流刑貴族の追放記-極獄と呼ばれた果ての地にて-   作:Anacletus

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第87話「暮れなずむノクロシアⅥ」

 

 蜘蛛達が新たなる仲間達と共に新人類とやらに戦争を教育して、自分達の訓練に使って偽英雄を仕立てている頃。

 

 フェクラールでは猛烈な勢いで進軍する王群の次波が水際で食い止められていた。

 

 先日の山脈落下事件で崩壊した聖域との間にある巨大な岩壁の境界が幾つか崩壊し、東部側のあちこちで蜘蛛達によって要塞化と敵の狩場が整備された。

 

 だが、1時間で1万弱と流れて来る敵軍の殲滅速度は間に合っていたが、あっという間に周囲では蟲肉や焼き滅ぼした蟲の灰が溢れ始めており、今は近隣の黒蜘蛛の巣を形成している真菌による取り込みで処理し、栄養素として蟲達の残骸は再利用されていた。

 

「(´・∀・`)(蟲灰に蟲肉を補給した肉畑で今日もお肉が旨いという顔)」

 

「(◎o◎)/(こいつらのタンパク質を分解した諸々の栄養素がやたら多いからなという顔)」

 

「(●´ω`●)(野菜も良い味出てるよね~という顔)」

 

「(=_=)(まぁ、亜人達は知らないフリしてても内心ドン引きだけどねという顔)」

 

 蟲は栄養価の高い食材であり、高アレルゲン物質を持っている以外は寄生虫さえなければ、それなりに食えるというのが自然界での事実だ。

 

 喰っている動物は多いし、毒を持っている蟲も多い。

 

 しかし、少年から分かたれた真菌は次々に溢れて来る“食事”を増殖に回すだけではなく。

 

 巨大な天井の岩盤を覆う為の栄養として大規模に吸収していた。

 

 ここ数日、昼夜なく増加し続けている王群の突撃は日中は山脈の上部に展開された光を通す糸を用いた熱で発電設備を稼働し、その電力で狩場の施設を動かし対処していたが、それにしても減る様子が一向に無く。

 

 施設の稼働を一端止めて点検し、整備する為にも聖域側へ蟲達を押し戻す事が必須とされていた。

 

「良いだろう!! その王群とやらをこの教会騎士派閥が押し戻すと請け負おう」

 

「お~~さすがわれらのたいちょーだ!!?」

 

「たいちょーすごーい!!?」

 

「ふふふ、何かまた新しい種族の部下が増えたからな。奴らにもこの教会騎士の偉大さを教えてやらねばな。くっくっくっ」

 

 悪い顔になるのは教会騎士派閥のトップであるたいちょーであった。

 

 その横では何で自分までという顔のへんきょーはくがいる。

 

「それにしても、新人類だと? 遂に人間共も旧き者として追いやられる立場になったか。まぁ、連中やたら反抗的で訓練する甲斐があるし、あの能力はそれなりに役立っているが……」

 

 へんきょーはくが自分達のところに数千人程やって来た新しい幼女達からの調書の束をペラペラと捲って確認する。

 

 殺し間の後ろにある要塞の一区画。

 

 珍しく戦闘に出される事になった二人は互いの部下を数名連れて来ており、周囲では蜘蛛達がウルと二人の専用機である【ビーメ】の最終点検をしていた。

 

 ウルは後詰である。

 

 その背後では隊長機であるビーメの量産版である【キメラ】が万端で数体置かれており、点検終了の札が掛かっていた。

 

 ビーメはシュヴァリアのような竜甲冑ではあるのだが、造形がやたら細かく。

 

 ディティールで見てもパーツ単位で他の機体とはまるで違う関節構造や特注の部品が使われているのが分かるだろう。

 

 その簡易版であるキメラの多くは何処か量産性を感じさせるパーツの簡易化と大型化が見て取れる為、たいちょー達が乗っているビーメが如何に普通ではないかが際立っていた。

 

「で? 貴様の部下共はキメラとやらに載れるのか? 訓練とは違って、30分では話にならんぞ? 我らは呪紋処理の中枢としてやたら疲れないように体を保護され、長期連続搭乗可能になったが……」

 

「クックック」

 

 ニヤリとしたたいちょーの自信満々な様子に首を傾げたへんきょーはくだったが、蜘蛛達が何やら大きな黒い鋼のような背骨染みた何かを持ってくる。

 

「?」

 

 ヴァルハイル産幼女達が首を傾げていると彼らの前で教会騎士幼女達が専用の生体モルドであるスーツ姿で背筋にその背骨っぽいパーツをくっ付けた。

 

 途端にそのパーツ内部に僅か光っていた魔力の液体のようなものが急激にシューという音と共に幼女達に注入された様子であった。

 

 バクンッとそんな心臓の音をヴァルハイルの多くは幻聴として聞いた。

 

「!?」

 

 グムグムと彼らの前で教会騎士幼女達の姿が大きくなっていく。

 

 ついでに背中の背骨のようなパーツが一体化するように沈み込んで生体モルドの色合いが灰色から白く変質した。

 

 それは先日少年が己の力としたプラチナルが集積している表層であった。

 

 背骨パーツが開き、内部からドシュリと数本の円筒形の透明な薬液補填用のパーツが射出されて床に転がり、蜘蛛達が新しいものを背骨部分に詰め替える。

 

「な、何だ。ソレはぁああああああ!!?」

 

 ニヤニヤと教会騎士(少女)達が愕然とするヴァルハイル産幼女達に勝ち誇った顔となる。

 

「驚いたか? エル・アーカとか言うヤツが設計した我らの年齢を一時的に上げる機構だ。このビーメやキメラに載っている限り、我らはこの背骨っぽいのを装着すると何と10代の体に、成れて!! しまうの!! だぁああああああああああ!!!?」

 

 たいちょーが全身を使って歓びを爆発させた。

 

 そのあまりの上からの見下ろしっぷりに『Σ(・□・)』という顔のヴァルハイル産幼女達が愕然とする。

 

「わ、我らには無いのか!? 我らにはぁあああ!!?」

 

 思わずへんきょーはくが蜘蛛達の体を掴んで揺さぶる。

 

「(=_=)(あ、これ体動かさないし、呪紋処理中枢として手厚く保護されてるヴァルハイルには要らない装備なんでという顔)」

 

「そ、そんにゃぁぁあああああ!?」

 

「くっくっくっ!!! ふぅぅぅぅうはははははは!!! 機体の管理をする貴様らともしもの時は外に出て活動もする我らでは役割が違うのだぁあああああああ!!」

 

「ぐ、ぐぞぉおおおおお!!?」

 

「(´・ω・`)(そろそろ乗って欲しいんだけどなぁという顔)」

 

 こうして敗北感に打ちひしがれたヴァルハイル産幼女達が次々に生体モルドを着込んだままに操縦席の後方に両手両足を接続する形でシートに収まり、その前に10代まで年齢の上がった教会騎士達がやたら押し込むボタンが付いた操縦桿を握って下半身を埋めるようにして機体に乗り込む。

 

「これより掃除に出る。いいな? へんきょーはく」

 

「うぅぅぅぅ、後であのメガネに抗議してやるぅぅぅ」

 

「はいはい。仕事仕事♪」

 

 こうして二人三脚で機体を動かす18名の教会騎士とヴァルハイル兵のタッグチームは悔しさはそれとして、お仕事に掛かる時には仕事人の顔になっていた。

 

「ビーメ。出るぞ!! 教会騎士の剣技を見せてやる。ふふふふ」

 

「(^o^)/(はっしん、どーぞという顔)」

 

 蜘蛛の1人が旗を振った。

 

 それと同時にビーメが上空にすっ飛んでいく。

 

「ちょ、ちょぉおおおおおおおおお!!? 飛び過ぎ!? 飛び過ぎぃ!!?」

 

 思わずたいちょーが叫ぶ間にも部下のキメラも同じく瞬時に上空へと舞い上がってしまい。

 

 一瞬で300m近く上空に舞い上がった事で初めて空を飛ぶ教会騎士達は目を回しそうになりながら、何とか姿勢を安定させるよう後ろの幼女達に叫んでいた。

 

「何のつもりだ!? 普通に歩けんのか!?」

 

「ち、違う!? こ、こいつがやたら過敏に反応するのだ!? 前はこんな事無かっただろう!? というか、この出力は何なのだ!? どうして、この質量のものが一瞬で此処まで跳ぶ!? いや、跳躍なのかそもそも!!?」

 

 他のヴァルハイル産幼女達も機体がやたら過敏に反応するわ。

 

 ついでのように出力制御だけで何かやたら脳裏の処理を喰われて、顔を顰めて慣れようと意識を集中する。

 

「オイ!? どういう事だ? 蜘蛛共!!?」

 

 唯一、機体を真っ先に安定させて、虚空で静止させたへんきょーはくが通信用の呪紋が繋がってる蜘蛛達に抗議する。

 

 すると、彼の脳裏には蜘蛛達が幾つかの情報を出してきた。

 

「な、何? こ、これは……先日までの馴らし運転はシュヴァリア基準で本来の出力と機能がコレ? それに虚空に静止しているのは何の呪紋だ? 我はまだ使っていないぞ? 我が愛機の力とも違う。一体……ッ」

 

 詳しい仕様書を初めてへんきょーはくが脳裏で参照し、顔を引き攣らせる。

 

「コ、コイツ……は、ふはは……ご主人様め……そういう事か……」

 

 へんきょーはくの顔が僅かに青くなる。

 

「オイ。どういう事だ!? 何を笑っている!!?」

 

