【完結】ダンジョンとかいう危険地帯のトイレ管理は大変です   作:烏何故なくの

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第四話 マタンゴとの出会い

 

 トイレを設置し終えて数日。

 特に問題は報告されず、私はようやく一安心できた。

 

 しかし安心はできない。

 危険な生物が蔓延るダンジョンのトイレなど、いつ壊されてもおかしくないのだ。

 そこで私は、ダンジョンの中に拠点を設けることにした。

 

 貴重なザイトルクワエの木を使った特製の小屋をダンジョンの中に作った。

 ザイトルクワエは魔力を込めると自分の体を治す性質があり、これで私が魔力を込めればどれだけ傷つけられようと壊れない。

 魔法人形(ゴーレム)にしているから、何か危険なモンスターが出てきた時は小屋ごと歩いて逃げることができる。

 宿としても運営すれば、お金も冒険者からもぎ取れるだろう。完璧である。

 

 宿を置くのは第二階層。

 二階層の入り口では、冒険者相手に商売しようとダンジョンの中で露店を開いている奴が集まっている。

 ここでなら物資を補給できるし人通りも多い。

 大勢のパーティが深層に挑戦している時は、深層に宿を移すのもいいだろう。

 

 私は作った小屋を『フローの宿屋』と名づけ、ここに住むことにした。

 タタン爺さんとダルマ、バカさんも一緒に小屋の管理をしてくれている。

 私が雇っている猪面人(オーク)も仕事の後は小屋に泊まっていく。

 外から依頼などが来なければ、基本的に私達はダンジョンの中に篭ることになった。

 

 

 

 

◾️◾️

 

 

 

 

 ダンジョンに『フローの宿屋』を作って三ヶ月ほど経った。

 それだけの期間ダンジョンを過ごしていれば、色んなモンスターに会う。

 危険な奴にも、貴重な奴にも。

 今日私が出会ったのは、その中でも特に貴重な存在だ。

 

 「よ〜しよし、怖くないよ〜?」

 

 猫撫で声で、私は目の前の存在に語りかける。

 私の目線の先では、人間の子供くらいの大きさのキノコが震えていた。

 

 茸人(マタンゴ)

 キノコに人間の手足が生えたような姿をしている、『闘牛迷宮』にも出てくる私の推しの一人である。

 その愛らしい体を揺らして主人公を誘い、後をついていくとアイテムのある場所まで連れて行ってくれるレアな存在なのである。

 

 茸人(マタンゴ)は体をふるふると震わせながら、私を見つめている。……見つめているのか? 

 体を私の方に向けているから、興味は持ってくれているんだと思う。

 

 「フローに魔物を愛でる趣味があったとは驚きじゃのう……」

 「んー、まぁこの子は特別かな」

 

 茸人(マタンゴ)からは目を逸らさず、タタン爺さんの問いに答える。

 そこまでモンスターが好きな訳じゃないけど、この子はなんて言ったって推しである。

 この世界で最初に会った推し。すりすりしたいぜ。

 

 しばらく手招きしてると、茸人(マタンゴ)は恐る恐る近づいてきた。

 ゆっくりとキノコの傘の部分を私の指に擦りつけてくれる。

 正直逃げられると思ってたけど……。敵意が無いって分かってくれたのかな。

 

 「……なんだか見てるとお腹減ってくるケロね。捕まえたら食べるケロ?」

 「食べんな。あとで体内の魔力を調整してやるから」

 「空腹は無理に抑えるもんじゃないケロ」

 

 「あー、質問があンだが」

 「どうしたの?」

 

 ダルマの発言にツッコミを入れていると、バカさんが質問の声を上げた。

 三ヶ月一緒にいたが、バカさんには未だに敬語を使ってしまう。バカって呼び捨てにするとね、ちょっとアレだからね。

 

 「なんで魔力操作で空腹が抑えられるんだ?」

 「えーとね、魔力って血液中を流れてるんですよ。魔力を操作できるようになると魔力を含んでる血液を操れるようになって、血液を操れるようになると臓器の機能もちょっと調整できるようになります」

 

 そしてこの世界の強者はだいたい自分の肉体をコントロールする術を身につけている。二十階層まで潜る冒険者は、だいたいが飲食も排泄もしないで三日間は戦える。

 その理由がこれだ。

 魔法が使えなくても魔力操作を学ぶことはできるので、冒険者には必須の技能だ。

 私も一週間くらいなら飲まず食わずで戦える。

 

