流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて- 作:Anacletus
ニアステラとフェクラール。
二つの地域に跨る第一野営地から始まった黒蜘蛛の巣を街として発展させる地域開発は現在超速の進展速度を以て次々に成功を収めていた。
その肝となるのは黒蜘蛛の巣が持つ多様な機能と効率的な各区画の内実にある。
中央にある竜骨製の巨大塔は中央塔と呼ばれ、そこを中心として6つの区画を揃えて、蜘蛛達は内部の亜人達と共に生活していた。
六角形状の街区の区割りは上から順に朝から光が入る農業区画から始まりほぼ方角も揃って大体何処の巣も同じ造りとなっている。
農業区画、工業区画、商業区画、住宅区画、軍事区画、政務区画の六区画以外は黒蜘蛛の巣の中枢機能に関わる部分であって、基本は蜘蛛達が管理していた。
『おはよう。蜘蛛さん』
『(・∀・)(おはよう。亜人さんという顔)』
『今日も早いねぇ。あ、いや、今からお休みなんだっけ?』
『(>_<)(その通り!! という顔)』
住宅区画は黒蜘蛛の巣の防御能力の為、外に食み出ないように設計されており、居住地の開発が地上でほぼ完了すると二階建てと地下居住区の開発で収容人数の激増を以て各地域に流入する人員の住居が賄われている。
『地下居住区の通路の再開発がそろそろ完了する頃合いだな』
『そうですか。これ以上、この地域に岩盤が振って来なきゃいいですけど』
『今度はその20倍加重に耐えられるように作り直すそうだぞ。蜘蛛達が看板で会話していた』
『それにしても何で蜘蛛達は看板で会話してるんでしょうね』
『分かり易くする為だろうさ』
『はい?』
『分からないなら、それでいい』
農業区画は先日までは太陽の輝きが朝から入る区画に設定されていたが、現在は巨大な天井が落ちて来たので再開発中だ。
ここ数日の蜘蛛達の努力の成果として、岩盤を掘り抜いた蜘蛛達が山脈の地表に広げた不可糸を加工した光を採取する呪具を利用して地下となった世界に再び光を齎そうと頑張っている。
【採光糸】と呼ばれる素材で折った布地を山脈に張り付ける形で光を採取し、また岩盤が降って来ても事だとばかりに海の方まで糸を伸ばして遠浅の海底に設置。
これらの黒く見える布地は降り注ぐ陽光を吸収し、次々に糸で伝達して、地下世界に光を届け始めている。
『おぉ、農業区画だけは夜じゃないんだな。というか、朝と夜の感覚が無くなりそうだったから助かるな』
『これで爆華もちゃんと育ちますねぇ……』
『ああ、此処の生命線だからな』
『(´・ω・`)(それはそれとして暗闇でも育つ爆華や諸々の作物開発は始まってるんだけどさという顔)』
光を天井と海底から補給し、少しずつだが、両地域の農業区画周辺から天井に張り付けられた呪具製の布地を通じて光が降り注ぎ始めた。
数日間、暗闇に生きていた人々の多くがこれ幸いにと朝方にはこの地区に近付いて朝日を浴びたり、通り道にしているという事で道が少し込んだりしている。
元々、色合いを再現する呪紋を使い始めていた蜘蛛達が光を通す糸を使うという発想に行き付くのは至極当然の出来事だっただろう。
数か月もせず。
海洋の一部に暗い海域が出現し、天井上の白い山脈の外は黒い大地と化すだろう。
こうして大量の光が両地域に供給される手筈となっていた。
『うお!? もう出来てる!!? 親方ぁ!? もうヴァルハイルの連中が造ってた例のドラク・モドキ出来てますよぉ!!?』
『ドラク・モドキじゃねぇ。シュヴァリアだっつってんだろ』
『で、でも、竜型じゃなくなっただけでしょ?』
『あのなぁ? モルド使わずにコイツを操るなんざ。本来不可能なんだぜ?』
『そ、そうなんすか? 勉強不足で申し訳ねぇっす』
工業区画もまた今までとは違って大量のヴァルハイルの技術者が入った事で進展を余儀なくされており、高度な工作機械とそれを用いた魔力と呪紋、呪具の製造プラントが既に稼働していた。
ヴァルハイルから持ち込まれた資材で工場は複数作られており、次々に電力設備の稼働に伴い操業を開始。
戦力としてのモルドを用いずに運用可能なドラクの発展形……アーカ家の当主が少年の為に作っていた機体の基礎技術を転用した超絶劣化品が既に生産されていて、蜘蛛達の昼夜無き製造も相まって少数ながらも配備が始まっている。
通常のドラクよりも背が低く人型に近いので製造コストも安いソレらは凡そ6m程であり、人間が内部に乗り込んで戦う鎧が大型化したものと捉えられていた。
その中でも高コストの指揮官機、フラッグシップとなったのは“たいちょー”と“へんきょーはく”専用の機体の廉価版であった。
これも人型になった蜘蛛達や亜人達が訓練の為に乗り回し始めており、その様子を見ている子供達の中でも特に男子には垂涎の的となっている。
