透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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先に謝罪を……前回の後書に書いた内容と少し変わった感じになってしまいました、申し訳ありません。

あと遅れた原因は、妹先生が新型コロナウィルスにかかってしまい、そのことで色々と大変なことが起きてしまい、投稿が遅れてしまいました……申し訳無いです。


マッシュ・バーンデッドと許せない者達

 

 

 

 諸悪の根源・ベアトリーチェからアリウスを救い出し、エデン条約の締結とパラダイス機構の設立をもって、トリニティとゲヘナの関係を『憎み合う相手』から『競い合う相手』へと昇華させた男────連邦捜査部シャーレの顧問、マッシュ・バーンデッド。

 

 

 

 そんな彼は、今――

 

 

 

 

 

 

「…………なんでこんなことに」

 

 

 

 

 

 救護騎士団管轄下にあるトリニティ学区内の総合病院の一室にて、ベット上に寝そべったまま鎖で拘束されていた。

 

 全身には至るところに包帯が巻かれており、病室の天井には監視カメラも設置され、側から見れば人を襲う猛獣かモンスターが脱走しないように収容されているようにしか見えなかった。

 

 

 

 

 

「フンッ……フヌヌヌヌッ……ダメだ、全然体が動かない」

 

 

 

 

 いつものマッシュなら、鉄の鎖なんていとも容易く破壊し、部屋からも脱出できるのだが……今のマッシュは、アンリミテッドフィジカルモードを使用した過負荷の代償として、重度の全身筋肉痛に陥っていた。

 

 

 アンリミデットフィジカルモードは、マッシュが今まで自主的にセーブしていた力を解放させ、彼が持つ筋力の最大値を発揮するための状態なのだが……ただでさえ連戦で負傷・消耗していた肉体に負荷をかけ、一度セーブしていた力を一気に解放させた結果、彼は全身が強い筋肉痛となり、指先一つ動かせないほどに体が固まってしまった。

 

 

 ベアトリーチェとの戦いの後、マッシュはミカに病室へと運びこまれると、極度の疲弊により失神するように眠ってしまった……そして、気がついた頃にはベッドの上に拘束され、既にこの有り様である。

 

 

 

 

 

 

「……治療しますからね〜って言われた後にこれって……何かの罰ゲーム?」

 

「その拘束は、先生の動きを制限するためにつけたものです」

 

「この声って……ミネさん?……あの、こんなに拘束しなくたって、僕もう動けませんよ?」

 

「……まあ端的に言いますと――これから行う治療の痛みで暴れないよう、私が拘束させていただきました」

 

 

 

 

 

 マッシュの元へやってきたのは、救護騎士団団長・蒼森ミネだった。ミネはマッシュの側へと近づくと、救護の準備を始める。

 

 

 

 

「痛み…って単語は置いておいて……あの、僕ってどれくらい眠っていたんですか?」

 

「およそ、三日ほどです」

 

「え、あの、聴聞会とか、アリウスのみんなは――」

 

「そこはご安心ください。関係者各位の協力を得たこともあり、既に全て解決致しました」

 

「解決……」

 

「……正確には、まだ問題は残っています。まずはそれらを全て説明しなければいけないのですが……その前に、今先生の身に起こっている筋肉痛を直すための治療(救護)を行わなければいけません」

 

「……筋肉痛ってそんな簡単に治りましたっけ?」

 

「キヴォトスにおいて行われる、最先端の療法です。神秘を持たない方には用いられないのですが、先生の回復能力なら効果があると見込み、実践させていただく運びとなりました」

 

「……やっぱり、キヴォトスってすごいな」

 

「――では」

 

 

 

 

 

 ミネは両腕の袖を捲り上げて腕をあらわにすると、軽い準備運動を始め、両腕に力いっぱい力を貯めた後

 

 

 

 

「これより、マッサージを行います――危険ですので、どうか大人しくしておいてくださいね」バキバキバキッ

 

「……………………うす」

 

 

 

 

マッシュの筋肉に対し、強い痛みを伴うマッサージを行ったのであった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 それから数分後、マッシュはマッサージをなんとか耐え切った。重なった疲労も相まって激痛に根負けしたマッシュはもはや虫の息であり、ベッドの上で大の字になって寝転んでいる。

 

 

 

 

 

「――――とんでもなく痛かった」(冷や汗ダラダラ)

 

「お疲れ様でした、よく意識を保っていましたね。普通なら、施した生徒のほとんどがものの数秒で痛みのあまり意識が飛んでしまうのですが」

 

「そのレベルだったんだ……よく耐えられたな、僕」

 

「お身体の方はいかがですか?」

 

