流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて- 作:Anacletus
ウリヤノフが驚くべき発案をした翌日。
遠征隊一向の姿はグリモッドの反歌の砦内にあった。
破壊された城壁内部。
次々に亡霊達が消されて、一人だけになった個体を前に少年が蜘蛛脚を振るう。
それに切り付けられ、薄く裂かれた亡霊が動きを止めるとグムグムと内部から蠢きながら弾け、内部から人の半分程度はありそうな大きさの蜘蛛が立ち上がる。
「成功、ですね」
「うん。じゃ、じゃあ……ええと、君の種族の名前は……スピィリアね?」
「(・ω・)?」
突然名前を与えられた蜘蛛が自分の脚を見た時だった。
他の蜘蛛の子達がそうであったように瞬く間に変貌していく。
そして、少年の前で立ち上がった蜘蛛の子は全裸でやはり男女の別が分からないような見た目の子供的な外見で男女の特徴を同時に持つ姿態となっていた。
「せ、成功ですか?」
「うん」
少年が自分の手を見て首を傾げている相手の手に手を重ねて呪紋を使えるようにすると驚いた様子に為りながら、すぐに理解したらしく。
少年に頭が下げられる。
青白い姿は霊体である事を示していたが、その姿にはすぐ衣服のように蜘蛛の鎧染みたものが着込まれていく。
どうやら姿は変えられるようだった。
レザリアの全身スーツのような甲殻に近いかもしれない。
それで胸と股間は覆えているので衣服は必須でないだろう。
「ええと、自分だけで糸出せる?」
×。
少年お決まりのチェックが始まる。
「海や川を泳げる?」
〇。
「ご飯て何か食べる?」
少年が聞くとスピィリアと名付けられた種族の第一号は少年に手を差し出し、手が手に重ねられるとちょっとだけ食事が摂られた。
「魔力がごはん。ふむふむ」
少年が理解して、これならどうにかなるだろうと内心で算段を立てる。
「何か得意な事ってある?」
その言葉に第一号君がクルッと回る。
すると、その姿が瞬時に蜘蛛となった。
「え!? 元に戻っちゃいましたか!?」
「いや、これって……」
驚くフィーゼの前でその蜘蛛がまたクルッと回るとバッサバッサと鳥になっており、虚空でまた旋回すると今度は少年の姿になり、また回ると―――。
「うぉ!?」
思わずガシンも驚く程、先日砦で戦った全身鎧の騎士達になっていた。
最後にまたクルッと回った一号の姿が子供のものに戻る。
「「おぉ~~」」
少年とレザリアが思わずパチパチと拍手すると照れた様子となった。
「も、元々、幽霊だから、色々な姿になれるという事なのでしょうか?」
亡霊は元々が輪廻に縛られない魂。
呪霊のように転生せずに感情の渦に呑まれる事なく。
意志の部分を摩滅させて、残った部分が目的もなく彷徨う存在。
ならば、蜘蛛の力や神の力とやらで変質する先が自身の不安定さを逆に武器にするというのなら、納得の能力だろう。
「取り敢えず、連れて帰りましょう。それと魔力が必要って事は……どうしましょうか?」
「すぐに解決。リケイとウリヤノフに頼む」
「え? お二人は魔力がそんなにありましたか?」
フィーゼに少年が首を横に振り。
「言い出した人間に責任を取らせる。フィーゼも必要」
そう言って、少年はイソイソと野営地に符札で戻るのだった。
―――数日後。
「( ´Д`)……人使いが荒いですなぁ」
「まったく。まぁ、言い出したからには責任を取りはしますが……」
リケイとウリヤノフの姿がニアステラの山岳部にある第二野営地。
茸の養殖場である元蟻の巣穴の傍の広場にあった。
周囲には野営地らしく生活の為の施設が諸々フィーゼの精霊達の手で基礎を立てられており、その周囲からは壁の壁面に沿って降りる階段が壁を削る形で整備され、沼地の近くに続いていた。
