流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第113話「遠き胡蝶のカダスⅩⅧ」

 

―――カダス『      』

 

「嘘だろ……」

 

 艦隊から出撃した全てのゴーレムはカダスでも指折りの払い下げ品。

 

 パンデモニアの精鋭が使っていた者を100年で払い下げた新品同然の代物だ。

 

 個人用に大幅な武装や機構のペイロードを持っている事から改造幅も広く。

 

 事実上、カダス内では最上位格の装備として一部の中央の傘下にある大破片貴下の部隊しか使っていない。

 

 それが中央大陸域ギリギリにあるとはいえ、地方の一部隊が大量に所有しているだけで常識的にはその所有者である破片は大きな信頼を得ていると思われるだろう。

 

 無論、一部の極めて優秀過ぎる才能を封じ込めておく為の鎖として破片の部隊に下げ渡され、主を制御させる為の機構として使われているという事もありはする。

 

 だが、破片すらも封じ込められる装備が十全に備わっているはずのゴーレムが初撃を受け切れずに黒い爆風に埋もれた時には7割が墜落。

 

 内部の使徒達は気絶では済まない絶叫を響かせながら、次々に喉を掻き毟って肉体の末端となる両手両足の細胞が死滅し、呼吸器系にも異常を来した事で辛うじて生きている程度の半死半生状態で無力化された。

 

 力の強い使徒達は戦える程度の体力は温存していたが、それにしても霞む目と遠くなる耳、力の入らない手足に鈍い感覚という極めて弱体化した状態で震える指先を操縦用の手の窪みが掘られた水晶体に手を付けて、迅速にその黒い爆風の中から遠ざかり、半ば墜落するように地表の同胞の救出に向かう。

 

 無論、追撃が無いと踏んでの事だ。

 

 無力化されるという事は無力化しなければならないような程度の敵という事。

 

 時間稼ぎの類を相手が企図しているなら、立て直しまでの時間はあると考えての事である。

 

「………」

 

 艦隊を率いていた歴戦の使徒達は艦ブリッジでその光景を見て、すぐに退避しようとしたが、それより早く何かが高速で彼らに接近。

 

 艦砲射撃しながら散らばった者達が左右に広がりながら、そのまま全速で相手を突っ切る。

 

 無論、艦の周囲には大量の魔力を用いた障壁が張り巡らされ、スキルで観測能力を強化した彼らはようやく同胞の目と耳が拾った映像にソレがたった一人の人型が引き起こしたのだと知った。

 

「上位破片か!!? 全速で前へ向かえ!! 被害に構うな!! 引けば、そのまま墜とされるぞ!! 敵の根拠地となる場所は正面にある!! セキレイ様が戦っている内に正面から敵を艦砲で叩く!!」

 

 使徒の中でも艦長席に座る者達の多くが同じ行動を取った。

 

 それを本来逃がす少年ではない。

 

 のだが、生憎と破片を足止めするのに大量の魔力と体力を光塵の大主に与えた後である。

 

 近場の数隻を瞬時に伸ばした真菌の鞭で薙ぎ払い。

 

 後部機関部を狙って貫通させ、推力を奪いつつ落としていくが、その合間にも高速で駆け抜けた艦隊は少年の速力でも追い付くのには時間が掛かるような速度で艦隊の4分の1を犠牲にして現場から離脱した。

 

【逃げられても良かったのかしら?】

 

「問題ない。真菌の粒子で汚染はした。時間経過で動けなくなる。それに必要数も落とした。あちらの防御を抜ける数は無い。今の内に使徒のゴーレムを全て叩き潰す」

 

 少年が遠巻きながらもすぐに僅かでも回復し始めた一部のゴーレム達が自分を追って来るのを確認し、弱体化している内だと相手に突撃していく。

 

 だが、歴戦の使徒達は敵わないのならばと時間稼ぎに入ったか。

 

 距離を取りながらのスキルやゴーレムの兵器による遠距離戦を開始した。

 

 無数の光弾がゴーレム近辺から大量に湧き出し、次々に殺到。

 

 更には投擲して操る形の誘導兵器がブーメランのように投げ付けられ、少年が真菌で瞬時に切って、鞭を加速して切り抜ける。

 

 起爆した板状の手りゅう弾のようなソレが次々に起爆。

 

 少年を囲い込むように目を奪い。

 

 しかし、少年は爆炎を最短距離で突っ切って配置に付こうとしていた一部のゴーレムを刺突で潰し、ゴーレムの駆動系の中枢となる両足と背骨を繋ぐ骨盤部分を破壊して吹き飛ばす。

 

『ッ、戦い慣れている!? 押し切られる前に更に広く距離を取れ!! とにかく、距離だ!!?』

 

 配置に付こうしていたゴーレムを次々に相手が立て直す前に関節部をレイピアのような切っ先で一突き。

 

 遠距離で真菌の自在な一撃が相手の駆動中枢を破壊して停止させていく。

 

 多くのゴーレムがその数を瞬く間に減らしている最中。

 

「っ」

 

 巨大化した島の真下では嘗ての大破片相手にセキレイと呼ばれている女破片が弄ばれているように見えて、機会を伺っていた。

 

 紙一重で攻撃の直撃をいなしながらもジワジワと肉体も魔力も再生中の各部位すら解れさせられるのだ。

 

 普通ならば、諦めるのが道理だろう。

 

 しかし、それでもまったく輝きを失わない瞳に彼女の頭上で能力を行使し続けている民族衣装を着込んだ光塵の大主が顔をにやけさせていた。

 

「惜しい。本当にあの頃いてくれれば、暇潰しにはなったのに……時間て残酷なのよね。あーし、もう契約しちゃったし、そこのちっこいの~~ウチの使徒にならない~~」

 

 自分の能力で崩れながらもまったく戦意を衰えさせず。

 

 逃げ続けている相手にそう大主が叫ぶ。

 

 それに楽しそうにべ~っと舌を出したセキレイも笑顔であった。

 

「「!!!」」

 

 2人は似た者同士。

 

 しかし、片や少年に重症を負わされて再生すらまともに出来ていない体であり、片や少年から時間を区切られて、制約を護る枷が嵌っている。

 

 そのまま延々と時間切れまで戦いが楽しめるのかと言えば、そうでもなく。

 

 かなりの速度で遠方から複数の艦が高速突撃してくる。

 

『艦砲よーいだぞー』

 

『これどうウツだ?』

 

『おめぇ、主様に殺されるべ。こうだ。こう!! わかったか?』

 

『お、おう。こうか?』

 

 逃げて来たのを見た艦側面の胴体部の各砲座内のオーガ達は次々に狙いを定めて敵の船が近付いて来るのを見計らっていた。

 

 後方の海賊達からの声にうるせーなーと思いつつも真面目に敵艦を撃ち始めた。

 

 砲弾そのものはまったく見えない。

 

 だが、狙いを付けていれば、当たるという点ではアーティファクトの攻撃兵器は極めてノウキンなオーガ達と相性が良かった。

 

 攻撃は真っ直ぐに飛ぶのだ。

 

 次々に艦隊の最前列が猛烈な砲撃の雨に降られて、魔力式の見えない障壁を削られていく。

 

『各艦防御ぉおおお!!! 上空に突撃して相手の砲を回避せよぉお!!!』

 

 スキルを用いた者達が何とか回避と防御を両立させ、艦の装甲を個人の能力で強化したり、あるいは単純に砲弾を虚空で捻じ曲げたりと奮闘してはいたが、近付き過ぎれば落ちるのは確定的だと相手の上を取る為に高度を上げて―――。

 

 パーンと艦隊の頭上で音がしたかと思った瞬間には艦の外部装甲がグズグズに溶けていた。

 

 ほぼ同時に艦内の者達がバタバタと倒れ始める。

 

 血反吐を吐くでもなく。

 

 傷があるわけでもない。

 

 しかし、猛烈な吐き気と自身が削られて、感覚が歪んでいくような感覚に立っていられなくなったのだ。

 

【ほっほっほっ、そうかい。こういう使い方をされてたんだねぇ……】

 

 砲座の一つに付いていた半霊なおばばが肩を竦めた。

 

 彼女の銃座に砲弾を供給している機関部では半霊な女達がアーティファクトそのものであるレーンに普通とは違う砲弾を載せていた。

 