『か、かっけー!?』
『こ、これ、ドラクじゃねぇんだもんな!? オレ達も乗れるんだってよ!?』
『オレ、大人になったら、コレに乗るんだ!!』
『ぼ、ぼくはウルがいいな(ボソ)』
『せんせーに将来の夢の作文出す時、これの事書こうぜ!!』
そんな工業区画を横目に商業区画ではアルマーニアを筆頭にした亜人達の商業組合が既に工業区のヴァルハイルの者達と同様に組織化されており、工業区で生産された一般的な呪具だとか、娯楽商品、農業区の農産物を主軸とした多種類の商品を売り出していた。
ついでにウートが第一野営地とイーレイとの間で取り決めた貨幣の製造が既に開始されており、白霊石をコインの形に加工した代物、緋色の硬貨【ゾティーク】が出回り始めている。
『コイツがゾティークか。緋色だな。キラキラしてやがる。それに霊力が込められてんのか? とんでもねぇ力が入ってるような?』
『商業組合から今後は蜘蛛達への支払いや他の支払いも全部これでって話ですし、まずは普及させるところから始めましょう』
『そ、そうだな……コイツがニアステラとフェクラールの新貨幣……確かに偽造も不可能だろうな。霊力が吸われると色が抜けるらしいし、霊力を吸うのは蜘蛛達だから、最終的にはニアステラに回収されるわけか。良く出来てやがる』
『まぁ、ウチらも使おうと思えば使えるらしいですし、実際に価値はありますよ。まずは使ってどうなるか見てからですね。評価は……』
『ああ、コイツは上手くいきそうだ……』
その呪具化された白霊石は一定量の霊力を込められた代物であり、金などの希少価値がある物質と同じく。
ソレ自体が希少である白霊石の希少性と込められた霊力を己に還元する事が可能な呪紋と魔力との等価交換の指輪が次々にリケイと蜘蛛達の下で作られ普及する事により、霊力を内包する通貨として運用され、これが殆どの場合は蜘蛛達への支払いとして運用された。
特に多いスピィリア達は魔力を生存に必要な糧として得ている為、彼らにとって価値ある物として開発されたのがゾティークであった。
『(>_<)(ゾティークおいちい!!という顔)』
『(T_T)(でも、ニアステラの1人の青年の犠牲を忘れてはならない……美味しいけど、という顔)』
『(´・ω・`)(魔力に転化して吸うと大体霊力入れた人の状態分かるよねという顔)』
『(・∀・)(霊力からオレは樽、オレは樽ってやたら聞こえてくるんですけど、という顔)』
『( ̄ー ̄)(樽係は伊達じゃない。ニアステラの経済は樽の人の仕事に掛かっているな、という顔)』
今までは台帳に付けられた働きに応じて色々な報酬を得ていた蜘蛛達だが、もっと直接的に代価となったゾティークを自分に使って霊力を増したり、魔力にして回復したりするようになったのだ。
この硬貨は込められる霊力を制限する仕様で、意匠と共に低額から高額の硬貨まで数種類が存在しており、その霊力の出所は勿論。
いや、言わずもがなに違いない。
近頃、更に能力が強まった一人の青年が自分が死ぬよりは樽になろうという悲しい決意と共に毎日毎日、白霊石の巨大な板の上を蜘蛛達に転がされるという超原始的な方法で霊力を板に込めて、虚ろな視線で『オレは樽、オレは樽』とノイローゼ気味に呟きながら、報酬である超高額のゾティーク硬貨を家の倉庫に革袋で積み上げている。
なんて悲劇は誰にも語られない方が良いだろう。
『それにしても襲撃される以外は治安良いですよねぇ。此処』
『まぁ、治安維持を蜘蛛達が半分以上担ってるからな』
『近頃はお水のねーちゃんがいる店も出来ましたし♪ 治安良けりゃ、もっとそういう店が出来るかも? ふふ』
『いや、お前……あんま入れ込むなよ? ホント……』
住宅区は特に人々を直接防護する為の能力が求められていた為、気合を入れて蜘蛛達が作っていたわけだが、地下開発もそろそろ終わろうという頃合いに天井が振って来て、開放される前に複数破壊されたり、罅割れたりして、新しく作り直されている最中。
復興は迅速に行われており、昼夜なく建築業に勤しむ土建蜘蛛達はディミドィア達を筆頭にして“巣を護る”“家を護る”的な使命感に燃えて、彼らの建築速度はもはや常識と掛け離れた様子だ。
その力を借りて商業区付近では“そういうお店”も流入した北部亜人向けに開業が相次いでいた。
『あら~~蜘蛛さんいらっしゃい。今日は何の御用?』
『(>_<)(おかーみのご飯を食べに来ましたと看板に書き込む蜘蛛系労働者の顔)』
『あらあら、分かりました。では、今日も腕を振るっちゃいますね♪』
『おいおい。おかみさーん。オレらの相手もしてよぉ』
『はぁ~~酔っ払いさんも皆纏めてお酒と食事で腹一杯にしてあげるわよ~』
仕事を受けて、設計して、図面を引いて、資材を調達して、加工して、組み立てて、内装を造って、住人に明け渡す。
