流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第54話「ヴァルハイルの鋼塊Ⅲ」

 

―――ロクシャの園【空中庭園】。

 

 巨大な高い塔が大量に聳える高都。

 

 その最新の技術は複数の塔を空中に置いたプレートで繋ぐ事すら可能としており、その技術はまるで塔を華に見立てるかのように構造物を配置していく事からプレートの上は多くが自然環境を再現する庭園として活用されている。

 

 これらは高い位置にある事から空中庭園と称され、学校施設や研究施設では息抜きの為の場所として広く開放されていた。

 

 もしもとなれば、庭園そのものを切り離して浮かべる事も出来るし、逆に塔内部に仕舞い込む事も出来るとの話はどれだけヴァルハイルの技術が進んでいるかを教えてくれるだろう。

 

「ッ―――薄汚いヴァロリアめ!? 家に手を回したわね!?」

 

 ロクシャの園は基本的に午前中の講義と午後の実技に別れる。

 

 実技は基本的には戦闘技能を磨くのだが、カリキュラムの多くは所定の行動を終える事で上がりとなり、終了時点で用事が無ければ、帰宅可能であった。

 

 周囲の度肝を抜くだろう少年の実技評価は軒並み『最優』であり、剣技、呪紋、射撃術、どれ一つとして叶う者も無く。

 

 単純に一番早く終わった彼は唖然とする同級生や教師達を見る事もなく。

 

 淡々とノルマを終えて、空中庭園の構造を調べる為にしばし、その場のベンチで留まっていたのだ。

 

 彼の周囲からは不可糸が大量に塔内部へと透明化したままに侵入しており、知らず知らずに蜘蛛の巣のように塔の内部構造を理解する手助けとなり、機能そのものも掌握しつつあった。

 

 庭園内は大量の草花が置かれた草原や高原、他にも樹木を置いている樹林、花壇や温室を備える庭園と幅広いものがプレート一枚一枚に再現されており、呪霊機達が水やりをしていたり、呪紋で風を吹かせていたり、プレート外にある外部機器を操作して、循環用の機構で水を蒸気として噴出させたりと維持管理を行っている。

 

「どうして、アタシがお母様からあんな顔されなきゃいけないのよ!? 卑怯者!! 卑怯者!! お前みたいなドラグレがヴァルハイルを滅ぼすんだ!?」

 

 一々、少女の言葉が真っ当過ぎて少年は反論する気にもならない。

 

 実際、ヴァルハイルを滅ぼすのは少年であろうと自分で思うものだから、彼女の怒りは外側からは理不尽に見えても、全て正当な相手に向けられた真っ当な感情でしかないのだ。

 

「初めまして。アル・アーカです」

 

「ッ、名前なんてどうでもいいわ!? この、この、何でアタシだけ停学なのよ!? お前みたいな奴がどうして学校でデカイ顔してるの!? 昨日来たばかりの癖に!?」

 

 周囲には取り巻きもおらず。

 

 涙目な彼女は少年の頬をかよわい拳で殴る。

 

 言葉攻めにして来た前日とは打って変わって今は浮かぶ事も無く。

 

 いや、リングを没収されてヨタヨタと重そうな角や尻尾に振り回されるようにして彼女は何度も少年を殴る。

 

 やがて、殴り疲れた途端にベシャリとベンチの下の芝生に滑って転んだ。

 

「こ、このぉ……その呪霊機で殴り返せばいいじゃない。卑怯者ぉ」

 

 涙が滲む彼女の声は掠れている。

 

 昨日、散々に泣いたらしい目元は赤い。

 

 ついでに高そうな法衣も朝露と芝生に塗れていた。

 

『『………(≧ω≦)』』

 

 それに傑作ですなぁとニヤニヤした背後のエルミとフェムの思考が垂れ流されて来て、少年が起き上がろうとしてまたベシャッと滑って転んだ虐めっ子に手を差し伸べる。

 

「な、なに、よ……ソレ……何で、何でそんな何でも無さそうにッ、アンタが手を回したんでしょ!? 薄汚いヴァロリアの癖に!? ドラグレの癖に!?」

 

 手を払い除けた少女がようやく立ち上がる。

 

「興が削がれたわ。もう此処には来ないで……フン……」

 

 少女は自分の惨めさに悔しそうな顔をしながら、涙を振り切るようにその場から走り去っていく。

 

 それにニヤニヤした気配。

 

 爽快ですなぁと言いたげな背後の2人に溜息一つ。

 

 少年は逃げ去る少女の背中を眺めていた。

 

 数分後、トボトボと少女は高都の街区を歩く。

 

 高都は鋼の都、雷と魔力と蒸気の都。

 

 当然のように呪霊機が飛び回り、道を歩く人々の四肢の殆どは機械だ。

 

 これらに使われる魔力と雷の多くは地熱を用いた発電と島の地脈に流れる巨大な魔力に依存しているとされており、島の中心域である聖域に近い場所そのものが都市にとって生産力の源でもあった。

 

 故に何処か首都である高都の人々はカッチリしている。

 

