流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第28話「滅び切れぬグリモッドⅤ」

 

 ニアステラと最も近い壁際の要塞を攻略した翌日。

 

 消耗して帰って来た少年達はまだ話せるフィーゼに色々と頼んでから、霊薬を呑んで眠りにつく事になった。

 

 その日の内にウートやウリヤノフ、エルガムに報告したフィーゼもダメージこそ受けていなかったものの、精霊を大量に扱ったせいで魔力が枯渇。

 

 諸々は翌日にやろうとお休みした。

 

『どうかご自愛下さい』

 

 エルガムの下、ウートの看病や身の回りの世話をしているヨハンナがあまり心配させないようにと嗜め、少女達が小さくなって頷いたりした朝。

 

 彼らの話を家屋の外の壁の前で聞いていたリケイが僅かに目を細めたのはグリモッドに王がいるという下りを聞いた時。

 

 竜骨の神殿造営を請け負っている彼は逸早く野営地の防御を固めるべく。

 

 イソイソと自分の仕事に戻ったのである。

 

 そうして翌日。

 

「ふむ。肉体は人間のように見えるが……」

 

 エルガムの診療所でガシンはしっかりと治った肉体を検査して貰っていたが、腕の分の血肉がガシンの肉体の他の部位から絞られたという程度の事しか分からず。

 

 ダイエットに成功した腹ペコの青年は少年が先日収穫した巨大な小麦から造られたパンをバクバクと齧っていた。

 

「医者先生にもさすがに分かんねぇか?」

 

「ああ、魂の事はさすがにな。リケイ殿やアルティエ殿に訊ねるのがいいだろう」

 

「これ食ったら行くわ」

 

「ああ、水と果実と魚も一緒に後で摂ってくれ」

 

「うーい」

 

 ガシンが診療所を出てアマンザが取り仕切る家に入ると今日に限ってはお休みという事になっている遠征隊の面々が寝ぼけ眼でモシャモシャと揚げ魚とパンと果実を齧っていた。

 

「あ、ガシンだーおはよー」

 

 まだ寝ぼけている様子のレザリアがパンを齧りつつ挨拶する。

 

「昨日の今日で気が抜け過ぎじゃねぇか?」

 

「え~今日はお休みってアルティエが言ってたよ。それに戦える人間はいつでも戦えるように戦った後はお休みするものなんだって」

 

「(・ω・)」

 

 その通りとでも言いたげに現在、少年の留守中、アマンザ達の警護をしているドラコ―ニアが一人ウンウン頷いていた。

 

「フレイとアイツは?」

 

「アルティエは朝からリケイさんのところに出向いてるよ」

 

「そうなのか?」

 

「うん。昨日の反省から新しい戦い方を試すんだってフィーゼと一緒にフレイも連れてった。ボクはこれ食べたら行く」

 

「解った。ナーズはもう出てんのか?」

 

「うん。騎士の人達に剣を教えて貰いながら鍛えてるんだって」

 

「じゃあ、後でな」

 

「はーい」

 

 ガシンが少年の家を出て浜辺に向かう。

 

 リケイがいる場所は大抵浜辺だ。

 

 近頃は芸妓の技を披露するよりも呪紋の関連の専門家として知恵者の一人という扱いになり、今は竜骨を納める場所作りをしている。

 

 それが浜辺と村の内部の境界に立てられる事が決まっており、大まかにはフィーゼが地面を掘り返した場所に周辺地域で発見してきた巨大な自然石を打ち込んでいく事で基礎を作り、その地下に竜骨を納めて聖櫃として扱う事になっていた。

 

 予定地点付近は周辺の岸壁の一部から切り出して来た巨大な一枚の石板が幾つも積まれていて、イエアドの印が刻まれて他の石材と一緒に纏められていた。

 

 難破船の船員達の中に石工の出がいた事は不幸中の幸いであった。

 

「出来そう?」

 

「ふぅむ。本来、精霊というのは本人が用いる前提で簡易契約をするような場合に限って現場調達しているわけで……」

 

 浜辺の方では石板を積んだ一角で石板に腰掛けたリケイが悩むような素振りをしていた。

 

