流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第61話「ヴァルハイルの鋼塊Ⅹ」

 

―――4日目。

 

 少年が目を覚ました時。

 

 そこにはもう2人の少女が待ち構えていた。

 

「?」

 

 自分の頭がおかしくなったのかと訝しんだ少年であるが、片や昨日助けたばかりの虐めっ子であり、片やヴァルハイルからも北部種族からも忌み嫌われる元呪われっ子な彼女リテリウム・バウツであった。

 

 紅の髪を束ねて、自分の上に座ってフフンと何故か得意げな顔になっているリリムはアミアルに対し、優位に立ったとばかりに無い胸を張っている。

 

「重い……」

 

「は!? それは無しじゃろ!? お兄様よ!? カワイイ妹が領有権を主張せねば、お主はこの朝から我が家に侵入していたどこぞの馬の骨に貞操を取られていたのかもしれんのじゃぞ!?」

 

「リリム。邪魔」

 

「そ、そんなぁ!?」

 

 涙目になる少女を自分の上から退かして起き上がった少年がジト目で呪霊機の2人を見やるが、何も知りませんという顔で声一つ発しない。

 

「い、妹がいたのね。アンタ。いえ、貴方……」

 

 アミアルが涙目で少年の横に座らされたリリムを見てから呟く。

 

「……悪いものでも食べた?」

 

「違うわよ!!? 此処の当主にお母様が貴方の侍従として仕えるようにって言っちゃったの!? 仕方なく来てやったの!? いえ、来たの!?」

 

「一々、病気か心配になるからいつも通りでいい」

 

「こ、この!? こんなにカワイくて華奢なアタシが侍従になってやるって言ってんのよ!? もっと喜びなさいよ!?」

 

「そういうのは間に合って無くてもいい」

 

 少年が起き上がり、まだ涙目なリリムを片手で何かの荷物のように小脇に抱え、下に降りていく。

 

 そうして、リビングでお茶を片手にパンを齧っていた仮の父親をジト目で見た。

 

「どういう事か説明して欲しい」

 

「いや、君の“生家”から連絡があってね。“妹さん”が何やら騒いでいるから送るって言われて、こうして朝一で送られて来たんだよ」

 

 エルがにこやかにお茶を飲み干して、今度は朝からステーキを横のボンキュッボンの呪霊機から口に突っ込んで貰いつつ語る。

 

「どうやって?」

 

「ああ、君が連れて来た寝てる時は白い子がいただろ? あの子がね」

 

 オネイロスが裏でイソイソと仕事をしているのは理解している少年であるが、一々その状況を見てはいないので脳裏で確認する。

 

『( ̄д ̄)……』

 

 欠伸をしながら今日は朝から高都の頭上で巣を張りつつ、色々と作業している蒼い蜘蛛が脳裏で思い浮かべた図はこうだ。

 

 何やら第一野営地でリリムが騒いでいる。

 

 今から会いに行かないとダメ。

 

 それでフレイに頼んでオネイロスに転移で送って貰った云々。

 

「それでどうしてアミアルがいる?」

 

「昨日、侍従にどうかって売り込まれちゃって。いやぁ、我が愛しい息子殿も隅に置けないなぁ」

 

 ナチュラルにいいんだよいいんだよと頷くエルに溜息を一つ。

 

「取り敢えず、今日は出掛ける。夜になるまでに侍従の仕事を呪霊機から教えて貰って、作法と家の中の規律を覚えさせたら、好きにさせていい」

 

「りょーかいりょーかい。今日はお休みだからね。まったりやるさ。出来たら教えるよ」

 

「え、あ、い、一緒に―――」

 

「侍従なら侍従らしい服装と振る舞いがある」

 

 少年が未だに衣服が法衣姿なアミアルを見てジト目になる。

 

「う……」

 

「それと自称妹はこっち」

 

「はひゃ?!」

 

 少年がリリムの姿を見やる。

 

 一応、ヴァルハイルらしい服装はしていたが、それだけだ。

 

 ドレスタイプのワンピースはちゃんと合わせて見繕ったのか紅。

 

 一目を引いても竜頭ではないので美人というよりはちょっと良家のお嬢様くらいに見えるいで立ちである。

 

「わ、我をどうするつもりじゃぁ~~?!」

 

「ご飯食べに行ってから」

 

 少年が再びリリムを小脇に抱える。

 

「今日も遅くなる」

 

「了解だ」

 

「あ、ちょ、待ちな―――」

 

 少年はアミアルの言葉も訊かずにその場から走り出し、通路を抜けて透明化している蜘蛛達が後はやっておくからと不可糸のハンカチをヒラヒラ振るのを確認し、玄関先から瞬時に跳躍。

 

「ぬ、ぬぅぉおぉぉぉぉぉ!!?」

 

 紅の少女を連れ立って、近場の人気が無くて話も聞かれない喫茶店へと向かう事にしたのだった。

 

 *

 

「はふぅ……腹一杯なのじゃぁ~」

 

 リリムは腹をさすりさすり。

 

 喫茶店で朝からクソ高い食事で満足していた。

 

 高都は現在、食料生産だけはまともに行われており、戦争中とは思えない程に工業製品以外は全て揃っている場所だ。

 

 商店の他にも様々な品が店先、店内には並んでおり、治安も左程悪化していないのは飲食店が呑気に営業出来ている事からも間違いない。

 

「噂には聞いておったが、此処は生活するには良い邦なんじゃな」

 

 彼女の前にはパン屑が付いた籠と家畜肉を煮込んだシチューが入っていた皿が残されており、ついでのように甘味として冷たい氷菓が入っていた硝子の器まであった。

 

「それで何か問題?」

 

「いや、問題有りまくりじゃろ」

 

 少年の横にササッと映って来た少女のツッコミが入る。

 

「その……呪いが解かれたとか何とかの後」

 

「後?」

 

「何か体がやたら……」

 

「やたら?」

 

 少年をズサッと引き摺った少女が店内の男女共用のトイレへと誰も見ていない事を確認して引き込んだ。

 

 そこでパンッと両手を合わせると呪紋らしきものが少女の手の甲から浮き上がって消え去り、グムグムと少女の肉体が目の前で大きく変貌していく。

 

 そして、残されたのは衣服まで偽装。

 

 否、可変であるらしい不可糸を呪紋で染めたソレまでも大きくなった少女が16くらいになった姿であった。

 

 しっかり出るところが出て、引き締まるところは引き締まる。

 

 ついでに大き過ぎず小さ過ぎず。

 

 年頃らしい体型となっていた。

 

「……成長期?」

 

「違うわぁ!?」

 

 ベチンとツッコミを入れた少女が慌てて口を塞ぐ。

 

 少年が仕方なく事情をゆっくり聴けそうなところを考えて、休日の校舎。

 

 ロクシャの園の人気の無い体育館倉庫に刻んでいた霊殿のところまで瞬時に転移を実行した。

 

 彼らの席は後からフワリと紙幣が虚空から舞い降りて中央に置かれるのだった。

 

―――5分後。

 

「そのな? リケイ殿が言われるには我は成長が阻害されていたそうなのじゃ」

 

「見た目通りの歳じゃなかった?」

 

「い、いや、あれくらいの歳じゃぞ。今も同じじゃぞ。誤魔化してはおらんぞ!!」

 

 年齢の話に女性は食い付く。

 

 という常識を知らない少年は必死な少女の言葉に頷きつつ、尻尾で投げ合う球技用のボールが大量に入った籠の上でリリムの話を静かに聴く。

 

「何でも本来ヴァルハイルの中にいる多くの祖となる竜の直系種は人外となると成長が著しいのだとか」

 

「著しい?」

 

「大陸では追われたヴァルハイルだが、先祖返りはいるらしくてな。傍系の傍系の傍系みたいな血筋に人外が産まれると数年ですぐに普通の子供よりも早く大人に近いところまで肉体の年齢が上がるらしい」

 

「生存の為に?」

 

「うむ。リケイ殿もそう言っておられた。でも、我が一族は呪われていたから、その成長も遅れていたようで」

 

「……それが重大事?」

 

「そ、それも重大事なだけじゃ!? というか、最初に出会った時のあの恰好良い我が騎士様はどうなってしまったのじゃ?!」

 

「これが素」

 

「―――だ、騙されたのじゃぁ~~?!! そこらの悪徳結婚詐欺師より酷いのじゃぁ~~!?!」

 

 愕然として少女が思い切り理想の壊れた音を響かせてガクリと項垂れる。

 

 ついでに少年の背後で必要無い時は透明化して待機している2人が『いい気味ですわ』とニンマリしていた。

 

「グス……本気で凹むのじゃ。うぅ……だ、だが、それは良い。この際、それよりも大問題が起きたのじゃ」

 

「大問題?」

 

「うむ」

 

「妹達も大きくなったとか?」

 

「いや、あの子達はそのままじゃ。問題はな。こ、これ……」

 

 少年がリリムがドレスの内部からゴソゴソと出したソレを手に取る。

 

「角?」

 

「生え変わるらしいのじゃ。今、頭に角が無いじゃろ?」

 

「そう言えば……」

 

 確かにリリムの頭には竜角が少しも見られず。

 

 元々生えていたところには肌色が見えており、頭骨に異常も無さそうだった。

 

 ただ、僅かにこんもりと取れた角の部位が薄く盛り上がっていて、生え変わりというのは事実らしいと確認出来る。

 

「いきなり、ポロッと取れて思わず卒倒したわい」

 

