流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて- 作:Anacletus
ケース1『新人類』
東部、バラジモールは文字通りの地獄と化していた。
教会の先遣隊数万の楽なはずの揚陸がそのまま死力を尽くした揚陸作戦となったのは亡霊や亡者の類、更には北部領域からやってくる大量の神の力持つ怪物までもが火の粉を零す凶悪な存在と化し、自分達もまた狂気に汚染されたからだ。
上陸組の半数は翌日に火の粉を零す亡者の群れに加わり、残りの半数は火の粉を内側に留めて、何とか狂気を抑制しながら通常の数倍近い威力で変質した仲間達を刈り取り、あるいは刈り取った為に正気を削られて変質が進みという具合に同士討ちが発生。
その数を生かす前に約7割が戦闘不能で後方の船舶へと治療の為に送られた。
教会はそれを坐して待っていたわけではない。
最精鋭の狂気を飲み込む度量がある層を編成して、大気に溶ける五大災厄の一角の討伐に乗り出し、新聖騎士の中でも12人しかいない“円卓”の使徒を投入。
彼らは神聖騎士でありながら、猛烈な狂気の波もどこ吹く風という最初から戦狂いの狂人達であり、その威力は正しく一国を一人で滅ぼすに相応しい程の威力を秘めていた。
しかし、彼らが少年と出会うのはまだ先の話。
そうでなければ、ならない。
そうであるべきだ。
という、状況を誰かが望んでいるかの如く。
『き、霧から何か出て来たぞぉおおおおお!!!?』
霧の奥。
一つの城から溢れ出した火花を零す亡者の群れが雲霞となってグリモッド中部からバラジモールへと向けて北上を開始し、教会騎士達は苦しい戦いを強いられる事となっていく。
彼らが五大災厄を討伐するまで幾らの時が浪費される事になるか。
それはまだ分からないとしても、それよりも遥かに重要度の高い案件が北部の無人地帯では進行を開始されていた。
それは亡者と亡霊が蔓延る中堅国の一つ。
その王城の下で始まる。
ジジジッと空間に散らばる火花が急激に虚空から噴き出し、数名の者達がいきなり現れたかと思えば、全周に向けて銃を構える。
数名程の侵入者。
そう、侵入者と呼ぶべきだろう者達は空間を超えて北部へと到達していた。
彼らの装備は個性的だ。
肉体に沿うように筋繊維が織り込まれたような青黒いメタリックなスーツは人体模型さながらの均整の取れた肉体を浮かび上がらせているが、そのスーツに下げられた装備は物騒この上なく。
大量の重火器が複数。
更には重火器では済まない誘導弾らしきものが顔を覗かせる多連装ポットを装着する者もある。
筋骨隆々の巨人の如き大男がいるかと思えば、他はまだ十代後半くらいだろう容姿だと装甲内から見え隠れする部分で分かるだろう。
顔面と頭部、喉元を覆う装具は何処か分厚く。
そのバイザーらしき目元を覆う装甲内部に奔る瞳の輝きは明らかに単なる人間のものに見えない。
しかし、口元を隠していない彼らはコミュニケーション優先なのか。
互いの口元をパクパクさせながら、周辺の確保と制圧を開始した。
彼らの多くは体の各部に動きを阻害しない程度の小型の刃物、背中にはメインとする得物として狙撃用の対物ライフルやら剣らしきものを下げている者もいた。
「こちらアルファ1……どうやら、此処には誰もいないみたいね」
「聞いてたのと違う。亜人がいると神々は言ってたのに……」
「しばらく此処に人がいた形跡が無いぞ。恐らく、何らかの理由で放棄されたな」
「ど、どうす゛る。こ゛のままいぐが?」
「エム大陸の惨状は見たはずだ。我らの目的はこの地の情報を持ち帰る事。神々が送り込めるモノにも限度がある。彼女にこれ以上負担を掛けるわけには……」
「アルファ1、こちらアルファ2……拠点破壊用の爆薬を設置した。それと気を付けろ。この周囲には何かいる」
「アルファ2、君が言うんだ。それは事実なんだろう。だが、今の君に敵うモノかな?」
「生憎とオレは万能じゃない。能力の大半を使っても、あのエム大陸の悲劇を防げたとも思えない。見る限り、神々が言っている通りに……連中の危険度は世界を滅ぼすに値するだろう」
「エルフの大陸の惨状を見る限り、我らのような者が送られて、殲滅ではなく生存と帰還を望まれるという点でアルファ2の言っている事は妥当ですよ。アルファ1……」
「もしもとなれば、頼らせて貰うよ。アルファ2……君の能力があれば、我らはきっと帰還出来る。世界の破滅を食い止める事が……」
『に、げ―――』
ザリッという音と共に彼らがすぐに異変に気付いて瞬時に王城の謁見の間へと戻って来る。
「集合!! ア、アルファ2がいない!?」
「馬鹿な!? 大陸最高の能力者ですよ彼は!?」
「う、嘘よ。あ、あのアルファ2が? それに戦闘音は何も……」
思わず動揺した隊員を隊長であるアルファ1……まだ十代らしい桃色の髪の少女が何とか場を収めようと口を開こうとした時。
コトリと足音をさせて、近付いて来る相手が柱の陰から見えて。
「お、驚かさないでくれよ。アルファ2……君らしくもない。さ、とにかく何があ……」