「良いか。たいちょー……貴様の乗っているコレは人工の使徒。いや、能力だけで言えば、受肉神のようなものだ」

 

「はぁ?!」

 

 思わずたいちょーが目を見開く。

 

「ご主人様とあのメガネが造っていたものは今まで倒してきた神や諸々の技術を統合した代物。そして、意志の無い受肉神染みたものを創るに至ったようだ」

 

「これが神だと?!」

 

「そうだ。今まで倒してきた神々の肉片を培養した内部の柔軟な関節や筋肉代わりの駆動部のパーツ。外側の鎧はヴァルハイルの技術の精粋たるドラクのものを流用。内部の神の血肉の調整、駆動は思紋機関によって自動化。魂の代わりに緋霊の霊力を充填。受肉神の魂の代わりに魔力を生み出す大本の燃料として爆華と霊薬と秘薬を混合した液体を血として活力とする」

 

「な―――」

 

「付加されている能力は恐らく今後の対受肉神用として我らが神カルトレルムのもの……四卿から奪った力を呪具化し、各パーツとして接続……」

 

 思わずたいちょーが何も言えず口をパクパクさせた。

 

「神の血肉そのものは力を枯渇させない。一定量が集まっている限りは腐りもしない。つまり、事実上は無限に駆動する。能力を用いる為に必要な活力を外部から充填するのに秘薬や霊薬、爆華の混合液が必要なようだが、それ以外の基本的な低速での浮遊や飛行、運動の類は纏まった質量さえあれば、消耗しないという事だ」

 

「な、何だソレは……それではまるで……」

 

 その時、たいちょーの脳裏に在ったのは教会が生み出す対受肉神用の人造神の姿だった。

 

 伝承の中では巨大な姿で描かれる神の遺骸を用いた切り札は教会の敵の一切を滅ぼしたと伝わっている。

 

「敵が不死殺しもしくは我らのいる胸部中央外殻を突破する攻撃で即死させなければ、まぁ……ほぼ負けないだろう。無論、本当の神相手ならば、的の大きいアブナイ玩具くらいのものだろうがな……」

 

「そんなものをご主人様は……」

 

「並みの受肉神相手ならば、数を集めれば、討伐も可能だろう。数が限られているのも理解出来る。これを創るのには随分と特殊な機材が必要だ。生産性よりも性能を度外視して与えているのではな……」

 

「つまり、今後の竜神殺しにご主人様は我々を……」

 

「その可能性が高い。竜を箱に詰めた時から、神の恩寵など無いと思っていたが、遂に己の神と戦う事になるとは……まぁ、その前に一仕事といこう」

 

 そのへんきょーはくの声に難とか機体を安定させたヴァルハイル産幼女達が自分達がもう戻れないところまで来ている事を改めて悟った。

 

「共に生きねば、これから先は死地に無手で向かうようなもの。残念ではあるが、どうやら貴様らの手が必要なようだ。ヴァルハイルの残された民の未来も貴様らの未来も我らの手に掛かっていると知れ……」

 

「む、むぅ……いいだろう。全隊傾聴!! これより我らはニアステラとフェクラール。第二の故郷となった我らの家を護る為、過去の柵を叩いて砕く!! いいか!! 我らは盾にして剣!! 背後の民草を護りしは騎士の宿命である!! それが例え、嘗て敵であった者達だろうとも!!」

 

 たいちょーの声はよく教会騎士達の耳に響いた。

 

 その光景を映像として見ていた教会騎士達も多い。

 

「……そうか。たいちょー……ようやく、アンタは……」

 

 ベスティンが蜘蛛達に見せて貰っている遠方の映像を前にして剣を硬く握った。

 

「今日の敵も明日の味方も我らは戦いの後に振り返って認めるしかないのだ!! その轍に大切なものが巻き込まれぬよう、まだ後ろに誰かがいると願って……全隊行動開始!! 目標王群主戦力!! 一時、聖域外延までの進出を許可する!! また、ご主人様からの情報にあった敵軍を産む生物排出型呪具を認めた場合、速やかに破壊せよ!! 行くぞ!!」

 

『ぉおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!』

 

 鬨の声を上げたキメラに載る教会騎士達が背後のヴァルハイルの支援を受けながらビーメに追従して高速飛翔へと入る。

 

 一瞬、東部岸壁の上空で違和感に襲われた彼らは聖域外延と彼らの護る地域が空間的に本来は陸続きではない事を本能的に理解する。

 

 しかし、一瞬後に見えた光景は彼らの度肝を抜けど、その感情を呼び起こしもする決意の要因ともなった。

 

 荒れた荒野と岩山を這う無限にも思える巨大な濁流。

 

 無数の蟲達が全てを埋め尽くす眼下は正しく蟲の地獄。

 

 節足動物が無数の脚で奏でる靴音。

 

 海の頭足類にも似た奇妙な生々しい蟲の叫び声。

 

 殻を持つ昆虫達がぶつかり犇めき合う打楽器の如き打撃音

 

 赤く光る無数の複眼が零した輝きがまだ日が沈まぬというのに世界を照らし出す。

 

 それは正しく見知らぬ生物、蟲と言うだけには留まらない不可思議な形をした生き物達の濁流に違いなかった。

 

「全機、横列陣形!! 距離を取り、地表の蟲達を範囲攻撃で駆逐する!!」

 

 キメラ達が猛烈な速度で音速を遥かに超えて散開し、二十秒程で遠方へと横列展開を完了する。

 

「侵食溶解雲散布機構【紫雲】起動!!」

 

 操縦桿に着いたボタンの一つが薬指で押し込まれた。

 

 ビーメを中心として横に10kmずつで展開した機体関節部から僅かに滲んだ水滴のようなものが機体表面から離れて落下し、数秒後。

 

「これが……カルトレルムの力か……」

 

 たいちょーが呟く間にも猛烈な勢いで膨れ上がり、紫色の雲河となって数百m眼下に向かって溢れ出し、落ちていく。

 

 その莫大な色付きの煙がゆっくりと地表で拡散していく。

 

 すると瞬時にその効果が表れた。

 

―――!!?

 

 どんなに薄い色合いにまで減んじても、その雲を吸って触れた蟲達や大陸では見ないようなおかしな形の生物がゆっくりと液状に溶けて地表にまるで沼の如く溢れ出し、その液体に触れた蟲達も同じく溶けながら沈んでいく。

 

 時速40km程でたいちょー達が上空を前進していくと少なからず彼らの通った地域は紫色の絵具で塗りたくったような沼地となって、生物も無機物も無く。

 

 山すらも溶かして呑み込んでいく。

 

 岩山だったあちこちから沼地が溢れ濁流と化し。

 

 雲が落ちて来るのを蟲達の多くは見ている事しか出来ず。

 

 何とか上空に上がろうと飛翔した蟲の多くも飛び続ける事が出来ず。

 

 着地する前に雲に突っ込んで溶けて液体として地面に墜ちた。

 

「―――これがビーメとキメラの……」

 

 ゴクリと唾を飲み込んだたいちょーである。

 

 だが、それでも見る限り、一面の蟲の海が僅かに紫色に染まった程度。

 

「各機散会!! これより周辺を掃討する!! 再生も復活も卵による新たな個体の生産も許すな!! 全機増速!!」

 

 こうして放射状に広がっていく機影が通り過ぎた領域という領域が沼地と化し、蟲達を沈めて生きる者無き毒沼が何もかもを飲み込んでいった。

 

 それでも凡そ二時間半の出動によって、彼らはニアステラとフェクラール両領域に繋がる殆どの外延部の東部全域から無数の蟲の命を刈り取り、一応の戦果を得て、後ろのヴァルハイル達が疲弊しているのを感じ帰投した。

 

 こんなの本当に危ない蟲の大群くらいにしか使えないだろうと内心で思った者達は多い。

 

 少なくとも同じ人型で知性のある存在には向けたい類の能力では無かった。

 

 しかし、それでも神は容易には殺せないと知るたいちょーとへんきょーはくはこんな機体を量産してすら、まだ敵を叩くには足りないだろうと確信していた。

 

「まだ、能力の大半も使わずに帰る事になるとは……我ながら鍛え方が足りん、な……」

 

 気を失ったへんきょーはくをたいちょーが見やり、蜘蛛達が機体の洗浄作業と同時に担架を持ってくるのを内壁に映される映像に見やる。

 

「……しばらく、眠っていろ。後は我らがやる……ルートレット」

 

 初めて、そう生涯のライバルの名を呼んだたいちょーはしばし、少年の事を思う。

 

「お早く……我らの力で対処出来ぬものが来ない内に……ご主人様……」

 

 こうして、シュバリアとは一線を画する少年の近衛隊として初めて投入された神の似姿達は140km四方の聖域外延部を完全なる沼地へと変えて、約8兆匹の巨大昆虫及び劇物を生産する小型昆虫、寄生虫達を絶滅させたのだった。

 

 その沼地が無力化されるのはいつの事になるのか。

 

 まだ、誰も知らないままに。

 

 そして、その世界を溶かす所業に崩れ落ちる者が聖域の使徒には一人。

 

『ば、馬鹿な……地中のハンプティ・ダンプティまで全て……これじゃ戦力は半数までも……くッ、ニアステラ!! フェクラール!!?』

 

 紅のダニの群れに覆われている何者か。

 

 メクトスと呼ばれた救世神の下僕の1人は己が生産した卵の巣と多くの蟲達が液体に還った様子に愕然とし、茫然とその沼地となった外延部の一角を見つめる事しか出来なかった。

 

 やがて、そのダニの下からはクツクツと狂気に呑まれたような嗤い声が零れ始め。

 

 やがて、絶叫が他者のいない岩山の間を抜けていった。

 

