透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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疲れた……しんどい……ので、今回は特に無しです……ただ!楽しんでくださいまし…!




マッシュ・バーンデッドと暴走の庭球

 

 

(早く、早く行かなければ…!!)

 

「あ、アズサちゃん!!危険です!!」

 

「待ちなさいよアズサ!」

 

「アズサちゃん!!」

 

 

 

 

 

 白洲アズサは走る。ただ、走る。複数のミサイルがトリニティの古聖堂が位置する方角へと襲来した──と思いきや、それらが瞬間的に破壊された。

 そこまではいい。しかし問題は、それらが誰に向かって放たれたものなのか、発射地点はどこか、誰が撃ったのか……いや、考えるまでもなく答えは一つ。

 

 

 

 

家族(アリウス)だ……!)

 

 

 

 

 何を憎んでそこまでの攻撃を放ったのか……そんな気持ちが溢れに溢れ、不快な汗が流れ出す。後ろから追いかけてくる仲間の声も聞こえない。今、一番心配なのは――先生(ともだち)のこと。

 

 

 

 

 

(お願いだ先生……マッシュ、お願い……無事でいて!!)

 

「アズサちゃん…!―はぁ…はぁ…」

 

「ど、どんな脚力してんのよ…!」

 

「ダメですアズサちゃん!一人で行っては危険です――だから、止まって!!!」

 

 

 

 

 そんな事はないと信じている。しかし、相手は恐らくあの四人(自分の家族)……アズサは無我夢中で走り続ける。シュークリームパーティーを開いた場、そこからどんどん離れていく……もちろん仲間からも。

 

 

 

 

「――マッシュ…!」

 

 

 

先生ではなく、友のマッシュとして名前を呼び、アズサは止まらず走り続けた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

(失敗した。失敗した。逃した……違う、まだ終わってない。まだやり直せる……つかまえて、話をして……そうしないと―そう、しないと…)

 

「先生、止まって、止まってください!」

 

(ユスティナの人たち(使徒)は倒せる、問題は他……僕を殺すまで止まらない…それなら、それなら僕の身を使って────)

 

「せんっ……、……──マッシュゥゥゥゥゥッ!!!!ガシッ!

 

「……!! ──ツルギ、さん…?」

 

「止まって……いや、止まれ」

 

「ツルギさん、離してください。急がないと……あの子達を逃がして──」

 

「追う前に……一度冷静になれ。――拳、力が入りすぎて血が出ているぞ」

 

「……ほん…とだ――…は…ぁ…」

 

 

 

 

 

 

 ミサキを追っていたマッシュは、自分を追いかけていたツルギに手を握られて止められた。

 「先生」ではなく、「マッシュ」と、キヴォトス入りから長らく聞かされてこなかった名で呼ばれたところで…我に返ったマッシュは、やっとのことで足を止めた。

 

 その拳は既に、握り込み続けて掌に爪が刺さり、血が流れていた。その痛みや出血にすら気づかないほど、マッシュは焦りに駆られている。

 

 

 

 

 

 

「……様子がおかしい、なんてレベルじゃありませんよ────先生」

 

「……、…………」

 

「今の先生には、以前会った時にはなかったような焦りが、はっきり見えます。それに、さっきの戦い方……アレはもう戦いですらありません。単に感情と暴力に支配されているようでした…私のように荒れていながらも、やや異なる戦い方……いずれにせよ、好ましくないという意味です」

 

「ごめんなさい。つい、色々と考えちゃってて……ダメですよね、先生なのに……感情に身を任せて周りも見ずに戦うなんて」

 

「―─先生、あなたは」

 

「ちょっと頭が冷えました……行きましょう、手遅れになる前に」

 

「……了解。援護します」

 

 

 

 

 

 

 ツルギは様々な思いを抱きながらも、両手をスピンコックしながらマッシュについていく。マッシュは少し冷静になり、思考を落ち着かせて整理する……今の自分は焦りすぎている。

 本気で、落ち着け……そう思い続けながら走っていると、見知った影が見えてきた。

 

 

 

 

 

「―─いた、先生!」

 

「ヒナさん―─怪我がなさそうで良かった、無事だったんですね」

 

「空崎ヒナか?何故ここに?」

 

「こっちで相手をしていた敵の幹部が逃げ出した、それを追って私はここに来た……邪魔もあったけど」

 

「ヒナさんがいれば百人力だ」

 

