流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて- 作:Anacletus
「あ、ガシンだ~~ガシーン」
【………またか】
ニアステラの英雄帰還すの報が流れて少し。
少年が遠征隊との訓練に入った頃。
暇を出された1人の男がニアステラの山岳部で子供に手を振られていた。
「これはガシン様。これお前達……いつも言っているだろう。この方を呼び捨てにしてはならんと。この大地に黒蜘蛛の巣を打ち立てた遠征隊の副隊長様は今や生ける伝説。天使すら宝玉と化し、神すら殴る大拳闘にして全てのゾティークを生み出す大樽ノ尊なのだぞ?」
「ごめーん。でも、また遊んでくれよなー」
【………はぁぁぁ】
男が山岳部で亜人達の前から歩き去ると彼らは少し怪訝な顔になった。
いつもと少し気配が違っていたように思えたのだ。
しかし、彼の後ろには蜘蛛達が数人。
イソイソと人型形態で参列していて、ガシンだろう事は一般人には疑いなかった。
毎日、暇が在れば、ゾティークの増産をねだられた男である。
今やガシンが霊力掌握した莫大な天使の宝玉を用いて、第二次ゾティーク増産が始まっており、本人に頼もうと思っていた分は全て生産が終了。
後、数年はやらなくて良いとお墨付きが出たので当人は滅茶苦茶肩の荷が下りた様子だったのだが、そんな事は普通の生活を送る亜人達には分かろうはずも無い。
【で? そんなに貴様らのガシンとやらに似ているわけか?】
「(`・ω・´)(ちょーにてるという蜘蛛の顔)」
【邪神の血族か。先祖返りの類だろうな。我が父は帰って来た者達の1人だった。まったく、良い迷惑だ。遠縁か……】
小破片『焦波の祖霊』は海賊船団を率いた空の支配者というのがカダスでの評判であるが、そのカダスは陥落し、当人は分体に別れて活動中にアルティエによって捕獲。
しかし、取り込まれず。
適当に船で自由にしてていいと言われたのがニアステラに来た直後。
現在、遠征隊に組み込まれた殆どの者達が後方支援要員として色々していたり、現場に出る前に少年に鍛えられたりしているが、彼自身はまったく予想外のお客様としてカダスから出た小破片として小破片の姉弟にも見える男女とも別にニアステラにおいてウロウロしていた。
文明が極めて育ち難いカダスの中央でも名を上げていた彼であるが、今や滅茶苦茶先進大陸染みた建造物が立ち並ぶようになったニアステラとフェクラール、更に伝説の旧き者達の都までもが見られると在れば、興味を惹かれるのも無理はない。
【始祖が破れ、更には残りが従属。本格的に邪神はあいつの配下扱い。何も知らないカダスの破片共はまったく目を白黒させている途中だろうな】
「(^O^)/(滅茶苦茶そのとーりとカダスの状況を看板に映してみる蜘蛛の顔)」
【フン。見なくても分かる。どうせ、グダグダと駄々を捏ねられているだろう?】
「( ̄д ̄)(よく小破片共の事が分かってらっしゃるという顔)」
【まぁ、いいか。そちらは貴様らが勝手にやっておけ。オレはオレで仕事がある】
「(・ω・)?」
【破片には個人の特質として何かしらの能力を持っている者が多い。あの大破片共のようにな。こちらはこちらで大破片共とは違った方向で尖った連中が多い。あの犬が限界に関係なく意志の早さで動く、とかな】
「(・∀・)(あ、あの犬の人はふつーに捕まえたよ。滅茶苦茶、あっちの蜘蛛が苦労したって言ってたけど、旨そうな食事作ったら罠に掛かったってと看板に捕獲映像を流してみる蜘蛛の顔)」
看板には大皿の料理を幸せそうに手掴みで頬張っている少年を奇襲した小破片の少女が映っており、捕獲されても一心不乱に食事に夢中となっていた。
【犬は犬か。はぁぁ……】
小破片が歩いていく先。
そこは山岳部の茸工場であった。
嘗て、蟻の王がいた場所だ。
内部は現在も蜘蛛達が引き続き茸生産をしていたが、一部は閉鎖されている。
【オレの能力を教えておこう。何故、オレが海賊なんぞをやらせられていたのか。その理由だ】
蟻の掘った穴に到達した祖霊が壁に手を付いた。
「(T_T)?(ん? と瞳を細めて壁の変化に首を傾げる蜘蛛の顔)」
【海賊に必要なものは何だと思う?】
「(>_<)/(はい!! 船だと思いまーすという蜘蛛の顔)」
【違うな。オレの名前を言ってみろ】
「(・∀・)(しょーはのそれいさーんといつもの顔で看板に書き込む蜘蛛の顔)」
【焦がし尽くすのは能力の余波に過ぎない。本当の能力は大破片連中のような事象よりも複雑な現象を起こす事で起きているわけだ】
男が手に何かを掴むような仕草をした途端。
周囲が猛烈な熱量の伝導で溶け出す寸前に蜘蛛達の熱量吸収で洞窟が崩落を免れる。
それとほぼ同時に男の周囲から魔力らしい魔力がほぼ全て消えた。
「これがオレの能力だ。お前らには何ら意味の無いものだろうが」
祖霊の手には心臓が握られていた。
同時にクシャッと心臓そのものが萎んで消え失せる。
「(`・ω・´)(空間転移じゃない。現象転移? 質量の量子レベルからの組み換えが起こってミラーリングされたような……本物なのは間違いないから“本物を創る”と同時に“本物を消失させる”が同居すると……物質の量子転写によるコピーというよりはイデア毎の強奪、に近い? ブツブツと祖霊の能力を解析し始める蜘蛛の顔)」
「今のはこの島でオレが敵対している勢力と認識する連中の中からある程度作為的に“価値”が高いのを盗って来た。何処かで敵が1人心臓を盗られているはずだ」
「(/・ω・)/(お~~盗み系の最上位能力っぽいと拍手する蜘蛛の顔)」
「ま、分体程度の魔力だと概念定義で括られた物質と手に持てる程度の質量が限界だ。お前らが心臓を盗られた程度で死ぬような個体ばかりでもどの道勝てはしない手品の類だな」
「(T_T)(あ~質量の量子的な再構築時に原子変換掛かってるから、そのせいで熱量が発生するわけねと原理を解明し始めた蜘蛛の顔)」
「フン。弱いと思われるのは心外だからな。あの大破片共とて一矢報いる程度の力はあるとも……クソが……邪眼すらまともに使わせて貰えない戦闘なんぞがあるとは予想外過ぎるだろ……戦いの愉しみ方と人の心が無いな。貴様らの主は……」
「(´・ω・`)(う~ん。滅茶苦茶ちちとは相性が悪い。有視界戦闘になった時点で意味が無いから、完全に暗殺用なのが惜しい。それも特定する情報量が増える程に消費魔力が上がるとなるとかなり厳しいな~~とダメ出しする蜘蛛の顔)」
「( ̄▽ ̄)(でも、本物を盗って来るのに一方的で因果律レベルの干渉じゃないと防げないから一撃必殺染みてはいるかな。邪神が心臓抜かれた程度で死なないだけな生物というのが相対価値を下げてた要因だろうし、掌サイズのお宝や開けられない宝箱の類に使う場合は有用そうと使い処を考えてみる蜘蛛の顔)」
「これでしばらくの宿代には足りるだろう。今回の心臓は地表でお前らが戦っていた蟲共の上位者辺りのはずだ。また必要になったら言え」
「(^O^)/(はーい。今度は距離が関係無いかどうか確かめる実験する時に呼ぶね~とさっそく宇宙の心臓抜いたら死ぬだろう強敵宇宙人辺りをリストアップし始めた蜘蛛の顔)」
イソイソと聖域の心臓の残り滓が燃え尽きた洞窟を後にする小破片を追って、蜘蛛達は護衛任務に戻るのだった。
*
近頃、鬼難島は公共文書においてゼート大陸という名称を使用し始めていた。
それと同時に蜘蛛の氏族商会の本拠地として他の大陸では認識されており、氏族商会が外界と行き来する為に各大陸に一つ接地した大規模な地獄門を利用申請と許可、通行料さえあれば、使えるという事を知った者達は他の大陸への大冒険に出掛ける事が多くなった。
「こ、此処が魔族の大陸か!! く、あの時の恨み……必ずや……」
「はぇ~~緑が殆どねぇ。黒蜘蛛の巣だけじゃねぇか?」
「す、すごーい!? あのおっきな白い樹がこの大陸で一番大きい巣なんだって~パンフレットに書いてあるよ」
「え~と、何々? この大陸の魔族さんは今までは非ぃ道徳的で非ぃ倫理的で極めて冒涜的な知性でした。この地に来訪した蜘蛛の協力者の神によって戦力を取り込まれた後、各地の魔王が行方不明になった事から各国が蜘蛛の戦力による駐屯によって制圧された後、停戦。他の大陸よりも蜘蛛が極めて多くなっています?」
「ふむふむ。今は蜘蛛さん達のおかげで平和になったみたい。今までは殺人恐喝窃盗詐欺誘拐強姦拉致監禁何でもありの世界だったけど、今はちょっと治安が悪い観光地くらいなんだって……」
「ホントだ……何か人。いや、魔族の人達?の顔は明るいみたい。パンフの街並みの話だけど、嘘……って程には嘘じゃない気もするわね」
「何でも初めて治安が良い時代が到来して、温厚な魔族さんが凄い勢いで権力を奪取して蜘蛛さんと仲良くしてるとか。今じゃ嘗ての略奪戦争仕掛けてたのが嘘みたいに笑顔溢れる大陸ですとか。かなり盛られてそうだけど、それなりに良くはなってるみたいね」
無数の大陸が繋がれて尚、唯一例外として一部の者しか行けない場所がある。
ゼート大陸。
蜘蛛達の本拠地。
其処への道だけは蜘蛛のみが行き来が出来るのであり、外交官や政治家、軍高官の類でなければ、航路利用が許可されていない。
しかも、長期滞在になるという事で片道切符染みて生贄にされる者達も多い。
だが、同時に蜘蛛との取引に滅茶苦茶期待する者達もいて、賢い大陸は大陸の命運を賭けて優れた人材を出し、無能な大陸の者達は生贄にしても良い優秀な人材を出した。
結果として前者は大陸に繁栄を呼び込み。
後者は生贄にされたヤツに逆襲染みて改革を迫られ、蜘蛛達による大規模な経済介入を招いて他大陸よりも蜘蛛の侵食が早まり、次々に蜘蛛の傘下として組み込まれる速度が上がっていた。
「姫様~~シェナニガン様からカダスの制圧が終わったから、数日後には帰還するとの報が届きました!!」
「ああ、ようやくなのですね。帰って来たら、きっと驚いてしまうかも……ふふ……」
「ええ、そうですな。あの方が魔族大陸の統治者の方と出発してから、随分とウチの大陸も様変わりしましたし」
「ええ、蜘蛛の方々の力もありますが、今やあの山脈傍の荒地が摩天楼……と言うのでしょうか。このように大きな邦……いえ、連邦となった。天に聳えるアルゴノォト二番艦と地獄門……果てまで続き人が集まる都市。父がもしも生きていれば、こんな光景に毎日が夢にしか思えないと愚痴るでしょう」
「ははは、確かにそうかもしれません。円卓の方々の働きもありましょう。蜘蛛の氏族の最後の戦いには我らも参戦せねば……この世界が終わるとの事。必ずや魔王軍再編を成し遂げ。ソリトゥード大陸統一軍は方々の後方に……」
「ええ、お願いします。ようやく、御父様の願った未来が到来しつつある。何もかもがまだまだなのだとしても、此処で終わらせるわけにはいきません」
「では、それが終わったら、姫様も次は御世継ですな」
「は!? あ、いえ、その、そ、そそそ、そんな……まだ早いですよ……」
「はっはっはっ、シェナニガン様も男でしょう。蜘蛛の方々は色々と違うのかもしれませんが、姫様を大事に思っている事は間違いない。新しき制度として四魔将となりし、我らも伴侶は持つ身。為政者階級として恰好も付きませんし、あの方もきっと言えば、応えて下さると思いますよ?」
「そ、そういうのは男性の方からでは?」
「外大陸では女性の方からというのも案外多いそうで。蜘蛛の氏族商会の外大陸の案内番組で言っていました。進んでいる大陸は進んでいるとか。魔族の大陸では男性は言い寄られるのが一般的らしいです」
「も、もぉ……さっさと部隊の教練に行って下さい!!」
「ははは、済みません。無粋でしたな。では、失礼します」
