アリウスに幸あれ……罪を償う前に幸せになれぇ理論で書きました。後悔はない!
「―そうだ、アツコちゃん…!」
ベアトリーチェを遥か彼方へと吹き飛ばしたマッシュは、アツコが磔となった祭壇へとその足を運ぶ。
「アツコちゃんっ…!」
「ひ、姫ちゃん!」
「アツコ……!」
「姫!!」
「姫……っ、姫!!!」
マッシュに続いて、十字架の直ぐ傍まで近付いたスクワッドとアズサは、アツコを見上げながらその名を呼ぶ。しかし返事はなく、未だぐったりとしたまま。
「―これ、邪魔だ…!」
マッシュは十字架の根本をへし折って床に倒すと、アツコの身体を縛り付ける形で纏わりつく茨を順に引きちぎっていき、十字架から完全に彼女を解放する。アツコを抱えたマッシュは、傷つけないように優しく支えながら、彼女を床に降ろした。
「息をしていない……それに…意識も……ッ、アツコ!」
「腕に切り傷が…―出血もひどい…!!」
「待ってて……はい、これ使って!!」
「すまない…!!」
「ひ、姫ちゃん……!」
「アツコちゃんしっかり…だめだ、それはだめだよ、アツコちゃん…!」
マッシュがアツコの体を支える中、必死に呼びかけるサオリとヒヨリ。服の袖や裾を一部破り、それをミサキに渡すミカと、受け取った布で腕の傷口を塞ぐミサキとアズサ。
「頼む……目を、目を開けてくれ――アツコ‼︎」
「…………」
「――アツコちゃん……ねぇ、アツコちゃん、だめだよ……逝っちゃだめだ。今度こそ、今度こそ幸せにならないと……アツコちゃん…!」
長時間に渡り祭壇へと拘束され続け、ベアトリーチェに搾取され続けたアツコは意識を失い、息もしていなかった。マッシュは必死に、何度も彼女を呼びかける――しかし、彼だけではだめだ。
「姫ちゃん、だめ、だめですよ…!?じ、自分だけシュークリームって言うものを食べておいて、私達に、その味も教えないでいなくなるなんて……勝手に、いなくなるのなんて、いやですよ!?」
「ハッピーエンドはいつか訪れるって姫が言ったんだよ?――ねぇ、ねぇってば……起きてよ…――私よりも先に死なないでよ!!」
「シュークリームクラブのみんなも、アツコの帰りを待ってる‼︎―――また、一緒にシュークリームをみんなで作ろうって、みんな言ってる……だから、だから‼︎―起きて‼︎」
「ここまで来てバッドエンドは勘弁だよ、――マッシュ君を泣かせたら、許さないからね⁉︎」
「アツコ――頼む、アツコ!せっかく、せっかく先生が私たちを解放してくれたんだ!これから先、もっと、もっと……もっと、人間らしく生きるんだ…!――だから………お願い……目を――覚ましてくれッ!」
家族の声、助けに来た
「ぅ―――」
そんな皆の声が彼女の耳に届いたのか、或いは想いが通じたのか……アツコは目を開く。
「……あれ、皆?」
「――アツコ!」
「姫……!」
「姫ちゃん! 気が付きましたか!?」
「あぁ、よかった…‼︎」
「も、もう……心臓に悪いよ……」
彼女の視界に映る、自身を覗き込む家族と、その家族と和解しようとしてくれた者の姿。ゆっくりと体を起こした彼女は、何度か瞬きを繰り返しながら柔らかく微笑みを浮かべる。
「うん……サオリ、ヒヨリ、ミサキ――みんな、おはよう」
「お、おはようって……」
「はぁ……相変わらずだね、姫」
「――アツコ‼︎‼︎」
「わっ…」
サオリは、起き上がったアツコの体を力いっぱい抱きしめる。今までにないほどの顔を浮かべながら自分へと抱きつく彼女を見て、最初はかなり困惑していたアツコだが…自身の傷だらけの腕に気付き、それから周囲を見渡し、自分が置かれた状況を悟った。
「……そっか、私…マダムに……」
「アツコ、生きていてくれて、ありがとう……本当に、ありがとう」
「………うん」
必死にそう呟くサオリに、アツコは目を瞑りながら頷く。頷きは小さかったが、その顔は万感に満ちていた。
「サオリ、泣かないで、私は大丈夫だから……此処まで、先生が手伝ってくれたんだね?」
「あぁ、そうだ……! 先生だけじゃない、色んな生徒が、手を貸してくれたんだ……!」
「……そっか」
「無事で何よりだよ、アツコちゃん」
「あっ…先生―――」
「いやぁ、本当によかったよかった」
「…………?????????」
自分がよく知っている声を聞き、顔を向けたアツコだったが……そこにいたのは、自分が知っているマッシュの姿とは異なる姿の彼がいた。
「どうしたの?……もしかしてまだ意識が?」
「先生……えっ……日焼けした?」
