流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて- 作:Anacletus
「けーこ?」
「そう」
少年がまた消えて戻って来た昼下がり、イソイソと英雄邸まで帰って来た少年はまた女性陣に詰られるかに思えたが、すぐに話したい事があると第一部隊、第二部隊、第三部隊、そしてカダスからやってきた人物達を纏めた第四部隊に至るまでを呼び付けて、英雄邸の地下。
黒蜘蛛の巣の鍛錬場……元々は蜘蛛達の最精鋭であるノクロシアンが自己強化する為の場所までやって来ていた。
空間制御技術を獲得して以降、空間拡張した場所は地平の果てまで何も見えず。
ただ、石畳と青空だけが広がる世界だ。
少年が遠征隊を一時休止させて呼び付けたのは現在のノクロシア踏破で必要になるだけの資材や資源は収集され切っており、後は実戦経験が足りない彼らに実戦を積ませる為であった。
「アルティエ。けーこって何するの?」
レザリアが訊ねている合間にも少年が指を弾いたと同時に左右に合わせ鏡を置かれたかの如く。
実像が増えていく。
神越概念呪紋【鏡界者】。
少年が始祖破片との戦いにおいて獲得した呪紋は始祖破片そのものの性質の一部。
つまり、あらゆる並行世界に存在しているという類の機能を模倣する。
分裂した少年は全て本物。
しかし、同時に別個の行動を行う事が可能であり、同時に死亡と共に全員が死ぬというだけの単純な制約で成り立つ力であった。
「「「「「「「「「「戦闘要員に1人ずつ稽古を付ける。多人数戦も行う。この概念域が近い領域ではどれだけの実力を出しても外の世界に影響が出ない。例外は因果律による干渉や次元干渉の類だけ。それ以外はほぼ封じ込められる」」」」」」」」」」
少年が剣も抜かずに増えながら遠征隊の前に並び相対していく。
「武器は生涯で一発しかないような制限があるモノ以外は全て使用可。何かを削る類のものならば、魂魄の3割までは使用可。肉体は8割まで。頭脳は摩耗しないように保護措置を実施」
ゴソゴソと少年が自分の腰に下げていた袋から取り出した砂をパラパラと全員に掛けていく。
「何でしょう?」
「何これ?」
首を傾げるフィーゼとレザリアの前で少年がスッと2人の手を指先でなぞると少し血が出た。
「あれ? 痛くありませんね」
「ホントだ……」
少年が総員を見渡す。
「痛覚を1000分の1以下まで落とす薬。ただし、痛覚が無いという事は加減が効かない。無理をすれば、自分が壊れる。でも、此処では壊れてもすぐに肉体は再生させられるように蜘蛛達が諸々の準備まで終わらせてる」
「(・ω・)ノ(くもーぐんきょーいのぎじゅつりょくですという蜘蛛の顔)」
「普通の人間は致命傷を受けると体が硬直して動かない。物理的に肉体が細切れになってると肉体も動かせない。でも、それじゃ困る」
少年の言葉にゴクリと殆どの者達の唾が飲み込まれる。
「此処では致命傷だろうと死ぬ1秒前だろうと反撃し、相手を打倒する。もしくはその手伝いが出来るくらいにまで死に隣接して貰う。ただし、死なないの定義は頭を砕かれないものとして扱う」
「つ、つまり?」
思わずレザリアが訊ねる。
「肉体は細切れになるまでやる。勿論、普通なら激痛で死ぬ。でも、激痛では死ねないようにした。この薬の効力は時間経過で軽くなっていく。つまり、致命傷に耐えながら戦って回復を繰り返して貰う」
【………………】
「それとこの訓練が終わったら、夢で何度も死んでもらう。相手の攻撃を回避する方法を体に覚え込ませるには単純に経験が一番効率が良い。でも、効率を重視すると心が持たない。此処では蜘蛛達が時間の加速や心理の復調、回復まで担ってくれる」
「(/・ω・)/(脳髄以外は大体使い潰していってねーという医療系部門統括蜘蛛の顔)」
「はぁぁぁ、お前ってホント……」
ガシンが溜息を吐いた。
「夢で死ぬ時の諸々の状況は5000種類くらい用意した。夢の中でソレを回避出来る装備や状況にもある。勿論、それが無い場合でも仲間に後を託す為の最適解も学んでもらう。ソレらを一つずつ地道に……」
「死ななくなったら合格か?」
「第一段階が終了。夢で死ななくなったら、そこから集団戦になる。1日を500倍まで加速して、体感時間は短くするように蜘蛛達には命じてある。夢に関しては夢が終わるまで体感時間を限界まで短くなるようにも調整してる。ただし、経験としての時間は物凄く掛かると思って欲しい」
「もはや、お前の方が怖いわ。そこらの救世神よりもな」
「まったく、ですわ。それで七日掛けてわたくし達を強化すると? それは労働ではないかしら?」
「労働じゃない。ただの……何でもいい。とにかく事前に内容は教える。でも、教えられていても本当にそうとしか思えないような事ばかりが襲って来る。最後にコレは夕飯までの1回の内容でしかない。これを7日間毎日数時間。体感時間もそれくらいの間に体へだけ数万倍の時間を使ったような状況で叩き込む」
「地獄の始まりかや……わ、我こう見えても繊細なんじゃが?」
リリムが腰が引けた様子で大きく溜息を吐いた。
「救世神はあらゆる状況を相手に押し付ける。勿論、今こっちが用意した代物は相手が押し付けて来るかもしれない状況でもある。それに一々折れてたら切りがない」
「あ、あたし、侍従だから、これは辞退―――」
「出来ない。もしもの時に誰が生き残ってもいいようにしないとならない。何をどう消されるのか分からない事すら普通にあり得る以上、遠征隊の戦闘要員は完全な後方要員以外は全員参加」
「ぅぅ……」
アミアルがガックリ項垂れる。
「途中で蜘蛛がダメそうならストップして回復してくれる。ただし、精神は復調しても、記憶は消えない。他にも記憶を消された状態で戦うみたいな状況もあると言っておく」
「もはや、何でもありですわね」
肩を竦めた元呪霊少女である。
「時には味方が敵になってる。あるいは裏切ったという状況で始まったり、相手に傅いていたり、相手に惚れさせられて、愛してる状態にされたり……みたいな事までは覚悟しておいて欲しい。怪物に食われるだけが死に方じゃない。自分の一番大事な人に乗り移られて殺さなきゃならないかもしれない。あるいは相手を助ける為には死ねと脅迫されるかもしれない。全部有り得るものとして人の心の弱さを突かれても負けない事を誰にも要求する」
第二部隊のまとめ役であるクーラル以下少女達の顔は真っ青だ。
動じていないのは妊娠中という事で肝が据わっているようにしか見えないボクっ子人魚くらいかもしれない。
金ぴかりゅーと蜘蛛達の間で名高い体が創りモノな兄弟と妹すら顔色が悪いのだ。
現在、二本足モードなアヴィがジト目になってから、自分のお腹を見やる。
「君の事だから、産んだ子供が敵になるとか親玉になるとか言い出しそう」
「勿論ある」
