透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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後半おかしくなりましたが……フゥゥゥ、受け入れてください‼︎


それでは本編は……どうぞ!


マッシュ・バーンデッドと神の力と筋肉の力

 

 

「結構使いやすいなこれ……今度から使ってこう」

 

「ゴッ――ゴホッ、グフッ…‼︎――まだ……です――まだ、終わってなど……ぃ……ません…!!」

 

「そしてあっちはまだ意識がある……頑丈と言うか、執念深いと言うか」

 

「っ、なんて……奴だ。あんな攻撃を喰らっても、意識を保っているだなんて」

 

「……よく見たら、徐々に治っていってる――化け物だよ」

 

 

 

 

 

 壁へと吹き飛ばされ、体の至る所を負傷したベアトリーチェ。しかし、その体を覆う赤いオーラが光の粒子を放ち始めると、体の傷は徐々に治癒していき、傷から溢れていた血が引き潮のように消えていく。

 マッシュたちは「これもまた何かの魔法か」、と推測するのだが……よく見ると、杖が少し赤く光っていた。

 

 

 

 

「……幻想を増幅して具現化する――まさか奴は……自分の傷を治す幻想をイメージしているのか?」

 

「ま、待ってくれサオリ!ベアトリーチェは、他者の肉体やその周囲の空間に強く干渉する幻想は具現化できないと、いっていたはずだ!……だから、自分の体をどうにかするだなんて」

 

「ううんアズサちゃん、あのおばさんは他者の肉体をどうにかできないとはいってたけど――自分の体をどうにかできないだなんて、一度も言ってない」

 

「そんな……!?」

 

「寧ろ、使ってる本人なんだから回復ぐらい出来て当然だよね……あの杖と、魔力?いや、正確には神秘かな。それがある限り、あのおばさんは……倒れない」

 

 

 

 

 

 

 ベアトリーチェは、傷ついた自分の肉体が本来の状態に治癒する幻想をイメージし、魔法でそれを具現化した……あの杖の魔力がある限り、彼女が倒れることはない。

 

 

 

「なら魔法が使えなくなるまで、何度でも攻撃するしかないってことか」  

 

 

 

 そんな絶望的状況を前にしても、マッシュの脳筋思考は全く持ってブレを見せない。

 ベアトリーチェの肉体が一定まで治癒した瞬間、もう一度モーニングスターを叩き込む気でいた。

 

 

 

 

 

「ここで負けるわけにはいかないのです……早く、早く準備を進め、彼の方に……彼の方に…!」

 

「……その彼の方って人を、貴女はそこまで愛してるんですか」

 

「ええ勿論…!!私のこの力は、彼の方に授かったも同然!だから恩を返すのです――貴方という供物を捧げることで!!」

 

「そうしないと、貴女がその人に愛されないからですか」

 

「当たり前でしょう――何もしないで、愛されるなどあり得ないのですから……!!」

 

「サオリさんにも言いましたけど――そんなの、間違いですよ」

 

 

 

 

 

 マッシュはモーニングスターを持ちながらベアトリーチェに向き合い、はっきりと、自分の思っていること、真実を話す。

 

 

 

 

 

「僕のおじいちゃんは、血は繋がってない僕をただ黙って育ててくれました。何もしなくとも、恩返しをしなくとも―『生きていてくれるだけで、恩返しじゃよ』って、そういってくれました」

 

 

 

 

 レグロは、マッシュが生きているだけで、幸せそうにしているだけで恩返しと受け取っており、本当にそれだけで親孝行として受け取っていた。

 

 愛とはそれで十分……それが本来の愛、その考えを聞き、彼女が少しは分かってくれる、少しは考えを変えてくれる……そうわずかな可能性を信じたが。

 

 

 

 

お前達(親子)のそんな薄っぺらい関係と私達を比べるか…!」

 

 

 

 

 彼女は変わらなかった。純粋なる善と絶対なる悪……この二つの概念は光と影のように決して交わることがなく、この世界で相反する二つとして在り続け、決して互いが分かり合える事はない。

 マッシュは純粋なる善、ベアトリーチェは完全なる悪。彼女が善に寝返ることなど、無いのだ。

 

 

 

 

 

「少なくとも……貴方達の関係よりかは、濃いはずですよ」

 

「私と彼の方の関係を愚弄する気か……そこまでいうのなら………私の本当の力を持ってして、貴方を殺してやりましょう!!!!」

 

