透き通る世界に拳を一つ   作:六科

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マッシュ・バーンデッドと赤ん坊騒動・前編

 

 

 

 レグロ・バーンデッドがキヴォトスから去り、魔法界へと帰った日から……大体、一週間後。キヴォトス内は現在――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ドタバタバタバダッ!! ガガガガッッ!!ガシャァァァァァァン‼︎‼︎

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「こちらチームカスタード、赤ん坊の姿は無い!」

 

「こ、こちらチームソーダー!こちらも姿が確認できていません!」

 

『こちらチームストロベリー、こちらも同様』

 

『こちらチームチョコレート!そろそろ本気でワカモが暴れ出す、拘束具がもう千切れそう…!』

 

あぁあなた様!!その小さなお身体で一体何処へ!?ワカモは心配で心配で仕方ありません……!!ああ、こうなったらそこらを破壊し尽くして!!』

 

『ダメだって言ってんでしょ!?イズナ、もっと強く縛って!ニーナ、新しいレンチで緩んだところを締め直し、チームⅠは予備の拘束具と口輪(マズル)を用意!間違っても噛まれないでよ!』

 

『は、はい!!』

 
『"厄災の狐"ってこういうことだったのか!?』
 
『クソっ、どうなってんだこの人!?8ゲージのワイヤーがもう千切れかけてる!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャーレの生徒らは、それぞれのチームに分かれてキヴォトス中に展開し、"ある人物"を探していた。その者を早々に探し出さし、シャーレへ匿わないと……その者が危険にさらされるばかりか、最悪ワカモがキヴォトス全土を更地にする勢いで暴れ出す。

 

 

 

 

 

 

 

『こちらチームゲヘナ、さっき赤ん坊を捕まえようとしたマコトがハイハイで移動中の赤ん坊に轢き潰されたわ

 

『ぎ……ご……』

 
『議長ぉぉぉぉぉぉ‼︎‼︎』

 

『ついでに瀕死よ』

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらチームトリニティ。ナギサが極度の不安から泡を吹いて倒れた。自地区内ではミカとツルギが真顔で住宅街をぶち抜きながら走り回っている、縄を持った状態のハナコが発見されたという報告もあった……まあ、うん。混沌としているよ』

 

 

 

 

 

 

 

 

『ん、こちらチームアビドス。ホシノ先輩がフル装備で先生を探し回ってる。珍しく目が本気。私達もヘリで色々探してるけど全然見つからない………とりあえず一言だけ――――赤ん坊は私達の弟、異論は認めない』

 

『多方面に喧嘩売らないでよシロコ先輩‼︎』

 

『シロコちゃん、あっちに人影があった。追いかけるよ』

 

『合点承知』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちらミレニアム。我がエンジニア部が作ったドローンをありったけ飛ばして辺りを捜索中だ。メイド部はアスナ先導のもと、ヴェリタスは監視カメラのデータを集めて赤ん坊の追跡を試みてる。ゲーム開発部の子らはトレーニング部のスミレとともに、地上から最終的な捕捉と回収に向かっている…もしかして私達がいちばんまともなのか?』

 

 

 

 

 

 

 とにかくカオス……そして、皆が赤ん坊と呼ばれる存在を追いかけている中、マッシュは何をしているのか……それは簡単。

 

 

 

 

 

 

「キャイキャイ、キャイキャイ」*1ダダダダダダッッ!!!

 

 

 

 

 

 マッシュこそ、追われている赤ん坊であった。ハイハイ、つまりは四つん這いの状態でキヴォトス中を走り回っており、その速度は自動車やバイクを軽く超える。

 

 

 

 なぜこうなったのか、なんでこんな事態に陥ったのか……それは、マッシュが一人の生徒の手伝いを行ったのが全ての始まりだった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「――と言うわけで、ぼく様が作った試作品、肌が若返る『若返りの秘薬』。これを先生にぜひ飲んでもらいたいのだ‼︎」

 

「先生へ対する攻撃と見做していいんだな?」

 

「姫ちゃん、ネズミって美味しいんですかね?」

 

「加熱したら食べれるかも」

 

「ステイ、みんなステイ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 シャーレ・オフィス内にて、ある一人の生徒がマッシュへの依頼にやってきた。その生徒は薬子(やくし)サヤ、山海経高級中学校の生徒の一人である。

 