クシャッと彼女は自分の腕が捻じ曲がり、捩じ切れて吹き飛ぶのを感じながら、出て来たアルファ2のスーツが内部から何かに突き破られそうになっており、瞳が事切れているのを認めた。
「ア、アルファ2がやられたぞおおおお!!? 撃てぇえええええええ!!?」
「アルファ1しっかりして下さい!? スーツの切除機能を使います!! サイキック・コマンドを切って下さい!!?」
「ま、魔力が、あふ、れ、き、切れ、切れな―――あがぁあああああああああ!!?」
パァンとアルファ1と呼ばれた少女の腹部が完全破裂し、内部から脚のようなものがスーツを突き破ろうとして藻掻く。
「アルファ1!!? う、うわぁあああ!!? 嘘!? 嘘よおおおおおおおお!!? アルファ1!? アルファ1!!?」
「もうダメだ!? アルファ3!? 直ちに撤退!! 此処を出るぞ!!? 爆破準備!!」
銃撃がすぐに仲間達によってアルファ1とアルファ2と呼ばれた少年少女に浴びせ掛けられた。
その最新式らしい重火器の多くが明らかに普通のものでないのはクリスタル状の構造材や弾倉らしきものが見当たらない事からも確かだろう。
しかし、その重火器の掃射に巻き込まれた二人が襤褸クズのように血肉を噴出させながらも内部から飛び出そうとした何かはダメージを受けた様子もなく。
ゴボッと銃弾で抉れた喉元を通ってパァンと頭部を弾けさせつつボールのようになって飛び出し、高速で城の内部通路へと消えていく。
「今の内だ!! 行くぞ!!?」
「そんなぁああああ!!? そんなぁあああああああああ!!!?」
「アルファ3!!? 敵の攻撃方法が分からない!! とにかく解析を!!?」
「嘘よぉおおおおおおお!!?」
「アルファ3!! 我々を全滅させる気かぁあああああああ!!?」
叫ぶアルファ3と呼ばれる少女を片手に持った大男と共にまだ健在な隊員達が猛烈な勢いで壁そのものをブチ破り、外に出る。
「どういう事だ!? 念動の防御場が破られた? 高次元からの一方的な物理干渉だぞ!? あらゆる攻撃を防ぐはずだ!! 神々にしても、我らの力ならば、魔力だけの相手なら、圧倒的優位であると太鼓判を押したのだぞ!? 一体、どうなっている!!?」
「とにかく身を隠せるところに!! 走りましょう!! く、アルファ1とアルファ2が我が隊の主戦力で隊長格だったと言うのにこんな―――敵は我らのサイキック・コマンドすらも無力化!? いや、利用してくると言うのか!?」
「そんな事は在り得ない!? 我らこそ新人類なのだぞ!? 新たな時代に生まれた神々の最高傑作にして次なるポスト・ヒューマン!! 魔力頼みの旧人類や亜人共の魔術や技能なんて我らは軽く凌駕し―――」
パァンッと走りながら喋っていた長身の男の腹部が内部から弾け飛び。
男の口から在り得ないような大量の血液が吹き出した。
「ア、アルファ5!!? サイキック・コマンドは機能している!? 何だ!? どういう事だ!? 物理量に寄らない高次元干渉が!! 神の力が何故突破されてるんだ!? こんな事在り得ない!! 在り得ない!! 在り得な―――」
パァンと再び喋っていた青年の腹部が弾け飛んだ。
「ありえ―――ガボボボボボ!!?」
「うあぁあああああああああああああああああああああああああああ!!!?」
最後に残されたアルファ3とそれを持つ大男と発狂したような小柄な女が奔りながら道の先の開けた場所に出た。
背後に置いて来た死んだ者達の体からはまた丸いモノが再び弾け飛ぶように何処かへと向かって消えていく。
「ど、どう゛なっでる?」
「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ!!!!? 僕ら新人類アークがこんな簡単に!!? 魔力でどうにかなるわけないだろう!? 全方位からの物理干渉を無力化出来るんだぞ!? 何でいきなり腹から怪物が出て来るんだ!?」
「嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ嘘よ……」
「転移なんか絶対無理だ!? 何かの卵を産み付けられたとでも!? 在り得ない!? 吸っている空気も触れている水分にもサイキック・コマンドによる分解浄化機能が働いている!! どうしてだ!? 何故、僕らがこんなにも一方的に!!?」
「アルファ1、アルファ2……あぁ、どうしてこんな!?」
「鬱陶しいんだよ!? アルファ3!!? 死んだヤツより今は生き残る方法を考えろ!? 僕らの能力を超えて来る敵の攻撃の正体を考えるんだ!? お前が解析役だろぉ!?」
「うぅぅぅぅぅぅぅ」
「く、クソぉ!? 考えろ考えろ考えろ!! 何に毒された!? 何に汚染された!? 何が僕らの内部に干渉して、あの化け物になった!? 考えろ!!!?」
叫ぶ女が残った自分達の共通点をとにかく脳裏で洗い出す。
(性別は排除していい。組織内の序列? これもバラバラ。残っている特定の共通項。肉体に関するモノか? 今の状態を考えるならば………)
