流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第71話「モナスの万障Ⅷ」

 

 神聖騎士エルタ、サヴァンの両名を失った夜。

 

 島の北部と東部を繋ぐ地域が極大の災禍に見舞われた夜。

 

 また島の東北部バラジモールでも戦いが起きていた。

 

 巨大な半透明のキロ単位生物の真下。

 

 次々に姿を露わにした黒い首無し鎧達を前にして第三世代型の神聖騎士達の部隊は打って出た。

 

 勝算はあったのだ。

 

 何故ならば、彼らの頭上の巨大なソレから次々に見えざる獣。

 

 四足獣らしきものが大量に振り落ちて来て、彼らと共に鎧共に攻め寄せたからだ。

 

 次々に彼らの攻撃呪紋が雨霰と敵に集中。

 

 自動追尾する弾速の早い光弾を用いる攻囲呪紋が一軍にも匹敵するだろう量で敵周囲を射爆し、クレーターに爆撃の光が乱舞する。

 

 その光と各属性呪紋が乱れ咲く様は正しく芸術染みて美しい。

 

 そして、その最中にある黒鎧達の姿に彼らは驚愕を禁じ得なかった。

 

 傷一つ付かない。

 

 本当に彼らが使っている攻撃用呪紋で傷一つ付かない装甲が光の中で染め上げられて尚、罅も入らなければ、欠片すら地表に落ちない。

 

 だが、一定程度のダメージは与えたはずだと戦術通りに射爆後の突撃で最初に見えざる獣達が初撃を引き受け、無数に四方八方から相手へ喰らい付き。

 

―――?!!

 

 引き倒そうとして、その未だ熱される無数のクレーター内部で神の欠片の獣達は初めて黒鎧の威力を知る。

 

 クシャッ。

 

 そんな軽い音と共に獣達の頭部が軽い音をさせて弾き飛ばされて圧壊した。

 

 徒手空拳。

 

 リーチが長い得物を使わずに獣達の頭部を蹴りや肘、膝、拳、手刀などで斬り裂き、潰し、破壊する黒いデュラハン達は猛烈な速度で獣を処理し続けていた。

 

『ッ―――レギオ・ループスの獣を!? だが、奴らは何度でも……ッ!!?』

 

 神聖騎士の一部が驚愕に目を見開く。

 

 本来が神の一部である獣達は頭部が磨り潰されようが平然と再生して復活し、何度でも敵を倒す為に立ち上がる理不尽な存在であった。

 

 呪紋の殆どにおいて効きが悪い上に耐性も高く倒せない。

 

 かなり、高威力の再生を阻害する相手を溶かしたり、焼き滅ぼす呪紋が必要だが、それを何度も打てるような敵は大陸には存在しなかった。

 

 つまり、事実上は負ける要素は無かった、はずであった。

 

 しかし、そのあまりにも旧い事実は現代において覆され。

 

『再生しない!? 敵は不死殺しの呪紋を持っているぞ!! 防御兵装を全面に立てろ!!?』

 

 即座に相手の能力を看破した騎士達が大楯を肩から片手に取って剣を構える。

 

『獣に掛かり切りになっている内に接近せよ!! 中距離からの攻囲呪紋で内部を滅ぼすぞ!!』

 

 迅速な騎士達の展開は位置取りに終始し、次々にある程度の距離まで近付いた彼らが呪紋による範囲攻撃で殲滅しようとした時だった。

 

 トトトトトト―――。

 

 そんな音と共に攻撃寸前の彼らのいる地面から直系1mm程の細長い甲殻で出来た錐のようなものが股下の装甲の無い関節稼働部位に突き刺さる。

 

 威力は左程も無いが貫徹した部位の内部の傷を察知した瞬間には殆どの攻撃が命中した者達が跳躍して後方へと下がる。

 

『(/◎ω◎)/(戦闘時の精密観測はまかせろーバリバリという顔)』

 

 その最、多くの者達が圧し折れた針の先のようなソレの残留物に違和感を覚えて、慌てて指などで自らの負傷部位を抉り取った。

 

『ッ、汚染部位切除!! 毒を受けた者は即時、解毒用の秘薬を服用!!』

 

 彼らは極めて洗練された兵士だ。

 

 瞬時に躊躇いなく薬を服用し、同じ攻撃は二度喰らわないよう地面にも気を配り始めた。

 

『敵は地表の中にもいるぞ!! 着地前には地表を攻撃である程度均せ!!』

 

 こうして彼らが敵の対策を推し進めながら、相手を的確に封殺しようと動き出した時だった。

 

 攻撃を受けた一部の神聖騎士達がカランッと秘薬を服用した時の小瓶を地面に落す。

 

『あらゆる傷を癒す秘薬だぞ!? 呪いの類か!?』

 

 様子のオカシイ部下に気付いた隊長格の騎士が瞬時に身構えて距離を取った時。

 

 仲間達から離れた彼らの動きが僅かに阻害される。

 

『ッ、何かの呪紋だ!? 攻囲呪紋で自身を基点にして焼け!!』

 

 命令も判断も的確であった。

 

 瞬時に呪紋が発動され、彼らの周囲から見えない不可糸による拘束が解けて、光にキラキラと燃えていく糸が映る。

 

『糸だと?!』

 

『小隊長!! あ、アレを!?』

 

 ハッとして多くの者達が様子のオカシイ仲間達に視線を向けた時、その姿は地表内部に埋もれるようにして姿を消そうとしていた。

 

『引き込まれているのか?!! 攻囲呪紋で周囲を吹き飛ばせぇ!!』

 

 男達が仲間の危機に地面内部を破壊する呪紋を討ち出そうとした時。

 

 彼らに向けて次々に猛烈な速度で何かが飛んでくるのを誰も見逃さなかった。

 

『飛翔体確認!!』

 

『ッ、クソぉおおお!!?』

 