「これが重大事?」

 

「……その、これが取れる時にな」

 

「?」

 

「……第一野営地が消し炭になるところだったのじゃ」

 

「―――どういう事?」

 

 少年が思わず訊ねる。

 

 すると、ポツポツと少女が話し始めた。

 

「……つまり、海が沸騰しそうなくらいに体が熱くなった?」

 

「う、うむ。いきなり熱くなって、すぐに異変を察知して跳んで来たルーエルが我を滅茶苦茶な速度で海に放り込んだのじゃ」

 

「死ななかった?」

 

「いや、今の我の体はかなり頑丈になっておるそうだ。それで、浜辺から100mくらい沖まで海面を跳ねて目が回ってフラフラしているところに思いっ切り沈んだら……」

 

「沈んだら?」

 

「……ノクロシアがちょっと溶けたのじゃ」

 

 思わず少年が無言になる。

 

 あの今も入れないノクロシアは殆ど手が付いていない。

 

 もしもの時の為に不可糸でルーエルがあちこちに細工をして、呪紋やらを敷設し、外洋からは見えない罠を大量に仕掛けている最中でもある。

 

「どうやらルーエルはノクロシアの外壁付近ならば助ける時もすぐに行けるから傍で沈めようとしたらしいのじゃが……」

 

「ノクロシアが溶ける……本当に?」

 

「うむ。ちょっと蜘蛛達に確認してみると良いぞ」

 

 少年が瞬時に第一野営地で海の護りに付いているアルメハニア達の視界を共有すると遠方のノクロシアの外壁付近が確かに大穴を開けて歪んでいた。

 

 周囲には蜘蛛の巣らしきものがベタベタと張られて、補修されている。

 

「その熱で何か体に異常は?」

 

「い、いや、それは無かったのじゃが、その時に体も急成長してな。今はこっちの方が本当の姿なのじゃ」

 

「ふむ……」

 

「ノクロシアの中には?」

 

「ルーエルが入れるか確認したが、その後すぐに封鎖していたのじゃ。外から入れず、中から何かが出て来ないように」

 

 少年が昨日という言葉の意味を思う。

 

 同じ日に同じではない行動を積み重ねる事で情報伝達に齟齬があったり、一部の行動が致命的に積み重なる事を避ける為、少年そのものが知らない事もまた重要としてある程度の情報封鎖をしていた。

 

 のだが、それでもこういった事が起こり得る。

 

 それは同時に少年が未だ到達した事の無い未知が未だ島の内部で蠢いているという事に外ならない。

 

 あの神の使徒として現れた妖精達を見れば分かるように未だ少年が此処でしている事を知っている者達は裏から糸を引いている。

 

 それがただ神々なのか。

 

 あるいはその神々の一派なのか。

 

 争い合う陣取り合戦染みた事をしている神々の戯れなのか。

 

 それが分からずともやるべき事をは明確だった。

 

「地下遺跡への遠征は保留。遠征隊にノクロシアに入る準備をさせておいて欲しい。出来る?」

 

「う、うむ!! 任されたぞ!! あ、そ、それでなのだがな」

 

「?」

 

「リケイ殿から書状を預かっていたのじゃ」

 

 少年が渡された紙切れを見やる。

 

―――リテリウム殿は既に竜属性最高位火力を誇る神話時代の呪紋を会得しておいでです。火力役として遠征隊に推薦致します。

 

 少年が老爺の顔を思い浮かべた。

 

(あの時、出会った時に命掛けで使ってた呪紋……“アルマーニア総軍を6割以上持って行った”アレが使える?)

 

 少年がチラリとリリムを見やる。

 

「……遠征隊に入りたい?」

 

「う、うむ!! 我が騎士よ。我はお主に護られているだけは嫌なのじゃ!! ちゃんと、恩返しがしたい」

 

 その真っすぐな瞳。

 

 一番最初に出会っていた頃から影はあれども変わらない光。

 

「……解った。その代り、ちゃんと訓練する事。それと色々と準備も怠らない事。それが出来るならいい」

 

「ッ、わ、分かったのじゃ!? ぜ、絶対ちゃんと遣り遂げてみせるぞ!!」

 

「えらいえらい」

 

 少年が頭を撫でるとちょっと不満そうながらも嬉しそうな複雑極まる顔でリリムは唇を蠢かせていたが、結局は笑みを浮かべるのだった。

 

「じゃあ、秘薬は増し増しで」

 

「え゛……」

 

 固まる少女の前で少年がオクロシアのエルガムの病院内にいる蜘蛛に現在の秘薬ストックから必要なものを全て書き出させて紙に認め、すぐエルガムに用意して貰う事にした。

 

「10日あれば、遠征隊で活躍出来る」

 

「あ、あれを10日……」

 

 思わずリリムの顔が歪んで額に汗が浮かぶ。

 

「後、仲間達の事を考えて呪紋を使う事」

 

「そ、それはぜ、絶対に間違えぬ!!」

 

「解ってるならいい。みんなで生き残る」

 

「う、うむ。うむ……帰って来たら立派な姿を見せてやるのじゃ♪」

 

「早めに帰る。それまでみんなを頼む」

 

「っ、ニアステラは我に任せよ!!」

 

―――【ニアステラは護って見せる!! 我が、お前達を!! 大切なものを今度こそ!! 任せよ!!】

 

 フラッシュバックに僅か懐かしさを覚えて。

 

 少年が静かに頷いた。

 

 自分の前に立ち。

 

 幼い体で必死に戦った相手が今は後ろにいる。

 

 でも、今はソレで良かった。

 

 誰もが最初からスゴイ奴にはなれない。

 

 誰もが到達出来る場所まで到達出来るわけじゃない。

 

 だから、今は自分が最前線を走る。

 

 その気持ちさえあれば、少年は決して今の自分が負けるとは思わなかった。

 

 命を賭して消えて行った、自分に託して死んでいった者達の顔を今も覚えている限り、此処まで到達した少年に怖いものなど在りはしない。

 

「じゃ、送る」

 

「へ?」

 

「また、今度」

 

 少年が指を弾いてニアステラに少女を送った。

 

 第一野営地の霊殿横の砂浜に瞬時に到達した少女はきっと驚いている事だろうが、少年には今日も予定が詰まっている。

 

「今日は裏組織の切り札の人達のとこに行く」

 

『まったく、わたくしの騎士も激甘ですわね』

 

『ええ、まったくですね。あの子が呪紋を少しでも間違えたら、野営地なんてそれこそ一瞬で蒸発してしまうのに……それを知っていて尚そうするのですから』

 

 後ろの煩い二機の言葉に肩を竦めつつ、少年は高都から少し離れた山岳地帯と隣接する地域へと走り出す。

 

 待たせて置いた事件は未だ進んでいない。

 

 動き出す前に全てを潰す。

 

 それが少年の目論見であり、全ては今後の下準備。

 

 例え、相手が何であろうと負けるつもりは無かった。

 

 *

 

―――高都郊外。

 

 実は高都の郊外は荒野ばかりではなく。

 

 それなりに自然豊かな場所も存在する。

 

 特に工業製品の製造元である工場群からの廃棄物の多くは呪紋で極めて無害化されてから最終的に処分されており、汚染地帯が周囲に広がっているという事は無い。

 

 ただし、その汚染そのものが無くなるわけではなく。

 

 蓄積されている為、高都の周辺域では植物や動物の異常は少なからずある。

 

 ただ、それでも許容範囲というのが現実であり、無論のように汚染が届いていない場所では様々な産品が生産され、高都に持ち込まれる事になっている。

 

 故に農村部もそれなりに機械化されており、旧いドラクやモルドを使う者達もいれば、荒くれ者が高都のように徒党を組んで裏組織をやっているという事は無いが、仕事を請け負う何でも屋としているにはいる。

 

「はは、今日はオレのおごりだよー♪」

 

 故に酒場で気前の良い男がいれば、大抵は汚い仕事をして荒稼ぎした荒くれ者と相場は決まっていた。

 

 だが、荒くれという程に荒くれの者がそういう世界で成功しないというのも事実だったりする。

 

 特に単独で仕事を請け負う一匹狼が多い高都に拠らない者達は実力主義であり、実力の高さというのは生来の資質がモノをいう呪紋と体術、努力によって得られる知識や技能、金によって紡がれる兵器や道具という形で如実に変化する。

 

 である以上、高都のはみ出し者というのはどうにも一癖二癖有りそうな連中ばかりでチンピラと呼ばれるような者達は逆に淘汰されて残っていない。

 

 仕事は優秀な奴の総取りであり、稼げないチンピラは荒くれ以下として蔑まれ、ひっそり工場労働者に戻る者が後を絶たない。

 

「いやぁ、先日の高都での襲撃で上が軒並み消えてさぁ。借金や柵が無くなっちゃって、ぜーんぶ自前で使える金しかない!! 嬉しいねぇ」

 

 白い髪の細い青年がその繊細な相貌とは裏腹にガハハと豪快に笑って、薄手のシャツの胸元を開けて、ジョッキからグイッと麦酒を呷る。

 

「他の連中も暗闘してた連中も後は自由気ままに生きてりゃいいってんだから、飲まずにいられないよね♪」

 

 酒場でただ酒中の者達はそんな白い髪の優男の話など聞いちゃいなかった。

 

 が、男の他にも乾杯する者達はいる。

 

「いや~意外だったよなぁ。アバドーンで最弱で最年少が生き残るとかさぁ」

 