だが、答えが出る前に彼女は周囲の風景がグンニャリと曲がるのを確認する。
「へ?」
そして、歪んだ視界が元に戻った時。
そこには仲間達がいた。
「ど―――」
どういう事だと叫ぼうとする前に彼女に対して仲間達が怪訝そうに首を傾げているのを見て、自分は白昼夢でも見ていたのだろうかと少しだけホッとした瞬間。
彼女は反射的に自分を顔を殴っていた。
「し、しっかりしろ!? 敵の攻撃だ!! 攻撃だ!! 攻撃だ!!」
彼女が自分に言い聞かせる。
しかし、彼女は最期の時まで気付かなかった。
自分の腹部がもう弾け飛んでいる事も、全ての仲間達がもう屍になっている事も、“自分の中から自分が引き抜かれていく感覚”も何もかも気付かなかった。
彼らは一つも見ていなかった。
現実を見ていなかった。
何故ならば、彼女達が出た地点は―――。
「(/・ω・)/(おぉ~~~蜘蛛脚を光学情報にして送り込む呪紋は大成功ですよ!!という顔)」
「(T_T)(これ今みたいに幻影の呪紋に載せて初手にバラ撒いたら、蟲以外は大抵駆逐出来そうという顔)」
「(-_-)(抗魔特剣の情報を譜律化して、相手の脳に幻影として送り込むとか。初手で使えば、対処前時点で世界を同胞一杯夢一杯に出来そうだなという顔)」
「( 一一)(というか。こいつら誰? 外からの来訪者なの?という顔)」
「(*´ω`)(それよりも新しい種族っぽい後輩が出来たよ。やったね♪という顔)」
「「「「「「「(>_<)(初めまして先輩!! 前世の私達は無能な新人類を名乗る間抜けな襲撃者でしたが、今蜘蛛生では清廉潔白な新種族蜘蛛として上手くやるでしょう!! よろしくお願いします!!!という顔)」」」」」」」
様々な色合いのクリスタル状の甲殻と肉体を持つ何処か宝石を細かく重ね合わせたような蜘蛛達が脚を上げる。
「(・∀・)(お名前貰ったら、キラキラな名前になりそうという顔)」
北部、黒蜘蛛の巣第84号塔内部。
ヘルメースの音頭で呪紋開発を行っていた蜘蛛達の一部が使用している元王城には爛々と光る瞳が無数にブラ下がっていた。
王城は彼らが用いていた精神属性幻影呪紋によって生み出された幻であり、その幻内部に入れ込まれた蜘蛛脚の能力を譜律化した情報は光学観測が万全な相手の魂に侵入。
脳内で増殖し、実態無き蜘蛛脚として脳幹から変質させるという極めて悪質な性能であった。
「(-ω-)……(そりゃ、360°全方位の複眼から放たれる蜘蛛脚の光学情報入りな幻影呪紋を一切遮断するとか、初見じゃ不可能だよなぁという顔)」
「(^ω^)(というか、コレは報告案件なのでは? 新人類とか。物理干渉出来ない相手の登場とか。新しい技術体系の武装とか……という顔)」
神々が期待していた手札の一つはこうして呆気なく蜘蛛達の努力の結晶で打ち砕かれ、その邪悪を通り越してドン引きな性能はもう今となっては教会くらいにしか向けられないものであった。
【恐怖!! 視覚情報から相手を蜘蛛にする幻影呪紋】
という……世にも怖ろしいものの爆誕によって、教会の未来の被害規模は底なしに膨れ上がる事が決まったのである。
「( 一一)(これで事実上、見た相手を蜘蛛にして、その蜘蛛を見た相手を蜘蛛にしての連鎖で光学観測しない存在と神と蟲以外は蜘蛛化可能になったなという顔)」
「(=_=)(大規模侵攻何かが来たら、黒蜘蛛の巣に仕掛けておいて、わざと占領させて発動とか……かなり効率良さそうという顔)」
この新種族達が名付けられる名前から、呪紋はこう呼ばれた。
戦略級精神属性幻影呪紋【アークの悪夢】。
勿論、彼らは大真面目であり、駄洒落ではなかった。
この呪紋を用いる為に蜘蛛達が自前で外界から持ってきたカメラを使い。
映像を伝播させても大丈夫か。
映像機器関連で実験までしている事をまだ少年は知らない。
いきなり、数百万規模で外界からやってきた蜘蛛達の視界を一々覗いている程、現在暇では無い少年と遠征隊の出発は真直に迫っていたし、もしかしたら少年に届くかもしれないと神々が期待していた戦力の上澄みを蜘蛛達が刈り取っているなんて、神ならぬ彼には知る由もない出来事であった。
*
ケース2『料理家』
「(此処が破滅の大陸……この地を我が毒で滅ぼす事が我が神の望み……常夜の邦……悍ましい蜘蛛と亜人達の世界……)」
老人が一人。
ひっそりとフェクラールの黒蜘蛛の巣の一つを歩いていた。
「………」
日々、亜人達が増える常夜の邦と化した地域はまだまだ天井の光量が足りず。
竜骨製の明かりを用いて人々は活動している。
蜘蛛達は基本的に竜骨をもぐもぐちゅーちゅーしていれば、食料が必要無いという点で人々の文化文明において重要であろう料理や食事というものをあまり重視しない。
しかし、亜人達が流入して以降はそんな彼らの生活にも料理と食事は根ざし始め、特に料理人になる蜘蛛が増えた事で亜人達と共に彼らは両地域の食糧を用いて、日々秘薬を調合する少年の如く、料理を熱心に研究している。
