流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて- 作:Anacletus
世の中、金と権力。
とはよく言ったものだが、金よりも権力よりも暴力がモノをいう島において、特大の暴力を持つ相手が敵である事が露呈したアルマーニア側の動きは迅速。
取り敢えず、しばらく人質として、信頼の証という事でヒオネが預けられる事になった。
「これから、よろしくお願い致します。アルティエ様」
「……はい(;´Д`)」
「あ、アタシはミーチェ。このお姫様の御守役兼連絡役。よろしくね~おねーさんの事は呼び捨てでいいわよ?」
「2人と侍従達総員。これからこの野営地でよろしくお願い致します」
「……はい(*´Д`)」
少年が諦観を浮かべているのも仕方ない話。
少年の横ではジロリとフィーゼとレザリアが少年を睨みつつ、少年の家の中で少年と少女の生活を見張らんとしていた。
「これからよろしくね。あたしはアマンザってんだ」
「あ、はい。アマンザ様」
ヒオネが主に会話するらしく。
ミーチェはイソイソと部屋を調えに向かった。
「いや、様はいらないよ。これからウチの子になるんだから」
「あ、はい。アマンザさん」
「出入りする男共!! あんまり変な事教えんじゃないよ!! いいね!!?」
酒場も兼業しているアマンザの家は今や改装もされていて、先日持ち込まれた消臭剤の華のおかげで煙臭さも解消されて、更に住み心地が良くなっていた。
『うぇ~い。アマンザの姉御~~』
『りょーかいです~~』
夜勤明けの守備隊やら他の男達が適当な返事をする。
今までは布製の扉だったが、スピィリア達がこの際だと半日程で木製の扉を付けて、ついでに増築された二階の一角にヒオネと侍従の者達の居住スペースが確保される事になっていた。
先日は増築されて家人の部屋と繋がらない位置の部屋にアルマーニア側を泊めていたが、その通路の壁を取っ払い。
家人しか入れないようにさっそく改築が為されている。
「(>_<)/」
「(/・ω・)/」
「(´・ω・`)?」
イソイソと働くスピィリア達は無言だが、その仕事は確かだ。
ずっと建築技術を磨いて来た為、動きは迅速であり、不可糸の糸でどんな重い建材も軽々と持ち上げて、あらゆる木材を脚先の鋭いところでサクサク削ったり、道具でトンカントンカンしたりしていたら、アッという間であった。
なので、これからはもう一軒酒場を作ろうかという話にもなっている。
「アルティエ。嬉しそうだね?」
「そうですね。お嫁さんを貰って嬉しくない人はいません。ええ」
「はは、そう言ってやるなって。ま、これでアルティエも一人前だね。まだ婚約発表前だが、そういうのはまず生活やら何やらが安定してからの話さ」
アマンザが焼き餅焼きの少女達に苦笑する。
「それまではアンタも程々に遊びな。ま、あのガシンにも嫁が出来たんだ。婚約者くらいいてもいいさ。ははは」
少年はもうアマンザに喋らないでくれという顔である。
「おねーちゃんてそういうの大らかだよね」
「ナーズ!!」
「あ、はい。何? ねーちゃん」
「これからアンタがアルティエのいない時はウチの守り人だ。この子が居れば、護ってやんな!! いいね!!」
「う、うん!! オレだってカラコム先生に習ってちょっとは剣も使えるようになったんだ。任せとけって」
「死なない程度に頼んだよ?」
「うん」
こうして少年の家に長期逗留する事になったヒオネはペコリと頭を下げたのだった。
*
「何とかアルマーニア達との交渉は纏まったが、これからどうする? 今現在、ニアステラの直接支配領域は凡そ2割弱。間接的に生活圏に出来た領域が更に3割。だが、それでも各地の野営地と野営地の間にかなりの空白がある」
鍛冶場でウリヤノフがそう少年に訊ねていた。
「竜骨塊は?」
「先日仕上がった12個は全て各野営地の造営に使われた。今、更に28個を作っていて、その内の9つは出来ていて、霊殿建設他諸々の為に各地へ搬送中だ」
「効率上がった?」
「ああ、各地から爆華がかなり納品されて、鍛冶場の外に作ってある槽でな。清流の水と爆華の液体を交互に入れ替えながらやっているが、此処は目一杯に広げてある。もうさすがに広くするには管理が行き届かなくなりそうだ」
