………辛いぜ、訳は、本編を……どうぞ
「……周辺に目標は確認出来ず」
「この辺りからはもう離れたか?」
廃墟街の一角。
薄暗い闇夜の中で周囲を見渡しながら足を進める人影があった。白いコートを靡かせ、ガスマスクに顔を包んだ彼女達は、アリウス自治区より派遣された督戦隊。彼女達は離反したとみられるスクワッドを追ってこの区画に足を踏み入れたが、未だ発見には至っていない。
「少なくとも痕跡は見当たりません、或いは雨で流されてしまったのかもしれませんが……」
「このまま周辺の捜索範囲を広げますか?」
「……そうだな、もう少し周辺を探ってみよう、隣接区画の部隊に連絡を入れてこの区画を隈なく捜索する、境界線付近まできっちりと、だ」
「了解」
「手早く済ませる為に部隊を分けるぞ、
そう言い班分けを行おうとして振り向いた――その時、アリウス生徒の突然頭部に衝撃が走る。ヘルメットがへこんでガスマスクがヒビ割れ、衝撃が脳を揺さぶって意識を奪った。
「──ッ!!貴様は、マッ───」
「トライセップス魔法、ノックダウンチョップ・ラッシュバージョン」
マッシュが突然追撃部隊の背後に現れ、そのままノックダウンチョップを喰らわせて気絶させる。
『ガッッ……―』
「ごめん、後でご馳走するから……よいしょっと」
気絶させた追撃部隊の生徒達を移動させ、雨が当たらない場所へと運ぶ。そのあとマッシュは、少し歩いて名を呼ぶ。
「サオリさん、お待たせしました」
「……鉄帽が砕けるような音が聞こえたのだが、大丈夫なのか?」
「大丈夫です、僕の腕頑丈なので」
「いや、先生ではなくてそこで転がっている部隊の心配をしているのだが……」
「手加減したので、安心してください」
(音が安心できなかったんだがな…)
サオリは追撃部隊のことを心配しながらも、ゆっくりと立ち上がると、マッシュの背を守るようにしてついていく。ワカモとの接触を経て、両者の気持ちは深く沈んでいたが、サオリは熟考する中で「最も辛いのは袂を分かつような選択を取ったマッシュである」と思い直し、彼についていく決心を固め直した。
「ヒヨリがミサキを連れて逃げ込んだ先はこっちだったはず、だから……何処かに、隠れていると思うのだが……ヒヨリは狙撃手としての才能と隠密のスキルもあるんだ、見つけ出すのは、一苦労だろう」
「多分、呼んでも出てきてくれませんよね」
「……ああ、ヒヨリも私と同じように、罪悪感は感じているんだ……だから、きっと呼んでも現れないだろう」
「うーん困ったな……なんとかして、ヒヨリちゃんを表に出したいんだけど…」
「――いい方法がある、先生、何か食べ物を持っていないか?」
「シュークリームならありますけど」
「使わせてもらってもいいか?(それはそうと何故懐にシュークリームが…?)」
「いいですよ」
サオリはマッシュからシュークリームを貰った後、少し息を吸い、シュークリームを少し離れたところへ向かって投げる。
「―あ〜美味しそうな食べ物が手から滑ってしまった〜〜(棒)」
「え、サオリさん何やって――」
ガタゴトッ‼︎ ビュン‼︎
「食べ物‼︎」パクッ!!