 普段は錬丹術研究会に所属している発明家にして、薬学の専門家である彼女は、今回自分が発明した薬をマッシュに服薬させ、その結果を記録しようと考えていた。簡単に言うならば、いわゆる臨床試験の一種である。

 

 しかしそんな怪しい薬を飲ませるなど、シャーレ在住の生徒らが許すわけもない。既にサオリ、ヒヨリ、ニーナの三名はサヤに対し銃口を向け、一言でも言葉選びを誤った瞬間に蜂の巣にするようなつもりで、彼女に威圧を掛け続けている。

 

 

 

 

 

 

 

「お願いなのだ!ありとあらゆることを考えたが……試作段階の薬の効果を堪えられるような相手は、もう先生しかいないのだ!!動物実験だと結果がばらつきすぎて……」

 

「使えんならさっさと廃棄しろ、そもそも人体に過剰な負荷を強いる薬物を作るな」

 

「科学の発展には危険が伴うのだ!」

 

「先生、撃ってもいいか」

 

「ダメダメ、色々と問題になっちゃうから。 それで、その薬はどんな薬なの? 一応それだけ聞いておきたいんだ」

 

「簡単に言えば、肌が若返りピッチピチになるのだ。お肌に悩んでいる人のための、魔法の秘薬……フフフッ、興奮するだろう?」

 

「向こうにもそういう効能を謳ってる化粧水とかあるらしいけど、『本当に若返ったこととかないの〜』ってじいちゃんも言ってたしな〜」

 

 

 

 

 

 

 人間は歳を重ねるごとに肌の潤いがなくなっていく。ならばその肌の歳を若返らせればいい、と言うのがサヤの理屈。発想は決して間違っておらず、最終的に試作品として完成に漕ぎ着けたことは称賛に値しよう。

 

 

 

 

 

 

「……若返るって、どれくらい?」

 

「先生の場合、想定される肌年齢は大体10歳前後相当なのだ」

 

「………わかった、飲むよ」

 

「先生!?」

 

「本当なのだ⁉︎」

 

「わざわざ来てくれたのに、追い返すのはなんかほら、かわいそうですし」

 

「し、しかし先生……」

 

「それに大丈夫ですよ、毒とか耐性ついちゃってるから」

 

「――――――すまない」

 

「あ、いや、違う。ごめんなさい」

 

「飲んでくれるのなら話はとっっても早いのだ!」

 

 

 

 

 

 

 マッシュがサオリたちの後悔を誤って刺激してしまった最中、そんなことも構わずとばかりに、サヤはバックから自分が作り出した『若返りの秘薬』を取り出し、バイアルをマッシュに渡す。

 

 

 

 

 

 

「……色合い悪くない?ゲーム開発部が欲しがってた…ゲーミングPC、だっけ? それみたいな色してるけど」

 

「組成上仕方がないのだ」

 

「そっか」

 

「いや待て先生。なんか…ダメな気がするぞ、この色は」

 

「虹色って何?」

 

「だいたい、1680万色だそうです……美味しそうですね」

 

「絶対に飲むなよヒヨリ」

 

「じゃあまあ……とりあえず、いただきまーす」

 

 

 

 

 

 

 時間をかけると飲みたくなくなるのが薬というもの。口直しのシュークリームをあらかじめ用意しておいて、マッシュは薬を一気に飲み干す。

 

 

 

 

 

「どう? どうなのだ?」

 

「…………超苦い……うげぇ」

 

「味を整える余裕なんてないのだ、組成的にも開発期間にも」

 

「だとしても苦すぎるよ」

 

「うーん……じゃあせめて、最低限の配慮を――」

 

「あとなんか体が熱くなってきたし、……あれ、めまいも………あっこれやばいやつだ」

 

「先生!!?」

 

「視界もボヤけて――――バタンキュー…」バタッ

 

「―─先生ッ!!」「やばっ……!!」

 

 

 

 

 

 案の定マッシュは、薬の効果によって倒れてしまった。意識が朦朧としている中、サオリ達が必死になってマッシュを介抱しているのを見るが──なぜが脳裏にはレグロの背が浮かび上がってきた。

 

 

 

 

(――やばい、意識が……)

 

 

 

そして薬を飲んでから数分後、マッシュは意識を完全に失ってしまった。……さらに、意識を失ってからほんの数分後、マッシュの体に異変が起きた。

 

 

 

 

 

「……煙?」

 

