流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第29話「滅び切れぬグリモッドⅥ」

 

「精霊さん。お願いします」

 

 フィーゼの言葉と同時に硫黄の匂いが立ち込める一帯でガンゴンガンゴン普通の人間には見えない精霊達が周囲の岩を砕いて次々に荷車に入れていた。

 

「ねぇ。アルティエ」

 

「?」

 

「ボク達が手伝っちゃダメなの?」

 

 一緒に採掘へやって来ていた遠征隊はあちこちの危険地帯を精霊の視点を借りて探索しながら、地表に出ている鉱脈を幾つも発見。

 

 ニアステラ内の鉱物資源の分布図が一気に更新される事となっていた。

 

「ここら辺は普通の人は即死の煙しか漂ってない」

 

「え、此処ってそんなに危なかったんだ……」

 

 レザリアが周囲を見渡して確かに薄く煙が漂っているのを確認する。

 

「遠征隊は全員これじゃ死なない。体も悪くしない。でも、お勧めしない。精霊の扱いに慣れて貰うのが目的」

 

「ああ、だから、精霊さんが見えるように【啓示】掛け直してくれてたんだ」

 

 周囲ではガシンが精霊だけ採掘させんのもアレだなぁという顔で指示を出しつつも荷車に積まれた鉱石の仕分けなどをしていたりした。

 

 鉱石の良し悪しは分からずとも、同じような色合いのものを仕分けておくだけでも随分違うだろうという細かな配慮は顔に似合わないが、繊細な拳闘の駆け引きをする青年の性分なのかもしれず。

 

「【啓示】で色々見えるようになるから」

 

 レザリアがなら自分も精霊さんとお話してみようと色々話し掛けると自分に付けられた一番鉱石を掘り出すのが早い大地の精霊の元へと走っていく。

 

 少年は人型ではないまだ球体状の自分の周囲にいる赤黒い精霊達が仕事をしているのを確認してから、啓示の力で上がった認識力をそのままに周囲を歩く事にした。

 

 すると、フレイが地表に露出した鉱脈の一部の上。

 

 煙が一際濃い場所にいるのを確認する。

 

「(・ω・)/」

 

 あれ、あれ、とフレイがそこから更に少し先の間欠泉らしきものがある場所の奥を全力で指差していた。

 

 その先には薄らと間欠泉傍の岩肌の奥が窪んでいるように見える。

 

 そして、その中心には何やら神の力を宿している何かが黄金の輝きを発していた。

 

 しかも認識不能になるような呪紋らしきものが掛けられているのが気配だけでも少年には理解出来た。

 

「……ふむ」

 

 いつもの黒いダガーの菌糸を間欠泉から迂回させるように伸ばして、ソレをキャッチし、吹き上がる熱い雨から離脱するように下がってソレをパシリと手に取った。

 

「玉?」

 

 少年が“初めて手に入れた可能性”を前にして目を細めた。

 

「鑑定……【ニアステラの竜玉】……装備者が竜玉に魔力を貯め切った場合に“ニアステラの封印を解く”……ニアステラの封印?」

 

 少年が物凄く重要そうなキーアイテム的な玉。

 

 虹色に輝く手のひらサイズのソレを確認する。

 

 取り敢えず、ポーチ内部の空きスペースに入れて、フレイにこれ何か知ってると訊ねようとした時だった。

 

 間欠泉が噴出した途端にその勢いに乗ってフレイが飛び上がる。

 

 超高圧で高熱の間欠泉である。

 

 普通なら火傷では済まないはずであるが、フレイは愉しそうに上空に飛び上がった後、着地した勢いで間欠泉周囲の岩を砕き、その巨大な4m以上はあるだろう破片というよりは岩盤に近いものをヒョイッと幾つかの手で持ち上げるとイソイソと荷車の方へと運んでいき。

 

『何だぁ!?』

 

 驚いているガシンの横でガガガガッと岩盤を割って鉱石や硫黄の類をセコセコ仕分けながら荷台へと積んでいく。

 