 カジュアルな装いの者も居れば、正装である法衣姿の者もいるが、基本的に身綺麗だ。

 

 その最中を別の種族の者達が歩く様子もある。

 

 モナス教の信者。

 

 島の中央が聖域とされてから出来た習俗に近い教会のような祈りの場にヴァルハイル以外の者達が出向く様子もあれば、軍の衛兵が歩哨として軍用のモルドと全身装甲姿の機械竜として街角で銅像のように立ってもいる。

 

 彼らは少数派であるが、立派なヴァルハイルの一員であり、ある意味で種族連合からは裏切者と呼ばれる者達でもあった。

 

 だが、そういうのが歩いている街並みは上の方ばかりだ。

 

 基本的に坂が多い高都は何処も彼処も下がれば下がる程に薄汚れた廃液や汚染された場所があちこちに存在し、その清掃用に呪霊機が大量に出ており、道端を黒く塗るかの如く清掃している。

 

 あまりにも汚れが多くて戦時下で貴重な綺麗な水を利用出来ないという実情から、ここ最近は特に汚れているのだ。

 

 街並みは美しいが、坂を下り切った先にはダウンタウンに相当する工場群と工場を支える労働者達が集う猥雑な雰囲気の看板が乱立する地区も現前としてある。

 

 高都の繁栄は同時に環境汚染との戦いであった。

 

 それを改善して来たヴァルハイルの都は黒く汚れた下町ですらも嘗ては活気に溢れていたし、今もそれなりの喧騒がある。

 

 物の値段が高止まりしている以外は殆ど治安的には良い方だろう。

 

 若い男の中でも荒くれ者や犯罪者の類は大半が技術や技能に優れなければ、即刻徴兵されて最前線の盾として使い潰された。

 

 故に本来ならば危ないと言われるような高都の歓楽街も今は呑気に女が歩いていても問題にならない。

 

 いや、問題ではあるが、夜でなければ、特に危険な地域でなければ、襲われたりもしない。

 

 そもそも襲う者が根こそぎ消えたのだ。

 

 それでも経済的には廻っているとされていて、呪霊機による自動運搬船。

 

 空飛ぶ呪霊機を使った竜型の移動用の乗り物が今もあちこちを飛び交っている。

 

「……お父様。お兄様……」

 

 少女はいつの間にかフラフラ歩いている内にそんな場所までやって来ていた。

 

 日が暮れそうな頃合い。

 

 場の空気的には浮いている。

 

 だが、彼女に手出しをしようと思うような層がいない歓楽街は静かに彼女を受け入れて、誰も彼女を見ないし、見たとしても目を逸らす。

 

 雨がポツポツと振り出した夕暮れ時。

 

 少女は薄汚れたままに俯いて歩く。

 

 まだ生身の脚は呪紋で保護されていたが、彼女が前日に使っていた輪が無ければ、アンバランスな尻尾と角のせいで彼女は不自由だ。

 

 ヴァルハイルの美的センスは基本的に竜頭を美しいと感じるものであり、それ以外の人型の顔はブスとは言わないまでも美人の部類には入らない。

 

 ある意味この状況では襲われようもない為、誰も通報すらしないというのが何とも哀愁が漂う背中を後押ししていた。

 

「……っ」

 

 ジワリと少女の瞳は涙が浮かぶ。

 

 彼女の父親と兄はオクロシアの侵攻軍の部隊長だった。

 

 このまま何事もなく帰って来る。

 

 【器廃卿】が来れば、百人力どころか戦う必要もなくなってしまうかもしれない。

 

 なんて、呪紋による通信が送られて来ていたのだ。

 

 つい先日までは。

 

 しかし、いきなりオクロシア侵攻軍との通信が途絶。

 

 上流階級の従軍貴族、部隊長クラスの家には通達が来た。

 

 オクロシア侵攻軍壊滅。

 

 器廃卿の死亡。

 

 全ては悪い夢だった。

 

 戦争は彼女とて好きでは無かった。

 

 しかし、負けるとも思っていなかった。

 

 部隊の長ならば、最前線の兵士達よりは安全だとそう思っていた。

 

 でも、全ては幻想だった。

 

「許せない……優しかったお父様を……勇敢だったお兄様を……っ」

 

 彼女は何処にでもいる戦争の犠牲者の家族。

 

 でも、一つ違ったのは彼女にはそれなりに歪ながらも力があって、家柄も周囲に大勢の親類もいた。

 

 しかし、その多くが昨日の事があってから、もう付き合えないと彼女に連絡して学業に専念するからと一緒に活動していた彼女を突き放した。

 

 親から言われたのだろう。

 

 ならばと。

 

 彼女は公的な組織である自治の要である風紀委員長に直談判した。

 

 あんなヴァロリアは校内にいるべきではない。

 

 だが、その言葉に耳を貸す者は無く。

 

『アミアル君。君はどうやら御父上と兄君を失くして、我を失っているようだ。しばらく、休んだらどうかね? 御爺様の顔にそう泥を塗るものではないよ』

 

 そう諭された。

 

 アミアル・レンブラス。

 

 彼女は思う。

 