「発煙弾なんて、誰も持ってないのに……って、あれ…? 先生の手ってこんなに小さかったですか?」

 

「………待って、小さすぎる。それに様子もおかしい」

 

「――――ねぇ、みんな……煙が上がっているのは、先生の体からだよ」

 

「そんな……っ、サヤ‼︎ 一体何が起きている」

 

「あわわわわわっ…! ま、まさか…薬の効果が逆に効きすぎて…‼︎」

 

 

 

 

煙が晴れた、その時……マッシュの体は――縮んでいた。しかも10歳とかそんなのではない……一桁、つまりは一歳

 

 

 

 

「体の肌ではなく、体ごと……若返ってしまったのだ⁉︎」

 

「嘘でしょ」

 

「可愛い」

 

「先生が……先生が、赤ちゃんになっちゃいましたぁぁぁ‼︎?」

 

「――もっと、止めて、おくべきだった……くっ‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 完全なる赤ん坊の姿。小さい頭に生えている少量の髪の毛、筋肉は無くぷよぷよとした肉体……そして赤ん坊特有の何も考えていないような表情―は、元からであったが、とにかく……マッシュはこの日、赤ん坊に若返ってしまった。

 

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

 

「………………それで、本当に…この子が、この赤ん坊が、先生なの?」

 

「そ、そうなのだ……」

 

「そう……ふぅ―――なんっってことしてくれたの!!???

 

「ヒィッ!!?ごめんなさいなのだぁぁ!!!」

 

 

 

 

 

 ちょこん……と、ソファに置かれたように座るマッシュ……いや、赤ん坊になっているのでチビマッシュと呼ぼう。赤ん坊にしては妙に落ち着きを持っていて、何故か表情は何一ついつもと変わっていなかった。

 

 

 そんなマッシュを見て絶望しているのは、早瀬ユウカ。今日はユウカが当番であり、来て早々この光景を前にして仰天させられ、サヤを問い詰めていた。

 

 

 

 

 

「小さい……な」

 

「うん小さい、とっても小さい」

 

「……一歩間違えたら潰しちゃいそう」

 

「あ、赤ん坊ですし…ね」

 

「バブ」

 

「あっ、喋っ――いや声、渋っ……」

 

「声はそのままなんだな……いやそんなことあるか?」

 

 

 

 

 チビマッシュから少し離れた位置で、チビマッシュを見ているサオリ達。キヴォトス人が加減を間違えれば赤ん坊なんて木の枝の如く簡単に壊れてしまう……なので、迂闊に近づけない。

 

 

 

 

「こんなのどう説明すればいいのよ…」

 

「く、薬の効果はだいたい24時間だから、明日にはもう完全に元に戻っていると思うのだ」

 

「キヴォトスで、このキヴォトスでヘイロー無しの赤ん坊がいるのが、どれほど危険か分かる!?」

 

「げ、解毒剤…というか中和剤はもう完成しつつあるから、すぐに終わるのだ!!」

 

「できてもいないのに、薬だけ用意して先生に飲ませたの!? あんたねぇ!!!」

 

 

 

 

 

 

 キヴォトスにおいて、ヘイロー無しの赤ん坊はあまりにも脆く危うい存在である。銃弾飛び交うこの世界で、ただの赤ん坊が暮らすのはあまりにも過酷過ぎる……が、一つ忘れてはいかないのが――マッシュは普通ではない。

 

 

 

 

 

「バブ、バブ」グイッ

 

「あ、ご、ごめんな―じゃなくて、ごめんね〜マッシュくん、すぐにご飯を…………………え?」

 

「―――――リーダー、あのさ、私赤ん坊にはそこまで知識がないけど……人って一歳くらいになってから歩けるの?」

 

「じ、事例はあると……言われている」

 

「だとしてもさ―――あれおかしいでしょ!?」

 

「い、今あの……先生が、空中で前に1回転しながら、ユウカさんの方に向かいませんでした!?」

 

「うん、いい姿勢で、完璧に回ってたね」

 

 

 

 

 

 チビマッシュは立っていた、それと普通に……普通、赤ん坊というのは1歳6ヶ月頃になると、ほとんどの子が歩くことができるようになる。

 

しかしその時はフラフラしたり、おぼつかなかったりする……だがチビマッシュは違う。ユウカがサヤを問い詰めているのを見て、それを止めまいとしたチビマッシュは空中で前に1回転しながらユウカの元へと行き、彼女の靴下を引っ張っていた。