 と、言っても数発程度だ。

 

 だが、その砲弾。

 

 魂魄を汚染する汚染兵器の弾体は続けておばばが撃ち放って数発で艦隊の速度を落とさせ、島の上空を擦り抜けるかと思われた全ての艦が艦の上の巨大な甲板や翼の上に速度を落としながら落着。

 

 艦そのものに激震が奔った。

 

 しかし、島が落ちる様子はなく。

 

 受け止めた船体は接触部を凹ませながらも受け切ったというのが正しい。

 

 真菌によるクッションが形成され、緩衝領域にブチ当たった船体を大きく破損させなかった事で内部も外部もほぼ無傷。

 

 だからこそか。

 

 ふら付いた艦の者達の一部。

 

 恐らくは白兵部隊が外に出て来るとすぐに艦から離れて内部への突入口が無いかと探し始めた。

 

 艦が毒にやられたと思っていたのも無理はない。

 

 ただ、それが自分の魂を直接弱体化させる代物であると知っていれば、戦い方は突入ではなく。

 

 籠城になったかもしれないが、生憎とそんな知識は使徒達には無かった。

 

 ゴーレムに載れる一部の優秀な者達は消えており、残っているのは艦隊戦での白兵攻撃に長けたものばかり。

 

 そして、おばばを筆頭にした半霊の女性陣が使った砲弾は極めて威力を抑えられていた為、汚染兵器としての激烈な攻撃力は発揮せず。

 

 数日で治る程度の体調不良を与えるだけで済んでいた。

 

 理由は純粋に“後々に来るかもしれない大部隊用”が必要だからだ。

 

 弱らせた使徒ならば、白兵戦でオーガと喋る剣を持ってる少女一人が居れば、適当に叩き潰すだろうという算段である。

 

 色々と少年が予測していたものとは細かいところが違うかもしれないが、殆ど予想通りに状況は推移していた。

 

「エルタイナァアアアアアアア!!!」

 

「直掩が固い……近衛の払い下げか。面倒な……」

 

 艦隊に随伴していた直掩となる一部のゴーレム達は砲弾の防衛を後方から手伝った後、エルタイナーと女破片のコンビを叩き付けられ、苦戦しながら落とされており、数分もせずに戻って来られる状況。

 

 後は小破片であるセキレイを戻って来た少年が共に戦って封殺すれば、仕事はお終いとなるはずであった。

 

「……チッ、時間切れ、か」

 

 大主の攻撃を何とか耐え忍んでいたセキレイが何かに気付いた様子で今までは直下に留まっていた身を翻し、現場から逃げるように去っていく。

 

『あ、ちょ、あーしとの対戦を放って何処に………?』

 

 光塵の大主。

 

 彼女が逃げたのならば、仕方ないと違和感を感じてすぐに島の下部から上にすっ飛んでいき、キョロキョロと周囲を見渡す。

 

『何か来てる?』

 

 首を傾げた彼女がゆっくりと首を動かして辺りを視認した。

 

 そうして、魔力も邪神としての力も感じないながらも、僅か遠方から近付いて来る空飛ぶゴーレムの上に人影を見付けた。

 

『ん~~~~?』

 

 目を細めた彼女の首が唐突に落ちる。

 

 それに何の感慨も無さそうな顔が堕ちる頭もそのままに片手で受け止め、相手を観測し、ようやく相手が何者か思い至った。

 

『あ、アンタあれでしょ? ここらの気配の大本!! あのイヌ気配も何もないから、不意打ち喰らってたら、負けてるって事を考えるとアイツの飼い主か。あるいは相棒ってところ?』

 

 言ってる傍から大主の首が掻き消えて消滅する。

 

 次の瞬間には首が胴体からスポンと生えて来た戦闘狂な大破片がゴーレムに載ってやって来た相手の呆れた表情に苦笑していた。

 

「これだから大破片は……我らの世代では頭部は死守対象だが、どうやら違うらしい」

 

「あははは♪ 仮にも破片なら弱くなった世代としてしっかり訓練しなさいよ? そうでなくちゃ、楽しめないじゃない」

 

 島の上に降り立った大主の傍にゴーレムから落下して来た人影が大刀を掴んだままに肩へ置いて呆れた視線となる。

 

「【焦波の祖隷】だ。分け身で失礼する」

 

「なーんだ。分体か。それ何割?」

 

「4割……」

 

「ふ~~ん? 大破片に近いけれど、後一歩及ばずみたいな感じ、か」

 

「そちらこそ。復活したてのようだ。名も無き祖よ」

 

「アンタの6割何してんの?」

 

「手駒の救出だ。おかげで東部の破局には巻き込まれずに済んだ」

 

「へぇ~お優しいじゃない」

 

「貴様ら上の世代のせいで一番苦労したのは我らの世代なのでな。大破片には恨みはあれど、ロクな思い出が無い」

 

「思い出とか言い出すんだ。うわ……案外、破片も人間に近付いてんのね。やっぱり……」

 

 可笑しそうに大主がニヤニヤする。

 

「オレ以外は大陸から脱出させた。あの狂犬を飼い慣らすのに参加させられていれば、この有様だ。送り出した元部下の気配を辿ってみれば、こんなところに馬鹿デカイ船と一緒とは……中身も多種多様なようだ……」

 

 大主が僅か嬉しそうに目を細める。

 

「大破片に向いてるわね。アンタ……でも、一番苦労して、一番早死にする感じのヤツ……」

 

「余計なお世話だ。この船は接収させて貰う」

 

「力付くで来ないの?」

 

「力で来たら困るのはそちらだろう」

 

「ん~~~惜しい」

 

「惜しい?」

 

「アンタが10割なら、良い勝負になったでしょうね」

 

「何―――」

 

 その男が後ろを確認するよりも先に心臓、骨盤、肩関節の順で高速で突かれた部位が内部から爆砕し、再生するより先に黒い真菌の刃が頭部を飛ばし、その頭部が邪眼を展開した時には邪眼の瞳孔が真菌の枝分かれした針のような刃によって貫かれ、眼球内部から高速で破壊されていた。

 

「っ」

 

「………」

 

 少年がその相手を無理やり真菌の神経掌握で生きながらにして鹵獲、頭部を掴んだ途端、奇妙なものを見たと言いたげな顔になる。

 

「どうしたのよ? 大勝利じゃない」

 

「知り合いと顔が瓜二つ」

 

「は?」

 

「……当時の邪神と大神達の戦争時に一部の人類と混血してた可能性。そういうのはいた?」

 

 少年が自分が知る限り、顔だけならほぼ同じとしか見えない“ガシン・タラテント”のそっくりさん邪神を前にして自分の中にいる連中に訪ねる。

 

【いたわ。戦わずに消えた連中は実際に数体】

 

 その問いに答えたヴェラの話が本当だとすれば、島で今も部隊を纏めているだろう青年は遥か昔の隔世遺伝。

 

 邪神の血統を引いているのだろうと少年が納得する。

 

【……殺しもせずにどうするつもりだ?】

 

 まったく、ダメージを受けた様子も見せず。

 

 太々しさMAXな声までそっくりな破片の頭部を目の前に持って来て、少年がジト目で見やる。

 

「………今の大破片に忠誠を誓ってる?」

 

【いいや、そいつにも言ったが、オレ達の上の世代のせいでこっちはこの数千年で苦労した。連中を殺せる力も無いとなれば、従ってやってるだけで有情というのが実情だ】

 

「ちなみに分割されている場合、どちらに主導権がある?」

 

【どちらにもない。分割されている魂魄は同じ記憶の他人だ】

 

「分割された大きい方に精神や力を引きずられる事は?」

 

【ある】

 

「自分が相手よりも大きな割合で力を持ってる場合は?」

 

【勿論、同じように出来る】

 

「こっちの目的は大破片の撃破もしくはこのカダスの結界の制御中枢の奪取」

 

【不可能だ。蔡者の野郎は制御中枢となる神器をこの数千年一度も側近以外には何処にあるのか教えてない】

 

「固定式じゃない?」

 

【パンデモニアの中枢にあったとしても、あの野郎の事だ。機能毎に分散させて隠してるはずだ。出力の制御、結界の形成、結界の性質、みたいにな】

 

「最後の質問。一つになったら、こっちに勝てる?」

 

