流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第49話「オクロシアの崩壊Ⅲ」

 

―――オクロシア国境域隣接部、明け方。

 

「巨人族の王。ヴェルハウ……」

 

『………』

 

「貴殿の息子の命が後4日に迫る最中。まだ、我らの言う事を聞けぬと?」

 

『………』

 

「子供のように黙っていられるつもりか?」

 

『【器廃卿】……貴様との縁も随分と永くなった』

 

「近衛師団第二大隊は既に攻撃へ移る事が可能だ。時間稼ぎなら4日待たず殺す事としよう」

 

『聞け。旧き者となりし、若者よ』

 

 表向きはヴェルゴルドゥナと呼ばれる巨大要塞。

 

 ソレは本来の名を秘匿されてはいたが、たった一匹の竜を改造し続け、増設し続けた男の芸術作品であり、数百年もの間存在している古めかしい古城でもある。

 

 それは不滅と同義と呼ばれる程に一度足りとも、城を落とされた事が無い。

 

 そんな城の名を本当に知る者はこの時代一握り。

 

 その一人に数えられるだろう男は……巨人族の王は呪紋の通信越しに見る大樽を前にして静かな瞳だった。

 

『嘗て……嘗ての我らならば、お主の要請に対して即座に返答する事が出来ただろう』

 

「今更、何を言い出すのかと思えば……」

 

『あの頃、お主の主人がいた頃。我らがやっていた事を今更になって夢に見る』

 

「懺悔でもするつもりか? だとしたら、遅過ぎる。だとすれば、傲慢過ぎる。それは息子の命を磨り潰しても語らうべきものだと言うのか?」

 

 多数の鋼鉄の箱が床に埋まる最中。

 

 城の最上階。

 

 中央に座る巨大な樽は映像に見える巨人族の王をセンサーで睨み付ける。

 

『あの頃、我らは奢っていたのだろう。だが、同時に我らは知ってもいたのだ。こうして、多くの同胞を失い。妖精の加護なく生きる世界に疲れて……初めて思うのだよ』

 

「何をだ? デカブツ」

 

『失い滅びゆく時に生存を願ったお前達の顔が、どうしてあれほどまでに眩く瞳に映ったのか。それが分かるのだ』

 

「……貴様ッ」

 

 僅かに大樽の装甲が熱を帯びる。

 

『旧き若者よ。我らは滅びる定めに在りし者。だが、お前達もまた新しき者を前に挑まれ、超えられていく定めだ』

 

「どうやら息子の命は要らぬようだ」

 

『挑まれてみるがいい。新たなる時代に。新たなる者達に。嘗ての我らのように奢り戦うがいい。その時にこそ、お前もまた試されるのだ。嘗ての我らがそうだったように……息子の命は要らぬ。今度は我らが挑む番だ。【器廃卿】』

 

 ブツリと虚空に浮かんでいた映像が途切れる。

 

 周囲には鋼鉄の箱達の沈黙だけが降りていた。

 

「……最初からそのつもりは無かったとはいえ、どうやら我らはとことんツキが無いようだ。全隊に進撃開始を通達。これよりオクロシア方面に向けて敵を釣り出しに向かう」

 

「作戦開始を通達。これより進軍開始。グラングラの大槍は如何しますか?」

 

「忌々しい事に全ての戦域が連中の方から遠ざかった。射程圏内に敵影が無い以上は無駄に撃つ必要は無い」

 

 鋼鉄の箱達がすぐに戦域の管制を開始する。

 

「第1中隊から第32中隊までの鶴翼陣にての進軍を開始」

 

「観測官による戦域観測概況を集計。正面地図に出します」

 

 巨大な要塞内部。

 

 詰めている多くの軍人達が機械と一繋がりとなり、巨大なリソースを用いる機器を使って軍の後方支援へと動く。

 

 その最重要の施設は観測設備。

 

 光学観測機器は元より、魔力、霊力、音、振動、どんなものも見逃さない観測者達は巨大なレンズと耳代わりのマイクで光と音を集積。

 

 更には地表に撃ち込んだ巨大な杭に集まる振動を用いて、空中以外で地表を迷彩して抜けて来るような相手すらも感知する。

 

 呪紋を用いる事で全ての機材があまりにも高精度な上に観測距離も長い。

 

 音ならば、音響観測データを集積し、余計なノイズを拾い集めて、音の差異から敵を見付ける。

 

 光ならば、遠方で程度屈折させて取得可能な事から地平の果てまでも観測可能。

 

 軍用で済ますにはあまりにも精緻なソレが装甲の全周に付いていれば、部隊が遥か遠方にいても何ら問題無く現状を観測し、的確に指揮が可能なのである。

 

 正しく、それこそがヴァルハイルの器廃卿が率いる部隊が常勝無敗の神話を打ち立てて来た礎であった。

 

「グラングラの大槍の射程圏内に敵影無し。繰り返す。敵影無し」

 

「妙だな。あの口ぶり……何か仕掛けて来ると思ったが」

 

 僅かにヴェルゴルドゥナがセンサーの目を細める。

 

「……威力圏外の外縁に感有り。操獣に付けた遠透鏡による光学観測情報を呪紋で補正……映像、正面出ます」

 

 地図上の地点がマーキングされ、その地点の映像が出る。

 

 補正された映像には黄金の蜘蛛が一匹。

 

 まだ軍の進み始めた部隊とは遥か遠い場所。

 