なので、今や亜人と蜘蛛達が半々で亜人達相手の料理店や屋台が黒蜘蛛の巣には数多く店舗を出しており、仕事中の亜人達に食料を提供する役目を担っていた。
市場には配給以外で少数しか生産されていない食材が並び。
それを買い込んで料理する者達は増え続けている。
最低限の食糧は配給されている為、完全に自分で余分に食べたり、あるいは嗜好品としての食事が黒蜘蛛の巣にも流行として定着し始めていたのだ。
「此処か……」
老人は見た事も無い獣の亜人たる獣人。
何の獣かは分からなかったが、老いた尻尾と髪の毛は白く。
髭も長いので仙人のように見えたかもしれない。
「(文化圏全体に毒を回すにはやはり料理に毒と分からぬよう混ぜて、少しずつ体内で調合するべきだな。幸いにしてこの地の食材にも体内で調合可能な毒は多い……)」
老人はイソイソとフェクラールで最も大きい料理店に入っていく。
アルマーニアが他国の亜人達相手に接待で使う店だ。
求人の応募が出ていたので老人はすぐに現場に入れる人材ですと嘘の身の上話で自分より若い中年の採用試験の監督者に現場で働かせて下さいと頼み込み。
まずは実力があるかどうかを厨房の片隅で料理する事となった。
「(我が料理は百年の研鑽の果てにあり……神々の舌をも唸らせた力ならば、後進大陸の者の舌などすぐにでも支配出来よう)」
老人には自負がある。
神々の下でその腕を振るってきたという自負だ。
外大陸の一つで神の血肉を形作る為のあらゆる料理に精通し、薬と同様に超常的な料理を作り続けて来た老人にしてみれば、自分の料理を単なる常人が食ったらショック死するのではないかという懸念すらあって、控え目に美食程度の味で料理を行う。
「(医食同源。薬の調合に長けた我が技にて、この大陸が求め止まない毒を料理と化さば、それで全ては―――)」
老人が出した料理が中年のアルマーニアの口に入ったのを見て、これでまずは足掛かりを得ようと内心でほくそ笑んだのも束の間の事であった。
「……アンタさぁ。此処に来て日が浅いでしょ」
「は? え、えぇ、少し前に此処までようやく辿り着いたもので……」
いきなりの中年の言葉に老人が僅かに動揺しながらもそう笑みを浮かべる。
「ダメだよ。この料理じゃ」
「へ?」
「いや、美味しいけどさ。美味しい止まりなんだよね。アンタの料理……いや、昔のアルマーニアの舌なら、これで良かったかもしれんけど、此処じゃまったく話にならないよ」
「はい!? ど、どどど、どういう事でしょうか?!」
思わず動揺した老人が挙動不審になる。
「アンタ、此処に来て自分以外が調理した食い物を何か口にしたかい?」
「い、いえ、自分で料理出来るもので」
「それでこの味かぁ……あぁ、アンタ悪いけど、これじゃ採用は無理だよ。というか、才能無いんじゃないか? 昔はどうだったか知らないけど、今はコレじゃぁねぇ……良い歳なんだから、無料の配給か。普通に外食でもして余生暮らした方がいいぜ?」
「ど、何処がお気に召さなかったのかお聞かせ下さい!?」
「……はぁ、ちょっとウチで一番の料理人の皿持ってくるから、それ食べたら大人しく帰ってくれよ? それで納得出来るはずだから」
言われた老人が動揺しまくりで何が悪かったのかと自分が相手に言われた通りの材料で創った簡単な炒め物をその料理とやらが来るまで食べてみて、何かおかしな点は無い事を確認する。
そうして待つ事数分。
中年が応接室に一皿の炒め物を持ってきた。
「代金は要らないよ。でも、コレ食ったら帰ってくれ」
「い、頂きます」
ゴクリと唾を飲み込んだ老人が自分のものと殆ど大差が無さそうに見える炒め物をそっとフォークで口に含んだ。
「――――――」
そして、カランッと食器を落とす。
「ね? 分かったかい?」
中年が不用心にも食器をもう一つ老人の前に置いて、忙しさから別の仕事へと消えていく。
残された老人は忘我の極致からハッといきなり目覚めて意識を取り戻した。
「な、何だ。この、この……料理、なのか? 本当に同じものなのか!!?」
老人がワナワナと震えながら、再び口に炒め物を含み。
今度は味わうようにしてゆっくり咀嚼する。
「(何だ!? この歯ごたえは!? 何だ!? この触感は!? 何なんだ!? この熱の入り加減と味の浸透は!? それにこの柔らかさ? 衰えた顎に心地良い? この味も塩味が強く感じられてはいるが、塩分はかなり控えられている。どうしてだ!? 香辛料が特別なのか? 調味料の違いか? いや、いや、それだけではない。このまるで相手の事が分かっているかのような料理は一体……塩味を強くしているのは弱った味覚に感じさせる為、普通の老人相手ならば、これで丁度良いはずだ。だが、この火入れは明らかにオカシイ!!? こんなにも均一な炒め加減で各々の材料が一体となった温度ながら、具材一つ一つに不均一な歯ごたえがある。食感が飽きないよう強弱を付けているというのは分かる!! だが、余熱を考慮してもこんな繊細な炒め加減をどうやって……別々の鍋で炒めても、決して此処までにはならん!? 具材の形か? そ、そう言えば、この具材の切り方……な、何だ!? 具材一つ一つに極僅かな切れ込みが無数に入っている!!? 何だ!? どんな刃物さばきだ!? 髪の毛よりも細い不均一な切れ込みが無数に!? ま、まさか、細胞単位で切り分けているのか!? この歯ごたえは―――細胞壁を一歳壊さずに?! これはどんな料理人が調理したというのだ!!!?)」
