透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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最初とラスト以外は、もうややこしいので飛ばしちゃって大丈夫……かもです。
今回も頭を空っぽにして、お読みください



マッシュ・バーンデッドとマダムの目的

 

 

 

「………うん、だいぶ話がわかってきたよ。とりあえずさぁ〜――――そのおばさん〆ちゃおっか⭐︎」(腕の血管ピキピキ)

 

 

(しまった、とんでもない地雷を踏んでしまった……)

 

 

 

 

 

 

アリウス自治区へと潜入した最中、ミカは過去のアリウスの歴史や、サオリ達の境遇、マッシュを狙う理由をサオリの口から聞かされ…人生最大の憤怒を滾らせていた。

 

マッシュはその話を聞きながら、一人先行して沈黙を保っていた。

 

 

 

 

 

 

「マッシュ君を物扱いとか……舐めてるね☆――それから何? 大人の命令に従わなかったから、見せしめに酷く殴られてって………しばき回されたいのかな」

 

「お、大人というか、マダムが作り出した人形……らしいんですけど」

 

「ヘイローが壊れるほど殴って蹴って、それを見せしめにして恐怖心を煽り、従わせる………それが、マダムのやり方だった」

 

「訓練も酷かったですね……休みなんて5分も無かったし、本当に私達を人として扱ってなかったです」

 

「訓練校の名をつけただけの拷問部屋じゃん……そんなの」

 

「歯向かったものは、独房の中でも一際狭くて暗い地下に放り込まれるの。光は少しも差さないし、両手を伸ばせば触れられる距離に壁があって、ギリギリ体を横にできる程度の広さしかなくて―─―あそこに長くいると、気が狂いそうになる」

 

 

 

 

 

 

経験談なのだろうか、ミサキやヒヨリ、サオリなどの口元や体が少し震えている……一体どれだけの苦しみを、どれだけの思いをしてきたのだろうか――─ミカは怒りのあまり、乙女の顔ができていなかった。

 

 

 

 

 

「……別に、あんたが怒ることじゃないでしょ」

 

「怒るよ――そんな身勝手な人が、私の友達をたくさん傷つけて、マッシュ君のことまで狙って……崇高なる存在になる? ……痛いオバサンだね、笑えないジョークだよほんとに」

 

「内戦続きのアリウス自治区を止めたのはマダム……でも、姫を連れて行き、私達を道具のように扱ったのも……マダム」

 

 

 

 

 

トリニティから弾圧を受けて以降のアリウスでは、長年に渡って内戦が続いていた。アリウスの子供達のほとんどは内乱によって住居を追われ貧民街でひっそりと生活する他なく、飢えと寒さによって多くの子供達が命を落としてきた。

 

しかしそこでベアトリーチェが現れ、外部戦力を投じる形で内戦を終結させた―――だがその後ベアトリーチェは、内戦によって学園の体裁を成さなくなったアリウスを自身の道具として再構築する形で私物化し、今に至る。

 

 

 

 

 

「……アツコは……姫は、私達の幼少期からそういう風に呼ばれていて、本当のお姫様だったんだ。私も詳しく知っている訳じゃないけれど、自治区を統治していたかつてのアリウス生徒会長の血を引いているらしくてさ…だから"ロイヤルブラッド"って呼ばれていたみたい」

 

「私やリーダーにとっては、姫ちゃんは羨望の的でした。いえ、貧民街の子達なら皆同じように思っていたと思います……ミサキさんはあまり、興味が無さそうでしたけれど」

 

「別に、私もまったく興味が無かった訳じゃなかったよ、ただ口に出さなかっただけ」

 

「そ、そうだったんですか?」

 

「姫は凄く優しかったから、私達みたいな存在にも手を差し伸べてくれて……あぁ、そう云えばマスクを被っていなかった頃は、良く笑っていたっけ――多分、元居た場所より酷い環境だったのに、弱音なんて吐かずに……アツコは、私にとっても大切な人だよ」

 

「……私は、彼女を妹ように思えてきていた―ヒヨリも、ミサキも、私のかけがえのない家族だと……しかしいつしか姫は生贄として育てられ、そのまま――」

 

 

  

 

 

ドゴォッ!!!

