流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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最終章【蒼き瞳のニアステラ】編
間章「とある宇宙の話」


 

「スタンピード?」

 

「ええ、その兆候が頻発しています」

 

「困りましたね。まだ百周期を超えていないというのに」

 

「それが……第七中央接続抗の観測班からの伝令ではワールド・ピラー最下層の活性化が報告されています」

 

「―――再び現れますか。世界の破壊者が……都合12度の侵攻で世界総人口の7割ですよ? 未だ復興は道半ば、後1000年は余裕が欲しかったのですが……」

 

「迷宮界総距離4300キロメートル……全域封鎖と封領主達への再武装議案がオーダーズ・ギルドで詰められていると部下から連絡が……迷宮界の本部では既に地表への総撤退と第十一次に使用された封鎖界域に建造していた要塞の再増築を検討するべきではないかとの声もあるとか」

 

 とある世界のとある星系。

 

 一つの星に二つ目の小さな星が潜り込んだかのような歪な惑星の只中で、その歪な世界の高高度に位置する街の一角では世界の破滅への足音が報告されていた。

 

 ギルド庁舎と呼ばれる大規模行政施設。

 

 魔力式の技術で防護された要塞建築の流れを組む元城塞の改修構造物の中枢部。

 

 ギルドマスターの執務室。

 

 エルフが一人頭を両手で抱えていた。

 

 部下からの報告で沈んだ面持ちとなる男は溜息を一つ。

 

「ワールド・ヴォイド・ウェポン……もう残り4発ですよ……旧き者達が残した神話級遺物も弾数制限在りで未だギルドの技術部が復元には後400年は掛かるとの報告があったばかり。いっそ此処のワールド・ピラーを最下層の深部に限って爆破した方が良いのでは?」

 

「無茶を仰いますな。ギルド・マスター……それは最後の手段ですよ」

 

「最後が近いのならば、少しでも引き伸ばし策は……いえ、オーダーズ本部の意向ならば、従いますが……」

 

「これは噂なのですが、封鎖された最下層にはまだ破壊者の残存個体が生き残っているという話もあり、実際、SSSクラスを失う可能性のある調査に安易に人員を回すわけにも行かず。しかし、調査せぬ事には具体的な到達次期も未定となる可能性があり、上は困っているとか何とか」

 

「……またSランク冒険者を100ダースも失ったら、もうギルド止めますよ? ボク」

 

「重々上も承知でしょう。ですが、このままでは総人口の回復どころか。衰滅まっしぐらなわけでして……先日からこちらで名を馳せていて、探索に長けたSランクじゃないけど、Sランクくらいはあるパーティーがいるとかの話を聞き付けたらしく……もうしばらくしたら、本気の伝令が届くかと」

 

「電信すらまともに使う気が無いのに何が本気なものか。まさか、ひよっこ達を生贄にしろと?」

 

「残念ですが、上は此処のポストも挿げ替えたい思惑のある派閥が多いのもあり、かなり断るのは難しいかと。そう本部勤めの友人からは……」

 

「………分かりました。まだ、決定ではないとはいえ、可能性は考慮しておきましょう。彼らを呼んで下さい。それとウチの一番良い装備を封鎖倉庫から人数分+予備を一式込みで」

 

「年間予算が飛びますが?」

 

「来年が来ない可能性があるのにここで出し惜しんで死ぬよりはマシでしょう」

 

「了解しました。また芋生活ですか。この300年は肉も食えたのに……」

 

「個人資産くらいあるでしょう?」

 

「そんなのとっくの昔に……第十一次で銀行毎消えてますよ。

 

「そうでしたか。それはすいません。では、よろしく」

 

 エルフの言葉に部下のエルフが溜息一つ。

 

 イソイソと準備をする為に扉から消えていく。

 

「……第十三次防衛線……今度こそ本当に滅びるかもしれませんね……」

 

 その星、アルトセルにおける富の源泉となった領域の事を人々は迷宮界と呼ぶ。

 

 惑星に衝突し、埋まっているような形の真球状の半径数千kmの構造物は自存、自立、自己保存を行う生きた迷宮として人々に無限の富を分け与えて来た。

 

 時には莫大な地下資源を、植物資源を、動物資源を、水資源を……それを可能とするのはその星の盛り上がった迷宮大陸、上部高度30kmに位置する街に置かれた巨大な空洞化した柱だ。

 

『おーい。第十七移動区画が出るぞぉ~~~!!! 下降まで4時間だぁ~~!!』

 

『おっといけねぇ。そろそろ行かねぇと区画が行っちまう』

 

『また来とくれよ!! 近頃は外からの連中もそんなに来ないからね』

 

『はは、迷宮外は今も不況かい?』

 

『そりゃね。消費者も生産者もごっそり消えて、今じゃ電信だってまともに打つには大金が掛かるんだ。再建を明らめて新しい都市をって種族も多い。今じゃ冒険者の類は遺跡化した邦に首ったけだよ』

 

『そうか。ま、そうだろうな……』

 

 柱内部から外までにある直通の巨大縦抗には無数の橋が掛けられ、一片が1km近い区画がパズルように動きながら左右上下に移動し、内部の資材や資源、産物を他区画と売買する事で経済を成り立たせている。

 

 巨大な半径30kmの縦穴の端には街が連なり、それに付随して巨大な貨物区画の直接昇降場がビッシリと敷き詰められていた。

 

 このような設備によって迷宮界各地からの産物を次々に地表へと送り込み、文明は発展してきた。

 

『オイオイ。まぁた、マナクリの値段が下がってやがる』

 

『仕方ねぇ。加工技術を持ってる外の邦が今は高度技術よりも生活物資の生産に切り替えて、それも技術水準を落としてるんだ。生産職の人員も限られてるからな。電気文明なんぞ今は半数維持出来てるかどうかだぞ?』

 

『鉱山区画は商売上がったりだな。昔が懐かしいぜ』

 

『それ何年前だよ。人間にとっちゃ、ジジイが赤ん坊の頃の話だろ?』

 

『はぁ~~昔はすげぇもんが山ほどあったんだぜ? 宇宙にだって出られるかもしれねぇってよぉ……』

 

『ははは、正しく今の文明にとっちゃ夢幻だな。生憎とそんな高度なもんやってる暇があったら、明日の飯と今日の酒だ』

 

『今日日の若者は夢が無いねぇ……』

 

『オレぁもう54だぞ? それに食えなきゃ死ぬとジジイ共からミミタコだからな。オレは電信とか一度も見た事ねぇんだが、本当にまだ使えるのか?』

 

『ああ、使えるとも、殆どのインフラを休眠状態にして長期保存してやがんのさ。オーダーズはな。もしもの時に代えが効かない部分が消耗してたら、マズイだろ?』

 

『そういう事か。なら、一生見ないままに死にてぇな』

 

『はぁ~~夢が無い。夢が無い時代だよ。ホント……』

 

 遥か旧き時代。

 

 この迷宮界を建造した者達は旧き者と呼ばれ、何処からか到来し、人々に迷宮だけを残してまた何処かへと旅立ち消えていった。

 

 地表は正しく楽園と化し、大黄金時代は永く永く。

 

 地表も迷宮界も等しく富ませ、文明は発展し、魔力を用いた炉を使い、多くの国々が豊かな生活を送れるようになった。

 

 そう、そうだったのは凡そ2000年前までの話。

 

 第一次旧世界防衛戦。

 

 第一次大戦と俗称される戦が起きた時、地表も迷宮界の文明も等しく数千年規模の後退を余儀なくされた。

 

 その当時の人口の9割が消滅した。

 

 理由は単純明快。

 

 迷宮の奥地。

 

 その当時の文明でも完全には解読出来ないとされた旧き者達の遺構より、別世界の怪物が現れたからだ。

 

 世界の破壊者と呼ばれたソレは瞬く間に平和な世界を破壊し尽くし、最終的には同じ旧き者達の遺産兵器を用いて撃退され、人々は軍備増強へと奔った。

 

 人口を回復させながら、遺構の調査、あらゆる敵の情報の解析を行い。

 

 次こそは護り切ると迷宮界を要塞化しながら、次なる戦争に備え、多くの資源を文明の発展よりも武力へと振り分けていった。

 

 これが鉄の時代と呼ばれてからの2000年間の幕開けとなった。

 

 幾度も現れる破壊者を彼らは凌ぎ続け、莫大な犠牲を出しながらも今日まで文明を維持し、一進一退の生存闘争に勝ち続けている。

 

『その時!! 第一次大戦の13英傑は七騎までも減った。アルティマ・ゴーレムを以てしても、その目標地点に到達するには犠牲を支払わねばならなかった!!』

 

『ああ、しかし、しかし!! 残る七騎獅子奮迅!! 巨大なる破壊者の群れの隙間を抜けて最後の地点へ到達し、遂には最終兵器の設置を完了す』

 

『おお、エルフの始祖ディアマタによる大転移!! ゴーレムを下りた者々は名残惜しむも愛機を手放して、共に消え去り!!』

 

『遂には起爆せし、旧き者の力にて破壊者を駆逐せん!!』

 

『皆様拍手喝采の事を!! これにて第一大戦の英傑譚は終幕でござい!!』

 

『ささ、物販では七英傑とゴーレム人形も人気だ。皆さま、子供達に御一つ買って、過去の縁をまた結び直そうではありませんか!!』

 

『いざやいざや物販へ!!』

 

 都度、世界の破壊者が現れたワールド・ピラー最下層の封印された界域は激戦区となり、周辺の要塞での消耗戦は熾烈を極めた。

 

 不規則な年数で現れる破壊者との戦いを制し、遂に人々は生活水準こそ中世並みにまで戻ってしまったが、何とか平和に暮らせるようになって100年余り。

 

 しかし、長生きな種族にしてみれば、人生の半分は戦争をしている計算であり、昨日今日の感覚で寿命の短い種族に備えろ備えろと口を酸っぱくしているのも無理からぬ事だろう。

 

 特に寿命の平均が100年を越えない最大の数を誇る人類に対し、多くの他種族は寿命が永い分、教師役となって侵攻を防ぐ準備をと言い続けて来た。

 

『済まないな。だが、出来る限りの事はさせてもらった』

 

『七英傑に言われては断れませんよ。別に他意はありません。言葉通りの意味です。だから、そう気に病まないで下さい』

 

『本当に……済まない。まだ駆け出しで4年の君達にこのような……だが、前回での傷は未だ全ての種族が癒えていない。人口も生産力もだ。電力供給も足りなければ、技術革新も進んでいない。つまり、時期だけでも分からなければ、次こそは滅びる可能性がある』

 

『……はい』

 

『リーダーである君に言うのは気が引ける。だが、言わねばならない。どうか、全員で生きて情報を持って帰って来て欲しい。支援部隊と救出部隊の準備は済ませてある。もしもとなれば、セントラル・ピラーからの緊急転移の使用も承認を取り付けた。だから……どうか……』

 

『心配性ですね。相変わらず』

 

『はは、悪いな。君達を信じていないわけじゃない。だが、永く生きていると多くの若者の死を見る事になる。あの時、こうしていれば、良かった。なんて、思うのはもう沢山なんだ……個人的な理由で悪いな』

 

『感謝しています。始めの頃に支援して頂かなければ、此処までこれませんでした。これからも貴方の下で働かせて欲しい。では、次の報告でお会いしましょう。ギルド・マスター』

 

『ああ、【蒼の剣】の全員とまた話せるのを書斎で待たせて貰おう』

 

 その日……第十三次防衛戦が開始される前に調査を行うべく編成された少数精鋭部隊と名前だけは強そうな若者達のパーティー【蒼の剣】は特別任務を開始。

 

 男女混成6名のパーティーはエルフのギルド・マスター……遥か永きを生きる七英傑のエルフに言われて、イソイソとワールド・ピラーを小規模な個人用区画で下りて行った。

 

 最下層への直通エレベーターのある固定化された橋まで数時間。

 

 更にそこから遥か地底へと延びる数名を送り込む為だけの封鎖されていた遺構。

 

 嘗ての大戦で幾度となく決死隊を運んだ小規模人数用のエレベーターが最高速で下降を開始。

 

 約20時間前後で最下層に到着し、現地の領域の調査が開始される運びとなった。

 

『リーダー。どうでしたか? 何かギルドマスターは?』

 

『全員で生きて帰れ、だそうだ。嬉しい話だ。こんな駆け出しに第一次大戦期の遺物武装……しばらく、ギルドはカツカツだろうに……』

 

『あ、この黒い装備、そういう……え、私死ぬの?』

 

『ははは、まだ死なないさ。全員が自分の仕事を全うすれば、帰れる。オレ達の力じゃない。ギルドとあの人達が生かして返そうとしてくれる。だから、しくじるなよ? 全員』

 

『ふ……あの七英傑のお膳立てで死んだら笑いものだな。リーダー』

 

『そうよ。そうよ。これでも七英傑物語を聞いて育った第七中央外延区の民だもん。あの人に失望されたりしたら、一族郎党から嫌味言われっぱなしになっちゃう!!』

 

『あのエライ人、僕結構好き。沢山、御菓子くれるし』

 

 六人の男女はそうワイワイと会話しながら、その大型のエレベーターで最下層まで降りていく。

 

 昇降機の乗り継ぎは一切無しの直行便は出て最初の部屋は深部の要塞内部。

 

 そこから幾つかの巨大な防御用の魔力方陣で守られた陣地を抜けて外に向かう。

 

 出てすぐに戦闘ではない為、要塞を上手く使いながら、覗き見をして帰って来るのでも構わないとまで言われていた彼らは事実上……要塞が落ちていなければ、死ぬ確率は極めて低かった。

 

 しかし、それも絶対ではない。

 

 何故なら、最下層域は大戦が起きる度に陣地の増築と取って取られてを繰り返した魔窟と化しており、巨大な構造物もいつの間にか死地になっている事はよくある話だからだ。

 

『付いたな。行くぞ。全員、此処からは無用なお喋りは無しだ。必要な指示とサインは事前準備通り、各自の情報は全て、瞳に集約される。第一次の時の骨とう品だ。瞳のレンズだけは死守してくれ。オレ達が死んでも瞳さえ無事なら、上に情報は伝わる……行くぞ』

 

 仕事人としてパーティーリーダーの顔となった青年に続いて速やかに最もSランクに近いと言われた者達が要塞内部へと飛び出した。

 

 周辺を最大級に警戒。

 

 敵が潜んでいないかを念入りに魔力運用技術体系で探索。

 

 そうして、彼らが最初の関門を抜けて、要塞の表側に近い区画へと移動しようとした時だった。

 

 猛烈な激震が区画に奔る。

 

「きゃぁ!? な、何なの!? 攻撃!!?」

 

「分からない!! 各自警戒!! 正面は避けて左側の通路から側面観測室へ!!」

 

 リーダーの指示の元。

 

 迅速に前衛が通路の安全を確保し、進んでいく。

 

 2000年前から増築を繰り返されている砦は頑強だが、彼らが走っている間も激震が何度か奔り、あちこちで天井から埃が落ちて来る事があった。

 

「この揺れは一体、攻撃を受けているにしては抜かれていないのもおかしい」

 

「どういう事です? リーダー?」

 

「大型の破壊者の攻撃なら、数度も直撃しただけで要塞自体吹き飛ぶんだよ」

 

「え……」

 

「つまり、これは攻撃されているのではなく。余波の可能性がある」

 

「余波? 誰かが戦っている? そんな……此処には私達以外、オーダーズの戦力はいないんですよね?」

 

「そのはずだ。オーダーズの一部が独断専行して最下層の探索に要塞を揺らすような戦力を投入し、破壊者の前衛と戦っていたりしなければ、という但し書きが付くけどね」

 

「そ、それって……もしも、そうだとしたら、破壊者がいるのは確定、ですか?」

 

「ついでに破壊者と戦う者もいると考えると自然だけど、これ以上は憶測だ。観測室が見えて来た。飛び込んだらすぐに装置の起動を。鍵は各自に持たせてある分しかない。無くさないでくれよ? それ一つで新品の豪邸が4つは立つから」

 

 蒼の剣。

 

 そんな結成四年目の冒険者パーティーが即座に飛び込んだ室内でコンソールを見付けて、観測室の装置を起動する。

 

 すると、室内の一面にあるフルスクリーンの湾曲型の投影装置が要塞全方位の情報をリアルタイムで映し出し始めた。

 

「「「「「「――――――ッ」」」」」」

 

 破壊者が破壊者と戦っていた。

 

 世界の破壊者。

 

 そう呼ばれる他世界生物。

 

 恐らく旧き者達の残した別世界への入り口から入って来たと思われる存在。

 

 3対の脚を持ち。

 

 8つの複眼を持ち。

 

 魔蟲類に属すると思われ。

 

 あらゆる魔力を弾く体表を持ち。

 

 恐ろしく早い機動能力を持ち。

 

 無数の個体が連携し。

 

 母体から1回の出産で400体前後が生産され。

 

 魔力を用いて肉体を強力に成長させ。

 

 あらゆる生物資源を食い荒らし。

 

 特殊な能力を持つ上位個体によって統率され。

 

 要塞戦となって尚、物量で相手を推し潰し。

 

 Sランクパーティー人員1人と1個体相当が釣り合う程度の能力。

 

 つまり、ソレはこう呼ばれる。

 

 世界を食い尽くす蜘蛛。

 

【邪神蟲】と。

 

『(^◇^)/(う~ん。このパチモン臭たまんないな~~剥製にしたら、どーほーに箔付け系アイテムとして売れそうと考えてる商売系蜘蛛の顔)』

 

『( ̄д ̄)((◎↑≧≦≧≦↑◎)ギシャーとか汚い声だなぁ……有名になるとこういうのが出て来るから困るんだよなーと自分達のパチモンっぽい見た目と顔でゾンビと人間くらいの違いがある毛むくじゃら汚い系個体群を焼却処分してる蜘蛛の顔)』

 

『(/・ω・)/(お~~こいつら邪神系なのか~~~もしかしたら、こっちの始祖との系統に近い種類なのかもね~と容赦なく死体を真菌沼に沈めて黒蜘蛛の巣の造営に取り掛かる蜘蛛の顔)』

 

『(`|ω|´)(こいつら結構強い。一般蜘蛛の魔力量比で1000分の1くらいあるな~身体能力と連携能力は滅茶苦茶残念だけど、と駆除した害虫をさっそく遺伝レベルからデミ・ナクアで調査する調査員系蜘蛛の顔)』