 大槍の威力圏内の淵の外に陣取っていた。

 

「こちらの情報は筒抜けか? 予測だけにしては正確ではないか」

 

「如何しますか? 全ての遠距離兵装が届かない位置ですが」

 

「構うな。聖姫殿下からの命令もある。此処より動く事は罷りならん。部隊を大幅に迂回させろ。出来る限りの距離を離しながら引き回せるか確認する」

 

「了解しました。第2から第4までの部隊で試行開始。各部隊の目標地点を更新。直ちに指定個所へ向かえ」

 

「直掩部隊の展開を開始」

 

 巨大な城。

 

 その壁面が次々に開き。

 

 直掩のドラク部隊が次々に出撃、周囲に落着して陣取っていく。

 

「事前展開完了。観測室よりの情報に変化な―――熱源を感知!!」

 

 すぐに熱量が発生したと思われる場所にレンズが向けられる。

 

「これが熱源だと?」

 

 ヴェルゴルドゥナの装甲が僅かに軋む。

 

 そこには火を焚いたヴァロリアが1人。

 

 自分を見る相手に不遜な態度で腕組みをして、床几の上にふんぞり返ってニヤリとしていた。

 

「ヘクトラス……オクロシアの首魁が護衛も付けずに焚火? 欺瞞だろうが、問題無い。部隊から分隊を抽出し、遠巻きに観測させろ」

 

 すぐに鋼鉄の箱達がその命令を実行に移す。

 

「それにしてもヤツは何を……あの不敵な笑み。我らに喧嘩を売る以外には何も無いように見えるが……観測精度を上げろ。異常を探せ」

 

 しかし、正面の虚空に出る映像はまるで何も無い穏やかな明け方としか見えず。

 

「………異常見付かりません」

 

「ッ、此処まであからさまなのに仕掛けて来ない? それともこちらから仕掛けて来るのを待っているのか? もどかしい」

 

 ヴェルゴルドゥナが上からの命令さえなければ、そのまま動いているところを仕方なく我慢する。

 

 城を動かすのは極めて動力を喰うのだ。巨大な円筒形の図体を動かす際には希少な呪紋を用い、巨大な重量を浮かせる為、大量の魔力を用いる。

 

 戦略機動としての運動は良いが、戦術機動のような速さを求められるとその魔力量の桁が跳ね上がる為、決して安易に動かせない。

 

「まだ敵操獣の蜘蛛は観測出来ていないな?」

 

「はい。火竜達の準備は終えていますが……」

 

「全館に通達。屋内点検を行え」

 

「は!!」

 

「既に敵が我が方に侵入しているとお考えですか?」

 

 鋼鉄の箱が訊ねる。

 

「こういう時に無策である程、危険性が高まる。何も無い事を確認する程に作戦の確度は上がる」

 

「失礼しました」

 

 鋼鉄の箱達の疑問に次々答えてやりながら、ヴェルゴルドゥナは自分を焦らす為の作戦なのだろうかと冷静に思考していた。

 

(何だ? この違和感は……これ見よがしに蜘蛛と首魁が一緒になって反対方向の遠方でこちらへ此処にいると伝えて来る。どう見ても、何かから視線を逸らさせる目的……一体、何からこちらの視線を……)

 

「部隊が大槍の射程距離の2分の1まで到達しました」

 

 彼が考えている時だった。

 

「オクロシア方面から高速で飛翔、接近する物体を探知!!」

 

「凡そドラクの半分程の大きさと思われます!!」

 

「そこまで大きいのに飛翔する何かだと?」

 

 光学観測中の気障に頭部を繋がれた機械蜥蜴達の報告が瞬時に映像としてヴェルゴルドゥナの前に現れる。

 

 ソレは明らかに竜骨製の鏃に見えた。

 

 巨大な彼の城に比べれば、単なる芥子粒程にしか見えない玩具だが、すぐに彼はソレが相手の戦略攻撃だと見た。

 

「部隊の観測を連動させろ!! 迎撃用意!! 弩弓隊!! 照準を呪紋にて連動しろ!! 連続射撃を開始!! 即時、軌道進路上を攻撃で塞げ!!」

 

 ヴェルゴルドゥナが本命が来たとばかりに鋼鉄の箱達と共に迎撃網を組み上げていく。

 

(これが相手の奥の手か? 一撃で敵を滅ぼす兵器。グラングラの大槍のようなものだとすれば、これを連射もしくは当てる為の陽動か?)

 

 考えている間にも音速の数倍で地平の彼方から飛んで来た曲射されたソレ。

 

 遠征隊の用いる竜骨弩による灼撃矢。

 

 巨大な錨を矢の鏃にしたようにしか見えないものが飛ぶ。

 

 だが、遠距離攻撃の弾幕による迎撃を鈍重そうなソレが瞬時に擦り抜けた。

 

「ダメです!? 相手の攻撃用物体が進路を小刻みに変更中!!」

 

「小癪な!? 攻撃を避けるのか?! 攻撃密度を増やせ!!」

 

「敵物体増速!! 迎撃網擦り抜けられます!!?」

 

「迎撃網7割を擦り抜けました。着弾まで後10、9、8、7―――」

 

「敵物体に着弾!!」

 

「よし!! 攻撃を当て―――」

 

「ッ―――ダメです!? 効いていません!?」

 

「我が軍の遠距離呪紋や弩に耐えるだと!? 馬鹿な!?」

 