 

 

 

 

 

「バブバブ」

 

「あ、えっと、ごめんね? 大きな声を出しちゃって……えーと」

 

「バブブ」

 

「とりあえずご飯よね…? 今から赤ん坊と物を……いやそもそもここに売ってるのかすら……」

 

「ばーばぶばぶ、バブブ」

 

「あっ、ダメよ! 赤ん坊なのにそんなに動い……ちゃ……?」

 

 

 

 

 

チビマッシュは赤ん坊……赤ん坊のはずなのだ、はずなのに……チビマッシュは

 

 

 

 

 

 

 

「バブバブバブバブッ」

 

「―――腕立て伏せをしている…⁉︎」

 

「赤ん坊が⁉︎」

 

「あ、次は腹筋」

 

「赤ん坊がですか⁉︎」

 

「し、しかも最後は片腕で自分の体を支えながらまた腕立て伏せをしてますよ⁉︎」

 

 

 

 

 

 

 レグロから運動を心がけるように言われたのは5歳頃だが……チビマッシュは若返ってもなお、本能で筋トレに目覚めていた。

 

いやそもそも赤ん坊なのに筋トレをしていること自体がおかしいと、思っていたただこう。―――まあ、とりあえず。

 

 

 

 

 

『写真‼︎』

 

「バブ?」

 

 

 

 

 

チビマッシュの筋トレという貴重な光景を前に、その場にいる全員がその姿を撮影した。

 

 

 

 

 そしてこの日、チビマッシュに対して――『姉』あるいは『母親』を名乗る生徒らが、何人か現れてしまった。

 

 

 


 

 

 

 

 

『山海経高級中学校・玄龍門門主、竜華(りゅうげ)キサキじゃ……この度は、うちの者が大変な迷惑をかけた、山海経の代表として謝罪しよう』

 

「止めなかった私達にも非がある、気にしないでくれ」

 

『本来ならそちらに出向くべきなのだが……すまぬな、少し…事情があっての』

 

「それも仕方ないことだ、気にしないでくれ」

 

 

 

 

 

 

 サオリの前にあるパソコンの画面に映る小柄な少女、竜華キサキ。山海経高級中学校の生徒会・玄龍門の門主である彼女は、巷で『山海経の黒い君主』とも呼ばれている。

 

 

 自分の仲間がシャーレの先生に不備を働いたという情報を耳にし、即座にリモート通信を行い、現在は臨時的な顧問代理を担うサオリに謝罪した。

 

 

 

 

『……そして、一応確認なのじゃが』

 

「ああ」

 

『今、其方の後ろで三点倒立をしている赤子が、あのシャーレの先生なのか?』

 

「信じられないかもしれないが、本当だ」

 

 

 

 

 

 サオリの背後で、三点倒立をしているチビマッシュ。ユウカや元アリウスの生徒らは、その様子をあわあわと混乱しながら見守っていた。

 

 

 

 

 

 

『噂には聞いていたが、これほどまでに……超人とは』

 

「力や身体能力は確かに弱くなっているんだ、しかしそれでもあれが可能なほどには強い……それに防御力に関してはもう、多分私たちと大差ない」

 

『本当に赤子なのか?』

 

「本当に赤ん坊だ」

 

『今現在空中三回転を決めたその者が?』

 

「そう――待て、空中三回転⁉︎」バッ!

 

 

 

 

 

 

サオリが後ろを向くと、チビマッシュは新体操よろしくと言うような感じで、軽く空中で三回点を決め地面に着地し、両手をY字に伸ばしたポーズを決める。

 

 

 

 

 

「流石は先生だ…! えらい、えらいぞ‼︎ 流石は…我らが弟…‼︎」

 

『……弟?』

 

「――はっ、すまない。……それで、話に戻るのだが、こちらからそちらに文句を言う気は無い……まあ無くなったと言った方がいいか」

 

『……色々とすまぬの、近いうちにコチラへ出向いてくれると言ってくれたのに』

 

「先生はきっと、赤ん坊になったからといって怒らない。少し注意をするくらいだ……それほどまでに、優しいからな」

 

『噂通りの……お人好しと言うわけじゃな』

 

「ふふっ…そうだな」

 

『ちなみに今、開脚前転を行ったぞ』

 

「――っ、見過ごした!!」

 

 

 

 

