透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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エデン…‥終幕まで後一歩。お付き合いくださいませ。


マッシュ・バーンデッドとチャンス

 

 

 

 

「――みなさん、お集まりいただきありがとうございます。今回はリモートでの会議となりますが……まずはこの会議に至った経緯を―『御託はいい』」 

 

『もう全員事情はだいたい分かってんだ、だからさっさと説明しろ――なんでアリウスを、何の咎めも無しにシャーレに置いてんだ』

 

『リーダー落ち着いて』

 

『落ち着いてられっかよ……!』

 

『リーダー、モモイ達もいるんだ。気持ちはわかるが……落ち着いて話を聞かないと』

 

『チッ……!』

 

 

 

 

 

 

 マッシュの目が覚めた日の翌日。リンは緊急でリモート会議を開き、マッシュと深い関わりのある生徒達を緊急招集した。

 この会議は連邦生徒会の本部から中継される形で、ミレニアム・アビドス・トリニティ・ゲヘナ・百鬼夜行など、マッシュと関わりがある各学園の生徒達が参加している。

 

 

 

 

 

『アッハハ……そっちもだいぶ荒れてるね〜…こっちもだけど』

 

『トリニティと同じく、ゲヘナも荒れ始めているわ……主に、先生関連が……今この場にもいるけど、少し前に便利屋68も抗議しにきたほどよ』

 
『社員たちには、自治区での戦闘についても詳細を話したわ…それでも、やはりこの決定には反対、という結論が出た。便利屋68の社長として…そして何より、彼と親しい社員達の代表として…彼の命を脅かしたアリウス分校への処遇について、改めて再審議を求めるわ』

 

『こっちも、人数は少ないけど……私とシロコちゃん以外は納得してないって感じかなぁ』

 

『何言われても認めないわよ』

 

『───セリカ』

 

『認めたり……するもんですか…!』

 

『――まぁ、こんな感じかなぁ』

 

「……ここまで聞いておいて、なんですが――学園代表者各位、現状報告をお願いします」

 

 

 

 

 

 リンの言葉に、各学園の代表者達が学園内の現況を説明する。

 

 

 

 

 

『ゲヘナは万魔殿と風紀委員会の幹部を除き、ほとんどの生徒が反発しているわ……自分達の環境を変えてくれた恩人があんな目にあったんだもの、仕方ないわ』

 

 

『トリニティでも同じようなことが起きています。特にフィリウス派の皆さんや、正義実現委員会からの反発が非常に強いです。シスターフッドについても、納得につながる結論は出ていないようです』

 

 

『……私やハスミ、イチカやマシロは、先生の意思を尊重するということで結論を出した――……逆に、それ以外の生徒はかなり強く反発している。一年生や中等部を中心に、反対意見を直談判してくる生徒が多い』

 

 

『アビドスはさっき聞いた通りだよ』

 

 

『ネル先輩に代わって、私、早瀬ユウカが説明するわ。セミナーは特に、私とノア以外は気にしていないけど……先生と深い関わりがあるゲーム開発部の子達は、アリスちゃん以外納得いってないみた―』

 

 

 

 

 

 

『あったりまえじゃん!!!先生が許すならまぁ…って思ったけど、なんのお咎めも無しにシャーレにいるんでしょ!?そんなの納得もごごごごっ!?』 

 

『お、お姉ちゃん静かに!!』『き、気持ちはわかるけど…落ち着いて…!!』『モモイ、駄目です…!!』

 

 

 

 

 

『こっちも、アスナ以外は納得してねぇぞ……一応言っとくが、エンジニア部は変な機械を作り始めてる。そっちを襲撃するための準備かもしれねえ……ヴェリタスなんざシャーレ内部や連邦生徒会のデータサーバーをハッキングして、そっちの情報を引っ張り出そうと躍起になってる』

 

『……ミレニアムは一度、多額の横領による財政危機に陥ったことがあるのですが、その時に支援をしてくださったばかりか、事態の収束にまで協力してくださったのは、他ならぬ先生でした…それに深く感謝をしている―――だからこそ、今回の結果には納得できない、というのがミレニアムの見解です』

 

「……報告、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

 リンが睨んだ通り、各学園では既に深刻な内部分裂が起きていた。誰かの陰謀や悪意によるものではない――ただ、先生を想う善意によって起きた事件。

 

 

 

 