「まぁ、いっか」

 

 少年の視線の先では悪い遊びを覚えたフレイの飛び上がって着地という瞬間の衝撃でゴウンゴウンと地面が揺れ、最終的には周辺一面が巨大な岩の破片が散乱する場所となるのだった。

 

「ふぅ……こんなものでしょうか?」

 

「つーか、掘り出し過ぎだろ」

 

「うん。確かに……これは多過ぎるかも……」

 

 フィーゼ、ガシン、レザリアが荷車に入り切らない程に大量の鉱石が積まれた横を見やる。

 

 いい仕事したぜと言いたげなフレイは鉱石の山の上でご満悦であった。

 

「なぁ、アルティエ。この荷車。運べんのか?」

 

 ガシンの言う事は最もであった。

 

 30台近い荷車が満杯で置かれていたのだ。

 

 殆どは水夫達に途中まで引いて貰い。

 

 後は簡易契約の精霊達に持って来て貰った代物である。

 

「大丈夫」

 

 少年が符札を見せる。

 

「ああ、それでやるわけか。でも、霊殿はお前の家の中なんだが……」

 

「竜骨に指定し直して来た。今は浜辺の神殿造営地に出る」

 

 少年が符札を掲げると瞬時に彼らと荷車が掻き消えた。

 

 そうして、戻って来た彼らは浜辺傍の開けた場所に大量の荷車と一緒に戻って来ると驚いている水夫達に鍛冶場までの運搬を頼んで、昨日の今日でかなり出来ている神殿という名の更地を見やる。

 

 その予定地には昨日の時点でフィーゼが精霊に運んで貰った巨大な自然石が何本も土中に埋められて基礎を打った後。

 

 その中心の地下10m程の地点には梯子が降ろされており、巨大な石板が着地させられて、その上に今正に頭蓋が安置されようとしていた。

 

 自然石には一晩で掘られたと思われる大量の呪紋らしき象形がビッシリと壁面に書き込まれていて、欠伸をしているリケイが覗き込む少年達に手を上げて応える。

 

「リケイさん。スゴイ」

 

 思わずレザリアが呟く。

 

「大丈夫そうですね。荷車の方を手伝いましょう」

 

 こうして少年達はイソイソと荷車を引いて、鍛冶場の者達に嬉しい悲鳴を上げさせるのだった。

 

「悪い。石炭の方も頼む」

 

 炉に使う燃料である石炭までも頼まれ、一日彼らは炭鉱夫をする事となったのであった。

 

 *

 

―――数日後。

 

「ほうほう? ニアステラの封印ですか。ようやく神殿造営を終えたかと思えば、また大概なものをお持ちのようで」

 

 ここ数日、ずっと鉱石と石炭を掘る精霊と共に危険地帯を闊歩していた遠征隊は微妙に汚れていた。

 

 石炭の煤塵が原因である。

 

「どれどれ」

 

 竜玉とやらを確認したリケイが目を細める。

 

「……関係あるかどうかは解りませぬが、この島の成り立ちを御存じかな?」

 

「成り立ち?」

 

「ええ、この島は神世の島と呼ばれる事もある旧い島でしてな。東部の各地にはホウライ、つまり天国の類が沖合いにはあると言われていたのですじゃ」

 

「ホウライ?」

 

「左様。一部の術者達が歴史を遡ると島には人が入り込む以前にも亞神達がいたとされる文献が残っており、此処は旧き人々や神の逗留場所だったのではないかとも言われております」

 

「旧き人々……」

 

 少年は知っている。

 

 亜神とも違う古の民は正しく巨大な力を持っていた。

 

 それそのものではなくても、その残滓に近い関係者とも3か月目の終盤には戦っていた。

 

「大昔の人の祖先に当たる者達の総称ですな。亞神というのも大抵はその時代の人々との混血で生まれたとされており、島の各地域の名前で事前に解っていたものがニアステラ……それ故に一部のこの島を知る旧い船乗り達は南部の名前だけは知っていた。という話です」

