流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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葬章「兆銀河蜘蛛伝説 発動篇」

 

―――帝国銀河団中核星系母星ガイア2。

 

「分っているのだろうな。この観艦式の成否によって次なる宇宙の時代が、我ら帝国銀河団の趨勢が決まる」

 

「はっ!? 陛下!! 心得てございます!!」

 

 惑星が無数に列を成す帝国銀河団中核星系は正しく楽園と総称されるに相応しいだけの威容を誇っている。

 

 もはや労働が必要に迫られたものではなく。

 

 生き方の一つとして定着して久しい銀河団の中心領域は大量の従属惑星を統治機構に任せ、あらゆる物資と娯楽に溢れた自由市民達の世界だ。

 

 働き手が少なくなれば、人口知性で補うし、働き手が増え過ぎれば、仕事を政府が発注する。

 

 天上の美が彫刻や工芸、大規模な庭園のような分かり易いステータスとして見えるのは表向きの娯楽であり、寿命を超越した楽園の住人達は電脳空間でならば、神にも等しくあらゆる快楽を享受可能だ。

 

 増えた人口は人造惑星へと移住すれば良いし、戦闘が娯楽ならば、兵役に付けばいいし、中核星系の出身者は事実上の上流階級であり、一人に付き一隻の護衛艦が付く程のVIPだ。

 

「議会の連中め。何故、最先方のオロモス級の映像を見せんのだ。何かマズイ事でもあると言うのか?」

 

「い、いえ、存じ上げません。ですが、何か騒がしいようだと部下からは訊いております。どうやら、議長以下の方々の顔が青ざめていたとか」

 

「何? 邪神でも出たか? この300年はこの銀河と周辺銀河にも出ていなかったと聞いているが、さすがに宇宙中心領域のような辺境には跋扈していた、という事か?」

 

「申し訳ありません。何とも……ですが、軍参謀本部へ向かえば、情報はおのずと入って来るかと」

 

「フン。お飾りをしているのも存外大変なのだがな。重要な時に重要な決断が出来ねば、責められるのが皇帝職だと言うのに連中……肝心な時程に締め出してくる」

 

「お気持ちお察し致します。既に転移用のゲートは確保しております。レッドラインより入り、4分程徒歩をお願い出来ればと」

 

「仕方ないか。邪神の侵入に最も有効なのは物理的な空間距離であると譲らぬ連中だ。許そう」

 

「はっ!! 大変申し訳なく。すぐに……」

 

 楽園の住人を統括するのは議会であるが、選出される全ての議員は各銀河の代表者の中から1名である。

 

 それを称して旧き時代の帝政という政治形態を一部取り入れ、権威として象徴化した帝国は事実上の職業皇帝と呼ばれる。

 

 皇帝は楽園の中心母星に入り、そこで象徴的権威の仕事として幾つかの業務に従事するわけだが、その一つは公然の沈黙の下、責任を取るというものである。

 

 責任を取らされるのだから、退位するのも存外早く。

 

 寿命の2分の1程度の時間で降りる事も多い。

 

「これはこれは皇帝陛下。ご機嫌麗しう」

 

「世辞はよい。何があったか端的に言え。責任を取るのはこちらだ。隠し事は無しだ。元帥」

 

「………………」

 

「何だ? 言えぬ程の大失態か?」

 

「恐らく、ですが」

 

「恐らくだと? 正確を旨とする貴様ら軍にしては言う事が曖昧では無いか」

 

「恐らく……壊滅致しました」

 

「っ、何という事だ。で? 邪神共はそれ程に多かったのか? オロモス級の建造は各地で終えているものが400隻を超えぬのだぞ? 一隻落ちるとなれば、400隻落ちるのと大差無いであろう」

 

「さすがにそこまでは申しません。申しませんが……どうか、気を確かに持って下されば幸いです」

 

「気だと? 宇宙の命運に責任を持つ以上の気負いなどありはしないだろうに」

 

「尤もでございます。ですが、旧き者の直系の方々にはどうにも刺激が強過ぎると思い……中核星系では関連情報の検閲を現在続行中であります」

 

「邪神に食われるのを家族に垂れ流す程、貴様らが悪趣味でなくて助かるよ」

 

「そういうのとは少し毛色が違うのですが……二つお約束を」

 

「約束だと? やけに念を押すな? 申してみよ」

 

「一つ。どうか。相手側との戦闘が始まってしまった場合は艦隊運用は我が軍に一任下さい。二つ。何があっても皇帝職はしばらく下りずに最後まで全うして頂ければ幸いです」

 

「言われずともそうしていただろうに。其処まで酷いか。また準知性体共の中から完全市民を取り立てねばならぬ程の喪失に見まわれねば何も言うまいよ」

 

「では、映像を流します。どうか、気をしっかりとお持ち下さい」

 

「これでも軍属上がりだ。見せろ……」

 

―――オロモス級ライブ映像4時間前。

 

「な、何が起こったぁ!!?」

 

「全艦隊のシステム・ネットワークが一部シャットダウンされました!!? 全艦のシステム・エラーが!?」

 

「馬鹿な!? 我らの防壁は常に最新なのだぞ!? 邪神共への侵食は万全のはずだ!?」

 

「ど、どうにか手動で復旧を、ガっ!?」

 

「な、何だ!?」

 

 その時、艦隊の全ての艦には異常が起きていた。

 

 と、同時に複数のkm級艦船が猛烈な対G性能を各区ブロック毎の予備電源で緊急起動。

 

 しかし、内部へと通った“打撃”による衝撃で殆どの人員は気を失っていた。

 

 彼らが真っ暗闇の最中にもコンソールを視認出来たのは単純に発光性能のある部材をシステム周りに組み込んで全システムの再立ち上げを手動で出来るようにと備えていたからだ。

 

 ナノマシンによる自己修復という類のものは組み込んである。

 

 だが、最後の命綱は手動というのが軍の伝統であった。

 

 だが、だからこそ、彼らは見てしまう。

 

 ゆっくりとコンソールから生え始めた小さな緋色の華が壁伝いに侵食して、艦橋どころか艦船の通路のあらゆる場所を埋め尽くしていく。

 

「は、華、だと!?」

 

 その光景はオロモス級内部からだけは見えていた。

 

 巨大過ぎるオロモス級の全体に緋色の華が咲きながら増えていく合間にも残っているシステムは外の情報を映し出し、艦隊の情報は侵食され切っていないシステムによって確認出来ていたのだ。

 

「―――な、何だアレは!!?」

 

 突如の出来事であった。

 

 数百km以上の巨大な図体を誇る中位邪神の群れ。

 

 その眼前にばら蒔かれていたはずのポットが消え失せた後。

 

 いきなり、邪神達が悍ましく流動し、肉塊へと変形していたのだ。

 

 それと時を同じくして艦隊のシステムが機能停止。

 

 復旧作業に当たるオペレーター達がシステム内のスキャニングを開始し、一斉に顔を引き攣らせたのも無理は無い。

 

 電脳空間上のシステムのノード汚染を切り離そうとしていた彼らはその内部に巣くっている原因らしきものの一部をサンドボックス内に隔離して確認したのだが、ギョッとする以外無かった。

 

「(=_=)(ふむ。もう見つかったか……案外に優秀なようだと相手を“見返す”セブンス・ヤーンの顔)」

 

 緋色の蜘蛛。

 

 デミ・ストレンジ・レッドを肉体とする究極侵食生物。

 

 ヘリオスがシステムのあちこちのノード内で自分の分身を次々に物理、電子空間上で増やしながら、中核となる演算装置の中心部でシステム・カーネルを書き換えている最中だったからである。

 

 異様な電子データを視覚化するプログラムが用いられていた為、一早く異様な蟲にシステムが蝕まれている事を確認した彼らがサンドボックス内のソレを消去しようとした。

 

 だが、バチリと生き残っていたコンソールから緋色の華が咲いて操作不能となる。

 

 それとほぼ同時にコンソール内から発生した緋色の粒子がゆっくりと実体を持ちながら彼らの前で実体化していく。

 

「ひ!? む、蟲の化け物ぉ!!? 実体化した!!? ホ、ホログラムじゃないぞぉおおおおおお!!?」

 

 彼らが艦橋の者達が銃を向ける最中。

 

 ギョロリとした緋色の蜘蛛に睨まれた者達がソレだけでヘタッと脚から力が抜けた。

 

『(◎_◎)温いな。邪神共と大差無いどころか。技術を極めつつあるせいで闘争本能が殆ど感じられない。感情の伴わない作業と仕事は闘争ではないという事を知らないと見える』

 

「な、何だ!? 貴様は!?」

 

 駆け付けて来たのは内部に侵入してきた邪神を破壊する白兵戦装備を携えてやって来た部隊を従えた参謀職の者達だった。

 

 本来ならば真っ先に逃げるべきところであるが、あちこちに緋色の華が咲き乱れていたせいで逃げられなかったのだ。

 

 ならば、艦隊を救うべく。

 

 現れた何かを斃すのが最後の手段だと憲兵と共に駆け付けて来た彼らは浮遊する緋色の蜘蛛の様子に度肝を抜かれた。

 

「(@_@)我らは大いなる父の子にしてあの星の守護者。蜘蛛の氏族率いるセブンス・ヤーンが一人【後塵のヘリオス】」

 

「く、クモの氏族!? アラシリアに似ているが、連中言語を介するのか!? 新手の邪神め!?」

 

 次々に小銃どころかバズーカの類が持ち出され、オペレーター達が後方へと走っていく。

 

「(´-ω-`)滑稽だな。帝国とやら」

 

「な、何ぃ!?」

 

 ケモミミのおっさんが思わず吠える。

 

「(´○ω〇`)技術さえあれば、優等か? 知能さえ高ければ優先されるべきか? ならば、貴様らに未来は無い。合理化と技術的な極地に立ったとて、我らに勝てぬ貴様らは貴様らの価値観で我らが語れば、劣等種族の寄せ集めに過ぎない」

 

 ギョロリとヘリオスがおっさんを見やる。

 

 その瞳に思わず失禁するオペレーターが多数。

 

 彼らは合理主義者の戦争屋だが、決して命を懸けて決闘をする闘士ではない。

 

 兵士の意味が合理主義を極めた帝国においてオペレーターというものに堕した時、命を賭すだけでは足りない戦場の怖ろしさを知らぬ層は一定数混じるのも無理からぬ事であった。

 

「な、舐めるなよぉ!? 邪神程度が!? 我ら帝国銀河団を前にして邪神は狩られる運命だと知れ」

 

「( ̄▽ ̄)くくくくく」

 

「何がオカシイ!!?」

 

 思わずヘリオスは初めて、本当に初めて仲間内のセブンス・ヤーンでは見せなかったような失笑を見せていた。

 

「(~|~▽~|~)貴様らが邪神と呼んでいるのは邪神どころか。眷属ですらない。アレは単なる影だ」

 

「か、影だと!? どういう意味だ!?」

 

「(~〇~▽~〇~)1個体使徒階梯1千人分と言ったところか。絞り尽くせば作れる程度のハリボテだ。本体が操る事で規模と技能を胡麻化しているようだが、余程に羽虫を潰して回るのは面倒なのだろうな。その物量は褒めてもイイ。邪神を飽きさせるとは大したものだ。だが、アレを前にして勝利した等と粋がっている貴様ら宇宙帝国とやらは相手にすらされていないぞ」

 

「な、何ぃいい!!?」

 

「(~|ω|~)その程度の貴様らが目指す楽園とやらに手を出そうとはお笑いだ。貴様らは主労働力を準知性体と呼んでいるようだが、事実上の奴隷を言い直しただけで実情は何も変わらないようだ。貴様らのような品性下劣にして浅ましい劣等種族が宇宙の一部たりとはいえ、銀河の覇権だとは笑わせる」

 

「れ、劣等種族だと!? 我ら誇り高き銀河の独立上位種族を前にして!!? 殺されたいか下等生物め!!?」

 

「(~|ω|~)そうして理解していて直そうともせずに無視しているから劣等だと言うのだ。旧き者達から見ても遥かに知性でも精神性でも劣る貴様らに子孫を名乗る資格は無い。そして、あの領域を今も見ているらしい“真なる邪神”共の逆鱗に触れれば、どれ程の数も殆ど貴様らの意志では意味を成さない」

 

「何を馬鹿な事を!!? 蟲如きが我らより優等だと宣うつもりか!!?」

 

「(´-ω-`)残念な事だ……ノクロシアの情報にあった旧き者の創るはずの“より良き知性”とやらは失敗作だったようだな。大神共の被造物連中の方がまだ感情という点では優れている。造った本人共にその良さが理解出来なかった事が最も悲劇かもしれないが、今更か」

 

「か、神だと!? 神はいない!!? この世界に神はいないはずだ!!?」

 

「(T_T)その通りだ。旧き者達も遂には神を造るが、神ならぬ神モドキにしか過ぎなかった。だが、それでも貴様らよりは余程に“良心的”で“倫理的”だったのは疑いようがない」

 

 ヘリオスがスタスタ歩いて彼らに近付く。

 

 すぐに小銃が撃たれようとしたが、ケモミミのおっさんがソレを押し留めた。

 