老人は明らかにおかしな料理に絶望的な差を感じていた。
そして、すぐに先程の男を追い掛け。
先程の料理を作った相手に会わせてくれと懇願した。
迷惑そうな中年であったが、老人の鬼気迫る表情と今が丁度店の客が少なくなっている事を確認して、その要望に応え。
老人を応接室に戻した後。
すぐに料理人を一人向かわせた。
老人がそわそわして、こんな料理を作るのはどんなヤツなのかと待っていると。
カサカサと扉を潜って入って来たのは―――勿論のように一匹の蜘蛛であった。
ディミドィアの料理人は白い衣服に帽子まで被っており、老人の前まで来ると片手を上げて挨拶した後、対面に座る。
「く、くくく、蜘蛛だと!? いや、それは知っていた。知ってはいたが!? き、貴殿があの炒め物を料理したというのか!?」
「(・ω・)?(そうですが何かと看板に書いた顔)」
「こ、此処の料理人は貴殿ようにあんな料理を全員が作れるのか!?」
「(*´ω`)(今、教えてる最中だよと看板に書いた顔)」
「お、教えている!? あ、あんな調理が普通の亜人にも出来るものなのか!?」
「(^ω^)(あ、おじーちゃんも料理するの? じゃ、教えてあげるね。でも、呪紋使える?と看板に以下略)」
「じゅ、呪紋……」
老人は外大陸からの侵入者であり、生憎と料理以外何の取り柄も無いという状態だからこそ、潜入する事が可能だったという事実を踏まえ。
「す、済まない。得意ではないのだが……」
「(>_<)(それなら呪具を使えば、解決!! 一緒にお料理にごーごーという顔)」
こうして老人は少しだけ厨房の端を借りた蜘蛛が無数の糸で変幻自在に具材を切り刻み、1cm程の具材に0.04mm以下の微細な切れ込みを入れる技に驚き。
それを成している時に呪紋が複数の複眼に掛かっている事に度肝を抜かれた。
炎の呪紋と風の呪紋で空中に具材を浮かばせながら、微細な火加減で具材一つ一つをその具材を焼く為の加減で焼き上げ、調味料を纏わせながら瞬時に仕上げをして、迅速に一皿を作り上げた蜘蛛の手際に滂沱の涙を流していた。
「う、うぅうぅぅぅ、あらゆる技術、あらゆる力を使い、相手に合わせた調理と最適な料理時間を計算し、相手に出された時点で最高の食感になるよう考えてあるのか!? 何だ!? 私が今までやって来た事は何だったんだ!? 私は狭量だった!? 自分が最高点に到達したと奢っていた!!? 料理とは文化文明の基礎……済まない!!? 貴殿を蟲だと侮っていた私は愚か゛だっだ!?」
オイオイと泣き始めた老人を慌てて駆け寄った蜘蛛が背中を撫でつつ、これから料理を学び直しても遅くないよと看板に書いて差し出し。
「私の敗北だ……うぐぅ!? 貴殿を失うのは料理という文明への冒涜!!? 例え、神だとしても、貴殿の道を阻めるモノではない!! どうか!! 私に料理を教えてくれないか!? 先生!!?」
「(≧◇≦)(ちょ、それは褒め過ぎだってぇ~~というまんざらでもない顔)」
こうして一人の老人は一人の蜘蛛と出会い。
神々の刺客である事を止めたのだった。
ちなみに料理店に入ったディミドィアは料理を初めて2週間。
何故に料理が滅茶苦茶上手いのかと言えば、それはとても単純な話であった。
蜘蛛達の父。
とある少年が無限にも思える回数繰り返した世界の中であらゆる材料を食せるように、あらゆる力を取り込めるように料理した記憶が存在するからだ。
それは決して平坦な道では無かった。
今の少年の拾い食いスタイルは全て最初期にあらゆる毒を食らう耐性を得られるようになって初めて可能な事であり、その方法が確立される前は採取して、調理して食するという手間が無限のように掛けられていたのだ。
黒征卿に少年が言っていた料理で相手を殺せるというのはまったく何一つとして誇張ではない。
薬の調合は料理という食事主体の思考ではなく。
薬効の抽出と濃縮を主軸とした調理方法であり、料理を究めようとした時の知識が土台として存在している。
激マズの秘薬も全ては効率と時間を考えた末に編み出されたものであり、少年がその気になれば、麻薬よりも麻薬染みてまったく依存性が無い材料を依存性マシマシな料理にする事なんて簡単な話。
それこそ秘薬を超美味にする事すら“手間を掛ける時間”さえあれば可能だろう。
だからこそ、料理を志す蜘蛛達はそんな少年がいつか捨てた。
否、捨てざるを得なかった“時間の掛かる非効率な叡智と知識”を拾い上げ。
少年の代わりに実践しているのだ。
「(*´ω`*)(いつか、ちちもみんなにおいしいごはんを食べさせてあげられればいいなという顔)」
外界の神々による島の侵食は続く。