 

『(>_<)/(みてみてー特殊個体見付けたーと駆除してきた空間切断技能を用いて攻撃してきた特殊母体と複数の特化技能個体の死体を牽いて来るノクロシアンの顔)』

 

『ヾ(≧▽≦)ノ(数が多い!! この世界で無限鍛錬編にとつにゅーだーと戦闘訓練に丁度良さそうな世界に行き当たった戦闘狂系蜘蛛の顔)』

 

「「「「「「………」」」」」」

 

 蒼の剣の目の前では無限にも思える世界の破壊者が押し寄せる地域で何か焚火を囲んで愉しくキャンプしている世界の破壊者……っぽい見た目の蟲達が何か愉しそうにワイワイと盛り上がっている……様子が映し出され―――。

 

「あ、ああ、あれ何なのよぉー!!?」

 

 遂に大声を上げた蒼の剣の女魔法使いである。

 

「わ、分からん。分からんが……何だあの、あの? ええと、個性? いや、表情? そうだな。表情豊かな破壊者?みたいな生物はどうやら文化的らしい」

 

「ぶ、文化的って貴方!? アレ、どう見ても蟲でしょ!!? 破壊者でしょ!?」

 

「待て、待つんだ!? 早急に決めてはいけない!! よく見ろ!! 彼らの体には文化的なガジェットが幾らか付いている。ポーチだのゴーグルだの他にも我らも使うような調査隊用の道具にも似ている」

 

「た、確かに……まさか、破壊者が進化した、のか?」

 

「う、嘘でしょ……破壊者は進化しないって定説だったじゃない!?」

 

「破壊者が進化したら、したら……どうなるんだ?」

 

「滅茶苦茶強くなるに決まってるでしょ!!? 属性特化特殊強化個体のせいで中隊単位が全滅だったって話聞いた事あるわよ」

 

「オイ!! あの破壊者っぽいのが曳いてる網の中の破壊者!!? 特殊強化個体だぞ!!?」

 

「え、えぇえぇええええ!!?」

 

「し、しかも、強化母体まで居やがる!!? 軍団一つと相打ちの相手だぞ!?」

 

 彼ら蒼の剣が慌てている間にも蜘蛛達が続々と周辺地域から無限にも思える破壊者の血飛沫を上げながらやって来て、屠った破壊者達を道と敷いて真菌に沈めながら合流を開始。

 

『(;´∀`)(あ、お疲れさまーどうだったーと戻って来た調査隊を労って霊薬を渡す蜘蛛の顔)』

 

『(・∀・)(此処、やっぱり建築様式的に旧き者の遺跡っぽい。あ、これとちゅーで中枢っぽいところで拾った鍵どーぞとお土産を陣地設営組に渡す調査隊蜘蛛の顔)』

 

『(´・ω・`)(これは……プラチナル製? やっぱり、あの遺跡から直通って事は別宇宙というより、此処別の宇宙収容してる領域なんじゃ?とさっそく色々と計算を始める蜘蛛の顔)』

 

『(>_<)/(ここ、面白いの一杯だよーと施設から集めて来た大量の収集物と情報を開示して、色々と広げて見る蜘蛛の顔)』

 

『(一一)(ほ~~? あ、この概念図って帝国銀河団とやらが使ってる汎用転移方式の原案じゃね? 旧き者も色々とやってんのねと概念図やら設計図やらの大発見をさっそく超極小規模の地獄門経由で島の方に送ってみる蜘蛛の顔)』

 

『(。-∀-)(此処って、あの銀河の遺跡経由しないとイケないっぽいよね。地獄門経由の通信ですら、時間掛かるし、高次元領域経由なのに時間掛かるって事は恐らく、宇宙間の領域が概念的な状態ですら離れ過ぎてるって事のはず。此処までの綻びがあの銀河にしか無いんだろーなーと脳裏で計算する蜘蛛の顔)』

 

『(・∀・)(この施設、超規模型巨大転移プラットフォームっぽいよね。この許容量の転移施設がほぼコスト0で運用可能みたいだし、本格稼働させたら、宇宙一つ分くらいの領域はイケるんじゃね? と、色々と全体像を推理する蜘蛛の顔)』

 

 ワイワイガヤガヤと言葉も無くコミュニケーションを取っている蜘蛛達を凝視する者達は何か破壊者が鏖殺されている横でお茶を呑んだり、焚火で食事を作り始める相手を前にして脂汗を流す事しか出来なかった。

 

 蜘蛛、別宇宙に到達すの報は蜘蛛達の間ですぐに話が出回り始めていたが、その一団を率いてるのが“新しい蜘蛛”……今まで未発見の種類になる者だとの話は界隈で話題となった。

 

 曰く、蜘蛛化出来ないギリギリの境界で力を高め続けた存在ならば、その種族になるらしい。

 

 との話に彼らはそんな都合よく超人で悪党な連中見つからないよなーと思いつつ、あちこちの銀河で素体となりそうな種族を探し始める事になるが、それはまた別の話。

 

 今、初めて見る種族を蒼の剣のメンバー達は注意深く見守り、とにかく情報を集める事だけに集中していた。

 

「リーダー……あいつら、良いもん食ってそう」

 

 斥候役をしているネズミ系な亜人の少女がそう呟く。

 

 彼らの視線の先では蜘蛛達が何かやたら大きな生肉っぽいものを干したらしいソレを焚火で炙っており、魔力で加熱を施しつつ、香辛料を掛けて、旨そうな肉汁が滴るのもそのままにモシャっていた。

 

「味覚は人や亜人基準なのか……」

 

「それにどうやらあたし達と同じく魔力は使えるみたいね。というか……何で破壊者の複合生体装甲抜けるわけ? アレの防具一つで遺産装備の代表格よ? まるでゼリーみたいに易々と……有り得ないわ……」

 

 彼らの目の前では蜘蛛達が次々に波のように押し寄せ続ける破壊者を千切っては投げ、千切っては投げしていた。

 

 機動した肉体が接触しただけで一方的に破壊者側が弾け飛ぶやら切り飛ばされており、更には脚を振るうだけで数百匹前後が一気に両断され、本来あるはずの再生能力すら停止した様子で死体になった挙句に黒いドロドロに溶かし喰らわれている。

 

「そもそもあの沼地は何なんだ? アレに死体が溶かされてる。危険物なのか?」

 

 沼地は破壊者の体積を溶かし込んで拡大しており、蜘蛛達の陣地の周囲は既に巨大な沼地と化していて、それに触れた破壊者達はソレが自分達に猛毒だと分かると空を飛んで突撃を続けるという物量に物を言わせた戦いを繰り広げている。

 

「一切、消耗した様子が無いとは驚きだ。一分弱で3000個体近くを斃していてもまるで代わる様子も無い……破壊者を大幅に超える威力と能力と体力……これはもはや……神の領域に……」

 

 大剣を背負った中年男がそう相手の強さに判断を下す。

 

「全員、どうやらこれ以上はしばらく様子も変わらないようだし、一端情報を持ち帰ろう。来て早々で悪いが、我々の思っていたのとは違う状況になっているようだ。まずはギルド・マスターへの報告を最優先に彼らから見つからない内に……はっ?!」

 

『(・∀・)(じ~~~っと天井からぶら下がって、この世界の言語の解析を延々と行いつつ、知性存在の内情を読心していた斥候系隠密得意蜘蛛の顔)』

 

「リーダー!!?」

 

 咄嗟に彼らが攻撃よりも防御を行う為に入り口へと一斉に引いて各自が防御姿勢を固めた。

 

 大剣の男が前に出て、更にリーダーである青年が大盾を地面に打ち付けて内側から相手を視認する。

 

「待て!! まだ攻撃はするな。我らは新しい知性ある存在を前にしているんだ!! 不用意な攻撃で種族全体が敵になったりしたら、破滅の引き金になる」

 

「くっ」

 

 大剣の男が瞬時に剣を防御するように刃を寝かせた構えに移る。

 

『(|∀|)こんにちわ。蜘蛛です』

 

「う、嘘?! 喋った!!?」

 

「いや、違う。見ろ!! あの脚に持たれてる看板から声が出たんだ!!」

 

 彼らの前にシュタッと降りて来た蜘蛛は片手にいつもの手持ち式看板を掲げており、そこには蜘蛛のデフォルメされたカワイイ調な顔と彼らの言語を発する旧き者達の文字列があった。

 

「アレは……旧き者の古代語か? こちらの言語を解析して、音声を旧き者の言語で表している、のか……」

 

 リーダーを筆頭に蒼の剣の誰もが驚くのも無理はない。

 

 極めて知的な発想と言わざるを得ない。

 

 今まで攻めて来ていた世界の破壊者とは一線を画する相手を前にリーダーの青年の額に汗が浮かぶのも致し方ないだろう。

 

 彼らの目の前にいるのは黒い甲殻に白金色の幾何学模様が全身に奔った生物にも機械にも見える蜘蛛であった。

 

 ソレが別宇宙の銀河で超常存在や超科学文明の類を制圧して、色々と現地技術を吸収し、自己に適応させて、この地までやってきた発展的蜘蛛達とは誰も分からないだろう。

 

 通常のペカトゥミアだった彼は天文単位物体を齧っていた蜘蛛によって生み出された個体であったが、その後機械知性だの、超科学文明の類を現場制圧した後、技術を軍艦や研究所から接収して、さっそくその技術で疑似ノクロシアン化した者であった、

 

『(|∀|)こちらは蜘蛛の氏族軍。とある領域において遺跡の起動により、こちらへの転移が可能となり、調査に来た者です』

 

「蜘蛛の氏族、軍? 調査、だと?」

 

 やたら渋い男の声。

 

 蜘蛛達がこの数か月において最も先進的な発明と自称する先進大陸の合成音声を用いた手持ち式の喋る看板はまったく宇宙を滅ぼせる兵器なんかより、よっぽど最新のテクノロジーであった。

 

『(|∀|)我々は不要な争いを望みません。我々が望むのは必要な技術や遺跡の収集解析であり、この遺跡はその収集対象に追加されました』

 

「遺跡の収集?」

 

『(|∀|)我々の宇宙は滅びの危機に瀕しており、この遺跡はその滅びを回避出来る可能性が秘められている為、解析及び複製もしくは現物の確保を優先しています』

 

「待て!? 君達はこの旧き者の遺構が何なのか知っているのか!?」

 

『(|∀|)……人型知性体との交渉は上のモノが行う事になっており、もし皆様が穏便に事を運びたいのなら、交渉の場を設ける事を提案します』

 

「こ、交渉……って、この蜘蛛達、交渉までするの?」

 

 思わず女魔法使いが驚く。

 

『(|∀|)現在、この地に繁殖していた敵性生物の排除を実行中。この領域内の駆逐が5時間後に完了した時点で交渉現場の設営を開始します。現場はこの要塞の直前地点に置いておきますので2日後にまた交渉人を伴ってご来訪下さい』

 

「待て!? まだ、交渉するとも言ってないぞ!? こちらは!!?」

 

『(|∀|)我々には時間がありません。もし、交渉が遅れた場合はあの敵性存在を排除した事を以て、この地の領有権を主張します』

 

「りょ、領有?!」

 

『(|∀|)行き交いが難しい場所というのは想像が付きますので直通での転移用の道具をどうぞ』

 

 蜘蛛がリーダーの青年の手に呪紋式の転移用の使い捨ての呪符を1組渡す。

 

『(|∀|)交渉現場への行きと帰りの一組で20人を一括して運べます。帰りの場所は行きの道具を使った所で固定化され、転移する際は静かな人の行き来が無い場所でご使用下さい』

 

 蜘蛛がやる事はやったと言いたげに転移でその場所から消える。

 

「き、消えちゃった!?」

 

「これは……どう考えれば……リーダー?」

 

「すぐに帰るぞ!! とにかく急げ!! 時間が無い!!」

 

 優秀な男は蜘蛛がチラリと画面に映っていた時刻を確認していたのを見逃さなかった。

 

 この時点で蜘蛛の狡猾さに気付いていたのはリーダーのみ。

 

 そして、知的な存在であると理解すればこそ。

 

 彼は自分達が試されている事を悟り、迅速にパーティーを率いて昇降機で上へと戻っていく。

 

 それを見送った先行偵察部隊の蜘蛛は自分の部下達を引き連れて、彼らの使っていた昇降機を呪紋と糸で侵食して解析。

 

「(一一)(仮じょーしの部下のひとー、解析完了で此処のよーさいの扉全部開いたよーと合図する電子技術に詳しい蜘蛛の顔)」

 

「(/・ω・)/(良し!! この施設のぜんたいぞーと内包される種族、資源、機構、文化の情報収集解析を開始する!! うちゅーおひっこし作戦(仮)をかいしーとさっきの律儀な慇懃無礼音声とは無縁なちゃらんぽらんさで指示出しする部隊長の顔)」

 

 彼らは扉を開けて、その長大な縦穴に侵入し、この広大な迷宮界を迅速に調査する為、上空へと縦列しながら飛翔していくのだった。

 

―――1日後。

 

『馬鹿な馬鹿な馬鹿な!? こ、こんなものが今度はやって来ただと!? しかも、あの邪神蟲共よりも脅威となる存在? は、ははは、クソゥ!? 神はいないのか!?』

 

「静粛に静粛に!! とにかく時間が無い。オーダーズ全体の議題として緊急での会議となるのはこの情報からして仕方ないだろう。まずは本問題は後8時間以内に決定を下さねばならない。諸々の準備の事もある。とにかく、各ギルド・マスターからの意見と現場の冒険者諸君の代表たるSSSランク・パーティー7組による意見を聞こう。各団体代表者は悪いが後に回させてくれ」

 

 迷宮界の中心域。

 

 最下層と最上層の中間地点にある階層に設けられた大規模要塞。

 

 嘗て、世界の破壊者との最前線ともなった場所は今や迷宮界最大の区画として商業工業の発信地にして集積地として巨大な街区となっている。

 

 その中央の政庁にあるオーダーズ・ギルド本部は迷宮界の全勢力が参列する議場を有し、現在は喧々諤々とあちこちで議論が交わされていた。

 

 議場の中央では司会役である議長横のギルド職員が最下層から持たされた情報を逐一解説して、各集団の長達に状況を丁寧に伝えていく最中であった。

 

「え~~ご存じの通り。我らの文明は今や後退し続けており、現在の戦力では嘗て凌いだ第七次までの戦力すら凌げない事は確実な情勢となっております。我らの文明の技術的な最高到達点において信じられた定理とは「物理法則は時空に対して普遍性を持つ」であり、それ以上の旧き者達が用いていた「法則性は特定の物理量と物質によって介入が可能である限り、時空には可変性が生じうる」というところまで到達しておりません」

 

 会場がゆっくりと静まり返っていく。

 

「つまり、我々の文明は言ってしまえば、過渡期を迎えられませんでした。それを一部実戦出来るところまで現行の兵器体系は来ておりますが、魔力が有限から無限を生み出せず。有限から有限の物理量を精製する際にも極めてロスが大きい」

 

 その説明に多くの長命種の長達は押し黙り、短命種の者達は「何言ってんだこいつ」みたいな顔で自分達はまだヒヨコでしかないと言われている事を頭では理解していながらもピンとは来ていないようであった。

 

「魔力炉は今や殆どが遺失技術化しており、何とか維持と原理が分かる人員を確保はしておりますが、文明の知的水準は継続して低下しており、2000年前の約半分。識字率に至っては惑星上の大陸においては9割に届かない有様です」

 

 長命種の中でもエルフに次いで寿命が永いと言われる巨人族の司会が僅かに溜息を吐いた。

 

「ですが、今回の調査隊が持って帰って来た情報を各部署の精鋭と引退した方々に解析を共同依頼してみたところ……彼ら蜘蛛の氏族と名乗った蟲型知性体の技術水準は旧き者達とほぼ同水準である事が確実と判明しました」

 

 短命種の多くがざわつき始める。

 

「一体どういう事だ!? 旧き者達と同等だと!? あの破壊者に似ている蟲共がか!?」

 

「静粛に!! 発言は許可時以外行わないように……また、不用意な言動は慎むよう求めます。今後の交渉相手に対する暴言は全ての種族を危険に晒す行為であると心得て頂きたい」

 

 議長の言葉に沈黙が戻る。

 

「続けます。まず、調査隊の持ち帰って来た映像から推定したところ、あの蜘蛛の氏族1個体が内包する魔力量が我らでは計測出来ない事が分かりました」

 

「は?」

 

「情報の殆どを解析し直しましたが、1個体が持つ魔力量だけで破壊者の少なくとも100倍以上であるとの判断しか出来ませんでした」

 

「あ、有り得ん……」

 

「更に蜘蛛の氏族軍と名乗る者達の各種の技術的な面に関してはこちらを」

 

 彼らが蜘蛛達が持ち込んでいた探検セットの内容を見て、何処かホッとした様子になる。

 

 それは彼らも知るようなレベルの技術が使われた製品ばかりだったからだ。

 

「今、内心でホッとされた方には非常に悪いのですが、彼らが我らとほぼ同水準……もしかしたら、それよりも原始的な装備を使っている理由だけで殆どの知者達の意見は一致しました」

 

「一体、何だと言うんだ……」

 

「つまりです。彼らが技術的に我らと近しい装備を使っているのは単純な話、必要無くても慣習的に使っているだけだろうとの事です」

 

 さすがに意味が分からないという顔になる者が多数。

 

「彼らの身体情報なども推測も含めて、様々出来る限り短時間で検証したのですが、あまりにも我々とは掛け離れた性能をしており、彼らのあの場所での装備というのは恐らくファッションの類ではないかと各部門の長から結論が出されました」

 

「ファ、ファッション?」

 

「例えば、水を飲む必要無いのに水筒を持っていたり、瞳を護る必要が無いのにゴーグルを掛けていたり、食べる必要が無いのに肉を食べていたり……これらは社会的なコミュニケーションや娯楽の類だと言う事です」

 

「ご、娯楽……」

 

「また、彼らが兵器類を一切持っていなかった事も極めて重要であると思われ、彼らはあくまで調査隊であり、本隊ではない為に戦闘用の兵器は持っていなかった。極めて邪推するなら我らにとっては恐ろしい敵であった世界の破壊者、邪神蟲は“強敵とすら認識されていない害虫”として駆除されていたのではないかと」