「敵は、今どこに?」

 

「おそらくはあっちの方角だ……何かを企んでいるはずだから気をつけろ」

 

「了解」

 

「――じゃあ行きますか」

 

 

 

 

 

 

 合流した三人は、アリウスの生徒を追いかけて走る。その道中、マッシュがプロテインを飲み始めたり、幽体を殴ったと聞いて『なんで?』とツッコミが入ったが……いずれにせよ向かう場所は明確、程なくして三人は目指した相手へと追いつくことができた。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「来たか……マッシ――待て、何を食べている」

 

「シュークリーム」 

 

 

 

 

 

 追いかけた先にいたのは、20人程度のユスティナ使徒を従えたアリウス・スクワッドだった。しかしマッシュ達は、何故か追いついた瞬間にピクニック気分でシュークリームを食べ始める。

 

 

 

 

 

 

「………状況が分かっているのか?」

 

「分かっていてもお腹は空きますし」

 

「だとしても時と場合を――おいゲヘナの風紀委員長、何だその飲み物は」

 

「ゲヘナ給食部特製の栄養ドリンクよ」

 

「あ、美味しそう」

 

「…おい」

 

「飲む?」

 

「……おい」

 

「いただきます」

 

「私ももらえますか?」

 

「…………おい」

 

「―甘い……そして美味しい……流石はフウカちゃんだ…今度もっともらいに」

 

「おい!!!」

 

『?』

 

「貴様ら!!何だその弛み具合は!!危機感はないのか!!?」

 

 

 

 

 

 自分達をほっぽってシュークリームを食べたり栄養ドリンクを飲んだりしているマッシュ達に腹が立ったサオリは叫ぶ。後ろにいた他スクワッドメンバーも「さっきまでの緊張感は何処…?」と疑問を持たずにはいられない。

 

 

 

 

 

「………はっ……私は、今…何を…?」

 

「ツッコミを入れてたよ、リーダー」

 

「……私が…そんな、くだらないものを?」

 

「うん」

 

「………これも貴様の力か、マッシュ・バーンデッド」

 

「多分何もないと思いますけど…」

 

「危うく奴の術中にハマるところだった……ミサキ、助かった」

 

「私関係ないって…」

 

 

 

 

 

 そんな会話を聞いていたマッシュ、何となく、既視感がある……と言うか、シリアスな場面ではこう言う事が多々起きるなーと思っていた時、1人の少女に目が言った。

 

 

 

 

 

「君は、あの時の」

 

「…」

 

「敵になっちゃったのは……残念だけど、会えて良かった。もう二度と会えないかと―─」

 

「気安く、姫に、アツコに話しかけるな」

 

 

 

 

 

 マッシュがアツコに話しかけることを許さず、殺意を向けながらアツコを下がらせるサオリ。

 マッシュは少し萎れたように肩を落とすが、ここでようやく名前を知ることができたことを喜んでいた。

 

 

 

 

 

「アツコ……アツコちゃんって言うんだね、覚えた」

 

「アツコ、下がっていろ……マッシュ・バーンデッド、貴様はやはり…腹立たしい存在だ」

 

「何故そこまで先生を嫌う」

 

「この男のせいで、姫は光を見た……この男のせいで、姫は、アリウスは苦しんだんだ」

 

「……何を言っているのかさっぱりだわ。先生が貴方達に何をしたの? 先生は寧ろ、貴方達の味方になりたくて―─」

 

 

 

 

 

 

 

「それが、腹立たしいと言っているんだ!!」

 

 

 

 

 

 

 腹に響くような低音を含んだ恫喝の声に、アリウススクワッドやマッシュも驚かされ、目を見開いて静まり返る。サオリは、マッシュ殺害のために製造された特殊弾を装填したマガジンを手にすると、アリウス製アサルトライフルにマガジンを装荷して、マッシュに銃口を向けた。怒りが収まらないサオリは、止まることなくマッシュにがなり立てる。

 

 

 

 

 

「貴様が…貴様が、姫に光を見せた……その結果、姫がどれだけ苦しんだと思っている!?無責任に光を見せた貴様のせいで、姫が…どれだけっ!!」

 

「えーと、つまり……僕がアツコちゃんを苦しめた、ってこと……?」

 

「そうだ!!我々は闇に生きるもの……それなのに、それなのに希望なんてものを見せ、苦しませんだ……我々には決して手に入らないもの、我々が見ることすらできないものをお前は姫に見せた……!」