『なぁ会長代理さんよ……何を思って、アリウスをシャーレに匿ってんだ――先生はよ、アスナを救った恩人なんだ……こいつは、ふとした時には前触れもなしに……糸が切れた人形みたいになっちまうことが多々あった。それらしい薬をひと通り試しても駄目だったんだ――でも、先生がそれを変えてくれた。アタシは何もできなかった、だからこそあいつには感謝しかできねぇ……そんなあいつを殺しかけた連中を、なんでそっちで匿ってんだ』

 

「……以前にも説明したと思いますが、シャーレの顧問、マッシュ・バーンデッド先生の要望です。今まで抑圧の下に苦しんできたアリウスを……罪を償わせるためにも、シャーレで保護観察処分という体で引き入れたい…という願いを、我々は聞き届けました」

 

『……アリウスがどんな思いをしてきたのか、何があったのかはここにいる全員が理解している。しかしだ会長代理よ……その過去と、先生を殺害しかけたことについては、全くの別問題だ』

 

「………」

 

『大人に騙され、人間として扱われずに生きてきた……その事実には同情しよう、反発している者達もそこはしっかりと理解している。反発している者達が言っているのは、何故彼女たちには聖園ミカのような罰が用意されていないのか、ということだ』

 

『……いきなりの飛び火してきてびっくりしたけど、その通りだよね』

 

 

 

 

 

 

 現在のミカはまだティーパーティーのホストとして扱われているが、後任が選出され次第免職される予定であり、それまでは学園への奉仕を強制的に行う、といった償いを用意されていた。

 

 しかしアリウスは、自分達を殺害しようとしたシャーレに住むこととなり、その内部で働く……その裁きの内容に、多くの生徒達は納得できなかった。

 

 

 

 

 

 

『先生の優しさにつけ込んで、ただ自分達が楽をしたいだけじゃないのか……また先生の命を狙っているんじゃないか、いつかまた裏切るんじゃないか─―もしそうなれば、本当に取り返しがつかないことになる。少なくとも私達はそう思っている』

 

「それは違います、彼女らは本当に、心から反省し、シャーレの一員として奉仕することを表明して―」

 

『それが真である確証が何処にある?口ではなんとでも言える……つまりはそういうことだ、アリウスは信用できない、ここに集ったほぼ全ての者がそう言っている』

 

 

 

 

 

 

 

 マコトは面々の総意をまとめ、淡々と告げていく…マコトが言っていることは本当にその通りで――『罰らしい罰を与えてくれ』という主張が大多数を占めていた。

 

 

 

 

 

 

『――あの〜……超シリアスな話の最中に、申し訳ないんですけど……なんで私らがこんな大事な会議にお呼ばれしてるんですか?』

 

『あ?……あの時の根性ある奴らか』

 

「貴女方はあの場にいましたし、先生の命の救ってくださった功績もあり、尚且つエデン条約事件やパラダイス機構設立に関わる貢献もありますので……まあここにいても問題ないなと、役員決定によりお招きしました」

 

『軽い!?』

 

『まあまあ、それぐらいのことをみんなはやってのけたんだ……あ、店長。シュークリームおかわり』

 

『はいはい〜』

 

 

 

 

 

 

 

 この会議にはシュークリームクラブも呼ばれており、その後ろには補習授業部も同席、シュークリームを頬張っている。

 

 

 

 

 

 

「……シュークリームクラブの皆様は、今回の件に関しまして…どう思っていますか?」

 

『………そう…ですね…えっと――わ、私は……その、なんだ……――先生は、こんなこと望んでんのかなぁ……な、なんて…』

 

「……どう言うことでしょうか」

 

『だ、だから……っ―先生は多分、アリウスもトリニティもゲヘナもミレニアムも生徒達みんな幸せに、平和に笑いあえるようになって欲しい……そんな純粋な願いで、アリウスを許して自分の手元に置いた……みんなに心の底から、本気で、笑ってて欲しいから…

 

 

 

 

 

 

――でも、そんな善意の祈りが皆の関係を崩壊させてしまう呪いに、悪意に変わってしまってる…こんなカタチになるなんて、望んでたのかなって。現に先生……当番の生徒の顔を見る時が、楽しみだって言ってたし

 

『……待てよ――それってつまり』

 

「……当番でシャーレへと訪れる皆さんと、交流の場を設けて……関係を改善したい、と?」

 

 

 

 

 

 マッシュは生徒達の間を取り持ち、所属を問わず関係を改善して軋轢を解消するために、その一心でこの処置を施した。シャーレに招き、生徒たちが業務の当番でアリウスの生徒たちと交流できる……そして仲良くなれる、という純真な考えにより、マッシュは連邦生徒会の協力を取り付けた。