 

「ニアステラの意味や名付けられた理由は誰も知らない?」

 

「ええ、ですので。このニアステラが人や存在の名前なのか。単なる地名なのは分かりませぬ。封印というからには大地に掛けられた封印。あるいはニアステラという何かの封印という線もある」

 

 そう考えたからこそ少年は忙しそうなリケイの仕事が終わるまで待っていたわけだが、聞いてよかったと言うべきだろう。

 

「まぁ、この時期に見付かる。神の力が宿る。というのならば、何を封印していてもおかしくはないですな。ですが、封印が解けてどうなるかは分からずとも、何らかの意図を感じます」

 

「神々の?」

 

「左様。神は時間と空間と次元と運命すらも紡ぐ者達。ならば、我らはこれの封印を解けと暗に言われている可能性すらある」

 

「……解いてみる?」

 

「ウート殿には?」

 

「何が起こるか分からないよりも、何が起こるか知った上で使うのが望ましいが、神の力が関わっている以上、時期が重要かもしれないって」

 

「同じ意見ですか。ならば、丁度良かった。竜属性呪紋【再生色】は本日を以て、竜骨を持つ者と蜘蛛の子が詠唱すれば、最低限度の魔力のみで使う事が可能です。ちなみに施す事も可能ですじゃ」

 

「そうなの?」

 

「ええ、一度でも竜属性呪紋を受ければ、攻撃用の呪紋に対する耐性も上がり、親和性があれば、再生の効果も上がる。蜘蛛達は今、アルティエ殿を介して眷属間で呪紋を共有。さすがに教会騎士が100人攻めて来ても死者はほぼ出ない程度には耐久力も上がっております」

 

「じゃあ、ウートさんに野営地の人を集めて貰ってから」

 

「それがよろしいかと」

 

 頷いた少年が話していた場所。

 

 小さな東屋のように偽装された神殿。

 

 石製の椅子と壁と屋根が立てられ、テーブルが置かれた場所で頷く。

 

 その下に竜骨が納められているのである。

 

 今後、竜属性の呪紋を誰かが手に入れれば、それを用いる事が出来るようになった事は間違いなく進歩であった。

 

 こうして何が起こっても良いようにとウートが野営地の人間を遠方の場所からも全員集めた翌日の朝。

 

 少年は満を持して、ニアステラの竜玉というソレに魔力を込め切ったのだった。

 

 それがどんな事になるのかも知らずに……。

 

 *

 

「……何も起こりませんな」

 

「?」

 

 野営地の人間が今日は神殿の落成式だという体で集められた翌朝。

 

 多くの住民達に酒とツマミが振舞われている少年の家の前ではウートが音頭を取って、野営地の今後の祭司に付いてを野営地の実力者達と共に決めている。

 

 そんな最中、上品な東屋にしか見えない場所で遠征隊はリケイと共に完全に戦闘準備が出来た状態で虹色の竜玉に魔力を込めたわけだが、まったく周囲には封印とやらが解かれたと思われる異変が起こっていなかった。

 

「魔力は完全に貯まっているのですな?」

 

 少年が間違いないと玉を見て頷く。

 

「となると、遅れているのか。すぐに効果が分かるようなものでもな―――」

 

 グラリと野営地を地震が襲った。

 

 集められていた者達がさすがに悲鳴を上げるやらその場で蹲る最中。

 

 地震が終わったかと思うと野営地の砂浜から遠方の海域を見ていた少年がその光景に驚きを隠せなくなる。

 

 巨大な何かが海の中からせり上がり始めていた。

 

「各自、砂浜に横列展開!!」

 

『(/・ω・)/』

 

 海中から出て来る見覚えのある遺跡らしきものの一部。

 

 それの出現からすぐ少年が蜘蛛の子達を横一列に配置して、津波に備えさせる。

 

(これは一度も無かった……これが封印を解いた効果? 遺跡の出現……)

 

