怪我の反応第三弾です。怪我が怪我なので少数ですが……ご了承くださいませ。
マッシュ・バーンデッドとデカグラマトンの戦いは、マッシュの勝利とデカグラマトンの一時的な消失によって決着を迎え、彼の命を狙う預言者たちの活動が終息を迎える形で一時の解決を果たした。
しかし第3セフィラ・ビナーとの戦いで肝臓に炎症を起こした上、第0セフィラ・デカグラマトンとの直接戦闘によって足や腰の筋肉と骨格に負荷を掛けたマッシュは、今後の状態が悪化する前に医療施設での治療を受けることになった。
「まぁ、湿布貼ってリハビリして、リモートワークと勉強を挟みながら安静にしておくだけなんだけどね」
『それでも普通は
「ねぇアロナちゃん、入院しながらできる筋トレ知らない?」
『知りません、本当に大人しくしておいて下さい』
「……怒ってる?」
『怒ってませんよ―――ふーん!』
「怒ってるじゃん……あっ、もしかして今回の戦闘で全然頼ってあげなかったから、それで?」
『ふーん!!』
マッシュはアロナのことを忘れていたわけではない。ただただ、頼るほどに強すぎる相手ではなかった、という話なのだが…対するアロナはこれまでのこともあって、自分の活躍するタイミングが来ることを心待ちにしていたのだ。
『どうせ私は、体育館で先生が戦っている間も映像越しに見守ることしか出来なかったし、バシリカでもすぐに電池切れして接続が切れたような役立たずですよーだ……!』
「別にアロナちゃんのせいじゃないよ。それに、アロナちゃんがあの時デカグラマトンを追い払ってくれたから、その後も色々楽だったし」
『そ、そうですか?先生に憧れて技を練習した甲斐がありました、えへへ……』
(チョロイン)
『今チョロいって思いました?』
「思ってない思ってない」
『話は変わりますが、今回ばかりは大人しく療養することを強く推奨しますよ?』
「理由は?」
『生徒さん達』
「うーーーん…………だよね」
エデン条約事件の前後に合計三回、結構な大惨事になりかけたマッシュの怪我による騒動。
「ワカモちゃん絶対やばいよね」
『恋する乙女は止められないって言いますもんね、頑張るしかありません』
「他人事だと思って……アリウスのみんなもくるよね」
『腹を括るしか無いと思います、主に先生のクソボケのせいだと思うので』
「クソボケって酷くない?」
『天然ジゴロって言った方がよろしかったですか?』
「ジゴ……なんて?」
最大の懸念となるのは、他ならぬワカモだった。その点について、どこか危機感が薄くふわふわとした認識しかできないマッシュ、そんな天然ゆえのクソボケジゴロな彼に対して頭を悩ませるアロナ。
「……まあ、最近ワカモちゃんも結構大人しいし、アリウスの1・2年生がたくさん入ってきてからは皆のお姉さんとして頑張ってくれてるから、そこまで気にしなくても大丈夫じゃないかな」
『先生、それ完全にフラグってやつですよ?』
「大丈夫大丈夫、きっとただ心配してくれてるだけだろうから――」
パリィィィィィィィィィィン!!!
「貴方様ぁ!!」「主殿ぉぉぉ〜!!」
「―――ここ六階なんだけど」
現実は非情、マッシュがいる病室の窓を突き破り現れた狐姉妹。しかも割れた窓ガラスがマッシュに当たらないように、中へと侵入した瞬間にそれらを払いのけるという、無駄に凝った技巧を見せた。
「あぁこのワカモ……あなた様が病院へと運ばれたと聞き、心配で心配で」
「うん心配してくれるのはありがたいけど、窓から侵入したのはなんで?」
「面会手続きなどという無駄事に付き合う暇などないと思いまして」
「そこはルールだから守ろうね」
「主殿が無事でよかったですぅぅぅ!!!」バッ!