 これほどまで罵倒したのにあのヴァロリアはどうして何も言わないのだろうと。

 

 どんな言葉が返って来ても反論してやるだけの気概が彼女にはあった。

 

 だが、そんな彼女に何も言わず。

 

 差し伸べられた手。

 

 母に何もしないでと叫ばれ、多くの使用人達には協力を断られ、今や一人切りの彼女にとって……その手は許しがたい程、傲慢に映る。

 

 全ては家の力。

 

 なのに、罵倒し返される事もなく。

 

 転んだ自分に差し出された手。

 

 それはどんな手だったのか。

 

「………ッ」

 

 八つ当たりなんて分かっている。

 

 だが、元々気性の激しい彼女にそれを抑える事なんて出来ない。

 

 彼女が一方的に罵倒し、叫び、相手を打ち倒そうとしただけだ。

 

 けれど、その感情の向けるべき相手は遥か遠く。

 

 女である彼女にはどうしようもなく遠く。

 

「ぁ―――」

 

 彼女は坂道の一部。

 

 雨に濡れた滑る鋼の道に気付かず。

 

 転げ落ちた。

 

 その時、角が嫌な音を立てて道で削られる。

 

「あぎ?!!」

 

 滑った坂の先。

 

 誰もいない曲がり角。

 

 背中を強打して息を吐き出した彼女は当てもなく歩いていたせいで何処にいるのかも分からず。

 

 眩暈の最中に激痛と鈍痛が襲ってくるのに耐えながら、壁の鏡面にも似た鋼に映る自分を確認した。

 

 片方の角の根本に罅が入っている。

 

 尾てい骨辺りから血が流れている。

 

 彼女の涙が頬を伝い。

 

 彼女は思う。

 

 泣きべそを掻きながら。

 

 助けて、助けて、助けて、お父様、お兄様。

 

 だが、もういない相手は助けに来ず。

 

 泣きべそを掻きながら彼女は震える体でいつの間にかずぶ濡れになっていた法衣姿でゆっくりと歩き出そうとし、いつものようにバランスを崩して倒れ込―――。

 

「大丈夫?」

 

「へ?」

 

 回る世界の只中で静かな瞳を彼女は見た。

 

 滲む世界にも穏やかな瞳。

 

 その腕が自分を抱き止めた時。

 

「お父様……お兄様?」

 

 少女はそう呟いて意識を失った。

 

―――2時間後アーカ邸。

 

『いやぁ、君もやるじゃないか。昨日の今日でナンパかね?』

 

『道端で倒れてた』

 

『そうか。ああ、確かにあの体では雨の日に滑りまくる高都の下町ではそうもなるだろう。ああいう子にこそモルドは必要なのだがな』

 

『?』

 

『我らヴァルハイルが四肢を機械化するのは何も実用性だけの話ではない。貴重な産まれて来た次世代が歪だったからなのだ』

 

『歪?』

 

『北部で種として安定して出生数が回復しても、産まれて来る子は普通の子よりも何処かヒトの部分が多い事が多々あって、結果として肉体が酷くチグハグなのだ。それは大きな力を秘めた者ならば、更に酷くなる』

 

『それを解消するのに四肢を?』

 

『ああ、そうだ。頭部の形はどうにもならないとしても角と尻尾以外の部位を強化して、本来のヴァルハイルの種族に近くするわけだ。まぁ、人型に近い故に強くなるという“次世代”もいるにはいるがね』

 

『……ふむ』

 

『あの子は何処も怪我をしていないようだし、今日の夜はずっと雨だ。家には下町で倒れていたところを保護したと連絡しておいたから、明日の早朝に家へ届けてあげなさい』

 

『了解……』

 

 アーカ家の館には呪霊達が清めていても使われていない部屋が数多くある。

 

 その内の一室。

 

 フカフカな寝台の上で少女はボ~ッとしながら、遠く聞こえる会話を耳にしていた。

 

 何処も痛くない。

 

 快適ですらある。

 

「………フン」

 

 少女は何もかもが嫌になって頭から絹で仕立てられた掛布を被る。

 

 角と腰はもう痛くなかった。

 

 *

 

 明け方よりも前。

 

 まだ空が白み始めたばかりの都市は早朝に働く者以外は動く者も無い。

 

 しかし、こっそりと抜け出した少女はまるで追い掛けられてしまうと言わんばかりの速度でコケそうになりながらも自分の家の方へと一目散に逃げて行く。

 

『………早く襤褸クズになればいいのに(*´▽`)』

 

 笑顔で見送る機械妖精が爽やかな笑顔で不穏な事を呟く。

 

『まぁ、これで少しはわたくしの騎士のスゴさが解ったでしょう』

 

 横の機械系少女が浮かびながらそう欠伸をする。

 

 夜通し見張っていた彼女達は任務終了とばかりに今日も早朝から密かに高都の地図を描き上げている少年の隠形しながらの高速探索に同行する。

 

 家の前で待っていた少年は2人が背後の定位置に着くと同時に呪紋を無詠唱で起動させ、不可視の探索者となって走り始めた。

 