 さすがに驚いたヴェルゴルドゥナが咄嗟に全観測室のシャッターを強制的に降ろして、呪紋による防御を決行する。

 

「竜属性加護呪紋【竜骨層】!!!」

 

 巨大な100mある物体が表面装甲の上に滲み出した魔力で生み出された竜骨の被膜を何層にも重ねられて3割程も太った。

 

―――その時だった。

 

 直撃した灼撃矢が真正面の装甲付近で起爆する。

 

 1秒程の静けさ。

 

 そして―――猛烈な振動が要塞を襲う。

 

『うぁあああ!!?』

 

『な、何だこの揺れはぁああ!?』

 

『ぐ、が、何かに掴まれぇええ!!?』

 

 内部で兵達の叫びが大量に連鎖した。

 

「くぅぅぅ!!? この威力!? 貴重な爆華をどれだけ使った!? ヘクトラス!!」

 

『(………)』

 

 震度5以上の高速振動が艦内のドラクに乗らない兵達を転ばせ、通路で薙ぎ倒す。

 

 そんな城の様子にニィッと遠方のヘクトラスが嗤う様子を彼は幻視した。

 

『命中を確認……後はアルティエ達次第です。頑張って下さい。皆さん』

 

「クッ!!?」

 

 無論のように振動だけでは済まなかった。

 

 屋内が大量の逆流、漏電した雷によって破壊され、箱達が煙を上げる。

 

「安全装置3番から184番まで全て焼き切れました!! 現在、呪紋経路を再接続中……」

 

 箱達が城内部を走る呪紋の破損を次々に修復するべく。

 

 あちこちで自身と繋がる呪紋に再起動を掛けた。

 

「譜律を描き直せ!! 18番から321番までの予備呪具を接続開始!! 呪紋伝達の経路を再起動!!」

 

「再起動中、再起動中、再起動中……再起動完了!!」 

 

 振動に揺さぶられている中央部装甲内部。

 

 丁度、部隊の搬出口内部がシャッターが赤熱した瞬間に内部へと吹き飛び。

 

 吹き込んだ衝撃と熱量によって下部格納庫内が破壊の衝撃に呑まれた。

 

 予備兵力として残っていた者達がドラクを砕けさせ、内部で火災が発生する。

 

 あまりの攻撃に内部が更に揺れた。

 

「ぐ、じょ、状況報告!!」

 

「か、下部出撃用搬出口の装甲が破壊されました。前方表面装甲12%溶解!!」

 

「格納庫内に火災発生!! 消火設備が動いていません!!?」

 

「直ちに修復部隊を向かわせろ!!」

 

「了解!!」

 

 ヴェルゴルドゥナが先程の攻撃の威力を脳裏で試算する。

 

(―――ッ、ば、爆華1万本?!! 馬鹿な!? 何処にそんな―――いや、まさか!? 無いなら持って来ればいい。シシロウが消えたせいで情報を取り逃したか!?)

 

 彼がようやく相手の背後に別の地域がいる事に気付いた瞬間だった。

 

「凄まじい衝撃で外殻保持用の支持体が内部へ抉るような形で歪んでいます!!」

 

「このままでは前部外殻の脱落が在り得る事態です!!」

 

「館内修復部隊稼働開始しました。正面の観測室から応答無し!!」

 

「生命反応と信号は受信していますが、大量の衝撃を建材が熱量に転化した結果、内部構造が膨張、歪んでいると推測され、現在接続通路の殆どが高温状態で―――」

 

「正面観測室の8割が沈黙!! 何処からも未だ応答ありません!!?」

 

「直掩部隊の3割が蒸発した模様!! 残りは生きていますが、高熱と破損により行動不能!!」

 

「ッ、威力の残余圏内を出てからドラクを捨てて離脱させろ!! 全情報を兵に送信!! 高都に届けさせろ!!」

 

「了解!!」

 

 次々に状況が鮮明になるに連れて、彼は戦略的な敗北を受け入れざるを得なくなっていた。

 

「艦内貯蔵庫は無事です!! 劇物、可燃物他全ての資材は万全の状態と確認!!」

 

「中央構造体に負荷が掛かっています!! このままの状態を維持した場合、約30時間で支持体の歪曲率が限界に達するとの試算が【思紋演算器】群より出されました』

 

「やってくれた……やってくれたなぁ!!」

 

 ヴェルゴルドゥナが防御不能の戦略兵器を受けて尚、何とか今も生きている館内の者達を救おうと指示を出そうとした時だった。

 

 猛烈な激震が彼らを再び震わせる。

 

「く、次撃か!!?」

 

「違います!? これは―――高度計が反応?! 地盤が沈下しています」

 

「何ぃ!!?」

 

 彼らは気付いていなかった。

 

 そして、同時に巨大な構造体がゆっくりと地下に沈み込んでいく事を見る事も出来ていなかった。

 

 土煙を上げながら、大量の土砂を巻き込みながら、沈下した地盤に城が呑み込まれていく。

 

 しかし、ソレはあまりにも不自然。

 

 垂直に落ちて行く。

 

 ズリズリとまるで穴に少し細い棒を入れて、空気がゆっくりと噴き出すような……そんな様子で城が沈下に巻き込まれ、破壊された胴体部正面が半ばまで隠れる。

 

「ッッ―――状況は!!?」

 

「構造体5割以上沈下に呑み込まれました!!」

 