彼らがいる場所は野営地の中心部だ。
そこには今、岩を砕いて掘られた10mの縦穴の底が見えており、巨大な骨の塊が降ろされようとしていた。
機材を操っているのは精霊である。
そして、ロープに吊るされたソレが下に落着すると。
周囲の岩壁に彫り込まれた呪紋が僅かに光った。
「ふぅ。此処で三つ目。次は蜂の湖、その次が硫黄が出る採掘現場付近ですな」
「アルティエ!! お願い出来るか!!」
少年がイソイソと仕事を終えた2人の傍まで来ると野営地にいる十数人の水夫達に後は任せて、元蜂の巣があった水場に飛ぶ。
すると、霊殿付近では先程の場所と同じように地面に大穴が開けられており、その周囲に巨大な石が壁として敷き詰められ、一枚の石板が地下に置かれていた。
周囲には木製の滑車が置かれ、水夫達が巨大な骨の塊をロープで降ろしているところであった。
「3時間下され」
「解った。此処はリケイ殿に任せて、一端野営地に」
リケイが生身で大穴に降りていくのを確認した少年はウリヤノフを連れて野営地に飛んだ。
すると、野営地では次々に大きな骨の塊が荷車にデンと一個乗せられて、準備されており、合計で3つ。
鍛冶場から運び出されて神殿の横の駐車スペースに整列させられていく様子はまったく奇妙なものに違いなかった。
「鍛冶場で確認してくる。問題が無ければ、後数日で再び4個は……」
ウリヤノフが鍛冶場の方へと走っていく。
その様子を見届けて、少年は新しく霊殿を築いたニアステラ中部の街道沿い。
薬草が生い茂る草原へと向かった。
「……これで」
何をしているのかと言えば、スピィリア達を迎え入れる準備であった。
ニアステラの各地には策源地となる重要な鉱物や薬草が自生する場所が数多く存在しており、そのあちこちに霊殿を築いて行き来出来るようになった少年はその移動力を用いて、各地に人材を運び続けていた。
やっている事は単純である。
神殿の造成だ。
再生する竜骨を大規模に養殖し、最初の頭蓋骨を埋めたのと同じような神殿を各地のスピィリア達の入植予定地に作っているのだ。
竜骨は魔力を生み出し、その欠片を持っているものに分け与える。
ウリヤノフの計画は神殿が造られ、増産が効く事で軌道に乗り、野営地を広げる計画として進められていた。
現在、40人程連れて来た第一次入植隊。
スピィリア達の一団が大勢の技能者達に色々と学んでいる最中。
元々、やけに賢かった彼らは大人達に自分達の野営地を造る事を目的にして今後の為の知識を実地で取り込んでいた。
『いいかぁ、お前ら。樹木の切り方、扱い方と石の切り出し方や組み方を覚えれば、何でも造れる!! ちゃんと覚えて行けよぉ』
『(・ω・)/』
ハイ先生とでも言いたげにスピィリア達が手を上げて応える。
『植物の植生をちゃんと理解し、適切な管理が出来れば、土壌が悪く無けりゃ、大体の場所では何でも育つ。今回は華だけだが、安定してきたら、作物の方もやるから覚えて行けよぉー!!』
『(・ω・)/』
『井戸掘りの方法が無けりゃ水が使えないんだから、ちゃんと覚えろ!! そして、オレ達に楽させてくれや。がはははは♪』
『(・ω・)/』
いや、それは自分でやってね先生という顔のスピィリア達が手を上げる。
彼らの食事は魔力。
なので最低限、いつでも魔力が食べられる環境を造っている最中なのだ。
竜骨を中心に造成する技術が彼らには施され、自身で造れるようになれば、劇的に住人を増やす事が可能になる。
竜骨の再生力の維持には爆華を浸した液体が利用されており、竜骨の養殖も同じ液体が使われている。