「それはアレだろ。運も実力の内って事だ」

 

「ねぇ~~それより丸鳥の香草蒸し頼んでいい?」

 

「いいよいいよ~~今日はぜーんぶオレのおごりでーす!! 親愛なる裏社会で駒にされてた諸君!! 君達は自由だ!! 今日は無礼講だぜ~~」

 

「呑み過ぎるなよ。死亡の裏がようやく取れただけだ。殆どの連絡先も潰れて、繋がるのは歓楽街のみ。各地で殺し合ってたオレらがその必要もないってだけで組織の残存部分は全部、歓楽街の小僧行き。分かるな?」

 

「いいんだよ~~今はそんなのどうでもさ~~オレらがどれだけ強かろうが組織に服従の呪紋で制御されてたのも今は昔。いやぁ~~首輪が無くなった犬は自分で生きていくものだよ君ぃ~~」

 

「何じゃ何じゃもう飲んどるのか? 殺し合って来た我らが今更、送別会でもあるまいに……」

 

「そうよねぇ……それにお店も、もうちょっと高いとこ無かったの?」

 

 白い男の周囲には老若男女。

 

 複数名の男女が集まっていた。

 

「ちなみに~~アバドーンで死なずに残ってた高都の組織幹部や準組織幹部連中はみーんな処分しといたから、もう追手も来ないよ~~いや、もう歓楽街の小僧ちゃんに粛清された後って話は聞いてたけどさぁ。数人しかいなかったマジで」

 

「へぇ、まだそんな強い駒残ってたの? 高都の歓楽街連中って」

 

「それがさぁ。数百人の呪霊機載りや呪紋マシマシの中堅下っ端連中。一番芽がありそうな連中が徒党を組んで襲ったらしいんだけど、全員たった2機の呪霊機にやられたらしいんだよねぇ」

 

 白い青年が汚れた口元を拭って、人間基準なら美形な口元を袖で拭う。

 

「そりゃ面白い。オレらの中でも出来る奴は多くねぇな」

 

「何でも遠距離用の弩と精神干渉呪紋で一網打尽。心が折れた連中は精神異常で病院行きらしい」

 

「で? それがそんなに酒の肴になる話なん?」

 

「あはは、そいつの主がさぁ。クッソやべぇわ。オレ絶対勝てねぇわ。うん」

 

『――――――』

 

 周辺の喧騒が白い青年の言葉によって僅かに会話に参加していた者達から遠ざかっていく。

 

「これでもさぁ。呪紋見る目には自信あるわけよ」

 

「知ってるよ……最強」

 

「その名前も返上かなぁ」

 

「テメェがそこまで言う人材か。面白い」

 

「いや、止めとけ止めとけ。自分で言うのも何だが四卿相手にするより絶対マズイからな?」

 

「―――そう思う理由は?」

 

「ん? ああ、簡単だよ。かなり遠巻きに高都を上空から観察してたんだけどさぁ。昨日の時点で四卿か皇太子連中、もしくは取り巻きが襲撃者と戦闘してんのかなぁって思ってよく観察してみたら、、オレが見てたのそいつ一人だったんだよねぇ……」

 

「どういうこった?」

 

「だから、オレが複数人高都で戦闘状態になってる連中が戦ってると思って覗いたら、たった一人だったんだよ」

 

「……つまり、そいつの強さは……」

 

「ま、軽く見積もっても四卿複数人に襲われるよりヤバいね」

 

 白い青年の言葉に多くが押し黙る。

 

「種族連合か?」

 

「いやぁ? アレはそういうんじゃないな。ついでに御供の呪霊機もクソヤバだね♪ オレ初めて妖精とか喋れる呪霊見たもん」

 

 白い青年がジョッキを呷る。

 

「マジかよ……妖精に喋る呪霊? 呪霊でまともな知能と会話出来る奴とか。確か1世紀に1人いるかどうかとか何だろ?」

 

「それこそアレじゃない? 御伽噺の亡王とか、緋王とか。その階梯の呪霊か。それに為る素質のある奴か。あるいは外の大陸にいるって言う五大災厄くらいじゃない? 確か緋霊が呪霊化すると例外なく生前と同等の知能があるとか聞いた事ある」

 

「妖精の方も問題だろ。高都の上の連中は知ってんのか?」

 

「いやぁ、知ってたら今頃、捕まえる為に高都が火の海だって」

 

「……だろうな。聖域の鍵がホイホイ歩いてたら、そりゃそうだ」

 

「で? 最強様は一当てもせず逃げ帰って来たわけ?」

 

「分の悪い賭けは嫌いなんだよねぇ。勝てる、かもしれないが、勝てたところで相手は一人じゃない。ついでに喧嘩を売るにはあっちが物騒過ぎる。後、そいつらから還元蝶の波動も出てた」

 

「―――蘇るのか。それに物騒って?」

 

「そいつの部下? なのかな。都市の中に見慣れない蜘蛛型の蟲が大量にいてさぁ。ウルガンダの勢力なのか分からんけど、そいつら知能高そうな上に連帯して何か高都で作ってんだよねぇ」

 

「はぁ? んだよソレ」

 

「さぁ? 知りたくないし、知られたくもないね。ついでに一番強そうなのはこっちに気付いたけど、何もしないなら別に構わないって様子だったから、さすがにちょっかい掛けなかったし」

 

「もう高都はダメそうか?」

 

「かもしれない。いや、もう姿を偽装して種族連合側の領地で過ごした方がいいんじゃない? 少なくともオレはもう絶対に高都には近付かないし、明日には種族連合側の都市に行くよ」

 

「お前がそう言うって事は本当にヴァルハイルはお終いかもな……」

 

「はは、最弱が最強になっても、いつかは負ける。せめて、【器廃卿】がいれば、立て直しが利いただろうに……最初に落ちちゃったのが彼なのが……痛過ぎる」

 

 白髪の青年がジョッキを呷って世の中分かんないよねーと笑う。

 

「銀鱗も一緒に沈んじゃったらしいしね……」

 

「彼が一番死に辛いはずだったんだけどなぁ。どうやって倒したやら……事実上ヴァルハイルで最後まで生き残るのは彼だと思ってたのに……オレの目も節穴になったかな」

 

 癖の強そうな男女達がガヤガヤやっているとカランと酒場にまた客が1人入って来て、それを歓迎しようとした白い青年が黒い外套の少年を見やり、その背後で透明化した二機の呪霊機を見やり、こりゃダメだと大人しく手を上げて片手で店の外を指差した。

 

 少年がチラリと自分を見ている者達を眺めてから、スゴスゴと外に出ていく。

 

「オイ。何だアレ……よく分からんぞ。アレか? アレなのか?」

 

 戦う中で自分の力を磨いて来た者達が理解してしまう。

 

 いきなり四卿より強いと肌と感覚で理解出来る相手に対して出来る事はない。

 

「分からなくていいよ。それが幸せって奴だ」

 

 男の他にも実力だけはある者達が自分を見ていたソレの姿に即時どうにもならないと匙を投げて溜息を吐く。

 

「あのさぁ。何なの? アレ?」

 

「何なのって聞かれても、見た通りとしか言えないよね。これで君達も分かってくれたかな。オレの気持ちってヤツ」

 

 白い青年が仕方なさそうに酒宴を切り上げて、そろそろ昼過ぎの通りに出る。

 

 いつもならば、周辺に誰かいそうなものだが、生憎と周囲に人気は無く。

 

 酒場の周囲にある家々にも不在であるようだった。

 

「一体、何かな? 実は今日仲間内で昼から飲んで夜までに酔っぱらって、明日の朝には解散という流れなんだけど」

 

「……特殊な魔眼。それに亞神?」

 

「あ、分かっちゃう? 実は先祖返りなんだよねオレ」

 

 青年が微笑む。

 

「(リリムもそう。案外、ヴァルハイルは先祖返りの亞神が多そう)」

 

 亞人と呼ばれる者達の祖先。

 

 神と呼ばれる者と人の混血者。

 

 始祖竜と呼ばれるカルトレルムの直系竜種も小神と呼ばれていた神の一種であった。

 

 つまり、神の血を引く者達は多くの場合、現代では先祖返りでしか見る事が出来ないが、他の可能性としては今や大陸から駆逐されてしまった受肉神と人の間の子供くらいだろう。

 

「オレはラーウィル。そう呼ばれてる。ここら辺で四卿を除けば、一番強いんじゃないかな。一応」

 

 少年が白い青年の顔が分からない事にも納得した様子になる。

 

 青年は美形だ。

 

 だが、美形と名前が書いてある札を顔に這っているかのように少年にはのっぺらぼうの顔無しに見えた。

 

「存在が特殊? 顔が無い。魂の問題? 無機質な―――」

 

「おっと、それ以上は止めておいた方がいい。これでもこの(^▽^)で愉しくやって来たし、今もコレがオレの(^▽^)だよ」

 

 言語が聞き取れずに意味が理解出来た少年が何らかの概念的な問題なのだろうと納得する。

 

「神に近い?」

 

「そういうのさ。君もどうやら特殊だが、オレより強いのなんて早々いないと思ってたんだけどな」

 

「先輩?」

 

「ははは、その言い方は遠慮しておくよ。君程、オレは年老いちゃいない」

 

「……強さは四卿並。ヴェルゴルドゥナより個体としての資質は強い」

 

「―――そうか。君か。あのヴェルゴルドゥナ卿をやったのは……」

 

「そう。強かった」

 