 そして、近付いて来る相手に対して震えながらも堂々と自分の脚で歩いていく。

 

「何が望みだ!! 邪神!!?」

 

「(・ω・)謝罪と賠償を請求する。貴様らが楽園と呼ぶ星系に許しなく立ち入ろうとした事への謝罪。そして、我らの資源として活用するはずだった領域の岩石惑星を消滅させた事への賠償。もし、それらが成されなければ、帝国とやらは8日後に崩壊するだろう。これは脅しではない。単なる予定だ」

 

「ッ、い、言わせておけば!!? 銀河団全ての知性に喧嘩を売るつもりか!!?」

 

「(´・ω・`)準知性体とやら以外には売ったかもしれんな。賠償内容は帝国基準の準知性体の全身柄及び遺伝構造情報と文化、文明、生息惑星情報の全てだ。この賠償に応じない場合、8日目以降、1日毎に帝国とやらから悪意ある者と我らが生存を許さぬ者が消え失せるだろう。今日はこれで失礼する。8日後、返答を此処に持ってくるといい。持って来れない場合も事態は進行する事を申し添えておこう」

 

 緋色の蜘蛛が瞬時に虚空に溶けて消えた。

 

 それと同時に艦内のシステムが復旧する。

 

「か、艦内システムの復旧を確認!!?」

 

「じゃ、邪神共は!? 外は一体、どうなっている!!?」

 

 コンソールにオペレーター達が慌てて戻り、外の状況を確認した時、そこには……何も残っていなかった。

 

「え………」

 

 思わずオペレーター達の顔が青ざめ、口元を手で押さえる者が多数。

 

 無数の艦船に埋め尽くされていたはずの長大な宙域の最中には………一隻も……本当に一隻も味方の識別コードが見当たらなかった。

 

 それは同時に全滅を意味するのか。

 

 分からずとも、一つだけは確かだろう。

 

 オロモス級の外には邪神すらいなかった。

 

 数千億個体もいたはずの反応が一体も。

 

「な、何だと言うのだ……どういう事なのだ!? 一体、アレは!? アレは!!?」

 

 震える唇で皇帝は一連の映像を見終えて、ハッと気付く。

 

「オイ!!? 準知性体共は―――」

 

「残念ですが、陛下……手遅れです。各銀河にライブ映像を中継しておりました。通信機能が乗っ取られていたらしく」

 

「何と言う事だ……っ」

 

「誤差や時差はありましたが、各地で暴動と騒乱が多発しており、非殺傷系の鎮圧兵器で対処しているところです。が、焼石に水ですな。各銀河の植民惑星の4割で大規模な軍の動員が行われている最中ですが、殺傷兵器を使うのでなければ、早晩落ちます。引き上げさせた方が倫理的にも道徳的にも軍の家族会からの評判的にもよろしいかと」

 

「そ……そういう事か。議会の連中め。今、各地の銀河で部下共を奔走させている最中か」

 

「左様かと」

 

「分かった。暴動の起きた地域では戦略非殺傷兵器での鎮圧を許可する。その後、順次撤退し、一時惑星外、コロニー外へと退避せよ。準知性体共にはしばらくの食糧だけ渡してやれ。それ以外は何もせずに時間が過ぎるのを待て。こちらで議会のタヌキ共と掛け合って来る」

 

「よろしくお願い致します。陛下……このままでは全銀河団規模の暴動で帝国が滅びます」

 

「分っている。く……一個軍団丸々持っていかれただと? 奴らは一体……クモの氏族と言っていたな。軍の方で解析の人員を用意出来るな?」

 

「はい。既に各銀河より選りすぐりを招集しており、一両日中には集められるかと。解析には数日掛かるのをご容赦下さい」

 

「構わぬ。それにしても何と呼べばいいのだ。あの力……邪神すらも凌ぐ力だと……どうやら我ら帝国は初めて本当の障害にブチ当たっているようだ。元帥……観艦式の戦力は動かせるか?」

 

「可能です。ですが、各植民惑星の制圧分を勘案致しますと……正味6割が限界かと」

 

「動かせればいい。オロモス級も緊急転移で光年単位で星域を囲むように再配置せよ。ここが正念場だ!! 8日後までに全艦隊の配置を急げ!!」

 

「了解致しました。ご命令通りになるよう最善を尽くします」

 

 その日、帝国銀河団最高議会は各地の準知性体と呼ばれる知能と知性の低い生命体への“慈悲”として食料だけは置いて順次惑星やコロニーから撤退。

 

 暴動で準知性体の独立を掲げた者達による独立宣言を議会は無視して、軍の再編と再配置の為に大規模な転移用のゲートを各地域で展開し、莫大な戦力を宇宙中心領域へと送り込む事になる。

 

 規模の面で言えば、蜘蛛達に勝ち目は無かった。

 

 そう、規模だけの面で言えば、まったく蜘蛛達は喧嘩を売る相手を間違えてしまったと言えるかもしれない。

 

「(/・ω・)/(おまつりのじゅんびかいしーという顔)」

 

「\(゜ロ\)(/ロ゜)/(よっしゃぁああああああと光速の数%で機動して準備を始める見えない宇宙の疾風と化した蜘蛛の顔)」

 

「(≧◇≦)(ちちが帰ってくるまでに全部片付けておかなきゃと銀河団規模戦力を宿題として消化しようと懸命に努力する蜘蛛の顔)」

 

「(;´・ω・)(ま、大神連中とのあの戦力比に比べれば、1億倍差程度でしょ。さっさと片付けてカルトレルム討伐遠征の準備しなきゃだし、サクッと片付けましょと各地の蜘蛛達に地獄門経由で連絡を取り始める蜘蛛の顔)」

 

 ただ、宇宙に冠たる帝国はその時点で蜘蛛達の思い通りの行動に誘導されていた事を後々に戦史の学者達は確信する事となる。

 

 莫大な物量を引っ繰り返す方法はたった一つ。

 

 消耗戦以外の戦術で勝つ、である。

 

 そして、その消耗戦以外の戦術は既に完成していたのだ。

 

 盤上でも盤外でも。

 

「( ̄ー ̄)(………………)」

 

「(@_@)(上司のヒトー起きてー上司のヒトーと白く丸まって寝入る最終兵器系セブンス・ヤーンである元ヴァルハイルな蜘蛛に仕事を頼みに来た蜘蛛の顔)」

 

 蜘蛛は油断しない。

 

 蜘蛛は準備を怠らない。

 

 そして、蜘蛛は勝算の無い戦いはしないのである。

 

 彼らの父が勝算の無い戦いに常に挑み続ける以上、彼らの役割はその勝算を引き上げる事なのであるからして、冷静なる蜘蛛達のアドリブに近い宣戦布告はまったく急造ながらも決して行き当たりばったりというわけでもなかった。

 

 少年が勝利した後の世界が平穏であれと願うのならば、彼らのやるべき事はまったく間違ってはいなかったのである。

 

 *

 

「あ、蜘蛛さんだー。こんにちわー蜘蛛さん♪」

 

「ヾ(≧▽≦)ノ(こんにちわーと幼女に手を振って愛想を振りまくヌイグルミ蜘蛛の顔)」

 

「ど~も~ほほほほ」

 

「(●´ω`●)(はい。いつもの魔力増加飴ちゃんあげるねと将来有望な幼女に飴を与えて餌付けする抜かりない人材育成大好き蜘蛛の顔)」

 

「ありがとー。アユシャ、これすきー♪ またねー。ばいばい蜘蛛さーん」

 

 近頃、とある惑星の大陸群から消え失せた職業がある。

 

 それは所謂冒険者という類の中後進大陸の何でも屋だ。

 

 戦闘職と諸々の総合職を合わせたパーティーを組んで世界中のあちこちで活動していた彼らは其々に名前を変えて、今は専門職として生きる事になっていた。

 

 理由は単純である。

 

 需要が0になったからだ。

 

 嘗ては需要しか無かった職業である。

 

 何故、需要が無くなったのか。

 

 それには深くもない訳がある。

 

『村の畑に引いている小川が止まっちゃった!!? 原因を究明して下さい冒険者様!!』→『(´・ω・`)(今日中に灌漑事業始めるから原因究明しなくても問題ないんだけどなーという顔)』

 

『娘の為に高価で希少な薬草のある危険地帯に行って下さいませんか冒険者様!!』→『(^▽^)(蜘蛛式治癒呪紋と各種秘薬は超低価格もしくはむりょーで施療院に卸させて貰ってますという顔)』

 

『危険な化け物が大量に出現したんだ!? お願いだ冒険者様!? タスケテクレ!!?』→『( ̄ω ̄)(あ、それ昨日駆除して来ましたよ?と証拠の魔物系干し肉を大量に天日干ししてる蜘蛛の顔)』

 

『く、危険な魔族が我らの領地に攻め込んで来た!? エス級パーティー頼んだぞ!!?』→『(´ρ`)(まぞーくの人がこれからは人間ときょーぞんしますってせーやくしょ書いてくれたよ。あ、トモダチりょーとして山の恵みは程々に取って行っていいってという顔)』

 

 冒険者というのが専業の労働者として成り立っていた大陸の大半は根本的に専業従事者が足りていない労働力不足な世界が基礎としてある。

 

 しかし、蜘蛛による超規模物流網の整備と超規模物資の超廉価薄利多売戦略で一気に大陸の懐事情と物資事情は改善。

 

 ついでに蜘蛛の氏族による治安維持及び採算の出ない事業や諸々のお困り事への対応が蜘蛛の氏族の商売を認めると無料で付いて来る事から、人々のお困り事は消し飛んだ。

 

「蜘蛛は神!! オ、オレの長年の夢がようやく!!? 爺さん!! この山に道が!? 道が曳けたよ!!」

 

「うぅぅぅぅ、蜘蛛の方々のおかげでこの田舎にも水が!? もう水で困る事が無くなるなんて夢みたいです。ありがとう!! 蜘蛛の方々!!」

 

「医者のいない田舎に蜘蛛の方が来てから本当に死亡者数が減って……子供達が死ななくなった……こんなにありがたい事は無いよ。ねぇ、あなた……」

 

「そうだな。蜘蛛の方々が来て下さった事を神に感謝しないとな」

 

「(´・ω・`)(いや、だから神は……ま、いっか……どうせ、文明化で神格への信仰は極限まで低減させるし……と感謝を受けて愛想を振りまいておく蜘蛛の顔)」

 

 彼らが今までにない職業や職種を輸入し、あらゆる仕事を用意し、それを満たす人材の教育、訓練までも無償で行って各地で慈善活動として危険な職種や金にならない職種の需要が全て満たされた上で人々を教化している関係で一気に識字率と知識層と学問の徒と生活の質が増加。

 

 結果として依頼は消え失せた。

 

 つまり、晴れて冒険者の要らない世界が数か月で到来した。

 

 結果、職にあぶれた冒険者達は次々に転職。

 

 平和な職種に就くも良し。

 

 探検家と称して旅をするも良し。

 

 蜘蛛の下で働くも良し。

 

 嘗てボウケンシャーの溜まり場だったギルドやら宿やら協会やらの類は何処かしらの勢力が運営していたのも昔の話。

 

 今や蜘蛛の氏族商会として再利用され、昼夜なく人が出入りする賑わう現場となっており、24時間営業のコンビニ染みて仕事を手配してくれる場所となっていた。

 

『(`・ω・´)(はろーどーほーしょくーん)

 

『(|◇|)ゞ(あ、せんぱいだー超長距離の地獄門経由つーしんとか。とーいなーお仕事ごくろーさまー。何かあったのー?)』

 

『(´・ω・`)(ちょっと、ろーどーりょく、ほしくない?)』

 

『(´▽`)(いつでもダイカンゲーですが)』

 

『(^O^)/(うちゅーじん数万ダースくらい増えてもいい?)』

 

『(●´ω`●)(ぎのーしょくはうぇるかむ。むのうは詰め込み方式でどーにでもなるからうぇるかむ。せーしんせーだけは良いのがイイなー)』

 

『(>_<)/(おーけぇいと渋い声で転移でうちゅーじんろーどーしゃをおくるリクルーターの顔)』

 

 デデドン。

 

『(´Д⊂ヽ………』

 

 真顔になる蜘蛛の氏族商会所属の普通の事務職員=サンの胃がキリキリし始めたのも無理は無いだろう。

 

 彼らは知っている。

 

 蜘蛛は嘘を吐かない。

 

 真実を丸っと教えない事はあっても嘘は言わない。

 

 そして、蜘蛛のキシャー語やらボディランゲージやら看板やらで鍛えられた超絶コミュ力おばけと化した彼らは何となく知っている。

 

 蜘蛛達がほんわか語っているのが、先進大陸の読み物にありがちなSF世界の住人であると。

 

 何せ各大陸の蜘蛛の氏族商会の多くが“火星行き”やら“月面行き”やら“別星系×××宙域行き”やらの荷物を発送しているのだ。

 

 最初こそ何かの冗談かと思った彼らだが、実際に蜘蛛達に時折、宇宙の外のお土産と称して火星産〇〇とか月面製○○とか貰ったりしているのだ。

 

 中世レベルの世界にいきなり別惑星を持ち出されても理解が追い付かない彼らだったが蜘蛛達を見る限りはそういうものだと納得するしかなく。

 

