(──やぁ、皆。わしの名前はレグロ・バーンデッド。最近自分の孫に大勢の友達が出来たらしく、さらにその友達の先生となっている事実に感極まっている、シックでエレガントな75歳じゃ……と、今はこんな事を言っている場合ではないんじゃ…なぜって?)
「グスッ……ウッ……お許し…ください……ませぇぇ…!!」
(今、わしの目の前で狐耳の女の子がギャン泣きしているからじゃ…!)
「一旦落ち着こう!?ね?わし何も気にしてないから!」
「お放しください!!あなた様のご家族に、恩人に刃を向けるなどと……うぅ…!死んでお詫びします!!」
「重い!何もかもが重い!!あとあなた様ってなに!?なんのこと!?」
「うぅぅぅぅぅ…!!」
「ほ、ほら!!おじいちゃん超元気!どこも怪我してない!!だから〜ほら〜大丈夫大丈夫〜(……な、なんで……こんなことに……そもそもの始まりは、ただの勘違いなんじゃよなぁ…)」
レグロ・バーンデッド。彼はマッシュの祖父にして、捨て子だった彼を拾った育ての親。マッシュを強く優しい青年に育て上げた男である。
「……こんな唐突に異世界に迷い込むことなんてあるんじゃな……眠ってただけなんじゃがなぁ」
そんなレグロは現在、眠りから目を覚ました頃にはこの世界…すなわちキヴォトスへ唐突に迷い込んでいた。彼が送り込まれた場所は、マッシュが働いている組織・シャーレのオフィスだった。
(このマークは確か、マッシュの職場の…そうじゃ、リンさんが言っとった。連邦捜査部"
これまで2回もキヴォトスに迷い込んだレグロだが、オフィスに足を踏み入れる*1のは初めてのことだった。少しの好奇心でオフィス内を見回したレグロは、整理された書類やデスク上に立てかけられた集合写真を見つける。
(―おっといかんいかん、感動のあまり逝ってしまうところじゃった……。今は時刻は……朝の5時……何ともまぁ微妙な時間に迷い込んでしまったのぉ……ここにマッシュがおるのなら、シュークリームの一つでも作ってやろうかの。どれどれ、まずはキッチンを探して――)
「動かないでいただけますか?」
「─―!?」
「突然物音がしたと思い来てみれば……疲労困憊の
レグロは背後から銃口を向けられ、これまで感じたことのない殺気を突きつけられていた。出現の直前まで気配が全く感じられなかったために、唐突に現れた少女の存在に彼は驚いていた───
「……お前さんは、誰じゃ?」
「連邦捜査部"
「災厄の狐……とは、また物騒な仇名じゃなぁ……」
「さて、貴方は何者ですか?――返答次第では、即座に成敗致しますが」
「わ……わしは、レグロ・バーンデッド。お前さんが所属している部活の顧問に、マッシュ・バーンデッドという青年がおるじゃろう?わしはマッシュの……祖父じゃ」
「そうですが、あのお方の祖父――――あのお方のお
「そうじゃ、わしはマッシュの――……いや、なんて?」
銃口が離れたことを確認したレグロだったが……振り返った先にいた少女・狐坂ワカモは、連邦生徒会の制服に似た色合いながらもやや露出の多い制服を纏い、狐面で顔を隠すという奇抜な姿だった。
「あ……ぁぁ、わたしは、なんてことを……!?」
「あ、あの〜……一つ聞きたいんじゃが……あのお方、ってどういう」
「あのお方のご家族に銃口と殺意を向けるなどと――なんで、なんて愚かな事を…‼︎」
「えっと…?とりあえず、一度落ち着いて」
「―――かくなる上は……この身で、償いを!!」
「イヤイヤしなくていいから!?自分の身は大事にしなさい!その体は、お嬢さんだけの体なんじゃから」
「な……なんと言う……慈悲深きお心を……――うぅぅ…!!」
ワカモは地面に座り込みながら、仮面を落としてさめざめと泣き始める。レグロはその変わりように「さっきまでの硬派な態度はどこへ⁉︎」と思わずにはいられなかったが、やはり彼も子供を育てた大人である。子供の扱いを理解している彼は、ひとまず彼女を泣き止ませ、落ち着かせる事を最優先とした。
「一旦落ち着こう!?ね?わし何も気にしてないから!!」
「…あのお方の……ご家族に、恩人に銃を向けるなどと……うぅ…!!死んでお詫びします!!」
「重いっ!何もかもが重い!!あとあのお方って呼び方は何!?」
「うぅぅぅぅぅ…!!」
「ほ、ほら!!おじいちゃん超元気!どこも怪我してない!!だから〜ほら〜大丈夫大丈夫〜……って…?」
レグロが幼子をあやすようにワカモを泣き止ませようと四苦八苦していたその時、部屋の扉がゆっくりと開き、起きてきたらしい部員たちが室内へ入ってくる。
「ワカモ、一体何を騒いで………誰だ?」
