぅ」

 

 今日も全裸なウサミミ・エルフの長が和やかな寝顔で気持ちよさそうに寝ていた。

 

 起きてすぐにまた足の踏み場もない全裸なオーガの女性陣の隙間を縫うように歩いた少年が衣服を着込んで外套を羽織る。

 

 そうして、何事も無かったかのようにスタスタと早朝の船……島……鳥……そのような巨大な形態となった元海賊船を原型とした移動物体の通路を歩いていくとすぐに朝飯の支度をする女達が働いているのを確認した。

 

 個人で食事をするのは諸々の無駄が多いので各ブロックの勢力毎に煮炊きは一括で行われ、厨房では大鍋が大量に炊かれている。

 

 少年に気付く者は無かった。

 

 隠形の類ではなく。

 

 単純に足音を立てずに歩くのがデフォになって久しいというだけの事であり、同時に意識して気配を表出させなければ、戦地や戦場では有利という状況を体が体現している。

 

 つまり、船の中だろうとカダスでは戦場扱いで少年は必要な休息を取っている時でも気を抜いていないという事もであった。

 

「………」

 

 甲板へと向かおうとした時、その通路の中央階段横の壁に凭れて腕組をしている30代の男が一人……やたらドギツイ臙脂色の髪の毛を複雑に編み込んで後ろに垂らし、海賊というよりは貴族風の礼服を着込んだ黒い丸眼鏡を掛けた彼が少年の横に付く。

 

「お初にお目に掛かりますな。ラダマンテと申します。先日はお声だけでしたのでこうして伺いました」

 

「何処の破片の部下だった?」

 

「これはこれは……【万難祭事】ドーセム様の部下だった、と言えばどうなさると?」

 

「位置を特定される類の細工がされてないのは確認してる。個人的な理由であの小破片2人に付いているのも別に構わない。ただし」

 

 少年がキロリと視線を自分よりも遥かに背の高い男を見上げる。

 

「途中で投げ出すようなら処分する」

 

 ラダマンテがそのまるで自分の全てを見透かしたような瞳にさすが破片の力を持つ者だと嘗ての上司達に匹敵するのに何処か薄ら寒い。

 

 熱さではなく冷たさを感じて肩を摩る。

 

「そう、驚かさないで下さい。昔から方々に仕えては来ましたが、それはウチの家業でしてね。海賊の大頭目になるのは各地の海賊業を生業とする【焦波の祖隷】様の派閥に属する者なのです」

 

「裏切った理由は?」

 

「裏切ってなどいませんよ。破片の方々の多くは考えも多種多様。私は彼のお方より、これより主をあのお二人と定めて仕えるように言われました。その時点で我が血筋は一族郎党含めて全てあのお二人のモノとなったのです」

 

「忠実で結構。乗り換えなければ問題ない」

 

「ふふ、そういうところは気にするのですね」

 

「ちなみに前主の考えは?」

 

「あまり昔の方々に義理立てするのもどうかと思いますが、同時に何もかもペラペラ話してしまうのも問題では?」

 

「どの道、その主が失われそうなら、何でもやるべき。仕えるモノだと言うなら」

 

「御尤も……始祖破片の事を看破されましたね?」

 

「最初から知っていた?」

 

「ええ、嘗て我が一族は大破片から分かたれた小破片の子孫として貴族階級だったのです。そして、その大破片は既に滅びておりますが、いつ如何なる時も始祖を見守る立ち位置となり、“眠らせておけ”と父母や一族の一部の者達から教育を受けております」

 

「……もしかして、始祖破片を守護してた大破片の流れを汲んでる?」

 

「ええ、今は滅びた古の封印を護っていた者の末です。この間は訊かれませんでしたので何も言いはしませんでしたが……」

 

「始祖破片の覚醒と今の主の命。どっちが重い?」

 

「これは言い難い事を訊かれますね。ええ、覚醒の件が7で主の命が3というところでしょうか」

 

