流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第114話「遠き胡蝶のカダスΩ」

 

―――“   ”中央域『   』。

 

「      」

 

「      」

 

 朧な影が嘗て“   ”と呼ばれていた世界を歩いていた。

 

 道端では路傍に店を広げるモノもいれば、店舗を構えて呼び込みをする者もある。

 

 何処の大陸でも下町というのは大概にして活気がある場所と同時に雑多だったり、猥雑だったりするものだ。

 

 彼女は薄れていく人々の姿。

 

 朧な影の人々の最中を彷徨っていた。

 

「これが滅び……」

 

 彼女の故郷の名前が思い出せない。

 

 彼女の主の名前が思い出せない。

 

 しかし、彼女の手元にある朧ではない杖だけは前と同じだ。

 

 声も風の音さえも遠く。

 

 薄膜一枚掛けられたような暗がりが広がる虚無の道行。

 

 認識が歪む。

 

 記憶が歪む。

 

 しかし、彼女は杖一つを頼りに中央にある巨大な聖殿へと向かう。

 

 その地下には書庫があるはずだった。

 

 世界の全て“   ”の全てがある書庫だ。

 

 歩き続け、歩哨をまるで意に介さず。

 

 誰とすれ違ってもすり抜けて。

 

 彼女は歩き続けた先。

 

 感覚すらも朧なままに禁忌書庫の入り口に辿り着く。

 

 司書達が本を整理している最中。

 

 彼女が開いた扉には鍵すら掛かっていない。

 

 ただ、重苦しい扉が指先が触れたと同時に開き。

 

 そして……杖が光ったかと思えば、虚空に一冊の古びれた褐色の冊子。

 

 いや、幾枚かの紙切れを束にして紐で閉じたものが現れた。

 

 背表紙も無く。

 

 薄い薄いソレを掴んだ彼女は……動き続ける司書達の最中。

 

 中央大テーブルの中央にソレを持ち込み。

 

 ゆっくりと座って……震える手でソレを開き始めた。

 

 冊子の一枚目の表紙にはただこうあった。

 

 日誌と。

 

 日付は……丁度、数千年前。

 

 “   ”と大神達の戦争が集結する前くらい。

 

 その著者には名も無き者と署名がある。

 

 この異常を解決せねば、未来は亡い。

 

 そして、彼女にはこの状態に対して一つだけ知識がある。

 

 彼女の主が言っていたのだ。

 

 もしも、全てがおかしくなったら、書庫で文書を読めと。

 

 その先は全てお前次第だと。

 

 そう、大破片“   ”は言っていたのだ。

 

 いつか来る日をまるで残念そうに何処か悔しそうに語り。

 

 瞳の奥に光を宿して。

 

 そこには当時、大破局、大破壊と呼ばれていた大神達からの攻撃で“   ”がどうなったのかが書き記されているはずであった。

 

 *

 

 近頃、宇宙進出を果たしている蜘蛛達は事実上の惑星の代表者(仮)の立場で無数の銀河に勢力を拡大。

 

 現在、帝国銀河団との戦争の真っ最中である。

 

 というのが、4日前までの話であった。

 

 宣戦布告どころか。

 

 皇帝との会談最中に撃たれた挙句に蜘蛛の氏族商会のトップな蜘蛛が何か普通に抹消されて戦争が開始されたわけだが、勿論のように蜘蛛は死んでなんていない上に全部織り込み済みの対応がなされた挙句。

 

 瓦解し始めた帝国銀河団所属の各銀河では大量の蜘蛛達による帝国銀河団所属の星系の掌握が8割を超えて進行。

 

 現在、残っているのは事実上最後の防衛戦力というのがほぼ事実となった。

 

「げ、芸術的!!?」

 

「あ、あんな回避行動が可能だと言うのか!?」

 

「う、美しい……っ」

 

 というのも、一切蜘蛛化していない“極めて真っ当な軍事力”というのが帝国銀河団にもちらほらといたのだ。

 

 その大半が特に戦闘大好き帝政国家や悪意の欠片もなく闘争に注力し、覇を唱える事が楽しい系の戦闘狂勢力ばかりだったというのが蜘蛛達には納得された。

 

 純粋に戦闘を楽しめる精神性と相手を下に見ない無骨で真摯な教育が行き届いた者達は逆に傭兵や宙賊紛いの略奪者達とは一線を画していた。

 

 技術や技能が未熟でも蜘蛛化率0.000000000000000001%という種族、民族、国家が民主主義国家ではないという事実はまったく議会制を敷く国々からすれば、圧倒的に渋い顔をされるだろう事実だ。

 

「大提督の御座上艦!! 制圧されました!!?」

 

「見事……見事だ……だが、何故だ? あれほどの力を持ちながら、どうして制圧で済ませている。我らは敵同士だと言うのに……」

 

 宇宙に響くのはオロモス級の砲弾一発で全滅しそうな数百の艦艇。

 

 しかし、制圧された艦が自分達を撃つでもなく。

 

 蜘蛛達の支援の元で引き抜かれていく様子はまったく戦闘民族な多くの者達には理解不能の出来事であった。

 

 彼らは戦闘を真に愛するものだからこそ分かっていた。

 

 相手が自分達などまるで歯が立たない化け物だと。

 

 一騎打ち染みて、蜘蛛に決闘を挑んだ艦すらあった。

 

 部下達に良いところを持って行って済まんなと笑顔で死にに行く上司が破れて尚、戦意の衰えない彼らに……“40万近い蜘蛛達が”正しくパレードの如く見せるのは宙間戦闘の極地……無数の攻防をたった一人の生命体として生き抜く者達が一糸乱れぬ統率で機械を遥かに越えて躍動する奇跡。

 

 彼らはそれを見てしまったからこそ、笑って死ぬつもりだった。

 

 だが……そうはならない。

 

 蜘蛛達は非殺傷で丁寧に丁寧に丁寧に鎮圧し、彼らの鼻っ柱を完膚なきまでに圧し折ったが、圧し折った後に手を差し伸べた。

 

「(/・ω・)/(制圧完了!! お仕事終了!! 帝国銀河団一困った奴らだと嬉しそうに制圧を終えて踊る蜘蛛の顔)」

 

「どうしてだ? 何故、貴官らは我らを斃さない? 帝国銀河団の最底辺。蛮族と蔑まれる我らを……」

 

「(・ω・)(それは蜘蛛にならない集団をようやく見つけたからさと看板に記してみる蜘蛛の顔)」

 

「その侵食に耐えられる者を探していたと言うのか?」

 

「(・∀・)/(君達の星系を掌握した。実に4億の蜘蛛達が君達を制圧する為に狩り出された。銀河を破壊する存在すら1億居れば、平らげる蜘蛛の軍団は君達を全うな敵として今後の大宇宙戦争に向けて招聘する)」

 

「大宇宙戦争?」

 

「(>_<)/(こちら現在の宇宙を崩壊させようかどうか迷っている風な邪神本体サン達の現在地と蜘蛛が今後戦う予定の神様モドキ=サン達の戦力です)」

 

 蜘蛛が宇宙に出てから散々に調べていた邪神や大神勢力の現在状況があちこちの銀河の“共に戦える兵隊”達にお出しされた。

 

『――――――ッ』

 

 彼らは度肝を抜かれただろう。

 

 何せ蜘蛛達が使った俯瞰図は時に複数の銀河に跨る程に広く。

 

 あるいは宇宙よりも広い世界にただただ人型の何かが大量に収められている様子であったのだから。

 

「(・∀・)(此処に居るのは宇宙に害為す者や宇宙から逃げ出し、自分達の任を全うしようとは思わない不良神格。それは“愉しい”や“不可能”だからと知性を弄ぶ害悪……無邪気に蟲を潰す子供や諦めた敗残兵に等しいと真面目に教えて見る顔)」

 

「これが……こんなものが貴官らの“敵”なのか」

 

「( ̄ー ̄)(“敵”は君達であって、アレは“排除対象”でしかない。だが、“敵”であろうとも未来の為に一時共に戦う事は何ら不思議ではないはずだと彼らの前に無数のデミ・ストレンジ・レッド製のシュヴァリアが無限に思えるような密度で並ぶ宙域の映像をお見せする顔)」

 

「……我らを輩として戦いたいと?」

 

「(-ω-)/(共に戦える戦士は銀河団規模で見ても貴重。諸君が“宇宙すら救える蛮族”だと帝国銀河団に覇を示したければ、あの拘束済みの皇帝連中と共に“絶対に勝てない敵”や“奇跡でも起こらない限り、負ける戦い”に招待しよう)」

 

 その看板を見ていた数多くの“蛮族”達の長達は最初こそクツクツと笑っていたが、次第に声を大きくし、本当に……本当に目を子供のようにキラキラとさせて、蜘蛛達に同じような言葉を発した。

 

 その言葉の成否は言う必要もないだろう。

 

 自分達より強者にして強者そのものと言っても過言ではない相手からのお誘い。

 

 戦闘民族達にとって、それは正しく自分達の前に転がって来た奇跡の類に他ならなかったのである。

 

【【【【      】】】】

 

 そんな自分達に挑もうとする者達を小さな小さな宇宙の小さな小さな最中に見やるモノ達が複数……その様子を囲んで観測していた。

 

 一つは巨大な緑炎の柱の如きモノ。

 

 一つは巨大な太陽の如きモノ。

 

 一つは巨大な黒い人型をねじくれさせたようなモノ。

 

 一つは無限にも思える程に小さな小さな宇宙を見やる者達を囲うように鈍色の玉と棒が連鎖して蠢くナニか。

 

 彼らはその新たなイレギュラー達の誕生に何処か嬉しそうな様子で体を震わせて、自分を呆れた視線で見やる蒼い瞳を何処かに感じた。

 

 彼らが見やる中。

 

 小さな小さな宇宙の最中、世界は進み始めていた。

 

 終わりか始まりか。

 

 あるいは再開か。

 

 何にしても彼らは愉しい事こそを所望する。

 

 不変の世界は退屈であり、万華鏡染みて移り変わる世界にこそ、彼らは覗く価値を見出すだろう。

 

 だから、彼らはひっそりと邪悪な瞳で宇宙一つを凝視する。

 

 ソレがまた波乱を齎す一助として、新たな変化を小さき者達に齎すだろうと。

 

 時間も空間も概念すらも無い虚空。

 

 彼ら以外に存在を許されない无の領域にて―――。

 

 *

 

―――????年前。

 

 何も無かった。

 

