流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて- 作:Anacletus
アルマーニアの首都跡地に大量の新人類が到着し、黒蜘蛛の巣がある地域へと手を伸ばし始めていた頃。
遠征隊第一部隊は海側の端にあるノクロシアの外延部に到着していた。
様々な構造物があった市街地とは違い。
地下の軍事用通路の先にあったのは正しく軍事用の格納庫。
オリジナルである黒鉄のゴーレムが多数壁を形成する程にビッシリと隙間なく並べられた区画はどう見ても防衛装備品が山のように積まれていた。
少年が確認した限りだと個人用携行装備だけでも無限に撃てる小銃や無限に再生するナイフや刀剣類を筆頭にして無限に伸びる鞭だとか時間が停止しているようにしか見えない疑似的な時間停滞した盾だとか明らかにオーバースペックなものが山のように眠っている様子であった。
ゴーレムは起きる様子もなく。
少年の妖精剣で機動しないように中枢を剣で貫通されて、しばらく再生しないようにされながら、調査が進んでいた。
「お~~こっちの小部屋にあるのは何か食料みたい。ほらほら」
少年の下に木箱が持って来られて、中身が空けられると。
何やら柔らかいレーションが入った様子のビニールにも似たパックが複数入っている。
少年が片手で破いて、躊躇なくモシャる。
「あ、ちょ、それ……物凄く旧いんじゃ?」
思わずレザリアが慌てて大丈夫と尋ねる。
「問題ない。これも定理異常……味は……美味しい。肉を香味野菜で煮込んだヤツ」
「そ、そうなんだ。ボクも一口……」
「ダメ」
「えぇ~~自分では食べてるのに?」
「もしもの時に安全を保障出来ない。こっちの胃袋は特別製」
「ぶ~~拾い食い大好きなんだから、もぉ~~」
レザリアに膨れられながら、レーションをモシャり、少年が倉庫内を歩いて各部屋を自分の目で探索する。
武器庫類は豊富であった。
だが、医薬品の類を保管した場所が見当たらない。
(オカシイ。不老不死の秘薬くらいはポンと置いててもおかしくないはず……)
完全にノクロシアは人類にとっては宝箱に等しかったが、少年にしてみれば、島の外に持ち出すべきではない面倒事の山に等しい。
「あ、アルティエ~こっち来て下さい。例の隊長機がありますよ~」
少年がソレは知ってるというか。
今も再生不能にして制御下に置いているから問題ないと言おうとしたのだが、フィーゼが隊長機と呼んでいたソレを見て目を細める。
(待機状態で空間が歪んでる……観測にも掛からない。この世界の物質じゃない?)
イソイソと近寄った少年が剣を片手にして二人を背後に下がらせ、その機影を見やる。
全高40m程はあるだろうか。
黒鉄の装甲は同じように見えるが、少年の感覚的にはまったく別物の機体であった。
「……観測結果と現実が一致しない。此処に観測しても存在しないのに存在する。高次元からの物理量投射? いや、物質の形そのものを常に高次元から投射して影のようにこの次元で存在を保ってる? これは……」
「アルティエ? その機体がどうかしたの? ちょっと大きいだけじゃないの?」
レザリアが首を傾げる。
「コレは神の存在定理で編まれた機体。意志があれば、神と名乗ってもいいヤツ」
「え……この機体が神様、なの?」
「作りがほぼ同じ。受肉神とは違って、この世界の物質に依存してない。此処に在るけど無い。だから、滅ばない。事実上、壊せない。何故なら影が壊れるって事は定理が壊れるのと同義だから」
「何か難しいんだけど……」
「これが敵になったら、遠征隊が一方的に負ける」
「アルティエでも?」
「勝てるけど、面倒……」
「勝てるんだ。一応」
「そういう方法はちゃんと準備してある。でも、これを何十体や何百体も相手にしたら、今の状態でも死ぬ可能性が高い」
「うわぁ……さ、触らないでおこうか?」
「それがいいと思う。使い方次第で此処にあるモノの大半が世界を滅ぼせる」
「そ、そんなに?」
「神が無限に魔力を引き出す炉みたいなものだと考えれば、それの概念で作られた大半のものは質的に無限に何かを破壊するのに足る性能になってる」
「無限に何かを破壊……」
「呪紋で制御した無限に何かを出す装置みたいなものを想像すればいい」
「うわぁ……」
レザリアが少年の言葉に空恐ろしい奈落を思い浮かべる。
「取り合えず、この機体は―――」
少年がソレを一応、妖精剣で解体しようとした時。
その体の半分が巨大な手に潰されていた。
「アルティエ!!?」
一切の予備動作無し、あらゆる感知に掛からないどころか。
観測していた相手の手が自分を潰しているという状況にも関わらず。
その時、滓かに彼は馬車を牽くエムルトが片手を動かしているのを見て、感謝した。
最初に敵から利き手を潰された方に驚きつつ、その手に持たれていた妖精剣を血肉と粉々の骨の内部で持っているという認識で発動させる。
瞬時に妖精剣が見えない鞭のように唸り、分子どころか。
原子レベルで相手の構成材質を分解していく。
だが、分解されながら動く手が少年を格納庫内の壁に叩き付けた。
「ッ―――」
衝撃を真菌層で緩和。
更に不可糸のクッションをぶつかる方面に展開。
衝撃そのものを受けている自身の肉体から分子振動制御によって運動エネルギーそのものを手足の先から放出して慣性以外の威力を減衰。
重ねた防御方法をそのままに肉体をゴライアスのように半霊力化。
壁に激突した時点で瞬時に反転した少年の肉体が高次元からの一方的な攻撃方法を看破する。
(存在しないんじゃない。高次元から時間軸毎に攻撃が罠として置かれてる。時間軸を高位次元から観測して干渉する……これが真正神の能力の一端……)
時間軸毎に攻撃があちこちの時間帯に既に置かれている事を察して、相手の攻撃を妖精瞳で見切りながら、妖精剣による断裂を用いて、事象として顕現する前に別次元からの出現する事象そのものを破壊。
攻撃はどうせ当たらないとばかりに妖精剣の攻撃を斬っている部分以外の余りで完全に起動したソレの装甲そのものに相手の罠と同じ要領で呪紋を刻印。
刻印された呪紋の名は―――。
「【冥神の加護】」
機体が急激にシャットダウンされたように崩れ落ちた。
「アルティエ!!?」
思わず1秒にも満たない瞬間の出来事を半分以上理解出来なかった少女達が慌ててやってくる。
「だ、大丈夫かや!? 霊薬を!?」
「助かる」
少年が半身を潰されたままに霊薬を口にしてグズグズになった半身を何とか復元していく。
「アルティエ!! あの機体に何をされたの!? 今の見えなかったよ!?」
思わず泣きそうな顔になっていたレザリアがフィーゼの精霊の力で何とか肉体を立たせている少年の傍に来て背中から支える。
「ちょっと真正神の怖ろしさを味わってただけ。呪紋が使用出来ないから相手に刻んで強制的に相手へ使用させた」
「だけじゃないでしょう!? もう!? とにかく一端戻りましょう!!」
フィーゼがすぐに少年を馬車の方に持っていこうとしたが、少年が片手で制した。
「まだ終わりじゃない。助かった。エムルト」
「いえ、この銃があちらの世界に届いたのは偶然です。咄嗟に撃ったら、神の力が作用したというところでしょう」
「え? エムルトさんも攻撃してたの!?」
思わずレザリアが目を見張る。
少なからず馬車を牽いていたエムルトは何かをしているようには見えなかったのだ。
「ああ、はい。この現実では何もしてないのですが、武器を持った神という概念側の定理として疑似的な神格となったせいで殴る事は出来たので……つまり、ええと、頭の中で攻撃を相殺していました」
「あ、頭の中で?」
「神の領域に接続してるエムルトは現実で思考している限り、その思考そのもので神の力を扱える。さっきの攻撃を咄嗟に半分弾いてくれてなければ、全身を潰されてた」
少年が破壊された鎧と衣服を不可糸で一応は応急修理してから立ち上がる。
「そ、それであの機体どうして止まったの? あの呪紋で拘束してるって事?」
「違う。前に冥領で倒した肉の樹の怪物の事は覚えてる?」
「う、うん。あれ、神様だったんだよね?」
「そう。アレを斃した時に得た呪紋を使った」
「どんなの?」
「正しく死ねる。正しく殺される。不死殺しの変形みたいな呪紋」
「つまり?」
「高次元からの干渉で物理的、時間的な連続性を無視して出現するのは死に該当する。自身が死後に誰かに利用されない為の加護呪紋。概念的な死が定理側と連動したせいでいきなり現れたり出来なくなった。高速で現実へ高次元から別次元の軸を使って干渉する非物理次元からの連続物質転写、物理量転写も不可能になれば、普通にこっち側の概念で動かすしかない」
「消えたり現れたりしないって事?」
「そう。これで妖精剣や特別な攻撃以外でも攻撃が当たるようになる」
言ってる傍から再起動したらしき機影が装甲表面に刻まれた呪紋を消そうと腕で装甲をガリガリと削り始めた。
しかし、すぐに自身の能力で装甲が復元されていくのを見て無駄だと認識したか。
少年を真っ直ぐに睨む。
その時、周囲にいたレザリア、フィーゼ、リリムの三人は肉体を圧し潰すような重圧を覚えたがすぐに解消される。
少年が彼女達を背後に正面へ立ったからだ。
「お前のコードを寄越せ。ガラクタ」
機影が猛烈な加速度を見せて、音速の30倍近い速度で加減速し、少年の肉体を再び拳を殴り抜こうとしたが、その時にはもう少年の剣が機影の首を飛ばしていた。
更にそれに追い付いた三名の攻撃。
フィーゼの盾と剣が相手の機体を拘束するようにガッチリと接触状態から固め、レザリアの銃が各関節部を猛烈な速度で撃鉄を引き上げて撃つ爆裂する光弾の連射で留め、リリムの両手から通常火力の呪紋一発分の手加減無しの一撃が閃光として胸部に突き刺さる。
だが、それでも胸部装甲を貫通するには至らず。
しかし、半ばまでグズグズに溶かした相手の胸元に跳んだ少年が一突きで相手の中核部品らしい小さな虹色の水晶のようなもので出来たリングを刃を捻って真っ二つに割砕いた。
ギュウゥンと内部から駆動音を響かせて、機影が止まったかと思うとビシビシと幾何学的な模様が構造材を奔り抜け、小さな部品のように機体が散らばって構築前の状態へと還っていく。
「今回は楽に倒せた。同じものが出て来ないとも限らないから、此処を蜘蛛達に制圧して貰ったら、奥の転移用のゲートを確認して、一端蜘蛛達でも倒せる手順を造らないとダメそう」