 *

 

 各地域間の時間差の最中。

 

 その現状が動き始めた事で外界からの直接の入り口となったニブルヘイムは新人類アークの戦略的な敗北によって、その本来の機能の多くを発揮する機会を失っていた。

 

 しかし、その端的なまでにシンプルな神々の力によって建造された庭の一部機能は各大陸からの戦力の呼び水として威力を有し、外大陸からの侵入を可能としていた。

 

 今までは神々が己の力の何割かを割いて無理やりに島へとねじ込んでいた戦力が自前で楽に来られるようになったのだ。

 

 禁域に違いない鬼難島は観光名所並みに誰かや何かが流入し始めている。

 

 故にこそ王家連合の生き残りを引き攣れた巨大な客船から怖ろしき棺が直接的に教会の本拠地に送られる事もあるし、自分達の元へとやってきた敵の元々いた場所に向かう事も可能となったのは正しく自業自得と言うべきだろう。

 

 ヘルメースが頻繁にアークのいる大陸と島を行き来している頃。

 

 冥領においても蜘蛛達は自分達の努力の成果として、先日襲って来た悪魔の残骸から拾い上げた能力を解析し、複数の計画を立案していた。

 

 外界への脱出計画の一つとして一度でも繋がった大陸への瞬間転移が画策されたのだ。

 

 巨大な陸橋街は今日も活況であったが、蜘蛛達の瞳はその中央に向いている。

 

 陸橋街のメインストリートで開いた別大陸への空間的な歪は現在も僅か残り、冥領で討伐された神樹のいた領域への探索も兼ねた空間転移計画によって、調査に向かう人員が選定され、ウルの粒体を連れたスピィリアが一人、外大陸へと向かう事になっていた。

 

 正しく初めて宇宙に飛ばされる動物みたいな有様でモコモコに呪具満載のスーツに着ぶくれており、まるで宇宙飛行士のようだ。

 

 見物蜘蛛達が見守る中。

 

「(>_<)/(いってきまーすという顔)」

 

「\(^o^)/(いってらっしゃーいという顔)」をした数万体の蜘蛛達。

 

 という構図で瞬時に彼は別大陸へと跳んだ。

 

「……(・∀・)?」

 

 呪紋式の転移は一瞬で終わる代物だ。

 

 彼が転移で出たのは何処か古びれた巨大な神殿だった。

 

 石製の100m近い柱が縦列する最も奥にあった石製の舞台らしき場所の上にやって来てキョロキョロしてみれば、その蜘蛛の周囲に猛烈な速度でやってくる複数の強大な魔力を持った群れが多数接近し、何故か互いにバカスカ攻撃し合いながら数を減らして自滅していた。

 

「(T_T)?」

 

 さすがに良く分からんという顔になった蜘蛛が数分待っていると。

 

 何かやたら重症の魔力も減ってフラフラな者達が20名程、その舞台のところまでやってくる。

 

 ついでに何かを喋るより先にバッタリと誰もが倒れ伏した。

 

 最後の最後まで互いを消そうと躍起になっていた者達は結局、戦力が拮抗していたらしく。

 

 人型から獣型から蟲型から亜人方まで種類豊富ながらも、そのままだとすぐに単一の亡者というカテゴリになるだろう。

 

 蜘蛛の傍で昏倒中の誰もが一人で倒すには骨が折れそうな相手なのは一目見れば分かった当人ならぬ当蜘蛛は自分が目当ての者達が起き上がる前に次々に糸で彼らの傷を縫い上げて繭にしつつ、面倒事にならぬようザクーッとウルの中に仕込んでいた幼女化短剣を人数分出して突き刺して霊薬まで注入。

 

 しばらく、ウルから出したお茶セットで優雅なティータイムを満喫。

 

 多少のお仕事をした後、外が夜になった頃、ようやく繭をドンドン叩く音に起きたようだと繭から全員を開放した。

 

「ど、どうなってる!? 魔王様達は一体!!?」

 

「我らが主は何処だ!!?」

 

「な、何だ!? この馬鹿デカいスライムはー?」

 

「我が夫はいずこー!!? いずこー!!?」

 

「おお、我らの主の遣いに違いない!! そこな虫けら!! 我らが主は何処におる!?」

 

 ガヤガヤと騒がしい者達はスピィリアをやたら使い魔扱いしつつ、周囲をあちこち見ながら、数十秒後にハタと気付いた。

 

「は!? え!? ちょ、な!? か、体が!!?」

 

「ひぃいぃぃぃぃ!!? 何じゃぁあこりゃぁあああああああああ!!?」

 

「我が体が幼女になってるぅうううううううううううう!!!?」

 

 種族名悪魔の幼女達が本当に同じ種族とは思えない状態の互いに驚愕し、同時に相手が誰かに気付くと馬鹿にし合い。

 

 今度は掴み合いの喧嘩になり、瞬時に自分達の力の無さに愕然とした。

 

 何なら山すら砕く剛力無双は今や幼女パンチで柔らかい相手幼女の腹に打ち込んだ拳を痛め、超絶魔力マシマシな術師の類は魔力の魔の字すら消え去った己の非力さに何もないところで尻もちを着いて茫然とし、悪辣無双の悪漢すら相手幼女にえーいと目つぶしを食らわせようとして指の方を痛めて泣き出す始末。

 

 全体的に弱体化というよりは完全にリビルドに近い改造を受けてしまった幼女達が思わず絶叫を上げたのも無理はない話であった。

 

 中々、意見がまとまらないのでやってきた蜘蛛が幼女達を簀巻きにして並べ、ウルを少し分け創ったスライム椅子に並んで座らせる。

 

 ついでに糸を頭に張って、思考を吸い上げ、何を考えているのかを確認した。

 

「……(|_|)(あ、こいつら、この間倒した名前も姿も知らない悪魔連中の部下なのねという顔)」

 

 看板が複数出され、幼女化された魔王の部下達に次々と情報がお出しされる。

 

「な、何!? うそだぁー!? 我が主がこんな虫けらに殺されるなんてぇええええええ!!?」

 

「これは悪い夢なのそうなの夢なのそうなのゆめなの―――」

 

「ふ、ふふ、どうやらまだ私は眠っているようです。お願い夢なら醒めてぇぇ……(泣)」

 

「殺してやる!! 殺してやるぞ!? この虫けらぁ!!?」

 

 現実逃避するのが半分。

 

 嘆きまくりでぶっ殺してやらぁみたいな反応なのが半分。

 

 しかし、蜘蛛にしてみれば、「(・∀・)(いや、そんな事言われても攻めてきた君達の主が悪いよ主が……という顔)」になるしかなく。

 

「嘘を言うな!? この虫けらめぇ!? 我が主は空間を操りし、真なる魔王であるぞ!!」

 

「(^_^)/(空間系能力は美味しく蜘蛛達みんなで頂きましたという顔)」

 

「な、何だってぇええええ!!? あのお方が死ぬはずないだろう!?」

 

「この小賢しい使い魔如きがぁ!? 我らが魔王様は時間すら操る最強のお方であるぞぉ!?」

 

「(・ω・)ノ(それも美味しく頂いた後、畑の肥料になったよという顔)」

 

「嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘を吐くなぁああぁぁああぁああ?!!」

 

「わ、我らの魔王はあらゆる生物を支配する最強の軍団を持つ真なる―――」

 

「(/・ω・)/(だから、血肉と骨は肥料にして、霊力は全部霧散させて魂は完全消滅、残ってるのは能力だけなんだってという顔)」

 

「ひっぐ、ひっぐ、まおうじゃまぁあぁあぁあぁ!!??!」

 

 もう幼女達は蜘蛛の再三の事実と真実しかない答えを聞かされて、大混乱。

 

 だが、その一人がポツリと呟く。

 

「ど、どーしよう。どうしよう!? あの人がいないとウチの国……侵略されちゃう!!?」

 

「そ、そーだ!? こ、こうなれば、早く次代魔王を選出せねば!? 魔王は国の顔!! 不在のままでは他国に舐められて戦を大量に吹っ掛けられちゃうじゃないかぁー!?」

 

「魔王様がいなくなったんならわだじはじぬぅぅぅぅ!!?」

 

「やばいやばいやばい!? 何か、言語が拙くなってる!?」

 

「我が姿は元に戻るのかえ!?」

 

 思わず全幼女が真顔で蜘蛛を見やって。

 

「(・ω<)(てへ♪ もう戻らないぞ♪という顔)」

 

 ウィンク一つ。

 

『うわぁああああああああああああああああああああああああ!!?!』

 

 全幼女がガクブルしながら思わず意識を失いそうな絶望にビクンビクンし始める。

 

「どーずるぅうう!? どーずるんだよぉおおおぉ!!?」

 

「こんな体じゃ誰もオレだと分かってくれにゃいじゃないかぁ!?」

 

「や、やばひ!? やばひよぉ!? われがいちぞくのおさなのにぃ!? まおーさまをおまもりするのだぞとかこどもにおしえてたんだぞー!?」

 

 あまりの衝撃に次々に踏ん張って幼女化しないよう気を張っていた者達が言葉も拙くなって幼女的な喋りに堕ちていく。

 

「ふぐぅぅぅぅぅ。せーしんおさなくにゃっでるぅぅぅうぅぅぅ!? まじゅつちゅかえなくなっちゃうのらぁー!?」

 

 大陸でも指折りの実力者達が絶望している間に蜘蛛は神殿の外で転がっていた死んでない連中を幼女化した繭をズルズルと内部に引きずって来る。

 

 そして、次々に敗北した有力者達を叩き起こして、最初の幼女達の輪に入れて、現状説明を押し付ける事にした。

 