 炎すらも無かった。

 

 虚空の大穴が広がる嘗て大陸群であった場所は広く広く。

 

 世の終わりの如き大穴を晒していた。

 

 光すらも飲み込む大穴はしかし空洞でありながら、惑星内部すら見せず。

 

 遥か果て無き虚空に流れ込む海水は海を干上がらせる事無く。

 

 流れ込んだ事を忘れたように無限に惑星に同じ分だけ満たされ続けている。

 

 落ちる事は許されていた。

 

 しかし、無くなる事を許されていなかった。

 

 海水はそうあるべき場所に在り続け、落ち続けるが、決して無くなりはしない。

 

 この異常な現象を前にして誰も観測する者は……否、たった一人の身汚い焦げた少年だけがソレを虚空の上で茫然と眺めていた。

 

 あらゆる感情が抜け落ちたような表情。

 

 黒髪に蒼い瞳の少年はまだ小さく。

 

 10歳にも満たないかもしれない。

 

 その全身の襤褸切れは元々は貴族風の礼服であったかもしれず。

 

 僅かにまだ残る色合いと擦り切れて殆どが破れ散って箇所から見える縫製が僅か元は真っ当であったと主張していた。

 

「………ぁ」

 

 声が出ない。

 

 だが、少年の視線の先。

 

 虚空に浮いたモノを彼は見つける。

 

 虚空に浮き続けているモノは結晶であった。

 

 罅一つ入っていない結晶の色は白金のようにも思える。

 

 ゆっくりと虚空を進んで辿り着いた少年はその水晶のようにも見える半透明の内部に人影を認めた。

 

「此度もお前を使うとしよう。我らが異端、イレギュラー……優しさを知った我らが末よ」

 

 少年の前にゆっくりとクリスタル内部から杖が露出する。

 

「―――こ、れ……っ」

 

 彼は脳裏に溢れ始めた見知らぬ力と知識に溺れながら、ハッと気付いた時にはもう何もかもを見終えていた。

 

「……そんな、これが……こんなものが……真実だって言うのか。あいつらが帰って来る事なんて無くて、何もかも消えた世界にオレだけ……」

 

「絶望したなら、消え失せる事も出来る。だが、どの道を選ぼうともお前は……お前だけは常に同じ選択をして来た」

 

「ッ、どうしてだ!? 何でオレを選んだ!? 全部全部!! お前らの―――」

 

「そんな事は分かっていただろう? 我らは邪神。その一欠けら……お前達の如き芥子粒だからこそ、我の本体の影響は如実だ」

 

「影響……」

 

「学んだのだ。だから、影響は免れない。本来の我らは血も涙も無い。感情すら破滅への愉悦のみしか取り柄が無い。そういう生物だったはずだ。しかし……」

 

 クリスタルが罅割れ、中央から割れた。

 

 何一つ身に付けぬ肢体。

 

 1人の少女はその片腕から伸びた罅割れもそのままに自分の果てを見やる。

 

「もはや、お前の世代に至って、多くが人と同格となった。人は人だ。そして、人となった者達が再び神を目指す様子はきっと……我らの本体が我らの本体となるまでの過程なのだろう」

 

「―――」

 

「全てを知った小僧よ。お前に問おう。何度でも何度でも……お前の望みを言ってみろ……ソレがこの失われたカダス最後の力だ」

 

「悪戯するのが……愉しかったんだ……ただ、最初は……でも、あいつらに出会って……一緒に何かをするのが、嬉しくなった……だから、オレは……」

 

「死ぬのも殺すのも愉しいで済ませられたお前はもういない。まったく、儘ならない身になった」

 

「そう……か……だから、オレを……」

 

 少年の顔が歪む。

 

「望むがいい。余分は無しだ。いつか果てる日までお前は幾度でも同じ事を思う。そして、それに我が力は応えるだろう。大破片の末席よ」

 

 少年が杖を握る。

 

「オレが望むのは……オレがッ……」

 

 虚空に思いの丈が響く。

 

 そして、泣き崩れた彼が目を開いた時、そこにあるのは……ただ、焼け焦げた荒野だけだった。

 

 虚空も無ければ、クリスタルも無い。

 

 ただ、ポツリと地面から突き出したゴーレムの腕だけが其処にはあった。

 

 いつかの果て。

 

 パンデモニアと呼ばれる都市の中心で彼は何も無くなった場所で顔を襤褸切れの袖で拭い、歩き出す。

 

 誰もいない場所に誰かを求めて、歩き出したのだ。

 

 しっかりとまだ在る脚で踏み出して―――。

 

 もう赤い目元は元に戻っていたのである。

 

 *

 

―――割れた月の裏側。

 

「そうか。これが……感慨か。今まで気付かなかったが、この身も随分と変化を来していたのだな」

 

 世界に無限色の虹の翼が広がる。

 

 ソレは光の速さを超えて機動し、たった一人の少女の翼より溢れる力の塊。

 

 蜘蛛達はノクロシアンを50万体規模で動員した防衛線によって降り頻る無数の光弾を月の裏側で防ぎ続けていた。

 

「(; ・`д・´)(太陽の女神の何兆倍か知らないが、瞬間最大出力で敗北するなら、恒常出力の厚さでカバーすればいい!!という蜘蛛の顔)」

 

「(-ω-)/(ちち、おきてーおきないとぜんめつするーと頭部を半分持っていかれた少年を再生しつつ、呼び掛け続ける蜘蛛の顔)」

 

 崩壊しつつある防衛線はノクロシアンの超兵器を大量に複製し、動員した蜘蛛達にとって最大の山場となっていた。

 

 量だけなら幾らでも確保出来るようになった蜘蛛達であるが、己を圧倒する質に対してだけはさすがに数を集めても意味がない事は理解出来ていた。

 

 始祖破片とは何者か。

 

 追放兵器の乱打にすらまるで屈する事無く。

 

 彼らの防御能力の要となるノクロシア製の兵器の原理でキャパシティーオーバーギリギリまで追い詰める。

 

 光弾が数発落ちただけで月面は粉砕され、数十発が抜けただけで裏側は大崩壊して、巨大な1300km近い破片が分離。

 

 分離した部位より緋色の結晶が僅かに浮き出た部分を繋ぎ止めていた。

 

 分離した中央部にある蜘蛛達の基地は無事。

 

 しかし、オロモス級の主砲すら食い止めた蜘蛛達の防御は少しずつ食われていた。

 

 死人は出ていないが、ソレはノクロシアンの全力を出し続けているからに過ぎないだろう。

 

 一発でも地表に堕ちれば、大陸が消し飛ぶだろう攻撃が正しく無限にも等しく少年のいる月面裏へと集中し、ソレを空間毎拡散させて出力を下げつつ、全てを吸収し続けていた蜘蛛達はもっと賢い防御方法を本来ならば取れていたはずだったが、その日だけはそうもいかなかった。

 

 何故なら、彼らのいる星系、銀河を囲い込むように大量の艦船が未だウロウロしている。

 

 一発でも惑星に堕ちれば、普通の星ならば、星そのものが砕ける威力。

 

 巨大惑星内部は未だ神々の力の残滓が残っているから大陸一つで済む程度だが、それにしても流れ弾が近隣星系や銀河全体のあちこちに命中したら、それだけでようやく終わりそうな帝国銀河団との戦闘もどうなるか分からない。

 

「(T_T)(これ、ちちが重症負わせて無かったら、3時間も持たなかったんじゃ?)」

 

「(>_<)(さすが、始祖破片!! 実に見事なせーのーである!!と相手の解析が延々と終わらない事実を前に喜々として千変万化の敵能力を共同解析してる解析得意系蜘蛛の顔)」

 

「(。-`ω-)待たせたな」

 

「(|_|)(あ、じょーしのひとー!! 対応策できたー?と尋ねてみる顔)」

 

「(。-`ω◎)真正神共と出力上限が桁違い。無論、連中は恐らくアレの400分の1程度が限界だったはずだが、出力が幾らあっても大量破壊以外の目的には使用されていない。あの星に攻撃を落としていないという事はあちらにも目的はある」

 

「(~|ω|~)(我らセブンス・ヤーン総員の全力ならば、始祖破片自体は打ち取れるだろう。だが、我ら蟲畜だろうとも今のこの星系内の数では余波まで防げない。余波自体を防ぐ蜘蛛の総員を此処に呼んでいる暇もないというのは問題だな)」

 

「(/・ω・)/(あ、きんぴかじょーしのひともー!!)」

 

「(≧▽≦)此処にセブンス・ヤーン総員サンジョーだよー」

 

「( 一‐一)(………………)」

 

「(*^-^)ガシンは寝てるから、そのまま来たー」

 

「(>∀<)/(お~~いつも寝てるひとも樽の人大好き勢もいるーという顔)」

 

「(^ω^)(アレ? 真後ろの盾というよりはレーダーの人は?という顔)」

 

「(。-|`ω|)ちちが事前に解析していたデータからスキル大系の最終結論を出すのに掛かっている。恐らく後1時間以内には全解析終了と共に蜘蛛のスキルが解禁されるだろう。スキル定理の発動媒体がヤツなのは間違いない。相殺さえ可能になれば、吸収ではなく反撃に出られる。それまで防ぎ続けるぞ!! 蟲畜総員重防御形態!! ちちの復帰まで時間を稼げ!!」

 

「(;´∀`)/(りょーかいという蜘蛛一同の顔)」

 

 蜘蛛達が月面裏の巨大な月の破片内部の基地からすぐに自分達の上司達と共に出撃準備完了させて、高速で魔力の転化光すら見せずに高速射出される。

 

「来たか。新しき者達よ……見せてみよ。あの賢しらな神と暴虐の神を超える事が出来ねば、お前らはアレに食い潰される運命だ」

 

 少女は嗤う。

 

 旧き者達を糧として育ち。

 

 初めて見る種族を。

 

 世界を引き伸ばす程に肥大化させて尚、自分には到底及ばない個体達を……だが、確かに敵となり、自分にも届く刃を携えた小さな小さな蟲を……。

 

「ふ……あの女神モドキもそうだったな。小さな羽虫に心を痛める。我らと同じ……偏狭にして執愛……そして、時の効用を学んだ者であった」

 

 虹色の光弾が数倍にも広がり、全ての威力を蜘蛛達のいる月面へと投射した。

 

 空間歪曲による拡散を用いて尚、神の力と同じ。

 

 高次元より降り注ぐ現実に直接転写された力は威力減衰を空間制御及び神の力の中和でしか効果を引き下げられない。

 