「本当の、力――」

 

 

 

 

 

 次の瞬間、ベアトリーチェは杖を両手で持ちそれを高く天に掲げげる……すると、地面に深紅の魔方陣が描かれた直後、血溜まりのようにバシリカの床一面が赤黒く染め上げられる。

 

 

 

 

「もうアリウスもミメシスも必要無い…!!私の――この私の全てを以て、貴様らを――殺す!!!」

 

 

 

 これまでの慇懃無礼な態度すらかなぐり捨て、口調に気品も何もなくなった彼女は、真っ赤に染まった床に杖を叩き落とす。

 投げつけるように地面に落とされた杖は血溜まりと化した床へ沈み、それに合わせて彼女は空を仰ぐように両手を大きく振り上げ、バシリカに響く大音声で"それ"を詠唱した。

 

 

 

 

 

「ファンタジム―サーズ!!!」

 

 

 

 

 

 サーズ―─その呪文を発した瞬間、アリウス自治区一帯が大きく揺れ始める。ミカはサオリ達の側から離れずに、サオリとアズサを翼で抱き寄せて守り、マッシュはモーニングスターを手にしてベアトリーチェからを目を離さない。

 

 

 

 そして莫大なエネルギーがベアトリーチェから溢れ、幾筋もの光条となって天へと昇る。

 まるで大河のようなエネルギーの流れが、バシリカの床一面から伸び上がるように、雲の上、天の遥かなる高みへ達した瞬間―――

 

 

 

 

雲を割って、それは現れた。

 

 

 

 

 

 

「な……………ん……だ…?」

 

「嘘……でしょ………」

 

「ヒッ……」

 

「こんなバカな…ことが……」

 

「――笑えないね……流石に」

 

 

 

 

 

 吹き抜け同然に開かれ、天井を失ったバシリカの上に広がる空。

 そこに現れた存在は、まさしく『異形』だった。
 
 炎のように眩く赤熱した金属の体に、天を覆い隠さんばかりに三対の翼を拡げた、まるでオリハルコンやミスリルで鋳造された熾天使の巨像を思わせる姿。
 両腕には、サモンズの杖に似た巨大な儀杖を所持している。その顔面は大輪の花の様に禍々しく開花し、幾重にも広がる鋼の花弁一枚一枚に張り付いた瞳が、異様な威圧感を伴った鮮紅の眼光を放つ。
 
「サクラコさん、あれを!」
 
「あの光は……バシリカの方角です!」
 
「……なに、あれ」
 
「空が、赤くなって…!?一体何が起きてんだ!?」
 
「ユスティナの様子もおかしい…あの光が発生してから、ミメシスの能力まで強化され始めている…!?」
 
「先生……!」

 

 背に輝く緋色の円環(ヘイロー)が放つ光は皆既日食のようにも、ブラックホールの降着円盤のようにも見える。放たれる輝きは、ミメシスと戦うパラダイス機構の者達からも視認できる光量と禍々しさを伴っていた。

 その光は夜の帳を禍々しい赤で染め上げ、落日の瞬間を思わせる赤の世界にマッシュたちを誘う。

 

 

 

 

ヤルダバオト・インクラネイション…‼︎」

 

 

 

まさに神と呼べるそれが…マッシュ達の前に降臨した。

 

 

 

 

 

A R T I F I C I A L G O D O F T H E D E C E P T I O N
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JALDABAOTH
 
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I N C A R N A T I O N

 

 

 

 

 

究極魔法・サーズ(Thirds)

 

 

 それは、数百万人に一人の存在と言われている三本線(サモンズ使い)、さらにその中でも極一部の人間にしか使えない超々高等魔法。

 

 

 魔法界において、神に認められたとされている神覚者ですら使えるものは稀であり、発現した者は例外なく、魔法界の歴史に名を残す。

 

 

 サーズは存在が奇跡そのもの……まさに正真正銘

 

 

神の力である。

 

 

 

 

 

 

 

「……何だ、これ」

 

「さあ止めてみろ!!!この私を……このヤルダバオトの力を最大限に使う!!その私を!!」

 

「!」

 

 

 

 

 

 ベアトリーチェはサーズを顕現させた余韻に浸ることなく、即座にマッシュの背後に回り込むと、瞬間的に顕現させた直刀でマッシュへと切りかかった。

 

 

 

「フッ…フンッ!」

 

 

 

 それをマッシュは持っていたモーニングスターの鎖で絡め取った後、右手でベアトリーチェを思い切り殴りつける――のだが

 

 

 

 

 

スカッ…!!!