 

「…………」

 

「希望……光……そんなもの、苦しみを生むだけのまやかしだ!光が影を落とすように、私達を苦しめるだけの幻……それなのに貴様は─―何も知らないくせに、貴様は、よくものうのうと!!」

 

 

 

 

 

 

 闇の中でしか生きることができない、希望を抱くことも許されていなかったアリウス。だから忘れていた、考えないようにしていた。求めることの苦しみに、失うことの苦しみに、奪われること、羨むことの苦しみに、雁字搦めにならないように。

 

 最初から何も考えないほうがいい、何もかもを諦めればいい……それが、アリウス分校に強いられた、生き延びるための唯一の教条だった。

 

 

 

 

 

「――いい加減にしろ……先生はお前達を救い出す気で、今日ここまで働いて来た。姫と呼ばれたその生徒も、善意で、命も顧みず助けようとした……ただそれだけだろう」

 

「誰も頼んでないし、誰も望んでない……って、さっき言ったよね?」

 

「私達なんかには、そんなのいらないのに……何でそこまで押し付けてくるのか、よくわかりません……」

 

「シャーレの先生……いや、マッシュ・バーンデッド。貴様の理想など、ありがた迷惑にもならない害悪だ」

 

「貴女達……よくも……よくも先生の前で、そんな……!!」

 

「これで分かったか、マッシュ・バーンデッド……我々を救おうとするな、善意を押し付けるな……もう、何もするな……アリウスのために、彼女(マダム)の理想のために──ここで死ね!!

 

 

 

 

 

 

 口許をマスクで隠しながらも、顔を焼けるような赤に染めて殺意を噴き出すサオリ……そんなサオリに対して、マッシュは────

 

 

 

 

 

 

 

 

「嫌です」

 

「…………何、だと?今、なんと言った……!?」

 

「嫌です。絶対嫌です、超嫌です。話を聞いてよりいっそう嫌になりました……寧ろやる気が漲ってきちゃいました」

 

 

 

 

 

 

 

 

 生徒の誰も見たことがない、その表情筋からは想像もできないほどの渋面を作りながらサオリの言葉を拒絶した。これほどの言葉を浴びせられながらも意思を曲げない、あろうことかモチベーションを向上させる精神性に、アリウススクワッドとツルギ・ヒナは絶句するほかなかった。

 

 

 

 

 

 

「僕はただ、アリウスのみんなに幸せになって欲しい。元気で、笑顔でいてほしい。僕は今、その一心で動いています」

 

「それが……迷惑だと…言っているだろう」

 

「迷惑だって言われても、やっちゃうんです」

 

「何故だ」

 

「迷惑だって言われて諦めてたら、救えるものも救えなくなるからです……それに光が苦しみだって…言ってましたよね?――だったら」

 

 

 

 

 

 

 マッシュは一歩前に踏み出し、力強く、自信満々に告げる。

 

 

 

 

 

 

「僕が光を幸福に変えますよ、グーパンで」

 

「っ」

 

「君達を苦しめいる元凶……それを殴り飛ばす」

 

「そんな事できる訳がない……相手は、大人だ……大人には誰も」

 

「僕なら勝てます、大人でもなんでも―───今までも勝ってきたし」

 

「………………話にならないな」

 

 

 

 

 

 

 サオリはそう言いながら、背にした棺桶に指を触れた。サオリの接触に反応した棺桶の蓋には魔法陣に似た形の文様が出現し、サオリは手順通りにその上に表示された印字をタップする。

 操作の完了とともに、その棺桶から瘴気を思わせるガスが煙のように流れ始める。軋みながら開かれた棺桶が中に収まっていた存在を解き放ち、やがて用済みとなって倒される。そこに出現した存在に、ヒナとツルギは驚愕した。

 

 

 

 

 

「っ…何だ…あれは…!」

 

「使徒……じゃ、ない……!?先生気を付けて、あれは使徒よりも遥かに強い……!」

「何じゃありゃ」

 

「お前が私達を救うことなど……お前たちの勝利など、万に一つもない。それを今、証明しよう」

 

C O M M U N I O S A N T C T O R U M
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PANAKEIA
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 "それ"と呼ばれた存在は、ユスティナの使徒に似た肌と真っ白な天使のような羽を生やしており、さらには頭部に包帯を巻いている。

 偉人として語られるナイチンゲールのような、看護婦にも似た存在の腕に、サオリは軽く触れる。

 

 

 

「っ!」

 

 

 

───何かをする前に終わらせる。

 
 ヒナはサオリの右腕を撃ち、今まさに"それ"に触れようとしたサオリの手を弾き飛ばそうとした。これできっと、少しは動きが遅れる……そう思った瞬間

 

 

 

ドドドドッ!

