流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第25話「滅び切れぬグリモッドⅢ」

 

「は、はは……案外、もう慣れたと思っておったんですがなぁ」

 

 頭痛が痛い張りに頭を押さえた老爺が溜息を吐いて少年と仲間達を見やる。

 

 その背後には「お前ら一体何者だ!!?」という顔の蛭蜘蛛と貝蜘蛛達が白いニューカマーである竜骨蜘蛛達を周囲から観察している。

 

「【若返りの泉】に【死ねずの竜骨】……そして、蜘蛛脚による蜘蛛化で竜骨から生まれた竜属性呪紋が使える蜘蛛に【竜頭蓋】……と」

 

 野営地もざわついていた。

 

 少年達がニアステラの奥地から帰って来ると巨大な竜の頭部の骨を持って帰って来たからだ。

 

 しかも、それを運んでいるのは近頃野営地を手伝ってくれている蜘蛛達の親戚みたいなので巨大な骨を軽々運搬して来たのである。

 

 もはや驚くなという方が無理だろう。

 

「まぁ、いいでしょう。全て、このリケイが預かりましょう。で? 此処に竜の神殿でも立てれば良いのですかな?」

 

 少年が首を傾げる。

 

「ああ、知らずに持って来たと。竜というのは全身ソレそのものが力を秘めておるのですじゃ。故に竜は神の如く力を他者に貸し与える。竜属性呪紋の多くがその原理で動いているのですが、竜が絶滅した為に殆どは失われた。ですが」

 

 少年が背後の竜骨を見やる。

 

「本物が出て来た。竜の骨は化石になってすら力を産む。ですが、この骨は生きている……しかも、若返りの泉の効果とやらで無限に再生するとすれば……」

 

 砂浜にリケイが絵を描いた。

 

「野営地の守り神として意志無き枯れぬ力の源として、神殿を築いてはどうですかな? 何ならこのリケイの一世一代の儀式でいっそヴァルハイル第三帝国とか作ってもよいですぞ?」

 

 もはや、冗談なのかどうなのか。

 

 諦めた苦笑顔のリケイに少年はよろしくお願いしますと頭を下げた。

 

 こうして、食料生産に勤しんでいたはずの水夫達は野営地の守り神とやらを安置する為の神殿作りまでする嵌めになったのだった。

 

―――帰還から1日後。

 

「フィーゼ。あまり、父を困らせんでくれ……」

 

 さすがにウートも今回の一件では度肝以外も全て抜かれたように溜息を吐かざるを得なくなっていた。

 

「すみません。色々ありまして……」

 

「まぁ、責めるものではないが、頭が追い付かん」

 

 診療所の最中。

 

 エルガムに治療されながら、ウートが娘の頭を仕方なさそうに撫でる。

 

 その苦笑顔はもはや娘が自分の手を離れた事に対する寂寥に染まっていて……それでも喜びの方が大きいのかもしれず。

 

「では、ウート殿。一応お聞きしますが……」

 

「ああ、飲もう。薬があって尚、寿命が縮んでいたのは実感していた。病さえ治れば、この子に隠居してくれと言われるくらいの働きはしたい」

 

「解りました。彼の処方の後、現物を舐めて貰って、確認もしました。患者のケガにも使って見ましたが、本当に怪我を数十秒で完治させた事も事実です」

 

「もし死んでも恨まないと断言出来る。何せ娘の今後の相手からの贈り物だ。潔く飲み干そう」

 

「な!? 父上!?」

 

「ははは、では」

 

 ウートが木製の杯を煽る。

 

 その中身は少年がウート用に希釈した蘇りの泉の水を適量入れたものだった。

 

 一気に飲み干した男がすぐには効果が出ないだろうと自分の衰えた腕を見やる。

 

「……?」

 

 しかし、効果が現れたのかどうか。

 

 確認するより先に男の心臓が鳴った。

 

「ッ―――」

 

「父上!?」

 

「……また、しばらくはお前の自慢の父でいられそうだ。出来れば、ちゃんと結納と婚礼の儀は見てから死のう」

 

「ッ、ば、馬鹿ですか!? もう!!?」

 

 顔を真っ赤にした娘を見て、顔に活力が戻ったのを確認したエルガムが頷く。

 

 フィーゼは久方ぶりに感じる力強い腕で抱き締められ、ポロポロと涙を零した。

 

「ふ……毒を受けるまで……そう言えば、これくらいの事は言えていたのだったな。彼には何と言えばいいのか……」

 

 少年は持って来た霊薬の事を仲間達に口止めした。

 

 エルガムのみには話していたが、それもあくまで希釈しなければ、毒薬にも為るというだけでリケイ以外には本来の効能は話していない。

 

 それでも十分だったと。

 

 彼女は思う。

 

 無用な力は争いを呼ぶ。

 

 しかし、ほんの奇跡ならば、人はきっと間違えない。

 

「この不出来な父を許してくれ。この身が再び朽ちるまで……私が此処を護ろう。お前を護るのはもうお前自身であり、お前の傍にいる者達なのだろうからな」

 

 そんな父の優しい言葉に少女は恥も外聞もなく。

 

 母が亡くなってから初めて、本気で泣いたのだった。

 

―――野営地鍛冶場内部ウリヤノフ私室。

 