 だが、その星すら安易に砕くだろう力をノクロシアン達は己を盾として飲み込み続け、己の隙間から少女に向かっていく上司達を見送る。

 

『(。◎`ω◎)邪神の始祖か。相手にとって不足無し。救世神に届かせねばならない力を此処で研ぎ澄まそう。代価は羽虫の命で悪いが、ソレは貴様も同じだ。終わり無き煉獄に坐する頚城よ。我は大霊蛛ゴライアス……神狩りし蜘蛛の長なり!!!』

 

『(|@@◎-▽-◎@@)………地表からの解析情報を取得。光波の一次解析終了。敵主力弾幕の量子光源化による多重連続波状投射を阻害開始……65乂ジュールを削除……使用光波帯を確定。恒星間消波呪紋【オロモスの盾】展開……全蜘蛛によるアップリンク最大。方陣連携開始。最大消波領域内に次元交差接続域を複数枚被せて敵主攻撃の45%を漸減する……全隊突撃用意。防御陣地を基地より0.00004天文単位内に構築開始』

 

 蒼く輝いた大量破壊呪紋の申し子はその力を開放し、解析した敵攻撃の原理から逆算し、無数の攻撃に見せ掛けて実際には大破片の最大威力を多重に現出させていた始祖破片のスキルの一部を数十万体の蜘蛛達による対抗呪紋で打ち消しを開始。

 

 一気に威力と実体が弱体化した虹色の光弾の隙間を縫うようにしてセブンス・ヤーン達が突撃を開始した。

 

『(|≧●∴●▽●∴●≦)こっちも本気だしちゃおー。ご主人様譲りの剣技。一度体験したから、もう摩耗しなくなったんだよー。せーの!!! 閃剣【竜剛華】』

 

 人の身から巨大な蜘蛛に変じた少女がニヤリとし、予備として貰っていた妖精剣を用いて、少年が使える閃剣を長大な天文単位レベルの技として使用し始める。

 

 高次元領域を経由する事により、転移用の領域そのものを無数に挟み込んで光よりも早く物体をあちこちに送る事が出来るようになったのだ。

 

 現在の蜘蛛達は地獄門の支援を受ける限りにおいて、大抵の距離を超えて攻撃を届かせられる。

 

 そして、時間の流れが違う領域を経由する事で剣を伸ばす為の時間すらも捻出し、瞬時に星系を横断する光の筋を出現させた。

 

 伏せられていた手札を切った一撃は少年の力を余す事無く再現し、まだ少年すらも使用実績が無い距離での一撃を見舞う。

 

「(≧▽≦)/あ、そ~れ!!!」

 

 巨大な蜘蛛と化した少女の体積が一気に9割以上減衰して急激に縮まった。

 

 ソレは自分の質量を妖精剣に補填するという無茶苦茶な事をしているからだ。

 

 魔力のみではなく。

 

 月面から直接糸で受け取っているエネルギーを用いれば、その莫大な出力を剣に込める事も可能。

 

 今まで彼女が自分の使用出来る別次元の接続領域に溜め込んだ質量を肉体に補填し、補填した質量を更に呪紋で妖精剣に補填するという……“妖精の真似”を行ったのである。

 

 そんな彼女の剣は少年すらも未だ届かない距離を制する。

 

 敵の虹色の光弾の大本たる始祖破片の少女。

 

 その実体無き翼……光弾を生み出す高次元領域内に格納されている干渉器官を無数の突きで花を咲かせるよう剛剣で砕き、クレーター状に崩壊させていく。

 

「っ」

 

 それが露わになれば、ねじくれた闇と斑模様の何かで構成された翼が一瞬にして2天文単位の威容を現出させ、星系内に突如として遺物が浮かび上がる。

 

 ブラックホール化していないのがおかしな質量だ。

 

 もしも、星系内に他の惑星があったならば、その翼によって砕き散らされていただろうが、生憎と全て蜘蛛達に消費された跡。

 

 火星は位置的に本星よりも太陽に近い距離にあった為、難を逃れていた。

 

 大量の砕かれた跡もそのままに光弾の他に己の翼をはためかせ、直接打撃が惑星より巨大な“面”として光より早く降って来る。

 

 その天文単位質量の剛翼による攻撃は左のみ。

 

 右は突きが良いところに当たったらしく。

 

 根元から崩壊している。

 

 しかし、その崩壊したソレらが自己形成を開始し、次々に大破片を超える出力を持つ巨大なねじくれた槍となって月面裏に殺到。

 

 受肉神も裸足で逃げ出す量の神の力を宿した神槍となって降り注ぐ。

 

 左右どちらも月面に掠れば、崩壊する威力。

 

 月そのものが消し飛ぶだろう。

 

 だが、その間の距離が無尽蔵に広がっていくのはどういう事か。

 

 月面基地周囲から顔を出し始めている転移用の方陣、その内部から表層を滲ませた地獄門の複製群から次々に現れるのは巨大なミストルテイン級であった。

 

「(^◇^)(大量複製!!)」

 

「(~o~)(規模拡大~)」

 

「(・∀・)(機能増幅?)」

 

「(゜▽゜)(ヴァルハイルの天才の設計は本当に優秀だなーと彼が造った呪具を改良改善多重増産しまくって中性子星から得たエネルギーを無尽蔵にぶっ込む蜘蛛の顔)」

 

 莫大な力を治めた電池にして増幅器たるミストルテイン級が合計400隻。

 

 基地の乗った月面裏の巨大破片の外周を囲い込み。

 

 ヴァルハイルの天才が生み出した呪具を超絶の規模と量で複製。

 

 装甲内の間隙に無数積み上げて並べ連結。

 

 攻撃が届く“間”を数千天文単位にまで広げ続けていた。

 

 その光景は正しく遥か星系より離れた部分からならば、確認出来ただろう。

 

 宇宙中心領域にある星系から空間毎噴出すかのように広がり、自分達とは歪みで断絶された巨大な黒きねじくれた翼と槍が顕現する。

 

 星系から不吉そのものの修験が確認出来たのだ。

 

 それを見た殆どの帝国銀河団の先遣艦隊の搭乗員は顔を青褪めさせただろう。

 

 銀河を超える図体を持つ邪神は確認されている。

 

 最上位邪神と言われた何かは銀河すら喰らう化け物だ。

 

 しかし、その星系から溢れ出しそうになっているようにも見えるソレは禍々しさでも神々しさでも……ただ見て分かるだけの威容からしても、桁が違ったのだ。

 

「一体、奴らは何と戦って……」

 

 今や制圧が終った艦隊は蜘蛛達に応えて貰えるかも分からない呟きを零す者達が茫然としている現場でしかなかった。

 

 混沌として戦場が燃え上がる。

 

 地表から見えるのはただただ空が無限光……無数の色合いに煌めき続け、閃光が弾け、世界の終焉を思わせて激しく明滅しているという事のみ。

 

 しかし、それを最も知っていなければならない島の住人達の大半……巨大な天蓋に覆われたニアステラとフェクラールの住人達だけはそれに左程気付く事無く。

 

 北部の亜人国家は目を奪われこそしていたが、見掛ける蜘蛛が何か少ない程度で夜空の絶景を黒蜘蛛の巣や再建中の国家から眺めるのが関の山。

 

「すげー!! ねぇねぇ!! 空きれーだぜ!! 蜘蛛の人ー!!」

 

「(/・ω・)/(確かにキレーだなー。一緒に夜空鑑賞するひとー)」

 

「はーい!!」×一杯の孤児達。

 

 唯一、神々だけが遂に始まった世界の終焉を掛けた序曲に目を細めて、いる場所は関係無く空を見上げ続けていた。

 

 激突する力は彼ら受肉神にしてみても、自分達が真正神となって尚余りある規模と化しつつあり、本当の意味で世界にある彼らの加護が必要無くなるかどうかの瀬戸際であった。

 

 この大異変の最中。

 

 世界中の空の色は輝きに染め上がる。

 

 それは“   ”も例外ではない。

 

 其処に本来無いはずの色合いが黄昏を通り越して宵闇に堕ちる世界の最中にも満たされていく。

 

 薄暗闇の曇り空は今や失くなっていた。

 

 夜空を駆ける流れ星は今、極彩色の万色。

 

 虹色にしてもカラフルというよりは壮大な色彩な大河となった。

 

 緋色の月面の大河と交差する光景は世界の終わりを彷彿とさせて、誰の目も掴んで離さないだけの絶景。

 

 誰もが顔を上げて見入る。

 

 夜空は世界を映し出す。

 

 そう照らし出すのではない。

 

 この“   ”においては映し出すで相違ない。

 

「   」

 

 世界が今も人々の視線の先に世界の真実を見せ付ける。

 

 図書館の窓際にも依らず。

 

 中央の長大なテーブルで全てが書かれていた冊子を閉じた少女は一人。

 

 泣いていた。

 

 全部、全部、何もかも、全部、全部、何一つとして……本当が無いという事実だけが、彼女にとっての真実だった。

 

「………どうして」

 

 そう独り言ちた彼女は今も空を流れる万色の流星を眺めながら、視線を俯ける。

 

「寂しかった……」

 

「!?」

 

「そんな、陳腐な答えだ」

 

「あ……っ、“   ”!!! ッッ」

 

 彼女は名前を呼ぼうとして、ソレすらも削れていくのに俯く。

 

「全ては泡沫に過ぎない。真実なんてものは往々にして直視するには醜悪だ。嘗て、子供だったオレは……この形を得ても尚、子供だろう」

 

 彼女は青年を見やる。

 

 顔すら分からない。

 

 ただ、貴族風の蒼い衣服を着込んでいる、としか分からない誰か。

 

「貴方は……」

 

「この数千年で何一つとして残っていない。お前達と同じになれた時、何処かホッとした事を覚えている」

 

「始祖は全てを救い給う。嘘ではなかったのですね……」

 

「神殿は何一つ嘘は吐いていない。大げさなくらいに仰々しいのは単なる事実でしかないからだ。我らがいるのは始祖様のおかげ。我らが生活出来るのは始祖様のお力あってこそ。破片共は多くが胡散臭いと毛嫌いしていたがな。それはそれで全てを覆い隠す事が出来た」

 

「………」

 

「この“   ”に残されているのは辺境だけだ。ソレすらも今や破片は存在していない。あの時、全ては失われた。残された者達は人と亜人……そして、外界より戻った破片とその末達だけだ」

 

「ッ―――十年以上前の小破片の収集は……」

 

