透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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これがやりたかったのですよ、マジで。

そしてこれがこの先の展開にガッツリ関わってくるので、どうかご注目を。

そしていよいよ明日ですよみなさん、石の準備は大丈夫でか?イベントをやりまくる元気は残っていますか?…‥あ、そこは個人差がありますよね。

それでは本編へ……どうぞ!一応メモロビのネタバレ注意です。


閑話2
マッシュ・バーンデッドと災厄な恋する狐


 

 

 

 

「…………………困ったな」

 

ぐすんっ…えぐっ……

 

 

 

 

 

 今、マッシュ・バーンデッドは窮地に立たされていた。

その理由は一つ……今、彼の眼前にいる生徒が縋り付くようにギャン泣きしていることだ

 

 

 

 

 

「え……えーと……あの、なんて言うか…」

 

「嫌いに…嫌いにならないでください…!!」

 

「いや別にそこまでじゃ」

 

「これから、あなた様をがっかりさせないように努力いたしますので…!どうか…どうかぁ…!!」

 

「まって、絵図がすごいから……力つよ……あ、待って服破れる破れる」

 

 

 

 

 

 

 服に縋り付いて顔を涙でぐしゃぐしゃにしているのは、キヴォトスで悪名高い凶悪犯罪者として知られる七囚人が一人、狐坂ワカモだった。マッシュはこれまで不良を制圧してきた際と変わらず、ワカモに対して説教を通して行いを咎めたのだが───結果は彼にとってあまりにも予想外なものになっていた。

 

 

 

 

 

 

「――……ほんとに、どうしよう」

 

 

 

 

 

 時は、この日の朝頃にまで遡る───

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「シューはシュークリームのシュ〜、クーはシュークリームのク〜……やっぱりシュークリームクラブがいるシュークリーム屋さんで買ったシュークリームは格別だ」

 

 

 

 

 

 

 某日。

 マッシュはこれまで通り日課のトレーニングを終えてから行きつけの店へシュークリームを買いに行き、手に入れたシュークリームを一つ食べつつシャーレの部室へと戻っている最中だった。

 

 

 

 

 

 

「今度新作メニューが出るみたいだから買いに行こうかな……僕だけじゃなくて、アビドスや他の子達にも………ん?」

 

 

 

 

 

 シュークリームのことを考えながら帰っていたマッシュは、ヘルメット団とみられる不良たちが屯している現場に遭遇した。どうやら三人の不良生徒に市民が絡まれているらしく、被害者はキヴォトスでよく見られる犬の獣人のようだ。

 小柄なパグの特徴を持つ市民は小綺麗なスーツを几帳面に着用していることから、富裕で多くの金を巻き上げられると同時に抵抗されても丸め込みやすいと見られ、目をつけられてしまったようだった。

 

 

 

 

 

「おいこらぁ!」

 

「ヒッ!?な、なんですか!?」

 

「今お前がくしゃみをしたせいで、姉さんがびっくりしてアイスを落としちまったじゃねえか!」

 

「どう落とし前つけてくれるんだ?罰として弁償してもらわないとなぁ!!」

 

「そ、そんな!ただくしゃみをしただけで!?」

 

「オルァ!さっさと金―」

 

 

「テイッ」ブンッ!

 

「アベッ!!?」

 

「な、おま──」

 

「テリャ」ブンッ!!

 

「ブギャア!?」

 

 

 

 

 

 直ちにその場へ飛び込んだマッシュは、瞬発的な手刀でヘルメットの首元を撥ねて不良たちの意識を絶ち、市民の救出に成功した。彼女たちを脇に寄せたマッシュは、先生として市民に謝罪する。

 

 

 

 

 

「僕の生徒がすみません」

 

「い、いえ!寧ろ私の方が助かったというか……」

 

「何かあればシャーレに連絡を、この子達と一緒に頭でもなんでも下げますので」

 

「そこまでせずとも……それにもう助けてくれただけで十分です。この子達と大差ない歳で先生として働かれている貴方には、感謝しかありませんから」

 

「そうですか…それじゃあ僕は、この子達を連れて帰りますね」

 

「はい!本当にありが――へっくバァンッ!!!どわっひゃぁ!!?」

 

 

 

 

 

 犬市民がマッシュの眼の前でクシャミをした瞬間、殺意の籠もった銃声が空気を切り裂いて足元を穿った。

 しかしその狙いはマッシュではなく、犬市民と倒れている不良達に向けられている。即座に市民の襟首を掴んで引き寄せたマッシュは、電柱の影に飛び込んで周囲を警戒する。

 

 

 

 

 

「すみません」グイッ!