少年が割れたリングを掌に回収して少女達の下まで戻って来る。
「い、今のが一杯はさすがに……」
レザリアが何かやたら硬かった相手の部品に自分の攻撃では傷一つ付いてなかったと転がって来た部品を床から困った顔で取り上げる。
「恐らく、定理側の本体は呪紋を刻まれたせいでどの個体とも連絡不全になってる。再び情報の相互取得が可能になる前に同じ機体を解体しないとさっきのが今度は理不尽じゃない強敵として押し寄せて来る事になる」
「う、う~ん。さすがにそれは困りましたね」
フィーゼが自分は強くなったと思っていたのにいきなり攻撃が効かないどころか。
相手を観測も認識もまともに出来ていなかった事に拳を握りしめつつ、力の無さを痛感した。
「リリム。さっきの相手にはちょっと強い攻撃呪紋を使ってもいい。胸元にあるコレはたぶん移動出来ない仕様になってる。急所は同じ」
「分かったのじゃ。それにしても通常の呪紋でも街一つ分くらい破壊出来るというのにアレは耐えておったのう。この構造材が特別なのかや?」
「そう。黒鉄の戦艦に使われてる構造材の上位互換版」
そう言っている合間にも少年達が苦戦したという報告を受けた蜘蛛達が後方から退去して押し寄せて来る。
「取り合えず、今からエムルトやこっちがいなくてもアレを倒せるようになってもらう。ちょっと、こっち」
少年がエムルト以外の少女達の傍に来ると虚空から乳鉢らしいものを転移で取り寄せて、ゴリゴリと破壊して持ってきた輪を粉々にし始めた。
「え?」
「えぇ……」
「ぬ?」
全員が見る前で少年が更に相手の構造材の一部も入れて再びゴリゴリゴリゴリした後。
内部のキラキラした粉末を何処からか取り出した革袋の内部に入れて、掌から黒い真菌の液体を注いでバシャバシャやり始め、更に片手で複数の試験管から薬品を追加で投入していく。
全て馬車の内部に置いておいた代物だ。
「……出来た。はい」
「いや、ハイッてそんな風邪薬じゃないんですよ?!」
「う、う~ん。倒したばっかりの強敵の明らかに食べ物じゃないのを渡されても……」
「仕方ないのじゃ。これが手っ取り早いのじゃろうしな」
少年の言葉に三人は三者三様の様子であった。
諦めの境地に達しているリリムが最初に渡された革袋からグビリとソレを飲み込む。
「?……味はしないのじゃな」
「あ、そうなんですか。それなら別に……」
「ボ、ボクも飲もうかな」
リリムがケロリとした様子なのを良い事に二人もゴクリと飲み干して、最後に少年が余ったのを自分で喉に流し込んだ。
「む、むぅ? 特に体に異変な無さそうじゃな」
「は、はい。今までの薬とは違う感じ、ですね?」
「ん~~? でも、何か違うような?」
と言っている合間にも三人が一斉に気絶した。
少年が呪紋でイソイソと馬車の中に三人を押し込んでいく。
「倒したばかりの強敵を呑ませるのはさすがにどうかと思いますが……というか味がしなかったのではなくて味覚を瞬時に破壊されたのでは?」
「鋭い。食べたらショック死する味だったから、味覚を一時的に消す薬を混ぜた」
エムルトが不憫なという顔で少女達を見やり、ジト目で少年に視線を向ける。
「問題ない。神と諸々の定理や過去の常識や知識の関連性が色々見えてきた」
「何故、彼女達へアレの粉末を?」
「今まで神の類は自然発生するものだと思ってた。でも、話を総合すると旧き者が創った知性体で定理側、概念側に本体がある情報で作られた命みたいなものと判明してる。今飲ませたのはこちら側にある定理情報の保存先を指定する物質」
「コレと接続してからよく感じる事ですが、それが彼女達にとっての神の肉体の代わりという事ですか……」
「神殺しが神になる理由も理解が出来た。つまり、神を殺した存在は神の定理を自分の情報で侵食する。いや、させられるって話だと思う」
「侵食?」
「殺された神に関する情報を色々と集めてた。リケイの話や人豚の知識。他にも色々……結果として推測される情報から神を殺せる存在が決まっているのは神を構成する定理に関連がある情報を最初から持ってる存在がいるからだと断定出来た」
「神殺しには条件がいるわけですか」
「そう。そして、神の情報をこの現実で一部消すと自分の情報が定理側に割り込みを掛けて、神の構成、情報そのものを定理から一部消去、自分の情報を書き込んでると推測される」
「神を構成している情報を書いている紙を自分で上書きするような?」
「そんな感じ。神を殺して成り上がった存在の話を聞くと殆ど殺された神は復活してない事が大半だって話。リケイから聞いた。一度でも神殺しで殺した存在が成り上がると殺された側は再び受肉しても力がかなり弱まるとも」
「……彼女達も難儀ですね……」
「神の力が無いと神を殺せない。そして、全員神の力を宿してる。フィーゼはティタルニィア、レザリアはウェラクリア、リリムはカルトレルム」
「つまり、彼女達は……」
「今までも何度か神は殺してきた。神の情報を書き込む定理には枠があると思う」
「枠?」
「情報を保持する為の定理の枠が無限なら、神は増え続けるはず。でも、この世界では神世の頃にしか神が生まれてない。造られた際の情報を書き込む定理数が有限だからだと推測する。神殺し以外の神が生まれてないって事はもう定数が無い。もしくは余りが少ないというのが原因かもしれない」
「そこに彼女達を割り込ませる、と。過保護ですね」
「これで三人とも恐らく、よっぽどの攻撃じゃなければ、死ななくなった。安心して連れて行ける」
その少年の何処か複雑そうな表情にエムルトは初めて人間臭い少年の感情を見た気がした。
「言わないのですか?」
「言わない……」
「何も教えないのですね」
「必要が無い」
「それを彼女達が望んでも?」
「……状況と場合に依る」
はぁぁとエムルトが溜息を吐く。
「そんなだから、彼女達は貴方から目が離せないのでしょうね」
「?」
「愛されていますよ。貴方は……だから、せめて、傍にいたいと願う彼女達の気持ちが分かっているのならば、何も言えないとしても、傍にいて上げて下さい」
「……エムルトにそんな事言われるとは思ってなかった」
「な!? これでも私も立派な女性です!! 彼女達が貴方の事をどう思っているかなんて見れば分かりますよ。でも、貴方はそれに今応える事が出来ないのも理解出来ます。だから、忠告していると思って下さい。何もかもが終わった時、貴方の傍に彼女達がいられるように……」
「忠告、感謝する」
「いえ、まだ恋も知らぬ身ですが、貴方を死なせては彼女達に恨まれます。今後とも無茶はあまりしないで下さい。先程の攻撃を定理側の攻撃で弾けたのも神の領域を探っていたからこその偶然。同じ事を繰り返しても、同じ結果になるとは思えません」
「分かった」
少年が頷いて、馬車の中に入る。
「蜘蛛達に後の事は任せてある。此処で3時間休憩」
「目覚めるまで必ず守り抜きましょう。ゆっくりお休みを、ニアステラの英雄殿」
少年は座席に腰掛けて目を閉じる。
「……ありがとう。フェム」
「いえ、契約者の偶然を司るのは妖精として当然の事ですので」
今まで馬車の中で眠りながら、周辺を妖精瞳で探っていたフェムが虚空に現れてから少年の胸元へと潜り込む。
「貴方達もご苦労様でした」
馬車の内部に小さくなった妖精蜘蛛達がパタパタと羽搏き。
眠る少女達の頭上で鱗粉を零すかのように光の粒子を落としながら彼女達を祝福する。
「新たな神。新たな時代。着実に時代は来ていますよ。我が契約者……だから、それまで死なないで下さいましね……」
「約束は出来ない。でも、出来る限りの事はする」
「ふふ、本当に貴方らしいですよ。お休みなさい……」
こうして馬車は一台沈黙し、後からやってきた蜘蛛達は大量の武器と眠る機体と人造神とも呼べるだろう機体の残骸を目にして……。
「( 一一)(おーけーどーほー諸君。まずはこの宝のマウンテンを有効活用しようじゃまいかという顔)」
「(-ω-)/(無限が一杯。夢一杯。世界を滅ぼす兵器も一杯という顔)」
「(/・ω・)/(わーい、はめつとぜつぼうのしんふぉにーで外大陸への無双侵攻計画だーという顔)」
「(∵|д|∵)(アレ? この神の残骸……食えるの? 食べちゃったの? という事は……という顔)」
彼らは喧々諤々と看板で会話していたが、一人の蜘蛛が神の残骸のパーツをパクッと口にした後、グムグムと肉体がウルのように金属光沢質に変貌していく。
「(・∀・)(死ぬ程マズイ………此処の兵器類、全部、食べられるんじゃね?という顔)」
彼らはそれをちち扱いする少年と同じくモクモク拾い喰いしながら、まずーという顔になりながら残されていた兵器類も安全装置無いと困るよなーという顔で見ていた。
が、すぐに一匹が殆ど神の残骸と構造材に違いが無い事に気付き。
人造神の残骸で機体や武器類を叩いて、破壊出来る事を確認。
破壊しながら、それをモクモクと齧り始めた。
「(+_+)(これ味覚切ってないと死ぬ程マズイわという顔)」
「(´Д`)(先に言ってよ。衝撃で魂が砕けるかと思ったよという顔)」
「(´;ω;`)(マズヒ……でも、これはこれで貴重な経験な気もするというゲテモノ好きな顔)」
「(;゜Д゜)(蜘蛛生で初めて経験する衝撃に放心してしまう顔)」
唯一、彼らが齧れなかったのは疑似時間停止していると思われる剣や盾の類のみ。
こうして少年達が寝ている数時間の間にも格納庫内は空となり、次々に運び出された“兵器の残骸”は各地の黒蜘蛛の巣にも転移で送られて、蜘蛛達のクソマズなオヤツにされたのだった。
数時間後、少年が見たのは半ば機械のように変形する金属生命体的な側面を獲得した部下達が遊ぶ姿であった。
『超(∵=_=∵)絶(^▽^)変(>_<)形(;・∀・)合<`ヘ´>神(>_<)ゴー( ̄ー ̄)ウル(+_+)ゴォォォレェエエエエム!!!』とか適当な組体操でゴーレムを形作るシーンは圧巻の変形と言えただろう。
他にも角みたいな剣を頭部に生やした個体やら、口の中から銃口らしきものを出して遊んでいる個体やら、ジェットエンジンみたいな翼で飛び回る個体やら、やたらバリエーションが増えていた。
彼らは半分近くがスピィリアだったはずなのだが、その面影はもはや硬そうな甲殻が豆腐並みに柔らかく震えてドムドム弾んで半透明である、というくらいものでしかない。
