流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第39話「鳴動せしフェクラールⅥ」

 

 ヴァルハイルからの襲撃があった翌日。

 

 再び食糧輸送が再開された西部では何食わぬ顔で蜘蛛達が『自分達は無害な蜘蛛です間違いありません!!』という澄ました顔で荷車を運び。

 

 大量の食糧を野営地に降ろしていた。

 

「こうすれば、蟲除けになるんだ。解ったか?」

 

「(・ω・)/」

 

 スピィリア達は北部の建築技術者達に学びながら、現地で働きつつ、時間が経ったら魔力を補給しに海岸洞窟に戻り、またやってくるというサイクルで技術を学び取り、かなり現地では活躍している。

 

 ついでに前日の炎を吐いて野営地を護った姿や深夜のガシンの活躍もあって、多くのアルマーニア達から警戒を解かれていた。

 

『あ、あの、蜘蛛さん。こ、これ』

 

『(・ω・)?』

 

 すると、現地の子供達から小さな頭に付ける飾りを貰ったり、あるいは小さな料理済みの果実を貰ったりという事もあり、その度に愛想よく応対していた彼らはすっかり現地に馴染んだと言えるだろう。

 

 基本的に知的でのほほんとした性格の蜘蛛達はこうして大半の守備隊や住民達に受け入れられ、畏れていた者達の多くは少なからず彼らが味方である事に安堵した。

 

 無論、襲われた事は事実である為、守備隊はピリピリしていたが、深夜の襲撃を凌いだガシンの実力も認められ、ニアステラの遠征隊の力は轟いたと言える。

 

「あ痛っ?!!」

 

 しかし、それにも拘らず。

 

 ガシンの頭部には石が投げられていた。

 

 思わず振り返った彼の背後。

 

 少し遠くには何人かの子供達がいて、ガシンを親の仇のように睨んでから泣きそうな顔で逃げて行く。

 

「どうしたんだい?」

 

「石を投げられたんだが……」

 

「は? この状況下で? ぁ~~~ん~~~あいつらかぁ?」

 

 横を一緒に歩いて歩哨のようにウロウロしていたアラミヤが首を傾げる。

 

「あいつら?」

 

「ほら、アンタらが殺したユレンハーバの氏族ってのがいるじゃないか。男共が前線とこっちで全滅したから、その子供じゃない?」

 

「そっちか。殺したのあいつだろ……オレ関係無い」

 

 自分を指差すガシンである。

 

「同じエンセータイとやらだろ?」

 

「そうだが、そういうのは本人に言えよ」

 

「それが出来ないからさ。昨日の今日で蜘蛛連中への警戒も解けたし、ニアステラ側への評価も上がった。ユレンハーバの氏族は今微妙な地位にいるんだよ」

 

「微妙ねぇ……」

 

「でも、ニアステラ側が受け入れられたら、確実にあっちへの風当たりが強くなる。戦士にあるまじき行為とか、あの小さな隊長さんに言われて、それを受け入れたもんだから、今までの諸氏族最強の戦士がいる氏族って肩書も消えたし」

 

「で、オレが石を投げられると」

 

「でも、実際。あのユレンハーバの最強様を一太刀で首狩りなんてのはどんな技量があれば出来るんだか分からないんだよ」

 

「あん? そんなに強いのか?」

 

「そりゃね。変異呪紋の中でも最強の部類のものが使えた上に元の資質から、戦士の中じゃ最大の体躯も誇る。それこそ巨人共とほぼ変わらないんだから、術師も匙を投げるような耐久力と威力さ」

 

「ま、何もさせずに終わらせたんだろ。それなら」

 

「何もさせずに?」

 

「ウチの隊長はやたら合理的なんでな。敵と見たら、最も単純で直接的な手段を取る」

 

「怒りっぽいの?」

 

「いいや、違う。容赦がないってだけだ。お前の時もそうだっただろ。相手に時間を与えず、力を出させず、必ず殺すか無力化する一撃で安全に戦闘を終える」

 

「……戦士の戦い方じゃぁないね」

 

「あいつは戦士じゃない。だが、暗殺者って柄でもない。単純な目的と手段に感情を挟まない感じだ。もし、感情マシマシに戦ったら……」

 

「戦ったら?」

 

「国一つ亡ぶんじゃねぇか? いや、何の躊躇も無くそうするだろうな。あいつなら……」

 

 思わずアラミヤが口を噤む。

 

「どうした?」

 

「……アンタらが敵じゃなくて、心底良かったと思っただけさ」

 

「オレもだよ」

 

