流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第5話「流刑者達の上陸Ⅴ」

 

「それでですが、探索隊が見付けた奥地への道は途中で落石と思われる大岩や険しい山道の為に途切れていました。ただし、周辺に地表へ鉱物が露出していて、炉さえ出来れば、幾らか精錬が可能かもしれません」

 

 マルクスが紙を貼り合わせた大きな地図を簡易の集会所として作った屋根のある場所で壁に貼り付けつつ、水夫達に告げていた。

 

「此処にどのくらいの間いる事になるかは分かりませんが、金属製の槍や剣、道具は木製の製品を作るのに必須です」

 

 それはそうだ。

 

 今いる集会所もまた数日掛かりで彼らが作り上げたものであり、鉄製の道具がなければ、まったくやっていられなかっただろう。

 

 皮を剥いだ丸太を彫り込んでから煙で燻して組み合わせる。

 

 滅茶苦茶煙臭いことを覗けば、蟲が近寄って来ないという点で非常に有用なものだったが、それにしても水夫達はこの場所は苦手だとばかりに今も鼻を摘まんでいる者も多い。

 

「煙臭いのは解りますが、しばらくすれば落ち着くそうなので我慢して下さい。エルガムさんが言うには東部で一般的に虫よけに使われる花も何処かに自生しているだろうという事で今度は薬草のみならず。こういった住居で使う用の薬草も出来れば見掛けたら取って来て下さい」

 

 此処でも紙に書いた絵が使われていた。

 

「東部ではキクと言うそうです。この流刑地であるだろう鬼難島はかなり広いという事が一般的には知られていて、小さな小国ならすっぽり数個は入ってしまうものだとか。とにかく、まずは食料と居住地を優先しましょう」

 

 地図では海岸線沿いから広がった幾らかの場所が地図として描き込まれているが、集まった様々な情報から東部の一部に広がる沼地は危険な毒草や病の汚染が非常に心配な為に近付かない事。

 

 同時に西から北に向かう周辺は比較的安全で果樹だけではなく。

 

 燃料用の薪にも出来そうな樹木が多い事が描き込まれていた。

 

「更に北部に向かう道は探していますが、安定して居住可能な野営地を作ってから、捜索を本格的にしようという事になりました。実際、今の不安定な状況では船を創るにしても、脱出しようにも何もかも情報が足りません。海岸線沿いには未だ通れる岸壁地帯もあり、その先の探索は一端後回しにするという事で」

 

 誰にも否は無かった。

 

 何よりもまずは食料と住む場所と命が最優先である。

 

 水夫達もまた医者から言われて毎日体を小川で清めるようになった為、小ざっぱりとしており、幾分か快適性が上がったせいか。

 

 顔付きも穏やかになっていた。

 

「この周囲の砂浜には未だ船の残骸が時折、流れて来ているので樽や他のものも朝方には確認をお願いします。犠牲者も何人か葬りましたが、まだ流れ着くでしょうから」

 

 マルクスの言う事に頷いた水夫は多かった。

 

「それと沖合には出れませんが、周辺で魚が取れなくなった時の為に小舟を拵える事にしました。簡易のものですが、これで周辺の岸壁に当たらないように島の全形を見て回る事も考えています。幸いにも此処の樹木は乾かせないにしても硬い為、多少ぶつけても何とかなるでしょう」

 

 男達は集会所横に置いてある小舟というよりは小さなカヌーのようなソレを見やって、解散する事になったのだった。

 

 そんな大人達を横目にしながら、天幕の一つでは今日も少年が何処からか摘んで来た薬草を干していた。

 

「ね~臭いよ~その花~」

 

「でも、ねーちゃんが虫避けだって言ってたよ」

 

 アマンザの弟達が微妙な顔で干された花や野草を医者から借りた乳鉢でゴリゴリと擦っている少年を見やる。

 

「医者みたいだね。アルティエってさ」

 

「だなー。そんなゴリゴリが愉しいのかよ?」

 