「……更に連れて来て、西部よりもニアステラを固めた方がいいと思う」
「各地を更に造営するのか?」
少年がテーブルの上の地図。
ニアステラの全形に〇を付けて行く。
「各地の策源地と資源地帯の中で用途別に居住と建造、採取、採掘は出来ても作物があまり育たない地域がある。此処に野営地を更に増やすといい」
「確かに魔力さえあればいい関係上スピィリア達を居住させるのは無理な事ではない、か。各地の道の街道沿いが殆どならば、問題は無さそうに見えるが……」
「各地域で石材の輸送が活発になってる。小砦や駐屯地。各地を回る商隊の休憩地点として整備すれば、更に盤石」
「確かに……だが、一つ問題があるな」
「問題?」
「スピィリア達の一部がそろそろ部屋が欲しいとの事だ」
「居住環境がひっ迫してる? でも、数は増えてないのに……」
「それがどうやら商隊を見ていたら、泊まって見たくなるらしい」
「欲?」
「そうだな。そういう見方もある。どうにかせねば、今の速度で造営しても、不満は貯まる一方かもしれん」
「………解った。各地で必要な施設を直接こっちで整備する」
「どうするつもりだ?」
「ウチには魔力が沢山の人がいて、色々と条件は整ってる」
「?」
「つまり、スピィリア達が休めるところがあればいい」
そうして、少年はイソイソと野営地の外にある元クマ肉の畑に向かうのだった。
*
「えっと……」
「やっぱり、お嫁さんならアルティエのお仕事を知っておくべきだと思ったので連れて来ました」
「うん。アルティエの仕事をしっかり見て貰うのがいいよね。やっぱり」
「……はい(*´Д`)」
『ま、英雄色を好むという言葉もありますわ。しっかり、その子達に教えてあげたら? フン』
近頃、まったく遠征に出ていないのでご機嫌斜めなエルミが欠伸をしながら、少年の上でスヤスヤ眠り始めた。
「ええと、そちらの方が?」
それにヒオネがオズオズと訊ねる。
「はい。呪霊のエルミさんです」
フィーゼが遠征隊に関して必要な事は教える事になっていたのだが、近頃は野営地でウロウロしているエルミを見るのは初めてだった。
「で、オレも必要なのか?」
「各地でスピィリア達の寝床が足りてない。取り敢えず、全員分と今後分も含めて40個所くらい整備する必要がある」
「は? どうすんだ? オレ達に家とか作れ……いや、殆ど精霊に重いもん持たせてるから、フィーゼ頼みだけどよ」
「簡単に沢山作る方法ならある。本当は戦争の時に使おうと思ってた方法」
「どうすんだ?」
少年が元肉の畑の中央部。
近頃は蜂の蜜蝋を取る為に漬かっていた黒い真菌の小山に手を当てる。
そして、ソレが瞬時に一塊程少年の掌に株分けされた。
「取り敢えず、現在の生物資源で未だ見付かってないのは蜂くらい。此処はこのままにして寝床を作る」
「結局、どうすんだ?」
「こうする」
少年がガシンの手を掴んで片腕を前に突き出した。
「【飽殖神の礼賛】」
少年の言葉と同時に大量の腕らしきものが次々に現場に吐き出されていく。
「は? こんなところで使ってどうするんだ?」
ダバダバと腕から腕が大量に伸びて周囲を埋め尽くす勢いで増えて行く。
それを見て、少年が片手でポーチから複数の小瓶を取って、一つずつ飲み干しながら目を閉じる。
(【爆華の濃縮液(原液)】を摂取。血糖値94万%上昇、全血糖、全グリコーゲンを再増産中の腕に注入。【ビシウスの根環濃縮液】(寄食)……っ、骨芽細胞に充填……ガシンの腕の全細胞を真菌共生で捕食……増殖開始)
少年の前でガシンの腕の先の掌から飛び出る腕の河が瞬時に大河と化して津波のように溢れ出し、本人が驚く間にも猛烈な速度で黒い真菌によって浸食され、ゆっくりと黒いソレが立ち昇っていく。
『「「「………」」」』
レザリア、フィーゼ、エルミ、ヒオネが何かもう声もなくソレを見上げる。
ビキビキと音をさせながら、その黒い巨大な柱の内部に大量の骨が蠢くのを見た彼女達の顔は大いに引き攣っている。
そして、少年が全ての薬の効果が枯渇するまでの20秒を超えた先。
ガシンがドッと倒れた。
「ガシン!? どど、どうしたの!?」