「なら、問題ない。覚醒した場合、叩き潰すか。もしくはこの世界から追放する」

 

「―――く、ふ、ふふ……貴方になら出来てしまいそうなのが困りものですな。そうなったら、我ら一族の因果や因習も全て消えて何をするか模索する事になるやもしれません」

 

 ラダマンテ。

 

 海賊の棟梁たる男が苦笑する。

 

「現在地の把握は?」

 

「しております」

 

「なら、これから略奪する主要軍事要塞に付いての注意事項を訊ねたい」

 

 ラダマンテが試されているらしいと肩を竦める。

 

「二つ。小破片【光跡の鶺鴒】様とその武装で間違いないでしょう。そして、貴方の戦略眼は正しい。後方から一番先に向かって来させられるのはこの大陸のこの要塞の部隊であり、複数の小破片が詰めている」

 

「ちなみにその小破片、セキレイが強い理由は?」

 

「一つ。件の女性破片ですが、彼女の基礎能力は前の主が高く評価されておりました。自分のような集団統率に長けるモノにとっては脅威であり、出来れば敵には回したくないと。能力の詳細は“早い”……只管に“早い”が最も面倒だとか」

 

「それは面倒。二つ目は?」

 

「彼女の使っている武装は大戦時に神々の勢力が高位ゴーレムに使わせていたモノの個人用に仕立て直されたモノでしてな。数千年来の神器の類です。確か……心臓だったかと。故に一体型の彼女は正しく受肉神並みの速度を遥かに越えます」

 

「分かった。精神性は?」

 

「戦闘狂ですな。見目は麗しいのですが、破壊衝動に突き動かされ、大陸各地で自分を相手にしてくれる小破片を狩り続けた結果。今は大破片の方々の封印でこの大陸から外に出るのを禁じられております。まだ、東部に攻めて来ている大神勢力にブツけられていなければ、出立準備中でしょう。開放された瞬間に逃げられる可能性を加味しても、邪眼神殿の高位神官をしている小破片達に新しい制約を掛けられている最中ではないかと」

 

「分かった。全部、斃して来る。もし良さそうなのが居れば、力を奪う用に残して連れて来る」

 

「ははは、御冗談を……と、言いたいところですが、期待せずに待っていましょうか……」

 

 ラダマンテが少年の背後に残って頭を下げて見送る。

 

 そのまま歩き続けた少年は遂に甲板への扉を開けて外に出る。

 

 すると、オーガ達が数百名近く吹っ飛んで来て、ソレを歩きながら避けて甲板上の石舞台。

 

 修練用のリングの上でオーガ相手に鍛えている女破片が見えて来た。

 

 エーセス・カルゴダ。

 

 シオズを破片にした張本人であり、同時に始祖破片たるエルタイナーを盗み出した女傑。

 

 彼女が厄介なヤツが来たと言わんばかりの顔を顰めた。

 

「仕上がった?」

 

「……残っているのはこのお嬢さんだけ」

 

 よく見れば、彼女の他にはもうオーガ達はノックダウンされており、残っているのは喋る剣を携えて、ゼェゼェ息を切らしているユイのみであった。

 

「ま、まだ、戦える、よ……アダマシアス」

 

【審判が来たぞ。終わりにしとけ。今のお前じゃ勝てないって。まだ、な?】

 

「うぅ~~分かった……ありがとうございました。エーセスさん」

 

「終わりにしよう。邪魔が入った」

 

 スタスタと歩いて来たエーセスを少年がじ~~っと見やる。

 

「何か?」

 

 横を通り抜けようとしたが、余りにも見られているものだから、立ち止まった彼女が少年を睨む。

 

「………雑」

 

「は?」

 

「………雑」

 

「何を……」

 

「1分貰う。剣を抜いて舞台に。1分耐えられたら、今回の襲撃に連れて行く。雑なのは連れて行けない」

 

「だから、雑とは―――」

 

 エーセスが何かを言い返す前に少年が舞台に登っていく。

 