「今日は東部」

 

 毎日、夜4時間、朝2時間で高都を走り回っている彼を見咎める者は此処にいない。

 

 それが可能な存在の大半は戦場であり、高い確度の監視装置の類は全て呪霊機によって代替されている事から、その第一人者の力と消える呪紋があれば、殆ど問題無く高都を好き勝手に歩く事が出来たのである。

 

 建物の内部から建物の外から縦横無尽に音も立てずに風を切る。

 

 そのパルクール染みた動きは不可糸を用いる事で更に自由度を増しており、軍や官憲、他行政の役所にまで侵入する事を可能にしていた。

 

「法務局を確認」

 

 只管にマッピングする彼を捉え切れない未熟ながらも可能性がある者達はその朧な残像にしか見えない消えた何かの気配を感じ取り、“オクロシアの亡霊”なんて呼び始めているが、まだ一部界隈での事に過ぎない。

 

 だが、呪霊化した兵隊の魂が戻って来たのだという在り得る話を前にして、笑い飛ばせない実力者達の多くはそれが真実でない事を願う事しか出来なかった。

 

 いつだろうと基本的に悲劇は戦争の大敵。

 

 更に士気が下がるような噂は民間でこそ大きく報じられるが、軍警の人々には苦い話に違いないのだ。

 

「………」

 

 高速で走り続ける少年は高都の明け方を疾走する。

 

 生鮮食品を周囲から運び込んで来る呪霊機の配送船や小型のお使い系呪霊機が大量に空を飛び、人々に必要な物資を食料から部品から何でも各家庭、各場所に送り届けて行く様子は壮観だ。

 

「………」

 

 しかし、その中に混じって指示を出す運送業の人々や自分の脚で商品を並べる人々、同じように自分で買いに来る者達も確かにいる。

 

 下町の市場を通り掛れば、モノの値段は見事に高止まりしているが、それでも大声で値切り、値切られしている商売中の人々と民の駆け引きは過熱していた。

 

「……終了」

 

 しばらくモクモクと脳裏に地図を書き込んでいた少年は不可糸で手帳内部に地図のデータを編み上げて記述する。

 

 不可糸は基本的に魔力を流さなければ、単なる見えない糸である為、万一無くしても左程問題は無い。

 

 館に戻って来るとモクモクと朝食のトーストと目玉焼きとローストビーフを食べている胡散臭い柔和な笑みの男が1人。

 

「や、地図の作製は順調かな?」

 

「順調」

 

「それは良かった。君もどうだい?」

 

「頂く」

 

 少年が一緒になって食事を取り始めると水着の呪霊機達がやってきて、甲斐甲斐しく給仕を開始する。

 

「それで高都には慣れたかな?」

 

「やたら監視網が敷かれてる以外は良い街」

 

「だろうな。ヘクトラスも同じことを言っていたよ」

 

 肩が竦められる。

 

「ま、戦時下だからというのもあるが、それでもやたら監視の目があるのはヴァルハイルにとって高都が重要な都市だからだ」

 

「首都なら当たり前?」

 

「いや、そちらじゃない。重要なのはモナスの聖域と陸続きの場所が存在する。そう聖域の一部がある都市という事が重要なんだ。それに比べれば、皇帝城とか、大鐘楼とか、各行政区なんてどうでもいいね」

 

「そこまで?」

 

「ああ、そこまでだ。聖域は我らヴァルハイルの技術の根源だ。事実上、此処にある殆どの技術は聖域の技術の模倣、あるいは再開発、またはそれを使って発展させた代物でしかない」

 

「聖域は凄く進んでた?」

 

「そうだね。そういう事になる」

 

「おかしくない?」

 

「お、それに気付くのか」

 

 アル・アーカが笑みを深くする。

 

「流刑者が立てたなら、もっと粗末なものを想像するべき」

 

 男が頷いた。

 

「君の言う通りさ。だが、事実だけ言えば、聖域の技術は外の大陸の数百世代以上は先の技術の塊だ」

 

「………旧き人々の力?」

 

「ノクロシアとは技術が大分被るだろうけど、当たらずとも遠からずと言えるかな」

 

「?」

 

「つまりだ。この島にあるノクロシアと流刑者達が立てたモナスの聖域は別々に考える必要がある、という事なのさ」

 

「………」

 

「おっと、楽しいお喋りは此処までだ。そろそろ職場に行かないと。じゃ、今日も学業頑張って。我が愛しき息子殿」

 

 ウィンク一つ。

 

「そうだな。少しだけ疑問の気付きを与えよう。エルという言葉が名前によく使われる理由が関係している。結局、我らはエルであり、ノクロシアを造った古き者達とは違うのだ。聖域もノクロシアをエルらしく使った結果なのかもしれない」

 

「エル……エル大陸とか?」

 

「そうそう。では、また」

 

 男が水着な呪霊機に付き添われて職場に向かって消えて行く。

 

「解る?」

 

『エル大陸。わたくしはエルミレーゼ、他にもエルの名を冠する者は多いですわ。確か、御伽噺ではエル大陸と名付けたのは古の旧き人々だったはず』

 