【………チッ】

 

 舌打ちした焦波の祖隷が物凄く渋い顔になる。

 

【オレを使い潰す気か? 大破片をどれだけ取り込んでやがる……幾ら何でも5人を同時に相手出来るか。クソが……】

 

「そういう率直なのは評価してもいい」

 

【評価だと?】

 

「大破片はどの道、狩る予定。狩れない場合は実力を限界まで削るか。もしくは削って封印。それが無理ならカダス毎葬る手も一応ある」

 

【カダス毎だと?】

 

「此処最近、邪神の力の解析は殆ど終わった。大破片の制御方法とある程度の能力の使用、スキルを形成する定理の解析は8割。後はスキル定理の根幹があるはずのこの次元で要になってるモノを掌握もしくは破壊すれば、カダスのスキルは消えるか停止出来る。つまり、邪神本体の能力だけ相手なら勝ち目は高い」

 

【オイ!? お前ら、仮にもカダスを護って死んだ護国の英霊の類だったんじゃねぇのか!? こいつ無茶苦茶しようとしてるぞ!!?】

 

 思わず普通の瞳だけ再生していた首だけ持たれたガシンの顔が叫ぶ。

 

【まぁ、あれだ。最悪の場合は我らと精神世界で殴り合いになるが、勝てんな。良くて重症を負わせるのが関の山だろう】

 

 破戒の蒼穹が肩を竦める。

 

【そうねぇ……でも、教えてくれるだけありがたいでしょう。筋は通してくれるし、そこまで悪い条件でもない。カダス毎の“後”は考えているようですし】

 

【はぁ~~カダス護るのにどんだけ苦労したと思ってんのよ。ホント萎えるわ~~コイツのとこに始祖破片が無かったら、戯言って言って斬って捨ててやるのに】

 

【ウチの子は最強だから……】

 

「いや、邪神の子になったつもりはない」

 

【――――――来るぞ】

 

 ヴェラの後に初めて意識が表出した大破片。

 

【源界の階】の声に少年がゴタゴタと白兵戦が起きている島を急加速させた。

 

 途端、島の後部の端が一部数百m規模の熱線らしきものが掠って僅かに溶ける。

 

「損失質量を計算。ゴーレムの部材の粒子化は完了してる。全真菌に薄く混在化を実行。攻撃してきた敵性体の観測を最優先」

 

 ドポンと真下に形成した真菌の沼に少年が【焦波の祖隷】を落としてヴェラ内部に取り込んだと同時に島に載っている全ての艦を真菌で侵食して解体しながら島のあちこちに移動させて装甲のように纏っていく。

 

 少年の両手から伸びた真菌は糸のように艦隊のあちこちに引っ付き。

 

 真菌だけでは足りない運動エネルギーを補いつつ、パーツの移動を迅速に完了。

 

 そのまま島全体に魔力が巡り、氷のような被膜に覆われた真菌があちこちを覆って内部の人員にはすぐ非常警戒態勢が発令され、事前に行ってあった通り、オーガ以外の全ての人員が防護用のシェルター区画への退避が問答無用で行われた。

 

「……このままだと島が堕ちる。仕方ない……」

 

 少年が近場の平地を上空から探して、殆ど命が芽吹かないらしい荒地を確認。

 

 そのまま島を突っ込ませるように墜落させる。

 

「全艦に告げる。今から島を墜落させる。何かに掴まるように」

 

 シレッと内部の人員の顔を青褪めさせながら、少年が両手から伸びた真菌の糸をギチギチを引き絞りながら、墜落方向の正面となる部位に吸収した艦隊のパーツを集めて、掘削用のドリルのような巨大な構造物を形成。

 

 そのまま魔力の転化した猛烈な勢いで平地の直撃地点に撃ち放ち。

 

 爆裂する地表を砕き、大量の土砂を吹き飛ばしながら、岩盤と地下水脈を破壊しながら回転させた構造体で解して沼地化。

 

 更に内部へと構造体を掘削を遂行させ続け―――遂に墜落した。

 

 まるでこの世の終わりのような振動が島全体を覆い。

 

 激震に内部の者達の大半。

 

 使徒階梯の艦艇から出ていた白兵戦中の襲撃者やオーガ達が巻き込まれ―――しかし、オーガ達の方が頑丈さでは勝っていたせいでしっちゃかめっちゃかな艦内では気を失いながらもオーガ側に損失は無く。

 

 使徒側は多大な負傷者が出た。

 

【ふ、判断としては悪くない。だが、そう簡単に逃してくれるかな?】

 

 破戒の蒼穹が島の上空で結界を張り続けて、掘削する構造体を繰り続けている少年の背後で苦笑する。

 

「打って出て来るのが親玉なのは想定としてはある。ただし、このままじゃどの道勝てないのは変わらない」

 

 落着した盆地は少年が残していった光塵の大主の力で地表を複数個所で爆砕し、巨大なキノコ雲が同時に渦巻き、熱量を吹き込んだ事で急速に地表から上空への上昇気流が発生。

 

 猛烈な勢いで積乱雲を発生させ、周囲を巻き込む曇天が嵐を呼び始める。

 

【こんなのに攪乱されてくれるの? 浅~~い場所に逃げ込んでもどうせ吹き飛ばされるでしょ。クスクス】

 

 苦界の千壁が意地悪く少年の背後でニヤニヤしていた。

 

「囮は用意してある」

 

【囮って何よ】

 

「エルタイナー。の偽物」

 

【は?】

 

「邪神の力で偽装して高速で別方向に逃がしてある。一番重要な品が墜落する相手の根拠地から逃げ出したら、どう思う?」

 

【ん~~クソ野郎。本当に狡賢いったら……あーもう寝るわ】

 

 思いっ切り相手が引っ掛かりそうな手をされていたので千壁が少年の内部に沈み込んで沈黙。

 

 他の大破片の残留思念達も用意周到過ぎるだろみたいな表情で鎮静化していった。

 

 唯一、表層で少年を見ていたヴェラだけが地下に潜り続ける島の制御で手一杯の少年を手伝うように島の内部構造を変容させながら、内部の人員を死傷させないように大量の衝撃を自身の肉体である真菌で吸収。

 

 更に破壊した地下水脈に自身を流し込んで地表の有機物を取り込みながら、巨大な沼地と水脈を薄く薄く自身で満たし始めた。

 

 少年の傍に戻って来たばかりのシオズと保護者な小破片が一緒にやってくる。

 

「一体何なんだよ!? 何処にいるんだコレ!? もしもの時は転移で戻すって言ってあったけどさ!? 暗いし、振動奔りまくりだし!!?」

 

 シオズの言う事は最もだ。

 

「まさか、地下に潜るとは……一体、どうしてこのような?」

 

「親玉が来た」

 

「親玉?!」

 

「まさか、蔡者がパンデモニアから出て来るはずは……」

 

「そのまさか。エルタイナーの偽物で釣ってる内に限界まで深く潜って大陸を離れる。ちょっと、力を貸して欲しい」

 

「……そっちがそんな事言うなんて、珍しいじゃないか」

 

 シオズが本当に意外そうな顔になる。

 

「問題を上手く解決するコツは余裕がある内に誰かに助けてもらう事」

 

「分りました。では、魔力を融通します。それにしてもこの島を維持しながらよく大きな気配がする破片と戦えましたね」

 

「後で説得して貰う。よろしく」

 

「説得? 良く分かりませんが、今はこの島を何とか維持する事から始めましょうか。エルタイナーからの魔力ならば、シオズの方が上手く扱えますし、出力も高い。シオズ」

 

「分ってる!! エルタイナァアアアアアアアアア!!!」

 

「……叫べばどうにかなるのは便利」

 

「何か言った?!」

 

「何でもない」

 

 少年。

 

 否、今は少女の姿を取る少年は初めて愚痴を零したかもしれず。

 

 だからこそ、少しだけ2人の小破片はこの完璧超人染みた少年にも限界はあるのかと僅かに親しみが湧いたかもしれない。

 

 そうして彼らは深く深く島を潜らせていく。

 

 地底の底。

 

 岩盤の底。

 

 地下水脈の底へと。

 

 逃走の先に必要な事を成す為に。

 

 *

 

「……逃がしたか。それにしても此処まで本物に近いモノを……このまま大陸を吹き飛ばしても、あの犬が煩いか。はぁぁ……」

 