 少年の言葉は彼にとっては難しいというのが本当の処であったが、チラリと隣のフィーゼに視線が向けられる。

 

「あ、あの、何でしょうか?」

 

「その精霊の量……フィーゼ様。今どれだけの精霊と簡易契約を?」

 

「契約というか。精霊の子に同じ精霊を連れて来て貰って、働いて貰ってる感じなんですけど」

 

「ほうほう? ほ?」

 

 リケイが僅かに固まってから、フィーゼの手を掴んでシャニドの印を確認する。

 

「……ご自覚が無かったか」

 

「ご自覚?」

 

 リケイが頷く。

 

「生命属性の戒律呪紋が発現しておりますよ」

 

「カイリツ呪紋?」

 

「左様。戒律呪紋【精霊憲章】……精霊を従属させる呪紋ですな。しかも、本契約を行わずに連れ歩く事が出来る」

 

「そ、そうだったんですか……」

 

「無自覚に発動なされていたようで」

 

「精霊の子達にお願いしてたら色々出来るようになっただけなので……」

 

「ですが、魔力の増強と共に今は……総計で32体ですか」

 

「そ、そんなにいましたか?」

 

「はい。そもそも精霊に魔力を餌にしてとはいえ、延々と命令を聞かせ続けるのはかなりの難度なのですが、それが出来るという事は相性が良いのでしょうな」

 

 少年にリケイが視線を向ける。

 

「遠征隊の者達の呪紋を精霊詠唱代替で使うというのは可能かもしれません」

 

「すぐに試せる?」

 

「ええ」

 

 少年は自分の眷属となっている蜘蛛の一族やレザリア達に不可糸を使えるようにしているが、それもそもそもはあまりにも汎用性が高い呪紋で詠唱が必要無いからだったりする。

 

 リケイが2人を見やる。

 

「お二人は特別だ。フィーゼ様が特に精霊に好かれ易い上に練度も上がり、精霊を従属化させている今ならば、その精霊を遠征隊の個人に貸し出して、詠唱のみを肩代わりさせ、発動に必要な魔力や霊力や体力は本人から頂くという形で呪紋を使用するのは恐らく出来ます」

 

 リケイが頷く。

 

「ただし、制約が一点」

 

「制約、ですか?」

 

「精霊というのは魔力を与え過ぎると高度化して自我を強め、最後には人格を有して一人手に行動し始める。殆どはそれ程に魔力を得られずに野生の獣程度の知能しか無いものではありますが、常に魔力を与えてくれる人間がいれば、話は別だ」

 

 リケイがフィーゼの傍にいる精霊達を見やる。

 

「本契約しなければ、高度化した精霊は妖精となって暴走してしまう可能性が高い。故に貸し出す精霊は全て本契約で従属させる必要がある」

 

「本契約、ですか?」

 

「ええ、精霊の数を減らして詠唱特化の精霊として契約するのです。精霊は今の状態ならば、数体に分けて凝集させ、力を強める事で詠唱に耐えるように強化する事も可能ですじゃ」

 

「そんな事が……」

 

「本契約の為には色々と条件がありましてな」

 

「どのような?」

 

「まずは女性の場合は4つの条件が満たせていなければなりません」

 

「四つの条件?」

 

「処女である事。初産前である事。魔力が一定量以上である事。最後に精霊に好かれている事」

 

「あ、え、う、っ~~~!?」

 

 フィーゼの頬が染まる。

 

「昔からの習いですじゃ。精霊は純粋なものであり、同じ純粋さを好む。まぁ、契約の時の条件だけならば、子供の時に行うのも術者の里ではよくある事でしたな」

 

 リケイが落ちていた枝でフィーゼの周囲の砂浜を囲うようにして円を描き。

 

 内部にイエアドの聖印を刻む。

 

「では、さっそく……32体ですから8体。まぁ、余ったものは野営地で誰かに付けて使うでもいいでしょう。では」

 

 軽くリケイが手を砂浜の象形に付けた。

 

 途端、フィーゼの周囲に浮いていた精霊達が次々に八つの塊となって少女を周回しつつ、色を変えていく。

 

「おや? 属性が自然付与? フィーゼ様は本当に精霊から愛されておりますな」

 