「今度は竜骨か。ははは、伝説の素材じゃないかと親父ならきっと嬉し過ぎて踊り出しているところだな」

 

 少年が蜘蛛脚の修理に持って来た鍛冶場でウリヤノフに事情を話していた。

 

「竜骨を切るのに使ったのか。無茶をする。だが、修復は可能だろう。そちらからの鍛造方法やら生成方法やらを見る限りは」

 

 ウリヤノフが蜘蛛脚の状態を確認してから鞘に戻す。

 

「良かった」

 

「それで竜骨を使って武具をという話でいいんだな?」

 

「そう……この竜骨は削っても水と薬液に付ければ元に戻る」

 

 少年が持って来たのは仲間達が拾い集めた骨の欠片だった。

 

「ふむ。霊薬の泉の効果で水と養分があれば、植物のように再生……骨を用いれば、竜骨の剣鎧盾。全部出来そうだな。しかも、使い減りしないと来たか」

 

 白い骨が虚空に翳されて覗き込まれる。

 

「骨の再生を止める方法は?」

 

「養分が無ければ再生しないし増えない」

 

「……色々と考えられるが、お前の鎧も衣服もそろそろ限界だな。いいだろう。まずは後から色々出来るように余裕を持った創りでやろう。ガシン殿もな」

 

「い、いいのか? ウリヤノフの旦那」

 

「君達の戦果だ。存分に使わせてもらうし、君達にも協力して貰おう。まずは今の背丈や腕脚回りの大きさを図るところから」

 

 ウリヤノフが定規を取り出した。

 

「竜骨は固いが軽いと聞く。それも真実のようだ。これならば、今の鋼よりも良いものが出来るはずだ」

 

 頷いたウリヤノフは請け負って、竜骨の武具と防具の作製に取り掛かるのだった。

 

 2人が鍛冶場から出て来るとフィーゼがレザリアに慰められており、その顔から問題無く薬が効いた事が2人にも分かった。

 

「アルティエ……あ、ありがとう、ございました……父の元気な姿をまた……私……っ……」

 

「あ~よしよし。もう泣かせちゃダメだよ? アルティエ」

 

 レザリアに言われて理不尽なものを感じたものの。

 

 それでも少年は新しい可能性を前にして手応えを感じていた。

 

 永遠にも等しく求め彷徨った二つの地方から先が見えたのだから。

 

(三か月目。これをどうにかする芽が見えて来た……)

 

「で、グリモッドの探索はまだ続けるとして、一回地図何かを見て整理しねぇか? これから何処に行くべきかとか」

 

 ガシンの言葉に全員で少年の家に向かった一向は大きなテーブルに今まで歩んで来た道を描き込んだ地図を広げる。

 

「ええと、大霊殿から南に向かって岩壁をなぞるように進んで……」

 

「廃墟が多くて、亡霊が南に近付く程多くなる」

 

 フィーゼとレザリアが今までの経験を地図の上の文字でなぞる。

 

「神と関連する武具が落ちてたな」

 

 ガシンは肉体に取り込まれた呪紋の効果を確認するように手を握り締めた。

 

「竜の骨が生きてる沼に若返りの泉」

 

 少年が位置を示して情報を整理する。

 

「元々、グリモッドは蝶のせいで生まれ変わりが盛んだった。でも、そのせいで弱い魂は擦り切れて呪霊化。戦ったような亡霊になった」

 

「てー事はだ。呪霊そのものが蝶を使った犠牲者。もしくは呪霊に取り殺された連中って事だよな?」

 

 ガシンに少年が頷く。

 

「あれ? 待って……じゃや、南部に近い程に亡霊が増えたのって」

 

「蝶が沢山使用されて生まれ変わりが行われた。なら、何処かに蝶が沢山いる。もしくは獲れる場所や貯蔵場所があるかも」

 

 少年がレザリアに前々から考えていた事を口にする。

 

「じゃあ、あの竜骨と泉は何なんでしょうか?」

 

「考えられる事は二つ」

 

 フィーゼの言葉に少年が目を細めて俯く。

 

「泉は若返り、つまり元に戻す作用の薬だった」

 

「あれ? 元に戻すって……もしかして……」

 

「魂が擦り切れる前に戻せる……可能性を誰かが見付けた」

 

「で、でも、そうなると普通の人が生きてないとおかしいんじゃない?」

 

 レザリアが尤もな話を告げる。

 

「たぶん、失敗した。竜骨を見てるから分かる」

 

「え?」

 

「竜骨は生きてた。でも、魂そのものは擦り切れて消滅。薬に適応出来た部分は恐らく最も竜の中で硬い部分だと思う」

 

「固い部分が残ったの?」

 

「若返りの薬は生物を大昔の生物に変異させる。つまり、変異覚醒を逆転させたような効能。血肉に関しては恐らく効能が一番先に出る。でも、硬過ぎる骨はその効果の恩恵を受けるまでに時間が掛かった気がする」

 

「そうするとどうなるの?」

 

「皮と血と肉が溶けて原初の生命に帰る。そして、残された骨は再生し続ける効果が何らかの影響で永続、変異よりも強く再生が働けば……」

 

「あんな風になっちゃう?」

 

「たぶん……」

 