世界は、大陸群は確実に変化していた。
その中心地である島。
ゼート大陸の玄関口として利用されている巨大海上都市は元々が巨大桟橋だった事すら殆どの居住者達は忘れているかもしれない。
海の上の桟橋は……桟橋と言うにはもはや巨大過ぎて、高度な技術が使われまくりな上に船はそのままに一部を接続してインフラとして上下水道まで船舶に提供しているのだ。
これが隣接するノクロシアの威容にも劣らない規模にまで拡大。
人の往来を見れば、毎日が縁日か祭りかという具合には騒がしい。
「……報告を」
「はい。各国の中で諜報活動が進展している国は無いようです。各大陸の大使団も殆ど条約締結に注力しており、蜘蛛達の手前余計な事はするなという方針が徹底されているかと」
「分りました。各国の状況の報告書を明日までに」
「はい。子供達の方は?」
「今はヘールの子達や外界からの孤児達、遠征隊の親族の子達と一緒に愉しそうですよ」
「そうですか。我らマーカラも……戦闘でお役に立てれば良かったのですが、何とも歯痒いですな。長よ」
「我らには我らの道がある。我らが主。ニアステラの英雄の大切な方々を護るという使命が……その信頼に報いる事。命を賭してお守りする事。それだけが我らが身を立てる方法でしょう」
「はい。忘れてはいません。この恩は必ず……子供達もまた大きくなる。その頃には平和であって欲しいものです」
「頑張りましょう。それ以外に凡人たる我らに出来る事は無い。蜘蛛の方々すらも絶対では無い以上、壁は一枚でも多いに越した事はない。我らマーカラの大人が仕事を果たせば、それにこの邦は応えてくれる。此処はそんな場所なのですから」
「はい……戻ります。では、次の定時報告で」
「我らはニアステラの影となり、護りましょう。我らの新しき故郷を……」
黒鉄の軍艦が大規模に運用されて、現在はホワイトピーク周辺の宇宙港と緋色の塔に係留された関係で空いた場所には次々と新しい大陸の軍艦や商船が入り込んでいるというのが近頃の近況だ。
ニアステラ本土を踏まずとも、ある程度の交渉が出来る為に船に缶詰になる者も多いのは情報通信網が蜘蛛の氏族商会によって統一規格で拡充されたからだ。
宇宙からの直輸入品であるシステムが蜘蛛以外には理解も不可能だろうと適当に各地で運用されているのは外大陸からしたら呆けてしまうような事かもしれない。
自分達よりも遥かに進んだ技術の産物をポンと渡されているのだ。
重要機密ですらない、という事実が何よりも怖ろしいのは間違いないだろう。
あらゆる惑星や地域、大陸から持ち寄られたテクノロジーは博覧会染みて、ニアステラに住むようになった人々に驚かれながらも生活に吸収されつつある。
それで宇宙から齎された技術や品物すら物珍しさが減っているというのにそれで尚蜘蛛の門番がいるノクロシアへの直通路を凝視する者達は減っていない。
それは正しく遺伝子に刷り込まれるかのようにこの星の大陸の全てに伝わる伝説が人々の文明に深く根付いているからだろう。
「ノクロシア……旧き者達の都か……手中にしているのだろうな。連中は……」
「余計な事を考えなければ、お零れくらいは貰えますよ。少将閣下」
「我らは口を開いてエサを待っている雛鳥か」
「そのようなものでしょう。実際、本国との定時連絡にすら彼らの技術を使っている為に筒抜け。ついでに祖国では蜘蛛の氏族商会によって医療現場が激変しているそうですよ? それもノクロシアの技術なのかもしれません」
「例の薬か。先日、友人が……娘が治ったと泣いていたよ……」
「ああ、不治の病の……」
「あいつは蜘蛛側に付くだろうな。まぁ、しょうがない」
「そう言えば、彼らは病院に配慮してくれたそうですよ? 薬を卸すのは各村々や街における診療所や病院。診療所や医者がいない地域がある場合は行商で蜘蛛の氏族商会が定期的に回って医療の無い地域にまで医療を提供、医者の教育まで手広くやっているとか。そのせいで医者はする事が殆ど無くなったそうです。今は研究と技術指導される側で外界の技術を学んでいるそうで」
「不老不死の妙薬も使い方次第か。くくく、貴族院の連中は蜘蛛に尻尾しか振れんだろうな……」
「言い方……少将閣下とて長生きはしたい方だったような?」
「飼い殺されるなら、精々長生きして楽しもう。軍もどの道、縮小だろうからな」
「昼行燈を決め込めるような閑職で悠々自適に生きましょう。世界が滅ばなかったら、ですが」
「フン。連中の敵だ。世界の一つや二つ滅ぼして当たり前だ。神々すらも破壊する威力……我らの文明が遥か果てに至っても勝てるかどうか。勝てるようになった頃には我らの方が滅んでいるかもしれんな」
「あははは、確かに……あの蜘蛛共ならば、この世界が滅んでも何でも無かったかのように活動していそうだ。それこそ『(・∀・)/あ、人間さんこんにちわー』という具合で……」
「止めろ。腹が痛い。はぁぁ……伝説を蘇らせた邦、か。敵わぬな……世界の中心地となるか。ニアステラは……」
伝説の都の伝説。
遠征隊が持ち帰ったとされる宝物の噂は正しく現実となって人々の間では蜘蛛達が齎す多くの超技術の産物は全てそこから得た技術や叡智を元にしていると考えられていた。
曰く、不老不死の秘薬は万能薬に。
曰く、無限に再生するゴーレムは強力な新兵器に。
曰く、神すら殺す武具は文明を滅ぼす力に。
曰く、世界を滅ぼす戦船は空飛ぶ大陸に。
曰く、魔力炉の原型となる無限に力を生み出す炉は実際に各大陸での運用が始まるとの噂も噂ではなくなりつつある。
まぁ、全て事実だ。
が、全て島の外界からすれば、まだ来ていない技術や知識に関しては噂に過ぎず。
それが現実になるを秒読みで待っている状態。
そもそもの話、強力な機能の大半は対救世神戦に投入される代物であり、その下位互換や技術的な利益の大半は根本的に人々の生活を底上げする以上に使われる事も無いものだ。
蜘蛛達がノクロシアの全体を掌握しつつある現在。
ノクロシア内のあらゆる研究設備が制圧下で解析を実行され、活用可能なものから順次蜘蛛達によって稼働され、ニアステラではその複製実験において一定の試験が完了し始めていた。
今挙げたような例の殆どは各大陸で少しずつ投入されている解析実験の成果を適当に彼らの思惑に従って投げ込んでいるに過ぎず。
蜘蛛達のマンパワーの殆どは制圧大陸や地域の教化。
他には研究技術開発や宇宙全土で増え続ける蜘蛛達の為に神化出来る土の増産とノクロシアン化する為の武具の複製に充填されている。
最優先で進められているのは蜘蛛の基礎能力の強化。
これによってノクロシア内部にある工場の再稼働、工場設備の複製までもがニアステラでは行われ、次々に蜘蛛達の強化用要素が大増産体制へと入っていた。
「( ̄ー ̄)(ちちが訓練に入っている間に蜘蛛を全部、神化、ノクロシアン化しないとねとノクロシアの製造区画で残ってた資材から本物を製造し始めた工員系蜘蛛の顔)」
「( ^ω^ )(資材の生産方法も復活したし、少し能力が劣る複製品の初期ロットも案外良さそうだから、生産体制が整ったら、ハイエンド品としてノクロシア製、一般部隊は複製品で我慢してもらおうかなと在庫数を宇宙全土に発送している検品係な蜘蛛の顔)」
「(`・ω・)(でも、圧倒的に生産が追い付いてないんだよなー。各資源惑星で工場労働者系蜘蛛が一惑星二億単位くらい働いてても全然増加に追い付いていないし。と現在の蜘蛛の増殖率に対して土も武器もまったく足りないという事実を前に……『どうにか生産体制を増強出来ないかな……』と考える研究員系蜘蛛の顔)」
「(-ω-)/(そんなお困り蜘蛛に朗報です。現在、うちゅーじんの人達の技術を解析してアーカイヴに積み上げてるんだけど、完全なコピーを安く仕上げる方法を開発してたガイア2派遣隊が今さっき邪神の人の情報から新しい方法を確立したってさと教える蜘蛛の顔)」
「(^◇^)(お、まーじでーと地獄門経由の蜘蛛だけに受信出来る映像を脳裏で確認してみる蜘蛛の顔)」
「(。-∀-)(はろーうちゅーぜんどーほーしょくーん。しょーはのそれーさんの情報で量子的な状態の物体から一気にコピー品を易く創れるようになったよー。このこーけんでしばらく破片に対する要請や請求はしなくても構わないくらいの進歩なのでちょっと見てってーと宇宙全土にお伝えする研究部門統括蜘蛛の顔)」
「(T_T)(さっそく実験してみた結果がこちらですと映像を映し出す実験作業中な蜘蛛の顔)」
宇宙にあるとある星系。
恒星の巨大なフレアの内部で手を振る複数の蜘蛛達が全方位を取り囲んだ状態で何やら魔導呪紋をブツブツ唱え始めて数秒後。
キュッと恒星が圧縮されかと思うと外部から複数の岩石惑星らしきものが周辺にあった地獄門から数個投げ入れられ、圧縮した恒星内部に入った途端。
急激に恒星の光が、熱量が消失していく。
そうして、最後には恒星そのものが一気に消え去るかのように縮小を続け、最後には岩石惑星を取り込んだままに失われた。
今まであった恒星の消失に周辺惑星が重力均衡の崩壊を受けて、次々に拘束を解かれたようにバラバラに動き出すだろうが、星々は蜘蛛達が確保しており、次々に地獄門に惑星そのものを囲まれて消え去っていく。
「(・∀・)(え~今回開発した方法はエネルギーと質量さえあれば、焦波の祖霊さんの獲物を掌で盗って来る能力の応用で量子的に本物を盗って来るのではなく。イデア無しの情報だけ抽出してコピー品を周辺質量から再形成します。既存工程は極めて煩雑で時間が掛かったんだけど、彼のおかげで必要な原子を変換する工程を9割省略、事実上は完全なコピー品をエネルギーと質量から際限なく超短期間で大量に複製出来ますと映像をお出しする蜘蛛の顔)」
「(^◇^)(邪神ってこういう時、案外便利能力持ってるよね~。原子変換の超速の組み換え方法がかなり手間取ってたのが一発で可能になったのは大きいと映像の解説を始める蜘蛛の顔)」
映像内では1人の蜘蛛の方陣が崩壊した瞬間、猛烈な勢いで500km近い空間の歪みが発生。
内部から無数の剣が真空に飛び出して来る。
熱量すら感じさせない鋭利な刃は正しくノクロシアで発掘された剣と同型のものであった。
ソレが濁流となって宇宙空間で次々に整列し、ミラーのように恒星のあった場所で並べられていく光景は壮観ですらあっただろう。
「(>_<)/(恒星のエネルギーと岩石惑星の質量を凝集して必要な原子に変換。実に一回の複製で37乂392億本!!! これで増え続ける蜘蛛全員にバシバシ行き渡るねと実験成功に踊り出す実験部隊たいちょー蜘蛛の顔)」
「\(゜ω゜\)(/゜ω゜)/\(゜ω゜\)(/゜ω゜)/(お~~と拍手しまくる蜘蛛達の顔)」
「(^◇^)(近頃、推進されてる悪の組織計画(仮)でも色々と使えそう……各地にガジェットの素体を配って一律の力を個々人で伸ばしてって話だからねと計画に関わってる蜘蛛の顔)」
「( *´ω`)(社会と社会の激突を利用して、アイコン化した個人に因果律を収束。その力の源であるガジェットに魔力の常時伝導からの魔導による二次収束。ガジェットを個人の身代わりとして身に纏う装具化、因果律を初期結晶化する三次収束。時間経過で積層化した存在としての影響力を完全に因果律結晶化……蜘蛛個人の脚使うよりたぶん安上がりなはずだから、宇宙中から集められれば、1惑星単位の因果律を楽に収穫して使えるはず。恐らく決戦でかなりの力に……と宇宙を搾取する為の方法を発案、実行中な蜘蛛の顔)」
「(/・ω・)/(加速だ!! 加速しろ!! と、制圧惑星で因果律結晶の素体となる力を生み出すべく。各銀河、各惑星、各星系で時間の加速を行うネットワークシステムを構築し始めた蜘蛛の顔)」