「ど、どういう事でしょうか?」

 

「ええと、水、炎、大地、風、光、闇、獣、躯? ははは、この地にも愛されているわけか。まったく、世の術者達が見たら、滂沱の涙を流しながら悔しがりますな。間違いない」

 

 次々に八つの光が形成されて、少女の前でふわっとした人型となった。

 

 殆どの色合いは想像されたようなものばかりであったが、獣と躯と呼ばれた属性の精霊は褐色と灰色のの斑模様と混沌とした薄紫色であった。

 

「ガシン殿には火、レザリア殿には大地、フレイ殿には光、フィーゼ殿には水と風と闇で良いでしょう。残る二つは……」

 

 その時、砂浜にやって来ていた水夫達の中に船長オーダムを見て、リケイが走っていき連れて来る。

 

「オーダム殿に獣を。躯は今のところ波長の合いそうな者はおりませんので、野営地のドラコ―ニア達に付けて、土木工事をオーダム殿の精霊と共にして貰うのがよろしいでしょう」

 

「あん? 何? どゆ事? リケイの爺さん説明してくれんか?」

 

 オーダムにリケイが説明する。

 

「ほうほう? 増やした精霊を野営地に置いて働かせるのに魔力が必要でオレが宿主なわけか。いいぜ? ま、体力だけは有り余ってるからな。ははははは♪」

 

 オーダムが大笑いしながら快諾してくれて、フィーゼが安堵する。

 

「後は仮契約の精霊を増やして、長時間野営地を開けても働いてくれるようにすれば完璧ですな。それはこのリケイの仕事となる」

 

 リケイがポンポンと座った石板を叩く。

 

「竜骨を置くと魔力が?」

 

 フィーゼに頷きが返される。

 

「ええ、そもそもこの竜骨を使って竜属性呪紋を使うのです。無論、魔力を生み出して貰わねば困る。この骨の一部を使った飾りを付けた人間に魔力を野営地内で誘導し、精霊に使わせて働かせるという仕組みですな」

 

「オレもう行っていいか? 仕事の方は了解した。あいつらとこれから食事なんだ」

 

「これは失敬。後で詳しい説明はしますじゃ」

 

「おう!! じゃあな。頑張れよ!! 遠征隊!!」

 

 バンバンと少年の背が叩かれ、内臓が飛び出そうな衝撃にガクガクと頷く人形と化した少年はオーダムが水夫達に方へと戻っていくとちょっとだけポーチから取り出した霊薬を呷るのだった。

 

 *

 

 こうして新しい精霊達が遠征隊の各員に貸し出される事になり、リケイからどの属性がどんな呪紋の詠唱が得意なのかが講義された午前中。

 

 やってきた傍から病み上がりのガシンは頭を使わされてグッタリしつつ、自身の事を聞けたのは昼近くになってからの事だった。

 

「で? じいさん。オレの詳細分かるか? 自分だと名前がどうこうとしか分からなくてな」

 

「ああ、それならばもう脳裏で纏めております」

 

 フィーゼの横にはもうレザリアがやって来ていて、一緒に精霊に何をして貰うのかを考えつつ、実戦でモノを動かす練習などをしていた。

 

「仕事早いな」

 

「昨日の時点で気付いておりました故。ガシン殿……霊体が紅になったとお聞きしましたが相違ないですな?」

 

「ああ」

 

 少年がガシンの横で治った腕を見やりながら、すぐに神経が馴染むようベタベタと薬草を練り込んだ白い香油を塗り込んでいる。

 

「ガシン殿が辿り着いた境地は【緋霊】という状態でしてな。霊格変異。つまり、霊的な変異覚醒で一段階人より上の存在となった証ですじゃ」

 

「人より上の存在?」

 

「教会などでは神学論の中で教えられるものなのですが、人間の魂は段階を踏む事で強化されて、やがては神に近い存在となるのです」

 

「神?」

 

「はい。その第一段階が【緋霊】。更に第二段階が【黒霊】。第三段階が【昏霊】。第四段階が【蒼霊】となります」

 

「つまり、ちょっと神さんに近付いた状態か?」

 