 

 

 

 

「「「「「「⁉︎」」」」」」

 

「これこそ…ヤルダバオトの真の力…!!」

 

「先生の攻撃が、すり抜けた…!?」「馬鹿な、そんなはずはっ……!?」

 

「ヤルダバオトはかなり過保護な存在でな…防御のタイミングに合わせ、物体や攻撃をすり抜ける透化能力を自動的に付与するのだ!!!」

 

 

 

 

 

 ヤルダバオト・インクラネイションの能力は、物体や攻撃をすり抜ける透化能力を杖の所有者に付与すること

 

 

 つまりは、ベアトリーチェに何らかの攻撃が近づいた時、背後にいるヤルダバオトはその威力や速度・角度を認識するとともに、脅威の度合いを割り振り、その能力を発動する。

 発現したヤルダバオトの能力は、彼女に瞬間的な物理干渉の無効化、すなわち透過能力を付与し、全ての攻撃をすり抜けさせることで相手の力を無力化するのだ

 

 

 

 

「そ、それって、先生がどんな攻撃をしても、全部すり抜けさせるから……無敵って、ことなんじゃ」

 

「透過能力を付与するタイミングはベアトリーチェの判断じゃない。あの神が勝手にやってることだから……ベアトリーチェの隙をついても……無駄」

 

「先生の、あの先生の攻撃に合わせられるなんて…!」

 

「――幻想……そこに、存在しない物」

 

「マッシュ君…と…相性最悪じゃん…!!!」

 

 

 

 

 

 マッシュはこれほどの能力を前にしても、表情一つ変えないまま蹴りで攻撃する。隕石すら顕現させる神秘を持ったミカと拳で語り合い、エデン条約調印式の死線をくぐり抜けたマッシュには、もはや恐れるものはない。

 しかし、さしものマッシュ・バーンデッドの筋力をもってしても、ベアトリーチェの魔法がもたらす超常的な能力には不利が過ぎた。

 

 

 透過能力が付与されているベアトリーチェに、マッシュは物理的に干渉できない。これまでキヴォトスを支えた超人的な筋力が繰り出す攻撃も、ヤルダバオトの能力をもってすればあまりにも無力だった。

 ご都合主義同然、ベアトリーチェにとってお誂え向きの反則的な力は、マッシュを完全に無力化するに十分だった。
 彼女は透過で攻撃を避けた後、振り回されたモーニングスターごとマッシュの顔を蹴り飛ばす。 鼻柱にヒビが入る音を立てながら、刺々しい球状の錘がマッシュの顔面に蹴り込まれる。

 

 

 

 

 

 

「能力はこれだけでは無い!!!」

 

「うわ悪趣味」

 

「さらに足場もだ!!!」

 

 

 

 

 

 鼻血を拭ったマッシュが立ち直ったと同時に、ベアトリーチェは上空から、雷属性の電磁場を付与した大量の大槍を出現させる。まるで驟雨のように降り注いだそれはマッシュを串刺しにせんとばかりにバシリカの床を穿つ。

 続けてベアトリーチェは、バシリカ内に顕現させた水属性の魔法陣から大量の海水を放出。床一面に足首が浸かる深さの水を張る。

 

 

 

 

 

「逃げたところで無駄だ!!海水は伝導体、電撃魔法の効果であればその導電性は倍加する!!……本来なら厳密な条件があるが――これは幻想、私のイメージが生み出した攻撃だ…貴様に、逃れる(すべ)などない!!」

 

 

 

 

 槍が地面に刺さった瞬間、水を伝った強力な電流がマッシュに襲いかかる。

 マッシュは大重量のモーニングスターを投げ捨てると、足を羽のようにばたつかせてホバリングし、なおも降り注ぐ槍の雨の合間を縫う。

 

 

 

 

 

「ヤルダバオトが手中に収めしこの空間は、私の幻想をより強力に、より高次元で鮮明な事象に作り変える……つまりは、私の意志一つで、こういうこともできる!!」

 

「僕の武器が……マジか」

 

 

 

 

 降り注いだ槍の雨、それらはまるで溶けた錫や鉛のような液状に変化するとともに、スライムのように移動しながらマッシュのモーニングスターを包み込む。魔力を多分に蓄えた鋼がプロテウスの特殊鋼と混ざり合い、さらに巨大なモーニングスターを形成した。 