それを神殿の液体の投入口から注ぐ事で魔力が枯渇した竜骨が再生して蘇り、再び魔力を発するようになるのである。
呪紋は少年が習得していれば、それが使えるようになるし、リケイに今後、竜骨を納める聖櫃の作り方も学ぶ予定が立てられていた。
野営地で呑まれている酒。
その発酵させていない原液版の作り方を筆頭に樽を作る為の技能も鍛冶場の造成も全て蜘蛛達は学ぶ事になったのだ。
『ホント、お前らカワイイなぁ。しかも物覚えもいい♪』
『(>_<)』
勿論ですと得意げなスピィリア達は蜘蛛脚で器用にものを掴んで細工をするので大工仕事も石工の仕事も順調に学んでいた。
『これで火さえ怖がらなければと思わんでもないが、蜘蛛の本能ってヤツなのかもしれん。まぁ、訓練次第で使えるらしいから、追々でいいさ』
魔力を生成する竜骨を大量の華の養分で維持する関係から、各地の野営地の外には爆華の栽培場が一緒に造成される事になっている。
野営地では酒飲みたさに懸命な住人達が人工栽培を成功させていた。
水と肥料の具合から日照時間や諸々の生育記録まで熱心に取る水夫達の中には嘗て実家が農家だった者達が多い。
彼らにしてみれば、陸は陸で高い税金と徴兵で地獄であり、海の地獄の方がマシだから半分海賊みたいな稼業をしていたという者が多いのだ。
彼らのおかげで華の栽培は上々な仕上がり。
記録から最適な栽培方法が確立されていて、今は畑の隅で増産が続いている。
スピィリア達は竜骨の発する魔力の恩恵を受ける為に働きつつ、野営地を広げる手伝いをするという形で亡霊を脱却。
新しい種族としてニアステラの住人となるわけだ。
「順調みたいです。みんな」
「あの子達もちゃんとやってるみたい」
「だな。ウチの隊長はあちこち飛び回って大変そうだが」
「あ、そろそろ次の場所で荷運びの時間なのでコレで」
「「いってらっしゃい」」
そんな野営地のスピィリアを大量に移住させちゃうプロジェクトを見つめつつ、これでいいのだろうかと思わなくもないフィーゼであった。
が、亡霊のままに朽ちるよりはいいだろうとウリヤノフの言葉に反論も出来なかった事から今はとにかく各地で神殿用の石の運搬を大量の精霊を現地で調達して行っている。
こうして出来た神殿への第一陣が出発するのは3日後。
第二野営地でキノコ栽培に従事する。
その3日後には西部との間にある沿岸部洞窟の小砦の造成と拡大の為に第二陣が出て、第三陣は人が近付けない瓦斯の出る硫黄の臭いが立ち込める鉱石産出地帯、第四陣はニアステラの中部の街道で大規模に食料と華の増産を行う草原地帯ともう次々に神殿の造成は進んでいた。
「アルティエが今日は確か後40人連れて来るって言ってたよ」
「亡霊から知能がある存在に戻っても仕事かぁ……」
レザリアの言葉にガシンが何とも言えない表情になっていた。
「ガシンに吸収されて消えちゃうよりはいいかも?」
「はは、コイツ。本当にそうかもしれねぇ。ある意味、オレは自分の為に倒す相手が減るんだから、止めるべきなのかもな」
ガシンが今も熱心に男達に色々と習う蜘蛛の子達を見やる。
「でも、何万人とか相手に出来ないよね?」
「まぁ、な。それくらいやったら、普通に疲労で死んでそうだし」
「ニアステラ中にスピィリア達の野営地が出来たら、すぐに増やすんだって。1日に必要な魔力量で換算すると竜骨の神殿は最大で一日1000人くらいまでなら大丈夫みたいだから」
「そうなのか。じゃあ、神殿を増やせば、1000人連れて来られると」
「実際には住居の関係でもう少し少なくなるみたいだけど、他の蜘蛛の種族も神殿を護る為に増やすのがいいだろうって。ウートさんが言ってた」