 

 

 

放った弾丸がサオリの右腕を貫通し、無数の銃創を生んだ。

 キヴォトスに住まう者の体にはあり得ない、銃弾の貫通。それに加えて出血が一切伴わない、まるで紙袋に穴を開けたような傷跡を前にしたヒナは、驚愕の余り硬直した。

 

 

 

 

 

「なっ……に!?」

 

(貫通…?何が、どうなって……そこまでの威力は込めていない、せいぜいただの弾丸……なのに、何で……!?)

 

 

 

 

 

 

 その刹那、重々しく弾ける音とともに

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

グチャッ!!! ドパァッ!!!
 
「……………………えっ……?」

 

「―─空崎っ…ヒナッ!!?」

 

「ヒナ、さん……?」

 

 

 

 

 

 ヒナの右腕が突然、血と火薬の臭いとともに赤く弾け飛び、サオリの腕に生じた銃創と瓜二つの傷を生じた。ツルギやマッシュはすぐに駆け寄り、すぐに傷を確認すると……そこにはしっかりと、華奢な生徒の腕に機関銃弾が貫通した傷があった。

 

 

 

 

はッ……!?……う、ぅ……っ……!!!!」

 

「汚い布だが、我慢してくれ……!!」

 

「ヒナさん、ヒナさんしっかり」

 

 

 

 

 ツルギは咄嗟に制服の一部を破り、止血のため傷を負ったその腕を縛る。しかし、周囲には転がった弾薬や傷の中にとどまった弾は存在せず…ただ、傷だけがヒナの右腕に残っている。明らかにこれは異常だ。

 

 

 

 

 

「少し驚いたが……彼女の言った通りだったな」

 

「貴様……何をした─―何故貴様は傷を負っていない!」

 

「全てはこの……女神のおかげだ」

 

「女神だと…?」

 

「ユスティナの使徒……それの上位モデル…いや、特別モデルと言った方が良いか……この者の名は、パナケイア

 

 

 

 

 

 

 パナケイアと呼ばれた存在が動き始め、祈りを捧げるように両手を合わせながらサオリの後ろに立つ。既にサオリの傷は完全に癒えており、痕跡となる痣や痘痕すらも残っていなかった。

 

 

 

 

 

「これこそ、シャーレの先生を殺すためだけに作られた秘密兵器……マッシュ・バーンデッド抹消兵器・パナケイア…この前には、全てが無力だ」

 

「訳の分からないことを……叩き伏せて(しま)いだァッ!!」

 

「ツルギさん…!」

 

 

 

 

 

 ツルギは怒りのまま飛び出すとともに、サオリの顔に向かって飛び蹴りを放つ。蹴りが直撃した瞬間、間髪入れず肋に向かって全力の拳を振るう……するとまた

 

 

 

 

 

「―─っ…ガァッ!?……オッ……!?

 

「フン」

 

「ゴハッ!?」

 

「剣先、ツルギ……!?」

 

 

 

 

 

 ツルギの顔面と肋に衝撃が走った。サオリはツルギの体勢が崩れたと同時に、衝撃に砕けたツルギの肋にさらなる蹴りを突き込み、マッシュの傍らへと蹴り飛返した。脇腹を押さえるツルギが、血を吐きながら立ち上がる。既に彼女の肋骨は、複数本が砕かれていた。

 

 

 

 

 

「なん……だ…ぁ…何故……っ?」

 

「この兵器はユスティナ聖徒会のように自律行動するものではない。影響を与える効果対象、使用者(オペレーター)が必要なんだ。今はこの私が使用者だ。これを使用した物には、強い祝福がもたらされる」

 

「祝福……?」

 

「一つ、痛覚の一切の遮断……今の私は、ありとあらゆる痛みを感じない」

 

「だからさっきの……銃撃や、打撃に……無反応だったわけね」

 

「二つ目、私自身が受けたダメージをそのまま攻撃対象に跳ね返せる力。銃撃や打撃によって受けた傷や衝撃をそのまま相手に返せると言うわけだ」

 