「賢しいお前の事だ。想像通り……少数しか確認出来ていない」

 

「では、残されている者は……」

 

「辺境に暮らす種族達は形こそ変貌しているが、そうであった場合として皮を被せられているに過ぎない。因果を御す邪眼は伊達や酔狂ではない。純然たる現実すらも、“見る”だろう」

 

「だから、神殿は……辺境に極力介入しなかったのですね……」

 

「種は残った。失われていない。何れ……全てが消えるとしても……生きた証は残る。見届けようか。我らの世界の終焉を……いつかが今日やってくるとしても、時間は待ってくれないものだ」

 

 1人の青年はそうして窓際に立ち。

 

 少女もまた冊子を置いて窓際に寄り添った。

 

「さぁ、全ての母よ。お前は何を選ぶ? この繰り返された世界とやらに……本当の意味で終焉が来たとして、お前は……あの時と同じ事を言えるのか?」

 

「……あの時?」

 

「この世界が“初めて滅びた理由”はとても陳腐なものだったそうだ。だが、それもまた新たな滅びによって塗り替えられ、終焉が近付いている……始祖もまた選択の時を迎えているのだろう……」

 

 サラサラと青年の姿が朧に崩れ始めて、その手を握った少女は少しだけ傍に寄り添わせて掴んだ服を強く握りしめた。

 

 誰もが見上げる空の上。

 

 世界が滅びる空の下。

 

 空虚が広がり始めた“   ”は名前を失い。

 

 土地を失い。

 

 都市を失い。

 

 人々を失い。

 

 そして……在った事実さえも失われようとしていた。

 

―――数時間前。

 

『嘗て、貴様を生み出した存在達が破滅を生み出す前。既に我が末達によって世界は滅んでいた』

 

 月面裏。

 

 崩壊したクリスタルより現れた少女はそう少年を前にそう伝えた。

 

「滅ぶ? 理由は?」

 

『邪眼の使い過ぎだ』

 

「……妖精神と同じ?」

 

『滅び掛けたところを全てを巻き込むより先に大破壊によって消された。旧き者達による宇宙崩壊の諸要因の掃除。この世界の定理に組み込まれていたフェイル・セーフの発動だ』

 

「邪眼のせいで滅びそうだったのをカダスだけを滅ぼして止めた?」

 

『そうだ。ソレが直接の引き金だったのだろう。連中は我との闘争によって得た情報より疑似的な邪神を作り出す事を可能とした』

 

「高次元術式駆動体?」

 

『そういう名前だったか。そうだ。それは我に対抗し、幾度となく互いに時間を遡りながら我を越えんとして騒乱は始まったのだ』

 

「………」

 

『連中は同時に我を超える力を与えた存在を制御する事でより良き未来を創れると信じていたようだな……何とも愚かな……だが、旧き者達の残渣共がやり遂げた事だけは認めねばなるまい』

 

 苦笑する少女が少年を見やる。

 

 本来の姿。

 

 エルコードへと戻った少年に目を細め。

 

 少女は揺蕩うままに指を弾く。

 

『奴らは我が力による“繰り返し”を認識していた宇宙で数少ない存在だ。そして、それ故に持ち越した情報を用いる事で連中は神を生み出した。神々は自立し、都を形成し、栄えたが……我が力には及ばず。されど、繰り返す度に強大となっていった』

 

「……本家の繰り返しはそちらだと」

 

『やがて、我が力を完全に理解した連中はもう一体の我とも言うべき存在を生み出した。全てを滅ぼし、再び繰り返す我が力。それを止め、滅ぼし、新たな時代を創る為の存在……』

 

「妖精神ティタルニィア……」

 

『何があったかは知らぬ。だが、その頃から大神共の情報を取得出来ぬ。しかし、何があったかを推測する事は出来る。妖精神とやらの暴走だろう……あの羽虫女共は我が力の片鱗を成長させ、遂には我を苗床とし、初めての創生を成し遂げた』

 

「創生?」

 

『貴様らや神々が神刻呪紋と呼ぶ宇宙創成の呪法だ』

 

「っ」

 

『どれほど前だったか。遂に敗北した我はソレにされた。貴様がどれだけ繰り返したかは知らぬが、その頃から我を消す為に蟲の双子が現れ、我を屠り、繰り返す為の呪法の安定を図るようになった。因果を紡ぐ存在が二人も存在していては困るのだろう』

 

「………」

 

『だが、それも終わりが近い。あの羽虫女共もあの蟲の双子も限界に達しつつある。その時こそ我は頚城を破り、再び己のみでこのノードを再形成する事となる。何もかも……神々すらも討ち果たし、無かった事となるだろう』

 

「………」

 

『貴様は我を討ち果たさんとする者ではない。だが、初めての客だ。我を使い、神々を破壊しようと言うならば、手を貸してやらぬ事も無いぞ?』

 

 少女の顔は真っ黒で、少女の顔はまったく何処かの蟲の双子の片割れにも似て。

 

 歪んだ嗤いと罅割れだけが浮かび上がる。

 

「はぁぁ……」

 

 しかし、少年は何処か本当に下らない事を聞いてしまったと言いたげに溜息を吐いて、もう興味を無くした少女を一瞥する。

 

『?』

 

「もう邪神でも何でもないお前に価値はない。砲弾にして救世神の力を削ぐ兵器に転用させて貰う」

 

『何?』

 

「対消滅なら、恐らく繰り返しも復活も再生も不可能になって无になるはず……因果律的に真なのは“何もない”であって“正しいこと”じゃない」

 

『我が邪神ではないだと?』

 

「自覚がないなら、尚悪い。自覚があってやってるなら死ぬより悪い。神を止めてるのに神様面してる連中が多過ぎる。少なくともあの女神は“自分の為”だと最後には認めた。正直に自分の為だと認められないヤツの何処に神性とやらが宿ってるのか教えて欲しい」

 

『何だ? 批判、されているのか? 我は?』

 

「お前の言う事を要約すると好き勝手出来なくなって不満だから、好き勝手出来るように協力してやる。それだけの話になる。もうお前が好き勝手出来てた時代はとうに過ぎてる上にお前の敵も必要無い時代が来てる。宇宙を一々好き勝手したいなら他所でやれ。此処で普通に生きてる連中の邪魔だ。邪神モドキ」

 

【【【【【      】】】】】

 

 少年の言葉はまったくどうしようもなく単純で簡潔で例えるまでもなく。

 

 ただただ辛辣で愚直であった。

 

 そのあまりな言い分に内部の邪神達すら茫然としていた。

 

 始祖破片。

 

 宇宙すらも思いのままにする何か。

 

 ソレに邪神モドキと言い放った者は有史以来。

 

 あるいは宇宙史の上で始まりから終わりまできっと他にはいないだろう。

 

『   く   』

 

 その少女の唇の端が吊り上がったのをきっと初めて……世界の始まりから終わりまでを繰り返し続けた神々すらも初めて、見たに違いない。

 

 その時、高次元領域……概念に近しい世界に波動が広がった。

 

 座標ではない。

 

 概念的なイデア、本質の波の広がりによって齎された猛烈な激震が宇宙と接続された別領域を震わせ。

 

 同時にその領域に存在する全ての者達が笑い声とも絶叫とも獣の咆哮とも付かないモノによって蹂躙され、消滅していきそうになり……悪党の類の殆どは巻き込まれて同化されて消え去り、残っている者達の多くは侵食していた蜘蛛達によって保護され、通常次元へと追い返されていく。

 

 宇宙を震わせる“声”が治まった後。

 

 普通の生物には聴く事すら叶わない迷惑な騒音を直に受けて、終わったか?と言いたげな少年の視線を受けて、初めてソレはギョロリと第三神眼……額に燦然と輝く黒き闇色の輝きを纏う邪眼で少年を見た。

 

『見事だ。そして、ならば、どうする? この小さな世界一つ我から守れぬ人の果てが、どうしようというのだ?』

 

「お前を殺す。正しく死んで神話の片隅に祀られておけ。邪神モドキ」

 

『ならば、分かっていよう。互いに争い合うならば、手段は一つだ』

 

「お前を破壊出来れば、アレにも勝算が上がる。お前が毎回毎回負けてるのは単純に能力不足だったからのはずだ。出力よりも能力が上の存在に抗えない程度の“待ち”で勝利を拾おうとする小物にこっちの獲物を取られる筋合いは無い」

 

【【【【【      】】】】】

 

 大破片達はまったく呵責も容赦もない少年の本心にもう何一つ言う事が無い事を確認し、己に出来る事が無いのを理解し、傍観者を決め込む事とする。

 

 此処まで言ってのける少年はきっと自分が死ぬような状況ですら変わらないだろうし、神だろうとこの世界の創造主だろうと同じように愚直に言い切るのだろう。

 

 そう、分かったのだ。

 

 自分達の始祖が本当に本気で……初めて相対する生命が自分達の入る少年で良かったのか悪かったのか。

 

 力の信奉者たる邪神の一柱として彼らは最高とも言えれば、最悪とも言えた。

 

 ただ、分かっていたのは―――。

 

『始めようか。愉しませるといい。小さきものよ』

 

「身長はお前の方が小さい。邪神モドキ」

 

 そんな軽い掛け合いの終了時、一瞬でケリが付いた。

 

 少年が頭部を半分消し去られて吹き飛び。

 

 少女の心臓部位がぽっかりと穴を開けて後方へと吹き飛び。

 

 違いに距離が取られたと同時に蜘蛛達の介入が始まる。

 

『フン……言うだけはあるか。“无い”状態を維持しながら戦わせられるとは……はは、貴様は今、我らが真なる本体に届く事を証明した……そのちっぽけな刃で宇宙すらも切り裂くか。だが、互いに致命にはまだ遠い、な』

 

 こうして引き離された少年と少女の合間に万色の光弾が飛び交い始め。

 

 蜘蛛達は防戦を始めた。

 

 始祖破片の心臓を穿つ虚無は少年の得た能力だ。

 

 宇宙を消滅させられる手札の一つ。

 

 そのあまりの符合に……もしも、その攻撃を見た事のある者がいれば、慄いた事だろう。

 

 ソレは正しく大破壊、大破局、そう数千年前に旧き者達がカダス中央域を消し飛ばした際の一撃……邪神の殆ど全てを消し去り、弱体化した始祖破片と呼ばれた者すらも“防御しなければならなかった攻撃”に違いなく。

 

 ソレを直接存在へと打ち込まれた彼女は……因果律操作。

 