 ハッとした彼らが唇を噛む。

 

 相手の攻撃が未知である以上、迎撃が先。

 

 地面を抉る呪紋と別の呪紋を同時に併用する事は簡単な話であったが、四方八方から大量に弓なりの弾道で落ちて来る飽和攻撃らしき筒型の弾体を全て迎撃するには地面を破壊する呪紋よりも更に大量の迎撃呪紋が必要だった。

 

『(´◎ω◎`)(相手の封殺を封殺する手札は一杯持ってます。プロですからという顔)』

 

 男達がまずは自分の身を護るべきだと即時判断を下して周囲の虚空から彼らに向けて投射された筒を命中する前に数十m先手前の虚空で炎の矢や氷の礫、魔力による閃光で薙ぎ払う。

 

 カッと。

 

 罅割れた弾体。

 

 灼撃矢に使う薬液を入れ込んだ爆発物が一斉起爆した。

 

 そのあまりの威力に周辺が猛烈な爆風と熱量で黒焦げを通り越して蒸発。

 

―――?!!!

 

 野営地を中心にしていた防衛ラインの外側から押し寄せて来る怖ろしき威力の波を瞬間的な防御呪紋と盾で抑えに回った騎士達が猛烈な衝撃を一律にいなしながら鎧の赤熱化で肉体を焼かれても叫びを噛み殺す。

 

『ッッ―――』

 

 広域防御用の呪紋の多重展開。

 

 魔力を用いた光速の防御壁は無詠唱発動する彼らの防御の要である。

 

 

 これで後方の野営地を護りながら自分達も護るという芸当をやってのけたが、それでも抜けてきた威力だけで常人ならば、炭化しているだろう。

 

『地面の連中はぁ!!』

 

『ひ、引き込まれましたぁ!!』

 

『ッ、今は構うな!! あの階梯の爆発物だ!! そう何度も使えるとは思わん!! 迎撃要員を置いて、防御に人手を回せ!! 攻撃は精鋭のみで行う!!』

 

 的確な指示。

 

 的確な命令。

 

 そして、的確であるからこそ彼らは読み易く。

 

 戦闘人数を減らされている事を理解しながらも300名の内の100名が防御と迎撃に残り、攫われた数十名以外の百数十人が今も見えない獣と共に蒸発した地表の最中、戦い続けている黒鎧達に向けて突撃していく。

 

『(>_<)(はいはい。知ってるよ。だって、ご主人様の記憶に君達の動き載ってる上に対処方法もちゃんと構築されてるからねという顔)』

 

 此処で初めて彼らの得物が抜かれた。

 

 音速を超えて瞬時に肉薄する彼らの刃はイゼクスの加護を与えられた名剣。

 

 伝説の武具にも相当する神聖騎士用の帯剣だ。

 

 例え、呪紋を防ぐ装甲でも斬り割けるという自負があり、同時に乗せた呪紋を纏った剣は各属性毎に色を滲ませ、燐光を溢れさせ、小さな丘くらいならば一刀の元に両断するだろう。

 

 彼らの剣は確かに装甲に食い込んだ。

 

 だが、斬り裂き切れず。

 

『この剣を推し留めるか!?』

 

 彼らの驚愕の合間にも後方で防御に気を張っていた男達が野営地の一か所に集められていた無力な生産職の人員の避難所付近からの絶叫に反応した。

 

『隊長!! 連中、あちらを直接狙っています!! 部隊を一部避難所に振り向けるべきです!!?』

 

『護衛が足らんかったかッ、分かった!! 避難所に半数で迎え!!』

 

 後方で上がる悲鳴に次々部隊が分散していく。

 

 それが敵の策である事は彼らも理解していた。

 

 敵は部隊を分割し、相手が消耗し、少しでも戦力を減らして戦い易くなるのを待っている。

 

 だが、だからと言って、後方の生産職の者達を見捨てる事なんて彼らには出来なかった。

 

『このぉおおおおおおおお!!!』

 

 神聖騎士達の刃が刃毀れし、罅割れながらも装甲を斬り割いて、破壊されながらも相手に手傷を負わせていく。

 

 黒鎧一人に数人の刃が次々に殺到。

 

 得物を破損し、失う者が出ても仕留めた敵が動かなくなるのを見て、彼らは破損部位に手を突っ込んで内部から呪紋で焼き滅ぼしていく。

 

『これでは再生すら出来んだろう!!』

 

 だが、彼らは見誤っていた。

 

 複数人で掛かる事、破損した内部を直接破壊しに来る事も想定済み。

 

 その際に相手が近接している事を確信して鎧内部に仕込みをしておく事なんて当然過ぎるに違い無い話だったのである。

 

 猛烈な爆発が神聖騎士達を瞬時に呑み込んで肉体を装甲の無い部位からバラバラに引き千切るように吹き飛ばした。

 

 装甲のある部位は無事だ。

 

 だが、柔らかい関節部は威力の直撃を受けて、猛烈な圧力と運動エネルギーに耐えられずに千切れた。

 

 しかし、悲劇はここからであった。

 

『たい、ちょ―――』

 

『ッッッ!!?』

 

 神聖騎士達は生きていた。

 

 頭部だけになった者もある。

 

 両手両足を損耗した者もある。

 

 血の染みの如く関節部が無い者が大量に打ち倒されながらも死ぬ事が出来ずに痛みに耐えながら助けを求める。

 

 だが、残された防御役の騎士達が慌てて駆け寄ろうとして、瞬時に小隊長格の者達に抑えられた。

 

『敵は自爆覚悟だ!! 数を割るなぁ!!』

 

 相手の緻密な攻撃の組み立ては正しく彼らの的確さそのものを標的にした攻撃だと彼ら自身理解しても良い頃合いであった。

 

 どこから情報が漏れていたというのか。

 