「だが、明らかにおかしい……なぜ、何故ヘイローを持っている貴様が、空崎ヒナの銃撃であんな傷を負った上に、この短時間で回復している!?」

 

 

 

 

 

 

 キヴォトス人はヘイローの力ゆえか、銃弾を喰らっても平気なほどに頑丈……しかし、ヒナが放った銃弾を食らったサオリの右腕は穴だらけになった……この矛盾の意味がわからなかった。

 

 

 

 

 

「答えは至ってシンプル、リーダーの肉体強度は、祝福の効果を受ける前と比べて大きく劣化している…ただそれだけ」

 

「普通の銃弾を食らって、傷を負うほどまでには低下してる…らしいです…へへ」

 

「故に、お前たちの攻撃によって私の傷は通常よりも深くなる。傷が大きくなれば、それだけのダメージを倍加して貴様らに反射することが出来る。だからこそ、貴様らは今その状態になったわけだ」

 

(どおりで……威力が高すぎるわけだ……)

 

「三つ目…私に対する痛みや受傷、それらはパナケイアへと吸収され、私自身は受けた傷を即座に完治させることが出来る……つまりどういう事か、分かるだろう?」

 

 

 

 

 

 今のサオリは、まさしく無敵だった。銃弾一発で致命傷になりかねない、ヘイローを持たない人間と同等のレベルにまで落とされた肉体強度であっても、パナケイアのダメージ吸収と治癒能力がある限り問題にはならない。

 寧ろ銃撃を日常とするキヴォトス人に対しては、何気ない一発の攻撃が何百倍にもなるダメージとして反射され、命中箇所によっては即死に繋がるほどの傷を負わせる可能性すらある。

 

 

 

 

 

「ダメージを受けた瞬間に反射する、だが安心しろ……跳ね返す先はダメージを与えた者のみだからな」

 

「だ、だとしても…今のリーダーには、ダメージを与えられません……」

 

「つまりは不死身、無敵……あんたらの勝ち目は、最初からゼロだったってこと」

 

「………やってみないと、分からないよ」

 

 

 

 

 

 

 マッシュはツルギとヒナを側に寄せた状態で離れ、ただ一人、サオリに向かって拳を振るう。殴る先は顔、腰の入った一撃……しかしこれも、今ではただの痛手。

 

 

 

 

 

「フン―っ……フンヌ―ウゲッ…」

 

「無駄だと……言っている!!!」

 

「!」

 

 

 

 

 さらにサオリ自身も、ダメージを気にすることなく自由に動くことができる。対マッシュ用ナイフを手にマッシュを切りつけるサオリを前に、マッシュはフットワークを活かして刃を避ける。

 しかし相手は特殊部隊のエリート、刺さらずとも切りつけることで毒を与えることが可能なナイフを前に、マッシュは次第に切創を増やしていく。

 

 

 

 

 

「次第に切りつけた箇所が徐々に麻痺していき――最後は完全に動けなくなる」

 

「―───!」ゴッゴッゴッ!

 

「それでもなお続けるか…!」

 

 

 

 

 

 全てのダメージがマッシュに跳ね返っていく、普段マッシュが繰り出しいるその攻撃……その数倍の痛みがマッシュに降りかかる。対してサオリは無傷、戦況は圧倒的に…不利。

 

 

 

 

 

「そんな、せんせい…せんせい!!」

 

「っ、ぅぅっ!!」

 

 

 

 

 

 ヒナとツルギが共に動こうとするも、引き裂かれた筋肉や砕けた骨が悲鳴を上げ、彼女たちの命を激しく削っていく。二人は、その場から動けない。ヒナには骨と肉が引き裂かれる痛みが腕に襲いかかり、ツルギは呼吸すらままならない状況………

 

 

 絶望──今の状況は、そう呼ぶに相応しかった。

 

 

 

 

 

 

「………」

 

「哀れだなマッシュ・バーンデッド……更なるダメージを控えるために威力を抑えたとしても、肉体のダメージそのものは減らない……一体何本の骨を折った?」

 

「…肋がちょっとやばいかな、一本くらい逝っちゃった」

 

「腕も限界のはずだ……もうじき体も動かなくなっていくだろう」

 

「……痺れてはきてるね」

 

「―─チェックメイト、だな」

 

「…………まだ終わってない、僕はまだ生きている」

 

 

 

 

 

 