この一連の作業をして尚、一日で家が建つ。
ついでに集団でやれば、1日で20棟は瞬時に建つレベルの高速建築は北部の入居者達の商業店舗の確保に寄与し、黒蜘蛛の巣の経済圏は混乱の最中にあっても拡大を続けていた。
水石、白霊石を筆頭にした様々な冥領から流入する大量の資材は此処で猛烈な速度でこういった建築や呪具の製造で消費されており、直通のトンネルは常に長い馬車ならぬ精霊が引く車の列で満杯。
それが渋滞もせずに建築現場に流れ込んで帰りにゾティークと主に爆華や嗜好品の類を乗せて地下に戻っていく。
その様子はもう街の住人達には見慣れた風景だ。
『一度はエルシエラゴってとこに行ってみたいもんだな』
『御伽噺じゃ地獄って言ってましたけど、今は蜘蛛達の地下の秘密基地みたいなところらしいですよ?』
『でも、あれだろ? すげー沢山温泉があるんだろ?』
『蜘蛛達の間では湯治場みたいな扱いらしいですね。採掘地以外は軍事訓練や色々な秘薬の製造に必要な薬草を大量栽培しているとか』
『薬かぁ。そういや、黒蜘蛛の巣に取り揃えてある薬はやたら効果高いって聞いたなぁ……ほぼ、どんな病気も怪我も治るとか』
『まぁ、商業区の連中が安くするから、薄めて効能低くしてもいいとか聞いて来るくらいにはニアステラの特産品ですからね』
このような急速な街区の発展は治安維持がしっかり行われているからこそ、可能なものであった。
その治安維持を行うのは軍事区画に集められた各種の治安維持組織。
第一野営地で商隊の護衛をしていた者達を筆頭にした各黒蜘蛛の巣の治安維持部隊は現在、警察権力を持っており、主に亜人の取り締まりを同僚の元軍人の北部勢力の者達と共に行っているのである。
『あ~商業区は今のところ問題無さそうだ。ただ、工業区はヴァルハイルの連中がまだ何か怪しい動きしてるな。後で蜘蛛達に家宅捜索させといて』
『それにしてもまだ諦めてないんですか? あいつら……』
『最後に特大の希望とやらを器廃卿が遺していったからな』
『後々、禍根にならなきゃいいですけど……』
『仕方ねぇ。ここを狙い始めた連中は多い。ヴァルハイルが沈んでも、王群だの、教会だの、エル大陸からの使者だの、噂じゃ外大陸から神々や軍が攻めて来るなんてトンデモなもんまであるしな』
『はぁぁ~~前途多難、ですか』
『戦争は終わったのにな。まだまだオレ達亜人の苦難は続くってこった』
軍警と呼ばれるようになった治安維持部隊は真っ先に工業区で作られたドラクの発展形である機体【シュバリア】を導入し、蜘蛛達が戦闘用のスピラスを警務仕様にした軽装の【スピラス改】を運用しつつ、流入した北部勢力の亜人達の中から犯罪者が出ないようにと見回りを欠かさず。
夜に眠らない蜘蛛達の性質も相まって昼間は亜人達が、夜は蜘蛛達が見回る事で犯罪発生率は極めて低水準で推移していた。
『今は耐え忍ぶのだ。同胞よ……ヴァルハイルはいつか必ず復活する』
『その時まで我らは生き延び。泥を啜っても、戦い続けるのだ』
『(/・ω・)/(悪い事してなきゃ、別にいいよとヴァルハイル達の頭上で透明化したまま内定し続ける顔)』
瞬時に動ける軍警は治安の要だが、多くの場合は居住者の護衛と避難が主任務であり、軍事的な圧力としては考慮されていない。
遠征隊の下に付いている蜘蛛達の中でも武闘派な者達は実質的な軍の形態は取らないものの、それでも交代制で軍用施設の管理と運用を行っている。
彼らの多くは他の区画で働いている軍事を副業とした蜘蛛達だ。
国民総皆兵に近い蜘蛛達の軍事大系が事実上敷かれている為、暇な者が夜の訓練に参加する事になっている。
『(^O^)(もうどうにでもなーれという顔で標的の神に突撃する無謀な顔)』
『('Д')(ホント、受肉神はやべー能力しか持ってないなという顔)』
『(*´▽`*)(あ、これ死んだわと造った仮想受肉神の攻撃にブチ当たって吹き飛ぶ一般蜘蛛の顔)』
『(;^ω^)(アレ? ぼくまた何かやっちゃいました?と仮想受肉神の急所を偶然貫いてしまった運の良い英雄の顔)』
『(T_T)(受肉神討伐時の損耗率がようやく1割切ったなと部隊を纏める隊長の顔)』
この訓練の様子は一部の軍関係者には解禁されているが、その凄まじさを初めて見てからと言うもの……多くの北部勢力の亜人達は口を閉ざした。
ソレが何を目標にし、どんな相手を標的にした訓練なのか。
分かってしまったからである。
神殺し。
神に準じる全ての存在を圧殺する圧倒的な質を求めた蜘蛛達の手練手管は常に洗練されており、蜘蛛単騎が事実上の制限である魔力と霊力の消耗という枷が在っても、殆ど一人で亜人の一部隊程度は倒せてしまう練度なのだ。
『何で無限に再生する標的を破壊出来るんですかね。あいつら……』
『何も言うな。あの力はもしもとなれば、受肉神の全てに向けられる可能性すらあるものだ。我らは信頼関係を築くのに全力を出すので良いだろう』
