「……遅いな、もういい時間帯だろう」
「確かに……彼の方が会議に遅れるなんて、珍しいこともあるものですね」
「そういうこった‼︎」
赤い照明に照らされ、妙に居心地の悪い空気が流れている一部屋に、ゲマトリアのメンバーであるゴルゴンダ・マエストロ・デカルコマニーが円卓を挟んで向き合った状態で座っていた。
「しかし、どうにも違和感があるな」
「おや、マエストロ。彼女がいなくなったことを悔やんでいるのですか?」
「違う。彼女の力を思う存分研究し、新たな作品を作りたかった。ただそれだけだ」
「そういうこった‼︎」
「貴方らしいですね」
ベアトリーチェはいまだに発見されておらず、長い間その席を開けている。黒服が救難捜索を続けているらしいが……依然として、全くと言っていいほど情報が回ってこない。
彼女の目的、思想、願い、その全てを受け入れられなかったゲマトリア達であったが――一つ、感謝していることがあった。
「……彼女の思想や目的は気に食わなかったが、先生の本気を引き出したことに関しては、素直に感謝しなければな……貴下も分かったのではないか? マッシュ・バーンデッドという存在の素晴らしさを」
「――ええ、もちろん。とても……とても良い物を見せてもらいました。神をも退け、自らが目指す理想の終点……それを叶えるがために奮闘する……あれぞ、まさに傑作」
「そういうこった‼︎‼︎」
マッシュの隠されていた──正確には封じていた──力を解放させ、彼の本気の力を目に焼き付ける機会を生み、新たな可能性を見せてくれた……その事実に対して、彼らは感謝していた。
「そうだろう……だからこそ、だからこそ二人とも、貴下も筋肉に」
「
「デカルコマニーがここまで言うレベルなので、遠慮しておきますね」
「…デカルコマニーよ、貴下は肯定以外の言葉もちゃんと喋れたのだな」
そんな会話をしつつも、長い間その室内に留め置かれている現状に少しの苛立ちと飽きを覚えていたマエストロ達。いい加減探しにいくか……そう思っていた時
████████████―──!!!!!!
「!」
「今のは……まさか――待て、しかし何故」
「……向かうぞ」
機械的でありながらも野生的な雄叫びが、部屋を震わせた。その声に聞き覚えのあったマエストロ達はすぐに動き出し、声の方へと向かう。
「―――こ……これは……!」
「……何が、どうなっている…」
「おや、お二人とも……あぁ、もうそんな時間でしたか」
「……黒服……これは、どう言うことだ」
「申し訳ありませんマエストロ、少々力を出し過ぎてしまいまして」
「そうではない‼︎――何故ここにアレがいる‼︎」
大型の乾ドック……いつのまにか作られたそこには──巨大な蛇のような物体がオーラを纏わされるように、黒服から赤黒い"何か"を与えられていた。
「あのオーラは……ベアトリーチェの?」
「ご名答……他者に力を付与できる、強化魔法……いえ、付与魔法と言った方がよろしいですかね」
「……黒服、質問に答えてもらおうか。何故……アレがここにいる」
「一言で言うのならば……拾った、と言ったところですね」
「拾った?」
「砂の中で生息していた彼ですが……流石に限界だったのか、地表に現れ、ぐったりとしていました……そこを私が救い上げた、と言うわけです」
「……アレが、貴方に力を貸したと?」
「少し違います、彼とは今協力関係でしてね……まあ、目的は違いますが」
「……黒服、貴方は一体何者になったのですか。ベアトリーチェ、彼女を引き取ったのも貴女です……そして彼女はいまだにその姿を見せていない……質問を変えましょうか黒服――彼女は、今、生きているのですか?」
ゴルゴンダの推測は、黒服がベアトリーチェを手にかけ、その遺体を利用した……と言う物。それ自体は別になんとも思わないが、魔法の神秘の秘密を独占するのは不当ではあるまいか、そのように彼は思っていた。
「クククッ……一つだけ弁明を――私自身は、彼女に手をかけていません」
「…ほう?」
「私が彼女を助けようとした瞬間……彼女の肉体が暴走……爆発しました」
「イノセント・ゼロと呼ばれる者の細工か?」
「ええおそらくは――しかし最後の死に様は、少し評価を改めました。先生へ対しての恨み辛みより、自らの目的のために生きようとしたのですから」