 今まで殺し合いをして憎しみ合っていたり、互いに認め合うライバルだったり、共に世界を掛けて戦う相手だったりした実力者達の殆どが自分達のトップが消えたという現実を前にして失禁するやら気を失うやら、泣きわめくやら、もう悪魔保育園状態である。

 

「は!? ま、マズイ!? ウチの国!!? 今年外征して、負けて帰って来るんだぞ!? 魔王様がいなかったら、外大陸連中が攻めてきた時、護りを敷く術者がいなくなって……ッッッ」

 

 その言葉でサァァァッと顔を青褪めさせる者達が多数出た。

 

 どうやら他の大陸に出て様々な物資や人員を略奪して自国で働かせたり、奴隷として売ったりしていた悪魔達は外大陸との戦争をしているところが多いらしく。

 

 勝っていても負けていても魔王不在なんて事が知れたら、瞬時に今の体制が崩壊する事に気付いた。

 

 彼らは本当の意味で自分達の未来に絶望するしかなくなっていく。

 

「そ、それどころか。オレ達以外は殆ど雑魚だぞ!? 魔王様と各国のオレ達より下の連中じゃ……統制が取れないどころか。戦う前に内部崩壊……? は、はははは……天使共の襲来も近いってのに、どーしてくれんだぁああああああああ!!?」

 

 思わず蜘蛛に縋り付いて揺さぶる涙目の幼女が多数。

 

「(´ω`*)(でも、それって自業自得なのでは?という顔)」

 

「そりゃそうだけどもぉおおおおおおおおおお!!?」

 

「どうにかしてよぉおおおおおおおお!!?」

 

「アンタの責任だろぉおおおおおおおおお!!?」

 

「まおーさまの代わりにどーにかしろよぉおおおおお!!?」

 

 嘗ての精神性ならば、そんな事言わない極めて優秀でスタイリッシュに生死を決めて見せる劇画調生物だったはずの彼らは生憎と既に心の内側までパステルカラーのフニャフニャ幼女にされてしまっていた。

 

「このくも!! 虫けら!! 使い魔!! オレ達も元にもどしぇぇええええ!!?」

 

「みんな奴隷にされちゃうよぉおおおおおおお!!?」

 

「く、こ、こどもたちをにがさねば!? は!? わたしがこどもかぁああああ!!?」

 

「そもそも用心深いオレ達の一族にこんな子供はいないって殺されかねない!?」

 

「う、うちもぉ……こんな姿じゃ絶対分かってもらえないよぉ……」

 

「まおーじゃまぁ!!? まおーじゃまぁあぁああ!!?」

 

 もう辺りは元最強魔王集団の部下(今は幼女)の群れが泣き喚く会場と化した。

 

 責任だー元に戻せーと煩い幼女達に溜息一つ。

 

「(*´Д`)(はいはい。分かった。分かったから、責任取るから、君達も手伝ってねという顔)」

 

「な、何!? どうにかするというのか!? 虫けらぁ!?」

 

 虫けら呼ばわりしてきた幼女に蜘蛛的デコピンでお仕置きしつつ、蜘蛛がウルを分割して、周囲に黒板のようにボードを出した。

 

 それに魔力で文字が入れられていく。

 

 曰く。

 

 これからは“ちち”なる存在の為に働く。

 

「そんな事するわけないだろアホー!!?」

 

 デコピンが飛んで黙らせられた。

 

 曰く。

 

 悪魔の能力を全部収集して“ちち”の為に役立てる。

 

「馬鹿じゃないの。秘伝だぞ!? けっとー系の能力なんかいっしそーでんなんだぞ!?」

 

 デコピンで再び黙らせられた。

 

 曰く。

 

 悪魔の大陸で悪いヤツはみんな蜘蛛か幼女にして、神に喧嘩を売る連合体を創る。

 

「このぼけがいちゅー!? まおうさまならまだしもがいちゅーのきさまにそんなことができるわけな―――」

 

 今度はデコピンが飛ばなかった。

 

 何故ならば、幼女連中が蜘蛛がどっこいしょと何かを入れた鋼鉄製の箱をウルから取り出して、イソイソと神殿の外に運び出していったからだ。

 

 幼女達は此処が巨大な大陸中央の火山地帯である事を思い出して、何をする気だと追い掛ける。

 

 すると、彼女達が見たのはスライムが全て一か所に集まった場所に安置された箱が開く瞬間。

 

 ソレがゆっくりと彼らの前で上空に昇っていく。

 

「か、神の力!? まさか、遺骸か!!?」

 

「あのがいちゅー!? 神を討ち取りし者だとでも言うのか!!?」

 

 箱の中から飛び出たのは赤黒い球だった。

 

 1m四方くらいの大きさのソレにジャバジャバと何やら蜘蛛が糸でスライムから掴み出した試験管を複数本開けて、薬らしき透明な液体を掛けている。

 

 カッと鈍い紅蓮の光を発した玉が赤黒い本体と共に細く細く伸びていく。

 

 そうして、その太く伸びた神の遺骸の一部が巨大な樹木の如く伸び上がり、彼らのいる神殿を全て暗く呑み込んでいく。

 

 その時、彼ら音よりも早く届く羽音。

 

 彼らの天敵が響かせる精神変調を来す非物理的な情報を受け取った。

 

「あ、あれは!? ま、まさか!? て、ててて、天使だぁ!? まさか、この異変をさっちしてー?! 前来たのまだ4年前だぞ!? また、われらのたいりくからいのちをかりとるきか!? あのとりもどきめぇ!?」

 

 神の遺骸で樹木が出来ている途中。

 

 蜘蛛がその糸にぶら下がりながら、遥か上空から何か降りて来るのを確認し、ソレが少なくとも新人類とか言っていたアーク連中と同じような能力を持つ存在だと理解する。

 

 数は凡そ40億前後。

 

 全天を覆い尽くす勢いで遥か上から降って来る上に樹木を破壊しようとして、次々に攻撃らしき光の槍やら光の砲撃やらが降り注ぐ。

 

「きゃぁああああああああ!!? もうおしまいよぉ!? 大陸はほろびるのよぉ!?」

 

 泣きべそを掻き始めた幼女が多数。

 

 現在、ナクアの書を用いて、異種胚を埋め込んだ神の遺骸を用いた新しい黒蜘蛛の巣を試していた個体が今も成長を続けるそろそろ1kmを超えただろう樹木の頂点にカサカサ昇って行って立ち。

 

 神の下僕の攻撃が大半、樹木の防御圏に入った途端に吸収されているのを確認し終えると一仕事したぜと言わんばかりに「( つ|ω|)つ(ヨシッという顔)」をした。

 

「もう終わりだぁ!? お終いだぁ!!?」

 

 呑気に仕事確認し始めた蜘蛛を見ていた幼女達が絶望する最中。

 

 彼がそろそろ射程圏内に全軍入っただろうかと確認後、黒蜘蛛の巣の中心核となった遺骸に埋め込んだ思紋機関を駆動し、内部を護るように指示して糸で高台を作って、樹木が創り出した半透明の結界の外へと露出し、猛烈な射爆が直撃。

 

 幼女達はあの害虫が消し飛んだーという顔になったが、生憎とその光の下から出て来たのは黒鉄の装甲を持つ機械系蜘蛛にも見えるノクロシアンが一体。

 

 その口が上に向けてカパッと開かれた。

 

 ズギョッとその口内から迫り出した砲身らしきものに幾何学模様が奔る。

 

 ついでにちょっと威力を増す為に片脚でその内部にノクロシアの外壁の破片が入れられた。

 

 チカ、チカ、チカ、と砲身の模様が明滅する。

 

 そうして、射程150km圏内に全ての天使とやら……人型の全身甲冑に翼が付いた20m程の巨人族みたいな個体の群れが至近距離に至る手前で砲身の先がガキョッと罅割れて広角に広がった。

 

 フッと光の一つも零さずに何かが世界を横断する音と共に周囲が静まり返る。

 

 遥か天の先に何かが起爆し、世界を30秒程延々と染め上げた。

 

『?』

 

 幼女達が思わず敵に当たらなかったのかという顔になった次の刹那。

 

 サラサラと世界に音が戻る。

 

 ただ、サラサラと何かが降って来る。

 

 サラサラと。

 

『………ッ』

 

 彼らは見た。

 

 天使の軍勢。

 

 嘗てから大陸に現れては悪魔達を狩り続けていた神の代行者。

 

 死の使者達の群れ。

 

 一切の物理攻撃が効かず。

 

 魔力を用いた一部の方法でしか殺せもしない何かがサラサラと……砂のように崩れて、崩れて、崩れて……土砂降りのように樹木目掛けて落ちて来る。

 

「はぁああああああああああああああああああああ!!?」

 

 ガシュンッと口に砲身を元に戻して蜘蛛がゴクリと何やら食事でもしているかのような音をさせて体内に押し込む。

 

 すると肉体も元の半透明に戻った。

 

 その後、何でもなさそうな顔で幼女達のいる神殿入り口に戻って来た。

 

 今も目が点になって放心している彼らの前で蜘蛛がサラサラ落ちて来る天使の残骸を眺める。

 

 周辺火山を埋め尽くす勢いで降り注いで世界が白く染まっていくのは正しく雪が降るかのようだ。

 

 それを「(>_<)/(絶景という顔)」で喜んで揺れているのを見た幼女達は思う。

 

 ああ、新しい魔王が我が大陸には誕生したのか(白目)、と。

 

 こうして、ノクロシアンの1人は【高次元射爆圧出砲】……嘗て、旧き者達にディメンジョン・フェイズシフト・アトラクターと呼ばれていたソレの試射と新しい大陸への進出という仕事を果たした。

 

 これは元々が4次元空間内に存在する神を追放する為に高次元領域から別の次元に存在を押しやる為の火砲であり、事実上はこの宇宙の上位次元の彼方まで相手の存在を押し飛ばすものであった。

 

 虚数次元に封印される事を牢獄に繋がれていると嘗ての神話の時代ならば、表現しただろうが、その兵器による攻撃の結果は追放されているという言葉に相当する。

 

 要はこの広い広い宇宙内部にある4次元以上の領域で活動する存在を世界の涯、次元の先に強制移動させる追放兵器である。

 

 この狭い狭い惑星、星系、銀河、銀河団の内部のこの時間軸に対して特定座標に表出する高次元存在というのはある意味で広大な海の中の一滴の海水に対して常に絶対座標を観測し、その内部にピンセットで干渉しているようなものだ。

 

 その一滴の場所を見失い。

 

 もしくはピンセットそのものがズレてしまったらどうなるか?