「人の心とか無いよね。うん……期待してたボクが馬鹿だった……」
アヴィラーシュがゲッソリした。
「アヴィはその子を産んでからやって貰う。なので、今日は全員の世話係」
「分かったよ。蜘蛛達の間で右往左往しておけばいいわけ?」
「そう。着替える場所は用意した。今から、蜘蛛達が持って来た呪具を全員が装着して貰う。生身じゃないヴァルハイル組以外は全員装着を義務化。蜘蛛が付け方と利用方法もレク……教えてくれる。場所はあっち」
少年達が周囲をウロウロして何やら立てていた蜘蛛達を指出すともう簡易の脱衣所がちゃんと建築されており、蜘蛛達が頭の上で脚を使って◎と使える事を宣言する。
「じゃ、開始で」
こうして遠征隊各位がゾロゾロと更衣室へと入っていく。
そして、すぐに青筋が立った女性陣が帰って来た。
「蜘蛛さんに言われたんですけど、これ……大事なとこに挿入するんですね?」
「男性も一緒」
「何に使うんです?」
フィーゼがさすがに引き攣った顔で訊ねる。
「糞尿をブチ撒けて死ぬのは普通にあり得る。というか、内臓をぶちまけながら戦うのは普通。食事をせずに戦う事はあり得るけど、いつでもそうなるとは限らない。もし食事をしなければ、力が出ないかもしれない。でも、食事をすれば、糞尿で内臓が汚染されるかもしれない」
「つ、つまり、その状況でもボク達が絶対に生き残る方法を誤らないようにするって事? アルティエ」
レザリアに頷きが返る。
「遠征隊の女性陣には一応、契約で実戦時にはこっちへ傷や死を受け渡せるようにしてある。でも、それも完全じゃない。もしもの時、準備が何も意味を成さなかった時、それでも戦い続ける為に……必要」
少年の言葉も瞳も真っ直ぐだった。
そこで女性陣が折れた。
溜息一つ。
仕方なさそうな笑みで頷く。
「それと今の体の殆どの状況を“鍛えていない状態”でも戦ってもらう。それが終わった後に夢でもショックで垂れ流しにならないように配慮してると思って欲しい」
もう女性陣に否は無かった。
「勿論、垂れ流しにならないように転移で消える仕様。肉体内部の物質に限っては蜘蛛達に検査もして貰う。色々な病気やケガ、諸々の毒に対する耐性。そういうものにどれだけ準備が出来るかで後から遠征隊が生き残れるかどうかが決まる。この際、羞恥心で死ぬ事を選んでもらうのは無粋。例え、どんな姿でもどんな状況でもどんな事になったとしても……生きていて欲しい……だから、コレは必須」
少年が少女達の手に持たれていた肛門と尿道に挿入し、諸々の排泄物を処理する類の魔術具……股間を肛門まで覆う湾曲したカップ形のソレを見て言い切る。
少年の真面目な様子に女性陣が渋々ながらも納得し、ゾロゾロと消えていった後、何やら「ひあぁ!?」とか「ひぃぃぃ!?」とか色々な声が聞こえて数分後。
何やら股を抑えてやってくる涙目女性陣に睨まれまくり、男性陣は男性陣でゲッソリした様子で歩いて来る。
例外はオーガの将くらいだろう。
角の騎士ですら何か黄昏ているのだ。
「「「「「「「「「じゃ、始める。総員、指定位置に」」」」」」」」」」
少年が増えた程度ではもう動じはしない者達。
背後では戦闘要員ではないヴァルハイルの女学生が一人だけ「うわぁ……」みたいな顔になっていたが、横からお茶を持って来た蜘蛛達にテーブルで持て成されていた。
ヴァルハイルの重鎮となった友人も現場ではなく宇宙の方で頑張る事になっていた為、非戦闘要員は戦闘要員となる隊員達がこれから味わう地獄を知らない。
ソレは……蜘蛛達しか知らないが、確かに在った世界で少年が朽ちて来た……その一部、記憶の再現にしか過ぎない。
だが、それだけで心を無限に粉々にされた少年の追体験であり、蜘蛛達が蜘蛛達として形成されるまでに味わった世界の欠片でもあった。
こうして、遠征隊の本当の試練が始まる。
*
「メレディーナ様。哺乳瓶の用意が出来ました」
「あ、はい。すぐに……それにしても外界も進んでいるところは進んでいるのですね」
「ええ、産後の乳母の方が居なくてもお乳の代わりになる吸い口がある瓶だなんて、とても助かりますね」
「ええ、赤子には吸って貰うのが一番ですから」
英雄邸内部。
地下で遠征隊地獄の訓練が始まったのも束の間。
内政組の多くは子育てに励んでいた。
「いつ見てもこの子きれーだね~。メレディーナ様」
「ええ、近頃は髪の色が色々変わっていて、見ているだけで驚きますから」
孤児達が近頃は安定して来たからと屋内から庭に出て日差しを浴びるようになった赤子を抱いたメレディーナの傍に寄って来る。
ニアステラの英雄の子。
と、世間では認知されている呪霊と精霊の子は髪の色が日の下では淡い白金に虹色のグラデーションを混ぜたかのように見る角度で色合いが変わるようになっていた。
「まだこの子には名前はありません。でも、この子を知る方々が祝福してくれる。それはとても幸せな事です。だから、幸せである内にこの子を強い子に育てなければ……この子を甘やかしてくれる人を、叱ってくれる人を、この子自身が護れるように……」
「まもー?」
「ええ、此処に来て時間も多少は立ちました。だから、分かるのです。人豚の邦から出た事も無い小娘ではありますけど、此処が良いところだと。良いところにしようと誰もが戦っている。同時に多くの人が自分達を押し殺して暮らしている。でも、その平穏すら今は……」
「?」
「ふふ、まだ難しいですよね。ですが、何れ……貴方達が大人になったら分かります。いえ、大人になるまでの時間をきっとあの方達は創るでしょう。わたくしもまた協力したいと……今は心から思います。まぁ、あの英雄は刺されて当然だと思うけど、ね?」
「めれーこわー」
「ごめんなさい。さ、皆さん。今日は遠征隊の皆さんが色々やってる最中ですから、農業区画で収穫のお手伝いをしましょうね?」
「あーい♪」
「ぅ~~♪」
「あら、この子も賛成みたいですね。蜘蛛さんよろしくお願いします」
「(・ω・)ノ(あいよーと子供達1人に1人ずつ護衛に付く蜘蛛の顔)」×一杯。
此処最近、呪霊の者達や一部の受肉神達には“ニアステラの媛”と呼ばれる赤子は黒だったり、白だったり、と毎日髪の毛の色合いの色調が変化しており、何かしらの外界の影響を受けているらしいと蜘蛛達はあまり悪い影響が出ないように結界を常に館へ張っていた。
だが、それでは息も詰るだろうと少年が戻って来たタイミングという事もあり、孤児院の子供達も連れて、ちょっと遠くまでメレディーナの引率で社会見学へと向かっていく。
「あらまぁ!! 孤児院の子達じゃない。もうお外に出られるようになったのね」
「ああ、お隣の……はい。今から農業区画で子供達に色々見せた後、丘で遊ばせてこようかと」
「あらあら? もしかして、その子がニアステラの英雄様の?」
「あはは……はい」
「綺麗な髪の色ねぇ……」