「よし、出てきたな」
「………犬?」
物陰から物音を立てて飛び出してきたのは、服がボロボロになったヒヨリ。姿に反して目を光らせながら、勢いよくシュークリームへ向かって飛び出したヒヨリは、そのままシュークリームを口でキャッチしてみせた。絵面は完全に投げられたフリスビーをキャッチする犬である。
「ハムハム……うわぁぁぁぁ!! 美味しいですぅぅぅ!!」
「泣いてる」
「―えへへっ……運がよかったですね……人のものでも、その人の手から離れてしまったらそれはもう、他人のものですよね、えへへへっ」
「笑ってるし何よりがめつい」
「フフッ…これぞヒヨリだな、安心した」
「普段からこれなの? ちょっと心配になってきたよ僕は」
「………あれ?―─リーダー……ですか?」
「――ああ……良かった……無事だったか……!」
自身の家族、その無事を喜び彼女の元へと駆け寄るサオリ。ヒヨリはサオリと同じように仲間の無事を喜び、その表情を綻ばせる。
「ど、どうして私の居場所が分かって……?」
「あぁ、それは――」
「ヒヨリちゃん、お久しぶり」
「―シャ、シャーレの……先生」
「ヒヨリ……色々と、思うところはあるだろうが……今は―」
次の瞬間、ヒヨリは武器を下ろし、マッシュの腰へと飛び込みそのまま思い切り抱きつく。突然のことにサオリとマッシュは驚くが、ヒヨリは気にも留めずに───
「ゔわぁぁぁん助けてくだざいぃぃぃぃぃ!!」
「――――こりゃ、意外だ」
「ヒ、ヒヨリ……」
「もう、色々と限界なんですぅぅぅ!! お腹も減ってくるし、天気は最悪ですし!! 弾も使い切ったし!! 足もパンパンで!! ミサキさんはどっか行っちゃうし……うぅ、もうたくさんなんですぅぅ!!」
「わ、わかったよ、ヒヨリちゃん……ちょ、ズボンずれる」
「せ、先生は……ずっと前、自分を頼ってくれって言いました――だから、だからっ!! ︎頼っても……大丈夫ですよね!??」
「―もちろん、むしろ、ここまで言ってくれて…ありがとう」
「…ッッ……わ、私は……先生にひどいことをたくさん言って、いろんな人に迷惑をかけちゃいました……多分、この先も……苦しい日々が続くと思うんです」
「それは…」
「でも…!!――先生が、私を側に置いてくれたら……その苦しい日々も、マシになるって……そう、思ったんです」
「ヒヨリ……」
「リーダーも、ミサキさんも、私も、アツコちゃんも……アリウスの、みんなも‼︎ 一緒に先生のお世話になれば、もう、泣かないで済むと思うんです!!――だから……だから、先生…………助けて……ください」
腰に捕まりながら、必死に懇願するヒヨリ……確かに図太く図々しいが、ヒヨリは本気だった。本気で、マッシュに頼りたいと、家族を泣かせないでほしいと…そう願っていた。だからこそ、誰一人として助けを求められなかったこの状況で、真っ先に声を上げることができた。
「――勿論、助けるよ」
「先生…!」
「全部終わったら、美味しい物いっぱい食べよう」
「はい…! このシュークリームっていうお菓子も、いっぱい食べたいですし、お肉も食べたいです、お米も、パンも、固い物じゃなくて柔らかいものがいいですね……あ、あと、お風呂も逆上せるくらい長湯したいですね…え、えへへ…」
「ヒヨリ、流石に遠慮しろ」
「ついでにあったかいお布団もどうかな?」
「ぜひ!!」
「ほんとに……相変わらずだな…お前は――ふふっ」
厚かましいというのだろうか、そんな態度を取っているヒヨリだが――今のマッシュにとっては、その態度こそ……救いになっていた。
トリニティ自治区――廃墟区画郊外、廃鉄橋。
その場所は、廃墟区画から奥まった場所にあった。区画間を隔てる大きな運河、その上に工業用運搬路として建築されたが、今となっては捨て去られ錆びついた鉄橋。その場所に、マッシュ達は立っていた。
「…ミサキはこっちに?」
「は、はい……ミサキさん、ずっと、ずっと震えてて……私が慰めている時も、話しかけている時も、ずっと……先生に対して…謝ってて」
「……急いで探しましょう、嫌な予感がする」
「ああ」
マッシュ達は、着々と前に進んでいく。
戒野ミサキ、マッシュに対して一段と強い暴言を浴びせてしまった者。彼自身が全く気にしていないとはいえ、周りがなんと言おうと、マッシュに対してあまりにも無礼で非情な暴言をぶつけたことは事実。
「その罪の重さを感じていたところに、追い討ちで…魔法を」
「………許すって言葉だけじゃ、助けれないのかな」
「……あの、ワカモという生徒が…いい例だ。先生自身が許しても、他の……先生のことを強く想っている生徒からしてみれば……私達はきっと、許されない。『ふざけるな』と、思って然るべきと思う」
「………それが普通なのかな。僕はそれでも、皆に幸せになってほしいのに」
「……………」
そんな暗い会話をしながらも、ミサキを探すマッシュ達――すると、前を歩いていたヒヨリが何かを見つけた。
「……2人とも、あれって…」
「―――ミサキだ……いったい何をして……ッ!?」
「―まずい」バッ!