「理由は?」

 

『大陸がエルだから、と言われていますわね』

 

「?」

 

『幾らわたくしが聡明だと言っても分からない事くらいありますわ』

 

 エルミが肩を竦める。

 

「解る?」

 

 機械の体の上に座っていたフェムが人差し指を顎に付けて首を傾げ。

 

「ノクロシアは旧き者達が作った都です。我が契約者。行った事は無いけれど、お父様達は旧き人々が築き上げた黒鉄の都と……」

 

「……黒鉄の都」

 

「でも、モナスの聖域に関してはあまり口を開きたくないようでした」

 

「話したくなかった?」

 

「はい。あそこには禁忌が眠っているからとか」

 

「禁忌……」

 

「モナスの聖域が閉ざされた理由と関係していると聞いた事はありますが、それ以外は何も……ただ、ノクロシアより後にモナスの聖域は出来たのだとか」

 

「色々と聞けた。学校行く」

 

「はい」

 

 スッと機械の妖精を象った肉体に入ったフェムが少年の背後に戻る。

 

 そして、少年は今日も虐めっ子は来るのだろうかと思いを馳せつつ、登校した。

 

―――登校開始10分後。

 

『はっ!! 何だよアレ?! だっせぇー』

 

 さっそく少年は学校近くの通学路で他校の生徒らしき相手に絡まれていた。

 

 恐らく額の瞳が見咎められたのだろう。

 

 ジロリと彼を見ている少年達は同年代くらいだったが、その顔には敵意がゴリゴリに浮かんでいた。

 

 無視して少年が学校の傍まで歩き出そうとしたら、回り込まれる。

 

 少年隊の制服は軍学校用のものだ。

 

 両手両足が強化済みのモルドであれば、すぐに相手の正体は分かろうというものだろうが、数人がわざわざ同じ軍学校の生徒でもない他校の相手にちょっかいを掛けるだろうかというのが少年の正直な感想だった。

 

「オイ。無視してんじゃねぇぞ? テメェ」

 

 少年の前に立ち塞がったのは2m程の背丈がありそうな相手だった。

 

 三日月型の竜角が左の額から一本生えていて。側頭部を飾っている。

 

 竜頭に尻尾と三つ揃ったエリートっぽい容姿である。

 

 制服は黒いジャケットにズボンだが、頑丈そうな金属製の金具や糸が使われており、実用品として耐久性に特化したゴツイ仕様なのが分かった。

 

「何か用?」

 

「テメェ、昨日シマに入り込んでたよな?」

 

「シマ?」

 

「繁華街だ」

 

「確かに行った」

 

「あそこの仕切りはオレ達がしてんだ。勝手に入ってもらっちゃぁ困るんだよ」

 

「そう。それで?」

 

「お前、あの時、誰か背負ってただろ。2人分だ」

 

「2人分?」

 

「金だよ金。その制服、金なら持ってんだろ?」

 

 少年が自称保護者から持たされた財布を相手に渡す。

 

「解ってんじゃねぇか……あん?! 何だ!? テメェ!? 喧嘩売ってんのか!?」

 

「そもそも使う必要が無い」

 

「何ぃ?」

 

「金を使うのは金が必要な者だけ。金のやり取り自体する必要が無いなら、持つ必要が無い」

 

「―――テメェ、最上流か」

 

「そう」

 

「はは、分かった。テメェみたいなのに金を寄越せと言ったところで無しの礫だろうぜ。だが、それじゃあ、体で払って貰うぜ?」

 

「体?」

 

「今夜、高都の殆どのシマを持ってる連中が一堂に会して取り分を決める。テメェが最上流だって言うなら聞いた事くらいあんだろ。【アバドーン】だ」

 

「知らない」

 

「ッ、いいから来い!! テメェの落とし前だ!! オレ達の呪霊機がテメェのガッコを見張ってる!! 逃げられねぇぜ?」

 

「何する?」

 

「惚けた事を……知らねぇって言うなら教えてやる。今夜の催しで各シマの頭が持ち寄った駒で集団拳闘が開かれる。数合わせの肉壁が足りねぇんだよ。まぁ、死なねぇが骨の一本や二本は折れるかもなぁ」

 

「……行く」

 

「そうしておけ。コレがテメェの生き残る道だ。繁華街で好き勝手したらどうなるか。知っておくといいぜ? まぁ、ガッコは一月以上休む事になるだろうがな」

 

 男が退いた。

 

「忘れるな。テメェは見張られてんだ」

 

 少年はチラリと軍学校の相手を見てから、イソイソと学校に向かう。

 

 治安の良さそうな高都であるが、それなりにやはり悪い人はいるらしい。

 

 あるいは人が消えた後の統制を取る為のお祭りなのかもしれない。

 

 というか、明らかに人材不足に違いないヴァルハイルは今や裏組織ですら低年齢化が避けられないくらいにカツカツだと教えてくれているようなものであった。

 

 そう思いながら、少年は今日のカリキュラムをキッチリ最速で終える事にしたのだった。

 

『……う~ん。55点ですわね』

 