「(・∀・)(……数か月後までに幾らかの星で最低20年くらいまで加速して、どれくらい集められるかなーと惑星単位での収穫量を見積り始めた蜘蛛の顔)」
足元では何が起こっているのか。
蜘蛛以外には知り用も無い変化が静かに進行する島では有限の時間を無限に引き延ばすが如く。
積み上げらるものを積み上げ続ける蜘蛛達の不断の努力が続いていた。
世界の創生も世界の崩壊も起こすどころではない。
全知全能にも等しい存在に対し、万知万能たる蟲達は1人の主の為に全てを遂行するのである。
少年が遂にようやく“休んでいる”というのは彼らにしてみれば、正しく自分達の仕事の成果として誇れる事であり、頭脳労働をしつつ、自分の周囲の人達と戯れている様子は涙無しには見られない感動巨編。
本当に感動ものな状況であった。
ようやく一つ少年に対して自分達が出来た事に大きく満足した彼らは更に先へと計画を進める。
それが宇宙全体にとって良い事か悪い事か。
そんなのは後世に任せて、たった一人の為の時代の始まりが近付いていた。
それが本人にとってどう判断されるものか分からないとしても……。
*
―――ニアステラ元第一野営地黒蜘蛛の巣中央塔。
蜘蛛ばかりが住まう巣の中央にある竜骨の塔。
生産現場にして蜘蛛達の集会所としても機能している其処には彼らが忙しそうに管理業務で行き交っている。
内部は最初期の頃と比べても極めて洗練されており、剥き出しだった竜骨は形を整えられた建材を組み込まれてビルディングのように滑らかな曲線と直線が美しい螺旋構造の吹き抜けを持つようになった。
巨大な空洞と部屋からなるオフィス街は多くの区画の住人にとっては必要な書類を貰いに行って申請を行う場所だ。
ニアステラには税金が無い。
ニアステラには国民の義務も無い。
救って欲しい類のお困り事すら実際には殆ど無い。
此処で最も人々が持っていく書類は戸籍の作成用の代物や結婚証明書くらいなものであり、それすら子供達が大人になっても人生で1度くらいしか関わる事は無い。
そんなオフィスの一角である天井の岩盤に程近い階層には蜘蛛達のゲストルームが存在し、重要人物の宿泊を行えるようになっているのだが、現在そのワンフロアを貸し切るお客が長期滞在中であり、カダス制圧によって帰還しつつある蜘蛛達と共に新規の計画を詰めていた。
「つまりよ。何か結局、一番必要なのは未来なわけ。未来。分かる?」
「(´・ω・`)(未来って食べられるの?)」
「(≧▽≦)(美味しいものは大歓迎だよ♪)」
「(T_T)(それは味蕾じゃね?)」
「(=_=)(つまり、未来が無ければ、のーふゅーちゃーなわけね)」
「( ̄д ̄)(で、その未来に必要な要素って何さ?)」
「そ、それは……こ……」
「(^ω^)(こ?)」
「子供、よ……」
『『『〈・ω・〉ノ(あ、つまり、ちちにそろそろ子作りして貰えばいいわけね。じゃ、さっそく予定を―――)』』』
ビターンと自分にいつもくっ付いている宝石蜘蛛達の頭を連続ハリセンで叩く少女が溜息を吐いた。
「デリカシーゼロか!!? この恋愛弱者蜘蛛!!? あのねぇ!? 世界の為に子作りしろとか!? 漫画やアニメのラブコメじゃないのよ!? もうちょっと考えなさいよ!?」
『『『〈´・ω・`〉(恋した事が無いお嬢さんに正論を叩き付けられたでござるという蜘蛛の顔)』』』
「(; ・д・)(つまり、ちちがその気になりそうな女性陣の衣装とか部屋とか雰囲気とかをお膳立てしろ……って事?)」
「いや、そうじゃなくて、全体的に子供が沢山必要って……能力が言ってる」
「( ^ω^ )(でも、ちちって普通に考えて、第十夫人くらいまで行きそうだし、子沢山確定じゃね?とお嫁さん(仮)な女性陣をリストアップしてみる蜘蛛の顔)」
「( ̄▽ ̄)(オーガの愛人も一杯出来そう)」
「(´・ω・)(………遠征隊女性陣じゃ足りないん?)」
「足りないのよ。それで色々と神託出来そうなのを考えてたら、最終的には魂が密集してる此処で子供が沢山いないと詰むって感じみたい」
「( ̄д ̄)(魂って、そんなにこの島の人口いないんじゃね?)」
「アンタら殆ど幽世の事知らないでしょ。やたら莫大な魂魄が幽世……この周囲に流入してるって知ってる?」
「(´・ω・)(え? 何ソレは……と初耳な話に首を傾げる蜘蛛の顔)」
「え~っと、何かアンタらが外界でぶっ殺した連中。つまり、蜘蛛にしなかった奴らは島の内部で殺された判定になってんのよ。そのせいでしょ。受肉神だっけ? この島の神は黙ってるけど、あっちで滅茶苦茶な数の魂魄が積み重なってて、幽世自体が自重で潰れそうなレベルで歪んでるわよ」
「(・∀・)(あ、そ―言えば……近頃何か近辺の高次元領域からの圧が激高くなってるのって、神とか救世神の影響だけじゃなかったのねと納得する顔)」
「(T_T)(何か元呪霊少女が忙しい忙しいって近頃ブツブツ言ってたけど、それってそーいう事なん?と首を傾げる蜘蛛の顔)」
「(´・ω・`)(う~~ん。転生させまくると世界の寿命縮まるしなーどーしよと考えてみる蜘蛛の顔)」
「何考えてんのか知らないけど、普通に生まれて来るには転生とか必要無い訳よ。総量が減ればいいんだから、自然に子供が生まれてくれるのが一番なんだけど」
「(`|ω|)(それで子供作れって事なのね)」
「魂魄の殆どは嘗ての罪とか魂に残ってる負の性質も全部限界圧縮されて分解されてるっぽいわ。この子と繋がってると何となく分かるの」
【艸(◎_◎)艸……】
「(^ω^)(さすが輪廻蝶グラキルシアの霊体。そーいうのは敏感なのね)」
彼女の頭に付いた小さな蝶がパタパタと羽搏く。
「アンタら……知ってたのね。まぁ、だろうとは思ってたけど。とにかく滅茶苦茶な数がこの周辺の幽世を推し潰す前に対処しないとヤバイわよ」
「(|Д|)(具体的にはどれくらい?)」
「……たぶん、この星の魂の総量の5兆倍くらい。ただ、転生じゃなくて、魂を吹き込む行為でもあっちから相当量の魂魄が流れ込むみたい。そのせいで此処で生まれる子供が魂魄の質が滅茶苦茶高くなる可能性があるわ。後で問題になるでしょうね。だから、何か方法考えて。早急に。出来れば数か月以内で」
「(T_T)(人間が赤ちゃん出産するまでには10か月くらい掛かるって知ってる? 明らかに普通の政策で不可能なのですがソレは……)」
「アンタらなら出来るでしょ。何かしないと詰むからね? アンタらのご主人様とやらの未来もお先真っ暗よ?」
「( 一一)(どーする?)」
「(一_一)(ん~~~?)」
「(+_+)(………魂が宿ればいいなら、精霊とかを大量にって手もあるけど、それすると妖精化待ったなしでついでに妖精だから、ざっくり救世神に使われそう)」
「(|Д|)(じゃあ、精霊や妖精よりも高位の神でも創ればいんじゃね?)」
「(・ω・)(確かに……)」
「(T_T)(でも、転生用の呪紋や諸々の技術使わないで創るのは量とか考えてもかなり難しいのでは? そもそも神の生成方法のある区画の稼働まだしてないし)」
「(◎_◎)(そもそもの話、さっき教えて貰った魂魄量からして、かなり大量にって話だから、神を百体や二百体製造したところで大海からちょっとコップに水を汲んだ程度しか減らないのでは?)」
「(。-`ω|)(今まで蜘蛛が殺した存在の魂魄量を想定すると転生以外に自然発生させる類でやるとしたら、気の遠くなるような時間が掛かるだろうし……)」
「(/・ω・)/(はいはーい。なら、時間加速は~?)」
「(=_=)(魂魄の飽和状態が問題な上に生き物にすると管理する手間が増えて、いきなり人口爆発するんじゃないかな。それこの星に今大量に管理する必要のある生命を溢れさせるのはかなりマズイのでは?)」
「(=゜ω゜)ノ(ワタシに考えがある(デデドン)」
「(*´Д`)(言ってみなさい。おかーさん怒らないから)」
「(゜Д゜)(つまり、魂を自然発生で現実に持って来て、幽世の魂魄総量を減らせばいいんでしょ。要は魂の総量が高い存在を大量に増やせばいいって事だから、種族の知性化と合わせて各大陸で既存種族の魂魄的な強化で黒霊くらいのヤツをバンバン儲ければいいんでは? と提案する蜘蛛の顔)」
「( ̄д ̄)(島の負担を惑星規模に分散か……でも、自然発生だと低減効果は時間経過させるにしても限定的なのでは? 魂魄の質と量の高い種族って基本脳が大きいから胎生な生物だし、期限内に終わらなそう)」
「(^ω^)(あ、いい事思い付いた。実は近頃、デカチチキンニクショ……ニンギョーの人の赤ちゃん観察してるんだけどさー。ちちの事大好きっ子……偏愛? う~ん。あ、人類死滅させても愛してる系のヤンデレ属性な子なんだよねー)」
「(。-∀-)(へ~そうなん?)」
「何の話してるのよ?!」
「(´▽`)(まぁまぁ、それで色々と解析してるんだけど、元々が邪神なだけあって、基礎人格はあるんだけど、魂は自己増殖して少しずつ増やすか。もしくは母親から少し貰って赤ちゃん状態になってるっぽい)」
「( ̄д ̄)(ほーほー続けて?)」
「(・ω・)ノ(この宇宙で滅茶苦茶一番使われてる生物資源であり、基礎がちちの事を愛してやまない女性人格な上、あらゆる有機資源と無機資源で増殖し、尚且つ魂が無い彼女って、実は恐らく増えても同一人格なのですよ)」
「(|д|)(あ~蜘蛛と同じような原理になってるのか。いや、あっちが大本なのか? こっちは人格の多様性をお仕事別で保ててるけど、あっちは魂が無いってだけで同一人格を再生する事になるわけね)」
「(・∀・)(お? 光明見えて来た?)」
「(^◇^)(自然に生まれればいいんでしょ? なら、黒蜘蛛の巣に彼女を生む生態を付与、同一個体を多重連続レンダリング出来るようにすればいいよ。単一処理なら恐らく処理速度はかなり出るはず)」
「(´ρ`)(確かに……うちゅーじんさんの遺伝技術もこの間入ったし、使える使える。生まれた個体も複数人を統合しても同一人格だから問題ないし、当人の質量に更に魂魄を増やして行けば、神格としてすぐに強くなるだろうし、黒蜘蛛の巣の管理者にも出来る。無限に自分を生んで自分を統合して、自分を更に高みへと押し上げる、みたいなループを創れるんじゃね?)」
「(。-∀-)(1人で自然界の生命サイクルを完結する自己増殖型の邪神……魂があれば、強化し続けられる上に個人として何度でも生まれて来て、何度でも統合可能……なら、融合した後に構成する真菌の質量から魂を引っぺがせば、再度魂を取り込めるから、必要な質量を規定量還元させ続けて、永続化可能だね。と、今から試算してみる蜘蛛の顔)」
「(´|ω|`)(それって恐らく蜘蛛と唯一ガチンコ出来る生命体になるんじゃね? だいじょーぶ? 後で騙して悪いがちちは私だけのものだ。勝ったなガハハとか言われない?)」
「( ^ω^ )(ま、ちちのハーレムの99%がアレになったところで参加人数増えるくらいじゃね? つーか、ちちにゾッコン・ラブな邪神てだけでやってみる価値はあるよね。救世神とか、大地母神とかにも詳しいみたいだし、アレをちち用の第三極な神格として形成すれば、宇宙中での支配も盤石になりそうと試算する蜘蛛の顔)」
「(・ω・)(あの邪神さん。僕らよりよっぽど、ちちに詳しいし、死んだって離さないどころか。転生したって別世界に行ったって離さないからな……最強のストーカーにしてヤンデレ……しかも、宇宙中に便利使いしてバラ撒いたから、実質駆除不可能な時点でまぁ……ちちせんよーしゅごしんよね)」
ガヤガヤと蜘蛛達が盛り上がる最中。
蜘蛛の1人がカチカチとソロバンを弾き始める。