 

 答えは単純である。

 

 もう二度とその小さな世界に現れる事は無い。

 

 例え、宇宙が終るまで掛かっても探し出せない。

 

 高次元世界の迷子になった存在はもはやいないも同然なのだ。

 

 そして、高次元から現実に投射されていた全ての物質と物理量……高次元の影として動いていた現実のエネルギーや質量は解放され、恣意的な運用が出来なくなる。

 

 正しく、天使達の残骸はその残り滓に違いなかった。

 

 この火砲が殺せない罪を犯した神をこの世界から事実上追放する為に使われていた処刑道具である事を蜘蛛達は知らない。

 

 ただ、それが出来る事があまりにも神殺しとしては完璧な性能なので大量に揃えて複製を始めていたりもする。

 

 そんな蜘蛛達はその現物を摂取した個体を単体でも神に対抗出来る戦力として別大陸へと送り込んだのであった。

 

「(´ω`*)(さーて、お仕事しますかーという顔)」

 

「な、ななな、何をする気だー!? このがいちゅー!!? いや、がいちゅーまおう!!?」

 

 幼女化が更に進んだ様子の元高レベル悪魔さん達に蜘蛛が今後の予定表をボードに書き込んでズラリと並べる。

 

『―――』

 

 悪魔達は思う。

 

 こいつ、悪魔よりも悪魔的な事しやがる、と。

 

 その後、悪魔達がどうなったのか?

 

 確かなのは悪魔が蔓延る邪悪な大陸の誰も住めないはずの火山地帯に巨大な神の力を宿す真白き大樹が現れ、そこを住処とする何かが神と呼ばれる事になるという事実だけであった。

 

『天使の大群を見たという目撃情報がある』

 

『本当ですか? それって各国の魔王様と重臣の方々が実は神々と戦っていた、とか。そういう事なのでしょうか?』

 

『いや、空を飛んで中央近辺を観測していた鳥類系の連中が見た、らしい』

 

『何をです?』

 

『巨大な樹木の上で数十億単位の天使が消えたんだと』

 

『……在り得ませんね。殆どの攻撃が効かない天使共を相手に魔王の方々の大半も苦労していたでしょうに……まさか、戦力を隠蔽していたのでは?』

 

『だが、あそこに答えが見えている』

 

『―――【天使の灰(エンジェル・ダスト)】?!! 馬鹿な!? あ、あんな量が?! 現物を知っている魔王や国すら殆ど無い聖遺物ですよ!? あの大樹は一体!?』

 

 “神”は大量の幼女を侍らせて、何故か労働力にしているらしく。

 

 遠征でやって来た者達は大樹の麓で何が何だか分からない労働を強制されている行方不明の元各国の重鎮の名前を名乗ってタスケテくれと涙する幼女に懐疑的な瞳を向けたりもするだろう。

 

『こ、此処は一体……神の力に満ち満ちている。この大樹も……』

 

『見ろ。どうやら、此処に住まう者達のようだ』

 

『人型の幼体? アレは一体何をしているんだ? 強制労働か?』

 

『聞いてみようか。行くぞ』

 

『……この場所には巨大な活火山が多数有ったはずだ。だが、今は大樹と白い大地しかない? はは、幻影でも見せられているのか?』

 

 ただ、生憎と幼女達は健康的で文化的な生活をしており、肉体労働に従事し、腹一杯の豊かな食事と娯楽施設でボードゲームに興じていた。

 

 奴隷にも見える彼女達があまりにもまともな生活を送らされている事に彼らは驚き。

 

 悪魔の使者達は一匹の蜘蛛の使い魔に奴隷に優しいなんてやたら人道的な使い魔だなーという視線を向ける事にもなる。

 

 が、一人も大樹の主に会う事は無いに違いない。

 

『(´;ω;`)(メソメソしてタスケテと言いたげな顔で白いワンピースの胸元にある名札を必死に主張する幼女の顔)』

 

『一体、此処で何をしているのかね? いや、それ以前に君達は?』

 

『ふぐぅ!? これは助けか!? ワタシはバルロッカ!! マステラ国の元さいしょーだ!?』

 

『……はぁぁ、やっぱり帰りません? 上司殿』

 

『奴隷のお嬢さん。悪いが悪質な嘘は頂けない。彼の方を見た事はあるが、君の言っている方は魔力からして君とはまるで違うのだが……』

 

『ち、違うんだー!? これはあの悪魔のようながいちゅーまおーがー!?』

 

『(;^ω^)(悪魔のような害虫ですが、何か?という顔)』

 

『む? 使い魔か? オイ!! 此処の主を出せ!! 我らは近隣にある大国デトラウの使者だ!! この神の力を宿した大樹と周辺の灰の事で話がある』

 

『(・∀・)(呼び出したら、どうするの?という顔)』

 

『使い魔程度が知る必要は無い!! 我らはデトラウの使者である!! この地の領有権は幾つかの国が主張しているが、我らが最も古い!! この村を滅ぼし、我が名によって君達を処分するか奴隷とする!! 分かったら主を出せ!!』

 

『((((;゜Д゜))))(ガクブルする幼女達の顔)』

 

『上司殿。幼体が怯えていますよ。此処は穏便に……』

 

『高が使い魔と奴隷如きに言葉を話してやっているだけ有情だろうに』

 

『そりゃ、そうですが……うん? 何であいつら、逃げてるんだ? これだけの差が理解出来てるなら、逃げるのは無駄って事くらい分かるだろうがなぁ……』

 

『(*´Д`)(何だ……ただの地上げかと、いつもの装備を装着する顔)』

 

『ほう? やる気か? 害虫風情が、我らに立て付くとは高貴なる高位魔族相手に喧嘩を売るというのがどういう事か。教えてやらぬとダメらしい』

 

『……(´;ω;`)(あ、こいつら死んだわという顔になった増える犠牲者から目を逸らす幼女達の顔)』

 

 彼らに無体を働こうとした者達が消えた後、幼女や蜘蛛が地味に増えている事を誰も知る事は無い。

 

 蜘蛛が異変を調べる為に来た調査者達を「(/・ω・)/(歓迎!! 新労働力&悪魔蜘蛛なかーまという顔)」で歓待している事を幼女達以外に見ている者は無いのだ。

 

 彼らの父基準で死んでも構わない人格の相手は全部蜘蛛にし、他は幼女にするという方法で犠牲者は帰らないのだから、誰も知りようがない。

 

『さ、査察局のマジラ筆頭執行官が帰らないという事だ!?』

 

『まさか?! あの方は貴族の方々の中でもかなりの実力者ですよ?』

 

『だ、だが、部下と共に数日前に大陸中央の例の異変を調べに向かってから音沙汰が無いらしく。今、貴族局が捜索部隊を出すからと他と揉めてるらしいぞ』

 

『一体、あの地域に何があったんですか?』

 

『分からん。分からんが、巨大な大樹と白い地域がいきなり出来たというのが専らの噂だ』

 

 たった数日で各国から派遣されてくる高レベル悪魔達は全て行方不明になる事から、魔の白き山脈として大陸中央は新たな脅威として多くの国々に認知される運びとなっていく。

 

 やがて、大樹周辺の勢力を討伐する為の遠征軍も送られるに違いないが、相変わらず大陸にやってきた始まりの蜘蛛は「(/・ω・)/(ウェルカムという顔)」で大樹を迎撃拠点として増やしたなかーまと共に彼らが来るのを手薬煉引いて待っていた。

 

『(´;ω;`)もうお終いだぁ!? あ、あんな大規模戦力が来たら!? 来たら!?』

 

『;つД`)に、逃げるんだぁあああああ!? お前らがあのがいちゅーにやられたら、たいりくはー!!? たいりくはー!?』

 

『隊長!! 何やら人型の幼体がこちらに叫んでいますが?』

 

『恐らく、助けてくれと言っているのだろう。生憎と我らはこの大樹周辺の殲滅と調査に来たわけだが……』

 

『奴隷のようですし、回収なされては?』

 

『フン。生憎と奴隷なら間に合っ―――』

 

『隊長?』

 

『(/・ω・)/(こんにちわーと元自分の腹部から飛び出してキシャーする新規悪魔系蜘蛛の顔)』

 

『た、隊長ぉおおおおおおおおおお?!!』

 

 こうして、数か月も経たずに悪魔の大陸では高位の者すら返って来られない怖ろしき場所だと大陸中央部は禁域に指定される事となる。

 

 そして、一部の者達は非戦闘時に遠巻きに観測する事で其処が幼女と蜘蛛しかいない事を知り、油断して侵攻を開始。

 