「薬が必要だから」

 

「「は~~何の薬?」」

 

「……薬」

 

 ごっこかよとツッコミを入れた兄弟がやれやれと肩を竦めて、お医者さんごっこというよりは薬屋さんごっこという感じだろう少年に肩を竦めていた。

 

「お偉いお医者様の言う話じゃ、もっとあれば良かったんだが、アンタが見付けて来たのはソレで全部だって言う話だからね。子供が使うのが良いって事で此処に干しっぱなしわけだけど、あんまり他のは増やさないでよ?」

 

 匂いが何かキツくなってきた気がするから、と。

 

 ボソリ付け加えたアマンザは今日も男達の衣服を洗濯する為にイソイソと小川の方へと男達の一部を連れて出ていくのだった。

 

 誰もいなくなった天幕の中。

 

 乳鉢にはごっこというには物騒な薬の材料が投下され、ガリガリゴリゴリとスリコギで粉々にされていく。

 

 中には勿論のように蟲が大量に存在し、勿論のように明らかに毒にしか見えない色合いの野草も加えられた。

 

「調合成功確率0.1%上昇(再上昇可)。涅槃薬……失敗。次」

 

 呟きながら調合した薬を袋に入れた少年は再び材料を入れて調合を開始し、同じように失敗しては再び再チャレンジし、一時間程で腰から下げられるような革袋が三つは満杯になってしまった。

 

「……調合成功率29.2%。ふぅ……」

 

 確率の壁をまた一つ突破し、気疲れした少年が袋を腰に下げて外に出る。

 

 そして、浜辺に向かって砂浜から少し遠くの岸壁付近へとやって来た。

 

 誰もいない事を確認後。

 

 それをザラザラと海に投棄する。

 

 すると、周囲の海からプカァッと幾らか魚が浮かび上がって来て、ビチビチと跳ねる事すら無く波間を漂う。

 

 それを釣り竿の針に引っ掛けて回収した少年はイソイソと魚を近場に先日から造っていた焚火跡に持って行くと手早く薪を入れて、片手を翳す。

 

 すると、内部から煌々と燃え出した炎が薪を焦がしていく。

 

 熾った火にいつもの黒いダガーで内蔵を処理した魚を枝に刺したものを遠当てしながら、焼き上がるまで釣り竿が垂らされた。

 

 こんがりと匂いがして来た頃合いに少年が焼き魚の串を全て手に持って海に投げ入れる。

 

 すると、今度は20秒程でビチビチと大量に集まって来た魚が音を立てて群れており、少年は適当に釣り竿の針を投げ入れて、大きな魚を引っ掻け、それを何匹かダガーで穴を開けた口に紐に通して持ち帰るのだった。

 

 *

 

「今日も大量ですね。アルティエ」

 

「うん。ありがとう」

 

「ッ―――ア、アルティエが感謝を?」

 

 衝撃を受けた様子のフィーゼが固まる。

 

 天幕横の水を入れた大きな革袋は共同で使う事になっていた。

 

 内臓処理した魚の残りが土に埋められている横ではマルクスが開いた魚を紐に通して天日に干していた。

 

「それじゃ……」

 

 イソイソと少年が遠ざかっていく。

 

 その背中にまた赤黒い精霊。

 

 本来は森や平野で何匹か見付けるようなものが数も数十ばかり見えた彼女は被りを振って視界を元に戻す。

 

(どうして、アルティエの傍にだけ、あの精霊が見えるのでしょうか。普通のものならば、此処の周囲に何体か見える事もあるのに……)

 

 彼女が気にしている間にも少年は今日も森へと入る。

 

 必要な材料を取りに行く為に。

 

 そのルートは決まっており、既にルーチン化された行き交えりはきっかり40分でズレもない。

 

 プラスマイナス0.4秒で必ず辿り着く辺り、周囲はもう庭と呼んで差し支えない状況と言えた。

 

「………ハルカルの森北西、北北東、迂回」

 

