シリアス大注意!!!!救済には、なっている、はずです!!
それでは本編へ、どうぞ!!
「………嫌な予感がする、とてつもなく嫌な予感がする。寒気が止まらない」
調印式襲撃を食い止めたその日の夜、午後8時を回った頃。マッシュは病室のベットで寝転がりながら、謎の悪寒とただならぬ不安に悩まされていた。
「前にもこんなことがあった気がする……と、とりあえず戸締りをしておこう」
マッシュは扉の方へと足を運んでいく。点滴のチューブを引きずりながら移動していき、鍵に手を伸ばす……その時、誰かの声が聞こえてきた。
『よし、じゃあ
『了解した』
『それじゃあいくよ〜?』
嫌な予感は大的中。壁越しに拳を振りかぶる音が聞こえたマッシュは、急いでドアを押さえる。しかし次の瞬間
「!」
「やっほ〜先生⭐︎お客様だよ?」
ミカが手刀で扉に穴を開け、背筋を凍らせるような笑顔を覗かせていた。
「―───ミカさん…に、アズサちゃん…?」
「先生、少し話をしにきた」
「先生、ちょっとお時間もらうね〜?」
「……説明してもらってもいいですか?」
「勿論⭐︎、今から先生にはね?――私たちのお説教を受けてもらおうと思ってるの」
「……お説教?」
「うん、お説教……ふふっ、月明かりがなんかいい雰囲気にしてくれてるね」
月明かりが窓から入り、マッシュ達を照らしている。部屋に入り込んだミカとアズサはマッシュの腕に取り付くと、彼をベッドの上に連行していく。
ベットの上にマッシュ、そしてミカとアズサの三人が座り、しばし冷たい空気が流れた。
「……その傷、アリウスにやられたんだって?」
「色々とヘマしちゃいまして」
「痛くない?」
「全然ですよ、蚊に刺された程度です」
「……ふーん」
「そんなふうに見える傷では、無い」
「本当に大丈夫だよ、心配してくれてありがとうアズサちゃん」
一見すればこれまで通り、優しい口調で言うマッシュだったが……アズサは見逃さなかった。合宿中は何度も何度もマッシュの顔を見てきた、だからこそすぐに気がついた……その違和感に。
「…………先生、私は先生のことを信頼しているし尊敬もしている……だから、先生は嘘をつかないと、信じている」
「ぅ」
「だから、見せてほしい……大丈夫だと言うのなら、見せれるよね?」
「……ちょっとお花摘みに『はーいだめ⭐︎』あ、ちょ」
ミカは強引にマッシュの服を捲る。包帯によって隠された傷周りが僅かに覗き、紫色に変色した皮膚があらわになる。アズサはいてもたってもいられず、その包帯を手でちぎり始めた。
「……これの、どこが、大丈夫なの?」
「えっと……」
「大丈夫だって、言ったけど……そんなはずない、そんなわけないじゃないか!!」
「アズサちゃん、本当に僕は」
「みんなから聞いた!先生が無茶をしすぎているって、大怪我を負っているって、無理してるって……でも、でも信じられなかった、信じたくなかった……先生がそんなふうに、なっているって」
「…………」
「なんで隠してたの?なんで話してくれなかったの?何で私に大丈夫なんて言ったの!?」
マッシュに詰め寄るアズサの顔は、普段からはあまりにもかけ離れていた。
「はーい、アズサちゃん落ち着いて?」
「でも……!」
「私もアズサちゃんと同じ気持ち……だけど、一度冷静に…ね?」
「………わかった」
「よろしい♪――ねえ先生、本当になんで黙ってたの?」
「―――みんなに心配をかけさせたくなかった、迷惑をかけたくなかったから……です」
そう話しながら目を逸らすマッシュ、わかりやすく目を逸らしバツの悪そうな顔をしているが……再びミカの方を向くと
「―───何それ、ふざけてるの?」
(ヒェッ、こわ)
わかりやすく怒りに震えていた。ミカはマッシュの腕を掴みながら話を進める。淡々と、子供を叱りつける母親のように。