 仕方なく自分では勝てない相手の言葉に従った彼女が舞台の中央で待っている少年と10m程の距離で相対した。

 

「何が雑か聞いても?」

 

「戦場で“悩み”とかやってられるヤツに次は無い」

 

「ッ」

 

「死にたくなければ、精密にやってから悩んでろというのが本音」

 

「―――ッ」

 

 彼女が自分を落ち着けて斬り掛かろうとした時には少年の黒い大剣が長剣にうけられながらも軋んでいた。

 

「蒼穹が褒めるだけあって筋が良い。でも、それだけ、後は雑……」

 

「ッッ!!!」

 

 高速で剣をいなして、斬り返そうとした彼女の剣が加速するより先に少年の剣によって途中から威力を殺されて守勢に回される。

 

「ッ―――」

 

 彼女が瞬時に自身の能力を開放し、小破片としての力を振るうよりも先に彼女の鳩尾に剣を握っていたはずの少年の掌底が叩き込まれ、吹き飛ぶ。

 

 が、その高速で後ろに跳んだ彼女が衝撃をいなし切るより先に背後に回っていた少年の蹴りが背骨を叩き折る勢いで炸裂。

 

 正面と後方からの打撃で思わず弾けそうになる体を抑えて、剣で守りを固めようとした時には少年の指先が彼女の延髄に延ばされ、ソレを遮るようにして剣が指を遮断した。

 

「ッ」

 

 しかし、指先が剣の腹を弾いた瞬間。

 

 ゴバッとスゴイ空震と共に艦が震えて、吹き飛んだ彼女は甲板にある出口の一部に背中からめり込んで、建材を粉砕しながらクレーター内部で崩れ落ちた。

 

「やっぱり雑。悩みとか振り切れたら、出て来ていい。それまで戦場や襲撃場所には必要無い。鍛え直すなり、悩みを解決するなりしてから“戦う真似事”を止めるといい」

 

 少年がそう言ってスタスタともう復元され始めた船体の扉を潜って倒れ伏すエーセスを横に船内へと降りていく。

 

 慌ててユイが傍まで駆け寄って来る。

 

「大丈夫!!? エーセスさん!!?」

 

「………あぁ、手加減された。まったく、屈辱的だが、当然だな……彼はよく我ら破片の本質を捉えている」

 

「え?」

 

 ゆっくりと立ち上がった彼女がゴキゴキと粉砕した体を復元させながら口元の血潮を拭う。

 

「破片は欲望に忠実である程に強い傾向がある。そして、欲望故に良く身を亡ぼすが、良く生きたとは言われるだろう。だが、彼の戦いでは悩み等という“贅沢な感情”を戦いの場に持ち込んでいる者は未熟以前……戦わせる価値も無ければ、味方としてもまったく期待に値しないと言われているわけだ。己の感情は別にしてこれが他人事なら、あの言動には賛成出来る」

 

「……エーセスさん」

 

【ま、アイツの言う事は最もだが、その悩みの種に言われちゃ怒りたくもなるわな。感情は極力無視しろというのが戦場でのあいつの方針らしいが、出来る者はそんなに多くねーだろ】

 

 今まで黙っていたアダマシアスがそう今の事件を評価する。

 

「フン。往年の大戦時の兵隊に言われてもな。大神勢力の末端に感情など有ったか? 戦史は研究したが、少なくとも破片勢力と比べてもアレだったような?」

 

『オイオイ。擁護してやってるのにコレだ。破片は色々見て来たが、お前……弱いって良く虐められる口だっただろ』

 

「ア、アダマシアス!? 失礼!?」

 

「いや、いい。ユイ……その失礼な剣の言う事は一々尤もだ。実際、小さな頃はよく虐められていた。同じ小破片の幼体達にな」

 

「そ、そうなの?」

 