 不可糸の呪文でいつでも浜辺と沿岸部を封鎖出来るように備えていたのだ。

 

「おぉ!! 遺跡ですか!! ニアステラの封印? いや、そもそも此処がニアステラの一部でしかないとすれば……」

 

「あ、あの柱、水平線の先から、滅茶苦茶大きくないですか!!?」

 

「遠いがデケェ!? 山くらい高けぇぞ!?」

 

 海中からせり出した巨大な柱が幾つも幾つも眠りから覚めた様子で天を突き。

 

 今まで彼らが見ていた砂浜の先の海中がまるで全て嘘だったとでも言うように遠方まで何かせり上がって来たものによって海底を破砕されていた。

 

 そして、見渡す限りの海の最中にポツポツと海中から建造物の屋根らしいものが浮かび上がっていく。

 

「海の中に街がある?!」

 

「―――」

 

 レザリアは目を丸くして、フィーゼは言葉も無く。

 

 凡そ海から浮き上がって来た建造物の群れは西部方面の海域までも延々と正しく海の果てまでも続いていく。

 

 その街並みは未だ海水に漬かっていたが、海の生物のサンゴやフジツボなどが生息している様子もなく。

 

 大量の土砂らしきものが水が掃けていくのと同時に押し流されて不自然な程に綺麗な黒曜石にも見える通路が姿を露わにしていった。

 

 幸いだったのは巨大な延々と続く街がせり上がって来たにも関わらず、10km以上離れた地平線の先から見える巨大な柱の方からは津波が襲ってくる事も無く。

 

 同時に周囲の海は東部に向かうと普通の海が広がっており、今は海が多少濁っているだけで済んだという事実だろう。

 

「まさか……これは亞神の都市かもしませぬ……」

 

 リケイが我に返った様子でもう一度、黒曜石で出来たような突如として海に現れた場所を巨大過ぎる都市を見やる。

 

「亞神の都市?」

 

「大陸には幾つも旧き神世の時代の都市伝説があり、文献では黒曜石の都。不滅の都市。黒鉄の世界。海の果てにある場所とされています。名を【ノクロシア】」

 

 少年が先日拾った蝶の事を思い出した。

 

「とはいえ。今は一大事。状況を伝えて来ますじゃ。蜘蛛達には厳戒態勢を敷かせ、都市部から何か脅威が来ないか見張らせましょう。遠征隊はいつでも出られる準備を……精霊達に空を飛んで何か無いか偵察も」

 

「了解」

 

 リケイがまた仕事が増えたと言わんばかりに村の中央へと走っていく。

 

 こうして、遠征隊の出番は早々に回って来たのだった。

 

 *

 

「ふぅむ」

 

 ノクロシアと仮に名付けられた海底から浮上して来た都市が現れて数時間。

 

 住民達の不安を抑えながら、精霊による偵察の結果が報告されていた。

 

「見えない壁、ですか」

 

 関係者が集まっているのは少年の家のリビングだ。

 

 大きなテーブルには地図が広げられ、関係者が立って会議を続けていた。

 

 リケイが夕暮れ時となった遠方に続く遠浅となった海の先を見やる。

 

 浜辺から数百m程歩いた先にはノクロシアの一部に上陸する階段やら街並みの一部が接続されていたが、まだ誰も入り込んではいなかった。

 

「はい。精霊さん達だけかと思ったのですが、ヒルドニアさん達も入れそうな入り口にはみんな見えない壁が備えられてて外から入れないみたいで……かなり遠方の方の反対側から見ると……」

 

 フィーゼが精霊や他の空を飛べる者達の情報を総合して、既存のニアステラの外洋部分に紙を置いてサラサラとインクで地形を書き加えていく。

 

「楕円形の海辺に基礎がある領域が三つ。それも西部に至る地域にまで広がっているわけか……」

 

 ウートが目を細める。

 

「はい。沖合の外縁部には巨大な柱ではなく塔が立っているみたいで、塔の様式は先日の西部で見た“見えない塔”とほぼ同じでした」

 