 敵が来る度に増えていく彼らをやがて国々はこう呼ぶ事となる。

 

 神樹の国【セフィロト】と。

 

 生憎と神樹と呼ばれたモノが発する広域の結界は戦闘時、外界からの観測を遮断するものであり、接近してきた軍隊を遠方から観測するのは不可能。

 

 逃げられる程度の距離にいては蜘蛛達による追撃で瞬時に捕捉されてしまう。

 

 結果として内実が分からない国が大陸中央には爆誕。

 

 神の力が宿るキラキラした白い何かが大量に積もった国に暮らしているのだから、神の使徒辺りが使い魔と奴隷の幼女を働かせて、悪魔の大陸を遂に潰しにやって来たのだ。

 

 と、悪魔……自称では魔族と自分達を呼ぶ彼らが考えるのは自然であり、彼らが大樹にいる“神”を敵だと思うのも無理からぬ話であった。

 

『(=゜ω゜)……昨日、ウチのくにのよーへーだんがかいめつしたっぽい』

 

『(-_-)……また、あのがいちゅーどもふえてたもんな……』

 

『(∩´∀`)∩ あーあーきーこーえーなーいー』

 

 そもそも魔王と重臣達が一人も返って来ず。

 

 最後の交信が終って以降、連絡が取れないのだ。

 

 神々にやられたに違いないという勘違いは間違いなく道理の範疇で考えれば、正しいのである。

 

 神々との共同作戦で世界の破滅を食い止めに別大陸へ侵攻してました。

 

 なんてのは本当に一部の者達しか知らない事態であり、それすらその“一部”が全て幼女になっていた為、誤解を受けるのはまったく頷ける話だった。

 

『デトラウの威信に賭けて!! もう亡くなられているだろう魔王閣下と重臣の方々の仇を討つのだ!!』

 

『おぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

『我ら、デトラウ重騎士団!! 123万9000騎!!! 神樹勢力を討伐せん!!』

 

『うぉおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!』

 

『略奪せよ!! 幼子も蜘蛛の使い魔の嘆願も構うな!! 殺せ!! 我らの敵は神の使徒のみである!!』

 

『( ̄▽ ̄)ははは、もうダメだな。我が国は……虎の子の重騎士が全部逝ったら、もう……ははは、ははははは……』

 

『(・∀・)(丁度良い中核戦力に出来そうなのが来たなと思う悪魔のような悪魔蜘蛛の顔)』

 

『(^_^)(島で出来たてホヤホヤの戦略級精神属性幻影呪紋【アークの悪夢】の注文入りましたという顔』

 

『(>ω<)。///(ヘイお待ち!! 広域選別方法は糸による光学観測で表情から精神推測しながら、相手網膜への光波の個別誘導でやれるようにしといたよという顔)』

 

 背中に巨大な黒い漆黒の翼を持つ悪魔蜘蛛達はきっと神の使徒に飼いならされた使い魔に違いないとか思われても無理はなかった。

 

 彼らが悪辣な性能をしている事なんて、攻めてきた者には知り用も無かった。

 

 悪魔と同等なのは魔力量と特殊能力だけだ。

 

 それ以外、新たな悪魔蜘蛛達に基礎能力値的に何一つ勝てていないという事を攻めてきた者達が実感する事も無かった。

 

 生憎と悪魔達の戦闘能力判断基準は三つ。

 

『くくく、魔力量はそれなりのようだが、気配も殆ど弱小。勝ったな!!』

 

『あの害虫共のほっそい脚見ろよ。くく、害虫駆除の時間だああああああああ!!!』

 

 魔力量、気配、能力による強者感というあまりにも前時代的なものだったからだ。

 

 少年のように全てちゃんと観測用の呪紋方式で数値化してしまえる環境にあった蜘蛛達とは打って変わって、力こそパワーな悪魔達の軍団というのは大半ノウキンであった。

 

 どんな蜘蛛達もそうなのだが、彼らは気配を消すのも上手ければ、実力を隠すのもまったく実戦において磨かれた技能として持っている。

 

 彼らの父の記憶は正しく彼らを百戦錬磨にして尚余りある戦士に仕立てる最高の教材であり、それを最初に持って生まれた蜘蛛達はどう転んでも基礎スペックでやたら天地の差が無い限りは負ける要素が戦術や戦略的な敗北以外無く。

 

 それすら、一番初めに戦略や戦術に長けた指導者層の強者が幼女にされた為、今やノウキン軍団が力押しで攻めて来る以外の選択肢が悪魔達には無かった。

 

 つまり、殆どの敵には優位であったのだ。

 

 故に悪魔達が何か違和感有るなーと思っても、初手の初動、初期対応を間違えるのもまったくしょうがない話だろう。

 

 それが彼らの手練手管で一切対策させない超短期即死攻勢による相手の制圧を可能にしていたのだ。

 

『勝ったぞ!! 我らデトラウの騎士に栄光あれぇええええ(●´ω`●)(腹の外に脱皮しながら前世の自分の最後の言葉を聞いている悪魔蜘蛛の顔)』

 

『うぉおおおおおおおおお!!! 神の使徒討ち取ったりぃいいいいいい(^_^)(背中から脱皮しつつ、過去の自分の力量とかまるで関係無い幻影へ簡単に嵌るダメさ加減に苦笑する悪魔蜘蛛の顔)』

 

『(ノД`)・゜・。………あのがいちゅーどもめぇ……りふじんでつよすぎるよぉ……なんなのあれ……』

 

 こうして、精神の内実まで呪紋で蜘蛛達に精密観測された軍団は表情や言葉、行動を逐一解析され、次々蜘蛛による個別選別で仕訳けられ、網膜に大樹周辺に張り巡らされた採光糸を用いた発光から地面に降りた者や空にいる者も関係無く、幻影呪紋で狙い打ちされて、次々に瞳へ光を流し込まれ、戦力として脱落。

 

 ほぼ1時間後には数百万規模の兵隊が新規の蜘蛛になり、残された者達は発狂しながら、彼らの元同胞たる蜘蛛達により捕獲。

 

 実力が上の個体も物量によって圧し潰しつつ、殺されないように防戦しながら最終的に拘束。

 

 最後にまだ人格が矯正できそうな者は幼女となって、大樹の健全労働者にされたのだった。

 

『 ( ΦωΦ)σ………(ヨシという顔)』

 

 外大陸との時間差が酷い事になり始めていた鬼難島ではまだ数日しか経っていなかったが、増えていく“なかーま”と幼女を纏めるノクロシアンは実に数か月は悪魔達の大陸に滞在し、いつの間にか大樹の麓の村を拡張。

 

 新式大樹に外大陸からプレゼントされた名前であるセフィロトと名付けて、街区を構築しながら開発を加速。

 

 大規模な勢力へと変貌させた。

 

 見知らぬ悪魔の大使が青い顔で和平の書状を持って来て、貴方の神に会わせてくれとか言い出すのに肩を竦めつつ。

 

「(・∀・)(あ、この大陸の神を邪神にんてーしてこっちは善神とか宣伝したら、信仰の量が減って弱体化させられるんじゃという顔)」

 

 今後の神格の抹殺もしくは大陸からの追い出し計画を画策するのだった。

 

 生憎と悪魔達に悪魔が蜘蛛になったり、幼女にされたりしている。

 

 なんて、あまりにも衝撃的な事実を想像するだけの想像力は無く。

 

 上位層がほぼ消えていたせいでこの事態を外の国々は誰一人として正確に把握する事は無かったのである。

 

『(/Д\)もうダメだぁおしまいだぁぁ……しゅーへんこくのせんりょくがここにかげつでほぼかいめつしたぁぁぁ!!?』

 

『;つД`)補給部隊は!!? 彼らが情報さえ持ち帰ってくれれば!? まだ、見込みは―――』

 

『(´ρ`)さっき、けんいきないでにげようとしたのをおそわれてまひた……』

 

『(/ω\)ふぐぅぅぅぅ。100万規模の軍をぽんぽんおくってくるなよぉー!?』

 

『(゜ロ゜)わ、われらのげんごのーりょくもげんかいにちかい……』

 

『(・ω・)ノ(ま、頑張れと幼女達の肩を叩く顔)』

 

 そうして頭の良い元凶の蜘蛛はイソイソと悪魔をなかーまにしつつ、彼らと通常版の黒蜘蛛の巣をガシンや少年のように呪紋を借りながら増やし始めた。

 

 残念ながら、蜘蛛達にとって戦争とは悲惨で残酷なものだったが、生憎と悍ましいという感覚が存在しない。

 

 何百万人を蜘蛛にしようと彼らの良心は痛まなかった。

 

 それはある意味で生まれた時に悟った弊害ではあったかもしれない。

 

 生存の為に何もかもを尽くす事を実践してしまった……実践出来るようになってしまった少年とほぼ同じ体験をした彼らにとって、その蜘蛛になって死ぬという死に方は少なからず、悲惨でも無ければ、残酷でも無いものなのだ。

 

『(=゜ω゜)……(ま、ちちが暴走するよりはマシでしょという顔)』

 

 世の中に“悍ましい”のハードルがこれ程に高い生物は他に存在しないという事だけは確かだろうが、生憎と彼らが記憶に覗く地獄では少年の悲惨体験集だけでお腹一杯になる者が多数。

 

 目の前で愛した人が下種な男達に蹂躙されていたり、恋した少女が泣き叫びながら、あるいは耐えながら自分に心配させぬよう笑顔を浮かべて食われたり、別の生物に変貌させられて自分を殺しに来たりと、普通の人生では絶対にお目に掛かれないシーンが山盛りなのだ。

 