 島の植生は大きく分けて普通の地域とおかしな地域が混在する。

 

 それは森の中の沼地のような形で出現し、幾つかの地点では獣こそいないが病気になりそうだという点で立ち入りが禁止されていた。

 

 森の中の危険地帯には蒼い泉や白い硫黄の匂いが立ち込める区画もある。

 

 その周囲には複雑に斑模様な植生で様々な植物が混在していて、野草や花が大量に存在している。

 

「アムルの蟲苗、アズカルの白リン、メイゼの食蟲華、採取、反復、反復」

 

 だが、知識層であるマルクスや医者のエルガム、ウリヤノフは殆どの特徴を見て危険地帯だと判断していた。

 

 特に硫黄が出る地域はガスのせいで即死する危険性はもう社会の一部の知識層では知られており、区画に入るのも危険と認知されている。

 

 また蒼い湖は同じような場所で多くの鳥類が死滅している事から毒の水が出ているのだろうと彼らは知っていた。

 

 硫黄やその他の鉱物もそれなりに資源として国家では活用されてこそいたが、今の彼らにとって死人を出してまで欲しいものは野草にも多くは無く。

 

 今のところ必要とされた薬にするものの大半は安全地帯でも集まる事から多くの水夫達に死なない為だときつく接近は禁止されていた。

 

「………ストック満杯。重量制限800kg超過。脚部負荷19%上昇……筋繊維増加率0.02%上昇(再上昇可)」

 

 しかし、今日もその危険地帯を歩く少年が1人。

 

 物凄く奇妙な動き。

 

 体を前傾姿勢にしながら右と左にユラユラさせて前方に吸い込まれるように移動しながら、ジグザグに目的地へと向かっていた

 

 その背中の背負い籠の中には大量の白い鉱石が詰め込まれており、左腕には大量の野草や蟲が大量に集った苗のようなものがあった。

 

 もう片方の手にはいつもの黒いダガーが握られている。

 

 早足になる事も出来ない状況であるが、その分の負担が脚部に掛かり、疲労は蓄積していた。

 

(エルガムが決心するまでに必要な量の確保。薬物耐性の制御薬を致死量までは摂取せずに行けるところまで……)

 

 こうして森の中、水夫達に出会わないように余計に遠回りのルートで歩く事数十分で森の中に少年が造った拠点が見えてくる。

 

 基本的には樹木で軽く偽装されて少し開けた場所が周囲から隠れているというだけの場所である。

 

 しかし、そこにあるのは周囲の土を掘り返した穴に大量にストックされた干した薬草や鉱石であり、上に繁茂する草花を網のように描けている為、パッと見は草が茂っているとしか分からない。

 

「倉庫貯蔵量超過。現地生産開始……」

 

 掘った穴の中には大量の白い鉱石が敷き詰められていたが、少年は穴に入り切らなくなったのを見て、水袋から大量に蒼い水をジャバジャバとその穴に注ぎ入れた。

 

 それと同時にシュウシュウと反応し始めた。

 

 最初は青白く発光していた鉱石が次第に紫色になり、最後には変色して緑色となってドロドロの液体状になる。

 

 それに片手に持っていた蟲の集った苗がポイッと放り込まれる。

 

 同時に猛烈な腐臭が当たりに漂い。

 

 蟲の断末魔のような高周波が響いてすぐに消えた。

 

 液体内部に沈み込んでいる様子もない蟲が集っていた苗は蟲が死滅したらしく。

 

「寄生虫を除去」

 

 引き上げると微妙に艶々としたものとなっていて、それを適当にダガーで掘った傍の地面にペシペシと少年が土を被せて植える。

 

 すると、その苗の下から伸び出した根がすぐ横の緑色のドロリとした液体で満杯の穴に浸かり、猛烈な速度で根を増殖して伸ばし続け、最後には穴を覆い尽した。

 