しかし、その多くは誰が知らずとも、たった一人の少年が築き上げた全てによって封殺されていた。
いつか積まれた努力が、終わってしまった世界での研鑽の日々が、今を進ませる。
それは神の力も威信も超えて、全てを覆すに足る神より尚高き山の如き背中だったのである。
*
ケース3『悪魔』
蜘蛛達が外界からの侵略者達を次々に地獄のような仕事ぶりでお出迎えしていた頃。
冥領エルシエラゴにおいても新たな敵が到来していた。
空間が割砕かれたと同時に飛び込んで来た者達は技術や血統によって強化された人間という類には見えず。
しかし、明らかに島の一部分を消してしまえそうな魔力を持つ翅と角と尻尾の生えた者達。
外見的には獣というよりは正しく教会が言う“悪魔”に見えるものの、彼らの衣服は明らかに超絶な魔力密度で編まれた物質化された代物であり、その象形も何処か貴族風であった。
「あの忌々しい神々のお墨付きだ。暴れようか!! ひゃっはぁあああああ!!!?」
「蜘蛛? ま、いいでしょ。殺し甲斐がありそ。んふ♪」
『(=_=)(貴族風の礼服を着崩したチンピラとお姫様みたいな恰好のS系お嬢様とか。外界は進んでるなぁーという顔)』
いきなり罅割れた空間から出て来た2人組の背後からも続々と何やらやたら気配のデカイ存在が数多く入って来ようとしており、最初に入って来た2人が同時に周囲の虫けらを殺戮せんと魔力を励起しようとし―――。
チュトッと自分の頭部に開いた横穴を感じる間もなく脳幹から背骨に掛けて内部から爆砕されて、血飛沫の雨と化した。
カチャリと蜘蛛達の1人が蜘蛛用にカスタマイズした呪具。
貫通力に優れた白霊石を霊力掌握で超凝集した杭を超高速で打ち出す機構。
秒速4000mで杭を打ち出す杭打ち機を腕に装着していた。
細い杭は長さ20cm、直径1cm程の代物だ。
キラキラした杭と同じようにキラキラした杭打ち機はヴァルハイルの技術者に作らせた本当は8倍程大きい代物を限界まで霊力掌握で体積を減らして密度を上げた特製品である。
蜘蛛達なら鍛えていれば、大抵持てる重量なので近頃は甲殻内に揃っているゴライアス由来の筋肉を鍛える為に筋トレする蜘蛛達もいる。
此処最近、蜘蛛達の強化に余念が無かった少年は敵を絶対殺す武装の類を創るようにと言っていたのもあって、現在の冥領の戦力は他地域をウルやドラク込みですら生身の蜘蛛達の質はそれに準じるモノがあるのだ。
王群から教会の騎士から五大災厄からと攻撃を受ける予定である為、蜘蛛にしていられない場合も想定し、相手を確実に殺せる手札を開発しといてねと丸投げされていた彼らは一応の兵器を今正に評価試験中であった。
そして、冥領では白霊石を用いた武装が用意されたわけだが、魂を吸い取る白霊石は言わば、相手の魂そのものを食い破る効果を持っているに等しい。
同時に呪紋の発動媒体としても優秀だった為、対受肉神用の武装として、相手に永続的にダメージを与える。
つまり、魂の破壊を行う呪紋兵器としてソレはこう名付けられた。
『(^ω^)(【
周囲では爆砕した人間では無さそうな魔力量の血飛沫が降り注ぎ。
蜘蛛達は『(/・ω・)/(まりょーくのあめーうまうまという顔)』『(>_<)(出現、今日のばんごはんという顔)』という具合にいきなり自分達を殺そうとして来た弱そうな生物の魔力を吸収し、適当に血肉は呪紋で分解して濾過した後。
少年の呪紋化されていたナクアの書の写本で相手の遺伝構造を共同で解析。
『(´・ω・`)(あ、これ人間じゃねーわ。悪魔だわという顔』
それが所謂大陸では殆ど教会に絶滅させられたと言われる悪魔という類の生物だと知る。
基本的に人間の遺伝子を持っていないのに人間ぽいのは単純に収斂進化的な偶然……高速で流体を泳ぐ鳥と魚が似通るようなものと考えていい。
別の生物が人間に似ている固体程生き残り易かったせいという話らしく。
蜘蛛の30倍くらいの魔力量を持っていたので確かに能力次第では彼らを鏖にしたりは出来るのかもしれないと納得。
しかし、生憎と戦争中で戦争に対して懸命に努力家な蜘蛛達は基本的に冥領においては殆ど戦闘のスペシャリストだ。
『((+_+))(でも、この“悪魔”って生物、魔力量以外の反射速度とか人間の数倍から数十倍止まりみたいという顔)』
『(@_@)(近頃、蜘蛛全体が強化されたからなー。反射速度平均の3割以下……スピィリアなら、ちちと同じ位の速度出せるし、人間に似てるのはもう生物として単なる足枷なのでは?という顔)』
未だに亜人がいない地下では人々にお見せ出来ない蜘蛛達の訓練やら武装や呪紋開発と同時に高練度の蜘蛛達の記憶を統合したスペシャルプログラムが開発されて、それを覗き見した蜘蛛達を実地訓練で教育して鍛えている。
脚湯で癒され、爆華のジュースをゴクゴクし、白霊石をモリモリ食べて霊力を増やし、少年みたいに今は余り始めている戦闘用の秘薬を冥領全域の蜘蛛が少しずつ摂取しているのだ。
『( (;・∀・) (毎日、鍛えてる蜘蛛相手にはちょっと物足りないスペックの生物かもという顔)』