『どの道、勝てない、か……』
こんなのが徒党を組んで戦術と連携を行って呪紋を山程使いながら、まったく静かに神速の軍事行動なんてしてこようものならば、今の自分達ではどうにもならないと分かってしまうのは無理からぬ話だろう。
なので、軍事区画では亜人達は静かなものだ。
諦観の域に達した彼らに出来るのは蜘蛛達の邪魔をせぬように蜘蛛達の真似をして訓練を重ね、自分を鍛錬する事だけであった。
『(>_<)(ちゃんと訓練がなされているようで大変よろしいという顔)』
『( 一一)(でも、訓練で補える連携の練度には限界があるんだよなという顔)』
『(;´・ω・)(今後の事を考えると次の基礎能力の上昇が起こった時にようやく神の階梯相手に届くようになりそうという顔)』
このような街区の状況を逐一集計し、報告し、必要な資材領や使い終わったゾティークの回収や各団体組織、種族の利害調整を行うのが行政区の仕事である。
此処に務める者の3割は亜人、4割は蜘蛛、残りの3割が幼女であった。
何故に幼女が多いのかと言えば、ヴァルハイルや教会騎士達が圧倒的に識字率が高く、計算や他諸々の事情を処理出来る人格を有している事が多く。
特に教会騎士は元々がエリートだった事もあり、あらゆる意味で便利な人材だったのだ。
『こんなことになるとは!! だが、いまをいきるものたちのため、われらもがんばらねば……』
『たとえ、きょうかいがてきになろうとも……われらのきしどうはいまをともにいきるものたちのために』
『うぐぅ!! きょうかいからしめーてはいされちゃったらどうしよう!?』
『あ、あちらにかぞくがいるものもいるからな、むずかしいもんだいだ』
『……(コイツらの下に付く事になるとは……だが、我らヴァルハイルの民……決して折れず曲がらず人生を戦い抜かねば……器廃卿が遺した意志と共に)』
『(;´・ω・)(器廃卿が遺した意志と共にとか考えてそうな顔だなーという顔)』
ヴァルハイルは亜人達の手前、かなり控え目に教会騎士の下で働く部下のような形にされてはいたが、ヴァルハイルの方が人材は多かった為、教会騎士幼女1に対してヴァルハイル兵幼女10とかの比率で現場では行政区画を担当させられていた。
亜人達にしてみれば、憎きヴァルハイルと自分達を追放した教会の騎士達であるが、幼女化されたせいで体力があまり無く。
それでも何とか一生懸命頑張る姿が幼女なものだから、強くものを言えず。
結局は蜘蛛達に諌められて、殆ど諍いも無く。
何とか黒蜘蛛の巣は回っている。
彼らを統括する部署の上司は蜘蛛だったり、亜人だったり、幼女だったりはしたが、彼らは上司としてならば、何処の派閥でも遜色なくやっていた為、多くを求め過ぎなければ、仕事は人手不足感は否めなくてもちゃんと回っていた。
だが、そんな最中にも事件というのは起こるものだ。
少年は前日に五大災厄相手に戦った後。
新しい生物を自分の配下に迎えた。
とか何とか言っている間にも気を失って眠り込み。
少年のいない間の地域の防衛は遠征隊と各地の黒蜘蛛の巣の守備隊に任された。
岩盤の上にある山脈に居を移す事になった五大災厄の1人は皇帝の許しを得て、しばらく岩山の上で領土を展開している事となった為、今現在はその地域の造営に蜘蛛達が出動。
先日の王群の襲撃時の復興も合わせてまだまだ何処も忙しい。
「(-ω-)……(五大災厄が一つ東部に流れてったけど、他は何か来たりするのかなぁ?という顔)」
「(;´Д`)(それよりも先に採光糸の布ガンガン作らないと予定に間に合わないよという顔)」
そんな両地域が未だに慌ただしい事になっている最中。
北部の海洋にある黒蜘蛛の巣ではまだ亜人達を受け入れておらず。
巨大なアルメハニア達による糸蜘蛛による工作で街区が造られていた。
そろそろ彼らが黒鉄の戦艦を周囲から掘り尽くしたからである。
巨大な貝蜘蛛達アルメハニア達は街区を内部に整備しつつ、今後の外界からの侵入者や侵略者から北部を護る第一の防波堤として警備も行っている。
そのソナー染みた耳で彼らは初めて北部海域に何やら近付いてくるのを確認していた。
彼らの瞳は基本観測用の呪紋が複数常時走り続ける為、光学観測のみならず、海中の音から海上の風から、遥か成層圏から降って来る電波やら、何でも受動的に受信するのがデフォルトだ。
少年から妖精瞳を借り受けているのでその観測範囲は酷く広い。
故に彼らは水平線の先であろうとも大気圏から反射してくる各種の情報を統合して、物体の位置までも把握する。
千里眼染みて半径200km近い索敵範囲を常に展開していた。
「………(´・ω・`)(何か来たな、という顔)」
彼らが目と耳を澄ます。
すると、丁度彼らの管轄する海域に入って来る複数の艦船の航行音とその艦内の内部音が入り込んで来る。