「こちらは今は亡き大破片の落とし子でな。封印されていたのを発見されたのが十数年以上前、邪眼神殿の発掘隊に拾われたのが始まりだった。当時は大破片の遺児達や腑分けで増えた小破片や子供として成された者達が色々と集められていた時期でもあった。そこで集められた者達の中では確かに何かと弱い弱いと言われていた……最終的には叩き潰したが……」

 

「つ、強い……」

 

「強いものか。いつも辛勝ばかりだった。そして、今回の敗北で人生設計は全て狂った。古の英雄、大破片の意志とカダスを破る風……大神勢力の侵攻中にこの騒ぎだ。まったく、本当に奇妙な集団に出会ってしまったものだ」

 

 肩が竦められる。

 

「アルティエはスゴク強い……」

 

 手で引っ張り起こされたエーセスがそのユイの言葉に頷く。

 

「ああ、恐らくだが、見た限り、技量ならば、今まで出会って来たどの破片よりも高い」

 

「大破片よりも?」

 

「ああ、大破片よりもだ。能力と魔力込みならば、劣るところはある。だが、それも大破片の墳墓を略奪しながらの鈍行と聞けば、納得もしよう。当人が必要な能力を求めて動いているのなら、パンデモニアまで到達する頃には必要分の力は回収されているだろうな」

 

「大破片に勝てる?」

 

「力が増した状態なら恐らく勝てる。だが、問題は周囲の取り巻きと軍団だ」

 

「小破片と使徒の?」

 

「ああ、だが……何と言うか。極めて幸運だな。殆どの仕える軍団と小破片が東部の大神勢力との最前線に回されている。しかも、劣勢とされている今、前線から引き抜いて来る事は不可能。となれば、小破片の近衛部隊程度だろう。中央を修める大破片は2柱……だが、奥の手として倒した大破片を色々と防衛策に用いているともパンデモニアでは言われていた。つまり……」

 

「つまり?」

 

「受肉神もしくは真正神の類が攻めて来ない限りは問題ない護りが敷かれていた。その綻びに上手く捻じ込めれば、ヤツの刃は届くだろう」

 

「……陽動?」

 

「させられるだろうな。悩みを解決して来いとは当人に言われては解決するしかない、か」

 

 エーセスが溜息を吐く。

 

「そう言えば、悩みって何?」

 

【お前、乙女なんだから、もう少し遠慮を……】

 

「?」

 

【いや、イイデス。はぁ……悪いな……で、具体的に悩みって何だ?】

 

「貴様に言われるのは腹が立つ。が、いいだろう……単純だ」

 

「単純?」

 

「蒼という色を知っているか?」

 

「え? うん。海の色?でしょ」

 

「そうだな。その中でも特別な【蒼】という言葉はカダスでは瞳の色を言う。アズルスというヤツだ」

 

「あずるす?」

 

「高位の小破片や大破片はその色合いの瞳を左右どちらかか。もしくは両方、あるいは邪眼に持っている事が多い」

 

「へぇ~~……?」

 

「気付いたな。正しくヤツがそうだ。ヤツの邪眼が力を発揮した時の色合いを見たが、蒼だった」

 

「それが悩み?」

 

【………いや、在り得るのか? 大神連中でも蒼は多かったが……】

 

「???」

 

 2人の言葉にユイが首を傾げる。

 

「簡単に言おう。蒼は正確には能力の色だと言われている」

 

「能力? スキル?」

 

「旧き者達。古の伝説……ノクロシアの住人達は等しく蒼い瞳を持っていたとな。大神に蒼い瞳が多いのはそのせいだという説がある。そして、蒼い瞳には等しく特別な力が宿るとも言われている。スキルを使用する時だけ、蒼い瞳になる破片などは珍しくない」

 

「そーなんだ。へぇ~~」

 

【分かってねーな。あいつの素性は知らないが、神の力は持ってても、その類じゃないのは確認してる。そして、蒼い瞳に大破片の力を受け入れても耐える強靭な精神力……旧き者の末裔、か?】

 

「まつえー?」

 