「グスッ……姫、あれは先生の本気モードの姿なんだ」
「本気モード………――待って、今まで一度も本気じゃなかったの?」
「本気だった時もあったよ? 力はセーブしてたけど」
「……夢?」
「現実だよ姫…なんならさっき、マダムを6万発ぶん殴って雲の上まで飛ばしたから」
「――ジョーク?」
「マジ」
「……もう一回寝ようかな」
「気持ちはとっってもわかるけど、眠ちゃだめ」
「トリニティのお姫様まで……うーん、情報量が多いなぁ」
アツコは困惑しながらも、静かに微笑み、マッシュの体をじっと見る……深く傷つき、血を流し、それでも必死に戦ったであろう後――少し泣きそうになるのを我慢しながら、彼女は呟く。
「……ほんとに、お姫様を助けに来てくれた王子様みたいだね」
「そうかな……そうかも」
「お姫様……そういえば――ねえマッシュ君?さっきのお姫様発言……ちょーっと気になるなぁ?」
「あれ、嫌でした?」
「嫌、と言うわけではないが……私達は、聖園ミカのように綺羅びやかではない。姫と呼ばれるような存在とは、程遠いのだが……」
トリニティ育ちのミカと、アリウス育ちのサオリ達とでは綺麗さも中身も違うと、サオリは自虐気味にそう言うのだが………マッシュは素直で純粋さの塊、ここで恥ずかしげもなく率直な意見を述べた。
「女の子は、みんながみんなお姫様なんじゃ?」
『……………………………………』
「あれ、なんか、まずいこと言いました?」
「――ねえこれ素?」
「素だ」
「素だね〜」
「こう言うのをなんて言うんでしたっけ……えっと、女誑し?」
「人聞き悪くない?」
マッシュの発言に困惑しながらも照れと恥じらいを感じた、青春を謳歌しているお年頃の生徒達。少しの笑みが溢れ、負の感情が徐々に薄れていくのが分かる。――これでいい、これでいいのだ。
「……よし、アツコちゃんも無事に助け出したことだし…あとは」
「……そうだな、先生は私と交わした約束を果たしてくれた、こうして姫を救って貰って感謝している――だから今度は、私が約束を果たす番だ」
「……サッちゃん?」
「アリウスとして、スクワッドとして、為して来た全ての罪を償う、私が全ての元凶だ、連邦生徒会でも、トリニティでも、矯正局でも何でも構わない、先生が思う一番適切な所に私を送ってくれ――全ての処罰を、私は喜んで受けよう」
「一体何を……!?」
「リーダー!?」
マッシュとサオリが交わした約束についての唐突な宣言、それに対してスクワッドに動揺が走る。驚き、困惑、それらを前にしてサオリは微動だにせず、その瞳に揺らぎはなかった。
「だが、一つだけ頼みたい、処罰されるのは私だけにしてくれ、エデン条約事件も、セイア襲撃も、ナギサ襲撃も……ミサキも、ヒヨリも、アツコも、皆私が巻き込んだようなものなんだ――三人が助かるならば、その分私の罪状に重ねて貰って構わない、だからどうか、裁くのは私だけにして欲しい、厚かましい事だとは理解している、それでもどうか……頼む」
「さ、サオリさん、待って下さい!」
「ふ、ふざけないでリーダー、一人だけそんな……!」
「いや、良いんだ、これで良い……私は長い間負うべき責任を放棄して生きて来た、その責任を果たす、今がその時なんだよ………今回の件で、私がどれ程罪深い行いをしてきたのか、それを強く実感した――だと云うのに、ミカを始めとした多くの生徒に手を貸して貰ったんだ、私は自身の罪を清算しなければ、彼女達に…何より先生に顔向けできない……犯した罪の償いは、為さねばならない」
彼女の意思は、固い。今回の件を通じ彼女は多くの事を知り、学び、そして――世界は広く、まだ希望を捨て切るべきでないと言う現実を知った。
だからこそ、自分が全ての罪を背負い、他の家族達を助ける……それが、サオリの意思――初めてのわがままでもある。
「先生……どうか、頼『却下』」
「却下ですよそんなの」
「……先生頼む、これはケジメなんだ……だから」
「何全部一人で決めて、一人で抱え込もうとしてるんですか? そう言うのはダメって、つい最近言われたばっかりなんですよ」
マッシュはバシリカにめり込むように落ちていた腕輪を嵌め直し、元の姿になると、サオリと目を合わせて話をし始める。今のマッシュは、一時的な先生モードだ。
「罪には罰を、それは正しき事だと思います。自身の行った行為に対しての責任は、取らなくてはならない」
「その通りだ……だから――」
「だからそのために、シャーレで、一人じゃなく、みんなで一緒に働いてください」