『相変わらず。見る目が無いのね。アレ、結構純情よ? 65点』

 

『そうかしら?』

 

『だって、あの子、礼儀正しくて、こっちを見てもまったく堂々としてたじゃない』

 

『ああ、この体、この呪霊機を見ても何も言わずに律儀に自分達のシマの話しかしてませんものね。確かに仁義はあるのかもしれませんわね』

 

 背後の2人が少年を止めた相手の品定めをしている声に少年は採点基準を聞くのが怖いのでツッコミは入れず。

 

 イソイソと教室へと向かった。

 

 情報は思っていたよりも早く集まりそうであった。

 

 *

 

 少年が情報の方からやってきたのに安心してイソイソと高都最優の学校で最優の成績を適当に作った脚で学校の外に出ると三日月型の角のある箱型呪霊機が上空からフヨフヨと降りて来ていた。

 

 ソレが着いて来るようにという指示なのか。

 

 少し歩いた角に立ってクルリと振り返る。

 

 少年がソレに付いて行くと下町の方へと坂道を下っていく。

 

 通路の大半がまだ雨の後、乾き切っていないルートを通って平たい地面が多くなるような遠方までやってくると。

 

 高都に範囲に含まれるギリギリの範囲だろう外縁部。

 

 高い壁が敷かれている廃材の山に紛れた敷地内まで辿り着いた。

 

 廃材の山は左程大きくないが、周囲を囲うようにグラウンド一つ分程の内部の領域を開けて配置されていて、外部からでは容易には内部が覗けないだろう。

 

 その領域内部の外延には複数の幕屋が張り込まれており、そこから明らかにその筋の人らしき大人や若者達が荷物を運び出したり、運び入れたり、怒声も色々と聞こえて来ていた。

 

 廃材の山を掻き分けるようにして狭い通路を進んでいくとようやく目的地らしい場所が見えて来る。

 

 廃材に囲まれた小さな領域には幕屋が置かれていて、周囲には衛兵ならぬ不良らしい少年達が2人詰めていた。

 

「おん? こいつは兄貴の呪霊機じゃねぇか。ああ、朝に集めたって言う肉壁野郎連中の1人か。入んな。おっと、呪霊機は外だぜ?」

 

「……何もしない方がいい」

 

「はは、売っちまうのを心配してやがんのか? なら、連れてくるんじゃねぇよ」

 

 少年が忠告はしたので適当に内部へと入る。

 

 外ではエルミに2人の男が群がり、『おぉぉマジかよ。こんなんあるのか?!』『本当に最上流ってか? 本当は夜用なんじゃねぇの!? がはは』だのと盛り上がっていたが、本人達の自制心が切れる前には出ようと少年が思う。

 

 やたら学生の矢の串焼きや丸焼きが量産されて困るのは少年である。

 

「来たな? 学校は途中で抜けて来たのか? ご苦労な事だぜ」

 

 三日月形の角。

 

 朝の軍学校の生徒が廃材のテーブルに座って、何やら大量の紙を捲って確かめていた。

 

「それで何すればいい?」

 

「待機だ。テメェの使い処になったら、さっさと出てやられて貰うぜ?」

 

「解った。それと【アバドーン】て何する?」

 

「あん? テメェに関係ねぇだろ」

 

「詳しく訊きたい。死にたくない」

 

「フン。いいぜ。テメェみたいなお坊ちゃんでも不安は覚えるってか?」

 

「………」

 

 三日月の相手が話し始める。

 

「アバドーンは半年に一回開かれる高都の各地を治めてる組織の頭目がいつの頃からか始めた代物だ。組織の抗争が大きくなり過ぎねぇようにな」

 

「不満解消?」

 

「そうだ。相手を拳闘で負かす。ただし、殺すなってのが前提だ」

 

「………」

 

「集団拳闘は要は喧嘩祭りだ。武器は素手のみ。死にそうになった奴を攻撃したら失格。壁役は殴り倒されたら退場してもいい」

 

「それだけ?」

 

「ああ、それだけだとも。吹っ飛ばされて場外でもいい」

 

「お祭りなら、他に何かある?」

 

「周囲には各組織が持ち寄った品で屋台が出る。食い物、女、酒、薬、何でもあるぜ? ただし、金が無けりゃ何も買えんがな」

 

「そう……主催者はいない?」

 

「はん。バレるのが怖くて気にしてんのか?」

 

「そう」

 

「ははは、臆病なこった。生憎とシマの頭共の共催だ。全員が此処に来る。高都のワルというワルが全部此処に来る!! 奴隷だのを侍らして今戦争してる連中、軍部のクズが小遣い稼ぎに引き渡した占領地の女子供も売り買いされる」

 

「高都で何に使われる?」

 

「呪霊機があるだろって? そういうのじゃねぇのさ。拷問するやら手籠めにするやら、いない相手をどうこうしようと連中の勝手ってこった」

 

「ふむ……軍警は?」

 

「動くわきゃねぇだろ。存在しない相手がいたら、どうなる? 軍部の揉み消しなんぞ、連中はしたがらねぇ。殺して終わりさ」

 