 マッシュは頭から血が流れ、口からも数滴こぼれ落ちている。腹へのダメージは凄まじく、肋の骨も折れ、腕もそろそろ動かなくなる……

 しかしまだ負けてはいない、マッシュは立っていた、その状態から変わらず。

 

 

 

 

 

「……茶番だな、くだらない……無駄な足掻きだ」

 

「足掻くことは大事だよ、足掻き続ければ、何とかなることだってあるし」

 

「――いくら変えようと努力したところで、結局はより強力な上位の存在によって潰される……象に立ち向かう蟻に勝機はない、それが現実だ」

 

「なら、その現実もろとも変えてやる」

 

「呆れた……そんな妄言が通じるとでも?」

 

「そ、そんなに怪我をして……苦しいですよね、辛いですよね……なのに何で、立つんですか?」

 

「………」

 

 

 

 

 

 傷に覆われ、瀕死に近づくマッシュ。そんなマッシュに対し、アリウススクワッドのメンバー達は呆れや疑問など様々な感情を抱いていた。この戦いに何の意味があるのか……彼女たちには、それも分からなかった。

 

 

 

 

 

「もうやめろ、マッシュ・バーンデッド……死にたいのか?」

 

「心配してくれるんだ、意外と優しいね」

 

「……この状況でも、まだそれを続けるか」

 

「続けるよ、何度でも……君らを助けるためなら」

 

「何故だ…?どうして赤の他人である我々にそこまで肩入れをする……お前に対してのメリットなど一つもないと言うのに!」

 

 

 

 

 

 マッシュは口元の血を拭いながら、思い詰めたような、溜め込んでいたような、そんな言葉を吐き出す。

 

 

 

 

 

「美味しいものを食べられない、お日様の光も満足に浴びられない、夢も見られない、娯楽も分からない……そんな子を見捨てる―─そんな最低なことはしたくないんだ」

 

「だからそれに…何のメリットが」

 

「そんなものはいらない……これはいわゆるボランティアだよ。誰かのために無償で働く、あれ」

 

「我々の苦しみを……痛みを、孤独を…理解できないお前なんぞに」

 

「そりゃあ僕は君たちじゃないから、その苦しみや怒りを理解できるとは到底思えない……想像ができる程じゃないの確実だ―――でも」

 

 

 

 

 

 

首を鳴らし、足をトントンっとつけ、指を鳴らしマッシュは告げる。

 

 

 

 

 

「孤独だけは分かっちゃうんだ……どうしてもね」

 

「……戯言を」

 

「本当だよ、信じられないだろうけど」

 

「これで貴様が死ねば全てが無意味に──」

 

「死ぬつもりは一切ないから安心してよ、無論……君達をただ諦めるつもりも一切ない」

 

「……マッシュ・バーンデッド、貴様は……貴様は我々にとって、ガン細胞でしかない。だからこの場で……消す」

 

「それは困るな、それをしちゃうと……君達を救えなくなる」

 

「……何が、何がお前をそうさせる!!何故そこまで動く!!何故そこまで戦う!!」

 

 

 

 

 

 

「許せないんだ……君達が、理不尽に押し潰されることが」

 

 

 

 

 

 

 マッシュは腕の筋肉に力を込め、サオリに真っ直ぐ視線をぶつける……理不尽、それはマッシュがこの世で一番経験していること。

 

 

 

 

 

 

「生まれてきた世界の勝手な都合、解釈、認知や考えで君達が苦しんだり、嘆いたり、周りに追い詰められること……僕はそれが――死ぬほど許せないんだ」

 

「……せん、せい……?」

 

 

 

 

 

 

 元の世界での理不尽、生まれてる来ることさえ許されない存在として生まれ、隠されながら生きてきた。表に出ればその理不尽によってすぐに押し潰される……それをさせまいと自分の祖父が頑張ってきた。けれどその事実も、マッシュにとっては苦しい物だった。

 

 

 

 

 

 

「世界が理不尽をぶつけてくるのなら、僕は理不尽なくらい強い筋肉の力で戦って、負けない――僕はそう決めたんだ………だから」

 

 

 

 

 

 

 マッシュは血管が浮き出る程の力を拳に溜め、一気にサオリへと飛び掛かってそれを顔に叩き込む。ダメージの反射で頬が砕けても、未だマッシュは踏みとどまっている。

 

 

 

 

 

「君達も、その理不尽に負けさせたりしない……平凡なごく当たり前の生活、それを――たっぷりと味合わせてあげるよ」

 

「―――――そんなもの…そんな…ものぉ!!」

 

「スゥゥゥゥゥッッ………!」

 

 

 

 

 

 のけぞったサオリの顔に向かって、マッシュは連撃を放つ。残像が見えるほどの速さと正確さで動くそのパンチは、見る者の目を疑わせた。

 

 

 

 

 

「フンフンフンフンフンフンフンッ」

 

(これ以上先生にダメージが入ってしまったら…!)