 それを確認後、あちこちの穴に保存していた干薬草を大量に抱えた少年が苗の上にソレを運び積んで、片手を翳す。

 

 炎が上がったがすぐに灰となった。

 

「育成温度の適温を確認」

 

 周囲にはスパイスを焼いたような刺激的な香りが立ち込め初め、灰の山となった地面からニョッキリと何かが芽を出した。

 

 ソレが目玉だと気付けば、女性陣ならば腰を抜かすだろう。

 

 人の拳程もあるだろう目玉がギョロリと地表に這い出して、茎の部分を折り曲げてすぐに大きく成長。

 

 最後にはまるで石のようにカチコチに固まってガゴンッと茎が砕ける程の自重で地面に転がった。

 

「アムルの神眼実(生食)」

 

 ガリッとニンニクのような刺激臭のするカチコチの目玉が手に取られて、モクモクと齧られ始めた。

 

「前頭葉肥大。前頭骨中央開口。開眼開始」

 

 少年の額の皮膚が僅か縦に割れて、内部の頭蓋が歪んだかと思うと内部からキョロリと瞳が内部の暗闇から湧き出した。

 

 それがキョロキョロと周囲を見回した後。

 

 再び皮膚が閉じられて跡形も無く消え去る。

 

「第三神眼定着。五感機能3.2%上昇。知覚型ステータス上昇率1%向上。魔眼開眼による知覚キャップ開放。観測開始」

 

 少年の瞳には今まで見えなかったものが見えるようになっていた。

 

 最も簡単に見える普通ではないものは自分の周囲をフヨフヨと飛ぶ赤黒い精霊のようなものだろう。

 

「【祈祷呪紋】ウィシダの炎瓶を獲得」

 

 ボウッと少年の両瞳に甕のような象形が浮かび上がる。

 

「精霊観測成功により、【精霊詠唱代替】を獲得。シャニドの印により、各種値の向上を確認。魔力量40%を精霊に充填」

 

 少年が呟くと周囲にいた赤黒い精霊の光玉が紅蓮に染まった。

 

「充填完了。踏破開始」

 

 少年はイソイソと繕われた服のままに沼地を再び超えて山の中腹へと向かうルートを取ったのだった。

 

 *

 

「フィーゼ様」

 

「ウリヤノフ。どうしたのですか?」

 

「探索隊の一部が西部の海岸線沿いの洞窟で一部消息を絶ちました」

 

「ッ、直ちに救出を」

 

「いえ、まずは原因の究明が先です。前後の状況から洞窟の先に抜ける道付近で消えており、帰って来た探索隊は無傷で何も見ていません」

 

「それでは皆さんが何処に消えたのかは?」

 

「未だ分かっておりません。安易に部隊を送れば、全滅する可能性もあります。水夫達も怖がっているようで問題が解決するまでは向かう事もないでしょう」

 

「それでは……どうしたら」

 

「一部の腕の立つ者を選抜して障害となる何かを排除するというのが良いかと思われます」

 

「一部の?」

 

「はい。私を筆頭にカラコム殿、更に腕が立つと自負しているガシン殿で行ってこようかと」

 

「大丈夫なのですか? 相手が何かも分からないのに……」

 

「備えはしていきます。行方不明になった者には悪いですが、1日は準備に費やすべきです。もしもの為の浮袋や薬草を煎じて飲み、事前にある程度の海の生物の毒への耐性も必要です。洞窟という事で靴も滑らないように細工をしていきます」

 

「そうですか。解りました。すぐに野営地の皆に手伝って貰いましょう」

 

「はい。得物が剣だけでは不安ですので長槍と銛も。外傷用に塗り薬も必要になるでしょう。今からやれば、明日の朝には全て人数分揃えられるかと」

 

 すぐにウリヤノフの言葉へ頷いた彼女は野営地の人々に現状を報告しつつ、救出隊にもしもがあった時の為に後方から支援する態勢と人員と調える事を進言。

 

 エルガムが音頭を取って、さっそく備え始めたのだった。

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