 

 これにはさすがに多くの種族の長達が物凄く何かを言いたそうにしたが、喉の奥にゴクリと言葉を呑み込むしかなかった。

 

「結論だけ申し上げますと。全ての解析班と知者達の総意として敵に回す事は絶対に避けるべきであり、機嫌を損ねるのも滅びる覚悟が無いのならば、止めておけと」

 

 もはや、ズタボロな自尊心。

 

 彼らは自分達を滅ぼす敵があっさり駆逐されている状況を参考映像に見ながら、乾いた笑いすら出なくなっていた。

 

「だ、だが!! 連中はスキルどころか。ステータスすらも確認出来てないと言うではないか!!?」

 

「だから、発言は―――いや、もういい。獣人族バウラ代表発言を許可します」

 

「我々の技術体系において旧き者達から与えられた特権であるスキル及びステータスの閲覧は2000年前ですら解明が殆ど出来ておりませんでした。何処かにスキルを管理するシステムがあるのか。あるいは単純に世界の法則に旧き者達が刻んでいた摂理の類なのかすら分かっておりません。ですが……」

 

 新しい蜘蛛に対する情報が彼らの前でお出しされる。

 

「―――」

 

 彼らの息が止まった。

 

「調査隊の中に新式のステータスやスキルを持たない存在に対しての数値化を行う新式の魔導を常在させていた者がおりまして、その者から得た情報を更に精密解析し、映像に載せたものがこちらになります」

 

「な、何かの間違い……では?」

 

 何とかそうケモミミのおっさんが呟く。

 

「残念ですが、これらはあくまで正確な数字は出ておりません。近似値もしくは我らの観測限界だと思って下さい。これは我らが表せる限界であり、実体としてはもっと上であるかと」

 

「馬鹿にするな!? 魔力総量が3兆って何だ!!?」

 

 思わず叫ぶ者が出た。

 

「ですから、これが表現出来る限界であり、観測情報から解析出来る限界でした。殆どの蜘蛛達の数値が一般的人型知性体数億人分程度であるのは“単なる事実”です」

 

「数億って何だ!? 常人の数億倍の膂力があると言うのか!!? 馬鹿にしているのか?!!」

 

「いえ、これは常在魔力での筋力の強化が行われている状態での数値と同じ計算方式を採用しています。実際には数億倍の膂力を持っているわけではありません。ですが、魔力を使い出した場合、数億倍の膂力が可能であるという事であり、素のステータスそのものを観測出来なかった為、総合での最大膂力の平均で出しています。要は我々が使っている一般軍用の殆どの防御方法が脚先一つで本気になれば吹き飛ぶ、という事と御理解下さい。蒸発で済めば御の字……本気で殴られた場合、区画そのものが消えてしまう可能性が高いかと」

 

「こ、こっちは耐久値だけで数兆……魔力量込みでこの力か……」

 

「更に彼らはステータスがほぼ一緒になる程度には練度も殆どの能力も高水準で纏まっていると見られ、最も弱い個体を探しても脚力が他者より2%低い程度でした。これらが指し示す通り、現行のどんな戦力でも一個体相手に全滅です。SSSランクパーティーを総動員すれば、2、3体とは良い勝負になるでしょうが……それ以上となれば、我らには戦うという選択肢すら烏滸がましい話という事になります」

 

「世界の破壊者よりも更に強い存在がいるというのか。旧き者の遺構は厄介しか連れて来ない……別世界からの勇者召喚で対抗は可能なのか?」

 

「不可能です。嘗て召喚した殆どの勇者のステータスは我らとほぼ同等で平均が高くても30倍程度までが限界。スキルにおいては特異な力を発揮する者もおりましたし、文明を飛躍的に発展させた者もおりました。世界すら破壊出来る者もいた。しかし、単純な基礎能力比較だけで、この有様な以上、軍事力目的で召喚するのはお勧めしません。これは解析班からの総意との話です」

 

「そう言えば、連中はスキルを持っていない、のか?」

 

「スキル欄は敢えて載せておりませんが、ステータス欄がおかしな文字で表記されており、この短時間では解読出来ませんでした。ただ、個体毎に何かしらの差異が存在していると見られていますが、基本的な能力だけで我々の殆どの兵器は陳腐な玩具でしょう」

 

「つまり、敵対は論外、か」

 

「……敵対行動を試したい数値ではありませんね。彼らが知性を感じさせる交渉を持ち掛けて来るだけで有情でしょう。彼らにしてみれば、我々は自分達より遥かに劣る喋れるだけの知的生命でしかありません。自分と話せる小型動物相手に我らギルドの所属種族の多くがどういう対応をしてきたか。お忘れではないですよね? 今度は我らがその側になったという事です」

 

「う……」

 

「自分達と同形の邪神蟲を躊躇なく鏖殺出来るのです。こちらをそう出来ない理由も無いでしょう」

 

「うぅ……」

 

「また、彼らが不用意に広げていた様々なアーティファクト。旧き者達の遺産や情報の類ですが、今まで予言されていた最下層域に眠る旧き者達の遺構最深部の発掘物である事が確実であり、技術部及び解析班総員から何としても交渉で手に入れて欲しいとの話が来ています。もし、それが可能であれば、我々は再び2000年前の黄金時代の技術を再開発出来るかもしれないと」

 

 議事堂に大きく沈黙が下りる。

 

「何としても平和裏の交渉を成立させて頂きたいと各方面分野の長達よりの入念なお願いが書状で皆さまには届いております。どの道、最下層が噂通りに破壊者の巣になっていたせいで我らも滅びる一歩手前だったのは間違いありません。彼らに彼らの思惑があったとしても、まずはお礼を。そして、優秀な交渉人を出すべきだと」

 

 議事堂内部ではこれらの総合談話が書面でも定時され、バラバラな種族達が数十種族……すぐに交渉団の人員選出へと入っていく。

 

『( ^ω^ )(……これは平和に此処を使わせて貰えそう。あ、罪人とか貧困層の扱いとか確認しないと。どーほーも補充して労働力確保も一緒にしないと……と、各地域に浸透してる諜報系蜘蛛の顔)』

 

 こうして蜘蛛達はイソイソと新しく到達した世界でも諜報活動を始めて、自分達に有利な交渉を行うべく。

 

 文化文明の情報の解析を始めるのだった。

 

 *

 

「(`・ω・)お、これはカッコイイ・ゴーレムだなー」

 

 とある帝国銀河団未所属の銀河にて殆どの勢力の中枢を侵食完了させ、戦場でいきなり漁夫の利して技術や文明を仕入れた“新しい蜘蛛”は元自分が旅立とうとしていた遺跡から直通で開いた時空のねじれを抜けてやって来た場所。

 

 旧き者達の遺構。

 

 迷宮界最深層中枢区画にて武器庫や諸々の遺産が置かれた場所を歩いていた。

 

 調査隊は各地域に散って隅から隅まで世界の破壊者とか言う自分達のパチモンを殲滅して回っており、残る者達の殆どは陣地と黒蜘蛛の巣の構築、迷宮界の上層階へと探索の手を広げている。

 

 なので、一番強い個体であり、喋れる彼はイソイソと最深部で発掘作業中であった。

 

 吹き抜けの通路の周囲には大量のゴーレムが鎮座しており、蜘蛛達が知っているノクロシア製ゴーレムのバージョン違いみたいな微妙な差異が存在する機影がズラリと並んでいて、いつ動き出してもおかしくないような状態で保管されていた。

 

 更にその周囲には人型サイズの人員が使う武器としてノクロシアと殆ど同じ武器庫が無数に存在。

 

 これならノクロシアンを増やせそうと糸で武器の保管庫に詰まれた箱を陣地にクレーンのように吊り上げて延々と運び出し、陣地の蜘蛛達が武器を丸呑みしてノクロシアンとして覚醒し、更に能力を上げていた。

 

「(^ω^)これ……」

 

 彼が最深部探検して数時間。

 

 空間制御で見かけ上よりもかなり広い場所の奥の奥。

 

 半開きの扉があったので内部に侵入した彼が見つけたのは旧き者っぽい人材が入っていると思われるカプセル群だった。

 

「(`・ω・´)旧き者の現物、はじめてみつけたんじゃね?」

 

 蜘蛛がイソイソとカプセルに近付いて内部を確認する。

 

 霜の付いた半透明な液体が入ったガラスでは無さそうなソレの表面をキュコキュコと脚で拭うと内部が露わとなる。

 

「(´ρ`)しんでーら」

 

 ガッカリな蜘蛛である。

 

 内部に入っていたのは明らかに死体であった。

 

 というのも内部の人員の生命活動が停止しているだけのみならず。

 

 損傷が酷かったからだ。

 

 他のカプセルも確認してみるも殆どの人らしい死体が同様に損傷しており、生きている者はおらず。

 

 魂がある様子も無く。

 

 物理的に再生させても恐らくは過去の人物の記憶が多少復元される赤ちゃん状態の大人が産まれるだけだろうと蜘蛛にも分かった。

 

「(´-ω-`)人間ベースというより、これが“人間”の始祖なんだろーなー」

 

 旧き者達の死体が入ったカプセルが蜘蛛の入室と同時にぼんやり光り出して室内の長大な上下3000列の棚が30km程奥まで続くという光景を映し出す。

 

 一本道の奥の奥。

 

 一脚で到達した蜘蛛が見つけたのは壁に置かれた巨大なカプセル。

 

「(。|ω|)きょじーん?」

 

 カプセルを再びキュコキュコした蜘蛛が確認すると内部には人間というよりは神の死体のようにも見える何かが入っていた。

 

「(◎_◎)じ~~~? 島の巨人族に似てる? 島の巨人族は呪紋で単為発生でも自己再現時のエラーで個体の遺伝多様性を保ってたはず……単為生殖じゃないのはあの巨人の御姫様だけ特別仕様とか情報があったような?」

 

 蜘蛛が自分の糸を呪紋でカプセル内部に透過させ、内部の巨人の遺伝特製を調べた時だった。

 

 パキッという音と共にカプセルが一瞬で圧壊しそうになった時、ズオッと蜘蛛の背後にバックリと開いた空間の歪みから白金の機影が迫り出して、物凄くストライクゾーンど真ん中……ほぼ直角に巨人の腹にジャストミート……つまり、ほぼ同じ大きさの何かがカプセルに頭から突っ込んだ。

 

 その衝撃で全てのカプセルが割れる寸前に蜘蛛によるカプセル保全が行われて、糸でカプセルがギュギュッと覆われる。

 

 ただし、巨大カプセルはさすがに救えず。

 

 しかし、突っ込んだ何かが動き出す前にギュムッと巨人の肉に包まれるようにして飲み込まれていく。

 

 一瞬後―――迷宮界の根幹となる構造の中心部で発生した衝撃波によって、迷宮界が震度7の激震に襲われた。

 

「(^ω^)あ、これ無理なヤ―――」

 

 蜘蛛が言い終わる前に衝撃波という名の空間の歪みが発生し、波紋のように世界を歪ませながら宇宙へと広がっていった。

 

 歪んだ構造物は繋がりを破砕される程でも無かったらしく。

 

 しかし、明らかにダメージを受けた様子で内部のあちこちで火花が散っており、蜘蛛が圧壊しそうなカプセル群を急いで空間転移で自分に付随する空間に隔離退避させて沈めつつ、スタコラサッサと逃げ出した。

 

 最深部が自重で圧壊し始めるのは数秒後。

 

 大量のカプセルを空間毎切り取って内部に圧縮回収しながら完全崩壊する前に扉の先に彼が一抜けでゴール。

 

 部屋を出た途端、部屋内部がぺしゃんこに圧縮され、内部は巨大な真球状の空間へと早変わりてていた。

 

 その空間の歪みや圧壊の最中にも巨人のカプセルが在った場所では巨大な肉の塊が形成され、突っ込んで来た何かを取り込んで膨れ上がり、空間の中央に転移すると圧縮された金属塊までも取り込んでから収縮、ブワッと花開いた。

 

 臙脂色の肉の華は禍々しいとすら言えるかもしれない。

 

 何故なら、花びらには無数の人の顔と血管が張り付いていた。

 

 しかし、ソレが肉の内部に沈み込むとギュギュッと中央の芯の部分へと取り込まれ、虚空に人型の形を取っていく。

 

 問題なのはそれが明らかに人型であり、その上で女性らしい肢体を形成し始めた事にあるだろう。

 

「(/一一)なんかできたー?」

 

 蜘蛛が首を傾げる合間にも人型の頭部からブワリと白金色の髪の毛らしきものが百数十m程も広がる。

 

 突っ込んで来た何かが40m以上、巨人も60m近くあったものが18m程まで縮小していた……その余分の質量は何処に行ったものか。

 

 蜘蛛の前で髪の毛の下から白眉……明らかに絶世と呼んで良いだろう顔が現れ、女性というよりは少女と言うべきだろう潜めく肢体の腹部に人が入れそうな程度のクリスタルっぽいものが浮かび上がり、更には肌色をした表面に装甲らしきものが続いて表出してきて、まるで鎧のように装着されていく。

 

「(^◇^)………あれ?」

 

 蜘蛛が首を傾げている間にも関節には黒いタイツのようにも見えるインナーっぽい被膜が張られ、白金というよりもプラチナルに見える装甲の右腕から頬までに亀裂のような漆黒の幾何学模様が奔った。

 

 最後に全身装甲とは裏腹にすらりとした体付きの関節部や頭部、背後を護るように複数の装甲片のようなものが周囲に滲むよう浮かび上がり、連動して虚空に固定化された。

 

「………ん?」

 

 ソレの瞳が開かれる。

 

 邪眼と呼ぶべきだろうか。

 

 左右と額に縦に割れた亀裂から迫り出した瞳で三つの目が……白金色のソレが蜘蛛を見やる。

 

「我は滅びたはず……知覚が殆ど宇宙内部に限定されておる、だと?」

 

 喋り出したソレの前に蜘蛛がイソイソとやってくる。

 

「(`・ω・´)……あの~どちらさま~?」

 

「ヤツは何処だ。羽虫」

 

「(T_T)(あ、これ完全にいれぎゅらーだわ。やべーわと事態を察して、ちょっと真顔になる蜘蛛の顔)」

 

「答えぬか!! ヤツは―――」

 

「( ^ω^ )?」

 

「―――わ、我の愛するご主人様は何処にいるのだぁあああ!!!?」

 

「(゜~゜)―――???!!!」

 

 思わず蜘蛛も絶句して、相手を凝視する。

 

「はっ!? 我は何を!? く、あ、あや、あや、や、我のご主人様ぁ~~さっさとご主人様のとこへ連れて行くのじゃぁ~~!!! はっ!? 我は一体どうなっ―――ご主人様がいないと寂しいのじゃぁ~~へにゃぁ~~~」

 

 何やらイヤイヤと腕を振り回して泣き出し、それに真顔で我に返ったかと思うと再びご主人様と泣き出す駄々っ子に蜘蛛が首を650度くらい回転させて、不可解という顔になった後。

 

『\(゜ロ\)(/ロ゜)/(仮じょーしのひとーだいじょーぶかーと雪崩れ込んで来る調査隊の顔)』

 

 仮の部下達が慌ててやって来て、彼と同じく首を数百度回転させて傾げまくり、ご主人様~と泣き出す巨人っ子というよりは巨大人型兵器っ子の様子に茫然とし、最終的にはその世界の事は調査隊に任せて一次島に帰還する事となった。

 

 それは少年が説明を終え、説教を受けた翌日の昼下がりの事。

 

 今世紀最大に少年の顔が何とも言い難いものとなったのである。

 

 *

 

 そろそろ宇宙の枠まで食み出し始めた蜘蛛達がイソイソと最終決戦計画を遂行している最中。

 

 殆どの蜘蛛のいる地域ではこの世の地獄の意味が変質するという事態が進みつつあった。

 

「こ、此処は……この世の地獄だぜ……へ、へへ……」

 

 世の中には地獄がゴロゴロと道端にある石ころ並みに転がっている……という事実は貧困と戦争と飢餓という三大要因が宇宙内部で大抵根絶されないという現実によって担保されている。

 

 例えば、最低の貧困国家では国民の7割が軽犯罪を犯しており、犯罪や非合法に栽培、育てたり出来る商品動物や商品作物の売買で食っていたり、堕落と退廃の限りを尽くす金持ちに限界無く資本を吸い上げられていたり、自分から体を売る子供が後を絶たず、同時に客を幼い時からギャングさながらに殺して金品まで奪うのも普通である、という場所も多い。

 

 勿論、大人を食い物にする子供の数百倍は子供を食い物にする大人もいる。

 

 ついでに識字率が1割を切ってたり、低年齢出産を強制されたり、被差別階級のせいで奴隷さながらに生活していたり、そもそも奴隷だったり、あらゆる面で非合法職にしか付けないせいで食うや食わずの殆どの者達は娯楽に麻薬を使いまくり、早死にが常態化。

 

「う、うぅ、き、効かねぇ。う、嘘だ!? この薬も効かねぇ!? こんな粗悪品渡しやがってぇえええええええ!!?」

 

「どうなってんだよ!? 本物のはずだろ!? コレは!? この薬は組織からの直通なんだぞ!? 馬鹿をカモってるならまだしもオレらにそんな事をする理由なんぞ無いはずだ!?」

 

「薬、薬が無きゃオレは、オレは……オレ、……は?」

 

「ど、どうした!?」

 

「いや、何だか薬やってねぇ時間がもう滅茶苦茶超過してるはずんだが、あの感覚が来ねぇ……薬も効かねぇし、病院行く金もねぇ……どうしよう……」

 

「どうするっておめぇ……あの状態にならないだけ儲けもんだろーがよ」

 

「う、うん。そう、だな……」

 

 健康寿命を鼻で笑える平均寿命。

 

 短命種族ならば、貧困層は40歳も生きられない。

 

 その上に上流階級からの差別、更に互いへの差別、階級間闘争に民族闘争、主義主張による思想闘争に宗教による互いの民族や異教徒の浄化。

 

 これに宗教過激派によるカルト信仰や貧困で低学歴な人々を動員したテロ行為にテロリスト養成、拉致誘拐と更にその相手を洗脳しての同業種への斡旋、子供ならば性奴隷として人身売買。