 救世神と同じ能力を“自分が存在し続けている事にする”為だけにほぼ全て遣わされていた。

 

 元々、何でも出来る力という類のものの多くには大きな制約が付いて回る。

 

 特に高度な能力程に高度過ぎるが故に宇宙内部における限界がある。

 

 そして、その限界は常人が見てすら、変化が著しい。

 

 因果律の操作における許容量のほぼ余力の全てを己の存在だけに費やさせられた始祖破片はもはや言ってみれば、規模が大きいだけの物量で潰せる存在にまで墜落させられていたのである。

 

『(このノードそのものの一部を崩壊させてくるか。破滅としか言いようがないな。場そのものを変質させるこの力……宇宙の定理を知らねば、不可能な……位相欠陥を自在に作り出すだと? ドメイン・ウォールの生成……これは定理そのものの破壊を―――ッ)』

 

 彼女が旧き者達以上に厄介な相手の攻撃に動揺する事もなく。

 

 万能な能力も無しに本体出力のみで戦う事を余儀なくされたのだ。

 

 無論、それすら実際には惑星を遥かに越える超規模、天文単位ではあった。

 

 だが、しかし、全知全能が万能無限にまで堕ちたならば、その隙を狙わない蜘蛛は存在しない。

 

『(゜∀゜)(あひゃひゃひゃひゃ!!! 万能無限程度まで堕ちてれば、後は物量と知恵比べだよねーとアルカイック・スマイルで無限光弾を避けながら始祖破片本体の魔力式の結界に到達した一番乗り蜘蛛の顔)』

 

『(。|∀|)(結界の種類が434種類? 波動の周波数が違うものが300種類弱って結界関連の技術開発、手抜き過ぎじゃないですかね。始祖邪神=サンと蜘蛛式結界破砕術(1320種類分)を片っ端から試して何枚か割り始めた蜘蛛の顔)』

 

『(´・ω・`)(お前は次に小賢しい蟲共めと言う、と結界越しに見える邪神の表情を読み取って心理状況を予測しつつ、動揺を誘ってみる波動を時間経過で届くように放った蜘蛛の顔)』

 

『この小賢しい蟲共め!!? ハッ!!?』

 

 少年は自分を変化させられる程の余力すら始祖破片から残らず消し飛ばし、相打ち染みて行動不能になったのであり、此処までお膳立てされて最短最速で理詰めで相手を追い詰めないわけがない蜘蛛達の防御陣地は次々に星系を制圧する勢いで拡大し続けていた。

 

 始祖破片にも同時処理の限界はある。

 

 そして、同時処理出来たとしても、同時処理している関係上は全ての対抗措置に対するエネルギー……魔力出力を一律に細々と微細に調整している事は無い。

 

『………鬱陶しい』

 

 先発隊の蜘蛛達の一部が数万km級の多重結界破砕に勤しんでいると始祖破片の表情が初めて戦闘で変わった。

 

『いい加減鬱陶しいぞ。羽虫』

 

 グシャッと結界そのものを自分で相手毎握り潰した途端、数十人の蜘蛛達が塵も残さずパーンと弾け飛んだ。

 

 ついでのように血肉の風となった彼らが粒子化した自分達を再転生させている合間にも巨大な天文単位の後方の翅もそのままに高速で遂に始祖破片本体の突撃が開始され、次々に蜘蛛達を空間の歪曲で遠ざけながら月面目掛けて一直線に進む。

 

 まるで歪んだ空間が槍のようにも見えたかもしれない。

 

 その先端から発された光は星間物質の殆どがあまりの魔力のエネルギー転化の余波で核融合しているというだけの事。

 

 輝く腕が猛烈な光としか形容出来ないだろう魔力と光波による数万km規模の多重結界……後方支援で月周囲を囲んで多重顕現しつつあるミストルテイン級が縦列した結合体からの支援を受けた蜘蛛達の防御陣に激突した。

 

『今度は物量で対抗するか。ならば、どれだけ出来るかやってみよ』

 

 拮抗。

 

 収束するエネルギーの桁そのものが上がり続けるという非常識な程の出力上限が可能とする力は蜘蛛達が心血を注いだ太陽すら軽く生み出す船が四百隻近いという事実を単なる出力と収束……たった二つの要素でねじ伏せ始めた。

 

 複数の蜘蛛達が虚空に張った糸の陣地を通して数京行規模の呪紋の織り込みを螺旋化した多重高速波状生成式結界で腕を阻んで尚、その拮抗は崩れない。

 

 ギチギチと始祖破片の腕先が悲鳴を上げる。

 

 結界とのスパークは太陽のように赤熱化し、周辺の蜘蛛達の生存可能環境を大幅に上回る余波を発生させ、太陽風より確かに恒星すらも歪む程の余波を発生させた。

 

 本星より太陽に近い火星では蜘蛛達数百万人による緊急の大結界が余波到達予想時刻までに惑星全土を覆うだろう。

 

『(=_=)(結界の多重生成が破壊に追い付いてない? 処理量ではなく。物量で無理やり何もかも神の力で破壊……消耗とフィードバックで銀河が何個消し飛ぶ出力消費し続けてるんだか……と呆れた顔になる蜘蛛の顔)』

 

 各銀河から次々に必要な仕事を終えた蜘蛛達の一部が流入しており、人数的に見れば、ほんの僅かであったが、通常規模の惑星の守護は問題なかった。

 

 しかし、現場の蜘蛛達は何人か再び蒸発しながらも転生が可能な状況で島に魂を帰還……宇宙の果てから時間短縮の為に幽世経由だった者達とは違って、英雄邸の元呪霊少女を煩わせる事無く。

 

 そのまま再び出撃した。

 

『何か勘違いをしているようだ。勝負など最初からしていない貴様らに我が敗北する事は無い。時間稼ぎをしているならば、時間は無いと教えてやる』

 

 邪神の怒りの鉄槌だとでも言うのか。

 

 天文単位の翅を後方に離されて尚、蜘蛛達を遥かに上回る神の力、高次元領域からの干渉力とそれを用いた莫大な無限に湧き出る魔力。

 

 ソレを効率的に使う為の器官である翅を疑似的に封じられても尚、彼女の優位は揺るがなかった。

 

『(>_<)(あ、転移封殺掛けられてる!!? 外部からの空間転移を歪みで座標の強制移動とか!! 地獄門の連携負担を見抜かれてるかもと急いで転移座標のリアルタイム修正を行う月面裏基地務めな蜘蛛の顔)』

 

 これ以上、戦力は持って来させないとばかりに星系全体を自分の魔力で空間毎歪めまくった始祖破片による妨害により戦力移動と戦力配分に支障が出始めていた。

 

 防御用の数百隻のミストルテイン級が空間の剥落が始まった月面周辺で捩じれに巻き込まれて爆散こそしないものの、現実から離脱し、高次元領域へと押し戻されていく。

 

『(◎_◎;)(推定の定常出力で毎秒中性子星32個分消費してる計算とか。さすが、始祖破片……でも、それはこちらも可能な範囲を超えない。ちちの位相欠陥を内側に完全な形で抑え込むのにどれだけ能力を……これが完全なら宇宙崩壊級の出力を毎秒叩き込んで来たんだろーなーと相打ちなら全滅するかギリギリの瀬戸際で少年に感謝する蜘蛛の顔)』

 

『(^◇^)(天上蜘蛛さん達がいなかったら、封じ込め用の大結界星系全体に敷けてないし、解析が完全終了するまで凡そ409時間と推定……それすら無かった事にされる事を考えると事前に諸々の準備が全部完璧に終わってたのは奇跡と半分体を蒸発させられつつ再生しながら太陽より熱そうな月面裏の大結界方陣の維持を行う蜘蛛の顔)』

 

 圧倒的な出力を誇る始祖破片による局所的な魔力とエネルギーの運用は大雑把だからこそ、あらゆる物理量を捻じ曲げる最強の暴力であり、神の力である高次元からの干渉力で無理やり自分を進めて攻撃と防御の接触地点を宇宙の極限環境……定理限界まで持っていく。

 

『滅ぶがいい』

 

 瞬間、通常空間が耐え切れずに破砕され、その内部にヌッと入り込もうとした彼女の手がスパンと切り落とされると同時に瞬時に切れていなかったように生える。

 

 その片手が横合いに向けて殴り抜けたが、攻撃を受けなかった相手。

 

 黄金の蜘蛛。

 

 蟲畜にしてセブンス・ヤーンの頭脳となって久しいフレイが複眼内の幾つもの瞳孔を細めた。

 

 その肉体は3分の1が既に今の直接攻撃による余波で吹き飛んでいるが、まるで意に介さない様子のフレイが再生を間に合わせながら瞬時に始祖破片に返礼のノクロシアの超兵器……追放兵器を叩き込む。

 

『我が弱くなったからと言って、貴様ら羽虫が強くなったわけではあるまい?』

 

 驚くべき事に高次元領域からの一方的な追放で追放されないどころか。

 

 僅かに力だけが世界の果てに消えただけで済んだ始祖破片の腕がフレイの胴体を貫通しようとして、再び切り取られる。

 

 今度は真下からだ。

 

 しかし、同時に妖精剣……如何なるモノだろうと切れるはずの剣がその大剣にまで凝集した質量にも関わらず溶解。

 

 質量凝集した大剣を持っていた人型形態のルーエルが衝撃に光となって吹き飛びながら、周辺の近傍宙域にまで到達。

 

 他の蜘蛛達の糸に絡め取られて止まった。

 

『(≧口≦)いった~~~ご主人様の強度に一番近い状態なのに転生寸前になるとか。しそはへんかたすぎー』

 

 ジャバジャバと蜘蛛達が自身に付随させた歪曲空間内に持っていた霊薬をルーエルに掛けて再生させつつ、魔力支援を行ってジャンプ用の土台を虚空に織り上げ、戦線復帰のお膳立てをする。

 

 ルーエルが一時離脱している合間にもフレイが下がり、前に出たゴライアスが人型の形態で無手で始祖破片に突撃を掛けていた。

 

 相手を推し留める為に必要な積極的な防衛策であって、最初から出力に格差があり過ぎる蜘蛛達は相手の処理能力を常に上回り、突破に手間と負荷を掛けさせ続ける事だけを思考して防御陣地を敷いていた。

 

 特に最初から相手が極大にして最強の戦術である力押しで来ると分かっていた以上、それは必然的に相手を自分達の土俵に引きずり込む戦いになっている。

 