「あ、あれ?知らない人がいますね」
「……老人?」
「しかも人間で、男の人」
「あれ、じいちゃんだ」
『―――じいちゃん!?』
「おおマッシュ!元気そうで『うわぁぁぁぁあなた様ぁぁぁぁぁ…!!』――とりあえずこの子を落ち着かせたいから、手伝ってくれんか!?」
レグロ・バーンデッドinキヴォトス、これで3回目だが……やはり3回目も、かなり奇妙な再会の形となったバーンデッド親子であった。
「いや〜マッシュ、元気そうで何よりじゃよ〜!」
「なんとか元気でやってます」
レグロはマッシュの肩に手を置き、頭や頬を撫でてマッシュの無事を確認する。マッシュも、久々にレグロに会えて嬉しそうだ。
「あー所でマッシュや、ここにいる子達もお友達かの?」
「うん、最近仲良くなったんだ。色々あったけど」
「そうか……そうか〜!マッシュにまた新たな友達が……感動じゃ!」
「あの人が……先生の、祖父…」
「……な、なんだが優しそうな人ですね」
レグロは溢れそうになる涙を抑え、改めてサオリ達に挨拶をする。
「わしはレグロ・バーンデッド、マッシュの祖父じゃ。君たちの名前を教えてくれるかの」
「は、はい、初めまして……じょ、錠前サオリ、です。そして右から、私が指揮する分隊員の槌永ヒヨリ、戒野ミサキ、秤アツコです。現在のシャーレには、私達を含めた元アリウス分校の生徒が編入されています。……先生には、返しきれないほどの恩がありまして―─私達を拾い上げてくれた先生には、本当に感謝しています」
「それはそれは」
「……しかしながら、我々はまだ、先生の友達を名乗れる立場ではなく…正確には、先生の真の友達というわけではありません」
「もう気にしないでって言ったのに」
「こればっかりは……どうも、な。すまない、先生」
「何か訳ありなようじゃが……友達でないのなら、君らは一体?」
「そうですね…」
サオリ達は少し考えたあと、レグロに向かって当たり前かのように、平然ととんでもないことを言っていく。
「先生の矛──彼の征く路を切り開く
「矛?」
「先生の隣を固めて、いざというときに先生を守る盾でもありますね」
「盾?」
「シュー友」
「シュー……友?ってなんじゃ?」
「道具」
「道具……道具!!?」
「流石にそれは違うけど……みんな大事な友達だよ、じいちゃん」
サオリ達の発言に『ほんとに何があったの?』と疑問に思わされるレグロだったが、マッシュの自信に溢れた友達宣言に疑いはない。慌てたレグロだったが、マッシュの言葉に落ち着きを取り戻した彼は、安心して話題に戻ることができた。
「そして、この子が狐坂ワカモちゃん。シャーレの常駐部員になった生徒としては初めての子なんだ」
「さ……先程は失礼いたしました」
「いやいや…気にすることはないからの、ワカモちゃんや。寧ろマッシュを支えてくれてありがとう」
「恐縮です……改めまして、お初にお目にかかります、お祖父様…………いえ、お
「なんか意味違くない?」
狐面を外したワカモは丁寧にお辞儀したあと、ゆっくりと面をあげ……まるで当然のことのように、マッシュへの愛のあまり光が消えた目をレグロに向けながら、とてつもない爆弾発言を投げ込む。
「そしてこれからも、よろしくお願いします。私は……マッシュ先生の未来の嫁です」
「フィアンセなの!?」
「まだ……手もしっかりと繋いだことはありませんが♡」
「え?」
「レグロさん、虚言だから気にしなくてもいいですよ」
「虚言ではありません――事実です!!」
「違うからね?」
嫁やら道具やら、色々と個性的な発言が聞こえてきたが……レグロは、彼女らがマッシュを好いていることがすぐにわかった。……だからこそ、聞いておきたかった。
「……マッシュよ、何かあったのじゃな?」
「―うん、話すと長いし…めちゃくちゃ、しんどいけど」
「みんなが良ければ、教えてくれんか?」
「みんな、いい?」
「構わない……レグロさんには、絶対に話さなければならないことだからな」
「……じゃあ、話すよ。――ここ最近起きた、とある事件を」
マッシュはレグロに、エデン条約という学園間平和条約に絡んだ一連の事件で起きた事を、全て話した。アビドスやミレニアムで起きたことよりも濃く、あまりにも過酷な内容。
「―――とまぁ……こんな感じで、今に至ります」
「…………そうか。二つの学園のピンチ……いや、キヴォトスの危機を救ったのじゃな」
「うん……長かったけど、やり甲斐があって…なんだかんだ言って、最後は皆が仲直り出来たってこともあって、凄く楽しかった」
