流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第19話「フェクラールの探索Ⅲ」

 

 西部に直接移動出来るようになった翌日。

 

 遠征隊の面々は遺跡からスタートして、北部に向かう道へと足を踏み入れていた。

 

 周囲には小さな蟲はいても動物はいない。

 

 そう思っていたのだが、最初に見つけたのはエルミであった。

 

『あら? 鷲が飛んでますわね』

 

 少年が上空を見上げれば、確かに鳥の姿があった。

 

「………鳥……」

 

 少し考え込む少年が鬱蒼とした道無き道の周囲を観察しながら歩き続け、立ち止まった。

 

「どうしたのですか? アルティエ」

 

「蜘蛛が消えたから?」

 

「どういう事だ?」

 

 ガシンが何のこっちゃと首を傾げる。

 

 少年は今までの経験から此処まで早く大蜘蛛を討伐した事が無かった。

 

 故にこの段階で討伐する事によって起こる変化を見逃さないよう注意していた。

 

「今まで周辺は全部蟲の領域だった。でも、大物が倒れて狩られる心配が無くなったら、一番先に進出してくるのは空を飛べる鳥のはず」

 

「牛とか来ないかな?」

 

「そ、それはさすがに……でも、食用になる動物が来てくれれば、家畜化出来るかもしれません」

 

 フィーゼがレザリアの言葉に苦笑する。

 

「あのデッカイ蟲を何匹退治すればいいんだか……他にも馬鹿デカイ花とかもいやがるしなぁ……」

 

 道のりは千里を超えそうだとガシンが脳裏の化け物達を思浮かべてゲッソリした。

 

『どうやら、山の岩壁は登れそうな場所も無いようですわね』

 

 周囲をウロウロしながら、目に付く場所に寄り道をしながら歩いていた一行であったが、殆どは薬草の群生地や薬効のある樹木や薬用の果実が纏まって生える果樹がある場所というのが殆どであった。

 

 地図を手書きで埋めながら、30分程の休憩を挟みつつ、30km近い距離をウロウロしている彼らが戻って来るのは北部に続く道だ。

 

 街道と呼んでもいいだろう廃墟から伸びる道は何処に寄り道しても上から探せばすぐに見つかる為、広大な山林内部を探索する目印としては丁度良かったのである。

 

 こうして、彼らが近付いた西部と北部を隔てる岩山はエルミが数えてみても標高だけで1000mを超えており、ほぼ垂直の切り立った山肌は登れなさそうというのが常人の見解であった。

 

「周囲に森以外で何かあればいいのですが……」

 

 取り敢えずは壁際まで向かった彼らは傾斜60度の勾配を見て一目で昇れない事を悟った。

 

 勿論、彼らとはフィーゼとガシンだ。

 

「壁伝いは基本」

 

 少年が誘導する形で壁際と上空を監視しながら歩き出した彼らは北部までの道も見付けねばならないわけで北部側の壁を歩き続け、途中で少し高い丘を見付ける。

 

『あら? 廃墟ね。これは教会かしら……』

 

 森の内部に隠されるようにひっそりと丘の上の岩壁と同化するように教会の成れの果てが置かれていた。

 

 外部からは何も分からない為、少年が先行し、他は現場で全周警戒。

 

 もしもの時の為に退路を確保する形で武器を構えて待つ。

 

「………(この段階で来た事が無い。本来なら終盤でいつも“どちらか”の勢力に荒らされた後、今なら此処も何か……)」

 

 建物は左程大きくなく。

 

 作りも石造りであったが、雑な仕事が崩れた壁にも隙間がある事で見えていた。

 

 壁際には演台らしき石造の小さな舞台が置かれていたが、周囲に転がるのは石ころばかり。

 

 少年が歩きながら周囲に目を配る。

 

 すると、一際強く霊視出来る第三の瞳がニュッと額から迫出して何かを発見した。

 

「これは……」

 

 演台の中央に転がる石ころが存在しない事を少年が悟る。

 

「幻影?」

 