【めっちゃくっちゃエライ祖先の直系かもしれないって事だ】

 

「あるいは神とは別の方法で生み出された何か、なのかもしれない」

 

【邪神殲滅の為の先兵。何とも今向きの話題だな】

 

「だが、大神勢力の主戦力は受肉神に匹敵する蟲と天使の大群だそうだ。ソレを大陸程もある巨大な船で運んで乗り付けているとか」

 

【あの頃から趣旨替えか。さすがに人間には愛想を尽かしたと見える】

 

「どういう事? アダマシアス」

 

【古の大戦争当時から人間不信な大神は多かったのさ。オレもその割を食った神の使徒の一員だったわけだが……あっちの勢力圏じゃ人間は少数派。もしくは神の加護も無く。見放されているのかもしれないって事だ】

 

「ふ~~ん」

 

【これはどうでもいい時の顔だな。悪いがもう切り上げる。朝食の時間だ】

 

「そうか。此処で少し剣を振ってから向かう。オーガ共も切り上げるようだ。気にせず食べて来るといい。破片は本来食事は要らないものだからな。気が向いたら行こう。シオズに朝食を食べ終わるまでに来なかったら此処に来てくれと伝えておいてくれ」

 

「うん!! じゃあ、また後でね。エーセスさん」

 

 この数日で仲良くなった“強いおねーさん”であるエーセスに手を振って。

 

 ご機嫌で朝食の匂いに釣られ、扉の先に駆け下りていく少女を見送った彼女が背後を振り返るとオーガ達のいる区画の方から一際巨大な体がやってくる。

 

「エーセス様。まだお時間が有る様子ですな。このウードが訓練の標的となりましょう」

 

「ふ……オーガの癖に随分と弁が立つ標的だな」

 

「我が主は戦う事を生き甲斐としておりましたが、同時に統率者としてもまた優秀であるようにと躾けられましたので……」

 

「分かった。迷いが晴れるまで少し甚振らせて貰おう」

 

「勿論です。では、得物は剣で……」

 

 こうして遠巻きにするオーガ達が見守る中。

 

 巨大な力の激突で揺れる舞台の振動は巨大な飛行物体を震わせ。

 

 朝食時の食堂にまでも響く激音となったのだった。

 

 *

 

「……そう言えば」

 

【?】

 

「取り合えず、名前はヴェラでいい?」

 

【ッ……今更じゃないかしら?】

 

「じゃあ、ソレでよろしく」

 

【………はぁぁ】

 

 適当に食堂の一角でボッチな食事中、少年がそう自分の最中の邪神女の溜息を聞いた。

 

 この島の如きソレを動かしている主が普通に食堂で昼食を取っているという事自体、この船に同乗する者達からすれば、驚きなのだが……此処最近は少女姿の少年の扱いが何となくわかって来た女性陣の多くは触らないながらも必要なサーヴィスの類はしっかりと行うというスタンスとなっている。

 

 その上で今日も今日とて食事を摂っていた少年が食べ終えて立ち上がる。

 

 すると、その左手がいきなり真上に上がって何かを掴み取った。

 

「総員、この区画から退避」

 

 その言葉が響くと同時に周辺の者達がいきなり体が黒い真菌の繭に包まれて区画の壁や床にめり込むようにして瞬時に姿を消し―――。

 

「っ、強いじゃん。コイツ♪」

 

 少年が捕まえた相手を虚空に真菌で縫い留めて目を細める。

 

 その少年の腕がバックリと内部から高められた圧力であちこちに亀裂を奔らせ、血飛沫が上がる。

 

 虚空で押し留められているのは薄いハーフプレート……防寒用の軽装甲を身に着けたらしい10代後半くらいにしか見えない破片であった。

 

 そのクリスタルのようなショートカットの髪の毛がサラサラと音を立てる。

 

 金属質な髪の毛とは対照的に相手の肌は薄く滑ったような質感で肌色はしていたが、どこかジト付いている。

 