 人間らしく蹂躙されたり、殺されるのは絶望シーンとしてはまだ序の口だったりする。

 

 人の心は無い事をしているのが人の心しかなさそうな単なる亜人。

 

 つまり、人間性が殆ど人と変わらない者達であった以上、それは正しく人間の罪深さと悍ましさと仄暗い感情そのものであり、少年にはソレに対する感情の閾値がほぼ無限大になる程度にはあり触れている……つまり、慣れている代物だ。

 

『(T_T)(でも、近頃は結構沸点低いしねという顔)』

 

 相手が強者で自分が弱者であればある程に悲惨を極める世界の混沌。

 

 繰り返しで蹂躙されていた始めの頃、少年は憎悪の塊だったかもしれない。

 

 あるいは世界を滅ぼす邪神だって真っ青の復讐の鬼だったかもしれない。

 

 もしくはアルマーニアを根絶し、女子供まで拷問に掛けて鏖にして尚足りぬ感情に、憤怒に、激怒に、染まっていたかもしれない。

 

 しかし、結局のところはどれだけ怒ろうが憎もうが少年の感情ソレは時の彼方に置き去られてしまっている。

 

 だからこそ、蜘蛛達は知っている。

 

 少年がふとそんな頃の感情を思い出した時、きっとソレは何もかもを滅ぼしてしまうだろうと。

 

『(;´・ω・)(ちちとなかーまの為にも沸点が下がる系の敵は駆除しておかないと、という顔)』

 

 彼が無限に滅びても尚殺せない最後の敵に感じるものよりも……絶望的なものを少年は誰かに押し付けられるのだ。

 

 それこそ悪魔達の悪辣さが沸点を下げて、大事になる可能性が高い。

 

『(◎_◎)(他人の子供を虫けらみたいに殺したり、自分の血統以外は民族どころか家族単位で敵が一杯だったり、奴隷どころか他の一族を丸ごと生贄に捧げたり、殺す前に愉しみまくりだったり、殺した後は食料にしたり、人道の文字がほぼ0だからなーという顔)』

 

 その対象が世界や大陸ならば、正しく最後の敵を超える絶望を仲間達以外の全ての生物に与えるのは少年だろう。

 

 アルマーニアの英雄と呼ばれていた強姦大好き獣人が少年にとって殺す以外の選択肢が無いのはそんな感情の向けられた先の1人であるからであり、もしもそれが溢れてしまえば、世界なんて少年の敵が滅ぼすまでもなく少年自身が滅ぼしてしまうかもしれない。

 

『(´-ω-`)(あの蟲の巨人……ただでは死ねなさそうと思い出す顔)』

 

 此処最近で尤も少年の沸点が下がった時の記憶を情報として知っている蜘蛛達はちょっと背筋が凍ったのだ。

 

 きっと、今の少年ならば、実践出来てしまう、尽くしてしまえる……そんな、確定した個人に向けられた地獄がどんなものであるのか。

 

 蜘蛛達はどんな生命も知らない方が幸せだとハッキリ言える。

 

 故に魂が初期化される絶望に折れる程度の存在を彼らは歯牙にも掛けない。

 

 羽虫が飛んでいる、うっかり石を踏んでしまったというのと同じくらいの出来事でしかない。

 

 何もかもを尽くしてしまえる少年を前にして、その前途にある無駄に感情を刺激する敵を彼らは彼らの総意として存在を許さない。

 

 その為ならば、己も含めて全ての生命の生死程度は単なる数値として割り切れる。

 

 それが少年をちちと崇める蜘蛛達の本音であった。

 

 *

 

 蜘蛛はチート!!

 

 蜘蛛はチート!!

 

 と、叫びたくなる侵食されつつある外大陸。

 

 しかし、彼ら蜘蛛達が本当に最強だったり、絶対負けない戦力だったなら、まったく問題無く少年のノクロシア遠征は完了するに違いない。

 

 だが、生憎とソレは無かった。

 

 そんな理由が一つ。

 

 聖域外延へのビーメとキメラの出動から数日後。

 

 突如としてノクロシアとフェクラールに墜ちて来る事となったのは正しくどうにもならないくらいに彼らが不完全である事を示していた。

 

『(´・ω・`)(あ、これ死んだわという顔)』

 

 遥か天の高み。

 

 白い五大災厄の神殿の頭上。

 

 創られていた陣地に敷設された観測所。

 

 そこで観測していた蜘蛛達は大体同じことを思った。

 

 大量のグラングラの大槍が置かれた対空迎撃拠点での事だ。

 

 その一角で複数の蜘蛛が島に墜ちて来る巨大な隕石を確認した事はまったく馬鹿にも分かる破滅の足音であった。

 

 いきなり、現れたソレは惑星どころか。

 

 天を覆い尽くすような巨大さで天の陽光を遮るように変わらぬ位置で回転しながら彼らのいる星に真っ直ぐ落ちて来ていた。

 

 月が隠れてしまうような大きさはどう考えても人智に対して神意が如何に巨大であるかを表すかのようでもあった。

 

『(◎_◎)……(推計4030km……成層圏から凡そ3万km……神格反応を確認。受肉神よりも更に反応が高い……この距離で引力の影響が無い……たぶんは真正神の攻撃と推定という顔)』

 

 グラングラの大槍に付随する望遠観測機能はヴァルハイルの人員が付けてくれた最新式の光学観測呪紋を用いた呪具によって成り立っている。

 

 ついでに言葉の拙いヘールが毎日代わりばんこで蜘蛛達と一緒に星空を眺めたり、空の見える場所でのんびりお昼寝したりもしている。

 

 なので、最初にソレを見付けたのは嘗て聖域観測の為に生きた呪具扱いされていた小さな子供達であった。

 

「くーる。きらきらー」

 

 すぐに教えてくれた彼らを地下へと転移させた蜘蛛達は凡そ7日で落ちて来る破滅。

 

 惑星崩壊級の攻撃を前にして真正神の力がどれだけのものであるか。

 

 それをようやく実感した。

 

 その巨大隕石の出現と同時にガランゴロンと鐘が無数に空で鳴らされたような荘厳なる音色が響き。

 

 その声が両地域に響いた時、緊急事態を告げる黒蜘蛛の巣からのアラートが鳴り、多くが一時退避する為に竜骨製の地下シェルターへと避難を開始する。

 

【永久の終わりを告げる鐘の音を。我ら『三千大千世界フォルトゥナータ』の名の元に響かせん】

 

 その声は両地域の内部にだけ響き。

 

 超広域の物理法則を無視して伝わる精神攻撃に近い不調をばら蒔いた。

 

 脳裏に直接響く上に一瞬で相手の敵意やら諸々の気力を根こそぎ奪い取る精神干渉は蜘蛛達には威力が半減していたが、他の者達には効果覿面。

 

 一般人は半数近くが避難中に気を失って、残された強者達の内、蜘蛛達は倒れた人々を地下居住区の竜骨製シェルター内部へと彼らを運ぶに忙しく。

 

 起きている者達は次々に転移で第一野営地へとやって来て、対策本部に飲み込まれていった。

 

 第一野営地地下シェルターの一角。

 

 近頃、真面目にヴァルハイル達が働かせられて造られたほぼヴァルハイル製の機材で埋められた司令部。

 

 その中央には遠征隊第三部隊と蜘蛛達とアルマーニア達が詰めていた。

 

 普通の人間であるウートやウリヤノフは何とか気絶は免れたのだが、それでも精神を侵食する神の力に気力だけで抗うのには無理があり、最終的には安静にしていて欲しいと薬を打って何とか指示出ししているエルガムの病院の寝台に押し込まれた。

 

「状況を聞こうか」

 

 イーレイがそう告げる。

 

 彼の後ろにはヒオネ、アルクリッド、ミーチェ、アラミヤが呪具らしき茨の冠らしきものを蜘蛛達から渡されて頭に付けていた。

 

 大きな長方形の機械製の台の反対側ではヴァルハイル組であるエレオールを筆頭にして、後ろにはナルハ、エル、ベクトーラ、アミアル、イルイテ、ザーナ、レメトロがいた。

 

 そんなお互いの勢力の代表者が集う台の横では灰色の小さな糸蜘蛛が普通のスピィリアの頭の上にチョコンと載っており、機械製の台上の虚空に観測した映像から創った3Dモデル……現在の敵と地上の状況を前にして目を細めていた。

 

「何だ。コレは……これが攻撃、なのか?」

 

 さすがのイーレイもジトッと額に汗を浮かべる。

 

 それはエレオールも同じであった。

 

「(。-`ω-)“我は説明も出来る大蜘蛛ゴライアス”“現在の状況を確認して貰おう”」

 

「確認、か。それでこの月らしきものより少し小さい程度の何かが頭上から落ちて来る、というのは分かる。分かるが……どうにかなるのか?」

 

 尤もな話であった。

 

 実際、ナルハにしても角の騎士にしてもさすがに険しい顔となっている。

 

「(。-`ω-)“この天体の落下は問題ない”“問題なのは真正神の方だ”」

 

「どういう事かな? 説明を求めても?」

 

 エルの言葉にゴライアスの糸蜘蛛が頷く。

 

「(。◎`ω◎)”この小惑星の質量そのものは何とかなる”」

 

「何と!! 方式を後で是非聞かせ―――」

 

「エル卿」

 

「おっと済まない。続けてくれ」

 

 途中でナルハに嗜められた呪霊機大好きおじさんが言葉を切る。

 

「(。-`ω-)“先日の山脈落下以降、同じようなものが来た場合を想定して、数千倍程度の質量なら削り切れるように色々と準備は終わっている”“問題はこれを転移させて、今も加速させている真正神が全力で島を潰しに来た場合だ”」