「はは、だろうね。資質も無いのに努力と技術と才覚で伸し上がった彼だから、最古の四卿としてヴァルハイルの屋台骨には相応しかった。だが、それが崩れた今、加速度的に全てが崩壊中だ。君のせいでオレらの人生設計どうしてくれるんだって話なんだけどさ。此処に来た理由は?」

 

「ヴァルハイルを潰す前の下ごしらえ」

 

「オレらはヴァルハイルって鍋に入ってる野菜か。言い得て妙だが、そんなところかもしれない」

 

「話し合いで済めば、それに越した事は無い。ダメなら処分」

 

「そんな簡単に処分とか言うなよ。これでも一生懸命生きてるんだぜ?」

 

「それはどんな生物も同じ」

 

「じゃあ、どんな話し合いになるのかご教授願おうかな」

 

「ヴァルハイルから手を引いて、種族連合に相対しない。これで開放する」

 

「大きく出たな。それを言うだけの強さはあるが……故郷見捨てろって軽く言いやがって……」

 

 青年が溜息を吐く。

 

「これから高都を落とす。死人は出来れば軍警察だけにしたい」

 

「だから、消えろと?」

 

「見ててもいい。邪魔しないなら」

 

「はは、これでもウチの連中。おっと、怒られそうだが、同業者連中って軍警察出身者もいるんだよね」

 

「命よりも大切?」

 

「かもしれない連中もいる。でも、それを諦めさせる権利は君にも無い」

 

「個別でもいい」

 

「そういう話じゃあないんだ。オレらって殺し合いはしても自分の流儀は死んでも護るってのが生き方なのさ」

 

「そっちの流儀は?」

 

「少なからず人の生き方を曲げさせようとする輩に手加減はしない。ま、君には必要なさそうだけどね」

 

「……今日は帰る」

 

「いいのかい?」

 

「此処だと被害が出そう」

 

「同意しよう。じゃ、オレは酒場に戻るから」

 

 白い青年が手を振って少年を見送ってから酒場の中から顔を出して見守っていた連中をシッシッと追い払って再び酒場のカウンターテーブルに座る。

 

 すぐにジョッキで麦酒が出された。

 

「はぁ~~~生まれてから一番緊張したんじゃないかってくらい緊張したよ~~」

 

 それを聞いた周囲の人々が追い返した白い青年に内心で感謝しておく。

 

「で? 何だって?」

 

「高都を落とす前に面倒なオレらを潰す気だね。ありゃ」

 

「潰されるのか? オレ達?」

 

「ま、あの世で後悔するか。ヴァルハイルから出てバラ色の人生を送るかの二択みたいだよ?」

 

「本来なら、此処でオレらは処分されてるはずだって聞こえるが?」

 

「問答無用じゃないだけまだマシさ。どうやら被害を出さずに高都を攻略したい様子だし、一般人には優しいかもね」

 

「オレらはどうなる?」

 

「行ったら自殺と変わらないとだけ言っておくよ」

 

「どうしようもなさそうな話じゃな」

 

「これでも精一杯虚勢張ってたんだから、これ以上は勘弁してよ~~。オレもさすがに君達の我を通すのに同行したりしないからね?」

 

「此処は切り抜けられたって思っとくわ……」

 

「で、本格的に見た感想は?」

 

「冗談が冗談を着て冗談言ってるんだ。冗談以外の何かじゃない」

 

「つまり?」

 

「アレは神殺してるね」

 

『―――』

 

 周囲に沈黙が下りる。

 

「いや、黙ってても仕方ないから言うけどさ。何処かでこの世界にいる神を殺してる。前に同じような奴を見た事があるんだけど、そいつは随分と昔に受肉神殺して、その恩恵を受けてた。あっちはそんなオレが強いと思う奴と天地の差がある存在なわけだ」

 

「神様より強い連中に上下なんてあるのかよ?」

 

「それがあるのさ。神殺しをするとそいつは神になる資格を得るってのが神代の決まりだったって話知ってる? 神の階梯によっては最大級の主神程じゃなくても時間を掛ければ、最上位格まで上り詰められるのがそういう連中だ」

 

「はぁ……で?」

 

「複数の特殊な呪紋を常時発動させて、内在している効果だけで20種類以上は常駐。ついでに脳裏で貯め込んでる呪紋がクソ多い。恐らくね」

 

「呪紋を呪具じゃなくて、頭で貯め込むのか……数の予想は?」

 

「僕ら全員どころか。軍の総数合せたより多いんじゃない? いや、知らんけど」

 

「知らんけどで済ませるな。つまり、どうなる?」

 

「脳裏の呪紋の幅によっては今から高都を消し炭に出来る。しかも、指を一回弾くような時間で……」

 

 もはや多くの者達は何も言わなかった。

 

「勝てる可能性は?」

 

「四卿クラスを10人出せば、何とか倒せるかな? 単なる軍隊じゃ話にならない。ついでに言えば、全てを犠牲にしてって但し書きと戦略呪紋兵器を数十単位で当てればって可能性も付け足しとく?」

 

「不可能でいいよ。もう……」

 

「だよね♪ オレはいちぬーけた~~まだ、死にたくないからもう行くわ。此処のお代は出しとくから、飲み終わったら各自離脱でいいと思うよ。じゃ、生きてたらまた会おう諸君」

 

 白い青年がスタスタと歩いて酒場から消えていく。

 

「……はぁ、四卿の家系っつーのも楽じゃねぇんだな……」

 

「【白鱗卿】ラグス・バルタザルが父ってだけでゲッソリするだろ」

 

「家に生まれた久方ぶりの亞神だ。ま、グレても、腐っても、四卿の子供だよ。あいつは……」

 

「故郷に戻るくらいには郷土愛に溢れてて大変よろしい」

 

「それにしてもまだ現存するって噂の【白鱗】は出て来るのか?」

 

「無理だろう。ヴァルハイルが滅んだ時の伝承では辛うじて生き永らえただけで寿命が近かったという話もある」

 

「本来、ヴァルハイルを守護する“7つの鱗”……セブンス・ロアが今や2つだからな。滅びを何とか回避しようとドラクを造ったって、無いもんは無いと」

 

「【紫鱗】は教会との戦いで討ち死に。【黒鱗】は追放された島で受肉神と相打ち。【蒼鱗】は今や本体が消滅して、元亞神の後継者が1人。【銀鱗】は最後の末裔が先日、器廃卿と共に消滅。【黄鱗】はこの数百年で数を増やしたが、未だ主となるべきモノが不在。そして、呪われた最強の【紅鱗】は……子孫が行方不明……」

 

「【竜神カルトレルム】の加護も……もう有るのか無いのか」

 

「【角の騎士レメトロ】が最後の頼みの綱か?」

 

「どうだかな。四卿を欠いて、軍は弱体化。シシロウ卿も直轄地が何者かに落とされて以来、何処にも顔を出していない。あの生き残った馬鹿皇太子共に期待する馬鹿はいるか此処に?」

 

「せめて、一番まともなのが残ってればな……何で一番ダメそうなのが残るんだよ。悪運だけは良いって事で片付けられない損失だろ……」

 

「なぁ、昔話は止めようぜ? どうせ、ダメな時はダメだろ?」

 

「ふ、そうだな。呑むか」

 

「ああ、その後に身の振り方を考えても遅くない」

 

 こうして彼らは今日の中に閉じ込められ、明日に向かおうとしたところで今日の宴を繰り返す事となる。

 

 一人、自らの意思で出て行った白い青年だけが宴からは消え失せ。

 

 新たな戦いの風がゆっくりと吹き始めるのだった。

 

 *

 

―――高都高層部。

 

 あちこちにある高都の高層建築の殆どは王城から列なる通りにある。

 

 殆どは商業行政軍事に関する組織が優先されて使用している。

 

 その中には勿論のように嘗ての裏社会が用いた子組織などがあるのだが、組織本体を掌握したマートンは子組織までは未だ手が回らず。

 

 そのせいで子組織の統制は後回しにされていた。

 

『―――ぐ、が?! 消火設備急げぇえええ!!? ゲホゲホッ?!』

 

 そんな高層建築の最中。

 

 大量の煙が吹き上がる施設内。

 

 次々に男達が機密設備内の炎を消そうとして消火器材を動員していた。

 

『だ、ダメです!? 火の手が収まりません!?』

 

『クソゥ!? いきなり何だってんだ!?』

 

『観測設備室が火元と思われます!?』

 

『逃げられたのか!?』

 

『わ、分かりません!? ですが、この炎では!? あの密室から逃げる事は!?』

 

『クソ!? マートンの手が迫ってるって時にもういい!! 此処を放棄して逃げるぞ!! 軍警の下っ端には握らせてある!! 外の呪霊機に乗り込―――』

 

 竜角に竜頭の男達が逃げ出そうとして誰もが脚を取られる。

 

 理由は単純であった太くて白い縄のようなものが彼らの両足を拘束して、火元となる設備室に続いていたからだ。

 

『な、何だ!? 何だ!? コレは!? 呪紋で攻撃しろぉ!?』

 

 しかし、彼らが呪紋を用いて縄を切断しようとした時。

 

 彼らの肉体が脱力し、大量の魔力と霊力が吸い上げられていく。

 

『ぁ、ああぁあぁ!? に、逃げ―――』

 

 そうして凡そ24人の男達はその場で干乾びながら猛烈な炎に撒かれて消し炭になっていくのだった。

 

 そして、火元となっているはずの設備室内。

 