「解った。じゃあ、全部ヤッテ来る」

 

「ははは、好きなだけヤッテくりゃいいさ。テメェに金があるんならな」

 

 少年が外に出ると上空をフワフワと2人が浮いていて、悔しそうな顔の門番達が恨めしそうな顔で少年を睨む。

 

 どうやらお触り出来ずに逃げられてご立腹らしいと少年にも分かったが別にどうという事もない。

 

 殺されないだけマシであろう。

 

「(エルミレーゼ。フェム)」

 

 少年が呪紋で話し掛けるとすぐに2人が少年の背後に呪霊機らしい無表情で着いた。

 

『どうしたのかしら? 我が騎士様』

 

『如何したのですか? 我が契約者』

 

「(取り敢えず、周辺を探索。奴隷の位置を確認。常に位置を捕捉出来るようにしておいて欲しい)」

 

『物好きですわねぇ。北部勢力が喜ぶだけじゃない?』

 

「(恩を売って影響力を落とす)」

 

『さすが、我が契約者。愚劣なる者を排除しに?』

 

「(あの子を持って来ていい)」

 

 少年は次々に暗い顔で集まって来る肉壁役の参加者達の中に混ざりながら、飛び去っていく2人を見送って、夜になるまで待つことにした。

 

 その夜、高都の各地を仕切る集団のトップが一堂に会した集団拳闘大会アバドーンは全ての者達が自分達の自慢の奴隷やら全ての組織幹部を連れて参加。

 

 多くの同業者がいなくなって覇権を競う初めての大会だからと力を入れて、自らの権威を示さんとして結集する。

 

 それがどんな結末になるのか。

 

 まだ、誰も知らなかった。

 

 *

 

 アバドーンの出店が開店し始めた夕暮れ時。

 

 雷の力で煌めく原色のネオン看板が暗闇に輝き。

 

 スクラップの山に囲まれた中央を囲うように展開される観覧席には試合が開始される前の時点で人は大入り。

 

 喧騒と怒号で屋台は廻り、ジャラジャラと違法な奴隷を連れた者達が集まりつつあった。

 

 様々な種族がいるが、その殆どが軍が持て余した本来存在しない捕虜である。

 

 巨人族から、アルマーニアから、多種多様な種族がいる予数は同時にそれだけ多くの種族とヴァルハイルが戦っている事を意味する。

 

 少年は待ち時間中に様々な者達の様子を観察していたが、一様に奴隷達は暗い表情をしていた。

 

 健康状態は左程悪く無さそうだが、傷を負った者達が多く。

 

 包帯が撒かれているだけ有情だろうが、回復したら、また暴力を向けられる事になるのは確定的。

 

 そもそもの話。

 

 現在、奴隷を高都に入れるのは軍警が厳しく取り締まっている。

 

 理由は単純に種族連合の影響で奴隷達が反乱を起こす事を抑止する為だ。

 

 彼らはブツブツと呟く者や諦観に心が折れて項垂れる者も多く。

 

 薬を打たれている者も多い。

 

 多数の看板の下。

 

 首輪を引いた主人達は愉しそうに祭りの相手を威嚇するやら喧嘩するやらしているが、奴隷達の多くは全て視線を逸らして関わり合いにならないよう図っている。

 

「……オイ。テメェ、何見てやがる」

 

「?」

 

 少年が振り返ると例の三日月角がいた。

 

「奴隷見てる」

 

「あん?」

 

「奴隷は違法だったはず」

 

「んなの守ってる連中が此処にいるかよ。ま、高都の奴隷は恐らく此処にいるのが全部だろうがな」

 

「どうして?」

 

「拳闘が終わったら売買すんのさ。新しいのはもう入って来ねぇからな。その分、希少になった奴隷を資金に変えておきたい連中が多いんだよ。昔はもっと大勢の連中がコイツに参加してたが、戦争で徴兵されちまった。残された連中はそれを引き継いだ奴らばかりで今は資金もカツカツなのさ」

 

 少年が周囲を見回すとあちこちの大物らしい相手の大半が40代以上が見当たらず。

 

 殆どの部下が若年層というのも珍しくないようだった。

 

「……やけに詳しい」

 

「オレがそこらの半端な頭に見えるか?」

 

「……頭?」

 

「そうだ。歓楽街はオレのシマだ。うぜぇ大人共が消えてからな。女を殴る連中も消えた。今は上納金も5分の1にした。後は他のシマを下せば、ようやくオレらの時代が来る……」

 

 少年が周囲に喧嘩祭りに向かうらしい者達を見やると少なからず男の奴隷達が使われていたが、周囲には奴隷が1人もいない事に気付く。

 

「……奴隷がいない?」

 

「歓楽街に戦える連中が残ってると思うか?」

 

「男性がいない?」

 

「娼婦と子供とガキだけだ。テメェみたいなナヨナヨでもいるだけマシだ。あそこで男娼してる奴らはそもそも戦えるような性質でもねぇ……」

 

「……もしかして良い奴?」

 