「なら、蝶をまずは集めるのが先決、なのかな?」

 

 レザリアの言葉は少年の中で最初の指針の一つではあった。

 

「生まれ変わりをまだ誰も経験してない。でも、探索隊が全員可能かは昨日聞いたら、大丈夫だった」

 

 いつの間にという顔のレザリアである。

 

「もしもの時に備えて蝶は絶対に集めておいた方が良い。敵がもしも神聖騎士数人なら、今の状況と人員装備だと全滅必至。ヴァルハイルの事もある」

 

「そっか……今のアルティエでも敵わない人達もいるし、その人達が兵隊さんを沢山連れてきたら……」

 

「今、騎士達に聞きとりをして貰った報告書がある」

 

 少年が予め用意していた紙束を開いた。

 

「大きな船に乗っていた神聖騎士と思われる人員は6人。フレイを覗くと5人」

 

「(・ω・)/」

 

 フレイが横で手を上げる。

 

 その脚にはまた人間の手が増えていた。

 

「【紅の大司教サヴァン】【震える聖槍フォルク】【鉄公爵ウラス】【蒼褪めたエルタ】【叶えのルクサエル】」

 

「何か仰々しい連中だな」

 

 サクッとガシンがそう評価を下した。

 

 少年は嘗てを思い起こし、仰々しいでは済まない相手方の戦力に今の状態ですら勝つ方法が殆ど無い事を自覚する。

 

 一応、戦法は考えてあるが、新たな地域へ進出出来た今回だからこそのものであり、失敗出来ない方法を試す時期はきっと迫っていると直観は言っていた。

 

「大司教は顔を敵対者に剥がれたのが特徴。剣が物凄く強くて教会騎士数百人でも敵わない。聖槍の人は聖なる槍に唯一選ばれた神聖騎士って言われてて、武器が強い。どんな防御も貫けるって聞いた」

 

「頭の痛い話だな」

 

 ガシンが呆れた顔になる。

 

「公爵の人は肉弾戦で絶対死なないと言われてるっぽい。蒼褪めた人は珍しい呪紋の術者で色々出来る。対即死用、毒や他の効果を受けないように今以上に体を鍛えて、薬を飲む必要がありそう」

 

「もうお薬はやだよ~」

 

 レザリアがゲッソリした顔になる。

 

「最後の一人は?」

 

「叶えとか言う人は凄く美人で祈れば、何でも出来るらしい」

 

「何でも?」

 

「ある程度の制約は付く。でも、呪紋や剣技、武器、他の人間の特性や資質、何でも使えるって聞いた」

 

「ああ、だから、叶え……願いを叶えるって言われてるわけですか」

 

「そう。取り敢えず絶対に2人以上とは戦わないで撤退が望ましい。一人なら何とかなる……全員で掛かれば。たぶん」

 

 そこで少年が金属製水筒。

 

 円筒形の細長い試験管のようなものを人数分取り出した。

 

「これは?」

 

 フィーゼに少年が泉の水と伝える。

 

「希釈済みのものですか?」

 

「1日に使用出来る量がこれ一瓶。希釈濃度1230倍。四肢欠損じゃない限りは一口ずつ飲んで傷が治るか10秒くらい間を置いて確認する。これで致命傷じゃなければ、どんな傷も再生可能。ただし、一日にこれ以上呑むとマズイ」

 

「お猿さんになっちゃう?」

 

 レザリアに少年が頷く。

 

「これ一瓶を最後に飲んでから1日、24時間は絶対呑まないように。飲んだ日は眠る前にこっちで体内の状況を確認する」

 

「どんな傷も治る霊薬か。もう何でもアリに為って来たな……」

 

 ガシンの言う通りではあった。

 

「生まれ変わり、若返り、蘇り……この島は本当に一体何なのでしょうね」

 

 フィーゼが今まで関わって来た信じられないような話を振り返って考え込む。

 

「霊薬の希釈済みの大樽は此処に寝かせてある大樽の一番隅に黒く焦がした失敗作に見える樽内部に入れておいた。もしもの時には野営地に配布する用」

 

「話は解った。解ったが、どうせしばらくは竜骨の装備が出来るまでニアステラから動かないんだろ? その間に何かしておく事はあるか?」

 

「フィーゼはリケイさんと一緒に竜骨を納める神殿作り」

 

「ま、任されました!!」

 

 やる気に満ちた少女が大きく頷く。

 

 後顧の憂いであった父の病が治った今。

 

 彼女の意欲は全て仕事に向けられるに違いない。

 

「ガシンは教会騎士の剣術に対応する訓練と戦術や戦略を学んでくる事」

 

「あ? オレがかよ……」

 

「適任。一番多い敵と戦う術が解ってる人間が一人いるだけで全然違う」

 

「はいはい。了解だ」

 

「ボクは!?」

 

 自分にも何かあるに違いないという顔のレザリアが目をキラキラさせて少年の言葉を待つ。

 

「レザリアは……一緒に竜属性呪紋の習熟とか。蜘蛛達の纏め役として色々して貰う」

 

「蜘蛛さん達の?」

 

「そう。今、フレイが蜘蛛達を統括してる。けど、一緒に蜘蛛達を緊急時に動かせるようにしておけば、避難させたり、一緒に戦う時も安心」

 