「腕を用いて脱出は!!」

 

「無理です!? 完全に垂直落下し、構造状横に動かす隙間がありません!!?」

 

「落着の衝撃で下部構造体が破損!!」

 

「賭けに勝っての逆落とし。となれば、次は―――」

 

 ヴェルゴルドゥナが指示を出すより速く。

 

「下部搬入口より何者かが侵入!! 修復部隊が襲われています!?」

 

「……くくく、だよなぁ。我が方だとてそうする。こんなデカブツを真正面から破壊する気は無いと。内部から落とすのは落城の常套手段だったな」

 

「修復部隊の信号継続。しかし、移動出来ていません!!」

 

「下部の格納庫周囲の隔壁を全て降ろせ!! 周辺から全兵を退去!! 構造体上部に集めて、非常甲板より脱出せよ!!」

 

 あまりの状況に男は笑うしか出来ず。

 

「ヴェルゴルドゥナ様!?」

 

「残った者達は全て我が操獣で送り届ける。貴様らは最後だ。今、体は操獣に持って来させている。ギリギリまで付き合え」

 

「ッ―――了解」

 

 次々に館内の兵が主の手によって救い出され、敵が進出したブロックから遠ざかり、上部に昇っていく。

 

「下部閉鎖隔壁が突破されていきます!! 何だこの速度は!? 本当に我々と同じ生命体なのか!?」

 

「ッ―――移動経路上の配管を破壊しろ!! 呪霊型の操獣だ!! 蜘蛛共が先行してくるぞ!!?」

 

 相手が此処で使う手札を的確に見抜いた男がそう指示する。

 

 すぐに破壊された隔壁周辺の配管に圧力が集中され、爆発して火災が発生する。

 

「どうだ?!」

 

「と、止まりました!! 隔壁の破壊活動が一時的に停滞中!!」

 

「よし……この合間に生存者の救出と脱出を急がせろ」

 

 大樽が引き抜かれるかのように接続部から出て人型形態を取る。

 

 その背後には紅の外套。

 

 更には接続部からせり上がって来たプレートから複数の装甲が装着されていく。

 

「まさか!? 今すぐ護衛部隊を!?」

 

「要らん!! 我が名は【器廃卿】ヴェルゴルドゥナ!! 侵入者程度、叩き返してくれるわ!!」

 

「ヴェルゴルドゥナ様……ッ」

 

「構造体中央部が無事なら構わん。こちらの合図で中央区画外の全立体稼働部位の爆削鋲に点火しろ。その後、脱出したら、高都へ向かえ」

 

「―――はい」

 

 何かを堪えるように箱達が了解の意を返す。

 

 鋼の騎士はそのまま部屋を後にした。

 

 最短最速で現地へと向かう為に。

 

 残された者達は主の力となる為、自らの任を全うするのだった。

 

 *

 

「“糸蜘蛛毎爆破されました。主”(。-`ω-)」

 

「問題無い。自爆されないだけマシ」

 

「オイオイ。こっからどうすんだ? まだオレ達はこの灼熱地獄にいなきゃなんねぇのか?」

 

 広い格納庫内。

 

 未だに残る熱を体表で受けながら、数百度のオーブン状態の場所で遠征隊は少年の呪紋による水の膜を何層にも纏って熱さを凌いでいた。

 

「水属性加護呪紋【ハルマの水演】」

 

「やれやれ、ようやく入ったかと思えば、上に向かう道が無いと来たか」

 

「おじさん!? 弱いんだから、ちゃんと外套に包まってて!!」

 

「お、おじさん?! よ、弱い……」

 

 ヴェルゴルドゥナの城内部。

 

 侵入者達は未だ隔壁が一部破壊されただけでまだ炎が消えただけの格納庫にいるわけで、言わば腹の中。

 

 少年を筆頭にしてゴライアス、ガシン、レザリア、更に地表で焚火している映像を呪紋で垂れ流しているヘクトラスという面子である。

 

 フィーゼは【黒二重城】の尖塔の上で最大規模までデカくした竜骨弩で敵を地平の果てから狙撃していた。

 

 その様子は正に精霊の王冠を被ったような姿。

 

 多くの兵達がその凛々しい姿に感銘を受けていたりする。

 

 そんな彼女の攻撃が正確に相手へ命中し、途中の攻撃を避けたのは全てフレイの観測情報を呪紋で送られている事が大きい。

 

 スピィリア達や見えない糸蜘蛛を使いながら情報をフレイが集め、それを呪紋で精霊側に転送。

 

 それを少女が操る事で超遠隔狙撃を可能にしていた。

 

 途中の弾幕を回避したり、攻撃が当たる際の防御もしっかり可能だったのだ。

 

 もはや、グラングラの大槍と呼ばれる兵器にすら劣らない程に巨大化させた竜骨弩は橋の如く。

 

 城まで運び込まれた爆華から少年が慎重に造った灼撃矢は通常よりも怖ろしく巨大な特製品だった。

 

 それはもはや杭。

 

 灼撃杭と呼んでいいだろう。

 

 巨大竜骨製の弾体は巨大な錨にも似ていた。

 

 大量の爆薬を大量の真菌によって成分を濃縮し、ゴライアスの能力で限界まで重量と体積を減らして光に当てないように詰め込んだものを精霊で安定化させて使ったのだが、それにしても怖ろしい威力だったのは間違いなく。

 