 

「んわっ!?」

 

 

 

 

 どうやら犬市民の足元を狙ったようだが、万が一の可能性を避けたかったマッシュは犬市民を右肩に乗せ、同時に倒れている生徒を左肩に担ぎ上げて回避した。その場から離れる過程で狙撃の射点と思しき場を振り返った際、マッシュの目には確かに、身を隠す赤黒い人影が映った。

 

 

 

 

「今のは……」

 

「調子が悪くてクシャミをしただけなのに……!」

 

「ひとまずここから離れてください、この子達はこのままヴァルキューレに保護してもらってください」

 

「あ、あなたは?」

 

「ちょっと用事が、今できまして……失礼します」ビュン!

 

「早!?―と……とりあえず、ヴァルキューレに連絡しておかないと……」

 

 

 

 

 マッシュの指示を受けた市民はヴァルキューレ警察学校に通報を行い、程なくして遠方からパトロールカーのサイレンが聞こえてきた。赤黒い影はその音を察知してその場から離れるが、マッシュはそれを追跡して影が隠れた十字路の角へ飛び込んだ。

 
(あれ、誰もいない……いや、なんかあった───花?)
 飛び込んだ角には既に人の気配はなかったものの、梅の花をあしらったような飾り物が落ちていた──いや、状況を鑑みて、明らかに意図的に置かれたものだろう。マッシュは直ちに周囲を警戒するが、その過程で少し先の曲がり角から彼を見つめる影を見つけた。
 
(一体、何を──)
 
 影は、マッシュが花飾りを拾ったことを確かめるとともに、角の向こうへと再び消えていく。マッシュは再び影を追跡し、その過程でD.U.の近郊区へと走り出していくのだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「こっちらへんに逃げたような……」

 

「…ん?おいそこの男!ここを誰の領地(シマ)だと思ってんだ!?」

 

「あ、それはごめん……けど今は通してくれないかな?ちょっと用事があって」

 

「そんなもん知ったこっちゃねえ!さっさとそこから」

 

 

 

 

 

 刹那、何か不良たちとマッシュのもとへと割り込む形で飛び込んでくる。その接近(による空気の微震)を察知したマッシュは、偶然近くに詰め寄ってきた不良の手からカービンをひったくると、ハンドガードを握ってバットのように振るう。

 大まかな直感で振るった銃床がそれを打ち付けたと思った直後、本来の弾道から大きく跳ね上がる形で打ち上がったそれは───

 

 

 

 

 

ドォォォォォォォォォォォン!!!

 

 

 

 

盛大な空中爆発を起こして消えた。

 
「え、えぇ!!?」「なんだなんだ!?何が起こりやがった!?」

 

(今の、ただの手榴弾やGL(グレネードランチャー)の攻撃じゃない。確か、なんだっけ…セミナーの二人とキヴォトスの武器について勉強した時、教本に載ってたやつ───そうだ、小銃(ライフル)擲弾(グレネード)

 
 マッシュの予想通り、この攻撃はライフルグレネードによるものだった。しかしながら、先の攻撃はキヴォトスで一般的に使われる22mmライフルグレネードに比べて高威力で、銃床で打ち据えた手応えから考えても若干口径が大きく重かった。

 

「はい、返すよ。雑に扱ってごめん」

 
「え、あ…は、はい」

 

(……誘導されてるとしか考えられないし……うん、乗るしかないな)

 

 

 

 

 

 