格納庫内にあったはずの超兵器の数々が影も形も無くなっていた。
その特徴を何処かに持った個体達は滅茶苦茶変貌した体の事も気にせず。
合体ごっこに夢中だったのだ。
「………仕事は?」
『((((;゜Д゜))))(ハッという顔)』をした蜘蛛一同。
こうして、その日の内に蜘蛛達の凡そ3割にも及ぶ個体群が黒鉄の戦艦染みた体表と機械そのものにも見えるフォルムを獲得しつつ、あらゆる能力を1200%弱くらい向上させたのだった。
最精鋭として連れて行かれた蜘蛛達に限っては更に人造神の残骸を直接摂取した影響か。
やたら、変化が著しく。
コンパクトな肉体に反比例するように無限機関内蔵型になったりした。
そのせいなのかどうか。
元気が有り余っており、基本能力の殆どが何も接種してない蜘蛛とは6桁程違うハイスペック蜘蛛として少年達の旅路に同行する事となる。
呪紋を刻まれた表層鋼材はウリヤノフの鍛冶場に回され、新しい不死殺しの剣として鍛造される事が決定。
こうして、また蜘蛛達は受肉神に単独で競り合う程までに力を増大させていたのであった。
*
蜘蛛達がノクロシアの“オヤツ”に現を抜かしていた頃。
グリモッド方面では狂気に陥った教会の騎士と緋色の武装を用いる亡霊らしき軍隊が沼地と平野の境界で激突していた。
教会騎士達の呪紋と機械弩による攻撃に対し、緋色の亡霊達は激突中は武具と呪紋で応戦しているが、呪紋を載せた大半の遠距離射撃が相手には通用せず。
かと言って、近距離では相手の攻撃に大半が魂に影響する攻撃が基本となっており、かすり傷ですら致命傷になるという事実を以て、教会側は押され気味になりながらも各地点を量産型の神聖騎士達が保持し、更には無限に生成されるのではないかという巨大な人造神の血肉から作られる神獣が雲霞となって押し寄せ、消耗戦に陥っていた。
互いに手札は相手を必殺出来ず。
かと言って、相手側に押し負けてもいない。
だが、狂気に呑まれたせいか。
死んだ者達は次々に亡者や亡霊と化しており、教会は日々増える難敵に対して打開する為の作戦を大掛かりに用意する事となっていた。
東の後方海域に鎮座する教皇が載った御座上艦は荘厳な神殿そのものを浮かばせた島のようなものに見えており、そこには数十隻の船が停泊。
揚陸側からやってくる負傷者を満載した船からは次々に負傷した者達が担ぎ込まれ。
悲鳴の零れる医療病棟へと消えていく。
ほぼ1km近い広さを有する島は中央に向けて高台となっており、中央には白い塔が建っている。
塔と言っても10階建てで周辺と一体化しており、その下は全てアーケード状に屋根が敷設された石造りの店舗が軒を連ねていた。
数万名もの人員を収容する“船”は旧き時代の遺跡そのものであると言われ、多くの事は誰も知らないが、嘗て教会が南部国家への大遠征を成し遂げる為に神の力を用いて造られたと伝承されており、神船と呼ばれている。
アーケード内部の店舗は全て教会が運営している場所であり、割安で食料はその他の雑貨が買えるようになっていた。
しかし、負傷者が激増して数日。
医療用の病院は島民全てを見る事が出来る程のものが確保されていたにも関わらず。
全て満床。
死者は安らかな顔で逝くのに比べて、地獄の苦しみを味わう負傷者の多くは治るまでの数日間。
悪夢のような激痛に苛まれ、魂と精神を摺り減らし、次なる出撃に怯える子羊となっている。
そんな病院の一角。
簡易の法衣を着込んだ僧侶スタイルな金髪の少女が一人。
病院の院長を務める老爺を前にしてモクモクと菓子パンを齧っていた。
「で? どうだ? 今世紀産の教会騎士達は?」
「ダメですな。実際問題、神聖騎士の能力が無ければ、島の今の現状ではまともに活動出来ません。狂気を遮る護符も増産しておりますが、効き目は数日の活動が限界。神の力を取り除くのにイゼクス様のお力を借りて数日掛かりという事は……」
「やはり、あの鳥を落とさねばならんか」
「はい。それが一番手っ取り早いでしょう」
「左様か。話では外界の神々が今島の北部に拠点を設けたそうだ。このままだと何れ我らの数を超える敵が押し寄せて来るやもしれぬな」
「……北部を隔てる槍の方の領域は突破出来ぬのでは?」
「まぁ、しばらくは持つじゃろうて」
少女が老人と同じような口調でお茶を啜りながら、手渡された書類に目を通す。
「猊下。円卓の方々の作戦はどうでしょうか?」
「明日中には終わる予定じゃ」
「左様ですか。ならば、そろそろ例の肉体に死んだ者達の魂を乗り換えさせては?」
「元々は兵力を損なわないようダメ押しで使う為に作っおったのが、こんなところで役に立つ、か」
「全て枢機卿の方々が太鼓判を押した代物です。通常水準の魂に使わせても問題無く新聖騎士階梯の力を得られるかと」
「では、そうしようか。魂魄量は?」
「今のところ総軍の3割を確保しております」
「では、あちらに指示しておこう。鳥の撃滅と同時に内陸部へと侵攻。まずは邪魔な緋霊王を片付けるとしよう」
少女が頷いて立ち上がると院長が頭を下げて見送る。
そして、少女はチラリと通路を見やった。
そこには臓器が一つ浮いている。
心臓が一つ切り、動いて虚空で脈打っていた。
「“聖杯”がわざわざ後方に出向くとは珍しいのう。鳥の撃滅に何か必要か?」
その心臓が声を発する。
『猊下。サヴァン亡き今、契約の破棄を進言します』
「何じゃと? 何故じゃ?」
『このままでは恐らく受肉神には勝てても主神の怨敵を討つには不便かと』
「……戻って来るのがオーエルからとなれば、転移も使えぬように封鎖されておる此処にはすぐ戻って来られんじゃろうな」
『左様です』
「己の不敗が途切れると予見するのは良い。じゃが、契約の引継ぎにはイゼクス神の許可と聖櫃をもう一つ用意する必要がある」
『聖櫃の材料ならあるではありませんか』
「ほう? 生憎と手駒は減らせんぞ?」
『例の緋霊王とやらならば?』
「ふむ……前哨戦、か」
『現在、我ら円卓も十二席の内6席が事実上は不在。この数百年で磨き上げては来ましたが、数の不足を補うとすれば、後は小細工くらいでしょう』
「……お主達円卓が誰一人死なずに緋霊王を倒せるか?」
『少なくともやってみる価値はあるでしょう』
「分かった。許可を出そう。だが、相手は太極神の使徒じゃ。力ならば、我らが神に勝るものではない。しかし、我が神の言が事実ならば……」
『ならば?』
「善悪と光闇に違いを齎す彼の神の使徒は趨勢を決する。勝敗すらも左右する。故に完全な勝利も完全な敗北も避けよ。表裏の境界で勝て」
『これは……難題ですね』
「それが出来ねば、お前達に芽は無いという事じゃ」
『分かりました。では、猊下の宝物から幾つか持って行っても?』
「構わん」
『それとあのデカブツの一割の使用許可を』
「許そう」
『では、これより出立します。吉報をお待ち下さい』
虚空に浮く心臓がゆっくりと透明になって消えた。
それを見送った少女は自分の背後にいる少年のような何かに振り返り。
「これで良いので? あちらの寝ている方に合流致しますが? 何か他には?」
そう訊ね。
何も言わずに背中を向けて消えた相手に溜息一つ。
病室を回る為に歩き出したのだった
*
こうして加速度的に状況が変化した最中。
島の聖域外延部では巨大な蟲の行軍が始まっていた。
先日の王群による大移動の数十倍規模の雲霞が東西南北。
全方位に向けて歩み始めていた。
その雲霞の速度は極めて迅速であり、空飛ぶ蟲達は音速を超えて遥かに早く周辺に空を覆い尽くす脅威として顕現するだろう。
しかし、そんな蟲達の群れの中央地帯。
荒野にある石作りの無骨な城の上階。
吹き曝しの屋根すらない場所で石製の玉座に座っていた者が一人。
先日、ニアステラとフェクラールに山脈を落とした巨人の男であった。
体を蟲のように変貌させた蟲人。
それはある意味でレザリアのような存在に近しい。
しかし、黒々とした顔の複眼と悍ましい牙が円形に噛み合う口元。
ねじくれた脚が衣服の所々から飛び出す様子は明らかに狂気の産物にしか見えない。
「……安心して下され。我が神ヴァナドゥ……全ては上手くいきます。ええ、貴方が望んだ通りに……全て……」
傲岸不遜の塊にも見えた少年と会話をしていた者とも思えない。
そんな何処か労りを感じさせる声だった。
だが、そんな声の主のいる屋上に何者かが下の階層からやってくる。
その足音は荒々しく。
複数名である事が分かった。
アルジャンティーユ。
そう名乗った巨大な蟲人は自分の半分以下の背丈の者が数名やってくるのに目を細めた。
やってきたのは合計3名。
1人は巨大なトンボというには厳つい装甲を身に纏い。
猫背になって襤褸を来た蟲人。
その横には鮫のような頭部に目元が複眼で口元が蟲のような左右に開く牙に覆われた女型。
最後のその後ろに隠れるようにしているのは米粒のような紅の点……ダニらしきものに覆われている何者かであった。
「メクトス。報告ならば聞こう」
トンボのような蟲人がアルジャンティーユの傍に近付いて来る。
「32兆個の卵を生産し終えた……成長終了まで凡そ12000時間だ……」
「孵化させ続けろ。奴らを圧迫し続ける戦力を常に送り込めば、何れ何処かが破綻する」
「……もう一つ報告がある」
「何だ?」
「低位の王を使い果たした。複製に使用し過ぎてもうダメだ」
「フン。その内、また現れるだろう。輪廻から回収されるまではそのままでよい」
そう言われてメクトスと呼ばれたトンボ男が下がる。
「ウラトネス。準備は出来たか?」
鮫と蟲のキメラのような女性型が進み出る。
「アルジャンティーユ。22の氏族が貴方を解任すると言い出したわ」
「今更何を言うとかと思えば、外渉担当は貴様だ。黙らせろ」
「ヴァライの一族が離脱した。あの蛭共にとって、今回の一件はよっぽどに堪えたようよ? こちらの加護無くば、他の王達に食い殺されると脅してみたけれど、戦力を失い過ぎたと言って聞かないわ」
「腰抜けめ。救世神の加護に浴していながら、任を放棄するとは……その力を失えば、後はただ化け物に堕するだけだと言うのに……愚かしさも極まったな」
「22の氏族はこれ以上は王の命令が無ければ動かないと言っているわ」
「……まだ連中は自分達の王が存在している等と信じているのか?」
「工作していたのは貴方でしょう。アルジャンティーユ」