『艦長!! 航路図によると此処から先が恐らくは魔の大陸かと思われます』
『そうか。遂に我らは此処まで到達したか。勇者様達のご様子は?』
『はい。我らの大陸の最大戦力は意気軒高。今は艦内で組手をしております』
『我らエンシェント・エルフがまさか他大陸からの要請に応える事になるとはな』
『ですが、既にエム大陸では艦隊が出発している頃合い。他の大陸の者達もそろそろ集まって来るでしょう。未知の大陸も多いでしょうが、皆やるべき事は心得ているはず』
『フン。進み過ぎた文明が目指すのは発展のみだ。我らとて勇者様達を運ぶついでに魔の大陸に外地を取って来いと言われて来た以上は戦わねばならぬ』
『艦長。勝てるでしょうか……』
『勝てねば困る。大国を一晩で壊滅させる手練れ12人……能力も肉体も申し分ない勇士達……一振りで山を消し飛ばす者、大海を割る者、空を切り分ける者、こんなのを12人だぞ?』
『はは、確かに過剰かもしれませんね。ですが、本当に世界は破滅するのでしょうか……』
『分からん。だが、最新の軍用水中翼船300隻……いざとなれば、海も大空も飛ぶ我らが容易に負けるとも思わん』
『この艦隊が事実上の最初で最後の戦力だとしても、ですか?』
『仕方あるまい。魔王だ戦乱だと馬鹿正直に力が支配する我らの大陸が平定されたのは此処最近の話だ。外大陸からの悪魔共の侵攻も防がねばならん。神々が如何に口を揃えようと早々全てを掛けて見知らぬ地に向かおうとはならん』
『……魔の大陸にも民はいるでしょうね。我らは侵略者と呼ばれる事になる……』
『最初に警告はするとも……世界を滅ぼすようなものがいる場所だ。精々、我らと同じ存在に見えぬよう祈るのだな。これは政治なのだ』
『最新式の魔力炉で最初にやる事が外地侵略とは……我らも先進文明を気取る他大陸を揶揄出来る程に清廉ではありませんな』
『ならば、此処で下船するかね?』
『生憎と子供を12人食わせねばなりません。大人として、軍人として対応する事にしましょう……』
声の主達の他にも何やら勇者とか呼ばれた者達の声も収集したアルメハニア達だったが、聞こえてくるのは魔の大陸の怪物を打ち倒し、人々に平和を齎そうとか。
民間人の事を気にする言葉は吐くのに強者と戦いたいとか。
もしくは仕事だから、使命だから、神の思し召しだから、というような思考停止系ばかりだ。
「( 一一)(怪物にも心があったり、事情があったりするんだけどなーという顔)」
「( ̄ー ̄)(気配と観測情報だけ見ても、使徒くらいの階梯しかいないし、準軍人対応でいいと思う。別にそんな同情しなくてもいいんじゃね?という顔)」
「(;^ω^)(というか、ご主人様が寝てる時に来るのが悪い……生憎と対応出来ない時に来た侵略者はえぬじーという顔)」
アルメハニア達が合議の結果。
その艦隊は残念ながら沈める事が決定したのだった。
今、大陸一つ滅ぼせそうなものが複数到来し、教会の主神が来寇するという時節に余計な戦力の負担になる敵は一ミリも歓迎されなかったからだ。
それでも一応は彼らにも慈悲があり、エルミに許可を貰って、霊魂を呪霊にする呪紋……呪霊属性儀式呪紋【ハシマスの儀】の使用が承認された。
少年に服従の呪紋や眷属契約をして貰っている仲間内で呪紋の貸し借りが出来るというのはかなり便利な話であり、イソイソと彼らは仲間を一匹飛ばす為の呪紋を海底に彫り込み。
周辺海域に異音を響かせつつ、近頃彼ら用に持って来られたウルの超巨大版。
【ウル・マグナ】
数百m級の巨大なスライム状金属流体を連れ立って転移を決行。
進路の予定海域に到達後、待ち受ける相手を消し飛ばす為の準備をイソイソ開始して1時間程で会敵するのだった。
*
その日、起こった事は端的に言えば、大分事故寄りの大事故だったと後にアルメハニア達は他の蜘蛛達に語る事になる。
何せ、彼らもちょっと心を痛めたのだ。
『艦長!! どうかご再考下さい!? 他の大陸に攻め入るなんて!? どう考えてもおかしいです!! 我らエンシェント・エルフは!! アイ大陸の民は遂に手と手を取り合い!! 共に生きていこうと誓ったばかりではありませんか!? それなのに他の大陸に神々が言ったからと言って、領土の為に攻撃を仕掛けるなんて!! これでは昔と何も変わらな―――』
『衛兵。勇者様はどうやら少し気が動転しておられるようだ。少し部屋の方にお連れして落ち着かせるように』
『は!!』
『艦長!? 私達は破滅を討ちに行くのであって、侵略の手伝いをする為に来たのでは―――』
『勇者様。どうぞこちらに……』
『あ、貴方達!? 分かっているの!? 貴方達の家族がもしも知らない大陸から来た者達に蹂躙されたら、貴方達は許せるの!? そんな事をすれば、我らにどんな呪が降り注ぐか!? エルフならば、自然の理を―――』