 

 その結果、今回の悲劇を招いてしまった……言い方を変えれば、マッシュは選択を誤った。

 

 

 

 

 

「…………あの子は、何処までも…」

 

『……た…例え、それが先生の考えでも、私は……』

 

『――あー……ちょっといいかい?』

 

『誰だ貴様は』

 

『貴様って……ま、まぁ、とりあえず自己紹介だな。俺は、先生がよく通っているシュークリーム屋の店長で、シュークリームクラブの雇い主でもある……まぁ、そんな感じの大人って思ってもらえればいいかな』

 

『――あっ、思い出した!!ゲヘナとトリニティが大変だった時に、シュークリームを無料で配ってくれてた人だ!!』

 

『そうか……あれは、お前だったのか』

 

「先生から、お店やメニューについてよくお話をお聞きしています……非常に人徳に優れた方だと」

 

『そ、そう言われると照れるな〜……まあ、俺のことは置いておいて』

 

 

 

 

 

 

 店長は大人として───説教ではなく、小さな助言を生徒らに送る。

 

 

 

 

 

『私は部外者だからね、あんまりとやかく言うつもりはないから簡潔に話すけど――アリウスが許せないのなら、許せないままでもいいと思っているよ』

 

『!?』

 

『店長ぉ!?』

 

『友達を傷つけられて許せない……許すつもりはないって言うのは、大人でもそうさ。恨みっていうのは、なかなか消えないからね……―──でも、一つだけ間違えちゃいけないことがある』

 

「……それは?」

 

『一番大事なのは、被害者の気持ち…ここで言うなら、先生本人の意見だよ』

 

『被害者の気持ち………あっ』

 

『我々はあくまでも第三者だ。自分が被害を受けたとき、それについて加害者を許すか許せないかは被害者本人が決めること……それだけは、覚えておいて欲しいな』

 

 

 

 

 

 

 マッシュを傷つけられて許せないという気持ちは、ここにいる者ならば十分に理解できるだろう……だが、被害者であるマッシュの意見を無視し、騒ぎ立て――同じような目に合わせてやろうと思ってしまうのは間違いだ、店長はそう言っている。

 

 

 

 

 

 

『だから一度、先生やアリウスの生徒達と、面と向かって話をしてみたらどうかな?本当に、俺たちは第三者だからね』

 

『――うへ、多分さ……おじさん達はちょっと暴走気味になってたんじゃないかな〜って思うんだよね。マッシュ君自身の気持ちとか思いとか、ちゃ〜んと考えてなかった、とか』

 

『………思えば、私……先生の気持ちとか、無視してた…ような』

 

『そういえば先生が今まで頑張ってた理由って……ハッピーエンドのためだったよな』

 

『そう言われると……』

 

 

 

 

 

 生徒達は各々違った反応を見せるが、それでもただ一つ、同じことに気付く。

 いくらアリウスのことが許せなかったとはいえ、マッシュの思いや願いを無視して、勝手に暴走していた事実を自覚した。

 

 

 

 

 

『……あ、な、なんかごめんね!部外者が色々言っちゃって……ち、ちょっと用事が――バイバイ!』

 

『え、えっと、つまりは……アリウスの皆さんのこれからとか、先生の思いとか……そう言うのは、ご本人達から直接聞いた方がいいんじゃないかな、って思うんです!』

 

『ヒフミさん……ええ、それは……そうですね』

 

『……言えてるっちゃ、言えてるが……』   

 

『我々はアリウスと、本音で直接話したことはなかった。だからこそ信じられないと言っていた……しかしよくよく考えてみれば、あの先生が大丈夫と言った相手だ――少し、話を聞いてみないか?』

 

 

 

 

 

 マコトの提案、アリウスや先生と直接会話し、真意を確かめる。そうしなければこの話は永遠に続くし、いつまで経っても終わりは来ない。

 

皆がそう思い、行動へと移そうとした――その時

 

 

 

 

『―…―あ、あーみんな。聞こえてる?』

 

「せ、先生…!?」

 

『先生!?』

 

『聞こえてるみたいだね、よかったよかった』

 

「先生、お身体の具合は!?」

 

『良好です、イェーイ』ダブルピース

 

 

 

 