 実際、一緒に行ったりする者もいた為、まったく家族や友人に教えても信じてくれ無さそうな蜘蛛達の事情を齧っている限りは全て事実として理解していた。

 

「((/o\))(また仕事が増えるよ、やったね……と震え声を押し殺す健康過ぎて働き過ぎな現在一財産どころか六財産くらい資産が形成されてる普通の事務職員の顔)」

 

「(^▽^)(僕らーの上司は蜘蛛の人~蜘蛛の人だからヤバイんだ~と諦観の極地に達してアルカイック・スマイルで事務作業を高速処理していく秘薬付け職員の顔)」

 

 何より彼らは蜘蛛が宇宙空間で普通に作業している様子を資料で見ていた。

 

 ついでにこれから惑星外物流網の構築を行う際の人員としても教育されつつあり、事実上ファンタジー世界からSF世界への転職第一号勢となる事が決まっている。

 

 その為にやたらマズイ秘薬を飲まされたり、ワクチンを打ったり、宇宙空間での仕事の仕方や基礎知識を諸々教えられているのだ。

 

「\(^o^)/……数十万、百万単位の見知らぬ種族で言語すら通じない人材が来るって、こと?」

 

 さぁぁぁっと笑顔で蒼褪めた彼らは蜘蛛の上司から仕事が下りて来る前に慌てて準備を始めるのだった。

 

『(>_<)/(うちゅーしんしゅつくみはたいへんだなーとうちゅー帝国と事を構えてサックリ処分する為の方法を確認してる事務職員系蜘蛛の顔)』

 

 蜘蛛達が新たな宇宙時代到来に向けた準備を補佐する蜘蛛の氏族商会所属の事務職員達は正しく事務の鉄人として先進大陸の情報処理端末やら効率化の為の情報機器操作やらを習熟しながら、未だに畑で野良仕事とか狩りで野生動物狩って生計立ててるお隣さんや家族達の下にすっかり都会系と言われるような先進国の事務職員用のスーツを着込んで帰宅。

 

 家族に法螺話の達人になったなと笑われながら『嘘じゃないんだけどなぁ……』とこれから来る新しい時代に向けて未だ中世な生活中である親族や家族達が時代に付いていけるようにしなければと家庭でも格闘を始めるのだった。

 

 言うまでも無く。

 

 彼らはこれから来る大宇宙時代にして大移民時代にして大蜘蛛さん時代をヒシヒシと感じ、その荒波に揉まれまくっている最中だったのである。

 

 *

 

―――8日後。

 

「何とか議会はまとめ切った。連中……業突く張り共め……準知性体共は今のところ惑星やコロニーに押し込めておけている。問題は……」

 

 ガイア2と称される惑星の心臓部は赤道上に建造された巨大人造プラットフォーム。

 

 移動大陸として惑星の超低空を周回している。

 

 その大陸の中央に位置する皇帝の居城は旧き伝統と最新設備を用いた要塞にして神殿という類の造形な巨大列柱と城で構成された代物だ。

 

 その城の最中。

 

 ずっと寝ずに各銀河との調整を行っていた皇帝の肌には疲れ一つ無い。

 

「3000年ぶりか。これ程に働くのも……だが、マズイな。我らは奢らずとも、下の連中を永く使い過ぎた。平和ボケしていたのは仕方ないとしても末端の統制が取れていなかったせいで“気を利かせる連中”がいない……新種族を造るべき時代に入ったかもしれんな……」

 

 中核星系に存在する全住人は基本的に食事をする必要も無ければ、歳も取らないし、極めて死に難いという特性がある。

 

 嘗て、銀河に覇を唱え、別銀河を蚕食していく過程で大量絶滅を経験した者達の多くは年齢を克服し、死をある程度克服し、現在に住まう者の多くは人口統制こそ受けているが、ほぼ上流階級として永い時間を過ごしている。

 

 年齢を下げる事から始まり、記憶の一部消去、自身の人格のテンプレート化による機械への保存、考えられる限り、あらゆる“個”の保存が行われた。

 

「あの有機生命体はクモと名乗っていたが、中々見事な能力をしている。網羅されていない基礎能力がほぼ無い? 遺伝情報を破壊しようにも一切のサンプルすら残されていないとは……」

 

 結果として安定化して以降、彼らの人口は減る事はほぼ無く。

 

 増える一方になった後は子孫を増やす場合は新たな資源惑星を必要とするという報率が出来ただけで現在に至っていた。

 

 銀河を率いる程にまで広がった数多くの帝国を下して下して下して下して下して、最後に残った中核星系のある銀河が全覇権を握ったのだ。

 

 神の如き者達と呼ばれる事もある彼らは使用しようと思えば、あらゆる種族の能力を様々な媒体で自身の肉体に上書きする事も出来る。

 

 こうして成長し切った種族となった彼らは“自己種族”というものを持たず。

 

 全てが混沌と交じり合いながらも、遥か始祖から受け継いだ“人型”の肉体の形だけは守るという不文律で動く存在と化し、現在に至っている。

 

 その皇帝に選出されるともなれば、正しくその列に並ぶのは遥か銀河の軍神と称えられる者達が大半であり、不眠不休で働く事など常の事であった。

 

「だが、帝国に喧嘩を売るような状況である以上、楽園は確かにある。そして、何が待っているにしても……我らは先に進むしかないわけか……儘ならんな」

 

 皇帝が苦笑する。

 

 無かった事には出来ない。

 

 それは帝国の崩壊序曲だ。

 

 そして、何も見せないというのも出来ない。

 

 数多くの準知性体達の暴動と反乱を治めるには希望を折る必要がある。

 

 ならば、勝つ姿を見せる以外には帝国に道は無い。

 

 それは正しく巨大になったからこその弊害かもしれなかった。

 

(中位の邪神共が影か……正しく、それが本当だとすれば、我らは未だ連中の真なる力を目の当たりにはしていないのだろうな)

 

 世界を崩壊させる邪神達はあらゆる汎銀河に存在する普遍的な存在だ。

 

 それを駆逐出来た文明だけが銀河に覇を唱えられる。

 

 その知性体と邪神の戦争の歴史は極めて旧く。

 

 最終的には数百kmから数千kmの巨躯を備えた邪神との最終戦争に敗北した文明は崩壊するのが常であった。

 

 故に邪神を葬る手練手管は銀河帝国の類は絶対に持っているし、多くの文明が邪神との最終戦争に備えている。

 

 だが、それが単なる影だと言われては皇帝も笑うしかないのだ。

 

 世界は決して優しくないと知りながらも永い平和を享受して来た文明となってしまったガイア2を筆頭にする中核星系は新たな時代に突入したと彼は感じていた。

 

 それが破滅の序曲か。

 

 それともまだまだ続く文明の果てを見る為の揺籃期の終わりか。

 

 それは誰に分からないとしても。

 

「さぁ、幕が上がるぞ。今度も渡り切れるか……ふ、始祖達はやはり偉大だったのだな。見るからに我らを超える種族と出会う日も戦い続けられたのだから……臆病だったのか。勇敢だったのか……だが、此処は……戦う場面だ……」

 

 皇帝は玉座に付く。

 

 新たな壁。

 

 蜘蛛の氏族。

 

 そう呼ばれた存在との会談へ望む為に。

 

 次々に楽園のある銀河を囲い込むように大軍勢が何もない虚空。

 

 ヴォイドの最中に現れ、更に銀河を埋め尽くす用に一方向を向いて艦が整列していく。

 

 星々に散らばめられる無数の鈍い鋼の船はまるで数珠繋ぎの曼荼羅の如く。

 

 あるいは全てを包囲する方陣の如く。

 

 銀河を吹き消してしまうだろう皇帝の吐息となって攻め寄せ、新たな時代の舞台へと上がる種族を品定めする観客となった。

 

 銀河団帝国最大の艦船であるオロモス級が囲い込んだ数百光年の領域の最中。

 

 未だ復旧に手を焼いている最先方だったオロモス級旗艦。

 

 フレセンドは会談の場としてその先端部から先に巨大な台座の如き壇上を用意し、そこには既に複数の種族から選出された嘗て皇帝であった者達。

 

 そして、それに続く全ての種族の覇者達が並び立ち。

 

 全ての銀河が固唾を呑んで見守っていた。

 

 ホログラムにしか過ぎないとしても、顔ぶれの全ては銀河の頭であり、事実上の帝国の上層部が揃って報道されるなんて事はまったく前代未聞に違いなかったからだ。

 

『相手の時間間隔は恐らく我らと同じとはいえ、ずっと待ちぼうけさせられるのですかな』

 

『尻が痛いからと席を立ったら負けでしょう』

 

 猿のような小さな種族も樹木の化け物のような大きな種族も。

 

『全ては皇帝陛下次第でしょう』

 

『新たなる種族は我ら独立上位種族に届くとの話ならば、会話は可能だ』

 

 粘液の塊のような種族もミミズが集まった束のような種族も。

 

『どのようにして現れるものか。我らの目には何も映っていないのだが』

 

『時間と次元くらいは超えて来るかと期待したが、どうだか……』

 

 人型ながらも無数の腕を背負う者も人型ながらも数百mはあるだろう巨体で佇む者も。

 

「さて、来たようだ。立ちたまえ諸君」

 

 現れた皇帝の声に全ての種族が立ち上がる。

 

 その最中、あらゆる銀河がどよめく最中。

 

 一体のシュヴァリアが不意に虚空から滲み出るようにして遣ってきた。

 

『ほう? 我らの目にも掛からない。さすがに旧き者達の力を継いでいる、か。かなりの深度となれば、我らの艦の5割方は攻撃が効かないと見るべきですな』

 

『宇宙を崩せば、勝てるのでしょう?』

 

『まぁ、この銀河毎で良ければ、ですよ』

 

 皇帝が今は黙っておけと微妙に睨まれて、背後のお喋り達が押し黙る。

 

『さて、ゴーレムにも似ているが、これも旧き者達の贋作ですかな』

 

 言われている間にも台座に着陸したシュヴァリアの胸部が開く。

 

 すると、何の気無しにヒョイッと一匹の蜘蛛が出て来た。

 

 ノクロシアンや神化した個人ではない。

 

 ヌイグルミっぽくもないし、スタンダードなペカトゥミア。

 

 黒い人間からの変異個体。

 

 スタスタ歩いて来た蜘蛛はホログラムで立って待っている皇帝を前にするとペコリと頭を下げてから何処から取り出したのか。

 

 近頃はお気に入りアイテムである名刺を差し出した。

 

「ほう? 我らの言語をもう解析したのか。優秀だな……クモの氏族商会頭取? それがお前達の命運を預ける役職か? 新たなる独立上位種族……クモの者よ」

 

「( ^ω^ )(じょーしの人から貴方達の査定をお願いされてますと看板に書く顔)」

 

『さ、査定!?』

 

 思わず背後の者達の顔が僅かに渋くなる。

 

「はっはっはっ、権利を主張するだけあって手厳しいな。だが、能力はそれなりだ。精神性という意味でならば、そちらは許せない事があるようだが、まぁ……祖先の頃からの倣いだからな」

 

 皇帝は肩を竦める。

 

「(^o^)(取り合えず、賠償の成否だけお聞きします。どうします? 賠償します?と看板で訊ねてみる顔)」

 

「賠償か。岩石惑星を高々数十個と全銀河の準知性体の総数を天秤に掛けては皇帝職を解任されるのは必至だな。それ以前の問題として受け入れた後はどうするのかを聞かねば、一応は我らが帝国内の者の事という手前、容易には頷けんが……」

 

「(^ω^)(あ、これ新しい労働基準です。どうぞと書面で準知性体への諸々のやらせたい事リストらしいものを手渡す蜘蛛の顔)」

 

「………面白い。一つ訊ねるが、これを用意出来ると言うのか? クモの者よ。準知性体の総数は下手をすれば、400乂程になるのだが……」

 

「(。-∀-)(この銀河に移住先の惑星を創るので問題ありません。4000週間あれば可能ですと無茶苦茶な数字を看板でお出しする蜘蛛の顔)」

 

「短いな。我ら独立上位種族だろうと5万年は掛かる計算なのだが……」

 

「(^▽^)(案外、時間掛かるのねとスケジュールを書面でお出しする顔)」

 

「……そうだな。不可能だ。実現性が無い。有り得ない。と、嘗ての皇帝連中ならば否定すべきところだし、攻撃をさっさと加えて全滅させろと言いたくなる気持ちは分からないでもない。だが、我が勘は言っている。貴様らのような埒外を前にしては我らの分が悪いと」

 

「(@_@)(案外、この皇帝やるなと内心の真顔で思案する蜘蛛の顔)」

 

「意外か? だが、この勘というのは案外侮れない。未来を見る種族を総動員してお前達の未来を見ようとしたが、悉く見えなかったそうだ」

 

「(・ω・)(……賠償への返答は如何に?)」

 

「………本当なら全部無かった事にして帰ってしまいたいというのが本音だ。だが、相対してみて分かる。貴様らは我らに勝つつもりで此処にいる。どう勝つのかはまるで分らんがな。オレの代で帝国銀河団を潰すわけにもいかぬ。この話は―――」