「心配をかけさせたく無いって……話してくれない方が心配するに決まってるし、迷惑だなんて思うわけないでしょ?」ギリッ
「けどみんな大変そうだったし、僕に時間を割くのも」
「大変なのは先生も同じ……ねえ気づいてる?さっきから私、そこまで力を入れてないんだよ?」
「……」
「私の腕を振り解けないほどに体が弱ってて……それで何が大丈夫だって?何が大丈夫なんて言えるの?ねえ」
「………」
何も言えなかった、マッシュ自身自分が今大変な状況なのはわかっている。
「……弱くなってるからって、止まるわけにはいかない……止まれるわけがないんです」
「止まれるわけがないって……先生、状況わかってる?今の先生は」
「アリウスの狙いは僕です。僕が弱ってることを知ってるなら、もう一度トリニティを攻めるために準備を整えてるはずです……──あの子達が動き出した時に僕がその場にいなくちゃ、今度は皆に怪我をさせてしまう……だから、早く皆を助けないといけないんです、早く、早く僕が行かないと」
「…先生?」
「僕は人よりも強い……だから、ちょっと傷ついた程度で後ろに引っ込んで休んでるわけにはいかないんです。そんなの甘えです、今はそんな暇ないんです。……他の人よりも働かないと、動かないと、身を削って、そうしないと――そうしないと、皆んなが大変な目に遭うんです――だから、出来る限り、僕が……最悪犠牲になるなら、せめて僕一人だけで────」
次の瞬間、凄まじい威力の何かがマッシュの頬に襲いかかった。
「――ふざけないでよっ!!ばかっ!!」
「―先生……ごめん。流石にそれは、看過できない」
「突然…何を―─」
ミカはマッシュの胸ぐらを掴み自分の方へと引き寄せ、潤んだ目でマッシュを睨み付けた。至近距離で叫ぶミカの声は、怒りと涙に激しく震えていた。
「甘えちゃだめだとか、身を削れとか誰が言ったの!先生の知り合いが一人でも、先生に犠牲になれだなんて言ったの!?」
「そうしないと」
「そうしないと何?みんなが大変な目に遭うって?あったとしても、何があっても、その責任を先生だけに背負わせるのはどう考えても間違ってる!!そのために無茶をして、体を壊してでも働かなきゃいけないなんてあり得ない!!」
「でも、僕は……誰かが酷い目に遭うのは、嫌なんです」
「――っの、わからずや!」
ミカはマッシュをベットの上に押し倒し、力を込めながら叫び続ける。そんな様子をアズサは、見ていることしかできなかった。
「私だってね!先生が酷い目に遭うのは嫌!アズサちゃんだってナギちゃんだって、補習授業部のみんなだってそう……だからみんな手を取り合って、協力して、取り返しのつかない悲劇を回避しようとしてきたんでしょ!?」
「協……力」
「……なんで先生は一人になろうとしてるの?」
「そ、そんなこと…は……」
「なろうとしてるじゃん――全部、全部一人で背負い込んで、全部一人で解決しようとして、全部自分のせいにして――何もかも、一人で考えてるじゃん!!」
「……………!」
誰かに相談も、話もしなかったマッシュ。確かに彼は一人で全てを考えている……否、一人で全てを考えるしかなかったのだ。
「私を一人にしないって言ってくれたのに……あれは嘘だったの…?」
「………」
「先生が本当に死んじゃって…ここでいなくなっちゃったら…それで、私が……笑えるわけないじゃん――──先生が一緒じゃなきゃ、私も皆も笑えないもん!!!」
「……私も、同じだ。先生が死んでしまったら、私は――──私も、ヒフミも、コハルも、ハナコも……二度と、笑うことなんてできない」
「…………アズサ…ちゃん」
「―今の先生は、先生らしくないよ………今の、自己犠牲の塊みたいな先生は好きじゃない……先生さ、今……『人の役に立てない自分に価値はない』とか、本気で思ってない?」
「……!」
「先生自分で言ったよね?