 二十代の青年が一人。

 

 空中でエルタイナーの偽物を裏拳で吹き飛ばし、勢いのまま蒸発させた。

 

「……ん?」

 

「∴(。>ω<)∴(あ、見つかっちゃったと慌てる蜘蛛の顔)」

 

「初めて見るが、そうか。こんなところまで浸透して来ているか」

 

 青年は黒い外套姿のまま。

 

 コソコソと逃げていく蜘蛛を追わなかった。

 

 理由は単純にソレが罠だった場合、10万匹も相手には出来ないと悟ったからだ。

 

 蜘蛛の情報は逐一送らせていた青年は自分がどの程度の数と釣り合うか。

 

 明確に算定し、今の自分では大陸艦一隻すらまともに落とせない事を自覚していたし、蜘蛛の狡猾さも情報から理解していた。

 

 自分が不用意に蜘蛛を追って、そこに待ち伏せ部隊が万単位でいた場合、死なないとしても力を削り取られて封印が関の山。

 

 となれば、見逃すしかなかったというのが本当のところかもしれない。

 

 1個体相手ならば、正しく羽虫を潰す程度だろうが、ソレは相手の見せている能力からの算定であって、今攻めて来ている蜘蛛が精鋭なのかどうかも定かではないとすれば、自分を過信するのは危険だと冷静でもあった。

 

「中央域の演算が止まれば……カダスも遂にお終いか。勢い出て来たはいいが、まったく……恨みますよ。蒼穹、千壁、神歌……」

 

 今までのカダスの支配者という頚城から離れた大破片がそう愚痴を零す。

 

「祖隷の分体が堕ちたとなれば、あの犬も……進退窮まっているわけか」

 

 青年の額に邪眼が開く。

 

「我らが始祖と大神の干渉が拮抗している。まだ、この状態では均衡が保たれているという事は……因果の閾値は超えていない? 此処までの事態に陥っていながら……何かが均衡を保っている……調べる必要がありそうだ……」

 

 支配者としての顔に戻った青年が虚空から転移で姿を消した。

 

 そして、厄介な破片をまったく油断なく待ち伏せていた“43万人の待ち伏せ部隊”が全ての第三神眼、ギョロギョロと複眼の全てで周辺大陸の先まで先程の大破片を捜索するもいない事を確認。

 

「\(゜ロ\)(/ロ゜)/(ヨッシャァアアアアアアアア!!! 大破片、逃亡ヨシと大喜びで踊る蜘蛛の顔)」

 

「(/・ω・)/(ちちを確認!! お迎え部隊行くぞーというやる気に満ちた蜘蛛の顔)」

 

「(>_<)/(これでようやくちちを回収完了!! ちょっと時間掛かっちゃったけど、カダスも通常制圧に移行出来るねと孤立無援ながらも力を取り戻しつつある少年への通信を試みる蜘蛛の顔)」

 

 その日、ちち確保の祝いに沸いた蜘蛛達が良い事があったからと制圧済みの大陸で人々にお祝いの品を送ったのは驚かれつつも何か蜘蛛にも浮かれる事があるのかと僅かに親しみを沸かせる出来事であった。

 

 一つ確かなのはお祝いの品がどんな怪我も病も治る超長期常温保存可能な秘薬1ダースと島の魚肉セット(例の怪獣の肉)だった事だろう。

 

『……何の、肉?』

 

 秘薬は何か近頃病院へ大量に卸売りされているものより、少し良い品らしいと理解した者は多数。

 

 だが、見た事も聞いた事も無い島原産のお肉にはただ魚肉としか書かれておらず。

 

 人々はビクビクしながら、肉を口にし……素直に「あ、美味しい……」という感想を抱くのだった。

 

「―――索敵部隊を確認。此処まで来てくれた……」

 

 地下水脈より更に遥か下。

 

 海より深き大深度に逃げた少年と島に内包された一向が通信を受け取ったのは夕暮れ時の事。

 

 少年はようやく島への帰り道が出来た事に内心で僅かにカダスからの退避が最善かを思考したが、自分の今の手札を全て勘案した結果。

 

 現行のカダスにこれ以上自分の手札になる出力上限を上げる為の獲物以外は無い事を確信し、島を持っていく事を決定。

 

 蜘蛛達に持っていけるかと尋ね、蜘蛛達問題ないと返された。

 

 再び沼地から浮上させるのに蜘蛛達に引っ張って貰いながら、上空に顕現する地獄門を見て、エルタイナーをペタペタ触り、ジト目で注意深く観察した後。

 

「一番強い封印で封じ込めた後、救世神に使う砲弾にする」

 

「は、はああああああああああああああああ!!?」

 

「ほ、砲弾?」

 

「問題無い。そっちの問題は蜘蛛が持ってる力でエルタイナーが無くても死なないように魂と肉体を書き換えれば解決。エルタイナーとの接続が高次元領域間で切れれば、大結界も消滅する」

 

「待ってくれ!? 結界が消えたら、このカダスは!!?」

 

「今、蜘蛛達に今まで解析した邪神の力と生態系諸々の情報を送った。制圧下の大陸の種族の血統にテコ入れする。アークエルフにしてたのと同じように生きていけるように体を変化させれば、問題ない。カダスの制圧はウチの兵隊なら……送られて来た情報を見る限り、恐らく後900時間くらい」

 

「「………っ」」

 

 物凄く言いたい事がある小破片2人にそう少年は宣うのだった。

 

 *

 

―――何処かの宇宙の何処かの帝国。

 

 私は宇宙最後の日となる決断を下した。

 

 無数に押し寄せて来る部下達を切り捨て、大量の奴隷共の光の束を跳ね返し、突撃してくる決死の自爆攻撃をしてくる私のクローン達を粉々に打ち砕いた。

 

 異次元からの侵略に対して残された手段は後一つ。

 

 この銀河を焼失させる【マナム・オーラム】の起動だけだ。

 

 嘗て、旧き者達がこの銀河に建造した最大にして最後の巨大構造物テラストラクチャーはたった一つの事を実現する為に銀河内の全ての物質と精神構造を持つ存在が持つ高次元領域への脳内からのパスを強制的にオーバーロードさせて、人工的にビッグバンを発生させる代物だ。

 

 ただし、旧き者達にも限界はあった。

 

 それが一銀河程度に留まる程度の宇宙創成であるという事だ。

 

 宇宙の創生に必要な場の制御と無限の膨張をその構造物は実現出来ず。

 

 しかし、自分達のいる次元よりも下位次元に有限だが、果ての無い世界を構築する事が出来る。

 

 それが銀河一つ分の領域で無限の宇宙を生み出す次元消失と次元創生を行う旧き者達の巨大施設であり、彼らが遂に起動しなかった代物だ。

 

「いやぁあああああああああああああああ!!!?」

 

 泣き叫びながら逃げ惑う奴隷種族に家畜種族。

 

 無限にも等しい体力と精神力を持つこちらにクローン如きが敵うわけもないのに突撃してくる失敗作達。

 

 自分達を犠牲にして新たな宇宙に転移出来る素質がたった一人にしかないと知って、何もかもが瓦解する最中、爆光で異次元からの艦隊が無限に煌めく宙域。

 

 否、銀河中心領域にて最大最後の決戦を行う嘗ての同胞艦隊と次元艦隊。

 

 馬鹿らしい話だが、次元の違う世界からの来訪者の艦隊は規模でこちらの三倍。

 

 技術力で僅かに優位という馬鹿馬鹿しい規模だ。

 

 銀河を蚕食し、最後に統治しようという最後のシークエンスが始まる前に終わってしまった帝国が行き恥を晒して何になるのか。

 

 昨日まで笑い合っていた将兵も士官も全て切って捨てて、今や参謀本部は空っぽだが、その前に参謀達による演説があったせいで今にも44443天文体にも及ぶ巨大構造物を破壊しようなんて無駄な努力に多くの者達の一部が団結している。

 

 異次元艦隊も同胞艦隊も奴隷種族も家畜種族も嘗て共に夢を語った全ての者達が破滅を食い止めんとして争い合いながらも混沌とした現場で確かに協力している。

 