「ああ、そういや、ドラコ―ニア連中は竜骨そのものだから、大きい竜骨の近くなら魔力はそのまま受け取れるんだったか」
「うん。攻撃用の呪紋をアルティエから習ってたから、今ならガシンの方が負けちゃうかも?」
「そりゃいい。訓練で戦う相手が増えるのは歓迎だぜ?」
「あ、蜘蛛の方の脚とか折ったら怒るからね? あの子達だって痛いんだから」
「解ってるよ。本気で格闘戦出来る連中はまだあいつらの中にもいないだろうしな。気長に強者ってヤツが出て来るまで待つさ」
「………」
そこでレザリアが黙り込む。
「どうした?」
「時間……あるといいね。うん……不安なんだ。みんなだってきっと同じ。野営地の人達だって……」
ガシンが砂浜から遠くにも思える場所。
実際には手の届く場所にある黒曜石の都を見やる。
「戦うさ。何が来ようと……オレ達が生きてる限り。それが流刑者魂だ」
「もう……でも、うん。ボクも戦う。おねーちゃんやナーズや遠征隊のみんな、野営地の人達と一緒に……」
「ああ、そうしろ。一番前を張れるのはお前やアルティエだけじゃねぇって事を教えてやる!! 年上にぐらい頼れ。まだ子供なんだから」
ガシガシと少女の頭が撫でられる。
「も、もぉ……子供扱いして!? ボクだって、もう大人なんだから!!」
「どこら辺が?」
「う……そ、それは……あれが、その、来てる、とか……ええと」
赤くなって言い淀む少女にまだまだ子供と再びワシワシ頭を撫でて、ガシンは膨れる少女を置いて歩き出した。
やれる事を全てやろう。
そう戦い続ける男達の背中に自分もまた遠征に出られなくてもやるべき事があるはずだと胸に秘めて。
*
―――グリモッド深夜。
少年は再び蜘蛛脚で40人のスピィリアを生み出した後、彼らを送り届けたその脚で再びグリモッドに来訪していた。
夜中という事もあり、亡霊達は活発だ。
しかし、少年を捕捉出来るような者達は殆ど居らず。
空を鷲の木彫りを生命付与でホンモノとした少年はまだ仲間達とは未探索のグリモッド中央部を塗り潰すようなルートで上空から偵察していた。
「沼地、草原、高原、隆起した岩盤が多い地形……起伏に富んでる割に樹木が少ない……」
グリモッドの中心部の領域は中々に踏破のし甲斐がある地形だった。
しかし、見晴らしが基本的に良い為、よっぽどの事が無ければ、全滅しそうな場所は見えず。
少年は地形を後で書き出しておこうと考えながら数百m上空からの遊覧飛行というにはあまりにも危険な状態で周囲をキョロキョロしていた。
「?」
少年がグリモッド北部に目をやると一部明るい場所が見えた。
それが魔力の光だと気付いて、高度を上げた少年が現場へと近付く。
(これは―――もう教会騎士の部隊が来てる……)
少年が見たのは呪紋を用いて巨大な人型というよりは天使のような翼と獣のような獣面を持つ人型の戦いだった。その巨大な獣人のような何かは熾火のように燃える黄色い炎のようなもので体表を揺らされており、教会騎士達が放つ呪紋による攻撃を受けながらも猛烈なこん棒の一打で騎士達を薙ぎ払い。
同時に追撃を掛けて押し潰そうと跳躍し―――片腕を切り裂かれて後方へと空中で器用にこん棒を投げ捨て退避する。
その機敏さは巨人とは思えない程であった。
「―――神聖騎士。アレは……」
少年が見たのは女だった。
陽光のような輝きを帯びる全身が呪紋の効果で強化されているのが見える。
その速度は上から見ていれば、何とか追えるくらいに早く。
蜘蛛脚を装備した時の最大加速には及ばないが、その半分程度は確実にあった。
『知能のある化け物はこれだから……まったく、あの堅物な老害共も余計な仕事を増やしてくれて。どうして、あんなに古臭いのかしら、ね!!』