 

 

 

 

サオリがそこまで話した所で、何かが壊れる音が聞こえた。その方を見ると、先行して歩いていたマッシュが壁を殴りつけていた。今までの話、それを全て聞いていたからだ。

 

 

 

 

 

「……先生、一体どうし―‼︎」

 

「――サオリさん、今の僕の顔は、見ないほうがいいです……というか、見ないで」

 

「……分かった……すまない」

 

「貴女が謝ることじゃない……謝るのは、あの人の方だ」

 

「マッシュ君、私が言えることじゃないけど……冷静にね?」

 

「ミカさん……僕は、すこぶる冷静ですよ」

 

(――あんな雰囲気……あいつ、出せたんだ…)

 

 

 

 

 

 

殺気、それをマッシュは久々に出していた――ミカの時以来だろう。顔に血管が浮き出て、目も鋭く、おおよそ見せていい顔ではない……そんな表情だった。

 

 

 

 

「――私達の話は、ここで一度切ろう……ここからの話だが、何をするべきかわかるな?」

 

『正面突破で突き抜ける』

 

「いや、違うが……アリウス自治区にはバシリカと呼ばれる聖堂がある――そこに、マダムがいる」

 

「アツコちゃんもそこにいるんだね……よし、やっぱり正面突破しよう

 

「待て、その前に向かうのは中央区付近の街道だ。しかしそこにはおそらく、その場所を待っているアリウスの生徒達がいる」

 

「そうなの…? じゃあ仕方ないね……正面突破しよう」

 

「さっきからその正面突破推しは何なんですか⁉︎」

 

『そっちの方が手っ取り早い』

 

「脳筋っ‼︎ この人達脳筋すぎますぅ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 

だが実際にその方が手っ取り早いのは確かだ。アリウスの人口は、ゲヘナやトリニティのような巨大校と比べれば圧倒的に少ない。ならば敵となる生徒を一人一人減らしていくよりも、敵が集中しているエリアを一気に突破したほうが早い。

 

念のため、サオリは二人に聞いておきたいことを確認する。

 

 

 

 

 

「……二人とも、ほうれんそうは知っているか?」

 

「お野菜の?」

 

「それはほうれん草…だったか? 私が言っているのは社会人、人としても大事なことなのだが…」

 

「私知ってるよ‼︎ 報復・連撃・掃討でしょ?」

 

お前の頭は……ゲヘナなのか?報告・連絡・相談だ………質問を変えよう、攻撃の反対は?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『迎撃・先制・見敵必殺ですよね(でしょ)?』

 

「助けてくれミサキ」

 

「無茶言わないでよ……アリウスでもいなかったよこんな脳筋コンビ……」

 

「た、正しくは守備なので、皆さんは間違わないようにしましょうね‼︎」

 

「誰に言っているんだ? まあそれはともかくだが、これで確信した……」

 

 

 

 

 

 

 

サオリは完全に確信した――この二人に潜入や隠密行動は無理と……――もうこうなったら自棄、いや、これしかないと理解……ではなく、思考を放棄する。

 

 

 

 

 

「……正面から突っ込むぞ」

 

「サオリさん本気ですか⁉︎」

 

「よくよく考えたら先生とミカの二人が揃っているのに、負けるわけないよな、と…」

 

「だからってバカ正直に行くことはないでしょ…」

 

「もう時間もない……これにかけるしかない」

 

「お話は決まったね――行こうか、(アツコ)ちゃんを…助けに‼︎」

 

 

 

 

マッシュ達は何の小細工や作戦もなく、真正面から相手の本拠地へ突撃することに決めた。普通なら悪手を通り越して愚策たるこの方法……しかしこの二人ならば、その能力を最大限発揮できる好手に変わる。

 

 

 

 

 

 

――――――――――――――――――――――

 

 

 

 

 

 

中央区画付近・街道

 

 

 

 

 

 

「完全勝利」

 

「――何が起こったんだ…今」

 

「……あの二人が…付近にいた生徒達を見た瞬間、飛び出してそのまま全員黙らせたね」

 

「ほとんどワンパンだったんですけど…?」

 

「私ちょっと散策してくるね〜」

 

 

 

 

 

 

マッシュとミカは、たった二人は街道を守護していたアリウス生徒達を鎮圧した。一瞬の隙もない警戒態勢を張り、強力な装備で身を固めていた精鋭部隊だったが……この二人を止められるわけもなく、必死の迎撃の甲斐なく彼女たちは轟沈した。

 

だが気になる点が一つ―─―それは

 

 

 

 

 

「ここを守るのに、あれだけの数の生徒と装備を用意する必要があったのかな」

 

「……言われてみれば」

 

「ほとんど……違う、残っていた生徒達が全てここに掻き集められている」

 

「…街並みも、なぜか、少し変わっているような」

 

「――ね、ねえみんな‼︎ ちょっと、気になるものがあったんだけど……」

 

「これは……」

 

 

 

 

 

 