 少年は水槽に入れられて脳髄から脊椎までを持つ者達の視神経が接続された機械化された瞳がビルの外部に向けられているという明らかに人道に反しまくりの観測施設で外の炎も気にせず連れて来た竜蜘蛛達に手伝って貰いながら、水槽そのものに複数の呪紋を書き込んでいた。

 

 カリカリと勤勉な蜘蛛達の呪紋の刻印には一部の隙もない。

 

『こっちはよろしいですわよ』

 

『こっちも大丈夫よ』

 

 エルミとフェムが部屋の壁面に書き込んでいた呪紋の準備完了を部屋の中央で瞳を閉じている少年に告げる。

 

「集団転生用の呪紋。これで行けそう」

 

『というか、その分の還元蝶どうしたんですの? 大量に使ったから、もう無くなったのかと思っていたのですけど』

 

 エルミがジト目で少年に訊ねる。

 

「還元蝶そのものを増やせばいい」

 

『どうやって?』

 

「こうやって」

 

 少年が手に一匹だけ残っていた還元蝶を体内から染み出した黒い床の沼地にボトリと落として溶かし込む。

 

 例の怖ろしく細胞を増殖させる秘薬は常に常備されているモノの一つだ。

 

 常備してある薬が試験管から一滴沼地に垂らされた。

 

 ついでに緋色の粉となった白霊石が袋からサラサラぶちまけられる。

 

 途端、ブワッと一瞬だけ膨らんだ黒い真菌の沼地から還元蝶が一瞬にして数十匹程湧き上がって来る。

 

『……何か体に悪そうですわね』

 

『というか、我が契約者……還元蝶を複製するというのがもう本来不可能なはずなのですが、これは……問題無さそうですね』

 

 フェムが沼地から引き上げた複製された還元蝶を一匹摘まんて繁々と見やる。

 

「普通は無理?」

 

『ええ、還元蝶は元々がグリモッドにいた王の一匹が大本となっており、その王が南部に追い詰められて討伐された際に分裂した個体と言われています』

 

「元々、王だった?」

 

『ええ、ですが、還元蝶を用いた生まれ変わりが流行した時代、既に還元蝶そのものを用いた生まれ変わり以外の呪紋も出ていたのだそうで……兵器にも武具にも使われたとか。以降、彼の王の眷属や他王の眷属達は北部以外の無人の野や聖域に続く山岳地帯にいると言われています』

 

「どうして?」

 

『還元蝶のように自分達の力を奪われる事を忌避したのだとも、還元蝶によって人型の亞人を眷属に得た事で新たな領域に至ったからとも言われています。彼らは王群と呼ばれ、実際にヴァルハイルと敵対しており、今も王城を挟んで睨み合いをしているようですね』

 

 少年は脳裏にフラッシュバックでフェクラールに崖を崩しながら雪崩れ込んでくる甲殻の雲霞を幻視した。

 

「……強い?」

 

『大眷属と称される者達は神の使徒と同等以上。王の中でも人型の亞人を眷属に持つ王は聖域周辺に固まって亜人集落を築いていて、北部でも禁忌とされています』

 

「どうして?」

 

『受肉神並の力があるとされているからです』

 

「そこまで?」

 

『ええ、先日倒したような人型の眷属を持たない王は言わば領主のようなものに過ぎず、人型の眷属を持つ王は彼らよりも上位の公爵のような存在なのです。知能も極めて高い』

 

 言っている傍から彼らの周囲で沼地から引き上げられた還元蝶が次々に脳髄と脊椎が入っている水槽に一匹ずつ張り付いて行く。

 

「準備出来た。魔力と霊力は問題無い。呪紋も大丈夫」

 

 少年が頷くとエルミが自分の腹部に開いた亀裂から杖を取り出して少年に渡す。

 

 それはグリモッドの大霊殿の主が少年に遺した杖。

 

 白い樹木で造られ、薄らと内部から魔力の発光が薄緑色の曲線を束ねたような蔓にも見える模様として浮かぶ。

 

「【グリモッドの神杖】……」

 

 少年がカンッと地面を杖の先で打った。

 

 途端、今まで地面を覆っていた黒い真菌が次々に呪紋を描き出しながら室内そのものを這う輝く光の線となっていく。

 

「グリモッドの名の下、新たなる胎動を享受せん。然らば、旅人は世の果てに至る前より来たり、始原より隔す時の関となりて、今一度の休息を得ん」

 

 少年が杖を掲げる。

 

「呪霊属性神環呪紋【転生審】」

 

 少年が呪紋の名を呟くと同時に還元蝶が瞬時に溶解しながら銀色の光の帯となって脳髄と脊椎だけで生きるソレらに纏わり付き。

 

 繭のように包んだ。

 

 そうして数秒後、水槽の全てがゆっくりと外れて、内部の薬液を零しながら少年の傍に集まっていた竜蜘蛛達の背中に括り付けられていく。

 

「第一野営地に」

 

「(≧▽≦)ゞ」

 

 何だか嬉しそうな蜘蛛達は新しい命の誕生を前にして少年の片手の指が弾かれた瞬間には転移で第一野営地へと跳んだ。

 

『これで覗きは止まりましたの?』

 

 エルミに頷きが返る。

 

「こっちの覗き魔はこちらを見て無かった。コレが観測してたのはもっと別のもの……恐らく、フェムが言ってたやつ」

 

『どういう事でしょうか? 我が契約者』

 

「山岳部……モナスの聖域方面をコレは監視してた。魔眼に類する能力を持った赤子を育てずに観測機器として“培養”してたのが此処」

 

『『………』』

 

「恐らく、聖域や聖域周辺の監視は国家側からの要望。音で情報を収集した時、此処に務めてた職員が言ってた。20年で交換し続けてるけど、ずっと昔から此処と同じような場所が各地にあったんだって」

 

『各地に……』

 

「でも、技術が進んだから、此処だけで良くなったとか。要は社会に受け入れられなかったヴァロリアの再利用先が此処」

 

 少年が外で職員が全員焼け死んだのを確認する。

 

「これで誰も此処の事は知る事が出来なくなった。此処を後知ってるのはコレを造るように指示した奴とそれを黙って見てた奴だけ」

 

『ふふ、滅ぼします?』

 

 フェムが妖しく嗤う。

 

「滅ぼした程度で死ぬような輩ならそれでいい」

 

 少年が夜天の剣……妖精剣を腰から引き抜いて周囲を切り払う。

 

 それは僅かに手前の虚空を切っただけに見えた。

 

 が、瞬時に異変が起きた。

 

 無数に周囲で滞留していた怨念にすら満たない想念の塊が、何処か穏やかに霧散していく。

 

 それは呪霊を見られる者でなければ分からないだろう。

 

 何者にも成れぬ何処か寂し気な気配のする霊力の塊で。

 

『……“この子達”は呪霊にすらなれなかったのですわね……』

 

『新たな輪廻へ旅立ちなさい』

 

 エルミとフェムが呟いている間にも呪紋の効果が切れたらしい内部に炎が扉を破って侵入してくる。

 

「今日はもう夕方だから終了」

 

『そうなんですの? まだ、もう一件くらい行けそうな気もしますわよ?』

 

「オクロシアから頼まれてる案件で一番面倒なのに時間が掛かる。今日は一端オクロシアに行く。重要な情報が掛かった」

 

 少年が再び指を弾くと次の刹那にはもう彼らは消え失せ。

 

 後には炎に呑まれていく部屋だけが遺されたのだった。

 

 *

 

―――オクロシア北西80里地点。

 

『さすがにこの近辺まで来れば、奴らの観測網も機能しないか』

 

 オクロシアの軍隊の最も恐ろしきところはその観測能力である。

 

 というのは専ら戦線で戦っていた兵士達の言葉であった。

 

 とにかく、相手の位置を割り出すのが上手く。

 

 それに合わせて戦力を集中させ、重要な作戦や重要な陣地、人材を集中して叩いてくれるせいで前線の進み具合は遅々として捗らず。

 

 引き際もまた極めて優秀なせいでまともな戦闘を行う方が難しい。

 

 結果論だが、オクロシアへの侵攻軍に必要だったのは相手の魔眼や奇眼と呼ばれる瞳から隠れる隠蔽行軍の力や圧倒的な相手が認識してもどうにもならない火力であるというのが一貫して現場野戦兵達からの上申であった。

 

 それはつまりオクロシアは一面においてヴァルハイルを上回っていたという事になるのだが、その能力は何も最前線だけに振り分けられているわけではない。

 

 首都付近から伸びる大量の物資輸送網の各所には監視用と連絡用の人員が耐えず循環しており、その監視網は能動的に後方の異常や生産地帯への攻撃などを察知する極めて優秀な目として機能する。

 

『(……この近隣から更に後方の邦々にも物資が流れているとすれば……)』

 

 オクロシアの監視網を擦り抜けて何とか潜入に成功した四卿の1人。

 

 角から鎧から尻尾から全てが黒い騎士。

 

 竜頭を包む兜から見える瞳すらも漆黒の全身モルドの男は細いながらも巌のようにも見える2m弱の鎧姿で夕闇に溶け込みながら間諜が得た情報を下にして後方の物資流通経路、補給路の寸断の為、次々に各地を奔りながら呪紋を敷設して延々と隠れ潜んで工作に奔走していた。

 

 それが終わったのが今日の現在。

 

【黒征卿】エーベンヌ・ウェルハウ。

 

 彼は静かに呪紋の一斉起動をやってのける。

 