 こうして男女がイチャイチャと歩く姿はあちこちから見られており、またニアステラ側との融和が進むだろうと多くの野営地の大人達は遠目にカップルの様子を眺めているのだった。

 

 *

 

 こうして西部がザワザワしている頃。

 

 ニアステラの各野営地には符札を掲げた少年が次々に大量のスピィリア達を連れて来ていた。

 

「(/・ω・)/」

 

「(>_<)」

 

 歓迎しますという元の住人とありがとうと返す新規達が一緒になって仲間が増えたと喜びの踊りを舞いつつ、すぐに現地でのルールを教える為にあこちへ連れて行く様子は完全にコントのようでもある。

 

『新規居住蜘蛛大歓迎!!!』の横断幕まで作成されている辺り、愉しみにしていたのかもしれないと少年は蜘蛛達のマメさに感心した。

 

 そうして昼前に各地のスピィリア達のいる地域を満たした少年は一人で第一野営地のノクロシアが見える場所へと戻って来ていた。

 

「あ、帰って来た」

 

「お帰りなさい。アルティエ」

 

 レザリアとフィーゼが狙撃訓練中に駆け寄って来る。

 

「(≧▽≦)/」

 

 その横では近頃忙しくてガシンに世話して貰っているというよりはガシンの家を維持しつつ、蜘蛛達の取りまとめ役をやっているルーエルがいた。

 

「ただいま」

 

「「おかえりなさい」」

 

「(≧▽≦)/」

 

 2人と1匹に労われた少年が昨日の今日で再建されつつあるウートとフィーゼの家を見て、何処か罰が悪そうな顔になる。

 

「あ、気にしないでください。アルティエのおかげで2人とも無事だったのですから。ね?」

 

「うん」

 

「スピィリア達を一杯連れて来たんだよね? どうだった?」

 

「問題無さそう。今は元居た住民に色々教わってる最中」

 

「ふ~ん。じゃあ、ニアステラはこれで大体の場所は全部スピィリア達のお家になったかな?」

 

「これでようやく遠征に出られる」

 

「次は何処に行くの?」

 

「北部からの大規模な侵攻がある前にグリモッドの地下世界を探索」

 

「あ、そう言えば、あそこって今どうなってるの?」

 

「亡者と亡霊が一杯」

 

「沢山スピィリアにしても?」

 

「今、あの亡者の山のあった地点まで亡霊達を追いやった。これからガシンを迎えに行く。代りに西部はフレイに任せる。野営地にはゴライアス」

 

「じゃあ、ルーエルを今回は連れて行くの?」

 

「そう。後、もう一人」

 

「え?」

 

 誰かいただろうかと首を傾げるレザリアだったが、少年の家の方から少し早足で来る近頃加わった仲間の姿を見付ける。

 

「あ、ヒオネだ」

 

「アルティエ様」

 

 少年の傍にやってきたアルマーニアの少女がすぐに頭を下げた。

 

「お仕事。ご苦労様でした」

 

「準備は?」

 

「はい。整ってございます」

 

「それじゃいい。薬は?」

 

「はい。ええと、その……何とか侍女達にも手伝って貰い。ここ数日で全て飲みました。ええ……」

 

 ヒオネの顔が聊か青くなる。

 

 大変だったのは2人の少女にも時折、アルマーニア側の住まう二階から物凄い悲鳴が響いていた事から周知であった。

 

「レザリア達に報告」

 

 少年が連れて行くからには隊員であると命令し、すぐにヒオネが2人に向かい直る。

 

「は、はい!! 当主イーレイ・スタルジナの妹。ヒオネ・スタルジナ!! これから皆様の支援役として遠征隊に同行させて頂きます。よろしくお願い致します!!」

 

 大声でヒオネが頭を下げる。

 

 それに唖然としていた女性陣2人であった。

 

「え、ええと、はい。ヒオネさん付いて来るのですか? そのぉ……戦闘技能とかは?」

 

「は、はい!! 実は霊視などを含めて遠方の気配を感じ取る力には長けていまして。見えない遠方からでも何かしらの異変があれば、感じ取れます!!」

 

「そ、そうなのですか。なるほど……つまり、遠征隊の目として?」

 

「そういう事。ルーエルに運んで貰う」

 

「(≧▽≦)/」

 

「こ、今後ともよろしくお願い致します。ルーエル様!!」

 

 ペコペコとヒオネがルーエルに頭を下げる。

 

 別にいいよ~と言いたげなルーエルはピョンピョン跳ねた後。

 

 ガシンの家から新しい荷運び用の装備を大急ぎで持って来る。

 

 自分の背負う大荷物の前。

 