「( 一一)(この宇宙の魔力定理関連はあまり保存則を無視しない。邪神の使っていた定理は始祖破片による一方的な宇宙への押し付けで世界を歪めていただけだったのに未だに機能してるのが確認されてる……だいじょーぶかな……)」
「(゜口゜)(守護神というよりヤンデレ神だけどねと自分達にも宿っている邪神のヴェラの能力や情報を自己解析して、開示出来ません断固拒否みたいな干渉で弾かれてみる蜘蛛の顔)」
「( 一一)(残された個体そのものが幾らいても完全には程遠いはずなのに定理駆動が同じように可能という事は……スキルそのものの駆動先は始祖破片の大本も担ってる? だとすると、この世界における邪神の汚染比重は恐らく思っていたよりも大きい事になる。ダイジョブか? この計画……と神朽ちる沼の離反確率を計算してみる蜘蛛の顔)」
『それにしても、ニアステラの英雄だっけ? あんたらのちちってヤツもやたら女に囲まれてたわね。こっちは部外者だから遠目にしてたけど、あいつ浮気者って言われて嬉しそうだったの何とかならなかったの?』
蜘蛛達が肩を竦める。
それは今までこの経過時間まで誰一人として少年の傍に残っていなかった故の感慨であり、まだ自分の傍に仲間達がいるという事実に泣き出しそうだったからだ、なんて秘密以外の何物でもない。
彼らはちちの名誉の為にも……何よりその時間に水を差すなんて宇宙を滅ぼすより怖ろしいお節介をする事も、指摘する事も無かった。
「( 一一)(始祖が違う邪神同士は相性が悪いというより頼る定理駆動先が違うとすれば、複数の始祖から引き継いだ因子を持つ存在は矛盾する定理を扱えてもおかしくない)」
『何というか。甘酸っぱくて見てられなかったんだけど。何あの恥ずかしいくらい愛してるって気持ち駄々洩れ男。しかも、こういう能力持ってないと見破れないレベルのポーカーフェイスだし、神様の能力で偽装したってああも上手くは出来ないでしょ。ホント……』
それも結局、仲間達との感情のぶつけ合いで失敗した過去が多過ぎるからなんだよなーと状況は感情を整理している時間なんて与えてくれないし、そんな事をしていたらあっという間に全滅だったからだ、なんて蜘蛛達は口にもしない。
「( 一一)(ちちが使い続けてる各種定理や能力、スキル、魔力運用体系が旧き者関連のものと仮定しても、あそこまで多彩には為らない。他の機能の諸々は恐らく邪神各種が存在しているこの宇宙だから成り立つと仮定した場合、あのヤンデレ邪神……何か裏が無いか解析しないとダメそう……」
『あんたらねぇ。ちゃんと、色々考えなさいよ? ホントにさぁ……あのナヨナヨしてずっと泣きそうなのがご主人様とか。大変でしょ……』
「(-_-メ)(強くならないと生きられない(n回目)な状況を大量にやったせいで最適解以外の行動を選び難いとか色々あるんだよなーと少年の明確な弱点を内心で伏せておく蜘蛛の顔)」
「( 一一)(蜘蛛の始祖、この星の邪神達の始祖だけならいい。でも、この星にまだ姿を現してない宇宙怪獣や銀河喰らいの始祖。他にも別の始祖が関わってた場合……飛び抜けて生存力特化で機能性の塊みたいなアレが本当に始祖破片の末なのかは怪しいところ。別の始祖が介入してた場合、土壇場で引っ繰り返したり、漁夫の利されたり……備えておこう)」
蜘蛛は油断しない。
油断しないという油断もしない。
それは少年と同じく。
全てに備えておくという性質に拠る。
様々な疑問を放っておかず。
必ず準備を行う蜘蛛達は正しく少年の似姿であり、少年の手が届かない場所に手を届かせる為のツールとしての役割を十全に果たし、あらゆる事件も物語も必要無いドラマチック性ゼロな世界構築の為、イソイソと活動を開始した。
それは正しく全知全能であり、人の心なんて存在しない敵に対してもちゃんと発揮されており、その探求は常に実を結んでいくだろう。
『でもまぁ、うん……アレがアンタらの大本だって言うなら納得よ。友達が生きてるだけで泣きそうで、集まってる誰にも生きてくれてる事に感謝して、好きな女の姿に言いたい事を全部堪えてる、なんて……あんな精神性の癖にアンタらみたいに振舞えるんだもの……馬鹿よね。大馬鹿……少しはその気持ちをあの子達へ言ってやればいいのに……』
「(´・ω・`)(それが出来たら、この時間まで全員到達してないのがまた……とちちのお辛い過去編を無限に思い出せてしまう蜘蛛の顔)」
「(‐_‐)(蜘蛛しか知らなくていい事が多過ぎるからね。仕方ないね。と、一月以上間を空けて相手を失わずに再会した事なんて一度も無かった。という事実は一生言わずに伏せておこうと誓う蜘蛛の顔)」
「(/ω\)再会したら、死体なのはザラな上に女性陣は強姦、拷問で精神も体も死ぬ寸前まで壊されてるのも普通とか。そういうのが力の無い頃は大量だったからねと泣けない誰かさんの代わりにシクシクしておく蜘蛛の顔)」
「(´Д`)(何なら、敵に媚びへつらって喜んで犯されてますみたいな状況で生きてる姿を見られた直後に精神崩壊して自殺するところまでセットだったし、それをエンドレスだった時代は廃人だったよねと廃人なのに彼女達の為に無限に死に無限に盾となり、無限に戦い続けた頃を思い出す蜘蛛の顔)」
「(´Д⊂ヽ(でも、あの頃があるから、ちちは強くなった。アルマーニアの血肉の一滴、赤子の骨の一欠けらすら許さない魔人だったからねと今も意図的に忘却されている暗黒時代を思い出す蜘蛛の顔)」
「(T_T)(あの頃はアルマーニアの地獄そのものとなってやられた事を全てやり返してたっけ……あの子以外の全てに……あの子にこの世の罵詈雑言の全てを叩き付けられても涙だけは見せられなかった……あの子に大人しく刺されてあげてるのも未だに許される事を望んでないからなんだろうなー)」
「(-ω-)(記憶、繰り返しの最中は本当に必要なもの以外は思い出さずに沈めてる事が殆どだからね)」
「(-_-)(直近の繰り返し以外も思い出さないようにして記憶領域を節約してたりもするし、記憶戻らない方がいい事も多過ぎる。戦闘や戦術、知識の最適化のせいで要らない記憶を沈めておかないと容量足りないって言うのも世知辛い話だよなー)」
「(´・ω・)(実際、忘却してないと最適行動が取れない記憶も多過ぎる、という)」
「(|ω|)「(きゅーせーしんが突いて来るとしたら、そこだから、こっちでそういうのは受け持っておかないとねと少年をサポートする為に最終決戦に必要な仕事へと向かう蜘蛛の顔)」
『何コソコソしてるのか知らないけど、アンタらもアンタらの主と同じで大概だからね? 基本、極論で人を操ろうとするし、色々やっておきながら、無害ですみたいな顔してるし……』
「(*´ω`)(極論を使う悪党は大抵、極論を全うに考察してない。極論を嫌う善人は大概人間の感情を考慮に入れてない。中道を気取る一般人は毒にも薬にも為るけれど、他人事よりも今日の刺激に飢えている。だから、全てをやり遂げられる僕らって負ける要素無いんだよねーとラスボスみたいな事を言いながら、イソイソと新たなる仕事に向かう宇宙蜘蛛達の半数を統括する一般ラスボス系蜘蛛の顔)」
こうして少年も知らないところで世界の趨勢を左右する話は流れていく。
何もかもを忘却してていいと蜘蛛達が考えるくらいには遠征隊の悲惨さは過去のものとして蜘蛛の中にのみ保たれていくに違いなかった。
誰も悲劇なんて繰り返し見たいものでもないだろう。
それを知っていていいのは糧として戦い続けているたった一人だけでいいのだと彼らは結論していたのである。
*
―――???
『ふ……我を倒しても何一つ変わらんぞ。反逆者共』
『ドクターアール!! お前の野望も此処までだ!!』
『貴方の創った全DRは破壊しました!! もう貴方を護るモノは何もないわ!!』
『観念して縛に付け!!』
『はははは、君達は本当に笑いの才能に長けているなぁ……』
『何!?』
『どうして、私が負けていると思っている? 私はもうとっくの昔に自分の最終計画を終えたと言うのに……君達の茶番に付き合ってやっていただけだと気付かなかったのかね?』
『何をッ!!? 貴方は此処で終わりなのよ!?』
『そうだ!!? もうお前の世界征服の野望は―――』
『馬鹿だ馬鹿だと思っていたが、此処まで馬鹿だとはいやはや正義の味方とは度し難く愚かしい。頭の回転が悪いようだ』
『お前の計画は世界征服じゃないって言うのか!!?』
『あのなぁ? もうDR計画は全行程を完了したんだ。全部、君達のおかげだよ』
『何ぃ!!? オレ達がお前の手伝いをするわけがないだろう!!?』
『察しの悪い正義の味方だ。君達は悪の秘密結社が世界征服なんてやると思ってる時点で正義の味方落第点だよ。私の目的は君達のような存在を生み出し、敗北する事だ』
『は!? 意味が分からないぞ!? どうして、負けると―――』
『レッド!! 話を聞くな。今はヤツを倒す事だけを!!』
『私は嘗て、帝国技研の幹部だった。しかし、私の開発したDRは従来よりも極めて優秀だったが、同時に危険な代物でもあった。それでも私はそれらを正式採用させる為に色々としたよ。研究も続けたかった。だが、私のDRは当時の安全性の面で他計画に劣り、コンペで敗北した……』
『そ、それって……あの極秘資料にあった』
『そうだよ。お嬢さん。だから、私はDRが正式採用されなくとも、その技術が継承され、実践投入される為の下地を作ったんだ』
『そ、そんなバカな!?』
『気付かなかったか? 君達の装備のハイパーフォーム……アレは正しくワタシのDRの技術を基礎として連中が苦肉の策で創った機能だ』
『な、何だって!?』
『元々、君達のような有能な民間人を活用した自警団構想は帝国陸軍情報部によって計画されていた事だ。そして、私のような裏切者を極秘裏に始末する事が難しい彼らに私はDRの情報を敢えて渡した。結果はどうだ?』
『ま、まさか、オレ達が結成された事自体がアンタの計画だったって言うのか!!?』
『これでも私は天才の類なのでね。私は大々的に分かり易い悪事を働き、悪を名乗った。そして、それ以外の事は民間には何も流さなかった。なら、どうだ? 彼らとしては私を消す為に大々的に動き出すしかないだろう? 大義名分もある』
『全部、アンタの掌の上だったって言うのかよ!!?』
『そうだよ。正義の味方諸君。君達は私が望んだ世界そのものだ。そのスーツは私の技術が正当に使われた先にある性能だ。私に勝つ事が出来て当たり前なのだよ』
『う、嘘だ!? オレ達は!!?』
『DRは敗北した。だが、満足な敗北だ。最初から分かり切っていた試験をして、ちゃんと予定通りだったというだけの話だ。私個人の技術開発速度と能力では軍の後ろ盾のある君達に勝てない事なんて当たり前だろう』
『敗北すら、お前の思い通りだったって言うのかよ!?』
『あははははは!! 帝国はこれでDR技術の全てを採用せざるを得ない。最新型のDRは君達が知る通り、過去の欠点を全て克服している。その技術情報はもう送った後だ。新しい名前を被せて大々的に運用を開始されるだろう。もう計画は始まっている。この技術は普遍的なものとして未来に残る。君達が此処でどれだけ研究データを破壊しようが、私を逮捕しようが、殺そうが、この流れは止められない!!』
『う、ぁ……そ、そんな……ブルーが死んだのは無駄だったって言うのか!? DRをこの世界から根絶するってオレはアイツに!!』
『実に青臭いドラマだったが、愉しめたよ。ご苦労様。さぁ、私を殺すなり、捕縛するなり、好きにしたまえ。私は何人も畏れない!! 悪の結社総帥は此処にいるぞ!! 正義を騙るエゴイスト共!!!』
『うわぁあああああああああああああ―――』
―――次回、最終回【戦い続けた先に】……希望を抱いて未来に飛べ!!! ソーライザー!!!
