透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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レグロ・バーンデッドと三度目のキヴォトス来訪・トリニティ総合学園編

 

 

 

 

 ヒナやマコトの鬱憤を聞き、彼女たちの悩みを解決をしたレグロとマッシュはゲヘナを去った。次なる目的地は、トリニティ総合学園だった。

 

 

 アリウス分校に関連する問題、そしてエデン条約での出来事を詳しく聞かされたレグロにとっては、アリウスとの関係性を確かめるうえでも一番向かいたい場所だった。

 

 

 トリニティ総合学園はミッション系のお嬢様学校、ゲヘナとは違い規律や気品を重じる学園。幼きレグロはある種の名門の出身であったために──もっとも両親は彼を切り捨てたも同然だったが、気品やマナーを必要とする場の雰囲気には慣れていた。 

 

 

 ナギサやミカと是非会って欲しいと思っていたマッシュだったが、到着時のティーパーティーは仕事が立て込んでいる状況らしかった。そのため彼女たちの時間が開くまでの間、レグロとマッシュは正義実現委員会の部室で待つこととなった。

 

 

 

 

 

 

「ティーパーティーに正義実現委員会、救護騎士団にシスターフッド。そしてトリニティ自警団や補習授業部……ゲヘナに負けず個性的な部活が多いの」

 

「ティーパーティーにも……なんだっけ……判別?

 

派閥です先生、派閥」

 

「ああそれそれ、派閥ってのがあってね。パテル派、フィリウス派、サンクトゥス派の三つがあるんだ」

 
「それぞれの派閥に冠された名が示す通り、この三分派を軸として多数の組織が寄り集まることで構成された学園の形態こそ、三位一体(Trinity)の名を冠する校名の所以です」

 

「ほうほう……意外としっかりしとるのぉ…それで、トリニティの子達はみんな羽が生えていると聞いたんじゃが…本当か?」

 

「うん、生えてない子もいるけど、生えてる子達はみんなこうなんというか……綺麗なんだ」

 

「そりゃ、女の子に翼となれば当たり前じゃな」

 

「まあ腹の中がちょっと黒い子もいるけど」

 

「どうしようちょっとだけ不安になってきた……貴族で腹黒いとなると、少し、いいイメージが湧かんなぁ…」

 

 

 

 

 

 魔法界にも、賄賂や謀略、そして自らが持つ魔法の技量を用いて幅を利かせる上流階級は存在する。故にいいイメージが全く湧かず、不安になっていたのだが。

 

 

 

 

「…でもみんな、僕の大事な生徒で、掛け替えのない親友なんだ。だから、大丈夫だよ」

 
「先生の仰る通りです。もう、蹴落とし合って憎み合う時代は終わったのです。きっと、大丈夫」

 

「……そうか、マッシュやデルタちゃんがそういうのなら、安心じゃな――マッシュが友達と認めた相手に、悪い奴などおらんからの」

 

「信頼が厚い」

 

「自分の孫を信じない親なんぞ、この世におらんよ」

 

「……ありがとうじいちゃん」

 

「当たり前のことを言ったまでじゃよ」

 

 

 

 

 

 「マッシュが"友達"と認識している存在、そんな生徒に悪人はいない」と、レグロは全幅の信頼を寄せる。マッシュは素直で良い子であり、人を見る目に決して狂いはないのだ……無論、この場にいるデルタとエコーも例外ではない。なので、何も心配はしていなかった。

 

 

 

 

ガチャッ…!

 

 

 

 マッシュとレグロが話をしていたその時、扉がゆっくりと開き、中へと人が入ってきた。

 早速生徒と対面できる機会に、レグロは楽しみに振り向いたのだが…そこにいたのは

 

 

 

 

「…………ぁあ?」

 

「イヤァァァァァァァ!!!?!?」

「うぉっ…!?…っ!!」「……──剣先、ツルギか」

 

「ツルギさんだ、こんにちは」

 

 

 

 

 返り血を浴びた戦闘後であろうツルギが、乙女がしていい顔ではない表情で現れた。一方レグロはそんなツルギを見て驚愕し、一瞬のうちにマッシュの隣へと移動した。

 

 

 

 

「マッシュ!?だ、誰あの子!?何あの子!?」

 

「正義実現委員会の委員長、三年生の剣先ツルギさん。僕らやこの委員会の頼れる先輩だよ」

 