「う、うん!! 任せてといて!! ボク頑張るね♪」

 

 破顔した少女はようやく自分にも盾持ち以外の事が出来るという顔になる。

 

「(・ω・)」

 

「……フレイはレザリアの補佐で」

 

「(>_<)/」

 

 いつの間にかまた人間の手が増えた金色の蜘蛛は親指を立てたのだった。

 

「ちなみにアルティエは何するの?」

 

「薬作り」

 

 またマズイものを摂らされるのかという顔になったフレイ以外の仲間達であった。

 

―――西部北端地域。

 

 仲間達を野営地に置いて久しぶりに一人で薬の材料集めにやって来た少年は橋の上で何かが北部からやって来たのを確認後、すぐに北端地域へと向かっていた。

 

 今日の装備はボロボロになりつつある鎧や帷子を付けたままに短剣三本と基本セットのみであった。

 

 北部から蟲や怪物の類の侵入を想定していた少年は自分の敷いた罠がしっかりと効果を発揮しているのを確認し、森の中で数匹の巨大なクマらしい生物が互いに狂乱しながら、集まって来る小さな蟲達に群がられて、体力を奪われ、ジワジワと衰弱しながら泉で体をゴロゴロと転がせているのを樹木の上から見ていた。

 

(……見た事無い。このクマ……家畜化出来るようにも見えない……)

 

 凶暴な見た目のソレらを上空から黒跳斬が襲い数秒後。

 

 事切れたクマ達の死体の横に少年が降り立つ。

 

 それと同時に周囲に小瓶から薬を撒くと今まで集まっていた蟲が一斉に離れて消えていった。

 

 間違いなくクマが死んでいるのを確認後。

 

 少年が一匹を泉の端に寄せていつもの黒いダガーで腑分けしていく。

 

「………?」

 

 少年が思わず小首を傾げた。

 

 理由は単純だ。

 

 クマ達の内臓が人間のものに近しかったからだ。

 

「これは……もしかして変異覚醒者? 蟲じゃない変異の……」

 

 思わず少年がクマ達を見やる。

 

 真菌を片手から体内に侵食させるように吐き出して、内部を隅々まで確認していく少年はすぐにクマ達が狂乱している理由を見付けた。

 

「蟲や罠のせいじゃない? これは……」

 

 少年が相手の頭蓋骨の内側。

 

 つまり、額の裏側に刻まれたものを確認する。

 

「赤黒い魔力らしい蜥蜴の刻印を確認。この魔力……竜属性呪紋?」

 

 少年がその部位を切り出して額から引き抜き。

 

 後の死体を真菌の膜で繭のように包んでから樹木の上から吊るし、額内部の呪紋が刻まれた部分を繁々と見やる。

 

「鑑定。竜属性変異呪紋【緋狂い】……赤いものを見ると狂乱する……変異覚醒を強制亢進させる? 今まで此処に陣取って来たアルマーニアじゃない。ヴァルハイルの……」

 

 少年がチラリと黒い繭達を見やる。

 

 人の意識は恐らく変異覚醒の急激な進みのせいで吹き飛び。

 

 魂すらも変質して獣と大差が無かった相手とはいえ、元は人間だったのだろう。

 

 適当に菌糸をスコップ状にして大量生産し、周囲の樹木の無い開けた場所にザクザクと穴を掘った少年は黒い繭を其処に降ろして埋葬。

 

 碑として近くに落ちていた大岩を置いて、そこに霊殿としてイエアドの印を刻む事にしたのだった。

 

 作業を終えて少し水で顔を洗おうとした少年が、変哲も無い水の内部。

 

 クマ達が狂乱して、蟲の死骸が落ちている水底にキラリとしたものを見付ける。

 

 ダガーから伸びた黒い菌糸でヒョイと釣り上げた少年がソレを手に取った。

 

「聖印? でも、イゼクスでもイエアドでもない? 女神みたいな象形……今までは、今までで一度も見てない……これって……」

 

 その時、少年の瞳に黄金色の光が湖に降り注ぐのを確認した。

 

 光の中から何かが、少なからず、その手だけで今の少年には届かないようなステータスの何かがヌッと出て来て、小さな聖印に一滴。

 

 指先から血の雫を落し―――。

 

「ッ」

 

 ハッとした時には何もかもが消え失せていた。

 

 少年が思わず被りを振ってから自分の握り締めている聖印を見やる。

 

「………聖印じゃない?」

 

 少年が握っているのは小さな指輪であった。

 

 全体が紅のような硬質の宝石で出来ているような真っ赤な指輪。

 

 その表面には文字が書き込まれている。

 

「愛しき蜂の子へ?」

 

 読めたのは必然か偶然か。

 

 少なくとも野営地で使われている言語では無かったが、少年には読めた。

 

 そして、手握って鑑定した途端。

 

 その顔は渋くなる。

 

「……【飽殖神の契約輪】……装備時、体力1332%上昇(再上昇可)。霊力1383%上昇(再上昇可)。霊力1392%上昇(再上昇可)。大地母神ウェラクリアの寵愛を受けた種族であれば、ウェラクリアの祈祷呪紋を使用出来るようになる。蟲型変異覚醒者限定?」