 直撃した巨大な要塞そのものは元より、周辺1km四方の自然物は完全に衝撃によって更地と化していた。

 

「上の登れる道は?」

 

「……ふむ。道はないが、敵が来るぞ……上から最短で親玉がな」

 

 少年が背中からドラクの変質させた剣と蜘蛛脚を引き抜く。

 

 ガシンもまた構えを取った。

 

 レザリアがヘクトラスを背後に庇って両手持ちの盾を2人の背後で構える。

 

「……来る」

 

 高熱に晒された格納庫内。

 

 彼らが打ち倒した兵達が倒れているが、まだ息はある。

 

 他のドラクに乗っていた者達もまだ意識があるようで呻き声がノイズ混じりに内部では響いている。

 

『貴様らか!! 我が城を落とさんとする者は!!』

 

 ヘクトラスが予め来る方向を見定めていた為、全員がその襲撃を回避する事が出来ていた。

 

 上から隔壁をぶち破ってソレを盾にするように落ちて来た相手が1人も墜とせていない事を確認する間もなく少年とガシンに左右から攻撃を仕掛けられる。

 

「ッ」

 

 しかし、片方の腕が装備した巨大な剣が少年の大剣二本を受け止め、ガシンの霊体の拳もまた男の腕から発された魔力の壁にぶつかって受けられていた。

 

「コイツ!?」

 

 ガシンが霊体の腕が受けられた瞬間にすぐ距離を取る。

 

 少年は距離こそ取らないものの。

 

 両腕で剣を押し込んで拮抗させていた。

 

「この膂力……巨人40人分程か? 生身でどうやって此処まで」

 

 驚いているのはヴェルゴルドゥナも一緒であった。

 

 自らの近年でも最高傑作に違いない鋼の肉体。

 

 それも特定の竜の血肉を用いて生み出した人型でありながら、通常の竜を遥かに超える力を手に入れているのだ。

 

 膂力で生身の相手に拮抗されるという事が本来在ってはならない話だった。

 

 ギシリと巨大な膂力同士のぶつかり合いにソレを支える脚が床を踏み抜きそうになる。

 

 床の悲鳴は上げり続けていた。

 

 僅かな鍔迫り合いの余波が衝撃となって区画内部に罅を入れる程に軋ませて、崩落が始まる。

 

「久方ぶりだな。器廃卿」

 

「ヘクトラス。どうやら貴様は見知らぬ存在から力を借りているようだ」

 

「だと言ったら?」

 

「此処で消滅させる。この者達と一緒にな!!」

 

 片手で大剣二本を相手に押し合いに負けない男が口を開いた。

 

 ゴッと男の胴体を捉えるように緋色の巨大な拳が相手を捉える。

 

「ッ―――緋霊か!?」

 

 ヴェルゴルドゥナが僅かに顔を歪めた。

 

 肉体的に幾ら膂力や頑丈さがあっても魂への攻撃そのものは受け切れないのだ。

 

 魔力での障壁は瞬時に発する事は可能だが、強敵と戦う上では呪紋を用いる事が最も効果的なのは間違いなく。

 

 濫用出来ない。

 

 ついでに言えば、少年の膂力ならば、自分の肉体を両断可能と判断した彼は呪紋による防御を複数行おうとしていた。

 

 斬撃にも霊体に対する攻撃にも対処するにはそれしかない。

 

 無論、霊体にダメージを与える人間が敵側に1人なわけもないと踏んでの話である。

 

 だが、それよりも早く。

 

 単なる魔力では到底防ぎ切れない緋霊の拳が彼の魂を直撃していた。

 

「チッ」

 

 舌打ちしながらも初めて背後にヴェルゴルドゥナが飛ぶ。

 

 人型の2m程の肉体は装甲に覆われているが、肉体そのものが装甲に等しい彼にとって、自分のパーツは全て管理と制御が可能なもので構成されている。

 

 今までドラクのような鋼の装甲だったが、その色合いが僅か翠色に変化した。

 

(霊体復元……クソ、何度も使えんぞ!?)

 

 魂からの痛みを耐えながら自動で彼の内部で呪紋が組み上がり、発動する。

 

「こいつ!? そんなのもアリなのか? さすが、器を捨てた男」

 

「あん? どうした?」

 

 思わずヘクトラスが見え過ぎる故に顔を引き攣らせた。

 

「こいつは今のダメージの復元に詠唱をしていない。誰かに詠唱を肩代わりさせてもいない。こいつの肉体そのものが全て呪紋の譜律を書き込んだ呪具そのもの。どんな呪紋も必要なら体内で描き上げられる化け物だ」

 

「さすが六眼王と呼ばれるだけはある。こちらの肉体の能力を見抜くか。だが、対処出来なければ、どうという事は―――」

 

「ある」

 

「ッ」

 

 少年が瞬時に距離を詰めて彼を真正面から二剣を打ち下ろす。

 

 その合間にもガシンが瞬時にその脇腹を狙い澄まして近付いていた。

 

「舐めるな!!?」

 

 吠えた彼の全身から魔力の光が立ち昇り、体内で生成された呪紋が複数連続して継続的に発動する。

 

 ゴッと呪紋で増強された膂力で剣を押し返した男が瞬時にガシンの拳を両断し、肩までも切り裂いた。

 

 半ばから割れた肩からキラキラとした血が噴き出し、男が『この男……』と危険を察知して咄嗟に多重に呪紋による防御を纏う。

 

 竜骨、雷撃、外部への魔力転化による全周衝撃波。

 

 一斉に血飛沫がその防御に当たった瞬間、弾け飛んだ空気が起爆する。

 

 瞬時に剣で自身を護ったヴェルゴルドゥナが猛烈な爆裂にすらもキラキラとした粉塵が混じっているのを見て、一切躊躇なく後ろの壁に跳んだ。

 

(霊力による物質の変異、変質、変換、従属化!! 我が手に出来なかったアレがこいつらにはある!? まったく、今更過ぎるだろう!?)