 

 

 チビマッシュは大人顔負けの身体能力を発揮し、次々に技を披露していく。ユウカ達は技を決めていくたびに拍手喝采を送り、可愛がる。普通なら死ぬほど心配しやめさせるが、相手がマッシュなので、心配はするものの、安心はしていた。

 

 

 

 

 

『それでは、また何かあれば……ああ、最後に一言だけ先生に伝えておいてほしいのじゃが、良いか?』

 

「構わない」

 

『なれば……キヴォトスの英雄として名を届かせている其方だが、それ故に我が校では少なからず、その力を危惧している者もおると…伝えておいてくれ』

 

「……承知した」

 

『それでは――会うのを、楽しみにしておる』プチッ

 

 

 

 

 

通話が切れ、サオリは一人複雑そうな顔をしていた。チビマッシュ化しているマッシュの事でも頭がいっぱいだが、彼を怖れている者がいる現状に対しても、思うところはある。

 

 

 

 

 

 

(聞けば玄龍門に所属している者達は、皆彼女を異様に慕っていて、忠誠心がかなり高いと聞く……おおよそ、先生の存在が門主である竜華キサキにとって危険なものになりうる……そう考えているのだろう。気持ちは理解するが……ハァ、少し、腹が立ってしまうな)

 

 

 

 

 

 マッシュは英雄と称えられている反面、その力が恐れられているのも事実であり、未だマッシュの存在を受け入れていない学園も沢山ある。これは仕方のないこととはいえ……何も知らないくせに一方的に嫌うな、とも思ってしまった。

 

ここから、シャーレ所属の生徒としてどう動くか……サオリは真剣に考えて行動を起こす――

 

 

 

 

 

 

「リーダー、先生がブレイクダンスを!!」

 

「ニーナ、動画だ!!」

 

「あっ、決め切ってガッツポーズ決めてる」

 

「えらいぞ〜先生〜‼︎」

 

 

 

 

 

 

のは、チビマッシュを可愛がってからでいいやと思い直し、神妙(シリアス)な思考を中断したサオリであった。

 

 

 

 

 

 

「――さて、ここまで可愛がっておいてあれだが……しばらく先生はどこかに隠しておいた方がいいと私は思う」

 

「サッちゃん、一応理由を聞いてもいい?」

 

「一つ、先生が赤ん坊になったと世間に知れ渡れば大混乱が起こる。先生を狙う輩も増えるだろう……まあ所詮、私達が排除すればいいだけの話だが」

 

「心強過ぎるわね……まあ、ウチが情報操作をすればいいだけだとも思うけど」

 

「混乱に陥るのは確かだね……他校もうるさいし」

 

 

 

 

 

 

『シャーレの先生が赤ん坊になった⁉︎ ならば人質にしてやる‼︎』と短絡的に考える不良や大人は少なからずいるやもしれないが、万が一実行に移すならず者が出現したならば元アリウス生であるシャーレ常駐部隊が排除する以上、問題はない……しかし、そうもいかないのは二つ目の問題。

 

 

 

 

 

「そして二つ目は……そうだな――バレると面倒でまずい生徒がいる」

 

「それは?」

 

「小鳥遊ホシノ、空崎ヒナ、聖園ミカ、狐坂ワカモ……特にワカモはかなりまずい。本当にまずい」

 

「めんどくさい奴ばっかじゃん……本当先生、いろんな人助けすぎだよ」

 

「で、でもワカモさんは意外としっかりとするんじゃないですか? 仮にも先生を愛しているんですし」

 

「ヒヨリ……愛しているから、不味いんだ……狐坂ワカモははっきり言って愛が重すぎる…故に」

 

 

 

 

 

 

 

『――あなた様、私はあなた様の妻です……ええ、将来を誓い合った中なのです…よろしいですか?』

 

『バブ』

 

『偉いですよ〜あなた様……うふふふっ』

 

 

 

 

 

 

「なんてことになりかねん」

 

「流石にそれは……いや、可能性がないって言い切れない」

 

「流石は元七囚人……」

 

「……あの、そういえばワカモさんは今どちらに?」

 

「確か買い出しに行ってるはずだ、もうそろそろ帰ってくる……………帰ってくる⁉︎――リーダー、そろそろワカモがシュークリームを買って帰ってくる時間です‼︎‼」

 

「不味い‼︎ 総員扉を急いで塞げ!」

 