「うごっ」
マッシュが無事だったことを確認し、安堵したのかイズナは彼の腹に向かって突進した。突っ込んだイズナは喜びの余り、マッシュの鳩尾に激しく頭を擦り付ける。キヴォトス人の突撃にはパワーがあり、マッシュといえど療養中の身ではダメージを受けてしまう。
「い、イズナ!今の先生は怪我人なのですよ!?療養の妨げになるような無礼は言語道断です!!」
「わ、あっ、ごめんなさい!痛くありませんでしたか主殿!?」
「いいよいいよ全然。それよりもイズナちゃん、前よりも筋肉がついたみたいだね」
「主殿のおかけです!主殿がイズナを鍛えてくれたから、ここまで強くなれたんですから!!」
「そっか──でも、この結果を実現したのは紛れもなく、イズナちゃん自身の頑張りだよ。えらいえらい」
「え……えへへへ〜」
マッシュに頭を撫でられ、照れながらも喜んでいるイズナ。そんなイズナを見ながら胸を抑えていたワカモだったが、同時に疼くように身を捩らせ、物欲しげな目線を送る。それに気づいたマッシュは、イズナを撫でながらもワカモへ左手を伸ばした。
「………ワカモちゃん」
「っ―な、なんでしょうか貴方様。このワカモ、貴方様の願いなら」
「カモン」
「か、カモン……って……い、いえ!私は、別に…その……」
「カモン」
「………うぅ」
マッシュに負けたワカモは仮面を取ると、両耳をぺたんと降ろしてマッシュの手を受け入れる。マッシュはワカモの頭を覆うように手のひらを置くとともに、わしゃわしゃと撫でながら礼を伝える。
「心配してきてくれてありがとう。でも、もう僕は大丈夫だから。安心してね」
「………少し、怖かったのです。これまでは私達を安心させるために大丈夫と繰り返して、何よりご自身に言い聞かせていたように思えて……全く大丈夫じゃなかったことがありましたから」
「その節は……本当にごめん」
「イズナも私も、共に貴方に支える者……しかしいざという時にお役に立てず……我々は……」
「それについては気にしないでほしいかなぁー、なんて。二人にはこれまで、たくさん助けられてるから」
「あ、主殿…本当、ですか…?」
「うん、もちろん。特にビナーと戦った時は、発電のために目一杯頑張ってくれてたでしょ?」
ワカモは前線で、イズナは裏方で、マッシュをサポートしていた。それだけで十分役に立っている以上、マッシュにとってはそれで十分だった。
「だから、そう気に病まないで欲しいな」
「貴方様……」
「――わかりました、それが主殿の願いならば、このイズナ、めいっぱい笑顔になります……ニコー!」
「うん、いい笑顔」
「さあほら、姉様も!」
「え、いや、私は」
「行きますよー! 3・2・1‼︎」
「お、お待ちなさい!――え、えーと……もう…‼︎」
「ニコー!」キラッ
『……………!』
満点華丸の笑顔。愉悦に染まった恍惚の笑顔ではなく、屈託のない純粋な笑顔。マッシュとイズナはそんなワカモの笑顔を見て
『……‼︎』パシッ!