 星を喰らう獣が、世界を浄化する原理主義種族が、他者を排斥し続けて来た排他主義民族が、何もかもを機械化する為に蔓延る知性機械が、一つ一つで銀河の危機として今まで下して来た全ての者達が何故にたった銀河一つを失う程度の事で団結出来るのか。

 

 まるで意味が分からない。

 

 あらゆる時間と空間を優越する能力にまでも手を伸ばした私を前にして彼らは遠ざかり、嘗て同胞と共に見つけた滅びた惑星の遺跡に今の私の姿はある。

 

 何もかもが嫌になったら、此処に来る事はよくある事だ。

 

 だが、それを知ってか。

 

 何名かが、最も私に近いクローン達が半ば分解され掛けた体を推して、こちらに迫って来る。

 

 銀河一つを爆縮し、生み出される小さな結晶。

 

 ソレはゆっくりと何もないヴォイド…いや、无の領域の最中で回り続ける永遠だ。

 

 なのに、それが分からないクローン達は名前も与えた精鋭だとは……片腹痛いを通り越して、もはや喜劇かもしれない。

 

 遺跡は真空の海にある。

 

 無限の宇宙を見上げられる其処に大気は無く。

 

 しかし、声は響く。

 

 反響する無数の声。

 

 時空の歪みを超えて次々に送り込まれてくる機械知性自身を装甲として纏った各種族、各民族、各奴隷、家畜、増え続けた敵の攻勢は遂に私の静寂すらも破壊した。

 

 だが、意味は無い。

 

 後100秒……それで銀河は消え去り、新たな宇宙で新たな時代が始まる。

 

 全ての物質が渦巻く虚無ではない原子のスープを泳ぎながら、新たな創造主として立つ私はきっと今までの事を何一つ忘れないだろう。

 

 旧き者達が残した理不尽な言伝も、この宇宙の秘密も、この終わりが何回目のものかまでも……全てだ。

 

 だが、不意に遺跡が明滅した。

 

「?」

 

 無数の者達の攻撃をエネルギーを純粋にフィールドとして形成し、壁に押しやり圧殺しながら、遺跡が動き出したのを私は興味深く見つめる。

 

 この遺跡の創り主は旧き者達の一部が生み出した結晶生命達だ。

 

 彼らは受信する事に長けており、この銀河外、次元外から、情報を吸収し、情報そのものを消費して莫大な出力を可能とする。

 

 物質世界ではなく。

 

 情報世界の神だった。

 

 情報世界はクオリアの世界。

 

 概念の世界に近しい。

 

 精神が接続する上位次元、高次元領域の類は少なからず、その領域の一つとして現行は考えられており、遂に情報次元に到達しなかった嘗ての高度文明達は自分達の破滅を抑えられなかった。

 

 エントロピーの増大すらも操った最強の情報生命達が何処に消えたのか。

 

 それは誰にも分からない。

 

 ただ、ソレは“白金の菱形”に似ていたと壁画にはある。

 

 彼らは自分達のいる場所に安住せず。

 

 新たな次元、新たな世界へと旅立った。

 

 そう、私がそうなるように……つまりは彼らのやった事を私なりに再現したという事になるだろう。

 

 しかし、不意に遺跡が明滅してゆっくりと映し出したのはキョロリとした複眼だった。

 

 そして、私は……私の魂は……。

 

―――「(・ω・)ノ(キシャー)」

 

「?」

 

「(・∀・)(………パクッと何かを食べる仕草をした“新しい蜘蛛”の顔)」

 

 モシャモシャと自分の残骸を頬張りながら、何処かで生まれた蜘蛛は無数に今も自分を斃そうとして壁際に貼り付けられ、驚愕している種族達を放置して、時空間の歪みの先へと歩き出し、自分の後ろで出た“自分の残り滓”が僅かに形を取り戻そうとしたのをヒュンッと糸で全て包んで口を開けて呑み込んでゴクリした。

 

 普通のペカトゥミア。

 

 つまり、人間変異体にしか見えないが、どこか今までの蜘蛛とは黒さが違うようにも思える。

 

「(´・ω・`)(あ、やっべ。ブラックホール化する前に全部食べなくちゃとイソイソと事態収拾に向かう蜘蛛の顔)」

 

「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」

 

 蜘蛛はイソイソと遺跡から逃亡し、今も齧られて崩壊し始めている“天文単位物体”を己の内部にモッシャモッシャと時空間を超えて齧って取り込みながら、唐突に世界とも言える構造物が消えていく様子に茫然としている者達のいる宙域へと戻って、どっこらしょと体重が増えた体で惑星一つ分にも成りそうな巨大戦艦の艦橋真上に立って片手を上げた。

 

 内部では元の蜘蛛だった存在がぶっ殺した大量の死体と半死体な者達が何故か自分を殺したモノと同じような力で生命を維持され、ついでに死体がいきなりムクリと起き上がるというゾンビものな阿鼻叫喚状況が進行。

 

 内部に転生呪紋を掛けつつ、それを更に蜘蛛になれるモノを蜘蛛化しつつ、蜘蛛になれない存在の心理やデータを読み込んで排除しつつ、艦の乗っ取りを実行中な蜘蛛がいつもの軽い笑みを浮かべた。

 

「(≧▽≦)/(あ、蜘蛛です。よろしくお願いしますと“幻影呪紋で”全ての種族、全ての機械知性、全ての異次元人に挨拶する蜘蛛の顔)」

 

 最終戦争に必要な質量を一人で獲得し、同胞を増やして、無数に転がっている宇宙デブリ化した大量の残骸を“魔力ではない物理量”で捏ね繰り回し、ゴーレムならぬシュヴァリアを作成……イソイソと帰還と宇宙平和を実現する為に働き始めるのだった。

 

「………」

 

 そんな様子を眺めていた存在が一体。

 

 ノクロシア中央ターミナルの研究室内でお茶を片手に新たなる可能性と蜘蛛達の規模拡大が想定以上となりつつあるのに目を細めた。

 

「面白い。そうか……因果が解けていく理由はコレか……」

 

 白衣の男が一人呟く。

 

 男は旧き者が残した遺産の一つにして今はノクロシアに封じられたモノの依り代となって久しい。

 

 昨今は遠征隊に研究室を化して、蜘蛛や外大陸の様子を見て楽しむのが娯楽になっていたが、それは彼に憑依するモノも同じであった。

 

「どういう事だい?」

 

「単なる偶然だよ」

 

「偶然?」

 

 1人で己に問い掛ける白衣の青年は自分のデスクで次々に送られてくる蜘蛛達の情報を整理しながら、己の内部より宇宙を観測するソレに訪ねる。

 

「あの蜘蛛達は自覚していないかもしれない。だが、それはたった一人の因果の補完にして、あらゆる可能性の網羅という事になる」

 

「網羅? 可能性を代わりにという事かな?」

 

「少し解説が必要だろう。因果が破綻する理由は知られている通りだ。転生と救世神の因果律操作のせいで因果が特異点化して限界を超えて破綻する」

 

「ふむふむ」

 

「だが、それにずっと付き従うように膨らみ続けた因果がある」

 

「彼かい?」

 

「そうだ。その因果は必ず途中で途切れていた。だが、実際には因果というのは続く限りは可能性がエントロピーの法則通りに増えていかなければ嘘だろう」

 

「確かに……」

 

「だが、終わるが続いているという特異な彼の因果律は0と1に置き換えられる。有と無だ。量子的に彼本体の因果律はどちらでもない。しかし、彼の写し身に等しい蜘蛛達は違う。そして、蜘蛛達は彼が本来辿れる因果の総量を可能性として全て網羅出来るようになって来ている」

 

「つまり?」

 

「たった一人の人の果てが紡いだ可能性となるべき叡智、技能の果て先。蜘蛛達は一本の因果より無数に枝分かれし、それが更なる系統樹を紡ぐように因果を紡ぎ上げている。ソレはつまり彼が成し得なかった“可能性”を個体数の総当たりで実行しているに等しい」

 

「総当たり……つまり、因果的には蜘蛛達は疑似的に彼そのものとしてあらゆる問題を全ての知性がそうであるようにデフラグしていると」

 

「では、問題だ。因果が爆増したとして、因果律は破綻するか?」

 

「しない。極限的には宇宙の膨張に従って散逸する。でいいかな?」

 