 ダガーの先っちょが延ばされてコツンと演台中央部の床を叩くとスゥッとその舞台の一部が消失し、内部に続く階段が現れる。

 

『こういう所にこそアレがあるかもしれませんわ。わたくしの復活の為にも頑張ってあの何たら蝶を集めるのよ♪』

 

 先日の思わぬ拾い物に味を占めたエルミがイソイソと少年の背後に付く。

 

 光の無い暗闇に脚を踏み入れた少年は第三の目を開いたままに内部で8m四方の広い空間が広がっている事に驚いた。

 

 石造りの小さな神殿のようにも見えるのは列柱があるからか。

 

 だが、侵入と同時に柱が光り出した。

 

『何か来ますわね』

 

「―――ヴァルハイルを犯す者に啓示の裁きを」

 

 50代程の男だろう。

 

 ガッシリとした輪郭の顔は強面だが、太い眉の下の瞳には理知の光が宿っている。

 

 ソレがいきなり広い空間の最奥にある扉の前、地面に凝った青白い光の中から浮かび上がって来る。

 

 だが、それを待っていられる程、少年は温くない。

 

 相手が出て来る寸前に身動きの取れない上半身を黒跳斬が襲い。

 

 続けて、三連撃のクナイ。

 

 その上からウィシダの炎瓶がコンボ染みて放たれた。

 

「ッ」

 

 上半身しかまだ出ていなかった相手。

 

 角らしきものが鎧の表面という表面に誂えられた角だらけの騎士鎧の男が身動きすらし辛そうなものを着込んでいるのに巨大な暗い金色色の角のような槍で黒い粘菌の刃を叩き落とし、クナイを細かく動かして防ぎ、爆発には微動だにせず。

 

 全身が現れて目の前に迫る炎に目を見開き。

 

「カァアアアアアアアアアアアアアアアアア―――」

 

 空間内部の列柱が震える程の大喝が炎を吹き払った。

 

 だが、その動作をしている合間にも少年が相手との間合いを詰め切っており、ダガーの刃が変則的なうねり方をして、鎧の隙間に差し込み。

 

 内部から刃を爆発させた。

 

 爆発と言っても軽く弾けるだけのものだ。

 

 浸食が内部を犯し切る前に男の瞳がギョロリと少年を見やる。

 

「見事……次の輪廻で会おう。小さき刃よ」

 

 よく見れば、男は目が潰れており、白濁して額から花の上辺りまで猛烈な火傷の跡があった。

 

 ならば、少年が見た眼光というのは気配で錯覚しただけなのかもしれず。

 

 手練れである相手の強さが少年には理解出来た。

 

 男が事切れると出て来た時と同じ光に呑み込まれて消えていく。

 

 その先を真菌の糸で覗こうとしたものの。

 

 糸が通らず。

 

 特定のものが一方通行なのだと理解した時には全てが消えていた。

 

『アルティエー!!』

 

 レザリアがそんな中、階段に突入してくる。

 

 どうやら巨大な声に驚いてやってきたらしく。

 

 背後には仲間達が何事かと戦闘態勢で駈け込んで来た。

 

「ど、どど、どうしたの!?」

 

「大喝おじさんに鼓膜破られた」

 

「ええぇ!? だ、だだ、大丈夫なの!? ボクの持って来る薬で治る!?」

 

「もう治った」

 

「治ったの!? 早くないかな!? そ、それと大喝おじさんて何なの!?」

 

「……何なんだろう?」

 

 だが、そうとしか言えないのも事実だった。

 

 初めて、その男を少年は見たのだ……本当に今までで初めて……所属勢力は知っていたが、それでも個人と確かめられる者は多くない。

 

 先程の相手の様子が話される。

 

「ヴァルハイル。啓示。教会……角だらけの鎧……ぅ~ん?」

 

 フィーゼが首を傾げる。

 

「オレにはさっぱりな事だけは確かだ。何か知ってんのか? お嬢様」

 

「ええと、確か教会の御伽噺の中に角の騎士って話があって……伝説の一つなんですけど、教会の黎明期に角ばかり付けた鎧を着る騎士がいて。竜を殺して角を槍にしましたとか。何とか?」