 

 無論、要らない子供を買い取り、奴隷化するどころか。

 

 使えない子供は死体にして臓器売買のネタにするという具合である。

 

「ガ、ガキがいねぇ? モツも抜かずに誰か楽しんでるのか? ん? だ―――」

 

「おーい。薬が届いたぜ~一緒にやらな―――」

 

「ガキ何処だよぉ。バラして愉しむのにひ―――」

 

「(^ω^)(う~ん。麻薬漬け人類の中でも底辺なクズ……これは肥料にする甲斐がある層だなぁ……というか、同業者を2日で400件潰してまだまだいるとか。この星、蜘蛛の楽園に出来そうとイソイソと子供を食い物にするクズを真菌にブチ込んで溶かす蜘蛛の顔)」

 

 悪徳の限りを尽くせる星は帝国銀河団の何処でも存在する。

 

 最貧のスラム系惑星ならば、普通の日常だ。

 

 強盗、恐喝、詐欺なんてのはまだ生温く。

 

 悪徳警官、悪徳裁判官、悪徳弁護士なんて序の口であり、悪徳政治家はデフォという社会における悪徳業者は減らず。

 

 それに負けじと悪徳な人々が業者を逆に食い物にもする。

 

 ホームレス、薬物中毒者、重度精神疾患の患者、これが混然一体となって作り出す街は悪臭漂う地獄の一丁目一番地であり、道端に死んだ嬰児が転がっているかと思えば、死体だって毎日量産され、それもすぐに死体漁りのゴミ拾い達が金にする為に買い取り施設へと運んでいく。

 

「な~な~~何かここ数日、殆ど死体落ちてねぇんだけど、どーなってんだ?」

 

「殺して持ってくのはすげーリスク高けーしなぁ……」

 

「あ、そう言えば、蜘蛛サンが道端の死体なら他より高く買ってくれるって言ってたよ!! それと蜘蛛の星で今、子供を蜘蛛派閥にしてよーいく?する計画してるんだって!! あっちに行ったらご飯お腹一杯食べられるって言ってた!!」

 

「幾らあの帝国銀河団の上層部ぶっ潰した連中でもそんな無駄な事するか?」

 

「いや、何か動画サイトで今、貧困系の子供を募集中。今なら特典付きで部屋も貰えるとかやってたぜ? ほら」

 

「……おいおい。マジかよ。あの蟲共、オレらを奴隷にしたいんじゃないか?」

 

「え~~? でも、蜘蛛さんスゴイ親切だよ? 二日前に死にそうだった友達にお薬くれたし」

 

「それってヤクのリダツ・ショウジョウだろ? 新しいヤクのブローカーになったのか? あの蟲共」

 

「ん~~分かんない。けど、蜘蛛さんの薬を飲んだ子ね。お腹の子が心配だから、蜘蛛さん頼るって言ってた。あ、メール来てる。ほら、見て見て」

 

「「どれどれ……」」

 

『あ、イヤぴーげんきー(^^) ウチは元気だよー。あのねあのね。ウチ、生きてて良かったかも。あのね。ココで今おかーさんになるべんきょーしてるんだ~。クモ=サンがおべんきょー教えてくれてて、他にもココのしょくじすっごくおいしーの♪ 殴って来るお客とか取らなくていいし、ウチと同じような子もいて、今はみんなでおべんきょーしてるんだー♪ オトコノコもいるんだよ。そっちの方は強く成れるようにセントークンレンとかしてるの。カッコイイんだよ~。またメールするね、じゃ、ばいばーい♪』

 

「「「………」」」

 

「あの蟲共のとこ……ちょっと覗いてみるか?」

 

「それがいいかも……」

 

「ほーら、言った通りでしょ~~それにしても美味しそうなの食べてたなぁ……アレ合成肉なのかなぁ?」

 

 家族の別名は性加害者か売春のブローカーか子供を売り飛ばすクズ。

 

 子供の別名は虐めで弱者を殺して隠蔽するクソガキ。

 

 大人の別名は犯罪者。

 

 恋人の別名は結婚詐欺師か理財商品のお勧め係やヒモ。

 

 旦那の別名は金だけ出せよ早漏野郎。

 

 妻の別名は浮気しかしない家庭なんぞ知るかのクソビッチ。

 

 教師の別名はド変態ロリショタ好き野郎。

 

 隣人の別名はストーカー気質の騒音馬鹿。

 

 そんな時代に多くの者が生きているのだ。

 

 これこそみんなで悪ければお相子な釣り合いの取れた社会である。

 

 みんな被害者で加害者ならば、究極的には全員が敗北者で弱者で犯罪者として平等に相手を害する事が出来る。

 

 そんな構図なのだ。

 

 が、無論そんな風に強く生きられない弱者は蹂躙されるばかりである。

 

 そんな何処にでもある地獄において被害者であり加害者な人々は近頃……本当に近頃……世界がガラッと変わった事を認識せずにはいられなかった。

 

「( ^ω^ )(~~~♪)」

 

「く、クモ=サンだと!? に、逃げろ!? 此処はヤバ―――」

 

「ひ、ひぎぃいいいいいいい―――」

 

「(一一)(キ・シャーと産声を上げて、人をひき殺す事に快感を覚える仲間だった相手をさっそく蜘蛛脚でどーほーとして取り込んでみる生まれたて蜘蛛の顔)」

 

「(/・ω・)/(峠最速は蜘蛛が頂いたんだよなーと自分の脚で超速ドリフトして世界最速を気取ってタンシャに乗るシャバゾー共を抜き去りながら、幻影呪紋で蜘蛛化しつつ、そのまま一緒に元自分が浚って来た少女達の監禁場所まで向かうクモン・ライダーとなった蜘蛛の顔)」

 

「(´~ω~)(う~ん。浚われた子達も半数は蜘蛛化かな~~女子高の虐めって陰湿なのねと所属階級違いの下位層出のクラスメイトを多数自殺に追い込んだ少女達のクズ度を測る蜘蛛の顔)」

 

「(・∀・)(ま、大人にもクズしかいないけど、救えるクズと救わなくてよいクズの線引きはちゃんとあるからね。まだ地獄の業火で焼かれて絶望しながら懺悔出来そうな、“救えそうなクズ”がいるだけマシでしょと近隣の蜘蛛によってマーキングされた蜘蛛化待ったなし層を第三神眼で透視している蜘蛛の顔)」

 

 蜘蛛達の線引きでも救えないクズと救えるクズがいる。

 

 そして、救えるクズとはまだ良心が残っている存在と彼らが見なした者である。

 

 例えば、今まで偽装食品企業を相手に詐欺をしていて、自分の子供に将来生き抜く為の方法として売春を強要し変態好事家から金を巻き上げ、最後には大病を患った子を臓器ブローカーに売り飛ばした金で買った麻薬でラリって大泣きし、性病を大量のクズ男に媒介させて、地域で死傷者を増やしまくり、一番好きな男から暴力を振るわれながらも離れられないAさんという存在がいたとする。

 

「あの子はもう永くなかった……あのブローカーのとこなら、死ぬまでは美味しいものくらい食べられる……これで……良かったのよ……う、ぅ……ぅぅ……」

 

 彼女の日常は蜘蛛が来てからはこうだ。

 

 詐欺っていた会社から滅茶苦茶美味しい食料が死ぬ程届きまくり、売ろうとしても何処の家庭にも届いているせいで売れず。

 

「やっぱり美味しい……でも、売れないなら……食事が出来るだけマシか……」

 

 売り飛ばしていた子供が治療費も払えず死んでから臓器を抜かれたかと通知を開いてみたら、蜘蛛のおじさんに助けて貰えて今は幸せに暮らしています売ってくれてありがとうというお礼の手紙が届き。

 

「え……あの子、生きて……嘘、あの蟲共に助けられて……?」

 

 自分が性病を移してやった男どもが死ぬどころか元気に働き出して自分の元に足繁く通ってきて結婚を迫られ。

 

「け、結婚してくれないか!?」

 

「ご、ごめんなさい。まだ、そういうのは……」

 

「そ、そうか……また、来てもいいかな?」

 

「え、ええ……」

 

 一番好きな男が死んだ魚の目になって無言で消えて。

 

「あの人がいない!? 何処!? 何処に行ったのよ!!? まさか、捨てられたの? あたし……あの人、私がいなきゃダメって言ってたのに……そんな……ど、どうして……どうして、あたしの人生上手くいかないのよ!? うぅぅぅぅぅ……」

 

 何か知らない間に治安が良さそうな地域に移住出来ると政府から通知が来て、アパートに入る事が出来た上に御水商売の仕事が増えたおかげでまともに食えるようになって肌艶が良くなり。

 

「お疲れ様でーす。(ちっ、あのババアまだ死んでないのかよ。クソが)。今日も言い寄られてましたね~~太客がいる人羨ましいな~~あはは~~」

 

「え、えぇ、あの人達も結構良いところの人だから……」

 

「そーなんだ~~♪(ったくよぉ。子供産んでるアバズレの癖に何ちょーしこいてんだ。このクソババア……はぁ~~早く、ウチの彼君に会わないと♪ この気持ちでコイツぶっ殺したくなりそう♪)」

 

「それじゃ、今日は上がるわ……」

 

「お疲れさま~~あ、新しい薬入ったってテンチョー言ってましたよ~~」

 

「あ、もういいの。それは……あの薬もう効かなくなっちゃったから」

 

「え?」

 

「じゃ、行くわ……少し用事があるのよ」

 

 今まで欲しかったはずの麻薬が全く効かなくなったせいで薬を止めて、今日も客商売を終えて帰宅……安定した生活になったせいで気に為り始めた売った子供の事をブローカーに尋ねる、とか。

 

「(^◇^)U(う~~ん。うちゅーちょろいトコとお茶を呑みつつ悪徳に塗れた原罪系惑星の住人達の日常を自分達の地獄に塗り替え始めた蜘蛛の顔)」

 

 殆どの政治家が些事を投げたはずの場所で匙を拾った蜘蛛は極めて人々に分かり難いように惑星全体の精神と文明と経済への侵略を開始していた。

 

 勿論、彼らは知的生命を篭絡しているのであって、侵略というのは言葉が悪いが、中身は違っても結果は同じである。

 

 まず完璧にやり遂げるべきは子供と大人の分離。

 

 悪徳塗れの大人達から子供を切り離し、同時に見習わせる相手を自分達に切り替えさせる。

 

 ついでに大人は大人で言っても聞かないし、見せても聞かないし、やっても無駄なので単純な相手の利益関連や状況の偏向誘導を用いて、自分達の理想の状態に近づけるという手法が用いられた。

 

「(|ω|)(ま、クズ中のクズが足切りで蜘蛛化されて消失してもまるで誰も気にしない社会とか。蜘蛛の絶好のどーほー増産惑星よね。子供を食い物にしていた人口90億中の12億が消えても政府がこっちが怖くて一切動かないとか。文明が悪いよ文明が……精神的腐敗と堕落した特性が消えるまでは一杯仲間が出来そうだと肩を竦める蜘蛛の顔)」

 

「(>_<)(麻薬カルテルをカイメツチュー!! その席は蜘蛛が頂いた!! と、麻薬王以下25万人程のカルテルメンバーを真菌の餌にして人身売買されてた被害者の中でも救わなくていいクズ以外は蜘蛛の支配地域へ転移で移送する摘発メンバーの顔)」

 

「(・∀・)(というか、道端に嬰児の死体が転がりまくってる上に病院でも死体が不法廃棄処分されてるからね。それを誰も気にしないし、墓なんて作るだけ無駄で死人の事は忘れるに限るって文化なのが悪いとさっそく死体回収する蜘蛛の顔)」

 

「(≧◇≦)(此処だけで蜘蛛が毎年400億はふえちゃーうと誰にも必要とされない水子が産婦人科の下水から大量にやってくるのを回収し、知性体ってオロカダナーと蜘蛛化してどーほーを増やしてる蜘蛛の顔)」

 

「(*´▽`*)(下水処理施設を改築して待ってれば、殺すまでもなく死体が毎日流れて来るからね。ついでに薬物塗れの廃棄物に嬰児も流れて来て、真菌とどーほー増産の流れはベルトコンベアー並みに効率良いよねと下水処理施設を制圧し、真菌の養殖場にしてる蜘蛛の顔)」

 

「(≧口≦)(大変遺憾である!! 子供は未来の宝なのに殺して捨てちゃうなんてモッタイナイ!! あ、蜘蛛になったら、爆速愉快な蜘蛛生が始まるから、君達人類よりは色々な意味で幸せだよーと死体達に話し掛けて蜘蛛化し、そろそろ手狭になってきた地下の下水場から惑星篭絡用新規部隊を手を振って送り出す蜘蛛の顔)」

 

 人間はやるなと言われるとやりたくなる生物である。

 

 同時にやれと言われると途端にやりたくはなくなるという性質もある。

 

 これはつまり強要されるとどんな行動への動機も場合によっては働かなくなる事を意味する。

 

 簡単に言えば、犯罪が利益にならず、楽しめず、無駄な事であると自然と理解させれば、犯罪何てする必要が無くなるのである。

 

 蜘蛛達は人間心理に極めて詳しい。

 

 ついでに読心能力によってあらゆる悪意を見つけ出す為、人類の愚かさが煮詰まってる星でもまったく問題無く法の網を潜り、人々の悪意をゆっくりと圧し潰しながら自分達の利益や真っ当な人々、真っ当になれそうな人々の糧としていた。

 

「あちこちの連中と連絡が取れねぇ……政府が腐敗撲滅とか言い出したせいなのか? まさか、掴まった? だが、刑務所や拘置所にあの量の人員が入るわけ……」

 

「(>_<)/(こんにちわ。蜘蛛ですと人身売買だけはしてない闇ブローカーを訪ねた蜘蛛の顔)」

 

「ひ!? ま、まさか、まさか!? テ、テメェらの仕業か!? 蟲野郎!!?」

 

「(;´・ω・)(あれれ~~いーのかな~~と看板に表示する蜘蛛の顔)」

 

「な、何?」

 

「( ̄д ̄)/(君の荷物は全部こっちで押さえてあるんだよねーと端末からホログラムでブローカーの隠し倉庫から現在進行形の仕事の荷物まで纏めて映す蜘蛛の顔)」

 

「テメェら!? オレの荷に何しやがった!? どういう事だ!?」

 

「(;´|∀|)(君さ~~この星のクズの中で唯一まともな武器商人だったからさ~~と小さな契約書を男の前に出してみる蜘蛛の顔)」

 

「こ、こいつは……オレをテメェらの専属にするって言うのか?」

 

「(*´ω`)(ねぇ、ブローカー君。僕らと契約して光の闇ブローカーになってよ!! と、小動物っぽいカワイイ仕草で人道支援物資や諸々の社会福祉支援用物資の買い付けや諸々の手続きの代理人にならないかと持ち掛けて見るカワユイ蜘蛛の顔)」

 

「ッ?!! ク、クレイジー(ドン引き)……」

 

 資質的に犯罪向きや貧困向きである層であろうとも蜘蛛達の手腕に掛かれば、時間は掛かっても普通に犯罪とは無縁の生き方が出来るようになる。

 

 勿論、そういう社会構造を生み出すには社会そのものからの反発が半端なく出るだろうが、生憎と帝国銀河団は敗北した。

 

 これによって蜘蛛達の“制圧活動”は各星系、各銀河の統治者層から殆ど無条件に許される事が既に認められていて、殆どソレは統治される側には周知される事すらなく進行していたのである。

 

「(=_=)(社会による社会形成種族の自己淘汰、自己形成、自己家畜化……社会が血統に対しての淘汰圧力となるなら、それを制御してある程度の資質や能力を許容範囲に収まるよう調整するのは可能……と大都市圏をビルの屋上から見やる蜘蛛の顔)」

 

 多くの社会を形成する知的生命の多くは自己家畜化。

 

 社会に対する適応能力を特化させる事で生き残り易くなり、同時に己を従順な社会の奴隷として来た。

 

 大人しい犬を掛け合わせ続けるような事を数万年単位で社会性動物が社会的な要求や状況の結果として行い続けた結果は自己改良へと行き付き。

 

 現在の種族の平均的な数値として現れる。

 

 それは悪徳が蔓延る社会、文明ではその悪徳の強制力やインセンティブ、利益として働く動機が掛かり続ける状況ならば、それに特化した知性が生き残り、掛け合わされるという事に相違なく。

 

 故に資質がその方面に偏ると精神的な資質における良心や本来ならば、知性が持っているべき様々な精神的能力資質が不安定、不足する事となる。

 

「(*´▽`*)(はーい。皆さんおべんきょーの時間ですよ~~と笑顔を看板に貼り付けて子供達を全うに教育する教師系蜘蛛の顔)」

 

「せんせー。せんせーって何処しゃぶれば、点数上げてくれんのー?」

 

「そうそう。早く教えてよぉ~~あ、それとも男の方が良かったり~~きゃは♪」

 

「(・ω・)(う~ん。教師も大変だし、変態だなぁと悪ガキな女児達に真っ当な正論を教えつつ、男性との清く正しい交流方法を性教育してみる蜘蛛の顔)」

 

「せんせーおっくれてるぅwww そんなん今時誰もしないよぉ♪」

 

「(^ω^)(ま、いつか必要になるのさ。君達が好きになる誰かが真っ当な女性が良いと言い始めた時とかにね。玉の輿の為にもいつでも優雅に振舞えるよう君達を躾けようじゃまいかと貴族の所作まで教え込み始める蜘蛛の顔)」

 

 結果として、人心、倫理の崩壊が常態化した世界程に蜘蛛達は好き放題可能な状況になるというのが皮肉であった。

 

 ちゃんとしているところほどに蜘蛛達が反発を受けないように食い込む余地が少ないのであるから当然であり、だからこそ、人の世から悪が無くならない限り、蜘蛛達が入り込めない場所もまた存在しない。

 

 という事実こそが更なる皮肉だったかもしれない。

 

 今までは関わる人間を筆頭にした知性体の倫理観や道徳観を刺激しないように控えていた手練手管を使い出せる社会が大量に行く手には発生したわけである。

 

「へ、せんこーがよぉ。テメェらがあのクソ野郎共をぶっ飛ばしたからってオレらをどーこーできると思ってんじゃねぇぞ?」

 