 その会議に、ミネに支えられている状態のマッシュが急遽参加した。いつも通りの元気そう……正確には、見た目は全く元気そうではないが、雰囲気や顔色はいつも通りだ。待ち侘びていた相手の姿に、安心する生徒達。

 

 

 

 

『あ、あのね先生…!……私、…その』

 

『ホシノさんから聞いたよ――ごめんね、セリカちゃん。そっちの気も知らないで勝手に決めちゃっ』

 

『せ、先生が謝ることじゃ…!』

 

『みんな、本当にごめん。今回は――僕の考えがあまりにも甘すぎた。みんなの気持ちを勝手に理解した気になって、勝手に色々と決めちゃった……そのせいで皆を、仲のいいみんなの関係を壊しかけた……これは、僕の独り善がりだった。本当に、ごめん』

 

 

 

 リモート越しに、マッシュは軽く頭を下げる。

 マッシュのためを思って集まっていたことも会って、唐突な謝罪にあたふたとする生徒達だったが、マッシュは話を続ける。

 

 

 

『――だから、今度こそ……ちゃんと、みんなで話がしたいんだ……みんなでね』

 

 

 

 怪我を負った状態のマッシュが画面から離れ……次に映ったのは。

 

 

 

 

『――お前は…』

 

『……私は……元アリウス分校の生徒、アリウススクワッドの分隊長・錠前サオリ。そして……先生を、殺害しようとした―─張本人だ』

 

 

 

 緊張が走り、ほとんどの生徒の顔が強張るのが……マッシュの目にも入った。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「ね、姉様……本当に、大丈夫なのでしょうか」

 

「──私達に、介入の余地はありません。『この一度きりに全てを賭ける』、先生ご自身がそう仰り、この場を設けて賭けに出たのです…信じなさい」

 

「は……はい」

 

 

 

 

 シャーレオフィス内には、アリウスのリーダー・サオリと、ある意味今回の騒動の原因であるマッシュと、それを見守るアリウス生達…そして、マッシュや彼女たちを後方から見守る、ワカモとイズナがいた。

 

 

 イズナはアリウス分校の更生に向けた取り組みに対して非常に協力的であり、ここに至るまでの経緯を聞かされた際には涙してアリウス生徒達を労ったほどだった。

 ワカモはこれまで通り、会議に参加する多くの者と同じくアリウスを許せないままだったが……最優先すべきはマッシュの意思、という考えはイズナと共通している。

 

 

 

 

 

 

『――錠前サオリ、今一度聞く……お前が、先生の殺害を目論んだ主犯、なのだな?』

 

「ああ……間違いない」

 

『あんたが……あんたが、先生を……!!』

 

『セリカちゃん、今はストップ』

 

『……ッ、ごめん』

 

 

 

 

 ゲヘナ生達はあからさまな敵意を向けてサオリを睨み、トリニティの生徒たちは表情こそ変えていないが、その視線には憎しみが籠もっている。ミレニアム生はそれぞれが武器に手をかけ始めており、リンが"直接会談によって起こり得る万が一の事態"を危惧して設定したリモート会議でありながら、状況は一触即発だった。

 会議の結果によっては、この会議に参加している者達が即座に移動を開始し、マッシュとサオリがいるシャーレの部室へと押し寄せることだろう。自らの犯した罪の重大さを痛感しながらも……サオリは話を始める。

 

 

 

 

「……皆の怒りは、もっともだ。私達は本来ここにいるべきではない……罪深い、罪人だ」

 

『……その自覚があるだけいい。んで…?――なんでアタシらの前に顔を出した』

 

「話をつけるためだ……今起きている、この状況に」

 

『ねぇサオリちゃん?そっちはどう思ってるの?――今の状況について』

 

「…………息苦しい…それが、本音だ」

 

 

 

 

 

 サオリはかぶっていた帽子を脱ぎ、自分たちの、今の状況を正直に話していく。

 

 

 

 

「先生を殺そうとした罪悪感、裁かれない自分への嫌悪感……そして、奴の呪い。それらがここで伸し掛かる……正直言って…辛い」

 

「………本当に、ごめん」

 

「せ、先生が謝ることではないんだ。それに、苦しいのは先生のほうだろう…?先生のおかげで、私達はここまで持ち直せた……だがそれでも、それでも……自分のやってしまったことが、許せないんだ」

 

『……そもそもどうして、貴女は先生を殺そうと?』

 

「そういう指示だった、それに従わなければ――家族が、共に苦楽を共にしてきた…仲間が……奴の計画の、生贄になってしまうから」

 

『‼︎』

 