「フン。ゴミ共め……救世神の力無くば、どうなるか。他の氏族に知らしめねばならぬようだな」
「殺しても労働力は他から持って来られないわよ? 殆どが平野部の弱小だもの……」
ウラトネスと呼ばれたキメラ型の女が後ろに下がる。
『聖域の守護者としての往年の力はもうヴァライには無い。奴らの抗魔特剣も殆どがあの戦で失われた。ニアステラとフェクラール。思っていた以上だった……』
赤いダニに包まれた何者かの声にアルジャンティーユが不愉快そうな顔となる。
「貴様の発案だっただろう。失敗した責任を取る気は有るのか? ベストライナ」
『……そんなものは無い。だけど、新しい可能性は試すべき。ようやく我が神の力が戻って来たおかげで、各地への転送が出来るようになった。誰かさんが無理をさせたせいでまた時間が必要になったけれど……』
赤いダニに覆われたベストライナと呼ばれた何者かが少し幼い声で溜息を吐く。
「貴様は言われた事だけしていればいい。真正神共が攻めて来る前に全てを終わらせねばならなかったが、時間稼ぎはあの蜘蛛共や亜人共にやらせておけばいい」
『可能だと思うの?』
「今の連中ならばな。今回は違う」
『……今回、今回って、何度も真正神が攻めて来たら、この島はもう滅んでいるのでは? 盟主殿』
「フン。何も知らぬ事は心底幸せなのだな」
『?』
「さぁ、我らの神に祈るがいい。新たな門出を祝うのだ。世界の転生の果て……救いを齎す我らの神に……」
そう立ち上がって天を仰ぐアルジャンティーユの頭上。
巨大な肉と鋼の塊にも見える塔が現れる。
ソレは浮かんでおり、今も脈動していた。
「妖精神の頚城が解かれるまでもう少し……小賢しい細工をしてくれたヴァルハイルも最早亡国。我らを止められる者は何も―――」
そこで初めて、男の脳裏には一人の少年の姿が幻視された。
他の三人が僅かに押し黙った盟主に怪訝な様子となる。
「……念の為、まずはニアステラとフェクラールに戦力を集中せよ」
「先日、ハンプティ・ダンプティを破壊されたばかりだが?」
「構わん。戦力が足りぬのならば、転移で幾らでも送ってやればいい。総軍で突撃すれば、奴らを程よく減らす事も可能だろう」
『大神共を相手させると言ったばかりなのに……』
「黙れ。コレは決定事項だ。今回は……念を入れておく。それだけの事だ」
そう言い切った巨人は天を仰ぎ。
再び、己の崇める神が消えていくのに目を細めていた。
それは小さな違和感。
何かを見落としているような心地。
それが一体何なのか。
彼はまだ知る由も無い。
あの時、少年を振り返らなかった彼は知らない。
その表情が如何なるものであったかを……。
何を彼が敵に回してしまったのかを……。
人の限界、人の果て、辿り着きし者、踏破者。
エルコード。
まだ、その時ではないと未だ肉体を常用する時にはヴァルハイルに転生したままの姿な少年がどれだけの力を内包し、研ぎ澄まし続けているものか。
彼は根本的には理解していなかった。
もう悟りの境地にいても良いはずの、人類の終点に位置する個体。
その辿り着いた“人”の体現を前にして彼はあまりにも無知であった。
勘だけが告げていたのだ。
怖ろしいものが来る、と。
*
エム大陸に残って外大陸からの侵略を食い止める。
という任務を賜った蜘蛛達の一団。
勝手に遠征隊外大陸派遣戦闘団と名乗る彼らは島の外に生まれて組織的に潜伏活動する初めての蜘蛛達であった。
「(~o~)(そっちの通路は糸で固めてからセメント流し込んどいてーという顔)」
「( 一一)(これでエム大陸の後進国家内陸の6割に拠点を設営終了かという顔)」
「(T_T)(別大陸への経路構築組の帰還を待たずに次は先進国内に拠点造らなきゃという顔)」
だが、そんな状況下だろうとも彼らには微塵も島の蜘蛛達と変わるところが無い。
ついでに言えば、ユーモアを介するお茶目系蜘蛛達ばかりである。
現在、エム大陸の後進国で密に活動を開始し、次々に神々の下僕を同胞にして退場させ、次々に虐げられ、死ぬばかりとなった人々を助けて懐柔し、裏工作を行っている彼らであるが、そのお仕事はかなりご飯の調達に苦労する。
基本的に竜骨を育てる爆華が外には無く。
転移で送られてくる乾燥した爆華を加工して、日々増え続ける同胞を養っているわけだが、魔力の回復方法が時間経過か竜骨塊からなので竜骨の大規模運用が可能な島とは比べ物にならないくらい彼らの補給は貧弱だ。
島でならば、緋色の白霊石の詰まった樽をドカ食いすれば、大抵魔力は使いたい放題であるが、外に持っていくと技術流出する懸念があり、彼らに使用は許可されていなかった。
「(*´ω`)(幾ら時間経過で魔力が回復するって言ってもなーという顔)」
「( ^^) _U~~(疲れるのは疲れるんだよなーそれはともかくお茶どぞーという顔)」
「(/・ω・)/(助かるという顔)」
「( 一一)(魔力供給されないと仕事の効率4割くらいだからなという顔)」
結果として、彼らは真っ当に大規模な軍事行動が取れないという立場にあり、だからこそ暗躍しているという面があった。
幸いにもエム大陸は魔力運用体系の技能者が殆ど居らず。
人口1000人に1人。
魔力が使える者がいるかいないか。
更に言えば、その殆どが島の普通の亜人の子供にも劣るような魔力量しか持ち合わせておらず。
結果として彼らの行動を探知する事は機材の助けが無ければ、不可能であった。
だが、今のエム大陸はもう大陸同盟軍の壊滅によってあらゆる混乱の真っ最中。
軍も額面戦力の4割、海軍をほぼ失っており、再建は未だ目途が付いていない。
陸軍も上層部の混乱で身動きが取れずにいる。
という事で蜘蛛達はこれ幸いにと軍事基地から離れた場所を次々に拠点化し、持ち前の建設能力を駆使して、穴掘り、資材集め、建築作業を繰り返し、あちこちの地下で好き勝手していた。
「(´・ω・`)(……また建設現場からセメントの袋貰ってくるかという顔)」
「(≧◇≦)(代価は建設作業員さんの体が知らない内に健康になるよという顔)」
「( ̄▽ ̄)(ま、病で死ぬより死ぬまで健康で働けた方がいいでしょという顔)」
「(|~ω~)ノ(ウチの回復呪紋は世界一!! 秘薬並みだからねという顔)」
大陸の人間が知らない古代遺跡とかを掘り出したかと思えば、まだ発見されていない未知の鉱物を採取したりもする。
あらゆる病原体を採取し、その抗体をヘルメースから受け取った真菌を宿して増やし、抗体を作り、島の人間が外界の病で全滅しないよう配慮までする始末。
そんな彼らが島の蜘蛛達と差別化されているのはやはり電子機器の扱いだろう。
「(^_^)/(これがプロセッサーとか言うヤツかという顔)」
「(ノД`)・゜・。(何でシャットダウンされたのという顔)」
「(/・ω・)/(蜘蛛はコマンドプロンプトを覚えたという顔)」
「(>_<)(蜘蛛はマシン言語を読めるようになったという顔)」
エム大陸は七つの大陸の内で尤も進んだ技術力を有するに至っている。
魔力を用いて電力を生み出し、電子機器の製造技術を飛躍させた文明なのだ。
故にソレを弄り回すのは正しく彼らにとって必須技能。
機械に詳しくならねば、何処で彼らの隠密行動がバレないとも限らない。
故に現地協力者達からそういった物資を大量に仕入れた彼らは日々、最新式の電化製品や電子機器に詳しくなるべく。
本を読み漁り、現物を弄繰り回し、大陸間の通信すらも可能にする外洋に敷設された伝送情報ケーブルで繋がる各地域の実情やらネットワークの情報を貪欲に吸収し、魔力と霊力による乗っ取り方法すらも開発していた。
「(+_+)………」
そんな外大陸の蜘蛛達の中。
近頃、頭角を現してきたのは何よりも経済学を学びつつある蜘蛛達であった。
彼らは大陸の図書館を不可糸で襲撃し、秘密裏にあらゆる本の内容を写し取り、次々に必要な分野が得意な蜘蛛達に分け与えていたが、その中でも経済を学ぶ蜘蛛達の多くが大陸発展の原動力が資金である事に着目。
大陸を制する為に必要な事はまず資金作りだと自前で何でも用意する事が出来る自分達から最も程遠い学問をガリガリ吸収していた。
「(@_@)(出来たという顔)」
彼らが最初に行ったのは大陸内の国家の経済掌握の為に何段階かに分けて経済を混乱させ、同時に彼らを救いつつ衰退させるというマッチポンプ式の悪どい商売。
その最も最初の計画は静かに進行し、今や同盟軍の壊滅によって失われた資本の補填に奔走する大陸の経済界を揺るがす事態を引き起こす事となる。
―――エム大陸中央平原穀倉地帯。
技術の進展、化学的なアプローチによる現代農業の基盤は基本的には肥料の増産方法にあると言っても過言ではない。
機械式の化学農業は空気からパンを造るが如く肥料を空気から生み出している。
他にも鉱山からはリン鉱石が掘り出されるし、世界各地で都市の糞尿を材料とした巨大な肥料設備が電力と機械を背景としてリサイクルされ、人々の食卓はゆっくりと飽食に向かって加速しているというのが現代だ。
その生産工程はとても繊細なものであり、何処かの過程が潰れたら、全ての農業がストップするまでに効率化の極みに達している。
無論、農薬から始まり、肥料やら新品種による過酷な環境でも簡単に健康に育つ作物は先進大陸を名乗る文明には必須。
故にそれそのものが彼らにとっては生命線であると経済学系蜘蛛達は理解した。
『今年も良い出来だ』
夏の始まり。
一年中温暖なエム大陸の穀倉地帯は麦穂で黄金に染まっていたが、農家達の顔は何処でも何故か暗い。
世相を反映してというのではなかった。
もっと現実的に同盟軍の為に大増産設備と農業用地の集約と効率的な大規模農地の開拓に滅茶苦茶金が突っ込まれた後、その全てが不要の産物と化したからだ。
要は投資失敗。
誰も買わない作物が余りまくり、恐らく政府も一定以上は買い上げもせず。
他大陸の支援物資として安く輸出する事になるだろう。
破産した農家はこの短期間で大規模農業を行う農耕資産家達の1割にも昇っている。
あらゆる方面から資金の引き上げを告げられて、首が回らなくなったからだ。
そんな彼らであったが、取り合えずは全ての作物を収穫せねばという顔となる。
が、そんな大陸の主要穀倉地帯の全土では尋常ならざる異常が発生し始めていた。
『ん?』
広大な農地から機械で作物を収穫中。