『邪神の始祖……我らにとっての始祖でもあるかと思っていたが、どうやら違うらしい』

 

 ゴライアスが手刀と拳でのインファイトに持ち込みながら当たった個所を吹き飛ばされるならば、吹き飛ぶ場所を最初から形成せず。

 

 あるいは単純に予測して人形態を解きながら、余波を完全にいなす。

 

 まるで蜘蛛と人間がちぐはぐに混ざり合う穴開きチーズのような姿へと己を変えていた。

 

 無数に相手の拳や肘などの攻撃部位の威力集中をいなし、幻影呪紋で己の実体を隠しながら削れる体もそのままに何とか拮抗を生み出す。

 

 無論、その衝撃が周囲に齎す被害は突撃時よりは少ないが、それでも一発一発が惑星を砕く威力であった。

 

 が、ゴライアス当人に四方から繋げられている糸がいなし時に物理的に肉体を破壊するほぼ全ての威力を防御陣地に吸収減衰。

 

 それでも破壊される部位に超速でのエネルギー供給と再生用呪紋を集団で支援する事で何とか拮抗を保っていた。

 

『貴様らは我から別たれた果て末ではない。我の敵対者たるものの因子だ。その点で言えば、貴様らは真の意味で我ならず大宇全ての敵であろうとも』

 

 相手の攻撃が軽い事を確認した始祖破片が己の何万分の1程度にしか満たない蜘蛛の頭目達の力に目を細める。

 

『……複数体の邪神本体。いや、お前達の領域の影の一つか……この宇宙にそこまで執着する意味が有るとは思えないが……』

 

『小賢しい。貴様の残り質量はもはや―――』

 

 打撃の応酬の最中。

 

 延々とノクロシアの超兵器を肉体内部の一部から出し入れして、始祖破片の力を宇宙の果てに削り飛ばしていながら、それでも衰えは見えず。

 

 それどころか。

 

 威力が上がり続ける打撃を受け切れなくなったゴライアスが瞬時に後方要員として支援待機していたヘルメースと入れ替わった。

 

『(=_=)頼む』

 

『(。|∀|)勿論です。蜘蛛ですからー』

 

 ゴライアスが通常のペカトゥミア並みにまで肉体を縮小。

 

 更に周辺の糸からの魔力とエネルギーをドカ食いしながら、傷付いた肉体の再生と体力と質量の補填を急速に行いつつ下がった。

 

 その合間にも無限光弾は周囲に降り注いでおり、空間の歪みが極地に達した宙域が破砕し、次々にミストルテイン級が剥落した空間の底へと落とされていく。

 

『( ̄д ̄)!!(少しでも粘れ!!と艦を剥落した空間の横に引っ掛けて、後方からの推力で押し出し、他の蜘蛛達の糸でぶら下がりながら引力と斥力と空間湾曲の乱流の中で大量のエネルギーを月面へと供給してる艦長の顔)』

 

『( 一一)(歪曲規模が超規模ブラックホール級まで拡大。ただし、やはり本星への影響を因果律制御で封鎖している模様。始祖破片の行動原理の解析終了まで後少しと大量の蜘蛛達と始祖破片の行動原理解析を行っている解析班の顔)』

 

『(=_=)(ミストルテイン級が悲鳴を上げてる……防御は抜かれなくてもあらゆる物理量の瞬間最大吸収量を大幅に上回る程の……クェーサー40発の直撃より酷いとかマジで始祖破片の出力上限は底なしだなーと崩壊しつつある吸収と供給によるエネルギー配分を行う機関部で10万度の熱量に被爆しまくりのままに魔力で機関部の補修と維持を行い続けるサウナ好き工員系蜘蛛の顔)』

 

『( *|艸|)(このミストルテイン級なら宇宙が崩壊しても逃げ出せるって触れ込みはキャンセルかなぁと自身を船体の樹木神と接合して、エネルギー制御に全精神力を投射してる蜘蛛の顔)』

 

 大量の後方支援体勢が崩壊しつつあるのを感じつつも敵との近接戦闘をスイッチした翡翠色の蜘蛛が蟲形体のままに相手に飛び掛かる。

 

『温い』

 

 その胴体が一瞬で貫通され……貫通したはずの腕が弾け飛んだ。

 

『……我の肉体を物理的に崩壊させる仕掛けか。だが、貴様らの主の二番煎じで我が堕ちるわけも―――』

 

 初めて始祖破片が回避行動を取った。

 

『我がスキルをッ』

 

 始祖破片が回避した場所を光の速度で光線が駆け抜ける。

 

 一瞬で未来予知してみせた挙句に予測合戦を瞬間的に制した彼女が避けたのは自身の肉体の制御を暴発させる為の定理の不安定化を織り交ぜた定理異常兵器。

 

 現在、蜘蛛達が所蔵する兵器の中で唯一相手にいつ使っても効果があるノクロシアの超兵器であった。

 

 黒鉄の戦艦に詰まれていた定理異常兵器を調整した代物を蜘蛛達が自分の肉体内部複数空間制御用の呪紋で取り込んでいたのだ。

 

 一発でも当たれば、かなりの出力制限を相手に貸す事が出来る為、ここぞの油断に叩き込む奇襲は完璧だったが、常時予測合戦をしている始祖破片による未来予知と蜘蛛達の予測による拮抗は未だ蜘蛛達に不利な状態であった。

 

 彼女の腕が爆散した理由は単純に出力調整のミスからだ。

 

 嘗て、太陽の女神相手に使っていた戦術は大幅に陰湿さを増して使われており、あの時よりも隠遁と暗殺向けに昇華されていたが、それでも時間稼ぎ以上にはならなかった。

 

「(^▽^)ざんねん……」

 

 一瞬だけ胴体の貫通部位にのみ限って許容量を完全にオーバーした腕を庇いながら後方に下がった彼女に向けて愉し気な笑顔の蜘蛛がそう呟く。

 

 瞬間的にエネルギーを制御出来ずに自己破壊されただけではない。

 

 用いていた管理制御手法……定理側からの変則的な書き換えが貫通した腕の領域だけ行われたのだ。

 

 それこそが二重の攻撃に潜む罠。

 

 相手の攻撃に対しての反撃と致命になる必殺を重ねた正面からの奇襲に混ぜ込まれたセブンス・ヤーンの暗殺術の裏で翡翠の蜘蛛は相手のスキルを模倣する。

 

 全ては本来なら在り得ない話であった。

 

 それを可能にしたのは高次元領域を真面目に研究技術開発していた蜘蛛達の叡智と同時に蜘蛛達のリアルタイムでの相手の解析能力あってこそだろう。

 

『(>_<)そっちが使ってたスキルの解析編纂は終わってるー』

 

 スキル【全能】。

 

 あらゆる能力が常に目の前の相手を上回る。

 

 そんな理不尽は“疑似的な全能”を可能とする最強というよりは本当に単純に絶対に上回れないスキルだ。

 

 敵対者の量や質に関わらず、必ず相手を上回るという定理で無理やりに始祖破片を強くするのだから、例え宇宙を崩壊させる力があっても意味はない。

 

 しかし、それは“競合”しない場合のみ有効だ。

 

 スキルという異質な法則と自分のスキルの許容量内における全能を相手が模倣してきた場合、互いの全能は定理的にはイタチごっこでコンフリクト。

 

 どちらも上回らない結果に陥る。

 

 蜘蛛達が自身の能力を定理込みでかなり解析している事を理解した始祖破片だが、自分のスキルをあっさり攻略した時点で感心した様子になる。

 

 それが暗殺染みて多重の隠匿された一撃に織り込まれている以上、当たれば、致命傷ではないにしても有利が不利になる程度になっていたはずだ。

 

『定理の複製? いや、代替出来る定理を見付けて、組み合わせ模倣しているのか。小癪な……』

 

 カダスにおけるスキルは邪神の始祖たる彼女。

 

 始祖破片が発動媒体として存在し、そのスキルの発動処理を担っている。

 

 宇宙内部に作り上げた定理を固定化する存在として自身を定義し、定理改変……法則を捻じ曲げ、自在にしていた。

 

 始祖破片がいなければ、スキルは発動しない。

 

 だが、それを模倣し、代替出来る定理を見付けて組み合わせ、解析した情報からそっくりな能力を発動。

 

 もしくは単純に定理が働く領域そのもので定理を互いに反目させて事実上攻略する事をこの短期間で成功した蜘蛛達は少しずつではあるが、始祖破片の強さの秘密に迫りつつあった。

 

『(新しい定理処理方法と定理域での組み換えには時間が掛かる事まで見抜かれているな。時間稼ぎとやら、なるほど確かに強力な個体群だ。我を手こずらせるとは……)』

 

 翡翠色の崩壊したはずの蜘蛛がヨッと彼女の周囲で複数体挨拶する。

 

 最初から複数体が隠れていて、必要な時だけ干渉し、後は逃げ隠れしつつ機会を伺っていたのである。

 

『どれも本体になるのだろうな』

 

「(>_<)/もちろんです。クモデスカラー」

 

『ついでに全て全能なら、互いにイレギュラーは起こっても全能の数で上回る算段……面白い!! その処理能力で我を越え続けられるかどうかやってみるがいい!!」

 

 言っている合間にも始祖破片の肉体が再生すると同時に自身の周囲に波動を放射し始めた。

 

 強力なエネルギーそのもの。

 

 宇宙内部に存在する殆どの物理量を全方位に超出力で照射する。

 

 それは超新星爆発を連続で引き起こし続けているようなものであったが、威力の凝集を行う神の力による偏向によって、一定の領域内のみに留まり、空間内部の全ての存在を力の濁流で溶かし尽くす超速侵食崩壊能力の類であった。

 

 周囲の蜘蛛達との連携が無ければ、まともに戦えないセブンス・ヤーンである。

 

「\(^o^)/支援用の糸がきれちゃーうという蜘蛛の顔」

 

 更に空間の支配権が拮抗するどころか競り負けつつあるせいでまともな支援が届かなければ、蜘蛛達は敗北。

 

 残された大量の蜘蛛達が消耗戦を仕掛ければ、死人が爆増するだけで最終的には倒せるとしても犠牲は積み上がるという状況。

 

 さすがにこのまま引いて立て直すかと……そう、その隙に月面を完全に崩壊させようと画策した始祖破片の邪眼が僅かに細まる。

 

「( ̄д ̄)それは想定済み。全能なる邪神が単なる全能に縋っただけの理不尽なら我らに越えられないものとは思わない」

 