「ちょっと、血糖値が上がったのを戻してる。体に負担は掛かってない。慣れれば、気絶しなくなる」
「え、ええと、つまり、その、これが?」
少年が自分達の前で聳える塔。
いや、巨大な円筒形の中央部が白く。
それを黒い真菌が覆っていく。
枝のように周辺へ伸びる巨大な幹のあちこちには部屋らしきものが吊り下がっていた。
それは黒い外壁と白い内部で塗り分けられているように見られるが、要は竜骨と真菌で造られた6畳程のワンルームだった。
物凄くザックリと言えば、巨大過ぎるクリスマスツリーに部屋が大量にぶら下がっているという表現が最も近いかもしれない。
「ど、どれだけ大きな……」
ヒオネが全長で300m近くありそうな巨大な漆黒の大樹を見てさすがに顔を引き攣らせる。
入り口を見ていると野営地が特大に騒がしくなり。
『アルティエぇえええええええええ!!!?』
そうウリヤノフの叫び木霊したのだった。
―――10分後。
「人を驚かせるのも大概にして欲しいのだがな。はぁぁ」
そうして騎士が溜息を吐いていた。
「ウ、ウリヤノフ。あまり怒らないで?」
「解っています。ですが、いきなり、こんなものが出てきたら、さすがに怒鳴りたくもなるでしょう……」
「ええ、それは、はい」
フィーゼが擁護出来ず半笑いになる。
彼らが会話している合間にも巨大な漆黒の大樹は成長を続けており、野営地を覆うかのように枝の先端から伸びた糸らしきものが次々に周囲の地表へと向けて放たれ、興味を引かれたスピィリア達がワラワラと集まって来ていた。
「それで? 光はどうする? このままでは作物に光が当たらんぞ?」
「こうする」
少年が指を弾く。
すると、漆黒の塔が一気にクリアカラーですと言わんばかりに無色透明になって、内部の竜骨が思っていたよりも細かったせいか。
空中に白い箱が大量に浮かんだような光景となり、周囲の光を竜骨が透過しているのか……地表には光が燦燦と降り注ぎ始める。
「どういう仕組みなのだ?」
「あの黒いのは真菌の色素。色素そのものを日中は分解して、夜に為ったら生成する。ただし、黒い色素が抜けると光で真菌が脆くなる。だから、そこに不可糸を合わせて張力を保ってる」
「ほ、ほう?」
ウリヤノフの額に汗が浮かぶ。
「竜骨の中に光を吸収して通すような空洞を大量に作って内部で乱反射させながら外に放ってる。後、竜骨から魔力を少し抜いて灯りを灯す事も出来る。冷暖房にも使える。勿論、爆華で竜骨を再生させ続ける限りはずっとやれる」
「よく分からんが分かった。で? これは全て勝手にそうなるのか?」
「生命付与で樹木にしてる。最初の魔力はガシン持ち。維持の魔力そのものは竜骨塊1つ分で10日持つ計算。構造物の柱や梁が全部竜骨だから魔力を使い尽さない限りは破壊されても元に戻る」
「はぁぁぁ……我が主に報告してくる」
「竜骨塊一つで4000個くらいの部屋が維持出来る。早い者勝ち」
少年がそう言っている間にも周囲のスピィリア達はピョンピョンと喜びながら塔から伸びる部屋までの通路の導線に向かっている。
蜘蛛以外は使えないだろう不可糸と真菌の糸こそがソレだ。
正しく蜘蛛の巣のように野営地を覆っていくソレらから登れば、何処の部屋にでも辿り着けるだろう。
三次元的に空中に浮かべられている部屋はまったく以て個室ばかりだが、今のところ2人部屋を希望するラブラブな蜘蛛達とやらは種族全体でも出ていない。
「(/・ω・)/」
ノリコメーとばかりに蜘蛛達は退去して糸の先の自分が気に入りそうな部屋へと移動し、さっそく部屋の何も無い入り口の横に自分のマークらしき顔を入れて占有している。
『一人一部屋までー』
「(^ω^)/」
少年の声に誰もがハーイと片手を上げて返事をした。
地表や塔内部から辿って質素ながらも竜骨製の寝台とそれなりにモノが置けそうな場所まで行けば、誰もが何か置いてみようと考えるのか。
理想的な寝床の為にすぐ不可糸で編み物をし始める蜘蛛達が多数。
そうしてハタと自分達が仕事中だったと気付いて、すぐ地表で仕事をしなくてはと戻っていく背中は何処かウキウキしているように見受けられた。
「な、何か、みんな満足してるみたい」
「アレは自分の好きにしていい場所が出来て喜んでる。これからは野営地で働いて、自分の好きなものを集めて暮らせばいい」