 

 その時だった。

 

 オロモス級の約2割が猛烈な光を発すると同時に巨大なガンマ線バーストを自身の手前に開けた空間の穴から楽園と呼ばれる星域に向けて発射した。

 

「何処の馬鹿だ!? 艦船を緊急停止!!」

 

 一瞬で事態を悟った皇帝が皇帝権限で光の速さを超えて命令が届き、即時停止したオロモス級の全ての兵器がロックされる。

 

 が、刻既に遅く。

 

 銀河を奔る光芒は中性子星に捻じ曲げられながらランダムな軌道を描いて間にある全てのものを蒸発させ、最終的に星系直前まで到達する予想時刻が皇帝の目に表示される。

 

「……済まんが、身内の暴走は帝国銀河団の総意ではないと言って、押し通せぬか?」

 

「(T_T)(さすがに通りませんねと肩を竦める蜘蛛の顔)

 

「そうか。ならば、滅ぼされぬよう抗うとしよう。撃ってしまったものは仕方ない。後でコレを計画した者達には極刑を与える事だけは約束しよう。それまで我が帝国が存続していれば、な」

 

「(^o^)(あなたが一番話が分かりそうなので帝国崩壊したら、暫定政府首班でよろしくと―――)」

 

 その商会頭取の肉体が消失する。

 

 それがホログラム越しにオロモス級の表面兵装の一つによる攻撃だと悟った者は多かった。

 

「後で罰する事は確定だが、何とか五分に持ち込まねば、我らは滅ぶな。参謀連中か? 要らぬ手間を増やしてくれる……」

 

 皇帝が溜息一つ。

 

 全てのオロモス級の全兵装の使用許可を出す。

 

 だが、その背後の者達の何割かが皇帝の今までにない様子に首を傾げていた。

 

 何を帝国の支配者が気にする事などあるのだろう。

 

 少なからず、打てば死ぬ輩を前にして、と。

 

「艦隊に通達。楽園を消せ。その後にクモの氏族との和平交渉を行―――」

 

 その時だった。

 

 ガイア2にまでも達した異変が全てを呑み込んだのは。

 

「な、何だ!?」

 

 玉座で惑星全土が揺れ始めた事で彼が原因を探ろうと高次元領域からの俯瞰図を確認しようとし―――。

 

 独立上位種族の約3割が入植する高次元領土内に意識を向けた時、見えたのはカワイイ・ヌイグルミの顔であった。

 

『(≧▽≦)/(兵士さんは幼女、悪意の塊は蜘蛛、差別ですらない分かり合えないのは次元を超えて悪夢三昧、あ~同胞が増えて心がぴょんぴょんするんじゃ~~♪)』

 

――――――。

 

 この世界の上位次元にある領土がいつの間にか侵攻されていた。

 

 領土と言っても時空間の概念が無い世界である。

 

 だからこそと言うべきか。

 

 怖ろしい勢いで彼らではない異質な概念そのものと言える活動体が光の速さを遥かに越えて存在を侵食し、次々に変質した独立上位種族の多くが悲鳴と絶望のシンフォニーで逃げ惑い。

 

 己の体がある星系へと戻ろうと接続領域に押し寄せて来ていた。

 

 全銀河単位でも100万を超えない上位種族の数割のメンバーが一瞬にして全滅というよりは変質の危機に瀕しているのに目を剥いた皇帝がすぐに次元との接続を切って繋がりをシャットダウンしていく。

 

「思っていた以上にマズイな。相当に準備されていたと見るべきか」

 

 彼がガイア2を主体とする星系が波動で揺れている原因が独立上位種族の命を削る悲鳴だと理解した時にはその次元に身を置いていた者達を切り捨てる事を確定。

 

 そのまま現実での艦隊戦へと視線を向ける。

 

 オロモス級の全ての艦船、全ての艦船が一斉に撃ち放つ力の塊が星系内部に密集していく。

 

 誘導弾は遅れて後に炸裂する予定であり、空間も次元も無い“虚無”なるヴォイドと星系を化してしまうに違いない飽和攻撃。

 

 さすがにどんな生物も太刀打ちできまい。

 

 と、思いつつも彼は内心でコレではダメだなと率直に思う。

 

 その予想は外れなかった。

 

「やはり、か」

 

 ガンマ線バーストを空間制御であらゆる方面から敵軍に叩き付ける究極の粒子線兵器の極大化版であるオロモス級の主砲が集中した星系外延部。

 

 数分で到達する位置から突如として空間の歪みを通して送られた力が次々に星系に飲み込まれるように消え失せていく。

 

 それはまるでザルで水を受けているかのような状態にも見えた。

 

 あまりの状況にオロモス級の艦長席で次々に何があった解析と報告を急がせろとの叫び。

 

 しかし、優秀なオペレーター達の一部が出したのは明らかに異質な結果であった。

 

『攻撃が星系外延到達時の映像を解析しました!! こ、これは―――クモです!! 星系外延をクモが球状展開している模様です!!?』

 

『何ぃ!? 馬鹿な!? この超出力のオロモス級の主砲を受け止めているのか!? あの生物共は!!? 超大型ブラックホール級のガンマ線バーストを一体どうやって!!?』

 

『い、いえ!? 受け止めているのではなく吸収している模様!!? 殆どのエネルギー総量が星系外延部で途絶しており、後続の重力弾の影響も確認出来ず!!?』

 

『馬鹿な!? 本当に生物なのか?!! この規模の飽和攻撃を防ぎ止めるだと!!?』

 

 雑に主神アマテラスの攻撃を受け切って実践訓練した後のノクロシアンと神化状態の蜘蛛達によるエネルギー吸収効率は極めて高い。

 

 物理量と言えるものならば、何でも吸収し、その吸収量も吸収限界も怖ろしく高い。

 

 何故、遥かアマテラスよりも高出力の力を吸収出来るのか?

 

 理由は単純明快である。

 

 あらゆる事象に干渉する神の力は伊達と酔狂ではない。

 

 事実上、神の力を防ぎ止められるのは神の力だけであり、単なる物理的な力は今の蜘蛛達には銀河を滅ぼす兵器だろうが、宇宙を破壊する兵器だろうが、左程に違いが無い。

 

 現行、ノクロシアから発掘した兵器の解析が島の研究所及び各大陸の傍に浮遊している艦内部でガリガリと進められており、超兵器の複製まで後一歩というところまで来ていた。

 

 それを主導する剣一本打てれば良いと苦笑する鍛冶騎士とのあだ名が出来た研究所の所長やら各地の技術と知識を集めて解析し、統合している黄金の蜘蛛やらが詰めつつある計画ではほぼ最短ルートで方法の確立まで秒読み。

 

 構造と原理さえ解析出来れば、それを彼ら蜘蛛が自分の肉体を用いて実戦する事はまったく不可能な事では無かった。

 

 ノクロシア製超兵器のエネルギー吸収領域の広げ方やら規模拡大方法やらを緻密に蜘蛛達が解析し、星系そのものを囲い込む巨大な盾として己を配置する事で一部の隙も無い物理量の吸収領域を展開。

 

 更にその後方には狂気の天才が造った空間生成装置と複数の神樹の小型揚陸挺が大量に数十万km.に1隻単位で敷き詰められ、長大な距離の間に様々な空間を挟み込むという芸当でエネルギーの距離減衰や重力の吸収を行う緩衝地帯が設定されていた。

 

 8日の間に蜘蛛達が用意した星系守護領域は正しく鉄壁の要塞となり、オロモス級の攻撃を受け止め、殆ど全ての物理量を用いる弾頭を何もない空間で爆砕させてエネルギーを吸収、ついでに空間を歪める兵器やら、生物に猛毒な物質やウィルスや有機タンパクで出来た遺伝情報体までもが安全に受け止められていた。

 

「(@_@)(……光学異性体。ミラーコード? 生物の螺旋構造の逆巻き版のウィルスとか毒、鏡系分子とか。コレ喰らってたら、普通に蜘蛛もヤバいヤツ……と解析してる蜘蛛の顔」

 

「(/・ω・)/(やったね同胞!! これで更に蜘蛛を強く出来るねと新しい自分達の肉体の遺伝構造と分子構造をさっそく組み直している科学大好き系蜘蛛の顔)」

 

「(T_T)(純粋なエネルギーや波動、空間、次元系の攻撃はどうにかなるけど、結局生物殺す系の毒やタンパク質、ウィルス、遺伝情報の類の方が脅威とか。知性の悪意は底なしだなーとさっそく現物を自分から切り離した脚に感染させて経過を見る学者肌蜘蛛の顔)」

 

「(>_<)(わーお。蜘蛛は死ぬけど、真菌は死なないとか。やっぱ、ちちの目利きは宇宙一だよね!! この世で一番死に難い生物を一番最初に使おうと思う辺り、轟運という蜘蛛の顔)」

 

「( ̄д ̄)(あるいは誰かに仕組まれていたか。どの道、あの受肉神や島に影響力を持ってる神格連中がお膳立てしてた可能性が一番高いだろうねと真実に勘付きつつある蜘蛛の顔)」

 

「(^o^)(みなさーん。そろそろ、銀河団規模での大規模こーせーはーじまーるよーと予定を告げる蜘蛛の顔)」

 

「ヾ(≧▽≦)ノ(滅茶苦茶仕様を検討して検討して検討に検討を重ねた幻影呪紋の初お披露目だーと仕様を詰めていた蜘蛛の顔)」

 

「(´っ・ω・)っ(どーほーいっぱいゆめいっぱい。はめつとぜつぼーのしんふぉにー……のぎんがだんばん。どーほーなんにんふえるかなーと相手のネットワークに侵入して情報解析を始めるハッカー系蜘蛛の顔)」

 

 蜘蛛は政治が分かっても政治家ではない。

 

 他の職業にも言える事だが、蜘蛛は基本的には単純に有能なだけで職種に対する拘りはまるで無い。

 

 なので魔王蜘蛛とか○○系蜘蛛という類の蜘蛛の大半は自分の役職名もしくは能力的な表現で呼ばれる。

 

 名前を持つ蜘蛛は限られているし、名前を安易に付けて欲しいわけでもない。

 

 新種蜘蛛が出て来る度に今もノクロシア攻略で忙しい遠征隊に迷惑が掛からない程度に名前を付けよ……くらいの勢いで今までは増えていた。

 

 実際、数千、数万、数億種類も忙しい少女達に名付けさせるわけにもいかないので妥当な話だろう。

 

 だが、蜘蛛達の種類が増える条件が実は相当に厳しいというのは殆どが知らない事実だ。

 

 理由は単純明快に蜘蛛の形に収まる魂の質と総量と条件が関係している。

 

 例えば、四足歩行の獣型は多くて4種類しか今も確認されていない。

 

 どんな違う原生動物を蜘蛛にしても四足歩行型ならば4種類以上にはならないと蜘蛛達は結論した。

 

 他にも小さな貝から変化して、今はノクロシアの守護神像(仮)となっている貝蜘蛛達も同様であり、一部の研究系蜘蛛の調査によれば、生物+貝殻を持っている存在は貝蜘蛛になるし、空を飛行する元々人造生物から派生した空飛ぶ最初期の蜘蛛達もやはり空を飛ぶのは4種類程度が限界で鳥や鳥獣の類は全てその系統の内の何れかになるとされる。

 

 それでも数百種類近い蜘蛛達が今は少年の配下となっているが、事実上の種族は現実の生物種の数値に依存しない。

 

 だからなのか。

 

 基本的に銀河団で起こる大規模な蜘蛛達の反撃でもまた何処かで見た事のある蜘蛛達がワラワラと生み出される事になっていた。

 

 それはつまり……全銀河が知らない怪物が数百種類も飛び出て来る吃驚箱もといパンドラの箱が開いたという事であった。

 

―――とある何処かの星系にある何処かの海賊系宇宙港。

 

「( `ー´)ノ(きしゃー)」

 

「(=゜ω゜)ノ(キシャー)」

 

「(>_<)/(キ・シャー)」

 

「(~口~)(きちゃぁー)」

 

 嫌な蜘蛛の四重奏が響いたのは略奪を生業とする者達の港内外での事であった。

 

 今やあらゆる銀河に生放送されていた新たなる邪神?との交渉を帝国が破棄したおかげで戦争中。

 

 というのを生中継で酒の肴にしていた明らかに薄汚れた衣服にガンベルトやら小型の刃物装備な準知性体と呼ばれる略奪者が数十名。

 

 いいぞいいぞもっとやれーとド派手な艦隊戦を大笑いしていたのも昔の話。

 

 今やゾロゾロと「(^O^)/こんにちわー」された映像を見ていなかった者達の大半が蜘蛛となり、残った者達は白旗を上げていた。

 

「ば、馬鹿な……我らは―――」

 

「こ、こんな!? う、嘘―――」

 

「ッッッ、あの映像の……」

 

 というか、白旗を上げたのは略奪品扱いされた他の準知性体の人々だったのだが……その様子を一緒に見ていたボーイ役の少年だけが「クモコワイクモコワイ」的な独り言を呟く機械と化しており、自分が蜘蛛化する恐怖に沈み。

 