 相手には、どこかマッシュを誘き寄せることを目的とするような目論見が見て取れた。マッシュはそのまま影の気配を追って走る。それが罠だったとしても、シャーレの先生として生徒の不始末を見逃すわけにもいかないのだ。

 追跡する過程、行く先々では爆破が意図的に繰り返され、爆破された地点には先程と同じ梅飾りが目印のように置かれていた。「他者を放っておけない」というマッシュの性分を理解しているかのような破壊行為を見る限り、マッシュはその者によって確実に誘導されているようだ。

 

 

 

 

「……他人を巻き込むのは、感心しないな」

 

 

 

 

 自分が狙いだったとするなら直接来い、他を巻き込むな、というのがマッシュの率直な感想だった……しかし同時に、一つの疑問が浮かんできた。

 

 

 

 

「…僕を狙っているのなら、なんでさっきの犬の人の時も、不良達の時も、僕じゃなくて近くの人を攻撃したんだろう」

 

 

 

 

 マッシュ自身を狙って放たれた銃撃や擲弾の発射が一度も行われず、まるでマッシュの周囲に存在する者を排除するかのような攻撃が繰り返されている点に、マッシュは次第に疑問を抱き始めていた。

 この追跡においても、通行の障害になるような不良達の溜まり場や渋滞の車列が意図的に破壊された痕跡があり、通行量が多く行先を見失う可能性がある場では爆破による人払いが行われ、一様に梅飾りが目印として置かれていた。まるで、かの生徒がマッシュを呼び寄せるために道を作っているかのようにも思われる。

 

 

 

 

(………兎にも角にも、これ以上周りに実害が出たらいよいよ収集がつかなくなる。追ってみるしかないか)

 

 

 

 

 マッシュはそう思い、とにかくその者が彼を招くがままに走り続けた。その間、他の者達を巻き込まないようにも立ち回っていくと、次第に彼らはD.U.郊外の中でも人口が疎らな地域へと行き着いていた。周囲を見渡すと日は落ちており、時刻は既に午後6時40分近くを回っていた。

 

 

 

 

「ここら辺……かな」

 

 

 

 終着点は人気のない広い道路──恐らく、付近の廃工場に繋がっていたものと思われる産業道路であり、そこから微かに人の気配が感じ取られた。休憩のつもりで、マッシュがシュークリームを食べようと懐に手を入れた瞬間

 

 

 

 

 

「――っぶな」パシッ!

 

 

 

 

一発の弾丸が放たれた。

 マッシュはそれをいつものように素手で掴み取ったものの、指先には久しく感じなかったヒリヒリとした感覚が残る。マッシュがその射点を警戒すると、曳光弾のような赤い飛跡が放たれた地点から、一人の人物が現れた。それも、何故か頬を赤らめて異様なまでにそわそわとしながら。

 

 

 

 

 

「これです……この、感覚……うふふふっ」

 

「……君は」

 

「─―ああ……やっと、やっとお会いできましたね……あなた様♡」

 

 

 

 

 

狐の面を取り、その顔を見せる生徒に、マッシュは見覚えがあった……

 キヴォトスの中でもトップクラスの犯罪者として知られる生徒達の異名、通称『七囚人』

 

 そのうち最も代表的とも言える一人であり、かつてマッシュがキヴォトス入りを果たした初日、殺し合いにも似た悶着を起こした生徒──

狐坂(こさか)ワカモ

 

 彼女が、マッシュの目の前に現れた。

 

 

 

 

 

 

「ずっと………ずぅぅぅと、あなた様に会いたいと…思っておりました」

 

「それはそれは……えっと、ワカモ…ちゃん、だったよね?」

 

「―っ!私を…そのように、お呼び頂けるとは…!」

 

「あれ、ダメだった?やっぱり失礼だよね、ごめん」

 

「いえ!むしろ…もっと言ってください!」

 

「ええ……」

 

「うふふふっ…♡」

 

 

 

 

 