「そんなものですが、とても希少な状態です。何故なら、現行の人類で蒼霊になれた者は恐らくこの数百年で3人ないし1人いるかどうか。そして【昏霊】に為れた者すら数十人ですじゃ」

 

「本当に少ないんだな」

 

「ええ、まぁ……この上に神の格である【黄金霊】がいまして……普通の人間はどんなに徳を積もうが、善行を為そうが呪紋を極めようが、資質的には緋霊になる事すらありません」

 

「は? 呪紋でもダメなのか?」

 

「ええ、ソレ自体がとても才覚。いえ、資質がいる事なのです。2500万人に1人の資質が緋霊……段階を踏んで蒼霊になると10億人に1人程度となりますじゃ」

 

「何か気が遠くなってきたんだが……」

 

「緋霊化した人物の事は聞き及びますが、凡そ霊的な水準では最上位の格であり、呪霊関連や霊力を用いる呪紋においては大術者となりましょうな」

 

「オレ、拳が武器なんだがな……」

 

「そう言わず。レキドの印を見せて下され」

 

「あ、ああ」

 

 背中を出してリケイにガシンが確認を頼む。

 

「やはり……レキドの印の中核である六面体の枠が紅くなっている。どれどれ」

 

 リケイがその印に手を付いて目を閉じた。

 

「ははははは!? 馬鹿馬鹿しい……初めて見ましたが、そうなるわけですか」

 

「何が馬鹿馬鹿しいんだ?」

 

 思わずリケイが大笑いし始める。

 

「霊力が常人の数百人分以上。その上、霊力そのものが変質し、呪紋で用いる時にも効率が上がっている。通常100必要なところが3くらいですか?」

 

「霊力の質が違うって事か?」

 

「ええ、そういう事ですな。霊力を用いる呪紋の威力や範囲は凡そ12倍、霊力の制御に関しては常人が1ならガシン殿は1000を超えている。しかも、向上の余地が図れない程に大きい」

 

「え?」

 

「近頃、呪霊属性の呪紋。それも詠唱を必要としないものを繰り返し使っていたのでは? 恐らく緋霊化した際にそういう性質を帯びたのでしょうな」

 

「あ~~ずっと亡霊共を殴ったり蹴ったりして倒してたからか……」

 

「さすが奴隷拳闘の雄」

 

 リケイが背中から離れて再び青年の前に座る。

 

「今後もガシン殿は呪霊属性の呪紋、霊力を使う呪紋を手に入れたら、積極的に使っていく事で能力が向上してゆく事でしょう」

 

「そうなのか……」

 

「ですが、一つ忠告を」

 

「忠告?」

 

「絶対に死んではなりませぬ」

 

「は? どういう事だ?」

 

「出来れば、何らかの方法で不死に為られるのがよろしい」

 

「いや、だから!? ど、どういう事だよ!?」

 

「人間を超える霊格を有する者がもしも呪霊になった場合……それは大国が一気に亡ぶような世界の災厄と化す事が報告されております」

 

「オレが亡霊になったらあぶねぇって事か?」

 

「ええ、ちなみに教会の経典にも載っている【沈まずの華バークローズ】という五大災厄の一つは元緋霊の女が怨霊となって、呪霊化した姿とされます」

 

「あ、ええと、何か昔に教会の説教で聞いたような?」

 

「民には“帰らずの女”の説教で有名ですな」

 

「ああ、何だっけ? 好きな男に嫁げなくて、嫌いな貴族の男に嫁いだ女が家を破滅させて、戻っても男はもうとっくの昔に死んでた、とかだったか?」

 

「ええ、概ねその通り。事実はこうです。緋霊化した女が今言った通りの事にあったところまでは同じ。その後、貴族が女を戯れに殺し、怨霊と化した女が国を呪って破滅させ、好きだった男も一緒に消えたという事です」

 

「国一つ亡ぶのか……」

 

「ちなみにその時に出動した教会は組織の7分の1が消し飛んで危うく崩壊するところだったそうです」

 

「オイオイ……洒落にならねぇ……」

 

「もしも死んだら、恨み辛みは捨てて頂ければ。野営地が滅ぶので切にお願いしたいですな」

 