 

 

 

 

「お返しだァッ!!!」

 

「フンッ、フンッ!―フンフンフンフンフンフンフンフンッ!!!」

 

 

 

 

 マッシュは宙に浮きながらラッシュを繰り出し、モーニングスターの猛攻を防いでいく。

 棘と棘の合間を狙った渾身の一撃を放ったマッシュは、逆に鉄球をベアトリーチェの方へとパリィして打ち返して見せた。

 

 

だが、その攻撃すらもベアトリーチェには通らなかった。

 

 

 

 

「無駄、無駄!!!全てが無駄なのだ、マッシュ・バーンデッド!!!お前の攻撃は私には決して届かない……しかし私の攻撃はお前を捉え、甚振り、確実にその命を奪う!!!――お前の勝ちは万に───いや、億に一つもない!!!!

 

「―やってみないと分かりませんよ」

 

「ならばどうにかしてみろ、お前の力で────そして、その屍を晒せェッ!!!」

 

 

 

 

 直後、バシリカを浸していた海水が渦を巻いたと思った瞬間、その中央から突き上がった水柱がマッシュに向かって伸び上がり、数万メガパスカルにもなる水圧のパンチを幾度となく食らわせる。

 伸びた水柱の筋は幾本にも枝分かれした直後、蔦のようにマッシュを絡め取ると、立方体に成形された水牢の中に彼を拘束する。

 

 

 

 

「串刺しだ!!!」

 

「今度は超高圧の水の槍!?」

 

「しかも、早い…!!」

 

「水の中では身動きは取れまい…!」

 

「―――」ギュッ

 

 

 

 

 マッシュは水中に拘束されている中、握った両手の中に水を蓄え、強烈な圧力を伴った水鉄砲を放つことで、飛んできた水の槍を全て相殺した。

 

 たかが数メートル四方の大きさでありながら深海のように纏わりつく水を振りほどき、マッシュは水牢の中から脱出する。水の上で助走をつけたマッシュは飛び上がるようなジャンプで空を切り、ベアトリーチェの背後にいるヤルダバオトの本体へ向かって飛び蹴りを放つ。

 

 

 

 

 

「――ああ、言い忘れていたが――あの神はファンタジムの化身……つまり」

 

「――透過もできるんだ」

 

「そういうこと……だッッ!!!!」

 

 

 

 

 ヤルダバオトは、ベアトリーチェに法外な能力を付与している神そのものであると同時に、杖の所有者が生む幻想の効力範囲内にある存在でもある。

 ヤルダバオトへの飛び蹴りがその腹をすり抜け、完全な空振りとなったマッシュに対し、ベアトリーチェは自らの右腕に魔力を集中、ゴーレムの如き鋼の腕を生成した。

 

  宿敵を鷲掴みにしたベアトリーチェは、その骨の髄まで砕くほどの力でマッシュを握り込みながら、バシリカ中の壁や床に彼を無造作に打ち付け続ける。何度も、何度も、何度も。

 

 

 

 

 

「あまりにも……一方的すぎる………!!」

 

「先生がいくら早い攻撃をしても、その全てが……すり抜ける」

 

「でもあっちの攻撃は先生に通る……っ、ふざけないでよ…‼︎」

 

「クソガキが…さあ、教育の時間だ…!!!!」

 

 

 

 

 

 ベアトリーチェはゴーレムの腕で掴んでいたマッシュを上空へ放り投げると、重力操作魔法によって彼を空中でピン留めしたように固定する。

 そしてヤルダバオトは、両腕に持っていた杖に魔力を貯め始め、まるで照準を合わせた艦砲のように、その杖先をマッシュに差し向けた。

 

 

 

 

 

「これで終わりだ!!!――ヤルダバオト・フルバースト!!!!