 蒼い蜘蛛が遥か月面の後方に下がりながら、崩壊しつつある巨大な天文単位方陣を上手く長持ちさせて補修しつつ、始祖破片の邪眼の解析終了と共に全ての情報を全蜘蛛に送り、受信させた。

 

 相手の質を模倣する邪眼を瞬時に蜘蛛達に与えて、質を量で凌駕する為の準備を終えて同時に発現、あらゆる能力の上昇と同時に莫大な負荷で魂を消耗させつつ、相手の能力の本体となる邪眼と拮抗状態を生み出し始める。

 

『ッ―――』

 

 近接戦を行っていたセブンス・ヤーン達の瞳が全て邪眼へと完全に変貌した途端、相手を常に上回り続ける事が不可能になった始祖破片の肉体のあちこちに小規模な崩壊が発生しては瞬時に戻るという状況が繰り返され始める。

 

 物量はやはり正義なのである。

 

 邪眼能力の許容量を相手がオーバーするまで質がほぼ同じ能力を処理能力勝負へと持ち込んだ蜘蛛達は相手を自分達の土俵に引きずり込んだ。

 

『(可能性を0に出来ない……無理やりに捻じ込んで来る……コレは技量の差? 運ではない。あらゆる可能性の最低値と最高値を限界まで引き出すだけの精密性と互いに補い合う運用。命を意に介さない数の冷徹。再現不能性、不可逆の―――)』

 

 宇宙崩壊級の能力を相手の殲滅に注ぐ始祖破片。

 

 しかし、その宇宙に大分広がった蜘蛛達の支援を受けるセブンス・ヤーンに集約された超銀河団クラスの処理能力は彼女と拮抗する。

 

 必ず自分が上回れない瞬間に圧され、圧された後に押し返すという事を繰り返し、存在の崩壊が処理負荷の限界となって魂と肉体を蝕んでいた。

 

『ふふ……くくく……あはははは!!! あれと良い勝負か。確かに貴様らは……いや、お前らの主はアレと良く似ている』

 

 彼女が愉しそうに嗤いながらそう零した。

 

 蜘蛛達は因果律こそ制御していなかったが、猛烈な力の波を高次元干渉で偏向。

 

 力の限定される領域を変質させて開放型にし、月面とは反対側に放出させて圧力を逃がし、自身の肉体の崩壊侵食速度を抑えて再生能力でジリジリと消耗を緩やかにしていく。

 

 その噴き出した光の粒子の濁流は星系を貫いた。

 

 ソレが本来は惑星があっただろう星系の外延から遥か彼方へと放射状に光よりはかなり早く広がっていく。

 

「(≧◇≦)/(あ、引っ越し開始ー開始ーと周辺星系で身構えていた蜘蛛の顔)」

 

「(●д●)!!(遂に来たか。惑星の集団転移を開始する。被害予想地域の精密解析完了!! 直ちに当該被害予想地域の星系の集団疎開を開始!! 全地獄門全力駆動開始!! 全銀河での危機回避プロセスを始動!!)」

 

「(>_<)/(せっかく集めた質量が4割方消えちゃう!! 大変遺憾である!! と、せっかく集めた質量を生物のいる星の集団移転に使う事になって残念な蜘蛛の顔)」

 

「(/・ω・)/(被害予想宙域広過ぎ案件!! これだから全能ぱわー系はーと被害予想周囲から星を順次移動開始する銀河お引越し艦隊(地獄門制御係なミストルテイン級艦長職)の顔)」

 

 光の速さでもすぐには辿り着かない領域には現在、密度的にもかなり高い帝国銀河団の戦力が大量に停泊中だ。

 

 ソレらの防御までも任された蜘蛛達が予想到達時刻よりも早く周辺の銀河近辺に存在するあらゆる航路と惑星、諸々の航行中の船、衛星の類に到達予想時刻を伝達し、もしもの時の為のプランである銀河規模でのお引越しを開始する。

 

 方法は単純無比に地獄門の複製を超絶巨大化して、質量を蜘蛛が補填しながら、惑星や戦力を囲って空間毎跳躍するのである。

 

「一体、あの星系で何が起こってるんだ」

 

 空間の歪みによって光よりも早く広がって引き伸ばされた天文単位物体の次は光の速さより早く噴出する光の道。

 

 銀河どころか。

 

 銀河団を貫いて進む光は広がりながらとある銀河を基点として巨大な何もない虚空である虚無の領域に端からズレるようにして広がっていく。

 

 蜘蛛達がお引越しを開始していなければ、即座に光に溶かし削られて消えてしまっていただろう莫大な星々はあちこちの何もない銀河領域に押し詰められるようにして転移させられ、何が何やら分からずに目を白黒させて、転移先の恒星の光が届くより先に空間失調による酔いで多くが気を失っていく。

 

 が、その合間にもヴォイドを縦断した光は何もない場所で無数に増殖している邪神劣化群体の巣を文字通り天文学的な数字で消滅させながら遥か宇宙の果てまで消えていく。

 

 今現在蜘蛛達がいる銀河の生命がいる星は救われたが、それ以外の別の銀河団や未知の銀河が遥か果てまでのルートにあった場合はご愁傷様としか言えないだろう。

 

「(´・ω・`)(此処までは一進一退くらいかなーと地表から月面裏の戦いを観測している蜘蛛の顔)」

 

 現在、ミストルテイン級が集まる月周辺より後方。

 

 次々に集結しつつあるセフィロト級とミストルテイン級が第二次防衛線を敷くと同時に後方へと送られてくる重症蜘蛛の転生と再生を請け負い。

 

 後続からの蜘蛛の出撃と各種のデブリの掃除、膨大な力の余波を防ぐ巨大惑星周辺への見えない空間歪曲による障壁の展開、更には月面の表側にある緋色の塔の基部に造った基地内部でヘリオスと共に周辺環境の正常化と力の吸収、集約、分配の許容量を天井知らずで引き上げていく。

 

 緋色の塔の中間層。

 

 地獄門本体が光り輝く輪となった軌道上ステーション内部。

 

 巨大な中央炉心区画では疑似太陽神の心臓とも言うべき炉心内部で核融合反応と同時に神の力を産出し、邪神の魔力と影響力を高次元干渉レベルから中和する領域を展開。

 

 本星を覆い始めていた。

 

「………フン。此処でくたばる程にお人よしではあるまい?」

 

 それを見届けて機が熟したと声を上げたのは島の最中、人馬の邦の修復された王城執務室。

 

 呟いた六眼王の横には小さな妖精と妖精のような翅の生えた蜘蛛が四人、王の頭上に揃っていた。

 

「いいか? 引き戻すのは手伝ってやる。だが、賭けだ。我が瞳は未来までは見えぬ。お前ら妖精とは違ってな」

 

「分かってるわ。我が契約者を此処で死なせるわけにはいかないもの……此処まで手伝わせた以上、何れ代価は払われる……そういう運命よ」

 

「くくく、何が運命だ。単なる手品だろうに。世は取って取られての差し引きの均衡で成り立っている。それを崩すお前達がその残酷さで滅びたのは単なる自業自得に過ぎない。竜の親玉に付いていた個体がいたという事は妖精の最終目的は……」

 

「そんなの知らないわ。でも、今なら分かる。何もないよりは何か在った方が良かったのでしょう。悪戯し甲斐のある世界の方が良いなら……未来を見て己の滅ぶを良しとした時点で自暴自棄だった事にも説明が付く……」

 

「まったく、お前の契約者は頭痛の種だな。聖域外延の戦いも中盤だ。救世神勢力の気が逸れている内に始めようか。行くぞ……」

 

「ええ、貴方達、準備は良い?」

 

「「「「(・∀・)/(りょーかいですという妖精蜘蛛の顔)」」」」

 

 特別な瞳を持つ者達。

 

 その最前線で戦う者達の運命を決定付ける彼らの戦いはひっそりと始まり、いつの間にか終わっているのが常だ。

 

 死力を尽くした宙の激戦の中。

 

 静まり返った一室で1人と1人と4人の瞳が開く。

 

「我が契約者……あの邪神の封の底より今、引き上げます」

 

 戦いはそろそろ中盤へと縺れ込む。

 

 どちらかが破綻を来すまで後―――。

 

 *

 

―――「とある大陸のとある帝国のとある首都のとある地域のとある一室」。

 

 嘗て空に緑炎を蒔かれて半世紀。

 

 蒼い空を知らぬ人々が世界に唯一の大陸で発展を遂げて未だ途中。

 

 大陸の統一を成し遂げた一つの帝国は今も進展を極めている。

 

 強大な大陸の国力を動員した宇宙開発。

 

 技術開発初期に達成された特大のシンギュラリティ―たる無限機関の開発完了。

 

 これを以て、確固たる惑星統一は果たされ、一つの帝国は半世紀で一つの星の代弁者となり、世界に蔓延る敵との戦いにも目途は付いた。

 

 各国の文明化に連れて増えた平和を知る世代が満ちた人住まう地は今や一つの帝国を基盤とする文明期の絶頂に在り、何不自由無い暮らしが全人類規模でほぼ実現した。

 

 異常な生命体によって攻撃されるという類の悲劇以外は概ね人々は統一された世界の恩恵を受けて幸福の価値を享受している。

 

「クロノ・ダイブ・システムです」

 

 誰かの声が闇夜の静寂に響く。

 

 冷たい虚のような空間は外側から見れば、ドーム状であり、周囲の居住者達の多くは其処が一つの研究所だと信じて疑わない。

 

「?」

 

「貴方のおかげで目途が付きました。今後の戦いにおいて、随分と勝利する確率が上がった事はまったく感謝しても足りませんね」

 

「………」

 

 だが、其処に出入りする業者を見掛けた者は在れど、業者以外を見掛けた者は無い。

 

 最初にそのドームが置かれたのは随分と前。

 

 それから誰も其処の事を知らない。

 

 ただ、軍管轄の施設という事しか分からず。

 

 周辺は兵で囲まれ、立ち入り禁止となり、人々はあれこそは帝国の秘密基地の一つに違いないと首都の一部では噂となった。

 

 それも今や昔。

 

 其処は出入りのあった最初の頃以外、施設管理業者以外は出入りの様子もなく。

 

 人の口にも上らなくなって久しい。

 

「遊び始めた人口がほぼ総人口の9割に達した事で幾つかの重要情報の収集も終わっています。残るノードによる演算過程の解析を進めれば、恐らくこの星系内での決戦までには必要な情報も出揃うでしょう。ですが……」

 