「多くの者の命を救い、多くの者の人生をも救った………やだ、わしの子すんごい努力家じゃん」
「えっへん」
「……よう頑張ったの〜マッシュ!!満点華丸、大金星じゃ!!――いやぁー、わしは本当にいい孫を持ったわい!!」
「これも全部、じいちゃんが僕を育ててくれたおかげだよ」
「全部ではないぞ?確かにわしはお主を育てた……しかしの、ここで活躍し、ここで頑張ったのは紛れもないお主じゃ――じゃから、存分に胸を張っていいんじゃよ」
「……………照れるな」
マッシュの頭を撫でに撫で褒めちぎるレグロ、自分の孫が数多くの者を救ったと知れば、誰でもこうなる。しかしレグロはマッシュを褒めると同時に…親として叱らねばならない点も心得ていた。
「……しかしのマッシュ、いくら誰かのためとはいえ――自分の身の安全を考えず、身も顧みずに戦って、自分を追い詰めるような振る舞い方をしたのは、流石にダメじゃ」
「そこは……反省してます」
「聞いてる限り、他の生徒に怒られたのじゃから色々と言わないでおくがの……マッシュよ。お主がいなくなったら悲しむ者が……ここには大勢おるということを、忘れないでおくれ。お主はまだ子供じゃ――何もかも全部、背負う必要はないんじゃよ」
「――肝に銘じるよ」
「それならばよし……ほっほっほっ」
マッシュの頭をまた撫で、彼にこれ以上ない褒美を与えたレグロ。そんなレグロに、サオリ達は気まずそうに話しかける。
「……レグロさん、我々は──『サオリさんや』」
「もう何も、言わなくていいんじゃよ。君らはもう……何も、抱える必要はない」
「で、ですが――私は…私は、先生を──貴方の、家族を…!」
「確かに君は、マッシュを傷つけた……それは紛れもない事実――じゃがの、その件はすでにマッシュが許した。当事者であるマッシュが……の」
「レグロさんは…何も、思わないのですか?」
「思わないわけではないんじゃ……孫を傷つけられて黙っている祖父はおらん。けれどここで、わしが怒鳴り立てるのは違うし、君たちを怒ったり憎んだりする理由にはならん。そんなことをしてしまっては、マッシュが命懸けで君たちを助けた意味がなくなってしまうからの。親として、そんなことはできない」
「…………」
「………わしは君らではなく――君らを苦しめて服従させ、マッシュの命を狙ったその大人に……怒っておるんじゃよ」
レグロの怒りの矛先は元アリウスの生徒らではなく、彼女たちを支配して洗脳したベアトリーチェだった。
「未来を生きる子供らの希望を奪い、生きる意味も奪った………そんな外道が、わしらと同じ大人を名乗り、あろうことかその身分を免罪符のように振りかざしていた、と考えただけでも―─腸が煮えくり返る」
「同じく」
「――大人が憎いじゃろう、信じられないじゃろう……しかし一言、言わせておくれ…今まで……今までよく……よく…――」
「頑張ったのぉ……!!」
『――‼︎』
レグロは……涙を流していた。アリウスの境遇に、大人の理不尽さに、彼女らがどれほど苦しめられてきたのか……どれだけ辛かったのか。それを考えるだけで、レグロは涙を流さずにはいられなかった。
「………っ」
「すまん、のぉ……ワシが涙を流すのは、お門違いと言うものじゃのに」
「い…え」
「特に君が――一番大変だったじゃろう?サオリさんや……家族を守るために、そのためだけに頑張ってきたんじゃから」
「……私は、別に…そこまでの…」
「いいや、君は頑張った。家族や後輩たちを守るために命を賭けて戦うなんて、そうそうできるものではないからのう……立派じゃ、立派なんじゃよ君は」スッ
レグロはサオリの頭に優しく手を置き、優しく撫でる。男と女でなく――子供と大人として、彼はサオリを慰めた。
「これまでよーーく頑張った……サオリさんも、ミサキちゃんも、アツコちゃんも、ヒヨリちゃんも、ニーナちゃんも…皆、今はゆっくりと、マッシュと共に休みなさい」
「―――――ぁぁ…ありがとう、ございます」
「君らも、本当に……本当によく頑張った――君らが生きててくれて、ワシは嬉しいよ……ワカモちゃんも、ずっとマッシュのことを思ってくれて…ありがとう……みーんな、華丸じゃ!!」
『『『――っ!!!!』』』
この時、サオリ達は理解した……どうしてマッシュがあそこまで優しいのか、どうしてあんなにも他のことを気に掛けるのか、体を張れるのか――それは全て、レグロの人間性のおかげなのだと。
『華丸』……少なくともその言葉で、彼女らは確かに救われた。
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