流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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葬章「蟲・竜・人」

 

 遠征隊が大量の物資や技術、多くの蜘蛛達、新人達を受け入れながら、訓練をしているのは基本的に次なる遠征に出掛ける為であるが、比較的安全な地下遺跡というのはニアステラには存在しない。

 

 死ねば終わりな以上は限界無く鍛える事が彼らに課された義務であり、隊長であるアルティエの指示である。

 

「ふはは~~我が呪紋でみーんなイチコロじゃ~♪」

 

「リリムさん!! あんまり威力出しちゃダメですからね!!」

 

「解っておるのじゃ~~♪ 近頃、ちゃんと手加減出来るようになったのでな!!」

 

 近頃は完全に魔窟と化した遠征隊は能力を上げる為には何でもやるべきという方針の下で近接格闘、中近距離戦闘、遠距離射撃戦、連携戦術、高速移動しながら高機動戦闘、高空で行う3次元戦闘までも含めて色々とやっていた。

 

 砂浜で連携訓練をしているのはその訓練の極一部でしかなく。

 

 ヴァルハイルから齎された輸送用呪霊機の現物を用いた落下訓練などは日の落ちた夜にやる事になっていた。

 

「それにしてもアルティエあんな大きい乗物持って来るなんてスゴイ。何処で買ったんだろ?」

 

「盗んで来たとは言いませんでしたが、関係者から貰ったとか言っていたような?」

 

「あ、後ね。生身のモルドとかあるって言ってたよ。リケイじーちゃんが」

 

「あっちで色々と集めてるんでしょうね。きっと……わたくし達が本来しなきゃならない事を一人で……ちょっと心苦しいですね」

 

「そう? アルティエが自分でやるべきって思ってるなら、そうさせてあげたらいいんじゃないかな。それで帰って来て疲れてるようだったら、一杯ボク達で癒してあげるの!! フィーゼはそういうのじゃダメ?」

 

「いえ、ダメじゃないですけど。言って止まるようにも思えませんし、いつの間にか色んな人をこっちに寄越してますし……アルティエには、アルティエの冒険や一人でやるべき事がきっと沢山あるんですよね」

 

 凡そ黒蜘蛛の巣から更に1000m以上高い場所から輸送用呪霊機に乗せた竜蜘蛛達が飛び立ち、それに乗った遠征隊の面々は重過ぎて竜蜘蛛に乗れない巨人の少女に支援用の竜骨弩を二挺持ちさせて、降下作戦を開始する。

 

 敵となるヴァルハイルの概要はあちこちから聞こえていたし、そのヴァルハイルの幼女達に鹵獲したドラクを使って戦場を再現させる為、かなり本格的だ。

 

「く、まさか、敵の訓練に使われるとは不覚!!」

 

 そう言いながら“へんきょーはく”が自身の銘有りのドラク【ゴーム】で浮かび上がりながら、次々に落ちて来る彼らに向けて電圧を下げた雷撃を回避不能なように広域へ放つ。

 

 夜に演習をするという事は予め言っておいた為、大人達や蜘蛛達は雷撃の音をそのまま受け取り、子供達は雨が降って来るのだろうかと考えて近頃蜘蛛達が力作した布団に潜り込む。

 

 今やリネンの類は不可糸や少年が次々にビシウスの力を付与した綿花、複数の作物によって大量に賄われており、特に綿の類は寝具に使われ、殆どの野営地に供給されて、あちこちで好評であった。

 

『ひぅ!? “へんきょーはく”めぇ……われらきょうかいきしをさしおいてあんなかっこいいのにのってぇ……』

 

『“たいちょー”……いずれ、われらもあれをもらってつよくなりましょう』

 

『ばりばりうるしゃいぞぉ……むにゃぁ……』

 

 夜にしっかり睡眠を取るタイプの元教会騎士な幼女達は布団に潜り込んで養育系なスピィリア達に傍にいて貰うやら、優しく撫でて貰うやらしながら寝かし付けられ、その合間にも空では呪紋による火球、防風、雹、雷で対空迎撃される遠征隊の面々がとにかく防御を固めながら地面までの落下速を稼ぎ。

 

「行くぞ。おらぁ!!」

 

「旦那様は元気だなぁ。やれやれ。昨日はあんなに激しかったのに」

 

「げっほ?! いいから黙って仕事しろ!?」

 

「ちょっとガシンさん!! 訓練中に不謹慎ですよ!?」

 

「もぉ~~男の人ってホントにそういう話題好きだよね?」

 

「お、オレが悪いのか!!?」

 

 滑空しながら降り立って即座に標的となるドラク達を次々に緋色の霊体の拳で打ち倒すやら、竜骨盾のシールドバッシュで拭き飛ばすやら、巨大な竜骨弩や剣を操って次々に相手を行動不能にしていくやらと淀みない。

 

「クーラせんせー。相手が普通にドラク並なんだけど~というか、ドラク乗ってるの普通に元ヴァルハイル兵って実戦と変わらなくない?」

 

「愚痴らないでさっさと片付けましょう。ああ、ちゃんと幼女の方達には傷付かないよう手加減して下いね? エネミネさん」

 

「はいはい」

 

「先日、顔が真っ二つになるかと思ったって“へんきょーはく”ちゃんが怒ってましたよ?」

 