『こちらへ……』
『………ふぅ、行ったか。彼女はどうも優し過ぎる気があるな』
『仕方ありません。あのような考えだからこそ、選抜されております』
『彼女の他にも同じような思想の持主は?』
『おりませぬな。言う事は最もらしいが、彼女の恋人は我らと同じような考えですし、他のは戦えるなら構わないとか。新しい権利や利権、商業組合や国家から植民地や採掘地の選定依頼を受けている者もおりますので』
『ふぅむ。彼らに説得してもらうのは?』
『不可能でしょうな。錬甲の勇者様はあの平和主義が極まってる戦乱を治めた邦の重鎮ですし、大陸の果てから港まで自力でやってきた猛者。信条を翻す事は無いでしょうし、何なら我らを押し留める役として派遣されて来た様子すらありますので』
『仕方あるまいか。彼女には悪いが、薬を盛って海に投げ込んでおきたまえ』
『よろしいのですか? かなりの戦力ですが?』
『途中で横やりが入れば、他の国々がガタガタ言い出す。そして、大陸国家間の不信が高まれば、また戦乱の世に逆戻りだ。最果ての邦の勇者一人消えても文句など出まいよ。我らは同じ方向を向いて、新しい敵を倒すという目標に邁進せねばならない』
『分かりました。すぐに……丁度、昼時ですからな』
こうしてとある大陸の艦隊で一人の女性の勇者様が海に投げ込まれたのを知った蜘蛛達は「これなら話が分かりそう」と彼女をこっそりと遠隔操作していた糸蜘蛛ならぬ糸魚で回収し、眠って貰ったまま海底に書き込んだ呪紋で転移を実行。
「(/・ω・)/(さて、そろそろかなーという顔)」
そうして仕事を始めた。
最初で最後の攻撃は範囲攻撃である。
艦隊は密集形態を取っていた為、海域を爆砕すれば良い話というのは誠に単純極まる攻撃方法に違いなかった。
アルメハニア達は小さな頃から魚を取る時はハサミを使って、漁をしていた。
海の生物にシャコというのがいるが、彼らの蜘蛛脚の先にあるハサミはそれを複雑化したような構造となっている。
「(>_<)(ハサミの手入れも大変なんだよねーという顔)」
一つ違うのはその能力が器用なディミドィア達に似ており、ある程度変幻自在で彼らよりもやたら甲殻が硬いという一言に尽きる。
ハサミと言っても6つのハサミが互いに中心に集まるような造形をしており、何かを上からハサミで切れば、六等分する事が出来るものだ。
コレで硬い岩を粉砕し、様々な海の堆積物を掴んで除去し、戦艦を発掘していたわけだが、その強固なハサミの威力はあまりの大きさと頑強さと膨大な威力を一点に集中する事から、本気で使うとやたら強力な一撃になる。
「(・∀・)(初めてウルを使ってやるけど、呪紋幾つ重ねたらいいかなーという顔)」
呪紋を使わずに呪紋染みた威力が出るので普段はハサミを繊細に使う彼らは呪紋効果を乗せて自分達がハサミを全力で使ったらどうなるか。
それを初めて此処で実践する事になったのである。
一応、脳裏で何回かシミュレーションして仲間内で検証していたのだが、周辺海域の生物をやたら巻き込んだり、島の近くで使うと大規模な海洋災害が発生する為、やっていなかったのだ。
「(^O^)(ま、取り合えずウル着て考えるかという顔)」
しかし、此処は外界の海。
ついでに転移で離れた場所に派遣されたウルだが、彼らの後ろには大きな綱のようなものが括り付けられており、それが地中の岩盤内部に続く転移用のゲートの先に繋がっている。
これで外界に出ても島の結界を潜り抜けて戻って来られるのだ。
恐らくは呪紋よりも更に上位の能力による封鎖は少年が前々から観測して存在を内々に証明していた代物だ。
それをも突破出来るという事は事実上、その方法さえ取れれば、何処の大陸へだろうとも脱出は可能。
つまり、少年が仲間達や野営地の人々を逃がす算段の一つがその転移ゲートを用いた糸による外征や脱出であった。
実はヘルメースが外界に向かって戻って来られたのはかなり特異な出来事だったわけだが、本人は別に何も気にしていないし、そもそもそんな事を露程も自分の立派な能力だと思っていない。
旅人の神の名を関した当人ならぬ当蜘蛛の最大の能力とは能力の窃盗以外では“外界に行っても戻って来られる事”なのだった。
「(-ω-)……(逃げる算段が出来てるだけで心持も違うだろうし、という顔)」
やってくる侵略者達の船は海の下側に翼を幾つも持つ船で空まで飛べそうなので逃がす事は即ち、面倒に直結する。
彼らはそんな面倒な事に対処出来る図体では無かったし、痛いのも好きじゃないので楽に相手を圧殺する事を選んだのだ。
勿論、主の心を痛めぬよう。
周辺海域に糸蜘蛛を派遣し、丁寧丁寧丁寧に猛烈な勢いで生物を周辺海域から追い立て押しやって排除しつつ、海域全土を囲い込む水中結界まで張った。
「(;^ω^)(これで優しいちちの顔も曇らないでしょという顔)」