 ワカモは満悦と言わんばかりの笑みを顔に満たし、ゆっくりとマッシュに歩み寄る。

 目を細めてワカモと見つめ合うマッシュは、ネオンサインのように輝くハートマークがワカモの瞳孔に浮かんでいることに気づいた。これもヘイローと同じようなものなのか、とマッシュは考えていた。

 

 

 

 

 

「あなた様と出会ってから今日この日まで……あなた様を忘れることはありませんでした」

 

「………」

 

「そしてやっと……やっっと、あなた様にお会いできたのです!それだけのために私は……この思いを、聞いて欲しくて―ただ、それだけで……うふふふっ♡」

 

「…………」

 

 

 

 

 ワカモがマッシュの直前まで近づいた。手を伸ばせばマッシュの頬に触れるような距離で、顔を赤らめ恍惚とした視線でマッシュを舐め回すワカモ。そのまま彼女は、身を委ねるように体をくねらせてマッシュに接近し───

 

 

 

 

 

「さあ……あなた様、もっと……もっとこちらへ…♡」

 

 

 

 

 

とろけるような声で彼を誘った……そんなワカモに対しマッシュは右手を差し出すと、ワカモの頬に近づける――のではなく

 

 

 

 

 

 

「こら」ベシッ!

 

きゃぅんっ!?

 

「人に迷惑かけちゃダメでしょ」

 

 

 

 

 

ワカモの頭に向かって軽くチョップを繰り出した。ワカモの頭の硬さはミカほどではないものの、全力で叩くには少し手を痛めそうだ、とマッシュは思う。

 

 

 

 

 

「あ、あなた様?いきなり…なにを?」

 

「『何を?』じゃないよ。僕に会いたいならこんな方法じゃなくて、直接シャーレに来てお話してくれればよかったのに」

 

「それはその……恥ずかしい…と言いますか…///」

 

「基準がわからない」

 

「そ、それにシャーレの近くでは、他の女達が目を光らせています!迂闊に私が近づいて通報されようものなら、ヴァルキューレの子犬達と撃ち合う羽目になってしまいます!それに、私…我慢できなくって…」

 

「にしてもやりすぎだよ、他の人に迷惑はかけちゃダメ」

 

「し、しかし…」

 

「しかしじゃありません」

 

「た、例え他人を巻き込んででも、私はあなた様に会いたかったのです!心優しいあなた様なら、市街を爆破すれば確実に私の存在に気づいてくださると思って…これが最も妨害を受けにくく、確実な方法だったのです!これに関して、私は反省も後悔もしておりません!!」

 

「そんな自信満々に言うことじゃないよそれ……困ったな」

 

 

 

 

 

 

 この手の生徒に関しては色々と関わってきたマッシュ、けれどワカモみたいに自分と会うためだけにここまでした、と言う生徒は初である。それ故にちょっと困っていた……ここで叱りつけても反省はそこまでしないだろうし、またそのうちやりそうな気もしていた。

 

 鉄拳制裁でもいいが、それよりももっと効くものはないか、マッシュは考える……とそこで、マッシュの中にあるイマジナリーじいちゃんが囁く。

 

 

 

 

 

『マッシュ……マッシュや、自分が言われて一番嫌なこと……それをいってみるのじゃ』

 

「嫌なこと…………あっ」

 

 

 

 

 

 マッシュは一つの思いつきを試すことにした。

 

 

 

 

 

「ワカモちゃん」

 

「はい、あなた様♡」

 

「あんまりこう言うことを続けると………

 

 

 

 

 

 

 

 

僕、ワカモちゃんのことが嫌いになっちゃうかもしれないよ

 

 

 

 

 

 お前が嫌いだ、という旨の言葉をぶつけられることが、マッシュにとって最も心苦しく悲しいことだった。ホシノやヒナに嫌われようものなら何も考えられなくなるだろうし、そんなことを想像することすら嫌だった……これが効果を示すだろうか、と思っていた矢先。

 

 

 

 

「………………………………

 

(………あれ、結構……効いてる?)

 

「そ…そん…な…ぁ……」

 

(………おっと?)