 つまり、自分の背中に跨る鞍のような装備が増えたのを確認させたいのか。

 

 器用に自分で装着して女性陣に見せびらかしていた。

 

「こ、此処に座るんだ。おぉ~~もしもの時は他の人もこれで?」

 

「そう」

 

 レザリアに少年が頷く。

 

「戦闘中は鞍から降りて護りを固めます。ただ、戦闘用の呪紋は強くありませんが心得ておりますので。本格的に攻め込まれた場合に使うのみかと思いますが、戦闘が出来ないという事はありません」

 

「うん。じゃあ、これから改めてよろしくね? ヒオネ」

 

「はい。レザリア様」

 

「レザリアでいいよ? ボクも呼び捨てにするし」

 

「わ、解りました。では、レザリアさんと」

 

「私もよろしくお願いしますね。ヒオネさん」

 

「はい。フィーゼさん」

 

 こうして女性陣3人+1匹がガッチリと円陣を組んで互いに頷き合う姿は今後の遠征隊内の女性陣の強さを象徴するかのようであった。

 

「(……おねーさんこわいわ~姫様に同行は確定だわ~)」

 

 そんな少女達の青春を建物の影から見ていたミーチェはイソイソと自分の準備を始めるのだった。

 

 *

 

 デン、ドン、ドドーン。

 

 そんな様子で遠征隊が集まった時。

 

 男女比率は圧倒的に女性優位に傾いていた。

 

 少年とガシンはまだいい。

 

 だが、遠征隊に本来いなはずのアラミヤとミーチェが一緒になって付いて来ると言い出して、現場は混乱こそしなかったが、また大所帯となっていた。

 

「「「(>_<)」」」

 

 野営地の守備隊に組み込まれて、遠征隊仕込みの戦闘術を後輩に指導していたドラコ―ニア三名も荷物持ちとして再び参加。

 

 こうして彼らは野営地の砂浜では出発前に簡単な隊列と各自の連携方法を取り決めて、出発する運びになっていた。

 

 それを見ていたナーズがやって来て、ウートからの手紙を少年に渡し、レザリアに「頑張れよ?」とニヤニヤして頬を赤くさせ、そのまま悪戯っぽい笑みでカラコムの守備隊へと戻っていく。

 

「父から何か?」

 

「……今朝、巡回者。前に来ていた女の人から手紙が届いたって」

 

「手紙?」

 

「リケイ宛で。北部に動乱有り。気を付けられたし。だって」

 

「北部で動乱。それって……」

 

 フィーゼに少年が一番可能性がある状況を伝える事にする。

 

「ヴァルハイルの事なのか。あるいはそれを含めて沢山の勢力間で大規模な戦闘になってる可能性がある」

 

「一応、気に留めておきましょう」

 

 フィーゼに少年が頷いて互いにコミュニケーションを図っていた者達を纏めて、出発の号令を出す。

 

「行く!!」

 

 符札が掲げられ、全員がその場から消えた後。

 

 浜辺にはリケイが一人やって来ていた。

 

「……ふむふむ。何度見ても……という事はあちらの準備も大詰めですかな? さて、この島を取りに来る勢力がまた増えるというのも中々物好きな……王家連中も懲りませんなぁ」

 

 手紙を何度か確認していた老爺は海の先。

 

 ノクロシアよりも先の海域を見据えるようにして水平線の先に視線をやる。

 

 島に教会の本隊が近付く中。

 

 急激に情勢は移り変わろうとしていた。

 

 *

 

―――北部ヴァルハイル直轄領首都ハイラ。

 

 ヴァルハイル。

 

 竜の子孫とも呼ばれる者達。

 

 空飛ぶ竜を相棒とし、数多くの竜騎士を要し、古竜と呼ばれるような古い古い竜達の力を借り、鋼鉄の鎧を身に纏う彼らは北部最大の勢力として君臨する。

 

 というのが前世紀までの彼らだった。

 

 しかし、今は大きく異なっている。

 

 その技術力は大陸と比べても数世代以上は優越すると本人達が声高に叫ぶ程であり、今や兵隊は鋼の大鎧を身に纏い。

 

 巨大な巨人族達とすらも対等に殴り合って屠れるだけの体躯には魔力と雷の力が満ち、己の肉体そのものとして動かしている。

 

 竜と共に繁栄を謳歌していた彼らはもはや他の種族を圧倒する程の怪物として北部では認知され久しい。

 

 正しくそれは機械の四肢と肉体を持つ竜すら殆ど不用とした戦力としてだ。

 