「失礼だと思うけど、あの子本当にトリニティの子!!?」

 

「うん、ほら、羽生えてるでしょ?」

 

「確かに生えてるけども!!てかあれって羽!?羽なのか!?茨か有刺鉄線とかじゃないの!?――って、血がすごい出とるぞ!?大丈夫!?」

 

 

 

 

 トリニティという学園に対するイメージとは程遠い姿のツルギを前にして動揺しながらも、それは別として彼女の心配をするレグロ。そんな彼に対し、ツルギは『誰だ…?』と思いながらもゆっくりと口を開いて答えた。

 

 

 

 

「心配無い、ただの返り血―――先生!?」

 

「ども」

 

「あっ、あ…あっ…!えっと…!」

 

(あれ、なんか急に顔が変わったんじゃが…?)

(剣先ツルギってこんな一面があったのか?)
(え、先生の前だとこんなにしおらしくなるの?あの剣先ツルギが?)

 

「お、お久しぶりです……それで、そちらの、方は?」

 

「僕のじいちゃん。名前はレグロ・バーンデッドっていうんだ」

 

「マッシュを育てた、祖父のレグロ・バーンデッドじゃ……よ、よろしくの…ツルギ、さん」

 

「先生……お爺様……先生の…ご家族――き…」

 

「き?」

 

「キェェェェィィヤァァァァ!!?!??!??!?」

 

「おわびっくりしたぁ!!?!!?」

 
「真面目にやめてもらえないかなあの絶叫心臓に悪いんだよ本当に」
 
「辛いだろうけど我慢してあげてエコーちゃん、帰ったらゆっくり休んでいいよ」

 

 

 

 

 ツルギは扉を蹴破り何処かへと向かって走り去っていった……マッシュとレグロは、ぶち抜かれた扉から廊下へと顔を覗かせる。

 

 

 

 

『ま、まず血を洗い流して………に、臭いもするよね…?こ、香水は……あぁ全部切れてるぅぅ!!!な、なら洗剤で……ち、ちがう!!その前に、体を、洗わないとぉ…!!!

 

 

 

 

 何かが壊れる音や何かが破ける音が廊下にまで響き、廊下を歩いている生徒らは怯え切っている。レグロは困惑しデルタとエコーは抱き合って震えているが、マッシュは「いつも通りだな〜」と安心しきっていた。

 

 


 

 

 

 

 

 

 一通り準備を終わらせてきたのか、ツルギは部屋の中でレグロとマッシュの前に座り、話を始める。デルタとエコーはツルギの発狂具合を見て「殺されるのでは」と気が気でなかったらしく、それぞれマッシュとレグロの隣で脱力しきっていた。

 

 

 

 

 

「す、すみません、お待たせ…致しました」

 

「ど、どうも」

 

「返り血とか、ぐちゃぐちゃになってた髪とか綺麗になりましたね」

 

「さ、流石にあの状態のままいるのは……失礼かと思いまして……それに、恥ずかしいので……えへへ」

 

(さっきの表情は何処へ…?)

 

「自己紹介が遅れてしまって、申し訳ありません……トリニティ総合学園三年生、正義実現委員会・委員長の剣先ツルギ……です。先生には本当に、本当に色々とお世話になっていまして…」

 

「それは何より」

 

「えっと………その………」

 

「?」

 

 

 

 

 

 レグロを前にして、ツルギはあたふたと慌て始めている。マッシュの育ての親、そんな人に会い話すと言うだけでもかなり緊張するのに、その相手が異性となるともっと緊張する。

 

 

 

 

 

(ど、どどどどうする!?何から話す?第一印象とか最悪じゃなかったか!?――落ち着け、とりあえず、話の話題だ……き、今日の天気……いやありきたりすぎる!!だったら…そうだ、先生の話を………先生の何を話せばいい?育ての親を前にして?16年にも渡って先生に接してきたお方を前に、先生と触れ合った時間が1年にも満たない私が?何を?何を話せばいい…!!?)

 

「ツルギさん、ツルギさん」

 

「キョエァァッ!??」

 

「顔、すごいことになってましたよ」

 

「っっ!!?(あぁぁぁ…!!恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい!!)――あぅぅ……」

 

(な、なるほど……これが、いわゆるギャップ萌えか………にしても勢いと表情筋の動き方すごくない?マッシュの顔では絶対にあり得ない動き方だよ?)