「当たり前の事だよ。宇宙の膨張と収縮を決めるのは因果の量ではない。総量規制は存在するが、量的には無限に増えても破綻しない。バランスの問題だからだ」

 

「デフラグしている因果が増えるとどうなるのかご教授願おうかな」

 

「この島の因果の凝集と結び目が殆どダマになっていたのが新しく紡ぎ上げられた因果に引き延ばされて細く為って来ている」

 

「細く?」

 

「そうだな。大きな因果、塊が救世神だとすれば、そこから伸びた始まりの一本、彼の糸は極めて太い」

 

「ふむふむ」

 

「しかし、蜘蛛達がその糸から分岐して無数にぶら下がっている。それも島から続く因果で宇宙を蚕食する勢いで」

 

「……因果のダマが無理やり引き伸ばされる?」

 

「今まで島の内部で完結していた因果が解き放たれ、無理やりに重く因果のダマとなった救世神に圧力を掛けて引き伸ばし始めた」

 

「……猶予が伸びる?」

 

「このままの状態ならば、猶予が伸びると同時に救世神の能力が飛躍的に上がる可能性がある」

 

「っ、ダマになっていた負荷が減るからか?」

 

「そうだ。だが、これは同時に因果関係におけるボトルネックの問題となる。蜘蛛が居る限り、救世神は能力が上がる。が、蜘蛛を消す程に負荷で弱くなる。だが、彼を消すと……」

 

「一気に負荷が増える?」

 

「そうだ。しかも、いきなり増える負荷が存在に対して良い結果を齎すと思うか?」

 

「負荷が倍増する?」

 

「瞬間的に破綻してもおかしくない。それこそ繰り返せぬような負荷が掛かるかもしれない。蜘蛛を消しても同じだ。蜘蛛から派生した因果が現在進行形で増え続けている。ソレを一気に消せば、消した分だけ自分に対する負荷が数十倍、数百倍となって押し寄せて来る」

 

「……因果律制御で消せなくなったと?」

 

「消した瞬間に弱体化した挙句。彼がその隙を逃すと?」

 

「確かに……」

 

「今後、更に強くなった救世神が本来の力を振るわずに戦う事となれば、後は……物量の問題だ。どちらの出力と能力がより高いか。競い合うならば、勝算はある」

 

「喜んでいいのか悪いのか。分からないね。はは」

 

「そんなものさ。因果律操作無しで救世神がどれ程の力を持つものか。まだ誰も知らない。そして、少なくともソレは始祖破片と同格以上ではない」

 

「君の御同類だったかな?」

 

「こちらは随分と前に鹵獲されたからな」

 

「自分の事を話すなんて珍しい……君はこの世界に来てから分岐したと嘘を吐いていたわけだ」

 

「ふ……我々は本体にとって問題解決の為に放った枝葉にしか過ぎない。他の邪神達とは違って……遊んでいるわけでもない」

 

「真面目だね。君も……」

 

「この宇宙の始まりより前から連なる我らは本体にしてみれば、自分の爪のようなものだよ。探索し、本来の目的を果たす為だけに此処にいる。そして、問題はようやく解決の糸口が見え始めた」

 

「饒舌じゃないか」

 

「そうもなる……この“ノード”において唯一、我らと同格にまで上がって来たモノは一系統のみ。それに選ばれたモノが新たなる階梯へと至った時、本当の意味で次なる任が始まる」

 

「次なる任?」

 

「我らは主に褒めて欲しいだけの飼い犬と言う事だよ。くくくくく」

 

「悪い顔だ……ふふふふ」

 

 1人2役でブツブツ呟く白衣の青年を遠目から見ていた少女達は思う。

 

『ね、ねぇ。フィーゼ……お薬ってあの人にも効くのかなぁ?』

 

『さ、さぁ? どうでしょうか?』

 

『ふぅむ(T_T) ちょっと頭を叩けば治るじゃろうか?』

 

『だ、ダメですよ!? リリムさん!? そっとしておきましょう!! 人には誰しも知られたくない事があるんですよ!!』

 

『知られたくない事……そう言えば、この間ドラコ―ニアって間諜じゃね?と蜘蛛達に言われておったが、結局どうだったんじゃ? 秘密か? クーラル先生よ』

 

『ひ、ひひひ、秘密じゃないですよ!? ちょっと、ドラゴンの人達と時々視界とか時間とか記憶が共有されちゃうだけです!!? このクーラル先生、一切裏切とは無縁の超優良教師ですとも!!?』

 

『え~~この間、蜘蛛達に連行されていく時に違うんです~~って言ってた時の姿は正しく嘘がバレて掴まった間諜っぽかったけどなー』

 

『なー♪』

 

『ふ、二人とも!?!? わ、私は無実ですぅ~~~!!?』

 

『……裏切者……』

 

『おう。妹殿どうかしたのか?』

 

『い、いえ、何でもありません』

 

『殿下。妹様は今、少し複雑なご心境のようですのでそっとしておいては如何かと……姫殿下。どうぞこちらのソファーに』

 

『あ、はい。我が騎士……』

 

『む、そうであったか。済まぬ。乙女の心境にはまるで詳しく無くてな。愚弟よ。お前も妹殿に何も聞いてはならんぞ?』

 

『するか!? 何でオレが最初から無礼を働く前提なんだクソが!?』

 

『(何か悪いものでも食べたのか。偽物にしか見えない御兄様達の方がよっぽどに複雑な心境の大本なのですが……)』

 

『姫様。只今戻りました。第三部隊は恙なく任務を完了しました』

 

『角の騎士。ご苦労様でした。皆さんも……』

 

『う~~あたし、普通の女学生なのに。うぷ……』

 

『すいません。少しコイツを休ませたいので奥の仮眠室をお借りします』

 

『あ、はい。まだ学生のお二人を徴用しているわけですし、ゆっくり休んで下さい。そう言えば、レメトロ……件の彼は?』

 

『はい。現在、各ヴァルハイルの主要都市にウチューコウ?というものを設置している最中だそうで、連絡は受けています。現在、王都の立て直しと並行して、この星の外との経済連携を行うヴァルハイル初のウチュー経済協定とやらの詰を行っているとか。例のガイワクセーとやらに出来たと噂の蜘蛛達の植民地との交易と転移用の呪具らしい地獄門とやらを経由した遥か果てとの移民協定で物資の生産現場を創る為、蜘蛛達に事実上の出資者として使われているらしく。今、塔の上で出資金を蜘蛛達へ個人での借金として出してもらっていると』

 

『え? ま、まさか、国家規模の?』

 

『はい。どの道、経済関連の殆どの官僚が消えている王都を動かしている今、煩雑な予算を組む力が無いのは明白。ならば、全て蜘蛛に投げて、全ての責任と借金は個人負担にして一括で面倒事を集約、それをヴァルハイルに貸しているという体で処理すればいいと提案されたとか。そのせいで借金の総額に死んだ魚のような目をしていると彼の部下から……』

 

『そ、そうですか。もう何も驚きはしませんが、彼個人に殆ど任せてしまった手前、心苦しいばかりです……』

 

『いえ、当人は戻って来たら“ヤツ”を一回だけ殴らせろと息巻いているらしく。殴らせてくれたら、利率何てどれだけでもいいと自棄気味に仕事をしているとの事です。まだ当分は問題ないでしょう。何も言えなくなったら、こちらから少し労いを入れてやって頂ければ……』

 

『は、はい。分かりました。本当にまだ学生である彼に全て投げてしまったのは……不徳の致すところです。この危機を乗り越えた時にはヴァルハイル総出で彼の支援をせねばなりませんね』

 

 現在の遠征隊と協力者となったヴァルハイルの皇太子達を含めて全員が予定されていた牢獄の邪神の破片を片っ端から討伐し続けてある程度の時間が経った。

 

 その破片の残骸は回収され、現在のターミナルの主となっている白衣の青年によって武具用の部材として研究開発が進められ、彼らの使う一部の武装に付いては明らかに邪神の力を纏う物が追加されていた。

 

『何で一人で荷物運びなのよ~~』

 

 人型なヴァルハイルの少女が大きな尻尾と角をフラフラさせながらも巨大な鋼色にも見えるボックスを背負い。

 

 えっちらおっちらとターミナルの通路を歩いていた。

 