 

 

 

 

 

 ヤルダバオトは単眼を据えた杖先から、爆発的な魔力の流れを伴った2本の熱線を交差させるようにマッシュへ叩きつけた。極超新星を想起させるほどの光がバシリカ上空を昼よりも明るく照らし、大気を焦がすほどの熱線がアリウス自治区に焼け付くほどの熱波をもたらす。

 

 マッシュは黒焦げになりながら炎に巻かれ、火のついた吸い殻のように地面へと落ちていった。

 

 

 

 

 

「マッシュ君!!!!!!!」

 

「あぁ……そんなっ…!!?」

 

 

 

 

 壁に大穴が空き、地面が抉れるほどの威力を持つ高出力レーザー……その直撃で全身を焦がされたマッシュは、遂に命に届く深傷を負ってしまった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 握り潰され、肉を焼かれ、多くの骨を砕かれたマッシュは、地面にうつ伏せで倒れ込んだまま───それでもなお、反撃の機会を虎視眈々と狙いながら、息を整えていた。

 しかしその両腕には骨まで亀裂が届くほどの裂傷が走り、肋骨は3本が完全に折れていた。

 

 

 

 

 

「――先生が……一方的に……やられてる……だなんて……」

 

「――勝てないって言うの…?……先生ですら……あいつに………」

 

「こ、ここまで頑張ってきたのに…こんなのって……こんなのって、あんまり―「勝つよ」─ッ!……聖園、ミカ…?」

 

「大丈夫だから……マッシュ君なら───勝てる」

 

「――フッ……フフフフフっ――フハハハハハハッ!!聞いたか、マッシュ・バーンデッドよ!!……あの魔女と馬鹿共は、お前がまだ勝てると信じ込んでいるぞ!!?」

 

 

 

 

 

 ベアトリーチェは腹を抑えながらミカを嗤い、倒れ伏せたマッシュへとゆっくり近づいていく。

 攻撃が全て通り抜け、圧倒的な火力を持つ攻撃を何度も繰り返し、全てを蹂躙し、支配し、文字通り世界を我が物とした自分に対して……マッシュが、魔法を使えないただの人間が勝てるか?
――答えは、否。

 

 

 

 

 

「私はこの力で、神へと近づく……今、お前の眼前にいるこの私は、神に最も近い存在なのだ!!!」

 

「……………」

 

「そんな私に勝てると思われている、とはなァ……ああ、なんと不憫なことだ!!!自らの価値を否定され、人の身に余りある重責と期待を背負わされ、数多の命を預けられ……最期はそれを果たせぬまま、家族も、友人たちも、誰一人として守れぬまま、孤独に死んでいくのだからなァ!!?!!??

 

「――黙ってよおばさん…!!!」

 

「またおばさんと…口の利き方がなっていないようだな、小娘ッ!!貴様らも人のことに口を出せた身分か!?この哀れな男に重責と苦痛という呪いを背負わせ、ここまで追い詰めたのは誰だ!?他ならぬ貴様ら(生徒)だろうがァァッッ!!??!!??!??!?

 

 

 

 

 

 

 ミカは一歩前に踏み出し、マッシュを嘲ったベアトリーチェに激昂する。

 例え相手がマッシュですら倒せないような、キヴォトス人であれば塵も等しく鏖殺されるであろう規格外の相手だったとしても。
──マッシュの孤独を、苦痛を、自分を救った彼の優しさを知っているミカは、マッシュを侮辱し続ける暴君の雑言を、決して許容できなかった。

 

 

 

 

 

「黙って…黙ってよッ!!!…──マッシュ君が……負けるわけない、貴女みたいに身勝手な、自己中な、馬鹿な人に……マッシュ君が負けるわけないじゃん!!!!!

 

「大人に、それも神に等しき存在を前にして、口の聞き方がまるでなっていない……待っていろ、こいつを殺して、ロイヤルブラッドもろとも私の贄に仕立てた後は……お前を、そこの裏切り者(スクワッド)諸共、久遠の絶望と苦痛を与えながら嬲り殺してや――」

 

 

 

 

 

 

 

ドガガガガガガガガガガガッッ!!!

 

 

 

 

 

 

「――ッ!!!?(今のは………殺気か…!?!?)」

 

 

 

 

 ベアトリーチェが"その言葉"を口にした瞬間──一瞬、全身の毛穴に針を刺され、皮を剥がれたかような感覚に襲われた。

 一瞬だけ見えた、自分が嬲り殺される幻覚を否応なく感じさせるほどの衝撃。
……その正体は、マッシュがベアトリーチェに向けて叩きつけた、あまりにも濃く鋭い殺気だった。

 

 

 

 

 

殺す………?もしかしてそれ、僕の生徒に向かって言ってたりします? ……そんな言葉、僕の前でよく吐けましたね」

 

(こいつ……まだ)

 

「貴女は……確かに強いです――でも僕だって、まだ本気じゃない」

 