「全体的に痛みや疲れは取れましたけど、両足と両腕がこうなんか……動かしづらいですね」

 

「申し訳ありません…私の力では、それが限界でした」

 

「いやいや。むしろここまで治してくれたんですし、もう十分ですよ」

 

「………そうですか、では改めて、ギプスや包帯を付け直しますね」

 

「お願いします」

 

 

 

 

 

 

 激痛を生じるほどのマッサージの甲斐あってか、マッシュの筋肉痛や疲労は大幅に和らいだといっていい。しかし両腕の骨折は未だ完全に治癒しておらず、数本折れた肋骨の回復も時間がかかる見通しとなっている。当然、筋トレやシュークリーム作りができる状態ではない。

 

 ミネはマッシュに新しいギプスや包帯を巻きながら、マッシュが眠っているうちに起きたことを説明し始めた。

 

 

 

 

 

 

「まず、ミカ様とアリウスについてですが。ミカ様はティーパーティからの除名が決定いたしました」

 

「そこは、やっぱり……」

 

「というよりも、ご本人の口から、除名にしてくれと……罪は罪、償いはしっかりとする…と」

 

「……ふむ」

 

「とはいえ後任はまだ決まってないため後任が決まるまではしばらくはティーパーティの一員として扱われる模様です、そしてしばらくの間、学園へのボランティアの強制的に行う……これが、現段階での罰則です」

 

「……アリウスの方は?」 

 

「先生が眠っている間は、トリニティの独房内にて匿われていました。……彼女達の罪の根本がベアトリーチェにあるとはいえ、罪はれっきとした罪、いずれは必ず償わなくてはなりません――しかし、アリウスが犯そうとした罪のほとんどは、先生が全て未然に防いでくれました」

 

 

 

 

 

 そもそもあの日、調印式は行われていない。あの場、あの時に戦っていた者達以外にも、直接的な被害は生じていない。サンクトゥス派とパテル派の間で起こった衝突は未だ収まっていないものの、逆にフィリウス分派やシスターフッド、正義実現委員会は平穏を保っている。ゲヘナについても、調印式襲撃未遂に伴う紛争や問題は生じていないとのことだった。

 

 

 

 

「審問会の結果、彼女らはテロ未遂犯として裁かれ、執行猶予付きの仮釈放が決定しました。先生の願いを聞き届けた連邦生徒会は、元アリウス生徒をシャーレ管轄下への職員寮へと移動させ、今は救護騎士団が派遣した団員によるメンタルケアを行いながら、静かに心の傷を癒しています」

 

「―――なら、よかったです」

 

 

 

 

 裁判後、アリウスの生徒達は捕虜も含めて全員がシャーレへと移籍することとなった。武器弾薬の持ち込みや携行は一切が禁止され、現段階では情報端末の所持も許されていない。厳しい環境だが――少なくとも、あの魔女の下についていた頃に比べれば、取り巻く環境が改善されたことは間違いない。

 

 

 

 

「……そして、ここからが問題なのですが」

 

「…?」

 

 

 

 

 

 

ミネは難しい表情をした後、マッシュと目を合わせるとともに、現在の問題点について言及した。

 

 

 

 

 

「……先生と関わってきた各学園の方々が現在、アリウス生徒の処遇について激しく紛糾している状況にあるのです」

 

「………えぇ?」

 

「アリウスが貴方に対して行なった罪……それを許して社会復帰を促す派閥と、弾劾と厳罰を求めて判決の撤回を求める派閥……その二つに大きく分断されてしまっているのです」

 

「………まじか」

 

 

 

……事態は、マッシュが思っていたよりも遥かに深刻であり、残酷でもあった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 マッシュが目を覚まし、ミネの救護を受けていた頃……彼と関わりのある各学園内では、アリウス生への判決について意見を異にする者たちに亀裂が走り、二つの派閥に大きく分断されていた。

 
代表者たちの間に設けられた会議では、アリウスへの厳罰を求める者たちの憤懣や疑問が空気を張り詰めさせ、いずれもアリウス生に対する厳しい処罰を求める声が止まない。結果として現在、各学園の融和を推進するために設立されたエデン条約の存在が、皮肉にも各学園での内部衝突を誘発する状況に陥ってしまったのである。
 
 そして、それはエデン条約の当事校であるゲヘナ学園も例外ではなかった。
 
 予想通り生徒たちの意見は二つ、『アリウス分校に対する情状酌量やマッシュの意向を尊重して社会復帰を促す意見』と『アリウス分校に厳罰を求めて連邦矯正局に強制送致すべきとする意見』に分かたれ、その主張の衝突は冷たい膠着を招いていた。

 

 

 

 

 