 その少年の頭部を抉り取ろうとしていた腕の先の手には手甲の鉤爪。

 

 しかし、当たる事なく少年の手に腕を掴まれている彼女が片腕をもぎ取って逃れようとするより先に四方八方から漆黒の大剣が殺到する方が早かった。

 

 だが―――。

 

「がぁあああああああああああああああああああ!!!!」

 

 絶叫。

 

 その口元から発された波動が剣の軌道を捻じ曲げる。

 

 それでも少年は腕を破壊されながらも片腕を逃さず。

 

「力、比べは……苦手、なんだよぉ!!」

 

 唇を歪めた何処か獣染みた顔付きのケモノ耳な少女が片腕の骨を外して無理やり自分の腕を胴体部から引き千切り、脱出した。

 

 だが、その片腕を無くした少女が真菌の糸を縫うようにして回避しながら脱出する前に区画の全ての扉が幾重にも封鎖され、魔力と威力……衝撃や光、熱の吸収に特化した隔壁を多重に形勢しながら内部から逃がさぬ檻となっていく。

 

「何だソレ!? アタシに奔らせないつもり!!? はは!! 強い!! 強い!! 殺したいよ!!」

 

 少女の腕が凄まじい勢いで元に戻る。

 

 腕の指はゴツイ鉤爪と大差の無い金属手甲のように膨れ上がり、帷子のようなパーツを鏤められた装具染みた代物となった。

 

「でも、いい!! 殺す!! 殺させて!! 殺し合おう!!?」

 

 うっとりというよりは高ぶりに殺意と喜びを混ぜた女が闘争本能のままに一直線。

 

 短い助走で少年の正面から激突した。

 

 船が揺れる。

 

 ついでに内部の力を吸収していた真菌の多くがあまりの莫大な出力に伝導させた力を逃す為に偽装を解いて船のあちこちから猛烈な熱量を運動エネルギーとして出力し、高速で円を描くようにして軌道し始めた。

 

 現在位置をあまり動かさずに余分の力を逃す為に円運動で消費しているのだ。

 

「いいね!! いいね!! あの野郎をぶっ殺す用の技なのに!! 留めちゃうんだ!!? すごい!!」

 

 喜色満面。

 

 自分の突撃時の一度千切れた腕が再び真正面から砕かれて、剣に半ばまで立ち割られ、瞬時に切り飛ばされて真菌に喰らわれているのを横目に嬉しそうな声を上げた彼女がダラリと舌なめずりして、狂暴な視線で自分の腕を飛ばした相手を見やる。

 

 その大剣を持つ片手は彼女の一点刺突攻撃で半ばまで抉れていたが、再生は間に合っているらしく……瞬時に復元が終っていた。

 

「なら、こう!! これ!! これを受け止めてよ!!」

 

 ギュルンッと瞬時に身を低くしたケモミミ少女が左脚で足払いのような動作をした刹那。

 

 グバッと部屋そのものが内部からの衝撃で押し広げられ、もう片方の手が床を打った瞬間にはもう崩落していた。

 

 勿論、真菌はすぐに再生を開始しているが、一気に7層近くをブチ抜いた彼女の片手の先。

 

 何も無い空が見えて、外に飛び出した彼女の体が6分割して虚空にばら蒔かれ、次々に黒い真菌の糸で回収されていくが、頭部だけは回収し損ねて下方に消えていく。

 

 ほぼ同時に船のあちこちで猛烈な爆発が発生。

 

 肉体を取り込んだ真菌の一部から伝導された力があちこちの熱量や衝撃諸々の排出口から噴き出して、周辺区画諸共粉砕。

 

 辛うじて普通の身体強度しか持たない船員達に被害は出なかったが、一部のオーガ達は船外まで吹き飛んで地表に落下。

 

 ソレを追って、船底から真菌の糸が放たれ、宙ぶらりんになった者達を回収していく。

 

 少年の前に真菌のマイクのようなものがスタンドのようなものと一緒にせり上がって来る。

 