 

 

 

 

 

 サオリの号令とともにシャーレのオフィス全体へ散ったチームカスタード、チームストロベリー、チームチョコレート、チームソーダーは、急いで扉や窓を緊急封鎖する。チビマッシュはユウカに抱えさせ、スクワッドの面々はそのユウカを輪形陣で囲う。

 

 

 

 

 

「いいか、何があっても先生を守るんだ……何があっても‼︎」

 

(こんな状況じゃなかったらシリアスなんだけどね…)

 

「バルブババ」

 

「……大丈夫だ、先…いや、マッシュ……お前は必ず、私が…――姉さんが守ってやる」

 

「待ってリーダー、今なんて言った?」

 

「なんでも無い……ああ、安心してくれ、お前達も私の妹だ」

 

「リーダー⁉︎」

 

 

 

 

 

 今のサオリはリーダーモードから、完全にお姉ちゃんモードに移り変わった……シスコン、元々家族愛が凄まじい生徒であったが、チビマッシュを見てその熱が再発、姉フィルターが発動し、チビマッシュを自分の弟だと認識し始めていた。

 

 

 

 

 

(……この前のすごろくから、姉妹愛と言うか、シスコン気味になってるな…リーダー)

 

(面白いしこのままでいいかも)

 

 

 

 

 

そうこうしているうちに、話し声が扉の奥から聞こえてきた。サオリ達は守りと迎撃体制を整え、その時を待つ。

 

 

 

 

 

 

『只今帰りました、貴方様♡』『主殿!イズナ、只今戻りました!』

 

「しまった――天井を完全に忘れていた!!」

 

「天井から帰って来るとかあり得るの!?そもそも何なのここ、忍者屋敷か何かなの!?」

 

「早瀬ユウカ!先生を隠して―『何を隠すのですか?』」

 

「何か疚しいものでも?」

 

「ない、ないったら無い!少なくとも疚しくはない!何も無いからな!!」

 

「私に隠し事だなんて……大きく出ましたね、錠前サオリ。やましいものではないのなら、さっさと見せて─―」

 

「バブ」

 

「ああなんですか、ただの赤子………――赤子?」

 

「あれぇ!?赤ちゃん!!?」

 

「バブブバ」

 

 

 

 

 

 元気よく手をあげ、ユウカに抱えられた状態で挨拶をするチビマッシュ。それを見てワカモは停止、イズナは目を光らせながら近づく。

 

 

 

 

 

「わ、わぁ、本物の赤ちゃんです…!」

 

「バブ」

 

「て、でも、小さい…可愛い…」

 

「バブバブ」

 

「でも声は渋いです‼︎」

 

「あ、こら、大きな声を出しちゃダメよ」

 

「…………………………の」

 

「姉様! 姉様も―」

 

 

 

 

 

 

 

 

「先生の浮気ものぉぉぉぉぉ!!! 私を差し置いて……どこの誰ともわからない者と子を成すだなんてぇぇぇぇぇ!!!!」

 

「何言ってんの!?」

 

「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁん!!!」

 

「ちょ、どうすんの、これ」

 

「面白いからこのままで」

 

「姫ちゃんこれは笑えない状況ですよ!?」

 

 

 

 

 

 ワカモは泣きながらチビマッシュへと近づく。容姿は完全に愛する者そのもの…この赤子がマッシュの子だと確信を得たワカモは、周囲に手当り次第掴みかかるような勢いで捲し立てる。最もこの赤ん坊はマッシュ本人であり、マッシュの息子であるわけがないのだが。

 

 

 

 

 

「どこの、どこの誰との子ですか!!?母親はどこに!?……貴女ですか錠前サオリ!? 先生を手にかけんとしておきながら…この不届き者がぁ!!」

 

「なわけあるか!!私は姉だ!!