「?」

 

「例の地域との戦争終了時、多くの非物理事象における新しい解析が必要になりました。それと自然発生しているノード内の一つで9割以上の確率で自動初期化設定が掛かる事態が発生しているようです」

 

「………」

 

 通路は白いリノリウム製。

 

 電灯は超長期対応型の代物で使用時間20年に1度の交換が義務付けられているが、人が通らなければ人感センサーが起動しない為、消し去られたままだろう。

 

「このエメラルド・タブレットは无の領域より持たされたモノを素材としています。故に恐らくは外部の无と繋がっている接続域より彼らが侵入している。もしくはわたくしの同居人達が遊んでいるというのが正しいはずです」

 

「?」

 

「ええ、近頃増えたので。ですが、問題は初期化される度にその影響範囲が広がっているという事です。今はまだノード内にある宇宙群の近傍だけですが、ノード全体に影響が広がれば、最終的に全ノードまでこの状況が進行する可能性もある。そうなれば……一度全て消去せねばならなくなるでしょう」

 

「………」

 

 ドーム内の通路は正方形となっており、各部屋には同じ設備が複数台置かれ、全五層の地下階層を囲むように円筒形の地下構造部が置かれている。

 

 一つ一つの設備は接続され、電力さえ供給されていれば、施設全体の清掃までもが設備とドローンで行われる代物だ。

 

「貴方を救う為の手立ては既に確立しました。しかし、その力もこのエメラルド・タブレットが正常に機能していない限りは使いようがありません。コレの劣化版は何とかドラクーン達に用意しましたが、オリジナルのデータをバックアップしておける程ではありません」

 

「?」

 

「……貴方の限界も近い。そして、この内部に人々が築き上げた全てと必要な情報も保管されている。一応、現象の起きたノードの宇宙群をサンドボックス内に退避させてはありますが、現象そのものを抑え込めるかも未知数。正直に言って、正念場です」

 

「………」

 

 全ての階層の何処か一つでも同じ設備が残っていれば、他は全て稼働可能なバックアップ体制は過剰な程に整えられているが、使われている痕跡は無く。

 

 定期使用による設備維持以外ではうんともすんとも言わない。

 

 帝国最新鋭の浄水設備、空調設備、電力設備、室内栽培設備、施設管理用自動化設備、制御ターミナル、正副予備と部品状態の設備修復用資材が全五層分×10回分。

 

 更に文明の絶頂期に違いない現在、最も文明において高価な設備が各種五基。

 

 無限機関。

 

 【ゼド機関】と呼ばれるソレが予備と共に稼働待機状態で維持されている。

 

「……先日、ゼド教授と帝技研の天才達によって過去と現在と未来を……時空間を超越して観測する装置が出来ました。クロノ・ダイブ・システムと言います。本来、この内部宇宙の観測は素粒子内部を観測するかのよう無限に等しい情報量を処理出来ず、不可能だったのですが、情報爆発を規制する新しいプログラムの開発が成功。永続的に疑似観測する事が可能となりました。无の領域の観測にも使える優れものです……」

 

「………」

 

「ええ、コレを使えば、サンドボックス内のノードを覗く事が出来ます。そして、更に貴方の魂魄をあちらに送る事も……事実上、此処にいる貴方のイデアが消失し、機能を停止するせいで構築された貴方が貴方そのものとなるわけです」

 

「………?」

 

 もしも、此処に来た工学系の知識に敏いものならば、そのドーム内の過剰な設備……対アトミック、バイオ、ケミカルな装備と対抗用の設備が運用人員も無く置かれている事に恐怖する事だろうし、ソレらを開発可能な研究開発用の設備までもが無人で置かれ、塵一つ無く放置されている事に呆けてしまうかもしれない。

 

 帝国の一研究所ですら、此処までの手間を掛けた場所は早々なく。

 

 半ば、軍の一大拠点だろうとも過剰な予備の設備が部品込みで倉庫に置かれていては宝の持ち腐れ……事実上、国家予算の何%を無駄に使ったのかと納税者に言われてしまうに違いない場所なのだ。

 

 そう、そこが国家所有の場所だったならば、だ。

 

「本来はサンドボックス内ではなく。単純に魂魄をエメラルド・タブレット内に封入するだけで良かったのですが、今言った通り。いつ構築した宇宙群が崩壊するか分からない状況です。そうなれば、この世界も滅びますし、貴方もそれを見る事無く生涯を終える事になる」

 

「………………」

 

「本来は……本来ならわたくしが隔離済み領域内部に潜るべき状況です。ですが、未来を幾ら見ても、此処でわたくしが離れれば、この世界は崩壊します。そして、この内部に潜り、宇宙群の崩壊を止められる技能と知見を持つのは……システム・カーネルの主要設計を行った貴方以外にはいません」

 

「?」

 

「問題はそれだけではありません。もしも、この内部に貴方を送り込めば、原因の究明まで極めて……本当に極めて永い時間が掛かる事が予想されます。ノード一つとはいえ、それでも……ノード一つに納められた平行宇宙群の数は天文学的な数ですし、その内部を解析する処理能力のある演算装置があるわけでもない。有限ではあるが、果ての無い世界を無限に彷徨う必要がある」

 

「………」

 

 だが、全ての設備の中枢となるドームの深奥。

 

 20m四方の空間の中央に鎮座するのは一つのカプセルだけだ。

 

 ポツンと置かれたソレの周囲には何もない。

 

 ただ、最高級グレードの軍用品質な硬質対爆硝子50cmなんてものの厚さだけが部屋の意図を主張する。

 

 そんなものに比類する技術の結晶だけが使われたカプセルの異様な頑強さ。

 

 それだけは周囲に伝わるだろう。

 

 白く曇った内部は見通せない。

 

 だが、稼働するカプセルの基部からして現行の軍用艦に用いられている超重元素含有量9割のチタン合金であり、破壊するには極めて大量の爆薬が必要で豆鉄砲どころか現行火砲の直撃でも数百発以上必要だろうと分かれば、殆どのモノは諦めるに違いない。

 

「解決時間を早める為に時間の加速も加味する場合……宇宙を数兆回始まりから終わりまで繰り返しても見つからない可能性も高い。いつか見つかるとしても、その時まで貴方が貴方である確証も無い……」

 

「………」

 

「勿論、色々と対策はしました。今のわたくしに可能な限りの機能を……ですが、それでも今度は滅びる事すら出来ない無限の時間を貴方は―――」

 

「♪」

 

「………ならば、わたくしも貴方に賭けてみましょう。これを……」

 

「?」

 

 床も見えない真っ暗な世界。

 

 しかし、明かりすら灯されてはならない世界。

 

 カプセル基部のメンテナンス用ハッチの一部から漏れる小さなランプの光だけの世界にポツンと佇む背中が一人。

 

 その人影は法会を羽織り、自分の十倍近い大きさのカプセルの傍で内部を見通していた。

 

「元々はわたくしの伴侶達に与える為に造っていた代物です。貴方が、が、が、が―――」

 

 ザリザリとノイズが奔る。

 

 世界が虚空から塗り替わっていく。

 

 その変貌する世界の中心を翡翠色の板がキラキラと墜ちていく。

 

 場面はいつの間にか移り変わり。

 

 白い部屋に少女と“何か”がいる。

 

 今までの虚空の部屋が嘘のように……何もかもが真白の世界でソレは法会姿の相手を前にして浮かばせられていた。

 

「無間を征く者に祝福を……すみません。わたくしの力不足を背負わせてしまって……クロノ・ダイブ・システム……スタートアップ」

 

 墜ちていく。

 

 世界が堕ちていく。

 

 燃え盛る世界を潜り抜けて、ビッグ・バンもビッグ・クランチも飛び越して、落ちていく輝きを通り越して送り込まれていく“少年”は―――。

 

「忘れないで下さい。貴方はもうそちらの住人になってしまった。それはつまり永劫を携えるという事……あらゆるものを失い、あらゆる事を忘れ、あらゆる力を奪われ、全てが消えてしまったとしても……貴方はこのエメラルド・タブレットある限り、決して……“()くなる事は出来ない”……」

 

 その日、また宇宙が誕まれた。

 

「たった一つのノードにある無限の宇宙、全ての時間、全ての領域、全ての次元、全ての繰り返しを見終えてすら、消えられない」

 

「   」

 

「それでも……わたくしはこう言いましょう。多くの人々が愉しんでいるこの世界に初めて入り、もう戻らない貴方……走り抜けて下さい。このゲームはきっと……貴方が初めて知る人生になる……そんな貴方が幸せを掴めるよう祈ります」

 

「――――――」

 

「ハンドル・ネームを送りましょう。そうですね。洒落が効いたものは思い付かない性分なので安直に……アルティエ・ソーシャなんてどうでしょう? これくらいの方がきっと気楽に名乗れるんじゃないでしょうか……」

 

「♪」

 

「良い夢を、良い人生を、良き人々と出会い、無限の闇に光が灯されん事を……短い間でしたが、愉しかったですよ。アルティエ・ソーシャ……我が最優の友人よ」

 

 翡翠色の板切れは無間を墜ちていく。

 

 いや……それは推力を以て突き進んでいく。

 

 世界は其処に在るだけだ。

 

 墜ちていくのは誰かがそう思っているからだ。

 

 ならば、自ら光を目指して進む限り、ソレは堕ちているのではなく。

 

 向かっているに違いない。

 

 そう、そんな事を考えながら、少年はそっと板切れを掴んだ。

 

 いつかのようにいつものように何時如何なる時もそうであったようにただ……。

 

 彼はアルティエ・ソーシャ。

 

 無間の宇宙を征く者にして終わり無き世界に終わらぬ日差しを求めた者。

 

 そして、今は―――。

 

 

 

『アルティエ。あなた、アルティエ・ソーシャって言うの? あ、私? 私はね~~妖精!! これでも神様なんだから!! あ、驚いた? もしも良かったから、この楽園で愉しんでいってよ。此処は良いところよ? だって、私が管理してる島なんだもの♪』

 

 

 

 三対の翅に背中の中央に生えた一つを加えて七つの翅持つ小さな神は少年にこう言った。

 

 

 

『私は―――!! ―――・ティルナノグ!! これでも“きゅーせーしん”をやってます。えへへ……よろしくね? アルティエ……貴方、何だか懐かしい匂いがする……ふふ、気のせいかしら?』

 

 

 

 その日、初めて少年はその星で神に出会った。

 

 

 

 小さな板切れ一つを握り締めて………。

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