 彼が呪紋を起動した瞬間。

 

 後方地帯の一角。

 

 オクロシアよりも後ろの国々に大量の物資を輸送していた地表の街道沿いの街という街が瞬時に光の中で蒸発し、その爆発によって生じたキノコ雲が次々に彼が置いた監視用の呪紋を繋いだ操獣の蜥蜴によって確認される。

 

 地図の上でならば、15個所の街道沿いの街が消滅したという事になるだろう。

 

 その爆風の余波を風として感じながら、一番近い街が吹き飛んだ跡となる雲を眺めつつ、これでしばらくは物流網も寸断されるだろうと彼は任務完了と共に後方からの脱出へと向かう。

 

 そして、彼はようやく残った四卿達と合流する為、南西部の教会勢力が占拠した一帯へと向かう事にしたのだった。

 

―――翌日。

 

【黒征卿】エーベンヌ・ウェルハウ。

 

 彼は静かに呪紋の一斉起動をやってのける。

 

 彼が呪紋を起動した瞬間。

 

 後方地帯の一角。

 

 オクロシアよりも後ろの国々に大量の物資を輸送していた地表の街道沿いの街という街が瞬時に光の中で蒸発し、その爆発によって生じたキノコ雲が次々に彼が置いた監視用の呪紋を繋いだ操獣の蜥蜴によって確認される。

 

 地図の上でならば、15個所の街道沿いの街が消滅したという事になるだろう。

 

 その爆風の余波を風として感じながら、一番近い街が吹き飛んだ跡となる雲を眺めつつ、これでしばらくは物流網も寸断されるだろうと彼は任務完了と共に後方からの脱出へと向かう。

 

『なんだ?』

 

 だが、ふと彼は何処か感じた事のある風を肌に受けた気がしたのだ。

 

 しかし、その違和感が何かを感じ取るよりも先に彼は予定よりも行動が幾分か遅れている事の方に想いを馳せ。

 

 脚に力を籠めるのだった。

 

―――翌日。

 

【黒征卿】エーベンヌ・ウェルハウ。

 

 彼は静かに呪紋の一斉起動をやってのける。

 

 彼が呪紋を起動した瞬間。

 

 後方地帯の一角。

 

 オクロシアよりも後ろの国々に大量の物資を輸送していた地表の街道沿いの街という街が瞬時に光の中で―――爆発しなかった。

 

「何だと?」

 

 彼はふと彼は何処か肌で感じた事のある風を身に受けたように思った。

 

 だが、そのデジャヴを振り払い。

 

 呪紋の不発を前に冷静な様子で原因を探る。

 

『……不発、ではない? 起爆は完全に果たされている。つまり、爆発阻止ではなく。爆発の威力阻止? 何だ? 何をされた? あの呪紋は対軍勢用だぞ』

 

 冷静に受け取った彼は不発の理由を探ろうとしたが、その勘が即座に逃げなければ、囲い込まれる可能性を悪寒として伝え……彼は任務失敗という事実を以て、帰国する事とした。

 

―――翌日。

 

【黒征卿】エーベンヌ・ウェルハウ。

 

 彼は静かに呪紋の一斉起動をやってのける。

 

 彼が呪紋を起動した瞬間。

 

 後方地帯の一角。

 

 オクロシアよりも後ろの国々に大量の物資を輸送していた地表の街道沿いの街という街が瞬時に光の中で―――爆発しなかった。

 

「何だと?」

 

 彼はふと彼は何処か肌で感じた事のある風を身に受けたように思った。

 

「幻影か? いや、相手を取り込む何かしらの精神干渉呪紋の効果を受けているのか? 脳深部探査を開始。情報無し……現在時刻正常。体内環境問題無し。全部品の摩耗率前日と変化無し。どういう事だ……この感覚……この感覚は―――」

 

 男は戸惑いながらも、自分の呪紋が何者かに抑え込まれた事と同時に奇妙な違和感が付き纏う全身からの警報を受けて、即時撤退を決断。

 

 しかし、それよりも先に事態が進行する。

 

「ッ」

 

 彼が跳び上がろうとした時、その足元が崩れた。

 

 その跳躍力ならば、瞬時に罠程度は脱出出来る。

 

 だが、足元の崩れた地面内部から彼の脚に白い縄や糸のようなものが次々に絡み付き、彼を地下内部へと引きずり込んでいく。

 

『ッ―――竜属性攻勢呪紋【竜狂奏】』

 

 カシャンと彼の口元の鎧が開いた途端。

 

 その口内から発せられた巨大な絶叫が猛烈な振動波となって地下内部で反響を繰り返しながら全てを振動させて対象の命を奪う、はずであった。

 

 しかし、糸は崩れず。

 

 縄は切れず。

 

 彼の肉体に絡み付いたまま。

 

 仕方なく彼が帯剣で剣で糸と縄をを切り払う。

 

『(分子結合を呪紋で破断可能。だが、抵抗を感じるという事は少なからず単なる物体ではない?)』

 

 彼が瞬時に周辺に呪紋による防御を敷く。

 

『(竜属性防御呪紋【竜凝】)』

 

 彼の内部。

 

 全身モルドの精密な部品群そのものが呪紋の効能によって、その密度を上げながら限界まで圧縮されつつも縮尺に狂い無く物理的強度を引き上げる。

 

 装甲そのものとなった肉体自体が通常の部品以上の有機的にも思えるだろう密度の細胞のように蠢いた。

 

「(通常の呪紋相手ならば、これで傷一つ付かないはずだが)」

 

 男の腕部が瞬時に自分の肉体を切り刻もうとやってくる大量の糸の嵐を瞬時に指先に纏わせた魔力で裂断させながら弾け散らしつつ壁際に着地する。

 

「(高速で相手を切り裂く糸か。受けるには危険過ぎる)」

 

 彼の瞳に映るのは巨大なトンネル。

 

 その灯りの無い世界に蠢く複数の白い蜘蛛だった。

 

 3mはあるだろう敵は40メートル程の幅を持つトンネル内でも分かる程に異様な気配を放ち、僅かに赤光を瞳から零しながら、糸だらけの内部で次々糸を用いて何かを編み上げており、その内部から大量の白い小指の先程の蜘蛛が男に向かって飛び掛かって来る。

 

『(竜属性攻囲呪紋【エンタルの火竜曇】)』

 

 男の周囲に大量の炎がまるで雲霞の如く押し寄せて来る蜘蛛を焼き払う靄のように滞留し、周囲を猛烈な熱量で熱し始めた。

 

 近付いて来る蜘蛛が自身の5m程先で焼き尽くされるのを見て、尋常ならざる敵の攻撃に男は僅かに目を細める。

 

 従来の燃える物体ならば、それこそ50m先からでも燃やせるのだ。

 

 通常の生物の肉体ならば、正しく瞬時に炎によってこんがりと焼き上がっているはずであるが、蜘蛛は彼から目と鼻の先で燃え始めるというところからして、おかしな耐久性と耐熱性を備えているのは間違いない。

 

 瞬時に男が片腕を蜘蛛達に向けた。

 

 しかし、その蜘蛛達は男が腕を向けた瞬間にはもう彼らが吐いた糸の中に消えるようにして消えてしまう。

 

 大量の蜘蛛と糸に囲い込まれた彼は炎の雲に撒かれながら、此処が相手のテリトリーである事を悟って上空へと瞬時に跳ぶ。

 

 追い掛けて来るものかと思われた蜘蛛達が内部から出て来ないのを見て取り、彼は火力を最大にしてトンネル内部に注ぎ込むようにして新たな炎の雲を濁流の如く流し込み始めた。

 

 腕の先から先程の呪紋が再試行され続け、飛び上がった彼が虚空で制止しながら、周辺への警戒を最大にしたまま。

 

 現場から飛び去る。

 

 その速度は呪霊機も真っ青であった。

 

『どうにか離脱出来たか。だが、何だ? この違和感は……』

 

 彼は失敗に終わった任務はともかく。

 

 新たなオクロシア内部にいると思われる敵と相対する為、新たな策を練らねばならないと情報を呪紋によって各四卿に送信するのだった。

 

―――翌日。

 

 大量の蜘蛛と糸に囲い込まれた彼は炎の雲に撒かれながら、此処が相手のテリトリーである事を悟って上空へと瞬時に跳ぶ。

 

 追い掛けて来るものかと思われた蜘蛛達が内部から出て来ないのを見て取り、彼は火力を最大にしてトンネル内部に注ぎ込むようにして新たな炎の雲を濁流の如く流し込み始め―――。

 

『ッ』

 

 その脚が猛烈な引力にでも引っ張られたかのように引き戻され、物理的な勢いで逃げようとした彼が自分の脚から何かが引き剥がされるような間隔に……霊体が猛烈な速度で肉体から引き抜かれようとしているのを察知。

 

 剣で己の脚を切り捨て、瞬時に上空へと退避しようとしたが。

 

『?!』

 

 自分の頭上から猛烈な死の気配を感じ、帯剣で無理やり振り向きざまに切り払う。

 

 しかし、それが致命傷に近い傷となった。

 

 エーベンヌ・ウェルハウ。

 

 その剣を素通りした刃が男が咄嗟に首を横に曲げたのも構わず肉体を両断する。

 

『―――霊体への?!』

 

 男が自分の何を切り裂かれたのか察するより先に猛烈な激痛。

 