 それを済まなそうに思った蜘蛛達はイソイソと少年に記憶を消去する呪紋を掛けて、艦内を練り歩きながら蜘蛛9、人員1となる艦内比率で艦を掌握。

 

 艦の制御AIまでも普通に呪紋と霊力で侵食し、小さな岩石惑星にへばりつくようにして営業している場末のバー染みた小汚いドックに入り、港内部で変異した仲間達が既に制圧し終えたのを横目に悪意無しの人員だけを集めて説明会をバーの外の広場で行っていた。

 

「ひ、あ、あの放送のッッ―――」

 

「じゃ、邪神が攻めて来た、ってのか!?」

 

「何故、どうして!? あの略奪者共に捕まったばかりだってのに!? く、喰われるのかオレ達!!?」

 

 戦々恐々としていた殆ど全ての種族であるが、蜘蛛が流暢な汎用帝国語で話し始める辺りになって、ようやく自分達の周りにいるのが銀河の独立上位種族達を相手取っている謎の巨大勢力(仮)なのだと理解し、思わずゴクリする。

 

 此処で自分の命運が決まるのだから当然だろう。

 

「(/・ω・)/(みなさーん。こーんにちわーと挨拶を看板に書いて、先進大陸の合成音声で語り掛けるカワイイ声(借り物)な蜘蛛の顔)」

 

『こ、こんにちわー………』

 

 民衆がビビリ散らかしている間にも大量の蜘蛛達の看板へ一斉に情報が書き込まれる。

 

「(>_<)(われわれ、蜘蛛の氏族商会はこの基準で皆さんに労働対価を支払う用意がありまーす。契約書を良く読んで故郷に帰るか。出稼ぎ労働者になるか選んでねーとカワイく労働者達に条件を提示する蜘蛛の顔)」

 

「お、おい。これ……本当か? 何だよコレ……もしかして、オレ達奴隷商人共に捕まったんじゃ? こんな夢みたいな労働契約見た事ねぇぞ。子供だってもう少しマシな嘘を吐くもんだが……」

 

「こんな労働条件あるわけねーだろ。で、でも、本当に故郷に帰れるのか? 船で帰ろうとしたらズドン、とか……」

 

 労働者達がざわめくのも無理はない。

 

 提示された条件は単純に滅茶苦茶好条件な労働環境の職場となる星に向かった後に現物となる金属資源もしくは当該惑星内用の通貨を得て、永住するか。

 

 もしくは単に故郷に帰るかの二択。

 

 帰る場合は蜘蛛と別れて湾内の船の幾つかをそのまま提供するので全員で載って帰ってねという話になっていた。

 

「オレは故郷に帰る。お前は?」

 

「悪りぃ。故郷にはもう家族も何も残ってねぇんだ。前期の大規模労働災害の時に……」

 

「そうか。心機一転か……」

 

「どの道、あの薄暗い採掘抗で機械の見張りして臭い飯を食って寝てるだけの日々よりはマシさ。寝不足で指がこれ以上無くなるよりは可能性に掛けてみたい」

 

「分かった。何も言わん……達者でな……」

 

「ああ、お前も……家族に会えるといいな」

 

 話し合いは4時間後に切り上げ。

 

 蜘蛛の氏族に付いていく人以外はこの宇宙港も好きにしていいよとの事であり、彼らはざわつきながらも蜘蛛との交渉に乗り出し、凡そ4割が蜘蛛達に付いていく事になった。

 

 だが、帰る選択をした者達にしても一人一人に対して名刺が配られ、連絡先が書かれていた。

 

 蜘蛛の氏族の制圧下の地域ならば、何処のネットワークの電子空間上からでも繋がるという連絡先は今後の帝国の制圧後の大規模移民が始まったら、使ってねという話がされたのである。

 

「(>_<)/叩(はーい。この旗を持ってる蜘蛛に付いて来てね~とツアーガイド役をさっそくしている生まれたて蜘蛛の顔)」

 

「(T_T)/~~~(じゃ、こっちは近隣の星系制圧に行って来るから、オタッシャデーと生身で宇宙遊泳しながら、加速用の超速なエンジンの着いた高速船にミッチリ仲間と共に張り付いて、消えていくハンカチふりふりな蜘蛛の顔)」

 

「(/・ω・)/(ごーごーせーあつ。天文単位級超念動生物相手に初めての実戦だーと初陣の為に大量の呪紋を編纂し、次々に宇宙船内部にベタ張りしつつ、超光速航行機能で相手に突撃していく蜘蛛の顔)」

 

「(・∀・)(相手に不足無し。先輩蜘蛛の支援頑張るぞーと5時間前に生まれて、ハードラックとダンスっちまった蜘蛛達が蜘蛛化出来ない超生物相手に襤褸雑巾にされつつ、徐々に押し戻しつつある場所へ颯爽と駆け付けようとする蜘蛛の顔)」

 

「( 一一)(宇宙船くらいの質量でも光速の79%くらいでブツければ、相手怯むんじゃね?と長い助走距離を超光速航行中に使って加速。超生物のどてっぱらにブツける算段をしてみる蜘蛛の顔)」

 

「あれ? オレ……乗る船間違えた。あ、ちょ、蜘蛛さ―――」

 

「(´・ω・`)(あ、ごめん。もう遅いみたいと超光速航行用のボタンをポチッてしまった蜘蛛の顔)」

 

「NOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOOO―――」

 

 こうして蜘蛛達に付いていく事を決めた今まで散々な目にあってきた準知性体の人々は基本的には帝国の独立上位種族に嫌気が差していた根無し草でどうにでもなれと自棄になった者が多数。

 

 ホクホク顔で労働力を手に入れた蜘蛛達はイソイソと蜘蛛の反応を拾って地獄門経由で制圧惑星へと向かうのだった。

 

 そして、蜘蛛達と別れた者達の大半は……長い旅の果てに帰った故郷が蜘蛛達の制圧下になっている事を知って、顔を引き攣らせるだろう。

 

 二択は決して二択ではない。

 

 ソレが蜘蛛達の答えだったのである。

 

―――とある銀河のとある星系。

 

「(*´ω`)(キシャール)」

 

「┌(┌^◇^)┐(ホモー・ル)」

 

「(/ω\)(キ、キシャ……)」

 

「Σ(・ω・)(な、何か今変なの混じってなかったキシャー)」

 

 ドンデンドンデンドンデンと緊張感のありそうなBGMが流れていそうな宇宙空間。

 

 蜘蛛達が産まれて初めて見たのは猛烈な恒星間級攻撃の流れ弾が大量に惑星間物質を焼き尽くしながら発光させ、猛烈な勢いでの打ち合いが光の速さで数年くらいありそうな地域における超遠距離戦……の最中にある滅茶苦茶大量のデブリの最中であった。

 

 辛うじて生き残っていた悪党的な存在が変質した彼らだが、何と戦ってんの?という顔になる。

 

 すると、彼らの視界一杯に広がった壁が光速の4%くらいで衝突。

 

 “蜘蛛を突き抜けて爆散した”。

 

「Σ(・ω・ノ)ノ(アッブネ、超蜘蛛先輩の防御術使ってなかったら、染みになってるヤツと蜘蛛による超速変形と威力の連携凝集によって一瞬で一つの槍の如くなって相手のエネルギーフィールドっぽいものを魔力凝集で貫通。槍の矛先を瞬時に単分子化、回転して相手の装甲を貫き切った槍の穂先役だった蜘蛛の顔)」

 

 一瞬で後方に光として消え去った壁が超ド級のデブリだと気付いて、蜘蛛達がようやく周囲の全景を見やる。

 

「\(^o^)/(黒が99.999999、白が……どう見ても宇宙怪獣的何かと大戦争中の大艦隊です。本当にありがとうございました。あ、でも、白は帝国っぽいから、もう蜘蛛さんがいそう。ノリコメーという蜘蛛の顔)」

 

 蜘蛛達がまだ残ってる白い艦を喰らい尽くそうとやってきた400km級の暗い極彩色の植物でも動物でも無さそうな……何かウチの艦に似てるなーと思った怪獣を先程の攻撃の応用で超長く延ばした不可糸に魔力を流動、高速の鞭の如く振るう。

 

 瞬時に40万km四方内部で同じような事が多数起こったかと思えば、爆散したデブリから仲間達がワラワラ出て来たので案外悪党多かったのか、と首を傾げる蜘蛛達である。

 

「(/・ω・)/============(このカイジュー邪神の一種じゃね? あ、でも、死体の一部とかからの再生体なのか。弱小破片眷属より弱いっぽいと糸で全てを細切れにして爆散させる蜘蛛の顔)」

 

 艦隊戦が超長距離恒星間射撃戦に移行している帝国の先遣艦隊らしい45km級の艦が彼らを打つでもなく。

 

 近付いて来ると内部ハッチが複数開き。

 

 数百隻の敵怪獣がバラバラになって爆沈した間にも蜘蛛仲間をピックアック。

 

 船体に載る者やら入る者に分かれて、4000隻程の白い剣のような艦で現場から離れていく。

 

『……まさか、こんな事になるなんてね。でも、これも何かの巡り合わせでしょう』

 

 最初に生まれたデブリから乗った四人が到達したのは今や蜘蛛がワラワラ……していない蜘蛛が艦長席に座ってるだけのブリッジだった。

 

 その横では数百名のオペレーター達が何やら衝撃で重症を負ったらしい者をドローンと共に運び出していくやら、拉げたオペレーティングカウンターの消化や修理を急いでいた。

 

 ただ、彼らは蜘蛛達を引き攣った顔で見てはいたが、今はそれどころじゃないと白い艦を立て直す為に尽力している。

 

「(^◇^)(どしたん?という顔で艦長蜘蛛に訪ねてみる蜘蛛の顔)」

 

「(´つ・ω・)(何か、此処の人達って準知性体の中でも上位勢で艦長だけ独立上位種族だったんだってーと気に入った帽子を被りつつ、困惑する空気が広がる艦内で説明を始める元艦長蜘蛛の顔)」

 

「(=゜ω゜)ノ(どれーの方が多い弊害出まくりなのね帝国もと現状の直せていないカウンターに近寄って呪紋で構成素材を柔らかくして、蜘蛛脚を突っ込んでシステムと接続、アクセスキーを艦長蜘蛛から貰って、死んでる部分を再起動、破壊された箇所を思紋機関で補ってみる蜘蛛の顔)」

 

『!!!?』

 

 その最初の1人がやり出したのを見たクルー達が度肝を抜かれて目を剥いて驚く。

 

「( ̄д ̄)(お、まだ動くじゃーんと黒鉄の戦艦で接続技術を取得していた蜘蛛達の記憶からサクッと必要知識を得て、次々に艦システムを復旧していく蜘蛛達を不可糸で繋いでメインサーバー室と接続する蜘蛛の顔)」

 

『貴方達は修理出来るのですか? 蜘蛛の氏族の方』

 

「(T_T)(誰という蜘蛛の顔?)」

 

『申し遅れました。この艦の艦長の第一秘書をしておりました。事実上は艦長の次席という事になっております。要は愛人枠です』

 

「(・∀・)(独立上位種族ふしだらーという蜘蛛の顔)」

 

 艦長席横のサブシートに座っている美人……なのだろう大量の触手を背中から出した女性型の黒い人型が頭を下げる。

 

『我々は囮艦隊なのです。4000天文単位程いる邪神の一軍の殲滅を特定星系に誘因して行う為の先鋒……辺境銀河艦隊所属です。帝国からすれば、多くの星々を護る為の致し方ない犠牲というところでしょう。艦長は撃沈寸前で逃げ出そうとしていたのですが、その時にあの放送を見て……他にも何名か蜘蛛になったようで……』

 

「(・∀・)(君達、生きて帰りたい?と看板で訊ねてみる蜘蛛の顔)」

 

『生きて……帰れるものならば……もう随分と同胞を失いました。数も種族もバラバラな我らが寄せ集め艦隊と呼ばれて、敵正面にいる……でも……』

 

「(^O^)/(じゃ、帰ろっか。あ、それと後方の銀河のとこで撃ってた基地と艦隊制圧したって)」

 

『へ?』

 

 思わず周辺の者達が固まった時だった。

 

 ピコーンと音がしたかと思うと彼らの首筋に埋め込まれていた一部の機材がバリッと音を立てたかと思うと一瞬で焼き切れて、首から真横に小さな針のようなものが出て来て落ちる。

 

『あ、こ、これは制御用の……』

 

 彼女達が驚いている合間にも正面スクリーンに弩アップの蜘蛛の顔が映し出され、思わず引いた彼らの前でカメラなのかどうか。

 

 機材をグリグリしていた蜘蛛の顔がようやく引いて指令室のような場所を映し出す。

 

「ヾ(≧▽≦)ノ(いえーい。どーほーみてるー。銀河単位の艦隊最上位司令部抑えたよー。というか、8割どーほーになるとか。悪意と処分案件多過ぎて草枯れるー♪とノリノリで残ってる顔が引き攣った独立上位種族達を横に蜘蛛脚の先でVサインする元基地最高司令官蜘蛛の顔)」

 

「(^o^)(お~~ちなみに1銀河どれくらいになったん?と尋ねてみる蜘蛛の顔)」

 