 彼らはやっている事が全て裏目に出る現実を前にして喉を干上がらせ、猛烈に嫌な予感をさせながら、無数のクレーターの斜面や爆心地、あちこちに散らばった生きている仲間達の残骸に歯噛みしながらも冷静に状況を伺っていた。

 

 だが、それで終わりはしない。

 

 次々にバラバラになった騎士達の体に地中からまた細い針のようなものが撃ち込まれる。

 

『い、いやだぁ!?』

 

『―――ッッッ!!?』

 

 騎士達の前で拷問されたって涙を流さない仲間達の1人。

 

 四肢がバラバラになった者の1人が泣きながら、“這いずるように近寄って来る四肢”を前にして顔を引き攣らせ、赤子のように泣き叫んで芋虫のようにソレから遠ざかる。

 

『や゛めろぉ!? オ゛レを消す゛な゛ぁああああ!!?』

 

 防御役の者達のところまで何とか尺取虫のように這って来ようとした者達の散らばった手足がカタカタと蠢きながら本来の持ち主へと向かっていく。

 

 その異質な光景に反射的に遠距離呪紋で弾き飛ばそうとした彼らの一部に向けて今度は大量の呪紋の発動が超遠距離地点で魔力が放出される事で猶予される。

 

「防御呪紋に魔力を回せぇ!! 敵は味方を救う動作に被せて狙い撃って来るぞぉ!!」

 

 現場の男達は歯噛みしながらも小隊長格の者達の叫びに攻撃を止めた。

 

 相手の攻撃が自分達の攻撃直後に被せられると分かっている以上、その攻撃がどんなものか分からない以上、まともに救うには近くまで走っていくしかない。

 

 だが、部隊の数を割れない状況で自分達をバラバラにしてしまえる爆発物を持つ敵に対して近付くのは明らかに自殺行為だ。

 

 もし、近付いた途端に地下から爆発でもしようものならば、更に被害が増える。

 

『クソォオオオオオおおおお!!?』

 

 叫ぶ合間にも自分の千切れた手足に追い付かれた者達が次々に接合された。

 

 内部からゴシャッという音と共に大量に脇腹から溢れ出した骨らしきものが胴体の鎧を喰うかのように絡め取り、繭のように肉体が骨の塊に覆われていく。

 

『な、何? き、寄生されているのか!!?』

 

 それと同時にその状態の者達が次々にクレーター内部の地面から浮かび上がる大量の呪紋の輝きに絡め捕られ、地中へと引きずり込まれていった。

 

『気配が消えた!? くッ!! 我らを別の何かにして取り込むつもりか!!?』

 

 神聖騎士は死なない。

 

 魂すらも再生する。

 

 しかし、その事実は同時に彼らの魂に対しての直接攻撃の類や不死殺し系の呪紋、変質を企図する攻撃には脆弱であるという事の現れでもある。

 

 ただ、それを放置しているわけではないのだ。

 

 未だ魂魄に作用する呪紋の多くが教会でも開発が完了しておらず。

 

 この島にあるモノ程に高性能なものが無い時点で相性は悪いというのはサヴァンが最初に紅隷王レイフェットの臣下に魂への直接攻撃で敗北している事からも明確。

 

 その弱点を的確に突かれた第三世代の神聖騎士達は自分達が確かに通常とは違う形とはいえ、死に得る。

 

 という事実を前にして恐怖こそしなかったが、慢心を砕かれていた。

 

 だが、それだけで折れる教会ではない。

 

 逆撃を行うべく。

 

 彼らが瞬時に新たな戦力として上空に未だ鎮座する巨大な切り札を動かそうとした時、次々に後方の野営地では絶叫が上がっていた。

 

『この蜘蛛がぁああああ!?』

 

『何よ!!? 何なのよぉおおおおおお!!?』

 

 牧師やシスター達が次々に地下に置かれた避難所から這い出るようにして彼らの元へと逃げて来る。

 

 だが、その足はすぐ地表の見えざる糸に絡め取られ、地面へと倒れ込んでいった。

 

「だ、だづげでぇぇ、きしざまぁ……ッ!!」

 

 見えない何かによって地面に倒れ込んだ者達が彼らに手を伸ばす。

 

 そこで小隊長達の喉が干上がる。

 

 先程割った彼らの部隊はどうしているのかという問いは意味が無かった。

 

 何故なら、次々に逃げて来た者達の後を追って、教会の意匠である球体に翼の付いた神の気配を漂わせる蟲。

 

 そう、蟲だ。

 

 蒼い瞳に黄昏色の硬質な甲殻を持つ蜘蛛が大量に湧き出し、彼らの後方で滴る血肉をプルプルと振るって次々に生きたままに人間を糸で繭状に加工すると地下への入り口へと消えていった。

 

『し、小隊長!? アレは!? アレはまさか!!?』

 

『―――神聖騎士を蜘蛛にしたのか!? ならば、コレは西部の魔蟲ウルガンダの仕業か!?』

 

 怒れる者達はワナワナと震えながら、嘗て同胞だったモノが今や蟲に堕したという事実を前に悪鬼羅刹の如き形相で涙を零す。

 

『貴様らの血は何色だぁあ!!』

 

 辛うじてまだ動ける黒鎧のデュラハン達が次々地中へと消えていった。

 

『何人残った……』

 

『40名、弱です』

 

『……AXTの神聖騎士部隊が大敗、か。追撃を掛けようにも敵は地下。新しい呪紋も無ければ、潜りようも無く。レギオ・ループスによる獣を大量に投入したところで移動先も分からない。辛うじて西部のウルガンダが敵らしいという事以外には何も分からず。打ち倒した黒鎧は残らず地下へ消えたか』

 

 思わず残っていた小隊長格の男が思わず苦笑してしまっていた。

 

『はは、何をどう猊下に報告すればいいのだ。敗北ではないッ、これは惨敗というのだッ!!?』

 