 

 壁が背中でブチ破られると同時に衝撃が彼を襲う。

 

 だが、そんな事は問題ではない。

 

 追撃してくる少年とガシン。

 

 しかし、切り裂いたはずの腕は既に復元されていた。

 

(あの現象はグリモッドが滅んだ際に一度見たッ)

 

 彼の脳裏には古い記憶が蘇る。

 

 この数百年生きて来た彼にはどんな敵をも分類し、適応可能なだけの莫大な知識があるが、その彼にしても此処数百年で見る事の無かった事象だ。

 

 ガシンがおもむろに攻撃されて斬られましたという何とも演技臭い吹き飛び方からして猜疑心しか沸いて来ない彼は決して油断せず距離を取った。

 

 巨大な彼の肉体内部。

 

 多くは通路と部屋で占められているが、隙間は巨大な空洞があちこちにブロックの形で封ぜられており、そこには多くの資材や建材……補修点検用の素材が転がっている。

 

 ブチ破った背中でダイブした隣室は大量の鋼鉄の支柱資材が積まれた一角であった。

 

(エルガドナ・レイフェット……【緋隷王】の能力にコイツが最も近しい!! くらうわけにはッ)

 

 彼は背中から接触した大量の資材に呪紋を流し込む。

 

 瞬時に主の命へ従った鉄骨達が追撃してくる敵に向けて矢のように飛んでいく。

 

 しかし、ソレらが瞬時に方向をズラされ、紙一重の回避で速度を落とす事無く2人が距離を詰めた。

 

(糸か。だが、全方位からでは意味もあるまい!!)

 

 部屋そのものが内部に向けて圧縮される。

 

 呪紋によって室内そのものが凶器と化した。

 

(呪霊属性侵食呪紋【呪鋼】!!!)

 

 しかし、ガシンが途中で速度を殺すように背中の腕の指を地面に着いて血飛沫を床に擦り付けるようにブレーキを掛けた。

 

 途端、迫って来る室内そのものが血で描いた川の字の周囲からキラキラと輝き出してギギギギッと内部への圧縮を留められる。

 

(我が呪紋の効果を相殺する程の強制力!!? 肉体に一滴でも付着すれば、済し崩しだな。だが、コレならば!!)

 

 ヴェルゴルドゥナが遂に追い付かれた少年と斬り合う。

 

 鍔迫り合いに持ち込もうとした少年の意図を看破し、高速で駆け抜けながら壁をブチ破り、今度は上へと昇る。

 

(距離さえ取ってしまえば―――)

 

 だが、彼は甘かったとも言える。

 

 彼がブチ破った階層の先。

 

 階層そのものが崩落して彼を逆側に押し返そうと迫る。

 

 その建材という建材の多くに糸が付いているのを確認した彼は瞬時にまだ攻撃に参加していなかった灰色の筋肉蜘蛛を思い出した。

 

(戦闘環境整備役か!? だが、此処は我が城!! その程度の小細工!!)

 

 壁の内部に仕込まれていた呪紋が起動する。

 

 爆破された壁が崩壊し、その内部へと突入しながら、彼は少年の剣を受け続けつつ、上層へと昇っていく。

 

 次々に壁が爆破され、進路上の上階層までの大穴が開いていく。

 

(重要区画以外には我が肉体と同じ構造の部位を仕込んであるとはいえ、このままでは内部構造全域が崩壊する!? あの蜘蛛も敵の質も!! 四卿が束にならねばどうにも分が悪いとはな!!)

 

 遂に最上階付近まで到達した男が指を弾き、大穴の周囲を次々に崩落させて、敵が来るまでの時間を稼ぎつつ、少年と対峙した。

 

 相手の二剣が休む事なく彼の片腕の剣を捉え、軋ませる。

 

「これほどの技量!! 貴様!? どれだけ生きている!?」

 

 少年の太刀筋だけではない。

 

 足運びから移動方法、肉体の速度の増減の妙は幻惑や錯視、更には相手の思い込みを織り交ぜて欺瞞する。

 

 幾つかの方向に受ける剣が実際には肉体全体から発される兆し。

 

 つまり、予備動作の時点で全て欺瞞と考えて行動せねば、受け切れないのだ。

 

 右と思えば左、左と思えば上、兆しと実際の攻撃の差異が瞬時に相手へ強制的な選択を迫り、選択を間違えれば剣が当たり、選択を迫られている時間で他のやるべき事への対処が狭められる。

 

「く……」

 

 二剣の連撃はもはや音速を遥かに超えている。

 

 相手に息継ぎの様子すら無い事は彼と同等以上の肉体である事を示唆する。

 

 どんな存在も本来は全力で永続的に攻められない。

 

 そんな事をすれば、肉体が摩耗し、精神も疲弊するからだ。

 