 

「……なさい…」

 

「?」

 

 

 

 

 

ごめんなさい!…ぐすっぐすん…ごめんなさぁぁぁぁぁぁぁい!!!

 

「………………OH」

 

 

 

 

 

 

 純粋無垢なマッシュの口から「嫌い」という発言が飛び出したこともあってか、予想外の言葉に心を深く抉られたワカモは「ギャン泣き」と形容するに余りある号哭と絶叫を上げた。

 あまりのリアクションを前に「やらかした」「やりすぎた」と思い知らされたマッシュは、事態を収集してワカモを慰めるために考えを巡らせる。

 

 

 

 

 

「…………………困ったな」

 

「グスッ…エグッ……」

 

 

 

 

そして、この話は冒頭に戻る。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

ごめんなさいごめんなさいごめんなさいごめんなさい!!ごめん、なさい…!どうか、きらいに…ならないでぇぇ……!

 

「ワカモちゃん、ほら、一度落ち着こう?」

 

「グスッ…あなた様に嫌われるなん…エグッ…て、ワカモは耐えられません…!!」

 

「そ、そうだよね?人間みんな人に嫌われたくないよね?」

 

「あなた様に嫌われて、否定されて、遠のいてしまった…………そんな、そんな私はもう」

 

「ワカモちゃん?」

 

 

 

 

 

 

 ワカモは突如、縋り付いていたマッシュの腹から離れて路上に正座した。

 先の攻撃に使ったであろう擲弾発射器を捨て、愛銃『真紅の災厄』の銃口に接続されていた三十年式銃剣を取り外したワカモは、銃剣の刃先をそのまま自分の腹に突きつけた。

 

 

 

 

 

死ぬしかありません

 

「待って待って待って待って待って」ガシッ!

 

「離してくださいぃ…!…うぅぅっ!!」

 

「ダメダメ、本当にダメ」

 

 

 

 

 百鬼夜行の逸話として聞いたことしかない「切腹」をマッシュの前で実演し始めるワカモを、マッシュがその腕力(かいなぢから)で拘束する。ここまで思い詰めさせることは想定外だったマッシュは、突き立てられた銃剣をワカモの腹から引き剥がすが、対するワカモは全力で刃先を自分のへそ上に差し込もうとする。

 

 

 

 

 

「あなた様に、先生に、愛している殿方に嫌われるなど…!!絶望、もう生きてはいられません!!」

 

「いや『嫌いになるかもしれないよ?』って言っただけで、本当に嫌いになったわけじゃないってば…………待って、サラッと愛してるって言った?」

 

「ぁ………………っ―ぅぅぅぅぅぅ!!///

 

「ごめんごめんごめん無神経だったよね……とりあえず、ほら、武器しまって」

 

「あぁうぅぅ……」

 

 

 

 

 

 

 数十分後、一度ワカモを落ち着かせたマッシュは場所を変え、近くの公園へと連れてきた。さしもの筋肉にも疲労を感じ、ベンチに身を預けながら缶ジュースを飲み干すマッシュ。ワカモはその隣で、負い目を感じているのかちょこんと縮こまるように座っている。

 

 

 

 

 

「………申し訳ありません、私としたことが…」

 

「いや……その、僕も悪かったから」

 

「そんなことはありません!た、ただ私がヒステリックになって…それで」

 

「そうなるかもしれないって思わなかった僕が悪いんだ、ごめんね」

 

「あなた様……」

 

 

 

 

 

 

 

 ギュッ…とワカモは膝の上で拳を握りしめ、顔を顰める。

 

 

 

 対してマッシュは、これからのワカモに対する処遇を考えあぐねていた。

 シャーレ顧問として、そして生徒の友として、破壊行為やテロリズムに手を染める生徒を指導して真っ当な道に引き戻すことは絶対条件なのだが、知っての通りワカモの趣味は『破壊・略奪』の役満。……性分がこの有り様では、改心させることなど不可能に近い。

 

 

 