ヒヨリが見つけたのは――やや遠方の欄干に足をかけたミサキが、橋から川へと飛び込もうとしている姿だった。マッシュ達はすぐに動き出し、ミサキを止めようと走る。
「ミサキ!! 馬鹿な真似はよせっ!!」
「……ぁ……りーだぁ………ごめん……もう、無理……」スッ
「ミサキさん‼︎‼︎」
彼女は服の中に重石を入れていたのか、身を投げたミサキは一瞬にして川へと逆落としに落ちていく。ヒヨリやサオリの脚力では、絶対に追いつけない。川の中へと、ミサキが浸かりそうになった……その瞬間
ガシッ! バタバタバタバタバタバタバタッ!!!!
「………………?!」
「危なかった……本当に、危なかった」
「………なん…で」
「理由なんてないよ、ただ、死なせたくなかった。それだけだから」
「………」
マッシュは水の上で足を交互に動かし、水の上を歩いていた。そしてそのまま勢いよく飛び上がり、橋の上へと戻ってくる。
「ミサキさん、 先生っ!!」
「ミサキちゃんは無事ですよ」
「――よかった……本当に……よかった……」
「…………」
「先生がとんでもな人で助かっ――み、ミサキさん‼︎ 腕から、血が‼︎」
「ひどい怪我だ……今止血します」
「――だ……ダメッ…!!」
ミサキを救出した矢先、マッシュは彼女の腕にある大量の生傷を目にし、そこから流れている血を止めようと服に手をかけるのだが、それをミサキが止めた。
「ダメ……汚れちゃう……だめ…」
「そんなこと言ってる場合じゃないよ、服なんて気にしないで、こんなのいつでも『ダメなんだよ!!』……!?」
「あんたが、あんたが汚れる!! 私みたいな……奴の…汚い奴の血で、汚れる……また、汚してしまう…!」
「ミサキさん……やっぱり、まだ…」
「しっかりしろミサキ!! 正気を、取り戻すんだ!」
「私は至って正気だよリーダー…!――…ぁ……先生……まっ…しゅ―‼︎」
ミサキは血濡れた手で頭を抱えながら悶え始める。罪悪感による精神汚染と恐怖、それらが彼女の精神を襲い、苛んでいた。
今まで抑圧していた弱音や不安が堰を切ったように溢れ出し、ミサキは激しく嗚咽しながら、目元を手で覆って叫ぶ。
「ごめん…なさい……ひどいこと言ってごめんなさい…何も知らないくせに、なんの価値もないくせに、偉そうなこと言って……ごめんなさい」
「……ミサキちゃん」
「許してなんて言わない……何をされても……文句なんて…言えない……――もう死ぬしか……償えない」
「バカな、馬鹿な真似はやめてくれミサキ!」
「じゃあどうすればいいの!? これ以外に、どう、どうやってこの先生に償えばいいの!? ――この世界だって……辛い事しか…無い…!」
「………」
ミサキはベアトリーチェによる禁忌魔法のせいで、精神が崩壊していた。もとより何から何まで諦めていた彼女だが、そこへ追い打ちをかけるように、ベアトリーチェはその精神を完全に狂わせる最後の一押しを行った。……償いたい―─償わせて、そのために…死なせて。そう願うようになったミサキは、「自分の死」以外に罪を償う手段を知らない。
「もう……わけわかんないの…!!私が私じゃなくなっていく、頭の片隅に、ずっと、ずっとあの時の言った言葉が響いている……―先生を殺しかけたのは私だって、何度も言ってくる!!」
「ミサキ……っ」
「――先生………
「……嫌だ」
「そうでもしないと気が済まないの、もうこれ以上苦しみたくない……このままどうやって……どうやって生きていけばいいの…?」
「――苦しみも悲しみも、全部……もう全部、終わらせよう」
「……終わらないよ……無理だよ……そんなの不可能……」
「いいや――絶対に終わらせる……消毒液、ありますか?」
「わ、私持ってます!」
「やめて、やめて…!私にそんな資格も、権利も、意味も────」
「――──聞いて、ミサキちゃん………僕は、君を許す」
「―ぇ……?」