「(/・ω・)/(地獄門経由の通信で集計ちゅーですが、1銀河16兆くらいですねー。ちなみに準知性体は社会的な地位に比べても2割で案外倫理は優秀。独立上位種族は数こそ少ないけど、4割はどーほーになってるから、恐らく腐敗が社会構造に組み込まれ過ぎてますねーと独立上位種族の生活ぶりを確認している蜘蛛の顔)」

 

「(/○ω○)/(はろーどーほーしょくーん。1銀河での中性子星の収穫じょーほーをおつたえー!! 天体に近い星に生まれたのが4029個体。計画期間中に1銀河平均302個の中性子星を収奪可能!! 大勝利!! 大勝利!! と、銀河中の蜘蛛達の報告を纏めて中性子星の収穫をさっそく始める指揮官系蜘蛛の顔)」

 

 蜘蛛達が何だか盛り上がっている最中にシステムが突如として警告。

 

 明らかに宇宙怪獣=サンが彼らに向けて突進を始めていた。

 

「( ^ω^) _U(あ、帰るついでにあの邪神モドキと中性子星収穫してくけど、ダイジョブ?と看板どころかシステムネットワークを掌握して、全ての人員の前にもう出来た蜘蛛の銀河スタンプラリー的旅のしおり……手書き感溢れるパステルカラーな絵をお出しする元艦長蜘蛛の顔)」

 

「へ? あ、は、はい……よ、よろしく、お願い致し、ます……」

 

 今まで蜘蛛達が画面やスクリーン上で盛り上がっていたのを何か聞いているだけで頭がおかしくなりそうだった最上位士官の女性が頷いて承認した。

 

 それと同時に蜘蛛達が残った艦艇で蜘蛛化していない人員達をいつも通りに治すやら制圧するやら生きて帰りたかったら、ろーどーしてねと唆した後。

 

「(^◇^)(銀河守護艦隊発進。邪神は蜘蛛と真菌のエサ作戦を開始すると恰好付ける蜘蛛の顔)」

 

『銀河守護……っ……ありがとぅ……ございます……』

 

 思わず泣き出しそうになった触手型の女性の肩をポンポンした蜘蛛達である。

 

「(^ω^)(ま、4000天文単位くらいなら、近隣蜘蛛で何とかなるでしょと超重密集隊形で集団突撃し始めた、全天のうちゅーかいじゅー=サンを蜘蛛の限定能力解除での集団戦術で穿ち貫こうと周辺艦隊との連携を開始する蜘蛛の顔)」

 

 それは無謀な突撃に見えた。

 

 白い切っ先となった艦隊に向けて放たれる怖ろしき規模の熱線。

 

 正しく塵も積もればで巨大な熱量は惑星すらも溶かし尽くす一撃。

 

 それが四方八方どころか。

 

 全天から降り注ぐ。

 

 どうやら怪獣達は量子的な通信機能を持っているらしく。

 

 1星系程度の距離ならば、連携攻撃が可能。

 

 次々に自分達の1%も無いだろう艦隊を撃滅するべく。

 

 オロモス級の艦砲にも勝るだろう無限にも思える光線を空間制御で虚空から艦隊のいる宙域に結集。

 

 一瞬で全てが蒸発するかに思われた。

 

「\(^o^)/(ばーりあーと宝石蜘蛛が使っている能力を呪紋再現してみる装甲のあちこちに付いている蜘蛛達の顔)」

 

 神の力は再現出来ないわけではない。

 

 そして、高次元領域へのアクセスと技術と知識へと手を伸ばした蜘蛛達は常に準備を怠らない性質を存分に発揮。

 

 現在、蜘蛛化した知性がどんな蜘蛛であろうとも出力以外の技能は勿論、能力までもが呪紋化されて蜘蛛化した蜘蛛初心者達にも使えるようになっていた。

 

「(´ρ`)(出力低いよー何やってのーという顔)」

 

「(*´Д`)(はぁはぁ、案外疲れるのね。でも、原理的に突破出来なきゃ意味は無いのは助かるよなーと艦隊後方に巨大な500km級の蜘蛛脚で形成されたリングが現れるのを見て、更に魔力出力を強化してみる蜘蛛の顔)」

 

 白い艦隊そのものが無数の光が集った途端に弾かれて無数の敵集団が全天で爆沈していく。

 

 宝石蜘蛛達の防御における反射は技能。

 

 そして、防御は攻勢防御なのだ。

 

 跳ね返す価値のある攻撃だけを返していた為、今まで殆ど使われなかっただけで実際には神の力の総量が劣っていなければ、太陽を砕く破壊光線だろうが、銀河を吹き飛ばす爆弾だろうが、意味は無かった。

 

『こ、これが―――蜘蛛の氏族の力!? あの星系飽和攻撃をこうも簡単に!!?』

 

 一瞬、死んだかと頭を抱えていた準知性体達が茫然と自分達の横をあらゆる邪神の艦隊が己の攻撃で崩壊していく爆沈映像に見入る。

 

「(/・ω・)/(後方より地獄門顕現完了!! 収束魔力受け取り準備ーと艦隊後方の蜘蛛達に号令を掛ける蜘蛛の顔)」

 

「(^O^)/(デブリから受け取り用にもうシュヴァリア作ってあるよーと艦隊後方に糸で引いていたデブリを変性させて粘土細工染みてシュヴァリアを形成してた工作部隊蜘蛛の顔)」

 

「(^_^)(あ、来た……と艦隊最後方で蒼白いエネルギー収束砲みたいなのを受け取ったシュヴァリアを基点に全てのシュヴァリアを伝導して艦隊の蜘蛛達に魔力を渡す蜘蛛の顔)」

 

 最初に受け取った魔力が次々に配分され、シュヴァリアから蜘蛛、蜘蛛から艦隊へと受け渡され、内部の蜘蛛達がそれを吸収していく。

 

 同時に地獄門の魔力放射が終了すると、その内部から輪を破砕するように空間を歪めて【ミストルテイン級】が出現する。

 

 地獄門の破片がそれに付随し、内部に格納されていたデミ・ストレンジ・レッドの芯部分が露出。

 

「(*´▽`)(来てくれたのかーミストルテイン級~~~と呪紋による通信ですぐにデミ・ストレンジ・レッドへと取り付いて内部に沈み込む部隊長の顔)」

 

「(・д・´)(ミストルテイン級43番艦現着。これより資源回収に入る。全ウル出撃。現地蜘蛛は直ちにシュヴァリア及びウルを現地物資より形成。後続部隊はデミ・ストレンジ・レッド形成に入れ。これより帝国艦隊を中核として、資源化した邪神劣化群体を用いて、地獄門複製に入るとミストルテイン級内部で指示出しする艦長蜘蛛の顔)」

 

「(一ω一")(デミ・ストレンジ・レッド形成開始。敵性邪神劣化群体は天文単位と確認。デミ・ストレンジ・オールデストラクション戦術を承認。拡散放射指定。全DSRシュヴァリアの兵装を解禁。放射速度光速の40%。各地に転移で先送りしていた小型地獄門を相互接続。敵性艦隊駐留領域を推定……次元域観測開始、第三神眼開眼、周辺星系近辺まで観測終了。知性体0と確定。うちゅー怪獣は本銀河辺境より先のヴォイド周辺部までを生息域にすると推定。4億光年範囲に個体数で5乂単位と推測。巣の存在を複数個確認……周辺収奪質量の転移への使用量を計算完了……限界域まで指定するも質量の8割で工程完了を確認。準備完了)」

 

 ミストルテイン級内部のブリッジで脚を接続していた蜘蛛の1人がクワッと目を黒くして見開く。

 

「(●ω●")(弩級竜骨弩クェーサー・フォース展開―――プラチナル・コンバーター接続。次元領域開口。対象波動体をDSRに指定。霊力掌握式チャンバー開放)」

 

 黒く染まった瞳から血を流しながらあらゆる情報を処理した蜘蛛がミストルテイン級周囲で600機程にまでなった緋色のシュヴァリア達の腰に付けられている小銃の使用を承認した。

 

 ソレらが一斉に再び第二陣のエネルギー爆撃を行っている怪獣達に向けられる。

 

「(^o^)(あ、個々の霊力掌握技能で引き金引いたら、内部の神の肉片加工したペレットから魔力と神の力と物質からのエネルギーを全部取り出して指定した形体と速度で装填済みDSRと一緒に照射するんで。諸撃以降は適当に使っていいっすよと緋色のシュヴァリアに載った蜘蛛達に説明する工員蜘蛛の顔)」

 

 カチンという音は宇宙に響かなかった。

 

 しかし、それは寸分違わず一斉だった。

 

―――シュヴァリア達が光った。

 

 その小銃……竜骨弩の発展形である銃。

 

 その口から溢れたのは緋色の閃光。

 

 しかし、ソレは極めて細く細く細く―――白い艦隊を追い越した途端に猛烈な勢いで星系を横断するように拡散していく。

 

 だが、拡散していくだけではない。

 

 全ての怪獣達がソレを警戒して防御用のエネルギーフィールドっぽいもので弾いた時、何もかもが終っていた。

 

 緋色となって次々に怪獣の群れが瞬間侵食で砕けて虚空に散らばっていく。

 

 のみならず。

 

 全ての怪獣達がいる領域に光の40%程度の速度で放射された“完全には崩壊させていないエネルギーと混ざったままの粒子”が太陽風の如く吹き抜けていく。

 

 シールドで防いだのに何故簡単に侵食されたのか?

 

 理由は明快であり、光波レベルまで分解されながらもデミ・ストレンジ・レッドの性質は何ら変わらずに相手の防御を透過していたのだ。

 

 完全に外部の物理干渉を防ぎ切るような真っ黒なシールドを張れた個体は0であった。

 

 ソレだけで全てが緋色に砕けて消えていく。

 

 その星系にある全ての星が、恒星までもが、ゆっくりと緋色に染まって活動を止めていく。

 

 それは本来ならば有り得ないし、観測不能の出来事。

 

 だが、蜘蛛達には各地の蜘蛛達の視点共有で見えていた。

 

『――――――!!!?!』

 

 さすがに近隣の映像を見ていた全ての艦隊の人員が真っ青になった。

 

 光の速度で数十秒から数千秒程度の距離だろうとも、容赦なく侵食破砕していく力は更に星系を即時制圧する為に加速する。

 

 その方法はこうだ。

 

 超小型での転移用のゲートがあちこちに小さな地獄門として置かれており、最初に砕けた邪神群体を基礎として形成された緋色の粒子風がエネルギーを自身を消費して生み出しながら恒星間距離を瞬時に移動。

 

 それが連鎖転移、緋色の風を拭き散らし、何もかもをデミ・ストレンジ・レッドの風へと変化させていく。

 

『ジャ、ジャンプで送ったモノが相手を侵食して、自己形成してまた転移?!! こ、こんな!? こんな事したら、銀河が―――』

 

「(^o^)(あ、途中で止まるんで大丈夫ですよ。あれ、蜘蛛の上司の人なんで)」

 

『は?』

 

 本来、赤色物質と呼ばれる類のものは莫大な質量を変質させた場合にはブラックホール化させてしまう程の脅威……なのだが、それともまた違うデミ・ストレンジ・レッドは物質の侵食と同時にその物質が持っていたエネルギーを消費して自身を加工形成、自己組成を繰り返す形質を獲得しており、自重で圧壊するような事は無かった。

 

 その星だけではない無数の全天の黒かった世界は数分後、数十分後には何一つとして緋色でないものは存在しないだろう。

 

「(^_^)(やっぱり、上司の人は違うなーと数分で天文単位の質量を獲得しつつ、自分を増やして地獄門も大量に複製してる天井蜘蛛の手並みに感服する蜘蛛の顔)」

 

 物質がある限り、指定座標に届くまで連鎖的に侵食崩壊、自己形成、地獄門を複製して予定領域に転移、破滅の粒子風を高次元領域経由で光の速さを超えて周辺へ送り付けるというのだ。

 

 横断しながら指定座標にある全ての物理的存在を全て同化する究極の侵食戦術は4分でその銀河の2割近い領域と銀河外の何もない虚空であるヴォイドに巣を作る巨大な邪神の劣化群体を駆逐し切った。

 

 その情報は正しく地獄門経由で映像がお出しされ、強力過ぎる攻撃に艦隊の誰もが銀河すら破壊する蜘蛛達に目を見張る。

 

 無人の惑星や知性の無い惑星とはいえ。

 

 それでも生き物はそれなりにいたかもしれず。

 

 しかし、気にした様子もなく数分で駆逐完了と……帝国ですら100年単位での駆逐をしていた存在が消え去った事に彼らは唯々、驚愕する以外無かった。

 

『こ、これがクモのシゾク……これは独立上位種族を遥かに……ッ』

 

 そうして、彼らが驚いている合間にも恒星間を漂う大量の緋色の物質が怪獣最後の1体が砕けたのを機としたのか。

 

 重力を発して互いに引き寄せ合い。

 

 巨大な物質へと成長しながら、加速度的に巨大化しつつ、ブラックホール化しない程度の質量を維持し、何処かへと地獄門そのものとなって消えていく。

 

 その様子は正しく迅速。

 