 ガンッと崩れ落ちた男の手が地表を叩く。

 

『小隊長!? しっかりして下さい!? 捜索隊を編成しましょう!! レギオ・ループスによる広域捜索を行えば、きっと相手が何なのか手掛かりくらいは―――』

 

 そう部下が言い終えるより先に猛烈な異変。

 

 北部での巨大な蟲の槍の大樹が僅かに発光しながら空気を割るように上空へと伸びて、大量の竜頭によって潰れながら山の如き状態となっていく。

 

 それを遠目に観測した彼らは北部でまた異変が起きている事を察するしかなかった。

 

 その最中、彼らが燐光を纏って地表に降り立つ神聖騎士を確認する。

 

『【鉄公爵】殿!!?』

 

 すぐに速足でやって来たウラスが周囲を見て、襲撃された上に手酷くやられた事を理解する。

 

「サヴァンが散った。また、フォルクが震える聖槍を使用し、これ以上の北部からの敵の侵入を防ぐ為、成り上がりを果たしたが、どうやら敵に幾らか妨害されたようだ」

 

『な!?』

 

「貴様らの隊長は何処だ?」

 

『―――後方の避難所を護っていたはずですが、敵に恐らく襲われて殺されたかと思われます。ただ、持ち去られた可能性が非常に高く……』

 

「つまり、貴様ら以外は全滅という事か?」

 

『まだ、確認出来ておりません。敵の猛攻があまりにも厳しく。数を割っての捜索は至難と見て、今現在後方確認後に方策を練ろうとしていたところであります』

 

「泣き喚かぬだけ上等だ。神聖騎士らしい顔に成って来たな」

 

『は? どういう事でしょうか……』

 

「敗北を知らぬ騎士など使い物にならんという事だ。特に負け戦や何かを護る戦いというのはな」

 

『―――ッ』

 

 その言葉に多くの者達の顔が歪む。

 

「総員で避難所と船を見た後、必要な物資と家畜を引き連れて、グリモッドに向かう」

 

『此処を放棄すると仰るのか!?』

 

 思わず周囲がざわめく。

 

「期限は二日だ。小神化による顕現によってここら周囲は酷い事になる。このデカブツを動かすぞ。後退し、南部の緋隷王の領域ギリギリの場所に陣を張る」

 

『ッ、仲間達と後方の者達の捜索をしても!!?』

 

 ウラスの言葉に小隊長が思わず叫ぶ。

 

「貴様らの好きにしろ。どの道、敵の強さが我らの思っていた以上。であるなら、本隊が到達せねばどうにもならん。此処にいれば、聖槍で呼び出した使徒階梯の化け物に食い荒らされる。しばらくはこのデカブツの上に暮らそうか。手に載せられるだけ物資を載せるぞ」

 

『……呪紋での連絡すら取れない以上、こちらに異論はありません』

 

 こうして彼らは敗北を噛み締め。

 

 最後まで黒鎧以外とロクに戦っていない状況で壊滅させられた野営地の物資を巨大な半透明のソレの手に載せて移動する事で野営地を後にした。

 

 その移動のあまりの衝撃にバラジモールは一昼夜に渡って地震に襲われ。

 

 同時に彼らは半透明の地面の上から北部に見える巨大な大樹というよりは山のようになってしまったソレを後方へと見やり、霧の出る沼地地帯付近へと消えていく。

 

『(/・ω・)/(あの船の残された物資も根こそぎ確認してから持ってこーという顔)』

 

 教会勢力の此処に来ての壊滅的被害によってバラジモールは野営地の地震で崩れた廃墟と巨船の残骸が残るだけの場所と化し、それを見送った蜘蛛達はバラジモールの各地でミッションを完遂した事に安堵して、イソイソと残務処理後、転移用の神殿から第一野営地へと向かったのだった。

 

 *

 

 ―――翌日、第一野営地。

 

 その日、一度冥領エルシエラゴを通って帰還した蜘蛛達は捕らえた教会の後方支援部隊という名の牧師だのシスターだのを捕虜として、更に神聖騎士を墜とした新たな蜘蛛達と共に大隧道から帰還した。

 

 崩壊した野営地と巨船から回収された解析済みな大量の戦利品は野営地にいた家畜及び道具類だ。

 

 呪具から道具から殆ど何もかもがある。

 

 だが、だからこそ、第一野営地の人々の半数は思った。

 

『ああ、やっぱり、遠征隊は頭がおかしい(誉め言葉)』

 

 その中には何故か野営地の主要人物たるウート、ウリヤノフ、エルガムの常識三人衆がいたのだが、残りの割と物事を受け入れる体質になっていた蜘蛛達以外の人々の多くは『何だ。また、遠征隊か』で済ませた。

 

「頭のオカシイ異教徒め!? わ、我らをく、蜘蛛にしようと絶対に屈さぬぞ!?」

 

「神よ!! この悍ましく愚かしい者達に神の裁きを!!?」

 

『(T_T)(でも、君達って頭のおかしい宗教狂い人材だよね?という顔)』

 

 勿論、拉致されてきた教会の敬虔なシスターや牧師達は罵詈雑言の嵐。

 

 取り付く島も無い。

 

 ついでに連れて来た第三世代の神聖騎士が全員蜘蛛になっている為、彼らの恐怖は頂点に達しており、中には完全に心を病んで壊れた者も含まれていた。

 

「で、どうするんです? こいつら」

 

 カラコムが煩い背後の坊主とシスター達の叫びに肩を竦める。

 

「どうすると言われてもいつも通りとしか答えようが無い……」

 

 ウリヤノフが脂汗を浮かべつつ溜息を吐く。

 

「はっはー♪ 坊主一杯だな。マルクスの旦那ぁ!! こいつらの処遇、アンタが決めるんじゃねぇか」

 

 そう船長オーダムの大声にマルクスがイソイソと子供達の世話を一端止めて、彼らの方まで歩いて来た。

 