『(´▽`)いやぁ、来週で最終回……やはり、最終回はこうやって盛り上げないといけませんなぁ。放送開始から今年で43周年。43作品……一期前のもユーレンジャーズも良かったけど、今期はこれぞ帝国みたいなサスペンスと謎解き要素もあって案外良かった』
『………』
『(´▽`)ああ、でも、去年情報公開法で開示された40年前の帝国技研の事件が大本になっているそうだよコレ。当時は“あのお方”の信奉者が事件を起こしたという事で隠蔽されたようだけれど、今のドラクーンの基幹技術を創った一部人員の離反と追跡、排除は事実だったらしい』
『………』
『(´▽`)希望を語るのは子供達に必要な事だ。けれど、それだけじゃない事を物語だからこそ教えておく必要もある。決して、ただの安っぽい話にしない為にもね』
『………』
『(´▽`)君も案外そっち側だな。分かるよ。帝国人は基本そういう生き方なのは言わずと知れた国民性だからね。でも、だからこそ、君達帝国は世界にとっての異物だったんじゃないかな。半世紀前までは……』
『………』
『(´▽`)そうだ。君の言う通り……それがこの世界のスタンダードになった。だから、この星は平和になった。戦争が根絶されて十数年。今や内戦や対外戦争という類ものは絶滅して久しい』
『………』
『(´▽`)この顔文字の文化だってそうさ。最初に始めたのは帝国技研だったそうだけれど、それも元を辿れば、“あのお方”が心無い文章では味気ないからと手紙で始めたものだと言うのが通説だ。今じゃ、異世界からやってきた異世界人だの、異なる宇宙から来た宇宙人だの、別次元から来た異次元人だの……そういう創作物も案外多くなって来ているだろう?』
『………』
『(´▽`)それだけ異質だったのさ。そして、その異質さが受け入れられて初めて“帝国式”は世界のスタンダードになった。我々は“あのお方”の連れて来た教授の使っていた横文字の文化を使わなければ、ロクなコミュニケーションが取れず、“あのお方”が創った国語事典の内容を互いに引用して会話し、“あのお方”が創った物流網、情報網のおかげで安く極めて安全な生活を実現している』
『………』
『(´▽`)現代世界の基礎を築いただけじゃない。この世界のあらゆる人々の為に書かれた六法は今や国際法であり、全国家において独自性は有していても憲法は共通部分ばかりだ。その陰で泣いた人間は大勢たが、その数百倍、数千倍の人間が今を豊かに暮らしている。貧困の意味があの方が現れた過去と今現在ではまったく違うようにね』
『………』
『(´▽`)君も結局は帝国人なんだな。それは冷酷ではなくて、合理的と言うんだ。ふふ、帝国人の大半に言える事だけど、本当に謙虚というよりはズレてるんだよなぁ……』
『………』
『(´▽`)でも、それでいいのかもしれない。君達は間違いなく“あのお方”の文明的な子孫だよ。血が繋がっていようといなかろうと変わらない。我らにしてみれば、君達こそが帝国だ。その圧倒的なアレさを極められる者だけが帝国人なんだろうね』
『………』
『(´▽`)残念ながら、精神的自殺の名所への旅行は遠慮するよ。ボクはそっち側じゃなくて、こっち側だからね。一々、高みに絶望している暇があったら、今日の糧と明日の糧の為に適当に働くのさ。クズと呼ばれようが、間抜けと謗られようが、これぞ全うな大陸市民というものだよ。君』
『………』
『(´▽`)まぁ……ドラクーン・アール終末バージョンのアバンステア限定プラモは友人にでも頼むよ。首都みたいな魔窟で生きていける程、優秀でもないんでね』
『………』
『(|ω|)君は何と言うか……そういうのを人はお節介って言うんだぜ? 馬鹿馬鹿しいくらい君は他人事に全力なんだな……それがいつか君にとっての幸せになる事を祈るよ。我が最優の友人よ』
キラキラと翡翠色の板が虚空を昇っていく。
捕まえようとする手はもう無かった。
*
「二つ聞いていいか?」
「構わない」
「お前、あいつらと何処までいった?」
「………」
「まぁ、何でもいいけどよ。本当に最後になるんだ。今の内にちゃんと抱いとけ。時間は在る。ついでに本人も増えるんだろ? その呪紋」
「お節介極まる」
「んなのお前が言えた事かよ。時々、夜に泣いてたぞ? 今はお前の代わりに蜘蛛が仕事してるんだ。考えとけ」
「そっちはこっちに言える程に進んでる?」
「進んでるつーの。もう疲れたから降参した。はぁぁ、余裕があるってのも困ったもんだ。結局、押し切られちまった」
「そう……おめでとう」
「何がおめでとうだよ。こっからが大変だっての……分かるだろ?」
「かもしれない……」
「愛だの恋だのがお前にとってロクなもんじゃないってのは何となく見りゃ分かるようになった。でも、此処からは物量でも質量でもねぇ。心の戦いだろ?」
「………」
「勝てるか勝てないかを論じるのは準備が全部終わった後でいい。そして、お前の戦いも終わろうとしてる。それが今なのか。オレ達には分からない遠い未来なのかは知る由もないがな」
「………」
「辿り着いたんだろ? 戻って来れた。なら、ちゃんと言ってやれ。諦めないってのはそういう事だ。何を言わなくても最後まで手を動かしてるお前があいつらに言ってやれるのは此処だ。オレにはそう思える……」
「分かった。色々、話してみる」
「一歩進んだな。後戻りさせてくる救世神とやらにその一歩が効くかも知れねぇぞ? オレもそうだしな……アラミヤには世話になってるってのも今じゃ悪くないとは思ってる」
「……怖い?」
「恐怖を忘れられる程、長生きしてねぇよ。正しく恐れて逃げない。が、最強だ」
「かもしれない……」
「さぁ、やろうぜ。ガシン・タラテントはテメェの背後を見てるばかりじゃねぇって証明してやる」
「なら、もっと強く成って貰う必要がある」
「言われる程、弱くはないと思うんだがなぁ……あいつも旦那様は弱いから~って言うし……」
「的を射てる」
「ああ、そうかよ。弱さは克服するもんじゃないって言われなきゃ分からない程、子供のつもりもねぇんだがな。でも、男ってのはそういうもんだろ? 憧れたり、反抗したりよ」
「その気持ちは持ってた方がいい。じゃ、始める」
「お前は最初からそうだったんだよな……自分の弱さを受け入れる事……なんて、お前くらいの歳のヤツに教えられるのは何かなぁ……」
「(一_一)せーげんじかんいっぱい。せんとーをかいしする」
「オネイロス。フィールドを繰り込み式に変更」
「(一_一)zzz……りょーかいした」
白い蜘蛛がムニャムニャと丸まりながら呟くと世界は夜明け時の光に満たされ、薄明の中に二人の男が溶け込んでいく。
そして、黒と白輝きが左右より弾けて激突した世界は更なる閃光に塗り潰されていくのだった。
*
誰が言ったか。
ニアステラの英雄に負けは無い。
だが、同時にこうも言われていた。
ニアステラの英雄は力のみに在らず。
嘗て、力だけを極める事もなく。
あらゆる分野の技能を後天的に収められる知識を全て網羅していった少年が力の収集と強化のみに注力出来るようになった現在。
その政治的な手腕というのは殆どが政治活動を行う彼の周囲の人間の評価となっている。
六眼王ヘクトラスを筆頭として、第一野営地からニアステラの支配者となったウート、アルマーニアの邦長であるイーレイ、その片腕であるアルクリッド、エル大陸の事実上の統治者に近い帝国皇帝までもが揃っていれば、大体の政治的な問題は解決されて然るべきだろう。
ヴァルハイルのベクトーラ・ラクドが此処に加われば、正しく島の総意と彼らを呼ぶ事は可能だ。
だからこそ、ニアステラの英雄と呼ばれる存在にはある程度の公的な圧力というものが掛けられるのも無理からぬ話だろう。
具体的にはこうだ。
各種族、各統治者の背後にいる母集団からの要請は具体的ではなくても、空気という形で醸造されており、庇護を求める種族による儀式の要請が発生する、とか。
「結婚式、ですか? ヘクトラス様」
「特にアルマーニアからの圧力が高い。無視も出来んだろう」
自分の部下であり、現在聖域遠征計画を詰めている部下たる女の前でヘクトラスがそう盤上に駒を並べていた。
蒼い駒の周囲には複数色の駒が置かれている。
ニアステラの一室には人馬の邦からの決裁書類が積み上げられていたが、呪紋でやたら高速で処理されており、次々に決済と同時に不備があるものが寄り分けられ、次々に数日分の裁可が終わろうとしていた。
「ヒオネ姫を筆頭にして、ヴァフクのアヴィラーシュ、他にも側室に遠征隊内の第二部隊をという意見も多くなっている」
「この現状で、でしょうか?」
「連中、王群を下したからと平和になった気でいる。何も知らん凡愚共に分れとただ言うのでは伝わらんものだ」
「可能ですか?」
「可能なだけでやるわけがない。ニアステラの英雄はまずウート殿の娘婿という現前とした暗黙の了解がある事は連中も知っている」
「つまり、フィーゼ嬢、ヒオネ姫、使徒アヴィラーシュの三者と?」
「側室になりたい奴らが多過ぎる。氏族の未来の為にという話なら、人豚の女王までウチの孫娘どうかしらブヒ、との事だ」
「ヴァルハイルが良い顔をしないでしょうね」
「勿論、聖姫エレオールからヴァルハイルとの繋がりを求める声が出ている」
「誰が嫁ぐのです?」
「本来は自分がと考えていたらしいが、ヴァルハイルの貴族の小娘が侍従役なのだ。そちらでもいいというのは自分が伴侶役をしている暇が無いという事実を鑑みても良策に見えるだろう」
「ああ、あの子ですか」
「ああ、更にカダスの方面の事は蜘蛛達が持ち込んで来た代物だが、外界との繋がりを求め始めた商人連中も多い」
「フィーゼ嬢はエル大陸の皇帝の伴侶の妹君。そして、カダス方面は……邪神の破片ですか?」
「ご主人様呼ばわりしているアレが始祖なのだから、カダスは事実上嫁いだ扱いでもいいだろうとは思うが、カダスの制圧後に神格大陸の子孫達が出て来て、カダスを新たに治める統治者。つまり、蜘蛛の主人へと庇護を求めて来た」
「ええと、エルフ、でしたか?」
「ああ、最初に来たのはアイ大陸のヤツだったらしいが、蜘蛛達はあの大陸には不干渉の立場だ。最初に無用に殺し過ぎたので反省して、自分達がしばらく干渉しないという制約を立てたらしい。で、次に来たあのアーク・エルフとやらの小娘は存外遣り手だったらしくてな。隠れていた各地の神格大陸の同胞やエルフ以外の者を纏めて少数氏族の議会を結成し、自分が蜘蛛の氏族の主と婚姻する事で間接的に庇護しようとこちらに持ち掛けて来た」
「それはそれは……お認めに?」
「ヤツが持って来た人材からの要望だ。認める以外無いだろう。政治的な象徴というよりは蜘蛛達の首魁という事が大きい。何にせよ。安定させるなら、古来からの方法も必要だ」
「ですが、彼が納得しますか?」
「これは決定事項だ。納得するかどうかではない」
「形だけでもと言うのならば、婚姻は内々にして祭りだけを取り行うという手もありますが……」
「それも考えた。だが、連中が求めているのは実績というよりは大衆が認める雰囲気だ。もう大丈夫だという安心感である以上、盛大にというのは仕方ない。まぁ、全部無かったことになるか。あるいは誘導されて最悪の形で救世神によって利用されるかという話だ」
「分かっていてもやらざるを得ないと?」
「その為に蜘蛛側にも婚姻を事実として固定化する為の方法を模索して貰っている。あちら側は利用されないように固定化する事自体は可能と回答して来た」
「では、いつ頃?」
「連中が戻って来た後。一月後を目途にして考えている」
「この事を当人達は?」
「あの英雄殿以外は打診してある」
「知らぬは当人ばかり、ですか」
「さてな。知っていようと知らなかろうと結果は変わらん。後はただ我らが力を尽くすのみだ」
「分りました。新たなご命令はありますでしょうか?」
「無い。引き続き聖域への遠征計画に注力しろ。政治は政治をやる者が解決する」
「ちなみにですが、幼女達から何かしらの意見は出ていないのですか?」
「………一応、捕虜である連中は元に戻す計画もあるのだが、あの連中ヤツが好き過ぎる。結婚によるニアステラの安堵の為、恩赦を考えて打診してみたが、どちらの派閥からも不要との事だ」
「呪紋の効果は絶大ですね……」
「結果論だが、ヤツが元に戻すと決めた人材以外はあのままかもしれんな」
「彼ら自身が元に戻りたくないと言い始めているわけですか」
「ヤツの能力が強化され続けた影響だ。救世神からの干渉で本来幼女だった連中が8割消えたのに残っていた連中がいた。という話は前にしたな?」
「ええ、覚えております」
「が、どうやらそいつらはほぼヤツの従者として因果律的に組み込まれ済みらしい。蜘蛛共が言っていた。色々確認してみたら、残ってる連中の条件は4つ。1つ家族や親族や恋人がいない。2つ戦場を経験後も特に激しい憎悪を持っていない。3つ幼女にされた後も未練らしい未練が無く愉しそうに働いていた。4つ心がもう殆ど雌化している……という事らしい」