「だが奴曰く、シャーレの先生を排除してトリニティとゲヘナを壊滅させれば、その必要はなくなる、と───私は家族を守るために、先生を殺そうとした……お前達を、身代わりにしようとしたんだ―――ここではもう、言い訳にしかならないが……本当にすまなかった……!!」

 

 

 

 

 

 サオリは深々と、画面に向かって頭を下げる。

 それで彼女らの怒りが収まるわけではなかったが…彼女らの考えには、少しづつ変化が起きていた。

 

 

 

 

『……お前もさぞ大変だったんだろうけどよ、先生はアタシらの恩人でダチだ。それをここまで傷つけられて、はい許します…は無理だぞ』

 

「――それでいいんだ。寧ろ、許されてしまっては私自身が納得できない」

 

『…………』

 

「私達は、到底許されない事をした……ここ(シャーレ)で働いて、それを償えるとは……思ってはいない――だから」

 

 

 

 

 

 サオリは深々と下げていた頭をより深く下げ、土下座の体制を取り、もう一度願いを言う。地面に頭を打ちつけた衝撃で、あの日ラケットを叩きつけられた頭に同じ痛みが蘇る。

 

 

 

 

「これからは先生のため……キヴォトスのために……この命を、使わせてくれ」

 

『!?』

 

「アリウス分校の全員で、決めた事なんだ。キヴォトスに暮らすものとして、先生の配下に属する者として――この命を使い続けると。今、私はアリウスを代表して、ここにいる」

 

『命って……せっかく悪い大人から解放されたのに、まだ粗末に扱う気?』

 

「先生が救ってくれた命だ、決して無駄にするつもりはない……しかし、もし先生やキヴォトスに危険が迫った時、私達はこの命に替えても先生とキヴォトスを守ると決めた。もとよりあるようでなかった人生だ、今更何を失おうものか」

 

『……お前』

 

「――初めて、自分達の意思で決めた、やりたい事でもあるんだ……この償いの方法が気に食わないのなら、他の要求や命令を聞かせてほしい……どんな形でも、それが贖いになるのなら、私達は受け入れる」

 

『………………』  

 

「でもその前に……頼む……どうか――どうか、この償いをする……チャンスをくださいっ…!!」

 

「――僕からもお願い」

 

 

 

 

 

 土下座をするサオリの隣に、マッシュも土下座の体制で座り込む。包帯とギプスで固定された体で、ミネの制止すら構わずに、ぎこちなく崩れ落ちるように。

 

 

 

 

 

「先生…!?」

 
「先生、お待ち下さい!お体に障ります、ここはどうか…!」

 

「ごめんミネさん、これは言わせてほしい……皆、聞いて。罪を償うって言うことの重さを、僕はまだ…完全に理解していなかった。みんないい人だから、いい人だから、きっと分かってくれるって……勝手に決めつけて、わがままを言って……そのせいでまた、みんなが傷ついた」

 

『ま、待ってください先生!?我々は、先生に謝ってほしいつもりじゃ…!!』

 

「そんな僕だけど……許してもらえるのなら、僕の最後の願いを聞いて欲しい。――アリウスのみんなに、罪を、償う…チャンスを、機会を、時間を……与えて欲しい……僕がアリウスの皆を支える、皆が信頼できるように、手を取り合える道を模索して、共に生きていける形を皆に教えていく……だから、だからっ───」

 

 

 

 

 

 

 地面に向かって思い切り頭を打ちつけ、マッシュは生徒たちに懇願した。

 重々しく響いた衝突音に、会議に参加していた生徒たちはその覚悟を見た。飛び出しそうになるワカモ、声を漏らしてマッシュを案じたイズナ、マッシュの誠意を前に再び罪悪感を噛みしめるスクワッドとニーナ……会議の場を、沈黙が満たした。
 生徒のために頭を下げて、自らの体を張った一生に一度の願い。ある者は負傷にも構わず迷いなく頭を地に打ち付けた姿に絶句し、ある者はここに至るまで彼を苛んだ悲嘆と苦痛を再度思い返し──多くの者が涙し、あるいは目を伏せた。

 

   

 

 

 

『――ずるいな、お前は』

 

『………先生らしいわね』

 

『わかっていると思うけどな、先生……それはあんまりにも遠い道だぞ。アリウスのことを許して、認めて、仲間として、皆が認識するってのはよ』

 

「分かってます。だからそのために、僕にはアリウスの皆に教えなきゃいけないことがあるんです。そのための時間を、ください」

 