「マルクス? マルクスだって?! お前ッ、あのマルクスか!?」

 

「あの?」

 

 牧師の1人が思わずマルクスを見て、何とも言えない顔で叫ぶ。

 

 オーダムが首を傾げた。

 

 だが、牧師の1人が歯を噛み締めて、マルクスを睨む。

 

「そうか!! やはり、貴様は邪教に染まっていたか!!? この破戒者め!!? 世の子供達のみならず!! 我らまでもその手に掛けるつもりか?」

 

「あん?」

 

 オーダムが何やら因縁のような物言いに首を傾げる。

 

「ああ、済まない。船長……この島に送られた理由だ」

 

「おう。そういやぁ、あの修道女さんと一緒に何で送られたんだっけ?」

 

「教会の司教の一部が自分の毒牙に掛けていた女子供を殺した事件があった。醜聞を告発したら、罪を被せられてな」

 

「そりゃ、災難だったなぁ。まぁ、生臭坊主なんぞ、何処でもいるからなぁ」

 

「ヨハンナさんを巻き込んでしまった。今もそれが心残りで……その時、一緒に告発してくれたのが彼女なんだ……」

 

「なるほどねぇ。ま、いいんじゃねぇか? 人生、そういう事もあらぁな。で、こいつらどうする? 如何にも敬虔な信徒っぽいが?」

 

「ウート村長」

 

 マルクスがウリヤノフと共に連れて来られた者達をどうしたものかと見ていた彼らの前に立つ。

 

「何か意見があるのか? マルクス殿」

 

「……彼らを蜘蛛にするのはどうか寛恕願えないだろうか。確かに彼らは酷く因習と教義に凝り固まってはいるが、根は善人です」

 

「善人が我らを皆殺しにするのは騎士の件を見ても明白だが?」

 

「承知しています。人は正義と善の為にこそ悪徳を成すでしょう。ですが、彼らにはそれを知るだけの度量も人生も無かった」

 

「無知は罪だと何処かの哲学者は言っていたな」

 

 そうウリヤノフが肩を竦める。

 

「……無理を承知でお願いしたい。私も昔はあんな人間だった。教会に疑問を持ち。その上で教会に疑念を持ってようやく私も自分の常識から解放されたのです。それを今すぐ彼らに分かれと言うのも無理な話……ですが、彼らの命と心にはまだ本当の事を知るだけの余地はあるはずです」

 

 その言葉に二人が顔を見合わせて。

 

「マルクス殿。貴殿は自分を生臭坊主だと思うか?」

 

「ええ、少なからず。人並みに復讐心くらいありますよ」

 

「ははは、ならば、この者達はリケイ殿に任せるとしよう」

 

 ウートがそう判定を下す。

 

「おや、お呼びですかな?」

 

「リケイ殿……最初から後ろで待っている人間の言う事ではありませんよ。それは……」

 

 溜息を吐いたウリヤノフが蜘蛛達に言って、いつもの薬を持ってくるように指示する。

 

「はっはっはっ!! 教会の人間を折るのは我が使命。ベスティン殿に騎士でもない後方要員をやるだけの度胸と覚悟を求めるのは酷でしょうし、此処はこの老体が泥を被りましょう」

 

「喜々としてやっているように見えるが?」

 

 ジト目のウリヤノフが老爺を見やる。

 

「まぁまぁ、此処はまったく違う自分を受け入れさせるところから始めるのが上策というもの」

 

「いつものか?」

 

「ええ、また野営地の平均年齢が下がりますな。いやぁ、北部種族の女性の方々の雇い入れ、よろしくお願い出来ますか?」

 

「蜘蛛達ではないのか?」

 

「どちらもが良いでしょう。人は環境によって初めて動く生き物ですので」

 

「よろしい。リケイ殿頼まれてくれ」

 

「畏まりましてございます」

 

 ウートが頷いて、その場をリケイと一部の者達に任せ。

 

 さっそく増えた新しい蜘蛛の一族の方へと向かっていった。

 

 そして、残された牧師とシスター達が次々にこれから何をされるのかと絶望しながらも、強がるようにして神の罰やら騎士が助けに来ると捲し立て始める。

 

 それをマルクスは目を閉じて木に凭れて聞く姿勢となっていた。

 

 自分への罵詈雑言を噛み締めるようにして。

 

 それにご苦労なこったとオーダムがポンポン肩を叩くと部下達と共に仕事へと散っていく。

 

 こうして黒蜘蛛の巣の奥地。

 

 いつの間にかリケイが管理していた処刑場ならぬ人体の呪紋による変容を行う儀式場で彼ら牧師とシスター達は次々に白い繭にされて変貌していくのだった。

 

 *

 

「た、たたた、たいちょー!!? たいへんです!! たいへんですぅー!!?」

 

「どうした!? なにがあった!? ほうこくはかんけつにだぞ!!!」

 

「は、はい!! げ、げんざい、あのくそぼけじじいがやえいちからつれかえったぼくしやしすたーたちをまかされてあっちのほうにぃ!?」

 

「な、なにぃ? それはほんとうか!?」

 

「はい!?」

 

「く、ついにごしゅじんさまたちとやえいちが……ど、どうすればいいんだぁー!?」

 

 “たいちょー”が思わず相反する気持ちに頭を抱える。

 

「と、とにかくとめなければ!!」

 

「たいちょー」

 

「そ、そうだな!! とりあえずはいくぞ。あのくそぼけじじいをとめるのだー!!」

 

 幼女達の声が上がり、数十人が一斉に黒蜘蛛の巣の奥へと走り出す。

 

 しかし、彼らが其処に辿り着いた時。

 

 待っていたのは大量の自分達と同じ年齢の幼女だった。

 

「な、なんじゃこりゃぁ!?」

 

「ぼ、ぼくらはどうなってしまったのですかー!?」

 