「つまり?」
「後10年もしたら、愛人が激増する。まぁ、蜘蛛共の年齢の引き上げやら引き下げやら色々あるから、もっと早いかもしれんがな」
「………別に手を出さないなら、問題ないのでは?」
「在る」
「え?」
「問題が在る」
「それは……聞いてもよろしいものでしょうか?」
「聞いていけ。愚痴だ……あの幼女共、どういう種族になると思う?」
「種族? ですか……幼女としか呼んでいませんが、幼女化の呪紋で幼女にした手前、種族が違っても同じような種族に統一して呼ぶべきなのでしょうか?」
「蜘蛛達が近頃面白い実験結果を持って来た」
「どのような?」
「コレだ」
ヘクトラスの手から紙が一枚、モルニア・クリタリス。
彼の腹心に手渡される。
「……蜘蛛の干渉を弾く? 年齢や性別、精神干渉呪紋は一定以上の効果が無く。時間経過で元に戻る……契約者の能力を蜘蛛と同じように引き継いでいるが、意図的に表出させない場合は全ての力が存在の固定化に割かれているからと思われる……ええと?」
「要はだ。連中はあの英雄殿が生み出した第二の種族として【幼女】という種族になっているらしい。これは形態の話じゃない。過去の同一人物には戻れん程の干渉への耐性……恐らく救世神の干渉に対抗出来る蜘蛛以外で唯一の“種族”だ」
「―――」
「本来の呪紋の効果を逸脱し、究極の神の干渉を退ける種族。それは実質、あの英雄殿が採集してきたあらゆる呪紋、能力、技能に対しての敵性のある下位互換。エルコードの庇護氏族と呼んでいいだろうな」
「エルコードの加護を得た氏族、ですか……もはや、彼は神だと?」
「そんなところだ。今、別の大陸や星でも幼女化機能のある槍は使われているが、それで幼女化した存在が一定の条件を満たしていると蜘蛛の蜘蛛化と同じく幼女化によって到達する種族なようだ」
「それほどまでに変質していてはもう戻れないと。一種の転生の変形にも思えますが……」
「その考えはほぼ正しい。連中、実際に近頃は極めて仕事が出来る層として重宝されている。今までは郵便に使っていたが、事務仕事に呪紋開発、内勤に移動となる者が増えたようだ。更に郵便をやっている連中も肉体の資質が開花したらしく。体力は無いが、技能は在るし、物覚えも極めて良いとか何とか」
「つまり、英雄殿の種族としてのエルコードの資質が僅かでも受け継がれ始めている、と」
「そういう事になる。最も資質を示した分野が呪紋全般とゴーレム操縦だ」
「戦力になりますか?」
「救世神が出撃してくれるなと小細工する程度にはな」
「では、幼女という俗称とは別に新しい種族としての名前を?」
「ああ、それは後で英雄殿に頼んでおこう。どの道、もう元に戻る気も無いし、元に戻れるものでもない。ならば、我らの英雄の盾として部下として使い潰せるように組織化しようじゃないか」
「ご苦労お察しします」
「ああ、本当にな。今までは捕虜で済ませていたのが本格的な種族となれば、色々と派閥の意味合いが違って来る。元教会と元ヴァルハイル……連中にしか使えない機体も疑似受肉神程の力がある以上、もはや厄介な勢力だ。今後は意見も聞かねばならなくなった。管理の手間も増える」
「では、歳も近いですし、例の赤子の護衛、守備隊として館の守護者にしてみては如何でしょうか? 今の郵便事業も殆ど捕虜政策でお遊び以上の事ではありませんし、纏めて練兵し続ければ、肉体そのものを変化させて相応の戦力になるはず」
「ふむ……考えないでも無かったが、やはりどう考えてもソレが妥当、か」
「救世神以外にも神々からの暗殺や諸々の侵略が行われないという確証もありません。蜘蛛の艦隊、黒鉄の艦隊を主軸とする現在、限られた戦力を効率的に使うのならば、あの2人を主軸とする守備隊を拡充し、あの機体を揃えてニアステラの英雄の護衛としたならば、相応の形に収まるように思えます」
「……採用しよう。本人適正を見てから連中だけで部隊を拡充。受肉神に匹敵する力を増産、か。恐らく今の蜘蛛共なら可能だろう」
オクロシアの王はこうして今後の方針を決め、新たな仕事へと入るのだった。
*
「………♪」
「………♪」
「ご主人様を返せー。我に構うように要求するー」
始祖破片?な巨大人型兵器っ子が第一野営地の黒蜘蛛の巣の内部。
蜘蛛達が持っている看板にも似たものを掲げて地下への入り口がある地点で抗議していた。
その横では感謝されてから「ふへ、ふへへ」くらいの緩んだ表情で夢見心地な幼女が二人。
たいちょーとへんきょーはくが上機嫌に相手のご機嫌取りの為に追従している。
「(T_T)(ダメダメ。今、ちちに迷惑かけたら嫌われちゃうよという蜘蛛の顔)」
「何ぃ!? う、き、嫌われるのは……く、羽虫の癖に口だけは上手いヤツ!!」
またジタバタし始めるかと思われた“彼女”であったが、自分の取り巻きとなるべき大破片達もいないので待っている事も出来ずに自分の横にいる幼女達を見下ろす。
「オイ。お前達、余興をしろ。我は飽いている」
「はっ、恐ろしき邪神の前で恍惚としてる場合じゃない!! へんきょーはく!!」
「ぬっ、そのようだな。しそはへんとか言ったな。よきょーとは具体的に何だ?」
「考えるのはお前達の役目であろう!! さぁ、愉しませるがいい!!」
図体だけで極めて差のある駄々っ子からの要求に二人が顔を見合わせる。
「ふむ。良いだろう。では、ついて来るのだ!! ええと、名前は確かケイ……ケイなんだ?」
「ケイ何々だった気はするが、面倒だ。ケイでいいな」
「我に何を勝手に名前を付けている!! 不敬であろう!?」
「とにかく、ケイ。お前が歓ぶものが我々には分からない。だが、遊び相手が欲しいなら、我らの機体で相手しよう」
「オイ? いいのか? 後で蜘蛛共にドヤされるのではないか? たいちょー」
「仕方ないだろう。此処で宙みたな事されても困る」
「むぅ……」
「付いて来い!! 遊んでやる!!」
「しょうがない。我がご主人様が戻って来るまで相手をしてやろう。光栄に思うが良いぞ♪」
「何で一々偉そうなんだ。まったく!! 邪神というのはこういうものなのか?」
たいちょーが溜息一つ。
尊大というよりは子供っぽくなった彼女を連れてイソイソと自分達の愛機が置いてある地下へと向かっていく。
蜘蛛達にへんきょーはくが呪紋で連絡。
遊ぶ場所が欲しいという事でだだっ広いゴーレムようの練兵場が隣接した一角にやってくる。
すると、彼らの幼女守備隊の機影が並んだ一角が見えて来る。
「ほぉ~~良い玩具を持っているではないか」
感心したケイと適当に呼ばれた彼女がイソイソと自分より小さい機体を見やり、すぐに縮んだ。
「オイ?! 自分で縮められるのか!?」
「当たり前であろう。我を何だと思っている。人間」
「大き過ぎて貴様はあの建物に入れなかったんだぞ?」
「え……」
ケイの顔が固まる。
少年のいる館に入ろうとして朝方に蜘蛛達に止められて、不満だった彼女である。
「~~~ち、縮んでやる!! 縮んでやるから、我をご主人様の家に入れるのだ!!」
「蜘蛛達が良いと判断したら入れてくれるだろう。ほら、縮むがいい」
たいちょーの言葉に慌てて質量が減っていくケイの肉体が鎧を纏った少女に見えなくもないくらいまで小さくなる。
「これでご主人様の家に入れるな。くくく……」
「さて、縮んでも力はそのままなのだろう? では、こちらも……へんきょーはく!!」
「良いのか? 武具防具など使用できんぞ?」
「組手ならば、文句は出ないだろう。フフン。これでも近頃、更に強くなったし、体力も付いて来たのだ。例え、邪神だろうが、格闘戦ならば負けな―――」
―――25分後。
「うぐぅ!? 強過ぎぃ!? 強過ぎぃぃぃぃぃ!!? 何で人型の大きさで我らが押し負けるのだ!? 理不尽!! 反則だぁ!!?」
「うぐ、だから、言ったのに。考えなしめ。げふ……蜘蛛達相手の修練よりキツイとは……」
彼らの愛機となっているビーメは今や武装を使わずにボロボロにされていた。
内部の彼らも頭部や口から血がダラダラと流れており、緊急起動した霊薬による注入で辛うじて重症にはならないと言った具合だったが、二人はケイに罵詈雑言を吐く事もなく。
癇癪持ちの子供を何とか満足させてぜぇぜぇと息を吐きながら、戦闘を無事に終えていた。
「フフン。脆いな。やはり、玩具ではこの程度か」
得意げなケイがニヤニヤし、最後に蹴りでビーメの下半身を吹き飛ばした後、満足そう腕組みをしていた。
「ふむ。だが、貴様らのような侍従の玩具を壊したとあっては我が沽券に関わる。簡単に壊れぬようにしてやろう」
「へ?」
「ん?」
「第十四次宇宙EW-0032第七銀河団。奴らは我が出会った中で最も堅き戦士だった。もう一度機会をやろう。同系統の名称固定より引用してやる。アルス・パウリナでいいだろう。さぁ、顕現せよ。対宇消波級グランド……大宙を護りし、最後の壁よ……我が頚城より来たれ!! 新たなる時代、新たなる世に我が相手となる事を許そう!!」
「な、何だぁあああああ!!?」
「うおっ!? 機体が、震えている? 神の血肉が恐怖しているのか!!? オイ!! 蜘蛛共どうにか―――」
「(`・ω・)(何か知らんけど、時空振から情報? イデアが露出して憑依し始めてる? やっぱり、始祖破片の能力欲しいな~~と解析を続ける護衛蜘蛛の顔)」
「おぃいいいいいい!!? 今、サラッと我らの事を無視したぞ!? あの蜘蛛共!!?」
「うぉ?! 滅茶苦茶実験台にされてる気配!!? 止める気無しか!!?」
彼らのボロボロだったビーメに虚空の歪みから何かがサラサラと……歪みとしか見えない情報のようなものが降りて来た途端。
コックピット内部が歪んで形を変えていく。
「な、何だ!?」
「接続先が増加? 不明なユニット?! 基礎システムに何か上乗せされているぞ!? せ、接続負荷に備えろぉおおおお!!?」
「ふ、ふぉおおおおおおお!!? か、体が重くぅぅぅぅぅ!!? こっちは脆くてか弱いよーじょだと言うのにぃいいいいいい!!?」
「いや、お前も大きくなっただろう!? へんきょーはく!!」
「言ってる場合か!! し、質量が増加していく?! 因果律操作ではないのか!!?」
彼らのボロボロだったビーメが猛烈な勢いで渦巻く歪みによって引き伸ばされるかのように渦の中で形を消し去られていく。
それと同時に歪が明らかに内部で質量を以て顕現し始めた。
ゆっくりと渦の速度が落ちていくと歪んだ姿が元に戻っていく。
「「こ、これは……」」
しかし、それは明らかに彼らのビーメでは無かった。
30m程までも巨大化したビーメだったモノの残滓は顔付くらいだろう。
その姿は過剰にも思える全身の線が太いフルプレート型の装甲を纏った何かへと変貌していた。
赤褐色に黒い縁取り。
そんな色合いの表面には歪んだ曲線が多重化されて並んでおり、その溝は明らかに回路のようにも見えたが、ズシリと一歩進んだ時、彼らのいた地帯の床にビシリと空間毎亀裂が入った。
「う、動くな!! へんきょーはく!! この場に罅が入るなど尋常ではないぞ!!?」
「うぐぐ……内部も随分と様変わりしたようだ」
彼らのコックピットはたいちょーを前にへんきょーはくが後ろに接続されていたはずであったが、今はたいちょーの後ろに二人羽織のようにへんきょーはくがライダーが車体に跨るように前向きに座り込んでいた。
「ビーメが変貌したのか。重装鎧の騎士、か?」
たいちょーが目を細める。
胸部は三角錐が上に切り上がったような装甲。
四肢の関節部は装甲が別部位を覆うかのように伸びて盾の如く分厚い。
関節部が一切見えない機影はノクロシアの真なるゴーレムにも似ていたが、それよりも余程に防御力を重視していますとアピールするような超重装甲な上、全身装甲の殆どが多重に重ねられているのが分かる程、複数部位は同じ形の巨大な装甲を着込んでいるような匠形であった。
ビーメの面影のある顔をガシュリと上から火花を散らして落下したプレートで覆い隠せば、バケツ型の頭部は人型でありながら、顔というものはなく。
十字の亀裂が入ったような頭部防護用のプレート内部からギョロリと光学センサーだけが光って見える怪物。
「嘗て、我が滅ぼした宇宙において破れた宇宙の壁代わりに使われていたものだ。対宇消波級グランド……宇宙同士の接触回避用の機材立った代物だ。ゴーレムの亜種としては恐らく我が知る限り、一番硬い。旧き者共の流れを汲んだ連中が創り出した“无”を薄皮一枚で堰き止める積み木のようなものだが、今のお前達には有用だろう……」
ケイが小さな拳で30m級に変貌したビーメを再び拳で殴り付ける。
途端、猛烈な勢いで機体が後方へと吹き飛んでいくが、先程までとは違って装甲に罅一つ入らず倒れるのみで終わっていた。