ミカが周囲を見渡し、見つけた物……それは、一つの大きな武器コンテナだった。開口部をこじ開けて内部を確認した5人は絶句した……中にはアリウスの生徒達が使用しているグレネードランチャー、アサルトライフル、ハンドガンと云った銃器が、ぎっしりと詰め込まれている。

 

それに加えて、小銃弾から機関銃弾まで、更にはロケット弾も含めた弾薬も収められていたのだが……

 

 

 

 

 

「銃器に、弾薬でしょうか?」

 

「そうみたいだね…でも、コレは私達に支給されていたものじゃない。少し、新しい物の様に見えるけれど」

 

「特務に支給される武装は一般生徒とは異なるからな、しかし――確かにこれは、私達が自治区に居た頃に一般生徒に支給されていた武装ではない」

 

 

 

 

 

コンテナから無造作に取り出したハンドガンを眺め、サオリはそう呟く。

 

 

 

 

「……アリウスにそこまでの財力ってあった?」

 

「無いはずだ……今の私たちが持っている武器も旧式品で、新しいものなんて支給されたためしがない――そもそも、今まで弾薬以外、新品に取り替えることが許されたことはない」

 

「な…何だか、私達の知らない間に…知らないものが沢山増えているような気がします」

 

「……正直、違和感は私もあった。調印式襲撃以降、自治区から長く離れていたとは云え、私達の全く知らない街になっている気がする。外観は一緒なのに中身が違う……そんな感じ」

 

「その、何と云うか、よくよく思い出すと以前から少しずつ良く分からないものが増えていた様な気がしませんか?」

 

 

 

 

 

手にしていた銃器をコンテナに戻し、振り向いたヒヨリが不安げな表情を隠さずに切り出した。

 

 

 

 

 

「あの女神像や、補給された出所の分からない武器、ヘイロー破壊爆弾、……それに今考えてみると、あの複製(ネメシス)というのも、攻撃に使ったミサイルだって凄く変じゃないですか、それなのに、私達は何も疑わずに受け入れて――」

 

「………」

 

「私達は、一体、何を――……」

 

 

 

 

 

 

その時、複数の発砲音が聞こえた。ミカとマッシュ、そしてサオリはその音にいち早く気づき、ヒヨリとミサキを引き寄せて遮蔽物の裏へと引き込む。

 

 

 

 

 

「みんなこっち‼︎」バサッ!

 

「翼で弾丸を防御……羽まで強いのか」

 

「これでも昔から頑丈で……じゃなくて、一体…誰が?」

 

「――みんな、あれ」

 

「っ、あれは……!?」

 

「――馬鹿な」

 

 

 

 

 

 

マッシュが指差した場所……そこには、これまで散々戦って記憶に焼き付いた存在がいた。

 

風に靡く襤褸布の様なウィンプル、そして独特な装いに罅割れたヘイロー、馴染みのあるガスマスクはレンズ部分が奇妙に光り、青白い肌はとても人とは思えない様な印象を見る者に抱かせる――一度、消えたはずの存在。

 

 

 

 

 

「せ、聖徒会⁉ あれって、ユスティナ聖徒会ですよね⁉」

 

「何故だ、エデン条約が抹消された以上、アレの使役は不可能な筈――」

 

「……考えてみれば……そもそも私達がエデン条約の会場を襲撃した理由は、複製能力を確保する為だった」

 

「そ、それはそう、ですが……その為に姫ちゃんは古聖堂の地下であの木人形の云う通りにした訳ですし」

 

「そうして確保した聖徒会の力でトリニティとゲヘナ自治区を占領する、それが私達の任務だった筈――まぁ、結局先生に負けちゃったけれど……先生を抹殺しろという任務も……最優先事項では、なかった気がする…」

 

「複製能力の確保も、両学園の占領にも失敗してしまったからな、姫を逃がすにはそれしかなかった――だからこそ分からない、何故アリウス自治区は、"彼女"は複製能力をまだ保持して……?」

 

「……一度身についた力は、そのまま自分の力になる、ってことかな」

 

「ミカさん……それって」

 

「複製っていうのは、一度でも成功させれば繰り返し発動出来るんじゃないかな……」

 

 

 

 

 

ヒヨリが、サオリが、信じられないモノを見る様な目でミカを見ていた。その視線を真正面から受け止めながら、彼女は声を続ける。

 

 

 

 

 

「……規模の大小はあれど、発動自体に調印や権限の有無は不要……酷い話だね」

 

「――つまり、本来の私達の任務は"姫"を古聖堂に連れて行って複製を発動させる事()()だった?」

 

「ま、待って下さい‼ それじゃあ、ゲヘナとトリニティ占領や、先生を抹殺する事に…関しての任務は、あの作戦は、一体……⁉」

 