「ああ、かみよ? かみよぉ!? このあくむからめざめさせたまえぇ!?」

 

 ワイワイガヤガヤしていた幼女達の傍には大きな甕が置かれており、霊薬は空っぽになっていた。

 

「な、なんということをー?! このくそぼけじじいめぇー?!」

 

「おや? たいちょー殿ではありませんか。この老木に何か御用かな?」

 

「ごようかな? じゃぁなああああい!?」

 

 思わず幼女達が喚く。

 

 周囲は儀式用の祭壇がいつの間にか置かれており、大量の人間を儀式で使う為の寝台も大量で40m四方の石製のそこでは幼女達が割れた繭の上で全裸のままビェエエと泣いている。

 

「お~~よしよし!? だ、だいじょうぶだ!! われらきょうかいきしがついているぞ!!」

 

「そうだ!! なきやむのだ!! おまえたちはおとななのだからー!!」

 

 同じような幼女達が彼らに次々持ってきていた粗末な麻布の外套を着せていく。

 

「こいつらはこーほーよーいんだぞー!!? ここまでするひつようはないではないかー!?」

 

 リケイにそうたいちょーが叫ぶ。

 

「ふむ? ですが、彼らは呪紋持ちでしたぞ?」

 

「な、なにぃ!?」

 

「おや? 気付かれなかったのですかな? 彼らはああして泣いておりますが、実際には暗殺部隊の類なのですが……恐らく暗示辺りで必要な時以外は自分でも分からない類の連中です」

 

「はぁぁああ!? そ、そんなわけ?」

 

『ごめんなしゃぃいぃぃぃいい。がみよぉ?! つみぶかきわれらをゆるしたまへぇええ!?』

 

『くそぅ!! しんてきとはいえ、おおくをほふってきたわれらにばつはくだるのかぁー!!』

 

『ああ、かみよぉ~~~いてきをくちくせんとしたわれらをどうぞおたすけくださいましぃ~~』

 

 よくよく聞いてみると懺悔している者達の大半が何やら裏方で暗闘に使われていた暗殺者崩れの牧師やシスター達であったらしく。

 

 宗教内部の派閥のゴタゴタの最前線に立っていた者達らしいと元教会騎士な幼女達にも理解出来た。

 

「た、たいちょー……か、かれらって、あのときどきはばつあらそいででてたふしんしのしゅはんじゃ?」

 

「む、むぅ。ど、どうするべきなのか?」

 

 思わず、こいつらは本当に幼女でいいのだろうかと。

 

 少しだけ蜘蛛にしていた方が安全だったんじゃという気持ちになる彼らである。

 

 しかし、たいちょーがガンッと地面に木刀を叩き付け。

 

 元暗殺者な幼女達の前に立つ。

 

「きけーい!!」

 

 その大声に思わず泣き止む幼女達が威風堂々としたたいちょーの様子に目を見張った。

 

「おまえたち!! かみのなのもとにひとをころしたわれらきょうかいきしをざいにんだとおもうか!!」

 

 その言葉に泣き止んだばかりの彼らは何とも返せる言葉も無かった。

 

「そうだ!! われらはざいにんだ!! だれがなんといおうとわれらはたしゃをころし、しいたげ、おおくをくるしめた!! いてきだから、あじんだから、ゆるされるわけもないだろう!! つみとはおのれがおのれにかすものだ!! じぶんのためにだれかをころしたからわれらはつみぶかいのだ!!」

 

 ならば、何故にそんな堂々としていられるのか。

 

 そう彼女達は思う。

 

「だが、どうしてこうかいできる!!? われらはしかばねのうえにたっているのだぞ!! おおぜいのれきしのわだちとなったせんじんたち。おおくのせんらんとさいかにしずんだこくみんたち。きょうかいのおおくはそういったものたちのなかから、あらたなじだいをむかえようとがんばったものたちだ。だからこそ、きょうかいはいまもある!!」

 

『―――』

 

「いつかばつをうけるのだ!! だれかのためになにかをなして、しぬまでくるしむ!! よいではないか!! それはずっとずっとおおくのものたちがたどってきたわだちだ!!」

 

 そんなに強く成れない彼らはしかし目の前の幼女の言う事はまったく弁明のしようもない程に異端かもしれないが、真実だと思った。

 

 何故なら、彼らこそ、教会の薄汚れた部分そのものだったから。

 

 そして、自分達が捨て駒にされている事を承知で島への航路に乗ったのだ。

 

 逃げ出す事は出来たかもしれないが、それで多くの罪無き教会の者達に狩られる事を彼らは己に良しとしなかった。

 

 死に場所は自分で決める。

 

 その矜持は彼らにもあったのだ。

 

「たとえ、てんごくにいけようとじごくにおちたせんじんたちがいなければ、われらはすすんでこれなかった。ゆえにわれらはちのそこにこそむかうだろう!!」

 

 その時、確かに彼ら幼女はその自分達を前に演説する幼女に遥か別の男の魂を見た。

 

「ともにじごくへおちるなら、かまわないではないか!! どうほうがいるならば、われらのいるべきばしょはけっしてあんのんとしあわせなてんごくでなくていい!! きょうかいはいまにくちるひとびとのため、いまもいきるものたちのため、じごくにむかったどうほうのため、ともにあゆむためにあるのだ!!」

 

 その演説を聞いていたリケイがパチパチと拍手する。

 

「よろしい。実に清々しい鬼畜なる教会騎士。その心根が在る限り、我らの敵は我らの敵として永遠に戦い続けるに値する相手でしょうな」

 

 リケイがたいちょーに苦笑する。

 

 まだ、この教会が天下を取った過日にも本当の教会騎士がいる事が、何処か嬉しくて、悲しくて、恐ろしくて。

 

「?」

 

「お名前をお聞きしよう。教会騎士殿」

 