 

「名前は?」

 

「正式名称は【歩き角の騎士レメトロ】だったような気がします。角騎士とかの方が有名かもしれません。神聖騎士とか言われてた昔の教会騎士、その英雄譚の一つですね」

 

「それより、まずは中身を確認した方がいいんんじゃねぇか?」

 

 ガシンがクイクイと親指で奥の扉を指す。

 

 扉はどうやら鋼鉄製らしく。

 

 しかし、錆びた様子も無かった。

 

 少年が周囲から仲間達を離して、扉を下から持ち上げるとガチンという音がして下がらなくなる。

 

「おぉ、お宝か!!?」

 

 ガシンがニヤニヤしながら小さな小部屋の中にある木箱を確認する。

 

 少年が警戒しながら、ダガーの先っちょを変形させて、少し引き気味にしながら、開く。

 

 内部から出て来たのは……何かが掘られた石だった。

 

「は? しょぼ……」

 

 ガシンが一気に関心が薄れた様子で死に掛けたにしてはちゃちな宝だと少年に頑張れ的な笑みを浮かべる。

 

 しかし、少年はソレを手に持った途端、瞳を僅かに細めた。

 

「どうしたのですか? アルティエ」

 

「どうかした? やっぱり、お薬使う?」

 

 心配そうなレザリアに大丈夫と言って、全員で外に出た少年はそろそろ暮れ掛けている西部の夕景の最中。

 

 その何かが彫り込まれた石をよく確認する。

 

「あ、竜が掘られてる。これそうだよね? アルティエ。東部だとロンとか言うんだよ。お面がお祭りであって……」

 

「うん」

 

「……大丈夫?」

 

「大丈夫」

 

 少年はそう言いながらもその竜の掘られた明らかに尋常ではない硬さを秘める石に瞳を細めていた。

 

―――1778884353日前。

 

『何だ!? 何故、竜が!? どうして、この野営地を!!? クソォ!!? この化け物がぁあああああああああああああああ!!!?』

 

 フラッシュバックした記憶を振り切って、少年が被りを振った後。

 

 静かにソレを確認した。

 

「【ヴァルハイルの竜眼】……装備時、竜属性呪紋の干渉、威力、効果を半減。竜属性呪紋を刻印している相手への攻撃力補正が843%上昇(再上昇可)。防御力補正が74.3%上昇(再上昇不可)」

 

「何か強いの? 竜何とかって」

 

「竜と戦ったら、たぶん勝てる」

 

「もうアルティエったら♪ 竜は大昔に教会が大陸で狩り尽くしたって、御伽噺にあるんだから」

 

 実は博学なんですと胸を張るレザリアである。

 

「だから、ハクブツカンとか言う場所じゃないと見れないんだよ。ボク、一回だけ教会でお披露目されてた骨見た事あるんだ。大っきかったけど、それでも小さい子竜だって言われてたよ」

 

 少年を物を知らない子扱いしたレザリアがクスクスと笑っていた。

 

 男の子はロマンの塊だよ、と。

 

 脳裏ではアマンザが教えているに違いない。

 

 大陸では竜が絶滅したというのは通説だったりする。

 

 歴史的に人が滅ぼした種族の一つであった。

 

「きっと、何百年も前は竜も此処にいたのかもね。今は蟲ばっかりだし」

 

 廃墟になった教会という事は何百年も前のものに違いなく。

 

 もういない竜とは戦えないので見付かったモノは意味の無いものに違いない。

 

 と、レザリアは自己解決しているが、その横で少年がその石を握り締めて、腰のポーチの内部に収納した。

 

「(今回なら……きっと……必ず)」

 

 呟きは誰にも届く事無く。

 

 教会そのものにイエアドの聖印の形を刻んだ石を置いた少年が祝詞を唱え、現場と行き来出来るようにし、その日は切り上げる事となったのだった。

 

 *

 

「何と!! ヴァルハイルとは……これは面倒事になりましたな」

 