「……貴女達」

 

「ごめん委員長……こればっかりは、何回言われても無理」

 

「私も同意見です……」

 

「………私は、ヒナ委員長がそれでいいとおっしゃったので…許してはいますが……他は……」

 

「………まぁ、仕方のないことだな。寧ろ、これだけの仕打ちを食らってなおアリウスを許した先生は……言い方は悪いが、異常なのだからな」

 

「ごめんなさいヒナ委員長……私達も、こっちです」

 

「――ごめんなさい」

 

「………っ」

 

 

 

 

 この日、万魔殿の議長室において、学園内でもマッシュとの関係が深い風紀委員会と万魔殿の幹部たちが一堂に会し、アリウス生に対するトリニティの最終判決についての議論を続けていた。

 
 マッシュを間近で見守り共闘した空崎ヒナ、同様にマッシュを支援してアリウス分校を退けた羽沼マコトは、彼の意思を尊重する形でアリウス分校の処遇をシャーレに一任するという決定を下したものの、対する風紀委員や議員の意見には決定に否を唱えるものが少なくなかった。

 

 

 

 

「色々あったけど……、私は先生にもヒナ委員長にも感謝してるんだ、先生がこっちで色々と頑張ってくれたから、今のゲヘナの治安が、学園生活がある。先生がここに来るまでは、今まで皆が食堂に並んでゆっくり食事できたことなんてなかった」

 

「不良生徒や問題児の数々も、先生のおかげで大人しくなりました。私達が何度拘束しても止まらなかった便利屋も、ひいては美食研究会や温泉開発部まで、先生はキヴォトスで初めて阻止しました。今のゲヘナは、はっきり言って平和です……その平和を手にできたのは、先生とヒナ委員長の尽力があってこそです」

 

「……そんな二人が、いつも頑張ってる二人が――あんな怪我を負わされて、黙ってろって……そんなの、無理な話」

 

「……あれはもう、決着が『私達の中では終わってないんだよ‼︎』…っ」

 

「私は、委員長に憧れてここまで来たんだ!!先生の強さにも、ちょっと憧れた……先生みたいに優しくなれたらな、って思ったこともある――そんな、憧れの二人を、ここまで酷い目に遭わされて……全部解決したから、許せって言われても……無理に決まってるじゃん!!」

 

「………お前達」

 

「私やジュリのことを心から認めてくれたのは、先生とヒナ委員長が初めてなんです……二人のおかげで、ゲヘナには食卓を爆破されることもない平穏な食生活が訪れました。なのに、その生活を成立させた二人は命の危機に晒されて、あまつさえアリウスはゲヘナに訪れた平和すらも破壊しようとした。給食部の部長として、食に携わる者として、何よりあの人に救われた人間として……恩人をここまで傷つけたアリウスを、私は認めることができません」

 

「…私もフウカ先輩と同じ意見です――先生とヒナ委員長がここまで努力を積み上げてきたのに、アリウスがその頑張りを壊そうとして、先生が危ない目に遭って……二人の努力が蔑ろにされすぎているみたいで、あまりにも悲しいことだと思います。パンちゃんも、そう言っています」

 

 

 

 

 

 無法地帯だった学園内の治安と風紀を一変させ、平穏な学園生活をゲヘナ生に教えてきたマッシュ。勿論、彼に対して恩を感じていてる者は少なくない。しかし彼に救われた共通点こそあれど、ゲヘナ生全員が同じ意見を挙げるわけではない。

 

 

 

 

「……先生が許すと言ったのだから、私はこれ以上深く追及しないつもりよ。アリウスを救いたいという先生の気持ち、それを尊重する……貴女達も、同じだったはずでしょ」

 

「アリウスを助けたいって気持ちは、あの時はっきりあった――あったけどさ…!」

 

「先生と空崎ヒナがあんな目に遭い、考えが少しづつ変わってしまった……と」

 

「掌返しがひどいって言われても仕方ない――でも」

 

「……考えは、変えられません」

 

「―――そう」

 

 

 

 

 ヒナは少し悲しそうな顔をした後、後ろを向き、窓の外を見つめる。ビルに隠れた景色の向こう側、トリニティ自治区内で療養を続けているマッシュへと、静かに思いを馳せる。

 

 

 

 

(………先生)ギュッ

 

 

 

 こんな状況をいつまでも続けたくない………そう願う、ヒナなのであった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

 

「お願いセリカ、話を聞い「嫌っ!!」……」

 

「何度も言ってるでしょ、もうあいつらの言い訳なんか聞きたくない!!」

 

「……セリカ、お願い」

 

「っ…しつこいってば!――何を言われても、私は、アリウスを許せない……この考えを変える気なんて…ないから!!」

 