「…ふん。負け惜しみは見苦しいぞ、マッシュ・バーンデッド……なら何か?今までは手加減してきたとでも言うのか?」

 

「はい、ずっとまだ本気を出せてませんでした」

 

「………舐めやがって――なら見せて見ろ、お前の本気を……それでこの絶対的な力を、避けがたい絶望を前にして、足掻けるものならなァ!!」

 

「そこまでいうのなら……出しましょう――全力を

 

 

 

 

 マッシュは決然と制服を脱ぎ捨て、トレーニングウェア姿になると……キヴォトス入り以前より、与えられてから一度も外したことがなかった、腕輪を外した。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

――マッシュ、これはお前の力を抑え込むために超絶重くした腕輪じゃ。マッシュの筋肉は暴れ馬じゃから、ちょっとしたことで周りを傷つけてしまいかねん。これをつけて、普段は力をセーブしていなさい。

 

 

 

――いざという時以外、外すでないぞ……

 

 

 

―――マジで、危ないから

 

 

 

 

 

 

 

(――ごめん、じいちゃん……約束、守れそうにないや。破ってごめん。だけど、僕は───)

 

 

 

 

 

 祖父との約束を思い出しながら───ゆっくりと、マッシュはその手首に嵌めていた腕輪を、両方とも外した。

 

 

 

 

「先生は何を……?」

 

「あの腕輪……何?」

 

「あれを外して、どうしたんでしょう…」

 

「――そういえば、ずっとつけていたな……ただのファッションだと、思っていたが…」

 

(――あれ……なんか、空気……変わった?)

 

 

 

 

 

 腕輪を外したマッシュは、それを地面に落とす。そんな様子を見ていたベアトリーチェは嘲笑を顔に貼り付け、マッシュのことを蔑み愚弄していた。

 ミカとスクワッドはマッシュの意図を測りかね、腕輪を外すマッシュをただ見守ることしか出来ない。

 

 

 

 

「腕輪――フハハハハハハハッ!そんなものを外したから何になる、それでパワーアップでもするつもりか?馬鹿馬鹿しい……何をしたところで、神の力の前には――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドゴオォォォォォォォォォォォォォォオン!

 

 

 

 

 

 

 

「――――――――HA?????」

 

「「「「「エエェェェェェェェェェェッ!!!!!!!???!??!??!??」」」」」

 

 

 

 

 

 腕輪が地面に落ちた瞬間──轟音と共に勢いよく地面が陥没し、わずかに残っていた海水が瓦礫混じりの水柱を突き上げた。

ただの重り、腕につけていただけのそれを外し、地面に置いただけで、天を衝くような即席の巨塔が2本、赤く染まった空に屹立した。

 

 ベアトリーチェはしばらく困惑していたが……すぐさま意識を集中させ、マッシュの方を見る……が、すでにマッシュはベアトリーチェの前からいなくなっていた……なぜなら。

 

 

 

 

 

 

 

「フルマスクルズ魔法・アンリミテッドフィジカルモード」

 

(―――⁉︎)

 

 

 

 

 

もうすでに、マッシュはベアトリーチェの背後に回っていたからだ。

 

 ベアトリーチェがサーズを使った際と同様、マッシュの雰囲気は大きく変化した。

 これまで筋力を抑え込む過程で気迫や代謝すらも抑制していたのか、腕輪を外したマッシュはやや色黒となり、前髪も逆立っている。

 

 

 

 

 

「くッ…!!所詮はデッドウェイトを落としただけのことだ!!ただのアクセサリーを二つ外した程度で調子……に……?」

 

「……」ササッ

 

「調子に乗る…な……?」

 

「……」ササッ

 

「っ!!!!」

 

「……」✌*1

 

「「「あ〜〜〜〜っ!!!!⁉!?!???」」」 

 

 

 

 

 

 腕輪を外したマッシュは高速でベアトリーチェの死角に入り込み続け、尚且つ無言でピースサインをする余裕を見せていた。大きさに見合わない重さの腕輪を外したことで、一瞬のうちにそれだけの敏捷性(アジリティ)を解き放ったのである。

 

 

 

 

 

「何をしたのか知らないが同じこと!!どうせ私には、何のダメージは入らない!!!」

 

 

 

 

 自信満々に叫ぶベアトリーチェ。当然、ヤルダバオトの自動透化能力による物理干渉の無効化は、マッシュの攻撃に合わせて発動できるほどに早く発現する。

 

 

 

 

 

ドゴォッ!!!