 しかし、肉体を完全に自らの理想として組み上げたヴェルゴルドゥナが同じような能力を有していながら、一方的に攻撃を受けざるを得ない状況に持ち込まれている事に驚愕を通り越して唇を歪める。

 

「黒征のヤツに近しいだと!? 肉体内部の疲労を帳消しにし、消耗消費される全てを何らかの呪紋で補給するとは……精神修養も万全か? はは、戦士というにはあまりにも歪!!」

 

 文字通りの強敵。

 

 久方ぶりのソレを前にして男は震え立つ。

 

「お前を12基見た」

 

「ッ―――それは!!?」

 

 少年の初めて自分へ発する言葉に彼の思考が僅か白くなった。

 

「此処でお前を落とす。他のは起動させない」

 

「小僧!? それを何処で知ったぁ!?」

 

 ヴェルゴルドゥナが猛烈な勢いで反転攻勢に出る。

 

 目の前の相手を消さねばならない事が彼には解っていた。

 

 それは瞬時に確定事項となる。

 

「何故だ!? この【器廃卿】の秘密を何故知っている!!」

 

「―――器を捨てた男。恐らくは本体そのものがもう存在しない」

 

「ッ」

 

「自分を含めた全てを呪紋と資材で複製する。此処にいるお前すらも―――」

 

「我が名は【器廃卿】ヴェルゴルドゥナ・アーレント・ヴァルハイル!!」

 

「違う。お前は恐らく本体が自らを犠牲にして生み出した呪霊。その一部を分けた存在。倒した先から何処かでお前が起動する。それも情報とこの城と乗員付きで」

 

「何だ!? 貴様は一体何なんだ!?」

 

 的確に自分の秘密を分析する相手に彼が恐怖に顔を引き攣らせる。

 

「お前を十二基倒した時、お前は産まれなくなった。お前を複製する資材は残っていた。でも、そうはならない。つまり、呪霊の分割限界。分割後の再生もしくは復元に制限がある。それを限界以上に使う為の城。そう……ソレが正体。だから、お前は今日此処で死ぬ」

 

「―――」

 

 彼があまりの衝撃の言動に僅か動揺した時だった。

 

 ゴッと彼の背後から緋霊の拳が、何故か黒い煌めくものを零しながら……壁からヌッと破壊する事もなくブチ当たった。

 

「ガァアアアアアアアアアア!!?」

 

 瞬時に背中側から自身の肉体をパージした男が少年を剣で弾いて上を向いて壁を破壊して最上階に突入した。

 

 少年が追い付いて来たガシンが揃う前に相手を追う。

 

「何だ!? 何だ!? 一体、貴様は!!?」

 

 彼がもう箱達もいない場所で本来自分が収まっていた場所の内部に立て籠る。

 

 その周囲は半透明な結界らしきものが円筒形に覆っていた。

 

「おう。来たぞ。気配おかしい時に撃ち込んだが、今の当たってたか?」

 

 ガシンが結界の前で剣を構えている少年の背後の穴から飛び上がって来た。

 

「当たった。霊体侵食……例え、どんなに分けてもソレそのものが本体である以上、絶対に避けられない。距離のある場所にいても、全呪霊が同時に侵食される」

 

「お前もエグイ事考えるよな。お前の黒いドロドロをゴライアスの能力やフレイの呪紋で霊体に利くようにするとかよ」

 

 その言葉にヴェルゴルドゥナが本気で今の自分が追い詰められている事を知る。

 

(マズイッ。これは、この攻撃は一種の強制契約……変質がッ、グッ?! 対抗呪紋の殆どが魔力毎、浸食してくる霊体に食い尽される?!!)

 

「何でも物は試し」

 

「つーか、攻撃せずに溜めてるって事は割れるのか? あの結界」

 

「割れる」

 

(―――存在に掛かる契約は神の下ならば、何処にいても必ず、自分を分けてすら履行されるのと同じ理屈かッ。あの緋霊の若造?! こちらの存在を侵食するものと強制契約を!? そんな事が可能なのはあの緋王くらいだろうが!?)

 

 霊体への攻撃手段が北部では殆どない事から、魔力による防御が基本的には鉄板だったのだ。

 

 しかし、不意打ちの準備に必要な呪紋を紡ぐ暇も少年の攻撃に潰された彼である。

 

 全ての能力を相手の斬撃防御に当てなければ、彼は両断されていた。

 

 つまり、戦闘中の猛烈な連続攻撃は全てをたった一撃当てる為だけに用意されていたお膳立てだったのだ。

 

 喰らったものが自分には致死性の毒に等しいと気付いた彼は治せる呪紋が無いか結界内部で試行錯誤する。

 

「ダメか……この土壇場で……くく、いいだろう。ならば、我が全力を以てお相手しよう。オクロシア及び一帯全てを破壊する!!」

 

 結界毎、男が上空へと射出される。

 

 彼らが更に上に向かった穴を登ろうとした時。

 

 城が鳴動した。

 

『“我が主”(。-`ω-)』

 

 少年の耳元に白い糸がいつの間にか付いていた。

 

「報告」

 

 ゴライアスの糸電話。

 

 魔力を通した糸を通して声が通じるのだ。

 

 呪紋ですらないので簡単に使えるが、この状況でされる報告が良いものとは思えなかった少年は天井を剣で斬り裂きながら訊ねる。

 

『“残念ながら主の言っていた中枢が()()()上空へと消えました”(。-`ω-)』

 

「それで?」

 