 

(回復のスピードが追いつかないように連打か……無駄、そんなありきたりな打開策じゃリーダーは――)

 

 

 

 

 

 イシュ・ボシェテすら生温く見えるような連撃がサオリの全身を猛打する……その瞬間、異変が起きる……それは

 

 

 

 

────ピシッ

 

 

 

「「「「「「―───―!!」」」」」」

 

 

 

 

 パナケイアの顔に、ヒビが入り始めた。一同が驚いていたのも束の間、効果が出たと知ったマッシュは、さらなる追い打ちをかけるように倍の威力とスピードでサオリへと攻撃を繰り出していく。

 

 

 

 

 

「―フンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンフンッ」

 

『……』ピシッ、ピキピキッ

 

(まさか……パナケイアの、容量……ダメージを吸収する量には限界があったのか…!?――ありえない、これは、こいつの攻撃をいくらでも吸収し切れる容量だったはず……ありえない……ありえない……!こんなこと……ありえていいはずが―)

 

「―――フンッ!」

 

 

 

 

 

 渾身のアッパー、それがサオリの顎に撃ち込まれた。

 あまりの反動によってサオリが宙に浮き、マスクが砕け散る。後方に飛び退いて着地しながらも、顔に大きなヒビが入っているパナケイアを見て、危機感と同時に恐怖と戦慄を覚え始めたサオリ。

 

 

 

 

 

 

「君がその女神に祝福を与えられているのなら……僕は筋肉の女神に魅入られてるみたいだね」

 

「……………」

 

 

 

 

マッシュは拳を向けながら自信満々にそう宣言、だが

 

 

 

 

『――――…!!!』

 

 

 

戦いは、まだ終わっていない。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

『――!!!!』

 

「っ!」

 

「うるさっ」

 

 

 

 

 耳をつんざくような咆哮が響く。パナケイアが放ったその声がその場にいる全員の聴覚を掻き乱し、全員が耳を塞ぐ。

 

 

 

 

「…こ、これって」

 

「……第二段階、使用者がピンチになると自動的に守りが固くなるシステム……それが作動した」

 

「―こうなってはもうどうしようもないぞ、マッシュ・バーンデッド!!!」

 

「パナケイアの体が、変化していく……」

 

「……女神からいっぺん、まさに…悪魔ね」

 

「――何て逞しい筋肉なんだ…」

 

「「驚くとこそこ!?」」

 

 

 

 

 

 

 

 うめき声なような声を上げながらパナケイアの姿が変化していく。

肌は青色から血のような赤に染まり、包帯が取れた顔には大量の目玉が開き、背に広がった翼は天使のような白い羽が抜け落ち、悪魔を思わせる骨ばった蝙蝠の羽へと変化した。
 極め付けは、両手に持っている巨大な注射器。

 

 

 

 

 

『――!!』

 

「うおっ…と……おっととと」

 

 

 

 

 変化したパナケイアが頭上にそれを放り投げると、それはマッシュへ目掛けて降り注いでくる。それをバク転や走りで次々に避けていき、攻撃が止むのを待っていたマッシュ。

 

 

 

 

「っ先生……っ、動き…なさい…!」

 

「死ぬ気で歩け……立て…!」

 

「2人ともダメ、それ以上動くのは禁止だよ」

 

「でも、それだと先生は!」

 

「――大丈夫、どんなピンチでも勝つのが僕だから」

 

 

 

 

 

 一度攻撃が止み、サオリが次の策を考える……今度こそ確実に相手を仕留める、そんな方法を……―だがしかし、そんな暇は訪れなかった。

 

 

 

 

 

 

「……」スッ

 

(……何だ…?武器でも使うのか…しかし奴は銃が使えないと報告が)

 

 

 

 

 

マッシュが懐から取り出したもの……それは、エンジニア部と新素材開発部が作り出したマッシュだけの専用アイテム(固有武器)――プロテウス

 