「お、重いぃぃぃぃ……ぐぅ!!?」
「へんきょーはく!? だいじょーぶか?! へんきょぉおぉぉぉはぁぁぁく!!?」
『( |ω|)(今、一番欲しい“无”関連の技術じゃん。と、イソイソ機体を解析し始めた蜘蛛の顔)』
倒れ込んだ機影に蜘蛛達が群がっていくのを横目に良い事をしたとばかりに爽やかな汗を拭ったケイ……そう呼ばれる事になった彼女はイソイソと現場を後にし、少年が返って来るだろう館に今度こそ入る事に成功したのだった。
*
―――聖域北部黄金郷。
聖域。
嘗てより、多くの島の亜人達が恐れた王群に護られし領域。
内部の事は殆ど分かっていないが、蟲の亜人。
王と呼ばれる巨大蟲の眷属たる使徒が集落を造っているとされている世界である。
一部の亜人達はこの山岳部に入り込んで内偵を進めているが、この数百年の間に実際に王の眷属と接触する者は数える程しかなく。
内部でどういう種族がどのように生活し、どんな政治形態であるのか。
殆ど分かっていない。
ただ、確実なのは彼らが支える王が神のような位に到達する事もあるという事実であり、都が広大な山岳部にはあちこちに存在し、相応の勢力で以て、互いに戦う事もあるという事だ。
「此処もお終いか……」
山岳部の一角。
ニアステラに唯一の転移強襲を仕掛けた蛭の人型の使徒。
外界ならば怪物と呼ばれるだろう者達の都は山岳部の大きな氷河跡内部に形成された少し前までならば、黄金郷とも呼ばれていたはずの場所であった。
だが、氏族の戦士達は帰らず。
更には撤退してきたはずの戦士達は途中で土砂崩れに巻き込まれて死亡。
労働力を維持出来なくなった都市は廃墟と化しつつあり、次々に他の王が従える者達の強襲を受けて疲弊。
今や風前の灯火に違いなかった。
砂岩で出来た乾いた岩の都には今や店を出す者も無い。
しかし、此処最近は激しかった他氏族からのちょっかいも無くなり、一時の平穏が地域には齎せられていた。
その最大の理由が都市部郊外。
聖域の西部へと続く要路の一角にはある。
山岳部に続く街道には旧い廃墟が点在している。
その複数の周囲には白い糸が張り巡らされ、道行く襲撃者達に燃やされ、進軍を阻む地形を打ち崩せとばかりに排除が進んでいた。
黄金虫のような顔の蟲人達が糸を焼き払い。
略奪用の馬車を牽いて、遠目に燃やした廃墟を見つめ、明日には進軍を再開しようと休んだ丑三つ時。
「―――」
唐突に呆気なく彼らは地表内部に隠されていた糸で絡め取られ、瞬時に繭にされて、引き寄せられた山岳部の山肌にいる大きな口を開けた蜘蛛の内部に納まった。
口の中で磨り潰された際に悲鳴すら上がらない。
ゴクリと今日の食事を終えた大蜘蛛。
ウルガンダがイソイソと衣服や装具の残骸をペッと吐き出してから、ソレらを呪紋で崩壊させていく。
崩壊した際に得られたエネルギー。
光と熱が再び口の中に吸い込まれてゴクリされた後。
彼女は小さな山岳部の山小屋の大扉が開いたままの物置に入っていく。
内部には糸で編まれたと思われる巣が在り、そこに体を投げ出した巨体は巣を撓ませながらも寝台のように受け止められた。
「………」
彼女の周囲には次々に映像が浮かんでいく。
ソレらの殆どは彼女も知らないような遠方や旧き者達が遥かこの地に到来する前、あるいは到来して去った後、残された施設群。
探検する子供達が見えていた。
本来、彼女の能力は蜘蛛にするだけであり、自分の眷属を創るものだった。
しかし、今やその力は大幅に変質し、まったくの別物になった挙句に変質した蜘蛛達自身の力で更なる改良を施され、因子から解析され尽くして、彼女を倒した少年の為に延々と運用され続けていた。
「………」
そして、彼女もまた己が変質していくのを確認するしかなかった。
蜘蛛の体がゆっくりと音を立てて蒸発していく。
内部からは肌色を覗かせた女が1人。
元々、彼女には無い機能が芽生え、育ちつつある事は驚き以上に当人にとって理不尽であった。
欲しくも無い機能が付与され続けていたのだ。
ソレはつまり蜘蛛が増えると同時に彼女と契約した契約者が強力になり、力を搾取されているのではなく、付与されるまでに立場が逆転している事を意味する。
その顔立ちが主に似た女性体となったのも無理からぬ事だろう。
黒髪を短く纏めて、白い糸でワンピースを象った彼女が周囲に目を向ける。
大量の蜘蛛達は極めて愉しそうだ。
本来、彼女の子供達にはそんな人らしい機能、感情は希薄なはずなのだが、そういう事もなく。
まったく人間より人間らしい生活を愉しんでいる様子は……あまりにも彼女にとっては嘗ての世界を思わせるものであった。
「………聖域か」
彼女が開けた物置から出て、周囲を見渡す。
嘗て、樹木が生い茂り、多くの動植物達が満ちていた山々は今や禿げ上がり、鉱物と土、石以外のモノは多く無い。
過去の感傷に浸る程、彼女は己を弱い存在ではないと思っていた。
しかし、今や彼女の子供達は彼女を遥かに越えている。
「フン……来たか」
人型で彼女が空を見上げれば、大きく跳躍してくる人影が複数。
ソレは黒鎧の集団であった。
黒征卿のモルド複製体。
ソレらを操る天空に坐した神括る大樹の遣い。
そして、そこには首の無い鎧もまた存在していた。
彼女の守護した地において旧き者の秘跡を護り続けて来た騎士までもが今や彼女の主の手先となっている。
「この身を確保しに来たか。主に忠実な事だ」
彼女がその鎧達の筆頭らしい首無しのデュラハンにも見える呪霊を見やる。
その後方からは彼女の糸にも掛かる程に山のように巨大な腕らしきものが半透明化して聳えていたし、逃げる事は事実上不可能だった。
「先遣隊か。聖域の攻略に過去を知る者を使う。道理であろう」
黒いモルドの群れに付き添われて、彼女が空を跳躍して、巨大な腕の山の上へと降り立つ。
其処にいたのは彼女の主ではなかった。
「やぁ、お久しぶりですね。憶えているかな?」
「―――今はどちらだ?」
「ああ、彼は今、別の事をやってる。こっちはただのノクロシアの備品扱いの被造物さ」
白衣の青年。
ノクロシアに住まう唯一の存在。
今は邪神に肉体へ同居されている何か。
「何用だ? 遺されし者。どうして、お前が蜘蛛やそいつらを従えている」
青年の周囲には複数のノクロシアンが待機している。
「王群が倒れ、聖域が拓かれた今、ウェラクリア神の加護を受ける者が必要だと判断したんですよ」
「そこの蜘蛛共と攻め込めば良いだろうに」
「聖域を知る者が必要なのは間違いない。しかし、聖域を知る者がこの島には殆どいない。そう、この聖域の全てを知る貴方以外には誰も……その全体像を把握してはいないでしょう」
「全てを意のままとする救世神を前に過去が意味を成すものか」
「救世神は未だ活動不全状態。此処で貴方に出会えたという事はこの時点で貴方はこちら側という事では?」
「気安く使おうという腹積もりか?」
「貴方を彼が喚ばないのはどうしてか? お分かりでは?」
「………あのお方の影響力を減らす為か」
「今ならば、救世神の干渉は無い。そして、ウェラクリア神も同じはずだ」
「その根拠は?」
「ノクロシアへの再干渉……ウェラクリア神にとって重要な分帰路は彼が潰した。つまり、此処から先はもう貴方に干渉して事を進めるしかない。でも、そうはならなかった」
「……だから?」
「神々と同じように我々にも思惑があるという事です」
「貴様の、ではないのか?」
「生憎と面白い方に付くというのが我が同居人の方針でして」
「フン……情報だけなら幾らでもくれてやる」
「貴方には御同行願う予定です。蜘蛛の母よ。我が同居人はウェラクリア神の背後関係をちゃんと承知した上で貴方を連れて来いと言った。貴方はどちらに立つのですか?」
「―――」
「(/・ω・)/(こっちのほーがたのしーよ。はは~~)」
「( ̄д ̄)(ま、ちちと敵対する意味はもう無いよね)」
「(。-∀-)(そーそー生真面目過ぎるんだよね。母はー)」
「フン……お前達を我が子供達と言ってやるような間柄だったか?」
「(>_<)/(でも、ヒトになったって事はちち寄りって呪紋に判断されたって事じゃない?)」
「………連れて行け。だが、まずヤツのところにだ。この血肉、幾億、幾兆喰らいしもの……あの……どうやら我が宿敵らしい男の元へ」
「(´-ω-`)(ま、普通の蜘蛛が知ってるんだから、受け入れた当人だってそろそろ理解するよね)」
「(^◇^)(今、ちちは正妻さん達とくんれんちゅーなんだけどねー)」
「話は決まったようだ。悪いがパズルのピースは貰っていくよ。巨人君」
『―――ちッ』
「っ」
ウルガンダが北の虚空を見やる。
白衣の青年に看破された存在が姿を露わとする。
途端、その姿に蜘蛛の糸が殺到し、同時に蜘蛛脚が無数に突き刺さる。
早業の蜘蛛達であったが、相手がまったく堪えていない様子で自分達を弾き飛ばしたのを見て、ようやく敵が自分達よりもまた高次の領域に立っているとすぐウルガンダを抱えて後方へと撤退。
残された黒征卿のモルドが周囲から湧き上がって来た黒征卿の為のドラグ。
銘有りの複製品へと瞬時に乗り込み。
時間稼ぎを開始する。
同時に猛烈な勢いで手の山が吠えた。
呪紋を何処までも自動追尾する手が自身の霊力を肥大させて虚空に佇む蟲の巨人を掴み潰そうと殺到する。
「今の貴様らの手先に負ける程、温いわけがあるか。聖域の守護者を舐めるのも大概にしろ」
嘗て、ニアステラとフェクラールを山岳部で圧し潰そうとした当人。
その腕にある石製の杖。
虹色にも見える水晶の塊が無数に連なり結合した岩塊が結合した上部が光る。
途端、ドラグが砂のように風化していく。
霊力の腕が巨人を拘束しようとしたが、ソレもまた消耗した様子で体を薄れさせ、最後には空気中に霧散して消え失せる。
「我が神の力を以てしても、世の記録より抹消出来ない、か。本体の切っ先しか連れて来ていないと……ふざけた真似を……」
ドラグが風化し、腕が霧散して尚、巨人の眼光は鋭く。
滅し切れない敵の能力に目を細めていた。
「最短の選択で後手後手という事は奴らは世の理を操作するまでもなく確率を単なる行動で上げているという事……そうか。行動のみで……あの真なる邪悪すらも平らげたか」
嘗てよりもまた静かな様子で巨人が虚空に杖を振る。
「もはや、本体を使うしかあるまい。王群は滅びてなどいない。さぁ、出番だ……存分に大いなる者達を喰らうがいい。持たざる蟲、我ら小さきものの嘆きを教えてやれ」
ユラリと彼の前に歪みが生じ、色が滲んでいく。
その内部から羽音と何かを擦り合わせるような高周波が徐々に高まり、歪みが限界まで拡大した途端、目にも留まらぬ速さで上空へと消えていく。
「このような事は初めてだったな。だが、此度の貴様らの死は無駄ではないぞ。我らが神の本当の目覚めは近い……我らが神と拮抗し、刃向かい、滅び続けた……この星を統べるまで無限にも争い合ったあの存在が消えた今、もはや何者も聖域を止められはしない。甦れ同志よ」
巨人の姿が朧げに消えていく。
同時に王群の頭上に乗るモノ達が数名ゆっくりと姿を露わとしていく。
「聖域を復興するのだ。我らが楽園を……あの忌々しい人間共によって滅びし、楽土の再建を!!! 我らが神に……弓引いた全てを掃滅してな!!」
『………』
やがて、薄っすらと朝日が昇る頃。
誰もいなくなった場所にて。
ウルガンダがいた小屋より揺らぐ糸の塊のようなものが浮かび上がり、人の形を取るとフードを被って歩き出していく。
聖域の荒野へと歩き出す腰には蜘蛛脚が一本。
そして、その胸元には掌に収まる黄金の蝶のような何かが握られていた。
『霊殿は復元した。これで……感謝しておこうか。ウルガンダ……貴様の望み。確かに受け取った』
足取りは遥か山岳部の頂きへと向かっていくのだった。
*
宇宙ってチョロいよね(´・ω・`)。
という顔の蜘蛛達が我が物顔であらゆる銀河を蚕食した結果。
宇宙に存在する質量という質量。
希少資源という希少資源。
その内の少年の為に使われる全てが現在、本星のある星系外延部。
あらゆる銀河から楽園と呼ばれるようになった場所へと集結しつつあった。
「( ̄д ̄)(はーい。そっちの中性子星は縮退物質を超重元素に加工ねぇ~天界行きだよ~~)」
「(;´∀`)(こーして宇宙中の高エネルギーや超重量級天体を圧縮して並べると壮観だなー)」
「( ^ω^ )(赤色惑星やブラックホールも捕獲出来るようになったからね。呪紋で範囲指定して現象領域を限定すれば、高密度に星そのものを圧縮出来るのはかなり美味しい)」
「(´▽`)(今、別領域宇宙の新しい蜘蛛さんの制圧した超科学文明=サンはかなり旧き者に近いよねー)」
「(´・ω・)(ま、殆どが高次元領域で統一意志になってたから、蜘蛛にされるか降伏か選んでくれるだけマシよねー)」