これで他の海域には威力の余波で余計な破壊や命を落とす生物は殆どいなくなるだろうというくらいにまでお膳立てしたのだ。
こんなにも環境と生物に優しいアルメハニア達の一撃はまず自分の腕一本に限界まで自切覚悟で強化用呪紋を掛ける事から始まる。
少年が今まで得て来た呪紋を掛け。
相手の艦隊を追尾するように腕の射角を調節。
周辺環境が瞬時に崩壊しないように自分の足場となる大陸棚も呪紋を彫り込んでゆっくりと強化して押し固める。
「(/・ω・)/(じゃ、いってみよーという顔)」
ウル化した鋼の巨大蜘蛛が海底水深700m下で莫大な水圧にも負けず。
煌めく半霊力化した装甲によって更にパワーアップ状態となった腕でギギギギギッと音を立ててハサミを開き、華のように展開し切った。
彼らの肉体の周囲には黒征卿が使っていた呪紋の水中バージョン。
真空を身に纏う呪紋でソレを何層にも不可糸製の布も用いて重ね掛けする彼らオリジナルの集合呪紋が展開された。
重ねられた布地の間の真空の空間が彼らの肉体を水圧や爆圧からしっかりと保護するのである。
ついでに腕の内部の結節点には複数の異なる結界が熱量、光、衝撃の遮断と同時に重力などの高度な護りまで敷く。
その呪紋が奔り続ける脚一本がまるで複数の魔力の色合いで光り輝く呪紋の塔だ。
何処かソレはグラングラの大槍に似ていた。
これらがインパクト時の衝撃を殺すのは一瞬の事だが、それだけで十分彼らは自爆せずに攻撃が可能。
こうして、その状態でハサミの付いた脚一本が布の外へと突き出される。
人間で言えば、指の間接を限界まで逆側に引っ張ったような状態の脚の狙いは艦隊の中央ど真ん中に設定された。
拳を握るようにハサミが一点に向けて殺到する。
刃先が……脚の先にある中心点で接触した。
―――その“攻撃”の発射1分前。
『艦長!! 勇者様達から何かおかしいと報告が!!』
『おかしい、とは?』
『そ、それが海の様子が変だと。精霊の声が聞こえないとか。生物の気配がしないとか』
『魔の大陸に近付いているからだろう』
『はい。そう言ったのですが、勘が告げているのだそうです。戦闘になると』
『ふぅむ。あの彼女の事もあるし、しばらく彼女の恋人にも仕事をして貰っていた方がこちらとしては都合が良い、か……』
『はい……』
『分かった。全艦戦闘態勢!! 艦主砲への魔力充填にいつでも掛かれるよう機関員に通達。微速前進……周辺の観測員を増やせ』
『了解!!』
エルフの艦隊は迅速だった。
すぐに艦橋のみならず。
あちこちの艦艇の外に精霊による監視網が敷かれ、勇者と呼ばれる者達が艦艇の外に浮かぶやら、艦艇の周囲で警戒し、得物を構える。
『ふむ。確かに魚群どころか海の生物の息吹が感じられんな。精霊達もまるで空虚な世界にいるようだと訴え掛けて来ている』
『艦長!! 音響観測に感在り!! 凡そ距離2.3里。海底付近に音を立てる何かがいると!!?』
『海の怪物か? さすが魔の大陸。そのような主がいたとしてもおかしくはない』
『で、ですが、此処の海底は深過ぎます!! 海底まで凡そ小規模な山が二つ分以上!! 海底からの攻撃を避ける事は可能でしょうが、こちらの攻撃は届きません!!』
『載せている爆雷の限界深度は?』
『海底まで届くものではありません!?』
『魔力で捜索し、迂回航路を取るか? いや、だが、この航路とて神々が用意したもの。この海域を迂回すれば、魔の大陸に到達出来なくなると事前に言われている……』
『如何致しましょう?』
『……両舷前進全速!! 全艦隊に伝達!! 最大速度で迅速に海域を抜け―――』
彼らは遅過ぎた。
そして、勇者と呼ばれる者達は最期の瞬間。
自分の本能に従って最大火力を遠方の海中へと向けたが、大海そのものという壁を抜けて、アルメハニア達に攻撃が届く事は無く。
ガチンという音を聞いた、ような気がした。
―――惑星上に閃光が奔る。
彼らのいた海域が海中からの太陽のような発光で白く掻き消えた。
凡そ3km四方の内部にあった全海水が瞬間的に蒸発し、猛烈な質量がハサミの中心で凝集した際に発生した重力異常で物理現象的に惑星内部で常識的に発生し得る限界以上の加圧を行われた。
これによって海水が爆縮。
その周囲の物質が瞬間的に超新星爆発染みた質量の崩壊によるエネルギーの開放によって全て熱量と光、粒子線へと変質。
核分裂を遥かに超える物質のエネルギー放射、7割近い物質のエネルギー化に伴って周辺の海水を蒸発、超規模の水蒸気爆発が発生した。
それは宇宙規模で稀に見るクェーサー。
ブラックホールによって発生するエネルギー放射によく似ていた。
「( ゜Д゜)(あ、やっべという顔)」
直撃を受けた海域周囲が剥き出しになるという現象が発生。
その威力の全貌を一瞬だけ見たのは高高度を飛ぶ遥か遠方の鳥の一団だけだった。