 そして、何よりも怖ろしい。

 

「金属生命体……いえ、我らが知るどんな生物よりも自在な……」

 

 緋色の輪が消えていく様子は生きているかのように緻密な群体。

 

 それは実際正しく。

 

 ヘリオス分体なのだから、当たり前だが、宇宙の脅威を良く知るからこそ、彼ら準知性体の多くには“邪神を超える脅威”として重々重苦しく受け止められた。

 

 ソレを観測していた一部の独立上位種族の派閥。

 

 帝国に与せずに独自の生態系を築く世界の住人達。

 

 彼らは遂に楽園より現れた恐ろしき何かを前にして伝説を思い出す。

 

 それはこの宇宙における全ての知性に伝わっているかもしれない伝説。

 

 ノクロシア。

 

 旧き者達の都。

 

 遥か果てなき恐怖と共に消えた宇宙の始まりの民が造りし、都の物語。

 

 何なら彼らの目にはソレが蜘蛛達なのではないかとすら思えていた。

 

「( 一一)(手加減しなくていい天文単位敵性物体って本当にいるんだなーと各地の銀河に現れる超巨大DSR製地獄門と内部から現れ始める大量の赤色惑星の群れに魔力やエネルギー支援されつつ、知性体の敵っぽい超存在やら、超念動、超侵食、超凝集、超物量、諸々の様々な生態を持つ敵性生物及び知性体を駆逐していく蜘蛛の氏族軍……通称くもーぐんを見やるオペレーター蜘蛛の顔)」

 

「(。-∀-)(高次元領域超えて光の速度以上で別領域に出るの滅茶苦茶燃費悪いけどねと殆どの赤色惑星が質量転移の為のエネルギー変換で蜘蛛達の移動とエネルギータンク扱いされて消費されていくのを見ている蜘蛛の顔)」

 

「(*´Д`)(赤色超巨星や白色矮星。ブラックホール以外にも色々変な星が一杯あるなーと天体の多彩さに魅せられて、何か新しい惑星でも作りたい気分になったてらふぉーまー蜘蛛の顔)」

 

「(/・ω・)/(良いの見つけたー!! 黒い星。白色矮星の最終末期版!! ほぼ鉄だけど、3%くらい超重元素の塊だー!! ちちにけんじょーあんけーん!!)」

 

「(;´∀`)(マジうけるんですけどー何で縮退物質より重い元素なのに中性子飛び出してないどころか。真空で安定してんのー?とペシペシと見付けてしまった黒い星を叩きながら笑いが止まらない蜘蛛の顔)」

 

 蜘蛛達が今にも銀河を侵食し、全てを滅ぼす邪神を滅ぼし、銀河すらも滅ぼせる兵器を使っていながら、ブラックなユーモアたっぷりに漫才しながら敵を撃滅している様子に準知性体と呼ばれている者達の多くも納得せざるを得なかった。

 

 帝国は……負けるのだ、と。

 

 惑星を破壊出来る個人を排出する種族だろうと。

 

 あらゆる個人が繋がり、集合意識にて最強のテレパス発信存在だろうと、機械知性の最終的な決算たる恒星兵器ダイソン・ウェポン的な機械惑星個体や自己進化、自己増殖、自己再生するナノマシン、機械細胞群体だろうと……彼らは単なる一言で片付けられた。

 

 邪魔、と。

 

『ナゼ、ナゼ、ワレワレをコウゲキする。このヨをホウカイさせるチセイをクチクせねば、ギンガはほろ―――』

 

「(´・ω・`)?(だって、君達って殆どの知性体の敵でしょ?)」

 

『これにはフカイワ―――』

 

「(・ω・´)(深いなら聞かなくてもいいんで大人しく宇宙から消滅しといてね)」

 

『グワー!!?』とか。

 

 相手に一切の時間的猶予を与えずに殲滅するのは一銀河に付き、3400万回は同じようなやり取りがあったりもした。

 

『馬鹿な!? 我が惑星すら破壊する攻撃を受けて何故倒れない!!? そんな事があってたまるかぁあああああああああああああああああ!!!?』

 

「(*´▽`*)(クモですから~)

 

『クモ?! クモって何―――』

 

「(;^ω^)(君達、知性体の脳髄しか食べられない生き物には関係の無い話さ。あ、攻撃はそっくりそのままお返ししますねーと反射シールドバッシュで敵の最大火力を叩き返しつつ、相手の隙だらけな肉体に打撃を叩き込むノクロシアン級指揮官蜘蛛の顔)」

 

『グワァアアアアアアアアアア!?』とか。

 

 どう頑張っても“会話出来るだけ”の超強敵性存在相手に蜘蛛達は「こんにちわ。邪魔だから消えてね」と訪問し、あらゆる銀河で知性の敵を潰し、知性的過ぎて知性を滅ぼす系存在も消却し、神のような力を持つ傲慢以上に他者を踏み付ける事に歓びを感じる者達をエネルギーと物量と全ての個体が備える技能にて打倒した。

 

 まぁ、帝国を解体する“ついで”のちょっとした銀河群の大掃除である。

 

 少年が許せなそうなのは先に処分しておくのは島にいた時や大陸で色々していた時と何も変わらない。

 

 こういうのを回避しようとした者達もいた。

 

 その筆頭は心を読む者達だ。

 

 だが、敗北は避けられなかった。

 

『(嘘よ。こんな軌道描ける存在がいるはずない。未来を読んでいるのに避けられない!? 私は転移で逃げているのよ!? どうして、転移先に割り込んで転移で追って来るって言うのよ。そもそもどうして読み合いで、この宇宙で唯一のはずの我々が―――)』

 

「(`・ω・)(そんな無駄な思考やってるからじゃね? 演算は相手を先に完全消滅させる事に次ぎ込んで無駄なリソースは使わないのが最適解なんだけどなーと相手に次は無いと心を読ませて絶望させ、知性の精神を破壊して弄ぶ事に歓びを感じる“悪意無き種族”を種族単位で逃れられない必中先手完殺攻撃で撃滅していく蜘蛛の顔)」

 

『うぞよぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――』

 

 そういう相手の心を読む超強力サイコ存在が心を読んでいるのに敗北する理由は正しく何処かの大陸で行われていたような超越者達を狩った時と同じものだった。

 

 知っても意味が無い。

 

 逃げ場が無い。

 

 敵側に相手を殺せる状況も未来も転がって無い。

 

 そもそも相手も自分の心を読んで来て、読み合いになると疲弊が早い自分の方が先に自滅するという具合である。

 

『神たる我が滅びるなどぉおおおおおおおおおお』

 

「(=_=)(ホント、ちょっと力持ってるだけの自称神が多いなーとアマテラス=サンとの戦闘を思い出して研鑽知らずの能力頼み存在達の不甲斐なさに呆れつつ、死んでるのに株が上がる女神の実力は凄かったんだなーと肩を竦める蜘蛛の顔)」

 

 当たれば、存在を抹消出来る力だろうとも当たらなければどうという事は無かったし、それが超密度のレーザー状や波動状で降り注いだところで蜘蛛の超速変形回避や宇宙では雷を超える早さの回避に当てる層は極一握り。

 

 そういう攻撃は全体として0.00000001%も無く。

 

『これで終わりだ。終焉を知るがいい。塵も残さず消え去れ!!』

 

「\(^o^)/(オワタ……島から出直しかーと超速転生すら出来ない攻撃に沈んであっさり滅ぼされつつ、仲間に相手の攻略法を教えて地獄門経由で先に魂だけ島に送る顔)」

 

 当たったとしても、超速転生呪紋による蘇生が可能だった事が殆どであり、その場で転生不能になる類の死人が出たのは銀河団に含まれる全ての蜘蛛達の中でも3人程度であった。

 

 が、それも極めて珍しい事である。

 

 死んだ直後に島で赤ん坊の世話をして館を仕切っている元呪霊少女に転生して下さいと連絡が行き。

 

『え? 転生させて欲しい? 蜘蛛が? 初めての事ですわね。まぁいいですけど。まったく、アルティエが帰って来る前に死ぬなんて不甲斐ない蜘蛛さんですわね。何処の誰と戦ってたんですの?』

 

「(>_<)(ちょっと、うちゅーはかい系こーげきの直撃を喰らってしまったようで。大変、申し訳ないと蜘蛛の初めての完全死亡からの転生者達に新しい肉体を用意してた蜘蛛の顔)」

 

『まぁ、貴方達はアルティエの手足ですもの。命は大事にね? 全然言わないけれど、貴方達の事、アルティエも大事にしているのだから、ね?』

 

「(^O^)/(はーいと元呪霊少女に嬉しそうに返事をする蜘蛛の顔)」

 

 最終的には珍しい事もあるもんだと当人から適当に午後のお茶の時間の片手間に呪紋で死後の幽世領域から転生した後、死んだ者達は用意されてた黒蜘蛛の巣の最深部にある予備の肉体群を詰めた部屋から飛び出し、すぐに同じ戦場へと緋色の塔と地獄門経由で出撃していった。

 

 手間が殆ど掛からなかったのは蜘蛛達の支援体制が万全だったからだ。

 

 それこそ自分達の肉体が完全死亡した後も仕事する気満々な蜘蛛達の転生用ボディーは各大陸の黒蜘蛛の巣に大量に素体が用意されている。

 

「( 一一)(この設備が本当に使われる日が救世神や教会の唯一神相手以外で出るなんて、宇宙って広いんだなーと保守点検管理を怠らない管理者蜘蛛の顔)」

 

 殆ど使われる事が無かった設備はようやく宇宙進出で3回使われただけであったが、不用な設備とはならなかっただけで十分だろう。

 

 各黒蜘蛛の巣の地下に400万体規模で素体が用意されているなんて、誰も知らなくていいし、知ったら精神を病みそうな事実である。

 

 肉体を完全消滅させても魂が逃れられたら、自分の弱点や克服方法を携えて、今度は十倍以上の数で攻めて来るのだ。

 

 こんな蜘蛛相手に8日も時間を与えた帝国はその時点で負けていたと言ってもいい。

 

 オロモス級から得たデータや準知性体達の情報から銀河団各地に跳んでいた蜘蛛達は事前に色々な準備を終えていた。

 

 つまり、何処の銀河のどんな場所だろうが、後方から物理的なエネルギー支援、魔力支援、呪紋支援が必ず超強敵と戦う蜘蛛達には負ける前にはほぼ届いた。

 

 そのせいで……山程支援が届いた後は正しく恒星レベルの巨体を持つ生物だろうが、宇宙一硬い生物だろうが、銀河を喰らう生物だろうが、蜘蛛達の前に沈んでいったのである。

 

『(o|o)グモォォォオオン(涙目な超銀河級存在の顔)』

 

「(´・ω・`)(お、降参? これから銀河とか食べないなら、適当にヴォイド暮らししててもいいよ。どの道、食べる必要無いでしょ君と銀河より大きそうな何か相手に足の指を家具の角にぶつける痛み作戦を実施していた蜘蛛の顔)」

 

 彼らが一人で戦って勝てない相手だろうとも3000人くらいいれば、大体狩れる。

 

 惑星以上の超巨大生物だろうと1万くらいいれば、狩れる。

 

 それ以上に時間が掛かるのは10億単位いれば、まぁ……負ける事は無いし、何なら少年がいろいろ終わらせるまで持久戦をしても良かった。

 

「ば、馬鹿なぁあああああああああああ!!!? 銀河すら喰らい尽くす邪神を追い払うだと!? 嘘だ嘘だ嘘だ!? 帝国銀河団最大最後の大仕事は文明と共に奴を道連れにする事なんだぞ!? この我の計画がこんなとこ―――((|ω|)キシャー)」

 

 数の暴力は正義であった。

 

 ついでに言えば、蜘蛛基準で生存が許されるのならば、大抵の種族はお墨付きであり、種族単位で個人が標的にされた事で極めて感情的に為り辛いという事実が帝国の反抗をそっくり恐怖で塗り替えつつあった。

 

 蜘蛛には蜘蛛の規律があり、蜘蛛には蜘蛛の倫理と方法論がある。

 

 それに合格を既に言い渡されてしまった種族と個人の両方が同時に蜘蛛達の敵になる事を忌避するとすれば、それは政治的には停戦もしくは講和という言葉に置き換わるのである。

 

「お、こんなところで映像作品鑑賞か? おじさんも若い頃は嵌ったなー。マスター・トレッキングとか。船に愛嬌があって良いんだよ。お、蜘蛛が出てる? 何かのプロパガンダ映像か? また、エラク盛ったな~~」

 

「(^_^)(………そういう事にしておこう)」

 

「何だよ。蜘蛛強過ぎ伝説みたいなのばっかりとか……リアリティがさすがに足りないんじゃないか? そっち方面はさすがに蜘蛛でも苦労するか。偽英雄も戦場に出せなくなった昨今、ウチの上層部もそろそろ白旗かもしれん」

 

「(^o^)(その節はお世話になりました)」

 

「それはそれとして何で宇宙艦隊相手に蜘蛛一匹で挑んで撃滅してるんだ? これが今若い奴らの創作物で流行ってるオレツェーとか言うのなのか?」

 