岩盤の上から採られた光が降り注ぐニアステラとフェクラールは今や日差しの暖かな世界となった。
太陽は見えずとも太陽のように降り注ぐ明かりは採光糸によって外界から引き入れられ、緋色の塔からの神の力の供給も受けており、生命を育む力に満ちていた。
空を見上げたいという時は一般開放されている黒蜘蛛の巣の天井から続く回廊を通って岩盤に設けられた蜘蛛達の通路を通り、ホワイトピーク付近の神殿付近から外を見やる事も出来る。
「おお、あれはめれでぃーなどのだな」
「どうやらいんそつらしいな」
「あれがうわさの……ご主人様のややこか」
「むむむ? 髪の色がキラキラしておるな」
「あれはしょうらいびじんになるだろう。たのしみなことだろうな。やかたのじょせいたちも……」
今や諸々の事件で焼き絞められた巨大山岳は塔を中心としてクレーターと白い山と長大なグラングラの大槍の砲塔が密集し、同時に巨大な飛行船舶の係留拠点となる宇宙港が増設され、数百隻近い黒鉄の軍艦を整備する乾ドックと合わせて巨大基地と化しており、宇宙の方から持って来た技術を元にして改築。
ターミナルが複数置かれた滑走路と係留中の宇宙線と軍艦が緋色の塔基部の周囲に浮かんだリングに螺旋状に係留されている壮大な景観を人々に見せていた。
「こ、ここが、楽園……これが旧き者達の都の上にある、のか!?」
「見える限り、この宇宙にも殆ど無い資源ばかりだ。このような超重元素の入り混じる空気に高次元より降り注ぐ暖かな光。それにアレは……で、伝説の……あの種族がここの者達と共生しているのか……」
「み、見ろ!? あの蜘蛛共!? まさか、蜘蛛はあの種族との混合体までも……」
「オロモス級一隻と比べても価値なら上回るか。だが、殆どは準知性体止まり……しかし、見事なものだ……それなりの数の個体を統治していながら、誰一人蜘蛛のちちとやらを疑うものは無いのだな」
「先達よ。キョロキョロとみっともないぞ。我らはおのぼりさんか?」
「はぁ……それが帝国を潰した皇帝の言う事か?」
「残念ながら、我らの時代が終わった以上は蛇足だ。後は悠々自適と行こう。しばし、観光でもしてからな。あの御仁も我らには劣れども、決して油断も隙もない交渉相手だ。蜘蛛達の支援もある以上はしばらく大人しくしておけ」
「帝国敗北後の後始末……何千年掛かるものやら……」
最初こそあの軍事基地は何だと騒いだ亜人達であるが、蜘蛛に説明されてもよく分からず。
そういうものとして受け入れるしかなかった。
蜘蛛と外から来た“うちゅーじん”とやらがいるとだけ知っている者は知っているし、火星域や星系内の蜘蛛達の拠点化した惑星からの魂から再生した楽園への不法入星者達が諸々の規制を受けながら、現在は基地内部で働き出してもいた。
まだ、ニアステラに降りる許可は出されていないが、彼らの殆どは楽園に到達した事を一時は歓びつつ、その後のいつもと変わらぬ蜘蛛達との諸々の労働に勤しむ事となっていた。
「此処が楽園……楽園? いや、何かこう……温かいのは分かるけど」
「オレ達が求めてた楽園とは何か違わなくないか?」
「(・ω・)ノ(楽園なんて基本自分で創るものでしょ。君達が頑張った成果で自分も他人も幸せなら、其処が君の楽園さと一般的楽園論を宇宙労働者諸氏に伝えて見る蜘蛛の顔)」
「楽園は……オレ達が創る? はは、一度も考えた事なんぞ無かった……何処も地獄だったからさ。ああ、でも……此処ではソレが可能なのか……」
ポタリと涙を零す宇宙の最底辺にして楽園を求めて永劫彷徨う覚悟で死んだ者達……その転生者は蜘蛛の前で拳を握る。
「(>_<)/(地獄も楽園も然して違いなんて無いよ。君の人生は君の地獄で君が頑張ってたら楽園になる事もある。そういう事じゃないかなと曖昧回答で相手を煙に撒く蜘蛛の顔)
「しゃーない。なら、楽園創るか。あの星との貿易で何か儲けられるって言われて来たし……お前らぁ~~この基地をオレら色に染め上げて、此処を宇宙一の港にしてやれぇええええ!!!」
『おぉおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』
こうして急ピッチで宇宙からの使者達を出迎える為の準備が進み。
宇宙港内部の整備と体制作りは迅速に片付けられていく。
その殆どがヴァルハイルの三日月角の上司の部下だったりするが、宇宙労働者の殆どは男を生で見た者もおらず。
映像や音声だけで諸々指示出しされていた事も相まって、彼らはベクトーラ・ラクドを楽園の管理者、と内心思っていた。
蜘蛛達からも“事実上の管理請負業務してる人”という話を聞いており、正しく支配者として認識されているというのを本人だけが正確に理解していなかった。
勿論、本人は単なる苦労人のデスワーカーであり、至って一国家の組織を束ねる若造と自分を思っていたわけだが、彼の致死量の仕事を摂取してゲッソリしながら秘薬漬けで戦う姿は今や宇宙中の彼の部下に配信されており、楽園の管理者ベクトーラの名は彼の知らないところで日々、多くの蜘蛛達が制圧した銀河では広まり、囁かれ、勝手に翅と尾ひれが付きまくり「謎の楽園の管理者」として爬虫類系亜人種族達の多くから神なのだろうとすら言われていた。
こうしてヴァルハイル初のブラック労働者だとは気付かれないまま。
彼の話だけが宇宙を独り歩きして蜘蛛と対等な唯一の存在だとか。
蜘蛛達の上位者だとか。
適当な話が宇宙のあちこちで罷り通っているのであった。
「ふぅ。ようやく昨日の書類の決裁が終わったか。秘書連中はヴァルハイルの工場関係回すので手一杯……事務処理仕事が出来る秘書が後4ダースは必要だな。オレが死ぬ……」
本日は何か宇宙のヤバイ敗北者連中が来るので労働力を負けた帝国銀河団からどれくらい融通するかという話し合いがなされるとの事で基地へと来ていた彼である。
一室では巨大なスクリーンに膨大な数の情報が流され続けており、その中心では書類が決裁され終わったが、蜘蛛があちこちからまた書類を積み上げていた。
「……ん? んぅぅぅん? な、なぁ……ちょっと聞きたいんだが、何かオレの目がオカシイのか? 二日前にお前らから渡された資料の人数の桁が5桁くらい違うんだが」
「( ^ω^ )(あ、それ拡大してる制圧域と未知の銀河の制圧で拾った難民とかが日々加算される仕様になってるんだよねと数字が変化する紙資料を胸を張って新技術ですと手渡す蜘蛛の顔)」
「は、はは……確かにオレはお前らに金借りて色々して貰ってるけどよ。勝手に管理の手間が増えるとか。契約してないよな?」
「( ̄д ̄)/□(はいコレ。契約書の写しね。4枚目4行目に書いてあるよと手渡す蜘蛛の顔)」