 支援役となった元いじめっ子は後方から必要な資材や道具を戦線に送る転移呪紋の基点となる霊廟そのものと化したボックスを背負っている。

 

 戦えはするのだが、基本的に攻撃なんて出来ない性質なので殆ど準後衛の立ち位置であり、今のところはヴァルハイル勢ともニアステラ勢とも上手くやっていた。

 

 ターミナル付近の蜘蛛達が護衛する通路の先。

 

 通路には陣地が構えられており、馬車まで置かれっぱなしであるが、もしもの時に使うモノだからと片付けられてはいない。

 

 快適な室内に入るのは本格的な大休憩時のみであり、他は小休憩を焚火を囲んだ仮設陣地で取るのが遠征隊のお決まりとなっていた。

 

 そんな場所にようやくボックスを持って戻って来た彼女がその背後の大きな荷物を下して、所定の接続場所として整備されたブースに移動させようとし―――。

 

 ドカッとソレをブース横で盛大に落とした。

 

「――――――」

 

「……ただいま」

 

「――――――」

 

「?」

 

「………っ」

 

「食べる?」

 

 シレッと自分の主となった少年が串焼きを焚火から引き抜いて差し出すのを見た彼女は堪え切れなくなって盛大に泣き出した。

 

 恥も外聞もない。

 

「……ちょっと、また出て来る。今度は二日くらい」

 

 串焼きをそっと蜘蛛が横合いから受け取って下がる。

 

 泣き止まない相手の頭をポンポンした少年が少女の手に麻袋を握らせる。

 

「遠征隊全員に必要な装備を持ってきた。髪飾りの形にしたから、女性陣で分けて欲しい。それと武装は蜘蛛に渡してある。男性陣はそっちを」

 

「あ、あ、あんっ、アンタ?! う、ぅぇぇぇぇ!!?」

 

「あまり時間が無い。ノクロシアの邪神の討伐は帰って来たら後で一括してやる。その前にちょっと追加で殴る相手が出来た。二日後にニアステラの館に戻る。その時までに関係者を全員集めておいて欲しい。出来る?」

 

「~~~~~~っ、ぅ……ぅん」

 

 何とか何もかもを呑み込んで堪えた少女が涙を袖で拭って頷く。

 

「それと新しい遠征隊のメンバーを揃えておいた。第四部隊として置いていく。ただ、帰るまでニアステラから蜘蛛が少し少なくなる。その分は気を付けて」

 

「………分かったわ。このヒトデナシ……」

 

 フンッとそっぽを向いて、何処か悔しそうに少女が頷く。

 

「頼む。兄と父の方は外見だけ元に戻しておいた。後で会って来るといい。じゃ、2日後に……」

 

「ちゃんと、戻って来たから……許してあげるわ。でも、後で殴らせなさいよ……馬鹿……」

 

「殴る以外の事を期待しておく」

 

「な、ば、っっっ~~~」

 

 少年にそう返されて少女が思わず頬を赤くして、罵倒しようとしたが、少年は目の前で蜘蛛達を付き添いに転移で何処かへと消えていく。

 

「ふ~~大休憩終わりです。さっそく、残ってる邪神を……?……この匂い」

 

 フィーゼが陣地の焚火近くで「(*´▽`*)〈モックモックと無言で良いもん貰ったと串焼きを齧る蜘蛛の顔〉」を見て、赤い目を拭って麻袋を持っているアミアルを見付けて駆け寄って来る。

 

「ど、どうしたんですか!? アミアルさん」

 

「あ、あいつがかえ、帰って来たの!? でも、殴るヤツが追加で出来たから、二日後にまた戻って来るって!?」

 

「え!?」

 

「も、もしかしてアルティエ帰って来たの!!?」

 

 フィーゼの後ろから出て来たレザリアが思わず固まっている少女の横から飛び出して来る。

 

「う、うん。今、アイツ蜘蛛を連れて行っちゃって……2日後に館に戻って来るから人を集めておいて欲しいって」

 

 唖然とする少女達である。

 

 その背後からのっそりと蜘蛛脚のような翼がトレードマークになったガシンが寝ぼけ眼でやってくる。

 

 邪神相手に激戦を演じて1戦闘毎に数時間の仮眠を取っていた青年の上半身にはキスマークがあちこちに付いている。

 

 ヒオネの従者にして内縁の妻〈そろそろ普通の妻〉確定となって久しいアルマーニアの女戦士に個室で寝ている間に付けられたに違いないが、今日は生暖かい「(;´∀`)ふしだら~という顔」を女性陣にされる事もなく。

 

 遠征隊女性陣の様子にようやく帰って来たかと事態をすぐに理解して、上に蜘蛛達が着せた黒い羽織を纏い。

 

 何も言わずに次の戦いに向けて準備運動し始めた。

 

「ようやくか。アイツ……此処から遠征隊再始動だな」

 

「む? ああ、彼が帰って来たのですか」

 

「エムルトか。そうらしいぞ。何かすぐにやる事があるってまた消えたっぽいが、今度は蜘蛛が一緒だろ。どうせ」

 

 青年の傍まで通路を歩いてやって来たエムルトが少女達が慌てて怒ったり、泣いたりしている様子に何処か微笑ましそうな顔となる。

 

「このセーフティーゾーンまで戻って来る辺り、顔が見たかったのでしょう。ですが、それ以上に今は重要な事があると」

 

「オレらに頼らないって事は頼らなくても良いと判断したって事だ。オレらはオレらの仕事をしようや」

 

「そうですね。こちらも祖国を六眼王閣下に任せ切りですから、襟元を正さねば……それはそれとしてノクロシアの7割近くを何とか制圧しました。現在、あの影を排出している機構の停止に向けて動いている最中ですが、ノクロシアの制御中枢がある区画は発見済みです。恐らく、後5日もあれば、内部に侵入して制圧出来るかと思います」

 

「そうか。遂にこの島を牽く事になるか……」

 

「緊急時だけですよ。そもそも外界の殆どの敵を蜘蛛達が制圧した今、この島を牽く理由は恐らく大神勢力が無尽蔵の力で攻めて来た場合だけでしょう」

 

「どの道、救世神とやらがいる島からは逃げられないしな。だが、手札は多いに越した事はねぇ。だろ?」

 

「はい。白衣の彼の話から中枢区画を制圧すれば、恐らくあの炉心を動かす事が出来るようになるはずです」

 

 2人が通路の窓際の先を見やる。

 

 そこには今も停止しているノクロシアの炉心が僅かな光の中で鎮座していた。

 

「アレに付いては何か判明したか?」

 

「……言い難い事なのですが、各種の研究資料を蜘蛛達に読み取らせていたところ、それらしい記述が今回の探索で判明しました」

 

「進展だな。で、何だって?」

 

「アレはどうやら存在の次元を落とす事で力を取り出す代物らしいです」

 

「存在の次元を落とす?」

 

「簡単に言えば、高次元の領域。つまり、神に類する存在を強制的にこの次元の存在にまで墜落させて、落ちて来た時に放出される力を使って高次元を0次元化し、その領域に含まれるあらゆる種類の力を抽出する炉心、だとか」

 

「つまり、相手を墜落させてぶっ殺すと力が貰える? みたいな感じか?」

 

「例えは物騒ですが、そんな感じでしょうか。そして、我々はその炉心の原料には心当たりがあるわけです」

 

「オイオイ。邪神を燃べてたのか? ノクロシアは……」

 

「あの彼と同居するという邪神。自由に動き回れているところから察するに牢には入れられていなかった事になる。ならば、どんな用途で牢に入っていなかったのかという事になります」

 

「……ま、本人次第だろ。ダメそうなら、この間から蜘蛛連中が増殖させてるって言ってた神の肉体とやらを突っ込んでみればいい」

 

「もしもとなれば……」

 

「止めとけ。神初心者にやれる事かよ」

 

「……まぁ、選択肢は多いに越した事はありません。そういう事にならないように策は弄します。もう自分だけの体でもありませんから」

 

「ああ、そうしろ。ああ、そう言えば、アイツが帰って来たって一番気に揉んでたヤツに教えないとな」

 

「彼女ですね。今は英雄邸の方ですから、すぐ教えに行きましょう」

 

「任せる。女の涙は重いんでな」

 

「帰って来る度に心配されている身が言うだけの説得力はありますね」

 