 

「真正神の全力はこの月を落とすに等しい行為そのものではないのですか?」

 

 エレオールがゴライアスに尋ねる。

 

「(。-`ω-)“違うと断言出来る”“これは前哨戦。いや、攻撃前のこちらへの威力偵察に過ぎない」

 

「こ、これが威力偵察?」

 

「(。-`ω-)“真正神は本質的に定理側の存在であり、法則そのものが彼らと言っても構わない存在だ。その何かしらの法則を破る事が彼らには出来る。それが権能、神の能力と呼ばれる”」

 

「存じております」

 

 エレオールが頷く。

 

「(。-`ω-)“今回の敵は単純に無制限の魔力を用いた大規模な転移による島の破壊方法として小惑星の落下を画策したようだ”“だが、これは戦闘ではないからこその全力とも言える”“真正神の限界も恐らく露呈した”」

 

「どういう? それに限界とは一体?」

 

「(◎_◎;)(これをどうぞという顔)」

 

 スピィリアが全員に書類を渡す。

 

 それは今回攻めてきた神格のスペック。

 

 能力値の概算であった。

 

「おぉ、真正神を観測出来ているのか!? 素晴らしい!!」

 

 エルがホクホク顔になる。

 

「(; ◎`д◎´)“今回、真正神があの大岩を転移して動かしている能力を観測した概算から言えば、受肉神の凡そ500倍から最大で4000倍程度の力があると見積もっている”」

 

 その言葉だけでエルと神の力の本質を知っている者達以外の額には汗が浮いていた。

 

「(。-`ω-)“我が主の収集した情報や叡智、観測情報に基けば、敵は恐らく真正神が必ず1体で攻撃して来る縛りが課されているだろう”」

 

「縛り?」

 

「(´ω`*)(この頁見て下さいという顔)」

 

 資料のページがスピィリアによって示され、全員がパラリと資料を捲る。

 

「……なるほどな。自分達を生み出した存在による規制を破るというのはそれ程に……」

 

 イーレイが瞳を細める。

 

「確かにこのルールならば、まだ勝ち目はあるかもしれない」

 

 彼が資料で見た情報には神々の制約に付いて、今少年が知っている事に付いて多くが綴られており、それが事実ならば、まだ何とかなるかもしえないとも思えた。

 

「旧き者達が課した神々への制約。この島内部で力を使えない。人々を導かなければならない。それに対して縛りを破る場合でも恐らく“神としての制約”を超えられない。あの星がこれほどに近付いても地表に影響が出ていないのはおかしいが、それも規制の順守によるものだろう」

 

 角の騎士レメトロが竜神の事を思い出して、確かにと頷ける話だと顎に手を当てる。

 

「(; ◎`д◎´)“神は人を導く存在であらねばならない”“神は人々にとって偉大であらねばならない”“神は試練を課しても理不尽であってはならない”……“他にも色々と制限はあるだろうが、神は規定された通りにしか動けず。その縛りを拡大解釈しても限度がある”」

 

「つまり、今回の攻撃は……」

 

 イーレイの言葉にゴライアスが頷く。

 

「(; ◎`д◎´)“神は試練を与える”……“法に則れば、これは我らが乗り越えられない試練ではない……神は神として規定されている限り、その縛りの範囲で神らしからぬ行為が出来ない”」

 

「つまり、偉大なる者が群れていては話にならないし、今回の攻撃が試練ならば、島の力で超えられない攻撃は出来ない、という事で良いのだろうか?」

 

 エルの言葉にゴライアスが肯定した。

 

「(。-`ω-)“恐らく、力を最大限に発揮した神の限度を初手で使って来た。これは島の中で行う行為ではない為に完全な全力が出せる上、能力を島内部に行使しない為、間接的ではあっても最大出力で魔力や能力が使用可能だ。しかし、神は自らの既定は超えられない。故に複数人では攻撃出来ず、相手は単体となる”」

 

「あの岩塊をどうにか出来たとして、真正神が島内部で自分の破滅も顧みずに戦った場合は?」

 

 エルの言葉にゴライアスは資料の最後の頁を見せた。

 

「(。-`ω-)“想定では瞬間最大能力は受肉神の4000倍から限界値で1万倍は出せると思われるが、それをした場合、神そのものが自壊すると考えられる”」

 

「自壊?」

 

「(。-`ω-)“禁を破れば、それは神ではない。規定の神を超える行いの行き付く先は自滅。その行為に及んだ際には極短時間で崩壊すると考えられる”」

 

「神々はそれを君達に教えたのかい?」

 

「(。-`ω-)“我々が神の情報を解析し続けた結果。神ではなくなった肉片の類にも規定が幾つか引っ掛かる事を確認した。そこから推測するに神よりも神殺しの類が強かったり、神を殺した存在が神になるのは全て神の既定が原因だ」

 

「規定……か」

 

「(。-`ω-)神殺しは“神の如きモノ”だが、神では無い為、制限が無い。だが、旧き者はこの世界の人々を導く為に神を創った。この世界を破壊させない為に旧き者達が神の如き者に制約を課すには“神にする法則”を創るのが手っ取り早いと推察出来る」

 

「ほ~~? 言われてみれば……ふぅむ。神が神である為に、神の如き者に世界を破壊させない為に……か。道理に適っている」

 

 エルが納得した様子となる。

 

「(。-`ω-)“……結論としてはあの小惑星を破壊すれば、自滅覚悟の神を極短時間凌ぐか。もしくは力を抑えた神が来寇後、迅速に討伐するかの二択だが、神が自滅覚悟で来た場合に耐久する事は不可能だと断じられた。今の戦力では足りない”」

 

 ゴライアスの糸蜘蛛の複眼がアルマーニアとヴァルハイル双方に向けられた。

 

「彼を呼び戻すかね?」

 

 エルの言葉にゴライアスが僅かに沈黙した。

 

「(。-`ω-)“………10秒だ”」

 

「?」

 

「(。-`ω-)“試算の結果、敵の最大火力を我らが生きて耐え切れるのは10秒が限界”“それ以上は魂も残らず消滅する”……」

 

「つまり、全力の神を10秒で屠れれば、君達は生き残れる、と?」

 

「(。-`ω-)“可能だ……その為の兵器に関しては父が造っていたものを一部流用する”」

 

「そうか……」

 

 エルが顎の無精ひげを撫でる。

 

「(。-`ω-)“あの大岩はこの世界の何処に当たっても、我らを滅ぼせる威力だが、神の試練である以上はこの島の頭上に墜ちて来る”“ならば、対策は可能……ただし、砕く、蒸発させる、破壊するのは論外だ”」

 

 それで「え?」という顔になるエレオールとイーレイだったが、ナルハには理解出来た様子でエルに視線をやって説明を求める。

 

「あ~~諸君にも分かり易く言うと。あの天を覆う大岩の質量がこの世界に直撃すれば、この世界が滅びる。だが、それを砕いてもその質量を大地が支え切れずに世界そのものが滅びる。蒸発させれば、その質量が塵となって永遠に世界を覆い、永劫の冬に沈むだろう。地上に生きる命は殆ど消え失せる」

 

 エルの事も無げな説明に多くの者達の顔が引き攣る。

 

「で、では、どうやって?」

 

 エレオールの言葉はその場の全ての者達の思いを代弁していた。

 

 それに対しゴライアスの糸蜘蛛が台の上に載って虚空に浮かぶ巨大な大岩の下に付ける。

 

「(。◎◎`ω◎◎)“我らは地を這う蟲に過ぎない。だが、地を這い、巣を造り、獲物を捕らえるのは得意だ……呪紋の可能性は無限大だと父は教えてくれる。我らは強いと母は頷くだろう。我らが生きるこの島を石ころ程度で滅ぼさせはしない”」

 

 糸蜘蛛が巨大な台上の虚空に浮かぶ岩に糸を吹き掛け、それを包むように繭を創った。

 

「(。◎◎`ω◎◎)……“地の力を司る我ら蜘蛛に天を舞う竜の力が共に在れば、あの大岩を我らの頭上より退けると確約しよう”」

 

 エルの唇がニィッと吊り上がる。

 

「姫殿下。よろしいですか?」

 

「……是非も無しでしょう。どの道、生き残るには全てを尽くさねばなりません。貴方の創ったビーメとキメラの威力を見れば、それが分かります」

 

 エレオールがエルに複雑ながらも存分にやれと頷いた。

 

「了解致しました。では、ゴライアス殿。共に参りましょうか」

 

「(。|`ω|)それはそれとしてアルマーニアにはこれから不眠不休で死なぬ程度には働いて貰う」

 

「わ、分かった……」

 

 イーレイが一瞬でぽやんとしたぬいぐるみのように様子が軟化したゴライアスに思わず頷く。

 

「(。|`ω|)イージスは地表にて観測を、ヘリオス……お前が先鋒だ。冥領のフレイより既に必要な資材搬入を開始している旨が通達されている。これより6日後、我らは世界の涯を飛び越え、あの石ころへ会いに行くとしよう」

 

 その言葉にフェクラールにいた二匹も同時に「(=゜ω゜)ノ(了解という顔)」をしたのだった。

 

『こういう時に隣国の王を呼ばぬのはどうかと思うのだが……』

 

 1人呼ばれるのを忘れられていたゼーダスは遥か天から降り落ちて来る星に肩を竦めながら、野外に骸骨姿で座っていた。

 

『……始まるのか。大神共め……新しい領土が出来た途端にコレだ。昔から変わらんな。連中の傲慢さというのは……やれやれ』

 

 こうして、蜘蛛達は天に向かう挑戦者となったのである。

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