「え、えぇと……本契約者の業務処理能力に関する限界に対して蜘蛛は過剰な委託を行わないとする。ただし、業務内容に付いて本契約者の処理量を効率化出来る場合は健康を損ねない範囲で……業務委託の増加を行ってもよいものとする……って、これ滅茶苦茶お前らと出会ってすぐの頃に頭働いてねぇ時の……く、詐欺師紛いめ……」
「(;´∀`)(酷いなー。自分でサインしたじゃないですかーやだーと笑顔な契約は相手の弱みに付け込んで結ばせるものと思ってる島の法律詳しい系蜘蛛の顔)」
「………つまり、アレか? 今のオレは五桁増えても処理出来て、健康も損ねない、と?」
「(≧◇≦)(毎日、秘薬を呑んでぱわーあーっぷしたヴァルハイルさいきょーの肉体を是非使ってみてねと現在の“本契約者”とやらの肉体の情報を数字で出してみる蜘蛛の顔)」
「ゲッフォ!? ゴッフォ!? ちょっと待て!? 何だこの数字?! あの角の騎士や元生徒会長とかのヤツは管理の一環で見てたが、どうしてオレの数十分の一なんだ!?」
「(´・ω・`)(だって、出会った頃から毎日『体が持たねぇからあの秘薬くれ』って言うから……と正直に話してみる蜘蛛の顔)」
「管理の一環で連中の健康診断資料見てたから分かるぞ!? は?! オレ、もう受肉神超えてる数値なの!!? どうなってんだ!?」
「(;・∀・)(だって、ちちが飲んでた秘薬を融通し始めた頃から、ちち用の秘薬ちちより飲みまくりだったから……と真実を告げて見る蜘蛛の顔)」
「そもそもアイツ用の秘薬って何だ!? オレはあいつが使ってた秘薬をくれと言ったんだぞ!? あいつ個人用の秘薬をくれとは言ってねぇ!!? コレ呑み続けてたら、こんなになるのか!? 普通は途中でヤク中になって死ぬだろ!!?」
「( ̄д ̄)(日々、蜘蛛とエルガム医師が改良してたので時間経過でより飲み易く、より効果が出るようになってますハイと過去と現在の秘薬の効果をパーセンテージで表示してみる蜘蛛の顔)」
「―――49万%効果が上昇って何だ?!」
「(>_<)/(色んな場所の叡智と技術をけっしゅーしたちち用の最強秘薬だからね!! ちなみに標準濃度はちちが気付けや回復時に呑むヤツの30000分の1まで薄めてあるから、殆ど誰も飲む事もなくて悲しかったけど、呑んでくれるようになって在庫も減って嬉しかったよ!!と現在の秘薬在庫の数を資料で出してみる蜘蛛の顔)」
「あいつが飲まねぇ秘薬なんぞ創ってんじゃねぇ!? 本人に呑ませろよ!!?」
「(・ω・)ノ(標準濃度の効果って今のちち相手だと本当に活力剤くらいの効果しかないから、お嫁さんと頑張る時くらいしか使い道ないんだよねーと精力剤でもある事を白状する蜘蛛の顔)」
「うごごごごご……何でヴァルハイルの戦闘要員よりオレの方が数字高いんだよぉおおおお!!?」
「(・∀・)(一定以上の実力がある相手同士だと肉体強度とか殆ど意味が無いんだよね。一撃必殺の打ち合いと削り合いになるけど、あんまり肉体の能力が高くても扱えなくて困るから、遠征隊の秘薬は扱える器量ある分だけ飲む事になったんだよなーと数か月前からの秘薬の投与計画の詳細を虚空に映し出してみる蜘蛛の顔)」
「せ、戦闘要員って第一部隊の連中だけオレより高いのか。他は半分かその下? つまり、近頃体の調子がやたら良いとか思ってたのは……」
「(*´ω`)(秘薬でけんこーになった証ですねハイという蜘蛛の顔)」
「つーか!? この数字で普通にどうして暮らせてるんだオレ?! コレ下手したら、軽く動くだけで要塞くらい粉砕するだろ!? 握力や跳躍力一つだけ取ってもどーなってんだよ!!?」
「(`・ω・´)(あ、近頃は黒蜘蛛の巣がある地域は全部、神レベルの存在は方陣呪紋とプラチナル=サンのいる空間だと能力削減対象なんで、しっかり引っ掛かって制限掛かってますと教える蜘蛛の顔)」
「オレはもうこの島から出るなって事だな? あいつぅううううううううううううううううう!!!?」
「(/・ω・)/(脳内への魔導呪紋のリミッターも付けるからもーまんたい!! その内、能力削減領域を移動出来るようにするから、実験にお付き合いしてねーと今後の計画を押し付けて見る蜘蛛の顔)」
こうして、不滅の経営者(仮)となった者の叫びも知らず。
宇宙労働者達はニアステラの頭上で働き始め。
地表の多くの種族は何か良く分からない基地よりは自分達を護ってくれる少年の配下となった王の所領というホワイトピーク参りに向かう者の方が多くなった。
神は奉じられてこそ神であるというのは間違いなく。
彼らにも理解出来る蜘蛛達が取り仕切る受肉神用の祭殿では奉納用の願いを書く板切れが売られており、ソレらを吊るしておく壁が祭殿横には並んでいた。
神は願いを聞き届けず。
しかし、祈りを奉じて力と成し、汝の住まう場所を護るであろう。
というのが、蜘蛛達の建前であり、亜人達にも受肉神達から地域を護る者を奉じるよう言われた者達は多くが詣でている。
賑やかな祭殿横では蜘蛛の屋台が軒を並べており、プラチナルを入れた護符のネックレスやブレスレットを販売。
ソレが何なのかを何となく理解している知性体なら「ぶ、ぶっ飛んでる……」とか言われそうなヤバイ金属片を有難がった人々はイソイソを買って、安全のお守りとして子供達や親しい者に送るのが習慣化された。
「ほら、王様にお願い事書こうな?」
「うん。え~っと……きょ、うも、おとーさ、んが、ぶじにもどって―――」
「(うぅぅぅ、我が娘よ。お父さん必ずお前の晴れ姿見るまで生き抜くからな)」
「(>_<)/(は~い。お嬢さんとお父さん。板を今、飾っておきますね~と壁際の上の方にさっそく掛けていく事務員兼神官兼椅子管理系蜘蛛の顔)」
「お願いします。それじゃ、お守り買って帰ろうか」
「うん。蜘蛛さんじゃ~ね~」
「(^O^)/(じゃ~ね~と手を振ってお見送りする蜘蛛の顔)」
プラチナルは今やニアステラとフェクラールのあちこちに鉱床となって現れたり、植物や動物の一部に張り付いていたりするのだが、誰も気にする事は無い。
プラチナルで最も変異したのが蜘蛛達であり、それを使う種類として【プラチル】と命名された白金色の蜘蛛が今は少数存在し、あちこちに出没しては様々な任に当たっていた。
彼らは普通の蜘蛛よりも上位次元、高異次元に対する干渉力が高く。
プラチナルとの親和性の高い蜘蛛が一定以上、プラチナルを吸収すると本来の別種類の蜘蛛から変化する特殊変異個体であり、事実上はオネイロスとヘリオスの直属の部下として地獄門の中枢管理及び高次元からの干渉に対するスペシャリストとして先日の戦闘中は演算中枢、緋色の塔と同化し、地獄門の制御にリソースを割いて、あらゆる処理を担っていた。
しかし、どれだけの処理量が在ろうとも、全ての情報を捌ける程ではなく。
休みも取らないとならない関係で普通の蜘蛛達にもそういった処理は任されるようになっており、各地では次々に分業化、業務の分散化が進んでいる。
「( ̄д ̄)(・ω・`)(-ω-)」