「なぜいきなりハイタッチを…?」
「「ご馳走様でした(!)」」
「い、一体なにが良かったのです!?」
自然とハイタッチを行い、礼まで言った。病室内の空気が軽くなるとともに、イズナとワカモはマッシュに軽く近況報告を行い、そう遠くない退院祝いなどの予定についても話し合った。
しかし
(…………これではダメ、もう二度とあなた様があんな顔をされないようにしなければ―――貴方様……私は、貴方様がずっと幸せでいられる、そう思えるためならば…………どんな手段でも、使います――――災厄の狐として)
やはりワカモの愛は、少しづつ膨れ上がっていた。
「意外となんとかなったね」
『そうですね〜……(ワカモさんの表情が、たまに笑えないレベルになってましたけどね)』
「……よし、今のうちにちょっとリハビリしちゃおう」
『なんで腕立て伏せの体制に入ったんですか?』
「リハビリだよリハビリ」
『足と腰のリハビリに腕立て伏せは必要ありませんよね!?』
「必要必要」
例え体を痛めても、筋肉を愛するマッシュは自分を鍛えることがやめられなかった。リハビリというそれらしい屁理屈をつけた腕立て伏せからトレーニングを始めたマッシュに対し、アロナはシッテムの箱の中から必死に彼を止めようとする。生徒たちに知られたら何を言われるか分からない身の上、マッシュは誰も見ていない隙を狙ってトレーニングを続けるつもりだったが────
「あっやべ、足にも腰にも力が入らなくなってきちゃった」
『そもそも、筋肉痛がひどい状態で筋トレをしようなんて普通は考えませんよ!?』
「だって暇で暇で……とりあえず起きないと」
マッシュは足腰に力が入らなくなり、うつ伏せで地を這う形になってしまう。体を起こそうと、手と腕に力を入れ始めた――その時。
「先生、見舞―――─先生ぇっ!!?」
「この声はミサキちゃん、来てくれたんだ」
「なに、なにやってんのアンタ!?」
「え、えっと……」
「ま、待って!喋らないで!今起こすからっ…!」
「……うす」
気怠げに病室の引き戸を開けたミサキだったが、床にうつ伏せとなったマッシュを見た瞬間に青白い顔で冷や汗を吹き出し、震える手でマッシュを抱え上げた。ミサキからすれば床に病人が転がっている事案を目にしたも同然であり、しかも相手がマッシュとなれば焦って当然だった。
「――ほんっっっっっとに…この筋トレバカぁっっっっっ!!!」
「すみません」
「怪我人が筋トレとか、本ッ当にありえないから!!」
「ごめんなさい」
「万が一状態が悪化して前みたいになったら本当にどうするの!?何かあってからじゃ遅いんだってば!!今この状態でもシャーレはお通夜ムード全開なのに、これ以上あの子達を不安にさせるような真似してどうする訳!!?」
「申し訳ありませんでした」
「もう………本当に………心配かけさせないでよ」
「誠に申し訳ありませんでした」
マッシュによる土下座四連撃。今回は完全にマッシュの失態に全ての原因があるため、マッシュもこれを認めて謝り続けることしか出来なかった。ミサキはため息をつきながらも、彼と話を始める。
「……連絡の一つくらい、くれてもよかったのに」
「……寂しかった?」
「べ、別に…そんなんじゃ無い……心配だった、だけ」
「そっか、寂しい思いをさせちゃって…ごめんね」
「話聞いてた!?別に、寂しい思いなんて…してないって」
「遠くにいる友達を置いて連絡一つしなかったのは、流石にひどいよね。ごめん」
「………………あの…さ」
「?」
ミサキはマッシュの手を両手で握り、色々と思っていることを告げていく、恥ずかしさもあり、真剣さもあった。
「私は……アンタの道具なの。道具は使い手がいないと……存在する意味が無くなっちゃう……この意味、わかる?」
「……」
「私の……許可なく、勝手にいなくなるなんて……絶対に許さないから。使ってくれるって言ったんだから、責任をとってくれるって言ったんだから――約束、破らないでね?」
「うん、約束は破らないようにするのが男だからね」
「……それでいいの、それだけで……十分だから」
ミサキは静かに顔をマッシュの片腕に寄せ、無言でもたれ続ける。マッシュはどうしていいのか分からず、お見舞いの品としてミサキが持ってきたシュークリームを食べながら、どうするかを考える。
(……なんかべちゃっとしてるな、このシュークリーム……部屋の湿度がおかしいのかな)
(………大きいな……腕)
しばらく二人は、無言の時間を過ごしていくのであった、
「うーん加湿器とかは部屋にないんだけどなぁ……なんでだろ」
『ミサキさんの湿度が高かったんじゃありませんか?』
「いやいや、ミサキちゃんは気体じゃないよ?」
『いえ、そういう意味ではなくてですね』
「アリウスのみんなからも心配のメールがたくさん来てたから、どんどん返信していかないとなぁ」
マッシュは端末を持ちながら、シューレで待っている生徒らから送られてきたメッセージに返信を行っていく。もう時間もいい時間なので人は来ないであろうと、彼は油断し切っていた。
バンッ!!!!!