「(|д|)(ちせーまっさつ機械=サンはお話を聞かないから、感情をインストールして自滅して貰ったみたいだけど、40億個の惑星級機体の総突撃とか少人数じゃやってられないし、しょうがないよねー)」
「(´ρ`)(やたら高性能な機械やAIの弱点が命になるとか。意志を得る、だからね。あらゆる自己内に発生する派閥によって分裂した挙句に超高速で互いの派閥が結論を出して争い始めるから、殆ど手間要らず……)」
「( ̄▽ ̄)(残った技術と残骸は美味しく蜘蛛が頂きました〇 っと、その方面から機械惑星499ダース来たよー。さ、超重元素化がんばろー)」
星系外延部から延々と球状に展開され続ける大量の地獄門は引き連れて来た中性子星を筆頭としたあらゆる生命のいない資源惑星を吐き出し、次々に蜘蛛達が解体し、天界と宙域を接続して其々に作業を続けていた。
「(´▽`)(きれーだなー。惑星も色が一杯だし、形も沢山……)」
無数の惑星が自身の重力を無視するかのように並べられ、小さな蜘蛛達にドナドナ引き連れられていく様子は惑星の羊飼い染みている。
艦隊の増殖率を劇的に加速させると共に少年が用いる武具、防具の類を鍛造する為、莫大な希少金属の塊が惑星毎精錬されているのだ。
「(´・ω・`)(5万度超えたよー。第二次惑星精錬開始でー)」
「(-_-)(うーい。100万度まで一気に上げるねー)」
燃え盛る隕鉄の星々が……何処かの悍ましい知性を噛み砕く金属生命や機械生命の残骸達が、次々に現実とは思えないような規模で数万個単位、流れ作業で一つにされ、あらゆる情報を失いながら融かされていく。
原子単位で変換を掛けられ、より重く、より小さな体積へと変貌し、ブラックホールを創るのでもあるまいに中性子星より遥かに重い縮退物質すら超えて安定化する超重元素へと変貌させられていた。
「(|_|)(案外、命の無い惑星も多くて助かるよねー)」
「(・ω・)ノ(はーい。熱量伝導で吸い上げるよー。魔王蜘蛛さん達お願いねー)」
「艸( ̄д ̄)艸(熱量お食事開始しますー)」
質量の極大の圧縮は中性子星一つが小指以下の雨の雫の如く体積を減らされて集積、更にソレが圧縮されて不可思議な色合いの安定しているように見える金属塊へと変貌していく様子からも異様としか言えないだろう。
惑星の連続加工を行う工場と化している宙域の様子は地獄を思わせて灼熱。
蜘蛛達が大量に集って呪紋で圧縮と結合を数千回規模で行い続けた先。
無数の星々が僅か小さなビー玉程までになり、ソレもまたインゴットにされて集められ、何処かへと消えていく。
「あ、アレは―――機械帝国を名乗っていた未知の次元からの侵略者……や、奴らの巣か!!?」
「―――巣、巣なんかじゃねぇ!!? アレは本拠地だ!? 見ろ!!? あの姿は……惑星級を超える300万㎞級!!? 嘗て、帝国銀河団が攻め切れなかった侵略者の根城だッッ?!!」
「嘘、だろ……あのオーラが出てる惑星……高次領域に存在すると言われた……で、伝説の……や、奴らは神に最も近しいと言われた時空の超越者達すら―――っ」
「高次領域に引き籠っていた時空超越した勢力を喰らい続けているのか!!? この宇宙より高次の世界すらも奴らは!!?」
「こ、こんなの勝てねぇよ。何だよ。この計器狂ってんじゃねぇのか? は、はは……此処にある質量だけで銀河を呑み込む超々規模ブラックホールが莫大な数無けりゃオカシイ質量だ……こんな質量が狭い宙域にあるのに重力異常すら起こらないだと?」
楽園近辺へとやってくる敗戦処理中の帝国銀河団の先遣艦隊はオロモス級を遥かに越える質量が圧倒的な速度で集められ、何かの生産の為に使い潰されている様子に絶望を通り越して乾いた笑いしか出なくなっていた。
正しくソレは、宙域の様子は……世界の終焉を見出すしかない景色。
彼らが知る限り、帝国銀河団すらも超える存在を、ソレに近しい者達を、技術において遅れを取る知性の敵を、蜘蛛達は何かとても雑にそこらの宙域で本拠地毎鋳溶かして1日に数万近い惑星を流れ作業で加工し続けていた。
その中には明らかに巨大なブラックホールのようなものまでもが在るのだ。
「ブラックホール自体を圧縮するだと!? 蒸発させているわけではないのか?!!」
オロモス級が数百年の時を費やされて造られるというのに蜘蛛達はソレを適当に蜘蛛脚で踏んで圧縮しているらしく。
まるでお遊戯会染みて踊っているようにも見える。
正しく宇宙を呑み込む勢力の面目躍如。
ソレ一つだけでも栄華を極めた極限の科学文明は無限のエネルギーとして利用していたのに蜘蛛達はそうではなく消耗品のように雑に扱って慎重な様子もなく。
適当に加工しているのだ。
定理そのものを書き換え、無限可動する程度の機材ではない何かにするのだろうと多くの者達は気付いていた。
そこにあるのは遥か宇宙すらも創造する科学を超えて、世界の外にまでも影響を及ぼし始めている蜘蛛達の準備。
広大な天文単位の宙域で造られているのは材料であって、彼ら帝国銀河団が思うような超高度な技術による成果物ではない。
「アレら一つ一つが宇宙の終わりまでも使えるはずの資源にしてエネルギーのはずだ。ソレを連中、一体何に使っている!?」
「未知の圧縮技術だ。あんな規模の質量を崩壊させずに安定化させるのにどんな定理が使われていると言うのだ……っ」
「分かっているのは連中……惑星加工に真空崩壊を利用しているぞ……生身でな……宇宙を滅ぼすのがまったく怖くないらしい」
「はははは……荒唐無稽過ぎて、何一つ報告書に書けんな……」
殆どの部材が戦艦や惑星規模の兵器を造るでもなく。
恒星やブラックホールを内包する天文単位兵器を生み出すでもなく。
たった一人の個人の為の装具に使われるのだ、と蜘蛛達に訊ねた者達は説明されて何も言えなくなった。
「( ^ω^ )(ま、そういう事なんで、適当に景色は愉しんでいってねーという蜘蛛の顔)」
『『『………』』』
そもそも、ブラックホールになる質量が纏められてブラックホールにならないという時点でおかしな話だし、縮退物質よりも重くエネルギーを内包する質量が安定化して周囲に何の影響も及ぼさずに放置され、蜘蛛達に牽引されて別次元へと消えていく様子も不可解だ。
更に問い詰めた人々があんな質量を装具にするって具体的には何にするんだと聞いて、剣と軽装鎧にすると言われて、呆けてしまったのも無理はない。
超科学文明の科学者が何か思考を放棄して、放心するのも説明を求められた蜘蛛達にはよくある事となった。
だが、実際のところ。
少年の為にソレを造っている人物。
最終製造工程を担う者がそもそも何一つ自分のやっている事を理解していないというのが馬鹿馬鹿しい話だろう。
「(´・ω・`)(あ、しょちょー。追加のインゴット来たよー)」
「分かった。其処に置いておけ。今日だけで400……随分と一つにしたな。とにかく、質量を呪紋で増やすというのは分かるが、お前達の持ってくる鋼材も見た事無いものばかりで中々に手強い」
「(^▽^)/(ま、時間だけは加速して一杯あるから、ゆっくりしていってね)」
研究所所長の肩書を持つ男。
ウリヤノフの工房。
蜘蛛と彼だけが詰める炉の前には彼と蜘蛛達が共同作業で延々と打ち続ける“鋼”があった。
一日中持って来られる鋼材を装具を打つ為に寄り合わせ、織り込み、一つにしながら体積を縮小させるという作業を交代しながら行い続けているのだ。
彼らは少年の武具と防具を打つ為だけに寝食を共にし、その工程の3分の1がウリヤノフのものであった。
睡眠と休憩以外はずっと同じ工程の繰り返し。
蜘蛛達が持ってくる“鋼”を接合し、折り曲げて一体化させるという地道な作業をしている為、本来ならば彼の年齢では堪えるものだろう。
しかし、蜘蛛達による秘薬を受け、呪紋による多くの支援を受けた“創る超人”と化した今の彼にはソレも苦ではなく。
騎士家業で錆び付いた腕を取り戻し、同時に神すら倒す剣を打ったという自負も相まって、正しく最盛期と呼べるだろう状態にまでその腕は高まりつつあった。
「不可思議な色合いのものばかりで最初は戸惑ったが、打ち難さ以外はほぼ同じ。変な火花が散るだけというのも……まぁ、何がとは聞かないが、体に悪そうではある。いや、お前達なら体に良いとか言い出しかねないか……」
「( ^ω^ )(だいじょーぶだよー体に良いのも悪いのはこっちで遮断してるからーという蜘蛛の顔)」
「まぁ、いい。こちらはやるべき仕事をやるだけだ……」
苦笑する男は嘗てよりも余裕があるだろう。
そして、その余裕こそが男を更に高みへと導いていく。
たった一人の為に鋼を打つ。
それだけに執心し、雑念を捨てて打つ。
男は自分が知識にも乏しいと知っている。
蜘蛛達の方が腕も良いのも承知している。
しかし、少年に打って欲しいと。
邪神の親玉を倒せたのは自分の剣のおかげだと感謝されて、頭を下げられて、僅かに泣いてしまいそうだった。
それは彼の自負となったのだ。
「( ̄д ̄)(しょちょーも案外強くなったよね)」
「そうか? 自覚は無い。体の調子が良くなった程度だが……お前達の秘薬のおかげで色々体の不調も治った。感謝はしているとも……後でどうなっているか聞くのが怖いがな」
肩を竦めた男は確かに若返ったような印象を多くの者達に与えるだろう。
今、無数の星々の力と質量と因果を束ねつつある男は自分が何をしているかも知らず。
蜘蛛達に詳しい事も聞かず。
余念を持たず。
ただ、打って打って打つ。
そして、休み、食事をして寝る。
この日常へと没入していた。
変わった事は彼の補佐が無い主の事が心配という事だけだ。
それでもコレでいいのかと思わなくも無かった。
だが、与えられた使命は未だ完遂には遠く。
蜘蛛達から渡される予定の鋼材と錬鉄の日程は未だ消化し切れるものではない。
「ん?」
ウリヤノフが休憩時の顔を上げると其処には妻がいた。
「貴方、休憩は終わりましたか?」
「……ああ、終わったよ。また、工房に行かないと」
「そう……少し息抜きに外へ行かない?」
「オイオイ。大胆だな。まだ、仕事が残っている」
「貴方の体が心配だもの。そうもなります。ね?」
「……そうだな。お前に助けられなかったらオレは此処まで来れなかったものな」
「ウート様にはわたくしから言っておきますから」
「ありがとう。いつも心配してくれて……だが、任務だ」
「……そう。本当に頑固者ね。ウート様よりもう少し早く出会っていたら、わたくしの騎士になってくれたかもしれないのに……そこは妬けてしまいます……」
「オリヴィエ……そんなお前に恥ずかしくない男としてこれからも戦うと誓おう。我が主を、フィーゼ様を、此処にいる全ての者達を護る剣を、オレは見つけた」
「あら? そうなの?」
「ああ、オレは一つの剣としては鈍らかもしれん。だが、この腕一つが剣を創るに値すると言われたのならば、応えるつもりだ。いつか任務が終わったら、子供を養子に取ろう。一緒に育てるのはどうだ? オレは男の子が欲しいが、お前の願いなら女の子でもいい」
「ふふ、本当に……なら、二人所望しますわ。貴方」
「はははは♪ そうか。そうだな……なら、そうしよう。待っていてくれ。必ずやり遂げて見せる」
「ふふ、いつまでもお待ちしております。わたくしの……憂国の騎士様」
「部下達に聞いたな? オレはそんな吟じられるような男ではないさ。ただの鍛冶屋の倅で偶々運よく拾われた。それだけの男だ……」
「……野菜のスープ……良く煮込んで待っていますね……」
「ああ、お前のスープの為なら百人力だ……オリヴィエ……行って来る」
「はい。行ってらっしゃい。貴方……」
ウリヤノフは歩き出す。
今、自分が誰と話したかすら忘れて。
しかし、歩みは止まらない。
休憩の時間が終わる。
休まずに工房へと向かう男の背中には燃え盛る涙のようなものが確かに見える。
「(゜ω゜)///◇」
蜘蛛達はその男が入って来た時、ただ驚きつつも何も言わず。
ハンマーを差し出した。
「代わろう」
男は自分が泣いている事も知らず。
しかし、何を泣いているのかすら分からず。
ただ、その鎚を振り上げ、確かに寸分の狂い無く。
己の仕事を打ち始めた。
弾け飛ぶ火花が、星々の果てが、その記憶を蘇らせるかのように……極彩色に打ち上がる。
それは今まで男が打ってきたものと同じ。
しかし、確かに男の執念は、願いは、意志はソレを叩き伏せ、一つへと落とし込んでいく。
その日、初めて男は蜘蛛達の仕事を超えた。
そして、最も始めに打つべきモノへと取り掛かる事となる。
始めは鎧。
少年の為だけの鎧。
頂きの神すら砕けない単なる人間が打つだけの鎧。
ソレを畏れた神の御業が砕けた時。
少年の勝率は少しだけ上がった。
誰が知らずとも少しだけ。
人の意志は確かに神の奇跡を打ち砕いていた。
愛が刻まれた鎧に如何なる呪いも届かず。
いつか、吟じられるとしたら、人々がそう謳うに違いない仕事であった。