「(・∀・)/→(はーい。一定年齢層からでも知性資質を底上げして頭悪い系不良を卒業しましょーねーと様々な後天的要因で減った脳細胞を再生しつつ、良心などを司る部位の脳活性を上げる薬をサクッと投与する蜘蛛の顔)」

 

「ひ!? 何だそのぶっとい注射は!!? ヤクか!? ヤクなのか!? オレ達をヤク漬けにして殺す気なのか!!?」

 

「(/・ω・)/(そんなことしないよぉ~~君達にはちゃんと真っ当な未来を創って貰わなきゃならないからねーと容赦なく尻に一番太い針で150mlくらいの薬液を注入するお医者系蜘蛛の顔)」

 

「ぎゃぁああああああああああ―――」

 

 今までは案外真っ当な文明が相手だった為に遠慮していた彼らである。

 

 自由にやれれば、更なる発展が見込めるのは明らかだろう。

 

 例えば、今までは死体を尊重する文明が殆どだったので彼らは死体を無暗に蜘蛛化したりはしなかった。

 

 が、死体がゴミとして捨てられ、事実上の倫理や道徳が崩壊している文明ならば、彼らがやっている事はその当事者達からしてみても新たな悪徳の一つに過ぎない。

 

 バレても大問題にならないのだ。

 

 ついでに堕胎が普通で誰にも文句を言われず横行する世界ならば、それこそ彼らを非難する者は後ろめたさに沈黙を守るだろう。

 

 彼らとて自分が生んだ子孫をゴミとして放置している事を何処か普通だとは思いつつも何となく悪い事をしているような気分はあったりする。

 

 そういうところを漬け込むのが蜘蛛達は異様に上手いのである。

 

「路上からまた死体が消えてる。い、いいことなんだろうけど、どこに行ったんだ? 警邏してても上は“何も見なかった事にしろ!!”の一点張りだし、同僚が何か大量に“異動”になったし、どうなってんだよ。これも皇帝が負けたから、なのか?」

 

「(;^ω^)(君以外の殆どの同僚が救わなくてもいいクズとして蜘蛛にされたからね。仕方ないねと元本人が元知性体の自分に偽装、仕事してる蜘蛛の顔)」

 

「なぁ、お前も何か聞いてないか?」

 

「(>_<)/(え~知らないなぁ~と同僚に昼食を奢りつつ、さっそく真面目な警官として蜘蛛化待ったなし層に突撃していく偽装警官蜘蛛の顔)」

 

「あ、ちょ!? お前どうする気だ!? 此処はバグダデッドのシマだぞ!? ぶっ殺されるぞ!? え!? 昨日壊滅したから、これからは悪人を取り締まり放題? ま、マジかよ? 端末で確認してみろって? あ、ああ……ホ、ホントだ。悪人共を捕まえたら、ボーナス支給? それに武装も殺傷系武装を全部使っていいって!? い、一体どうなってやがるんだ?」

 

 社会的な良心が一応ある場所でならば、蜘蛛達も同胞をそうして増やすのは控えるが、銀河団の惨状は思っていたよりも酷く。

 

 強力に文明そのものの制圧を推し進める為にも蜘蛛達はさっそく倫理や道徳の崩壊した世界をガリガリと自分達色に塗り替え、蜘蛛が安易に増える事が出来る星で部隊の増産を開始。

 

 その星で増えられないような状況になるまで“改善”を実施し始めた。

 

 それまでに人々が燃えないゴミの日に出した廃棄される尊厳と命の残渣は惑星を通常倫理と通常道徳を復帰させるまでのお代として彼らの取り分として運用される事となったのである。

 

「クモすきー。あのね~ジャジャ、おとなになったらクモのおよめさんになったげるねー。うれしー? クモー」

 

「(´・ω・`)(君が大きくなって結婚してからもう一度その話は聞こうかな。さ、お友達と遊んでおいでと幼児達を公園で遊ばせている保育系蜘蛛の顔)」

 

「おやまぁ、クモ=サンは子供達の面倒まで見てるのねぇ。私達と同じね。おじいちゃん」

 

「お~そうじゃな。娘よ……クモ=サンに拾われていなければ、今頃配管口で死んどっただろうなぁ~」

 

「(。-∀-)(おじーちゃん、おばーちゃん、貴方達普通に自宅あったでしょと自宅で父娘共々老々介護してたのを保護した福祉介護職系蜘蛛の顔)」

 

 蜘蛛達の社会福祉政策によって、ご老人になるまで生きられても死に目は悲惨そうな者達の大半が我に返って自分達の面倒を見始めた。

 

 蜘蛛の薬剤は寿命すら伸ばすが、寿命を延ばさなくても脳細胞を一定まで復活させる事でボケすら治すものが多い。

 

 これらの福祉政策は高齢化率が高い星々程に蜘蛛の評判を高める動力源となった。

 

 大抵の惑星ではそんな薬は高くて誰も買えない代物だったが、蜘蛛達の超格安という名で生産される超規模の物資の大半はコスト0で天界の蜘蛛達が規模拡大ついでに生産している代物である。

 

 出し惜しむ事も無く版図拡大の為に大規模に利用されていた。

 

 他にも蜘蛛は今まで堕胎されていた子供に完全に生きたままならば、大金を払って買い取るなんて事をし出したのも大きい。

 

 彼らが若い世代にこれを触れ回れば、今まで口減らしされていた赤子は親や施設での処分を免れ、殺されない子供は爆増。

 

 良い人身売買取引だとにんまりする層も増える。

 

 そういう死体じゃない子供は自分達の勢力に加えて手厚く養育しつつ、死体としてやってくる子供は秘密裏に蜘蛛化して数を増やして他の惑星へと派遣。

 

 ご老人の介護も実際には進出活動の一環であり、介護しつつも、その人々の記憶から様々な文化文明のエッセンス……個人が記憶するあらゆる情報を吸い上げ、アーカイヴ化して、現地の情報を集約、現地の制圧と統治に反映する。

 

「(一一")(このおじーちゃん。昔はスパイしてたのね。先進諸国の映画張りな活躍……右足をやられて50代で引退……それから子供達自立させて、子供達の日常を護ってあちこちを損傷して今は一般人以下とか。スゴイ経歴……)」

 

「おぉ、クモ=サンや。君らは本当に優れた技術を持っているんだな。だが、頭の中を覗くのはマナー違反だよ?」

 

「(・∀・)(全部、帝国銀河団上層部の話を知ってて、ボケたフリしてるとか。死ぬまでスパイな上に頭脳明晰……かなり欲しい人材という蜘蛛の顔)」

 

「……分かるよ。君達が地獄の使者な事くらい。これでもまだ生きてる友人には耳敏い者もいる……それで? この星を結局君達はどうするつもりなんだね?」

 

「(T_T)われわれは悪意を消し去り、悪徳を葬り、われわれのちちがまったり暮らせる世界にしたいだけなので」

 

「看板が喋るのか。面白いコミュニケーション方法だ。家族の為、か……うん。その規模以外は納得出来る。妥当な理由にもなり得るかもな」

 

「(・ω・)ノこの星が悲惨なのはこの星の住人のせいです。そして、それを止める事も無ければ、改善する余地も当人達には無い。時代が進み過ぎた星は一度壊滅する以外ではまともにやり直しも不可能でしょう。本来であれば」

 

「君達にならば、それを成す理由も力あると?」

 

「( 一一)人々が悪徳に依らず、愉しく暮らせる世界を提供しましょう。この星で一番冷静に我らを観察した貴方……もしも、貴方が我らの勢力に加わるのならば、この星での蜘蛛化まった無しの層に関する処遇を“地獄で改心するまで生かしておく”程度の悠長な政策に切り替える事は可能です。無論、貴方の孫世代も……」

 

「まったく、人の弱みまで精読済みか……いいだろう。この老人一人で良ければ、君達の手足となろう。この星の住人に寛大な処遇を頼むよ。クモ=くん」

 

 このようにして一見して単なる無駄な労力を掛けているように見える蜘蛛達は上手くその星、その文明を懐柔する為のマニュアルを作り上げ、徐々に心の底から文明を蜘蛛に依存させ、屈服させる為の手腕を磨いている最中であった。

 

 そういう仕組みが既に銀河団全体で構築されて、蜘蛛の数は遥か天文学的な数値へと到達していながら、更に毎日数百億、数千億単位で増え続けるという現状は正しく蜘蛛達のネットワークの超々規模拡大を可能とした。

 

 これは侵略外来生物的特性を持つ蜘蛛達の健全な一般的活動なわけだが、そんな事はおくびにも出さない彼らである。

 

「(。-∀-)(宇宙の果てまで行ってきまー!! と、超光速系の乗り物をざっくり全てデミ・ストレンジ・レッド製にして出発する大艦隊率いる大提督蜘蛛の顔)」

 

「(≧▽≦)(宇宙の果てが見つかったら、次は无の領域の研究開発だーと邪神達の研究を更に進めて、宇宙の真理に到達しようと意気込む研究系蜘蛛の顔)」

 

「(|◎_◎)(あの邪神の親玉の破片の一次解析成果だけでやたら転移距離や超長距離通信のコスト下がったから、かなり遠くまで行けそうと巨大な億光年単位のヴォイド……何も無い領域を遥かに超えて更に先へ向かう事にした理論派蜘蛛の顔)」

 

「(;・∀・)(おみやげは新しいタイプの邪神とかいいな~~蜘蛛化研究もかなり進んでるから、邪神の系譜を蜘蛛化するのは恐らく複数素体が在れば、可能になるはずとお土産をねだる科学者系蜘蛛の顔)」

 

 イソイソと増えた同胞と共に宇宙の各地、果ての果てへと向かって拡散を開始した彼らはネットワーク化された地獄門を用いて帝国銀河団がやっていたような版図拡大を爆速で進行させていた。

 

 接触出来る知性体という知性体、向かえる銀河という銀河に増え続ける人員が送られ続けていたのである。

 

「あ、あれを!! ひ、緋色の船!! 緋色の船です!!」

 

「これは、まさか異星人!? わ、我々以外にも宇宙には知性体がいたのか!? だ、第一種厳戒態勢を発令せよ!! ファースト・コンタクト事案発生!! 手順に従い!! あの艦船との接触を試みる!! 総員、星系外延基地経由で家族に連絡を取った後、直ちに搭乗を開始せよ!!」

 

「こ、これは……提督!!? アンノウンからの通信と思われる電波を受信中!! デコード用の情報と思われるものが送られてきました!!」

 

「何ぃ!?」

 

「あ、わ、我が艦の用いる周波数を調べている模様!! つ、通信?! は、早い!? こちらの通信をもう解析したのか!? 映像出ます!!?」

 

「(´っ・ω・)(あ、繋がったと情報通信機器のカメラをキュコキュコを拭いていたド・アップな蜘蛛の顔)」

 

「ひ―――む、蟲型?!」

 

「(´|ω|)(こちらは蜘蛛の氏族軍所属第4004探索艦隊。我々は外宇宙探索を行う調査艦隊であり、非武装船である。宇宙進出知性とのコンタクトは我々の権限の下に許可されている。我々は友好的な知性体との接触を望む。繰り返す。こちらは非武装船である)」

 

「こ、これは―――古代語です!!? 旧世界人類の遺跡で使われていた古代語です!! 財団から送られて来た対応表ですぐに解読を―――」

 

「(^◇^)……(この知性体、人型だけど第三神眼開いてる。邪神系の気配がしないから、偽装してるか。もしくは神の階段に近い進化を続けてる種族かもと煙を全身からボムンと吹いてカワイイ・ヌイグルミ形態に変化して相手の精神性を計ってみる蜘蛛の顔)」

 

「い、いきなり、な、何かカワイクなったぞ!? どうなっているんだ!?」

 

「(|∀|)(……これはチョロそうな種族かも……と、さっそくカワイイ合成音声を使ってコミュニケーションを取る為の準備を始める蜘蛛の顔)」

 

 あらゆる邪神を駆逐する蜘蛛そのものの性能によって、殆どの船は武装を積まなくても航路は安全に航行出来た。

 

 ついでに船体がデミ・ストレンジ・レッド製ならば、固定武装を詰むまでも無い基本性能なので殆ど身軽に質量だけを詰めた船で彼らは宇宙に出られたのも大きかっただろう。

 

 船の建造は各地の銀河で余剰人員がミストルテイン級を用いて増幅したエネルギーを使い順調に倍々ゲームよろしく増え続けていたし、事実上はあらゆる質量を侵食する構造材のおかげで宇宙空間に漂う全物質を使えた為、使い道の無い惑星だと放置されていたものを利用すれば、すぐ質量を補填出来た。

 

 船体の構造材そのものが兵器であり、わざわざ大艦巨砲主義する必要も無かったのも大きいだろう。

 

 こうして光の速さを超えて宇宙をマッピングする蜘蛛達は宇宙制覇の土台を着々と固めていた。

 

 この様子を高次元領域からようやく平穏を取り戻した種族達は生暖かく見守っていたが、冷や汗を隠し、視線を逸らし気味だったかもしれない。

 

 今まで同じように拡大していた勢力はいた。

 

 だが、その全ては邪神と数多くの困難、勢力そのものの肥大化によって押し潰されて来た。

 

 しかし、現在のところ。

 

 そのような兆候の見えない蜘蛛達は初めて超銀河団クラスの領域よりも広がった宇宙初めての勢力として数多くの超越者達が認識するに至っている。

 

 高次元に半分身を置いている者達もまた分かっていたのだ。

 

 こいつらは今までの勢力とはまったく違う、と。

 

「もはや、奴らを止められる者はいない、な……」

 

「あの邪神の始祖が討伐された以上はそうでしょうな。彼女の今まで撒いて来た殆どの“種”が各世界の銀河において動揺しているとの話もあります」

 

「もはや、旧き者すら超えて世界を拓き繋ぐか……」

 

「だが、連中はもう邪神とは言えぬ程に変質しているのは確かでしょう」

 

「左様。アレはもはや邪神ではない。邪神より派生した種族が本来持つべき欲求や葛藤すら見て取れない。新しい神に最も近しき存在、か……」

 

 知性体を自分達に同化して数を増やし、強固な思想を最初から持っている事で殆ど分派のようなものが産まれ得ず、光を超える速度で移動する術を身に着け、一切の妥協無く宇宙の星から星、文明から文明の一切合切を収集し、分析し、解析した結果で介入を実行。

 

 その上、邪神の親玉の一体すらも屠ったとなれば、正しく宇宙の最上位勢である。

 

 そして、その事実が殆どの場合、多くの生命にとって本質的には侵略であるにも関わらず“一見してまともな事しか言っていないように見える”のだ。

 

「ふ、ふぉおおおお!!? まさか、蟲型が宇宙では覇権スタイルなのか!?」

 

「博士!? あちらから彼らの文明の種族構成が送られてきました。同時に我々の種族構成や知性体としての民族や諸々の情報が欲しいと要求されているようです」

 

「ひ、人型が多い!? これは!? やはり、我々の推測は間違っていなかった!! 人類は旧世界人達によって数多くの銀河に蒔かれた種だったんだ!?」

 

「世界連邦の方から対策の為に出頭するようにとの連絡が!?」

 

「構わん!! 放っておけ!! それより彼らの使う周波数は分かったんだ!! 情報を送れ!! 宇宙の事をもっと教えてくれとな!! ははははは!!! 財団め!! 何が確保収容保護だ!!? もうそんな時代ではない!! 私は宇宙人君と友達になってみせるぞぉおおおおおおおおおおおお!!!!」

 

 このような蜘蛛達の文明篭絡術によって墜とされた星々では次々に蜘蛛は社会的地位を確立し、蜘蛛の氏族商会の名前で経済規模を拡大し、各地の経済そのものを侵食……莫大な数と彼らの超絶労働力と能力による超効率な資源回収を下地に生まれるエネルギーが銀河という銀河では超格安で卸された。

 

 貧困惑星の政府首班達には帝国銀河団の上層部に神頼みしたって出て来ない現物をポンと出してくれる神様染みた何か以外ではなく。

 

 崇められる勢いで勢力拡大は続いていた。

 

 銀河の要人達は次々に蜘蛛の氏族商会と協定を締結し、行政や経済が上手くいっていない星々程に蜘蛛達の福祉政策へ参加。

 

 彼らの活動の許諾を出しまくり、宇宙始まって以来の大・蜘蛛=サン・フィーバー……蜘蛛旋風はあらゆる銀河で爆発したのである。

 

「ほ、本当にこれ程のエネルギーを供給して頂けるのですか!? それにこんな量の食糧生産を本当に我が母星で!!?」

 

「(;´∀`)我々の支社による現地生産で良ければ、惑星の雇用も確保致します。具体的には失業人口の10割をこちらでお引き受けしても構いません」

 

「おぉぉぉ、ありがとう!? ありがとう!! 感謝してもしたりません!? 今、我らの星は産出可能な高額資源が無く。工業製品の生産設備も乏しく。余剰人口を宇宙に上げる程の資本も無く……人口爆発によって資源は逼迫しており、帝国に搾取され続けるばかりで……うぅ、ぅぅぅぅ……」

 

「( ̄▽ ̄)大変なご苦労をされていたようですね。ですが、蜘蛛の氏族商会は貴方達が“善良”であるならば、支援は惜しみませんよ(ニッコリという絵文字を使って看板から喋る蜘蛛の顔)」

 

「うぅぅ……本当にありがとう。ありがとう……」

 

「(^▽^)あ、それはそれとして雇用地域一帯の治安維持活動や食糧エネルギー供給に関連する全ての施政権と市場の独占を認めて下さい。勿論、先程の値段で全てのエネルギーと食料は卸させて頂きますので」

 

「あ、はい……それは……勿論……ええ……まったく、仰る通りで……(故郷の政府に殺されるかもしれないが、惑星そのものが自滅するよりはマシかと覚悟を決めた外交官の顔)」

 

 近頃はネットワーク上に蜘蛛のあらゆる映像や番組が流されており、料理番組やらお仕事術やら無料で人々に仕事のノウハウを分け与えつつ、洗脳もとい宣伝が行われていた。

 

「(/・ω・)/(これが蜘蛛的お仕事術だーと組織論やら組織の構築論を無料公開してる宇宙系配信者蜘蛛の顔)」

 

「(^◇^)………(試行錯誤中の蜘蛛系チャンネルの視聴者数を引き上げる為、4兆人くらいはいる視聴者の支持層解析を始める蜘蛛の顔)」

 

 これが面白くないのは銀河で上位勢と胸を張っていた独立上位種族達であるが、その殆どが蜘蛛と交戦して敗北し、敗北後の諸々の条約や銀河団単位での講和条件で政治的に意見出来ないように封殺された為、何処の星も政府が蜘蛛に対して対策する事は不可能になっていた。

 

 頭が良過ぎると宇宙でも評判の独立上位種族が蜘蛛を出し抜くのは無理と理解した事も原因の一端だったかもしれない。

 

 彼らは蜘蛛は非常に賢いし、知的ではるが、自分達と同じくロジスティックに物事を考えながらも殆どの面で“遊び”や“冗長性”の面が自分達よりも優秀であると結論し、蜘蛛の攻略方法を考える事自体止めた。

 

「奴らは……悟りしものだとでも言うのか。あの精神性は……知性体よりも……邪神に……」

 

「格差なく全ての思考方法を理解出来る……我らには敵わぬ本当の知性の理解者だとでも?」

 

「上も下も無くとは……あの個人を限りなく捨てた精神性で個性があるように見える……偽装ではないにしても怖ろしい話だ。奴らは一個体と全個体の情報をほぼ総合していながら、全ての精神が個人的に振舞う。全一個体、とでも言うべきか?」

 

 知性と知性のぶつかり合いは脳や思考中枢の疲弊を招く。

 

 そして、並大抵の事では疲弊しない知性として機械を超える蜘蛛の頭脳は極めて汎用的であり、生物として“恐ろしく凡庸”であると結論された。

 

 何故、凡庸だと結論されたのに抗うのを止めたのか?