 

 

―ォゴッ!?

 

 

ドゴゴゴゴォォッ!!!!

 

 

ガッ!ゴホッ!!――ンガッ!!?

 

 

ドゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴォォォン!!!!

 

 

グァァァァァァァァァッッ!!?!??!?

 

 

 

 

 

しかし、なぜか、今のベアトリーチェは……マッシュの連打によるダメージを喰らっていた。

しかも……ヤルダバオトの透過能力が発動する前に、である。

 

 

 

 

 

「あ、あれ、あれれ!?な、なんでベアトリーチェに攻撃が入ってるんですか!?」

 

「そもそも、先生は何処にいるの……さっきから姿が見えないけど」

 

「―――違う、違うぞミサキ」

 

「…違う?」

 

「姿が見えないんじゃない……見えて、いないんだ」

 

「……は?」 

 

「先生は………今――透過能力が発動する前に、ベアトリーチェに攻撃をしているんだ!!」

 

「………はぁ!?」

 

「私も目で追えないんだけど…!?」

 

 

 

 

 

 

 マッシュはヤルダバオトを含め、その場の全員が目で追えない程の速さでベアトリーチェの周りを移動しながら拳を振るっていた。

 もはや人間の反応速度では肉体の運動を制御できないような速度域でも、マッシュは的確にベアトリーチェの急所を突き続け、その魔力と肉体的な耐久値を消耗させていく。

 

 

 ヤルダバオトの透過能力自動付与は、以下のプロセスを経て発動する。

 
──まず、ヤルダバオトはその知覚能力をもって、杖の所有者(ここではベアトリーチェ)に危機が迫っていることを察知・認識する

 

 

 

ヤルダバオトはその危機の正体を分析、杖の所有者に接近する攻撃あるいは物体の速度や位置関係について把握することで、対象者を守る魔法を発動する際に必要な情報を得る。

 

 

ヤルダバオトはこの時初めて魔法を発動し、透過能力を付与する部位や時間を適切に合わせることで、杖の所有者及びヤルダバオト自身への攻撃を無力化していた。

 
……と、この順番で行われているのだが───

 

 

 今のマッシュはベアトリーチェに拳を振るってから、魔法を発動するまでの間に……数百発を超えるパンチを打ち込み続けている。

 

 

つまり今この瞬間は、ヤルダバオトの透過能力の付与、及びそのために必要な位置情報の観測が間に合っていない───

すなわち、神の目をもってしてもマッシュの移動速度を全く捕捉出来ていないのである。

 

 

 

 

 

 

(神が操る、魔法の発動時間を超える速度……だと!?たかだか、たかだか腕輪を外した程度で…!?――それに…!!?)

 

「フンフンフンフンフンフンフンフンフンッ」

 

(その男――私が瞬きをした瞬間には、もうすでに攻撃が終わっている……何回殴られた――っ!それすらもわからん…!!)

 

 

 

 

 

 ベアトリーチェの能力がほとんど無意味になる速度で、マッシュは彼女の顔を、腹を、四肢の関節を何度も攻撃していた。

 

 

 

「な――め……るなぁぁぁァァッ!!!!!」

 

「おっ」

 

 

 

 ベアトリーチェは痺れを切らして全方位に魔力を放出、自分の周りに「アサルトアーマー」───衝撃波のような拡散性バリアを展開し、マッシュを強引に弾く。

 直後、自分の背後に無数の魔法陣を描くと、そこから一万挺を超える無数のSMG・AR・GL・SRに加え、重機関銃や無反動砲、対戦車ロケット弾やMANPADS(携帯型地対空ミサイル)までをもを錬成し、それを容赦なくマッシュに発射する。

 

 

 

 

 

「さあどうだ!!!???!?!?攻撃する隙があるのなら――」

 

 

 

 

 その直後……ベアトリーチェの背後にあった全ての火器と、それらから放たれた全ての銃弾と砲弾が

 

 

 

 

メギャメギャメギャァッッ!!!!!!!!!!×100000

 

 

 

 

 

全て、一度に破壊された。

 

 

 

 

 ベアトリーチェが、それを錬成した直後……それも、総数は一万を超えたはずが、一瞬でその全てが意味をなさない鉄屑の塊に化けた。

 

 

 

 

 

「ぇ………は?(今何をした……は…?本当に何をした……何を、どうしたら、そんな一気に……破壊……え?)」

 

 

 

 

 

 マッシュは──彼女が銃火器を出し終えた瞬間、彼女の背後に回ると、片っ端からそれを握り潰したのだ。

 ベアトリーチェが意気揚々とセリフを吐いた頃にはもう、潰した数は9割を超えていた。

 

 

 

 

 

「――まだ……だ…!!まだ私にはあの神がいる、あれがある限りお前は勝てん!!―調子に乗るな!!!お前なんて、いつでも…………あ?」

 

「…………」

 

(こいつ……なぜ、急に止まった……?――――ん?)