 

 

 

 

 

 恥ずかしがり顔を赤くするツルギに対して、少しギャップ萌えを感じたレグロ。彼は空気を読み、自分から話の話題を振る。

 

 

 

 

「さ、さっきの返り血は……一体どうしたんじゃ?…後、服についている血とか、まだ取れてない見たいじゃが」

 

「ち、ちょっと街中で暴れている生徒がいて、それを止めに言っていたんです。よくいるヘルメット団なんですが……」

 

「な、なるほど……(返り血を被るほどの攻撃を…?ま、まぁでも、治安を守らんとしているいい子で―)」

 

「この血は、ずっと前からあるものです…シミになって、しまいまして」

 

(……いい子なはずじゃ、うん!)

 

「いつもお疲れ様です」

 

「ありがとうございます……それから、ごめんなさい、先生のお爺さんの前なのに、こんな格好で…」

 

「いやいや、気にしなくても大丈夫じゃよ。君はそれが仕事なんじゃろ? なら、他人であるわしのことなんて気にしなくても大丈夫じゃ」

 

「あ―ありがとうございます…!!……その…」

 

 

 

 

 

 ツルギは勇気を出して、正義実現委員会から見たマッシュがどんな存在か、正直に答える。

 

 

 

 

「正義実現委員会の仲間は、みんな、先生に強い憧れを抱いているんです。ゲヘナとトリニティを救った英雄だからと言うのもあるんですが……シンプルに、人間性や強さに惹かれた、っていう子達が…いっぱいいて…」

 

「いやぁ、照れますな」

 

「か、かく言う私も……先生の強さや人間性には……ほ……惚れ込んで…!…おりまして……」

 

「マッシュが人の憧れに!?それもツルギさん達という、お嬢様校でエースを張ってる子が……――わし、泣いちゃうかも……」

 

「トリニティ全体から見ても、先生の存在による恩恵はかなり大きいと思います……が、特に正義実現委員会所属の生徒達は、何か特別な感情を、色々と抱いているだろうな…と」

 

 

 

 

 元々の憧れであったツルギやハスミと肩を並べられるほどの実力に加え、優しすぎる人間性、それからシュークリーム。

 この三つのお陰か、正義実現委員会所属の生徒達からはかなりの好印象を持たれているマッシュ。孫が人気者、それだけでもレグロは感動してしまう。

 

 

 

 

「………こんなことを、育ての親であるレグロさんを前にして、言うのは少し違うと思いますが……」

 

「?」

 

「先生は――いえ、マッシュは……少し、いや…かなり優しすぎると、思うのです」

 

「うーん、否定できない……かも」

 

「他に甘すぎる、しかし自分には厳しい……それは、なんと言うか……見ていて、苦しいです」

 

「うっ」

 

「他に甘すぎる……ここにきてから、余計にそうなってしまったんじゃな〜」

 

「わ、私個人としては――もっと、マッシュには自分の身を大事にして欲しいん…です。マッシュは私にとって、可愛い後輩で、友達で…先生で……それで……そ、それで…っ!!」

 

「それで…?」

 

「――いや、やめておきます……これは、伝えるにはまだ早いので」

 

 

 

 

 胸に秘めているその気持ちをグッと抑え、ツルギは一人のマッシュの先輩として、マッシュの友達として、レグロに伝える。

 

 

 

 

「マッシュは…英雄と、正義の味方だと言われていますが……私は、彼はやりたいことをやっただけだと思います……おそらく本人にとっても、英雄と呼ばれるのはあまり好ましくないでしょうし」

 

「うん、正直言えばそうですね」

 

「でも、もっと誇ってほしいとは思っています……それだけのことをやったので――でも、私達からは十分褒めたので……レグロさんから、育ての親である貴方から、もっと、褒めて差し上げて、欲しいと思っています」

 

「……そうじゃな、マッシュは褒められることしかしておらんし―――わかった。伝えてくれてどうもありがとうのぉ、ツルギさんや」

 

「い、いえいえ…!!」

 

「……ツルギさんから褒められると、なんだか嬉しいですね。なんでだろ」

 

「―――キェ!??」

 

「わっ、また顔がすごいことに」

 

 

 

 

 

『英雄』や『正義のヒーロー』と呼ばれるマッシュに対して思うことはあるものの、このキヴォトスに残したものの大きさを、もっと誇ってほしい。そしてもっと褒めてやってほしい、とツルギは言った。

 レグロはそれを快諾……それと同時に、あることを感じ始める。

 

 

 

 

 

(シャーレにいたあのワカモちゃんといい、ゲヘナでのヒナちゃんといい……マッシュを前にした時は皆が皆恥ずかしそうにしておる………もしや、わしの孫――モテモテ?LIKEではなくて、LOVEの方で…!?)