そんな仕事を任された数名の蜘蛛達が英雄邸の一室へと向かう。
地下で訓練が始まったのであらゆる銀河、あらゆる世界へと派遣された蜘蛛の様子をヘリオスが用いる地獄門経由でソファーに座って見始めた。
時間を加速して宇宙各地の情報を処理する場所が黒蜘蛛の巣の区画にはあちこち出来ていた。
あまりにも多い情報処理は現地の蜘蛛のみならず。
宇宙各地の手空きな蜘蛛が日々必要な問題を洗い出して解決。
近頃は訓練以外やる事が無くなったような、暇になった蜘蛛に情報処理が回されている。
『同胞を浚っていたのは貴様だな!!? 害虫め!!? この美しき私が億万の神罰を下してやるわ!! 我が肉体、我が力は無げ―――』
『(|д|)カワイイ』
『へ? な、あ、あ、う、へぎゅゅぅううううううううううう!!!?』
『(T_T)(新しい銀河から収集した能力使ってみたけど、摂理系は法則そのものなだけあって、強制力はやっぱり一番強いんだよなぁ……相手が単なる神モドキみたいな能力と個体的な資質しか持ってない場合、到達してない領域の力で一方的になるから……と一瞬で“カワイイ存在”となって力がまったくない個体へと変質、敗北した自称美しき神と名乗る結構強めな種族の少女を適当に糸で巻いて周囲に吊り下げる顔)』
「(´・ω・`)(お~~言語発生で発動する系統の能力を合成音声で可能になったのは大きいなぁ~~と蜘蛛の喉に仕込まれた音声の合成機器を見やる一般蜘蛛の顔)」
『(|д|)こちら探索艦隊所属00032/L探索部隊。新規銀河において神を自称する亜人種族を発見。現地惑星に存在する749億の知性の1割に該当する種族は蜘蛛の総合能力の平均2%に該当。個人探索している為、惑星全域の制圧は困難。“新しい蜘蛛”になりそうな種族と思われる現地知性に対して部隊派遣を要請する』
『くぬぅうううううううううう!!? 蟲の癖にわたしにこんな辱めをぉおおおお!!? はぅ!? ち、力が!? 力が出ない!? いや、き、消え、これ力消えてるぅううううううううううう!!!?』
『(T_T)(ま、相手の変質までイケる力も因果律操作の下位互換だけど、十分強いんだよなぁ……もしもの時の保険にもなるしとさっそく仕事を始める蜘蛛の顔)』
「( ̄д ̄)/◎(・ω・)/◎(-ω-)/◎」
『(|д|)要請受諾を確認。広域読心を開始……32億人の蜘蛛化対象及び排除対象を確定……』
『な、何だこの能力ぅううう!!? わ、わたしの心に触れるなぁあああああ!!? 失礼にも程があるでしょぉおおおおお!!? この害虫ぅうううううう!!?』
『(|д|)当該自称神格種族のエネルギーのアクセス先を検索した結果。旧き者達が嘗て使っていたと思われる神格式エネルギー貯蔵次元階層を複数発見。恐らく、旧き者によるエネルギーの貯蔵庫と思われる。魔王蜘蛛の派遣を要請。新たな貯蔵空間の天界への接続を更に要請』
「( ̄д ̄)/◎(・ω・)/◎(-ω-)/◎」
『(|д|)領域座標送信。これより戦力流入初期段階達成の為、黒蜘蛛の巣の建造に着手する』
『ふわ!? な、何その莫大な力!!? わ、わたし達の―――数千倍!? 馬鹿でしょ!? そんなものを制御し切る事なんて、どんな生物にも不可能なはず!!?』
『(|д|)本星における人格矯正必要率は32%。当該種族以外は準亜人定義で確定。極めて健全であると推定。浸透工程は良好惑星基準とする。また、知性基準でほぼ現象である負の感情を基礎とするエネルギー体を複数確認。惑星崩壊級4、大陸崩壊級93が封印処理されている模様。消滅手順可能と判断。デルタ殲滅部隊2ダースとミストルテイン級1隻を要請』
「( ̄д ̄)/◎(・ω・)/◎(-ω-)/◎」
遥か果ての蜘蛛達が◎が付いた看板を掲げて許可を出していく。
『何言ってるか分からないけど、侵略者的な事言ってるうぅううううう!!? 止めろぉおおお!!? な、仲間が助けに来るんだからねぇ!!? わたしを助けに……ってぇえ!!? 何それぇええええ!!?』
『(|д|)善良性良好な個体群の接近を検知。総合能力3%個体を3体確認。交戦の意志在り。迎撃用意開始。ノクロシアン化開始。制圧捕獲行動パターン399を実行』
『み、みんな来ちゃだめぇええええええええええ!!? こいつは!? こいつは!? グノシアじゃないのぉおおおおおおおおおおおおおおお!!』
『(|д|)個体を視認。制圧を開始する。文明レベルの維持を前提に出力上限1%……概念防護壁展開……魔導呪紋【能力封鎖‐032/G】を多重積層密集化。行動開始』
『今、助げぼぁああああああああああ!!?』
『う、嘘!? カナタぁああああああああああ!!?』
『馬鹿な!? カナタ君がやられた!? そんな!? 彼の最強のフォーム中に何も出来ず!? くッ!? 化けッ、ぐわあああああああああああああ!!?』
『は、はんちょぉおおおおおおおおおお!!!?』
『な!? の、能力が消え―――』
『(|д|)制圧中』
『きゃぁあああああああああああ!!?』
『アサカァアアアアアアアアアア!!?』
『(|д|)制圧中』
『そ、存在消失弾が効かない!? 相手の存在を打消し出来ない!? 能力の中和なんてことができるはずが―――』
『(|д|)制圧中』
『み、みんなを護るのはお、オレだぁあああああああああああ―――』
『(|д|)制圧中』
『みんなぁあああああああああああああ!!!? 早過ぎッッ、ゴフ?!!』
『(|д|)制圧完了』
『う、嘘、班長もリリアも、嘘よぉおおおおおお!!?』
『この害虫が最強の班長の剣技やカナタの力まで超えるなんて!? どんな能力だって言うの!? この?! この?! 放しなさいよぉおおおおお!? きゃ、糸が切れた!? み、みんなぁああああ!!?』
『(|д|)初動構築物資の集積完了。地表露出。黒蜘蛛の巣の建造を開始。地獄門顕現準備完了……発現コード発信』
『じ、地面が、きゃ!? 何、揺れてる!? な、何を?!』
『み、みんな、逃げるんだ。コイツには今の力じゃ勝てな―――』
『こんなの!? 世界を滅ぼす超級のグノシアだって此処まで理不尽じゃな、きゃぁああああああ!!?』
『(|д|)黒蜘蛛の巣との接続を完了。全能力解析開始。敵対勢力の能力解析終了まで12分。解析個体を巣内部に保護終了。全行程完了後、黒蜘蛛の巣の再生産を開始する。惑星全土の建築予定箇所への設置に303時間と推定。惑星内の当該能力名称【
蜘蛛達はあちこちの銀河で法則、定理、摂理、そういった類の宇宙内部に組み込まれた力の収集がてら、1銀河1蜘蛛くらいの調子で拡散中であり、その高次元干渉能力の反応がある地域へと赴いて邪神やら神モドキやらの種族達の惑星へと到達。
次々に人々の未来を灰色に染め上げていた。
