【完結】ダンジョンとかいう危険地帯のトイレ管理は大変です   作:烏何故なくの

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第三話 タラスク退治

 

 修羅族(アスラ)の村を出てから半日。ダンジョン十九階層にて。

 私達はとあるモンスターと対峙していた。

 

 「ウ、ルルルルァァッ……」

 

 巨大な甲羅から顔を覗かせ、タラスクと呼ばれる竜は唸り声を上げた。

 亀のような体から生えたその手足は太く、大樹の幹を思わせる。生半可な防御では上から叩き潰されるだろう。

 私はゲーム知識で、スポンジのようなその舌で水を吸い上げウォータージェットカッターのように凄まじい勢いで圧縮した水を放つという攻撃的な生態をしていることを知っている。

 

 本来、こんな浅い階層にいていいモンスターではない。

 放置していれば数十人の冒険者がタラスクの餌になるだろう。

 

 そんな怪物に全く怯まず、バカさんは私達の前に出た。

 

 「このパーティには入ったばっかりだしな。ここらでオレの有用性を見せつけておこうじゃねぇか」

 

 一本の腕に私のカンテラを持ち、二本の腕で二振りの刀を構え、二本の腕で長い一本の槍を自在に振り回しながら。

 バカさんは後ろの頭で私達に話しかける。うぉ、後ろの頭に話しかけられるの慣れないな……。

 

 「竜退治は漢の誉だ。手は出してくれンなよ?」

 

 

 

 

◾️◾️

 

 

 

 

 「「「おおおおおおぉおぉッッッ!!!!」」」

 

 バカさんの三つの口が同時に叫ぶ。

 カンテラの火が凄まじい勢いで外に溢れ出し、タラスクの顔に纏わりついた。

 タラスクの視界が塞がれ、隙ができる。

 どうやら修羅族(アスラ)は炎を操る火属性らしい。それにしても凄まじい威力の魔法だ。

 

 長槍を操る腕の筋肉が隆起する。

 一瞬のタメの後、弩から放たれたような速度で、長槍がタラスクの首を貫いた。

 悲鳴もなく、タラスクの体が崩れ落ちる。もう二度と動くことはないだろう。

 

 「すっごい、ほんとに一人で片付けちゃったケロ……」

 

 ダルマが驚愕の声を漏らす。

 バカさんは大した怪我も負わず、終始タラスクを圧倒していた。

 

 うーん、本当に強いわね。深度(レベル)は四くらいまでありそう。

 これでいて修羅族(アスラ)の中では突出して強い訳じゃないらしいんだからビビる。名前に見合った戦闘力だわ。

 

 そういえばゲームの設定だと、ダンジョンの中に生息していて、対話ができるくらい人に近い種族は、ダンジョンを管理する魔人達が()()()()()()()()()()()過去の英雄の魂を複製して作り、ダンジョンに配置した存在なんだっけ。

 修羅族(アスラ)にも元になった英雄がいるのかな?

 

 私はタラスクの死体に近づき、観察してみることにした。

 無駄な傷がない。牙や鱗はいい値段で売れるだろう。

 実家への仕送りもしなきゃいけないし、なるべくお金になるような部位は剥いでおきたい。

 

 特に気になるのは水を吸い上げる特別な舌かな。

 凄まじい吸水性があるらしい。一部では高級なタオルとして扱われているとか。

 

 「……これを使えば、凄い高性能のオムツができないかな」

 

 最近は人間用のトイレが使えない半馬人(ケンタウロス)もダンジョンに潜るようになったことだし、彼ら用のオムツは必ず必要になるはず。

 タラスクの舌なんて貴重な素材を使った物を一般化できるかはわからないけど。

 そもそもトイレっていう文化がない相手にオムツの文化を広められるかな。

 

 考え込んでいる私にバカさんがちょっと微妙な表情をしながら話しかけてくる。

 

 「竜を倒した後もシモの話か? 常にトイレのことを考えてんだな。たまにはなんかこう、外の世界のロマンのある話も聞かせてくれや」

 

 ロマン、ロマンか。

 うーん、何があるかな。バカさんはダンジョンの中の民族だし、外の世界の話がいいかな?

 なんかあったっけ。

 ロマンっていうと夢が膨らむような話のことだよな。

 

 「……えっと、そうですね。このダンジョンを管理しているピレアニナの軍部には、竜騎兵というワイバーンという下級の竜に乗って戦う人がいるんですが」

 「ヘェ」

 

 お、バカさんがくいついてきた。

 竜の話を入れたのがよかったかな?

 

 「竜を乗りこなすのは難しく、竜騎兵は数人しかいないんですよ。で、竜を乗りこなせない理由として一番大きいのは、竜の背中で尿を漏らしてしまい、プライドの高い竜に嫌われてしまうというものなんです。長時間寒い上空を飛ぶ竜の背中で排泄を我慢し続けるのは難しいらしいんですね。だから高性能なオムツを量産できれば、軍部が太い顧客になってくれるはず……」

 「ンー、オムツのロマンある話じゃなくて竜のロマンある話が聞きたかったかなァ」

 

 む、違ったか。

 会話って難しいよ。

 

 「フローは頭がトイレに侵食されとるからなぁ。昔はこうでもなかったんじゃが」

 「タタン爺さんは昔から失礼だよね」

 

 昔のタタン爺さんに比べたら良くなったけど、それでもちょくちょく酷い発言が飛び出すんだよな。

 昔の私はよくこの人を口説き落としたよ。

 

 バカさんは逆にタタン爺さんに興味を持ったようで、爺さんに話しかけた。

 

 「お、フローと昔馴染みなのか? いつから一緒にいるンだ」

 「三年前ほど前かのう。『トイレを作りたいから腕を貸してくれ』なんて言うエルフが突っ込んできた時は自分の目を疑ったわい。最初は手を貸す気にはならなかったんじゃが、ワシの村がこいつの持ち込んだ安価な石鹸のおかげで風邪を引く奴がばったり減ってのう。流石に恩を感じたんじゃ」

 

 え、そうだったの? 

 なんか急に態度が軟化したと思ったらそういう事情があったんだ。

 現代知識チートで石鹸を作ってなければ危なかった……。

 

 「ダルマはいつからフローと知り合ったんだ?」

 「三ヶ月前ケロ。フローの作っていた公衆水洗トイレがゴーストへの対策が甘かったから、ゴースト除けの祝詞を書いてやったら『落書き犯め覚悟しろ』ってボコボコにされたケロ」

 「結構最近なんだな……」

 

 その件では大変申し訳ございませんでした…………。

 

 トイレの落書きって昔からする奴がいるのよね。

 日本でも、江戸時代からトイレの落書きってあったみたいだし。

 たまに誰でも使える呪詛の術式とか書いてるヤベー奴がいるから放置できないし……。

 

 




魔法という、術式さえあれば大勢の人が行使できる技術があるおかげで、革命家がトイレの落書きの中に危険で強力な魔法の術式を書いて仲間に魔法を広めたりとかがありがちな世界。
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