 加えて先の突飛極まる銃剣での割腹(未遂)を鑑みると、マッシュと袂を分かった暁には命を絶ちかねない。

 どこかで聞いた『ヤンデレ』に近いものを感じ取ったマッシュだったが、解決の糸口になるような好機は見当たらなかった。

 

 

 

 

 

 

「……所で、さっき僕のことを愛してるって言ってたけど」

 

「は、はい…!私は…あなた様のことも」

 

「僕も好きだよ」

 

「………………………はぃ?」

 

「先生なんだから、生徒を愛しているのは当たり前だよ」

 

「……あ…ああ…そう言う…こと、ですね」

 

「いやぁ嬉しいな、生徒から愛されてるっていうのは」

 

 

 

 

 

 

 愛している……世間一般的に見れば告白なのだが、マッシュはこれを『異性として』ではなく『教師と生徒の間柄として』と認識していた……家族愛や友愛と同様に、友好関係を示すものである。

 

 

 

 

 

 

「…あなた様は、私のことを…好きと?」

 

「うん、生徒は愛してなんぼだし」

 

「問題児でも?」

 

「今更だよ、今まで結構な数の問題児達と会って来たし」

 

「先生に会うためだけに、他を巻き込んだ私を?」

 

「他を巻き込んだことに対してはまだ怒ってるよ、けど僕に会いにきてくれたのは嬉しいかな」

 

「……先生に、害をなそうとしたものを排除しようとした、私を?」

 

「それは初耳だ……あ、あの犬と人と不良生徒を撃ったのはそれが理由?」

 

「はい……犬の方に関しては、威嚇のつもりでした……私の愛している方に風邪を感染させようものなら、どうするつもりなのか…と」

 

「ふむ」

 

「不良生徒には……その、あまりの不躾さに殺意がこもってしまい……つい」

 

「……結構な威力だったもんね」

 

「――そんな私を、あなた様は…マッシュ様は、愛している…と?」

 

 

 

 

 

 ワカモがマッシュの隣へと近づく。マッシュは少し思案してから、自分の意見を述べる。

 

 

 

 

「手のかかる子ほど可愛い…っていうでしょ?あれかな、ワカモちゃんは確かにやりすぎたし、他を巻き込んでもいいっていう考えは間違ってるから改めよっか」

 

「う…」

 

「でも……愛かな、それは伝わってきたよ。今思えば今までずっと、ワカモちゃんとの時間が全く作れたなかったよね……ごめんね、置いてけぼりみたいな感じになって」

 

「―――あぁ……あなた様は……優しすぎます」

 

「よく言われるよ、それで怒られたりもした」

 

「こんな私を愛してくれると…こんな私を否定しないと……あなた様はそうおっしゃるのですね」

 

「犯罪に関しては絶対に認められないけど―─存在に関しては、否定しないよ。ワカモちゃんも僕の大事な生徒なんだ。他の生徒の皆や、キヴォトスの人達と同じように、愛すよ

 

 

 

 

 

ポッ……と、ワカモの顔が赤くなる。ずるい、そんな言葉をつらつらをいうのはあまりにも卑怯だ……尻尾も揺れ、耳もぴこぴこと動き、醜態を晒してしまっていると思うと……余計に恥ずかしくなる。

 

 

 

 

 

 

「嬉しさよりも……小恥ずかしさが、勝ってしまいます……うぅ」

 

「褒めて伸ばすタイプなので……それでさ、ワカモちゃん」

 

「は、はい!」

 

 

 

 

 

マッシュは、ある提案をワカモにした。

 

 

 

 

 

「僕はワカモちゃんの犯罪行為をこれ以上止めたい……けれどそれは同時にワカモちゃんの楽しみを奪うことでもある」

 

「えっと、あなた様がするなと命令を出してくれれば、私は」

 

「そこで僕はあることを考えたんだ…ワカモちゃん」

 

 

 

 

 

 

 

 マッシュが提案した内容──それは、これまでの彼女の認識からはかけ離れた、夢のように信じ難いものだった。

 

 

 

 

 

 

「シャーレに来ないかな?…いわゆる…付き人、仕事仲間?みたいな感じで」

 