 

 それは蜘蛛達の精神や脳の使い方が汎用性の塊だったからだ。

 

 殆どの独立上位種族はその高い知性故に理論的過ぎる傾向があり、計算や数学的な課題には強いが、創造性としての芸術や閃き、感動における高揚を感じたりする事が難しかったりする。

 

 これは精神面で幼い種族などに対して劣る面が存在するという事だ。

 

 一部の計算能力だけが特化されがちな彼らにしてみれば、自分達は理論派過ぎて精神的に硬直し、柔軟性に欠ける性格であるというのが一般常識だったのだ。

 

 しかし、蜘蛛は例外であった。

 

「何も欠けない。何も捨てない。この精神構造……真球……黄金の魂だ」

 

「他者を害する事も他者を貶す事もあらゆる悪徳が可能でありながら、あらゆる善行を積める。神にも邪神にも成れる力か……」

 

「同時に弱き者にも強き者にも成れる。力や精神性を捨てる事すら厭わない……まるで赤子のように何もかもを持っている」

 

「ぬぅぅ……真理に触れたかのような精神構造……アレすら屠るわけだ……」

 

 蜘蛛は明らかに彼らとは違って思考における柔軟性やら感動出来る精神性やらで優位であった。

 

 ほぼ同水準の知性でありながら、更に原始的な生物らしい資質を兼ね備えた上で自分達にしていたような“あんなこと”が出来るのだ。

 

 と、知って彼らは絶望した。

 

 蜘蛛は極めてドライな生来の資質で他者を虐げるのに躊躇が無い。

 

 しかし、日常では極めて感情的な部分と論理的な部分の天秤を傾けない。

 

 蜘蛛はこれから起こる事が上手くいかなければ、どのような結果を招くのかをちゃんと理解した上で他の生物を蜘蛛にするし、助けるし、一緒に笑い合うし、その上で優しくもすれば、殺しもする。

 

 一見してサイコパスとしか言いようがないのだが、蜘蛛の思考を呼んだ読心能力種族の大半は自分達とは根本的に違う種族……とは彼らを捉えられず。

 

 何もかもを“悟っているだけ”の精神構造を前に沈黙した。

 

 精神の厚みが違い過ぎたのだ。

 

「我らの念や精神侵食は意味を成さないな」

 

「侵食返しは当然としても、精神力の桁が尋常ではない」

 

「あの構造そのものを我らが模倣すれば、廃人だろう。あれで精神を駆動している事自体が奇跡なのだ。だが、それを成せなければ、連中のようには為れんだろう」

 

「蟲に心で負けるか……嫌な時代だ……」

 

 自分達が単なる若木ならば、目の前の蟲は遥か世界樹の如き強靭な精神力を持つ存在であり、喜怒哀楽だけではない数多くの精神活動を、その全てをちゃんと理解し、感じていながら、現実ではあんな事をしていると知った。

 

 知能の差は格差となる。

 

 多くの差は不理解と分断を産む。

 

 あらゆる面で思考力や知能の差はその種族の価値観を規定し、多くの場合、その差が離れていると相手が理解出来なくなる。

 

 これが独立上位種族の中でも更に精神性においては高度な面を併せ持つ読心能力者達には周知の事実だったのだ。

 

 だが、蜘蛛は違った。

 

「もはや、精神性の違いでは片付けられないな……」

 

「何を知れば、あそこまで悟れるものか……」

 

「他者の気持ちになれる。と、同時に他者を否定する。が、成り立つ生物……」

 

「肯定も否定もしないのではなく。肯定も否定も出来るのは強過ぎる……」

 

 蜘蛛は赤ん坊の気持ちが分かる。

 

「(/・ω・)/(お~よちよち、おっぱい欲しいのね。哺乳瓶準備かんりょーしてるから、規定量呑んでげっぷもしましょーね~と赤子をあやす蜘蛛の顔)」

 

 蜘蛛は幼児の気持ちが分かる。

 

「(/ω\)(いないないば~~……はもう卒業するとして、こーえんに歩きに行くのが好き……走って転べるように公園掃除しといたから、問題ないかなと幼児を散歩に連れて行く蜘蛛の顔)」

 

 蜘蛛は青年の気持ちが分かる。

 

「(^◇^)(はろー人生ドロップアウト早かった君達~こーせーとか考えなくていいから、まずは走ろうかとまだ救える青年層が収監されてる監獄で若年者の囚人達を死ぬより怖ろしい地獄の訓練メニューで精神漂白し、悪意すら悍ましいと感じるだろう宇宙の地獄特集を悪夢で叩き込む訓練蜘蛛の顔)」

 

 蜘蛛は中年の気持ちが分かる。

 

「(・∀・)(ほむほむ。おっちゃんも苦労してるのね。ささ、蜘蛛印のアルコールじゃないけど、アルコールみたいに酔えて、体を全く害さないデミ・アルコール成分10%入り飲料をどーぞと島で少年が酔わない酒を研究してた頃の知識で創った宇宙で今後死ぬ程売れそうな“健康に良いアルコール・モドキ飲料”を泣いてるおっさんに勧める蜘蛛の顔)」

 

 蜘蛛は老人の気持ちが分かる。

 

 

「(;^ω^)(孤独死は死に方としては真っ当だけど、寂しいもんだよ~~と独り身のご老人を笑わせつつ臨終に立ち合いながら、しっかり死ねるように語り掛け、看取った相手を優しく処理して棺桶に入れる葬儀系蜘蛛の顔)」

 

 貧乏な者も裕福な者も知能が高い者も知能が低い者も血統の資質が高い者も低い者も分かるし、テロリストでも犯罪者でも政治家でも警察官でも最低の悪人も最高の善人も人殺しも英雄も母も父も子供も……あらゆる職種、あらゆる門地、あらゆる人々の気持ちが分かる。

 

 分かるとは理解して、その気持ちを味わう事が出来るという事だ。

 

 同時にその全てを否定すら出来る。

 

「(^ω^)(また、独立上位種族の人達が高次元領域からこっち見てる)」

 

「|д<))(チラッと見返してウィンクしてみる蜘蛛の顔)」

 

『―――!!!!?』

 

「(T_T)/~~~(あ、滅茶苦茶泡食って逃げてったとヒラヒラとハンカチを宇宙で振って見送る蜘蛛の顔)」

 

 何よりも蜘蛛達の芯にあるモノは悍ましき経験だ。

 

 あらゆる宇宙の負の側面を煮詰めたような記憶。

 

 これを許容し、受け入れ、同時に否定までもしてようやく……悟りというものに近い境地に立った蜘蛛達は善悪の果てを超えた生物と化している。

 

 この複雑怪奇な精神構造を自分の精神が読み込んでしまったら、どうなるか。

 

 それを悟った者達はあっさり白旗を上げた。

 

 ソレはこの宇宙において知性が理解してはイケナイものに違いなく。

 

 その悍ましき知性を前に屈服し、己の目を覆った事は“己が普通の知性だった”と今更に自分達を知った彼ら独立上位種族の最も賢い選択であった。

 

 *

 

―――始祖破片討伐より8時間前、聖域外延部主要戦線。

 

「此処が我らの死に場所だぞぉおおおお!!!」

 

『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

 左翼、アルマーニアを筆頭とした種族連合守備隊総勢1万4000人。

 

 右翼、ヴァルハイルを主軸とした首都守備隊2万3000人。

 

 中央、ニアステラ守備隊を主力とする蜘蛛と亜人、人間の混成軍4000人。

 

 総員に与えられた最新式のゴーレム。

 

【ウル・リカーム】

 

【シュヴァリア・レクス】

 

【ドラグリア・ロゼ】

 

【エルダイバー】

 

 総数153万機。

 

 ニアステラとフェクラールのほぼ全域から集められた彼らは実際多くの民が知らない間に戦争に狩り出され、人々が知る頃には何もかも終わっているだろう戦場で働いていた。

 

 殆どが蜘蛛達が駆る機影だが、死に易い者達は後方からの援護射撃や砲撃を行う比較的安全な地帯にいた。

 

 本陣となる陣地に鎮座するのは巨大機動城塞と化した複製されたドラグリアが8機。

 

 主戦場総距離340kmに等間隔で置かれた城は戦列を押し上げながら戦う事も出来る動く移動拠点として猛烈なグラングラの大槍の射爆を主要戦線後方に集中し、敵後続と前衛を分断する役目を担い。

 

 その直掩となった亜人達の軍は蜘蛛達の背後で戦域機動を行いながら制圧と残敵掃討中となっていた。

 

「敵主戦力地域増速!! 時速20kmで突撃中!! 最前線激突まで残り2km!! これより空爆要請に従い。戦域中央への【オール・ドーン】の投下を開始する!!」

 

 空では嘗て器廃卿が使っていた最強の空戦機体であった城部分を離脱したドラグリアの複製機が次々に腹に抱えた大型の空爆用戦略兵器を投下していた。

 

『着弾まで40秒!! 各位!! 対衝撃防御!! 全魔力を方陣防御に回せぇえ!!!』

 

 最前線で戦っていた者達の機影が次々に巨大な盾を展開し、大きく広げながら、己の機体のみならず、後方までも覆い隠す大壁を展開していく。

 

 それを主導するのはシュヴァリア・レクスの人型汎用機だ。

 

 更に後方ではウルに乗った蜘蛛達が戦域全体からの衝撃波を地域越しに届かぬように封じ込める巨大な結界を地域の境界域で次々に展開。

 

 空の遥か果てまで聳える半透明な結界が島の中央を封鎖していく。

 

 それに罅が入った時にはもう閃光が一瞬で過ぎ去っていた。

 

 戦域そのものが巨大な500m級の断崖そのものとなって移動してくる。

 

 夢幻にも思える王群の超規模戦力の密集形体は蟲というより世界が襲って来るという類のものであった。

 

「へ、へへ……こんな光景誰が信じるんだよ……」

 

「山が突撃してくる。一体、何を言ってるんだオレは……ははは……」

 

「もう乾いた笑いしか出ねぇよ。今更だ。四時方向!! 砲撃開始!!!」

 

 物量と再生能力のみに特化されたソレは溶解沼と化した地域の端に食み出していたが、極限にも近い超速再生能力で強引に沼地の端を突破し、北部へ抜けようとしている。

 

 溶けるよりも増える方が早い上に沼地に突撃していないせいでどうにも増殖率は天元突破しており、1時間で100m近く断崖の全高が上がっていた。

 

 その断崖から雪崩て来る蟲が無限に押し寄せており、シュヴァリアを筆頭にした砲爆撃と射爆、空爆によって漸減、戦域全体では後方への突破を何とか許してはいなかったが、近付いて来る地域そのものはまったく衰えを知らない。

 

「これが聖域……これが王群……」

 

「そんな事あるかよ。ヴァルハイルの古老だって、山の突撃はさすがに見てねぇさ!! 王群の最終形態がコレなんだろ……蟲共め……蠢いてやがるぜ……」

 

 正しく無限に続く山脈が押し寄せて来るような状況にさすがの歴戦の雄志達の顔も引き攣り気味だったのは仕方ない。

 

 事実上、彼らは蜘蛛達がいなければ、どうこう言う暇も無く全滅していたはずだし、グラングラの大槍を連射出来るように改造されたドラグリア複製体の連続掃射によってすら進軍する蟲を推し留めるので精一杯。

 

 挙句の果てにあまりにも近くなり過ぎた為に後方への分断のみに絞って攻撃が曲射されており、蜘蛛達の戦略兵器の出番となっていた。

 

「蟲共の甲殻が震えてやがる。分かってるんだ。これから起こる事が……」

 

 禍々しい黒い甲殻は薄緑や薄紫のグラデーションに妖しく光り、地域を構成する王群の鋼やタングステン、通常物質の合金よりも更に硬い分子で構成される脚は禍々しいオブジェのように隙間を開けつつ増殖し、増殖した脚から更に脚が伸びるようにして成長する。

 

 樹木のように増えていく体積は明らかに通常の資源を食い潰して成長しているのではなく。

 

 呪紋の能力や魔力を糧として増え続けていた。

 

 ソレらが攻撃よりも防御を行ったのは極めて賢いと言えるだろう。

 

 上面に次々に密度の高い甲殻がビッシリと隙間なく再配置され、下部構造の質量を上に集約して相手の攻撃を防ぐ。

 

「来るぞぉおおおおおおおお!!! 備えろぉおおおお!!!」

 

 その攻撃が何なのか分からずとも再生能力を無限に投入可能ならば、崩壊させられてもすぐに回復は可能だろうというのは無理なく理解出来る話だろう。

 

―――空が光った。

 

 ソレが通常の相手を焼き尽くすような攻撃では無かった事を蟲達は知る事なく。

 

 虚空に浮かんで光を吸い込む“無限の底”に自分達が浮かび上がらせられ、空間毎歪めながら引き寄せらえれている事に気付く間もなく。

 

 キュウンという地域が動くには呆気ない程に小さな音を聖域外延部に響かせて、指定範囲内の全ての物質を呑み込む。

 

「こ、これが蜘蛛共の答えか!? 全部、吸い込んで食っちまう攻撃……こんなん喰らったら殆どの邦が一発で壊滅だな……」

 

「歪んで、呑み込まれていく……これが終末ってやつか……」

 

 本来、音すらさせず、質量の全てを呑み込むソレは領域を歪める際に自身の範囲を限定する呪紋を付与されていた。

 

 呪紋による事象の拘束、変容、閾値の設定のような法則の改変でしか内包されない物理事象に対する優位な現象を織り込まれたソレは呪具。

 

 蜘蛛達が先日から宙で得た知識によって得たブラックホールなどの重力異常を用いる機関に呪紋を加えて、ヴァルハイルの天才と一緒に設計した代物だ。

 

 範囲指定尚且つ圧倒的に強力で瞬間的に物質を重力の底に叩き込んで莫大な出力を開放するソレは取り込んだ蟲達の質量をエネルギーに還元しながら、自身の奥底に置かれた呪具内部に空間を生み出す為、そのエネルギーを吸収するという性質を持ち、事実上は今まで出会って来た神々が行っていた神器の原理で別空間を創出し、エネルギーを蓄えるプロセスを模倣している。

 

 疑似神器とでも言うべき先進爆弾兵器。

 

【オール・ドーン】

 

 これらが今までの兵器と一つ違うのは内包されたエネルギーは全てが全て空間創生に使われるという事であり、質量からのエネルギー開放は攻撃手段ではなく、力を得る方法でしかないという事だ。

 

 そして、その空間は蜘蛛達が現在運用している天界と繋がって規模を拡張する。

 

 もし、この呪紋に耐え切る存在がいたとしても、創生された空間が繋がった瞬間に蜘蛛達の巨大な巣に直接叩き込まれ、ダメージを修復する間もなく群がられて巣に掛かったエサのように解体されるだろう。

 

「(^ω^)(お、王群のコアさんいらっしゃーいとさっそくやってきた王群の再生の核となっている個体に突撃していくノクロシアンの顔)」

 

「(T_T)(案外、核残ってるのねと結構な数の核となる蟲が超重力にすら耐える個体なのを見て、聖域側の戦力も中々だなと飛び掛かり際の打撃で相手の肉体を蒸発させる蜘蛛の顔)」

 

「(*´▽`*)(敵の蒸発したスモッグで光学観測不可能なんだけど、ま……いっか。蒸発しても再生するなら、デミ・ストレンジ・レッドで侵食しようとイソイソ普通に戦っていれば、蜘蛛レベルだっただろう相手の超重力崩壊後の隙だらけな様子に超音速格闘術を叩き込む蜘蛛の顔)」

 

 ソレこそ受肉神や真正神を狩り殺す為に蜘蛛達が整えた巣は千客万来を企図しており、無間の大神の戦力を消耗させる為の罠で満たされている為、これでほぼ決着は付いていた。

 

 少なからず天界の“狩場”はあらゆる準備が成された儀式場に等しく。

 

 邪神の類を完殺出来る事が最低限の備えとして置かれていて、周囲の地面には数万km単位の大量の呪紋と罠が今も規模拡大されている殆どの領域にギッチリとミリ単位の狂いも無く集積回路染みて密集、積層化、接地され、三次元的に空間のあちこちに糸と共に張り巡らせられて、三次元戦闘用のバトルフィールドと化していた。

 

「(・ω・)ノ(天界でのコア退治開始されたよ~残存戦力の殲滅をかいしーと号令を出す指揮官系蜘蛛の顔)」

 

 勿論、ソレで全て消滅する程に聖域の王群は甘くない。

 

 蟲の大地が巨大なクレーターとして9割規模で消滅した跡地に蜘蛛達の乗る機影が殺到し、次々に各地に残されて超速再生し始めて増殖する相手の殲滅に掛かる。

 