 

 

 

 

 確かめなければ、そう思ったレグロは、ツルギに対しストレートに切り込む質問をした。

 

 

 

 

「ツルギさんや!」

 

「は、はい!?」

 

「マッシュのことは、好きかの?」

 

「―――キ、キキキェ!? す、好きと言うか、あ、いえ、好きは好きですが…あー違くて…あの、その…!!」

 

「僕はツルギさんのこと好きですよ」*1

 

「……――ミッ」バタッ

 

「あら」

 

「つ、ツルギさんや!?……やってしまった」

 

 

 

 

 

 ツルギは顔を紅に染め上げた状態で昏倒した。「焦りすぎたか…」とレグロは思いつつも、確信を得る。マッシュはこの世界でモテているのだと……自分とは違って、若い頃から異性にだいぶ好かれている…と。

 

 

 

 

 

「――マッシュよ」

 

「?」

 

「マッシュがどんな子を連れてきても、わしは受け入れるからね!!」

 

「……えっ、なんの話?」

 
「……なぁ、先生が周りの気持ちに気づくのって、いつ頃になってからだと思う?」
 
「さぁ、今の私には分かんないけど……それを見守るのも、今の私達の務めじゃない?」

 

 

 

 

 

 マッシュに憧れを抱いている生徒がいる、好いている生徒がたくさんいる……そう知り、レグロは「ここに来て本当によかった」と、改めて本気で思うのであった。

 

 

 


 

 

 

 

 

「委員長がお騒がせいたしました……副委員長としてお詫び申し上げます」

 

「あーいえいえ、全然大丈夫じゃよ……では改めて、わしはレグロ・バーンデッド。お嬢さんのお名前を教えてくれんかの」

 

「私はトリニティ総合学園三年生、正義実現委員会・副委員長の羽川ハスミと申します。こちらは委員会の一年、後輩のトリコです」

 

「よ、よろしくお願いします!」

 

「どうぞよろしく。それで……ツルギさんは大丈夫かの?」

 

 

 

 

 

 ツルギは顔を濃い赤に染めたまま湯気を上げて硬直しており、まるで動く気配がない。部室にやってきたハスミは、その固まった状態のツルギを近くのソファベッドに移動させて様子を見ていた。

 

 

 

 

 

「ご心配なく。少し休めばそのうち元通りになりますので……レグロさんはどうかご心配なく、トリニティを堪能して行ってください」

 

「そ、そうか?では遠慮なく……それで、そっちの子が…シュークリームクラブの子じゃな?」

 

「は、はい!えっと、先生にはたくさんお世話になって……そんな先生のお爺さんであるレグロさんには、なんてお礼を言ったらいいのか、口下手な私じゃ分からないことだらけですが…」

 

「いいや、寧ろわしから君に礼を言わなければいかん」

 

「えぇぇ!?」

 

「――ありがとう、孫の命を救ってくれて」

 

 

 

 

 

 

 放課後シュークリームクラブの生徒達は、マッシュのことを何回も助けた功績がある。レグロは、孫の命を救ってくれた彼女たちに深く感謝していた。

 

 

 

 

 

「わ、私はみんなに連絡をしただけで……その、行こうって言ったのは、モブエちゃん達で」

 

「連絡してくれただけでもありがたいよ。あの時の僕って、二重の意味で結構危なかったし……だからほら、思いっきり胸を張ってくれていいんだ」

 

「え、えぇ……」

 

「そうですよトリコ、貴女の活躍は正義実現委員会内でも、ティーパーティー内でも評価されているんですから……勿論、シュークリームクラブの皆さんも同様に評価されていますよ?あの万魔殿ですら『気に入った』と公言しているのですから」

 

「初耳なんですけど!?」

 

「言ってませんでしたからね……さて、本当はもう少し長くお話をしていきたいのですが、私達はこれから、少し仕事がありますので……これで、失礼を」

 

 

 

 

 