「あっちが悪いよ~だって、御伽噺の人だよ? 山を割って、湖を蒸発させて、大軍を雷の雨で全滅させたとか言うから、本気出しても大丈夫かなって思うじゃん」

 

「はぁぁ……一応、今は仲間なんですから」

 

 クーラが溜息を吐きながら呟く。

 

「というか、あれが往年のお父様達が畏れた鋼鉄騎士の成れの果てとか。本当にウチの隊長【四卿】全員倒しちゃうんじゃ?」

 

「どうでしょうか。少なからず、個別になら可能でしょうが、分断出来なければ、簡単な話でもないでしょう」

 

 呪紋で伸ばした爪で引き裂くやら、呪紋で高速飛翔しながら弩の矢の雨の中を跳びながら飛び蹴りで吹き飛ばすやら……遠征隊の新入り達もまったく問題無くガシン達の部隊に続いている。

 

 そうして竜骨弩が輸送型呪霊機の後部ハッチからバシバシ打たれて援護しており、完全に迎撃部隊が制圧されるまで数分。

 

『おわったー!!』

 

「おつかれーメル」

 

「はい。お疲れ様でした。メルさん」

 

 上空から大ジャンプして、地表に降りる寸前に呪紋で減速した巨人の少女がトテトテと仲間達の下へと戻って来る。

 

 呪霊機を操縦している蜘蛛達はその長い胴体を持つ機体を黒蜘蛛の巣から少し離れた場所に新設された滑走路に着陸させに向かった。

 

「おう。お前らぁ~~集まれ~~“へんきょーはく”の部隊はもう上がっていいぞ~~」

 

『言われずともそうするとも!! 我らはもう寝る!!』

 

 ガシンの声に今まで戦ってボロボロにされていたドラク達から幼女達が這うように脱出。

 

 そのまま集まると現地解散して、集まって来た養育蜘蛛達に付き添われて消えていった。

 

 残されたドラクは蜘蛛達がやって来て触れると全て金属の流体の如く変化して野営地の端の倉庫街へと彼らを載せて消えていく。

 

 鋼鉄騎士と彼が束ねる元ヴァルハイルの一党の体力は幼女のままなのであまり長時間ドラクに乗ると気絶してしまうのだ。

 

 それ程にドラクというのは戦争中は過酷な使われ方をするものであり、機械部分が半ば生身と化してしまったヴァルハイルの幼女達は自分達の年齢から来る体力の無さは知っていて、昔の大人だった頃のように乗り回してヘロヘロになるという事がよく起こっていた。

 

「さてと、取り敢えず形にはなって来たが、今後はオレ達と同じくらいの階梯の使徒だの神様相手に戦う事も想定されてる。特にヴァルハイルの主神が出て来る可能性もあるって話だ。ダラダラ訓練してても問題だからな。こっからは各自の一番強い技能や能力を研いで基礎以外の得意分野を限界無く伸ばしていく事になる」

 

 ガシンが先生役をしている合間にもアルマーニアのヒオネを筆頭にした女性陣。

 

 侍従やらミーチェ、アラミヤ達が遠征隊に訓練後の一杯として秘薬を持ってくる。

 

 それを今では慣れたものでガシンの言葉を聞きつつ呑んでいる遠征隊の姿は前よりもかなり慣れて来たと言うべきだろう。

 

 肉体の能力を秘薬で常に底上げしつつ、それに見合った能力の使い方を熟知させ、基礎的な技能を揃え、その上で得意分野を伸ばしていく。

 

 少年が作ったカリキュラムは今や戦う者達の教科書みたいなものだ。

 

 主兵力となるスピィリアを筆頭にした蜘蛛達はまだ秘薬だの何だのは飲んでいなかったが、それもこれも秘薬に使われる物資が自然界以外では採取出来ない希少品が多い事に起因する。

 

 結果としてスピィリア達は遠征隊のような底上げしつつの訓練とは違って、技能と知識を詰め込んで呪紋と体術主体の完全な先兵性能を磨く事になっていた。

 

 遠征隊の隊員達は詳しくは知らないが、今もニアステラ、フェクラール、冥領エルシエラゴにある黒蜘蛛の巣や付近の街では夜間訓練が毎日大勢の蜘蛛達によって代わる代わる日常的な活動の横で行われており、その連携訓練は遠征隊を凌ぐ緻密な一糸乱れぬ群体行動を旨とする蟲の本能によってかなりの練度に仕上がっている。

 

 いざとなれば、彼らが瞬時に敵の撃滅の為に軍隊として動く事はこの時点で可能となっていたが、北部勢力も含めて、多くはそれを知らない。

 

 昼時は起きていない蜘蛛達が全体の規模からすれば少数働いているが、蜘蛛達の本来の本領を発揮する時間は夜である為、活動時間帯には殆どの蜘蛛以外の者達は寝ている。

 

 最も闇が深くなる時間。

 

 蜘蛛達が合戦形式で戦場と定めたフィールドに出張っていき。

 

 対モルド、対ドラク、対四卿、対神格想定の訓練でそれっぽい目標を自分達で作って実戦しているなんて光景は誰も見てなかったのである。

 

「(´・ω・`)(今日も四卿に3分の1も壊滅させられたなという顔)」

 

 彼ら戦う蜘蛛達の多くはこうして少年の教え通り、どんな相手にも完全勝利する為に与えられた手札で思考し、数によって強者を推し潰す戦術を磨きながら、日々技量を底上げするのだった。

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