彼らのもっとーはシリアスさんをコミカル(物理)で殴り付け、ドラマチックに人々に悲劇や悲壮感を漂わせる悪党と非倫理存在を抹消し、日常系アニメ張りに世界を平和にして貧困と戦争と飢餓を絶滅させる事である。
バトルもの漫画やアニメ張りの能力合戦なんて望んでいないので惑星に到達→情報の解析→黒蜘蛛の巣造営→地獄門顕現→世界規模での幻影呪紋→蜘蛛一杯にして制圧という極めて迅速な活動が売りだ。
ついでにあちこちに帝国銀河団のネットワークを使ってチャンネルから各地の現状を垂れ流し、みんな制圧されたし、みんな平和になってるから、逃げ場所はないよと暗に伝えて反蜘蛛派の心まで折るという具合である。
今日も今日とて神っぽい人型知性体がいる惑星で何か普通の種族相手ならかなり強そうな旧き者達が創ったらしい種族をイソイソと制圧。
アニメなら途中でバトルものの主人公がやられて、いきなり日常系に切り替わるという恐ろしい現実を戦闘系人材達に叩き付けていた。
『こ、こんな!? この反応は―――旧き者の!!?』
『て、転移!? まさか、旧き者の船が!!?』
『け、顕現していく。樹の船? いえ、大陸、なの?』
『―――馬鹿な!? この数値……奴らのエネルギーはオレ達を遥かに……』
『見える……転移先と繋がってる。あの緋色の門の先……遠くに……う、うぁ…ぁぁ……』
『あ、あんな数、どうしろって、どうにも出来るはず……』
『うわぁあああああああああああああああああああああああああああああああ――――!!?』
黒蜘蛛の巣が顕現したのは侵略中の惑星の島国。
首都の倉庫街にニョッキリ生えた巣の周囲に顕現するデミ・ストレンジ・レッド製の巨大な地獄門が緋色の光をそれっぽく全世界に放出。
完全にエネルギー化しない程度に砕けながらの為、光に乗った超微細化されたソレは世界全土へと拡散。
物質を砕くのではなく。
生物以外を侵食して、黒蜘蛛の巣の複製へと取り掛かった。
その光に併せて幻影呪紋が入り乱れ、電子機器を使っていれば、光学映像を送受信する機材を通してあらゆる地域で蜘蛛化が発生していく。
悪党も非倫理存在もバッサリである。
こんな調子で代わり映えしない侵略活動の許可や諸々の意見を行う蜘蛛達が毎日送ってくれる映像は蜘蛛系チャンネルのメインコンテンツ【蜘蛛の宇宙制圧紀】として全面的に各銀河、各銀河団用に編集され、音声やBGMを入れて戦記物や日常系、戦争ものとして帝国銀河団始まって以来の超絶人気番組となった。
これには蜘蛛もニッコリ。
蜘蛛の活動資金にチャンネルの収益を当てて、ついでに人々に世界の現実をお伝えしつつ、蜘蛛の活動で如何に人々が救われているのかをプロパガンダし、悪党やヤバイ連中が消えた後に蜘蛛に感謝する人々を映し、洗脳……もとい教化し始めた。
今や帝国銀河団に所属する準知性体と呼ばれた亜人達全てが見ているのではないかというチャンネル登録者数は爆上がりしており、大人から子供まで愉しんでいる。
子供向けはほんわかした惑星で蜘蛛達が制圧活動するまでもなく平和な世界の人々とランランルンルンしているところを映したものが採用されたし、大人向けは笑い有り、涙在りで編集されたし、怪獣映画風にされたり、サスペンス風味にされたり、蜘蛛と制圧される星々の人々との心温まるハートフルストーリー(引き攣った笑み風味)が反響を呼んでいた。
でも、やっぱりアクション・バトルものが一番人気が高く。
あちこちの惑星で蜘蛛VS現地惑星種族の映像が流れると賭けの対象になった。
勿論、どちらが敗北するかではない。
どれくらい蜘蛛と戦って相手が持つかを日数で賭けたり、1戦闘の時間で賭けるという具合である。
蜘蛛の公式賭博なので賭け事が大好きな人々はさっそくご満悦。
しかも、掛け金が極めて安く。
当てれば、配当が大きいという類のものにした為、野良で賭博する者も殆どおらず……蜘蛛による胴元という事で不正のしようも無かった。
蜘蛛達も儲けとしてあちこちの貧乏惑星への資金調達に丁度良いからと戦闘をわざわざ飽きさせないように工夫し、わざと派手にしたり、緩急を付けてもいる。
CMもちゃんと入っており、彼らの本星として認識されている楽園の品がザックリと蜘蛛の氏族商会名義で紹介されていた。
その殆どの商材を生産する企業体としてヴァルハイル有限公司とかヴァルハイル重工業とかヴァルハイル商会とか。
全部1人の男が持ってる株組織が宇宙規模でお披露目され、今や取引先は引く手数多となっていて、楽園からの直輸入品としてあらゆる品物が物珍しさと実際に競合商品相手にも競り負けない質の為に品薄。
火星や蜘蛛達が近場に引っ張って来た惑星上に開拓した黒蜘蛛の巣に設営された生産現場では莫大な難民や移民達がヴァルハイルの企業体の傘下として組み込まれ、大量の製品を宇宙全土に送り出している。
それこそ1日億単位で労働力が入って来る現場では日々人々が黒蜘蛛の巣に補充され、黒蜘蛛の巣が立てば即日全室入居。
蜘蛛による現場施工は急ピッチで進められ、ラインは連日連夜フル稼働。
あまりにも非効率的な生産現場はあらゆる事を人員にさせて職人を育てる現場であり、正しく知らない内にヴァルハイルの俊英は植民惑星を毎日1個単位で獲得していくだろう。
しかし、蜘蛛達によって平穏が強制された事はやはり多くの星では中々に進歩の鈍化と共に精神の活力を奪うだろうというのが見解であった。
故に蜘蛛達による宇宙篭絡の為にカンフル剤として程々に蜘蛛に反抗する層にも元気を取り戻してもらうという……本人達が知ったら噴飯ものだろう計画も立ち上がっていたりする。
「私達が悪の組織、ですか?」
「ヾ(≧▽≦)ノ(人間は娯楽と刺激に飢えてるからね。平和になってもちゃんと戦える人間が戦いたいと思える理由が無いと簡単に人ってやる気を無くしちゃうんだよねと看板で死んだ魚の目になった人々を映し出してみる蜘蛛の顔)」
「確かに……それで何故に悪の組織などを造ろうと?」
「(>_<)/(蜘蛛の操る悪の組織と戦って、彼らが勝てば、彼らに少しずつ自治権や領土を開放するって言って、反蜘蛛派を集結させつつ隔離、ついでにソレ以外は普通の社会生活を営んでもらって報告義務もあるって形にしようかと思ってるんだーと書類を出してみる蜘蛛の顔)」
「つまり、反乱分子のガス抜きですか?」
「(^◇^)(彼らには正義の組織って体で力をルールに従って独自開発して貰って、蜘蛛に勝てないけど、蜘蛛の部下になら勝てるかもしれないって希望を与えて見るわけですねハイと状況を絵にしてみる蜘蛛の顔)」
「ふむ。つまり、反乱分子達に希望をチラ付かせて、わざと正義の味方を名乗らせる事で彼らが悪者になるのを防ぎつつ、彼ら自身に社会的な蜘蛛に対する反抗的意見と力を集約させて、ルールに乗っ取って不満や感情を解消させつつ叩き潰す、と」