 

 

 

 

 

「………………。」

 

 

 

 

 

(こ、こいつは実体じゃない!!残像!?――な、なら本体は何処に……)

 

 

 

 

 

 ベアトリーチェがそう疑問に思っている時……その背後から金属的な破壊音が響く。

 何かを破壊し、へし折っていくような、機械を無造作に叩き壊すような、打撃音と金属音の二重奏が聞こえてくる。彼女はまさかと思い、恐る恐るその方を見ると――

 

 

 

 

 

「せ…せ――先生が分身して、ヤルダバオトをハンマーで殴ってますぅぅぅぅぅ!!?!?!?」

 

「な………なにぃぃぃぃィィィィッ!!!?!!?!?」

 

 

 

 

 

 マッシュがプロテウス──と、先の槍が生んだ液体金属で形成した巨大なスレッジハンマーで、ヤルダバオトの体を滅多打ちになるまで殴り潰していた

 あまりにも移動と攻撃が速すぎるために、はたから見ればマッシュの残像が1000人に増えたようにしか見えない。

 

 

 

 

 

「先生はベアトリーチェが困惑している最中に、あの杖でハンマーを作った後、とてつもないスピードで移動し、あの神を攻撃した――それもたまに、残像をベアトリーチェの前に残しながら……あたかもそこにいるかのように……」

 

「一人で、たった一人で全部……それ?」

 

「このわずかの間にその動作を……もう、何万回と繰り返していた……?」

 

「もうおばさんよりも先生のほうがファンタジーじゃん」

 

 

 

 

 

 金属と機械の塊が破壊されていく轟音が辺りに響き、ヤルダバオトがその凹凸を一層激しいものとしながら、原型を止めない形へと潰れていく。

 世界を統べる力を持った神の威厳はどこへやら……時折、ヤルダバオトが抵抗するように翼や腕を振り回しても、関節や首を的確に破壊するスイングがそれを封じる。
 破壊靭性を超えた金属疲労によって自身の質量を支えられなくなった巨体は、遂には金切り声を上げて引き裂かれ始める。

 

 

 

 

 

(まずい、そんな、馬鹿な、神が――あんな容易く、早く魔法を――ダメだ、うまく、イメージができない、透過も意味がない――どうすれば、どうすれば………────)

 

 

 

 

 幻想の具現化……それは文字通り世界を支配するに足る力。

しかしそれには、ベアトリーチェ自身の思考が必須であり、それなしに魔法は発動しえない。たとえ世界を支配する力があったとしても、それを実現する手段を想像(イメージ)できなければ、何も起こせないのだ。

 

 

 決してありえないと信じて疑わなかった自らの力を超越せし存在の出現、自らにとって崇高に至る頼みの綱だった神が無惨に消えゆく姿、そして蓄積した全身のダメージと、本能が叫ぶ死の警告信号。

 

 それらに脳が飽和したベアトリーチェの思考に、幻想などという蒙昧なものを描く余裕は───ない。

 

 

 

 

 

 

「こういう時こそ」

 

「――──!!!!!」

 

「神に祈りなよ」ブンッ!!

 

 

 

 

 マッシュはベアトリーチェの脳天に目掛けて、そのハンマーを勢いよく叩きつけた。

 瞬時に展開した分厚く不透明なバリアも、既に意味をなさない。マッシュはバリアもろとも、彼女を押し潰すようにハンマーを振り抜いた。

 

 

 

 

 

「―――――――――ぐ……ご…」

 

 

 

 

 アリウス自治区を長きに渡って恐怖と暴力と虚無で支配した魔女は、面影を失った神の骸と共に、大量の血を噴き出しながら地面へと崩れ落ちたのだった。

*1
無言ピース







なんか思ったように行かなかった……ぴえん。

次回が決着となります……、いやぁ、ほんとに、ながかった。


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