彼らはその一部の麦に何か黒いものが付いているのを確認し、繁々と見やり、手に取った。
そして、麦角菌の塊だろうかと首を傾げた翌日。
全ての穀倉地帯で一斉に夜半から明け方に掛けて、莫大な量の穀物が消え失せたのである。
愕然としたのは大陸全土の農家と彼らを束ねる農産物を扱う省庁であった。
『え? 収穫した麦が消えた? そりゃ、さすがに無いでしょう。保証金目当ての狂言じゃな―――』
その象徴の一部署には朝から電話が引っ切り無しに掛かり始めており、初めて電話を取った男が顔を上げた頃には部署で電話対応していない者はいない有様になっていた。
『な、何が起こってるんだ?』
だが、その昼頃。
穀倉地帯での大規模な収穫された農産物のみならず。
収穫前の農産物までもが夜に消えていた事が発覚。
これには警察もすぐに動き出さざるを得なかった。
『本事件はあまりにも不可解であり、巨大な穀物倉庫からどんな監視カメラの映像にも映らず全ての穀物を盗み出したという―――』
『本部長!! どう考えても不可能です!! 近隣の全ての穀倉地帯から収穫前のものまで全てとなると明らかに人智を超えている!!』
警察も分かっていた。
それは普通の盗難事件などではない、と。
突如として消えた麦だけならば、何も問題は無かったかもしれない。
少なからず、人々がすぐに飢えて死ぬという事は在り得ないはずだったからだ。
だが、更に翌日。
『大臣!!? た、大変です!?』
『どうした!? 盗まれた作物が見つかったのか!?』
『は、はい!!? そ、それが、神殿の倉庫に積み上がっているどころか。神殿を埋め尽くす程に溢れているのを目撃した市民から引っ切り無しに通報が!?』
『な、何いぃぃい!?』
顔色を青褪めさせた役人達が震えたのも無理はない。
彼らの支持母体は神殿。
そして、各地の神を祭る神殿のあちこちで莫大な量の小麦が見つかっており、まるで最初から盗みましたと言わんばかりに周囲にもみ殻や運び込んだと思われる跡が神殿関連の施設では大量に見つかったからだ。
だが、その量は神殿から溢れる程ではあっても全体的には1割にも満たなかった。
これに思わず先進国も後進国も神殿に説明を求める事になったのは無理も無い話。
しかし、その説明に追われた神の下僕達が精魂尽き果てるような釈明に追われた翌日……。
『大臣!!? こ、穀倉地帯のみならず。各地の主要な穀物卸売り企業の倉庫から保管されていた全ての穀物が消えました!!?』
『はぁあああああああああああ!!!?』
『現在、報道管制を敷いていますが、情報が何処からか漏れていたらしく!!? さ、先物取引市場への影響と一部の国民の買い占めが、大陸各地で発生しているようだと!!?』
『た、直ちに対策室に向かう!? クソゥ!? 昨日オレは寝てないんだぞ!!?』
あまりの異常事態に大陸国家の多くの省庁が上に下への大騒ぎ。
相場の大変動による巨大な損失を被った後進国も多く。
その市場の乱高下に引きずられて、経済市場の多くが混乱。
極端な買い占め策に対して手を打つ前に関係者の一部企業が急激な食料不安による非合理的な暴動によって倉庫などを襲われる事態にまでなった。
多くの国では原因究明より先に毎日襲ってくる急激な食料価格のインフレと強欲な便乗値上げで人々の怒りが天を衝く勢いで上昇。
この食糧危機によって、エム大陸はたった三日の内に市街地では食料を求めての暴動と買い占めとそれに端を発した略奪によって、何処も彼処も戒厳令下となった。
だが、幸いにもと言うべきか。
その混乱を真っ先に治めたのは混乱の最中にも人々に食料を配給したゲリラ達であった。
いや、一体何を言っているの?
という顔になる者が多数。
しかし、事実は小説よりも奇なり。
『穀物ですか? 我々の所有する領域で育ったもので良ければ、御譲りしますよ? 武器弾薬や医療品との交換で良ければ……』
とあるバイヤーに何処からでもいいから食料を集めろと言われた人間達が接触してきたゲリラに言われたのは物々交換という極めて原始的な取引であった。
だが、そんな事を国が許可するはずはない。
はずはないが、生憎と今正に勢い付いていたゲリラによる暗殺で毎日主要な政府首班達が跡形も無く消えていた上、護衛や警護の者達も大判が行方不明にされるという恐怖攻撃に晒されている政府にソレを抑止する力は無かった。
『が、ご、ぐ!? ぐわああああああああ!?!!』
『か、怪物だぁ!!? クソゥ!!? ゲリラ共め!? こんな怪物を飼ってやがったのかぁ!?』
『な、何だ!? この白い触手の怪物はぁ!!? こ、此処を取られたら!? 国境封鎖が!!?』
『ダメだぁ!? 逃げろぉ!!?』
『逃がすか!!? 退路を断って、包囲殲滅せよ!! 神殿の息が掛かったこいつらがいちゃ邪魔なんだよぉ!!!』
『(;一_一)(不可糸の芸術はロボだろうが、怪物だろうが創造可能という……先達蜘蛛達は本当にヤバいなぁという顔)』
同時に多くのゲリラが政府に通達したのは自分達の行動原理であり、攻めて来なければ、もしくは自分達の商売を邪魔しなければ、軍に対する攻撃は控える。
ただし、軍が攻撃を続行するならば、周辺基地を一斉攻撃し、制圧するという宣戦布告をブチかました。
これに強硬策に出た軍基地が実際に夜には何故か即時制圧されて、全ての軍人が全滅した事が翌日の一面ニュースになれば、政府と軍の関係は正しくガタガタだったのである。
『な、何だ!? この白い触手の怪物はぁ!!? 魔力を使う化け物かぁ!!?』
『こ、これがゲリラ共の切り札か!? ゴーレム全機!! こいつらを狩れぇええええ!!!?』
『だ、ダメだぁ!? こいつら再生するぞぉ!!? や、焼き払えぇええ!!?』
『何で燃えねぇんだよぉおおおおおおおお!!?』
『うわぁあああああああああああああああああああああああ!!!?』
こうして、遺憾な話の最中。
死体になった兵士達は次々に蜘蛛達によって同胞へと変えられて行き。
情報封鎖と電磁波妨害、光学偽装の三種盛りで襲われた軍事基地は次々に各国でゲリラ達の支配下へと入っていった。
そして、睨みを利かせる基地が機能を停止した事で大量の輸送トラックが各地のゲリラが領有する密林地域に流入。
『か、課長……奴ら、良い道路使ってますね』
『新品か? それに道幅で六車線? 馬鹿にしているな』
『はい?』
『この国の交通事情は酷いもんだ。これがゲリラの実力なら、オレは政府よりもゲリラを上に推すよ』
『マジですか?』
『これが密林から国境地帯まで延々と続いてるのはどうなっているんだかな。まるで奇跡じゃないか。だが、これなら……』
『課長!! 先行した人員から連絡です!! 確かに200トン近い食料が木箱に詰められて完全に包装済みで魔力によって保存されていると!!』
『連中、大昔の技術でも発掘したか?』
約束通りに大量の食糧が物資と物々交換で大陸全土に供給された。
これを不思議に思った者達は作物は盗まれたものではないかと疑ったものの。
その食料の大半が小麦ではない野菜や果物までも含んだ多種類の代物であった事で穀物卸売り企業を筆頭にした食品関連企業はその疑念を押し殺し。
『武器を渡すのはあの国の政府には心苦しいが……背に腹は代えられん』
『暴動で本社が焼かれるのを黙って見ているよりはマシでしょう』
『大陸各国の軍は文字通り、威信が地に落ちてるしな』
『治安出動の名目で後進国じゃ、首都防衛の為に軍を殆ど動員してるらしいですよ?』
『ゲリラにどうしてこんな力があるんだか……』
『取り合えず、葉物を各種類で100トン以上。武器弾薬をまた買い付けなきゃなりませんね。医薬品もあっちの指定したものが充足したら、しばらく要らないって言われましたし』
『このままじゃ、この国の軍需企業の殆どが闇取引でオレらからの注文で利益上げるようになるかもな……』
次々に急騰する食料価格を抑える為にゲリラ達との取引に踏み切った。
物々交換以外は受け取らないと譲らなかった彼らに対して、堂々と先進国から幾つかの輸出企業と商社を経由して大量の武器弾薬が流入。
これを止めようとした国境警備隊までもが行方不明になっていた事でたった1週間の内に大陸全土の食糧関連企業はゲリラとのパイプを持つに至ったのであった。
これを当然のように問題視した人々はいた。
だが、穀物倉庫からも穀倉地帯からも一切の食糧が消え失せた現状。
何故かゲリラが持っていた巨大な穀物供給力、食料生産力を背景とした物々交換に応じないという選択肢はそのまま食料を求めた都市暴動の多発によって、一気に国家が世紀末化する事を意味しており、彼らにそんな世界を生きる度胸は無かった。
金が使えない可能性がある以上は現物。
この言葉に納得出来ない要素も無かったので頑ななゲリラを説得する事は叶わなかったのである。
『(>_<)(なか~まも増えて、地下食料生産工場は日々拡大中~~という顔)』
『(@_@)(原資はちちから頂いた真菌で溶かした穀物類。まだまだ土壌栄養素を各地の穀物地帯から地下経由で収奪中という顔)』
『 ( ΦωΦ)σ(土地が痩せれば、食料価格が高騰する。高騰すれば、略奪が起きる。神殿への心象は最悪まで悪化中……ヨシ!!という顔』
『(´☆ω☆`)(先進国を軍事力で崩せなくても、後進国に食料で依存するようになれば、発言力も上がるし、影響力も保持出来る。こんなところで島の最新の力。陽光が要らない作物が火を噴くとかと武器満載のコンテナに目を光らせる顔)』
ゲリラ達が住まう密林の奥地どころかど真ん中の地下施設は次々に巨大な食料工場が蜘蛛達によって広げられており、その内部では穴掘り蜘蛛達が高速掘削した地下100m以下大深度を貫通する真菌網が構築され、各穀倉地帯や穀物倉庫から増殖しながら地下浸透して集合した巨大な黒いドロドロの道が大陸中央部の彼らのいる地下工場へと流れ込んでいる。
そこから土中に浸透し、次々に栄養素を与えた作物の多くは蜘蛛達が造っていた日の光が要らない爆華を作る過程で出来た複数の陽光要らずの作物。
この巨大な無明の地下工場では蜘蛛達の複眼から漏れる赤光だけがその広大さを教えていた。
『これで政府をぶっ潰せるぞ!! 酒だ酒だぁ!!』
『(・∀・)(これで大陸全土から軍事力を削減して弱体化が可能になったねという顔)』
『おう。蜘蛛さんよぉ!! アンタらも一杯どうだ!!? オレ達の勝利にぃ!! ははは』