「テメェ、言葉には気を付けるんだな。次に言ったらアバラが逝くぜ?」

 

 少年は三日月も大変なんだなと思いつつ、喧嘩祭りに集まる奴隷売買に来ていた者達をチラリと見て、選別していく。

 

 だが、その最中……今日は絡んで来なかった虐めっ子の姿を入り口付近に見て、イソイソとそちらに歩いて行くのだった。

 

―――アバドーン会場入り口。

 

「クソ……どうしてアイツ、こんなところに……」

 

 アミアル・レンブラス。

 

 ちょっと可哀そうな虐めっ子。

 

 彼女は家にも居場所を失くしていたが、それでも気になる事には首を突っ込む事で気を紛らわせていた。

 

 正しく、多くの人々が彼女を見放す中。

 

 頑固な彼女は自分が没落する要因となった少年を監視していたのだ。

 

 都市には呪紋と雷で動く機械の監視網が張り巡らされている。

 

 そのレンズは極めて正確に人間の行動ルートを露わにしてくれるのだ。

 

 それなりに優秀な彼女は魔力でソレらの情報を窃取する事が出来た。

 

 自分専用の小さな手持ちの呪霊機。

 

 それが彼女に情報を提示してくれる。

 

 昼には何故か学校を出た少年をずっと監視していた少女は相手が呪霊機に連れられて何処かに向かうのを確認し、何か秘密を握ってやると付いて来たのだ。

 

 だが、そこは彼女も噂では知っていた高都の闇。

 

 各地区を治めるグループ達が集うアバドーン開催地。

 

 それだけで彼女の血の気は引いていたが、それよりも少年への執着が勝った彼女は停学中なのを良い事にすぐ変装して、娼婦崩れ的なギャル……少し化粧が濃くして呪紋で角や尻尾の色をピンク色にして、ついでにちょっと派手めのドレスに身を包んで会場前までやって来ていた。

 

「(とにかく、何か情報を掴んでやる)」

 

 そんな時、彼女の背中に手が迫る。

 

 しかし、その手は背中に遮られた。

 

「?」

 

 少女がキョロキョロしているところに肩を叩いたのは探されていた当人である。

 

「な!? 何でアンタがこ―――」

 

 口にベチンと粘着式の布地を張って、腹部の横隔膜に優しく肩で当身をして気を失わせた少年はヒョイッと担ぎ上げ、歓楽街チームの天幕までやってくると横に転がした。

 

「ああん!? 何してんだテメェ!?」

 

「あ、三日月。まだいた」

 

「誰が三日月だとコラぁ!? 何拉致ってんだ!? 何処の娼婦だ!?」

 

「ウチの学校の生徒。見掛けたから保護した」

 

「はぁ!?」

 

 少年が驚いている三日月(仮称)を横に置いて、少女の呪紋を適当に魔力で上書きして吹き飛ばすと角と尻尾の色が元に戻る。

 

「後で連れて帰る。それまで起きないから置いて欲しい」

 

「ッ、テメェ……分かってんだろうなぁ?」

 

「?」

 

「何で分かりませんてツラしてんだコラァ!? 此処はガキの遊び場じゃねぇんだぞ!?」

 

「これから家に捨ててきたら、間に合わない。此処に置いておかないと後で連れて帰れない」

 

「ッ、こ、こいつ、図々しいにも程があんだろ!? 金取るぞ!?」

 

「金以外で」

 

「クソ!? なら、お前戦え!! 一人でもいいから倒したら許してやる!! 一発で沈んだら次のアバドーンにも出す!? いいか!?」

 

「別にいい」

 

 勿論、そんな事は在り得ない事は少年には確定事項だ。

 

 何故ならば―――。

 

「そろそろ、頭の顔合わせだ。大人しくしてろ!!」

 

 天幕から三日月が出ていくのを横目に少年は頭上を見上げる。

 

「そろそろ出番」

 

 すると、そこにいきなり透明化していた白い球体が糸に吊り下げられた状態で現れる。

 

「( ̄д ̄)………」

 

 天幕の一番上から吊るされた2m程の純白の球体がグキョッと音をさせて、ゆっくりとエビのように丸まっていた体を解しながら、シュタッと地面に降り立った。

 

「おはよう」

 

「( ̄д ̄)………zzz」

 

「起きて」

 

 少年が頭をペチペチした。

 

「( ̄д ̄)?」

 

「取り敢えず、仕事は訊いてた通りに。後でご飯でも一緒にどう?」

 

「( ̄ω ̄)♪」

 

 純白だった体が蒼く染まり、眠そうな複眼が暗い色を宿して僅かに光を帯びる。

 

「じゃあ、後は頼んでいい? オネイロス」

 

 そのヴェルゴルドゥナの変異体。

 

 オネイロスと名付けられたソレは瞬時に体の色を透過させて消えると、ギィッと一声啼いてからカサカサと外に向かった。

 

 その夜、高都は悪夢を見る事になる。

 

 この世ならざる力を宿した呪霊機達すらも震える事になるだろう。

 

 今、彼らが直面するのは悪夢。

 

 そうとしか呼べないものになるのだから。

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