 ツルギを抱えながら、トリコと共に退室するハスミ。多忙な身の上で業務が立て込んでいるのはわかるが、その背中がほんの少し急ぎすぎているように思えて仕方ないマッシュ。

 

 

 

「………」

 

 

 

 よく見ると、少し汗を流していたりもした。なのでマッシュはハスミの体をよく観察――そして気づいた。

 

 

 

 

 

「ハスミさん――体重がまた増えました?」

 

「っっっ……!!?」

 

「マッシュ!?」

 

「気になったらいつでも言ってください、いつでもトレーニングに付き合いますから」*2

 

 

 

 

 

 悪意なしのその言葉は、しっかりとハスミの胸に突き刺さった。ハスミも青春を生きる乙女……歳の近い異性に体重が増えてしまったことを知られることは、かなり恥ずかしかった。

 

 

 

 

 

「コラァ、マッシュ!ハスミさんになんてこと言うんじゃ!?」

 

「先生、デリカシー!」

 

「……あっ、しまった」

 

「ふっ……ふ…ふ…いいんです…よ、た、体重なんて、生きている内に、いくらでも増えるのですから」

 

「夜中に特大パフェ食べていたからだろう。先生とレグロさんも、あまり気にしないでください」

 

「ツルギ!?起きていたんですか!?」

 

「今起きた――とりあえず、夜中にパフェを食べるのはしばらく禁止だ」

 

「そんな…!?これから私は…よ、夜中に何を食べて過ごせばいいんですか!?」

 

「そもそも夜中に食べるな」

 

「そんな!?」

 

「―お二人とも、それでは」

 

 

 

 

 その後、倒れかけたハスミを逆にツルギが抱え、その部屋から出ていく。バーンデッド親子はまた、護衛の二人とともに部室で時間を潰すこととなった。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「失礼します……あっ、先生!」

 

「む、やはりいたな。デルタとエコーも元気そうだ」

 

「お久しぶりですね〜先生」

 

「ひ、久しぶり!そっちの人は、誰…?」

 

「補習部のみんな、久しぶり」

 

 

 

 

 

 

 次にマッシュ達の元へ訪れたのは、補習授業部の面々。エデン条約調印式の前に発生した様々な事件や騒動で、互いに絆を結んで親睦を深めた者達であり、レグロが気にかけていた子らでもある。

 

 

 

 

 

「先生、隣のご老人は?」

 

「僕のおじいちゃんだよ」

 

「マッシュの祖父です〜」

 

「おじいちゃん……おじいちゃん!?」

 

「ち、ちょっと待って!?先生のおじいちゃんって、キヴォトスの外っていうか、異世界に住んでるんでしょ!?なんでここにいるのよ!?」

 

「わかんない」

 

「わしもわかんない」

 

「先生の育ての親だと言うから、ムキムキかと思ったが……違った、まるで骸骨」

 

「アズサちゃん!?その言い方は失礼ですよ!?」

 

「はっはっはっ…まあ事実じゃからな、歳を重ねて骨と皮だけになってしまったようなもんじゃ。わしではマッシュのようにはなれん、気にしなくても良い良い……改めて、レグロ・バーンデッドじゃ。よろしく」

 

 

 

 

 

 軽く挨拶を済ませ、補習授業部の面々はレグロとマッシュの前に座る。初めてとなるマッシュの家族との対面に、コハルとヒフミは緊張して言葉が出ていなかったが、アズサは平然としていて、ハナコもいつもと変わらない表情だったが、どこか真剣な顔立ちにも見えていた。

 

 

 

 

 

「―レグロさん、少しお聞きしたいことがあるのですが……よろしいですか?」

 

「別に構わんが……何かな?」

 

「レグロさんの教育方針は間違いなく完璧であり、レグロさんが先生を育ててくれたおかげで、今の私たちがいると、私は思っています」

 

(は……ハナコが、いつにも増して……真面目)

 

「す、少し大袈裟な気もするがの…?」

 

「しかし――一つだけ、疑問に思ったことがあるのです」

 

「ほ、ほう?」

 

「疑問……んー、じいちゃんの育て方に何か疑問が?」

 

「ええ一つだけ……レグロさん……何故、どうして」

 

 

 

 

 

 作り笑顔も愛想笑いも見せずに、正面からレグロに向き合うハナコ。条約調印式以来、誰にも見せなかった真剣な顔つきに、マッシュもヒフミ達も息を呑む。レグロも『何かやらかしてしまっていたか?』と自分の行いを思い返しながら、やや身構えて話を聞く。