「面倒事?」

 

 夜、少年はリケイに今日出会った男の事を話していた。

 

 少年は知っている……リケイは常に狸なのだ。

 

 最初から知っていても驚くフリくらいはしてくれる。

 

「数百年前。正確には638年前になりますか。教会の神聖騎士達は一大決戦に勝ち、大陸に覇を唱える第一歩を踏んだのです」

 

「一大決戦?」

 

「ヴァルハイルは当時の竜を用いていた大国の一つ。竜そのものが兵器として全盛を極めていた頃、呪紋も用いた術師でもあった彼の国の民は壮健を誇り、軍は他国に死竜の騎士団と言われて畏れられていたのですじゃ」

 

「それで?」

 

「ヴァルハイルは当時の神聖騎士達に敗れ滅亡。多くの国民は奴隷として売られ、血筋も今は殆ど残っていないと聞きます。ですが、当時の資料にはヴァルハイルの一部の皇族。竜皇と呼ばれた存在の帝位継承権を持つ者達が捕らえられたと」

 

「もしかして流刑にされた?」

 

「可能性はありますな。それと歩き角の騎士もその頃に死んだとされているはず。教会の神聖騎士達は当時から死ねば、大きく英雄譚として語り継がれていた。であれば、年代は符号する。しかし、何故にヴァルハイルに仕えているものか」

 

 リケイが思わず首を傾げる。

 

「そもそも数百年も生きてる……って事?」

 

「まぁ、現在の神聖騎士の中にも数百年前の面子が未だいるとの話は嘘ではありませんからな。神蟲の力は一部の者に与えられていたはず。それに聞けば、この島では生まれ変わりの秘儀がある。とすれば……」

 

「死んでも生き返る?」

 

「体を回収されたのはその為かもしれませぬ」

 

 そこで初めてリケイが真面目に内心の感情を動かしたのを少年が確認し、溜息を吐く。

 

「……面倒」

 

 二度と同じ手が使えない強者が無限に蘇ってきたら、さすがに困るのは間違いないだろう。

 

 リケイが難しい顔になる。

 

「竜。竜ですか。竜属性呪紋の多くはヴァルハイルの廃国で失われ、多くは残っておらんのです。力の源たる竜が大陸から消え去ったのが最も痛く。同時に竜がいない為に使用する意味が無い呪紋も消えて行った。ただし、その武威だけは伝わっておりましてな」

 

「どんな?」

 

「竜を用いた呪紋は魔の技の筆頭。国を滅ぼせたのですよ」

 

「………」

 

「とにかく、個人で威力が出過ぎる程に出る。一人の騎士が呪紋一つで砦一つを落す程の威力……集団で使えば、正しく山すら吹き飛び、一部の者は1国程度なら領土全てを一瞬で焼き滅ぼす事も出来た」

 

「強い……」

 

「ええ、まぁ、強いですな。故に対策を練られに練られて敗北したのも必然だった。持ち帰って来たものを見ても?」

 

 ヴァルハイルの竜眼が手渡される。

 

「ほう? やはり……当時の教会が造ったものに相違ないでしょう。竜眼というのは瞳ではなく。竜の死骸。特に化石の心臓を用いて造られるものなのです」

 

「心臓の化石?」

 

「言わば、竜の本体。竜の力の源を用いて、他竜の脅威から身を護る為に造られたものですな」

 

「竜で竜を殺すって事?」

 

「ええ、そうです。恐らく教会にも後1個2個残っているかどうか……コレ自体が竜と関わり、竜から力を得ている者には破壊出来ぬのです。故に封印されていたのやもしれませぬ」

 

「ありがとう。大体解った」

 

「お役に立てれば何より……」

 

 リケイが肩を竦めた。

 

 竜眼を再び仕舞い込んだ少年はさっそく部屋に戻って、対策を練る事にした。

 

 次もまた勝てるとは限らない。

 

 だからこそ、その手はきつく握られていた。

 

 全てを乗り越える為にこそ、少年の研鑽はあるのだ。

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