『……――あぁぁっくそっ!…こうなったら、お前は、止まらねえか』

 

 

 

 

 

 ネルは頭を掻きむしると、少し微笑みを見せた後、再びマッシュに声をかける。

 

 

 

 

『――わかった……アタシは、先生の意見を支持する』

 

「……!───ネルさん」

 

『い、いいの…!?ネル先輩……』

 

『……死にかけた当の本人に、血塗れで土下座までされてんだ─――直接やり合って、一番近くでこいつらを見てた先生にここまで言われて、「知らねぇ」なんて言うのは流石に無理だろ。さっきの話通り、アタシらは第三者なんだからな』

 

「…ネルさ『だが勘違いすんなよ、先生』」

 

『アタシはあくまでも、チャンスを与えたってだけだ………もしも裏切ったり、また先生を殺そうとした……そんときは、容赦しねえ――─そう言う意味だ』

 

『……だ、そうだが。どうする?空崎ヒナよ』

 

『先生のために命をかけて戦うと誓うのなら、それでいいわ』

 

『――ミカさんと同じように、各学園に貢献してくださるのであれば……更生のための猶予を与えようと思います。そのための支援が必要であれば、協力を惜しまないつもりです』

 

『…みんなして……ああ……もう!!!!』

 

 

 

 

 画面越しに、セリカは机を大きく叩き、涙ながらに激昂した。

 

 

 

 

『―――そこまで言うんだったら、何がなんでも先生を守りなさいよ!?……私は、その場にいなかったし、エデン条約とは何の関係もないけど……私の恩人を、友達を、酷い目に合わせたんだから――その責任は、取ってもらうからっ!!』

 

『……アビドスってさ〜?まだ厄介な奴らに狙われてたり、変な大人に目をつけられてたりするんだ〜……だからさ、いざってときは協力してもらうよ〜?』

 

「――ああ……ああ…!ぜひ、ぜひ…頼ってくれ!」

 

「……みんな、ありがとう」

 

『――あの、先生……!!』

 

「ヒフミちゃん」

 

『わ、私は……ハッピーエンドが好きです。皆で当たり前の生活ができる、そんなハッピーエンドが………だけどそこには、いつも先生がいます――先生がいないと、ハッピーエンドは、ビターエンドになってしまうんです!!』

 

 

 

 

 

 ヒフミは生徒たち全員にも届くように、力一杯に叫ぶ。

 

 

 

 

 

『――ですから先生、これからは……これからは!アリウスの皆や、私たちのことを、もっと、もっともっと頼ってください!悩んでいる時も、泣きそうな時も……ずっと、ずっと私たちがついていますから!』

 

「…………ヒフミちゃん」

 

『──―貴方を、信じます。マッシュ君……だから、貴方が信じるアリウスを……信じさせてください…マッシュ君』

 

「リンさん……ありがとうございます……――よし」

 

 

 

 

 

 マッシュは土下座の体制から、真っ直ぐに立ち上がった。決意を……今まで以上に固め、はっきりと告げる。

 

 

 

 

「――頑張るよ、みんなが……本当に、笑顔になれるその日まで……永遠に、だからみんな……これからも……よろしく」

 

 

 

 

 画面越しに、生徒達が一様に頷き……事態は終息――とまではいかないが、その火種は確かに鎮火された。

 

 

 

 アリウスは許せない……だがここで許す時間を与え、マッシュの下で必要なことを学ばせ、その上で犯した罪の埋め合わせをさせる……それが反発派の結論。一番優先すべきなのは、マッシュの意思そのものなのだから。

 

 自分たちが心の底から、アリウスを仲間だと思えるように――チャンスを、与えた生徒達なのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「と言うわけで、明後日シュークリーム作りパーティをやりましょう。交流や仲直り、大団円を兼ねて」

 

『今、それ、言う!!!?』

 

「今じゃないとダメかなぁ……って。それに───

 

 

 

ずっとやりたかったんです。僕が大好きな味を通して、美味しいものを食べて笑顔になることを、皆にも覚えてほしかったから

 
ハッピーエンドまで………もう少し。




どうも、コロナにはなっていませんが、熱が37.9くらいまで上がってしまった私です。弟先生もそれぐらいの熱を発症して、今3人仲良く休んでおります。訳あって、親には助けを求めたくないので、看病のほうは私がやっております。

投稿がまた遅れるかもしれませんが、そのときは、ご了承くださいませ。

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