 敵はコアさえ残っていなければ、再生能力を同規模で維持出来ないと踏んでいた蜘蛛達の見通しは間違っておらず。

 

 規模が限界以上に縮小した蟲達は次々に動けない地域の切れ端から変貌し、40m規模の王群本来の姿を取り戻し、分裂しながら、肉体を肥大化させ始めた。

 

 そちらもまた高速で動き出し、瞬時に蜘蛛達に対応してみせたのはさすがだろう。

 

 全ての能力を再生能力に極振りしていた事の裏付けでもあった。

 

 しかし、此処に来て、神掛かった超高速再生が不可能となれば、相手に会わせて高速機動し、数十万、数百万規模の軍団へと変貌して、相手から学んで高速機動と遠距離射撃の合わせ技へ対応する以外無い。

 

「敵残存戦力変異開始!! 予測通りの状況です!!」

 

「敵軍は各個バラけて来るぞ!! 一匹たりとも後ろに逃がすな!! 再生増殖されたら、北部はお終いだと思え!!」

 

「此処で駆除してやらぁ!! 各砲座!! 一斉掃射!! 狙いなんぞ構わん!! 指定戦域を破壊せよ!! 撃って、撃って、撃ちまくれぇえええええ!!!」

 

 ヴァルハイルの熟練の狙撃兵がようやく4km程度まで近付いて来た相手を撃ち落とす合間にも蜘蛛達が近接格闘戦で連携しながら、互いの相手をスイッチングして入れ替えつつの殲滅戦へと移行していく。

 

 持て余した数の多くは高速で北部上空を抜けようとしたが、対空砲火と砲陣地化したドラグリアの最大16連射まで可能になったのグラングラの大槍を束ねたものから放たれた閃光が生み出す殲滅領域を抜け出す事が出来ず。

 

 次々に墜落。

 

「堕ちて来たぞぉおおお!! 近接戦用意!! 敵主力は蜘蛛達がどうにかする!! 我らは後方に抜けて来る個体を決して通すな!!」

 

「来るぞ!! 来るぞ!! ヴァルハイル魂を見せ付けてやれ!! 王群なぞ山と積まれた先人の叡智の前には単なる案山子以下だとなぁ!!」

 

 相手の耐久度は極めて恐ろしいものである。

 

 本陣近くまで迫って来た敵相手に機体に持たされた呪紋式の小銃を掃射していた守備隊の多くは誰もが理解しただろう。

 

 もしも、こんなのが装甲も殆ど無傷でやって来たら、現在の自分達の機体でも消耗戦になっていただろうと。

 

 射撃の殆どは彼らが機械が映し出すマーキング先を選んで狙う方式が採用されており、誤射を避ける為に思紋機関の補助を受ける。

 

 今までの訓練で乗りこなしていた者達は大半が連携する各機体の自動マーキングを上手く使って弾幕を形成。

 

 一斉射と多重連続波状攻撃による隙間を埋める戦術で空から落ちて来る全ての王群は空中で満足な機動を行う事も出来ず。

 

 高速飛翔すら許されず。

 

 襤褸クズのように地表に堕ちて来た時には死に体であった。

 

「イケる!! 各隊!! 弾は死ぬ程ある!! 呪紋付与は消耗させるのに使え!! トドメは通常兵器だけでいいぞ!!」

 

 焼けている体を幾ら再生させようとしても、地表で待ち構えているのはウルの群れと守備隊の連携した弱体化した個体を掃討する特化部隊である。

 

 初心者向けのウル・リカームは蜘蛛達の中でも生まれたてで戦闘経験知が低い者の入門用機体であり、どうしても機械的な攻撃になりがちという評価を下されていたが、それにしても迅速に数を処理していくには丁度良いのかもしれず。

 

 それを補佐する守備隊にしても蜘蛛との力量差は有っても、その死角や手の届かない場所を担当する事で蜘蛛達の殲滅速度がグッと高まる。

 

「(*´Д`)(う~ん。死に掛けてるのに再生で30秒も放っておいたら元通りとか。やっぱり、この王群の個体……強化されてる?と巨蟲の頭を刈り取る蜘蛛の顔)」

 

「(´・ω・`)(例の巨人さんの勢力が救世神の力で強化してるのかもねーと蟲を脚一本で捻り潰して分子レベルで分解する超振動を叩き込む蜘蛛の顔)」

 

 多くの殲滅戦用のウルは再生しながら落ちて来る蟲肉の塊を不死殺しの呪紋を掛けた蜘蛛脚の巨大版を器用に複数本糸で操って、細切れにして処理していく。

 

 再生を阻害する樹木神の呪い染みた力はセフィロト級の攻撃と同じく。

 

 魂の再生を許さずに衰滅させる類の力であり、能力の類でブーストされていた再生能力が停止した瞬間に破片が塵となってパサリと地表に砂のように落下。

 

 蜘蛛と守備隊の連携によって陣地付近は漆黒の残渣が砂丘のように降り積もり、次々に足元を埋めていった。

 

「この粉塵は吸い込むなよぉ!! マスクは着用しているな!! 内部から食い破られる可能性もあるって話だ!! コレが終ったら検査受けるんだぞ!! お前らぁ!!」

 

「りょ、了解です(やっべ。マスク付けてなかった。後で申告しねぇと……)」

 

 砂嵐のような現状にも攻撃の手は止まず。

 

 最精鋭のウルが敵を破壊して数を減らす漸減域。

 

 後方に抜けた敵個体を広域戦略兵器で弱体化し、打ち落とす消耗域。

 

 更に強大な敵を一般的な戦力で撃破する殲滅域。

 

 この三段階の“処理”で殆どの戦力を彼らは駆逐し切っていた。

 

 本来は蜘蛛達が一人一人やっていたものを分業制にして、蜘蛛以外も参加出来るように生み出した戦略である。

 

 蜘蛛と他の種族の混合戦力を上手く運用する為の代物は今後のスタンダードな戦術になる想定で組まれたものであった。

 

 最も強い新品の敵と戦うのは人型のエルダイバーとドラグリア・ロゼだ。

 

 相手によって武装の換装を行う二機は戦域の最も過酷な部分において蜘蛛の反射速度を全開で使う高速戦闘の要となる。

 

「ヾ(≧▽≦)ノ(ひゃっはー島の空はこの蜘蛛が頂いた~~とジグザクに空を慣性を無視した軌道で動きながら相手を両断していくドラグリア・ロゼでブイブイ言わせてる蜘蛛の顔)」

 

「( ̄ー ̄)(この収束した超高温高圧の金属粒子サーベル……ちょっと封入する温度低いな……上げちゃおとエルダイバーのビームっぽいソードを過剰火力にして開放、戦域の空を薙ぎ払う蜘蛛の顔)」

 

 これで敵軍を崩壊させ、その後方となる戦域には射撃性能が最も高い戦略兵器であるドラグリアの城型複製機が控え、機動要塞として遺憾なく後方支援と動く火砲陣地としての機能を発揮。

 

「ヴァルハイルを護るのだ。我ら複製部隊、最後の一兵となるまで!!」

 

「王群……この規模、この能力、今までの比ではない。だが、それすら奴らは超えるのか。アレこそが我らの主を滅ぼした力……器廃卿……我らが主よ!! 貴方の偉大さは我らが必ずや後世に伝えましょう!! 奴らに土を付け、戦い抜いたと!!」

 

「グラングラの大神槍!!! 冷却に入ります!! 機関部の強制冷却32秒!! 砲身交換急ぎます!!」

 

 このような最前線に追随して後方から戦域を押し上げる主力は地表のウル・リカームとシュヴァリア・レクスの二機だ。

 

 相手を処分するのはウル・リカームが担当し、相手の攻撃を真正面で受けるシュヴァリア・レクスが戦列歩兵ならぬ陣地防衛や機動力のある盾として要塞と味方の後方にある隙間を埋める。

 

 役割分担がキッチリ出来ている軍に対して力押しを変形した形である再生力を持つ物量という……それだけで恐ろしい戦略だが、それしかなかった王群は瓦解した。

 

「敵主力の数が減ってきた!! ようやくだ!! 最前線はどうなってる!!」

 

「隊長!! あのバカでかい四脚が聖域中央区域に到達しそうです!!」

 

「遂に聖王陛下でも成し遂げられなかった聖域への道が出来るのか!! おぉ、此処に四卿の方々が居れば!! 涙を流して喜んでいただろう!! ヴァルハイル総軍!! 衰えたりとはいえ、我らの武勇を示すのだ!! 全ての者達が謳う英雄譚に我ら竜の末裔の名を刻め!! 国滅ぶとも竜の意志は滅ばずとな!!」

 

『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおお―――』

 

 最も最前線で暴れているのは蜘蛛達だが、蜘蛛達が受け持つはずだった中央戦線の中心ではエル・ダイバーやドラグリア・ロゼを支援機として超速で機動するkm.級物体が猛威を振るっていた。

 

『こちらイレギュラー0……敵後方への突破を遂行中。敵残存戦力の低下を確認。主要戦線後方到達まで残り2分と推定』

 

 超音速を超える4km半の爆導柵40本が乱舞して、戦域の低空を飛翔しながら、四脚の機影が躍るように薙ぎ払う度に数百m近い領域を巻き込んだ其々の鞭のようなソレが空域を突破しようとする無数の王群を薙ぎ払って爆光に沈め。

 

 接敵して装甲を破壊しようとした触れた個体が装甲の超振動による衝撃波によってバラバラに粉砕し、単純な質量による衝突力によって拉げながら、再生の余地もなく原型を留めない血肉として吹き飛び、崩壊した全ての蟲達が防戦のはずの敵の中央が大きく聖域方面へと動くのを止めようと群がり、薙ぎ払われながら個体数をザックリと1%刻みで減らされていく。

 

「(`・ω・´)(やっぱり、経済攻撃に切り替えたのは英断だったよな~と先進大陸の切り札を見て、最終的に負ける要素は無くても蜘蛛の消耗が0で大陸を墜とした先輩蜘蛛の知見の正しさを理解する蜘蛛の顔)」

 

 装甲の色合いと質感を偏向するのはエム大陸でも最新鋭の技術である装甲質量の魔力による増減だ。

 

 炭素原子を用いる巨大な鎖の羅列に精密に金属原子を補填したり、ソレを分子結合状態から一部歪めた空間内部にスポイルする事で重量を増減させながら、自身の装甲の性質を変化させる量子重量操作装甲。

 

 質量そのものと原子的な繋がりを分子単位で決定し、大質量を一気に操作する事で瞬時に敵に対して最も効果のある既存の装甲へと変貌するソレは正しく先進大陸の兵器技術の精粋だ。

 

 これが敵に転用出来るようになれば、周囲にいるだけ、触れるだけで相手の質量を消し去り、構造を脆くして自壊させる事も出来るだろう。

 

 空間制御におけるミクロの極地。

 

 完全に戦略兵器にしか載せられない機構の出力を要求される力は一部の蜘蛛達や大宇宙の兵器体系に追随、追い越す性能を秘めている。

 

「( ̄д ̄)(やっぱ、このイレギュラーだけ、こっちと同等以上なんだよなーと相手の動きを解析して自分達に劣らない存在……資源や性能の良い武器さえあれば、敗北もあり得ると確認する蜘蛛の顔)」

 

 兵器を消耗品と割り切る程に装甲は使えば使う程に損耗してしまうが、それにしても上位勢以外の一般通過蜘蛛なら完全に4000人くらい合同で戦わねば、勝てなさそうな威力は完全に宇宙人も予算のせいで実用化しない代物である。

 

 ロマンは予算に敵わないのだ。

 

 だが、イレギュラーの駆る多脚式の巨大構造物。

 

 人型の上半身は眼光も赤く無数のセンサーで40m級の敵軍を睥睨しながら、中央突破を開始しており、敵の後続“地域”に突撃。

 

 質量の消失で小型に分散し始めた無限湧きの王群に左右正面背面の副砲を気持ち上空に向けて曲射しながら、輝きながら落ちていく砲弾の連撃で蒸発していく蟲の壁に開いた道へ突入。

 

『後方突破まで後40秒……』

 

 kmの物体が音速を超える暴威となって踊り狂う修羅となれば、如何に王群と言えど個体として適う相手は存在しない。

 

 消耗を気にせず聖域外延の終点……つまり、聖域そのものへと敵軍を押し込めていく様子は正しく先進大陸の面目躍如だろう。

 

 もはや、その機構を維持する技術者も資源も資本も本国には存在していないが、ソレを事前にお知らせされたイレギュラーと空中要塞御一行は仕方なく蜘蛛達との交渉で本国に連絡を実行。

 

 最終的に自分達の“上”が経済的な意味で蒸発している事を確認し、溜息を吐いて帰還すら覚束ない島でイソイソと傭兵家業をする事にした。

 

『イレギュラーはやはりイレギュラーか……』

 

『こんな情報、一体何処の誰が信じるんです? 録画してる場合ですか?』

 

『こんな時だからだよ。本国の馬鹿共のせいで孤立した挙句に傭兵家業で本国に帰還するまでは資金も稼がねばならない。どの道、上が消えた以上はこの要塞もイレギュラーの駆る機体も所属は不明確だ。恐らく、誰も支援者として手を上げる者はないだろう』

 

『……まさか、不景気で追い詰められるとは思っていませんでしたね』

 

『あの蜘蛛達の賢さならば、さもありなんというところだろう。幾ら解析してもウチのイレギュラー並みにイレギュラーだとも』

 

『あんなにイレギュラーがいたら、世界はお終いじゃないですか?』

 

『ああ、だから、一つの島の一つの戦力が……世界すら食い潰せそうな蟲の大群すらもこうして滅びつつある』

 

 戦わずして撒けた傭兵が島に寝返った代償として彼らの補給は万全。

 

 何なら、機体や移動要塞そのものにある程度の補修や改修まで入れてくれる蜘蛛達を前にして灰色の電脳も絶望を通り越して脱帽であった。

 

 そんな彼らと相対する王群は地域単位での超再生を捨てざるを得なくなった為、蜘蛛の面制圧能力とイレギュラーの駆る超巨大ゴーレムの突破力で蹂躙されるしかない状態。

 

 力の差は固体の大きさが下がっては如何ともし難く。

 

 だが、纏まっていると一撃でやられると理解してしまった以上、自己を分解し、超規模の大群として一斉に激突する以外には攻撃のしようも無くなっていた。

 

 連携の達人である蜘蛛達はそんな蟲達の連携を許しはしない。

 

 となれば、後は本当にただ個体が戦力比で自分達が勝っている場所に群がる事しか戦術的な対処のしようがない。

 

「蜘蛛達が最前線で最後の敵の組織的な抵抗を排除した!! もはや、敵軍に抗う術は無い!!」

 

「残敵掃討に移行せよ!! 戦線を押し上げ、一気に殲滅するぞ!!」

 

「アルマーニアに、種族連合に栄光あれぇえええええええええええ!!!!」

 

 大崩壊した王群側の戦線は次々にイレギュラーを中心として突破され、食い込んで来る蜘蛛達の駆る機体によって制圧域を狭められ、尋常ではない速度の蟲達の断末魔で満たされていく。

 

 砕かれた巨大な甲殻を踏み越える者も多いがそれ以上に空戦においても敗北した事は間違いなく予想外だっただろう。

 

 数頼みで防御力さえあれば、突破出来るはずだった王群は最前線においてはグラングラの大槍の小型版を翼から掃射するドラグリア・ロゼの制圧射撃機能で7割方墜落しており、そこで再生させる間を蜘蛛達が与えるわけもなく。

 

 戦力の再編も不可能な上に圧倒的迅速さで殲滅力が再生を上回るという現実を前にして開戦から4時間程で半数以下にまで数を減らされていた。

 

「もう少しだ!!」

 

「最前線の蜘蛛達に続け!!」

 

「側面に構うな!! 後方に抜けて包囲殲滅せよ!!」

 

 北部から陸続きの聖域外延部7割が蜘蛛達の手に落ちたのである。

 

 同時に無限にも思えた巨大な王群が崩壊している有様なのを見れば、何処の亜人も蜘蛛とニアステラの力を再確認し、その一員として戦おうと背後関係は忘れて殲滅に明け暮れるしかない。

 

 あらゆる蟲とそれ以外のものとも思える形を歪に抱える再生体の死骸は芯までこんがり焼かれていなければ、何れ死亡状態から復活するかもしれないという事で各地の戦線において諸撃で出来た超巨大クレーター内部へと空間転移で蜘蛛達が投棄。

 

 後続部隊が注いだ真菌に上からボトボト落とされ、溶解しながら沼地を拡大させる餌とされた。

 

「清掃部隊から入電!! そろそろ来ます!!」

 

「真菌の投入急げぇえ!! 敵の再生を許さず一匹たりとも逃すなぁ!!」

 

「真菌投入予定量まで後30秒!! 第一陣の転移来ます!!」

 

 何れ再生するとしても限界低減された能力では真菌の溶解能力には敵わない。

 

 復活する前に溶かし喰らわれた蟲達の死骸は次々に溶解沼地帯程ではないにしても真菌の消化速度に追い付けずに形を失っていった。

 

 巨大な漆黒の沼地があちこちに出来て、最前線付近まで到達したお掃除部隊が小型の地獄門を用いて瞬時に送る大量の死骸は巨大な蟲達の真菌供給地帯に変貌して、魔力供給や真菌による肉体の再生などに用いられた。

 

 他には複数の魔王蜘蛛達が真菌をドカ食いしながら、今後の資源として溜め込み始める始末である。

 

「艸( ̄д ̄)(近頃、小食なのにドカ食いを強要される事案が多いなぁと真菌を超速で口内に空間制御で取り込んでいく魔王蜘蛛の顔)」

 

 空では宇宙最大級の出力合戦が展開されており、下は下で今世紀最大の消耗戦の真っ最中という上下に忙しい蜘蛛達は猫の手の代わりにニアステラとフェクラール、北部の住人達の手を借りて、王群の侵攻を食い止め―――。

 

 ふと蜘蛛達は世界の変化に目を細める。

 

 自分達への直接干渉ではない。

 

 何が変化したのかと彼らが一時、侵攻の手を止めて、片手前で王群を殲滅しながら、何が変化したのかを確認しようとし……気付く。

 