「はぁぁ……死に方まで気を付けなきゃならないのかオレ」

 

「それが力を得る代償ですじゃ」

 

 リケイがそう肩を竦めた。

 

「解ったよ。ぜってぇ死なねぇ……」

 

「よろしい。ちなみに呪紋で霊力を消費する時は絶対に僅かずつ使って下され。効率が良過ぎて、呪紋に大量の霊力を流し込んだ場合、蟲一匹殺すのに山一つ崩す事にもなりかねません」

 

「もう呪紋使うのが怖く為って来たんだが?」

 

 こうしてリケイにあれこれと呪紋に付いて教授されながら、ガシンは着実に強くなっていく自分に溺れぬよう自らを鍛え続け得る事を内心で誓うのだった。

 

 *

 

 ガシンの腕に薬を塗り終えた少年は一路、いつもの鍛冶場へとやって来ていた。

 

「来たな。準備は出来ている」

 

 応対したのは勿論のようにウリヤノフだった。

 

「今回の戦いの事は聞いている。強大な膂力を持つ霊の将に完全武装の騎士達。大弓で射られたそうだな」

 

 コクリと少年が頷く。

 

「今、女衆に繕って貰っている鎧や服だが、そちらの言った通り、あの大麦の藁を加工した糸を使ったら良さげだと聞いている」

 

「良かった……」

 

「まずは全員の補修を終えてから一着ずつ糸を変えるつもりだ。それで今回の竜骨の鎧に関しての意見は?」

 

「防御力は問題無い。攻撃も防ぎ切れてた」

 

「なら、しばらくはソレ以上の素材が来るまでは使ってくれ。それで持ち帰って来た鎧一式と大弓と大剣だが、鎧一式はこちらで装備する事にした。ただ、大弓と大剣に関しては今のところ、唯一使えそうなのはオーダム殿だけだ」

 

「船長だけ?」

 

「ああ、なので、オーダム殿が使うものと予備と保管用以外は潰して小さなものに作り替える予定だ。幸いにして大弓も金属製だったからな」

 

「解った」

 

「いよいよ敵は人を超えた力を持つようになって来たようだが、呪紋も使い始めたと聞く。何か対抗策としてこちらに用意出来るものはあるか?」

 

「頑丈な服が欲しい」

 

「そうなるのは必然か。鎧部分だけなら今のままでいいが、これから先はそうもいかんかもしれんとは思っていた」

 

「何か無い?」

 

「………無い事も無い」

 

 少年がウリヤノフの言葉を待つ。

 

「実はウチの家系は昔から衣服に使う金属の加工を請け負っていてな。教会に上級の教会騎士達が使うような品も卸していた」

 

 ウリヤノフが懐から幾つか鉱石の破片を出して並べる。

 

「金属糸の加工技術はウチの得意分野だった。教会の術者が教会の品を作る時だけは協力してくれていたとも聞いている」

 

「金属の糸?」

 

 嘗て、幾度と無く繰り返した時もまた話される事が無かったウリヤノフの家の話。

 

 これもまた新しい可能性なのだと少年は内心で目を細める。

 

「そうだ。織り上げれて布地にすれば、通常よりも圧倒的に燃え難く薄い鎧のように刃も弾く布となる」

 

「必要なものを集めて来ればいい?」

 

「ああ、フィーゼ様に精霊の力で採掘して頂こうかと思っていてな。ニアステラ内で必要な金属が出るのは致死毒の瓦斯が充満する一帯で人間の採掘は不可能だ」

 

「後で頼んでおく」

 

「ああ、お願いする。だが、問題はそれよりも炎だ」

 

「炎?」

 

「呪紋の炎がいる」

 

 少年が自分を指差す。

 

「そうだ。まさか、炎の呪紋を使える者がいるとは行幸なわけだ。造る時は手伝ってくれるな?」

 

 ウリヤノフがニヤリとした。

 

「勿論」

 

「では、後は鋼の折機だけだな。後、数日で完成する」

 

「もしかして前から?」

 

「ああ、教会と戦う事になった頃からだ」

 

「……感謝」

 

 こうして少年達は装備の補修が終わるまで再び地道な採取活動に勤しむ事となったのだった。

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