つまり、外の蜘蛛と違って全体的に高レベルな冥領の蜘蛛達は事実上は少年が直々に使う事が予定されている最終戦争向け人材。
否、蜘蛛材であるのだ。
魔力が数百倍差だろうが、能力が何だろうが、最終目標は惑星すらも滅ぼせるだろう何かであって、その力の次元は明らかに通常の受肉神どころか。
肉体を持たない真正神をも超えると目されている。
『(=_=)(アレに比べたら、そんな理不尽な数値でも無いなという顔)』
『ヾ(≧▽≦)ノ(やったね。これで新しい仮想敵が作れるよという芸術大好き系蜘蛛の顔)』
『(・´з`・)(何か全部半端な能力値だなコイツら……魔力量と能力上限値叩ける個体が増える資質以外、こいつらの種族、大半の蜘蛛に勝ってる基礎能力と成長関連項目ねーじゃん。特殊能力特化なのか?という顔)』
神を超えるモノを殺す為の切り札。
その一つこそ彼らなのだ。
そんな彼らの戦闘教義は極めて単純である。
相手よりも早く即死攻撃を叩き込む。
特に手加減出来ない相手はさっさと殺して資源にして取り込むという合理性はある種、外の蜘蛛達が殆ど使わない本来的な精神性であった。
基本ドライな蜘蛛達がユーモアと人情味に溢れているのは少年の記憶を僅か覗くだけという“長い旅の果て”に悟るからであって、本来の精神性は別に損なわれていないのだ。
相手がユーモアとか要らない生物なら、手加減は無用な上に見る者も無いので好き勝手やる。
『(=_=)(悪魔の魔力を捕食完了。魔力容量132%増加(再上昇可)。遺伝形質をナクアの書に取り込み。抗魔亢進化率82%上昇(再上昇可)という顔)』
『(。-ω-)。(遺伝資源より相手の反射速度の上限値を推定。現在の他空間推進中の敵性存在の防御突破用呪紋を33000名で構築。出現前時点で反射不可速度でトリアイナを叩き込めば、戦闘行動不要と判断。敵主力を最大戦力で直ちに撃滅。上位命令権限をフレイより受諾。トリアイナ8400挺の同時攻撃を承認。集団連携開始)』
隊長格の蜘蛛達が次々に糸で周囲の蜘蛛達と完全な連携を可能にする情報網を構築、一匹のトリガーに被せて全ての蜘蛛達の攻撃を殺到させつつ、呪紋を各自のトリアイナの杭に複数種類バラバラに載せて、全方位同時攻撃を試みる。
巨大な冥領にある陸橋街。
その中心地の上空で割れた空間に対して3000層の球状結界が周辺の蜘蛛達によって張られ、同時に数千の杭打機が全方位から空間破砕中の領域に向けて発射された。
その杭の壁は結界を一方通行で通り抜け、空間の破砕された部位内部に入り込みながら消えていき。
同時に何やら攻撃らしい魔力の本流……島の一地域なら消し飛ばしそうな莫大な力を発散させたが、一方的に結界を破砕するどころか。
結界の隙間を埋めるようにして噴出し、猛烈な転化光を奔らせて、一瞬爆発するかと思われた。
が、最終的には勢いを数千層の結界に殺され、最初から蜘蛛達が用意していた経路で全ての魔力が陸橋に吸収されていく。
『(;´・ω・)(あ~あ~アレの魔力吸収用に色々追加してた機能なのにという顔)』
『(~o~)(ま~いいんじゃね? 許容量を上げる為に容積と体積増やす必要はあったしという顔)』
『(●´ω`●)(全員で魔力出し合うよりも時間短縮されて準備が捗るという顔)』
『( ̄▽ ̄)(これで陸橋そのものが補強されたから、更にシェルターとしてより強固になりましたねという顔)』
『(◎o◎)(……空間干渉する能力? こいつらの魔力使ったら、あの神樹の破壊された空間に入れんじゃね?という顔)』
まるで木管楽器でも鳴らしたかのようなギンゴンギンゴンという骨の鳴る乱打音。
魔力による竜骨の成長音は世界を掻き鳴らす。
猛烈な魔力の供給に竜骨街そのものが急激に成長し、冥領そのものを覆い尽くそうかという程に吹き伸びて、地下領域の壁際を覆い始めた。
竜骨を物理的に成長させる事は蜘蛛達にも出来るが、魔力を用いて成長させるのは魔力そのものが大量に必要なのでされていなかった。
しかし、蜘蛛達の結界を経由して余計な魔術の類や情報を完全に消し去られた魔力の塊は単なるエネルギーであり、竜骨で取り込んで物質化する事で無力化に成功。
空間が完全に破砕され、半分程の結界が割砕けながら止まった後。
その先から猛烈な量の杭と血肉の放出で陸橋上空の球状結界内部がヘドロ状の血肉、内臓、骨、杭のスープで満たされ、オブジェ染みた代物と化す。
同時に空間が修復されて異常が消えた後。
『( 一一)(じ~~~と血潮の内部を観察する顔)』
蜘蛛達が結界内部を攪拌しながら、血潮を結界内部で解析。
すると、30人程のやたら多種多様な生物。
悪魔型の蟲やら人やら亜人やら獣やら神に近しい何かまで大量の遺伝子が交じり合っている事で相手は殆ど殺し終えたらしいと頷き。
内部から杭だけ取り出して呪紋で内部の霊力を余計な情報が付いて来ないように魔力に変換して大気に拡散。