 今や空飛ぶ竜すら二戦級の戦力として扱う程度のものなのだ。

 

「………」

 

 その首都は北部の最も中央域に近い山岳を背にした王城を中心とした巨大都市群である。

 

 四つの都を要する外縁部防衛線と首都の中心域。

 

 更に周囲にある幾つかの小都市と周辺の食糧生産地帯である村落群。

 

 これらの土地がヴァルハイルと称される。

 

 都には蒸気と魔力、雷の力が満ち溢れ、小型の鋼で出来た機械の体を持つ呪霊が悠々と空を飛びながら、蒸気の霧が雷や魔力で浮かび上がる幻想的な各地の街区で運搬や雑用を行いながら、監視もしている。

 

 聳え立つ塔が乱立する首都は“高都”と各地の者達が呼ぶ程に高く。

 

 その合間を巨大な浮遊する回廊が刻々と時計の秒針のように通路を移動交差させて人々を運んでいた。

 

 格式高いと呼ばれる石材建築は基本の白壁に優美な彫金の技法を用いた自然を描き、帝都のあらゆる場所が石と鋼の都である事を忘れさせる程に様々な塗料による自然が描き出されて華やかだ。

 

「………」

 

 20mにもなる最大級の巨人族を思わせる鋼の門番が並ぶ中央区前の巨大門。

 

 そこの左右にある通りは王城に続く唯一のものであり、嘗て島を統括していた中央域【モナスの聖域】の都から移設された建築群と言われる。

 

 その門自体も極めて荘厳だ。

 

 上には大鐘楼を持つ塔が聳え、城そのものを外部の者達から隠していた。

 

「………」

 

 街に溢れる蒸気と魔力と雷。

 

 そして、鋼に照り返すコレらが生み出す光が高都を幻想的に映し出し、他の種族達の多くが、その情景をいつか一目見ようと話す。

 

 それは何も特別な事ではない。

 

 北部最大の都は同時に北部最大の巡礼地でもある。

 

 最初の流刑者達が作り上げた【モナスの聖域】を信仰対象とするモナス教と呼ばれる宗教の最終巡礼地点は大鐘楼の諸神集合の像達が置かれた教会であった。

 

「………」

 

 今や生身のヴァルハイルはいないとも言われる程に機械化された民しかいないであろう高都。

 

 その内部に蔓延るのは鋼の装甲……いや、もはや肉体の一部をそのように置換した動く人形に等しい者達。

 

 元々のヴァルハイルは竜骨を備え、肉体は頑強で四肢に鱗を持ち、竜頭もしくは竜角を持って、瞳孔は縦に割れて細く、尻尾などを持つ。

 

 これを竜人と人外達は定義していた。

 

「………」

 

 しかし、北部での勢力争いの最中にも彼らは進歩を続けた先。

 

 竜属性変異呪紋の進展と鋼を雷で動かす機械文明までも到達した事により、姿は竜人型の機械のように変貌してしまった。

 

 今や高位の職に就く者で生身を晒す者は殆どおらず。

 

 そもそも生身を持っている者は子を成す女性と貧困層の全身機械化が不可能な層や家の直径男子を持っていない若い男達のみ。

 

 高都で40代にもなると多くの者は四肢を完全に機械化済み。

 

 50代になれば、高都で尉官、将官クラスの者達は脳と脊椎以外を殆ど機械化しているという者が大半だ。

 

「シシロウの直轄地が落ちたと聞いた」

 

「ハイ」

 

 そんな左程多くない殆ど全て生身の竜人が一人。

 

 竜頭こそ持っていないが、蒼い尻尾と鱗と竜角を柔らかい絹製の衣装に包んで、蒸気に煙る都市を鐘楼の最上階から見下ろしていた。

 

 まだ幼いだろう彼女の肉体を着飾る宝飾品は見る者が見れば、目を見開かんばかりの白い黄金製であり、足輪や腕輪、衣装を止める白金の無垢さは彼女の存在そのものを顕しているようであった。

 

「攻められているわけではないと言われたよ。父上に」

 

「左様です。何らかの呪紋による汚染が何処かの勢力によって行われ、直轄地の諜報部門が壊滅致しました」

 

「3000人の住民と共に?」

 

「ハイ。巣穴の者達が現在している仕事は機密となっておりますが、近頃は陛下がニアステラ方面へ送り込んだとか」

 

「我が騎士は耳が良いようだ」

 

「何れも子爵級の者達でしたが、帝国では名手だったかと。ただ未帰還のまま部門そのものが壊滅。定時連絡も無かったらしく、恐らくはもう……」

 

 彼女の背後。

 