レザリアがそういう問題なのかなぁという顔になりつつも、喜んでいるスピィリア達を見て、まぁいっかと肩を竦めた。
「オイ。今のアレを後40回やれとか言い出―――」
「正確には後39回」
「オレが死ぬわ!?」
ガシンが思わず喚く。
いきなり、視界がブラックアウトして意識を失ったのだ。
「ちょっと魔力を抜いただけ。今のガシンなら20分で元に戻る」
「どれくらい魔力を抜いたのですか? いや、霊力ですけど」
「……フィーゼ2100人分くらい」
「私換算にしないで下さい!? もぅ!?」
そんな風にいつもの遠征隊の様子を少し一歩引いたところから見ていたヒオネはもう脂汗を流すしかなかった。
今見た事をきっと誰も信じないだろう。
複数の呪紋。
複数の能力。
そして、巨大な霊力を魔力に変換し、大量の肉と骨の生成までも操り、巨大な漆黒の巨木に蜘蛛の巣を張る。
(敵わないわけです。お兄様……願わくば、共に生きられますように……)
ワイワイガヤガヤしている遠征隊がやっている事の壮大さにそう一人ヒオネは平和な毎日が来るよう祈る事にした。
彼女には実際それくらいしかやれる事は無かったのである。
*
―――3日後。
第一野営地が巨大な漆黒の巨木と蜘蛛の巣によって変貌してからの数日。
ガシンは寝ているのか起きているのか分からないレベルで霊力を使って使って使い倒された。
正確には魔力をであるが、自分の霊体を引き抜かれて大量に魔力として使用されつつ、肉体にも幾らか少年に薬を流し込まれて、気絶する事30回。
最後にはもう気絶すら出来ずに気分の悪さやら具合の悪さやらを押し殺して、無理やりに健康とされた肉体と急速回復していく魂を感じながら、自分の力の出し方、使い方を会得していた。
ついでに大量の放出と回復のおかげか。
何故か回復した霊力が更に上がった事が脳裏で確認され、もう笑うしかないという状況でもあった。
「これで終了。オイ……立て過ぎだろ。4000×40って16万だぞ? 16万……」
「問題無い」
最後に立てた第二野営地付近の巨木の住宅地の天辺で男二人という状態。
景色が良い以外はもう完全に魔境と化したニアステラのあちこちには大量の漆黒の巨木が夕暮れ時に黒さを取り戻し始めている。
「問題あるだろ。そんなにどこからって……ああ、あそこか」
「そう。エンシャクのいた地下領域はかなり広い。亡霊16万体くらいなら二昼夜掛からない」
「おまえなぁ……モノには限度ってもんが、いや、今更か」
「今更」
「……お前に言うのは何だけどな。何でも一人でやり過ぎだろ? あの領域の石や華を一人で採取して来て驚いてたんだぜ?」
「全員にちゃんと仕事がある。仕事を全うすれば、最良の結果が得られる」
「オレらはお前の仕事に行かなくていいのか?」
「出来る人間がすればいい。そして、出来るからする」
「はは、お前らしい。でも、体には気を付けろよ。後、身の安全もな」
「勿論、必ずフレイが付いてる」
「そうか。お前がいない時、チョクチョク見掛けなかったのもそういう事だったのか……今からか?」
「そう」
少年の言葉が終わるより先に大樹の天辺にフレイが下からやってくる。
「このまま跳ぶ。後は任せた」
「はいよ。お前が居ない間は……オレが……いや、オレ達が何とかするさ」
「(≧▽≦)/」
「“これぞ蜘蛛冥利に尽きる仕事”……“我こそは仕事の出来る大蜘蛛ゴライアス”(。-`ω-)」
「おうおう。そうだな。お前らもニアステラ中の蜘蛛の統率でよく消えてるもんな」
ガシンが苦笑する。
何もしていないようで実際には蜘蛛達を統率し、様々な調整をしているのはフレイを筆頭にした三匹だったりする。
蜘蛛達が安心して暮らせるようにと様々な働きをしてくれる彼らは今やウリヤノフと同様に野営地には無くてはならない者達となっていた。
「行って来る」
少年がフレイと共に符札を掲げて瞬時に消える。
「乗せてくれ」
「“喜んで”(。-`ω-)」
ゴライアスに跨ったガシンはそうして大樹の地表に降りると蜘蛛達が暮れて行く最中に闇を押し込めたような巣の中で不可糸に魔力を通して僅かに光らせ、幻想的にも見える野営地での仕事が本格的に再開されるのを見守る事になるのだった。