 魂の負傷による耐え難い消耗によって無事な肉体もそのままに落下しそうになったが、瞬時に肉体の方が男を立て直し、高速で離脱しながら男の胸元の鎧が展開して、呪紋が浮かび上がる。

 

『だが、タネは割れた。存外、頭がキレるようだが、元々ドラクはこのような窮地にあって本来の力を発揮する』

 

 男の言葉が終わるより先に男の装甲が変質していく。

 

『竜属性変異呪紋【竜套】』

 

 肉体そのものがまるで先程とは逆に膨れ上がり、巨大化し、瞬時にドラクらしい黒い人型の機械竜へと男が変貌していた。

 

 その合間にも地表から男を狙ったらしき巨大な炎の柱が吹き上がり、猛烈な火線の内部にドラクが埋められる。

 

『貴様が奴の記録にあったニアステラの英雄だな』

 

 巨大な炎の柱の最中。

 

 その柱の下にいる少年を見下ろしながら、微動だにしない黒い機械竜は広げた四肢と溶けてすらいない翅から刃を引き出した。片方が樹木のように硬質な装甲をグギョリと継ぎ目も無く変質させながら弩になる。

 

 もう片方が偃月剣のように三日月のような形状に変貌した。

 

『この機体は器廃卿……奴の遺した品だ。貴様らの呪紋では傷一つ付かぬさ』

 

 嘗て、巨大なヴァルハイルを建国する為、他国の領土への遠征を行い。

 

 この数十年で大きく領土を広げる事に成功した。

 

 その立役者は真下から今も巨大な炎の柱を打ち上げ続けている少年を炎の内部に見て、鉾を瞬時に投擲し、少年が貫かれて呆気なく“消滅したのを確認してしまった”のだった。

 

 男がハッキリとした事を覚えていたのはそこまでだ。

 

 彼は強敵と認定された。

 

 そして、強敵である以上、オクロシアを中心として延ばされていた観測網が彼を捉える事は間違いのない話だ。

 

 決して彼が特別なのではない。

 

 最初からオクロシアの王には言い渡されていたのだ。

 

 四卿それに類する強敵が現れた際。

 

 相手の位置によっては必要な兵器を使う、と。

 

「囮!? まさか?!」

 

 そして、それは一人の少女も同様であった。

 

 もしもの時はお願いする、と言われていた。

 

―――『命中』

 

 フィーゼが精霊の王冠を被り、その頭上にある橋の如き巨大竜骨弩から射出した弾体……灼撃砲。

 

 それが男の至近20mに迫った。

 

 もはや迎撃しても遅い。

 

 今まであらゆる探知を炎の壁で遮っていたのだ。

 

 それを攻撃と見なしていた時点で相手に芽は無かった。

 

 勿論、彼はそれに対する最適解として防御方法を心得ている。

 

 それが起爆する瞬間。

 

 彼は自身の周囲に呪紋を展開する。

 

『風属性攻囲呪紋【空隙】』

 

 猛烈な振動と熱量を遮るものは何か?

 

 その答えが本来は攻撃用の広範囲攻撃呪紋を自身に集中して使うという一点に絞られて、男を真空で包み込んだ。

 

 本来ならば、生身ならば、頑丈なヴァルハイルとてダメージを負うだろう。

 

 長く続けば、それだけで死にも至るだろう。

 

 だが、全身モルドな上に巨大なドラクという装甲を身に纏った男にとって、その呪紋は痛くも痒くも無い。

 

 真空であれば、震える空気の齎す衝撃は届かず。

 

 真空であれば、伝播する空気の熱量が通らず。

 

 真空であれば、攻撃故に相手の真空を揺らがせる威力をも相殺する。

 

 あまりにも的確な防御手段であった。

 

 そう……あまりにも的確過ぎて彼は最後の瞬間まで反撃を行う予備動作をしていても、防御を思考する事は無かった。

 

 爆圧によって周囲の全てが消し飛んでいく最中。

 

 装甲と呪紋による防御よりも先に彼は逃げるべきだったのだ。

 

 カツンッと。

 

 彼の纏う真空の最中。

 

『!?』

 

 彼はあまりの事に初めて本当の驚愕を知る。

 

 纏う真空の呪紋の最中に落ちて来たのは陶器製の小瓶であった。

 

 それが―――真空の最中で攻撃である以上は割れる。

 

 そして、割れた内部に入っていたソレが……緋色の砂のようなものが、粘液のようにドロリとドラクに掛かったかと思った途端、沸騰。

 

 瞬時に彼の機体を埋め尽くすように転移してきた数千では利かない量の小瓶が猛烈な勢いで沸騰する粘液を周囲に噴出させ、その真空中でも変わらないソレが落ちていくより先に最後に落ちて来た小瓶が割れた。

 

 彼の周囲の緋色の砂を含むジェルが一斉に霊力を魔力に転化されて全てが衝撃として機体表面及び機体周囲で起爆した。

 

『―――』

 

 単純な話だ。

 

 彼は真空の最中にいた。

 

 そして、真空の最中で爆発物らしきものを機体表面に塗り付けられ、最後に起爆されたのである。

 

 それは霊力を大量に含んだ白霊石を粘液に溶かした代物だ。

 

 粘着力がある液体に含ませる事で相手に纏わせる事が出来る。

 

 そして、それを魔力に転化して一斉に起爆したのだ。

 

 真空で水分が蒸発するには時間が掛かる。

 

 その時間中、逃げようにも大抵の攻囲呪紋というのは位置指定であり、相対座標を維持して、機体が機動するのに合わせて付いて来たりはしない。

 

 そもそも威力を受け止める為に呪紋の範囲を極めて狭めて使われていたのだ。

 

 動いて外に出てしまったら威力を受ける以上、動く事も出来ない。

 

 つまり、最初から灼撃砲は相手を釘付けにする罠であり、二重の罠に引っ掛かった男は自前の能力も機体性能も発揮させて貰えず。

 

 近頃、霊力の樽扱いされる男が24時間くらい連続で霊力を引き抜かれた成果の一部として爆華を遥かに凌ぐ衝撃を、機体と自身に直接受けて吹き飛んだのだった。

 

――――――。

 

 二度目の天変地異。

 

 オクロシア後方国家における野外での観測情報だけを言えば、ソレは巨大なキノコ雲を引き裂くようにして天地を呑み込む光の玉であった。

 

 渦巻き拡大するソレが止まった後。

 

 周辺地域3里以内に人里が無かった事は切実に幸運だったと言われるだろう。

 

 丸く抉れた長大な大地以外、何も残ってはいなかったのだから。

 

―――翌日。

 

 爆華を遥かに凌ぐ衝撃を機体そのものに直接受けて吹き飛んだ、かに見えた。

 

『(何だ? この威力は? だが、我が機体を破壊し尽くすには足りぬのは奴らの攻撃が一歩及ばなかったのか? いや、それならば、我が力の片鱗すら出させず破壊する事を企図する敵側があまりにも不用意という事になる。あのヴェルゴルドゥナを破壊した者達がそんなに甘いわけが―――)』

 

 彼が訝しみながらも半壊した機影で脱出した時。

 

 彼は自らの機体の殆どの機能が失われながらも未だ動く事にもう存在しない友に感謝しつつ、砕けた機体で剣を握る。

 

 キノコ雲の下。

 

 猛烈に吹き寄せて来る逆流した大気と高熱によって溶かされて吹き飛んだクレーターの中心部。

 

 男は自分から20m程離れた場所に転移してきた相手を見やる。

 

 熱量に燃え散る外套の下。

 

 露わになった竜骨と白霊石とヴァルハイルが用いる冶金技術の精粋たる合金。

 

 いや、それを超える四卿が鍛えた鋼を超える鋼が三位一体となったソレが焼き付きながらも、鋼の布すら熱されて尚形を保ち。

 

 それを着込んだ少年が形無き夜天の剣を握り締めて近付いて来る。

 

『まさか、一騎討でも所望すると言うのか?』

 

「違う」

 

 声が響く。

 

 まだ人が喋れるような周辺の現状ではない。

 

 呼吸をすれば、灰は焼け爛れ、瞬き一つで眼球は萎むだろう。

 

 だが、生物であるはずの少年を見て尚、男には今目の前に竜より尚強気何かがいるという事しか理解出来なかった。

 

「この繰り返しには不可解な仕様がある」

 

『何?』

 

「存在の死は確定の昨日になった場合、今日の状態で生存する者と生存しない者がいる。情報を聞いた状態でも死人が出る場合と出ない場合の検証の結果。二つの仮説が出来た」

 

『一体、何を言っている!!』

 

「死んだ存在の確定者が生きている場合の仮説は二つ。この繰り返しの儀式中核だと思われる竜神カルトレルムにとって無用な殺傷である場合」

 

『!?』

 

「もう一つは死んではならない場合。つまり、死ぬのが確定していても、何かしらの理由から死を先送りされた可能性」

 

『貴様、その物言い!! ヴェルゴルドゥナが言っていた!! 呪紋により、時間にすら手を伸ばす者がいると!! 我らが主神の名を出すという事は―――』

 

「神々がもしもこちらを利用する気でこの日々を繰り返させているなら、死んだ者が生きているというのは恐らく。そこからこちらが学び取る事があるという事」

 

『―――ッ』

 

「歴史の講義で学んだ。黒征卿は剣技において北部の史実上、負けた事が無い。つまり、此処で確定死していながら、戻るという事は此処で学べという話になる」

 

『貴様!! 旧き者!! ノクロシアの―――』

 