 「あー、この前言ってた深度(レベル)ってのは魔法の熟練度みたいなもんか?」

 「ちょっと違いますね。正確に言うと血液中の魔力の濃度です。血液中の魔力の濃度が濃ゆければ、血をより正確に精密に操れてるんです」

 

 バカさんが攻撃する時、筋肉が異常に隆起させたりできるのも深度(レベル)が高いからなんじゃないかな。

 いや、筋肉と血の関係とか詳しい事は知らんけど。

 

 「深度(レベル)ってのは五段階ありまして。私とバカさんは深度(レベル)四くらいですね」

 「へぇ……。じゃあ深度(レベル)五ってのはどのくらい強いんだ?」

 「それはもう凄まじいですよ。ダンジョンの奥深くに潜む魔人と同等の存在になると言われています」

 

 茸人(マタンゴ)を撫でながら私は言う。

 

 異界の奥底に潜み、この人間世界に死や飢餓を齎そうとする魔人達。

 魔人にどのぐらい近いか、どのくらい魔に近づいたかを現す単位。だから深度と呼ばれている。

 

 「そうですね、深度(レベル)五まで至った者特有の現象として、死体を密室に放置するとダンジョンができるというのもあります」

 

 ダンジョンとは莫大な制御されていない魔力が世界に開けた穴だ。

 深度(レベル)五の死体は、世界に穴を開けるほどの力を持つ。

 

 「じゃあこのマルアト神殿迷宮も誰かの死体からできてンのか?」

 「そうですね。アルル・ブリキ。東方の英雄で、古竜(オールドドラゴン)に呑み込まれながらも胃袋の中で剣を振るい、そのまま仕留めた女傑の死体からこのダンジョンはできたと言われています」

 

 しかしアルル・ブリキは胃袋で大暴れして力尽きてしまった。

 彼女の死体は胃袋という密室の中で朽ちていった。だからダンジョンが生まれたのだ。

 ちなみにダンジョンは周囲の地形をコピーして作られるため、四十階層ほどから古竜(オールドドラゴン)の屍肉がダンジョンを構成し出したりする。

 

 私の話を聞いていた茸人(マタンゴ)は、私の指に頭を擦りつけるのをやめ、じっと私の話を聞いていた。

 ……あんまり面白い話じゃなかったかな。

 

 「そろそろ行きましょ。撫でさせてくれてありがとうね、キノコさん。もしよかったら私の宿に顔を出して?」

 

 最後にそう言って茸人(マタンゴ)から離れる。

 推しとの距離感はこれくらいがいいのかもしれない。

 

 「うーん、キノコ汁……。やっぱり食べちゃダメケロ?」

 「やめなさい、毒があるかもでしょ」

 

 っていうかそもそも茸人(マタンゴ)を狩れるわけがない。

 茸人(マタンゴ)はだいたいが『深度(レベル)五』相当の存在である。

 バカさんがいても戦いにならんわ。

 

 

 

 

◾️◾️

 

 

 

 

 茸人(マタンゴ)に出会った日から、ちょくちょく茸人(マタンゴ)が『フローの宿屋』に顔を出すようになった。

 モンスターがこんなに人が密集してる場所に来たら騒ぎになりそうなもんだけど、全然騒ぎにならない。

 誰にも見つからずに、いつのまにか『フローの宿屋』に侵入している。

 流石のラスボススペックである。

 

 今日はタタン爺さんが茸人(マタンゴ)との触れ合いに挑戦している。

 

 「こうして頭を擦り付けられるとかわええもんじゃのう……」

 「犬見たいね。昼食の残りでもあげようかな」

 「おいおい、こいつには口がないじゃろ。多分排泄もせんよな」

 

 ………え?

 茸人(マタンゴ)が、排泄を、しない?

 

 「ぃや、いやいや。排泄をしないって……え?」

 「だってキノコじゃろこいつ。糞もせんじゃろ」

 

 思いつきもしなかった、その可能性。

 それは私に、世界がひっくり返るような衝撃を与えた。

 

 いや、え、え? 排泄をしない……?

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 「…………あ、あびゃあぁあぁあぁぁあぁぁ〜〜〜〜〜………」

 「ふ、フロー?! どうしたんじゃ!!」

 

 私は膝から崩れ落ち、床にぶっ倒れた。

 

 

 

 

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