 

 少年はあからさま過ぎる話に溜息を吐いた。

 

 だが、あからさまにそれを隠しても、同じような事が今度は知らない内に起っても困るというのは確定的であり、イソイソと符札を掲げて野営地に戻る。

 

 浜辺に向かうと本日は哨戒警備活動をしている蜘蛛達以外が集まり、何やら少女と一緒に何やら話し込んでいたり、一緒に運動しているような様子が見られ、何故かフレイがピッピッピーと木製の笛を吹いて音頭を取っていた。

 

「あ、アルティエだ。お~い」

 

 レザリアが走ってやってくる。

 

 その後ろには貝蜘蛛も蛭蜘蛛も竜骨蜘蛛も一緒であった。

 

「あのね!! アルティエ」

 

「何?」

 

「この子達、種族で名前が欲しいみたい」

 

「名前?」

 

「うん。名付けて欲しいって頼まれた」

 

「……解った」

 

 少年が首元からもしもの時の事を考えてエンデの指輪をレザリアに掛けさせる。

 

「?」

 

「はい」

 

「何これ? 赤い指輪?」

 

「持って」

 

「う、うん」

 

 バキッと少年が少女の上から手を添えて、かなり強く指先の指輪を砕いた。

 

 それに思わず顔を赤くしたレザリアがパッと指輪を離すと光になって消えていく指輪が胸元に吸い込まれた。

 

「あれ? もしかして、強くなるやつ?」

 

「そう。これで新しい呪紋が使えるようになる。たぶん」

 

 指輪が回収される。

 

「そうなんだ? ん? んぅ? あ、ホントだ!! ボク、何だか呪紋覚えたみたい。ええと神聖属性の祈祷呪紋【見い出せしもの】だって」

 

「どんなの?」

 

「ええと……」

 

 呪紋の内容が頭に流れ込んで来たレザリアが読み上げていく。

 

「まだ名前の無い種族に名前を付けると……その種族はウェラクリアさん?の眷属にされるんだって。それでウェラクリアさんの加護を受けられる、とか?」

 

「加護? 具体的には?」

 

「ええと、タタイセイ可能化?」

 

「……多胎生……子供が多く産める?」

 

「そ、そう。何かそんな感じ!!」

 

「他には?」

 

「ええと、体力と霊力の成長率が三百二十八ぱーせんと上昇? 他には……しゆーいたいの区別なく。相手によって体が変化する? とか」

 

「雌雄異体……男女の別なく。相手によって性別が変わる?」

 

「な、何かそう!!」

 

「後は?」

 

「ええと、う~んと……ていぶんしゆうきかごうぶつ?を自由に出せる?」

 

「……フェロモンの分泌自在化……蟲の招集や統制用……」

 

 少年が思っていた以上にウェラクリアとやらが蟲と深く関わっているのを確認して、今までの状況から嫌な予感を感じていた。

 

(もしかして、イエアドの信者である人間が自滅して、蟲推しのウェラクリアやヴァルハイルの神が争ってる? 今までは倒すばかりだった、背後関係の情報を集めないと……内情も殆ど分かってないのはマズい……)

 

 グリモッドは霊魂を操り損ねて島の人間を衰滅させ、その間隙に蟲が入り込んで人間を駆逐したとも考えられる。

 

 とすれば、島は正しく神々の縄張り争いに利用されている可能性が大きかった。

 

 竜もまた神の如きものという認識で良いのならば、様々な勢力が島では犇めいている事になる。

 

「イゼクスが教会勢力。イエアドや北部神が島の亞人勢力。ウェラクリアが蟲勢力。ヴァルハイルが竜勢力……最低4つ?」

 

「アルティエ?」

 

 諸々を教えてから、蜘蛛達を振り返り、どんな名前にしようかと考えていた少女が振り返る。

 

「何でもない。決まった?」

 

「う、うん。何かこうパッと思い付いたよ」

 

「発表どうぞ」

 

「ええと、貝蜘蛛さん達はアルメハニア。蛭蜘蛛さん達はヒルドニア。黒蜘蛛さん達はペカトゥミア。竜骨蜘蛛さんはドラコーニア。これでどう!!?」

 

 少年がいいんじゃないと頷こうとした時だった。

 

『(・ω・)?』

 

 蜘蛛達が何やら自分達の体がおかしい事に気付いて首を傾げる。

 

 すると、一匹が一匹を見て、ビクッとしていた。

 

「(/・ω・)/」

 

 それーそれーという前脚ジェスチャーをされた蜘蛛が自分の前脚……否、腕を見やってビクリとする。

 

 他にもお前もかーとか。

 

 お前もじゃねー?とか。

 

 蜘蛛達が混乱している合間にもグムグムと彼らの体が歪に変化していった。

 

「こ、こここ、これってボクのせい!?」

 

「………(眷属化? 種族毎に取り込みが掛かった?)」

 

 肉体が内部から脱皮するように変質しているのか。

 

 体積を無視して彼らの甲殻が罅割れ、その内部から現れた肌に装着されるようにグチュグチュと音をさせながら粘液を溢れさせていき。

 

 グニュンッと彼ら蜘蛛の頭部が完全に人の頭蓋を模した時、彼らの目が額に小さく飾りのように移動し、後は人間と同じような顔となる。

 