 

 

 

 

 

「何故先生に……―――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

「◯〇育をなさらなかったのですか⁉︎」

 

「いきなり何言ってんのこの子⁉︎」

 

「あんたほんっっと何言ってんの⁉︎」

 

「ハナコちゃん⁉︎」

 

「…?」

 

「なんかいきなりすごいのが飛んできた気がする」

 
「すごいのというか、火の玉ストレートというか……」
「先生、余り真面目に聞いては…いや聞いたほうがいいのか…?でも……とにかく、今は聞かなくていいです。後で考えましょう」

 

 

 

 

 

 

 突然すぎるその質問に度肝を抜かれ、思わず立ち上がる一同(ヒフミとマッシュは座っている)。真剣な表情でいきなりそんな質問が飛び込んできたら、誰でもこの反応を返すのは当然である。

 

 

 

 

 

「あんた馬鹿!?頭のいい馬鹿なの!?何ふざけてるのよ!?」

 

「いいえコハルちゃん、これはとっても大事なことであり真剣なことなのです!」

 

「そんなふうに聞こえないんだけど!?」

 

〇〇◯や〇〇……〇〇〇〇〇……それら全て、先生は全く知りませんでした――なんならキス自体が一番〇だと考えている人です!」

 

「ハナコちゃん!?あの、そんなに大きな声で叫んじゃダメですよ!!」

 

「年頃の女の子がそんなこと堂々と叫んじゃダメでしょ!?」

 

「先生もお年頃の男の子です……〇なことを知らないのは、将来危険ではないかと、思うのです!!」

 

「今のあんたの発言が一番危険なのよ!!?」

 

 

 

 

 

 

 マッシュとアズサは終始ポカン…としていたが、ハナコが言っていることも一理ある。16歳の少年にいわゆるそう言う知識が全くと言っていいほどないのは、少し危険。人が成長し生きていく中でその知識は必要不可欠。

 

 

 

 

 

「純粋無知な先生……それも素晴らしいと思います――しかしながら、将来先生に恋人ができたときに、そう言う知識がないとなると、色々と危険なのでないかと思うのです!」

 

「い、いやまぁ、そうなんじゃけど………そうなんじゃけどね?」

 

「はっ…!!もしやレグロさんも先生にそう言う知識を教えるのが恥ずかしくなって?――親子揃って初心なんですか!?可愛いですね!!」

 

「ねぇこの子怖いんじゃけど!?」

 

「まずい、ハナコが暴走しかけている――先生、ドクターストップだ。デルタとエコーも用意を頼む」

 

「御意」「任せろ」「……気が乗らない」

 

 

 

 

 マッシュは暴走を始めたハナコを超軽めのチョップで沈ませ、その場は一時収まった。しかしアズサとマッシュは終始、ハナコの発言の意図が理解できずにポカンとしていた。

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「本当に申し訳ありません…緊張と疑問が抑えられず…」

 

「ま、まぁびっくりしたけど、マッシュのことを心配してくれたんじゃよな?」

 

「はい……」

 

 

 

 

 

 ハナコがマッシュを強く心配しているのは事実。しかしレグロを前にして緊張が昂ってしまったハナコは、加えて「何故その分野における教育を施してあげなかったのか?」と言う疑問が綯い交ぜとなって思考を埋め尽くし、極度に張り詰めた結果として節操なく発言を繰り出してしまったのである。

 

 

 

 

 

「……あー、なんでマッシュに、そういう教育をしなかったのか…じゃったな?」

 

「は、はい…! どうしても気になってしまって…」

 

「それってそんなに大事なことなの?」

 

「人生において、絶対に覚えておかなければいけないほど……ですかね」

 

「そんなに?」

 

「………実は…のぉ、一応マッシュには昔、そう言う教育を施したことがあるんじゃよ…しかも結構長い間」

 

 

 

 

 

 レグロの口から語られる衝撃の事実。レグロはマッシュに対して、情操や生殖についての知識を含む性教育を施していた。しかしそれならば、何故今のマッシュにはそれらについての知識がないのか……答えは単純。

 

 

 

 

 

「教えた日の翌日には、教えた情報が頭から抜けておるんじゃよ」

 

『なん………だって…⁉︎』

 