「つまり、見えない塔はそもそも海底都市の一部だったと?」

 

「同じ人達が造ったのではないでしょうか。それで入れる場所を探しましたが、今日一日では見つけられず。都市の入り口らしい場所もやはり見えない壁で封鎖されていました。私達も直接入れないかと試してみたんですが……」

 

 全員がポリポリと頬を掻く。

 

「ダメだった、と」

 

「はい。なので、しばらくは内部から何かしらが出て来ないのであれば、一端対応は保留にして、沿岸部の警戒を強化。造成中の桟橋や港から出る船には必ず飛べる精霊かヒルドニアさんを一人常駐させて、もしもの時に対応するのが良いと思います」

 

「的確な判断だ。こちらでもそうする。だが、それにしてもニアステラの封印……封印されていたのがあの都市なのだとすれば、これは……」

 

 難しい顔でウートが地図の北部と東部を見やる。

 

「?」

 

「教会騎士達や東部に存在すると言われている王。亜人の勢力である北部。更に竜を祭るヴァルハイル。何処の者達も西部や南部に進出を開始するかもしれん」

 

「ッ」

 

 思ってもいなかった話にフィーゼが固まる。

 

「ウリヤノフ。どう思う?」

 

「旧い遺跡ですが、何らかの意図を持って遺跡に入ろうとする者達が押し寄せて来るのは理解出来る範疇。そもそも人はいないとはいえ、亡霊はいる東部には大量の兵として動員出来そうなのがウロウロしているわけで……呪紋を用いれば、運用は可能とリケイ殿も認めていた。教会騎士達も黙って見ていてくれるなら良いですが……」

 

「こちらへの道を見付けたら、どうなるか分からんな」

 

「今はまだ良いでしょう。東部から南部に至る道はアルティエが見付けた後に封鎖したとの事ですし、東部からの進行はまだ無いと仮定していい。ただし」

 

「問題は北部か」

 

「ええ、西部の見えざる塔の入り口から入り込めるという事は恐らく北部勢力は干渉してくるはず。その前に西部を我らの手で固めてしまう必要性があります」

 

 エルガムが手を上げる。

 

「軍事的にはそうかもしれないが、物理的には無理だ。幾ら住人が増えたとはいえ、それでも我々は百と数十名。水夫達もようやく守備隊らしく形にはなってきたが、彼らとてあくまで野営地を護る為に戦っている」

 

「………」

 

 チラリとウリヤノフが少年を見やる。

 

「前々から考えていた方法があります」

 

「方法?」

 

「住人を増やす方法です。いや、住人というのは語弊があるものの……もし可能であれば、一気にニアステラと西部を固められるでしょう」

 

 ウリヤノフの言葉に少年が微妙な表情となる。

 

「どういう事だ? ウリヤノフ殿」

 

 カラコムがそんな方法あるのかという顔になる。

 

「アルティエの抗魔特剣で蜘蛛を増やすというのは前々から考えていた事です。ですが、海産物を蜘蛛にしても、陸地で兵隊のように使うのは難があると思っていました。それに蜘蛛そのものも完全に信用出来るものではない」

 

 少年がチラリと少年の背中に背負われている蜘蛛脚を見やる。

 

 その柄の瞳はやはり何処か逸らされているような気がした。

 

「ですが、蜘蛛が人化した事で状況は変わっています」

 

「どうしようと言うのだ?」

 

 ウートの言葉にウリヤノフが説明を続ける。

 

「完全な蜘蛛ならば、その剣がもしも離反した場合、我らの野営地は簡単に落ちる事となるでしょう。ですが、意志疎通が可能な上に高度な知性を備えた蜘蛛人……新しい種族となった者達ならば、恐らくその蜘蛛脚の力だけで制御出来るものではないのではないかと。リケイ殿」

 

 ウリヤノフが呼んでいた老爺を呼ぶ。

 