 

 

 

 

 

「……鉄の杖?」

 

「あんなもので……どうするんですか?」

 

「……?」

 

「気でも狂ったか……?そんなものでこの状況は―」

 

 

 

 

 

 

 

 アリウススクワッドが疑問を感じたその瞬間、マッシュはプロテウスの先端を持ち力いっぱいに引っ張る……するとあら不思議、何と伸びました

 

 

 

 

 

「「「「………え?」」」」

 

 

 

 

 さらにそこから手を加え、プロテウスをどんどん加工していく。その手に上がっていく物の形はどこか見覚えがある構造。

 

 

 

 

 

 

「あ、あれって………嘘ですよね?そんな訳ないですよね!?」

 

「こんな、こんな土壇場で……ナイナイ、絶対に……ない」

 

「???????????」*1

 

「あれは」

 

「ま……まままままさか…!!」

 

 

 

 

 マッシュが作り出したもの……それは殺傷能力があるのかどうかすら怪しい…いや、材質を考えれば鈍器としては十分だが、ナイフや銃などとは違った……それは───

 

 

 

 

 

「「「「「テニスラケット!!?」」」」」

 

 

 

 

 

──そう。マッシュはこの土壇場で、鉄の杖を加工してテニスラケットを作り出した。

 続けてマッシュは、ガットの格子から抜き出したプロテウスの一部を固めると、パナケイアの頭から引ったくった包帯を可能な限り固く巻き付け、即席テニスボールを作り上げる。マッシュはラケットとボールでサーブの構えを取ると────

 

 

 

 

「フッ」バチコーーン!

 

 

 

 

 投げ上げたボールに強烈なスイングを与え、パナケイアの顔面へとボールを叩き込んだ。

 反撃とばかりにパナケイアも攻撃するが、マッシュはテニスのラリーように動き回りながら攻撃を回避し、その合間に跳ね返ったボールを再び打ち返すことでパナケイアの顔に打撃を与えていく。

 

 

 

 

 

「注射器を避けながらヒビ一点を…」

 

「狙い撃ちしている…!」

 

「あわわわわわわわっ!!?」

 

「あれは……あれは…!!」

 

 

 

 

 

 

「「「「「パナケイアの壁打ち!!?」」」」」

 

 

 

 

 

 

 連打が続くにつれて周囲一帯に轟音が響き渡り、パナケイアの顔がどんどん壊れていく……予想不可能、回避不可能───常識外の攻撃を前にして、アリウススクワッドはもはや動くことすら出来なかった。

 

 

 

 

「フッ…!」ダンッ!

 

 

 

 

 そして、跳ね返ったボールが一段と高く飛び上がる。マッシュは全力のジャンプで飛び上がってボールを捉えると、叩きつけるようにジャンピングスマッシュを放った。

 

 

 

 

 

ズガァンッッッ!!

 
『████████████────!!!!』

 

 

 

 

 声にも鳴らない断末魔の絶叫を上げながらパナケイアは完全破壊され、サオリは何もできないまま、倒されたパケナイアを見つめて放心する。

 

 

 

 

 

(――夢だ…ありえない、そんなわけがない…こんな終わり方があっていい訳がない―違う、今はそうじゃなくて、次の行動…違う、先に、みんなを連れて逃げ)

 

「パナケイアが無くなったから、ダメージは入るよね。さっきみたいには傷つかないだろうし」

 

(しまっ――)

 

「えいっ」

 

 

 

 

 

 マッシュはサオリの頭に向かって、ラケットを振り下ろした。パナケイアが破壊された時点で、サオリの体は普段の状態に戻ったが……そんなの関係なく

 

 

 

 

 

ガッ―ハッ……!

 

 

 

 

 

重々しい破砕音を頭蓋に響かせ、サオリは地面へと倒れた。

 

 

 

 

 

「「……やりすぎ…じゃ…?」」

 

 

 

 

 ヒナとツルギはこの時、風紀委員会や正義実現委員会に所属してから初めて、敵に同情することとなったのである。

*1
宇宙猫姫




ラストについてはやりすぎました、あと今回出てきた兵器については完全なオリジナルなので悪しからず……なんならYouTubeの方に動画があるので、それをそれを見ていただければなと思います。

アンケートの方!!どうぞよろしくお願いします


疲れました

百花繚乱後に見たい話

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