 その背後には蜘蛛脚が大量に競り出しており、中には蜘蛛脚の肩側のモノが人の手になっている者もあった。

 

「人型化……ビシウスの輪でしか出来ない事をこの短時間で……これが……」

 

 神の力という事なのか。

 

 今まで蜘蛛達が働いていたあちこちで思わず悲鳴が上がる。

 

「招集して」

 

「う、うん。た、大変な事になっちゃった……」

 

 そうして、蜘蛛が人間になっちゃう事件はまた一波乱を野営地に齎したのだった。

 

―――30分後。

 

「そ、それで?」

 

 ウートが頭を痛めた様子で片手で覆っていた。

 

「え~っと名前付けたら人型に……」

 

「解った。で? 彼らは人なのかね? 蜘蛛なのかね?」

 

 それに付いてはこちらから。

 

 エルガムが診療所内からやってくる。

 

 ウートの横にはまた面倒事をという顔のウリヤノフがさすがにジト目で少年と少女を見ていた。

 

「彼らの肉体は表向きは人間ですが、色々と分かる範囲で確認して見ましたが、生殖器は人間で中身は人間と蟲の中間のような感じかと思われます。ただし、肛門が無く。呪霊などと一緒で食事は出来ても排泄はしないという事かと。前に彼が呪霊のエルミ殿に食事を与えているところを見ましたが、要は肉体を維持するものの本質が違うのではないでしょうか?」

 

「本質?」

 

「彼らは受肉した呪霊のようなもので霊的なものを摂って生きており、食事はその霊的なものを食物から取る為の方法でしかないのではないか? という事です」

 

「……それで知性は?」

 

「蜘蛛達と変わりませんが、言葉は分かるようですな。それと蜘蛛にされた騎士達はまるで違う姿だそうです。そもそも全員子供で性別も性器がどちらもある事から不明ですが……」

 

「今、衣服の在庫は?」

 

「はい。難破船に積まれていたものがあったのでそれを」

 

「……はぁぁ、アルティエ。君の意見は?」

 

「蜘蛛みたいに使えなくなった。でも、蜘蛛の仕事は必要」

 

「だろうな。今の野営地では哨戒活動を蜘蛛頼みしている。他にも連絡役や細々とした雑用も彼らの力を頼っていた」

 

「野営地広げる。出来れば、今の状態から3割くらい増やしてくれれば」

 

「考慮しよう。娘に仕事を押し付ける事になるが、彼らを蜘蛛のような能力を身に付けた人として扱うならば、問題無いな?」

 

「問題無い。統制はレザリアがする」

 

「え!?」

 

 少年の言葉に本人が一番驚いていたが、蜘蛛を人化した張本人なのでそれも已む無しである。

 

「野営地に全員分の住居を作って貰えれば、後の食糧確保は自前で大丈夫」

 

「解った。水夫や船員達、騎士達にもそう伝えよう。それでだが……」

 

 少年がウートに耳打ちされて、その脚で診療所の外に出る。

 

 そこには騎士隊を統括する黒髪の男。

 

 ベスティン・コームがいた。

 

「……話が済んだならば、聞きたい」

 

「どうぞ」

 

「我らの同士はどうなった?」

 

「別の種族になった」

 

「別の、種族?」

 

「蜘蛛化は呪具である抗魔特剣の効果。でも、蜘蛛から人になったのは神の加護。異教の神ウェラクリアが蟲を人にした」

 

「―――では、同士達にはもう過去の記憶は……」

 

「魂は同じ。転生したと考えていい」

 

「転生……」

 

「異教の神が自分の眷属として転生させた。今回、呪紋が使われたのは単純に名前を付けるだけの事でしかない。本来、それだけでこんな効果が出るはずない。本来なら……」

 

「つまり、異教の神がそれを望んだと?」

 

「そう……もう教会の異端じゃ済まない。異なる神の祝福を受けた以上、教会は絶対に人外となった彼らを殺そうとする。それは一番良く知ってるはず」

 

「―――ッ、ああ、そうだとも……大陸から人外達を駆逐しているのは我ら教会騎士だ……クソ……ッ」

 

「もう教会騎士じゃない。でも、記憶が無くても魂が同じなら本人には違いない。見捨てて教会に戻る?」

 

「馬鹿な!! もはや異教の神の印を背負った事は誤魔化しようもない。そして、我らの同胞が……例え、異教の神の配下になろうとも……我らの決意は……揺らがぬさ!!」

 

 苦し気ながらもそう言い切った男の瞳には決意が浮いていた。

 

「なら、問題無い。例え、別人だとしても、今は仲間……蜘蛛達も貴方達を信頼してるから、ああしてる」

 

 ベスティンが俯けていた顔を上げると。

 

 蜘蛛脚を背中に背負った子供達が騎士達に甘えるようにして身振り手振りで意志疎通しながら、いつものユーモラスな様子で和気藹々とした空気を醸し出していた。

 

「(/・ω・)/」

 

「オイオイ!? オレはお前の父親じゃねぇってのに甘えん坊だなぁ……」

 

「こら!? 喧嘩するな!? え!? どっちが長いか? どこ見てんだお前ら!?」

 