幸いなのは張られた結界が攻撃の進路方向以外はほぼ衝撃を通さず。
しかし、それ故に全ての衝撃、エネルギーが一方向に放出されて遠ざかっていく。
それはまるで流れ星を逆戻しにしたような遥か天を斜めに穿つ光芒。
その凶兆は惑星を半周する軌道を描きながら重力によって歪められ、彼方の世界へと消え去っていく。
その後、光と共に海域そのものが消え去り、瞬間的に焼結した海底とその攻撃の発射地点にいる巨大な山を背負ったようなアルメハニアが海洋の大地をクレーターと化して割り砕き、脚を一本自切した。
時が巻き戻ったかの如く海が焼結した海底へと周辺から流れ込み。
蒸発した大量の海水による上昇気流が巨大な積乱雲を発生させ、瞬時に成層圏まで登っていく。
巨大な雲は発射した方角へと流されるように移動しながら、一気に海水温が40度以上も上昇した海域を横断するようにして発達を続け、その歴史に名を刻むだろう災厄として、“とある大陸”方面へと消えていく。
「(;´Д`)(……え、えっと、この攻撃方法だと魂も分解されたみたいだから、呪霊属性の呪紋はキャンセルしとこうという顔)」
2日後。
世界を滅ぼすような光の顕現を見た多くの大陸はその吉兆に愕然としていたが、それでは済まない状況が進行する大陸が出た。
今世紀最大のハリケーンと大津波が襲来した場所はアイ大陸。
エルフ達が住まう自然文明は壊滅した。
沿岸部の国家が全て高さ280mの津波と風速220mの風に巻き上げられて全滅し、内陸部にまで浸透した嵐の巻き上げた“国家”の残骸によって内陸国の約34%が致命的な被害を受けて半壊。
死者重軽傷者は大災害後の二次被害を受けて膨れ上がり、一時被害で4000万人、更に5日後には1億2000万人程がこの世から消え失せた。
穀倉地帯の壊滅、産業地帯の崩壊、商業航路、物流経路の寸断、大規模な人材の喪失による労働人口の減少、これによる大陸全土での飢餓はその後20年以上、現地を苦しめる事となる。
諸々を含めて大陸の約44%の人口が被害に合った形であった。
彼らエルフの大陸は1000年の文明後退を余儀なくされたのである。
その大災害の引き金を引いたとされる神々が後に大陸を追われる事になるのはまた別の話。
ちょっとだけ妖精瞳で未来の被害を覗き見たアルメハニア達が物凄く汗を流しながら「(*ノω<) (あちゃーどうしようという顔)」をした事だけは間違いない。
でも、そんな事を助けた勇者何某に言えるはずもなく。
というか、転移ゲートの延伸距離も限界だったので、それ以上大陸に近付く事も嵐を止める方法も無く。
彼らは残された彼女をひっそり住人として島に定住させ幸せにしようと硬く誓ったのである。
「(。◎`ω◎)“我はおしおきも出来る大蜘蛛ゴライアス”」
その惨澹たる状況を見ていたニアステラの守護神ならぬ守護蜘蛛は溜息も吐かず。
帰って来たら、ちょっと教育し直すからねという顔でアルメハニア達にペコペコ頭を下げさせつつ、外界からいよいよ本格的に敵となり得る者達がやってくるという事実を前にして目を細めた。
対処方法はちゃんと策定しておくべきだろうとあまり被害が出ない形で敵部隊を壊滅させる手法の開発を他の天上蜘蛛達と相談する事にしたのである。
「(;^ω^)?」
ただ、そんな事になる前にアルメハニア達は更なる困難へと直面する事になる。
何故なら戻って来た個体が見たのは転移でやってきた数千隻の艦隊の上に載る大量の同胞という景色であり、ヴァフクがガタガタ震えながらあちこちの島に避難していたのだ。
何がどうなってるんだという者が多数。
そんな状況下で天井蜘蛛の1人であるヘルメースが他の同類達から「(#^ω^)も~~今みんな忙しいんですよ?」と愚痴られているのに遭遇した。
第一野営地の黒蜘蛛の巣を参考にした大桟橋と埠頭が小島から広がり、海中に建つ黒蜘蛛の巣がそれから数日後には大量に増える事となった。
さすがに少年が昏睡中の出来事だった為、代理たる青年が転移で盥回しに現場を駆けずり回る事が確定。
一つ確かなのは「過ぎたるは及ばざるが如し」という言葉だけであった。
何事も程々が大事。
という事実を蜘蛛達は如実に体現する存在になりつつあったのだ。
最後の敵を倒すまでコレは取っておこう。
そう秘密兵器扱いされた彼らの全力が見られるのはまだ先の話。
脳裏で訓練を繰り返しつつ、今後の予定を詰め始めたが、それは蜘蛛達以外誰も気付かない事に違いない。
こうしてフェクラールには今までいなかった新しい亜人。
エルフが一人流れ着いたのであった。
彼女が蜘蛛の蔓延る常夜の邦で何をして暮らすのか?
それはまだ誰も知らない未来の話。
ただ、それを見ていた島の神々が蜘蛛によって殺された大量の人々の魂を“島の犠牲者”として大神達から強奪した事もまた誰も知らない話に違いなかったのである。