「……すぐ敵が来る。ウード」

 

『御意』

 

 少年の真菌越しの声に頷いてオーガ達の統率者は砲撃戦と白兵戦の指示出しを始める。

 

『オイ。今のは―――』

 

「何たらのセキレイに侵入された。すぐに艦隊が来る。戦闘準備」

 

『逃げないのか?』

 

「アレ相手に逃げるのは悪手。此処で叩き潰すのが最善。エルタイナーは出していい。ただし、そっちで面倒を見る事」

 

『了解した。そちらは任せよう』

 

 エーセスとの通信が途切れる。

 

【で、我らはどうすんだい? 見ていたが、あの撥ねっかえりそうなのは昔なら方々の片腕くらいにはなりそうな実力に見えたが?】

 

『おばばは待機。白兵戦になったら、例の代物で艦隊を砲撃』

 

【冷静だね。じゃあ、そうしようかい】

 

『何じゃぁああああ!!? 何が起こっとるんじゃ!? というか!? ペッペッ!? 口に入りよったぞ!? 黒いシンキンとか言うのに包まれまくりじゃぞ我ら!?』

 

「これから戦闘になる。エルフは大人しく一番安全な場所で包まれてて欲しい。観戦はご自由に」

 

『ちょ!? 戦闘になったのかや!? というか、襲撃された!? ああもう!? いきなり過ぎて困るが、分かった!? 取り合えず、魔歌の用意はしておくからな!!』

 

「よろしく」

 

『どちら様でしたか?』

 

「そっちが言ってたなんたらのセキレイに入り込まれて排除した。復元して戻って来るまで数分しかない。海賊団は船の本体に移動して、砲撃戦をオーガ達に指導して欲しい。非戦闘員はもう真菌で包んで格納済み。戦える使徒階梯は倉庫から好きなアーティファクトを持って行っていい」

 

『おやおや。どうやら危機的状況のようだ』

 

「危機的なわけがない。挨拶されただけ。面倒なのはコレから……恐らくあちこちに魔力式の罠や感知に掛からない類の隠蔽されたアーティファクトが置かれてる。探して見付けたら、見つけたと叫んで壁や床の真菌に押し込んでおいて欲しい。ソレでどうにかなる」

 

『分かりました。では、そのように……』

 

 海賊団の棟梁。

 

 ラダマンテ・ナッチャーがすぐに船員達を纏めて艦内に仕掛けられたアーティファクト捜索に乗り出していく。

 

【オイ。何があった?】

 

『どーしたの!? すごい揺れたよ!!』

 

「今、破片の襲撃があった。撃退はした。ただ、すぐに後続艦隊が来る。艦隊戦中は問題ない。問題は白兵戦になった場合、そっちをその区画に誘導する。指示は一つ。艦そのものの区画は幾ら放棄してもいい。ただし、船員に被害は出さないように立ち回ってくれると助かる」

 

『わ、分かった!! すぐ準備する!!』

 

【アーティファクトは?】

 

『近距離と中距離で区画毎焼くような広範囲殲滅用も使用可。ただし、船体を貫通する類のものは航行に支障が出るから不可』

 

【了解した。つってもなー……破片と近接戦じゃ、今のユイじゃ荷が重過ぎる。出来れば、使徒程度にしといてくれ】

 

『分かってる。雑魚の破片はこっちで狩り尽くすから問題ない』

 

【おーこわ……破片に雑魚も何も本来無いんだがな……】

 

「総員!! 戦闘準備!! 死にたくなければ、死ぬ気で働くように!!」

 

 艦内に響く少年の声は事実しか言っていない。

 

 少年の現在の能力的に大破片に匹敵するだろう敵を何人も相手に出来たりはしない。

 

 率いる船の維持だけでも相当な負荷を常に受けているのだ。

 

 結果として、死人を出さずに戦うのならば、それはまったく大破片の遺物を幾ら取り込んでも難事の類に違いなかったのである。

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