「セリカ……」

 

「――ごめんなさい、二人とも……私も、セリカちゃんと同じ意見です」

 

「ごめんなさい、私もです……――今回ばかりは、どうしても……」

 

「ノノミちゃん、アヤネちゃん………うーん、困ったなぁ…」

 

 

 

 

 

 同様の衝突は、このアビドスでも発生していた。シロコとホシノはマッシュの意見を尊重していたが、セリカ・ノノミ・アヤネの三名は、アリウスへの判決に疑問を抱かずにはいられなかった。

 悪徳企業の搾取で砂の中に消えつつあった母校を立て直した恩人が傷つけられた以上、当然の反応であることは確かだったが……

 

 

 

 

 

「アリウスが被害者だってことは……馬鹿な私でも、分かるわよ――でも、それとこれとは話が違うじゃないっ!!!」

 

「……先生は、もう気にしてないって、許すって言ってる」

 

「先生がそうでも、私は気にしないなんてことはできない!―――逆になんで、二人は許せるの!?レグロさんの話の何を聞いてたの!!?先生のこと、大事じゃないの!!?」

 

「……おじさんだって先生を傷つけたことは許せない。でも……先生からお願いされちゃったんだよね、『あの子達にチャンスをあげてください』って…あの子達も私達(アビドス)と同じように、悪い大人に狙われてたんだよ…だから」

 

「……だから、許すの?……先生よ?――生まれたときから世界中に爪弾きされて、レグロさんと二人暮らししてたところをいきなり連れ出されて、何も知らずにキヴォトスに放り込まれて……初めてアビドスに来てから、散々ひどいことを言った私や、ホシノ先輩まで助けてくれて、ヘルメット団もカイザーの奴らもみんなみんな倒してくれて、私達を……私達を何回も助けてくれたあの先生が――私達と同い年の友達が、あいつらのせいで死にかけたのよ!!?

 

「…っ」

 

「それに聞いたわよ――あのときの先生、心も体も本当に死ぬ間際まで追い詰められてたって……先生はこれまで、大人が背負うような責任を背負って、ずっと一人で戦い続けてきた……そんな状態だったのに、先生はアリウスに手を差し出した――でもあいつらは、その手も何回も払い除けたっ!!!」

 

「セリカ、今は違う……今は、握り返した」

 

「遅すぎるのよ!!……遅いのよ……今更…何も……かも……!」

 

「……セリカちゃん」

 

 

 

 

 

 大粒の涙を流しながら、机を叩いて叫ぶセリカ。

 そんなセリカの叫びに、ノノミやアヤネは頷くほかなく、シロコとホシノも、彼女の言葉を完全には否定できない節があった。

 

 

 

 

 

「……もう、この話は終わり……私、これからバイトあるから。あんまり遅れたら、大将を心配させちゃう」

 

「セリカちゃ「私は……!!」っ……」

 

「――大事な人が、殺されかけて……許せるほど……ホシノ先輩やシロコ先輩みたいに優しくないっ!!!

 

「……」

 

「………っ」

 

「待って…待って、セリカ……!!」 

 

「シロコ先輩…!」

 

「え、えっと……私、三人を追いかけてきます!」

 

 

 

 

 

 シロコ達はセリカを追って部室から走り去ってしまい、残されたのはホシノのみ。

 部室を見回したホシノは、これまで共に支え合ってきた後輩たちとの間に開きつつある溝の存在を実感しながら、それに対して何も出来ない自分の現状に悩まされるばかりだった。

 

 

 

 

「―――私だって……完全に許したわけじゃないんだけどなぁ……こういうとき、どうすればいいんでしょうね…先輩

 

 

 

 便利屋とのシュークリームパーティーを開いた部室も、今となっては活気を失った空虚な空間に見えて仕方がなかった。

 大切な恩人の願いを尊重したい気持ち、恩人を傷つけた者達に対する怒り、後輩たちとの軋轢が産まれつつあることへの焦りが、綯い交ぜとなってホシノの心を圧迫し続けている。
 
 後輩との距離が開いていく現状に対して、かつて先輩を自ら突き放したことへの後悔が「同じ過ちを繰り返す気か」と警鐘を鳴らし、一層強く彼女を苛む。
 
 鉛のような空気が残された伽藍洞の中、ホシノは一人、椅子に座り込んで声を殺し、頭を抱えて震えることしかできなかった。

 




重い?………はぃ。


これが無いとこの先やっていけないよなぁと思い、書きました……まだ出ていない学園は次回に回させてもらいます。


でも最後は絶対に大団円で終わらせますのでご安心ください。

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