「現在、新しい蜘蛛の子の種族達は三つの契約を背負っている状態となります」

 

「三つ?」

 

「一つ目は蜘蛛脚の契約。これは蜘蛛への強制的な変異覚醒時に結ばれる従属契約ですじゃ。存在の根幹に干渉する代物です」

 

 リケイが指を折る。

 

「二つ目はアルティエ殿との従属契約。これは蜘蛛脚の所有者であるアルティエ殿が全ての蜘蛛の子達に呪紋を貸し与える事で発生しているものですじゃ」

 

 少年が蜘蛛脚を背中から降ろしてゴトリとテーブルに置く。

 

「三つ目はレザリア殿との神従契約」

 

「シンジュウ?」

 

「神に従うと書きます」

 

 当のレザリアが首を傾げ、リケイが補足する。

 

「色々と調べてみたのですが、名前を付ける呪紋というのは本当にそれが世界に対して刻まれる名となる。つまり、名付けた事で存在を確定させる代物なのです。ですが、その名前を与えたのがレザリア殿であった事で彼らは人となった」

 

「ボ、ボクの?」

 

「ええ、レザリア殿が先日吸収したという呪具ですが、恐らく大地母神ウェラクリア本人もしくは使徒のような関係者が与えた代物。今のレザリア殿はつまり神の眷属という類になるかと」

 

「え? え?」

 

「話は聞いていたが、そんなに大事だったとは……」

 

 ウートが驚いた様子になる。

 

「神の契約者が名前を与える事で間接的に神と契約する形となる種族がこれから始祖の一族としてこの世に住まう事になる。故に人化している。恐らくですが、これから蜘蛛脚によって斬る対象が同じ種族の者達ならば、名を与える限りは全て人化する事が考えられます。それで先程一度だけ試してみました」

 

 リケイが横に1人のドラコ―ニアを連れて来る。

 

「(/ω\)」

 

 恥ずかしいと顔を思わず覆っているドラコ―ニアはホッとする程、蜘蛛達らしくお茶目な様子に見える。

 

「新しい子もやはり竜骨を蜘蛛脚で斬る事で骨から蜘蛛人のように形を変えました。この事から……」

 

 チラリとウートがテーブルに置かれた蜘蛛脚を見やる。

 

「既に従属契約よりも優先して人化。神従契約が行われている可能性が極めて高い……」

 

「となると」

 

 ウートの視線が今度は少年に向いた。

 

「蟲以外の生きている存在を蜘蛛化し、レザリア殿が名付けた種族となれば、人化する。種族単位での神従契約が上書き状態であると考えられる。住人は増やせましょう。ただし、全てウェラクリア神の眷属の支配下。今は良いですが、ウェラクリア神の勢力と事を構える事があれば……解りませんな」

 

 リケイが後ろに下がる。

 

「無論、色々と問題はある。だが、出来る限りの事をせねば、我らが滅びるのは確定的だろう。何かが起こる前に準備をしておくのは必要なはずだ」

 

 そのウリヤノフの言葉は少年に向けられていた。

 

「で、でも、それでドラコ―ニアの子達を大量に増やすつもりなんですか!? そんな余裕、私達には……」

 

 フィーゼが最もな話をする。

 

「衣食住を提供出来ない場所に子供を増やしても意味は無い。その通りです。フィーゼ様。ですが、一つだけ試してみたい事がある」

 

「どういう事ですか? ウリヤノフ……」

 

「要は我々が養えないわけで、養う必要が無ければいいわけです。そして、それは……彼らにとっても悪い話ではないはずだ。恐らく」

 

「???」

 

 フィーゼが何を言っているのか分からず首を傾げ。

 

「アルティエ……レザリア……君達に確認して貰いたい事がある。もし、これが上手く行けば、東部で滅んだ者達もまた転生の輪に戻れずとも新たな道を見付ける事になるだろう。どうか、協力して貰いたい」

 

 ウリヤノフの真摯な様子に2人は取り敢えず話を聞く事にしたのだった。

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