『“中央部位の一帯が下半身から引き抜かれるような形で持ち上がっています”一部の構造を爆砕し、上部構造を逃がした形……“まるで蜘蛛脚の如き例の兵器8本と共に飛び上がりました”(。-`ω-)』

 

 サラッと2人の間で戦略兵器の本数が流され、さすがのガシンの顔も蒼くなる。

 

「破壊出来そう?」

 

『“構造体内部で未だレザリア様が資材確保に動いています”……“全力を出すと下半身が潰れてしまうかと”(。-`ω-)』

 

「解った。こっちでどうにかする」

 

 剣が最後の隔壁を斬り裂いて屋上に出る。

 

 すると、2人の前にはあまりにも壮絶な光景が広がっていた。

 

「んだ!? ありゃぁ!?」

 

 ガシンが驚くのも無理は無かった。

 

 周囲から逃げ出していく乗員達は命令を必死に護って逃げている。

 

 だが、その上空では30m近い長さの全長を持つ何かがガチャガチャと内部の機構らしきものを城から引き上げ、次々に肉体へと取り込んでいた。

 

「でけぇ!? ドラクとかの何倍だよ!?」

 

 巨大な六枚の翼と二本の腕と化したグラングラの大槍を接続し終えて、その頭部に半透明の結界で護られたヴェルゴルドゥナを頂いていた。

 

「最終形態。強い」

 

「お、お前なぁ? あんなん聞いてねぇぞ? つーか、空飛んでるのどうすんだよ!? さすがに届かねぇんだが!?」

 

 少年のサラッとどうでもいいと流した様子にガシンが喚く。

 

「問題無い」

 

「問題しかねぇ。つーか、何か黒い魔力溢れてねぇか?」

 

「さっき打ち込んで貰った霊体化真菌で強制契約した。ガシンのおかげ」

 

「契約? 何の話だ?」

 

 少年は単純に必要な事以外は全てまったく説明しない。

 

 その悪癖のせいでぶっつけ本番のガシンは殆ど自分が何をしていたのか知らなかったのである。

 

「相手を数倍強化する代わりに魂を菌に食わせる。短時間で魂が摩滅する契約。リケイに作って貰った強制強化による呪霊属性加護呪紋【黒霊菌】」

 

 言ってる傍から苦しみ出したようにのたうつ竜が黒い魔力によって全身が染まっていく。

 

「御気の毒様だな……強くなるのを除けば」

 

「それは耐性在りの共生済みじゃない魂が使った場合。条件が合致すると強化中は普通に強くなって魂の致死量2割以上消耗前に効果が切れる」

 

「あん? まさか、オレ達にも使えるとか言――」

 

「言う。強制だから、相手から能力を落とされる心配も無い。魂の消耗で少し廃人になるだけ」

 

「だけってオイ。オレはともかく魂とかやたら回復しねぇんだぞ?」

 

 少年が白霊石の欠片をガシンに見せる。

 

「……ああ、はい。オレは樽、オレは樽ね!!?」

 

 ヤケクソでこれからも樽役よろしくされた青年が涙目になった。

 

 今後は白霊石によって摩耗分を回復する事が確定事項になった瞬間である。

 

『アルティエ!! 倉庫にアルティエの言ってた通り、何か竜さんがやたら詰め込まれてるよ!! 今、出すね』

 

 レザリアの声が耳元に糸で届き少年が頷いた。

 

「よろしく」

 

 少年が言った傍から格納庫に通じる倉庫内から数匹の竜が何かから慌てた様子で逃げようとして引き抜かれた区画の跡に残った大穴から飛び上がって来る。

 

 それを少年が片っ端から不可糸で柄を繋いだ二代目蜘蛛脚で切り付けて行く。

 

 空に必死に登ろうとする竜が次々に変質し、内部から蜘蛛化して竜の背中に蜘蛛脚が生えた甲殻系な竜蜘蛛と呼べるような何かとなって少年達の下に集い始めた。

 

「そういう事か!! 確かに無きゃオカシイわけだ」

 

 中央部分が球体状に刳り貫かれたような城の端。

 

 屋上の崩れ掛けた一部から少年が空の未だ肉体を編成中の相手を見上げた。

 

「倒す算段は?」

 

「ある。ゴライアス」

 

『“ヘクトラス様に訊きましたが、どうやら胸の背中側のようです”(。-`ω-)』

 

「注意事項は?」

 

『“移動可能だと。恐らくは……”(。-`ω-)』

 

「了解」

 

 少年がガシンと一緒に跳び上がる。

 

「そういや、例の兵器大量に付いてんぞ!! ちゃんと防げるんだろうなぁ!?」

 

「問題無い。相手より上の高度で戦えば、上にしか向けて来ない。高度限界もある。威力も城本体が無ければ40分の1程度」

 

「どういうこった!? つーか、40分の1が数倍なんだろ!?」

 

「当たらなければ問題無い。着弾地点から半径50m圏内くらいがたぶん即死圏内なだけ」

 

「もういい!! とにかく大避けしながら、攻撃をこっちに向けさせりゃいいんだろ!! やってやんよ!!」

 

 3m程の全長がある竜蜘蛛。

 

 少年の個体が上空に向かうと追従するようにしてガシンの乗った竜蜘蛛も飛び上がり、他の竜蜘蛛達が次々に逃げて行く部隊を追撃するように低空からアプローチし、ドラクというドラクを多勢に無勢で鹵獲し始めた。

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