「(´・ω・)(……機体の損耗率が高い……重要技術を抜かれて機体が弱体化した?)」

 

 蜘蛛達が自分達のウル以外の機体が滅茶苦茶損耗して、ボロボロになっている事に気付き、更には蜘蛛が載っていてすら最前線では殆どの機種が消耗戦になっている事を知覚する。

 

 因果律操作による現実改変。

 

 何処かで使って来ると思っていた蜘蛛達は戦力が大幅ダウンしている状況に脳裏のポッカリ抜けた幾つかの技術が誰のものかを確認し……もう死亡しているヴァルハイルの狂人の事を“思い出して”から、ガコンッと全ての機体内部の重要な叩き割らなければならないカバーに保護されていたボタンを同時に圧した。

 

「( ˘|ω|˘ )(でも、ちちの一件でソレはもう対策済みなんだよなーと因果律結晶……自分達の脚を一本結晶化して仕込んでいた事象改変の抵抗用システムをポチる蜘蛛の顔)」

 

 途端、蜘蛛達が載る機体だけに搭載されていた胸部中央パーツの下に埋め込まれた機構が作動する。

 

 罅割れ、今にも崩壊しそうになっている多数の機影が光輝いたとほぼ同時に機体そのものが崩壊しながら、内部の中央パーツとコックピット部位のみを残して浮遊しながら、輝きを増した。

 

 勿論、蜘蛛達は機体の半壊状態から剥き出しで生身で戦う事になるが、まったくそこは問題なく対処が開始される。

 

「(≧◇≦)(やっぱり、戦いは生身の方が生きてる~って感じするよね。金ぴかりゅーには金一封くらいはしてもいいかもねーと喜び勇んで王群に突撃していく蜘蛛の顔)」

 

 だが、浮遊している機体の残骸の胸部中央パーツがゆっくりと光の中で分解されていくと内部から露出したコアとなる部位が露わとなり、小さなクリスタルの破片が猛烈な光と粒子を発しながら、天空へと虹色にも近い光を伸ばしていく。

 

 それがそのままドガンッと爆発し、光の粒子と化して周囲に散った時、パンッと軽い音と共にまるで風船でも破れるかのように世界が引き裂かれ、瞬時に細切れになった世界が復元する。

 

 次に多くの守備隊が気付いたのは自分達の機体が未だ茫然と手を止めているという場面であった。

 

「何をしてる!! 効力射!! 効力射ぁあああああ!!!」

 

 そうして何も知らない慌てた者達が再び戦闘を再開した。

 

 その合間を颯爽と蜘蛛達が生身で突撃していくが、随分と数を減らした機影は無くとも機体そのものが戦闘でボロボロになっている様子は無く。

 

 大量の生身突撃している蜘蛛達が機体と連携する戦場は先刻と変わらぬ状況で聖域へと制圧域を押し広げていた。

 

 一体何が起きたのか分からない者達が大半であり、蜘蛛達は“最初から生身で突撃していた”事になったが、蜘蛛達以外にその一切の情報を観測した者が一人。

 

『……例の因果律制御とやらか。対抗手段が取られたようだが……』

 

 イレギュラーと呼ばれたkm.級ゴーレム内部で機械式の背骨を座席に埋め込むようにして座る人型が一人。

 

 通常戦力がヤケに少ない事に気付いて、一連の情報を確認するが、蜘蛛達の不備で機体の配備が間に合わなかったとだけ情報が確認出来た。

 

「戦力を削られた? だが、それ以外は殆ど変わっていない……」

 

 結局、機体があろうとなかろうと蜘蛛達の戦力は露程も衰えておらず。

 

 寧ろ、ゴーレムよりも数の多い蜘蛛達がゴーレム以上である事を再確認した守備隊は蜘蛛への畏敬と畏怖を強めている。

 

「聖域外延部終端に到達!!」

 

 イレギュラーの声と共に真っ二つに集団を割かれた王群が生身蜘蛛と守備隊の機体からの支援で殲滅速度を引き上げ、制圧地域が少なく成ればなるほどに制圧能力を向上させ、地域そのものと化したはずの王群の残骸は後方から一体残らずお掃除部隊で転移によって集積されて地表には血潮一つ残らず。

 

 後方には拡大し続ける真菌の沼地と巨大な城。

 

 円筒形の機動要塞だけが遅れて進軍。

 

 正しく地獄の消耗戦は回避され、地獄を墜とした蜘蛛と守備隊の機体だけが最後には残っていた。

 

 聖域外延部終端は何もない荒野のど真ん中。

 

 しかし、そこから空間が歪んでいる事を知っていた蜘蛛達はおもむろにそのギリギリの場所に次々に囲い込むように長方形のモノリスっぽい白金色の杭を打ち込んでいく。

 

「( ^ω^ )(如何に因果律操作とはいえ、プラチナルの存在を抹消は出来ないでしょ? 一応、コレ神様よりも起源が旧いみたいだしと杭打ちしてる土木作業員系蜘蛛の顔)」

 

 ソレを阻止する戦力は居らず。

 

 しかし、空からは更に巨大な嵐が到来し、地域限定の大地震に竜巻が急激に発生。

 

 だが、蜘蛛達は何ら構わず地表への杭打ちを続行し、通常戦力を下がらせながら、イレギュラーの駆る機影に攻撃を聖域へ打ち込むよう指示出しする。

 

 即座に全火砲が照準。

 

 巨大な山岳部の遥か果てに見える一点を……灯火が見える場所を狙い撃った。

 

 途端、巨大な図体が猛烈な勢いで背後へと吹き飛びながら、衝撃で四肢を粉々に砕かれてニアステラ側の掌握した地域へと落下。

 

 そのまま崩壊するかと思われたが、蜘蛛達が虚空に張ったネットに引っ掛かって勢いを相殺されて、静かに崩れ落ちた。

 

「(>_<)(い、今起こった事をありのまま話すぜ!! こっちの攻撃が照準されたと思ったら、照準した時点で無理やりに何もない場所に衝撃が置かれたせいで機体が吹き飛んだ!! 断じて、超加速だとか、時間停止だとか、そんなチャチなもんじゃねぇ。お、恐ろしいモノの片鱗を味わったぜ!! と、力説する蜘蛛の顔)」

 

「(~/一一)(恐らく過去に向けて因果律操作してるんじゃないコレ? 高次元領域からの干渉すらほぼ感じなかったし、偽装されてるわけでもない。単純に第三神眼にほぼ引っ掛かっていないのに、それ以外の反応が0で過程がすっ飛ばされて攻撃を受けるって事はこっちが完全観測出来ない場所からの一方的干渉……真正神の上を行くとかさすが救世神……と解析を進める蜘蛛の顔)」

 

「(・ω・`)(でも、これって滅茶苦茶効率悪そうじゃね? だって、未来から過去への干渉って確かすっごく効率悪いってちちの脳裏の情報に在ったような?)」

 

「(^▽^;)(お、ボーナス・ステージか? つまり、干渉による消耗を無限に強いる事が出来るって事じゃね?と手の空いてる同胞の数を確認してみる蜘蛛の顔)」

 

「(/・ω・)/(じゃ、全力で嫌がらせしてみよっかと準備を始める蜘蛛の顔)」

 

「(・∀・)(……竜蜘蛛さん達がカンカンみたい。何か、白衣の狂人さんと仲が良かったから、少しの間でもいなかった事にされて滅茶苦茶地団太踏んでる……と一番適任そうな蜘蛛達を転移で呼び寄せてみるノクロシアンの顔)」

 

 蜘蛛達が白金の杭を次々に聖域の外周に打ち込み続ける最中。

 

 天変地異に沈む領域に次々と白い白衣を纏った蜘蛛達が天から落ちて来る。

 

 地獄門が形成された虚空からやってくる彼らは一人一騎のゴーレムを従えており、ソレはドラグリアに似ているが、蜘蛛と竜を足して二で割ったような、彼ら自身に似せた造形であった。

 

 

 他の蜘蛛達が「新型か?」と興味津々に見やる。

 

「艸(;"°;ω°;)艸………」

 

 ギョルンと白衣蜘蛛達が聖域の船を引き寄せる灯台のような山岳の明かりに向けて脚を一本指示した。

 

 ドラグリアとウルの相の子のような機体の色合いが今までの鋼色から極端に明度の下がった闇としか形容出来なさそうな歪みを纏って大口を開ける。

 

「(;゜Д゜)(あ、これさっきの爆弾の原理使って事象を封じ込めてる……装甲というよりは封入用の結界に近い?と何かヤバげな事になったのを見つめる蜘蛛の顔)」

 

 ガシャッと機影が上下に分かれた。

 

 ドラグリアの上半身と下半身が一瞬で二つに別れたような状態でポジションを維持しながら、その中枢らしい場所が露出し、針のような虹色の水晶染みた破片が大量に光る球体に向けて等間隔で整列しているソレが外部装甲と同じく明度を墜として黒く染まっていく。

 

「(^◇^)……(あ、これ黒鉄の戦艦に詰まれてた主機関の―――)」

 

 カシャンと上下に開かれた40体近いドラグリアっぽい機体。

 

 ドラグリア・ウルとでも名付けるべきだろうか。

 

 ソレらの口が閉じた時。

 

 シュポンッという間の抜けた音と共にドラグリア・ウルの上部構造の翼の付け根部の火砲を束ねたっぽい銃口から最初の一発らしい薬莢が排出され。

 

「(◎_◎)(真顔でガトリングを撃つ蜘蛛の顔)」

 

 続けて、ギュガアアアアアアアアアアアアアアアアッとソレが瞬時に秒間400発、上空にばら蒔かれた。

 

 速射機能である。

 

 次々に上空で何かを灯火に向けて連射し続けるドラグリア・ウルが掃射を終えた時、3000000発程度の薬莢が地表に落ちたが、その直後にドラグリア・ウルがキュウンと機能を停止した様子で地表に墜落。

 

 それと同時に今までの天変地異の類が治まっていく。

 

「(T_T)(一体、何撃ってたの?と竜蜘蛛達に聞いてみる蜘蛛の顔)」

 

「(´・ω・`)(ちょっとやり過ぎちゃったという顔でイソイソとガラクタになったドラグリア・ウルを地獄門で何処かに消した顔)」

 

「(^◇^)(何か、滅茶苦茶に高次元領域の広範囲でエントロピーが増大してない?とドラグリア・ウルが何を撃ったのかを理解しつつある顔)」

 

「艸(・∀・)艸(だいじょーぶ。だいじょーぶ。ちょっと、相手の干渉点があると思われる高次元領域の深奥に宇宙を生み出して消し去る例の機関を簡易化して弾にしたものを大量に打ち込んだだけだからとケロリとした顔)」

 

「(^ω^)(今、このうちゅーの寿命がマッハで削れたって聞こえたんだけど……とドラグリア・ウルの機構を糸で確認してみる顔)」

 

「艸(>_<)艸(だいじょーぶだって。きゅーせーしんの干渉可能地点に宇宙をぶら下げて吹き飛ばしてを繰り返して、エントロピーの爆増と爆減を繰り返しただけだから。普通の生物の寿命で感知出来る規模と範囲の影響じゃないし、高速生成と高速消去で生み出したエネルギーをポンとブツけただけだって!! ちちの獲物はちゃんと残ってるよ……きっと!!)」

 

「(=_=)(……何か、あの狂人に毒されてるなぁと思わなくもないが、確かに干渉は止んだなと晴れ上がっていく空を見上げる顔)」

 

「(`・ω・´)(で、結局どうなるん?と尋ねる顔)」

 

「(。-∀-)(宇宙の創生と崩壊を交互に連続で叩き込んでエネルギーと情報を送り込んだだけだよ。連続した真空崩壊事象で情報処理が追い付かなくなった領域の一部がオーバーロードする寸前で停止……更に救世神が使ってた高次元領域の干渉地点のチャンネルは当分使えなくなって、ついでに宇宙の終焉と創生の情報が高次元観測してたはずの相手の処理中枢へダイレクトに反映、情報の津波が押し寄せて、処理能力を圧迫。上手くすれば、処理限界で処理が終わるまで停止する。処理が追い付いてても処理完了まで極めて他の処理に回せる許容量が減った状態でデバフ付きで立ち回る事を余儀なくされるねと、解説する蜘蛛の顔)」

 

「(/・ω・)/(ついでにこの宇宙に負荷が掛かって、宇宙の膨張もしくは縮小の時間に影響が出るかもね。今、けーさんちゅーだけど、各地の地獄門経由のネットワーク情報からの推測で言うと恐らく4000億年くらい後に宇宙崩壊かな~とさっそく全宇宙知性移住計画を立案してみるロマン大好き系蜘蛛の顔)」

 

 こうして道は拓かれた。

 

 聖域への直通路はそのように蜘蛛と守備隊による大掃除で開通。

 

 侵攻するはずの王群以下全ての個体が真菌の餌となって戦力が消滅。

 

 ちちの道を舗装する為にイソイソと蜘蛛達は聖域へと侵入し、続々と後続部隊を送り込んでマッピングを開始し、地獄門を設置したり、例の白金の杭をあちこちに打ち込み続けるのだった。

 

 そんな事を知る者は殆ど無く。

 

 守備隊は蜘蛛達の広報によってニアステラを守り抜いた英雄と喧伝されて凱旋。

 

 蜘蛛達は表に出る事もなくイソイソといつものように仕事に戻り、一般労働者と亜人達に紛れて、ちちが戻って来たニアステラというホッとする地域でまったり次の仕事に取り掛かった。

 

 その最大の懸案は……何処か別の宇宙から送られて来た新しい機体っ子であり、何か白衣の狂人であるヴァルハイルが送り出したとか言っていた“ちちせんよーゴーレム”の成れの果てであった。

 

 魔改造というか。

 

 悪魔合体というか。

 

 世の中には何でも掛け合わせれば良いってもんじゃないよねと思う蜘蛛も一定層はおり……どうして、始祖破片と少年専用のゴーレムがガッチリ融合して別宇宙から送られてくるのかと首を900度くらい傾げる蜘蛛しか、その日はいなかった。

 

 世の中は不思議で一杯、夢一杯……ついでに悪夢と希望も一杯らしいという事実だけが独り歩きしていたのである。

 

『こちらイレギュラー0……四肢を全損……本格的戦闘は本形態では不可能と判断。中枢機体のパージを要請する』

 

『はぁぁぁ……好きにしたまえ……傭兵家業で捨て駒にされる事は何時もの話だが、今回に限っては……依頼主は弾避けになるならば、弾を防げる程度の防備はさせてくれるそうだ』

 

『言う事なんて何もないわね。我々には……はぁぁ……』

 

『つまり?』

 

『打診が来た。中枢機を世界の命運とやらにぶつける為にヴァルハイルからお客人がお越しだ』

 

『やぁ!! どうも、ヴァルハイルから派遣されて来たエル・アーカという者だ。済まないんだが、まずは君の肉体と機体の詳しい情報を教えてくれないかな? イレギュラー・ゼロ君。一仕事終わって何か死んだ事にされた後、復活したとか色々複雑なんだが、蜘蛛達から時間が押してるから、出来る限りやってくれとのお達しでね。此処の技術で君の機体と君自身を限界まで性能と諸々の能力を引き上げるついでに寿命を延ばしたり、肉体の損耗を回復させたりしてくれとの話なんだ。ああ、お代は結構だよ。蜘蛛達から貰っているし、片手間の短い時間だけお世話になる予定だからね。そうだな……2週間以内には出撃だろうから、1週間くらいで仕上げよう。私の事はエル卿とでも呼んでくれたまえ。いやぁ~~我が子が何かグレて帰って来るって別宇宙とやらから連絡が来てねぇ。こっちも色々大変なんだ。是非、君達にもこの大変さを軽減するのに参加して欲しい。ソレがこの星とこの世界の永続的な繁栄に繋がるんじゃないかな』

 

 忙しそうに移動空中要塞にやって来た竜蜘蛛の護衛付きな白衣の狂人が実際忙しそうに片手で何やら情報端末をポチポチ操作しながら、そう言うのを……要塞に組み込まれた責任者たる灰色の電脳を持つ男と傭兵女が胡散臭そうに見つめる。

 

『……了解した』

 

 最後にイレギュラーと呼ばれた男はヘルメット越しにそう頷いたのだった。

 

 だが、彼らは気付かない。

 

 この戦場で最も重要な位置を占めるはずだった二人の幼女。

 

 否、少女が現場にいなかったという事実を。

 

「どぉおおして起こさなかったんだぁあああ!‼? このクソとかげぇえええええええ!!?」

 

「無茶を言うな!? 居眠りして起きたら、せ、戦争が終わっていた、などと!? ご主人様に言えるものか!? というか、お前とて起こさなかっただろう!!? 途中で『起きなきゃ……むにゃむにゃ』とか言いながら結局寝てた癖にぃぃぃぃぃぃ!!?」

 

『たいちょー殿とへんきょーはく殿がまた喧嘩してる……でも、みんなでねてたから……部隊の責任だよね?』

 

『う、う~ん。よーじょになってずっとおひるねのじかんをとってた“へーがい”だな……』

 

『ごしゅじんさまにめちゃくちゃしろいめでみられそう……』

 

「どぉおおおおおしよぉおおおお!!? うえぇえぇぇぇ」

 

「な、泣くな!! 大人は泣かないものだぞ!? たいちょー!? ふぐぅ、う、ぅぅ……ご主人様におこられちゃうのらぁ~~!!? びぇぇぇぇぇぇ!!?」

 

 未来から過去への改変。

 

 その尤も重要な能力がたった二人の元幼女の部隊に集約され、それでも王群が敗北していたという事実を誰も知らない。

 

 ただ、うっかり寝坊で参戦しなかった事にしか出来なかった時点で彼らがその戦争に参加していた意義は極めて大きいものであった。

 

 またフニャフニャの幼女的な喋りに堕ちてしまった“たいちょー”と“へんきょーはく”の二人は泣きながら、何て言い訳すればいいのと困り果て、結局素直にごめんなさいする事となる。

 

 こうして無限回に頓挫してきた最後の遠征の前哨戦は終わった。

 

『―――アルティエ』

 

 聖域の中心部。

 

 蟲の巨人がいた中枢において。

 

 肉の塔で目が一つ開いた時、一人の少年にとって最後の冒険の幕が上がる。

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