『(T_T)(う~ん。このゲリラさんには平和の立役者として大陸の武器生産量を減らしてもらおうかなという顔)』
ゲリラ達は笑いの止まらない様子で増えていく武器弾薬と医療品の山にホクホク顔であった。
持つモノと持たざるモノ。
その境界を変動させ、ゲリラという隠れ蓑を使って経済活動を開始した蜘蛛達は莫大な軍需物資を手に入れ、それを背景とした政府転覆にゲリラ達を狩り立てつつ、実質的な支配領域を拡大し、制圧した軍事基地の物資を更に大陸外への輸出に割り振って資金を調達。
伝手が出来たバイヤー網を用いて、武器売買で大陸外へと武器をとにかく輸出しまくり、大量の資金と同時に大陸内の武器量をコントロールし始めた。
『マルカスさん。これはちょっと吹っ掛け過ぎじゃないかい?』
『イル中佐。今現在、武器の価格が高騰しており、正規軍用の装備は多少色が付いた程度では買い負けます』
『どういう事だい? 先月の1.4倍とか。明らかに高騰してるじゃないか。誰がそんなに買ってるってんだ。同盟軍が消えたってのに消費者がいないだろう……』
『それが今、食料関連の企業が武器を共同購入していまして』
『は?』
『今月だけでウチの重火器が弾薬と共に2万セット売れました。中古市場も高騰中です。ゴーレムすら、この数日で在庫分が全部捌けたとか』
『……は?』
そう、蜘蛛達の最終目標はエム大陸の武器生産量の制限と軍事力の弱体化。
宗教分離と宗教世俗化をセットにした神の力の削減。
これを一挙に行う為の食糧危機であり、超規模の武器生産を余儀なくされた軍事企業の多くは政府とのパイプが太い事から、ゲリラへの武器の横流しを止めるか廃業するかという選択肢に追い込まれるだろう。
武器が無ければ、食料が買えない。
武器を売れば、政府に睨まれて潰される。
甘い汁を吸いたい連中もいる。
こんな混沌とした状況でゲリラが正規軍を超える軍事力を手に入れれば、それこそ彼らは“意見を翻す”必要性に駆られるのだ。
そうなれば、武器売買の市場は大混乱。
価格は高騰し、各国の軍事力は全体的に低下せざるを得ない。
『此処で君達が消えても、君達の上司は何も言わないだろうねぇ』
『……買い負けているのは事実ですので。軍の方で政府に予算を請求して下さい。将軍。現在価格の相場で良ければ、しばらくは変動した際にも現時点の定価でお譲りしますよ?』
『チッ、業突張りの武器商人風情が……』
『生憎とこちらも商売でして。それにこれでも他より多少割安です。明日の価格は恐らく1.8倍まで急騰しているはずですよ』
ゲリラに武器を買い負けるなんて事態になれば、軍が黙っているはずも無い。
そうなれば、軍からの要請で軍需物資の生産企業を国が国営化するのも在り得る。
国営化された軍事企業はゲリラに武器を売らないから食料が供給されないというジレンマが政府を襲い。
矢面に立たされた者達は人々に石を投げられる事となる。
生憎と国土全域から穀物類が消えたせいで買い占めが多発。
食料備蓄は殆ど同盟軍向けで調整されて沿岸部で消えており、エム大陸内部の食糧事情は全体的に見ても、精々数日で飢餓状態が始まるレベルで深刻。
海産物も何故かこの数日不漁が続いており、多くの漁業関係者は首を傾げていたし、冷凍食品の在庫や冷蔵庫に入っている類の食糧の多くは生鮮食品と肉であり、穀物類程のカロリーは総量的に摂取出来ない。
ゲリラへの物々交換で武器をとにかく要求された食料卸売り各社はこの急激な武器価格の高騰で首が回らなくなるだろう。
ゲリラに値下げを頼んでも応じる事は無いのだ。
こうなれば、政財界に働き掛けて武器の増産と売買価格の統制に動くしかない。
此処で各分野の経済的な分断も生まれ、軍は軍需企業の国営化阻止に動く派閥とそれを抑える派閥で事実上は分断され始めていた。
生憎と他大陸からの武器の輸入は大陸の武器の暴騰に追い付くような早さでは無かった。
『どうして、国営化を発表出来ない!? あそこは国の資本が入っているんだぞ!? それに私は大臣だぞ!?』
『構いませんが、その場合、詰め腹を切るのは貴方ですよ。大臣』
『どういう事だね!?』
『ゲリラの流通網が完全に機能している上に進路上全ての軍事基地が落とされた現状。此処で武器の供給を止めれば、彼らは間違いなく兵器工場が集中する地域に進出し、市街戦になります』
『叩き返せばいいだろう!? 何の為にクソ高い対空迎撃用の装備とレーダーがあると思っている!? 市街戦の為に訓練した連隊はお飾りか何かなのかね!?』
『敵は市街戦や密林でのゲリラ戦に特化しており。溶け込んだ敵兵1人を殺すのに市民10人を巻き込むような戦闘になると予想されます。その場合、先進国側からの補給が止まるでしょう』
『正当化は可能だろう!! 奴らが悪いと喧伝すればいい!!』
『問題は失った軍部隊の一部が寝返っている事です』
『そ、それは……』
『二戦級の戦力でロクな情報は持っていないとはいえ、軍の内実のドクトリン及び複数の意思決定方法が漏洩している上、攻撃参加部隊の多くが戻っておりません』
『兵力が足りないと? 裏切者は処分するだけだろう!!』
『密林に燃焼剤入りの空爆が出来ず。榴弾砲の類も10km以上離れた地平の彼方からでなければ、すぐ破壊されております。敵の攻撃方法は不明。射爆用に使われている先進国製の高速精密誘導弾は一発の価格でかなりのものですし、射爆用の魔力アマルガム鋼材の電子榴弾砲も数が揃えられないのにバカスカと何処にあるかも分からない敵の拠点地域に撃っているだけで命数が減ります』
『だが、その―――』
『いいですか? 大臣……密林に高額な砲弾を放り込むのはゴミ箱に金を捨てているようなものです。密林を焼き払う方式の攻撃が出来なければ、意味はありません。偵察用のドローンが大量に編隊を組んで数百機から数千機単位投入されたのはご存じでしょう?』
『ぅ……あ、あれは……どうやって落とされたのかを今解析しているはずだ!!?』
『生憎と現物が一つも無く。映像や画像解析をしていますが、今のところ方法が不明です』
『く……ならどうしろと!?』
『出来る事はありません。ついでに言えば、食料供給が止まっていますが、ゲリラの支配する地域はそうではない。どうなると思います?』
『どうなると?!』
『私はまだ暴徒に石を投げられて死にたくありません、軍人から銃弾も御免です』
『暴徒など恐れるに足らず!! 軍の治安維持部隊が仕事をするだろう!!』
『軍の総数が3割近く減っているのを市民は知っています。首都防衛用の師団はともかく。戒厳令や軍による都市の制圧に狩り出された兵は飢えています。略奪を許可なされるのでなければ、確実に軍の徴用で市民が暴発します』
『ッ~~~軍が我々の制御を離れると!!?』
『市民を弾圧すれば、国外からの大量の非難声明と支援打ち切りが決定するでしょう。軍への非難で今存在する大抵の軍事用の電子装置の類も全て整備が不可能になる。我が国に高度技術で造られた代物を大規模に独自整備する人員も物資もありませんよ』
『ぐ……では、指を咥えて、黙って見ていろと?!』
『そもそも我が国の兵器保有量はそれほどに多くありません。連中が小銃程度で倒せるならば、問題ないでしょうが、国軍の数割を壊滅させるような相手に先進国製のゴーレムも無しに軍を動かしたら……』
『軍が離反する、か……クソゥ』
『そもそもゲリラ側の主張は軍の内外でも全うな部類として受け止められています。軍も殺されに外大陸に行きたい人間はいませんよ……幾ら神殿や神々の要請とはいえ……』
『どうすれば良いと言うのだ……何か策は。弾薬の補給すら儘ならんというのに……』
『……はい。ああ、貴方ですか? 何かお話が? はい。はい。本当ですか? それは助かります。分かりました。では、すぐ折り返しますので……少しお待ちを』
『ど、どうした?』
『大臣。辛うじてですが、武器弾薬の供給が出来そうです。大手の海外商社から新古品で良ければ、大陸外に輸出用として確保していた正規品を現在の市場価格の8割程の価格で卸しても良いと』
『渡りに船とはこの事か。直ちに契約して来てくれ。ゲリラ共を抑える兵力も徴兵せねば……』
『(この国も長くなさそうだな……)』
こうして高止まりした武器価格を背景にして得た武器そのものを軍や政府機関に商社経由で売り付ければ、巨額の資金が蜘蛛達の下に転がり込んで来るという寸法である。
原資は真菌で収奪した穀物の栄養であり、実質0なのだから、儲かる儲かる。
蜘蛛達は『ヾ(≧▽≦)ノ(わーい大金持ち~という顔)』をするだろうが、内実はそんな額では収まらない。
穀物価格と兵器価格のトレードが国家予算を直撃すれば、食料生産に掛かる資金に対して兵器はどうしても二の次になる。
いつの時代も飢えとは絶対的な国家破壊装置であり、武器ばかりに金を掛けては暴動で政権が沈むと誰もが理解していた。
結果として軍は資金的な弱体化を余儀なくされ、ゲリラに大敗北して信用が低下し、高騰する武器弾薬の補給に四苦八苦しながら、武器をゲリラの代理人である食料関連企業に買い負けて手に入れられなくなり、ゲリラの息が掛かったバイヤーから裏ルートで高騰中の物より多少安い値段で武器を買う事になったのだった。
『( ̄ー ̄)(大陸経済チョロイという顔)』
だが、絶対的に必要な穀物と大地の恵みを密かに略奪され、兵器価格という形で資金を奪われ、二重に国家から利益を得ている蜘蛛達は濡れ手に粟状態。
この資金を更に増やそうというのは合理的な判断だろう。
『(^ω^)(先進国の通貨をあるだけ買っちゃうという顔)』
『\(◎o◎)/(銭ゲバが多い国特有の法規制0レクイエムなレバレッジ1840倍!!! もってくれ!! オラの財布ぅうううう!!という顔)』
『(T_T)(これで下がったら追証でエライ事になるな。ま、実質ダメージは無いに等しいけどという顔)』
後進国の武器製造ラインなど貧弱過ぎて、すぐに生産量は頭打ちであり、武器の高騰から来る先進国から後進国への武器輸出で外貨が一気に不足する。
先進国内の商社を迂回して後進国側へ武器を流入させれば、それ以外何も買えない状態で国外産の雑貨や医療品が輸入不全で枯渇。
逆に先進国側は後進国からの外貨を求める圧力で猛烈な通貨高に見舞われ、為替は乱高下でビルから飛び降りる者も多数。
外貨準備?