 騎士達は嘗ての同胞が転生した姿に涙を浮かべればいいのか。

 

 それとも悔しがればいいのか。

 

 複雑極まる顔をしていたが、それでも人懐っこく自分達の傍にいる蜘蛛達を前に涙を堪えて、何とか笑っている。

 

「……いいだろう。もはや神を捨てた我らだ。子供となっても、転生しても、同胞の面倒くらいは見るさ……やってみせるさ」

 

「ちなみに新種族は全部蜘蛛の形質を引いてる。調べてみたけど、雄を食べたり、子供が母親を食べる事は無さそう。だけど、妊娠すると一気に7人近く産むと思う。食料も大量に必要になる。子供を作る時は計画的に……」

 

「な―――我らはそんな事は!!?」

 

「蜘蛛の新種族。子供に見えるけど違う。ああいう種族。瞳も最初から四つから六つあるし、飾りみたいに額にあるのも瞳。よく見れば、瞳の中には複眼もある。それもたぶん魔眼……」

 

「なッ―――あの悪名高い魔の技か!?」

 

「取り敢えず、慎重に。もし命に係わるような問題が起きたらすぐ知らせるように……」

 

「解った。留意する。この話は?」

 

「勿論、騎士全員にしていい。野営地には野営地用の話をする」

 

 少年が言うべき事は言ったとスタスタ騎士達の横を通り過ぎ。

 

 黒蜘蛛の一族で一番数の多いペカトゥミアを騎士達に任せ。

 

 野営地の砂浜。

 

 ウートによって野営地を護る神殿建築の任を受けて、動き始めようとしていた途端にまたおかしな事に巻き込まれたリケイを横に待っている蜘蛛人間達の下へと向かった。

 

「(>_<)」

 

 少年が来ると今まで身振り手振りで蜘蛛みたいにシャカシャカしながら意思疎通していた蜘蛛達が一斉に浜辺中から集まって来る。

 

 誰も彼も新品ながらも粗末な麻布で造られた平民用の衣服姿だった。

 

 子供用ではない為、ブカブカであり、ようやく全員に着せたレザリアがお母さん染みてヨシ!!という顔で汗を拭っている。

 

「あ、アルティエ。ペカトゥミアさん達の事、騎士さん達に納得してもらえた?」

 

「大丈夫みたい」

 

「そっか。良かった~」

 

 一族毎に集まっている蜘蛛達には特徴があるようだ。

 

 貝蜘蛛のアルメハニア達は甲殻型のスーツのような部分で覆われた部分が多い。

 

 脊椎から尾てい骨辺りまで帷子状の少し厚いスーツ染みた七色の装甲を背負っていて、手足の指関節や脚先が薄く柔らかそうながらも人間には無い甲殻類のような装甲で護られている。

 

 蛭蜘蛛達のヒルドニアは更にゴツいようで背中から飛び出している赤黒い甲殻の脚はアルメハニア達よりも太く短い。

 

 肩部から腕や膝から下が甲殻の装甲に覆われているが一体化していて、胴体部は人間ながらも細く。

 

 何処かアンバランスであった。

 

 最大の特徴は翼だろう。

 

 肩部の脚が背後に逆向きに付いているような恰好であり、衣服を飛び出ている部分は逆関節のような形で折り畳まれているが、広げれば、甲殻の翼のように展開されるのが想像出来た。

 

 翼そのものは空力的に飛ぶ為の手段ではないらしく。

 

 スマートに折り畳まれていても肩から後ろが少し膨れる程度の細さのようらしいと気付けば、案外スリムと言えるかもしれない。

 

 だが、最大の問題は残ったドラコーニア達だろうか。

 

 今までの蜘蛛の一族は髪の色や肌の色が色々違っており、様々な色合いで統一性が無かったのだが、ドラコーニア達だけは明るい褐色の肌に白い髪で統一。

 

 しかも、全員が子供ながらも何処か凛々しさを秘めて美しい横顔からボーイッシュな感じの少年にも少女にも見える。

 

 ただ、全員が同じ顔であった。

 

 それ以外の部分ではまるで本当に人間のようにも見えて、手足には一切の甲殻が付いていない上に背中の蜘蛛脚もお行儀よく折り畳まれていて、自由人に見える蜘蛛達の中では一際統制が取れたような印象があった。

 

「あ、あのね。アルティエ。ドラコーニア達の背中に蜥蜴さんみたいな紋章があってね。ちょっと見せて」

 

「(>_<)/」

 

 一人のドラコーニアが衣服を脱いで背中を見せる。

 

「これ……リケイさんに見て貰ったら、大地母神ウェラクリアの紋章。【変異呪紋】ゴルドの印て言うんだって」

 

「ゴルドの印?」

 

 そこでリケイが蜘蛛の子達を何やら触診していたのを止めて、少年達の傍までやってくる。

 

「ゴルドの印はシャニドの印などと同じく。様々な呪紋の能力を上げる力なのですが、見たのはこちらも初めてでしてな。恐らくはシャニドの印と同じように当人に呪紋を覚えさせる効果があるだろうと見ていますじゃ」

 

「変異呪紋て何?」

 

 レザリアが首を傾げる。

 