「マッシュは昔から菓子作りとトレーニングに集中しすぎて、他のことをあんまり覚えないきらいがあったんじゃ。大事なことを言っても次の日になると、もうほとんどの内容を覚えてないなんてことはよくあった」

 

「そ、それってつまり…」

 

「うん……そう言う知識とかが全部、シュークリームと筋トレに塗り替えられちゃったんじゃよ。だからもう何を言ってもダメだなーと思って…諦めたの。山暮らしだったこともあって、勉強したことを使う場がなかったり、女の子と触れ合う機会がなかったことも良くなかったんじゃろうな…」

 

「――申し訳ありませんレグロさん、大変なことだったでしょうに…私は」

 

「いやいやいいんじゃよ……その過程があって、今のマッシュがあるわけだし、ね?」

 

「なんだろう、なんだがよくわからないけど……じいちゃんが苦労したんだなーてのは、わかった」

 

「同じく」

 

 

 

 

 

 

 レグロは諦めず、毎日のようにマッシュにその知識を教え込んだ。しかしマッシュからしてみれば、筋肉のように鍛えられる要素ではないために興味は持てず、ほとんど記憶にも残らなかった。

 翌日には記憶諸共綺麗さっぱり頭から消え、シュークリームと筋トレのことしかない今の脳筋青年へと育った、というのが実態である。

 

 

 

 

 

「……で、でも!それ以外の教育は全て、成功していると思いますよ?レグロさんがちゃんと、先生と向き合って、育ててくれたから……今の、私たちがいるわけですし!」

 

「そうね……別に、そんな知識がなくとも、先生は先生だし……それに、苦手なことにとちゃんと取り組む…って言う教育も、レグロさんが頑張ったわけだし」

 

「私達が今こうして、ここで楽しく過ごせるのは……フフッ、レグロさんのおかげでもあるな」

 

「そ、そんな事はないとは思うがのぉ……みんながここにいるのは、みんなが頑張ったからじゃよ。君達の血の滲むような努力が実って、そうなったわけなんじゃから」

 

「みんな、ほんとに頑張ってたもんね」

 

 

 

 

 

 そう言われ、どこか照れ臭く思う補修授業部の面々。マコトやヒナ同様、面と向かって大人に褒められた経験がなかったからとも言える。

 

 

 

 

 

 

「それを言えば、お主もそうじゃよ…マッシュ」

 

「……うーん、まぁ、よく言われるね」

 

「苦手であった勉強を……あのマッシュが皆のために勉強を――あの脳筋シュークリームお馬鹿なマッシュが‼︎ 勉強を‼︎」

 

「そこまで言う?」

 

「言う‼︎――それに、年が近い友達と共に苦難を乗り越える……こんな経験、滅多に無いし…それを経て、マッシュは強く、大きく成長した……そうさせてくれた、君達には本当に感謝しかないんじゃ」

 

「むしろ私は先生に……いや、やめておこう。これ以上はループしてしまう」

 

「ループ?」

 

「……私達は先生に救われた、先生も私達に救われた――互いに救いあってきたからこそ今がある……そういうことだな?」

 

「その通り」

 

「………成程、これが相思相愛か」

 

「アズサちゃんそれは、少し違いますね♡」

 

 

 

 

 

 

 補習授業部はマッシュによって退学の危機を免れ、マッシュは補修授業部との交流によって心身ともに成長し、大人に一歩近づけた。一方的に助けたり助けられたりではなく、互いに、助け助けられたりしていたことに、マッシュと補習授業部は気付けた。

 

 

 

 

 

「私にとって、先生は恩人で、先生で、友達で、同じペロロ様のファンで」

 

(最後は全く身に覚えがないけど)

 

「誰よりも優しくて、誰よりも強くて、心強くて……頼りになって――私は、先生に会えて、後悔はしていません……なんなら、この先もするはずなんてありません‼︎ それぐらい、大好きです‼︎」

 

「あら♡ ヒフミちゃんったら大胆なんですね〜―もちろん私も、大好きですよ」

 

「わ、私も……」

 

「――いやぁ……なんと言うか……照れる」

 

「……これからもみんな、よろしくの」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

 

 

 

 

眩しい笑顔、眩しい表情…この幸せは、しばらく続きそうであった。

 

 

 

 

*1
友達としてという意味

*2
悪意無し







爺ちゃん回、もう少し続きます。

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