「…………――」
マッシュは右手に自分の顔に当てながら、心の中で葛藤する。
『甘えちゃだめだとか、身を削れとか誰が言ったの!先生の知り合いが一人でも、先生に犠牲になれだなんて言ったの!?』
―――しかし、そこでマッシュは気がついた。
「――夢…見たんだ」
「……夢?」
「僕の知っている人達が、僕の、目の前で………亡くなってしまった」
『……!?』
「アビドスも、ゲヘナやトリニティも、連邦生徒会も、百鬼夜行も、ミレニアムのみんなも……生徒の他にも、柴関ラーメンの大将さんも、シュークリームのお店の店長さんも、じいちゃんも───お世話になったたくさんの人が……目の前で……血を流して、倒れていました」
自然とミカの力が弱まり、マッシュは起き上がると、そのまま両手を自分の方に向け呟く。
「この手で、触った人達はみんな冷たかった……話しかけても、何も答えてくれなくて、体もどんどん硬くなっていって……目も、虚ろだった……どうすれば助けられるか、分からなかった」
「そんなの、夢の話だ……現実じゃ『現実になるかもしれない』」
「本当にそうなっちゃうかもしれない、なんでそうなったんだ……そう考えた時、真っ先に浮かんだのが―─―僕だった」
「……皆を守れなかったこと、生徒を戦わせたこと──それが原因だって、思ったの?」
「……はい。僕が戦うべきところで皆に任せたから、こうなったんじゃないかって……だから僕は―――怖かったんだ」
マッシュは両手で顔を押さえながら、淡々と、暗澹と、呟き始める。
「みんながいなくなっちゃうのが、みんなが消えちゃうのが――また一人になるのが……怖かった」
「…………」
「せっかく友達ができたのに、仲間が増えたのに――そのみんなが自分のせいでいなくなるって思った瞬間、体の震えが止まらなくなった――だから、決めた……先生らしく、頼れる人間らしくなろう…って」
「…………っ」
「そうしないと、そうしないと、僕はまた…!」
言葉を遮るように、ミカの腕と翼がマッシュを抱きとめた……
「……ミカ…さん?」
「もういいの……もう…いいから…」
「先生…いいや、マッシュ……―もういいんだ」
「何が…?僕は先生を」
「マッシュは先生だ、でも…それだけじゃないだろ?」
「…?」
「マッシュ君は先生である前に――私達と同じ…子供でしょ?」
「………!」
「――…もう、マッシュ君ったら頑張りすぎだよ」
少しして、アズサもマッシュに抱きつく。
ミカはマッシュに囁く…優しく、ゆっくりと。
「色々言っちゃってごめんね……その夢はきっと、マッシュ君自身の気持ちや重みが、現れちゃったんだと思う」
「気持ちや…重み……」
「外の世界からいきなりこっちに連れてこられて、生徒を導く先生って役職について、皆を助けてきて……その間マッシュ君はずっと、誰かのため、誰かのためって……ずっっっっと、がんばってきてたんでしょ?」
「そんなの、疲れるに決まっている……」
「疲れ…………ぁ、そっか…僕――疲れてるんだ」
ここでようやく、マッシュは自分の限界を自覚した。
「マッシュ君……ここで少し、一休みしよ?」
「ひと……やすみ……」
「休息は人間にとって、一番大事なものなんだ……そう教えてくれたのはマッシュだ……マッシュ、お願いだから、自分が頑張っていないだなんて言わないで……マッシュは、マッシュはきっと、このキヴォトスで、一番の働き者なんだからな」
その言葉を言われ、マッシュは自覚した―――自分は、頑張っているのだと。ヒナやナギサ、リンだけが頑張っているのではない……自分も彼女たちと同じく、頑張っているのだと。
「私はね、マッシュ君が大好き……私がやろうとしたこと、過ちを犯して道を踏み外した時は手を差し伸ばしてくれて、その後も…諦めるなって元気づけてくれた――私は、マッシュ君に救われたんだよ?」
「世界の虚しさを否定して、希望を実感させてくれたのは……マッシュが初めてだった。マッシュのおかげで…私は今、生きていることが楽しいんだ……私もマッシュに助けられた――だから、マッシュ!」
「今度は…!」
二人は強くマッシュを抱きしめ、懇願するように、願うように叫ぶ。
マッシュは先生になってから、誰かに助けを求めたことはほとんどなかったと言っていい。
「――二人……とも……ごめん…」
はっきりと言える
弱音を、はっきりと。それを聞き二人は
『―勿論』
かつて彼女たちが助けられたように、迷いなくマッシュを受け止めた。
(………あったかいな)ツー
一筋の涙を、流すのであった。
「――はい、承知しました…では、後日…そちらへ伺います。それでは…………っ!」
一人の生徒が端末での連絡を終え、緊迫した表情で椅子に座っていた。
しかし今はそれらよりも…とある一人の人間のために動かなくてはならなかった。
「……私は……彼に――彼に、全てを……っ!」
彼女の名は、七神リン。
「……行かなくては……先生と、話をしなくては…!」
そのリンが…今、動く。一人の人間を…助けるために。
救済は次回まで続きます、マッシュ君はね。
アリウスよ〜次は君たちだ、待ってなさいな!!
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