「…………………は?」
「シャーレで、迷惑をかけてきた分、みんなの為に働くんです。ほら、シャーレって一応は連邦生徒会直属の組織だし、結構仕事量も多いし、いろんな人のために働けるんですよ。だから更生もかねて、みんなで頑張ろ〜、みたいな」
「ま、待て‼︎ あれは、本気だったのか!?」
「もちろん、連邦生徒会も、トリニティのティーパーティーも、ゲヘナの万魔殿も許可してくれました」
『っ!?』
「だから、シャーレで僕と一緒に働いて、僕と一緒に罪を償いましょうよ」
アリウスの罪はとても大きい、世間一般的に見れば到底許されることではない。やろうとしたことは完全なるテロ行為、多くの死者が出るかもしれない状況でもあった…………そう、出るかもしれない状況に、なりかけたというだけ。
「実際に死者は出ませんでしたし、そもそもトリニティもゲヘナも大打撃ってほどのダメージを受けていない、僕も全然ピンピンしてますし……いわゆるテロ未遂?、ってやつです」
「だ、だが、なにも、お前まで罪を…」
「生徒の罪は教育者の責任ってよくあるじゃないですか、それですよ」
「あんたはまだ私達と同じ、子供でしょ⁉︎」
「でも役職的には先生だし、一緒に償うのは妥当かなーって」
軽く言ってのけたマッシュだが、言葉の重みは尋常ではない。要するにマッシュは
『罪を償うなら、一人でじゃなく。みんなで支え合いながら償っていきましょう。勿論自分も協力します』
と言っているのだ。罪は何があっても償わなければならない、しかし大元の原因は完全にベアトリーチェであり、アリウスはいわば勝手に、強制的に働かされ続けていた少年兵たちだった。つまりは彼女らも被害者である。
「マコトさんとナギサさんに言われたんですよ、『自分達にはそこまで被害は無いし、ほとんどもう気にしていない、一番の被害にあったなら先生なのだから、処遇は先生に任せる』って」
「実際、トリニティ内で騒いでるのってサンクトゥス派くらいだからね……
「ゲヘナの方も、ほとんどノーダメージと言っていたな」
「連邦生徒会内でも、『こっちで色々とやるよりも、先生に任せたほうが楽だし安心』ってことで方がついたみたいです。リンさんはものすっごい顔してましたけどね、ちょっと申し訳ないや」
『―――――』
スクワッドは絶句していた……たった一人の男に、たった一人の子供が、そこまでの影響を及ぼすとは夢にも思っていなかった。
「どんな罰でも受けるんでしたよね。だから、罰を受けてください………シャーレでみんなの為に汗水垂らしながら働いて、美味しいご飯をいっぱい食べて、お風呂にも入って、あったかい布団にも入って、ぐっすり眠る………要するに、これからじっくりと普通の暮らしを学んで、これまでの君たちと『普通』との違いを確かめて、改めて生きる道を探すっていう罰───いうなれば、僕からの『宿題』を」
「それはもう罰では無い気がするけど……まぁ、ともかくさ?――みんなはこう言ってるんだよ、『先生を傷つけた分、その先生に恩を返していけ』って……だからみんな、生きてよ――生きて、幸せになって」
「私は、これから未来を望んでも、良いのだろうか……?」
「勿論……だからみんな」
マッシュは傷だらけの体、ボロボロのその姿で――─普段なら絶対に見せなかった、爽やかな笑みを浮かべて───
「これから、シャーレの一員として――頑張ろうよ」
「…………あり、がとう、先生――いや……マッシュ……!」
「…………あんたの道具になら、いくらでもなるよ」
「わ、私は……美味しいご飯が食べれれば、それで…」
「――先生はやっぱり、光だね……私達を、ずっと照らしてくれる」
新たな仲間たちを、全霊で歓迎した。
そして同時に、生徒と共に罪を背負い、償い――幸せになるべき存在。
「―――こちらこそ……よろしく頼む」
こうしてアリウス――いや、元アリウスの生徒たちは、彼女たち自身の意向をもって、シャーレへの転属と編入が決定した。
と言うわけで、アリウス……いえ、元アリウス生徒達は、シャーレに永住することとなりました。この作品ではそうなったんだと、思ってくだされば幸いです。
次回
マッシュ君全身筋肉痛で倒れる!
アリウスを絶対に許さない派を説得するマッシュと、マッシュの護衛並びに付き人現る‼︎
黒服、ベアトリーチェの魔法の知識を使って何やら企む‼︎
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