愚痴った彼女の言葉を吹き飛ばされた男達が物凄い複雑そうな顔で見ていたが、それにしても上司に平然と立て付くような言動は教会騎士には珍しい。
赤み掛かった金髪は燃えるように陽光を帯びて輝き。
肩までしかないというのに彼女を喰らうかのように波打っている。
軽装の鎧しか身に付けていない彼女が一気に間合いを詰め、獣の巨人の足元で剣を一突きした途端。
相手の態勢が崩れた。
その片脚の太ももには大穴が開いている。
咄嗟に上空へと逃れたが、少女の方が早い。
上空へと跳躍した彼女がヒラリと化け物よりも上で背後を取って宙返りし、下降しながら、その重刺突用だろう身の丈に合っていない剣を振るった。
高速で連射された突きが残像を産む。
背後から心臓も内臓も全て的確に串刺しにされた化け物が絶叫を上げて落ちていくが、肝心の逃げる為の翼は既に彼女の剣によって穿たれて崩壊していた。
爆弾のような土煙が落下地点から上がる。
その化け物の上から落下している彼女のもう片方の手には光が満ちていた。
『【イゼクスの息吹】』
ゴッと光の線が地表に走り、直撃地点から数m先までを広がりながら焼き尽くす。
最後に残っていたのは燃え散った敵の残骸らしき骨の欠片くらい。
片腕で剣を振った彼女によって周囲の土煙が完全に吹き飛ぶと。
そこにはもう敵の残滓は微量にしか残っていなかった。
最初の一撃で死んでいなかった教会騎士達が次々に仲間達に呪紋を向けて、傷を回復させている。
その様子を見ていた彼女がキロリと遠方の上空にいる少年を見やった。
『……貴方、流刑者共の仲間ね?』
少年が旋回しながら相手を確認する。
声は聞こえていたが、密やかなものだ。
しかし、少年に聞こえていると確信するように彼女は獰猛に微笑む。
『我が名は神聖騎士“見習い”……【叶えのルクサエル】。まずはお礼を言っておくわ。貴方達があのフレイズをやってくれたおかげで老害共がようやくワタシを認める気になったみたいだから』
その唇の端が歪んだ。
『それとしばらくしたら、貴方達の野営地を鏖しに行くからよろしくね? あいつみたいにお優しい手心は加えないから、そのつもりで』
少年が目を細める。
「………………」
彼女はニヤリとして自身の剣を猛烈に背後へと引いて振り抜く。
途端、ゴッと少年が捕まっている鷲の翼を天を貫く光の柱が掠めた。
少年はその“挨拶”に今日は引き上げようと南方へと戻っていく。
それを見届けていたルクサエルと自ら名乗った彼女はまだ十代後半程度だろう美貌を歪めて髪を掻き揚げ、動じも回避もしなかった“得物”の登場に嗜虐的な笑みを浮かべるのだった。
「さ、アンタら、帰るわよ」
「さ、最初からそう言っていましたよ!? 我々は!? ルクサエル卿!?」
「化け物の報告書は任せるわ。夜駆けよ!!」
彼女は何処か溌剌と気後れしている教会騎士達を引き連れて、退避させていた馬で北西部の野営地へと戻っていくのだった。
*
―――数日後。
ドッドッドッドッと南西部一帯を猛烈な勢いで爆走する土煙が上がっていた。
その中心にいるのは少年である。
大量の亡者達が軒並み区画単位で猛烈な速度で変貌し続けている。
それを砦の上から見ていた仲間達は予定分のスピィリア達が産まれたら帰るという作業を繰り返して二日目の今日。
ようやく5000人程の人材を確保するに至っていた。
上空にウィシダの炎瓶による炎が猛烈に吹き上がり、少年が一区画を終えて、変貌しつつある亡霊達が変異し終わるとすぐ移動するよう促した。
ゾロゾロと砦にやってくる元亡霊なスピィリア達はドラコ―ニア達とは違って、其々に個性というか特徴が多い。
「(^_-)-☆」
お茶目に仲間をナンパする者。