「(/・ω・)/(自治権を与えるまでは勝負の形にして、与えてからの維持に付いては悪の組織からの攻撃を自治領がちゃんと抑えられるかを査定対象にするって事だね。負けが込めば、自治領は解散。勿論、勝てば自治領を拡大)」
「よく考えていらっしゃる」
「(^ω^)(何度でも解散して、何度でも自治領を得て貰えば、種族が滅ぶまで延々と取って取られてを繰り返して、死人も出さずに茶番が出来るって事さと新しい支配方法を確立しようとする賢い蜘蛛の顔)」
「やってみましょう。プロモーターとして衣装デザインや各ガジェット、建造物に関する知識はあります。それらを万民受けする形で造りましょう。ついでにチャンネルのメインコンテンツに追加しては如何でしょうか?」
「(;・∀・)(君も乗って来たね~とニヤニヤする蜘蛛の顔)」
「惑星単体のみならず。各惑星、各星系、各銀河の組織を連携させて、ルールを作ってクリーンな代理戦争……死人が出なければ、茶番だとしても権力が欲しい彼らは食い付かざるを得ないはずです。そこを収益にしつつ、娯楽化すれば、殆どの大衆からは文句も出ないかと」
「( ^ω^ )(おぬしもわるよのぉ~という蜘蛛の顔)」
「貴方達には到底敵いませんよ。で、正義の組織と言ってもどういう形にするんです?」
「(^◇^)(ウチの星の先進大陸だと魔法少女とかロボとか戦隊とか能力者集団とか。色々なアイコンがあるんだよね。そういうのをその星風にしてルールの改定を一定周期でやりながら、飽きないようにして調整。技術や物量じゃなくて純然たる技量や意志の力で戦ってもらおうかと……と既にある叩き台の資料をお出しする蜘蛛の顔)」
「むぅぅ……良く出来ている。これを当該惑星の風土や諸々の特殊性を加味にして現地化。蜘蛛勢力と反乱分子のタイトルマッチにすると……分かりました。すぐにこういうのに詳しい同胞と詰めてみましょう。更に第三者として報道関係者やルールの承認を行う委員会も必要では?」
「(・ω・)ノ(じゃ、悪の組織と正義の味方の宇宙を賭けたっぽい戦いを始めようとゴーサインを出す社会システム設計担当係な蜘蛛の顔)」
こうして、くもーぐんの悪の組織担当者達は次々に蜘蛛の支持母体である社会最底辺層の者達と共に蜘蛛による支配を盤石にする為、持たざるモノとして悪の皮を被り、持つモノとして正義の味方となった人々と永劫の戦いを繰り広げる事となる。
能力、容姿、地位、名誉、あらゆるモノを持たず、負け続けた彼らは蜘蛛達による悪の組織の構成員となり、持つ者達を……自分達が一生掛けたって手に入らないものを最初から持っている彼らを、仄暗い絶望の淵に沈める為に暗躍を始めたのだ。
ソレが救われつつある彼ら自身の活力をも生み出す為に蜘蛛達が一計を案じた競技染みた代理戦争……技能や意志の力においてなら対等にまで上り詰められるという自信を付けさせる為のものである事を彼ら自身知らない。
こうして、灰色ばかりで安穏とした世界の一部は白と黒に塗り分けられ、新たな時代の潮流として宇宙を席巻していく事となる。
散々に内戦や宇宙戦争で疲弊していた者達にとって、代理戦争は自分の利益を損なわない限りにおいて幾らでも眺めて居られる娯楽として末永く愛される事だろう。
術中に嵌った宇宙には蜘蛛達が思う通りに風が吹き始めたのだった。
―――英雄邸地下個別鍛錬場。
「いつも、思うんです。ああ、この人は私達の力とか信じてないんだろうなぁって」
「………」
「でも、仕方ないとも思うんです。実際、一緒にしても何もしてあげられないどころか。傍にいるからこそ、未来に行けないんだろうって……妖精の見るモノが見えるようになってから……」
「………」
「悔しいじゃないですか。私達……本当に頑張ってるんですよ? でも、それはきっと届かないって、もう知られちゃった後、なんですよね?」
「………」
「本当は怒りたい事、一杯有ります。どうして連れて行かないんだーとか。どうして信じてくれないんだーとか。子供っぽいかもしれませんけど、もっと一緒にいてくれれば、何か変わるかもしれないのにって……」
「………」
「でも、不満なんて零している間も貴方は戦ってくれて……私達が不甲斐ないだけなのにただ訓練出来るように色んなものを揃えてくれて……私達が本当は受けなきゃいけない傷も、命を賭してやらなきゃならない事も……全部、引き受けて……」
「………」
「蜘蛛さん達がどうしてあんなに働き者なのか。分ったら、何も言えなくなりました……」
「………」
「全部、置いてけぼりにされるのは嫌です。でも、私達には力が無かった……」
「………」
「全部、護ろうとしてくれて……全部、1人でやろうとしてくれて……何もかもお膳立てされてすら、私達は届いてなかった……宙を見上げた時、アルティエを見たら、何も言えなくなっちゃいました」
「………」
「必要なものが一つも足りない私達が何を思っても現実を変える事は出来ない。だから、貴方に届く力が欲しかった。蜘蛛さん1人にも負けそうな私達でも出来る事はあるって思いたかった」
「………」
「でも、やっぱり足りないものは足りないし、出来ない事は出来ない。だから……」
「………」
「アルティエが思うように鍛えて下さい。私、普通の女の子のままアルティエを護る事も出来ずに死んでいくなんて嫌なんです」
「………死ぬより苦しいかもしれない」
「はい」
「殺してはあげられない」
「……っ、はい!!」
「もし、抵抗出来ない体にされて見知らぬ男達に乱暴されたり、薬を打たれて心を砕かれたら、どうする?」
「咬み千切っちゃいます♪」
「全員死んで誰もいない世界で一人切りになったら?」
「皆を蘇らせちゃいます」
「敵がアルティエ・ソーシャだったら?」
「………殴って正気に戻して浮気者って言ってやります」
「蹂躙されるだけの弱者として尊厳も命も心も全て使い捨てられるだけの家畜にされたら?」
「ごめんなさい。ずっと気付かなくて……でも、心は決まってるんです。だって……」
少女はいつものようにいつかのように微笑んだ。
「私の大切な人は救われないのに、私だけ救われたりしたら、死んでも死に切れないじゃないですか。ね?」
そっと少女は小さな短剣を握り、目の前の相手に笑顔で向かい合う。
「―――分かった。ルーエル。下がっていい」
「(´・ω・)ご主人様いーのー? 後悔しない?」
「後悔はする。でも、それは今じゃない」
「ヾ(≧▽≦)ノご主人様頑張ってー」
1人だけ蜘蛛として、その場にいた人間形態のルーエルがイソイソと空間を歪ませて何処かへ消えていく。
「手加減も容赦もする。でも、此処から先は……人の心には耐え切れないことばかりになる。だから、一つだけルールを追加しておく」
「ルール、ですか?」
「傷を負わせれば、同じだけ傷を負うようにした」
「っ」
「鍛錬を始める……」
「―――はい!!」
持たざるモノは果てに至って持つモノと成れたか?