ははは、勿論対外資産なんて後進国がまともに持ってるわけないよね?
え? 国債? 通貨発行? 紙屑に意味は無いんだよ?
それともインフレで市民感情をマッハで破壊したいの?
というのが、実情だ。
武器兵器類は高額というのが当たり前だし、高額兵器をメインに物々交換し続けるゲリラが居る限り、彼らの買う兵器の値段は天井知らずであっという間に外貨なんて底を尽くのは常識的な反応であった。
そこで絶対上がる先進国通貨を予めレバレッジ限界で複数人のゲリラ人員の名義で入って来た資金を全投入取引した蜘蛛達は為替で賭けに勝った。
『\(^o^)/(大勝利!! 大勝利!! という顔)』
『(^-^)(やったね同胞!! これで種銭が出来たよという顔)』
『(・∀・)(何か楽しくなってきたという顔)』
『(≧▽≦)(じゃ、また突っ込もっかという顔)』
レバレッジの限界規制が高い国程に怖ろしい金額で取引が行われ、その後に来る後進国からの外貨の求めに応じて吊り上がった先進国通貨の価格は一気に動き。
差額だけで中小国の国家予算を軽く凌ぐ金額を稼ぎ出した蜘蛛達はハイタッチしつつ、その金で更に乱高下する株式市場を操縦し始めた。
勿論、取引大手の金融企業は高額な税金を収めるように言うだろうが、法整備の穴まで学習済みの蜘蛛達は換金せずに様々な手段でマネーロンダリングを開始。
法整備が遅れた地域の仮想通貨に両替したり、別大陸の通貨に複数分けて闇市場で両替したり、資金を先進国の軍事企業に送り付けて、更に武器を購入し価格を吊り上げに走った。
蜘蛛達の目的は武器という武器を大陸から吐き出させて、その武器製造体制を破壊する事であり、その影で軍事企業を完全操縦する為に株式にも手を出している。
武器を買う顧客として超上客が莫大な資金をポンと出せば、経済合理性に従って、新しい顧客リストに載ったばかりの食料卸売り企業と競合するし、相手が買い負ける事すら有り得るだろう。
こうして軍需企業の株を乱高下させる事で経営を不安定化させるというところまで干渉は及んでいた。
ゲリラ側だけではなく、国外の武器商人を装った蜘蛛達からの注文で中古市場の武器価格すら暴騰。
穀物企業が連帯を組んでも中古新品問わず買い負けそうな状況に陥り、3週間も経たずに武器価格は限界突破したのだった。
2週間が経つ頃には市場から巻き上げた莫大な資金を必要経費以外は全て他大陸に潜入した蜘蛛達がスカウトした代理人名義で税金すら払わず高レートな先進国通貨にして送金。
出所不明の資金が大量にエム大陸と交易がある他大陸には流入する事となる。
勿論、他大陸で工作している蜘蛛達のおかげで金の流れが追えないように短期の株や証券、債権、不動産の形でマネーロンダリングが繰り返され、小分けにして様々な国の通貨にされた為、行方を追うのは不可能であった。
こうして蜘蛛達は今後の来る別大陸での活動資金を確保したのである。
『(≧◇≦)(これで他の大陸でも活動出来るよヤッタねという顔)』
『(; ・`д・´)(国家破綻させられたら空売りするんだけどなーという顔)』
『(^ω^)(一般市民にあんまり犠牲が出ないようにするのがお約束という顔)』
『(´・ω・`)(いや、昨日の一面で高層建築から大陸全体で3400人くらい飛んだらしいけど、と新聞をちゃんと見てる小市民系蜘蛛の顔)』
現在のエム大陸に蜘蛛達に敵う軍事力は後進国の国軍には存在しない。
ついでに人間を殺すのに糸一本すら要らないのが経済攻撃であり、顔が分からなければ、蜘蛛達は謎の超巨大資金を扱う機関投資家にしか見えないし、攻撃されようが無かった。
大陸各国は国力そのものである資本と食料……特にカロリーベースで見たら土地そのものを収奪されているに等しい状況を未だ理解し切れず。
新規の食糧生産がまったく追い付かないどころか。
次々に不作、不作、不作の農家の大合唱で食料品のインフレ率が天を衝く勢いで急上昇。
滅茶苦茶に吸い上げられ、活力を失った市場、人、組織は瀕して鈍する事となった。
しかし、それでも明確な敵が見えない限り、拳を振り上げようがない。
此処に来て蜘蛛達は戦闘や後方での生産に続けて、第三の領域での戦い。
つまり、政治経済を動かす手管を手に入れたのである。
『(^-^)/此処から一気にまくっていくぞーおーと言う顔』
『(-ω-)/(大規模食料生産の体制が一気に崩壊したら、立て直しに20年は掛かるだろうし、武器買う余裕なんて無くなるっしょという顔)』
『(-_-)(食い物か武器か。そんな時代の到来……武器を選んだ愚か者は最終的には劫火にくべられる事が決定したねという顔)』
『(T_T)(大規模農家さんには悪いけど、これ戦争なのよねという顔)』
ゲリラが食料生産という彼らにとっても必要な事業を担っているとすれば、安易に潰すという選択肢すら無いし、ゲリラの主張も共感はされていた。
つまり、パブリック・エネミーと呼ぶには公的な敵性存在としてゲリラは不適当の評価を受けた。
本質的に敵はゲリラの皮を被った蜘蛛達であり、実力行使でも潰せないのでは政権も軍部も進退窮まったと言うべきだろう。
生憎と大陸国家に残された殆どの戦力的上澄みは先日の島へ派遣した殴り込み用の艦隊に派遣されており、その吉報どころか、定時連絡も途絶えている有様なのだ。
言いたくはないが、生還は絶望的という言葉が先進国の脳裏にはチラ付いていたし、此処でゲリラと泥沼の戦争をしたい後進国でもないだろうと彼らにゲリラの声を聞けとか言い出す輩が現れても何ら不思議では無かった。
妥協しろと後進国の上層部は言われたのである。
『ク、クソゥ!? ゲリラ共めぇ!? 何でこの暗闇の中で赤外線吸収コートを着ている我らを認識出来るのだ!? ガッ!?』
『しょ、少尉殿!? そ、狙撃!? だが、音も無く魔力すら感じられない!!? 何だ!? 何に狙撃され―――』
『ぐ、軍曹!? クソゥ!? 丸見えか!? 逃げるぞ!? この密林は地獄だ!!? 偵察なんぞ来るんじゃなかっ―――』
『ひ、ひぃいぃぃぃぃ!?』
『撤退!! 撤退!! 撤退しろぉおおお!!』
『(・∀・)糸蜘蛛が樹木に化けてるから、入って来る連中はこっちから位置情報どころか、全部何もかも丸見えなんだよなぁーという顔』
もはや、エム大陸がまともな手段で蜘蛛達の策を回避する事は不可能であった。
密林で死ぬ確率がほぼ0%の蜘蛛達に出会えば、致死率は間違いなく100%なのだから、どうにもならない。
相手の武器がレーザーだろうが、パルスだろうが、最新鋭の小型VT弾頭による至近距離爆破が可能な銃弾や擲弾だろうが、焦土作戦用ゴーレムだろうが、結果は同じである。
糸蜘蛛で情報観測網を常時省魔力で展開し、攻撃は全て超高速で打ち出す投石と糸蜘蛛を使った土木作業による罠で軍隊など破壊可能。
撤退している部隊の退路には新しい罠が満載であり、脚を取られて狙撃、脚を切断、樹木に体を圧し潰されて逃走不能、落とし穴で生き埋め、密林用ゴーレムさんは泥沼に沈んどいて下さいね~と引きずり込んで窒息。
蜘蛛達のレパートリー豊富な殲滅方法に限界は無い。
更には糸蜘蛛を伸ばして密林外延部から数十km圏内ならば、20秒以上止まっていたら、敵を土中から霊力掌握で即座に内部構造を物理侵食し、ゴーレムも破壊する。
なんて芸当までも彼らはやり始めていた。
『ば、馬鹿な!? 何故だホワイトローク!? 何故、動かん!!?』
『ゴ、ゴーレムが動かない!? 何だ!? システムには何の異常も無いんだぞ!?』
『部品が故障!? この自動診断システム壊れてんじゃねぇのか!?』
『あ? 何で武器のロックが解除されて、ポ、ポットをパージしろぉおおおおおおお!?』
『(/・ω・)/(たーまやーという顔)』
『『『『『―――!!?』』』』』
密林を焼き払おうとしたゴーレム部隊が霊力掌握による物質制御で内部構造を侵食され、最終的に弾頭の入ったポットや諸々の重火器を起爆させられた時、彼らを殺す方法はほぼ消えたのである。
空爆しようと飛来したゴーレムや爆撃機、無人機の類であるドローンも謎の光によって撃墜される事例も相次いでいた為、事実上は密林を攻略出来ない全ての後進国軍隊は敗北を喫した。
『あ、悪夢だ……これは悪夢だ……夢だ……わ、私はきっとまだ学生の頃のままで、起きたら夏休みの宿題に一喜一憂して………昼には果実でも……う、ぅぅぅ……』
『(だから、戦力をこれ以上投入するなと言ったのに……現実逃避激し過ぎだろ。というか、誰だこいつを政治家にしたの……)』
『は、ははは……帰らなければ、家に帰らないと……は、はは……』
『(もうどうにもならねぇんだよ。ボケカス……お前の要らない賭けで虎の子の兵器類が殆ど消えたんだからな……)』
地表からも空からも密林が焼けないのならば、ゲリラ戦の真骨頂である罠満載の白兵戦で敵と戦うしかないが、そんなの後進国でも先進国でも絶望である。
イゼクスの息吹を収束した呪具。