 

「姉でもないからね?」

 

「ならば……早瀬ユウカ、貴女ですか!?この泥棒猫!!」

 

「なんでそうなるのよ!?私がここまで隠して育ててたとでも言いたい訳!?それにあの先生に限ってそんな知識があるわけがないじゃないの!!」

 

「ならば―――私の子?」

 

「本当になんでそうなるんだ!?」

 

「お前の子などでは無い、私の弟だ」

 

「ごめんリーダー、ややこしくなるから黙ってて」

 

「え、この子は主殿の御子息で……いや、でも、あれ、赤ちゃんって……あれれれ…!?」

 

 

 

 

 

 

 

 パニックに陥るイズナ、状況を説明しようにも全く話を聞かないワカモ。イズナの方はかろうじて話を聞こうとはしてくれているが、全部ワカモが邪魔をする……カオス。まさにそれが相応しい状況だった。

 

 

 

 

 

「バッ」

 

「わ、急に動いてどうし………⁉︎」

 

「…ワカモの方……では、なく………―シュークリームの方に向かって歩いている…⁉︎」

 

 

 

 

 

 そんな中、チビマッシュは動き出し、イズナとワカモが買ってきたシュークリームの方へと一直線に歩き始めた。イズナが「もしかして……?」と思い、シュークリームを差し出すと。

 

 

 

 

「キャイキャイ、キャイキャイ」

 

「喜んでいる……シュークリームを持って、喜んでいる……――と、と言うことは……もし、かして……⁉︎」

 

「……ああそうだ、二人とも――この赤ん坊が、先生で――私の弟だ」

 

「ええぇぇ⁉︎……って、弟⁉︎」

 

「――――――」

 

 

 

 

 

 チビマッシュは嬉しそうにシュークリームを持ち、キャイキャイと上下へ動かしていく。そんなチビマッシュを、思考が止まっていたワカモが優しく抱き抱え始める。

 

 

 

 

 

「――私が育てます」

 

「ワカモ?」

 

「私が責任を取って、この幼く純粋な先生を立派な子に育てます‼︎」

 

「なんの責任⁉︎」

 

「弟はやらないぞ‼︎」

 

「ごめんもうリーダーは黙ってて」

 

 

 

 

 

 一撃ノックダウン、ミサキは「やはりこうなったか」と頭を抱え、取り返そうと動き出す。見ればワカモの目には桃色のハートが浮き出している。

 

 

 

 

 

「さぁ、あなた様?――まずは愛妻とは何かお教えしましょうね♡」

 

「させんぞ狐坂ワカモ‼︎」

 

「退きなさい錠前サオリ……あーいえ、元…お姉様?」

 

「現在進行形でお姉様だ!!マッシュを引き渡し、事態の収拾がつくまで引っ込んでいろ!」

 

「いいえ、あなたが退きなさい、母の命ですよ」

 

「貴様の娘になった覚えなど、ない…!!」

 

 

 

 

 

 チビマッシュを大切に思っているが故に暴走している二人、方や元七囚人の"災厄の狐"、方や元アリウス分校所属の特殊部隊リーダー……二人とも高度な実力者であり、並大抵の者では止められない。

 

 

 

 

 

 

『――退け!!!私はお姉ちゃんだぞ!!!!』
『退きなさい!!!私はお母さんですよ!!!』

 

 

「二人とも血縁関係無いただの部外者だから!!……あーもう、なんで私が突っ込んでんの!!?」

 

「ミサキ、お疲れ」

 

「姫も手伝ってくれない⁉︎」

 

「んー……めんどくさいから譲る」

 

「正直だねほんと‼︎――とりあえず今は、先生の確保もあの幻覚を見ている二人の鎮圧‼︎、イズナとユウカも手伝って……もう何してもいいから‼︎」

 

「は、はい‼︎」

 

「…………もう、本当っに……なんでこうなるのよ……ヒヨリ、先生をお願い‼︎」

 

「は、はい‼︎」

 

 

 

 

 

 

 

 その後、冷静さがかなり欠けていたこともあってなんとか二人の異常者を拘束できることに成功した一同は、息を切らしながらチビマッシュを確保しようとする。

 

 

 

 

「……………あれ……先生は?」

 

「…………………ヒヨリ、先生は」

 

「は、はい? 先生ならここに………………あれ?」

 

「―――――嘘でしょ?」

 

「ぅ…、うわぁぁぁごめんなさい‼︎ お二人が、怖くて、つ、つい、力が緩んでしまって…それで…‼︎」

 

「ああ……もう………胃が痛い…」

 

 

 

 

 

 

 チビマッシュ、脱走。……生徒らが争っている間に、とんでもない力を持った赤ん坊は好奇心を持ったまま――シャーレを飛び出したのであった。

 

 

 

*1
CV小林千晃









百花繚乱後に見たい話

  • まだ交流がない生徒との話
  • アイデェア箱から選んだお話
  • ラビット2章
  • 愛が重い生徒との話
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