更に杭は汚染源にならないよう全て一応炎属性の呪紋でドロドロになるまで熱し、虚空でボール状に加工してから鉄製の缶に詰めて、霊力が希薄化するよう白霊石の粉を造っている工場で適当な容器に詰めて、残留霊力を希薄化させて完全に情報を持たないようにする為運び出していく。
ついでに逃げられているかどうかを相手の血肉に混じる脳髄の遺伝情報で照合。
脳幹内部の物質込みで30人分ある事を確認し、ホッと一安心。
『(=_=)(脳幹まで完全破壊されて逃げ遂せる相手がいたら仕方ないが、たぶん大丈夫という顔)』
蜘蛛達は蜘蛛の子一匹逃さないどころか。
魂すらも完全無欠に葬り去れたらしいと結論すると。
一安心とばかりに空気中へ大量に放出された魔力を吸いながら一休み。
ついでに杭打機を降ろして、イソイソと全員で刈り取った悪魔達の遺伝資源を活用するべく。
ナクアの書をフル活用して、相手の血肉のスープから有用な遺伝形質を拾い上げ。
少年のように異種胚を形成して、能力を一つ一つ調べ始めるのだった。
『(/・ω・)/(今日のばんごはーんは悪魔のスープですデデドン!!という顔)』
『((;^ω^)(塩と香辛料とお肉と野菜も入れる?という顔)』
『(T_T)(いや……取り合えず、余計な遺伝子は全部破壊して、必要な情報をナクアの書で取ったら他の個人情報は完全破壊しておけという顔)』
『(・Д・)(未知の生物食って死ぬのはちちも経験済みだから仕方ないねという顔)』
『(>_<)(胃に入れるものは厳選すべき!! 魂や脳を乗っ取る生物とか遺伝子持ってるヤツに当たったちちは相当にレアケースだけど、無いとも言えないしねという顔)』
『(-ω-)(その時、仲間を殺しちゃって、心折れ掛けたんだよなぁ……というか、今思い出してもお辛いという顔)』
蜘蛛達は油断しない。
魂を殺し尽くしても、血肉が殺しに掛かって来ると知っている者は人間の世界にも多くない。
悪魔のスープは内容情報が破壊されるよう腐食属性攻囲呪紋というレアなアルマーニアの農夫が持っていた毒系呪紋で完全に単なる肥料にされて、畑の栄養にされる事が決定した。
後に神の血肉で耕した畑に対して悪魔の血肉で耕した畑が比較され、その畑で取れる作物の多くで悪魔の血肉の方が何かやたらに中毒性の高い作物が出来るという事に着目し、香辛料を麻薬染みて製造。
冥領印の香辛料としてフェクラールや種族連合に売り出すのは少し先の話。
こうして悪魔の襲来は未然に防がれ―――。
とある大陸で怖ろしい事に“大陸戦力の94%”が消滅した事が確認されたのだった。
『(∵=_=∵)(この杭も大概だな。相手の魂を喰い取って魔力に変換して、接触面内部から侵食する呪紋で爆砕というのが基本機能とかという顔)』
『( ̄ー ̄)(まぁ、それくらいないとアレは殺せないだろうけど……という顔)』
『(+o+)(発現可能な能力一覧見る限り、やっぱり特殊能力特化。別空間で物理量干渉不能領域内じゃなかったら、半分くらい此処の個体死んでそうという顔)』
『(゜▽゜)(定理干渉が1割、物理干渉で複雑な事象を起こせるのが1割、他は殆ど要らねって感じだけど、二割でお釣りが来る領域の力だねという顔)』
『(・ω・)ノ(電磁力、光波はまだ可愛い方だけど、物理干渉系でも重力や超重元素系や微細な事象再現や特異な物質干渉は防げないのがちらほら在りそうという顔)』
大陸を滅ぼせるし、大陸を造れると豪語していた神すら手を焼く問題児達、魔王達の治める大陸はこうしてしばらくの間、他の大陸との戦争で蹂躙され……合計12億人くらいの悪魔達が奴隷に墜とされるという出来事が起こりそうな状況に陥っていく。
が、それはまだ誰も知らない未来の話。
『(T_T)(原子レベルで物質を内部スカスカの穴開きパンみたいにする魔力運用体系とか。相手の現象否定から入る定理干渉系とか。核力操作や重力操作はともかく。時間干渉が加速と減速だけなのが助かるという顔)』
生憎と別空間を渡っている最中に反射不能の魂を削り尽くす杭の雨に降られ、生物としてのあらゆる部位の強度で杭に負けていた者達は技能や能力を使う暇も無く。
美味しく蜘蛛達の糧にされたのだった。
『( ̄д ̄)(取り合えず、ナクアの書で取れたアブナイ能力は天上蜘蛛さんに丸投げの方向でという顔)』
残念ながら蜘蛛達は能力合戦や攻撃の応酬なんて求めてはいなかったし、彼らにとって強さとは割り切った話……単なる道具以上ではなく。
どんな能力もどんな力もアブナイならさっさと切り捨てるという選択肢を取れる辺り、やっぱり少年の子供と自称して良い精神構造なのであった。
それでもちょっとだけ空間を渡る能力とか欲しかったと思うモノはいたが、自分達で攻略法を出してしまったのでやっぱ呪紋式が一番という話に落ち着いた。
それに取得した能力で良さそうなものは研究が続けられ、彼らの今後の予定の為に用いられる事が決定。
こうして舞台に神々の手で上げられようとした役者達は全て登場前に役を降ろされたのである。
相手が全能でもない限り、能力の解析と利用をお得意の数という絶対有利の処理方法で補い実現しようと努力する蜘蛛達に隙という隙は左程無いのかもしれなかった。