 初めて、リケイはその“たいちょー”としか呼ばなかった彼女に向き合う。

 

「―――わがなはりーえる・すたーじぇん!! いてきたるかみのむくろまつりしほこら、はかもりのかけいにつらなるもの!!」

 

 リケイの両腕が光る。

 

 その魔力の輝きがイエアドの印を露わにして老人の全身に刻まれた呪紋をゆっくりと染め上げた。

 

「なんだ? わたしをころすか? まのふきょうしゃ、りけい!!」

 

「いえいえ、教会騎士の鑑のような貴方様に永遠の仇敵として、少しばかりの塩を送りましょう」

 

 パンッとリケイの手が合わせられた途端。

 

 そこから溢れた光が儀式場を覆い。

 

 その星々のような僅かな輝きがリーエル・スタージェンと名乗った“たいちょー”に飛び込んでいく。

 

「こ、これは? な、何をした!! クソボケジジイ!!?」

 

「ほっほっほっ♪ なぁに、少し月日をお返しするだけでございますよ。スタージェン殿」

 

「た、たいちょー!?」

 

「たいちょーがぁああ!?」

 

「ど、どうしたお前達?! 何を慌てているんだ!?」

 

 思わずたいちょーがあわあわしてあたふたしまくる仲間達の様子に何があったのかと尋ねようとしたが、異変に気付いた。

 

 ビリ。

 

「へ?」

 

 ビリリ。

 

「あ、ちょ、な、ふ、服がぁ!? のわぁあああああ!!?」

 

 ビリリリリ、ブツン。

 

 たいちょーが思わず赤くなって自分の体を隠すように抑える。

 

「質量はアルティエ殿の呪紋で代用したので問題ありません」

 

 今まで幼女だった彼女の姿が一分も経たずに12歳前後まで成長していた。

 

 無論、小さ過ぎる服が破れてパサリと地面に落ちた。

 

「なぁあああああああああああ!!!?」

 

 思わず屈み込んだ少女にリケイが肩を竦める。

 

「いやぁ、仇敵の演説があまりにもその姿では締まらないもので相応の体にしておきました。まぁ、頑張って彼女達を統制して下されば」

 

 そう言い残すとリケイは何処か軽やかな足取りでその場を後にして、残されたのは先程の演説を聞いていた幼女達とたいちょーの部下達のみであった。

 

「クソボケジジイめぇえええ!? ふ、服を誰かぁあああ!!?」

 

 黒髪の少女は聊か線がしっかりしているが、十分少女らしい輪郭をしており、胸元も遠征隊の女性陣がちょっと凝視しそうなくらいに膨れていた。

 

「ああ、たいちょーがおこまりだ!! こ、ここはわれらのからだで?」

 

 部下達の体で何とか隠して貰えた様子の彼女が安堵の息を吐いている合間にも新しい元暗殺者系幼女達がイソイソと彼女の周囲に集まって来る。

 

「リ、リーエル・スタージェンどの!! あ、あなたのおことば、かんどういたしました」

 

「ぬ?」

 

「は、はい!! われらはもうきょうかいにかえれないみだというのに……あなたさまはおのれのいきかたをしっかりともっていらっしゃる」

 

「そ、そうだ。だから、お前達も―――」

 

「リーエルさま!! われらはまだあなたさまのようにはゆきません。ですが、あなたのおそばにあれたなら、ちゃんといきられるようなきがするのです。ですから、どうか!! われらを!!」

 

「われらをあなたさまのはいかにしていただけませぬかー!!?」

 

 ガバッと幼女達が一斉に頭を下げる。

 

「お、おう? そ、そうか。配下と言うか。同胞と言うか。とにかく、共にこの野営地で生き抜こうではないか!!」

 

 その笑顔に暗殺系幼女達がブワッと涙を零した。

 

 そのリーエルの笑顔は彼らの中では30割増しくらいに美化されているのは間違いないだろう。

 

「我らは教会騎士!! しかし、今はその気持ちのみを以て、この地に住まう者達と共に生きる者!! 誰であろうと何であろうと!! 今を苦悩する者達の盾となり、矛となる者!! 出来れば、どうか共に我らの背後を護ってくれないか!!」

 

「りーえるじゃま゛ぁあああああああああああッッッ(´;ω;`)!!?」

 

 泣き出した幼女達を前にして“たいちょー”ことリーエル・スタージェンはこうして彼らの仕えるべき主となったのだった。

 

『そ、そうか。たいちょーはやはりスゴイヤツであったか』

 

『すー?』

 

『うむ。取り合えず、アマンザさんに報告してくるかのう』

 

『う~♪』

 

 その様子を後方から覗いていたリリムと姉妹達と近頃一緒に養育されているマーカラやヘール達がウンウンと自分達を護ってくれる“たいちょー”の凄さに自慢気な顔となる。

 

 後ろの蜘蛛さん一堂も何だか感動的な様子に良かった良かったとウンウン頷いており、後で家から過激な下着付きの衣服でも届けようとイソイソと音も無く現場を離れる。

 

 こうして、野営地には教会騎士派なる勢力が改めて誕生し、彼女達は一人の主と決めた少女を中心として、幼女らしからぬ清く正しい教会騎士道を究めようとする者とそれを補佐する者達となっていくのだった。

 

『な、ななな、何なのだコレわぁあああ!!?』

 

 その夜、自分に与えられた第一野営地の新しい女性用の軍装(ヒラヒラなスカートの制服に長い外套と軽装鎧)に喜びつつも遠征隊の女性陣が普段使いする下着などを貰った彼女は……自分が今は女だったと今更に気付いて『女はこんな下着を身に着けているのかー⁉』と、驚愕した。

 

『で、でも、ちょ、ちょっと薄桃色でカワイ……いやいや!? 破廉恥に過ぎるぅ!? だ、だが、これでご主人様は遠征隊の奴らと毎晩……く、くぅ?! もう仕方ないなぁ!?』