本来はウルが使っている兵装を再現した彼らが近接してくる誘導弾や空飛ぶ爆撃機やゴーレム、無人機を撃墜する事など赤子の手を捻るより簡単な話。
一番密林に侵攻した軍隊にとって致命的だったのは霊力などを用いる運用体系がエル大陸や島以外にはほぼ存在しない。
つまり、技術的に消滅している事であった。
『魔力の異常を感知出来ず』
『魔力以外にこんな不可思議な方法が出来るものか?』
『ですが、観測装置に引っ掛かりませんし、どうにも……』
一応、そういう事に詳しい専門家や感じる能力がある存在はいたのだが、転生が問題となって神々の大戦が起こった後。
その転生を破棄する為に奮闘した神々は魂を扱う術を全て破棄するか禁術として弾圧させた経緯があり、まったく理解は進んでいなかった。
結果として、霊力関連の呪紋に対抗する術が彼らには全くなかったのだ。
そして、蜘蛛達が省力化のスペシャリストだった事も致命的だっただろう。
不可糸から始まり、糸蜘蛛を用いて、呪紋を延伸する方法が確立された昨今。
遠隔で呪紋を用いる彼らは姿を見せずに相手を制圧する方法に長けまくっていた。
本体を攻撃出来ない相手に一方的な攻撃を的確に行えれば、負ける要素が無い。
銃弾一発すら蜘蛛達には必要無いのだ。
糸蜘蛛は超省魔力で動く上に必要な魔力は集まって魔力を出し合う事である程度の大きさの攻撃も可能となれば、呪紋の延伸距離は飛躍的に伸びる。
元々はバラジモールやフェクラールでの観測蜘蛛達の技術が全体的に取り入れられた結果だ。
観測情報からの誘導に従って蜘蛛脚で適当な投擲物を剛速球すれば、音も無く音速以上で相手を貫くのだから、これを軍人達が知れば、石と銃弾の差額だけで変な笑いが出る事だろう。
幾ら高度な兵器がある世界だからと言って、それを大量に揃えられるのは一握り。
そして、そんな資金が今の後進国にあるわけもなく。
虎の子の武器や戦力が次々に鹵獲、撃破されていては前線に出せるのは精鋭ではなく、明らかに二流三流の消耗可能な人材からとなっていく。
『軍はオレらを捨て駒にする気だ……クソゥ!?』
『ゴーレムがいきなり爆散したぞ!? もうダメだぁ!? お終いだぁ!?』
『【こちらは反政府同盟!! 軍の偵察部隊に告げる!! 君達はこれから死ぬ!! だが、もしも、軍の内情を教えてくれるのならば、同胞として遇そう!! 我らは決して人情味が無い殺人鬼ではない!! 今の政権を打倒するのを手伝ってくれるならば、現物で良ければ、食料や医薬品も君達の家族や親族に提供しよう】』
『……白旗。持ってったっけ?』
『シャツでも括り付けましょう……』
『う、裏切る気かぁ!? 貴様ら!!?』
『隊長殿。もう負けていますよ。捕虜になった方が幾分マシです』
『う……くぅ……此処までか』
『白旗だ!! とにかく白旗を上げろ!!』
戦場で彼らが軍に商社経由で売り付けた銃口を供給元である当人達に向けているのは滑稽を通り越して喜劇であった。
軍人達と政府はいつの間にか民草から恨まれ、武器を敵であるゲリラから買わされ、その日の食糧をゲリラから供給されて戦うオカシな構図に付き合わされており、意識の高い精鋭以外の部隊の多くはゲリラに投降し、敵だった者達の戦力として組み込まれていった。
こうして経済の搾取構造を構築し、武器の大規模な転売で利益を出した後は簡単な行動で後進国家を戦闘不能に出来る。
『(・ω・)(後、3週間くらいしたら、全滅させた軍の武器をまた売りつけよーという顔)』
彼らが倒した軍から武器を現地で回収して、次々に敵である政府や軍に別の仮面を被って売り付ける。
この先に待つのは資金力の限界で中古武器しか使えなくなった軍の機能不全か。
もしくはゲリラを絶対殺すという決意の下による圧倒的な軍事費の増額による経済破綻であり、軍部のゲリラへの敗北を含めて全て悪夢の類に違いなかった。
誰だって、今日100円のものが明日200円になるのならば、売りたくないのは当たり前だろう。
バブル化した武器市場から武器を調達するのは何処も困難になっていたし、売る側も高値でなければ売り渋りが大発生していたのだ。
大陸の国家は正しく軍事費と経済の混乱で必要になった対策費で予算を圧迫され、経済そのものをまともに立て直すには時間が掛かる。
または沈む船と化す。
国債発行など無駄無駄と言わんばかりに国家財政を圧迫する策はまだまだ経済系蜘蛛達が用意しており、あちこちの後進国の地方自治体では経済機能を麻痺させるべく準備が進んでいた。
『(・∀・)(略奪が起きまくりの地域の全銀行で数字の桁が大量に間違った情報ばかり出まくるとかウケルーと出鱈目な数字を糸蜘蛛にキーボードで入力させる顔)』
『\(^o^)/(年金受給額が今月だけ全員2333%上昇しちゃうなんて、何て良い国家なんだと受給日初日に省庁の年金会計システムをあちこちで物理的に地下から霊力掌握で改竄してる顔)』
『(>_<)(魔力や霊力で掌握可能なシステム使ってる方が悪いよ~~と国営企業の隠し帳簿の裏金管理データを滅茶苦茶にして弄ぶ顔)』
『(/・ω・)/(権力者の未公開資産が何故かあっという間に情報網の掲示板に大量公開されてしまうなんて、素晴らしい先進公開制度ですねとアップロードする顔)』
『(◎_◎;)(化学プラントと電力プラントが原因不明のシステムダウンで1年以上も止まっちゃうなんてついてないですね~と糸蜘蛛で構造に万単位の細工をする顔)』
こうして進退窮まった後、最後に集めた武器を市場へ一斉放出させて価格を大暴落させれば、軍事企業の殆どは中古転売している企業も含めて壊滅的な被害を受けて立て直しに十年以上、もしくは簡単に潰れるだろう。
それを回避してくれる体力のある政府はその時には存在しない。
無論、彼らに集まった資金の多くを蜘蛛達がそのままにしておく事も無い。
『アレ? 社長、我が社が今世紀最大に儲かってるって時に何トイレで端末弄ってるんですか?』
『(~o~)(今日は眠くてという顔)』
『そ、そうですか。確かに近頃寝る暇もありませんもんね。あ、もしかして、それって……』
『(-_-)(ほらよと年間純利益250倍くらいの借金で設備投資した新規工場30棟の受注完了書類を見せびらかしてみる顔)』
『お、おぉ!? 銀行が貸してくれたんですか? スゴイっすね。アレ? でも、こんな設備関連の会社ありましたっけ?』
『(T_T)(実は新規に上場した企業なんだよ(大嘘)と蜘蛛達がゲリラ経由で作ったダミーのペーパーカンパニーに意図的に詐欺られる顔)』
『ウチみたいな弱小でも儲かるんだ。他の大手さんはもっとド派手に設備投資するらしいですし、オレらの会社今来てますよ~。ふふ、ボーナスも愉しみだなぁ♪ じゃ、オレはこれから中古品の納品に行ってきます』
『(=_=)(また、未来ある若者の人生を潰してしまったという顔した気もするが、兵器関連の企業に務める死の商人に同情する理由は無いなと思い改める顔)』
あらゆる軍事関連の設備投資が負債として残り、回収し切れる訳も無い。
今、武器を買い上げているのは間接的には蜘蛛達であり、その蜘蛛達が武器を必要としなくなれば、人為的に作られた武器バブルは簡単に弾け飛ぶだろう。
だが、盲目的に上がり続ける武器価格を前にして人の欲望に際限は無く。
人社会に潜入した蜘蛛達が不可糸による人間偽装形態で会社の重役に成り済まし、猛烈な設備投資を絶対に返し切れない額で借金して成約したら、これはもう経済犯罪であった。
勿論、成り済ました蜘蛛達が自分達の操る企業へと借金までして契約という形で送金するので、武器製造企業にはぺんぺん草すら残らない。
ちなみに入れ替わられた人々の内、良心的な層はしばらく昏睡してから見つかるし、悪どい人格の者は蜘蛛にされて元当人たる蜘蛛が自分を演じたりもしていた。
勿論、大陸外から来る武器の輸出入で市場が操縦出来なくなるのを懸念して、そういう船を秘密裏に撃沈するのも予定に入れており、後は仕掛けを御覧じろ状態。
こうして最後に残された無価値な武器を彼らが市場から超絶激安で買い叩き。
破綻寸前の企業や破産した企業が持っている施設や設備、在庫を国から巻き上げた資金で買い取りすれば、武器の生産ノウハウと技術力が消えて軍事力の増強が不可能になったエム大陸だけが残るという寸法である。
『(´・ω・)(これぞ蜘蛛的大陸陥落術という顔)』
蜘蛛達による戦略経済攻撃は正しく芸術的な域に達しており、国家公務員もお手上げであった。
例え、主戦場が後進国であろうと先進国が被害を受けないわけではない。
引きずられるようにして間もなく大陸全土が脱出不能の超絶氷河期大不況へ沈む事になるだろう。
それを立て直すはずの公務員たちが給料振り込み0になった挙句、システム復旧に半年掛かるとか言われて、それでも国家に尽くすのかどうかは定かではない。
もはや後は時間が経つのを待つばかり。
高度な技術力も資本、資金が無ければ、途絶えるしかないという事を理解する蜘蛛達の密かな大陸攻撃はこうして誰にも知られず、ひっそりと島に仇なす可能性を刈り取っていくのだった。