「邪魔するぞ先生!!」
「邪魔するなら帰ってくださいねー」
「キキキッ、断る!!」
「断るんだ………でもマコトさん、元気そうで何よりです。会うのはお久しぶりですね」
「ああ、寂しかったか?」
「…………はい」
「何の間だぁ!?」
夕日が出始めているその時間に現れたのは、万魔殿の羽沼マコト。手にさまざまな菓子折りが入っているカラフルな袋を持って入りながら、マッシュの側へと座る。
「聞いたぞ先生、またとんでもないものを相手に殴り合ったらしいな」
「なんか、エデン条約で戦った相手とはスケールが違う相手でしたね」
「だが、そんな相手にも貴様は勝った……キキキッ、流石はキヴォトスの英雄だ」
「その呼び方、あんまり好きじゃないんですけど……褒め言葉としては受け取っておきますね」
「キキキッ、なにも私は嫌味で言っているわけではないぞ。私は本気で、お前のことを英雄だと思っているのだからな」
いつも通りの表情で、マッシュに本音で話していくマコト。エデンの件はパラダイスの一件などに深く関わり、キヴォトスに起こりそうだった争いをも予防した。そんな彼を、心の底から英雄だとマコトは思っていた。
「まあお前に対する嫉妬はそれ以上に大きいがな!!!」
「それ言っちゃうんですね」
「正直チヤホヤされまくってて羨ましい!」
「もう全部言いますね」
「――だが同時に、英雄という名は、まだお前には早いと思っている自分もいる」
「急に真面目……えっと、いきなりどうしてそんなことを?」
「英雄……というのは、簡単になれるものではない。ありとあらゆる苦難を乗り越え、皆から認められた時初めてえられる称号…それが英雄――――だがそれは、お前の歳ではあまりにも早すぎる経験だ」
「…うーん」
二度も死にかけ、苦痛を少なからず覚え、背負うものが多くできたマッシュ……彼はまだ16歳、マコトは自分と歳が近い彼が、その歳でそんな苦行を経験していることに、少しの疑問も不満を募らせていた。
「……連邦生徒会長もよく分からんな。お前のような子供に、面倒事の全てを押し付けるなどと」
「まあそのおかげで、僕はいろんな人に会えて友達もたくさんできたわけですし」
「貴様はもっと怒れ。忘れているかもしれないが、お前は理不尽に巻き込まれた立場なのだぞ?」
「今更怒るのもアレかなー…って」
「…………はぁ。貴様は、マイペースなやつだったな」
「えへへ」
「褒めては……いや、褒めている感じではあるのか」
マコトは菓子折りの入った袋をマッシュに渡しながら、真剣に、先輩として彼に接する。つまりは、いつものカリスマモードである。
「偉そうに説教をする気はないがな、マッシュ…お前は子供だ、理不尽なことにはとことん反抗しろ、嫌なことがあれば責任なんてほっぽり出せ」
「最後だけは、ちょっと難しいかもです。そういう役職なので」
「そういう意味では…!!…いや、やめておこう………マッシュ」
「すみませんマコトさん、そこだけ――」
マコトはこれ以上言うのは野暮だと断じ、マッシュを胸へ抱き寄せる。
「死ぬなよ」
「………はい」
それだけ言って、しばらくその状態を続けるのであった。
「……私だ。デカグラマトンの預言者、もしくは超常現象に関連する情報について調べておいてくれ。……奴らは、先生を殺そうとしている。ゲヘナの英雄を、我が友人を害そうというのなら―――万魔殿の首領として、容赦はせん……それだけだ。……ああ、頼むぞ」
「……キキキッ…マッシュ、お前の敵は……
部屋の湿度がなんか高くなった気がします、なんでだろうか。
次回はいよいよイベスト回です。スイーツ部イベント、お楽しみに
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