 

 愕然としながらも、少し興味がある様子で自分から過激な下着を履き始めた彼女が他の幼女達にちやほやとファッションリーダー的に持て囃されるのはそれから翌日の事。

 

 幼女だった時と同じく。

 

 河で体を洗って沐浴していた時の事であった。

 

『へ、へぁああ? なななな、そ、そのしたぎわぁあ?!』

 

『ひぅい?! た、たいちょー!!?』

 

『なんてすごいしたぎをはいてるんだ!? あんたってひとはー!!?』

 

 多くの野営地の女性達は見ていなかったが、後追いで入って来たアルマーニアを中心とした北部勢力の女性陣は『ニアステラ畏るべし』という顔で固まり、それを偶然目撃していたアルマーニアのヒオネの侍従達が思わず吹き出し。

 

『た、たた、たいちょー様? ちょ、ちょっとこっち? こっちに来てくださいまし!? 如何に貴方様が元教会騎士だったとはいえ、その下着は―――』

 

 はしたないでは済まない夜の下着を昼間も装着済みで沐浴していた無骨なたいちょーを慌てて宿屋へと回収する事になったのだった。

 

 *

 

 エルタを退け、サヴァンを屠り、ようやく教会騎士と神聖騎士達を何とか東部から駆逐しようとしていた少年が途中、困った事になったのは間違いなく今までの無理が祟っての事だった。

 

「―――ぅ」

 

 フラリと倒れ込みそうになる少年を夜半過ぎの月の無い夜。

 

 背後で小神の樹木が蠢く世界。

 

 走っていた少年は東部最北端の祠付近の森の中で樹木に背を預けていた。

 

 周囲には蒼白く染まった鋼色の盾のような甲殻を持つ蜘蛛と紅蓮に今も燃える。

 

 否、炎が蜘蛛の形になったようなモノがいる。

 

「……呪紋の開放で処理限界が来てる? これだけの能力があっても、この三つの呪紋は……」

 

 少年がブツブツ呟きながらも意識が途切れそうな様子の己を客観的に見て、このままの戦闘はリスクが大き過ぎると二匹を両手で掴んで、転移でアミアルのいる場所まで戻って来る。

 

『契約者!?』

 

 戻って来たところですぐに異変に気付いたフェムが少年を支えた。

 

「大丈夫ですか!? もし、もし!!」

 

「……呪紋の開放でしばらく起動待機処理に意識を取られる。起き上がるまで時間が掛かる場合、野営地でどうにかしないとダメそう。アミアルを家に戻し―――」

 

「?……どうしたのよ? え?!」

 

 少年が呪霊機に倒れ込むようにして支えられているのを確認して慌てて駆け寄って来るアミアルが少年の様子に顔を青褪めさせる。

 

「ど、どうしたのよ!? ねぇ!?」

 

「……家で待っ―――」

 

「呪霊機!! こいつを運んで今すぐに!?」

 

「話を聞―――」

 

「いいから、顔が青いし、フラフラだし、もう?! 馬鹿馬鹿何してるのよ!?」

 

 言っている合間にも少年の目が閉じられていき。

 

 起きなくなったのを確認したフェムがゆっくりと少年の体をお姫様だっこで持ち上げる。

 

『しょうがない契約者ね』

 

「へ?!」

 

 思わず、フェムの声にアミアルが固まる。

 

 特別な呪霊機だとは思っていたが、それにしても喋るとは思っていなかったのだ。

 

『ふぅ……貴方達、契約者がしばらく起きない間の護衛は貴方達にやらせるわ。いいわね?』

 

『『(/・ω・)/』』

 

 いいとも、と二匹が片腕を挙げて応えた。

 

「え―――?!!?」

 

 アミアルが背後を振り返り、二匹の自分の身の丈もありそうな蜘蛛に気付いて再度固まる。

 

『それとこの女はどうしましょうか。本当ならそれこそ蟲の餌にしてやりたいところだけれど、我が契約者のお気に入りだものね……まぁ、適当に苦悩して貰うというので手を打ちましょう』

 

「え? え?」

 

 何が何やら分からない様子のアミアルをジト目で見やる彼女が外殻を脱いで翅となっていた妖精蜘蛛達を解き放ち。

 

 フェムを囲む。

 

「な、何、何なの? 蜘蛛? よ、妖精? え!? どういう事よ!? ねぇ、ねぇってば!?」

 

 寝ている少年を起こそうとした彼女の手がフェムの魔力でピシャリと撥ね退けられる。

 

「い、いた!?」

 

「触らないでくれるかしら? クズ女」

 

「な―――」

 

「本来なら、この瞳で貴方の心を隅から隅まで壊してやりたいところを我慢してあげてるんだから、少しは黙って聞きなさい。それと貴方には選択して貰うわ」

 

「せ、選択? な、何よ。何なのよアンタ!?」

 

「私は最後の妖精。そして、この子達は彼の子供達……貴方にはこれから真実を話して上げるわ。どうにもならない真実をね。貴方が何をどうしようとも決して変わらぬ真実を見せてあげる♪」

 

 悪意の塊のような愉悦で妖精は嗤う。

 

 それに『悪い顔だなー(T_T)』と思ったエルタとサヴァンの変異した蜘蛛達であったが、変異したばかりで主人を失くすのも困りものだと妖精とアミアルをヒョイと背中に載せて、カシャカシャと遠回りで戦場跡を迂回しつつ、オクロシア方面へと向かう事にした。

 

 こうしてアミアルは人生における本当の決断を迫られる事となった。

 

 互いに見える位置で蜘蛛に運ばれる妖精から物語を聞かせられて、オクロシアに付くまでの道中、その永い永い物語を彼女は聞く。

 

 それは一人の少年の物語。

 

 戦い続ける英雄と呼ばれた少年の話に違いなかった。

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