「彼女にとっては、成功しようが失敗しようがどうでも良い事だった……本命は複製を発動させる事、それだけ――後は占領が成功すれば手間が省ける、その程度の作戦だった……そういう事になる」

 

「そこで……あわよくばその複製で先生を殺し、肉体を手に入れる――だから、私たちに…あれを……」

 

「えっと……脳がパンクしかけてきたんですけど――つまり、調印式を襲ったのは……複製の力を手入れる――ただそれだけのため?」

 

 

 

 

 

 

 

『その通りですよ、マッシュ・バーンデッド』

 

 

 

 

 

そのマッシュの言葉に、同意するように――一つの幻影が彼の前に現れた。それと同時に、新たに現れたユスティナの使徒達が、マッシュ達を包囲する。

 

数は少なく見積もっても20……その奥にも、中隊規模の使徒が居並んでいる。

 

 

 

 

 

『此処は正真正銘、私の支配下にある領地、貴方たちの現在地や目的地、その経路に至るまで、全て把握しているのです。あなた達が真正面から来るであろうことも……あぁ、なんと愚かな子ども達よ。私に隠し事など不可能なのです』

 

「マダム…!」

 

 

 

 

 

赤いオーラのようなものを纏って現れたベアトリーチェ……否、ベアトリーチェの幻影。幻影でありながら、まるで実体を持つような鮮明さで投影された魔法の立体映像──そこに映された異形の姿に、マッシュとミカは形容できない不気味さと邪悪さを感じ取った。

 

 

 

 

 

『追撃を躱して再びこの地を踏んだ褒美として、先程の問いに答えましょう、サオリ。――貴女たちの任務、それは最初からロイヤルブラッドを古聖堂に連れて行き、聖徒会を顕現させる事……そしてマッシュ・バーンデッドの肉体を手に入れること、ただそれだけだったのです……

 

 

パスは一度接続さえすれば以降は全て統制が可能、マエストロは自身の作品が奪われるようだと嫌っていましたが、その様な事はどうでも宜しい……あぁ、貴女方が命を賭けたトリニティやゲヘナの占領に関してもです、私にとっては全て――些末な事』

 

 

 

 

 

 

そう、彼女にとって調印式襲撃はあくまでも副次的な目標にすぎず、複製能力の入手に比べれば本当にどうでもいいことだった……アリウスの復讐心も、彼女らの思いも――所詮はそれらを上手く扇動して利用したのみであり、アリウスの生徒については何もかもがどうでも良かった。

 

 

 

 

 

『……まあ、ミサイルは破壊され、マッシュ・バーンデッドの肉体も手に入れなかったことは非常に残念ですが……喜びなさい。貴女方は見事任務を遂行したと云えるでしょう、私に複製の能力を提供しましたし、ロイヤルブラッドも素直に生贄として捧げてくれました……勝手に先生に暴言を吐いたり、勝手に洗脳されてくれて――

 

 

あぁ、あなたは昔から云いつけを良く聞く、大人(わたし)にとって都合のいい子ですね――サオリ』

 

「……最初から、トリニティを、ゲヘナを…両校の占領を為せば、家族(アツコ)を救ってくれる約束なんて……守るつもりなどなかったのか――マダムッ⁉」

 

「ふざけないで……ふざけないでよ‼︎ 貴女のせいで‼︎」

 

『ふふっ、子どもの躾けはこの程度で良いでしょう。そんな事よりも、私が語るべきは―――貴方ですよ、シャーレの先生…』

 

「……」

 

 

 

 

 

 

ホログラムとは違った、まさに魔法のような姿で現れたベアトリーチェ。彼女の目はマッシュの顔……ではなく心臓。

 

ミカが飛び出しそうになるのをマッシュは静止し、一人前に出る。

 

 

 

 

 

「…―だ」

 

『だ?……まぁ…とりあえずは挨拶を――初めまして…先生。私の名前は―』

 

 

 

 

 

 

マッシュは初めて会うベアトリーチェの前にして……少し小刻みに震えながら。

 

 

 

 

 

 

「僕の体を欲しがってる変態ショタコンおばさんだ……怖っ」

 

 

『誰が―─変態ショタコンおばさん……ですって!!?』

 

 

 

 

 

 

 

正直に、思っていたことを述べた。





次回・アッセンブル。


正直に言いましょう……難しい話はここまで、ここからはただただマッシュ君の快進撃なお話ばかりです。

マダムの目的は複製能力の確保とマッシュ君の抹殺と肉体の確保……そのために調印式襲撃を計画した……うーんこの。

やっぱりフルボッコにしないとダメですね。

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