「もっと強くならないとな」

 

「ええ、互いに……仮眠を3時間取ります。その間に諸々の情報は仕上げておきます。後でノクロシアの地図を更新しておくので一読しておいて下さい」

 

「ああ、分かった」

 

 無言の帰宅どころか。

 

 無見の帰宅を果たした少年がさっそく仕事に消えた後。

 

「此処が主の現在探索しておられる場所か」

 

 巨躯なオーガがのっしのっしやって来たり。

 

「エルタイナー……うぅ、エルタイナー……」

 

「気をしっかり持て、お前の問題を解決出来るからと彼に投げた以上、後は彼次第だ。シオズ」

 

「そ、そうですけど!? そうなんですけど!? これは!? こればっかりは!!?」

 

 邪神の姉と弟みたいな2人がやって来たり。

 

『此処がノクロシアか。はは、遂にあの頃噂だった場所まで来ちまったな』

 

「スゴイスゴイ!! 強そうな人がイッパイいる!!」

 

『いきなり、剣とか向けるなよ?』

 

「ちゃんと挨拶してから向ける!!」

 

『いや、そういうのは……はぁぁ……蜘蛛ならいいか』

 

 少女と喋る剣がやって来たり。

 

『ほほう? これが音に聞いた神々の都かい。住み心地は良さそうだね』

 

「はい。おばば様」

 

 女しかいない半霊の老婆が統率する集団がやって来たり。

 

「此処がニアステラ……我らの新たな居城を置く場所……あの塔、長過ぎません? というか、光っているような? ははは……この世界の外に通じる階、ですか。海の方には艦船が殆ど陸地並みに広がると……あの黒鉄の戦艦……まさか、大神連合が嘗て使っていた主要戦力……随分と大破片が落とされたという……」

 

 巨大な島型艦艇が複数の艦を引っ付けて、緋色の塔の傍に再建されたホワイトピーク横に駐輪場よろしく止められて、邪神の使徒の頭目が蜘蛛達の規模の大き過ぎる射爆用のグラングラの大槍が大量に並ぶ対空砲陣地化された複数の整備中な宇宙港拠点に顔を引き攣らせていたり。

 

「な、なぁ、アネさん」

 

「何だい?」

 

「此処、何処?」

 

「あたしらの大陸じゃなさそうだが、あたしの体に邪神が結合して、取り出すのに時間が掛かるって話だから、まぁ……しばらく、まったり待つさね」

 

「つーか、蜘蛛とか。オレ、蟲とかダメなんだよな……実際……」

 

「肝っ玉が本当に小さいね。アンタも……」

 

「小さくて悪かったな。はぁぁ~~アイツ、蜘蛛の親玉までやってんのかよ……」

 

 考古学者とパトロンな男女が取り合えずニアステラの雑踏で一緒に日用品や食糧を買い込んでいたり。

 

「ふ、ふぉおおおおおおおおお!!? 此処が我が使徒殿の居城!!? 居城? いや、十分に大きいのじゃが、なーんか? こう? 居城というよりは馬鹿デカイ屋敷みたいな? いや、そもそも石造りっぽい。酒場が併設されて? むむむ? ど、どう挨拶するべきじゃろうか? やっぱり、此処はビシッと使徒殿の愛人ですと言うべきかや?」

 

「どちら様? 何か外で騒いでるエルフって。この島にエルフってあの子一人じゃ……ね、ねぇ、君」

 

「ん? 我かや? ニンギョーの人」

 

「その君の体から出てる気配にとってもボクは覚えがあるんだけどさ。ちょっとこっち来てくれないかな」

 

「おぉ!! そうか!! お主が使徒殿が話していたニンギョーのデカチチキンニクショ―――」

 

 ビターンと口元を抑えられたアークエルフの長がデカ乳筋肉処女こと現在妊娠中なおめでた人魚に拉致られ、その勢いでアークエルフ達が館に雪崩れ込んで少年の言伝から第二の故郷としてニアステラに定住します的な話をして、エルフ側の長老連と現場にいた皇帝職の人やニアステラの実質的権力者なウートが詳細を蜘蛛達と詰めたりもした。

 

「あ、あのさぁ。君、アイツの気配がどうしてそんなにしてるのかな? 物凄く色々な混じり物な気配がしてはいるんだけど、アイツの気配だけやたら大きくない?」

 

「ふふ、ニンギョーの人はもう妊娠しておるのか。むふふ、我が使徒殿も隅におけんの~~それで後何人くらい妻? いや、愛人? が、いるのかのう」

 

「ボクはあいつの愛人じゃないよ!? それと責任を絶対取らせる為に復讐の刃を研いでるんだ!?」

 

「復讐!? つまり、よくも自分を妊娠させたな!? と!!? むむ!!? それはそれは……つまり、これからも貴方の傍で戦っていたかったの?!! という逆説的な愛情表現?! な、何という高度な恋愛技能じゃ!!? この島ではソレが普通なのか?」

 

「違うよ?!! 今、ボクが何て言われてるか教えてあげる!? 英雄の妻二号さんだよ!? 二号さん?!! ちょっとヒオネさんの当たりが強くなったし、ボクの事心配して蜘蛛達が気遣ってくれるせいで滅茶苦茶それっぽい既成事実みたいな話が既に島全土に広がってるんだよ!? 君さ!? アイツとどういう関係なの!? こっちはまだ口付けだってした事無いのに!?」

 

「え、えぇ……それはつまり使徒殿は口付けもしない内に妊娠させる鬼畜外道な情感がグッと来るという? そ、それはさすがに我には高度過ぎるかもしれん……やっぱり、好き合う者が口付けしながらイチャイチャするのが良いのであ―――」

 

「ちっがぁあああああああう!!?」

 

 その日、蜘蛛達がご招待した島の如き船がニアステラの天蓋の上に着陸したと話題になり、英雄が島の外から連れて来た援軍であると実しやかに噂が流れた。

 

 ついでに島の外から大量のエルフやオーガが流入し、少年に忠誠を誓っている様子から、新しい住人達を島の住人達は繁々と見やり、イソイソと受け入れる準備を始めたのだった。

 

「愛人、愛人とか。ふ、ふふふ……」

 

「あ、ヒオネ様~~~あのエルフとか言う種族の長は愛人じゃなくて助けられた勢力の代表者って話ですよ~~」

 

「お、ヒオネ様どうしたんですか?」

 

「しっ、今は放っておいた方がいいから。で、どうしてこっちに?」

 

「ああ、あっちで旦那様の疲れた体を寝てる間に慰め終わって外に出たら、コイツらが主様の寝床は我らの寝床って言ってて。連れて来たんだけど」

 

「は? こいつら?」

 

「アルジサマの脚はサイコー!!」

 

「そう。アルジサマは踏まないようにヤサシク踏んでくれる!!」

 

「イツカ、アルジサマの子を我が主人の為にも幾らもハラマネバ!!」

 

「コ、コイツラ、何?」

 

「オーガとか何とか。島にはいなかった種族みたいだけど、彼の寝室に住んでるとか言ってたわよ」

 

「す、住んで……ふ、ふふ、ふふふふ……どうやら、アルティエ様には色々とO・HA・NA・SIする必要があるようですね。ふふふふ」

 

 少年の帰還は少年の明日はどっちだという具合にねじ暮れて大惨事へと加速していく事になるが、当人はまだ知らない。

 

 一つ確かなのはまだカダスの事は何一つとして片付いていないという事。

 

 そして、最大にして一番の問題を少年が蜘蛛達と共に処理しようとしていた事。

 

 カダスの未来は遂にカダスではなく。

 

 因果の中心が戻った島でカチリと嵌った歯車のように回り始めた運命の流れの中、一体のゴーレムを中心として決する事となる。

 

 そのゴーレムの名はエルタイナー。

 

 始祖破片。

 

 この星の邪神の始まりが封じられている一体はこうして島の上空、巨大な地獄門のステーションより先にある場所。

 

「芝居はもう結構。起きてるなら、話がある」

 

 緋色の月面へと鎮座し、遠征隊の正式装備を身に纏った少年を前にしてゆっくりと自立して動き出す。

 

『さすがに人の果て相手には通じぬか。旧き者達が求めた最後の使者よ』

 

 夜のように漆黒の真空でひっそりと声は響き始めたのだった。

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