「(^^)/」
のほほんと仲間達と談笑する者。
「( 一一)」
一人仲間から外れて周囲をウロウロする者。
「ドラコ―ニアの奴ら以外はやっぱり、個性が出るな」
ガシンが呟きながら、聞き分けの良いスピィリア達を砦前で並ばせて、少年が戻って来るのを待っていた。
符札によって移動出来る人数は相手と手を繋いでいれば、無制限なので一括して何処にでも連れて行ける。
ただし、移動する本人の魔力を用いるらしく。
基本的には少年単体でコストを支払っているわけではない。
移動した先にはお腹が空くスピィリア達の為に竜骨の御守りが用意されており、小さな破片のペンダントが野営地の女性陣の手で仕上げられている最中だ。
「そうでもないよ。ドラコ―ニアの子達だって、顔と体は同じだけど、興味のある事は違うらしいし。あ、戻って来た」
少年が戻って来るとすぐに1500人程のスピィリア達に手を繋がせて、瞬時にその場から掻き消える。
残されたのは500人程。
そのスピィリア達を砦の傍に迎えて、今後どうすればいいのかを空き時間を使って教育し始めたフィーゼが体育座りの相手に諸々喋っている様子は先生と生徒にも見えるだろう。
「案外、ああいうの向いてるよな。アイツ」
「将来は先生になってるかも?」
ガシンとレザリアが言ってる傍からすぐに少年が砦内部から戻って来る。
「これで最後。今ある野営地で受け入れれる人数は限界。また数日後に竜骨を埋める地点を増やせたら来る」
「おう。ご苦労さん。いや、フィーゼはこれから更にニアステラのあちこちへ神殿作りに出るんだったか」
「しばらくは1万人を目標にニアステラを固めていく」
「もう入植は始まったんだったっけ?」
「第二野営地の茸養殖場付近と沼地に近い場所での家屋の建造が始まってる。動物の皮が無いから木造の家屋を一から作る事になってる」
「そりゃぁ人出がいるか」
「これから数日は木を切り倒して家屋造り。石切り場も第二野営地に出来たから、運搬用の道も整備する」
その言葉を聞いてレザリアがその重労働を想像する。
「うわぁ……物凄く大変そう」
「精霊がいるからそんなに……問題は木材」
「木材? 密林が余ってるんだから、そんなに気にする事か?」
ガシンが首を傾げる。
「スピィリアは家屋以外で木材を消費しない。でも、人は消費する。主に暖を取る為の燃料とか、鍛冶場の炉の燃料とか、新しい木工道具とか」
「それはアレだろ? 燃える石。石炭だったか? アレ使うって言ってなかったか?」
「採掘量の大きい場所が無い。だから、山間部の第二野営地は鉱脈を探す意味でも重要。精霊とスピィリア達に一番危ない仕事をしてもらう事になる」
「そっか。鉱山て危ないんだもんね」
少しだけ心苦しそうにレザリアが顔を俯ける。
その頭がポンポンされた。
「幽霊だから潰されても死なないし、精霊だからいきなり坑道が崩れても大丈夫。ついでに汚れないし、肺病にも掛からない」
「お、おぅ……そう考えるとあいつらにピッタリな職場って事か……」
ガシンが確かにという顔になる。
「あんまり一度に大量の木材を森から切り出さないよう、間伐材みたいに密集地帯から間引いて使う。その道の整備も必要」
「何かお前そういうの何故か詳しいよな?」
ガシンが少年の知識に呆れた様子になる。
「3ヵ月目までにやる事一杯」
「あん?」
「何でもない。そろそろ終わる」
三人が見れば、スピィリアを前に何事かを教えていたフィーゼの言葉が終わるとパチパチと大きな拍手が起きていた。
こうして砦からは綺麗さっぱり誰一人として残らず消えて。
しばらく、そこに誰かが来る様子は無く。
南西部は亡霊が多少減った事で静かな状態を取り戻すのだった。