マッシュはミサキの腕を治療しながら、強く告げていく。彼は、アリウス全ての罪を、自分に向けられたものを全て許すと言った。ミサキには、そんな言葉が信じられなかった。
「僕の世界のことなんて知らなくて当たり前だ、他人の全てを知ることなんて……できるわけがない」
「ダメ、ダメっ…ここで、ここで…あんたが私を、許したら、もう償えなくなる――償わせてよ…お願いだから」
「僕の願いは、君が笑って、遊んで、平凡に生きる事なんだ……難しい言葉とか、格言とか…あんまり粋なことは言えないけど――─僕は君に生きて欲しい」
「こんな……苦しみだけの世界に…?」
「なら僕が、そんな苦しみをとっぱらうし、世界が君を苦しめるのなら、僕が君をその数千億倍、幸せにする」
マッシュはミサキの腕を治療した後、その手を軽く握り、心の底から、魂から―─誓う。
「………しあわせ…?」
「力ずくで、何をしてでも幸せを感じさせる。君が拒否したって、拒んだって、何度でも幸せを送る」
「………なんでそこまでするの」
「困ってる人を放っておけない、僕はそんな単純すぎる脳みそしか持ってないんだ」
「………変な…人」
「うん、みんなから言われてるよ――変人だって」
「―――何言っても……無駄……もう…疲れちゃった」
「…じゃあ、失礼するよ」
マッシュはゆっくりと立ち上がり、今度はミサキを背負い、彼女の荷物も持つ。動くことも、反論することも疲れてしまったミサキは、黙ってそれに従っていた。
「…………あったかい」
「そうだろうミサキ……先生の背は、暖かく、巨大だ……私達を守ってくれる……強い、頼れる背中だ」
「み、ミサキさん………私は、ミサキさんと一緒にいっぱいご飯が食べたいです。お洋服だって着せ合いたいし、お風呂だって入りたい――アツコちゃんも、サオリさんも一緒に!」
「……ヒヨリ」
「だから、だから……私の、その、やりたいことのために、生きてください!!――勝手に死んじゃうのなんて、許しません!!」
「――一緒に生きよう、ミサキ……お前を1人になんてさせない……ずっと、一緒だ」
「…………!」
『―――いつまでもずっと一緒だぞ、ミサキ!!お前を一人にはしない!!』
ミサキは思い出す――過去に何度も、サオリに言われた言葉を。死んでもなお、1人にはさせない――幼少期に、そう誓われたことを。
「……昔と……同じこと……言って………っ」
「………今は、ゆっくり休んで。話は、それからだよ」
「…………なんで……そんなに強いの? 何でそこまで、自分の運命に抗えるの…?」
「僕って脳筋だからさ、難しいことはわからないんだ。だけど少なくとも、人の人生っていうのは誰かに指図されて決められるようなものじゃないよ。今の君達が意味もなく苦しめられているなら、きっとそんな運命のほうが間違ってる。だから、僕がそれを捻じ曲げてでも君達を助けるよ」
「――何言っても……無駄……か……………馬鹿……みたい……――」
そこまで言って、ミサキは意識を手放し……眠りについた。やっと眠ってくれた、そう安堵したサオリはマッシュに礼をいい。
「――今のうちに、移動しよう先生……これからのことは、ミサキが目覚めてから…話そう」
「…そうだね――もう、シリアスは懲り懲りだ」
「シ、シリアス?」
「……行こう、先に」
ミサキを背負いながら、次の目的地へと向かっていくマッシュとそれについていく2人。泣き疲れ、嘆き尽くして眠っているミサキを見て――今度こそ、マッシュは思った。
「貴女を許さない、ベアトリーチェ」
絶対に、ベアトリーチェはぶん殴り……確実に倒す、と。
そして、この苦痛から、みんなを解放しようと。
すみません、作者の限界がきたので曇らせはこれで勘弁してください。死にそう…‥私が。
宣伝になるのですが、この本番とは違った、外伝ストーリーを出しましたので、そちらも是非、ご閲覧くださいませ。
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