その問いには常にたった一言で足りる少年は持たざるままに今……少年よりは余程に持っている相手に向けて、そっと剣を向けた。
*
権利はあれど、義務が無い。
持っていても、使い切れない。
世界は常に不平等で理不尽だ。
相対評価にしか過ぎなくとも、一つ持つモノと一つ持たざるモノの壁は常に大きいだろう。
相手の持っていないモノを持ち寄って、共に生きるのが人であるならば、持っていないモノに持ち寄れるモノは意志と働きくらいだ。
「大嫌いな相手に大嫌いって言える人に成りたかったんだ。昔」
「………」
「お姉ちゃんが護ってくれて……今はアルティエ達に護って貰って……大嫌いって言えるようになったかなって思ってたけど、やっぱり……そんな風には為れなくて……」
「………」
「良い子に成りたかった。なんて、子供っぽいと思うけど、良い子には結局為れなかった」
「………」
「姉と弟がいるだけ恵まれてるんだって、そう言い聞かせて……恵まれてない事なんて普通の事だって……誰かの不幸になるのを見て、何処かホッとしてた」
「………」
「あの船に載せられた時も殺されてないだけマシだって自分に言い聞かせてた。お姉ちゃんが死にそうな怪我をして、体を摩って、寝かせて、体を拭いてあげる事しか出来なくて……エルガムさんがいなかったら、きっと……こんな世界消えちゃえばいいって思ってたと思う」
「………」
「お姉ちゃんが幸せそうに笑うようになったのって、みーんなアルティエのおかげなんだよ?」
「……そんな事―――」
「あるよ。だって、此処に来てから大変なことばっかりだったけど、ボクもお姉ちゃんの傍に居られた。あの子も傍に居られた。訓練してって言われて、ずっとニアステラで鍛えてた。お家が出来たり、美味しいものが食べられるようになって、賑やかな毎日が送れて、傷付けて来る誰からも護られて……」
少女は少年を真っすぐに見つめる。
「いつも、護ってくれる人がいて、危険な事をしてるんだって言いながら、一番危険なところから遠ざけられて、大変な事はぜーんぶ、蜘蛛さん任せでさ……」
「………」
「本当に死ぬような事だって、アルティエが今まで時間を掛けて鍛えてくれてたから、全然苦じゃなかった。フィーゼやリリム、ガシンと一緒に戦ってる時はちょっと楽しいくらいだったもん」
「………」
「力があるって、スゴイ事なんだよ? 力が無かった時、ずっとずっと怯えてたから分かるもん。だから……アルティエが一緒にそうだったら良かった……」
「………」
「戦って? ボクを鍛えて? アルティエ・ソーシャが信じてくれるくらいになれるかは分からないけど、ソレがボクにとって、この命が終わるまでにやらなきゃならない一番始めの事なんだと思う」
「死ぬより悍ましい事になる……」
「知ってるよ。だって、泣きそうな顔してるもん」
「……そう?」
「うん……でも、嬉しいな。そういう風に思ってくれて、こんな風に泣いてくれる人がいる……あの頃、お姉ちゃん達と一緒にいる事以外、何も持ってなかったボクにとって……貰い過ぎなくらい、貰っちゃって……馬鹿馬鹿しいくらい信じられない事ばっかりで……」
「………」
「幸せだよ? 誰が何を消したって、誰がどんなに言ったって、これは変わらない。だから、お願い。アルティエ……戦って? ボクが泣いちゃったら、後で慰めて? そうしたら、きっと大丈夫だから、ね?」
「……分かった」
「ありがとう。ボクの一番大切な人……あの時助けてくれて……凄く嬉しかった……一緒に行けるように鍛えてくれて泣きそうなくらい嬉しかった……だから、今度はボクの番……アルティエが嬉しいって思ってくれるように傍まで行くから……追い付くから……」
「(。|`ω|)主よ。本当にいいのだな?」
「ゴライアス……」
「(。-`ω-)……その命に従おう。死より悍ましく、死より辛き事は世に往々としてある。そして、知ると覚悟した者に意見するのはこれ以上無粋であろう」
蜘蛛が1人。
人の形を取って、空間を歪めて消えていく。
「レザリア。構えて……」
「うん。優し過ぎな隊長さんは厳しくしないとダメ……殺されたって諦めないから……覚悟して!!」
「―――ッ」
誰もが持つモノこそが眩いものならば、どれだけ人々は幸せだっただろう。
尊いと言われていたならば、どれだけの不幸が無かっただろう。
だが、少女は多くの人々と同じく。
やはり、持たないモノだった。
それは少年と同じかもしれず。
しかし、少年よりも確かにちゃんと生きている。
自分の命と向き合っている。
それはもはや少年にはない力だ。
「泣かないで。アルティエ」
何も持っていなくても、与えようと笑う誰かがいる。
それを少年はその少女と出会い知った。
それこそが尊い事であると知った。
だから、今日も彼はそう在れるだろうかと己に問い……自答する。
この地の全てを満たして余りある血と肉と骨を零し続けて来た問いは今日も同じ答えに至るのだ。
誰が望まずとも……。