 鐘楼の出入り口に佇む竜人の機械人形。

 

 生身がほぼ残っていないようにも見える竜頭の兵士は蒼の外套に赤黒い金属製の片刃を佩き、片膝を折って頭を垂れていた。

 

「アルマーニアとの戦乱も終わると聞いている。でも、戦いは……我らの歴史は終わらないのだな」

 

「左様です。聖姫殿下」

 

「父上はニアステラ海岸線にノクロシアの浮上という話に酷く動揺しておられた。それ程までに御伽噺の都の事を畏れるのは何故だ?」

 

「ハイ。イイエ。聖姫殿下……聖王閣下はノクロシアを畏れているのではありません……」

 

「どういう事だ?」

 

 振り返った彼女がその小さな体で自分の二倍以上は有るだろう騎士の前に立つ。

 

「畏れながら……ノクロシアは単なる旧き者達の都に過ぎません。問題は中身であるかと思われます」

 

「中身? 旧き者達が眠っているとでも?」

 

「イイエ。ハイ。その可能性はありますが、それよりも問題なのは……神々が心変わりする事なのです」

 

「神々が心変わり?」

 

「我ら北部の民の祖は東部の滅亡や西部でウルガンダに敗北した後に合流した者達が大半であり、残るのは外界からの移民。多くの神々の信奉者がこの北部に追いやられた。しかし、ノクロシアには旧き者達以外にも神々の心を動かすモノが眠っているとされています」

 

「……一体それは?」

 

「解答致しかねます。それが何かを誰も神々以外には知りようもないのです。ただ、聖王閣下がもしも本当に必要と考えるならば、閣下自らが御出陣なさる事でしょう。救世神眠るモナスの聖域を超えて……」

 

 竜人の少女は溜息を吐く。

 

「左様か」

 

「ハイ。あるいは王太子殿下達の誰かを赴かせるかもしれません」

 

「……我が騎士【正統なるヴェルギート】よ。お前に二つの任務を与える」

 

「ハイ」

 

「一つは西部と東部、南部の現状を調査し持って参れ。もう一つはノクロシアの状況を確認せよ。父上には内密でだ」

 

「―――委細承知」

 

 ヴェルギートと呼ばれた機械の竜頭の騎士が立ち上がり、一礼の後にその鐘楼から身を虚空に躍らせた。

 

 そして、鋼であるとは思えぬ程の速度で巨大な塔の壁面を次々に蹴り付けながら、都の遠方へと跳びながら消えて行く。

 

「頼んだぞ。ヴェルギート……ヴァルハイルの命運はそなたに託す」

 

 少女が自らの騎士を世に放ち。

 

 遠目に消えて行くのを見ていると背後の階段から数名の女官達が現れる。

 

 まだ四肢以外は生身の彼女達が一礼して通路に整列した。

 

「聖姫殿下。巨人族との交戦が始まったと南東区地方軍から連絡が来ております。アルマーニアの敗北の後、各地で各種族達の糾合が続発しており、最前線の第一皇太子殿下より、首都戦力の一部出動が要請されました」

 

「父上は?」

 

「聖王閣下は現在、【神々の信託地】に赴かれており、連絡出来ておりません。他の第二から第四皇太子殿下まで全て各地方軍に出払っておられます」

 

「つまり、首都の戦力を動かすには我が名でしか決済出来ぬと?」

 

「はい。首都の神聖近衛師団は完全充足しており、いつでも出られます」

 

「解った。近衛師団第二大隊を掌握する【器廃卿】に出撃命令を出せ。フィーキス兄様への助力を頼みたいと」

 

「ヴェルゴルドゥナ様にですか? 緊急時での動きとなると対応が遅くなり、聊か過激な事になるかと存じますが……」

 

「構わん。巨人族相手に戦う者が援軍を求めている。つまりは最も畏れるべき者が必要という事だ。さすがに数日で軍が敗北するという事はあるまい」

 

「了解致しました」

 

 少女は入り口から鐘楼を降りて行く。

 

 その背中には表には出さない焦りが確かに滲んでいた。

 

(もはや、流れは止められぬ。どうして父上はこの時期にアルマーニア侵攻を……これも“聖域”の活動が活発化している影響なのか?)

 

 少女は目を細める。

 

(角のヤツに話を聞かねばならぬな。また……還元蝶を使ったと言うし……お二人とも無事に目的を遂げられれば良いが……)

 

 そうして、首都は闇夜に沈む。

 

 その日、ヴァルハイルの各地方軍は深夜、唐突の奇襲を受け、各種族の連合軍との戦争状態に突入したのだった。

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