「祈祷呪紋は神の力を直接的に用いるモノ。変異呪紋は生物の力を用いるもの。ただし、これも神から最初期に受け取った力を己の中で変化させながら、力を獲得していくという感じですな」

 

「そういう……」

 

「ちなみに大抵コレは生命属性の呪紋であり、何かしらの行為や儀式で力を産む祈祷呪紋と違って能力が上下する事で呪紋などは増減するものかと」

 

「解った。つまり、能力を上げるものを沢山食べさせればいいの?」

 

「根本的に後は鍛えるとかでしょうな」

 

「(/・ω・)/」

 

 鍛えますという顔で出ない力瘤を作るドラコーニア達が戦隊もののように全員でポーズを取った。

 

「ちなみに持ってる竜属性呪紋は?」

 

 少年が訊ねる。

 

「この子達が持っているのは竜属性変異呪紋【再生色】かと」

 

「さいせいしき?」

 

 レザリアが首を傾げる。

 

「変異呪紋の多くは肉体に起因するのですが、これは竜の回復用の呪紋です。竜の回復能力の多くは血統の力というだけではなく。魔力、霊力、体力などのどれを使っても発動する呪紋でしてな」

 

 リケイが持っていた小さなナイフで背中を見せていたドラコーニアの手に突き立てるようにして刃を落したが、バキィンという音と共にそちらが折れた。

 

「この通り。この強靭な硬さと共に怖ろしく死に辛い」

 

 思わずレザリアがダメぇとそのドラコーニアを抱き締めるように後ろに下がる。

 

「この子達の体全体の強度と回復力はあの骨と同等。胴体を両断されようが、頭部を粉々に砕かれようが、焼かれようが、磨り潰されようが、基本的には再生するものであり、そこに竜の呪紋による回復が加わるので……」

 

 プルプルとレザリアがその言葉の恐ろしさに震えつつ、蜘蛛達も自分達の能力による不死身ぶりに「((((;゜Д゜))))」身を震わせていた。

 

「まぁ、今の状況でも竜殺し系の呪紋や呪具、抗魔特剣を持って来られても死に切れずに地獄を見る程度には不死身かと。殺すには完全に体を灰にするしかないでしょうが、それ程の火力を延々と戦場で使うのは不可能」

 

「事実上死なない?」

 

「死に難いの間違いですが、そのようなところですな」

 

 悪い悪いとリケイが刃を突き立てようとしたドラコーニアに頭を下げる。

 

「無論、眷属であれば、主に呪紋を共有する事が出来る。更にそこから他の蜘蛛達にも呪紋を与えておけば、もしもの時も安心かと」

 

「後でやっておく。それで……今回の事はどう考えてる?」

 

「……ウェラクリア当人らしき存在がいきなり呪具を与えて来るとなれば、それはかなりの大異変でしょう。そもそもの話、神や神の使徒達の多くはこの世には介入せず。基本的には肉体も現世では仮初のようなもの」

 

「それが出て来るって事は……」

 

「此処から先は気を引き締めねば、それこそ竜でも神の使徒でも神聖騎士でも巨大蟲でもロクな相手はいないと心得た方が良い……」

 

「気を付けておく」

 

「ふふ、それが良いでしょう。亞神くらいの覚悟は必要でしょうが」

 

「あじん。亞神?」

 

 少年にリケイが頷く。

 

「この世には神の“落とし子”というモノが居りまして。神が現世で産むか産ませた子の多くがそう呼ばれます」

 

「それって……異形?」

 

「ええ、今は亞神の子孫達を人外、亞人をそう呼びますな。神世の時代にはかなり多かったと聞きますが、今の人の時代では殆ど見ない者達です」

 

「教会が狩ってるから?」

 

「その通り。ただ、元を正せば、竜もヴァルハイルなどで崇められていた【竜神カルトレルム】の落とし子と言われております。亞神の血を引く個体は今でも個人的には健在であり、巨大な力を持つ個体は眷属を用いて人の世に干渉しているとか」

 

「……リケイもそういうのだったりする?」

 

「直球で聞きますな。いえ、精々が敬虔なる神の信徒止まりですじゃ。この老いぼれも老い先長いわけでもなく。普通に寿命で死ねます」

 

 少年は本当に寿命でこの老爺が死ぬようなタマだろうかと思いつつも、聞きたい事は聞けたので蜘蛛達を前にして役割分担を決める。

 

「アルメハニアとヒルドニアはペカトゥミアと一緒に今まで通りの役割に食料生産と鍛錬を追加。ドラコーニアは全部で7人……4人は野営地。3人は遠征隊に同行して、荷物持ちと一緒に探索しつつ、鍛錬で」

 

 此処にいないペカトゥミア以外の蜘蛛達が一族毎に整列して王に対してそうするように臣下の礼で片膝を着いて頭を下げた。

 

「ほほほ。まさか、イエアドの神官たる身がウェラクリアの兵を見る立場になるとは……やはり、面白いですな。アルティエ殿は……」

 

 リケイが蜘蛛達の様子を見て苦笑しつつ、今後の蜘蛛達の育成方針やらを少年と一緒に話合い始める。

 

 夕暮れ時の浜辺は穏やかで。

 

 取り敢えず、いきなり増えた仲間達の分の食糧を確保する為、全員で漁をする事になったのだった。

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