「仲間にしない。蜘蛛にしない場合、戦力や肉体の能力上昇よりも直接的な技能を学ぶ場合の相手としてお前が選ばれたと推測出来る」

 

『ッ、そうか!! 器廃卿……お前はこの男の―――』

 

「これから毎日、お前を超えるまで今日、此処でこの時間は必ず付き合って貰う。最初は半壊させない状態を目標にして、完全にお前を上回るまで何度でも死んでもらう」

 

 ゾワリと背筋を泡立てながら黒き人型竜は砕けた肉体ながらも剣を相手に向ける。

 

『何故だ!? 何故、我がヴァルハイルの神は!!』

 

「聖王が壊れた。使徒が言っていた」

 

『?!!』

 

「この言質から考えられる事は二つ。こっちの前任者は失敗して神に見放された。あるいはヴァルハイルそのものが見放されたか」

 

『戯言をぉおおおおおおおおおお!!!!』

 

 男の剣が少年の胴体部を薙ぎ。

 

 受けに回った少年がそれでも胴体部を半ばから両断される。

 

「―――剣技の域を超えてる? 呪紋と剣技の完全な融合。あらゆる領域を両断する各呪紋と剣技の組み合わせ。これが【黒征卿】……【界断のエーベンヌ】が創始した【閃剣】……」

 

『ッ』

 

「もしも、これが完全な状態からの近接攻撃だったら殺されてた可能性が高い」

 

 少年が瞬時に修復された腹部の事に気にも留めず。

 

 圧倒的な体格差にも関わらず。

 

 機械竜の剣を妖精剣で受けながら全身を切り刻まれていく。

 

「夜天の剣の特性を瞬時に見抜いて相手の剣を握るこちらの間合いを呪紋で圧倒する力量。相手の呪紋特性や装備、性質を理解し、発生展開終了までの時間を超短化して反応を不可能にする技量。間合い殺しの呪紋の読み合い。純粋な技量よりも思考の瞬発力と外環境を意識した最適解即応時間の桁が文字通り違う。何もかも強い……本当に……」

 

『ッッッ』

 

 黒き竜の腕は賞賛に合せたわけでもないが、その通りの能力を発揮して、半壊して尚見えないままに剣を振るう。

 

 少年は受け一辺倒になりながら、あらゆる場所を切られながらも、唇を動かし続け、血飛沫に染まり、鎧の内部を鎧をそのままに斬り割かれて尚、自分に足りないモノを持つ剣の達人という域に留まらない超越者を見やる。

 

「明日も付き合って貰う。必要無く為ったら蜘蛛にしてお前を取り込むかもしれない」

 

『死ねぬ!! ヴァルハイルを護るは我が四卿の名!! 必ず!! 必ず!! 貴様を倒してみせるぞ!! ニアステラの英雄!!』

 

 男の本気の一撃は少年の四肢を五体バラバラ……どころか。

 

 魔力を集束した夜天の剣で防いで尚、肉体の端から粉微塵に消し飛ばしている。

 

 あまりの高速剣。

 

 だが、高速だけならば、幾らもいるだろう。

 

 問題は剣の部位毎にすら微細で精緻な呪紋の数々が織り込まれ、型によって組み替えているところにある。

 

 間合いを伸ばすならば、剣の威力、長さ、攻撃の間合いを伸ばす呪紋を複数種類瞬時に調整するし、威力や性質が問題ならば、その威力を上げる呪紋のみならず、様々な属性呪紋の多くを最初から最小で起動待機状態にしておいて、瞬時に威力調整で相手への最適な攻撃手段へと変貌させる。

 

 男の剣は形は元より変幻自在。

 

 相手が剣で受ければ、受けた場所から刃を伸ばして、相手を切り刻む。

 

 だが、半壊している黒い機体では男の行動に付いて行けず。

 

 振動に摩耗し、猛烈な勢いでバラバラになっていく。

 

「今日は受けておく。明日は反撃まで学ばせて貰う」

 

 少年がさっそく男の剣技を真似て瞬時に妖精剣を敵に見えないままに振った。

 

「こ、しゃ……く……―――」

 

 だが、それでも黒竜の機影は頭部への直撃だけは避け、半分以上微塵にされながらも機内の男の脳髄だけは完全に護り切り。

 

 しかし、バラバラに吹き飛んだ瞬間に少年の肉体から発される猛烈な魔力の転化現象による衝撃で弾け散った。

 

 例え、装甲そのもの破壊するのが困難だとしても、内部機構や部品そのものが存在する限り、その接合部に掛かる圧力は破損の原因となる。

 

「良いお手本が出来た。絶対に死ぬから絶対に躊躇しない。自分より強い敵。これ以上の師は無い」

 

 少年は明日もまた此処に来ようと懐から取り出した手帳に不可糸で文字を刻み込んで予定表を埋めた。

 

 それは初めて毎日やる事に組み込まれた敵との戦闘に違いなかった。

 

 *

 

―――?日目早朝。

 

「あ、朝の支度が出来たわよ……」

 

「侍従?」

 

 そこには白黒なメイド服を着込むアミアルが1人。

 

「何で疑問形なのよ!? これでもあの人にスゴイって褒められたのよ!?」

 

 少年は父(仮称)の姿を思い出して、可愛い女の子が侍従になったら、嬉しいに決まってるよね?と脳裏で微笑んだ気がした。

 

「今日からは夕暮れ時になるまでマートンの仕事」

 

「休日に裏社会から仕事を請け負うとか。本当にロクシャの園の生徒なの? アンタ……」

 

 ジト目のアミアルがそう訊ねて来るのも少年は肩を竦めて、すぐに部屋を出て、少女の手前顔を洗い歯を磨き食卓に着く。

 

 すると、今日も新聞を片手にステーキを隣の呪霊機から差し出されて齧っている男が『やっ』と片手を上げて出迎えた。

 

 台所では『あわ、あわわ!?』とか『ひえぇ!? 何なのよこの家ぇええ!?』とか。

 

 少年が知らない家の機能にてんてこまいしている少女が慌しく朝食を運ぼうとして四苦八苦している声が聞こえて来る。

 

「で?」

 

「ああ、彼女は呑み込みが良さそうだから、問題無い。合格だ」

 

 エルがケロリとして答える。

 

「礼義信揃った良いお嬢さんじゃないか」

 

「そう。頼んでた仕事は?」

 

「今、佳境だよ。いやぁ、この忙しい時期に毎日一日中時間が取れるなんてね。期待してくれていい」

 

「頼んだ」

 

「ああ、頼まれた」

 

 言ってる傍からカートに出来立ての朝食を載せて運んで来た少女がイソイソと食卓に皿をサーブしていく。

 

 主に少年の前にだ。

 

 此処の持ち主である男はステーキを先に齧っていて、他は要らないという事で少年のみに給仕をする事にしたわけである。

 

 まぁ、少年はすぐに礼儀正しく食事をした後。

 

 さっさと寝起きするだけの場所から歩いてスタスタ外に向かうわけだが、本日に限ってはアミアルが後ろから三歩背後から付いて来ていた。

 

 いつもならば、瞬時に跳び上がって、街を横断するのだが、仕方なく少年は自分の脚よりは遅いだろう呪霊機の乗合船が到着する場所に向かう。

 

 そこから朝も早い歓楽街に直行する便は殆ど人気もなく。

 

 二人きりであった。

 

「………」

 

「………」

 

 こういう時にこそ適当に話し掛けて来ればいいだろうエルミとフェムは消えたままに何も言わない。

 

 なので仕方なく少年がアミアルを見つめた。

 

「……?」

 

 しかし、僅かに目を凝らした少年が第三神眼に映る少女の肉体が微妙に変質しているのを確認する。

 

 大きな尻尾と角によってアンバランスな彼女は今日もフワフワと呪具の呪紋で浮いており、座っている間もそれは変わらない。

 

「な、何よ……」

 

「本当に悪いものでも食べた?」

 

「はぁ!? そんなわけないでしょ!? こっちはねぇ!? これからずっと臭いがあるものや香辛料は控えるように言われてるのよ!?」

 

「?」

 

 理解不能な少年が首を傾げる。

 

「っ、だ、だから!! いつでも、その!! えと!! ああもう!!? アンタ……貴方の傍にいて、いつでも大丈夫なようにしておけって!! お母様が言うから!?」

 

「??」

 

 本気で分からずおかしな奴みたいな瞳になる少年に少女の方がブチ切れ寸前であったが、クスクスと2人の姑染みた呪霊機が姿を露わにして嗤う。

 

 悪意全開でニヤニヤしていた。

 

「な、何笑ってんのよぉ!?」

 

『『(・∀・)』』

 

 しかし、二機は何も言わずにクスクスした後。

 

 また消えていった。

 

 思いっ切り馬鹿にされたアミアルは恥ずかしいやら赤くなるやらで顔を白黒させながらもコレは試練コレは試練と自分に言い聞かせて自分を落ち着ける。

 

 今後の人生設計が思いっ切り狂ってしまった彼女の未来の就職先はアーカ家の侍従固定になったのでもはや観念して受け入れる事しか彼女には出来ないのだ。

 

 故に自分の人生は試練であるという言葉で何とか納得した彼女は少年の侍従としてトコトン目の前の相手を観察してやろうと拳を握る。

 

 しかし、いつの間にか乗り継ぎの場所に到着した少年は先に降りており。

 

「あ!? ま、待ちなさいよぉ!?」

 

 少女は慌てて自分も降りて早歩きな少年を追うのだった。

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