「なん……と…?」

 

「正直前々から考えてたんだ、ほら、僕一人って結構……寂しいし」

 

「……………」

 

 

 

 

 

 シャーレ内は常に一人、もちろん当番制があるのでずっとではないが……一人であることが多いのも事実。そこでマッシュは、ヒナに提案した内容と同様に、シャーレで共に働く仲間になることを提案したのである。

 

 

 

 

 

「いいの…ですか?七囚人である私をシャーレに、なんて……い、いえ!そもそも連邦生徒会がそれを許すとは」

 

「そう、そこだよ。七囚人を庇う……ということではなく、七囚人を僕の元で監視する、といった感じで一緒に生活しようかな、と」

 

「なんと……」

 

「これはただの憶測なんだけど……ワカモちゃんは、あの脱走した日からずっと一人だったんじゃない?―そう思うと、なおさら一緒にいたいなー、なんてさ」

 

「そこまで…あなた様は」

 

「うん、考えた」

 

 

 

 

 

 

 マッシュの目を見ればすぐにわかる……嘘は全く言っていない、稀に見るお人好し、善人、キヴォトスでは珍しく勿体ないくらいに素直な青年……ワカモは自分がマッシュに惚れた理由が分かった――これだ、この性格に自分は惚れてしまったのだ……そう断言した。

 

 

 

 

 

「それでどうかな…?嫌だった別に」

 

「滅相もありませんっ!!」

 

「うおびっくりした」

 

「この、この災厄の狐こと……狐坂ワカモ!是非ともこの私めをあなた様の付き人に!!報酬も休暇も要りません!!24時間365日!何があってもあなた様のために働きます!!」

 

「流石にお給料とか休暇は出すよ?そこまでブラックじゃないし……とりあえず、提案は飲んでくれるってことでいいのかな?」

 

「はい!!」

 

「そっか……それは―嬉しいな」

 

 

 

 

 マッシュは立ち上がり、空き缶を潰してゴミ箱に放り込むと、ワカモに手を差し伸べた。

 

 

 

 

「これからよろしくね、ワカモちゃん」

 

「はい……はい!!」

 

 

 

 

ワカモはマッシュの手を握りながら立ち、笑顔でそう答えた。

 

愛せるものと二人同じ屋根の下にいられる……これだけで、ワカモは幸せであり

 

 

 

 

 

 

「もう死んでもかまいません……」

 

「いや死なないでね?」

 

 

 

 

 

 

人生の未練を断ち切るほどに、極楽であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「というわけでして……よろしくお願いします」

 

『……………――』バタッ!

 

「リンさん?」

 

「あなた様〜♡ シュークリームが焼き上がりましたよ〜♡」

 

「あ、すぐ行くよ」

 

 

 

 

 

 一連の連絡を聞いたリンは、予想外の衝撃に倒れてしまった。

 錐で穴を開けるような痛みが胃を襲う中、リンはヴァルキューレや同僚達に対する説明の内容を考え……真剣に悩まされることとなった。





これがやりたかったのですよ(2回目)

心強すぎる味方が手に入り、もう負けなしが見えてきたこの頃…‥あ、もうすでにか。


とりあえず今日の妹先生と弟先生。




『兄者、キャラディスは良くないと思っているが、これだけ言わせてくれ…………まじで殺意湧いたよ、このベアトリーチェって奴によぉ!!』

『まじ潰す、アリウスの子達が苦しんでる原因の半分以上こいつのせいじゃん……!!お前がやったことのせいでうちの生徒ら泣いてるんですけどぉ!?……ごめんお兄、私このキャラだけは好きになれない』

『安心してくれ二人とも、他先生達もこのキャラだけには尋常じゃないほどの殺意を沸かしてるから』



生まれて初めて殺意を抱いたキャラかもしれないベアオバ……あなたの長所はスタイルだけって二人とも言ってましたからね?この作品でも覚悟しなさい。


励みになりますのでコメントと評価、どうぞよろしくお願いします!

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