ベアトリーチェは……死んだ。イノセント・ゼロに細工をされていたらしく、禁忌魔法に関係した情報が外に漏れる前に肉体が膨張し、そのまま破裂した……なんとも、後味の悪い。
「……彼女が接触したという、あの存在については?」
「残念ながら何も……――ただ、
「…余計な真似を」
「はぁ、全くもってその通りです……そして彼女が破裂した時、遺体はほとんど残ってはいませんでしたが――心臓と脳、そして杖だけは残っていました……能力そのものは失われ、ただ魔力を纏っているだけの棒切れでしたが」
「……それらを全て取り込んだのか」
「取り込んだ……と言うよりも――リサイクルした、といった形ですね。幻想を具現化する力……アレが、一番欲しかったのですが」
黒服のひび割れた顔の箇所から、わずかながら赤黒いベアトリーチェと同じようなオーラが見え隠れしていた。異質、今の彼は以前よりも明らかに別の存在になりかけていた。
「話を一度戻しましょう……彼を拾った私は、機能を停止しかけていた彼に問いただしました……『これからどうしたいのか』…と」
「……」
「彼は言いました――『
「…!」
「彼……いえ、彼らからしてみれば、先生はあまりにも危険すぎる存在なのです。故に……排除する、その結論に至ったそうです」
「ならば何故手を貸しているのですか? 貴方の目的は、貴方の力のみで先生を超え、倒すと言った物のはず……なのに何故?」
「もう一度見てみたくはありませんか?――本気を出した神を、先生が打ち倒す……あの光景を」
黒服の最終目標はマッシュを倒し、彼を超えること。その先に、彼が追い求めていた物があると確信していたからである。
しかし……彼らだけは違う、なんとしてでもマッシュを倒さなければいけない、消さなければならないと敵意を見せていた。同じ預言者が瀕死に追い込まれ、その情報を共有……彼らは、そして彼は、預言者としての使命を果たすためにも、マッシュを排除することを決定したのだ。
ならば、そんな彼らの願いを利用してやろう……これぞ悪い大人、黒服は笑いながらもその手を止めない。
「ベアトリーチェから得た……この魔力、これを私は彼に付与する……その代わり、私は彼の神秘のほんのわずかの神秘を見せていただく――等価交換と言うことです」
「筋肉だけではなく魔力も身につけたのか……黒服」
「と言っても、彼女ほどの力は持てませんでした……せいぜいキヴォトスの生徒二人を同時に相手取るくらいですよ」
「一体これから、何が始まると言うのですか?」
「いい質問ですね、ゴルゴンダ……」
黒服は力を付与しながらも、高らかに、愉悦感を感じながら告げていく。
「これから始まる物語……それは一人の人間と、神を僭称する贋物達が敵対し、戦う……いわば神話の物語……そしてマッシュ・バーンデッドという人間が、また一歩成長する物語……」
「――そして、彼が先生でもなく、生徒でもなく――一人の戦士として動く、序章でもあるのです……ククッ、クククッ…!」
マエストロ達はそれを聞いて好奇心を奮い立たせ、興味をそちらへと向ける。黒服のそれに答えるように、目の前にいる存在――ビナーが、唸りをあげる。
「マッシュ・バーンデッド……私に見せてください、大人としてでもなく、子供としてでもなく―――
一人の戦士としての、貴方の姿を……そして彼ら……機械仕掛けの神々に証明してください。人は、神を越えられる可能性を持っている……と」
これからマッシュが相手取る存在……それは生徒でも悪い大人でもない――彼を抹殺しようとする、たったそれだけの、強大な存在。
『―各預言者に通達……奴を、マッシュ・バーンデッドを、イレギュラーを……排除せよ』
と言うわけで……デカグラマトン編、開始です。
やらないと絶対ダメだろうって感じでやる事に来ました、一応話の流れとしては
ビナー『一人の人間にフルボッコにされた…』→他『なに⁉︎ それは危険だ、消さないと‼︎』
と言った感じです。いわゆるやられる前にやってやれ理論……何もしなければ、マッシュ君は何もしないのですけれども。
新武器・新技もありますのでどうかお楽しみに…。
黒服がどんなふうな力を身につけたのか、それまた、別のお話で。
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