『(^▽^)(全部、リアルタイム映像なんだけど、ま、いっかと偽英雄のおっさんに邪悪な知性を滅ぼす系目的な全知性抹殺機械艦隊が侵食出来なかったから、普通にノクロシアンを送って殲滅してるところを見せてみるセブンス・ヤーンの顔)』

 

「おぉぉぉ!? あの艦の兵器、カッコイイな……というか、飽和攻撃されてるのにノクロシアンだったか? 彼一人倒せないどころか。反撃で数千隻一気に爆沈とか。本物よりもヤバいんじゃないか?」

 

『(´・ω・)(単純に惑星の地表上で使えない手札使ったら、あの程度は普通レベルなノクロシアンでも可能なだけなんだよなーと宇宙艦隊VS普通のノクロシアンを一緒に観戦するセブンス・ヤーンの顔)』

 

【こ、こんな事が―――単なる虫けらの如き有機生命体が我らと同じ自己増殖、自己進化、自己再生機能を無限に使用し、剰え処理能力も進化速度までも上回り、高次元兵装を無力化してくるッ、だと!? 有り得ない!? 有りえ、ギェァアアアアアアアアア―――】

 

 これら蜘蛛達の無数の銀河を相手取った尤も重要な暴力の根源。

 

 数を生み出す呪紋は攻撃呪紋ではなく。

 

 幻影呪紋だというのが蜘蛛達らしいかもしれない。

 

 どんな攻撃方法もどんな手段も使う蜘蛛は超強い攻撃……みたいなのは単なる手札以上ではないという事実であり、武力が全てではない事を後々に元帝国民に教える事になる。

 

 新人類アークがいたからこそ生み出された呪紋。

 

【アークの悪夢】

 

 蜘蛛達の間で惑星や惑星以上の協同体単位で相手を制圧する為に仕様が詰められて開発が終了していた新バージョンは正しく蜘蛛達の最新にして最高の光波による情報侵食兵器であり、同時に蜘蛛達の叡智が詰められた戦い方そのものであった。

 

 新しい幻影呪紋として再開発された呪紋に与えられた能力は4つ。

 

 一つは蜘蛛化の選別と猶予。

 

 幻影呪紋を見た知性と呼べるモノがある存在の魂の極一部を蜘蛛化してブラックボックスを造り、内部で知性体の処理能力を借用して、必要なら“本体を死なせないように蜘蛛になる一部”を切り離して離脱する機能。

 

「ん? 今、何か背中が痒かった、ような?」

 

「何やってんの!? いいから早く避難所に行くわよ!? 帝国が戦争に負けるかもしれないって銀河団の各ニュース媒体がやってんの!! とにかく、蜘蛛を見たら逃げてって!? ほら、行くわよ!!?」

 

「何か背中が痒いんだよなぁ~~あ~~痒い……」

 

「(≧◇≦)/(ちょっと背中に間借りさせてもらってますよと一般人の背中にできもののように引っ付いて本体から色々とちょっとずつ吸い取ってる蜘蛛の顔)」

 

 一つは環境適応に必要な呪紋と知識の選別機能。

 

 特定の領域で発生する蜘蛛にその領域での環境適応が可能な知識や呪紋を予め予備知識としてすぐに使えるようにマーキングして発生直後に使えるようにしておくというものだ。

 

 膨大な少年の叡智を取捨選別している時間を省いて、必要技能や知識を更に精密に最初から使えるようにする事で熟練の戦闘経験、極限環境への生存能力を持った蜘蛛達とほぼ同等な行動が可能になる。

 

「嘘だ!!? 我が1万年の研鑽を上回るだと!!? 化け物がぁあああああ!!?」

 

「(・ω・)ノ(後、五京年くらい頑張ってねとちち譲りの剣技を自分の脚で披露して、近接剣術を極めたとか宣ってた剣聖なる異星人の腕だけを切って捨てた蜘蛛の顔)」

 

「ぐぉおおおお!!? ぐ、軍司令部に伝令!? 連中に近付くな!! 近接戦闘では我らに勝ち目は―――」

 

 一つは一つ目の能力である蜘蛛化の選別で“蜘蛛化必要無し”となった個体から自分を切り離して、こっそり地獄門経由で帰る帰還機能。

 

 重要局面では幻影を見た者達の内部に留まる事もあるが、殆どはその必要が無い存在である為、蜘蛛達は発生場所に一番近い地獄門の複製から特定されるとアクセス権限を指定領域内部で付与されて、好きなタイミングで現在黒蜘蛛の巣がある場所に帰還。

 

 普通のミニ蜘蛛状態の蜘蛛達が大量に黒蜘蛛の巣の力を吸い上げて普通レベルの大きさ……つまり、1m程度まで成長すると普通に働き出すのだ。

 

「それにしてもどうしてあそこで未知の生物相手に喧嘩売ったんだよ。帝国軍……規模が大きいからってあぐら掻き過ぎだろ。そのせいでオレらは死ぬか生きるか喰うか食われるかだってのに……」

 

「(´・ω・)/(食われないようにオタッシャデーと本体に分かれを告げて、ミニ蜘蛛スタイルでイソイソと地獄門にアクセスし座標を指定、転移させて貰う小蜘蛛の顔)」

 

 順次、帝国領内で悪意の塊とイラネ扱いされた者達が蜘蛛化しただけではない。

 

 1銀河内にいる幻影呪紋を見た特定生物内部から発生した蜘蛛達は嘗てとは違い。

 

 知性体だけから発生出来るようになった為、数の調整すらも可能となった。

 

 幻影呪紋の完成系は正しく“知性のある悪意”だけを殺す完全無欠の悪夢となり、それが不可能な相手を周囲の蜘蛛で囲んで棒で叩くという局地戦、局所戦とでも言うべき小規模撃滅戦を可能にする新たな戦術スタイルすらも可能にしたのだ。

 

 正しくコレが蜘蛛にならない存在以外には圧倒的に過ぎるアドバンテージとなって帝国を蹂躙したのである。

 

「何だと!? 刑務惑星が乗っ取られた?!! く、クソ!? 囚人共が丸々蜘蛛にされたのか!? く、一体どうやって!? 何を使って我々を!!?」

 

「各銀河団の艦隊総司令部との連絡途絶!!? 8分の1以上応答在りません」

 

「銀河団全域でこの現象が!? く、邪神共の方が遥かにマシだぞ!? このままでは!!?」

 

「( ^ω^ )(はーい。動かないでね~自爆装置は解除したし、通報装置も切ったし、残ってるのはこの司令部区画内部だけだからね~と言いながら幻影呪紋を起動。1割程しか蜘蛛化しない司令部を見て、まともな連中もいるんだなーと感心する司令部制圧部隊蜘蛛の顔)」

 

「く、くそぉおおおおおおおお!!? 撃て撃て撃てぇええええええ!!!? 退路を確保して、緊急脱出する!!? 準知性体共を囮にしろぉおおおおお!!?」

 

「(・ω・)(悪意が無い差別、か。蜘蛛化する程じゃない判断は社会基準を考慮するからなー。ま、蜘蛛化しないなら、寝ててもらおと小蜘蛛達に指示出しして、余計な面倒事を避け、全てを昏倒させながら司令部を確保した蜘蛛の顔)」

 

 蜘蛛化は準知性体だろうがお構いなしであった為、犯罪者と呼ばれる者達の中でも倫理や道徳が極めて低い層や罪を犯して悔いない類のサイコパスが正しく兆単位で消え去りまくった。

 

 これによって蜘蛛の増加と帝国の制圧を光の速さを超えて行う唯一の切り札は大量の“罪人”と“非倫理道徳的存在”の“処分”を同時に遂行。

 

 銀河団規模の消耗戦は回避され、“銀河団規模の小規模包囲撃滅戦×一杯”に戦局が切り替わった事で勝敗は決したのである。

 

 殆どの帝国艦隊は準知性体の上位層が占めていたが、それにしても独立上位種族を各艦艇に一律に必ず最上位権限を持たせて配置していた事も相まって必ず艦艇1つに付き、1個体以上……蜘蛛化が4割に到達する独立種族がいるという点で艦内制圧も順調。

 

 誰も蜘蛛化する者がいない艦は極めて稀であり、総艦隊数の内の0.000001%以下しかなかったのは由々しき事態だったに違いない。

 

「か、艦長?!」

 

「馬鹿な?!! いきなり、侵食された!? 何の攻―――」

 

「(・∀・)(はーい。ブリッジ制圧完了。艦内に蜘蛛4人を確認。サクッと艦隊乗っ取り開始~~という大量にいる元艦長系蜘蛛の顔)」

 

 こうして無数の銀河の主要文明の星系で次々に主要惑星の重要機関が蜘蛛によって掌握、制圧された挙句。

 

 あらゆる情報がリアルタイムで飛び回るネットワークを呪紋が光波情報として回遊し、蜘蛛の再出現が延々と加速。

 

 情報を得られる場所程に制圧する蜘蛛の数が増加。

 

 結果として複製された銀河団中の地獄門経由で情報が集約され、銀河団との殴り合いのリアルタイム戦況を蜘蛛達だけが把握する事となった。

 

 その集まり過ぎた情報を処理する為に今や輝く光の輪と化した地獄門のオリジナルは自立転移して緋色の塔の衛星軌道上ステーションを囲い込むリングとなって明るく島の上空を照らしていた。

 

「お、何か今日は緋色の塔の上が明るいな。ホワイト・ピークの再建も終わって御神体の椅子もちゃんと鎮座させたのは良いが、まだまだ復興には遠いな……」

 

「オイ。ヴァルハイル。今日は此処までだ。労働時間超過すると上司が煩い」

 

「ああ、分かってるよ。アルマーニアの。蜘蛛は時間に煩いからな。ちゃんと休むのも仕事の内って……いつあの人休んでるんだろうな……」

 

「知るかよ。何か今、塔の上で大事業してるんだと。月まで手に入れたのに今度は何をやってるんだか……」

 

「アルマーニアの癖にお前一々蜘蛛の氏族に批判的だよな」

 

「フン。元は反ニアステラ派だったんだよ」

 

「ほう? そうなのか?」

 

「だが、上には上がいる。オレらが死ぬ程畏れるアルマーニアの邦長が死ぬより畏れる連中に喧嘩を売ってノウノウと生きてられるだけマシだろ?」

 

「ははは、違いない。あの蜘蛛相手に馬鹿をする連中はもう島にはいないだろうな」

 

「神すら退けるあいつらに今更退けられないものなんてあるものかよ。オレは……信じてるよ。いや、信じるしかないさ。奴らがオレらを未来まで連れていくって。家族を友人を知人を……な」

 

「負けた種族の悲哀だな。空の上の人も大変だ」

 

「何だソレ?」

 

「知らないのか? 外の連中が持ち込んだ読み物にあるんだよ。ええと、ウチュージンとか言うのが空には一杯いるんだぜ?」

 

「フン。あいつら相手に空の上にいるだけで勝てるなら、神様は負けてないだろうよ……きっと、その内に「(・∀・)/(一杯連れてきたー)って顔で同僚にしてくれるさ」

 

「くくくく、そうかもな。案外……そう、なのかもな……」

 

 今日もニアステラは平和であった。

 

 その足元では莫大な数十兆単位の王群による大反抗作戦が開始され、西部の侵食へと動く救世神勢力が攻撃体勢となっていた。

 

 が、それは多くの民には知らされる事もなく。

 

 ただ、毎日のように避難訓練と避難経路の確認をさせられる業務が、いつもの緩々な仕事に捻じ込まれた事……それだけが彼ら住人達には真実であった。

 

 そして、遥か頭上どころか。

 

 世界の果てで今日も蜘蛛のキシャーという産声が無限連鎖しているとも知らず。

 

 ニアステラ守備隊はノクロシアに潜る遠征隊を欠いたままに王群と対峙する為、戦力を転移で聖域外延へと送り出している最中。

 

 最先鋒は幼女から脱しながら幼女を名乗る2人の名物少女達。

 

 たいちょーとへんきょーはくだ。

 

「ゆくぞ。へんきょーはく」

「フン。わかっている。たいちょー。これは我らの戦いだ」

 

 更に防衛体制を取っていないセブンス・ヤーンと現地の守備隊として練成された大量の元敵味方合わせたニアステラ、フェクラール及び北部の統合守備隊に黒鉄の戦艦を加えた大艦隊。

 

 激戦を繰り広げるバトルフィールドはあまりにも地域的には小さく。

 

 しかし、血肉で天高き塔を無限に作り出しそうな動く“山より高き地域”との戦いへと彼らは向かっていく事となる。

 

 何処にも逃げ場所など在りはしない。

 

 戦場は宇宙でも地上でも変わりなく。

 

 ただ、歯車の抜けた島は何処か気の抜けた様子なのは間違いなかった。

 

 因果の中心となるべきものが戻るまでのほんの些細な前哨戦開始までもう少し。

 

 そして、その一端でしかない宇宙での戦いなど。

 

 まったく、蜘蛛達だけが知っていればいいだけの一連の英雄譚の“枝葉”にしか過ぎなかったのである……そう、そんな空虚な前哨戦はゆっくりと確実に始まっていく。

 

 舞台役者が登壇するまで後―――。

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